説明

ポリエステル繊維

【課題】優れた抗菌性および消臭性を有し、風合いの良好で実用耐久性に優れたポリエステル繊維、布帛を提供する。
【解決手段】エステル形成性スルホン酸の金属塩化合物が合計0.5〜1.5モル%共重合され、酸性化処理された繊維であり、かつ全酸性末端量が30〜60eq/T、強度が2.0cN/dt以上のポリエステル繊維とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性および消臭性を有するポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年健康志向が高まり、抗菌性及び消臭性を有するポリエステル繊維が要求されるようになってきた。達成する手段として、無機系抗菌剤や吸着剤、消臭剤を繊維中に練り込んだポリエステル繊維、および後加工により上記の剤を布帛に付与したもの、後加工により天然系抗菌剤や消臭剤を布帛に付与したものなどが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、無機系抗菌剤を繊維中に練り込んだものでは、剤により繊維を構成するポリマーが劣化し、繊維の色調が悪くなるという問題があった。また、銀イオンや亜鉛イオンなどを含む無機系抗菌剤やキトサンなどを含む天然系抗菌剤を後加工により布帛に付与したものでは耐久性の問題や、後加工時の付着剤により風合いが悪化する問題があった。
【0004】
近年では、環境への配慮の点から、銀イオンや亜鉛イオンなどの金属イオン抗菌剤を使用しなくても抗菌性や消臭性効果を有すると共に、風合いや取り扱い性の良好なものが望まれている。
【0005】
一方、本発明者らはこのような現状に対し、特許文献4、5において、ポリエステル繊維として特定のスルホン酸化合物を含むポリエステルを用い、それを酸性化処理することにより抗菌性と消臭性を有し、風合いにも優れる繊維を提案しているが、酸性化処理後、経時による強度保持が十分でなく実使用には不十分であるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−241068号公報
【特許文献2】特開2004−190197号公報
【特許文献3】国際公開第97/42824号パンフレット
【特許文献4】特願2010−135094号公報
【特許文献5】特願2010−135095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた抗菌性および消臭性を有し、色調変化が少なく風合いも良好であり、かつ実用に十分供しうる強度、および強度劣化の少ない布帛とすることが可能なポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、抗菌剤や消臭剤を用いなくても特定の性質を繊維に付与することにより、優れた抗菌性および消臭性を有し、なおかつ経時的な強度劣化が少なく、色調や風合いにも優れた布帛として有用なポリエステル繊維が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、
下記要件を満足するポリエステル繊維が提供される。
a)ポリエステルを構成する全酸成分に対して、下記一般式(1)で表されるエステル形成性スルホン酸の金属塩化合物が合計0.5〜1.5モル%共重合されていること。
b)全酸性末端基量が30〜60eq/Tであること。
c)、強度が2.0cN/dtex以上であること
d)繊維化後に酸性化処理されものであること。
【0010】
【化1】

(式中、Aは芳香族基、又は脂肪族基、Xはエステル形成官能基、XはXと同一、もしくは異なるエステル形成官能基、又は水素原子、Mは金属、mは正の整数を示す。)
【0011】
好ましくは、上記ポリエステル繊維において、70℃、90%RH下、14日間後の強度保持率が60%以上であるもの、および、総繊度が10dtex以上200dtex以下、強度が2.5cN/dtex以上であるもの、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で測定した静菌活性値で2.2以上で、消臭率が60%以上であるものが提供される。
また別の発明の形態として上記ポリエステル繊維を含む布帛及び繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抗菌性や消臭性を有する剤を繊維中に練り込んだり、繊維表面に後加工で付与することなく、優れた抗菌性および消臭性と共に色調や風合いが良好で、かつ耐久性にも優れたポリエステル布帛及び繊維製品とすることができるポリエステル繊維が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のポリエステル繊維を構成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどの繊維形成性ポリエステルが好ましい。すなわち、テレフタル酸を主たる二官能性カルボン酸成分とし、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールなどを主たるグリコール成分とするポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルが好ましい。また特許第4202361号公報に記載されたポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとしポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルや、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルでもよい。
【0014】
さらには、かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステル、ポリ乳酸やステレオコンプレックスポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルでもよい。
【0015】
また、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置換えたポリエステルであってもよく、及び/又はグリコール成分の一部を他のジオール化合物で置換えたポリエステルであってもよい。
【0016】
ここで、使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。
【0017】
また、上記グリコール以外のジオール化合物としては例えばシクロヘキサン−1,4−メタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物及びポリオキシアルキレングリコール等をあげることができる。
【0018】
さらに、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸のごときポリカルボン酸、グリセリン、トリメチp−ルプロパン、ペンタエリスリトールのごときポリオールなどを使用することができる。
【0019】
本発明のポリエステル繊維は、該ポリエステルを構成する全酸成分に対して、下記一般式(1)で表されるエステル形成性スルホン酸の金属塩化合物が合計0.5〜1.5モル%共重合されている。
【0020】
【化2】

(式中、Aは芳香族基、又は脂肪族基、Xはエステル形成官能基、XはXと同一、もしくは異なるエステル形成官能基、又は水素原子、Mは金属、mは正の整数を示す。)
【0021】
上記一般式(1)において、Aは芳香族基又は脂肪族基を示し、好ましくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基または炭素数10以下の脂肪族炭化水素基である。特に好ましいAは、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、とりわけベンゼン環である。Xはエステル形成性官能基を示し、具体例として下記式(2)の化合物を挙げることができる。またX2はXと同一若しくは異なってエステル形成性官能基又は水素原子を示し、なかでもエステル形成性官能基であることが好ましい。Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、mは正の整数である。なかでもMがアルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウム)であり、かつmが1であるものが好ましい。
【0022】
【化3】

(但し、R′は低級アルキル基またはフェニル基、aおよびdは1以上の整数、bは2以上の整数である。)
【0023】
上記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸ナトウリム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸カリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸リチウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシスフタレン−1−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−3−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,5−ビス(ヒドロエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−ナトリウムスルホコハク酸などをあげることができる。上記エステル形成性スルホン酸金属塩化合物は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよいが、エステル形成性スルホン酸の金属塩化合物の量は、合計0.5〜1.5モル%量であることが肝要である。共重合量が0.5モル%未満であると繊維化後の酸性化処理により抗菌性や消臭性の発現が十分得られ難く、一方、1.5mol%を超える場合は後述する酸性化処理後の強度、および、酸性化処理後経時によって強度が著しく低下するため、実使用に供試することが困難となる。
【0024】
該ポリエステル中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0025】
上記エステル形成性スルホン酸基含有化合物をポリエステルに含有させる方法としては、共重合させる方法が好ましい。通常、ポリエステルはテレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/又はその低重合体を生成させる第一段階の反応と、第一段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によってポリエステルは合成されるが、合成が完了する以前の任意の段階で、好ましくは第2段階の反応の初期以前の任意の段階で上記エステル形成性スルホン酸基含有化合物添加すればよい。
【0026】
2種以上併用する場合、それぞれの添加時期は任意でよく、両者を別々に添加しても、予め混合して同時に添加してもよい。また、前記ポリエステルは特開2009−161693号公報に記載されているような、常圧カチオン可染性ポリエステルであってもよい。また、上記エステル形成性スルホン酸基含有化合物をポリエステルに共重合させたポリエステルを、エステル形成性スルホン酸基含有化合物をポリエステルが共重合されていないポリエステルに混合させる方法で含有させても良い。
【0027】
本発明のポリエステル繊維の製糸方法は、特に制限はなく、従来公知の方法が採用される。すなわち、乾燥した共重合ポリエステルを260℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の引取り速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られる繊維の強度も充分なものであると共に、安定して捲取りを行うこともできる。さらに、上述の方法で得られた未延伸糸もしくは部分延伸糸を、延伸工程もしくは仮撚加工工程にて1.2倍〜6.0倍程度の範囲で延伸することが好ましい。また、紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無い。
【0028】
仮撚加工方法としては、公知の方法で行うことが出来るが、接触式のヒーターを備えた仮撚加工機を用い、第1仮撚ヒーターの温度が100〜500℃で延伸仮撚加工することが好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル繊維は酸性化処理を施すことで抗菌性、消臭性を発現することが可能となる。すなわち、エステル形成性スルホン酸金属塩化合物近傍、およびポリエステル主鎖のエステル結合が切断され、カルボン酸末端が生成すること、あるいはスルホン酸塩からのスルホン酸末端の生成により全酸性末端基量が増加するが、全酸性末端基量が30〜60eq/Tであることが必要である。全酸性末端基量は、ベンジルアルコールを用いてポリエステルを分解し、その分解生成物を水酸化ナトリウム水溶液でマイクロビュレットを用いて滴定し測定される量である。全酸性末端基量が30eq/T未満であると、本発明のポリエステル繊維は十分な消臭性や抗菌性を発現することはできず、一方60eq/Tを超えると酸性化処理時、および酸性化処理後の経時において劣化が激しく、十分な強度を保持することは不可能となる。
【0030】
経時における劣化は、70℃、90%RHの雰囲気下での劣化促進テストにおいて、14日後の強度保持率が60%以上であることが好ましい。60%未満であると実用時の耐久性が十分とはいえないものとなる。強度保持率はさらに好ましくは70%以上である。
【0031】
酸性化処理を施す方法としては、例えば、酢酸などによりpHが5.0以下(好ましくは2.0〜4.0)に調製された浴中に60℃以上(好ましくは70〜130℃、特に好ましくは80〜120℃)で浸漬するとよい。
【0032】
本発明のポリエステル繊維は、強度が2.0cN/dtex以上であることが必要である。強度が2.0cN/dtex未満となると、繊維が弱く、経時による強度劣化によって取り扱いが困難となる。好ましい強度は2.2cN/dtex以上、より好ましくは、2.5cN/dtex以上である。一方強度の上限は、強い程好ましいが加工性の点から、6cN/dtex未満であることが好ましい。
【0033】
本発明のポリエステル繊維の繊維形態は特に限定されないが、繊維の表面積を大きくして優れた抗菌性や消臭性を得る上で短繊維(紡績糸)よりも長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。特に、前記ポリエステル繊維を芯鞘型複合繊維とし、前記共重合ポリエステルを鞘部に配し、第3成分を共重合しないポリエチレンテレフタレートなどを芯部に配したり、または、前記ポリエステル繊維をサイドバイサイド型複合繊維とし、前記共重合ポリエステルを1成分に配し、第3成分を共重合しないポリエチレンテレフタレートなどを他方に配することは好ましい形態として挙げることができる。
【0034】
本発明のポリエステル繊維において、単繊維の断面形状は特に限定されないが、一般的な丸断面の他、三角、扁平、くびれ付扁平、中空など異型断面も用いることができる。異型断面として繊維の表面積を向上させると抗菌、消臭効果も向上するため、好ましい。また、かかるポリエステル繊維には、通常の空気加工、仮撚捲縮加工、撚糸が施されていてもさしつかえない。特に、ポリエステル繊維の嵩を高めて繊維の表面積を大きくして優れた抗菌性や消臭性を得る上で、仮撚捲縮加工を施すことは好ましいことである。その際、仮撚捲縮加工糸の捲縮率としては1%以上であることが好ましい。
【0035】
本発明のポリエステル繊維の総繊度、単繊維繊度、フィラメント数としては、繊維の表面積を大きくして優れた抗菌性や消臭性を得る上で、総繊度10〜200dtex、単繊維繊度5.0dtex以下(より好ましくは0.0001〜1.5dtex)、フィラメント数30〜50000本(より好ましくは30〜200本)であることが好ましい。
【0036】
本発明のポリエステル繊維を布帛とする場合は、布帛全てに用いてもよく、部分的に用いても良い。部分的に用いる場合、その混率は、抗菌性、消臭性の発現を損なわない範囲で決定すればよい。好ましい混率は10%以上である。その組織は特に限定されず、織物でもよいし編物でもよいし不織布でもよい。例えば、織物の織組織では、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。
【0037】
また、編物の種類では、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0038】
前記の布帛において、布帛を2層以上の多層構造織編物として、各層を構成する繊維の単繊維繊度を異ならせたり、密度を異ならせることにより、毛細管現象による吸水性を高めることも好ましいことである。また、布帛を多層構造とし、使用の際に肌側(裏側)に位置する層に前記ポリエステル繊維を配することは好ましいことである。ポリエステル布帛の目付としては、優れた抗菌性や消臭性を得る上で大きいほうがよく、50g/m以上(より好ましくは100〜250g/m)であることが好ましい。
【0039】
また、上記ポリエステル布帛が織物である場合には、優れた抗菌性や消臭性を得る上で、経糸のカバーファクターおよび緯糸のカバーファクターがいずれも500〜5000(さらに好ましくは、500〜2500)であることが好ましい。なお、本発明でいうカバーファクターCFは下記の式により表されるものである。
経糸カバーファクターCFp=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCFf=(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWp は経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0040】
かくして得られたポリエステル布帛は、耐久性よく優れた抗菌性および消臭性および防汚性を有する。そのメカニズムはまだ十分には解明されていないが、ポリエステル布帛が酸性化されることにより、菌の生育が抑制されたり臭い成分が低減される効果が発現するのではないかと推定している。
【0041】
本発明のポリエステル繊維は、通常のポリエステル繊維と外観上、および触感上はなんら変わるところはない為、繊維製品として、上記ポリエステル布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートなど多くの用途に有用に用いることができるものである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。各測定値は以下の方法で測定される値である。
【0043】
(1)全酸性末端基量(eq/T)
ベンジルアルコールを用いてポリエステル布帛を分解し、この分解物を0.02Nの水酸化ナトリウム水溶液でフェノールレッドを指示薬として滴定し、1ton当たりの等量を求めた。
【0044】
(2)繊維の引張強度、伸度、繊度
JIS L1013記載の方法に準拠して測定を行った。また、恒温恒湿槽中に70℃、90%RHの雰囲気下、繊維を枷状態で無加重で静置し、14日後に取り出して同様の方法で引張強伸度を測定し、下記式にて強度保持率を算出した。
強度保持率(%)=(酸性化処理後の繊維の引張強度)/(70℃、90%RH、14日後の繊維の引張強度)×100
【0045】
(3)抗菌性
ポリエステル布帛について、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で静菌活性値および殺菌活性値を測定した。静菌活性値は2.2以上が合格(○)、2.2未満が不合格(×)とした。
【0046】
(4)消臭率
初期濃度100ppmのアンモニアを含む空気3Lが入ったテドラーバッグに、10cm×10cmの正方形の試料を入れ、2時間後のテドラーバッグ内の臭気成分濃度をガステックス社製検知管にて測定し、下記式のように減少量から臭気吸着率を求めた。
臭気吸着率(%)=(当初の臭気成分濃度−2時間後の臭気成分濃度)/(当初の臭気成分濃度)×100
【0047】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル1.5重量部とエチレングリコール60量部の混合物に、酢酸マンガン0.03重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.12重量部を添加し、140℃〜240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながらエステル交換反応を行った。その後、正リン酸0.03重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化アンチモン0.05重量部と水酸化テトラエチルアンモニウム0.3重量部とトリエチルアミン0.003重量部を添加して重合容器に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、重合槽の攪拌機電力が所定電力に到達、もしくは所定時間を経過した段階で反応を終了させ、常法に従い、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が1モル%共重合されたポリエステルとしてチップ化した。
【0048】
さらに該ポリエステルチップを220℃で0.5mmHg下15時間固相重合を行い、固有粘度0.81(35℃、オルソクロロフェノール中)の共重合ポリエチレンテレフタレートチップを得た。
得られた共重合ポリエチレンテレフタレートチップを丸型の72個の吐出孔を有する紡糸口金から、ポリマー吐出温度290℃、吐出量40.5g/分で吐出し、20℃、平均風速0.4m/秒の冷却風により溶融マルチフィラメントを冷却した後、オイリングノズルによるオイリングを行うと同時にマルチフィラメントの糸条を集束させて3000m/分の速度で紡糸捲き取り、中実のポリエステルマルチフィラメントを得た。
得られた中実ポリエステルマルチフィラメントを熱セット温度160℃で1.55倍の仮撚加工処理を行い、繊度87dtex、伸度28%のポリエステルマルチフィラメントを得た。
得られたポリエステルマルチフィラメントを目付120g/mの筒編みに加工し、りんご酸によりpHが5.0以下に調製された浴中に温度100℃、30分間浸漬し、酸性化処理を施すことにより、ポリエステルマルチフィラメントを酸性化させた。酸性化処理には、公知の液流染色機を用いた。酸性化処理を施したポリエステル繊維について、上記の各方法で評価を行った結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2、比較例1〜3]
ポリエステル繊維を構成する5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルの添加量を表1の通り変更し、重合にて共重合ポリエチレンテレフタレートを得た。それ以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を製糸し、その評価の結果を表1に示す。
【0050】
表1に示す通り、本発明の範囲内である、実施例1、2は抗菌性、消臭性を有し、酸性化処理後の強度、および酸性化処理後、さらに70℃×90%RHの環境下で14日曝した後の強度においても、十分な値を示し実用に十分な耐久性を有するものであった。それに対し、スルホン酸塩金属化合物の共重合量が少ない比較例1は、耐久性を有するものの、抗菌性、消臭性に劣るものであり、スルホン酸塩金属化合物の共重合量が本発明の範囲を超えて多い比較例2、および酸性化処理後の強度が低く、全酸性末端量の値が本発明の範囲外である比較例3は、抗菌性、消臭性は発現するものの、70℃、90%RH×14日後の強度保持は不可であり、実用上十分な耐久性を有さないものであった。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のポリエステル繊維は抗菌性消臭性に優れかつ風合い、取り扱い性が良好で、実用上十分な耐久性を有し、スポーツやアウターをはじめとする衣料、および衛生用品用途などの多くの用途に利用可能であり、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件を満足するポリエステル繊維。
a)ポリエステルを構成する全酸成分に対して、下記一般式(1)で表されるエステル形成性スルホン酸の金属塩化合物が合計0.5〜1.5モル%共重合されていること。
b)全酸性末端基量が30〜60eq/Tであること。
c)、強度が2.0cN/dtex以上であること
d)繊維化後に酸性化処理されたものであること。
【化1】

(式中、Aは芳香族基、又は脂肪族基、Xはエステル形成官能基、XはXと同一、もしくは異なるエステル形成官能基、又は水素原子、Mは金属、mは正の整数を示す。)
【請求項2】
70℃、90%RH下、14日間後の強度保持率が60%以上である請求項1記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
総繊度が10dtex以上200dtex以下、強度が2.5cN/dtex以上である請求項1〜2いずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項4】
JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で測定した静菌活性値で2.2以上である、請求項1〜3いずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項5】
消臭率が60%以上である請求項1〜4いずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載のポリエステル繊維を含む布帛及び繊維製品。

【公開番号】特開2012−112050(P2012−112050A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259067(P2010−259067)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】