説明

ポリエステル繊維布帛を処理する方法、及び車輌内装材の製造方法

【課題】車輌内装材に求められるレベルの摩擦堅牢度を維持しつつ、ポリエステル繊維布帛に機能を付与することを可能とする方法を提供すること。
【解決手段】水及びこれに溶解又は分散した処理剤を含有する処理液を染色処理されたポリエステル繊維布帛に付着させ、当該ポリエステル繊維布帛に付着した処理液を乾燥することによりポリエステル繊維布帛を処理する工程を備え、処理剤として、ポリウレタン樹脂と、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、ポリエステル繊維布帛に所定の機能を付与する機能性材料と、を併用する、ポリエステル繊維布帛を処理する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維布帛を処理する方法、及び車輌内装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌の内装においては、カーシート、ドア張り材、天井材等の車輌内装材が用いられる。この車輌内装材としては、ポリエステル繊維布帛を繊維基材として有する繊維製品が利用されている。車輌内装材用の繊維基材として用いられるポリエステル繊維布帛は、ある程度高い摩擦堅牢度を有することが求められる。
【0003】
染色処理されたポリエステル繊維布帛の摩擦堅牢度を向上させる一般的な方法としては、染料の選定による方法や、染色処理後にソーピング処理や還元洗浄を施す方法がある。さらに、ポリエステル繊維を還元洗浄せずに低温プラズマ処理する方法(特許文献1)や、繊維染色物にメチルハイドロジエンポリシロキサン乳化物を付与した後、乾燥し、次いで無機ガスの低温プラズマ雰囲気で処理する方法(特許文献2)が提案されている。
【特許文献1】特開昭58−115187号公報
【特許文献2】特開平5−140874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、適用できる範囲が限られていたり、特殊な装置が必要であるばかりでなく、摩擦堅牢度は必ずしも十分であるとはいえなかった。
【0005】
また、従来の方法で摩擦堅牢度を向上させたポリエステル繊維に、撥水性、撥油性、難燃性等の機能を付与するために機能性材料を用いた処理を施すと、摩擦堅牢度の低下が発生するという問題がある。機能性材料を含む処理液を含浸した後の乾燥温度を低く抑えたり、用いる界面活性剤の量を極力低減させるなどの工夫によりある程度改善されるものの、そうすると高機能化、複合機能化のためには繰り返して熱処理を行う必要があり、生産性が大きく低下する。
【0006】
以上のごとく、従来、撥水性、撥油性、難燃性等の機能と摩擦堅牢度とが十分に高いレベルで両立するポリエステル繊維布帛を得ることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、車輌内装材に求められるレベルの摩擦堅牢度を維持しつつ、ポリエステル繊維布帛に機能を付与することを可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、ポリウレタン樹脂と特定の架橋剤とポリエステル繊維布帛に所定の機能を付与する機能性材料とを併用して、染色処理されたポリエステル繊維布帛を処理することにより、ポリエステル繊維布帛に対して、高いレベルの摩擦堅牢度を維持しながら所望の機能を付与することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、水及びこれに溶解又は分散した処理剤を含有する処理液を染色処理されたポリエステル繊維布帛に付着させ、当該ポリエステル繊維布帛に付着した処理液を乾燥することによりポリエステル繊維布帛を処理する工程を備え、処理剤として、ポリウレタン樹脂と、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、ポリエステル繊維布帛に所定の機能を付与する機能性材料と、を併用する、ポリエステル繊維布帛を処理する方法である。
【0010】
上記本発明に係る方法によれば、車輌内装材に求められるレベルの摩擦堅牢度を維持しつつ、ポリエステル繊維布帛に所定の機能を付与することが可能である。
【0011】
別の側面において、本発明は車輌内装材の製造方法に関する。本発明に係る車輌内装材の製造方法は、上記本発明に係る方法によりポリエステル繊維布帛に所定の機能を付与する工程を備える。
【0012】
上記本発明に係る製造方法によれば、車輌内装材に求められるレベルの摩擦堅牢度を維持しつつ、所定の機能が付与されたポリエステル繊維布帛を得ることが可能である。
【0013】
更に別の側面において、本発明は車輌内装材に関する。本発明に係る車輌内装材は、上記本発明に係る製造方法により得られるものであり、車輌内装材に求められるレベルの摩擦堅牢度を維持しつつ所定の機能が付与されたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車輌内装材に求められるレベルの摩擦堅牢度を維持しつつ、ポリエステル繊維布帛に機能を付与することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係る車輌内装材の製造方法は、水及びこれに溶解又は分散した処理剤を含有する処理液を染色処理されたポリエステル繊維布帛に付着させ、当該ポリエステル繊維布帛に付着した処理液を乾燥することによりポリエステル繊維布帛を処理する工程を備える方法によりポリエステル繊維布帛に所定の機能を付与する工程を備える。
【0017】
処理剤として、ポリウレタン樹脂と、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、ポリエステル繊維布帛に所定の機能を付与する機能性材料と、を併用する。これら処理剤を全て含む処理液をポリエステル繊維布帛に付着させてもよいし、それぞれの成分を含む処理液を別々に準備してそれらを順次付着させてもよい。
【0018】
染色処理されたポリエステル繊維布帛は、当業者には理解されるように、通常の染色方法を採用してポリエステル繊維布帛を染色処理することにより得られる。一般に、染色処理されたポリエステル繊維布帛は、そのままでは摩擦堅牢度が十分なものではないため、摩擦堅牢度を向上させる処理が施される。例えば、染色処理されたポリエステル繊維布帛を還元洗浄することにより、ある程度の摩擦堅牢度が付与される。本実施形態によれば、係る処理が施される工程を経て向上した摩擦堅牢度を大きく低下させることなく、または摩擦堅牢度を更に向上させながら、所望の機能をポリエステル繊維布帛に付与することができる。
【0019】
ポリエステル繊維布帛を構成するポリエステル繊維は特に限定されない。例えば、レギュラーポリエステル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維、再生ポリエステル繊維、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
ポリエステル繊維と他の繊維とを混紡させた複合繊維をポリエステル繊維布帛に用いてもよい。この場合に組合わせられる他の繊維としては、綿、麻、絹及び羊毛のような天然繊維、レーヨン及びアセテートのような半合成繊維、ナイロン、アクリル及びポリアミドのような合成繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維及び金属繊維のような無機繊維、これら2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0021】
ポリエステル繊維布帛の形態は特に制限せず、例えば、起毛、ベアロ等のトリコット、ハイパイル起毛等のダブルラッセル、シンカーパイル等の丸編み、ジャージなどの編物、ジャガーモケット等の織物、ニードルパンチ、ステッチポンド及びスパンレース等の不織布が挙げられる。ポリエステル繊維布帛の厚さ及び目付は、素材の種類等に応じて適宜適正化される。
【0022】
本実施形態に係る製造方法によってポリエステル繊維布帛に付与される機能には、撥水性、難燃性、消臭性及び抗菌性が含まれる。本実施形態に係る方法によって処理されたポリエステル繊維布帛は、未処理のものと比較して、撥水性、難燃性、消臭性及び抗菌性等の機能が高められる。
【0023】
撥水性を付与する機能性材料は、処理剤としてポリエステル繊維布帛に付着されたときにポリエステル繊維布帛の撥水性を向上させる材料であれば、特に制限なく用いられる。例えば、撥水性重合体が撥水性を付与する機能性材料として好適に用いられる。撥水性重合体としては、パーフルオロアルキル基を有する重合体、及び長鎖アルキル基を有する重合体が挙げられる。
【0024】
パーフルオロアルキル基を有する重合体におけるパーフルオロアルキル基の炭素数は、3〜36であることが好ましく、8〜22であることがより好ましい。パーフルオロアルキル基を有する重合体の具体例としては、パーフルオロアルキル基を有するアクリレ−ト又はメタクリレ−トの重合体、パーフルオロアルキル基を有するアクリレ−ト又はメタクリレ−トと共重合可能な他の重合性化合物との共重合体が挙げられる。これらの中で、ポリエステル繊維染色布帛に高い撥水性を付与できる点から、パーフルオロアルキル基を有するアクリレ−ト又はメタクリレ−トと、これと共重合可能なフッ素原子を有しない他の重合性化合物との共重合体が特に好ましい。
【0025】
パーフルオロアルキル基を有するアクリレ−トとしては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレート、3−(パーフルオロオクチル)プロピルアクリレート、4−(パーフルオロオクチル)ブチルアクリレート、2−(N−プロピル−N−パーフルオロオクチルスルホニル)アミノエチルアクリレート、2−(N−エチル−N−パーフルオロオクチルスルホニル)アミノエチルアクリレート、2−(N−パーフルオロオクタノイル)アミノエチルアクリレート及び3−(パーフルオロオクチル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレートが挙げられる。
【0026】
パーフルオロアルキル基を有するメタクリレ−トとしては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、(パーフルオロペンチル)メチルメタクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート、2−(N−メチル−N−パーフルオロオクチルスルホニル)アミノエチルメタクリレート及び2−(N−パーフルデカノイル)アミノエチルメタクリレートが挙げられる。
【0027】
パーフルオロアルキル基を有するアクリレ−ト又はメタクリレ−トと共重合可能な、フッ素原子を有しない重合性化合物としては、例えば、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート及びシクロヘキシルメタクリレート等のアクリレ−ト又はメタクリレ−ト;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルロールアクリルアミド及びN−メチロールメタクリルアミド等のアクリルアミド又はメタクリルアミド;マレイン酸アルキルエステル、フタル酸アルキルエステル、アルキレンジオールアクリレート、アルキレンジオールジメタクリレート、エチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ビニルアルキルエーテル、ハロゲン化アルキルビニルエーテル、ビニルアルキルケトン、無水マレイン酸、ブタジエン、イソプレン及びクロロプレンが挙げられる。
【0028】
パーフルオロアルキル基を有するアクリレ−ト又はメタクリレ−トをモノマー単位として含む共重合体において、パーフルオロアルキル基を有するアクリレ−ト及びメタクリレ−トの合計量は、共重合体全体に対して40質量%以上であることが好ましく、50〜80質量%であることがより好ましい。
【0029】
パーフルオロアルキル基を有する重合体の製造方法に特に制限はなく、例えば、フルオロアルキル基を有するアクリレート若しくはメタクリレートを単独で、又はこれらと共重合可能な他の重合性化合物とともに、重合開始剤の存在下で必要に応じて溶媒を用いて重合させる方法が採用される。重合液に乳化剤を添加して、乳化物の状態で共重合体を生成させてもよい。重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパージカーボネート、t−ブチルパーベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、クメンヒドロキシパーオキサイド及びt−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物;ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム及びペルオキソ二硫酸アンモニウム等のペルオキソ二硫酸塩;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2-メチルブチロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩等のアゾ化合物が挙げられる。重合開始剤を用いるのに代えて、γ線等の電離性放射線を照射する方法を採用してもよい。
【0030】
重合の際に用いられる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン及びジメチルホルムアミドが挙げられる。溶媒を用いることにより、重合性化合物や共重合体が凝集しにくく、安定した乳化物を得ることができる。重合の際に用いる乳化剤に特に制限はない。例えば、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤等の界面活性剤が乳化剤として用いられる。
【0031】
長鎖アルキル基を有する重合体が有する長鎖アルキル基の炭素数は、12〜36であることが好ましく、16〜22であることがより好ましい。長鎖アルキル基を有する重合体としては、例えば、長鎖アルキル基を有するアクリレ−ト又はメタクリレ−トの重合体、長鎖アルキル基を有するアクリレ−ト又はメタクリレ−トと他の重合性化合物との共重合体が挙げられる。これらの中で、ポリエステル繊維布帛に高い撥水性を付与できる点から、長鎖アルキル基を有するアクリレ−ト又はメタクリレ−トと他の重合性化合物との共重合体が特に好適に用いられる。
【0032】
長鎖アルキル基を有するアクリレ−トとしては、例えば、ラウリルアクリレート、パルミチルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、ヘキサコシルアクリレート及びトリアコンチルアクリレートが挙げられる。長鎖アルキル基を有するメタクリレ−トとしては、例えば、ラウリルメタクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、ヘキサコシルメタクリレート及びトリアコンチルメタクリレートが挙げられる。
【0033】
長鎖アルキル基を有するアクリレ−ト又はメタクリレ−トと共重合可能な他の重合性化合物としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート及びシクロヘキシルメタクリレート等のアクリレ−ト又はメタクリレ−ト;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルロールアクリルアミド及びN−メチロールメタクリルアミド等のアクリルアミド又はメタクリルアミド;マレイン酸アルキルエステル、フタル酸アルキルエステル、アルキレンジオールアクリレート、アルキレンジオールジメタクリレート、エチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ビニルアルキルエーテル、ハロゲン化アルキルビニルエーテル、ビニルアルキルケトン、無水マレイン酸、ブタジエン、イソプレン及びクロロプレンが挙げられる。
【0034】
難燃性を付与する機能性材料は、ポリエステル繊維布帛の難燃性を高めることが可能な材料であれば特に制限はなく、一般に難燃剤として用いられている難燃性化合物から適宜選択される。難燃性化合物には、ハロゲン系難燃性化合物、リン系難燃性化合物及び無機系難燃性化合物が含まれる。これらの中でも、ポリエステル繊維布帛に高い難燃性を付与できる点から、ハロゲン系難燃性化合物及びリン系難燃性化合物が特に好適に用いられる。
【0035】
ハロゲン系難燃性化合物は、ハロゲン原子を有する有機化合物であり、その具体例としては、デカブロモジフェニルエーテル等のハロゲン化ジフェニルエーテル;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAカーボネート・オリゴマー及びテトラブロモビスフェノールAエポキシ・オリゴマー等のテトラブロモビスフェノールA誘導体;パークロロペンタシクロデカン及びヘキサブロモシクロドデカン等のハロゲン化環状脂肪族化合物;ビス(テトラブロモフタルイミド)エタンなどのハロゲン化フタル酸誘導体;ビス(ペンタブロモフェニル)エタン等のハロゲン化多環芳香族化合物;臭素化ポリスチレン等のハロゲン化ポリスチレン、ポリクロルパラフィン、塩素化ポリエチレン等の塩素化炭化水素が挙げられる。
【0036】
リン系難燃性化合物は、リン原子を有する有機化合物であり、その具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート)、トリス(t−ブチルフェニル)ホスフェート及びトリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート等の芳香族リン酸エステル;レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジクレジル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニル)ホスフェート及びビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等の芳香族縮合リン酸エステル;10−ベンジル−9.10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等のフェナントレン誘導体;ベンジル[2’−ヒドロキシ−(1,1’−ビフェニル)−2−イル)ホスフィン酸アンモニウム、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(2−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、ポリホスホネート、ポリホスフェート及びトリス(2,3−ブロモプロピル)ホスフェート等のハロゲン化リン酸エステル化合物;ポリリン酸塩、リン酸グアニジン及びポリリン酸カルバメート等の有機リン化合物が挙げられる。
【0037】
無機系難燃性化合物は、難燃剤として用いられる無機化合物であり、その具体例としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン及びメタホウ酸バリウムが挙げられる。
【0038】
消臭性を付与する機能性材料には、臭気成分を吸着する材料、及び臭気成分と反応して消臭効果を示す材料のような消臭性材料が含まれる。消臭性を付与する機能性材料は、繊維形成時に分解又は揮散し難いものであることが好ましい。消臭性材料としては、例えば、臭気成分を吸着する無機材料、及び酸化還元能を有する金属錯体が挙げられる。
【0039】
臭気成分を吸着する無機材料としては、極微細孔を有する多孔質無機材料があり、その具体例としては、シリカゲル、活性白土、ベントナイト、ゼオライト、活性炭、活性アルミナ及び酸化亜鉛が挙げられる。これらは単独で又は複数を組合わせて用いられる。酸化還元能を有する金属錯体の具体例としては、金属ポルフィリン、金属ポルフィラジン及びこれらの誘導体、コバルトフタロシアニン、鉄フタロシアニン、コバルトフタロシアニンオクタカルボン酸、コバルトフタロシアニンテトラカルボン酸、コバルトフタロシアニンポリスルホン酸、鉄フタロシアニンオクタカルボン酸及び鉄フタロシアニンテトラカルボン酸等の金属フタロシアニン誘導体や、フマル酸、アスコルビン酸化合物、フラボノイド系化合物、アミノ酸、タンニン、糖類及びプリン塩基等の有機化合物の金属錯体が挙げられる。これら金属錯体を、臭気成分を吸着する無機材料に担持させた担持体を、消臭性を付与する機能材料として用いることもできる。これらの中でも、ポリエステル繊維布帛に効率的かつ持続的な消臭性を付与できる点から、多孔質無機材料が特に好ましい。
【0040】
抗菌性を付与する機能性材料は、抗菌性を付与する材料として一般に用いられているものから適宜選択して用いられる。抗菌性を付与する機能性材料としては、例えば、有機抗菌性化合物、無機抗菌性化合物が挙げられる。
【0041】
有機抗菌性化合物の具体例としては、アンモニウム−N−メチルジチオカルバメート及びナトリウム−N−メチルジチオカルバメート等のチオカルバメート化合物、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、ラウリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブチルホスフェート塩、3−(トリメトキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライド、ポリ[ポリメチレン(ジメチルイミニオ)クロライド]、ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]、アルキル(ジアミノエチル)グリシン塩酸塩、塩化セチルピリジニウム、及び塩化ドデシルピリジニウム等の界面活性剤系有機抗菌性化合物、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛、10−ウンデシレン酸亜鉛、10,10’−オキシビスフェノキサルシン、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、8−オキシキノリン銅、及び2−(4’−チオゾリル)ベンズイミダゾール銀錯体等の有機金属化合物が挙げられる。
【0042】
無機抗菌性化合物の具体例としては、銅、銀、亜鉛、金、錫、鉛、砒素、白金、鉄、ニッケル、アルミニウム及びアンチモン等の金属若しくはそれらを含む金属化合物、又はそれらの混合物が挙げられる。これら金属及び金属化合物を無機担体に担持させたものを、抗菌性を付与する機能性材料として用いてもよい。無機担体としては、例えば、リン酸ジルコニウム及びリン酸カルシウム等のリン酸塩、ベントナイト及びモンモリロナイト等の粘土鉱物、並びにゼオライト、シリカゲル及びガラス等のケイ素化合物が挙げられる。
【0043】
以上のような機能性材料は、例えば、水、親水性有機溶媒、又は親水性有機溶媒と水との混合溶媒中に溶解、乳化又は分散された液として供給される。
【0044】
上記親水性有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート及び3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコール及びそれらの誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン、テトラヒドロフラン及びジオキサン等の環状エーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、並びにアセトニトリルが挙げられる。
【0045】
機能性材料を乳化又は分散する際に用いられる乳化剤または分散剤は、通常用いられているものから適宜選択される。乳化剤又は分散剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びそれらの脂肪酸エステル又は芳香族カルボン酸エステル;ポリオキシエチレングリコール及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のポリオキシアルキレングリコール及びそれらの脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシアルキレンエーテル誘導体及びそれらの脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール類またはポリオキシアルキレンエーテル誘導体の硫酸エステル化物、芳香族スルホン酸等のアニオン界面活性剤が挙げられる。
【0046】
ポリウレタン樹脂としては、水分散性ポリウレタン樹脂が好適に用いられる。この水分散性ポリウレタン樹脂は、例えば、イソシアネート基末端プレポリマーを鎖延長剤と水中で反応させて得られる。この場合、イソシアネート基末端プレポリマーは、(a)有機ポリイソシアネート化合物と(b)高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物とから得られるプレポリマーであることが好ましい。また、好ましくは、鎖延長剤は水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0047】
(a)有機ポリイソシアネート化合物は、2以上のイソシアネート基を有する有機化合物であれば特に制限なく用いられる。ただし、イソシアネート基がブロック化剤により保護されたブロック化イソシアネート化合物を(a)成分として用いることもできる。
【0048】
有機ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環式ジイソシアネート化合物又は芳香族ジイソシアネート化合物が用いられる。脂肪族ジイソシアネートの好適な具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びリジンジイソシアネートが挙げられる。脂環式ジイソシアネート化合物の好適な具体例としては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。芳香族ジイソシアネートの好適な具体例としては、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネートが挙げられる。これらの中で、紫外線や酸化窒素ガスによる変色が少なく、イソシアネート基と水との反応が遅く水分散液を得るのに有利である観点から、脂肪族ジイソシアネート化合物及び脂環式ジイソシアネート化合物を好適に用いることができる。その中でも特に、イソホロンジイソシアネート及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好適に用いられる。これらの有機ポリイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0049】
(b)成分の高分子量ポリオールは、2以上の水酸基を有し、400〜5000の数平均分子量を有する化合物である。2つの水酸基を有する高分子量ポリオールとしては、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びダイマージオールが挙げられる。
【0050】
ポリエステルジオールの好適な具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリエチレンテレフタレートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ−ε−カプロラクタムジオール、ポリエチレンイソフタレートジオール及びポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)のような脂肪族系ポリエステルジオールや、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンイソフタレートジオール及び3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオールのような芳香族系ポリエステルジオールが挙げられる。
【0051】
ポリエーテルジオールの好適な具体例としては、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール及びポリオキシエチレン・プロピレングリコールが挙げられる。
【0052】
ポリカーボネートジオールの好適な具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンカーボネートジオール及びポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオールが挙げられる。
【0053】
ダイマージオールの好適な具体例としては、重合脂肪酸を還元して得られるジオールを主成分とするものが挙げられる。この重合脂肪酸は、例えば、オレイン酸、リノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸又はこれらの低級モノアルコールエステルを、触媒の存在下又は不存在下に、ディールスアルダー型の二分子重合反応させて得られる。種々のタイプの重合脂肪酸が市販されているが、代表的なものとしては、炭素数18のモノカルボン酸0〜5質量%、炭素数36のダイマー酸70〜98質量%及び炭素数54のトリマー酸0〜30質量%からなるものがある。
【0054】
以上挙げたものをはじめとする高分子量ポリオールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。特に、耐加水分解性や耐光性、耐熱性の観点から、ポリカーボネートジオール及び芳香族系ポリエステルジオールが好適に用られる。
【0055】
(c)成分のカルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物は、活性水素を有する官能基を、カルボキシル基とは別に有する化合物である。(c)成分の化合物がカルボキシレート基を有している場合、そのカルボキシレート基はカルボン酸塩を形成する。(c)成分の好適な具体例としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸及びそれらのアンモニウム塩、有機アミン塩又はアルカリ金属塩が挙げられる。有機アミン塩を構成する有機アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルジエタノールアミン及びN,N−ジエチルエタノールアミンが挙げられる。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としてはナトリウム及びカリウムが挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。なお、カルボキシル基を有する化合物を用いてイソシアネート基末端プレポリマーを生成させた後、カルボキシル基を中和によりアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩等のカルボン酸塩に変換してもよい。
【0056】
(c)成分の化合物に由来するカルボキシル基又はカルボキシレート基のポリウレタン樹脂に対する含有割合は、0.5〜2質量%であることが好ましい。この含有割合が0.5質量%未満では乳化が困難になったり、乳化安定性が十分でなくなったりする傾向にあり、2質量%を超えるとポリウレタン樹脂の親水性が高くなって摩擦堅牢度向上の効果が低下したり、水分散液の粘度が高くなって取扱いにくくなったりする傾向にある。
【0057】
イソシアネート基末端プレポリマーを合成する際、上記(a)、(b)及び(c)成分とともに、(d)成分の鎖伸長剤を反応させてもよい。この鎖伸長剤としては、イソシアネート基と反応する官能基を2個有する化合物が用いられる。具体的には、低分子量ポリオール又は低分子量ポリアミンが好適に用いられる。低分子量ポリオール及び低分子量ポリアミンは炭素数10以下程度の化合物である。低分子量ポリオールの好適な具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビトールが挙げられる。低分子量ポリアミンの好適な具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミンが挙げられる。これらの鎖伸長剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0058】
(a)有機ポリイソシアネートと(b)高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物とを、あるいは、(a)有機ポリイソシアネートと(b)高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物と(e)鎖伸長剤とを用いて、イソシアネート基末端プレポリマーを生成させる方法は特に限定されず、当業者には理解されるように、通常行われている方法が適宜採用される。
【0059】
例えば、ワンショット法(1段式)又は多段式のイソシアネート重付加反応法によって、温度40〜150℃で反応を行うことができる。この際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリンなどの反応触媒、あるいは、リン酸、リン酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸などの反応抑制剤を添加することができる。また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶媒を添加してもよい。この有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル及び酢酸ブチルが挙げられる。これらの有機溶媒の中で、メチルエチルケトン、トルエン及び酢酸エチルが特に好ましい。これらの有機溶媒は、プレポリマーの乳化分散及び鎖延長後に減圧下で加熱することで容易に除去することができる。生成するプレポリマーが有するカルボキシル基の一部又は全部をアンモニア、有機アミン等との反応により中和して中和物を生成させ、これを鎖延長剤と反応させてポリウレタン樹脂を生成させてもよい。
【0060】
イソシアネート基末端プレポリマーを製造する際の反応に際しては、NCO/OH(モル比)が好ましくは1.1/1.0〜1.7/1.0、より好ましくは1.2/1.0〜1.5/1.0の範囲となるように各原料の仕込み比が調整される。
【0061】
反応終了時におけるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中の遊離イソシアネート基の含有割合は、イソシアネート基末端プレポリマー全体に対して0.8〜5.0質量%であることが好ましい。遊離イソシアネート基の含有割合が0.8質量%未満であると、反応時の粘度が著しく上昇するために有機溶媒が多量に必要となって製造コスト上昇の原因となったり、乳化分散が困難になったり傾向がある。一方、遊離イソシアネート基の含有割合が5.0質量%を超えると、乳化分散後と鎖延長剤による鎖伸長反応後のバランスが大きく変化することになり、製品の経時貯蔵安定性や加工安定性に支障をきたす傾向がある。
【0062】
ポリウレタン樹脂は、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを水に乳化分散した反応液に、水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤を添加して、水中で鎖伸長反応を進行させて得られる。この場合、ポリウレタン樹脂は水分散液の状態で得られる。
【0063】
より具体的には、例えば、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと必要に応じて乳化剤とを混合し、ホモミキサーやホモジナイザーなどを用いて水に乳化分散し、その後鎖延長剤を添加する。乳化分散は、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基と水との反応を極力抑えるため、室温から40℃の温度範囲で行うことが好ましい。リン酸、リン酸水素ナトリウムなどの反応抑制剤を反応液に添加してもよい。
【0064】
上記乳化剤としては、従来公知のものでよく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びそれらの脂肪酸エステル又は芳香族カルボン酸エステル;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのポリオキシアルキレングリコール類及びそれらの脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンエーテル誘導体及びそれらの脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール類又はポリオキシアルキレンエーテル誘導体の硫酸エステル化物、芳香族スルホン酸類などのアニオン界面活性剤を使用することができる。これらの乳化剤の使用量は、良好な摩擦堅牢度を確保するために、ウレタンプレポリマーに対して5質量%以下であることが好ましい。
【0065】
鎖延長剤として用いられる水溶性ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン及びジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミンが挙げられる。水溶性ポリアミンの誘導体には、第一級アミンを2個有する化合物とモノカルボン酸とを反応させて得られるアミドアミン、及び第一級アミンを2個有する化合物のモノケチミンが含まれる。
【0066】
鎖延長剤として用いられるヒドラジンとしては、例えば、2以上のヒドラジノ基を有する炭素数2〜4の脂肪族の水溶性ジヒドラジン化合物である1,1’−エチレンジヒドラジン、1,1’−トリメチレンジヒドラジン及び1,1’−(1,4−グチレン)ジヒドラジンや、炭素数2〜10のジカルボン酸のジヒドラジド化合物であるシュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド及びイタコン酸ジヒドラジドが挙げられる。これら鎖延長剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0067】
イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと鎖延長剤との反応は、典型的には、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを混合し、20〜50℃の温度で30〜120分間反応させることにより完結する。このとき、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中の遊離イソシアネート基に対し、0.9〜1.1当量のアミノ基又はヒドラジノ基を含む量の鎖延長剤を用いることが好ましい。
【0068】
架橋剤としては、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。これらはいずれも水分散性であることが好ましい。
【0069】
水分散性ポリイソシアネート化合物は、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート及びこれらの誘導体から選ばれる原料イソシアネートに対して、活性水素を有する親水分散性鎖及び、場合により親油性鎖を付加させることにより得られる。親水性分散鎖としてはアルキレンオキサイド鎖が挙げられる。ブロック化剤によりイソシアネート基を保護したブロック化イソシアネート化合物を水分散性ポリイソシアネートとして用いることもできる。
【0070】
水分散性ポリイソシアネート化合物を得るために用いられる芳香族ポリイソシアネートに特に制限はなく、例えば、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネートが用いられる。脂肪族ポリイソシアネートにも特に制限はなく、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート又はリジンジイソシアネートが用いられる。脂環族ポリイソシアネートにも特に制限はなく、例えば、イソホロンジイソシアネート又は水添キシリレンジイソシアネートが用いられる。これらのイソシアネートの中で、ブラックのような極めて濃色で染色された布帛に対しては、芳香族系ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを用いることができる。脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートは、処理後に製品が黄変することがないことから、薄い染色の布帛に対して特に好適に用いることができる。
【0071】
水分散性ポリイソシアネートを得るために用いられるポリイソシアネートの誘導体は、2以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、ビウレット構造、イソシアヌレート構造、ウレタン構造、ウレトジオン構造、アロファネート構造、3量体構造などを有するポリイソシアネートやトリメチロールプロパンの脂肪族イソシアネートのアダクト体が挙げられる。
【0072】
アルキレンオキサイド鎖を有する水分散性ポリイソシアネート化合物の場合、アルキレンオキサイド鎖の繰り返し単位数は、平均して5〜50個であることが好ましく、平均して10〜30個であることがより好ましい。アルキレンオキサイド鎖の繰り返し単位数が5個未満であると、水分散性ポリイソシアネート化合物の自己乳化性が不十分となることがある。アルキレンオキサイド鎖の繰り返し単位数が50個を超えると、水分散性ポリイソシアネート化合物の結晶性が高くなって固化する可能性が高くなる。
【0073】
アルキレンオキサイド鎖を構成するアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドが挙げられる。これらはそれぞれ単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。アルキレンオキサイド鎖においては、70質量%以上がエチレンオキサイド単位であるのが好ましい。アルキレンオキサイド鎖を導入するために用いられる化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、及びエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム又はブロック共重合体のモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0074】
ポリイソシアネートに結合されるアルキレンオキサイド鎖の割合は、水分散性ポリイソシアネート化合物100質量部に対して2〜50質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。アルキレンオキサイド鎖の量が水分散性ポリイソシアネート化合物100質量部に対して2質量部未満であると、水分散性ポリイソシアネート化合物の界面張力を低下させる効果が十分ではなく、自己乳化性が不足するおそれがある。アルキレンオキサイド鎖の量が水分散性ポリイソシアネート化合物100質量部に対して50質量部を超えると、水分散性ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と水との反応性が高くなりすぎて不安定になるおそれがある。
【0075】
水分散性ポリイソシアネート化合物がブロック化イソシアネート化合物である場合、ブロック化剤には特に制限はない。ブロック化剤としては、例えば、第二級アルコール、第三級アルコール、活性メチレン化合物、フェノール化合物、オキシム化合物、ラクタム化合物、又は重亜硫酸塩を用いることができる。第二級アルコールとしては、例えば、sec−ブチルアルコールが挙げられる。第三級アルコールとしては、例えば、t−ブチルアルコールが挙げられる。活性メチレン化合物としては、例えば、マロン酸エチル及びアセト酢酸エチルが挙げられる。フェノール化合物としては、例えば、フェノール及びm−クレゾールが挙げられる。オキシム化合物としては、例えば、アセトオキシム、メチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム及びジイソブチルケトオキシムが挙げられる。ラクタム化合物としては、例えば、ε−カプロラクタムが挙げられる。重亜硫酸塩としては、例えば、重亜硫酸ナトリウム及び重亜硫酸カリウムが挙げられる。
【0076】
以上のような水分散性ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基の高い反応性を保持したまま、水溶液中でも長時間安定して使用することができ、また水への自己乳化性に優れる。そのため、ポリウレタン樹脂とともに水分散液の状態でポリエステル繊維布帛に付着させるために好適に用いることができる。
【0077】
ポリカルボジイミド化合物は、2以上のカルボジイミド基を有する化合物であれば、特に制限なく用いられる。水分散性カルボジイミド化合物としては、例えば、ポリイソシアネート化合物に、ヒドロキシル基及びアミノ基などのイソシアネート基と反応し得る官能基を1個有する化合物を、カルボジイミド化触媒の存在下で反応させて得られるポリカルボジイミド系樹脂を使用することができる。ポリカルボジイミド系樹脂を得るために用いられるポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートが挙げられる。イソシアネート基と反応し得る官能基を1個有する化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル、及びポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールのランダム又はブロック共重合物のモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0078】
水分散性オキサゾリン化合物としては、オキサゾリニル基を2個以上有する化合物を用いることができる。例えば、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとアクリル酸エチルとメタクリル酸メチルとの共重合物、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとスチレンとの共重合物、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとスチレンとアクリロニトリルとの共重合物、及び2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとスチレンとアクリル酸ブチルとジビニルベンゼンとの共重合物を水分散性オキサゾリン化合物として用いることができる。
【0079】
これら架橋剤は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。特に、耐摩耗性向上の観点から、ポリカルボジイミド化合物と、ポリイソシアネート化合物との組合せが特に好適である。
【0080】
処理剤を含有する水分散液をポリエステル繊維布帛に付着させる方法は特に制限はなく、例えばパディング法、パッド法及びスプレー法のような公知の方法で行うことができる。処理剤として併用するポリウレタン樹脂、架橋剤及び機能性材料の各成分は、ポリエステル繊維布帛に同時に付着させてもよいし、別々に付着させてもよい。別々に付着させる場合は、例えば、ポリウレタン樹脂及び架橋剤を含有する第1の処理液をポリエステル繊維布帛に付着させ、ポリエステル繊維布帛に付着している第1の処理液を乾燥する工程と、その工程の前又は後に、機能性材料を含有する第2の処理液をポリエステル繊維布帛に付着させ、ポリエステル繊維布帛に付着している第2の処理液を乾燥する工程と、を含む工程によってポリエステル繊維布帛が処理される。特に、機能性材料による機能を効果的に発揮させるために、ポリウレタン樹脂及び架橋剤を含有する第1の処理液を用いた処理の後、機能性材料を含有する第2の処理液を用いた処理を行う方法が好ましい。
【0081】
ポリエステル繊維布帛に付着している処理液を乾燥する方法は、自然乾燥や加熱乾燥などの通常の方法によって行うことができる。処理液の乾燥により、大部分の水分が除去されるとともに、ポリウレタン樹脂が架橋剤との反応により架橋されてポリエステル繊維表面を覆う被膜が形成される。処理効率の向上の観点から、加熱により処理液を乾燥させることが好ましい。より具体的には、120〜180℃で30秒〜3分の加熱により処理液を乾燥することが好ましい。特に、ブロック化イソシアネート化合物を架橋剤として用いる場合は、150〜180℃で30秒〜2分の加熱により処理液を乾燥することがより好ましい。
【0082】
ポリエステル繊維布帛に付着させるポリウレタン樹脂の量は、特に制限されないが、通常はポリエステル繊維染色布帛100質量部に対して0.2〜5質量部程度が好ましい。また、架橋剤の量は、通常はポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜50質量部程度が好ましい。平滑剤の量は、固形分換算で、通常はポリエステル繊維染色布帛に対して0.05〜3質量程度が好ましい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
(1)ポリウレタン樹脂の合成
合成例1
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量2000)247.4g、ジメチロールブタン酸12.2g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン142gを入れ、これを均一に混合した。その後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート72.0gを加え、80℃で240分の加熱により反応を進行させて、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が1.7質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン8.3gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水670gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにイソホロンジアミン8.8g、ジエチレントリアミン1.0g及び水30gの混合溶液を添加し、90分間反応を進行させてポリウレタン樹脂を生成させた。次いで、ポリウレタン樹脂が分散した分散液を減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の水分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。
【0085】
合成例2
3−メチル−1,5−ペンタンジオールテレフタレート(平均分子量2000)250.6g、ジメチロールブタン酸13.7g、トリメチロールプロパン1.2g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン143gを合成例1で用いたものと同様な反応装置に入れ、これらを均一に混合した。その後、イソホロンジイソシアネート68.7gを加え、80℃で180分の加熱により反応させて、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が1.9質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン9.3gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水662gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにピペラジン6水和物14.7g及び水30gの混合溶液を添加後、90分間反応を進行させて、ポリウレタン樹脂を生成させた。次いで、ポリウレタン樹脂が分散した分散液を減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の水分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。
【0086】
合成例3
3−メチル−1,5−ペンタンジオールイソフタレート(平均分子量2000)113.8g、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量3000)142.2g、ジメチロールブタン酸12.6g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン145gを合成例1で用いたものと同様な反応装置に入れ、これらを均一に混合した。その後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート37.3g及びイソホロンジイソシアネート31.6gを加え、80℃で200分の加熱により反応を進行させて、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が1.8質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン8.6gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水680gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これに水加ヒドラジン2.7g、ジエチレントリアミン1.1g及び水20gの混合溶液を添加後、90分間反応を進行させて、ポリウレタン樹脂を生成させた。次いで、得られたポリウレタン樹脂が分散した分散液を減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の水分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。
【0087】
(2)ポリエステル繊維布帛(ジャージ編物)の染色処理
分散染料(Dianix Black HF−B)を8%owf、分散均染剤ニッカサンソルト(商品名)RM−340E(日華化学(株))を0.5g/L、酢酸を0.2cc/L含む染色処理液を準備した。この染色処理液をミニカラー染色機(テクサム技研社製)に投入し、浴比1:15、130℃で60分間の条件で目付360g/mのポリエステルジャージ編物に対して染色処理をした。染色されたジャージ編物を、ソーピング剤サンモール(登録商標)RC−700E(日華化学(株))を1g/L、ハイドロサルファイトを2g/L、苛性ソーダを1g/L含む水溶液中で80℃で20分間加熱することにより還元洗浄し、更に湯洗、水洗した。その後、140℃で3分間の加熱により乾燥して、染色処理されたポリエステル繊維布帛を得た。
【0088】
(3)車輌内装材の評価方法
車輌内装材について、摩擦堅牢度、撥水性、燃焼性及び消臭性を以下の方法により評価した。
【0089】
摩擦堅牢度
JIS L 0849:2004に準じて、摩擦試験機(大栄化学精機製作所製)を用いて、荷重9Nの条件で車輌内装材を摩擦布により100回摩擦した。摩擦布として綿金巾を使用した。摩擦後の綿金巾の汚染度と、汚染用グレースケールとの比較に基づいて、以下の5段階の評価基準に従って摩擦堅牢度を評価した。評価は乾式及び湿式それぞれの条件で行った。
5級:汚染が認められない。
4級:汚染がわずかに認められる
3級:汚染が明瞭に認められる
2級:汚染がやや著しく認められる
1級:汚染が著しく認められる
【0090】
撥水性
車輌内装材の撥水性を、JIS L 1092:1998の6.2スプレー試験に準じて評価した。撥水性は、以下の5段階の基準に基づいて判定した。数値が大きくなるほど撥水性が良好であることを意味する。
5:表面に湿潤や水滴の付着がないもの
4:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの
3:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの
2:表面の半分に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの
1:表面全体に湿潤を示すもの
【0091】
燃焼性
FMVSS−302法(自動車内装用品の安全基準)に記載されている方法に従って車輌内装材の燃焼距離、燃焼時間、燃焼速度を測定し、以下の判定基準に従って燃焼性を判定した。
不燃性 :A標線を越えて燃焼しないもの。燃焼距離はA標線前自消と表記。
自己消火性:A標線を越えて燃焼するが、A標線から燃焼距離が50mm未満で炎が自消し、且つ、燃焼速度が80mm/分未満のもの。
易燃性 :A標線を越えて燃焼し、燃焼速度が80mm/分以上、又はA標線を50m
m以上越えて燃焼するもの。
【0092】
消臭性試験
車輌内装材のアンモニアに対する消臭性能を評価した。10cm×10cmの車輌内装材試料1枚を5Lテドラー(登録商標)バッグに入れ、バッグ中の空気を脱気した。次いで、バッグにアンモニア100ppm(容量比)を含有する空気3Lを注入してから密封した。そのまま20℃で2時間放置した後、検知管を用いてアンモニアの残留濃度を測定した。また、空試験として、試料を入れることなく同様の試験を行って残留濃度を測定した。消臭率(%)を次式より算出した。
消臭率(%)={1−(試料の残留濃度)/(空試験の残留濃度)}×100
【0093】
(4)車輌内装材の作製
上述のポリウレタン樹脂水分散液、染色処理されたポリエステル繊維布帛、及び下記の4種の架橋剤を用いて車輌内装材を作製した。
架橋剤1:水分散性ポリカルボジイミド(ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとポリオキシアルキレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネートとから形成された縮合系ポリカルボジイミド)の水分散物
架橋剤2:水分散性オキサゾリン(オキサゾリニル基含有アクリルポリマー)の水分散物
架橋剤3:水分散性ポリイソシアネート(トリメチロールプロパンとポリオキシアルキレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネートとから形成された縮合系ポリイソシアネート化合物、イソシアネート基含量17質量%)の水分散物
架橋剤4:水分散性ブロックドイソシアネート(トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応により形成されるポリイソシアネートがメチルエチルケトオキシムによりブロック化されたブロック化ポリイソシアネート)の水分散物
【0094】
(撥水性が付与された車輌内装材の検討)
実施例1
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、パーフルオロアルキル基を有する撥水性重合体(クロロエチレンとクロロヒドロキシプロピルメタクリレートとN−ヒドロキシメチルアクリルアミドとステアリルアクリレートとパーフルオロアクリレートとから形成された共重合体)の20質量%乳化分散液が8質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0095】
実施例2
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤3が0.3質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、車輌内装材を作製した。
【0096】
実施例3
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、車輌内装材を作製した。
【0097】
実施例4
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤4が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃の5分間の加熱により乾燥した。その後、パーフルオロアルキル基を有する撥水性重合体(クロロヒドロキシプロピルメタクリレートとN−ヒドロキシメチルアクリルアミドとステアリルアクリレートとパーフルオロアルキルアクリレートとから形成された共重合体)の20質量%乳化分散液が8質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0098】
実施例5
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤2が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維染色布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。その後、長鎖アルキル基を有する撥水性重合体(ステアリルアクリレートとヒドロキシエチルアクリレートとから形成された共重合体)の35質量%乳化分散液が8質量%含まれるように希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0099】
実施例6
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例2で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例1と同様にして車輌内装材を得た。
【0100】
実施例7
合成例3で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例1と同様にして車輌内装材を得た。
【0101】
実施例8
合成例3で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤2が0.2質量%、架橋剤4が0.4質量%及びパーフルオロアルキル基を有する撥水性重合体(クロロエチレンとクロロヒドロキシプロピルメタクリレートとN−ヒドロキシメチルアクリルアミドとステアリルアクリレートとパーフルオロアクリレートとから形成された共重合体)の20質量%乳化分散液が8質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。その後150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0102】
比較例1
パーフルオロアルキル基を有する撥水性重合体(クロロエチレンとクロロヒドロキシプロピルメタクリレートとN−ヒドロキシメチルアクリルアミドとステアリルアクリレートとパーフルオロアクリレートとから形成された共重合体)の20質量%乳化分散液が8質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維染色布帛を絞り率60%にてパディング処理した。その後150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0103】
比較例2
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維染色布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、パーフルオロアルキル基を有する撥水性重合体(クロロエチレンとクロロヒドロキシプロピルメタクリレートとN−ヒドロキシメチルアクリルアミドとステアリルアクリレートとパーフルオロアクリレートとから形成された共重合体)の20質量%乳化分散液が8質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、ポリエステル繊維布帛を絞り率60%にて更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0104】
比較例3
ポリアクリル酸エステル乳化分散物(カセゾール(登録商標)ARS−2、日華化学(株))が3質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維染色布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、パーフルオロアルキル基を有する撥水性重合体(クロロエチレンとクロロヒドロキシプロピルメタクリレートとN−ヒドロキシメチルアクリルアミドとステアリルアクリレートとパーフルオロアクリレートとから形成された共重合体)の20質量%乳化分散液が8質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、ポリエステル繊維布帛を絞り率60%にて更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0105】
比較例4
ポリエステル樹脂乳化分散物(カセゾール(登録商標)ES−9、日華化学(株))が9質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、パーフルオロアルキル基を有する撥水性重合体(クロロエチレンとクロロヒドロキシプロピルメタクリレートとN−ヒドロキシメチルアクリルアミドとステアリルアクリレートとパーフルオロアクリレートとから形成された共重合体)の20質量%乳化分散液が8質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、ポリエステル繊維布帛を絞り率60%にて更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0106】
比較例5
ポリウレタン樹脂水分散液、架橋剤及び撥水性重合体による処理を行うことなく、染色処理されたポリエステル繊維布帛の摩擦堅牢度及び撥水性の評価を行った。
【0107】
実施例1〜8、比較例1〜4で得られた車輌内装材の摩擦堅牢度及び撥水性を評価した。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
表1に示されるように、ポリウレタン樹脂、架橋剤及び機能性材料としての撥水性重合体とを併用してポリエステル繊維布帛に付着させて得られた車輌内装材(実施例1〜8)は、優れた摩擦堅牢度を維持しつつ、優れた撥水性も同時に有することが確認できた。これに対し、撥水性重合体のみの比較例1では、比較例5と比較して摩擦堅牢度が大きく低下した。また、架橋剤を併用しなかった比較例2も摩擦堅牢度の低下防止の点で十分とは言えない。さらに、ポリアクリル酸エステル乳化分散物を用いた比較例3や、ポリエステル樹脂乳化分散物を用いた比較例4でも、摩擦堅牢度が大きく低下した。
【0110】
(難燃性が付与された車輌内装材の検討)
実施例9
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、リン系難燃性化合物(ビフェニルジフェニルホスフェート)の50質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0111】
実施例10
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤3が0.3質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例9と同様にして、車輌内装材を得た。
【0112】
実施例11
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、リン系難燃性化合物(10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド)の45質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0113】
実施例12
合成例1で得られたポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤4が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃の5分間の加熱により乾燥した。次いで、リン系難燃性化合物(ポリリン酸カルバメート)の30質量%水溶液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0114】
実施例13
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤2が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、ハロゲン系難燃剤(ヘキサブロモシクロドデカン)の45質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0115】
実施例14
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例2で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例9と同様にして、車輌内装材を得た。
【0116】
実施例15
合成例3で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、リン系難燃性化合物(レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート))の50質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0117】
実施例16
合成例3で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤2が0.2質量%、架橋剤4が0.4質量%及びリン系難燃性化合物(ビフェニルジフェニルホスフェート)の50質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0118】
比較例6
リン系難燃性化合物(ビフェニルジフェニルホスフェート)の50質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維染帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0119】
比較例7
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、リン系難燃性化合物(ビフェニルジフェニルホスフェート)の50質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0120】
比較例8
ポリアクリル酸エステル乳化分散物(カセゾール(登録商標)ARS−2、日華化学(株))が3質量%、架橋剤1が0.2質量%、架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、リン系難燃性化合物(ビフェニルジフェニルホスフェート)の50質量%水分散液が5質量%含まれるように希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0121】
比較例9
ポリエステル樹脂乳化分散物(カセゾール(登録商標)ES−9、日華化学(株))が9質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、リン系難燃性化合物(ビフェニルジフェニルホスフェート)の50質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0122】
比較例10
染色処理されたポリエステル繊維布帛について、ポリウレタン樹脂、架橋剤及び難燃剤による処理を行うことなく、摩擦堅牢度及び難燃性の評価を行った。
【0123】
実施例9〜16、比較例6〜10で得られた車輌内装材の摩擦堅牢度及び燃焼性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
表2に示されるように、ポリウレタン樹脂、架橋剤、及び機能性材料としての難燃剤を併用してポリエステル繊維布帛に付着させて得られた車輌内装材(実施例9〜16)は、優れた摩擦堅牢度を維持しつつ、優れた難燃性も同時に有することが確認できた。これに対し、難燃剤のみでポリエステル繊維布帛を処理した比較例6では摩擦堅牢度の低下が極めて大きかった。また、架橋剤を併用しなかった比較例7は、摩擦堅牢度の低下が十分に防止されていなかった。さらに、ポリアクリル酸エステル乳化分散物を用いた比較例8やポリエステル樹脂乳化分散物を用いた比較例9では、摩擦堅牢度が大きく低下した。ポリアクリル酸エステル乳化分散物を用いた比較例8は難燃性も十分でなかった。
【0126】
(消臭性が付与された車輌内装材の検討)
実施例17
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%及び架橋剤1が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、臭気成分を吸着する無機材料(二酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化亜鉛との複合物)の15質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0127】
実施例18
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%及び架橋剤3が0.3質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例17と同様にして、車輌内装材を得た。
【0128】
実施例19
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例17と同様にして、車輌内装材を得た。
【0129】
実施例20
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤4が0.4質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例17と同様にして、車輌内装材を得た。
【0130】
実施例21
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤2が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例17と同様にして、車輌内装材を得た。
【0131】
実施例22
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例2で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例17と同様にして、車輌内装材を得た。
【0132】
実施例23
架橋剤として架橋剤1のみを含む処理液に代えて、合成例3で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いたこと以外は実施例17と同様にして、車輌内装材を得た。
【0133】
実施例24
合成例3で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%、架橋剤2が0.2質量%、架橋剤4が0.4質量%、及び臭気成分を吸着する無機材料(二酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化亜鉛との複合物)の15質量%水分散液が5質量%含まれるように希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0134】
比較例11
臭気成分を吸着する無機材料(二酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化亜鉛との複合物)の15質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0135】
比較例12
合成例1で得たポリウレタン樹脂の水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、臭気成分を吸着する無機材料(二酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化亜鉛との複合物)の15質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0136】
比較例13
ポリアクリル酸エステル乳化分散物(カセゾール(登録商標)ARS−2、日華化学(株))が3質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、臭気成分を吸着する無機材料(二酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化亜鉛との複合物)の15質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0137】
比較例14
ポリエステル樹脂乳化分散物(カセゾール(登録商標)ES−9、日華化学(株))が9質量%、架橋剤1が0.2質量%及び架橋剤3が0.2質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて、染色処理されたポリエステル繊維布帛を絞り率60%にてパディング処理した。パディング処理されたポリエステル繊維布帛を150℃で5分間の加熱により乾燥した。次いで、臭気成分を吸着する無機材料(二酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化亜鉛との複合物)の15質量%水分散液が5質量%含まれるように水で希釈された処理液を用いて絞り率60%にてポリエステル繊維布帛を更にパディング処理し、続いて150℃で5分間の加熱により乾燥して、車輌内装材を得た。
【0138】
比較例15
染色処理されたポリエステル繊維布帛について、ポリウレタン樹脂、架橋剤、及び消臭性化合物による処理を行うことなく、摩擦堅牢度及び消臭性の評価を行った。
【0139】
実施例17〜24、比較例11〜15で得られた車輌内装材の摩擦堅牢度及び消臭性を評価した。結果を表3に示す。
【0140】
【表3】

【0141】
表3に示されるように、ポリウレタン樹脂、架橋剤、及び機能性材料としての消臭性化合物を併用してポリエステル繊維染色布帛に付着させて得られた車輌内装材(実施例17〜24)は、優れた摩擦堅牢度を維持しつつ、優れた消臭性も同時に有することが確認できた。これに対し、消臭性化合物のみを用いて処理した比較例11では未処理品(比較例15)からの摩擦堅牢度の低下が大きかった。また、架橋剤を併用しなかった比較例12は摩擦堅牢度の低下が十分に抑制されなかった。さらに、ポリアクリル酸エステル乳化分散物を用いた比較例13やポリエステル樹脂乳化分散物を用いた比較例14では、摩擦堅牢度が大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明により提供されるポリエステル繊維布帛を有する車輌内装材は、自動車等の車輌におけるカーシート、ドア張り材、天井材等の車輌内装材として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及びこれに溶解又は分散した処理剤を含有する処理液を染色処理されたポリエステル繊維布帛に付着させ、当該ポリエステル繊維布帛に付着した前記処理液を乾燥することによりポリエステル繊維布帛を処理する工程を備え、
前記処理剤として、
ポリウレタン樹脂と、
ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤と、
ポリエステル繊維布帛に所定の機能を付与する機能性材料と、を併用する、ポリエステル繊維布帛を処理する方法。
【請求項2】
前記水分散性ポリウレタン樹脂が、イソシアネート基末端プレポリマーを鎖延長剤と水中で反応させて得られる水分散性ポリウレタン樹脂であり、
前記イソシアネート基末端プレポリマーが、(a)有機ポリイソシアネート化合物と(b)400〜5000の数平均分子量を有する高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物とから得られるプレポリマーであり、
前記鎖延長剤が、水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記イソシアネート基末端プレポリマーが、(a)有機ポリイソシアネート化合物と(b)400〜5000の数平均分子量を有する高分子量ポリオールと(c)カルボキシル基又はカルボキシレート基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物と(d)鎖伸長剤とから得られるプレポリマーである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記高分子量ポリオールが、ポリカーボネートジオール及び/または芳香族系ポリエステルジオールを含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記所定の機能が、撥水性、難燃性及び消臭性からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法によりポリエステル繊維布帛に所定の機能を付与する工程を備える、ポリエステル繊維布帛を有する車輌内装材の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法により得られる車輌内装材。

【公開番号】特開2008−163503(P2008−163503A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352498(P2006−352498)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】