説明

ポリエステル繊維、その製造、およびその使用

【課題】優れた耐摩耗性のみならず、無充填ポリエステル繊維の耐動的疲労性と同等もしくはそれよりも優れた耐動的疲労性をも備えた充填ポリエステル繊維を提供すること。
【解決手段】脂肪族芳香族ポリエステルと非層状小板形粒子とを含んでなるポリエステル繊維であって、前記非層状小板形粒子は、無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択され、かつ、20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比とを有することを特徴とするポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性と高い耐曲げ疲労性とを有するポリエステル繊維、とりわけ、例えばスクリーンまたはコンベヤーベルトに有用なモノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維、とりわけ工業用途に用いられるモノフィラメントは、通常、使用時に高い機械的および/または熱的ストレス要因に曝されることが知られている。加えて、前記材料が十分な耐性を示さなければならない、化学的および他の環境的影響に起因するストレス要因が存在することが多い。これらのストレス要因すべてに対する十分な耐性に加えて、前記材料は、良好な寸法安定性と、非常に長い耐用年数にわたるその応力ひずみ特性の恒常性とを備えていなければならない。
高い機械的、熱的および化学的ストレスの組み合わせを課す工業用途の一例として、フィルターまたはスクリーンにおける或いはコンベヤーベルトとしてのモノフィラメントの使用が挙げられる。この使用には、高い初期弾性率、破壊強度、結節強さおよび引掛け強さのごとき優れた機械的性質だけでなく、高い耐摩耗性および高い耐加水分解性も備えたモノフィラメント材料が必要とされる。その理由は、前記材料がその使用中に遭遇する高いストレスに耐えられるようにするため、および、スクリーンまたはコンベヤーベルトが十分な耐用年数を有するようにするためである。
高い耐化学性および耐物理性を有する成形組成物および繊維の製造へのその使用が知られている。ポリエステルは、この用途に広く用いられている材料である。これらのポリマーを他の材料と組み合わせることによって、例えば、特定の度合いの耐摩耗性を得ることも知られている。
【0003】
製紙業者または紙加工業者のごとき工業製造業者は、高温度および高温湿潤環境において行われる作業においてフィルターまたはコンベヤーベルトを用いる。ポリエステルをベースに製造された繊維には、そのような環境において良好な性能を示すという証明された記録があるが、高温湿潤環境において用いられた場合、ポリエステルは、機械摩耗のみならず加水分解に対しても脆弱である。
工業的用途における摩耗の原因は多岐にわたる。例えば、製紙機械内のシート成形ワイヤースクリーンは、サクションボックスの上に寄せられたペーパースラリーを脱水する工程において用いられるが、これによって前記ワイヤースクリーンの傷みが激しくなる。製紙機械のドライエンドでは、ペーパーウェブとワイヤースクリーンの表面との間の速度の差およびワイヤースクリーンの表面と乾燥ドラムの表面との間の速度の差に起因してワイヤースクリーンの傷みが生じる。摩耗に因る布の傷みも他の工業用布に生じている。その例としては、固定面上を引き摺ることに因る運搬ベルトの傷み、機械的清掃に因る濾布の傷み、およびスクリーンの表面上におけるスキージの移動に因るスクリーン印刷布の傷みが挙げられる。
充填剤を添加することによって繊維の機械的性質を向上させることは、それ自体が周知である。
【0004】
GB−A−759,374には、機械的性質が改善された人工繊維および人工フィルムの製造が記載されている。請求の範囲に記載されている方法は、金属酸化物の微粉をエアロゾルの形態で用いることを特徴とする。粒径は150nm以下とする。粘性のあるポリアクリロニトリルおよびポリアミドがポリマーの例として挙げられる。
【0005】
EP−A−1,186,628には、微細分散されたシリカゲルを含んでなるポリエステル原料が開示されている。個々の粒子の直径は60nm以下であり、凝集体が存在する場合、前記凝集体の大きさは5μm以下である。前記充填剤は、機械的性質、色および取扱性が改善されたポリエステルをもたらすと言われている。前記文献には、これらのポリエステル繊維の用途については何の記載も無い。
【0006】
WO−A−01/02,629に対応するUS−A−6,544,644には、とりわけ製紙機械に有用なモノフィラメントが記載されている。説明の部分は、主にポリアミドモノフィラメントについて言及しており、ポリエステル原料についても、ごく一般的な言葉で言及している。記載されているモノフィラメントは、ナノスケールの無機物が存在することを特徴とする。これらによって耐摩耗性が強化される。球形粒子だけでなく小板についても記載されている。記載されている前記非球形粒子はナノクレー、すなわち層状粒子である。これらをホスホニウム化合物またはアンモニウム化合物のごとき膨張剤で処理することによって、前記層状集合体の全体または一部を溶かして、一方向の厚みが10mm未満の粒子を形成することができる。小板形粒子の場合、前記文献は、層構造の溶解が不完全であるがために厚みが100nm未満の凝集体が存在する層状粒子、または、層構造が完全に溶解しているため、厚みが10nm未満粒子が存在する層状粒子の使用について言及している。前記文献では、これらの小板の一例として、剥離モンモリロナイトが挙げられている。
【0007】
一般に、層状および小板状ナノ粒子、いわゆるナノクレー、をポリエステルスピニングドープに使用すると紡糸時に問題が生じることが分かっている。前記スピニングドープが全く処理できないか、または、繊維を製造するには特別な措置を講じなければならない。一方、厚みが不十分なナノ粒子を用いた場合、得られる繊維の織物加工性は不十分であることが分かった。ポリマー中のこれらの非常に小さい粒子に因る高い割合の界面は延伸段階に破壊的な効果をもたらし、その結果、延伸作業後のポリマー鎖の配列が不十分となると考えられている。これは、繊維の機械的性質、例えば強度、に悪影響を及ぼす。
【0008】
ナノスケール充填剤の使用は、機械的性質が改善された繊維をもたらすことがある。しかしながら、一般に、充填剤の添加は、一部の性質に所望の向上をもたらすと同時に、他の性質を劣化させてしまうことにもなる。
驚くべきことに、特定のナノスケール充填剤を含んでなる選択ポリエステル原料は、耐曲げ疲労性によって表される耐動的疲労性が充填剤の使用によって著しく低下すること無く、むしろ向上することがある一方で、耐摩耗性が未改質のポリエステル原料と比べて著しく向上していることが現在までに分かっている。この性質は、選択ポリエステル原料に見られた。
【特許文献1】GB−A−759,374
【特許文献2】EP−A−1,186,628
【特許文献3】US−A−6,544,644(WO−A−01/02,629)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この従来技術から発展して、本発明の目的は、優れた耐摩耗性のみならず、無充填ポリエステル繊維の耐動的疲労性と同等もしくはそれよりも優れた耐動的疲労性をも備えた充填ポリエステル繊維を提供することである。
本発明のさらなる目的は、高い耐摩耗性と優れた耐動的疲労性とを有する透明な繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、脂肪族芳香族ポリエステルと非層状小板形粒子とを含んでなる繊維であって、前記非層状小板形粒子は、無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択され、かつ、20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比とを有する、ことを特徴とする前記繊維。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本願明細書において用いられる「厚み」とは、粒子の慣性主軸の1つに沿った前記粒子の最小の伸長を意味する。
本願明細書において用いられる「アスペクト比」とは、粒子の慣性主軸の1つに沿った前記粒子の最小伸長に対する前記粒子の慣性主軸の1つに沿った前記粒子の最大伸長に沿った商である。すなわち、アスペクト比とは、粒子の厚みに対する(慣性主軸の1つに沿った)前記粒子の最大長から形成される商である。
【0012】
好ましいとされるのは、遊離カルボキシル基含有量が3meq/kg以下であるポリエステル繊維である。
これらのポリエステル繊維は、遊離カルボキシル基を封止する剤、例えばカルボジイミドおよび/またはエポキシ化合物、を含んでなる。
このように恵まれたポリエステル繊維は加水分解に対して安定化しており、また、高温湿潤環境、とりわけ製紙機械内部、における使用またはフィルターとしての使用に特に好適である。
【0013】
脂肪族基と芳香族基とを含んでなり且つ融解物中で形成可能であるあらゆる繊維形成性ポリエステルを用いることができる。本願明細書において、脂肪族基は、脂環式基を意味するとも理解される。
【0014】
これらの熱可塑性ポリエステルは、それ自体が周知である。それらの例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、とりわけポリエチレンテレフタレートが挙げられる。繊維形成性ポリエステルの構成単位は、ジオールおよびジカルボン酸または適切に構築されたオキシルカルボン酸であることが好ましい。ポリエステルの主な酸成分は、テレフタル酸またはシクロヘキサンジカルボン酸であるが、他の芳香族および/または脂肪族または脂環式ジカルボン酸も好適となり得る。好ましくは、パラまたはトランス位芳香族化合物、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸または4,4’−ビフェニレンジカルボン酸、およびイソフタル酸である。脂肪族ジカルボン酸、例えばアジピン酸またはセバシン酸は、芳香族ジカルボン酸と組み合わせて用いられることが好ましい。
【0015】
有用な二価アルコールとしては、一般に、脂肪族および/または脂環式ジオール、例えばエチレングリコール、プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはこれらの混合物が挙げられる。好ましいとされるのは、炭素数が2〜4である脂肪族ジオール、とりわけエチレングリコールである。さらに、1,4−シクロヘキサンジメタノールのごとき脂環式ジオールも好ましいとされる。
【0016】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族および/または脂環式ジオールとから誘導される構造繰り返し単位を含んでなるポリエステルを用いることが好ましい。
【0017】
好ましい熱可塑性ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、およびポリブチレングリコール単位とテレフタル酸単位とナフタレンジカルボン酸単位とを含んでなる共重縮合物からなる群から特に選択される。
【0018】
本発明に従って用いられるポリエステルは、一般に0.60dl/g以上、好ましくは0.60〜1.05dl/g、さらに好ましくは0.62〜0.93dl/g(ジクロロ酢酸(DCE)中において25℃で測定した場合)の溶液粘度(IV値)を有する。
【0019】
本発明に従って用いられるナノスケール充填剤は、耐曲げ疲労性によって表される動的性質に悪影響を及ぼすこと無く、優れた耐摩耗性を有するポリエステル繊維を与える。
【0020】
本発明に従って用いられる充填剤は、特定の非層状小板形粒子である。これらは、無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択される。
これらの充填剤のさらなる特徴とは、それらの形状である。これらの粒子は、球形ではなく、小板形である。それらの厚みは100nm以下、好ましくは80nm以下、とりわけ20〜60nmである。これらの充填剤のさらなる特徴とは、それらのアスペクト比、すなわち、粒子の慣性主軸の1つに沿った前記粒子の最小伸長に対する前記粒子の慣性主軸の1つに沿った前記粒子の最大伸長に比率である。前記アスペクト比は、20:1以下である。フィロケイ酸塩(いわゆるナノクレー)およびモンモリロナイトのごとき層状充填剤は本発明では好ましくない。その理由は、それらを使用すると、繊維の加工に支障をきたすばかりでなく、特性の著しい向上が全く見られないからである。
【0021】
一般に、本発明に従って用いられるナノスケール非球形酸化物は、周期表のIIa族の金属の酸化物、好ましくはマグネシウム、カルシウムまたはストロンチウムの酸化物、または周期表のIIIb族の金属の酸化物、好ましくはアルミニウム、ガリウムまたはインジウムの酸化物、または周期表のIVa族の金属の酸化物、好ましくはチタン、ジルコニウムまたはハフニウムの酸化物、または周期表のIIIa族の金属の酸化物、好ましくはスカンジウムまたはイットリウムの酸化物、または周期表のIVb族の金属または半金属の酸化物、好ましくはケイ素、ゲルマニウムまたはスズの酸化物である。
酸化物の代わりに、対応する水酸化物を用いることもできるし、異なる金属酸化物から形成される混合結晶、例えばAl2SiO(ムライト)を用いることもできる。
【0022】
一般に、本発明に従って用いられるナノスケール非球形炭酸塩は、周期表のIIa族の金属の炭酸塩、好ましくはマグネシウム、カルシウムまたはストロンチウムの炭酸塩である。
一般に、本発明に従って用いられるナノスケール非球形炭化物は、周期表のIIIb族の金属の炭化物、好ましくはアルミニウム、ガリウムまたはインジウムの炭化物、または周期表のIVb族の金属または半金属の炭化物、好ましくはケイ素、ゲルマニウムまたはスズの炭化物である。
一般に、本発明に従って用いられるナノスケール非球形窒化物は、周期表のIIIb族の金属の窒化物、好ましくはアルミニウム、ガリウムまたはインジウムの窒化物、または周期表のIVb族の金属または半金属の窒化物、好ましくはケイ素、ゲルマニウムまたはスズの窒化物である。
【0023】
ナノスケール非球形酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化イットリウムまたは炭酸カルシウムを用いることが特に好ましい。
ナノスケール非球形酸化アルミニウムまたは炭酸カルシウムを用いることが特に非常に好ましい。
【0024】
本発明の繊維を製造するのに必要とされる充填ポリエステル原料は、様々な方法で製造することができる。例えば、ポリエステルおよび充填剤および必要に応じて他の添加剤を、押出成形機のごときミキシングアセンブリで前記ポリエステルを融解させることによって混ぜ合わせ、得られた組成物を紡糸口金に直接供給するかまたは造粒して別の工程で紡糸することができる。必要に応じて、得られたペレットを、さらなるポリエステルと一緒にマスターバッチとして紡糸することができる。前記ポリエステルの重縮合の前またはその最中に前記ナノスケール充填剤を添加することもできる。
【0025】
好適なナノスケール非球形充填剤は市販されている。例えば、米国、マサチューセッツ州のアシュランドにあるNano Technologies, Inc.社製のDP 6096(エチレングリコール中の炭酸カルシウム)を用いることができる。
【0026】
本発明の繊維中のナノスケール非球形充填剤の量は、広い範囲内で変動し得るが、通常は、繊維の質量に基づいて5重量%以下である。ナノスケール球形充填剤の量は、好ましくは0.1〜2.5重量%であり、特に0.5〜2.0重量%である。
【0027】
成分(a)および(b)の種類および量は、透明な生成物が得られるように選択されることが好ましい。ポリアミドとは異なり、本発明に従って用いられるポリエステルは、その透明性で有名である。驚くべきことに、前記ナノスケール非球形充填剤は透明性に全く悪影響を及ぼさないことが分かっている。対称的に、約0.3重量%の非ナノスケール二酸化チタン(艶消し剤)を添加すると、繊維は完全に白くなってしまう。
【0028】
さらに、驚くべきことに、本発明による繊維の耐摩耗性は、ポリカーボネートを添加することによってさらに向上することも分かっている。ポリカーボネートの量は、ポリマーの総質量に基づいて、一般に5重量%以下、好ましくは0.1〜5.0重量%、さらに好ましくは0.5〜2.0重量%である。
【0029】
この説明における繊維は、任意の所望の繊維を意味すると理解される。
その例としては、複数の繊維で構成されるフィラメントまたは短繊維、とりわけモノフィラメントが挙げられる。
本発明のポリエステル繊維は、慣用の方法で製造することができる。
【0030】
さらに本発明は、前記繊維を製造するための方法であって、
i)無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択され、かつ、20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比とを有する非層状小板形粒子と、ポリエステルペレットとを混合する工程と、
ii)ポリエステルと非層状小板形粒子とを含んでなる混合物を紡糸口金から押し出す工程と、
iii)得られたフィラメントを回収する工程と、
iv)必要に応じて、前記得られたフィラメントを延伸および/または弛緩させる工程と、
を含んでなる前記方法を提供する。
【0031】
さらに本発明は、前記繊維を製造するための方法であって、
v)無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択され、かつ、20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比とを有する非層状小板形粒子とポリエステルとの重縮合の前または最中に混合されたポリエステルペレットを押出成形機に供給する工程と、
ii)ポリエステルと非層状小板形粒子とを含んでなる混合物を紡糸口金から押し出す工程と、
iii)得られたフィラメントを回収する工程と、
iv)必要に応じて、前記得られたフィラメントを延伸および/または弛緩させる工程と、
を含んでなる前記方法を提供する。
【0032】
本発明のポリエステル繊維は、その製造の過程において、単一または複数延伸に附されることが好ましい。
固相縮合によって製造されるポリエステルを用いて前記ポリエステル繊維を製造することが特に好ましい。
【0033】
本発明のポリエステル繊維は、任意の所望の形態、例えば、マルチフィラメントとして、短繊維として、とりわけモノフィラメントとして存在することができる。
【0034】
同様に、本発明によるポリエステル繊維の線密度は、広い範囲内で変動し得る。その例としては、100〜45,000dtex、とりわけ400〜7,000dtexが挙げられる。
【0035】
特に好ましいとされるのは、断面の形状が円形、楕円形またはn角形(nは3以上である)モノフィラメントである。
【0036】
本発明によるポリエステル繊維は、市販のポリエステル原料を用いて製造することができる。市販のポリエステル原料の遊離カルボキシル基含有量は、一般に、ポリエステルの15〜50meq/kgである。固相縮合によって製造されるポリエステル原料を用いることが好ましいとされる。前記原料の遊離カルボキシル基含有量は、一般に、ポリエステルの5〜20meq/kg、好ましくは8meq/kg未満である。
【0037】
しかしながら、本発明のポリエステル繊維は、ナノスケール非層状小板形充填剤をすでに含んでなるポリエステル原料を用いて製造することもできる。前記ポリエステル原料は、前記充填剤を、重縮合中におよび/またはモノマーのうちの少なくとも1種に対して添加することによって製造される。
【0038】
ポリエステル融解物を紡糸口金に押し通した後、得られた高温のポリマーストランドを、例えば急冷浴、好ましくは水浴で急冷した後、巻き取るかまたは取り除く。巻取速度は、ポリマー融解物の排出速度よりも速い。
【0039】
このように製造されたポリエステル繊維は、その後、後延伸処理に附されることが好ましく、複数の段階からなる後延伸処理に附されることがさらに好ましく、とりわけ、3:1〜8:1、好ましくは4:1〜6:1の総延伸倍率で、2または3段式後延伸処理に附されることが好ましい。
【0040】
延伸の後に熱固定を行うことが好ましい。熱固定温度として、130〜280℃の温度が用いられる。長さが一定に保たれ、わずかな後延伸、すなわち30%以下の収縮は許容される。
【0041】
285〜315℃の溶融温度および2:1〜6:1のジェット延伸倍率で作業することは、本発明のポリエステル繊維の製造にとって、特に有利であることが分かっている。
巻取速度は、通常、10〜80m/分である。
【0042】
本発明のポリエステル繊維は、ナノスケール非層状小板形充填剤に加えて、他の補助材料を含んでなっていてもよい。
【0043】
前述の加水分解安定剤に加えて、補助材料の例としては、加工助剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、顔料、艶消し剤、粘度調整剤および結晶化促進剤が挙げられる。
【0044】
加工助剤の例としては、シロキサン、ワックスまたは長鎖カルボン酸またはその塩、脂肪族、芳香族エステルまたはエーテルが挙げられる。
酸化防止剤の例としては、リン酸エステルのごときリン化合物、および立体障害フェノールが挙げられる。
顔料または艶消し剤の例としては、有機染料顔料および二酸化チタンが挙げられる。
粘度調整剤の例としては、多塩基性カルボン酸およびそれらのエステルおよび多価アルコールが挙げられる。
【0045】
本発明の繊維はすべての工業分野において用いることができる。本発明の繊維は、機械的応力によって傷みが激しくなりやすい用途に好ましく用いられる。それら例としては、スクリーンまたはコンベヤーベルトへの使用が挙げられる。これらの使用も、本発明の主題の一部を形成する。
【0046】
本発明のポリエステル繊維は、シート状の構造物、とりわけ、スクリーンに用いられる織物を製造するのに用いられるのが好ましい。
【0047】
モノフィラメントの形態での本発明のポリエステル繊維のさらなる使用は、コンベヤーベルトとしてまたはコンベヤーベルトの部品としてのその使用に関する。
【0048】
特に好ましいとされるのは、本発明の繊維を、製紙機械のドライエンドに用いられるワイヤースクリーンであるスクリーンに用いることである。
これらの使用も、本発明の主題の一部を形成する。
【0049】
さらに本発明は、高い耐摩耗性を有する繊維、とりわけモノフィラメント、を製造するための非層状小板形粒子の使用であって、前記非層状小板形粒子は、無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択され、かつ、100nm以下の厚みと20:1以下のアスペクト比とを有する、ことを特徴とする前記使用を提供する。
【実施例】
【0050】
下記実施例は本発明を説明するものであり、限定するものではない。
本発明の実施例1についての一般的な操作方法
ポリエチレンテレフタレート(PET)および必要に応じて加水分解安定剤を押出成形機で混ぜ合わせ、融解させ、そして488g/分の供給速度および31m/分の巻取速度において孔径が1.0mmである孔を20個備えた紡糸口金を通じて紡糸することによってモノフィラメントを形成し、4.95:1、1.13:1および0.79:1の延伸倍率で3重に延伸し、収縮は許容しながら255℃の熱風道内で熱固定した。総延伸倍率は、4.52:1であった。直径が0.25mmであるモノフィラメントが得られた。
【0051】
用いたPETは、50nmのナノスケールAlが0.04重量%添加された、0.72dl/gのIV値を有するタイプであった。
用いた加水分解安定剤は、カルボジイミド(Rheinchemie社製のStabaxol(登録商標)1)であった。
【0052】
比較例1および2についての一般的な操作方法
本発明の実施例1についての操作方法に記載されているようにしてモノフィラメントを製造した。異なるPET原料を用いたが、ナノスケール充填剤は用いなかった。比較例1では0.72dl/gのIV値を有するタイプを用い、比較例2では0.9dl/gのIV値を有するタイプを用いた。
【0053】
繊維特性は以下のようにして求めた。
引張強さは、DIN EN/ISO 2062に準じて求めた。破断伸びは、DIN EN/ISO 2062に準じて求めた。熱風収縮率は、DIN 53843に準じて求めた。
回転かご試験: 一定の回転速度で回転するドラムの上に金属棒が設置された回転可能な金属製摩擦試験機を用いて実施した。モノフィラメントをこの摩擦試験機の上に一定のプリテンションを用いて設置した。フィラメントが破損に至る回転数を測定した。
下記表に、モノフィラメントの特性をまとめた。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族芳香族ポリエステルと非層状小板形粒子とを含んでなる繊維であって、前記非層状小板形粒子は、無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択され、かつ、20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比とを有する、ことを特徴とする前記繊維。
【請求項2】
前記ポリエステルが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族および/または脂環式ジオールとから誘導される構造繰り返し単位、とりわけ、ポリエチレンテレフタレート繰り返し単位を単独でまたはアルキレングリコールと脂肪族ジカルボン酸とから誘導される他の構造繰り返しと組み合わせて含んでなる、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
前記脂肪族芳香族ポリエステルが、3meq/kg以下の遊離カルボキシル基含有量を有する、請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
遊離カルボキシル基を封止するための加水分解安定剤、好ましくは、少なくとも1種のカルボジイミドおよび/または少なくとも1種のエポキシ化合物を含んでなる、請求項3に記載の繊維。
【請求項5】
前記非層状小板形粒子の厚みは、80nm以下、とりわけ20〜60nmである、請求項1に記載の繊維。
【請求項6】
前記非層状小板形粒子は、マグネシウムの酸化物、カルシウムの酸化物、ストロンチウムの酸化物、アルミニウムの酸化物、ガリウムの酸化物、インジウムの酸化物、チタンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ハフニウムの酸化物、スカンジウムの酸化物、イットリウムの酸化物、ケイ素の酸化物、ゲルマニウムの酸化物、スズの酸化物、あるいはこれらの金属または半金属の混合酸化物である、請求項1に記載の繊維。
【請求項7】
前記非層状小板形粒子は、マグネシウムの炭酸塩、カルシウムの炭酸塩またはストロンチウムの炭酸塩である、請求項1に記載の繊維。
【請求項8】
前記非層状小板形粒子は、アルミニウムの炭化物、ガリウムの炭化物、インジウムの炭化物、ケイ素の炭化物、ゲルマニウムの炭化物またはスズの炭化物である、請求項1に記載の繊維。
【請求項9】
前記非層状小板形粒子は、アルミニウムの窒化物、ガリウムの窒化物、インジウムの窒化物、ケイ素の窒化物、ゲルマニウムの窒化物またはスズの窒化物である、請求項1に記載の繊維。
【請求項10】
前記非層状小板形粒子は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化イットリウムおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される、請求項1に記載の繊維。
【請求項11】
前記非層状小板形粒子は、酸化アルミニウムおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される、請求項10に記載の繊維。
【請求項12】
非層状小板形粒子の含有量が、繊維の質量に基づいて、0.1〜5重量%、好ましくは1〜2重量%である、請求項1に記載の繊維。
【請求項13】
前記脂肪族芳香族ポリエステルに加えて、ポリマーの総質量に基づいて、0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%のポリカーボネートをも含んでなる、請求項1に記載の繊維。
【請求項14】
透明である、請求項1に記載の繊維。
【請求項15】
モノフィラメントである、請求項1に記載の繊維。
【請求項16】
請求項1に記載の繊維を製造するための方法であって、
i)無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択され、かつ、20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比とを有する非層状小板形粒子と、ポリエステルペレットとを混合する工程と、
ii)ポリエステルと非層状小板形粒子とを含んでなる混合物を紡糸口金から押し出す工程と、
iii)得られたフィラメントを回収する工程と、
iv)必要に応じて、前記得られたフィラメントを延伸および/または弛緩させる工程と、
を含んでなる前記方法。
【請求項17】
請求項1に記載の繊維を製造するための方法であって、
v)無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択され、かつ、20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比とを有する非層状小板形粒子と、ポリエステルの重縮合の前または最中に混合されたポリエステルペレットを押出成形機に供給する工程と、
ii)ポリエステルと非層状小板形粒子とを含んでなる混合物を紡糸口金から押し出す工程と、
iii)得られたフィラメントを回収する工程と、
iv)必要に応じて、前記得られたフィラメントを延伸および/または弛緩させる工程と、
を含んでなる前記方法。
【請求項18】
前記ポリエステル繊維が単一または複数延伸に附される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリエステル繊維が、固相縮合によって製造されるポリエステルを用いて製造される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
スクリーンまたはコンベヤーベルトを製造するための、請求項1に記載の繊維の使用。
【請求項21】
前記スクリーンは、製紙機械のドライエンドで使用するためのワイヤースクリーンである、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
高い耐摩耗性を有する繊維、とりわけモノフィラメント、を製造するための非層状小板形粒子の使用であって、前記非層状小板形粒子は、無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択され、かつ、20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比とを有する、ことを特徴とする前記使用。

【公開番号】特開2007−23474(P2007−23474A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193469(P2006−193469)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(501078281)テイジン モノフィラメント ジャーマニイ ゲー・エム・ベー・ハー (11)
【Fターム(参考)】