説明

ポリエステル繊維の製造方法

【構成】主たる構成成分がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルに、非相溶性重合体を0.5〜7重量%混合したポリエステル組成物を紡糸口金から溶融紡糸し、ガラス転移温度以下まで一旦冷却した後、加熱帯域中に該糸条を走行せしめ、該糸条をガラス転移温度以上融点以下に再加熱して延伸熱処理せしめ、引き取り速度6000m/分以上の第1引き取りロールで引き取ることを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
【効果】本発明の高速製糸方法を採用すると、ホットチューブ紡糸法において従来の引き取り速度を越えた高速で製糸が可能となるばかりでなく、製品特性を悪化させることなく、強度・伸度特性が優れ、かつ耐熱性や製糸性に優れたポリエステル繊維を提供できるので、ポリエステル繊維の生産性を著しく向上できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はポリエステル繊維の高速紡糸方法による製造方法に関し、さらに詳しくはホットチューブ延伸紡糸法によって優れた物性を有するポリエステル繊維を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリエステル繊維、特にポリエチレンテレフタレート繊維は、耐熱性、耐薬品性および力学的特性などに優れているので、衣料用途や産業用途に広く利用されている。単糸デニールが2〜3デニール程度の通常の衣料用ポリエステル繊維は、溶融したポリエステルを紡糸口金から繊維状に押し出し、1000〜3500m/分の引き取り速度で一旦巻き取り、次いで延伸、熱セットなどを行なう紡糸・延伸の二工程を経て製造されている。
【0003】近年、引き取り速度を4000m/分以上にすることにより、延伸工程を通さなくとも十分実用特性を満足し得る繊維を得ることが可能な高速紡糸方法が生産性向上を目的として、開発され実用化されてきた。この高速紡糸方法には、紡糸口金から溶融紡出した糸条を■再加熱することなく直接5000m/分以上で引き取る超高速紡糸法、■一旦冷却固化した後、ホットチューブのような加熱雰囲気で繊維を再加熱しながら延伸熱処理し4000m/分以上で引き取るホットチューブ延伸紡糸法、■第1引き取りロールで引き取った後、第2引き取りロールとの間で延伸し3000m/分以上で引き取る直接紡糸延伸法などがある。これらの高速紡糸方法では、従来の延伸工程が不要となることによる設備の簡素化・省スペ−ス・省エネルギ−・必要人員の削減等コストの軽減が期待され、さらに引き取り速度が大幅に向上するので、生産性の著しい向上も見込まれる。
【0004】このうち、ホットチューブ延伸紡糸法は超高速紡糸法と比較すると、口金直下での糸速の急激な変化が起こらないため糸切れが少なく、また、これまでの紡糸・延伸の二工程を経た延伸糸とほぼ同等な物性を有する繊維が得られる等の利点がある。
【0005】また、直接紡糸延伸法との比較でも、ロールの本数を少なくすることが可能である、加熱ロールを使用する必要がない等の点から、低コストで製造できる利点がある。
【0006】このようにホットチューブ延伸紡糸法は、高速紡糸方法において優れた紡糸法であるといえる。しかし、生産性の向上を一層図るために引き取り速度を上げて行くと、ホットチューブ延伸紡糸法では、加熱帯域の上方で高速紡糸特有のネッキング変形が起こるようになり、加熱帯域入口の糸条速度が急激に高くなることが明らかとなった。このため糸切れが多発するようになり製糸性が著しく低下し、生産性は向上するどころかかえって低下する。
【0007】また、引き取り速度を上げていった結果として、加熱帯域入口での糸条速度が4500m/分以上になると、冷却過程での配向結晶化が進行するので超高速紡糸法で得られる繊維構造に似たものとなり、従来の延伸糸と同等の物性が得られるというホットチューブ延伸紡糸法の利点はほとんどなくなってしまうのである。
【0008】そうした理由から、現在採用されている4500〜5500m/分程度の引き取り速度を越えてホットチューブ延伸紡糸法で紡糸することは難しく、技術障壁の一つとなっていた。
【0009】このホットチューブ延伸紡糸法を用いて、引き取り速度を6000m/分以上に高速化した例としては、いくつか挙げられる。特開昭51−147613号公報は糸条を分割して随伴気流を分離し、さらに延伸倍率を低く抑えて加熱帯域入口速度を高くすることにより、加熱帯域に入る糸の張力を高めて糸揺れや糸道の乱れを極力押さえようとしたものである。このため該公報では、6000m/分の引き取り速度の場合、加熱帯域入口速度を4500m/分以上、すなわち約4600m/分〜5700m/分にするとしている。通常のホモポリエチレンテレフタレートを本プロセスに適用した場合には、加熱帯域入口速度はこの程度になるのが普通であり、この速度では実質的にネッキングが加熱帯域の上方で起こってしまい、前述したように、従来の延伸糸に類似した物性が得られないばかりでなく、かえって糸切れが多発し製糸性が低下してしまうのである。これらの挙動は前記したようにホモポリエチレンテレフタレートの本質的な問題であり、製糸条件の変更では克服することは困難である。
【0010】また、特公昭58−3049号公報では紡糸口金直下にポリマーの融点以上の高温の加熱帯域を設け、糸条の冷却および再加熱温度を管理することによって、6000m/分以上で引き取ることを提案している。しかし、この方法では温度の異なる二つの加熱帯域が必要なことから二つの加熱装置を必要とするので装置が大がかりで、かつ複雑なものとなる。また、口金面に生じる汚れを除去する口金修正作業や保守管理などが煩雑となる。さらに、口金直下の雰囲気がかなりの高温となっているため、吐出されるポリマからの分解物などの昇華が激しくなり、口金面の汚れや糸条の長手方向や単糸間の均一性の低下を招く。またこの方法では、再加熱処理をフィラメント集束後に行うため、単糸間で熱のかかり方が不均一となり易く、熱処理斑が発生しやすい。このように、これまでのホットチューブ延伸紡糸法の高速化は紡糸方法を変更することによってのみ検討されており、積極的に紡糸されるポリエステル成分を変更することによって高速化を試みたものは少なく、またその改善効果は十分なものではなかった。
【0011】一方、超高速紡糸法においては、ポリエステル成分を変更による高速化の試みとして、ポリエステルにパラオキシ安息香酸を共重合する方法(特開昭59−47423号公報)、ポリメチルメタクリレートなどの重合体を添加する方法(特開昭62−21817号公報)、またビス(4−カルボキシフェノキシ)エタンを共重合する方法(特開昭63−190015号公報)などが提案されている。しかしながら、これらの方法は製糸性の面において極めて短時間で数回の糸切れを生じたり少量の製品巻き取りの間に糸切れが生じるなど、長時間の安定な生産を確保するという観点からは、製糸性が十分とは言い難い。また、特開昭63−59412号公報においては、極限粘度が1.0以下のポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、またはポリヘキサメチレンテレフタレートを主体とするポリエステルを用いる方法が提案されているが、ポリエチレンテレフタレートに比べて衣料用繊維としての特性のバランスに欠け、かつコスト的にも問題があり、実際にポリエチレンテレフタレートを代替することは不可能である。
【0012】こうした製糸性の問題は前記したように超高速紡糸法に特有の冷却過程における急激な細化変形に起因するものであると考えられる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は引取速度6000m/分以上の極めて生産性の高い超高速紡糸領域においても、得られる繊維の機械的物性、特に強度に優れたポリエステル繊維を製造するホットチューブ延伸紡糸方法を提供することにある。
【0014】また、本発明の他の目的は従来よりも高い引取速度で引き取っても糸切れすることなく糸質の安定した、高い生産性と優れた製糸性を有するポリエステル繊維の高速紡糸繊維製造方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明の目的は、主たる構成成分がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルに、非相溶性重合体を0.5〜7重量%混合したポリエステル組成物を、紡糸口金から溶融紡糸し、該ポリエステルのガラス転移温度以下まで一旦冷却した後、加熱帯域中に該糸条を走行せしめ、該糸条を該ポリエステルのガラス転移温度以上融点以下に再加熱して延伸熱処理せしめ、引き取り速度6000m/分以上の第1引き取りロールで引き取ることを特徴とするポリエステル繊維の製造方法によって達成できる。
【0016】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の最大の特徴は主たる構成成分がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルに特定のポリマーを添加混合したポリエステル組成物を、ホットチューブ延伸紡糸法におけるポリエステル原料として用いることにより、優れた物性・均質性を有する糸を製糸性を損なうことなく、6000m/分以上の超高速で得ることができる点にある。
【0017】これはホットチューブ延伸紡糸法において、ホモPETの場合、6000m/分以上に高速化していくと、上述のように加熱帯域の上方で既にネッキング変形を受け、糸条速度が4500m/分以上の高速度となって、繊維物性が低強度・高伸度・低配向度の超高速紡糸特有の物性へと変化しまうのに対し、本発明のポリエステル組成物を用いると、添加混合している特定のポリマー成分によって、分子鎖の柔軟性が増加し紡糸冷却過程で配向し難くなるため、引き取り速度を増大させていっても、ホットチューブ入口の糸条速度を従来速度程度に抑えることができるためである。これによって、より高速度でも、強度、伸度、および配向度が従来の延伸糸並みの糸を得ることができるようになったのである。
【0018】本発明で用いられる非相溶性の重合体の例としては、ビニル重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネートなどが挙げられる。ビニル重合体とは、ビニルモノマの重合により得られる重合体で例えばポリメタクリレート系重合体、ポリスチレン系重合体などであり、ポリアミドとはアミド結合をもつ重合体で例えばナイロン6、ナイロン66などである。なかでも、溶融状態においてポリエステルと反応する重合体は、溶融紡糸の際に反応を起こし物性低下させることがあるので、添加する重合体としては非反応性の重合体がよく、例えば上記の例ではビニル重合体が好ましい。
【0019】添加混合する量は、0.5重量%未満では本発明の効果が得られないので、0.5重量%以上を混合することが好ましい。7重量%を越えるようになると溶融紡糸において口金紡出直後のバラス効果が大きくなり糸切れが発生しやすくなって製糸性が低下するので好ましくない。そうした理由から、0.5重量%以上5重量%以下であることはより好ましい。
【0020】本発明に使用するポリエステルは、主としてエチレンテレフタレート単位を構成成分とするポリエステルであるが、7モル%以内の範囲で他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0021】また、本発明のポリエステルには、各種の添加剤、たとえば、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、螢光増白剤などを必要に応じて共重合または混合していても良い。
【0022】本発明で使用するポリエステル組成物は、例えば通常の方法によって得られたポリエチレンテレフタレートに、非相溶性重合体を添加し、エクストルーダーで混練することにより得ることができる。
【0023】添加する重合体は、非相溶の状態でポリエステル中に分散される非相溶性重合体であることが必要で、ポリエステル相中に混在してしまう重合体では本発明の効果が得られない。
【0024】非相溶で混合されている状態とは透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、混合した成分がポリエステル相中に島成分(粒子状)となって存在していることをいう。
【0025】分散されている相の大きさは紡糸する前の溶融状態で3μm以下がよい。3μmを越えるようになると溶融紡糸において口金紡出直後のバラス効果が大きくなり糸切れが発生しやすくなって製糸性が低下するので好ましくない。そうした理由から、1μm以下であることはより好ましい。
【0026】こうして得られたポリエステル組成物を溶融紡糸する。
【0027】まず紡糸口金から溶融吐出したポリエステルは冷却風によりガラス転移温度以下まで一旦冷却する。冷却はその後の延伸熱処理が安定して行えるように、ポリエステル糸条が固化する温度、すなわちガラス転移温度以下になるまで冷却する。口金から加熱帯域入口までの距離は、口金下での充分な冷却、作業性、および空気抵抗力により生ずる充分な張力を付与するために、0.5〜4.0mが好ましく、1.0〜3.0mがより好ましい。
【0028】一旦冷却した糸条を加熱帯域に導き、再加熱し延伸熱処理する。加熱帯域では糸条が自由に延伸できるように、入口あるいは出口の糸道規制部以外では糸条には何物とも接触させないことが好ましい。加熱筒は周囲から加熱されているもの、加熱導入された乾熱空気、飽和蒸気あるいは加熱蒸気が満たされているもの、あるいはこれらを組み合わせることが好ましく用いられる。加熱帯域では、通過する糸条が延伸熱処理されるために必要かつ十分な、張力と温度が必要である。
【0029】加熱温度は繊維が実用的強度を保持し、かつ糸条に処理斑をおこさない程度の温度が好ましく、糸条の延伸倍率との関係から限定が難しいが、延伸が起こるためには加熱帯域の温度は50〜80℃以上が必要である。また、さらに充分な熱処理のためには105℃以上、好ましくは110℃以上が必要である。このとき、延伸が起こっても充分な熱処理が起こらない場合には沸騰水収縮率が30%を越えてしまい、寸法安定性の劣ったものとなる。加熱帯域の上限温度としては、加熱温度が糸条の融点近傍の温度になると、繊維長手方向の単糸間の均一性が低下し均質な糸条を得ることができなくなることがあるので、融点以下好ましくは250℃以下がよく、エネルギーコストの見地から200℃以下が好ましい。
【0030】延伸熱処理が起こっていることは、熱収縮応力のピーク温度が105℃以上、好ましくは110℃以上、かつ熱収縮応力が0.3g/d以上となっていることで確認することができる。延伸熱処理とは、延伸およびそれに引き続く熱処理のことである。延伸が起こるためには、延伸に必要かつ十分な張力が糸条に加わり、かつ加熱帯域から十分な熱が供給されることが必要である。ここでの張力とは、(加熱帯域入口でのマルチフィラメントの実張力)÷(巻取糸デニール)のことであり、巻取り糸の単糸デニール、引き取り速度、口金から加熱帯域までの距離などにより変化するが、延伸に必要な張力は通常0.3g/d以上である。0.3g/dに満たない場合は、延伸が不充分となり、力学的特性が低下する。加熱帯域の長さは、安定した延伸熱処理、エネルギーコストの面から、0.5〜3.0mが好ましく、1.0〜2.0mがより好ましい。
【0031】引き取り速度は得られる繊維の機械的性質、紡糸糸切れ、生産性向上等を考慮して決められる。本発明の共重合ポリエステルでは、引き取り速度が低いと延伸が不充分で複屈折率が0.13未満となり、実用特性を満足し得る繊維を得ることができないので、少なくとも6000m/分以上で引き取る必要がある。本発明のポリエステルでは、上述した引き取り速度では、従来法で得られる延伸糸と同等な物性の糸が得られ、ポリエステル繊維の生産性を向上することが可能になる。得られる繊維の機械的性質、高速化に伴う紡糸糸切れによる製糸性の悪化のデメリットおよび生産性向上の点からメリットを考慮した場合、引き取り速度は、9000m/分以下が好ましい。
【0032】本発明の方法により得られた繊維の物性が、従来よりも高速の6000m/分以上の引き取り速度での高速紡糸方法を採用しても優れている理由は、ポリエチレンテレフタレートに非相溶性重合体が添加混合されているため、ポリエチレンテレフタレートが細化する過程において、混合されている界面において滑りが生じ剪断速度が低下することから伸長粘度を低下させる効果を有し、従来よりも高速の引き取り速度で紡糸した場合も紡糸冷却過程での配向が起こりにくく、従来よりも高速でホットチューブ延伸紡糸法を行なっても、加熱帯域での延伸倍率が高く採れ、加熱帯域入口速度を4500m/分以下の低速に保つことができるため、物性、製糸性の優れた繊維が得られるものと思われる。
【0033】
【実施例】実施例中の各特性値は次の方法にしたがって求めた。
(A)繊維の強度、伸度オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用いて荷重伸長曲線から求めた。
(B)複屈折率干渉顕微鏡(カールツアイス社製)により、繊維軸に平行方向(nh ) と垂直方向(np)の屈折率を繊維の直径を通過する光から求め、複屈折率Δn = nh − npとした。
(C)製糸性1000Kg製糸した際の平均糸切れ回数で評価した。
◎:糸切れ回数 1回未満の場合○:糸切れ回数 1〜3回の場合△:糸切れ回数 3〜5回の場合×:糸切れ回数 5回以上の場合実施例1、比較実施例1エチレングリコール75重量部、テレフタル酸166重量部から、通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤として正リン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行ない、固有粘度0.65、融点256℃のポリエチレンテレフタレートを得た。このポリマを2軸のベントエクストルーダーを用い減圧下、280℃で数平均分子量7万5千のポリメチルメタクリレートを3重量%計量しつつ添加混合した。このポリエステル組成物を透過型電子顕微鏡を用いて観察すると、ポリメチルメタクリレートがポリエチレンテレフタレート相中に約1μmの大きさで分散していた。このポリエステル組成物を290℃で溶融し、孔数24個の口金から吐出した。口金から吐出した糸条に25m/分、25℃の冷却風を1mの長さにわたって当てて、糸条を一旦室温まで冷却した後、口金下2mに設置された長さ2.0m,内径20mmφのホットチューブに糸条を導入した。このときホットチューブの筒内壁温度は200℃に設定した。引き取った糸条が50デニール/24フィラメントの太さになるように吐出量および引き取り速度を変更して、ポリエステル繊維を得た(実施例1)。
【0034】また、上記と全く同じ方法により得たポリエチレンテレフタレートをポリメチルメタクリレートを添加混合しないで、ポリエチレンテレフタレート繊維を作成した(比較実施例1)。
【0035】表1に得られた各繊維の複屈折率(Δn)値、強度、伸度および製糸性を示した。
【0036】表1から明らかなように、ポリメチルメタクリレートを添加混合していない比較実施例1は、引き取り速度6000m/分以上でΔn が従来の延伸糸での値(0.13以上)を大きく下回り、従来の延伸糸並の強度と伸度に達せず、また製糸性も不良であった。本発明のポリエステル組成物である実施例1で得られた高速紡糸繊維は、引き取り速度6000m/分以上でΔn ≧0.13であり、強度・伸度ともに実用上十分な繊維物性を示し、製糸性も良好であった。
【0037】実施例2、3 比較実施例2実施例1と同様の方法にてポリメチルメタクリレートを0.5重量%(実施例2)、7重量%(実施例3)、10重量%(比較実施例2)を添加混合したポリエステル組成物から、実施例1と同様な方法で引き取り速度を変更して溶融紡糸し、50デニール/24フィラメントのポリエステル繊維を得た。実施例2、3と比較実施例2のポリエステルのΔn、強度、伸度、製糸性を表2に示した。
【0038】添加混合量が本発明の範囲である実施例2、3は、本発明の効果が得られていると共に製糸性が良好であったが、添加混合量が本発明の範囲外である比較実施例2では製糸性が低下した。
【0039】実施例4、5 比較実施例3実施例1と同様の方法にて得たポリエチレンテレフタレートに、固有粘度0.73のポリスチレンを3重量%添加混合したポリエステル組成物(実施例4)、硫酸相対粘度2.6のナイロン6を3重量%添加混合したポリエステル組成物(実施例5)、固有粘度0.89のポリブチレンテレフタレートを3重量%添加混合したポリエステル組成物(比較実施例3)を作成した。各々のポリエステル組成物を透過型電子顕微鏡を用いて観察すると、ポリスチレン、ナイロン6はそれぞれ約1μm、約0.8μmの大きさでポリエチレンテレフタレート相中に分散していたが、ポリブチレンテレフタレートはポリエチレンテレフタレート相中に分散相として確認できなかった。
【0040】これらのポリエステル組成物から、実施例1と同様な方法で引き取り速度を変更して溶融紡糸し、50デニール/24フィラメントのポリエステル繊維を得た。実施例4、5と比較実施例3のポリエステルのΔn、強度、伸度、製糸性を表3に示した。
【0041】本発明の非相溶性重合体を添加混合した実施例4、5では引き取り速度6000m/分以上で、Δn ≧0.13であり効果がみられたが、相溶性重合体を添加混合した比較実施例3では効果がみられなかった。
【0042】比較実施例4ホットチューブを用いない以外は実施例1と同様にして、通常の超高速紡糸法でポリエステル繊維を得た。結果を表4に示す。
【0043】超高速紡糸法では、低強度、低配向度となり、製糸性も不良であった。
【0044】
【表1】


【表2】


【表3】


【表4】


【0045】
【発明の効果】本発明の方法によれば、ホットチューブ紡糸法において従来の引き取り速度を越えた高速製糸方法を採用しても、製品特性を悪化させることなく、強伸度特性が優れ、かつ耐熱性や製糸性に優れたポリエステル繊維を提供できるので、ポリエステル繊維の生産性を著しく向上できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】主たる構成成分がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルに、非相溶性重合体を0.5〜7重量%混合したポリエステル組成物を、紡糸口金から溶融紡糸し、該ポリエステルのガラス転移温度以下まで一旦冷却した後、加熱帯域中に該糸条を走行せしめ、該糸条を該ポリエステルのガラス転移温度以上融点以下に再加熱して延伸熱処理せしめ、引き取り速度6000m/分以上の第1引き取りロールで引き取ることを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。