説明

ポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品

【課題】 ソフトでしなやかな風合を有し、発色性、同色性が良好で、染色バッチごとの色のバラツキが少なく、色の再現性の高い染色物が得られ、染色堅牢度性能に優れたポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品を提供する。
【解決手段】 ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜6重量%共重合したポリエステルで、90重量%以上がエチレンテレフタレート繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートからなり、単糸デシテックスが1.4以下で、測定周波数110Hzにおける力学的損失正接(tanδ)が最大を示す温度(Tmax)が85℃以上105℃以下であるポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品に関するものである。さらに詳しくは、従来にない格段にソフトでしなやかな風合を有し、染色における色の再現性、堅牢度性能が良好なポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用布帛の染色製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より合成繊維の一つであるナイロン繊維は、高強度、耐摩耗性、ソフト性、染色性などの優れた特徴を持っており、パンティストッキング、タイツ等のレッグウエア、ランジェリー、ファンデーション等のインナーウエア、スポーツウエア等の衣料用途に好まれて用いられている。特にインナーウエアにおいては、ナイロン繊維の特徴である強さ、しなやかさ、ドレープ性や表面の独特のヌメリ感、なめらかなタッチが好まれ、女性用のランジェリーやファンデーションとして広く用いられている。
しかしながらポリアミド繊維においては、貯蔵中に黄変しやすい、耐光堅牢度性能が低い、熱セット性、寸法安定性が欠如しているなどの欠点がある。
【0003】
このためこれら欠点がないポリエステル繊維に置き換えるべく、商品開発が進められてきたがポリエステル繊維の場合、ナイロン繊維ほどのソフトでしなやかな風合が得られないという問題があった。このため単糸デシテックスを細くするファイン化やアルカリ減量加工等が行われたが、この場合、ソフトな風合は得られるもののくたくた感が強く適度なドレープ性がなくかつ色のさえも悪く、見栄えの悪い商品価値の低いものであった。またシリコーン系加工剤に代表されるような風合加工剤による後加工やグラフト重合による表面改質方法も検討されてきたが、風合の洗濯耐久性に劣ったり、べたつき感のあるいやらしい風合であったりと満足のいく風合は得られていない。しかも表面改質であることからポリエステル繊維独特の芯の硬さは解消できず、なめらかな風合が得られないばかりか染色堅牢度を低下させるという問題があった。
【0004】
繊維内部の改質として、ポリオキシエチレングリコールに代表されるポリオキシアルキレングリコールを共重合した高速紡糸法によるポリエステル繊維の製造方法が特許文献1に、紡速7000m/分以上の高速紡糸により繊維内部構造を変えた易染性ポリエステル繊維が特許文献2に開示されている。これら高速紡糸法によるポリエステル繊維は、従来のポリエステル繊維に比べ風合はソフトになっているものの芯の硬さは残り、ナイロン繊維独特のヌメリ感のある風合は得られておらず、着用時の肌さわり感に劣り、ナイロン繊維並にはいたっていない。さらにマルチタイプのポリエステル繊維を用いた場合、ハイマルチになるにつれソフトな風合は得やすくなるものの発色性の低下が大きい問題がある。
【0005】
特にインナー分野においては、ソフトな風合、しなやかさに加え表面の独特のヌメリ感は根強い人気があり、ポリエステル繊維においては、この風合は達成されていないのが現状である。
【特許文献1】特公昭60−15725号公報
【特許文献2】特公平4−33887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、改質されたポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維を混用することにより、同色性が良好で、染色における色の再現性、染色堅牢度性能が高く、ソフトでしなやかな風合を有し、従来のポリエステル繊維では得られなかったナイロンに近いヌメリ感を有する風合に優れたポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はポリトリメチレンテレフタレート系繊維に混用するポリエステル繊維について鋭意研究を行った結果、ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜6重量%共重合したポリエステルを5000m/分以上の巻き取り速度で紡糸したポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維を混用した布帛が上記課題を解決することを見出し、更に検討した結果、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)ポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品であって、ポリエステル繊維がポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜6重量%共重合したポリエステルで、90重量%以上がエチレンテレフタレート繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートからなり、単糸デシテックスが1.4以下で、測定周波数110Hzにおける力学的損失正接(tanδ)が最大を示す温度(Tmax)が85℃以上105℃以下であることを特徴とするポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品。
【0009】
(2)ポリエステル繊維が、繊度変動値U%が1.0%以下で且つ、繊度変動周波数解析による10〜80mの周期における変動係数CV値の最大値が0.3%以下(但し、繊度変動値U%の測定は、糸長500mに渡り測定する)であることを特徴とする上記(1)記載のポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品。
(3)JIS−L−0844 A−2法における洗濯堅牢度が3級以上であって、JIS−L−0848法における汗アルカリ堅牢度が3級以上であることを特徴とする上記
(1)または(2)記載のポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品。
【発明の効果】
【0010】
ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜6重量%共重合した単糸デシテックスが1.4以下のポリエステルを5000m/分以上の巻き取り速度で紡糸した易染性ポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維を混用することで同色性が良好で、染色における色の再現性や染色堅牢度が高く、従来にない格段にソフトでしなやかなであるとともにナイロンに近いヌメリ感のある風合を有する混用染色品が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について、以下に詳細に説明する。
本発明は、ポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品において、ポリエステル繊維が、ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜6重量%共重合したポリエステルで、90重量%以上がエチレンテレフタレート繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とする。
本発明に用いられるポリエステル繊維における共重合成分であるポリエチレングリコールは、ポリエステル繊維の非晶構造に適当な乱れを起こし、染色性の向上に寄与するものである。
【0012】
ポリエチレングリコールの分子量が300未満のものは、易染効果が不十分で常圧可染性を達成するためには6重量%以上の共重合量が必要となり、ポリマー色調が悪化するため好ましくない。また、ポリエチレンテレフタレートは真空下での重合のため分子量が300未満のポリエチレングリコールの場合、一部がプロダクト系外に飛散する恐れがあり、ポリマー組成が不安定となる。一方、ポリエチレングリコールの分子量が2000を越えた場合、ブロック共重合にともない超高分子成分が増大し、染色堅牢度、耐光性の低下が顕在化するため好ましくない。
【0013】
また、ポリエチレングリコールの共重合量が3重量%未満の場合には、常圧での染色性が不十分であり、常圧可染性は得られない。一方、6重量%を越える場合には、常圧での染色性は十分であるが、ポリマー色調が悪化し、5000m/分以上の巻き取り速度においては、糸切れや毛羽の発生が多くなり、紡糸安定生産が困難となる。特に、繊度が細い領域では、この問題が顕著である。さらに、製糸されたフィラメントは耐光堅牢度、染色堅牢度が悪化し好ましくない。
【0014】
本発明におけるポリエステル繊維は、超高速紡糸法を用いるため、従来法によるポリエステル繊維に比べソフトな風合を有しており、更にポリエチレングリコールを共重合することで結晶化が抑制され、更にソフトな風合であり、繊度を細くすることで、更に一段とソフト感を増すことができる。本発明が求める従来にない格段にソフトでナイロンに近いしなやかな風合を有した混用品を得るには、ポリエステル繊維の単糸デシテックスが1.4以下とする必要がある。単糸デシテックスが1.4を越えると他素材が有する独特の風合を損ないポリエステル繊維の硬質な風合が強調されることとなる。好ましくは1.2以下である。
【0015】
本発明におけるポリエステル繊維は、動的粘弾性測定から求められる損失正接のピーク温度(以下、Tmaxと称す)が85℃以上105℃以下であることが必要である。これは、この範囲で本発明が求める従来にない格段にソフトでしなやかな風合が確保できるばかりか、染色性が高まり、単糸デシテックスが小さくなっても発色性が高いため、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維との同色性、染色バッチごとの色の再現性、染色堅牢度が良好となる。Tmaxは、非晶部の分子の移動性に対応するので、この値が小さくなるほど染料が非晶部に入りやすくなり、すなわち染色性が高くなるといえる。
本発明におけるポリエステル繊維は、Tmaxが105℃を越えると染色改善効果が少なく、より高い温度での染色が必要となり混用染色品の風合を損なう問題が発生しやすくなるとともに同色性が得にくくなるので好ましくない。しかしTmaxが低すぎると力学物性、耐熱性の低下等の問題が出てくる。Tmaxの特に好ましい範囲は90℃以上100℃以下である。
【0016】
また、Tmaxほど重要な条件ではないが、Tmaxにおける損失正接の値(以下、tanδmaxと称す)は0.13〜0.22程度が好ましい。損失正接の値は非晶量に対応しており、この範囲から外れると本発明で得られる風合の悪化や染色性、染色堅牢度が悪化するばかりか色の再現性が悪くなる惧れがある。
一般に、繊維の繊度を細くして布帛化した場合、布帛の染色性が淡色化する傾向にあるが、本発明では、高速紡糸化及びポリエチレングリコールの共重合化により、染色性を改善したポリエステル繊維を用いるため、繊度を細くしても、十分な染色性が得られるという特徴を有している。
【0017】
次に本発明にけるポリエステル繊維の製造法について述べる。
本発明でいうポリエステル繊維とは構成単位の少なくとも90%以上がエチレンテレフタレートであり、前記のポリエチレングリコール成分以外にも5モル%以下の他の成分を共重合していてもよい。例えば、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、ホウ酸等の鎖分岐剤を小割合重合したものであってもよい。
また、前記共重合成分の他に通常のエステル交換触媒、重合触媒、リン化合物、二酸化チタン等の艶消し剤、着色防止剤、酸化分解防止剤、消泡剤、ケイ光増白剤、顔料などを必要に応じて含有させてもよい。
【0018】
本発明におけるポリエステル繊維を構成するポリマーの重合方法は、公知の方法を採用することができる。すなわち、ポリエチレングリコールはテレフタル酸、エチレングリコール等と反応させてもよく、あるいはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換反応を行った後に反応させてもよく、ポリエステルの重合反応が完了する任意の段階で添加してもよい。また、現在工業生産が行われているバッチ重合法、連続重合法のいずれも適用できる。
【0019】
本発明におけるポリエステル繊維は、5000m/分以上の巻き取り速度である高速紡糸法によって得ることができる。一方、当該共重合ポリエステルを通常法や直延法を用いて繊維化しても、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維と混用したときの風合として従来にない格段にソフトでしなやかでナイロンに近いヌメリ感を有する風合を得ることは困難である。また染色バッチごとの色の再現性も不良となる。これは高速紡糸で得た繊維の非晶部分の配向が通常法や直延法で得た繊維のそれよりもはるかに小さいことに起因する。特に、本発明で用いるポリマーは非晶部分に適度に分子鎖の長いポリエチレングリコールを有するので、非晶部の配向が一層低下し、染色性が向上するばかりかソフトでしなやかな風合がいっそう助長され、しかも力学物性に優れた画期的な繊維となる。
【0020】
本発明において従来にない格段にソフトでしなやかな風合を付与するため単糸デシテックスを1.4以下とし、高速紡糸法において製糸した場合、繊度斑による染め斑が顕在化することが明らかとなった。この事態を回避するため発明者らは鋭意研究を重ねた結果、単糸デシテックスが1.4以下で、5000m/分以上の高速紡糸法において図1、2に示す、紡孔芯間距離が8mm以上である紡口を使用することで紡糸が安定化し、繊度変動が減少し、染め斑が回避されることを見い出した。
【0021】
紡孔芯間距離が8mm未満の場合、繊維長手方向の繊度変動値U%が1.0%以上となり、繊度の変動が大きくなる。更に、その変動を周波数解析すると、繊度変動周波数解析による10〜50m周期変動係数が大きくなり、その最大値であるCV値が0.3%を越え、一口編地による均染性の評価を行なうと、筋状の染め斑が顕在化し、高品質の易染性ポリエステルが得られない。さらに芯間距離が8mm未満の場合、超高速紡糸に特有に生ずるネッキング延伸に伴う随伴気流の影響が大きく、糸揺れにより繊度斑となる。
【0022】
本発明におけるポリエステル繊維のU%及びその周波数解析チャートを図4に示す。これにより、繊維繊度の長手方向の変動が極めて少なく、繊維の長手方向に伴う特異な周波数変動は無く、CV値は0.3%以下と極めて小さい値であり、繊度が長手方向に非常に安定して均一であるといえる。
繊度斑をより小さくし、より安定化するためには、紡口芯間距離10mm以上が好ましい。また、5000m以上の高速紡糸で円周冷却からなる冷却筒を付帯する紡糸設備を使用する場合の紡孔配列は1重円配列が好ましいが、芯間距離が8mm以下となる場合は多周円に紡孔を配列する必要があり、この際の内層部に位置する紡口芯間距離は外層紡孔の
随伴気流が付加されるため10mm以上、好ましくは12mm以上の芯間距離にすることが好ましい。一方、芯間距離が30mmを越える場合は、U%及び品位への改善効果が見られず、紡口サイズが巨大となり工業生産上実用的でない。
【0023】
一方、単糸デシテックスが1.4以下で、5000m/分以上の高速紡糸において、糸切れ、毛羽が多発する原因は定かではないが、本発明において、易染性を付与するためにポリエチレングリコールを共重合しており、耐熱性が通常のポリエチレンテレフタレートに対比して劣るため、重合工程および紡糸工程における粘度斑や触媒、添加剤の凝集物等が生じやすく、単糸デシテックスが1.4以下で、5000m/分以上の高速紡糸の場合、粘度変動や触媒、添加剤の凝集物等の影響を受けやすく、糸切れ、毛羽多発が顕在化したものと考えられる。
糸切れ、毛羽を防止するため、ポリマー重合段階および紡糸工程において異常滞留を極力防止するなど細心の注意を払う必要があるが、異常滞留部を完全に解消することは困難である。そこで、粘度変動や触媒、添加剤の凝集物の影響を回避するため鋭意検討の結果、ポリマーの紡口からの吐出線速度を20cm/秒以上、100cm/秒以下とすることで糸切れ、毛羽が解消される事を見出した。
【0024】
紡孔吐出線速度20cm/秒未満では糸切れ、毛羽が多発し易く、好ましくは40cm/秒以上が好ましい。紡孔吐出線速度が100cm/秒を越えると、メルトフラクチャーとなり易く、紡糸の不安定化、紡糸不能の原因となる。また、紡孔吐出線速度20cm/秒未満の場合、繊度変動周波数解析による30〜80mの長周期の変動CV値が0.3%を超える大きな値となり、一口編地による均染性評価を行なうとバンド状の染め斑が顕在
化し、高品位、高品質の易染性ポリエステル繊維が得られない。
本発明におけるポリエステル繊維は、例えば、図3に示す紡糸装置を用いて製造することができる。本発明に用いられる給糸用ノズルからなる収束ガイド、巻取装置、およびその他の溶融紡糸に必要な装置は、公知のものを使用してよい。また、本発明に用いる仕上油剤は、エマルジョンタイプ、ストレートタイプの何れでもよく、その成分は既知のものでよい。
【0025】
本発明のポリエステル繊維は、特に限定はしないが総繊度が10〜170デシテックスでの繊維が好ましく適用される。また繊維の形態は、長繊維でも短繊維でもよく、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよい。そして、繊維が加工される糸条の形態としては、リング紡績糸、オープンエンド紡績糸、エアジェット精紡糸等の紡績糸、甘撚糸〜強撚糸、仮撚加工糸(POYの延伸仮撚糸を含む)、空気噴射加工糸、押し込み加工糸、ニットデニット加工糸等が挙げられる。
本発明でいう混用品は、本発明の目的を損なわない範囲内でスパンデックス、綿、キュプラ、ビスコースレーヨン繊維、タンパク繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維等他の繊維を混紡(サイロスパンやサイロフィル等)、交絡混繊(高収縮糸との異収縮混繊糸等)、交撚、複合仮撚(伸度差仮撚等)、2フィード空気噴射加工等の混用の手段によるものであることができる。
【0026】
本発明において、混用されるポリトリメチレンテレフタレート系繊維とは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステル繊維をいい、トリメチレンテレフタレート単位を約50モル%以上好ましくは70モル%以上、さらには80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上のものをいう。従って、第三成分として他の酸成分及び/又はグリコール成分の合計量が、約50モル%以下好ましくは30モル%以下、さらには20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲で含有されたポリトリメチレンテレフタレートを包含する。
【0027】
ポリトリメチレンテレフタレート系繊維の好ましい特性としては、強度は2〜5cN
/dtex、好ましくは2.5〜4.5cN/dtex、さらには3〜4.5cN/dtexが好ましい。伸度は30〜60%、好ましくは35〜55%、さらには40〜55%が好ましい。弾性率は30cN/dtex以下、好ましくは10〜30cN/dtex、さらには12〜28cN/dtex、特に15〜25cN/dtexが好ましい。10%伸長時の弾性回復率は70%以上、好ましくは80%以上、さらには90%以上、最も好ましくは95%以上である。
ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその機能的誘導体と、トリメチレングリコール又はその機能的誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に結合せしめることにより合成される。
【0028】
この合成過程において、適当な一種又は二種以上の第三成分を添加して共重合ポリエステルとしてもよいし、又、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、ナイロンとポリトリメチレンテレフタレートを別個に合成した後、ブレンド(ブレンドする際のポリトリメチレンテレフタレートの含有率は、質量%で50%以上である)したり、複合紡糸(偏芯鞘芯、サイドバイサイド等)により少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートで構成される潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維としてもよい。
【0029】
複合紡糸に関しては、特公昭43−19108号公報、特開平11−189923号公報、特開2000−239927号公報、特開2000−256918号公報等に例示されるような、第一成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、第二成分がポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロンを並列的あるいは偏芯的に配置したサイドバイサイド型又は偏芯シースコア型に複合紡糸したものがあり、特にポリトリメチレンテレフタレートと共重合ポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせや、固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせが好ましく、特に、特開2000−239927号公報に例示されるような固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートを用い、低粘度側が高粘度側を包み込むように接合面形状が湾曲しているサイドバイサイド型に複合紡糸したものが、高度のストレッチ性と嵩高性を兼備するものであり特に好ましい。二種類のポリトリメチレンテレフタレートの固有粘度差は0.05〜0.4(dl/g)であることが好ましく、特に0.1〜0.35(dl/g)、さらに0.15〜0.35(dl/g)がよい。例えば高粘度側の固有粘度を0.7〜1.3(dl/g)から選択した場合には、低粘度側の固有粘度は0.5〜1.1(dl/g)から選択されるのが好ましい。尚、低粘度側の固有粘度は0.8(dl/g)以上が好ましく、特に0.85〜1.0(dl/g)、さらに0.9〜1.0(dl/g)がよい。
【0030】
また、この複合繊維自体の固有粘度即ち平均固有粘度は、0.7〜1.2(dl/g)がよく、0.8〜1.2(dl/g)がより好ましい。特に、85〜1.15(dl/g)が好ましく、さらに0.9〜1.1(dl/g)がよい。
なお、本発明でいう固有粘度の値は、使用するポリマーではなく、紡糸されている糸の粘度を指す。この理由は、ポリトリメチレンテレフタレート特有の欠点としてポリエチレンテレフタレート等と比較して熱分解が生じ易く、高い固有粘度のポリマーを使用しても熱分解によって固有粘度が著しく低下し、複合マルチフィラメントにおいては両者の固有粘度差を大きく維持することが困難であるためである。
二種のポリトリメチレンテレフタレート成分の複合比(一般的に質量%で70/30〜30/70の範囲内のものが多い)、接合面形状(直線又は曲線形状のものがある)は特に限定されない。又、総繊度は20〜300dtex、単糸繊度は0.5〜20dtexが好ましく用いられる。
【0031】
添加する第三成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジメタノール等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(P−オキシ安息香酸等)等がある。又、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も重合体が実質的に線状である範囲内で使用出来る。
【0032】
さらに二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
本発明においてポリトリメチレンテレフタレート繊維の紡糸については、1500m/分程度の巻取り速度で未延伸糸を得た後、2〜3.5倍程度で延撚する方法、紡糸−延撚工程を直結した直延法(スピンドロー法)、巻取り速度5000m/分以上の高速紡糸法(スピンテイクアップ法)の何れを採用しても良い。
【0033】
また、繊維の形態は、長繊維でも短繊維でもよく、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、断面においても丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平(偏平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
さらに糸条の形態としては、リング紡績糸、オープンエンド紡績糸、エアジェット精紡糸等の紡績糸、単糸デシテックスが0.1〜5デシテックス程度のマルチフィラメント原糸(極細糸を含む)、甘撚糸〜強撚糸、仮撚加工糸(POYの延伸仮撚糸を含む)、空気噴射加工糸、押し込み加工糸、ニットデニット加工糸等がある。
【0034】
本発明は、かかる易染性ポリエステル繊維(A)とポリトリメチレンテレフタレート系繊維(B)を混用するものであり、混用することで本発明でいう従来にない格段にソフトでしなやかであり、ナイロンに近いヌメリ感のある風合が得られる。好ましい両者の混用比率は(A/B;質量%)は、10〜90/90〜10であり、より好ましくは20〜80/80〜20、さらに30〜70/70〜30、特に40〜60/60〜40が最適である。
【0035】
本発明のポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品の形態は、糸条の形態であることも、布帛の形態であることもできる。糸条の形態の例としては、混紡(混綿、フリース混紡、スライバー混紡、コアヤーン、サイロスパン、サイロフィル、ホロースピンドル等)、交絡混繊(高収縮糸や異収縮混繊糸との混繊糸等)、交撚、意匠撚糸、カバリング(シングル、ダブル)、複合仮撚(同時仮撚、先撚仮撚)、伸度差仮撚、位相差、仮撚加工後に後混繊、2フィード(同時フィードやフィード差)空気噴射加工等による混用形態が挙げられる。一方、布帛の形態の例としては、一般的な交編があり、例えば交編では、両者を引き揃えて給糸したり、二重編地(例えばダブル丸編機、ダブル横編機、ダブルラッセル経編機)において表面及び又は裏面に各々給糸又は引き揃えて給糸する方法がある。交織では一方が経糸に他方を緯糸に用いる、経糸及び又は緯糸において両者を1〜3本交互に整経や緯入れにより配置する、さらには起毛織物やパイル織物において一方が地組織を構成し、他方が起毛部、パイル部を構成したり、混用して地組織、起毛部等を構成する、二重織物において表面及び又は裏面を各々構成、又は混用して構成する等がある。又、これら各種の糸段階での複合と機上での複合を組み合わせてもよい。
【0036】
尚、本発明の目的を損なわない範囲内で通常50重量%以下の範囲内で天然繊維、合成繊維等他の繊維例えば、綿、羊毛、麻、絹等の天然繊維、キュプラ、ビスコース、ポリノジック、精製セルロース、アセテート(ジ、トリ)、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等ポリアミド系繊維、アクリル系繊維等の各種人造繊維、さらにはこれらの共重合タイプや、同種又は異種ポリマー使いの複合繊維(サイドバイサイド型、偏芯鞘芯型等)等の他の繊維を混用してもよい。
【0037】
本発明のポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品は、編成、製織後、リラックス精練してから染色することが好ましい。精練は40℃〜120℃の温度で、好ましくは40℃〜98℃で徐々に温度を上げながらできるだけ布帛をリラックスさせた状態で行うことが布帛の伸縮回復性を高めるなどの理由から好ましい。なお、染色前に形態固定を行いたい場合は140〜195℃の温度で乾熱でプレセットを行えばよい。
【0038】
本発明のポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品を染色する際には、通常ポリエステル繊維が分散染料にて染色されている染色条件であればいずれでも適用でき、染色助剤の種類とその使用濃度、染色pH、染色浴比、染色時間等は被染色品の種類、用いられる処理装置、染色法を勘案して適宜設定すればよい。染色する際の染色温度は130℃以下が好ましく、特に98℃で染色する際には温度依存性が小さく、拡散指数3.0以上の分散染料を用いて染色することが同色性、染色バッチごとの色のバラツキが少なくなるなどの理由より好ましい。染色操作は、ウインス、ジッガー、ビーム染色機、液流染色機等の装置を用い、バッチ方式、連続方式のいずれによっても実施することができる。なお、浸染以外にパディング染色法、プリント法であっても実施することができる。染色後の後処理としては還元剤を用いた還元洗浄を実施する。
【0039】
還元剤としては、ハイドロサルファイトナトリウム、二酸化チオ尿素が好ましく、併用するアルカリ剤は水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩が好ましく使用できる。
次に還元洗浄後は、常法に従って仕上げればよいが、ファイナルセット温度はプレセット温度より10℃以上低くしてセットすると好ましい結果が得られる。また、必要に応じて染色前にアルカリ減量処理を実施しても構わない。アルカリ減量処理を施す場合は、連続方式(パッド方式)が減量率のコントロールが得やすいなどの理由より好ましい。
【0040】
本発明のポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品は格段にソフトでしなやかな風合を有し、発色性が高く、同色性が良好で、染色バッチごとの色のバラツキが少なく、色の再現性が高い染色物が得られ、かつ堅牢度性能も良好である。具体的には、JIS−L−0844 A−2法における洗濯堅牢度が3級以上であって、JIS−L−0848法における汗アルカリ堅牢度が3級以上である、商品価値の高い混用品を得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例などにより更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。尚、本発明で用いられる特性値の測定法を以下に示す。
(1)固有粘度[η] (dl/g)
固有粘度[η](dl/g)は、次式の定義に基づいて求められる値である。
[η]=lim(ηr―1)/C
C→0
定義中、ηrは純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解したポリマーの希釈溶液35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cはg/100mlで表されるポリマー濃度である。
(2)強度・伸度
オリエンテック社製引張試験機を用い、糸長20cm、引張速20cm/分の条件で測定した。
【0042】
(3)繊度変動値U%、U%波形高低差
以下の方法で繊度変動値チャート(グラフ;Daiagram Mass)を求めると同時にU%を測定した。
・測定器:イブネスター(ツエルベガーウースター社製、ウースターテスターUT−4)
・測定条件
測定法 : ノーマル
糸速度 : 100m/分
ディスクテンション強さ(Tension force):10%
撚り(Twist) : S撚り 10000回/min
測定糸長 : 500m
スケール : ±10%
・繊度変動値U%
変動チャート及び表示される変動値を直読した。
【0043】
・繊度変動周波数解析
イブネステスターに付属の繊度変動周波数解析ソフトを用い上記条件で500m測定し、周波数とCV値を読んだ。
【0044】
(4)損失正接
オリエンテック社製レオバイブロンを用い、試料重量約0.1mg、測定周波数110Hz、昇温速度5℃/分、乾燥空気中にて測定を行い、各温度における力学的損失正接(tanδ)、および動的粘弾性(E’)を測定する。その結果から、tanδ−温度曲線が得られ、この曲線上でtanδが最大値を示す温度(Tmax)(℃)とそのときのtanδの極大値tanδmaxを求めた。
【0045】
(5)吸尽率、発色性(K/S)測定:染色性の評価
試料は、糸を一口編地としスコアロール400を2g/リットル含む温水を用いて、70℃、20分間精錬処理し、タンブラー乾燥機で乾燥させ、次いで、ピンテンターを用いて、180℃、30秒間の熱セットを行ったものを用いた。
染料は、スミカロン ブルー S−3RF(住化ケムテックス(株)製、商品名)を布帛に対して5重量%使用し、さらに分散剤として、ニッカサンソルト7000(日華化学(株)製、商品名)0.5g/リットル、酢酸0.25ml/リットル、酢酸ナトリウム1.0g/リットルを添加してpHを5に調整して染液とした。浴比25倍の染浴中で95℃にて60分の染色後、吸尽率を求めた。吸尽率は、染料原液の吸光度をA、染色後の染液の吸光度aを分光光度計から求め、以下の式に代入して求めた。吸光度は、当該染料の最大吸収波長である580nmでの値を採用した。
吸尽率=(A−a)/A×100(%)
【0046】
発色性は、K/Sを用いて評価した。この値は、染色後のサンプル布帛の分光反射率Rを測定し、以下に示すKubelka−Munkの式から求めた。この値が大きいほど発色性が高い(表面濃度が高い)こと、すなはち、良く発色されていることを示す。当該染料の最大吸収波長である580nmでの値を採用した。
K/S=(1−R)/2R
ちなみにレギュラーポリエステル繊維(56デシテックス/24f)を上記条件で130℃で60分染色後の吸尽率は94%で、K/S値は21であった。
【0047】
(6)紡糸性の評価
1錘で24時間紡糸した場合の糸切れ回数で以下のように評価した。
糸切れ回数が1回以下を○、1〜3回までを△、3回を越える場合を×とした。
(7)均染性評価
試料は、糸を一口編地とし、スコアロール400を2g/リットル含む温水を用いて、70℃、15分間精練処理し、染料は、フォロン ネービー S−GL(クラリアントジャパン(株)製、商品名)を布帛に対して3重量%使用し、さらに分散剤として、ニッカサンソルト7000(日華化学(株)製、商品名)0.5g/リットル、酢酸0.25ml/リットル、酢酸ナトリウム1.0g/リットルを添加してpHを5に調整して染液とした。浴比25倍の染浴中でボイルにて30分染色後、均染性を以下の方法にて判定した。ベテランの判定者3名で10段階評価し、次のように判定した。
○:8以上で均染性良好
△:6〜7で若干不良
×:6以下で不良
【0048】
(8)風合い評価
検査者(30人)の触感によって布帛を次の基準で相対評価した。
◎ :格段にソフトで、しなやか感が非常によく、ナイロンに近いヌメリ感がある
○ :ソフト、しなやか感はよいが、ヌメリ感はややよい
△ :ソフト、しなやか感はやや劣り、ヌメリ感がない
× :ソフト、しなやか、ヌメリ感ともない
(9)染色物の発色性L値の測定
染色布帛の表面の色濃度を分光測色計(Kollmorgen社製、形式マクベスMS−2020)を使用してLab表色系におけるL値を測定した。L値は低い方が発色性が高い。
【0049】
(10)同色性
易染性ポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート繊維との明度差が少なく、色相差、彩度差、イラツキが少ないものを良好とし、5級(良好)〜1級(劣る)の5段階に判定した。
(11)染色バッチ間色差:色ブレ評価
混用品10反を1バッチとし、10バッチ染色を繰り返し、各バッチの10反目を代表としてそれぞれについて、10バッチ間の色差を分光測色計(Kollmorgen社製、
形式マクベスMS−2020)にて測定し、その平均値を用いた。
【0050】
(12)洗濯堅牢度
混用染色品について、JIS−L−0844 A−2法に準じて評価した。但し、洗剤はアタック(花王(株)製:商品名)1g/リットルで用いた。試験片の変褪色と添付白布片の汚染の程度をそれぞれ変褪色用グレースケール、汚染用グレースケールと比較して判定した。
(13)汗アルカリ堅牢度
混用染色品について、JIS−L−0848法に準じてアルカリ性人工汗液を用いて評価した。試験片の変褪色と添付白布片の汚染の程度をそれぞれ変褪色用グレースケール、汚染用グレースケールと比較して判定した。
【0051】
[実施例1、比較例1]
テレフタル酸ジメチル(以下、DMTと称す)100部、エチレングリコール76部、エステル交換触媒として、酢酸マンガン4水和物塩0.04部を仕込み、150℃から240℃に加熱して3時間を要してメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。次いで、安定剤としてトリメチルフォスフェート0.04部、重合触媒として三酸化アンチモン0.05部、艶消し剤として二酸化チタン0.4部を添加した後、表1記載の分子量及び添加量にてポリエチレングリコールと、熱安定剤としてイルガノックス245(チバガイギー社製)をポリエチレングリコールに対して3%となるように加え混合添加する。その後、30分かけて常圧にて重縮合反応を行い、重合槽に移送した。移送完了後、徐々に減圧して、真空度0.5Torr、275℃で重縮合反応を行い、固有粘度[η]=0.73の改質ポリエステルを得た。これらポリマーを用いて、紡口径0.17Φに穿孔された、紡糸孔36個(外層に24個、芯間距離10.5mm、内層に12個、芯間距離18.3mm)有する2周円配列紡口を使用して、紡糸温度280℃、吐出線速度43.2cm/秒、巻取速度5800m/分で高速紡糸を行い、44デシテックス/36フィラメントの繊維を得た。得られた易染性ポリエステル繊維のTmax、強度、伸度、染色性、紡糸性評価結果を表1に記載した。
【0052】
本発明の易染性ポリエステル繊維の分散染料に対する染色性は、通常法で紡糸されたポリエステル繊維(Tmax136℃)の130℃、60分の染色性を比較することで評価できる。通常法で紡糸されたポリエステル繊維の分散染料に対する染料吸尽率は94%でK/S値は24であった。
【0053】
次に、固有粘度[η]=0.92のポリトリメチレンテレフタレートを紡糸温度265℃、紡糸速度1200m/分で未延伸糸を得、次いで、ホットロール温度60℃、ホットプレート温度140℃、延伸倍率3倍、延伸速度800m/分で延撚して、44dtex/24fの延伸糸を得た。延伸糸の強伸度、弾性率並びに10%伸長時の弾性回復率は、各々3.2cN/dtex、47%、21cN/dtex並びに97%であった。尚、10%伸長時の弾性回復率は以下の方法で求めた。
【0054】
繊維をチャック間距離10cmで引っ張り試験機に取り付け、伸長率10%まで引っ張り速度20cm/minで伸長し1分間放置した。その後、再び同じ速度で収縮させ、応力−歪み曲線を描く。収縮中、応力がゼロになった時の伸度を残留伸度(A)とする。弾性回復率は以下の式に従って求めた。
10%伸長時の弾性回復率=(10−A)/10×100(%)
【0055】
次に、得られた各々のポリエステル糸とポリトリメチレンテレフタレート糸を交編し、表面ポリエステル、裏面ポリトリメチレンテレフタレートの両面リバーシブルの交編編物を常法により編成した。ポリエステル混率は50%とした。
得られた編地を40℃、60℃、90℃と温度を変えながら拡布上で精練リラックスしたのち160℃でプレセットを行い、下記の染色条件で各々染色した。
染色条件
染料:ダイアニックス イエロー AC−E 0.38%omf
(拡散指数3.9)
ダイアニックス レッド AC−E 0.30%omf
(拡散指数4.8)
ダイアニックス ブルー AC−E 0.08%omf
(拡散指数5.2)
(染料は全てダイスター社製)
分散均染剤:ニッカサンソルト RM−340(日華化学工業社製)
0.5g/リットル
酢酸: 0.5cc/リットル
酢酸ナトリウム: 1g/リットル
SR−1801Mコンク 4%omf
浴 比 : 1:20
染色温度、時間: 95℃、30分
【0056】
染色完了後、非イオン洗浄剤0.5g/リットルの浴で60℃、15分のソーピング、水洗し、150℃で30秒間の乾熱セットで仕上げた。仕上げた染色物の風合、同色性、染色バッチ間色差、洗濯堅牢度、汗アルカリ堅牢度の評価などの結果を表1に示す。
表1の結果より、本発明の実施例1で得られた混用品は、いずれも比較例1比べ、ソフトでしなやかでナイロンに近いヌメリ感のある風合を有し、同色性が良好であり、色の再現性の高い染色物が得られ、かつ堅牢度性能も良好な商品価値の高い混用品が得られることがわかる。
【0057】
[実施例2、比較例2]
固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートを比率1:1でサイドバイサイド型に押出し、紡糸温度265℃、紡糸速度1500m/分で未延伸糸を得、次いでホットロール温度55℃、ホットプレート温度140℃、延伸速度400m/分、延伸倍率は延伸後の繊度が44dtexとなるように設定して延撚し、44dtex/24fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを得た。得られた複合マルチフィラメントの固有粘度は高粘度側が[η]=0.91、低粘度側が[η]=0.71であった。
【0058】
なお、固有粘度の異なるポリマーを用いた複合マルチフィラメントは、マルチフィラメントを構成するそれぞれの固有粘度を測定することは困難であるので、複合マルチフィラメントの紡糸条件と同じ条件で2種類のポリマーをそれぞれ単独で紡糸し、得られた糸を用いて測定した固有粘度を、複合マルチフィラメントを構成する固有粘度とした。
実施例1で製造された44dtex/36fの各々のポリエステル原糸と上記の製造法で得られたポリトリメチレンテレフタレート繊維マルチフィラメント原糸をインターレース加工(空気圧0.3MPa)により72個/mの交絡を付与した。次いで、ダブルツイスターによりS方向に1200T/mの撚数(撚係数14199)で交撚して交撚糸(A)、同様にZ方向の交撚糸(B)を作製し、真空セッターにて60℃で40分の撚止めセットを行った。
【0059】
得られた交撚糸(A)、(B)を交互に給糸しながら28ゲージ丸編スムースを作製した。
得られた編地を実施例1と同様のリラックス精練、プレセットを適用した後、下記の条件にて染色した。
染色条件
染料:ダイアニックス ブラック S−R (200) 7%omf
(ダイスター社製)
分散均染剤:ニッカサンソルト RM−340(日華化学工業社製)
0.5g/リットル
酢酸: 0.5cc/リットル
酢酸ナトリウム: 1g/リットル
SR−1801Mコンク 6%omf
浴 比 : 1:20
染色温度、時間: 98℃、30分
【0060】
染色完了後、染色機から染色残液を排出し、染色機に水を入れ、温度を70℃まで昇温し、これに下記薬剤を添加して下記の濃度の還元洗浄浴を調整し、70℃で10分間の還元洗浄を実施した。
二酸化チオ尿素 2g/リットル
苛性ソーダ− 1g/リットル
ビスノールUP−10(一方社油脂社製) 0.5g/リットル
浴 比: 1:25
この還元洗浄後、残液を排出し、温湯および水により染色物をすすぎ洗いした後、150℃で30秒間の乾熱セットで仕上げた。仕上げた染色物の風合、同色性、染色バッチ間色差、洗濯堅牢度、汗アルカリ堅牢度の評価などの結果を表2に示す。
【0061】
[比較例3]
さらに比較として、ポリアミド繊維44dtex/34fを2本合糸し、実施例2と同様に28ゲージスムース編地を作製し、常法により精練、含金染料にて黒染色、固着処理
を行った後、150℃で30秒間の乾熱セットで仕上げた。仕上げた染色物の風合、洗濯堅牢度、汗アルカリ堅牢度の評価結果を表2に示す。
表2の結果より、本発明の実施例2による混用品は、いずれも比較例2に比べ、ソフトでしなやかでナイロンに近いヌメリ感のある風合を有し、かつ同色性、染色バッチ毎の色の再現性、堅牢度性能も良好であることがわかる。またナイロン繊維とほぼ同じ風合が得られている。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の混用品は特にインナー分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明で使用されるポリエステル繊維の紡糸における紡口の断面概要図の例を示す。
【図2】本発明で使用されるポリエステル繊維の紡糸における紡口のランド部平面概要図の例を示す。
【図3】本発明で使用されるポリエステル繊維の紡糸生産工程例を示す。
【図4】本発明で使用されるポリエステル繊維のU%及びイブネステスターによる周波数解析チャートの例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品であって、ポリエステル繊維が、ポリエチレンテレフタレートに分子量300〜2000のポリエチレングリコールを3〜6重量%共重合したポリエステルで、90重量%以上がエチレンテレフタレート繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートからなり、単糸デシテックスが1.4以下で、測定周波数110Hzにおける力学的損失正接(tanδ)が最大を示す温度(Tmax)が85℃以上105℃以下であることを特徴とするポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品。
【請求項2】
ポリエステル繊維が、繊度変動値U%が1.0%以下で且つ、繊度変動周波数解析による10〜80mの周期における変動係数CV値の最大値が0.3%以下(但し、繊度変動値U%の測定は、糸長500mに渡り測定する)であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品。
【請求項3】
JIS−L−0844 A−2法における洗濯堅牢度が3級以上であって、JIS−L−0848法における汗アルカリ堅牢度が3級以上であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル繊維とポリトリメチレンテレフタレート系繊維との混用品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−56412(P2007−56412A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244402(P2005−244402)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】