説明

ポリエステル繊維構造体

【課題】低収縮率であり高温引張強力の低い、加熱成型時の寸法安定性および成型性を両立したポリエステル繊維構造体を提供すること。
【解決手段】本発明のポリエステル繊維構造体は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂5〜95質量%とポリエチレンテレフタレート樹脂95〜5質量%を混練してなるポリエステル繊維を一部または全部用いた繊維構造体であって、その繊維の融点ピークが210〜220の1ピークのポリエステル繊維構造体であり、その繊維構造体の高温時の引張強度保持率は、タテ67%以下、ヨコ82%以下であり、その繊維構造体はニードルパンチ不織布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低収縮率で高温時の引張強力の低減を達成することができるポリエステル繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の大量消費によって生じる地球温暖化や、大量消費に伴う石油資源の枯渇が懸念されており、地球規模において環境に対する意識が高まりつつある。このような背景において、環境負荷の低い材料が要望されている。
【0003】
上記の要求特性を満足させるために、従来から使用されているポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレンテレフタレート繊維以外に、ポリ乳酸繊維やポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維を使用した布帛の検討がなされている。
【0004】
環境負荷の低い材料のなかでもポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維は、初期引張抵抗度が低いことから、不織布の風合いが柔らかく布帛用材料としても注目すべきものである。
【0005】
特に、内装資材用途や衣料用途において、不織布としての役割を果たすために、風合いと通気度に優れた不織布が必要となる。
【0006】
しかしながら、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を用いた布帛は、収縮率が高いことから、布帛にしたときの寸法安定性に課題があった。
【0007】
一方、ポリエチレンテレフタレート繊維は、収縮率が低く、寸法安定性に優れた布帛を得ることができ、衣料用途から産業資材用途まで広範に用いられている。しかしながら、ポリエチレンテレフタレート繊維は、高温雰囲気下での引張強力保持率が高いことから、高温時の寸法安定性を求められる用途では優れているが、車両内装材やインテリア資材等で加熱成型を行う用途においては、表皮破れや材料破壊に繋がることがあり、改善が求められていた。
【0008】
従来、これらの課題を解決するために、芯部がポリエチレンテレフタレートで、鞘部にポリトリメチレンテレフタレートを用いた芯鞘複合繊維が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この提案では、収縮率の低いポリエチレンテレフタレートを芯部として用いることにより、収縮率は改善されるが、芯部にポリエチレンテレフタレートが存在するため、高温時の引張強力保持率は、ポリエチレンテレフタレート繊維に近く、成型性が改善されているとは言えないのが実情であった。
【0009】
また、芯部が、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートとが溶融混合したポリエステルであり、鞘部が、ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルである芯鞘複合構造を有する短繊維が提案されている(特許文献2参照。)。ここで提案されている繊維は、ソフトな風合い、防透け性、接触冷感性および染色性を有しているが、芯部にポリトリメチレンテレフタレートを使用しており、繊維の収縮率の抑制という観点ではなお不十分な点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−154374号公報
【特許文献2】特開2009−197339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明の目的は、低収縮率であり高温引張強力が低く、かつ加熱成型時の寸法安定性と成型性を両立したポリエステル繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記従来の方法では達成できなかった課題を解決せんとするものであって、本発明のポリエステル繊維構造体は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂5〜95質量%とポリエチレンテレフタレート樹脂95〜5質量%を混練してなるポリエステル繊維を一部または全部用いた繊維構造体であって、前記繊維の融点ピークが210〜220の1ピークであることを特徴とするポリエステル繊維構造体である。
【0013】
本発明のポリエステル繊維構造体の好ましい態様によれば、前記の繊維構造体の高温時の引張強度保持率は、タテが67%以下でありヨコが82%以下である。
【0014】
本発明のポリエステル繊維構造体の好ましい態様によれば、前記の繊維構造体はニードルパンチ不織布である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低収縮率であり高温引張強力の低いポリエステル繊維構造体を得ることができる。このため、加熱成型を行う材料の車両内装材およびインテリア資材等へ好適に用いることができる。また、加熱成型時の寸法変化が少なく、繊維の熱融着や毛倒れの少ない布帛を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、上記従来の方法では達成できなかった課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂5〜95質量%とポリエチレンテレフタレート樹脂95〜5質量%を混練してなるポリエステル繊維を一部または全部用いた繊維構造体であって、繊維の融点ピークが210〜220の1ピークであることを特徴とするポリエステル繊維構造体とすることにより、課題であった収縮率と高温時の引張強力の低減が達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
本発明で用いられるポリトリメチレンテレフタレート樹脂(以下、PTT樹脂と記載することがある。)とは、1,3−トリメチレングリコール成分と、テレフタル酸成分から構成される繰り返し単位(トリメチレンテレフタレート単位)を含むポリエステルであり、グリコール成分に炭素数3個のメチレン鎖を有することにより、伸長変形に対して結晶構造自身が伸縮するという特徴を有する。
【0018】
トリメチレンテレフタレート単位を構成する1,3−トリメチレングリコールとしては、バイオマス材料由来のものであることが、低環境負荷の点から好ましい。
【0019】
本発明において、PTT樹脂は、トリメチレンテレフタレート単位以外に、他の成分を共重合していてもよいが、PTT樹脂の特徴を活かす上では、トリメチレンテレフタレート単位が90モル%以上であることが好ましく、トリメチレンテレフタレート単位はより好ましくは92モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0020】
PTT樹脂に共重合される成分として、ジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸および5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分や、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸およびエイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分等を用いることができる。
【0021】
また、PTT樹脂に共重合される成分としてのグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコールおよび2,2’ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。
【0022】
これらの共重合成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
また、PTT樹脂には、目的に応じて、他のポリマー、艶消し剤、粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤および紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
【0024】
また、PTT樹脂には通常、2つのトリメチレンテレフタレートが環状に連結されたダイマー(以下、「環状ダイマー」と記載することがある。)が存在しうるが、PTT樹脂中の環状ダイマーの含有量としては3質量%以下が好ましく、環状ダイマーの含有量はより好ましくは2.5質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。PTT樹脂中の環状ダイマーの含有量を3質量%以下に抑えることにより、PTT樹脂の耐加水分解性を向上させることができる。環状ダイマーと加水分解性との関係としては、環状ダイマーが加水分解によりトリメチレンテレフタレートモノマーとなり、当該モノマーによる触媒作用により、加水分解が促進されるものであると推測される。
【0025】
PTT樹脂の固有粘度は、0.8〜2dl/gであることが好ましく、より好ましくは1〜1.8dl/gであり、さらに好ましくは1.2〜1.6dl/gである。PTT樹脂の固有粘度を0.8dl/g以上とすることにより、PTT樹脂の分子配向が向上し、捲縮糸の弾性回復性および弾性回復の堅牢度が向上する。一方、PTT樹脂の固有粘度を2dl/g以下とすることにより、溶融紡糸時の急激な分子量低下を抑え、ポリマーの溶融流動の不安定化による複合紡糸の不安定化等を抑えることができる。
【0026】
固有粘度の測定方法は、試料0.8gに、o−クロロフェノール(以下OCPと略記する)10mlを添加し、160℃、30分間で溶解した後、徐冷し測定溶液を得た。当該測定溶液について、25℃の温度にてオストワルド粘度計を用いて、相対粘度ηを次式により求め、固有粘度を次々式により算出する。
η=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度=0.0242η+0.2634
ここに、η:測定溶液の粘度
η:OCPの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm
:OCPの落下時間(秒)
:OCPの密度(g/cm)。
【0027】
本発明で用いられるPTT樹脂と混練するポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETと記載することがある。)は、エチレンテレフタレート単位を含むポリエステルであり、エチレンテレフタレート単位以外に、他の成分を共重合していることも好ましい態様である。かかる共重合成分としては、例えば、イソフタル酸やビスフェノールA等を挙げることができる。共重合量は、PET樹脂の流動性を高める上では、0.1モル%以上であることが好ましい。一方、PTT樹脂の遅延回復を抑える上では、共重合量は10モル%以下とすることが好ましい。また、PET樹脂には、目的に応じて、他のポリマー、艶消し剤、粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤および紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
【0028】
PET樹脂の固有粘度は、0.4〜0.6dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.43〜0.56dl/gであり、さらに好ましくは0.46〜0.53dl/gである。PET樹脂の固有粘度を0.6dl/g以下とすることにより、PTT樹脂との安定した複合紡糸や複合繊維の形成を達成することができる。一方、PET樹脂の固有粘度を0.4dl/g以上とすることにより、耐熱性、強度および耐加水分解性等を維持することができる。 また、環境負荷低減、製造時の温室効果ガス排出量低減を目的としてペットボトルや、繊維、フィルム屑を用いたマテリアルリサイクル品や衣料品などを化学的モノマーまで分解して、再重合したケミカルリサイクル品などを用いても良い。
【0029】
固有粘度の測定方法は、PTTの測定方法と同様に、試料0.8gに、o−クロロフェノール(以下OCPと略記する)10mlを添加し、160℃、30分間で溶解した後、徐冷し測定溶液を得た。当該測定溶液について、25℃の温度にてオストワルド粘度計を用いて、相対粘度ηを次式により求め、固有粘度を次々式により算出する。
η=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度=0.0242η+0.2634
ここに、η:測定溶液の粘度
η:OCPの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm
:OCPの落下時間(秒)
:OCPの密度(g/cm)。
【0030】
次に、PTTとPETを混練したときの効果について述べる。
【0031】
本発明のポリエステル繊維構造体に用いられるポリエステル繊維は、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂5〜95質量%とポリエチレンテレフタレート樹脂95〜5質量%を混練して得られるものであり、好ましくは220〜285℃の温度で溶融混練した樹脂を繊維化することにより得ることができる。ポリトリメチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂の好ましい混練割合は、PTT樹脂80〜20質量%とPET樹脂20〜80質量%であり、より好ましくはPTT樹脂70〜30質量%、PET樹脂30〜70質量%である。
【0032】
PTT樹脂とPET樹脂を別々のホッパーから1軸又は2軸エクストルーダー内に投入して温度220〜285℃で2〜7分間で溶融混練することにより、PTT樹脂のエステル基とPET樹脂のエステル基が交換反応を起こし、完全に相溶化することから、均一な繊維を得ることができる。
【0033】
そのため、PTT樹脂とPET樹脂を溶融混練したポリエステル繊維の融点ピークは、210〜220℃に1つのみピーク山が出現する。(株)島津製作所製示差走査型熱量計DSC−60型を用い、試料2mg、窒素中、昇温速度10℃/分、300℃の温度まで昇温させたときの最大融解発熱ピーク温度を融点(T)とした。
【0034】
融点ピークが210〜220℃の範囲にあることにより、成型時に繊維融着や毛倒れの少ない、布帛を得ることが可能になる。融点ピークは、PETの割合が高くなると高くなる傾向にあり、PTTの割合が高くなると低くなる傾向にある。
【0035】
また、完全相溶化とは、PTT樹脂とPET樹脂のエステル基がほとんど全てエステル交換反応を起こし、DSCピークが1ピークとなることである。相溶化していない、芯鞘複合糸や非相溶化樹脂によるアロイ繊維等は、DSCピークが2ピークであり、各成分を繊維断面から確認することができるが、完全相溶化した繊維は、DSCピークが1ピークであり、また、繊維断面は均一であり断面写真から、各成分を確認することはできない。
【0036】
本発明のポリエステル繊維構造体は、PTT樹脂とPET樹脂が完全相溶化したポリエステル繊維を用いることにより、品質にバラツキの少ない繊維を得ることができる。また、PET樹脂とPTT樹脂は、完全相溶化することにより、PET樹脂の融点である255〜260℃やPTT樹脂の融点である220〜230℃よりも、樹脂の融点が低温にシフトする。このことから、軟化点も低温にシフトし、加熱時に樹脂が物理的な力により変形しやすくなり、成型性に優れた繊維構造体を得ることができる。
【0037】
次に、本発明で用いられるポリエステル繊維の特徴についてについて述べる。
【0038】
本発明で用いられるポリエステル繊維は、長繊維でも短繊維でも良く、使用するポリエステル繊維構造体に適した繊維を用いることができる。例えば、繊維構造体が丸編やトリコットの場合は、生産性および布帛の品質安定性の観点から、長繊維が好ましく用いられる。また、繊維構造体が不織布の場合、スパンボンド等の長繊維不織布は紡糸した後に直接布帛化するが、スパンレースやニードルパンチ等の不織布には、短繊維が用いられる。
【0039】
本発明で用いられるポリエステル繊維の単繊維繊度は、0.5〜30dtexであることが好ましい。単繊維繊度はより好ましくは1.0〜15dtexであり、さらに好ましくは1.5〜7dtexである。
【0040】
単繊維繊度を1.5dtex以上とすることにより、編立時やカード通過時の糸(繊維)切れを抑制することができ、表面品位に優れた布帛を得ることができる。また、単繊維繊度を7dtex以下とすることにより、布帛の風合いが堅くなるのを抑えることができる。
【0041】
本発明で用いられるポリエステル繊維の繊維強度は、1.5〜9.0cN/dtexであることが好ましい。繊維強度を1.5cN/dtex以上とすることにより、編立時やカード通過時の糸(繊維)切れを抑制することができ、表面品位に優れた布帛を提供することができる。また、繊維強度が9.0cN/dtex以上の繊維は、通常の繊維工程から得ることは難しい。
【0042】
本発明で用いられるポリエステル繊維の伸度は、50〜150%の範囲であることが好ましい。伸度が50%未満の場合、布帛の風合いが硬くなる傾向がある。一方、伸度が150%を超えるものは、カード通過時にネップが発生しやすくなるため表面品位に劣るものとなる傾向がある。
【0043】
本発明で用いられるポリエステル繊維が長繊維であれば、仮撚加工されていてもよく、仮撚加工の方法としては、ピン、フリクション、ニップベルトおよびエアー加撚等いずれの方法でもよい。加熱ヒーターは、接触式および非接触式いずれでもよい。
【0044】
また、本発明で用いられるポリエステル繊維が短繊維であれば、そのカット長は、布帛など繊維構造体に合わせて任意に決定することができるが、優れた混紡性を備える上で、繊維長は10〜100mmであることが好ましい。繊維長はより好ましくは30〜80mmである。繊維長が10mm未満の場合、繊維同士の絡合力が小さくなりカード通過が難しくなる傾向がある。また、繊維長が100mmを超えるとカード通過時にネップが発生しやすく、表面品位に劣るものとなる傾向がある。
【0045】
本発明で用いられるポリエステル繊維の捲縮数は、5〜25個/25mm、好ましくは、8〜20個/25mm、さらに好ましくは10〜18個/25mmであることが好ましく、この範囲であれば繊維同士の絡合に問題なく風合いのよいニードルパンチ不織布を得ることができる。捲縮数が5個/25mm未満であると繊維の絡合が不十分であり、カード通過後の積層工程でウエッブの素抜けが発生することがある。また、捲縮数が25個/25mmを超えると、ネップが発生しやすく表面品位に劣るものとなる傾向がある。
【0046】
また、捲縮度は5〜25%、好ましくは、8〜20%、さらに好ましくは、10〜18%のものであれば、工程通過性と表面品位を両立した不織布を得ることができる。捲縮度が5%未満になると繊維の絡合が不十分であり、カード通過後の積層工程でウエッブの素抜けが発生することがある。また、捲縮度が25%を超えると、ネップが発生しやすく表面品位に劣るものとなる傾向がある。
【0047】
また、捲縮度を捲縮数で除した度数比は、0.3〜3.0、好ましくは、0.5〜2.0、さらに好ましくは、0.8〜1.5の範囲であると、ニードルパンチ工程での繊維の絡合が均一となり、表面品位が平滑な不織布を得ることができる。
【0048】
度数比が大きいと、繊維に付与されている捲縮のウェーブが大きくなることを意味する。
【0049】
また、度数比が小さいと捲縮に付与されている捲縮のウェーブが小さいことを意味する。度数比が3.0を超えると、捲縮ウェーブが大きくなりすぎることから、繊維が著しく絡合しにくくなり、カード通過性が悪化する。また、0.3より小さくなると、捲縮のウェーブが小さくなりすぎることから、カード紡出性が低下し、ネップやカード巻き付き等の工程不具合が発生しやすくなる。 ポリエステル繊維の収縮率は、沸騰水収縮率であれば、好ましくは5〜20%であり、より好ましくは5〜15%である。また、繊維の乾熱収縮率は、150℃の温度において、好ましくは0〜3%であり、より好ましくは0〜2%である。
【0050】
ポリエステル繊維の断面形状としては、丸断面、中空断面、多孔中空断面、三葉断面(三角断面、Y断面、T断面など)や四葉断面(X断面)等の多葉断面、扁平断面およびW断面等を採用することが可能である。
【0051】
本発明で用いられるポリエステル繊維には、平滑剤を含有する紡糸油剤が付与されていることが好ましい。平滑剤としては、例えば、脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、ポリエーテル、シリコーンおよび鉱物油等が挙げられる。また、これらの平滑剤は単一成分で用いても良いし、複数の成分を混合して用いても良い。
【0052】
短繊維に上記のような平滑剤を含有させた油剤を付与することによって、短繊維の滑り性はさらに向上し、紡糸や延伸をはじめ、カードや紡績での工程通過性および得られる短繊維自体の捲縮斑や毛羽等の品位を向上させるとともに、短繊維の開繊性や繊維構造体中での短繊維の分散性をさらに向上させることができる。また、その平滑剤の付着量は、0.1〜2質量%であることが、カード通過性および不織布制作時の生産性がよく好ましい態様である。平滑剤の付着量は、より好ましくは0.2〜0.7質量%である。
【0053】
本発明では、油剤を構成する成分は、平滑剤に加えて、油剤を水に乳化させ低粘度化して繊維や糸条への付着や浸透性を向上させる乳化剤、また必要に応じて帯電防止剤、イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤あるいは酸化防止剤を適宜配合したものを使用することができる。
【0054】
次に、本発明のポリエステル繊維構造体の態様について述べる。
【0055】
本発明のポリエステル繊維構造体の代表としては、(繊維)布帛が挙げられる。本発明においてポリエステル繊維構造体として用いられる(繊維)布帛としては、織物、編物および不織布等が挙げられるが、成型性の観点からは、編物と不織布が好ましく用いられる。さらに好ましい布帛としては、深絞り成型に用いられる布帛として、不織布、特にニードルパンチ不織布が挙げられる。
【0056】
その他、本発明のポリエステル繊維構造体として、組紐、撚紐、テープ紐、レース、タッセル(房)やストラップベルトなどのひも類や、植生ベルト、固定ベルト、シートベルト等のベルト類、漁網、防獣、防鳥、防虫ネット、捕虫網、植生ネット、養生ネット等の網類、紙類、そしてプラスチック基材等に静電植毛した植毛製品などが挙げられる。
【0057】
本発明において、ポリエステル繊維構造体として丸編編物を選択する場合、編機として、横編機や丸編機等を使用して編成することができ、編機として、シングルおよびダブルを使用することができる。
【0058】
編み組織としては、例えば、ポンチローマ、モックロディ、スムース等のダブル丸編機、天竺および鹿の子等のシングル丸編地の編組織を使用することができる。
【0059】
本発明において、丸編編物に、吸湿、吸水、抗菌、防臭、速乾および難燃などの機能を付与することも好ましい態様である。機能付与の方法としては、例えば、ディップ−ニップ方式やスプレー方式等を挙げることができる。また、捺染等の方法により図柄をプリントしても良い。
【0060】
本発明において、ポリエステル繊維構造体として経編物を選択する場合、その組織形態としては、例えば、4枚筬ではフロント糸の筬2枚の組織を4−5/1−0、4−5/1−0、バック糸の筬2枚の組織を1−0/1−2、1−0/1−2とするもの、3枚筬では、フロント糸の組織を4−5/1−0、ミドル糸の組織を1−0/1−2、バック糸の組織を1−0/1−2とするもの、2枚筬ではフロント糸の組織を2−3/1−0、バック糸の組織を1−0/1−2とするものや、フロント糸の組織を3−4/1−0、バック糸の組織を1−0/1−2とするものを挙げることができる。
【0061】
本発明において、ポリエステル繊維構造体として、公知の繊維を混繊しても良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維やナイロン繊維などの合成繊維の長繊維と本発明のポリエステル繊維を混繊して使用することができる。
【0062】
混繊の方法としては、仮撚りや撚糸時に混繊する方法や、経編物や丸編物の場合では、表部分に本発明のポリエステル繊維を用い、裏部分にポリエチレンテレフタレートやナイロン長繊維などを用いて、混繊する方法も可能である。
【0063】
本発明において、丸編および経編編物を起毛することができる。起毛方法としては、針布起毛やエメリー起毛等を挙げることができる。
【0064】
また、仕上加工については、繊維構造体に吸湿、吸水、抗菌、防臭、速乾および難燃などの機能を付与することも好ましい態様である。機能付与の方法としては、例えば、ディップ−ニップ方式やスプレー方式等を挙げることができる。また、捺染等の方法により図柄をプリントしても良い。
【0065】
本発明において、ポリエステル繊維構造体として不織布を選択する場合、その製造手段としてスパンボンド法、メルトブロー法、スパンレース法およびニードルパンチ法などの方法が用いられる。特に、加熱成型に適したポリエステル繊維構造体を得る方法としては、ニードルパンチ法が挙げられる。ニードルパンチ不織布は、例えば、次のようにして得られる。まず、ポリエステル繊維を所定の割合に混綿し、カード機でカーディングを行った後、クロスラッパーを用いてウエッブを積層し、所定の目付に合わせる。その後、ニードルパンチ機でウエッブをパンチングし、短繊維同士を絡合させ不織布を得る。
【0066】
この際、積層するウエッブの量は、8枚〜30枚が好ましい。ウエッブの量が8枚未満では不織布の目付ムラが大きくなり、不織布の表面品位が悪化する傾向があり、ウエッブの量が30枚を超えると、生産性が悪くなる傾向がある。また、パンチングを作成する際、針の番手は#36〜#42番、針本数は300〜700本/cmが好ましく、表面品位や風合いに優れたニードルパンチ不織布を得ることができる。
【0067】
ポリエステル繊維構造体の製造手段として、スパンレース法やニードルパンチ法を使用する際、本発明で用いられるポリエステル繊維に他の繊維を混綿してもよい。例えば、コットン、ウールおよび麻などの天然繊維や、レーヨンなどの半合成繊維、そして、ポリエチレンテレフタレートやナイロンなどの合成繊維を混綿して使用することができる。加熱成型性を損なわない範囲であれば、前記の他の繊維を2種以上混綿しても良い。混綿比率としては、例えば、本発明で用いられるポリエステル繊維を好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上混綿することができる。
【0068】
本発明のポリエステル繊維構造体は、130℃の温度の雰囲気下における収縮率がタテ1.5%未満、ヨコ2.0%未満であることが好ましい。130℃の温度の雰囲気下における収縮率は、より好ましくはタテ1.3%未満、ヨコ1.8%未満である。
【0069】
加熱時の収縮率は、低ければ低いほど、寸法変化が小さくなり成型後の反り変形が小さくなる。逆に、収縮率が、タテ、ヨコともに2.5%以上になると、成型後の反りや変形が大きいことから、成型用布帛として使用することが難しくなる。
【0070】
本発明のポリエステル繊維構造体は、高温時引張強力が小さいことから、加熱成型時に伸びやすく成型性のよい布帛を得ることができる。その際の引張強力保持率は、130℃の温度において、タテ67%以下、ヨコ82%以下であることが好ましい。引張強力保持率は、より好ましくはタテ65%以下、ヨコ65%であり、さらに好ましくはタテ55%以下、ヨコ65%以下である。
【0071】
また、本発明のポリエステル繊維構造体には、本発明で用いられるポリエステル繊維が一部に使用されていれば良い。例えば、不織布の場合、本発明で用いられるポリエステル繊維とその他の公知の繊維を混綿し用いることができる。また、長繊維加工糸であれば、本発明で用いられるポリエステル繊維と公知の繊維を仮撚した後に、混繊し混繊糸とする方法や、長繊維編物であれば、フロント糸に本発明で用いられるポリエステル繊維を用い、バック糸に公知の繊維を使用することや、その逆も可能である。さらには、トリコット編物であれば、本発明で用いられるポリエステル繊維と公知の繊維を一本交互に整経し編立することや、織物であれば、タテ糸に本発明で用いられるポリエステル繊維を用い、ヨコ糸に公知の繊維を用いることや、またその逆も可能である。
【0072】
本発明のポリエステル繊維構造体は、加熱時に引張強力が小さくなることから、加熱整形時に布帛が伸びやすく、良好な成型性を得ることができる。
【0073】
本発明のポリエステル繊維構造体は、車両内装用途およびインテリア資材用途に好適に用いることができる。特に、本発明のポリエステル繊維構造体は、車両内装用途における天井表皮、フロアカーペット、ラゲージ表皮、リアパーセルおよびシートバックや、インテリア資材用途におけるダストコントロールマットおよびタイルカーペット等、加熱成型をする分野に好適に使用することができる。
【実施例】
【0074】
[測定方法]
(1)単繊維繊度
JIS L 1015(1999) 8.5.1 A法に基づき、試料を金ぐしで平行に引きそろえ、これを切断台上においたラシャ紙の上に載せ、適度の力でまっすぐにはったままゲージ板を圧着し、安全かみそりなどの刃で30mmの長さに切断し、繊維を数えて300本を一組とし、その質量を量り、見掛繊度を求める。この見掛繊度と別に測定した平衡水分率とから、次の式によって正量繊度(dtex)を算出し、5回の平均値を求めた。
=D’×{(100+R)/(100+R)}
:正量繊度(dtex)
D’:見掛繊度(dtex)
:公定水分率(0.4)
:平衡水分率。
【0075】
(2)繊維長
JIS L 1015(1999) 8.4.1 A法に基づき、試料を金ぐしに平行に引きそろえ、ペア形ソーターでステープルダイヤグラムを約25cm幅に作成する。作成の際、繊維を全部ビロード板上に配列するためにグリップでつかんで引き出す回数は、約70回とする。この上に目盛りを刻んだセルロイド板を置き、方眼紙上に図記する。この方法で図記したステープルダイヤグラムを50の繊維長群に等分し、各区分の境界及び両端の繊維長を測定し、両端繊維長の平均に49の境界繊維長を加えて50で除し、平均繊維長(mm)を算出した。
【0076】
(3)強度、伸度
JIS L 1015(1999) 8.7.1に基づき、空間距離20mm、繊維を一本ずつ区分線に緩く張った状態で両端を接着剤ではり付けて固着し、区分ごとを1試料とする。試料を引張試験器のつかみに取り付け、上部つかみの近くで紙片を切断し、つかみ間隔20mm、引張速度20mm/分の速度で引っ張り、試料が切断したときの荷重(N)及び伸び(mm)を測定、次の式により引張強さ(cN/dtex)及び伸び率(%)を算出した。
=SD/F
:引張強さ(cN/dtex)
SD:破断時の荷重(cN)
:試料の正量繊度(dtex)
S={(E−E)/(L+E)}×100
S:伸び率(%)
:緩み(mm)
:切断時の伸び(mm)又は最大荷重時の伸び(mm)
L:つかみ間隔(mm)。
【0077】
(4)捲縮数
JIS L 1015(1999) 8.12.1に基づき、上記(3)の強度と伸度と同じ方法により区分線を作り(ただし、空間距離は25mmとした)、これに捲縮が損なわれていない数個の部分から採取した試料を1本ずつ、空間距離に対して25±5%の緩みをもたせて、両端を接着剤ではり付け固着させる。この試料を1本ずつ、捲縮試験機のつかみに取り付け、紙片を切断した後、試料に初荷重(0.18mN×表示テックス数)をかけたときのつかみ間の距離(空間距離)(mm)を読み、そのときの捲縮数を数え、25mm間当の捲縮数を求め、20回の平均値を求めた。
【0078】
(5)捲縮度
JIS L 1015(1999) 8.12.2に基づき、試料に初荷重(0.18mN×表示テックス数)かけたときの長さと、これに荷重(4.41mN×表示テックス数)をかけたときの長さを測り、次式によって算出した。
={(b−a)/b}×100
:捲縮度(%)
a:初荷重をかけたときの長さ(mm)
b:4.41mN×テックス数をかけたときの長さ(mm)。
【0079】
(6)乾熱収縮率
JIS L 1015(1999) 8.15に基づき、上記(3)の強度と伸度と同じ方法により区分線を作り(ただし、空間距離は25mmとした)、初荷重をかけたときの距離(mm)を読む。
【0080】
試料を装置から取り外し、150℃の温度の乾燥機中につり下げ、30分間放置後取り出し、室温(20℃)まで冷却後、再び装置に取り付け初荷重をかけたときのつかみ間の距離を読み次式によって乾熱収縮率を測定した。
={(L−L’)/L}×100
:乾熱収縮率(%)
L:処理前の初荷重をかけたときのつかみ間の距離(mm)
L’:処理後の初荷重をかけたときのつかみ間の距離(mm)。
【0081】
(7)引張強力
JIS L 1913(1999) 6.3.1に基づき、インストロン型引張試験機を用い、幅30mm、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/分の条件で試験片が切断するまで荷重を加え、試験片の最大荷重時の強さgを0.1N単位で測定し、5回の平均値から算出した。
【0082】
(8)高温雰囲気下での引張強力および引張強力保持率
試験片を130℃の温度の雰囲気下で1分間放置した後、上記(7)の引張強力と同様にして、引張強力(g)を測定した。
【0083】
その後、(7)の引張強力データから、次式を用いて引張強力保持率を算出した。
【0084】
引張強力保持率(%)=(g/g)×100
(9)目付
JIS L 1913(1999) 6.2に基づき、25cm×25cmの試験片3枚を採取し、それぞれの標準状態における質量(g)を量り、次の式によって、1m当たりの質量(g/m)を求め、次式により目付の平均値を算出した。
=W/A
:目付(g/m
W:標準状態における試験片の質量(g)
A:試験片の面積(m)。
【0085】
(10)収縮率
JIS L 1906(1999) 5.9.1に基づき、試料から25cm×25cmの試験片を3枚採取し、試験片にタテヨコそれぞれ20cmの長さを表す印を付けた。恒温乾燥機を用い、130度×3分間試験器内に放置し、取り出して室温まで冷却した。その後、タテヨコの長さを0.1mmまで測定し、次式によって収縮率を算出した。
ΔL={(L−L’)/L}×100
ΔL:収縮率(%)
L:加熱前の試験片の3線の長さ合計(mm)
L’:加熱後の試験片の3線の長さ合計(mm)。
【0086】
(11)融点(℃)
(株)島津製作所製示差走査型熱量計DSC−60型を用い、試料2mg、窒素中、昇温速度10℃/分、50〜300℃の温度まで昇温させたときの最大融解発熱ピーク温度を融点(T)とした。
【0087】
(12)成型性
50cm×50cmの布帛を用い、遠赤外線ヒーターで、表皮裏面を180℃の温度まで加熱し、その後、金型にて冷間プレスを実施し、成型品の外観を評価した。外観評価により、型の転写状態が良好で、成型後の変形がなく、外観が非常に良好なものを(◎)とし、成型品として問題無いものを(○)とし、表皮のスケ、破れ、変形がやや見られものを(△)とし、表皮スケや破れ、変形が見られるものを不良(×)として評価した。本発明では、(◎)と(○)を合格とし、(△)と(×)を不合格とした。
【0088】
[参考例1]
(紡糸)
固有粘度1.5g/dlのポリトリメチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.5g/dlのポリエチレンテレフタレート樹脂を、表1に記載の比率で2軸のベント型エクストルーダーを用いて混練し、紡糸温度250℃で繊維状に吐出させた。吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1000m/分で未延伸糸サブトウを得た。得られたサブトウを所定本数(54本)束ねて、延伸倍率3.0倍にて延伸し、140℃×20分弛緩熱処理を加えた後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が6.6dtexで、繊維長が51mmの短繊維1〜4を得た。得られた4種類の短繊維1〜4の物性を表1に示す。
【0089】
[参考例2]
(紡糸)
固有粘度1.5g/dlのポリトリメチレンテレフタレート樹脂と、固有粘度0.5g/のポリエチレンテレフタレート樹脂を用意し、芯部ポリマー(PET)と鞘部ポリマー(PTT)をそれぞれ240℃と270℃の温度で溶融し、ポンプによる計量を行い、280℃の温度で口金に流入し芯鞘複合紡糸し、未延伸糸サブトウを得た。得られたサブトウを所定本数(54本)束ねて、延伸倍率3.2倍で延伸し、140℃×20分弛緩熱処理を加えた後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が6.6dtexで、繊維長が51mmの短繊維5を得た。得られた短繊維5の物性を表1に示す。
【0090】
[参考例3]
(紡糸)
固有粘度1.5g/dlのポリトリメチレンテレフタレート樹脂を紡糸温度250℃で繊維状に吐出させた。吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1000m/分で未延伸糸サブトウを得た。得られたサブトウを所定本数(54本)束ねて、延伸倍率3.0倍で延伸し、140℃×20分弛緩熱処理を加えた後、51mmの長さにカットし、繊度6.6dtex、繊維長51mmの短繊維6を得た。得られた短繊維6の物性を表1に示す。
【0091】
[参考例4]
(紡糸)
固有粘度0.5g/dlのポリエチレンテレフタレート樹脂を紡糸温度280℃で繊維状に吐出させた。吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1000m/分で未延伸糸サブトウを得た。得られたサブトウを所定本数(54本)束ねて、延伸倍率3.0倍で延伸し、140℃×20分弛緩熱処理を加えた後、51mmの長さにカットし、繊度6.6dtex、繊維長51mmの短繊維7を得た。得られた短繊維7の物性を表1に示す。
[参考例5]
(紡糸)
固有粘度1.5g/dlのポリトリメチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.5g/dlのポリエチレンテレフタレート樹脂を、表1に記載の比率で2軸のベント型エクストルーダーを用いて混練し、紡糸温度250℃で繊維状に吐出させた。吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1000m/分で未延伸糸サブトウを得た。得られたサブトウを所定本数(54本)束ねて、延伸倍率3.3倍にて延伸し、140℃×20分弛緩熱処理を加えた後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が3.3dtexで、繊維長が51mmの短繊維8を得た。得られた4種類の短繊維8の物性を表1に示す。
【0092】
[参考例6]
(紡糸)
固有粘度0.5g/dlのポリエチレンテレフタレート樹脂を紡糸温度280℃で繊維状に吐出させた。吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1000m/分で未延伸糸サブトウを得た。得られたサブトウを所定本数(54本)束ねて、延伸倍率3.3倍で延伸し、140℃×20分弛緩熱処理を加えた後、51mmの長さにカットし、繊度3.3dtex、繊維長51mmの短繊維9を得た。得られた短繊維9の物性を表1に示す。

【0093】
【表1】

【0094】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
(不織布)
上記の参考例1〜4で得られた繊度6.6dtex、繊維長51mmの短繊維1〜7を、それぞれ開繊後、ローラーカードに供給して、の7種のウエッブを得た。続いて、ニードルパンチ機により、得られたウエッブを36番針を用いて、針深度15mm、320本/cmの密度で打ち込みをして、目付327〜364g/mのニードルパンチ不織布を得た。得られた7種のニードルパンチ不織布の物性を表2に示す。
【0095】
実施例1〜4の不織布は、低収縮率で高温時の引張強力が低く、成型性に非常に優れていた。比較例1の不織布は、低収縮率であるものの高温時の引張強力がやや高く、成型性はやや不良であった。比較例2の不織布は、短繊維の捲縮数と捲縮度が低く、カード工程において、落綿やネップが発生しやすく、不織布の外観品位も悪かった。また、高温時の引張強力に低減が見られるものの収縮率が3%以上と高く、成型後に反りが発生し成型性不良であった。比較例3の不織布は、低収縮率であるものの高温時の引張強力が高く、成型時に布帛が伸びにくく型性はやや不良であった。結果を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
[実施例5〜8]
短繊維2と短繊維7を表3の混綿比率で混綿し、ローラーカードに供給して、ウエッブを得た。続いて、ニードルパンチ機により、得られたウエッブを36番針を用いて、針深度15mm、320本/cmの密度で打ち込みをして、目付320〜335g/mのニードルパンチ不織布を得た。得られた不織布の物性を表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
実施例5〜8の不織布は、低収縮率で高温時の引張強力が低く、成型性に優れていた。
【0100】
[実施例9]
固有粘度1.5g/dlのPTT樹脂を40質量%、固有粘度0.5g/dlのPET樹脂を60質量%の比率で、溶融紡糸機に供給し、紡糸温度280℃で繊維状に吐出させた。吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1600m/分、ロール温度55℃で引いた。糸条を巻き取ることなく引き続いて、ロール回転速度4200m/分、ロール温度150℃で延伸を行い、引き続いてロール回転速度3990m/分、ロール温度150℃でリラックス熱処理を行い、フィラメント数48本、総繊度84dtexの繊維糸を得た。得られた繊維の融点は、216℃であった。
【0101】
(製編)
上記の繊維糸を用い、28ゲージのトリコット経編機を用いて、2枚筬でフロント糸の筬組織を2−3/1−0、バック糸の筬2枚の組織を1−2/1−0で機上コース密度を65コース/2.54cmとして経編地を編成した。得られた経編地を液流染色機を用いて130℃の温度で30分染色し、80℃の温度で20分の湯洗いを2回行った後、編地のフロント糸側を針布起毛機にて起毛し、160℃の乾熱で1分、仕上セットを行い、目付280g/mの起毛経編地を得た。得られた経編地は、引張強度タテ89.6N/cm、ヨコ98.6N/cmであり、高温時の引張強力は、タテ43.9N/cm、ヨコ60.1/cmであり、引張強力保持率は、タテ49%、ヨコ61%であった。収縮率は、タテ1.01%、ヨコ1.09%であり、融点ピークは、216℃、成型性は外観が非常に良好「◎」であった。結果を表4に示す。
【0102】
【表4】

【0103】
[実施例10、比較例5]
短繊維8と公知の方法により得られた繊度3.3dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート繊維(短繊維9)を開繊後、ローラーカードに供給して、ウエッブを得た。続いて、ニードルパンチ機により、得られたウエッブを40番針にて、針深度15mm、420本/cmの密度で打ち込みをして、目付172〜186g/mのニードルパンチ不織布を得た。得られた不織布の物性を表5に示す。実施例9の不織布は、低収縮率で、高温時の引張強力が低く、成型性に非常に優れていた。比較例5の不織布は、高温時の引張強力が高く、成型性はやや不良であった。
[実施例10〜12、比較例6]
短繊維8とポリエチレンテレフタレート繊維(短繊維9)を表4の混綿比率にて混綿し、ローラーカードに供給して、ウエッブを得た。続いて、ニードルパンチ機により、得られたウエッブを40番針にて、針深度15mm、420本/cmの密度で打ち込みをして、目付172〜189g/mのニードルパンチ不織布を得た。得られた不織布の物性を表4に示す。実施例10〜12の不織布は、風合いに優れ、高温時の引張強力が低く、成型性に優れていた。一方、比較例6の不織布は、高温時の引張強力がやや高い特性であり、成型性はやや不良であった。
【0104】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂5〜95質量%とポリエチレンテレフタレート樹脂95〜5質量%を混練してなるポリエステル繊維を一部または全部用いた繊維構造体であって、前記繊維の融点ピークが210〜220℃の1ピークであることを特徴とするポリエステル繊維構造体。
【請求項2】
ポリエステル繊維構造体の130℃の温度における引張強度保持率が、タテ67%以下、ヨコ82%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル繊維構造体。
【請求項3】
ポリエステル繊維構造体がニードルパンチ不織布であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル繊維構造体。

【公開番号】特開2011−208346(P2011−208346A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52562(P2011−52562)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】