説明

ポリエステル繊維、織編物、カーシートおよびポリエステル繊維の製造方法

【課題】繰り返しの荷重に強く、表面のソフト性および均一性、に優れ、かつ易染性も併せ持ち、凹凸やカールがなく織編物、特にカーシートとして好適な布帛、を得ることのできるポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】初期引張抵抗度が15〜38cN/dtex、20%伸長後の伸長回復率が70%以上、160℃乾熱処理後の放縮率が0.3%〜1.4%であり、沸騰水収縮率が4〜11%、160℃乾熱収縮率が4〜15%、かつ、収縮応力曲線における0.5cN/dtex応力時の温度が55〜80℃であるポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱処理し冷却後、安定した挙動を示すポリエステル繊維に関するものである。特にカーシートとして好適な布帛を得ることのできるポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリエステル繊維であるポリエチレンテレフタレート(以下PETと称することがある)は、その高い強度と良好な染色性、さらには生産性から合成繊維の中心として検討されてきた。PET繊維は衣料用のみならず、車両用としても有用であり、カーシートや天井材を中心に展開されてきた。PET繊維は、熱処理後の挙動が安定しており、織物や編物(併せて織編物と称することがある)を得る最終工程である熱処理工程において、設計された布帛幅に収めやすく、その後の変化がほとんど無いために、安定した品質の布帛を得ることができる。また、カーシートや天井材などは起毛布帛とすることで高級感が得られることから、熱処理後の布帛を起毛処理することがある。この起毛処理においても、PET繊維は安定した品質が得られやすい。
【0003】
ところが、PET繊維をカーシートとして使用した場合、人体の荷重が繰り返しかかることで布帛が伸びてしまう問題がある。これはPET繊維の低い伸長回復性、つまり、伸長後の回復率が低いことに起因している。
【0004】
さらには、PET繊維は初期引張抵抗度(ヤング率あるいは弾性率とも言うことがある)がおよそ90cN/dtexと高いために、特に起毛布帛とした場合に、チクチクとした硬さが出てしまうという問題がある。
【0005】
一方、ポリトリメチレンテレフタレート(以下3GTと称することがある)は、繊維としたときに、伸長回復性が高く、かつ、初期引張抵抗度が低いのでソフト性に優れるという特徴を持っている。加えてその易染性により、PET繊維の欠点を補うことのできる魅力あるポリエステル繊維として近年の検討は盛んである。
【0006】
ところが、3GT繊維も万能ではなく、短所も存在する。この欠点を補うために3GT繊維に関わる検討は盛んである。たとえば、3GT繊維の低強度、用途によっては低すぎる弾性率、および染色堅牢性の低さを補うために、3GTを鞘成分、PETを芯成分とした芯鞘複合繊維が提案されている(特許文献1)。該文献によると、強度3.9〜4.7g/d(3.5〜4.2cN/dtex)、弾性率43〜72g/d(39〜65cN/dtex)の芯鞘複合繊維が得られている。この技術によれば、たしかに、従来の3GT繊維に対して強度は高くなるものの、3GT繊維の最も重要な特徴である低弾性率が損なわれ、ソフト性に欠けるという問題がある。また、3GT繊維の重要な魅力である伸長回復性についても大幅に低下し、カーシートとしては不十分となってしまう。
【0007】
一方で、3GT繊維をカーシートに使用した場合、熱セット性が劣るため、仕上げ熱セット後、緊張状態を解くと、徐々に幅方向に収縮してしまい、幅方向で品位のばらつきが出る。特に布帛拘束力の弱い編物ではこの傾向が顕著であり、熱セット後数日経過すると、表面のスムース感が失われ、ソフト性が感じられなくなる問題や、端部がカールし、実使用に耐えないという問題があった。
【0008】
3GT繊維の収縮の問題を改善した公知技術として、たとえば、特許文献2が挙げられる。該文献では3GT繊維の高い収縮率を抑え、それによってソフト性をさらに向上させることを目的に、熱応力をコントロールすることが提案されている。コントロールする方法として、高速で紡糸し、熱処理を行わずに巻き取ることが挙げられている。しかし、この技術では、熱による収縮率、応力は低いものの、経時で徐々に収縮が起こり、熱セット性は劣ることがわかった。これは、高速にて紡糸された繊維は結晶化度が低く、3GTはガラス転移温度が低いために、繊維化後であっても徐々に結晶化が進んでいるためである。
【0009】
以上のように、カーシートとして好適な布帛を得ることのできる繊維についてはいまだ提案されていない。
【特許文献1】特開平11−93021号公報(特許請求の範囲、段落0011、実施例)
【特許文献2】特開2001−348729号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、繰り返しの荷重に強く、表面のソフト性および均一性に優れ、かつ、凹凸やカールのない織編物、特にカーシートとして好適な布帛、を得ることのできるポリエステル繊維を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、初期引張抵抗度が15〜38cN/dtex、20%伸長後の伸長回復率が70%以上、160℃乾熱処理後の放縮率が0.3%〜1.4%であるポリエステル繊維である。
【0012】
また、本発明は、上記の繊維からなる織編物を含む。
【0013】
また、本発明は、上記の織編物からなるカーシートを含む。
【0014】
また、本発明は、上記の繊維が巻きつけられ、バルジが−5〜10%、かつ、サドルが0〜10%であるチーズ状パッケージを含む。
【0015】
また、本発明は、上記のポリエステル繊維を製造する方法を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、3GT繊維の低い初期引張抵抗度と高い伸長回復性とを活かし、かつ、熱セット性の悪さが改善されたポリエステル繊維を得たものである。本発明のポリエステル繊維を用いることにより、繰り返しの荷重に強く、表面のソフト性および均一性に優れ、かつ、凹凸やカールのない織編物を得ることができる。特に従来よりも良好なカーシートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明のポリエステル繊維は、初期引張抵抗度が15〜38cN/dtex、20%伸長後の伸長回復率が70%以上、160℃乾熱処理後の放縮率が0.3%〜1.4%である。この3つの規定を同時に満たすことが本発明のポリエステル繊維の特徴であり、従来存在し得なかったポリエステル繊維である。
【0019】
本発明のポリエステル繊維の初期引張抵抗度は15〜38cN/dtexである。この値がこの範囲にあることにより、該繊維から得られる布帛は、良好なソフト性を有する。繊維の初期引張抵抗度がこの範囲よりも大きいと、ソフト性が悪くなる。広く用いられているPET繊維においては90cN/dtex程度の値であるので、PET繊維から得られる布帛では、チクチクとした硬さが出てしまう。近年検討が進んでいる3GT繊維においては20cN/dtex程度の値であり、好ましい。布帛のソフト性の観点からは、初期引張抵抗度はより低い値が好ましく、15〜35cN/dtexがより好ましく、さらに15〜33cN/dtexがさらに好ましい。
【0020】
本発明のポリエステル繊維の20%伸長後の伸長回復率は70%以上である。測定方法の関係上、上限は100%となる。この値がこの範囲にあることにより、該繊維から得られる布帛は、繰り返しの荷重に対する耐性が良好になる。この値が低いと、たとえばカーシートにしたときに、人体荷重により布帛が伸びきってしまい、布帛組織の目ズレやタルミが起こる。この伸長回復率は、PET繊維においては30%程度の値であり、PET繊維単体では、繰り返しの荷重に対する耐性が低い布帛しか得られない。3GT繊維は、この値が、90%以上の値を示し、好ましい。繰り返しの荷重に対する耐性の観点から、この伸長回復率は、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。
【0021】
ポリエステル繊維の初期引張抵抗度と20%伸長後の伸長回復率は、用いるポリエステルポリマの選択により、ある程度制御することが可能である。ポリエステルポリマとしては、少なくとも3GTを含むことが好ましい。さらに必要に応じて他のポリエステルポリマを複合したり、ブレンドしたりすることができる。他のポリエステルポリマとしてはPETおよびポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと称することがある)から選ばれたポリマが好ましい。
【0022】
本発明のポリエステル繊維の160℃乾熱処理後の放縮率は0.3〜1.4%である。160℃乾熱処理後の放縮率とは、一定荷重下にて160℃の乾熱処理を実施したのち、室温にて荷重を外し、重力下での収縮の割合である。具体的には以下の方法にて測定される値である。
【0023】
繊維を1m×10回のかせ取りする。かせに、9.1×10−3cN/dtexの荷重を掛け、カセ長を測定する(L0)。次に、9.1×10−3cN/dtexの荷重下で160℃、15分の乾熱処理を行い、乾熱処理直後(30秒以内)、かせ長を測定する(L1)。さらに、荷重を4.6×10−3cN/dtexに換え、20℃で30分放置した後、かせ長を測定する(L2)。下記の式で、160℃乾熱処理後の放縮率を算出する。
(160℃乾熱処理後の放縮率)=(L1−L2)/L0
この放縮率は、繊維の熱セット性を表すパラメータである。繊維の放縮率が大きいと、該繊維から得られる布帛は、仕上げ熱セットをかけた後でも布帛の収縮が起こり、布帛の均一性が損なわれる。また、布帛の収縮により、布帛組織の目ズレやタルミなど表面品位の低下を引き起こす。特に組織の拘束力の弱い編物においては影響が大きくなり、実用に耐えないものとなってしまう。繊維を編物用途に問題なく使用するためには、この放縮率は1.4%以下であることが必要である。さらに好ましくは1.1%以下である。この放縮率は、布帛としての価値を高める最も重要な項目であるといえる。この放縮率は、PET繊維では0.3%程度の値、従来の3GT繊維では1.7〜2.0%程度の値である。
【0024】
本発明のポリエステル繊維は、前記の初期引張抵抗度および20%伸長後の伸長回復率とあわせ、3項目すべてを同時に満たすことが重要である。従来のPET繊維では、160℃乾熱処理後の放縮率は達成できるが、初期引張抵抗度と20%伸長後の伸長回復率を満たすことはできなかった。また、従来の3GT繊維では、初期引張抵抗度と20%伸長後の伸長回復率は達成できるが、160℃乾熱処理後の放縮率を満たすことはできなかった。これら3項目をすべて満たす本発明のポリエステル繊維の具体的な製造方法については後述する。
【0025】
次に繊維の収縮特性についての好ましい範囲を記載する。繊維の収縮特性は、その後の織編物を得る工程において重要である。繊維の沸騰水収縮率は4〜11%、160℃乾熱収縮率は4〜15%、かつ、収縮応力曲線における0.5cN/dtex応力時の温度は55〜80℃であることが好ましい。
【0026】
沸騰水収縮率は、織編物を得る工程のうち、精錬工程における収縮の目安として重要である。沸騰水収縮率は、低めに抑えることが好ましく、4〜11%の範囲であると、布帛が硬くなることがないため好ましい。従来の3GT繊維の場合、13%程度の収縮率である。沸騰水収縮率が大きいと、精錬工程等において、織編物が収縮して硬くなってしまい、3GTのソフト性を活かした織編物を得ることが難しくなる。沸騰水収縮率は、より好ましくは4〜10%、さらに好ましくは4〜9.5%の範囲であると、ソフト性に優れた布帛を得ることが容易となる。
【0027】
160℃乾熱収縮率は、仕上げ熱セット時の収縮の目安となる値である。160℃乾熱収縮率は、やはり低めに抑えることが好ましく、4〜15%であると、織編物の組織の密度をコントロールしやすい。また、本発明のポリエステル繊維を他のポリエステル繊維と交織もしくは交編する場合でも、他のポリエステル繊維との収縮率差異が少ないため、熱処理後の布帛において表面の凹凸やカールの発生を回避することができる。ソフト性の観点でも160℃乾熱収縮率は低いことが好ましい。より好ましい値は4〜14%である。
【0028】
また、収縮応力曲線における0.5cN/dtex応力時の温度は、繊維を昇温速度100℃/分で加熱した際に、応力がかかり始める温度である。布帛は精錬工程において初めて熱が付与され、90〜100℃の熱を受ける。この工程において、繊維の0.5cN/dtex応力時の温度が55〜80℃であると、布帛の急速な収縮が抑制され、組織の目ズレがなく、良好な布帛を得ることが容易となるので好ましい。また、繊維の0.5cN/dtex応力時の温度が55℃以上であると、該繊維から布帛を得る際に、織機または編機の熱の影響を受けにくいため好ましい。繊維の0.5cN/dtex応力時の温度は、60℃以上がより好ましい。従来の3GT繊維の場合は、この温度は45〜55℃であった。
【0029】
そのほか、本発明におけるポリエステル繊維の好ましい特性として、収縮応力のピーク温度は130〜170℃が好ましい。また、ピーク応力は0.15〜0.3cN/dtexが好ましい。この範囲であると、織編物の熱セットを行う際に、仕上げ熱セット完了まで一定して繊維が収縮する方向に、適度な応力がかかるため、組織のタルミが起こらず、安定した品位の織編物を得ることができる。より好ましくは、ピーク温度は140〜160℃、ピーク応力は0.15〜0.25cN/dtexである。収縮応力のピーク温度、ピーク応力は繊維製造における熱処理温度と熱処理前後の糸張力により調整することができる。
【0030】
繊維の強度および伸度は、布帛を得るうえで問題ない範囲に設定すればよい。強度については2.5cN/dtex以上、伸度は25〜60%とすれば織編時の糸切れが起こりにくいので好ましい。
【0031】
3GTとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。3GTは、90モル%以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなることが好ましい。ただし、10モル%以下の割合で他の共重合成分を含むものであってもよい。共重合可能な化合物としては、例えばイソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、必要に応じて、艶消し剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカ微粒子やアルミナ微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0032】
また、PETとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。PETは、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなることが好ましい。3GTと同様に、前記のような共重合成分を含むものであってもよいし、艶消し剤等の添加剤を添加してもよい。また、PBTとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、ブチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。PBTは、90%モル以上がブチレンテレフタレートの繰り返し単位からなることが好ましい。やはり3GTと同様に、前記のような共重合成分を含むものであってもよいし、艶消し剤等の添加剤を添加してもよい。
【0033】
本発明のポリエステル繊維は、3GTを含むことが、ソフト性や伸長回復率の観点から好ましい。3GTのみからなる繊維(3GT単独繊維と称することがある)であってもよいし、3GTに加えて、PETおよびPBTから選ばれたポリマを含む繊維であってもよい。PETやPBTを含む場合、複数の成分をブレンドして製糸した、いわゆるブレンド繊維でもよいし、複数の成分を芯鞘型やサイドバイサイド型に複合した、いわゆる複合繊維であってもよい。3GTに、PETあるいはPBTをブレンドもしくは複合することにより、ソフト性や伸長回復率が良好であるなどの3GTの特性を活かしつつ、熱セット性が悪いなどの3GTの短所を補うことができる。より好ましくは、同心円型芯鞘複合繊維(単に芯鞘繊維と称することがある)が挙げられる。芯成分としてPETおよびPBTから選ばれたポリマ、鞘成分として3GTを用いた芯鞘繊維が好ましく、芯成分としてPET、鞘成分として3GTを用いた芯鞘繊維が最も好ましい。この場合、3GTの極限粘度が0.8〜1.2、PETの極限粘度が0.4〜0.6であると3GTの特性を活かし、かつ、3GTの短所を補うポリエステル繊維となるので好ましい。PETの極限粘度がこれより高いと、PETの特性が強くなりすぎて、3GTのソフト性や伸長回復率が活かされないので好ましくない。なお、芯成分としてPBTを用いた場合は、PBTの極限粘度が0.5〜0.9であることが好ましい。
【0034】
本発明のポリエステル繊維は、織編物に好適である。本発明の繊維を用いることにより、繰り返しの荷重に強く、表面のソフト性および均一性に優れ、かつ、凹凸やカールのない織編物を得ることができる。本発明のポリエステル繊維から得られた織編物は、繰り返しの荷重に対する耐性が強いので、人体荷重のかかるカーシートに好適に用いられる。なお、カーシートにおいては、高級感を付与するため、起毛処理を実施することがある。本発明のポリエステル繊維は、初期引張抵抗が低いため、得られた布帛を起毛した際に、ソフト感に優れている。なお、起毛することで布帛の表と裏とで表面状態が異なるため、カール等の問題が起こりやすくなる。しかし、本発明のポリエステル繊維は、160℃乾熱処理後の放縮率が低いため、起毛処理を実施してもカール等の発生を抑えることができる。その意味でも本発明のポリエステル繊維およびそれから得られる布帛は、自動車業界から最も望まれていた繊維および布帛である。
【0035】
本発明のポリエステル繊維から織編物を得る場合、織編物が本発明のポリエステル繊維のみからなり、他の繊維を含まないと、本発明のポリエステル繊維の特性を最大限に発揮することができるので好ましい。しかし、本発明の効果を損ねないない範囲で、他のポリエステル繊維や天然繊維との複合加工、撚糸などを行ってもかまわない。
【0036】
本発明のポリエステル繊維は、紙管等に巻き取られて、図5に示すようなチーズ状パッケージとして供給される。該チーズ状パッケージの形状は、バルジが−5〜10%、かつ、サドルが0〜10%であることが好ましい。図5に示すように、パッケージの最大径(Dmax)、最小径(Dmin)、最大幅(Wmax)、および、最小幅(Wmin)を測定し、下式により、サドルおよびバルジを算出する。
サドル(%)={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100
バルジ(%)={(Wmax−Wmin)/Wmin}×100
サドルやバルジが大きいと、パッケージにおける繊維の硬さにムラが発生する。特に、サドルが大きい場合、最大径の部分では繊維が硬く、逆に、最小径の部分では繊維が柔らかくなりやすい。繊維の硬さにムラがあると、それを用いて布帛を得る際に、布帛の均一性が損なわれ、布帛表面の品位が低下する。サドルおよびバルジが上記の範囲であると、パッケージでの繊維のムラが抑制され、このために発生する布帛表面の品位低下を抑制することができる。バルジのより好ましい範囲は0〜8%、サドルのより好ましい範囲は0〜8%である。
【0037】
サドルおよびバルジを好ましい範囲とするためには、巻取り時の張力を適切な範囲にすることにより、巻取り直後のパッケージ形状を良好にすることに加えて、巻取り後の経時によるパッケージ形状の変化を小さくすることが重要である。特に、3GTを含む繊維の場合は、前記のように、経時による収縮を起こしやすいので、パッケージ形状が悪くなりやすかった。本発明のポリエステル繊維は、巻取り後の経時による収縮が小さいので、巻取り後のパッケージ形状の変化を小さくすることができ、上記の好ましいパッケージ形状を達成できる。
【0038】
次に本発明のポリエステル繊維の好ましい製造方法について記述する。
【0039】
本発明のポリエステル繊維を製造する方法の好ましい態様の一つは、ポリトリメチレンテレフタレートポリマを溶融する工程、口金面深度20〜90mmの口金から吐出する工程、吐出されたポリマを、紡糸速度4500〜7000m/分で引き取る工程、および、引き取られた繊維を、延伸せず、120〜180℃にて熱処理する工程を含むポリエステル繊維の製造方法である。この態様においては、3GT単独繊維が得られる。
【0040】
3GT単独繊維の場合、3GTポリマの極限粘度は、0.8〜1.2が好ましい。また、3GTポリマは、せん断速度1216sec−1時の溶融粘度が1000〜2000poiseとなるように溶融することが好ましい。極限粘度が0.8以上であると、3GTの収縮特性やソフト性が良好であるため好ましい。また、極限粘度が1.2以下であれば、得られる繊維の収縮が高くなりすぎず、紡糸も容易となるため好ましい。
【0041】
ポリマの溶融は、エクストルーダーやプレッシャーメルターを用いる方法が一般的であるが、溶融粘度を確保するためには、効率の良いエクストルーダーを用いる方法が好ましい。その後、図1に示すように、溶融したポリマ1は、公知の方法で計量され、配管2を通って、口金4より吐出される。配管に入ってから口金吐出までのポリマ滞留時間が長いとポリマ劣化が起こり、溶融粘度が低下する。特に、3GTポリマは、滞留によりポリマ劣化を起こしやすいので、配管に入ってから口金吐出までの滞留時間は20分以下とすることが好ましい。また、紡糸温度によっても粘度低下が起こるため、紡糸温度は275℃以下で行うことが好ましい。また、3GTポリマを十分溶融するために、紡糸温度は240℃以上であることが好ましい。
【0042】
次に口金4から吐出されたポリマ7は、冷却され、固化し、繊維となる。冷却固化完了点に影響を与える口金面深度6については、20〜90mmが好ましい。本発明でいう口金面深度は、口金面から保温体5の下面までの距離である。一般的に口金面深度は、深いほど徐冷効果により、繊維の強度が向上する。しかし、本発明では口金面深度をあえて浅くし、口金から吐出された溶融ポリマをできるだけすばやく冷却固化させることによって、繊維の収縮を抑え、さらには熱セット性を向上させることができる。また、3GTの場合では、加熱時に収縮応力のかかり始める温度を上へシフトすることができ、得られる布帛の表面品位を高めることができる。口金面深度100mmでは、この効果を見出すことはできない。繊維は冷却固化後、給油装置の位置で集束されるが、集束距離(口金面から給油装置までの距離)は、短くすることが好ましい。口金面深度を浅くする分、集束距離を短くし、紡糸張力を低くすることが熱セット性を向上させるうえで最も好ましい。具体的には集束距離は1000〜1700mmとすることが好ましい。
【0043】
口金面深度は浅ければ浅いほど好ましく、より好ましい範囲は20〜80mm、さらに好ましくは20〜60mmである。ただし、浅くすることで口金面が冷えてしまい、繊維の強度が低くなってしまう弊害が出る。このため、口金下の保温体5は紡糸温度とは独立して温度制御することが好ましい。すなわち、保温体5の温度を口金ヒーターを用いて、紡糸温度よりも高い温度とすることにより口金面温度低下を回避できる。具体的には、保温体5の温度を紡糸温度よりも10〜30℃高い温度設定とし、(口金面温度)>(紡糸温度−10℃)の関係を保つことが低強度繊維を発生させない観点で好ましい(図1参照)。
【0044】
さらに、本発明においては、紡糸速度を4500〜7000m/分と高速にし、その後、引き取られた繊維を、延伸せず、120〜180℃の高温で熱処理することで、繊維の収縮特性や熱セット性が飛躍的に改善されることを見出した。
【0045】
この高速の紡糸速度と浅い面深度の組み合わせが重要であり、紡糸張力により繊維を十分配向させることにより、その後の延伸が不要となる。紡糸速度は、4500〜7000m/分が好ましく、より好ましくは5000〜7000m/分である。
【0046】
紡糸された繊維は延伸されずに、熱処理される。延伸を行わず、熱による結晶化を促進させることで、繊維の熱セット性が向上する。熱処理にはスチーム等の非接触式熱処理とローラーやプレートによる接触式熱処理のいずれも用いることができるが、熱効率の観点から、接触式熱処理が好ましい。擦過による繊維のダメージの回避のためには、ローラーによる熱処理がより好ましい。熱処理温度は120〜180℃が好ましいが、熱結晶化を促進させため、140〜180℃がより好ましい範囲といえる。また、熱処理時間を20×10−3〜100×10−3秒間とすることが熱結晶化の促進の観点から好ましい範囲である。
【0047】
また、熱セット性をさらに向上させるためには、熱処理を緊張状態で行うことが効果的である。具体的には熱処理ローラーをテーパロールとし、ロール入口速度よりもロール出口速度を高く設定することにより、緊張状態で熱処理を行うことが可能である。このほか、ロールを複数配置し、ローラー間に加熱プレート22を設置し、ローラー速度を調整することで緊張熱処理が可能となる(図3参照)。
【0048】
本発明のポリエステル繊維を製造する方法の好ましい他の態様は、極限粘度0.8〜1.2のポリトリメチレンテレフタレートを溶融する工程、極限粘度0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート、または極限粘度0.5〜0.9のポリブチレンテレフタレートを溶融する工程、2つの溶融ポリマを口金にて合流させる工程、合流したポリマを口金面深度20〜90mmの口金から吐出する工程、吐出されたポリマを紡糸速度1400〜3500m/分で引き取る工程、および、引き取られた繊維を、延伸した後、120〜180℃にて熱処理する工程を含むポリエステル繊維の製造方法である。この方法であると、紡糸速度を上げずに好ましい収縮特性を有する繊維を得ることができる。
【0049】
この態様においては、3GTと、PETもしくはPBTとの複合繊維もしくはブレンド繊維が得られる。2つの溶融ポリマを口金にて合流させる工程および合流したポリマを口金から吐出する工程において、例えば、芯鞘型口金のような複合紡糸用の口金を用いると、複合繊維が得られる。一方、2つの溶融ポリマを口金にて合流させる工程および合流したポリマを口金から吐出する工程において、例えば、スタティックミキサーのような、混合機を用いて、ポリマを混合した後、口金から吐出すると、ブレンド繊維が得られる。
【0050】
これらの場合、3GTポリマは前述同様、極限粘度0.8〜1.2のポリマを選択し、せん断速度1216sec−1時の溶融粘度を1000〜2000poiseとすることが好ましい。一方、PETポリマは、極限粘度0.4〜0.6のポリマを選択し、せん断速度1216sec−1時の溶融粘度を300〜900poiseにすることが好ましい。また、PBTポリマの場合は、極限粘度0.5〜0.9のポリマを選択し、せん断速度1216sec−1時の溶融粘度を300〜900poiseにすることが好ましい。3GTポリマについては、前記のように滞留時間を20分以内とすることが好ましく、紡糸温度についてもできるだけ低い温度とすることが好ましい。
【0051】
芯鞘繊維とする場合、3GTポリマとその他のポリマとの複合比は、3GTポリマの比率が繊維中の70〜90質量%が好ましい。ブレンド繊維とする場合は、3GTポリマとその他のポリマとのブレンド比は、3GTポリマの比率が繊維中の60〜80質量%が好ましい。この比率とすることで3GTの長所を損なうことなく、熱セット性を向上することが容易となる。
【0052】
3GTポリマとPETポリマとを用いる場合は、3GTの融点227℃に対し、PETの融点は30℃ほど高いため、紡糸温度の設定は難しいが、265〜275℃の紡糸温度が好ましい。3GTポリマとPBTポリマとを用いる場合は、PBTの融点は3GTと大きく変わらないため、3GT単独繊維と同じ条件に設定するのが良い。
【0053】
ここで、PETやPBTの溶融粘度を3GTよりも低くすることは重要である。PETやPBTの溶融粘度を3GTの溶融粘度よりも低くすることで、3GT繊維の重要な特性である初期引張抵抗度と20%伸長後の伸長回復率を活かした上で、3GT繊維の欠点である160℃乾熱処理後の放縮率を抑えることができる。すなわち、この条件の下に製造された複合繊維もしくはブレンド繊維は、初期引張抵抗度と20%伸長後の伸長回復率については、3GTポリマの性質が優位となり、一方、160℃乾熱処理後の放縮率については、PETポリマもしくはPBTポリマの性質が優位となることを見いだした。PETポリマもしくはPBTポリマのより好ましい溶融粘度の範囲は400〜800poiseである。この溶融粘度の範囲とするために、PETポリマの極限粘度は0.4〜0.6の範囲が好ましく、PBTポリマの極限粘度は0.5〜0.9の範囲が好ましい。
【0054】
複合繊維もしくはブレンド繊維の場合は、ポリマの組み合わせにより繊維の特性を調節できるので、3GT単独繊維の場合とは異なり、吐出したポリマを通用の紡糸条件で引き取った後、延伸を用いる通用の製造方法を採用することができる。前述の3GT単独繊維の場合、製造条件が通用の製造条件とは非常に異なるため、通用の製造設備では対応が困難となる場合がある。複合繊維もしくはブレンド繊維においては、通用の製造設備を用いて、熱セット性の優れた繊維を得ることができるので好ましい。さらには3GTの耐光堅牢性の悪さを補うことができるため、複合繊維もしくはブレンド繊維とすることは好ましい。
【0055】
前記と同様に、収縮特性と熱セット性を向上させるため、口金面深度は20〜90mmが好ましく、より好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは20〜60mmである。さらに集束距離は1000〜1700mmとし、単独繊維と同様に紡糸張力を低くすることが、熱セット性を向上させるうえで最も好ましい。
【0056】
紡糸速度は1400〜3500m/分が好ましい。この範囲内が安定した製糸と適度な強度を得ることができる。
【0057】
紡糸引取り後、引き続き、延伸する。延伸は強度と伸度のバランスにより適宜倍率を設定するのが良く、伸度が25〜60%となるように設定することが好ましい。そのためには、延伸倍率は、1.2〜4.5倍の範囲で設定することが好ましい。延伸前に繊維を予熱することが好ましい。延伸後、120〜180℃にて熱処理を行う。熱処理時間は20×10−3〜100×10−3秒間とすることが好ましい。この熱処理により、繊維の結晶化が促進され、収縮特性と熱セット性が向上される。
【0058】
より好ましい工程として、熱処理後、数個のローラーを介し、繊維の冷却時間を熱処理時間以上になるように確保するとともに張力を調整し、巻き取ることが挙げられる(図4参照)。このようにすることで、パッケージの形状を良好に保ち易くなるため好ましい。
【0059】
その他、3GT単独繊維、ブレンド繊維および複合繊維に共通して、公知の方法で、ローラーにて引き取る前に、および/または、巻取り前に油剤を付与しても良い。また、交絡数を上げるために、交絡を複数回行うことも可能である。
【0060】
さらには、本発明のポリエステル繊維を織編物として使用するにあたり、伸縮性を付与するために仮撚を行ってもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて具体的に説明する。なお、実施例の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)極限粘度
極限粘度[η]は、溶媒として、オルソクロロフェノールを用い、30℃で粘度を測定し、次の定義式に基づいて求められる値である。ここで、Cは溶液の濃度、ηrは相対粘度(溶媒の粘度に対する、ある濃度Cにおける溶液の粘度の比率)である。
【0062】
【数1】

【0063】
(2)溶融粘度
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下においてせん断速度1216sec−1での測定を3回行い、平均値を溶融粘度(poise)とした。なお、測定温度は、各実施例および比較例での紡糸温度と同一の温度とし、かつ、各実施例および比較例におけるポリマ滞留時間と同一の時間保持したのち溶融粘度を測定した。すなわち、実施例1における3GTの溶融粘度は、キャピログラフ1Bにて温度270℃、15分間保持した後、せん断速度1216sec−1にて測定した値である。
(3)強度、伸度、初期引張抵抗度、20%伸長後の伸長回復率
JIS L1013(1999)に従い測定した。強度および伸度は、JIS L1013(1999)8.5項「引張強さおよび伸び率」に従って、つかみ間隔20cm、引張速度50%/分で測定した。初期引張抵抗度は、JIS L1013(1999)8.10項に従って、つかみ間隔20cm、引張速度50%/分で測定した。また、20%伸長後の伸長回復率はJIS L1013(1999)8.9項伸長弾性率A法に従い、つかみ間隔20cm、引張速度50%/分とし、サンプルを20%まで伸長させたときの弾性率を求めた。
(4)160℃乾熱処理後の放縮率
繊維を1m×10回のかせ取りする。かせに、9.1×10−3cN/dtexの荷重を掛け、カセ長を測定する(L0)。次に、9.1×10−3cN/dtexの荷重下で160℃、15分の乾熱処理を行い、乾熱処理直後(30秒以内)、かせ長を測定する(L1)。さらに、荷重を4.6×10−3cN/dtexに換え、20℃で30分放置した後、かせ長を測定する(L2)。下記の式で、160℃乾熱処理後の放縮率を算出する。
(160℃乾熱処理後の放縮率)=(L1−L2)/L0
(5)沸騰水収縮率
繊維を1m×10回のかせ取りする。かせに、0.029cN/dtexの荷重を掛け、カセ長を測定する(L’0)。次に、かせを無荷重の状態で100℃の沸騰水にて15分間処理し、風乾後、0.029cN/dtexの荷重を掛けたときのかせ長を測定する(L’1)。下記の式で、沸騰水収縮率を算出する。
沸騰水収縮率(%)={(L’0−L’1)/L’0}×100
(6)160℃乾熱収縮率
繊維を1m×10回のかせ取りする。かせに、0.029cN/dtexの荷重を掛け、カセ長を測定する(L”0)。次に、かせを無荷重の状態で160℃のオーブンにて15分間処理し、風冷後、0.029cN/dtexの荷重を掛けたときのかせ長を測定する(L”1)。下記の式で、160℃乾熱収縮率を算出する。
160℃乾熱収縮率(%)={(L”0−L”1)/L”0}×100
(7)収縮応力ピーク温度、ピーク値、0.5cN/dtex応力時の温度
200mmの試料を結んで環状にし、鐘紡エンジニアリング社製KE−2を用い、初期荷重0.044cN/dtex、初期温度30℃、昇温速度100℃/分にて収縮応力を測定し、収縮応力が最大になる温度(ピーク温度)、および、その時の収縮応力の値(ピーク値)を求めた。また、横軸に温度、縦軸に収縮応力値にしてグラフ化し、0.5cN/dtex応力時の温度を求めた。
(8)サドル、バルジ
各実施例および比較例において、繊維を巻取るに際して、直径134mmの紙管に巻取り幅114mmにて巻取り、8kgのパッケージ(巻径約340mm)を得た。得られたパッケージを、25℃60%RHの雰囲気下で168時間(7日間)放置後、パッケージの形状を測定した。図5に示すように、パッケージの最大径(Dmax)、最小径(Dmin)、最大幅(Wmax)、および、最小幅(Wmin)を測定し、下式により、サドルおよびバルジを算出した。
サドル(%)={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100
バルジ(%)={(Wmax−Wmin)/Wmin}×100
(9)布帛品位、布帛スムース感、耐光堅牢性、耐用性、総合評価
(i)評価用起毛編物の作成
フロント糸、バック糸とも、各実施例および比較例により得られた繊維を用い、28Gにてトリコットハーフ組織の編物生機を作成した。得られた生機を95℃にて精錬し、140℃にてプリセット後、起毛処理を施した。その後、130℃にて染色を行い、ピンテンターを用い160℃にて仕上げセットを行い、起毛編物を得た。
(ii)布帛品位、布帛スムース感
得られた起毛編物を30cm角に切り取り、該編物1点について、経験年数3年以上の評価者3名の合議によって4段階の官能評価を行った。なお、合格レベルはB以上である。
【0064】
A :非常に優れている
B :優れている
C :従来品と比較して、効果に改善は見られるものの、大幅な改善ではない
D :従来品と変わらない
それぞれの評価の観点は以下の通りである。
布帛品位:布帛表面の凹凸および布帛のカールについて、目視により従来品(3GT繊維、比較例7)との比較評価を行った。布帛表面の凹凸および布帛のカールが小さいほど優れているとし、目視では布帛表面の凹凸、カールを確認できないものをA評価とした。
布帛スムース感:布帛の起毛のソフト性および均一性について、触感により従来品(PET繊維、比較例9)との比較評価を行った。ソフト性が高く、かつ、すべり感にムラがなく均一であるほど優れているとした。
(iii)耐光堅牢性
強エネルギー型キセノンフェードメーター(SC700−1FA:スガ試験機株式会社製)を用いた。起毛編物を、ウレタンシートに挟んで、ホルダに固定した。ホルダにガラスフィルタを装着して、ブラックパネル温度73℃×50%RH×3.8時間のキセノンランプ照射を行った。試験後のサンプルについて、JISL0804規定の変退色用グレースケールを用いて級判定を行った。なお、合格レベルはB以上である。
【0065】
A :4級以上
B :3.5級
C :3級
D :2.5級以下
(iv)耐用性
起毛編物を10cm角に切り取り、四隅のみ固定し中央部は浮かせた状態としておく。断面積4cm、300gの荷重を中央部に載せ、30秒間保持する。重りを取り除き、30秒間待つ。以上の荷重負荷および解放を合計5回繰り返した後、固定を解除し、平面上に載せた起毛編物について、前記(ii)項と同様、経験年数3年以上の評価者3名によって目視により従来品(PET繊維、比較例9)との比較評価を実施した。荷重による布帛のヘコミが少ないほど優れているとし、目視ではヘコミを確認できないものをA評価とした。
【0066】
A :非常に優れている
B :優れている
C :従来品と比較して、効果に改善は見られるものの、大幅な改善ではない
D :従来品と変わらない
(v)以上の布帛評価を行い、総合評価を実施した。どれか一つでもC以下の項目があるものは、総合評価Cとした。全ての項目についてB以上の場合で、Aの項目が3つ以上のものは、総合評価A、そうでないものは、総合評価Bとした。3段階にて評価を行い、B以上を合格とした。
【0067】
A :非常に優れている
B :優れている
C :従来品と比較して大幅な改善は見られない
実施例1〜3、比較例1〜3
芯鞘繊維にて実験を行った。用いるポリエステルは表1の通りとし、芯と鞘の比率を適宜変更して行った。実施例1は鞘成分として極限粘度1.1の3GTホモポリマを、芯成分として極限粘度0.51のPETホモポリマを使用し、紡糸温度270℃にて芯鞘繊維を紡糸した。この際、公知の芯鞘紡糸用口金を用い、口金にて芯鞘形状を形成させた。なお、配管に入ってから口金吐出までのポリマの滞留時間は、3GTは6分、PETは50分であった。この条件にて測定した溶融粘度は、3GTは1900poise、PETは480poiseであった。
【0068】
紡糸設備は図4の設備を用いた。口金面深度20mm、紡糸速度1600m/分にて紡糸した。口金27から吐出されたポリマは、冷却装置28にて冷却されて繊維となり、口金面から1500mmに設置された給油装置29において、集束された後、油剤を付与された。さらに繊維は、交絡装置30にて交絡付与された後、1600m/分の速度の第1ローラー31に巻き付けられた。第1ローラー31は55℃に加熱されていた。繊維を、第1ローラー31に7回巻き付けた後、速度が4200m/分である第2ローラー32へ引き回し、2.625倍の延伸を実施した。第2ローラー32は150℃に加熱されていた。繊維を第2ローラー32へ6回巻き付け、150℃、39×10−3秒間の熱処理を実施した。熱処理後、交絡装置33にて再度交絡を付与し、繊維の冷却および張力の調整のため、第3ローラー34および第4ローラー35を介し、コンタクトローラー36と巻取り機38にて、パッケージ37として3990m/分にて巻取りを実施し、84dtex48フィラメントのポリエステル繊維を得た。
【0069】
実施例2および比較例1〜2についてもポリマと芯と鞘の比率を変更した以外は実施例1と同様の条件にて製糸を行った。なお、実施例2での滞留時間は3GTは7分、PETは17分、比較例1での滞留時間は3GTは10分、PETは10分、比較例2での滞留時間は3GTは8分、PETは14分であった。
【0070】
実施例3では、芯成分として極限粘度0.78のPBTホモポリマを用い、84dtex48フィラメントの芯鞘繊維を得た。なお、滞留時間は3GTは7分、PBTは17分であった。実施例1と同一の条件にて製糸を実施した。
【0071】
比較例3では、極限粘度0.78のPBTホモポリマを鞘成分とし、極限粘度0.51のPETホモポリマを芯成分とした芯鞘繊維を得た。滞留時間はPBTは6分、PETは50分であった。実施例1と同一の条件にて製糸を実施した。
【0072】
製造条件および結果を表1に示した。実施例1〜3では、初期引張抵抗、20%伸長時の伸長回復率、および160℃乾熱処理後の放縮率が本発明の範囲を満たし、布帛評価においても良好な結果を得た。特に実施例2においては、最も初期引張抵抗、20%伸長時の伸長回復率、および160℃乾熱処理後の放縮率のバランスが良く、特に優秀な起毛編物が得られた。さらに耐光堅牢性の良好なPETやPBTを芯として複合しているため、芯鞘繊維全体として耐光堅牢性が向上した。
【0073】
一方、比較例1〜2ではPETの特性が色濃く出てくるために、放縮率は低いものの、3GTの特性である初期引張抵抗および20%伸長時の伸長回復率が影を潜めてしまっており、満足する布帛が得られなかった。また、比較例3では3GTの代わりにPBTを用いたが、初期引張抵抗度と伸長回復性が不十分であり、特に繰り返し荷重での評価である耐用性で大きく劣る布帛しか得られなかった。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例4〜6、比較例4
次に芯鞘繊維における紡糸速度と熱処理温度の影響について実験を実施した。紡糸速度、熱処理温度以外は実施例2と同一の条件にて行った。製造条件および結果を表2に示した。
【0076】
紡糸速度が本発明の範囲内である実施例4〜6においては、熱セット性とソフト性の両立が実現でき、また、伸長回復性も良好な布帛を得ることができた。一方、紡糸速度を1000m/分とした比較例4では160℃乾熱処理後の放縮率が1.6%と高くなったために、表面品位の劣る布帛しか得られなかった。
【0077】
【表2】

【0078】
実施例7〜10、比較例5〜6
次にブレンド繊維の実験を実施した。用いたポリエステルおよび口金での滞留時間は表3の通りであった。口金を変更し、二つのポリマをミキサーにより混錬したのち吐出させ、ブレンド繊維とした以外は実施例1と同様の温度条件および速度条件で、84dtex48フィラメントのブレンド繊維を得た。製造条件および結果を表3に示した。
【0079】
同一のポリマ混率であっても、ブレンド繊維は芯鞘繊維に比較し、3GTの特性が残ることが実施例1と比較例5との比較でわかる。比較例5では放縮率が高いため、布帛の凹凸が目立ち、実用に耐えなかった。また比較例6ではPETの混率を上げたため初期引張抵抗度と伸長回復率が悪化し、ソフト性と耐用性で劣る布帛しか得られなかった。
【0080】
これに対し実施例7〜10では3GTの特徴を活かしつつ、放縮率の低減に成功しており、優れた起毛編物を得ることができた。
【0081】
【表3】

【0082】
実施例11〜12、比較例7〜9
次に3GT単独繊維の実験を行った。実施例11では極限粘度1.1の3GTホモポリマを用い、250℃の紡糸温度にて紡糸を行った。口金での滞留時間は10分であった。口金面深度は20mmに設定し、図2の設備を用いて製糸を行った。まず、口金8から吐出されたポリマは、冷却装置9にて冷却され、給油装置10にて油剤を付与され、交絡装置11にて交絡付与された後、5000m/分の速度の第1ローラー12に巻き付けられた。第1ローラー12は非加熱であり、35℃の表面温度であった。第1ローラー12に7回巻き付けた後、速度が5000m/分である第2ローラー13へ引き回した。第2ローラー13は150℃に加熱されていた。繊維を第2ローラー13へ6回巻き付け、150℃、32×10−3秒間の熱処理を実施した。熱処理後、コンタクトロール14と巻取り機16にて、パッケージ15として4850m/分にて巻取りを実施し、84dtex48フィラメントのポリエステル繊維を得た。
【0083】
実施例12についても実施例11と同様に製糸を実施し、第1ローラー12および第2ローラー13の速度をそれぞれ6000m/分および5800m/分にして巻き取りを実施し、84dtex48フィラメントのポリエステル繊維を得た。
【0084】
比較例7では使用するポリマは実施例11と同様であるが、第1ローラー12を55℃に加熱し、かつ速度を3000m/分とし、4000m/分とした第2ローラー13との間で1.33倍の延伸を実施した。第2ローラー10にて150℃の熱処理を実施し、3800m/分にて巻取りを実施し、84dtex48フィラメントのポリエステル繊維を得た。
【0085】
比較例8は実施例11と同様に紡糸したが、第2ローラーを非加熱とした。
【0086】
比較例9は極限粘度0.65のPETホモポリマを用い、紡糸温度を290℃とし、かつ、第2ローラー13での熱処理は実施しなかった以外は実施例11と同様に実施した。
【0087】
製造条件および結果を表4に示す。実施例11〜12においては良好な布帛が得られた。それに対し、延伸を実施した比較例7では放縮率が高くなり、布帛品位が低下したことに加え、パッケージフォームも悪いものしか得られなかった。また、比較例8は特開2001−348729号公報の実施例に類似した条件で製糸を行ったが、放縮率の抑制が不十分であり、パッケージフォームも悪いものしか得られなかった。また、PETを用いた比較例9においては、ソフト性および耐用性に劣る布帛しか得られなかった。
【0088】
【表4】

【0089】
実施例13〜14、比較例10
口金面深度の影響について実験を行った。実施例2と同様のポリマを用い、紡糸温度、紡糸速度、その他温度条件等は実施例2と同様にし、口金面深度のみ実施例2の20mmから60mm、90mm、110mmと変化させ、得られた布帛の評価を実施した。結果を表5に示す。口金面深度が60mmである実施例13では実施例2と同様、優れた布帛を得ることができた。また、面深度を90mmとした実施例14でも十分優れた布帛を得ることができた。しかし、口金面深度を110mmとした比較例10においては、強度は向上が見られるものの、沸騰水収縮率および乾熱収縮率が高く、放縮率が1.6%となったため、布帛の凹凸が目立ち、耐光堅牢度も落ちる布帛しか得られなかった。
【0090】
実施例15、比較例11
また、実施例12と同様のポリマを用い、紡糸温度、紡糸速度、その他温度条件等も実施例12と同様にし、口金面深度のみ実施例12の20mmから90mm、110mmと変化させ、得られた布帛の評価を実施した。結果を表5に示す。口金面深度が90mmである実施例15では実施例11と同様の優れた布帛を得ることができた。しかし、口金面深度を110mmとした比較例11では、強度は向上が認められるものの、160℃乾熱処理後の放縮率が高く、満足する布帛は得られなかった。
【0091】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のポリエステル繊維は、織編物に好適である。本発明のポリエステル繊維を用いることにより、繰り返しの荷重に強く、表面のソフト性および均一性に優れ、かつ、凹凸やカールのない織編物を得ることができる。本発明のポリエステル繊維から得られた織編物は、繰り返しの荷重に対する耐性が強いので、人体荷重のかかるカーシートに好適に用いられる。なお、カーシートにおいては、高級感を付与するため、起毛処理を実施することがある。本発明のポリエステル繊維は、初期引張抵抗が低いため、得られた布帛を起毛した際に、ソフト感に優れている。なお、起毛することで布帛の表と裏とで表面状態が異なるため、カール等の問題が起こりやすくなる。しかし、本発明のポリエステル繊維は、160℃乾熱処理後の放縮率が低いため、起毛処理を実施してもカール等の発生を抑えることができる。その意味でも本発明のポリエステル繊維およびそれから得られる布帛は、自動車業界から最も望まれていた繊維および布帛である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】口金と口金面深度の関係を示す模式図である。
【図2】3GT単独繊維の好ましい製糸設備の一例を示す図である。
【図3】3GT単独繊維の好ましい製糸設備の一例を示す図である。
【図4】3GT芯鞘繊維、ブレンド繊維の好ましい製糸設備の一例を示す図である。
【図5】パッケージとパッケージフォームの指標であるバルジとサドルを説明する模式図である。
【符号の説明】
【0094】
1 ポリマ
2 配管
3 紡糸加熱体(紡糸温度)
4 口金
5 保温体
6 口金面深度
7 吐出されたポリマ
8 口金
9 冷却装置
10 給油装置
11 交絡装置
12 第1ローラー
13 第2ローラー
14 コンタクトローラー
15 パッケージ
16 巻取機
17 口金
18 冷却装置
19 給油装置
20 交絡装置
21 第1ローラー
22 加熱プレート
23 第2ローラー
24 コンタクトローラー
25 パッケージ
26 巻取機
27 口金
28 冷却装置
29 給油装置
30 交絡装置
31 第1ローラー
32 第2ローラー
33 交絡装置
34 第3ローラー
35 第4ローラー
36 コンタクトローラー
37 パッケージ
38 巻取機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期引張抵抗度が15〜38cN/dtex、20%伸長後の伸長回復率が70%以上、160℃乾熱処理後の放縮率が0.3%〜1.4%であるポリエステル繊維。
【請求項2】
沸騰水収縮率が4〜11%、160℃乾熱収縮率が4〜15%、かつ、収縮応力曲線における0.5cN/dtex応力時の温度が55〜80℃である請求項1記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
ポリトリメチレンテレフタレートを含む請求項1〜2のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項4】
ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選ばれたポリマをさらに含む請求項3に記載のポリエステル繊維。
【請求項5】
同心円型芯鞘複合繊維であり、鞘は極限粘度0.8〜1.2ポリトリメチレンテレフタレートからなり、芯は極限粘度0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレートからなる請求項3に記載のポリエステル繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの繊維からなる織編物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの繊維のみからなる織編物。
【請求項8】
請求項6〜7のいずれかに記載の織編物からなるカーシート。
【請求項9】
起毛処理を施した請求項8の記載のカーシート。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかの繊維が巻きつけられ、バルジが−5〜10%、かつ、サドルが0〜10%であるチーズ状パッケージ。
【請求項11】
請求項1に記載のポリエステル繊維を製造する方法であって、
ポリトリメチレンテレフタレートポリマを溶融する工程、
口金面深度20〜90mmの口金から吐出する工程、
吐出されたポリマを、紡糸速度4500〜7000m/分で引き取る工程、および、
引き取られた繊維を、延伸せず、120〜180℃にて熱処理する工程
を含むポリエステル繊維の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理が、緊張熱処理である請求項11に記載のポリエステル繊維の製造方法
【請求項13】
請求項4に記載のポリエステル繊維を製造する方法であって、
極限粘度0.8〜1.2のポリトリメチレンテレフタレートを溶融する工程、
極限粘度0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート、または極限粘度0.5〜0.9のポリブチレンテレフタレートを溶融する工程、
2つの溶融ポリマを口金にて合流させる工程、
合流したポリマを口金面深度20〜90mmの口金から吐出する工程、
吐出されたポリマを紡糸速度1400〜3500m/分で引き取る工程、および、
引き取られた繊維を、延伸した後、120〜180℃にて熱処理する工程
を含むポリエステル繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−69479(P2008−69479A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249202(P2006−249202)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】