説明

ポリエステル結合性組成物

ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物が開示される。開示されたバインダー組成物は、ホルムアルデヒドフリーの実質的に水不溶性の熱硬化したポリエステル樹脂を含む実質的に水不溶性の熱硬化したポリエステル樹脂に硬化させることができる。不織繊維のためのバインダーとしての開示されたバインダー組成物の使用、および、繊維材料もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は不織繊維のためのバインダー組成物に関し、特に、本開示は不織繊維のための熱硬化性ポリエステルバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維断熱材製造物は一般には、硬化させた熱硬化ポリマー状レゾール樹脂によって一緒に保たれるマット状のガラス繊維を含む。そのような製造物の製造時において、溶融ガラスの流れが引っ張られ様々な長さの繊維になり、その後、形成用チャンバーの中に吹き込まれ、移動するコンベアの上でマットとして、繊維がほとんど組織化されることなく堆積させられるか、または、様々なパターンで堆積させられる。繊維が形成用チャンバー内を通過している間に、また、引っ張られる操作からの依然として熱い間に、繊維には、樹脂バインダーの水溶液が噴霧される。ガラス繊維からの残留熱、および、形成操作中に繊維状マットを通り抜ける空気の流れは一般に、その水のほとんどを樹脂バインダーから蒸発させ、それにより、バインダーの残留成分を粘性または半粘性の高固形分型液体として繊維上に残す。生じる被覆された繊維状マットは一般に「ウエットブランケット」と呼ばれる。被覆された繊維状マットまたはウエットブランケットは、形成用チャンバーにおいてマットを通り抜ける空気の高速度の流れのために圧縮状態で形成されており、その後、形成用チャンバーから、マットがガラス繊維の弾力性のために垂直方向に膨らむ移行域に移される。この垂直方向の膨張は、商業的に受け入れられるガラス繊維の断熱材製造物または防音材製造物の製造プロセスにおいて重要である。続いて、被覆されたマットは、加熱された空気がマットの中を吹き抜けて、バインダーを硬化させ、かつ、ガラス繊維を堅固に結び付ける、硬化炉に移される。
【0003】
レゾール樹脂は、フェノール対アルデヒドのモル比が約1:1.1〜約1:5である、フェノール−アルデヒド樹脂である。好ましくは、フェノール対アルデヒドの比率は約1:2〜約1:3である。レゾール樹脂のフェノール成分は、様々な置換されたフェノール性化合物および非置換のフェノール性化合物を含むことができる。レゾール樹脂のアルデヒド成分は好ましくはホルムアルデヒドであるが、いわゆるマスクされたアルデヒドまたはアルデヒド等価物(例えば、アセタールまたはヘミアセタールなど)を含むことができる。好適なアルデヒドの具体的な例には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、フルフルアルデヒドおよびベンズアルデヒドが含まれる。
【0004】
尿素により増量されたフェノール−ホルムアルデヒドレゾール樹脂(PFU樹脂)と同様に、フェノール−ホルムアルデヒド(PF)レゾール樹脂が、従来のプロセスでは使用され、また、ガラス繊維断熱材製造物のためのバインダーを調製するのに過去何年間にわたって大きく貢献している。これらの樹脂は安価であり、また、硬化したガラス繊維断熱材製造物に所望の物理的特性をもたらすが、それらは多くの場合、高い遊離ホルムアルデヒド含有量、および、特定の適用ではその使用を制限する独特のまたは不快な臭いを有し得る。さらに、ガラス繊維断熱材の製造中には、ホルムアルデヒドの放出および作業者暴露への潜在的な可能性が存在する。従って、PFレゾール樹脂およびPFUレゾール樹脂を断熱材製造物のための主バインダー成分として使用する製造施設は、しばしば、ホルムアルデヒド放出に対する作業者の考えられる暴露を最小限に抑えるために費用のかかる調節策を導入すること、および、いくつかの最大達成可能管理技術(MACT)要求基準を満たすためにプロセス排ガスのための高価な抑制設備を設置することが要求される。ホルムアルデヒドフリーの製造物またはプロセスのための選択肢には、i)遊離ホルムアルデヒドを減少させるか、または、除去するために、ホルムアルデヒド捕捉剤をバインダーに加え、それにより、その後のその放出および/または臭いを制限すること、ii)樹脂製造物に存在する遊離ホルムアルデヒドを減少させるために、樹脂反応をより長い期間にわたって進行させること、または、iii)ホルムアルデヒドフリー樹脂調合物を利用すること、が含まれる。
【0005】
ホルムアルデヒド捕捉剤の使用は、捕捉剤自体から、かつ/または、捕捉剤および何らかの残留ホルムアルデヒド間での不溶性である付加物から生じる、沈殿を生じさせることがある。さらに、樹脂反応を、目標とするホルムアルデヒドレベルをもたらすために十分な長時間にわたって進行させることは、付随してのより大きい分子量を有する樹脂生成物をもたらす。そのようなより高分子量の樹脂は、多くが粘着性である傾向を有し、そのために、バインダーおよびバインダーにより被覆されたガラス繊維製造物を製造装置に付着させるので、いくつかの適用のとっては望ましい性質を有しないことがある。さらに、分子量がより大きいPFレゾール樹脂は、より高い「テトラダイマー」含有量を有する傾向がある。テトラダイマーは、多くの場合には容易に沈殿する、塩基触媒条件下で製造されるフェノール樹脂に存在する、結晶性の高いPFダイマーである。沈殿は、樹脂中の遊離ホルムアルデヒドが捕捉されるときには一層より生じやすくなる。テトラダイマーの析出は、詰まったスプレーノズルをもたらし得るし、また、樹脂バインダー貯蔵タンクおよび樹脂自体における、除去を余儀なくさせる沈殿物形成をもたらし得る。
【0006】
従って、PFレゾール樹脂およびPFUレゾール樹脂の代替物として、ホルムアルデヒドフリーの樹脂調合物が、ガラス繊維断熱材製造物および他の製造物を作製する際のバインダーとしての使用について増大した関心を集めている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
水性のバインダー組成物が記載される。1つの態様において、水性のバインダー組成物はホルムアルデヒドフリーである。別の態様において、水性のバインダー組成物は熱硬化性である。別の態様において、水性のバインダー組成物はアルカリ性pHを有する。不織繊維製造物(例えば、ガラス繊維および/または他の繊維(耐熱性繊維などを含む)から構成される繊維製造物など)を含めて、繊維製造物を製造する際に使用される水性のバインダー組成物もまた記載される。水性のバインダー組成物、および、バインダー組成物を使用するための関連した方法は、本明細書中に記載される特徴の1つまたは複数あるいは特徴の組合せを含むことができる。
【0008】
1つの例示的な実施形態において、水性のバインダー組成物は硬化して、ホルムアルデヒドフリーの実質的に水不溶性の熱硬化したポリエステル樹脂になる。別の例示的な実施形態において、組成物は、酸性基、あるいはその無水物または塩誘導体、を有する1つまたは複数のポリ酸成分と、ヒドロキシル基を有する複数のポリヒドロキシ成分とを含み、この場合、バインダー組成物のpHが約7よりも大きく、かつ、例示的には約10以下でもある。別の例示的な実施形態において、組成物は、1つまたは複数のポリ酸成分と、複数のポリヒドロキシ成分とを含み、この場合、複数のポリヒドロキシ成分に存在する、ポリ酸成分に存在する酸性基あるいはその無水物または塩誘導体のモル当量数の、ヒドロキシル基のモル当量数に対する比率が、約0.7:1〜約1.3:1の範囲にある。1つの変形において、ポリ酸成分に存在する酸性基あるいはその無水物または塩誘導体のモル当量数が過剰である。別の変形において、複数のポリヒドロキシ成分に存在するヒドロキシル基のモル当量数が過剰である。さらに別の変形において、ポリ酸成分に存在する酸性基あるいはその無水物または塩誘導体のモル当量数の、複数のポリヒドロキシ成分に存在するヒドロキシル基のモル当量数に対する比率は、約1.3:1である。なおさらに別の変形において、ポリ酸成分に存在する酸性基あるいはその無水物または塩誘導体のモル当量数の、複数のポリヒドロキシ成分に存在するヒドロキシル基のモル当量数に対する比率は約1:1である。
【0009】
別の例示的な実施形態において、組成物は、不飽和脂肪族ジカルボン酸、飽和脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、不飽和環状ジカルボン酸、飽和環状ジカルボン酸、それらのヒドロキシ置換誘導体など、ならびに、その塩および無水物誘導体(これらに限定されない)を含むジカルボン酸である、1つまたは複数のポリ酸成分を含む。別の例示的な実施形態において、組成物は、不飽和脂肪族トリカルボン酸、飽和脂肪族トリカルボン酸、芳香族トリカルボン酸、不飽和環状トリカルボン酸、飽和環状トリカルボン酸、それらのヒドロキシ置換誘導体など、ならびに、それらの塩および無水物誘導体(これらに限定されない)を含むトリカルボン酸である1つまたは複数のポリ酸成分を含む。別の例示的な実施形態において、組成物は、テトラカルボン酸、ペンタカルボン酸および類似するポリカルボン酸、ならびに、それらの塩および無水物誘導体、ならびに、それらの組合せである1つまたは複数のポリ酸成分を含む。これらのポリ酸はどれも、場合により、例えば、ヒドロキシ、ハロ、アルキル、ならびに、アルコキシなどにより、置換され得ることが理解される。1つの例示的な態様において、組成物はアルカリ性の組成物であり、この場合、ポリ酸成分は塩基の添加によって中和されるか、または、ポリ酸成分のある種の塩が使用される。別の例示的な実施形態において、組成物は、塩基の添加によって中和されているか、または塩である1つまたは複数のポリ酸成分(例えば、コハク酸、クエン酸またはフマル酸など)を含む。別の例示的な実施形態において、ポリ酸成分は、例えば、アミン(例えば、アンモニア水など)により中和されたマレイン酸である。別の例示的な実施形態において、ポリ酸成分はマレイン酸のアンモニウム塩である。
【0010】
別の例示的な実施形態において、複数のポリヒドロキシ成分は、部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニル(例えば、ELVANOL(DuPont Packaging and Industrial Polymers(Wilmington、Delaware、米国)から入手可能である)など)と、完全に加水分解されたポリ酢酸ビニル(例えば、MOWIOL(Clariant(Clear Lake、Texas、米国)から入手可能である)など)との混合物である。さらなる部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルおよび/または完全に加水分解されたポリ酢酸ビニル、例えば、CELVOL(Celanese(Calvert City、Kentucky、米国)から入手可能である)などが、本明細書中に記載されるバインダー組成物に含まれ得ることが理解される。
【0011】
別の例示的な実施形態において、組成物はさらに触媒を含み、例えば、酸または酸/塩(無機酸または有機酸が含まれる)、ならびに、それらの塩などを含む。例示的な有機酸には、スルホン酸およびその塩、例えば、パラ−トルエンスルホン酸、パラ−トルエンスルホン酸アンモニウム、ナフタレンジスルホン酸アンモニウムなどが含まれる。そのような触媒は、本明細書中に記載されるバインダー組成物の硬化時においてエステル形成速度を増大させる能力を有し得ることが理解される。別の例示的な実施形態において、組成物はさらにケイ素含有化合物を含み、例えば、ハロゲン、アルコキシ、アミノなどで場合により置換され得るシリルエーテルおよびアルキルシリルエーテルなどを含む。1つの態様において、ケイ素含有化合物は、アミノ置換されたケイ素含有化合物であり、これには、ガンマ−アミノプロピルトリエトキシシランが含まれるが、これに限定されない。ケイ素含有化合物は、本明細書中に記載されるバインダー組成物の硬化時におけるカップリング剤として役立ち得ることが理解される。
【0012】
別の例示的な実施形態において、不織繊維を含めて、繊維を処理するための方法が記載される。例示的な態様において、この方法は、繊維を、本明細書中に記載されるように1つまたは複数のポリ酸成分および複数のポリヒドロキシ成分を含み、バインダー組成物のpHが約7よりも大きく、かつ、例示的には約10以下でもある熱硬化性の水性バインダー組成物と接触させること、および、熱硬化性の水性バインダー組成物を、バインダー組成物を硬化させて、ポリエステルを形成させるために十分である高い温度で加熱することを含む。1つの態様において、ポリエステルは実質的に水不溶性である。別の態様において、ポリエステルは、熱硬化した樹脂である。
【0013】
別の例示的な実施形態において、ガラス繊維製造物が記載される。このガラス繊維製造物は、繊維に、例えば、不織繊維のマットなどとして適用されている本明細書中に記載される熱硬化性の水性バインダー組成物を加熱することによって得られる組成物を含む。1つの態様において、バインダー組成物のpHは約7よりも大きく、かつ、例示的には約10以下でもある。1つの実施形態において、バインダー組成物は、本明細書中に記載されるような1つまたは複数のポリ酸成分および複数のポリヒドロキシ成分を含む。
【0014】
[関連出願の相互参照]
本出願は、米国仮特許出願第60/618,441号(2004年10月13日出願)および米国仮特許出願第60/700,486号(2005年7月19日出願)の、米国特許法119条(e)による利益を主張する(それらの開示は本明細書により参考として本明細書中に組み込まれる)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
例示的な実施形態において、ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物が記載される。このバインダー組成物は、酸性基あるいはその無水物または塩誘導体を有する1つまたは複数のポリ酸成分と、ヒドロキシル基を有する複数のポリヒドロキシ成分とを含み、この場合、バインダー組成物のpHは約7よりも大きく、かつ、例示的には約10以下でもある。この組成物は不織繊維のためのバインダーとして使用することができ、例えば、断熱材製造物の製造においてガラス繊維などのためのバインダーとして使用することができる。1つの実施形態において、本明細書中に記載されるような1つまたは複数のポリ酸成分および複数のポリヒドロキシ成分を含むホルムアルデヒドフリーで、アルカリ性の水性バインダー組成物が、化学反応速度を加速または増大させることができる触媒の非存在下で短時間にわたって加熱されたとき、実質的に水不溶性の熱硬化したポリエステル樹脂が生成することが発見されている。従って、1つまたは複数のポリ酸成分は、触媒の非存在下でのアルカリ性の水性条件の下で複数のポリヒドロキシ成分と反応して、熱硬化したポリエステル樹脂を形成することができることが見出されている。
【0016】
例示的な実施形態において、ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物は、この組成物が基材(例えば、不織繊維のサンプルなど)に適用されたときには実質的に反応しない。加熱されたとき、バインダーが乾燥し、熱硬化が達成される。乾燥および熱硬化は逐次的または同時または並行のいずれかで生じ得ることを理解しなければならない。本明細書中で使用される用語「熱硬化性」は、水性バインダー組成物における構造的または形態学的な変化が、有効量のバインダーが適用されている不織繊維の性質を変化させるために十分である加熱のときに生じることを示すことが意図される;そのような変化には、バインダーの成分の共有結合性反応(架橋を含む)、基材に対するバインダー成分の改善された接着、および、バインダー成分の水素結合形成が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0017】
本明細書中で使用される用語「ホルムアルデヒドフリー」は、水性バインダー組成物が実質的にホルムアルデヒドを含まず、かつ/あるいは、実質的なホルムアルデヒドを乾燥および/または硬化の結果として放出しないことを示すことを意味する;典型的には、組成物の重量に基づいて約1ppm未満のホルムアルデヒドがホルムアルデヒドフリーの組成物において存在または放出可能である。
【0018】
本明細書中で使用される用語「アルカリ性」は、約7よりも大きく、かつ、例示的には約10以下でもある溶液のpHを示すことを意味する。
【0019】
本明細書中で使用される用語「水性」は、水、および、水と、他の水混和性溶媒(これには、アルコール、エーテル、アミンおよび極性の非プロトン性溶媒などが含まれるが、これらに限定されない)とから実質的に構成される混合物を包含する。
【0020】
本明細書中で使用される用語「ガラス繊維」、用語「不織繊維」および用語「ガラス繊維」は、高い温度に耐えるために好適な耐熱性繊維(例えば、鉱物繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、炭素繊維、ポリイミド繊維、ある種のポリエステル繊維、ナイロン繊維およびガラス繊維など)を示す意味をもつ。例示的には、そのような繊維は、約120℃を超える温度にさらされることによって実質的に影響されない。
【0021】
例示的な実施形態において、ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物は、酸性基あるいはその無水物または塩誘導体を有する1つまたは複数のポリ酸成分を含む。1つの態様において、ポリ酸成分は、ポリヒドロキシ成分との反応のために依然として利用可能な状態であるその能力を最大限にするために十分に不揮発性である。ポリ酸成分は他の化学的官能基により置換される場合がある。他の官能基は、それらがポリエステル樹脂の調製または形成を妨害することを最小限に抑えるように選択されることが理解される。例示的には、ポリ酸成分はジカルボン酸(例えば、マレイン酸など)であり得る。他の好適なポリ酸成分には、アコニット酸、アジピン酸、アゼライン酸、ブタンテトラカルボン酸無水物、ブタントリカルボン酸、クロレンド酸、シトラコン酸、クエン酸、ジシクロペンタジエン−マレイン酸付加物、ジエチレントリアミン五酢酸、ジペンテンおよびマレイン酸の付加物、エンドメチレンヘキサクロロフタル酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、完全マレイン酸化ロジン、マレイン酸化トール油脂肪酸、フマル酸、グルタル酸、イソフタル酸、イタコン酸、過酸化カリウムでアルコールに酸化され、次いでカルボン酸に酸化されたマレイン酸化ロジン、リンゴ酸、メサコン酸、3個〜4個のカルボキシル基を導入するための二酸化炭素とのKOLBE−Schmidt反応により反応したビフェノールAまたはビフェノールF、シュウ酸、フタル酸、ポリ乳酸、セバシン酸、コハク酸、酒石酸、テレフタル酸、テトラブロモフタル酸、テトラクロロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸など、ならびに、それらの無水物および塩、ならびに、それらの組合せが含まれることが意図され、しかし、これらに限定されない。
【0022】
例示的な実施形態において、ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物のポリ酸成分の酸性基は、ポリエステル樹脂を形成させるための複数のポリヒドロキシ成分のヒドロキシル基とのそれらの反応の前に塩基で中和され、それにより酸塩の基に変換される。完全な中和(すなわち、等価な塩基について計算された約100%)は、ポリエステル形成に先だってポリ酸成分における酸性基を滴定または部分中和するための何らかの必要性を排除し得ることが理解され、しかし、完全でない中和はポリエステルの形成を阻害しないことが期待される。本明細書中で使用される「塩基」は、ポリエステルの形成を促進するために十分な条件の下で実質的に揮発性または不揮発性であり得る塩基を示す。例示的には、塩基は揮発性の塩基(例えば、アンモニア水など)であり得る;あるいは、塩基は不揮発性の塩基(例えば、炭酸ナトリウムなど)であり得る。また、他の不揮発性の塩基(例えば、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなど)が意図される。中和は、ポリ酸成分が複数のポリヒドロキシ成分と混合される前、または、ポリ酸成分が複数のポリヒドロキシ成分と混合された後のいずれかで行うことができる。
【0023】
例示的な実施形態において、ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物は、ヒドロキシル基を有する複数のポリヒドロキシ成分を含む。1つの態様において、複数のポリヒドロキシ成分は、ポリ酸成分との反応のために依然として利用可能な状態であるその能力を最大限にするために十分に不揮発性である。複数のポリヒドロキシ成分は、例示的には、ポリビニルアルコールの混合物、部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルの混合物、完全に加水分解されたポリ酢酸ビニルの混合物、または、部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルと、完全に加水分解されたポリ酢酸ビニルとの混合物であり得る。例示的には、部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルが複数のポリヒドロキシ成分として役立つとき、87%〜89%加水分解されたポリ酢酸ビニルを利用することができる(例えば、分子量が約22,000Da〜26,000Daであり、かつ、粘度が約5.0センチポアズ〜6.0センチポアズであるDuPont社のELVANOL 51−05など)。本明細書中に記載されるようなバインダー組成物を調製することにおいて有用であることが意図される他の部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルには、分子量および粘度においてELVANOL 51−05とは異なる87%〜89%加水分解されたポリ酢酸ビニル、例えば、DuPont社のELVANOL 51−04、ELVANOL 51−08、ELVANOL 50−14、ELVANOL 52−22、ELVANOL 50−26、ELVANOL 50−42など;ならびに、分子量、粘度および/または加水分解度においてELVANOL 51−05とは異なる部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニル、例えば、DuPont社のELVANOL 51−03(86%〜89%加水分解)、ELVANOL 70−14(95.0%〜97.0%加水分解)、ELVANOL 70−27(95.5%〜96.5%加水分解)、ELVANOL 60−30(90%〜93%加水分解)などが含まれるが、これらに限定されない。本明細書中に記載されるようなバインダー組成物を調製することにおいて有用であることが意図される他の部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルには、Clariant社のMOWIOL 15−79、MOWIOL 3−83、MOWIOL 4−88、MOWIOL 5−88、MOWIOL 8−88、MOWIOL 18−88、MOWIOL 23−88、MOWIOL 26−88、MOWIOL 40−88、MOWIOL 47−88およびMOWIOL 30−92、ならびに、Celanese社のCELVOL 203、CELVOL 205、CELVOL 502、CELVOL 504、CELVOL 513、CELVOL 523、CELVOL 523TV、CELVOL 530、CELVOL 540、CELVOL 540TV、CELVOL 418、CELVOL 425およびCELVOL 443が含まれるが、これらに限定されない。また、有用であることが意図されるものには、他の商業的供給者から入手することができる同様または類似の部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルがある。
【0024】
例示的には、完全に加水分解されたポリ酢酸ビニルが複数のポリヒドロキシ成分として役立つとき、分子量が約27,000DaであるClariant社のMOWIOL 4−98を利用することができる。有用であることが意図される他の完全に加水分解されたポリ酢酸ビニルには、DuPont社のELVANOL 70−03(98.0%〜98.8%加水分解)、ELVANOL 70−04(98.0%〜98.8%加水分解)、ELVANOL 70−06(98.5%〜99.2%加水分解)、ELVANOL 90−50(99.0%〜99.8%加水分解)、ELVANOL 70−20(98.5%〜99.2%加水分解)、ELVANOL 70−30(98.5%〜99.2%加水分解)、ELVANOL 71−30(99.0%〜99.8%加水分解)、ELVANOL 70−62(98.4%〜99.8%加水分解)、ELVANOL 70−63(98.5%〜99.2%加水分解)、ELVANOL 70−75(98.5%〜99.2%加水分解)、Clariant社のMOWIOL 3−98、MOWIOL 6−98、MOWIOL 10−98、MOWIOL 20−98、MOWIOL 56−98、MOWIOL 28−99、ならびに、Celanese社のCELVOL 103、CELVOL 107、CELVOL 305、CELVOL 310、CELVOL 325、CELVOL 325LAおよびCELVOL 350、そして、他の商業的供給者から得られる同様または類似の完全に加水分解されたポリ酢酸ビニルが含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
例示的な実施形態において、ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物はケイ素含有カップリング剤(例えば、有機ケイ素オイル)を含む。多くのケイ素含有カップリング剤が、Dow−Corning Corporation、Petrarch Systemsから、また、General Electric Companyによって入手可能である。例示的には、ケイ素含有カップリング剤には、シリルエーテルおよびアルキルシリルエーテル(それらのそれぞれが場合により、例えば、ハロゲン、アルコキシおよびアミノなどにより置換され得る)などの化合物が含まれる。1つの態様において、ケイ素含有化合物は、アミノ置換されたシラン、例えば、ガンマ−アミノプロピルトリエトキシシラン(Dow社のSILQUEST A−1101;Dow Chemical;Midland、MI;米国)などである。別の態様において、ケイ素含有化合物はガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Dow社のSILQUEST A−187)である。例示的な実施形態において用いられるとき、ケイ素含有カップリング剤(例えば、上記のケイ素含有カップリング剤など)は典型的には、バインダーの固体に基づいて約0.2重量パーセント〜約2.0重量パーセントの範囲でバインダー組成物に存在する。
【0026】
例示的な実施形態において、ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物はまた、本明細書中に記載されるバインダー組成物の硬化時においてポリエステル形成速度を増大させることができる触媒を含む。例示的には、触媒は、アンモニウム塩、例えば、パラ−トルエンスルホン酸アンモニウムまたはナフタレンジスルホン酸アンモニウムなどであり得る。他の好適な触媒には、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸、乳酸、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、有機スズ化合物、チタンエステル、三酸化アンチモン、ゲルマニウム塩、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、メタンスルホン酸およびパラ−トルエンスルホン酸、ならびに、それらの混合物が含まれることが意図され、しかし、これらに限定されない。酸触媒が含まれるならば、バインダー組成物のpHは、アルカリ性を達成するために調節を必要とし得ることがさらに理解される。
【0027】
例示的な実施形態において、ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物はまた、バインダー組成物の流動性を増大させ、かつ/または、バインダー組成物がゲル化を受け得る速度を遅らせるために設計された1つまたは複数の添加物を含む。例示的には、添加物は、グリセリン、デキストリン、置換ポリプロピレングリコールおよびトリメチロールプロパンなどの化合物であり得る。
【0028】
例示的な実施形態において、ホルムアルデヒドフリーの熱硬化性で、アルカリ性の水性バインダー組成物は、ポリ酸成分の約10重量パーセント〜50重量パーセントの水溶液(これは、複数のポリヒドロキシ成分の存在下で既に中和されているか、または、その場で中和される)と、第1のポリヒドロキシ成分の約10重量パーセント〜30重量パーセントの水溶液と、第2のポリヒドロキシ成分の約10重量パーセント〜30重量パーセントの水溶液と、ケイ素含有カップリング剤とを混合することによって調製することができる。1つの態様において、バインダー組成物はまた、硬化時におけるポリエステル形成速度を増大させることができる触媒の水溶液を含むことができる。別の態様において、バインダー組成物はまた、バインダー組成物の流動性を増大させ、かつ/または、バインダー組成物がゲル化を受け得る速度を遅らせるために設計された1つの添加物を含むことができる。ポリ酸成分、複数のポリヒドロキシ成分、ケイ素含有カップリング剤、ならびに、必要に応じて使用される触媒および流動性増大添加物組成物、それらの初期濃度、ならびに、溶液の混合比を変化させることによって、バインダー組成物のpHがアルカリ性であり、例示的には約7よりも大きく約10以下の範囲にある広範囲の様々なバインダー溶液組成物を調製することができる。本明細書中に記載されるアルカリ性のホルムアルデヒドフリーのバインダー組成物は、一般的な製造プロセスおよび硬化パラメーターのため、ガラス繊維製造施設における既存の製造装置の使用を可能にすることによって好都合であり得ることが理解される。
【0029】
下記の実施例は具体的な実施形態をさらに詳細に例示する。これらの実施例は例示目的のためだけに提供されており、本発明または本発明の概念を任意の特定の物理的形態に限定するものとして決して解釈してはならない。例えば、ポリ酸成分における酸性基あるいはその無水物または塩誘導体のモル当量数の、複数のポリヒドロキシ成分におけるヒドロキシル基のモル当量数に対する比率は下記の実施例1〜実施例8では約1.3:1であり、実施例11では約1:1であるが、本明細書中に記載される実施形態の変形では、この比率は、例えば、約0.7〜約1.3:1の範囲に含まれる比率などを含めて、記載された本発明の性質に影響を及ぼすことなく変えることができることを理解しなければならない。さらに、下記の実施例では、マレイン酸アンモニウムがポリ酸成分として含まれ、かつ、MOWIOL 4−98およびELVANOL 51−05が複数のポリヒドロキシ成分として含まれるが、本明細書中に記載される実施形態の変形では、例えば、本明細書中に記載される組成物において使用されるポリ酸成分としての異なるジカルボン酸のアンモニウム塩、ならびに、本明細書中に記載される組成物において使用される複数のポリヒドロキシ成分としての完全に加水分解されたポリ酢酸ビニルおよび/または部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルの種々の混合物などを含めて、代わりの成分が、記載された本発明の性質に影響を及ぼすことなく使用され得ることを理解しなければならない。
【0030】
[実施例1]
69gの14.2%溶液のMOWIOL 4−98(9.8g)に、室温で撹拌しながら、70gの30.6%溶液のマレイン酸アンモニウム(16.6gのマレイン酸固体と等価)、20gの15%溶液のパラ−トルエンスルホン酸アンモニウム(3g)、0.6gのSILQUEST A−1101シランおよび41gの軟水を順次加えて、およそ200gの溶液を作製した。この溶液は7.0のpHを示し、(全溶解固体の相対的百分率として)およそ32.6%のMOWIOL 4−98、55.3%のマレイン酸、10%のパラ−トルエンスルホン酸アンモニウムおよび2%のSILQUEST A−1101シランからなり、(溶液の総重量の百分率として)約15%の溶解固体を含有した。
【0031】
[実施例2]
MOWIOL 4−98(80%、9.0g)およびELVANOL 51−05(20%、2.2g)の14.3%混合溶液の79gに、室温で撹拌しながら、79gの30.6%溶液のマレイン酸アンモニウム(18.8gのマレイン酸固体と等価)および43gの軟水を順次加えて、およそ200gの溶液を作製した。この溶液は7.28のpHを示し、(全溶解固体の相対的百分率として)およそ30%のMOWIOL 4−98、7.3%のELVANOL 51−05および62.6%のマレイン酸からなり、(溶液の総重量の百分率として)約15%の溶解固体を含有した。
【0032】
[実施例3]
MOWIOL 4−98(95%、5.3g)およびELVANOL 51−05(5%、0.28g)の14.3%混合溶液の39gに、室温で撹拌しながら、40gの30.6%溶液のマレイン酸アンモニウム(9.5gのマレイン酸固体と等価)および21gの軟水を順次加えて、およそ100gの溶液を作製した。この溶液は、(全溶解固体の相対的百分率として)およそ35.1%のMOWIOL 4−98、1.9%のELVANOL 51−05および63.0%のマレイン酸からなり、(溶液の総重量の百分率として)約15%の溶解固体を含有した。
【0033】
[実施例4]
3.1gの14.5%溶液のELVANOL 51−05(0.45g)に、室温で撹拌しながら、54gの14.2%溶液のMOWIOL 4−98(7.7g)、58gの30.6%溶液のマレイン酸アンモニウム(13.8gのマレイン酸固体と等価)、1.7gのマレイン酸化ダイズ油、2.2gの80%溶液のコーンシロップ(1.8g)、22.5gの20%溶液の硫酸アンモニウム(4.5g)、0.6gのSILQUEST A−1101シラン、58gの軟水および36.5gの19%溶液のアンモニアを順次加えて、およそ237gの溶液を作製した。この溶液は10.49のpHを示し、(全溶解固体の相対的百分率として)およそ25.2%のMOWIOL 4−98、1.5%のELVANOL 51−05、45.2%のマレイン酸、5.6%のマレイン酸化ダイズ油、5.9%のコーンシロップ、14.7%の硫酸アンモニウムおよび2.0%のSILQUEST A−1101シランからなり、(溶液の総重量の百分率として)約13%の溶解固体を含有した。
【0034】
[実施例5]
3.3gの14.5%溶液のELVANOL 51−05(0.48g)に、室温で撹拌しながら、57gの14.2%溶液のMOWIOL 4−98(8.1g)、62gの30.6%溶液のマレイン酸アンモニウム(14.7gのマレイン酸固体と等価)、1.7gのマレイン酸化ダイズ油、23gの20%溶液の硫酸アンモニウム(4.6g)、0.6gのSILQUEST A−1101シラン、53gの軟水および13.2gの19%溶液のアンモニアを順次加えて、およそ214gの溶液を作製した。この溶液は9.90のpHを示し、(全溶解固体の相対的百分率として)およそ26.8%のMOWIOL 4−98、1.6%のELVANOL 51−05、48.7%のマレイン酸、5.6%のマレイン酸化ダイズ油、15.2%の硫酸アンモニウムおよび2.0%のSILQUEST A−1101シランからなり、(溶液の総重量の百分率として)約14%の溶解固体を含有した。
【0035】
[実施例6]
3.5gの14.5%溶液のELVANOL 51−05(0.51g)に、室温で撹拌しながら、61gの14.2%溶液のMOWIOL 4−98(8.7g)、66gの30.6%溶液のマレイン酸アンモニウム(15.7gのマレイン酸固体と等価)、23gの20%溶液の硫酸アンモニウム(4.6g)、0.6gのSILQUEST A−1101シランおよび46gの軟水を順次加えて、およそ200gの溶液を作製した。この溶液は7.60のpHを示し、(全溶解固体の相対的百分率として)およそ28.9%のMOWIOL 4−98、1.7%のELVANOL 51−05、52.1%のマレイン酸、15.3%の硫酸アンモニウムおよび2.0%のSILQUEST A−1101シランからなり、(溶液の総重量の百分率として)約15%の溶解固体を含有した。
【0036】
[実施例7]
4.0gの14.5%溶液のELVANOL 51−05(0.58g)に、室温で撹拌しながら、67gの14.2%溶液のMOWIOL 4−98(9.5g)、74gの30.6%溶液のマレイン酸アンモニウム(17.6gのマレイン酸固体と等価)、7.5gの20%溶液の硫酸アンモニウム(1.5g)、0.6gのSILQUEST A−1101シランおよび47gの軟水を順次加えて、およそ200gの溶液を作製した。この溶液は、(全溶解固体の相対的百分率として)およそ31.9%のMOWIOL 4−98、1.9%のELVANOL 51−05、59.1%のマレイン酸、5.0%の硫酸アンモニウムおよび2.0%のSILQUEST A−1101シランからなり、(溶液の総重量の百分率として)約15%の溶解固体を含有した。
【0037】
[実施例8]
4.0gの14.5%溶液のELVANOL 51−05(0.58g)に、室温で撹拌しながら、68gの14.2%溶液のMOWIOL 4−98(9.7g)、75gの30.6%溶液のマレイン酸アンモニウム(17.8gのマレイン酸固体と等価)、7.5gの20%溶液の硫酸アンモニウム(1.5g)、0.06gのSILQUEST A−1101シランおよび45gの軟水を順次加えて、およそ200gの溶液を作製した。この溶液は、(全溶解固体の相対的百分率として)およそ32.7%のMOWIOL 4−98、1.9%のELVANOL 51−05、60.0%のマレイン酸、5.1%の硫酸アンモニウムおよび0.2%のSILQUEST A−1101シランからなり、(溶液の総重量の百分率として)約15%の溶解固体を含有した。
【0038】
[実施例9]
実施例1〜実施例8から得られるバインダー組成物を硬化させるための一般的手順
水性バインダー組成物を熱硬化条件下で評価するために、実施例1〜実施例8で調製されるような各バインダー組成物の1gのサンプルを1つまたは複数の個々のアルミニウムプレートに置いた。その後、各バインダー組成物を、対応する硬化したバインダーのサンプルを作製するために、事前に加熱された炉において1つまたは複数の従来のブレイクアウト/硬化条件に供した。例えば、華氏300度(149℃)で0.5時間および華氏350度(177℃)で0.5時間など。様々な硬化条件を表1に示す。
【0039】
[実施例10]
実施例9から得られる硬化したバインダーのサンプルの試験/評価
乾燥柔軟性、湿潤強度および湿潤金属接着を、下記のように、実施例9で調製されたそれぞれの硬化バインダーのサンプルについて求めた。(a)乾燥柔軟性を柔軟または脆いのいずれかとして表した;(b)湿潤強度を弱いまたは強いのいずれかとして表した;(c)湿潤金属接着を堅固またはゆるいのいずれかとして表した。乾燥柔軟性を、硬化バインダーのサンプル(これは一般には、アルミニウムプレートに接着している薄膜として存在する)が、プレート金属を曲げたときの破断に耐える程度によって求めた。湿潤強度を、硬化バインダーのサンプルが、10mLの水を加え、続いて室温で一晩放置した後、無傷のままであり、かつ、破断に耐えるその傾向によって示されるように、硬化しているように見える程度として求めた。湿潤金属接着を、硬化バインダーのサンプルが、水に一晩浸された後も依然としてアルミニウムプレート表面と直接的に接触したままである程度によって求めた。硬化バインダーのサンプルの外観もまた明らかにした。これらの試験の結果を表1に示す。
【0040】
[実施例11]
35.7ガロン(約321lbs、145.7kg)の15%溶液のMOWIOL 4−98(約48.2lbs、21.9kg)に、室温で撹拌しながら、1.9ガロン(約17lbs、7.7kg)の14.5%溶液のELVANOL 51−05(約2.5lbs、1.1kg)、39.2ガロン(約353lbs、160.3kg)の24.5%溶液のマレイン酸アンモニウム(約86.5lbs、39.3kg)、125gのSILQUEST A−187シラン(約0.27lbs)および23.3ガロンの軟水(約195lbs、88.5kg)を順次加えて、およそ100ガロン(約887lbs、402.7kg)の溶液を作製した。この溶液は、(全溶解固体の相対的百分率として)およそ35.2%のMOWIOL 4−98、1.8%のELVANOL 51−05、63.0%のマレイン酸および0.2%のSILQUEST A−187シランからなり、(溶液の総重量の百分率として)約15.5%の溶解固体を含有した。この溶液を数分間撹拌し、その後、溶液を、通常の手順を使用して、ガラス繊維断熱材の製造において、具体的には、このバインダーはアンバー色を与えなかったが、「アンバーブランケット」と従来から呼ばれる製造物の形成において使用されるバインダーポンプに移した。そのような手順が、一般には米国特許第5,318,990号(その開示は本明細書により参考として本明細書中に組み込まれる)に記載される。作製された硬化ブランケット製造物の仕様は1平方フィートあたり3/4lb(1平方メートルあたり3.66kg)の密度であり、1.5in(3.8cm)の厚さであった。炉温度は硬化のためにおよそ華氏450度(232℃)で設定された。炉から取り出された製造物は、外見の色が白色であり、十分に結合していた。数ロールの実験用の硬化した材料を集めた後、マットを炉の前で壊し、また、硬化していない材料もまた実験のために集めた。
【0041】
[実施例12]
実施例11から得られる硬化したブランケットの試験/評価
放出物、厚さ回復、粉塵、引っ張り強度、分離強度、結合強度、水吸収および高温表面性能を、実施例11で調製された硬化ブランケット(硬化製造物)または成形された非硬化ブランケット(非硬化製造物)について求めた。結果を表2〜表5に示す。これらの試験を行うための具体的な条件は下記の通りである。
【0042】
放出物試験−概論
断熱材製造物(硬化生成物)を、ASTM D5116(「室内用材料/製造物からの有機物放出の小規模環境チャンバー測定のための標準指針」)、合衆国環境保護局(USEPA)およびワシントン州IAQ仕様(1994年1月)に従って、総揮発性有機化合物(TVOC)、ホルムアルデヒド、総選択アルデヒドの放出についてモニターした。放出物データを1週間の暴露期間にわたって集め、得られた空気中濃度を潜在的な汚染物質のそれぞれについて求めた。空気中濃度予測を、標準的部屋への装着およびASHRAE基準62−1999換気条件を含むワシントン州の要求に基づいてコンピューターによりモニターした。製造物の装着は、32mの部屋における28.1mの標準的な壁使用に基づいている。
【0043】
放出物試験−選択アルデヒド
断熱材製造物を小サイズの環境チャンバー(0.0855mの容積)で試験し、化学物質の放出を分析的に測定した。選択アルデヒド(ホルムアルデヒドを含む)の放出を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用してASTM D5197(「空気中のホルムアルデヒドおよび他のカルボニル化合物の測定のための標準試験方法(アクティブサンプラー法)」)に従って測定した。2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)による固体吸着剤カートリッジを使用して、チャンバーの空気におけるホルムアルデヒドおよび他の低分子量カルボニル化合物を集めた。カートリッジ内のDNPH試薬は、集められたカルボニル化合物と反応して、カートリッジによって保持される安定なヒドラゾン誘導体を形成した。ヒドラゾン誘導体をHPLC規格のアセトニトリルによりカーリッジから溶出させた。サンプルの一部を、UV検出による逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して低分子量アルデヒドのヒドラゾン誘導体について分析した。誘導体の吸収を360nmで測定した。得られたピークの質量応答を、ヒドラゾン誘導体の標準溶液から調製された多点校正曲線を使用して求めた。測定結果が、45Lの標準的な空気体積捕集に基づいて0.2ugの定量可能レベルに対して報告される。
【0044】
放出物試験−揮発性有機化合物(VOC)
VOCの測定を、質量分析検出によるガスクロマトグラフィー(GC/MS)を使用して行った。チャンバーの空気を固体吸着剤に集め、その後、これを熱的に脱着してGS/MSに入れた。吸着剤捕集技術、分離および検出分析の方法論は、USEPAおよび他の研究者によって示された技術から改変されている。この技術はUSEPA法1P−1Bに従っており、一般には、沸点が35℃〜250℃の範囲にあるC〜C16の有機化学物質に対して適用可能である。測定結果が、18Lの標準的な空気体積捕集に基づいて0.4ugの定量可能レベルに対して報告される。個々のVOCがGC/MSによって分離および検出された。総VOC測定値を、質量分析計によって得られたすべての個々のVOC応答を加え、総質量をトルエンに対して校正することによって得た。
【0045】
放出物試験−空気中濃度測定
ホルムアルデヒド、総アルデヒドおよびTVOCの放出速度を、これらの汚染物質の潜在的な空気中濃度を求めるためにコンピューター暴露モデルにおいて使用した。このコンピューターモデルでは、1週間の期間にわたる測定された放出速度変化が、それに従って生じる空気中濃度の変化を求めるために使用された。モデルの測定を、下記の仮定を用いて行った。建物内の開放事務所区域を伴う空気は占有空間の呼吸レベル域で十分に混合される;環境条件は50%の相対湿度および華氏73度(23℃)で維持される;これらの汚染物質のさらなる供給源は存在しない;かつ、これらの汚染物質についての空間内における吸込み部または潜在的な再放出源は存在しない。USEPAの室内空気暴露モデル(バージョン2.0)を、この製造物および目的とする化学物質を受け入れるように特に改変した。換気および占有のパラメーターがASHRAE基準62−1999に提供されていた。
【0046】
分離強度
硬化ブランケットの分離強度をASTM C686の「鉱物繊維バット(batt)およびブランケット型断熱材の分離強」に従って求めた。
【0047】
引っ張り強度
成形部品の引っ張り強度を内部試験法KRD−161の「引っ張り強度−イヌ骨法」に従って求めた。試験を、非硬化断熱材を加熱プレス機で成形することによって調製された成形部品から切断された試験片ディスクに対して行った。イヌ骨用の試験片は、ASTM D638の「プラスチックの引っ張り特性のための標準試験法」に指定される通りであった。2インチ/分(5.1cm/分)のクロスヘッド速度をすべての試験について使用した。
【0048】
結合強度
成形部品の層間結合強度を、内部試験法KRD−162の「成形された媒体用製造物(高密度)の結合強度」を使用して行った。断面積が2インチ×2インチ(5.1cm×5.1cm)である成形された試験片を2インチ×2インチ(5.1cm×5.1cm)の木製ブロックに接着し、試験片の表面に対して垂直な力を加える固定具に置いた。12インチ/分(30.5cm/分)のクロスヘッド速度をすべての試験について使用した。
【0049】
厚さ回復
アウト・オブ・パッケージおよびロールオーバーの厚さ試験を、ASTM C167の「バット断熱材のブランケットの厚さおよび密度」を使用して硬化ブランケットに対して行った。
【0050】
粉塵試験
粉塵試験を、内部試験手順K−102の「包装されたガラス繊維の粉塵試験、バット法」を使用して硬化ブランケットに対して行った。粉塵捕集箱の中に落ちた、硬化ブランケットの無作為に選択されたサンプル(バット)から放出される粉塵をフィルター上に捕集し、粉塵量を重量差の測定によって求めた。
【0051】
水吸収
水吸収(重量%)試験を、ASTM C1104の「面出しされていない鉱物繊維断熱材の水蒸気吸収を測定するための試験法」を使用して硬化ブランケットに対して行った。
【0052】
高温表面性能
高温表面性能試験を、ASTM C411の「高温断熱材の高温表面性能のための試験法」を使用して硬化ブランケットに対して行った。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
本発明のいくつかの実施形態が上記に記載および/または例示されているが、それらのかなりの変形および改変が可能であることが意図される。従って、本発明は、本明細書中に記載および/または例示されるこれらの特定の実施形態に限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性の水性バインダー組成物であって、
(a)酸性基あるいはその無水物または塩誘導体を有するポリ酸成分、および、
(b)ヒドロキシル基を有する複数のポリヒドロキシ成分、
を含み、pHが約7よりも大きいバインダー組成物。
【請求項2】
前記バインダー組成物のpHが約7よりも大きく約10以下の範囲にある、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項3】
ポリ酸成分における前記酸性基あるいはその無水物または塩誘導体のモル当量数の、複数のポリヒドロキシ成分における前記ヒドロキシル基のモル当量数に対する比率が、約0.7:1〜約1.3:1の範囲にある、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項4】
ポリ酸成分における前記酸性基あるいはその無水物または塩誘導体のモル当量数の、複数のポリヒドロキシ成分における前記ヒドロキシル基のモル当量数に対する比率が、約1:1である、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項5】
1つまたは複数の添加物をさらに含み、前記添加物は前記バインダー組成物の流動性を増大させることができる、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項6】
熱硬化することにより、実質的に水不溶性の熱硬化したポリエステル樹脂またはその塩がもたらされる、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項7】
前記ポリ酸成分が、不飽和脂肪族ポリカルボン酸、飽和脂肪族ポリカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、不飽和環状ポリカルボン酸、飽和環状ポリカルボン酸、それらのヒドロキシ置換誘導体、それらの塩および無水物、ならびに、それらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項8】
アンモニアまたはその塩をさらに含む、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項9】
前記ポリ酸成分が脂肪族ポリカルボン酸のアンモニウム塩である、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項10】
前記ポリ酸成分が不飽和脂肪族ポリカルボン酸のアンモニウム塩である、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項11】
前記複数のポリヒドロキシ成分の少なくとも2つがポリマーポリオールである、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項12】
前記ポリマーポリオールはそれぞれが独立して、ポリアルキレンポリオールおよびポリアルケニレンポリオールからなる群から選択される、請求項11に記載のバインダー組成物。
【請求項13】
前記ポリマーポリオールが、部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニル、完全に加水分解されたポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項11に記載のバインダー組成物。
【請求項14】
触媒をさらに含み、前記触媒はエステル形成速度を増大させることができる、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項15】
前記触媒が、硫酸またはスルホン酸、あるいは、それらの塩または誘導体である、請求項14に記載のバインダー組成物。
【請求項16】
ケイ素含有化合物をさらに含む、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項17】
アミノ置換されたケイ素含有化合物をさらに含む、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項18】
前記ケイ素含有化合物がシリルエーテルである、請求項16に記載のバインダー組成物。
【請求項19】
前記ケイ素含有化合物が、ガンマ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項16に記載のバインダー組成物。
【請求項20】
(a)ジカルボン酸のアンモニウム塩、および、
(b)ヒドロキシル基を有する複数のポリヒドロキシ成分、
を含む、熱硬化性の水性バインダー組成物。
【請求項21】
前記バインダー組成物のpHが約7よりも大きい、請求項20に記載のバインダー組成物。
【請求項22】
前記バインダー組成物のpHが約7よりも大きく約10以下の範囲にある、請求項20に記載のバインダー組成物。
【請求項23】
1つまたは複数の添加物をさらに含み、前記添加物は前記バインダー組成物の流動性を増大させることができる、請求項20に記載のバインダー組成物。
【請求項24】
前記ジカルボン酸がマレイン酸である、請求項20に記載のバインダー組成物。
【請求項25】
前記複数のポリヒドロキシ成分が、部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルと、完全に加水分解されたポリ酢酸ビニルとの混合物である、請求項20に記載のバインダー組成物。
【請求項26】
前記ジカルボン酸におけるカルボン酸基およびその塩のモル当量数の、前記複数のポリヒドロキシ成分におけるヒドロキシル基の当量数に対する比率が、約0.7:1〜約1.3:1の範囲にある、請求項20に記載のバインダー組成物。
【請求項27】
前記ジカルボン酸におけるカルボン酸基およびその塩のモル当量数の、前記複数のポリヒドロキシ成分におけるヒドロキシル基の当量数に対する比率が、約1:1である、請求項20に記載のバインダー組成物。
【請求項28】
前記ジカルボン酸におけるカルボン酸基およびその塩のモル当量数の、前記複数のポリヒドロキシ成分におけるヒドロキシル基の当量数に対する比率が、約1.3:1である、請求項20に記載のバインダー組成物。
【請求項29】
(a)酸性基あるいはその無水物または塩誘導体を有するポリ酸成分、および、
(b)部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニルと、完全に加水分解されたポリ酢酸ビニルとの混合物、
を含む熱硬化性の水性バインダー組成物。
【請求項30】
前記バインダー組成物のpHが約7よりも大きい、請求項29に記載のバインダー組成物。
【請求項31】
前記バインダー組成物のpHが約7より大きく約10以下の範囲にある、請求項29に記載のバインダー組成物。
【請求項32】
繊維を結合するための方法であって、
(a)前記繊維を、請求項1〜31のいずれかに記載の熱硬化性の水性バインダー組成物と接触させる工程、および、
(b)前記繊維と接触している前記熱硬化性の水性バインダー組成物を、前記水性バインダー組成物を硬化させるために十分な温度で加熱する工程、
を含む、方法。
【請求項33】
前記繊維が不織繊維である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
熱硬化することにより、実質的に水不溶性の熱硬化したポリエステル樹脂またはその塩がもたらされる、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
酸性基あるいはその無水物または塩誘導体を有するポリ酸成分と、ヒドロキシル基を有する複数のポリヒドロキシ成分とを含む、熱硬化性のバインダー組成物と接触しているガラス繊維を含む組成物。
【請求項36】
酸性基あるいはその無水物または塩誘導体を有するポリ酸成分と、ヒドロキシル基を有する複数のポリヒドロキシ成分とを含む、熱硬化したバインダー組成物と接触しているガラス繊維を含む組成物。
【請求項37】
請求項1〜31のいずれかに記載の熱硬化性の水性バインダー組成物により被覆された、ガラス繊維を含む繊維を加熱することによって調製される組成物を含むガラス繊維製造物。
【請求項38】
前記繊維が不織繊維のマットに含まれ、かつ、前記ガラス繊維製造物がガラス繊維断熱材製造物である、請求項37に記載のガラス繊維製造物。

【公表番号】特表2008−516071(P2008−516071A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536771(P2007−536771)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/036332
【国際公開番号】WO2006/044302
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(506306983)クナーフ インシュレーション ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】