説明

ポリエステル複合糸

【課題】良好なかさ高性、ドレープ性、反発性を有するとともに、吸水性、ドライ感、防透性かつ、皺回復性に優れたポリエステル布帛を得ることができるポリエステル複合糸を提供すること。
【解決手段】コア部が伸度が40%以下、伸長剛性率が7.85GPa以上、沸水収縮率が5%以上、160℃における熱応力が0.88mN/dtex以上のポリエステルマルチフィラメント糸Aより構成され、シース部が糸伸度が80%以上、10%伸長時の弾性回復率が50%以下、伸長剛性率が5.89GPa以下、沸水収縮率が15%以下、160℃における熱応力が0.44mN/dtex以下のポリエステルマルチフィラメント糸Bより構成されてなる2層構造の複合糸であって、上記ポリエステルマルチフィラメント糸Bを形成するポリエステル単糸が、ポリエステルa成分とポリエステルb成分からなる芯鞘型複合繊維であり、芯部を形成するポリエステルaは艶消し剤を5重量%以上含み、鞘部を形成するポリエステルbは幅が0.01〜3μm、長さが幅の3〜50倍である微細孔を有し、かつ繊維断面の芯部の面積と鞘部の面積との比が35:65〜80:20である、ポリエステル複合糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かさ高性、ドレープ性、反発性を有し、さらには、優れた吸水性とドライ感、防透性かつ皺回復性にも優れたポリエステル布帛を得ることができるポリエステル複合糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、伸度差を有する2種以上のポリエステルマルチフィラメント糸を引き揃えて交絡することにより得られる、かさ高性、ドレープ性に優れた2層構造の複合糸が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、近年、織編物の風合い、肌触り、外観等に関する要求がますます高まってきており、従来の複合糸を用いて製編織された布帛では、一応のかさ高性やドレープ性は得られるものの、まだ十分なものではなかった。特に、肌に直接触れることの多いブラウスやシャツなどの用途においては、更なるドライ感、ドレープ性、下着等が透けて見えない高い防透性などが得られていないという現状があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−42334号公報
【特許文献2】特開昭50−63272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、良好なかさ高性、ドレープ性、反発性を有するとともに、吸水性、ドライ感、防透性かつ、皺回復性に優れたポリエステル布帛を得ることができるポリエステル複合糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、コア部が伸度(ELA)が40%以下、伸長剛性率(EMA)が7.85GPa以上、沸水収縮率(BWSA)が5%以上、160℃における熱応力(TSA)が0.88mN/dtex以上のポリエステルマルチフィラメント糸Aより構成され、シース部が糸伸度(ELB)が80%以上、10%伸長時の弾性回復率(ERB)が50%以下、伸長剛性率(EMB)が5.89GPa以下、沸水収縮率(BWSB)が15%以下、160℃における熱応力(TSB)が0.44mN/dtex以下のポリエステルマルチフィラメント糸Bより構成されてなる2層構造の複合糸であって、上記ポリエステルマルチフィラメント糸Bを形成するポリエステル単糸が、ポリエステルa成分とポリエステルb成分からなる芯鞘型複合繊維であり、芯部を形成するポリエステルaは艶消し剤を5重量%以上含み、鞘部を形成するポリエステルbは幅が0.01〜3μm、長さが幅の3〜50倍である微細孔を有し、かつ繊維断面の芯部の面積と鞘部の面積との比が35:65〜80:20であることを特徴とするポリエステル複合糸に関する。
ここで、ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bとは、3:7〜1:9の割合(重量比)であることが好ましい。
【0007】
次に、本発明は、上記の本発明のポリエステル複合糸を含むポリエステル布帛に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル複合糸によれば、良好なかさ高性、ドレープ性、反発性を有するとともに吸水性、ドライ感、防透性、皺回復性にも優れたポリエステル布帛を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】皺回復性の評価に用いた器具の概略図であり、(イ)は試料を装着した状態、(ロ)は試料に皺を付与した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のポリエステル複合仮撚加工糸は、コア部が伸度(ELあ)が40%以下、伸長剛性率(EMA)が7.85GPa以上、沸水収縮率(BWSA)が5%以上、160℃における熱応力(TSA)が0.88mN/dtex以上のポリエステルマルチフィラメント糸Aより構成され、シース部が糸伸度(ELB)が80%以上、10%伸長時の弾性回復率(ERB)が50%以下、伸長剛性率(EMB)が5.89GPa以下、沸水収縮率(BWSB)が15%以下、160℃における熱応力(TSB)が0.44mN/dtex以下のポリエステルマルチフィラメント糸B糸より構成されてなる2層構造の複合糸である。
【0011】
本発明のポリエステル複合糸において、芯部(コア部)に位置するポリエスエステル延伸マルチフィラメント糸Aは、ポリエステルからなる単糸によって構成されているものである。
ここで、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが特に好適である。
【0012】
上記ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、酸化チタン、着色剤、不活性微粒子などの任意の添加剤が含まれていてもよい。さらには、ポリエーテルと有機スルホン酸塩を含むポリエステルであっても良い。
また、ポリエステルマルチフィラメント糸Aは、単繊維の横断面形状は特に限定されず、丸だけでなく、丸中空、三角、四角などの異型でもよい。
【0013】
上記ポリエステルマルチフィラメント糸Aは、伸長方向の荷重を主として負担して形態安定性や後加工工程での安定性を保持するため、伸度(ELA)は40%以下、好ましくは35〜30%であり、伸長剛性率(EMA)は7.85GPa(800kg/mm)以上、好ましくは8.83〜14.7GPa(900〜1,500kg/mm)である。また、熱処理により良好な嵩性を発現させるために、沸水収縮率(BWSA)は5%以上、好ましくは7〜20%である必要があり、さらには、布帛とした後にピンテンター等で熱セットする際に、ポリエステル太細繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸Bに応力が掛からないようにするため、160℃における熱応力(TSA)は0.88mN/dtex(100mg/de)以上、好ましくは1.76mN/dtex(200mg/de)〜2.64mN/dtexとする必要がある。
【0014】
以上のポリエステルマルチフィラメント糸Aの単繊維繊度は特に限定する必要はないが、通常は太細繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸Bの単繊維繊度よりは高目の3.5〜7dtexの範囲が適当である。一方、単繊維の断面形状についても特に限定する必要はないが、通常は丸断面が採用される。
【0015】
一方、本発明のポリエステル複合糸のシース部に位置するポリエステルマルチフィラメント糸Bを形成するポリエステル単糸は、ポリエステルa成分とポリエステルb成分からなるからなる芯鞘型複合繊維である。
ここで、ポリエステルとしては、ポリエステルマルチフィラメント糸Aと同じく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが好適である。
【0016】
さらに、この複合繊維の芯部となるポリエステルa成分としては、ポリエステル重量を基準として艶消し剤を少なくとも5.0重量%含有していることが必要である。艶消し剤の含有量が5.0重量%未満では、十分な透け防止効果が得られない。艶消し剤の含有量は、好ましくは0.2〜3.0重量%である。艶消し剤としては、酸化チタン等の従来公知のものでよい。かかるポリエステルa成分には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、着色剤、不活性微粒子などの任意の添加剤が含まれていてもよい。
【0017】
一方、複合繊維の鞘部となるポリエステルb成分は、幅が0.001〜3μmであり、その長さが幅の3〜50倍である微細孔を有している。さらには、幅は0.01〜3μm、特に好ましくは0.02〜2μmであることが好ましく、その長さは幅の5〜50倍であることが好ましい。微細孔の巾Dが0.001μm未満では、十分な吸水性、光の乱反射効果が得られず、防透性も低下する。逆に、該巾Dが大きくなりすぎると繊維物性、特に引張り強度がが低下する傾向にある。また、微細孔の長さと幅の比L/Dが小さすぎると、繊維軸方向に毛細管現象等で流れる水が減り十分な吸水効果が得られにくい。逆に比が減少すると、孔が幅方向に拡大されているため、繊維物性が低下する傾向にある。なお、微細孔の深さについては、特に限定されないが、幅の0.5〜10倍程度が適当であり、芯部まで到達していてもよい。なお、ここで微細孔は、任意に選定したn数10の平均値で測定したものである。
【0018】
また、ポリエステルb成分は、艶消し剤を含まないことが好ましく、含んだとしても0.3重量%以下であることが好ましい。艶消し剤の含有量が増加すると、全体の防透性はわずかに向上するものの、吸水性に悪影響を及ぼす傾向にある。さらに、ポリエステルb成分は、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、着色剤、不活性微粒子などの任意の添加剤が含まれていてもよい。
【0019】
本発明で用いられる芯鞘型ポリエステル複合繊維は、艶消し剤を5重量%以上含むポリエステルa成分が芯部に、上記の微細孔を有するポリエステルb成分が鞘部に配されている。
ここで、複合繊維の芯鞘構造は、単芯型であってもよいし多芯型であってもよい。さらには、正芯(同心)の単芯型でもよいし、偏芯(偏心)の単芯型であってもよい。また、芯の一部が表面に露呈していても、本発明の主目的である吸水性と防透性が損なわれない範囲内であれば、さしつかえない。ただし、量産上の安定性、再現性を考慮すると正芯単芯型が好ましい。
【0020】
複合繊維のポリエステルa成分とポリエステルb成分の複合比は、吸水性と防透性を両立させる上で、芯部の面積aと鞘部の面積bとの比a:bが35:65〜80:20の範囲である必要がある。ここで、芯部の面積aが小さくなると、防透性が低下する傾向にある。逆に、鞘部の面積bが小さくなると、吸水性低下する傾向にある。なお、芯部が多芯型の場合、芯部断面の総断面積は、各芯部の断面積を合計したものとする。
【0021】
複合繊維の断面形状及び芯部の断面形状は、丸、三角、四角、扁平、中空など任意の形状が選定される。また、複合繊維の断面形状と芯部の断面形状は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
このような芯鞘型ポリエステル複合繊維を製造する方法としては、艶消し剤を5.0重量%以上含有するポリエステルa成分と、例えば微細孔形成剤として有機スルホン酸金属塩化合物、ポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物等を含有するポリエステルb成分とを、公知の芯鞘型複合紡糸装置を用いて前者が芯部に、後者が鞘部に位置するように溶融紡糸し、その後でアルカリ化合物の水溶液により、ポリエステルb成分中の微細孔形成剤を2重量%以上溶出して、鞘部の大気側表面およびその近傍に多数の微細孔を形成させる方法を挙げることができる。
【0023】
ポリエステルb成分に含有される微細孔形成剤としては、下記式で示すことができるスルホン酸金属塩が最も好ましい。
RSO
(式中、MおよびM’は金属であり、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛が好ましく、MおよびM’は同一でもあるいは異なっていてもよい。Rは水素原子またはエステル形成性官能基であり、nは1または2を示す。)
【0024】
かかるスルホン酸金属塩は、具体的には3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸ナトリウム、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸カリウム、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム−5−カルボン酸カリウム、3−カルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸ナトリウム、3−ヒドロキシエトキシカルボニルベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸1/2マグネシウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム−3,5−ジカルボン酸マグネシウム1/2等をあげることができる。上記スルホン酸金属塩は1種のみを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記微細孔形成剤の添加量は、少ないと最終的に得られる芯鞘型ポリエステル複合繊維の吸水性が低下し、一方多いと紡糸時にトラブルが発生しやすくなるので、ポリエステルを構成する酸成分に対して0.5〜5モル%の範囲が適当である。
【0026】
以上の鞘部(シース部)を形成するポリエステルマルチフィラメントとしては、加熱処理により浮いた状態となり、且つ伸長方向に荷重が掛かっても応力負担をせずに嵩性向上のみに寄与し、しかも、皺の発生を抑制するために、その伸度(ELA)は80%以上、好ましくは100〜200%である必要があり、10%伸長時の弾性回復率(ERB)は50%以下である必要があり、伸長剛性率(EMB)は5.89GPa(600kg/mm)以下、好ましくは1.96〜4.91GPa(200〜500kg/mm)である必要があり、沸水収縮率(BWSB)は15%以下である必要があり、さらに160℃における熱応力(TSB)が0.44mN/dtex(50mg/de)以下である必要がある。なお、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの結晶化度(XpB)は、好ましくは25%以上、さらに好ましくは36〜60%である。
【0027】
なお、マルチフィラメント糸Bを構成する複合繊維のポリエステルb成分に多数の微細孔を形成させるためには、アルカリ化合物水溶液による処理が好ましい。かかる処理は、ポリエステルa成分とb成分からなる繊維を溶融複合紡糸した後の任意の段階で行うことができ、伸度小のポリエステルマルチフィラメント糸Aと、複合繊維からなる伸度大のポリエステルマルチフィラメント糸Bとのポリエステル複合仮撚加工糸とする加熱加工等の加工を施したのち、さらには布帛にしたのちに行って布帛状態で本発明のポリエステル複合仮撚加工糸としてもよい。
【0028】
ここで使用するアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイト、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を挙げることができる。なかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。かかるアルカリ化合物の濃度は、アルカリ化合物の種類、処理条件等によって異なるが、通常、0.01〜40重量%の範囲が好ましく、0.1〜30重量%の範囲が特に好ましい。処理温度は常温〜100℃の範囲が好ましく、処理時間は1分〜4時間の範囲で通常行われる。また、このアルカリ化合物の水溶液の処理によって溶出除去する量は繊維重量に対して2重量%以上(より好ましくは5〜40重量%)であることが好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル複合糸は、上記の伸度小のポリエステルマルチフィラメント糸Aと、複合繊維からなる伸度大のポリエステルマルチフィラメント糸Bからなるが、ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bとの重量比は3:7〜1:9の割合であることが好ましい。
さらには、本発明の目的が損なわれない範囲であれば、第3の糸条が含まれていてもなんらさしつかえない。
【0030】
また、上記ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bの総繊度は、特に限定されないが、かさ高性、布帛表面のドライ感、ドレープ性、フィブリル感、コシ、反発性を得る上で、鞘部の糸の総繊度を芯糸の総繊度以上とすることが好ましく、ポリエステル複合糸内において、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの総繊度を70〜350dtex、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの総繊度を50〜150dtexの範囲とすることが好ましい。また、ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bの単繊維繊度は、1.5〜5.0dtexの範囲とすることが好ましい。
【0031】
このような、本発明のポリエステル複合糸は、例えば次のような製造方法によって得ることができる。
まず、上記ポリエステルマルチフィラメント糸Bであるが、鞘成分ポリマーに上記の微細孔形成剤を添加する。この添加時期は、ポリエステルを溶融紡糸する以前の任意の段階でよく、例えばポリエステルの原料中に添加配合しても、ポリエステルの合成中に添加してもよい。微細孔形成剤としては、上記のスルホン酸金属塩が最も好ましい。このようなスルホン酸金属塩が0.5〜5モル%含有したポリエステルb成分とし、酸化チタンを5〜20重量%(好ましくは7〜13重量%)含有するポリエチレンテレフタレートをポリエステルb成分とする。
【0032】
本発明で用いるポリエステルマルチフィラメント糸Bとなる複合繊維は、これらa成分とb成分とをチップ状とし、通常の芯鞘型複合紡糸装置から270〜310℃の紡糸温度で紡糸口金から溶融吐出し、吐出ポリマーを冷却固化し、油剤を付与した後、これを2,000〜4,000m/分、好ましくは2,500〜3,500m/分で引取り、未延伸糸(部分配向糸)としてワインダーに巻き取ることにより得ることができる。
【0033】
一方、ポリエステルマルチフィラメント糸Aは、未延伸繊維を延伸する際、その延伸温度や延伸倍率などを適宜調整すればよい。例えば、伸度や剛性率は延伸倍率によって調整し、沸水収縮率は延伸時の熱セット条件によって調整すればよい。特に,高収縮を望む場合には、ノープレート延伸などが適当である。熱応力は、延伸倍率や延伸時の加熱温度、さらには、未延伸繊維の紡糸速度によって調整することができる。しかし、あまりに紡糸引取速度が高すぎると、延伸後の熱応力を高くできなくなる場合があるので、2,500m/分以下、好ましくは1,700m/分以下の低紡速の未延伸繊維を延伸するのが好ましい。なお、これらの特性を調整する別の方法として、ポリエステルに第3成分を共重合する方法があり、例えばイソフタル酸成分を共重合すると高収縮特性を有するものが容易に得られる。
【0034】
本発明の複合糸は、上記ポリエステルマルチフィラメント糸A及びポリエステルマルチフィラメント糸Bとを複合混繊してなるものであるが、その複合方法は従来公知の方法をいずれも採用することができる。例えば、両者を共に空気噴射ノズルに通して交絡させるなど、両者が複合されて1本の糸として取扱えるような方法であればよい。但し、この場合注意しなければならないのは、糸条に熱的変形を与える、例えば仮撚捲縮加工を施すことは避けねばならず、かかる方法であっては皺回復効果は得られなくなる。その理由は、第一は仮撚捲縮加工における加熱処理、伸長、捩じりなどによってマルチフィラメント糸A,Bの物性が変わり、特に未延伸部を有するポリエステルマルチフィラメント糸Bの伸度が減ったり熱応力が高くなったり弾性回復率が向上したりしてズルズル伸びる性質が失われたり、また、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの収縮率が低くなってポリエステルマルチフィラメント糸Bに近づくなどして、本発明のマルチフィラメント糸A,Bに必要な物性から外れること、また第2は捲縮とりわけ比較的表面に出るポリエステルマルチフィラメント糸Bに捲縮が付与されると、隣の糸と絡んだり抵抗が増えたりして、織物等の布帛になした時に織組織の中でずれた糸の位置が元に戻り難くなって皺が発生しやすくなるものと推察される。
【0035】
なお、空気噴射による複合の場合、空気の噴射方向は糸と直角方向に当てても糸の進行方向に沿って当ててもよいが、前者によれば比較的光沢に優れた製品が得られ、一方後者によれば比較的ソフトな風合の製品が得られる。但し、後者の場合、あまりに大きなオーバーフィードで加工するとループが多数発生し、皺回復の妨げになるので、高々10%にするのが一般的にはよい結果が得られる。
【0036】
さらに、マルチフィラメント糸A,Bの間にオーバーフィード差を設けて空気複合加工してもよいが、あまりに差を付けすぎるとループが多数発生しやすくなるので、通常はほぼ同一のオーバーフィード率が採用される。
かくして得られた複合糸は、伸度の小さいポリエステルマルチフィラメント糸Aがコア部に位置し、その周りに伸度の大きいポリエステルマルチフィラメント糸Bがシース部として2層構造を有するものである。
【0037】
本発明の微細孔を有するポリエステル複合糸とするには、アルカリ化合物水溶液による処理を行うことが好ましい。かかる処理は、ポリエステルa成分とb成分からなる繊維を溶融複合紡糸した後の任意の段階で行うことができるが、この2層構造を有する糸の段階か、あるいは布帛にしたのちに布帛状態で行うことが好ましい。
【0038】
布帛段階で処理する場合には、処理前の仮撚加工糸を用いて、必要に応じて適度な撚りを施し、所望の組織に製編織した後、製編織された布帛に通常のアルカリ減量加工を施すことにより、ポリエステルマルチフィラメント糸Bを構成する複合繊維の鞘部分がアルカリ減量され微細孔を形成した本発明のポリエステル複合糸が得られる。
【0039】
かかる布帛は、常法の染色仕上げ加工が施されてもよい。さらには、常法の撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0040】
布帛中に占める本発明のポリエステル複合糸の割合は、必ずしも100%である必要はないが、優れた吸水性、ドライ感、防透性を得るためにはその割合が多いほど好ましい。また、通常の染色仕上げ加工が施されても何らさしつかえない。
【0041】
このようにして得られる本発明のポリエステル複合糸は、繊維に上記のような微細孔が形成されているため、繊維物性を良好に保ちながら、微細孔の毛細管現象により優れた吸水性が発現され、同時に、微細孔による繊維表面に凹凸により光が乱反射と、複合仮撚加工糸のシース部の艶消し剤による光散乱効果により防透性がより一層向上している。本発明のポリエステル複合仮撚加工糸を含むポリエステル布帛は、良好なかさ高性、スパン感を有するとともに吸水性、ドライ感、防透性にも優れたスパンライクなポリエステル布帛となる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
【0043】
(1)伸度
JIS L 1013−1998 7.5.1により伸度(%)を測定した。
【0044】
(2)固有粘度
35℃のオルソクロロフェノール溶液で測定した。
【0045】
(3)防透性
防透性(%)=〔(標準黒色裏当て板(反射率6%)上での反射率)/(標準白色裏当て板(反射率91%)上での反射率)〕×100
防透性の数値については、黒色裏当て板と白色裏当て板とで、裏当てされたときの反射率が等しければ防透性100%の完全な防透性体であることを示し、一方、黒色裏当て板で裏当てされたときの反射率が0%であれば防透性0%となり完全な透明体であることを示す。なお、n数5で測定し、その平均値を求めた。
【0046】
(4)微多孔の大きさ
繊維表面を3000倍の電子顕微鏡写真に撮り測定した。なお、任意にn数10で測定し、その平均値を求めた。
【0047】
(5)伸長剛性率(EM)
定速伸長引張試験機とこれに連動した記録装置を用いて測定した。試料の試長を25cmとして初荷重をデニール当り1/30g掛けた状態で両端をエアチャックで把持固定した。測定条件は引張速度20%/分で初期荷伸曲線図により最傾斜曲線部分に接線を引き、100%伸長時の応力を読み取った。測定は5回行い、その平均値を求めた。
伸長剛性率(EM)=9×100×1%伸長時の応力(g)×試料比重/繊度(デニール)
【0048】
(6)沸水収縮率(BWS)
試料を検尺機(1周1.125m)にて10回転し綛を作製した。次に、デニール当り1/30gの軽荷重を掛けて綛の長さを測定した。次に、軽荷重を外し、収縮が防げられないようにガーゼに包みさらに金網カゴに入れて沸水中に30分間浸漬させた後、取り出して布で水分を切り自然乾燥し再び軽荷重を綛に掛けて長さを計った。沸水収縮率は、次式より算出し、測定はn=5で行ってその平均値を求めた。
沸水収縮率(BWS)=〔(浸漬前の長さ−自然乾燥後の長さ)/浸漬前の長さ〕×100
【0049】
(7)熱応力(TS)(160℃における)
熱応力測定器と、これに連動した記録装置を用いて測定した。資料をサンプリング治具を用いて5cmの輪を作った。次に、熱応力測定器と記録装置を20℃〜300℃、応力0〜20gの範囲が測定可能な状態に準備し、先にサンプリングした試料5cmの輪を熱応力測定器の上部、下部のフックに掛けてデニール当り1/30gの初荷重を掛けた後、熱応力の測定に入った。昇温速度は300℃/120秒で行った。300℃に昇温した時点で測定を完了した。測定は3回行った。熱応力(160℃)は、160℃点の応力gを読取り、1dtex当たりの応力に換算した。
【0050】
[実施例1]
イソフタル酸を10モル%共重合した固有粘度(35℃のオルソクロロフェノール溶液で測定)が0.64dL/gのポリエチレンテレフタレートを紡糸口金から溶融吐出し、該吐出糸条を冷却固化させた後に油剤を付与し、紡速1,200m/分で一旦捲取った後、予熱ローラー温度85℃、熱セットヒーター(接触式)温度170℃、延伸倍率3.1倍、延伸速度1,200m/分で55デシテックス/12フィラメントの延伸繊維(A)(断面形状:丸)として捲き取った。得られた延伸繊維の伸度(ELA)は30%、伸長剛性率(EMA)は13.24GPa、沸水収縮率(BWSA)は17%、160℃における熱応力(TSA)は4.4mN/dtexであった。
一方、酸化チタンを10重量%含有する、固有粘度0.60dL/g、軟化点257℃の通常のポリエチレンテレフタレートをポリエステルa成分とした。
【0051】
また、通常のポリエチレンテレフタレートの重合反応工程で、テレフタル酸ジメチルに対して1.3モル%の3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸ナトリウム(微細孔形成剤)を添加し、固有粘度0.60dL/g、軟化点258℃のポリエステルb成分を得た。
次いで、ポリエステルa成分とポリエステルb成分とを用いて、通常の芯鞘複合紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2,800m/分の速度で引取り、延伸することなく巻取り、120dtex/36filの芯鞘型ポリエステル複合繊維(B)(複合面積比、ポリエステルa成分:ポリエステルb成分=70:30、伸度150%)を得た。
得られた上記繊維(B)を、予熱ローラー温度110℃、熱セットヒーター(非接触式)温度230℃、弛緩率2%、速度600m/分で弛緩熱処理した後、上記繊維(A)と合糸して空気交絡ノズルで混繊交絡して複合糸となし、ワインダーに捲取って175デシテックス/48フィラメントの複合糸を得た。
なお、弛緩熱処理後の繊維(B)の伸度(ELB)は120%、10%伸長時の弾性回復率(ERB)は30%、伸長剛性率(EMB)は3.95GPa、沸水収縮率(BWSB)は1%、160℃における熱応力(TSB)は0.18mN/dtexであった。
【0052】
上記複合糸を経糸および緯糸に用いてタフタ織物を製織した。次いで、該織物を通常の液流染色機を用いて沸騰水で20分間リラックス処理し、引き続き常法に従いプリセット処理を行った後、3.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液で沸騰温度でアルカリ減量処理(減量率20%)を行った。さらに、通常の染色、ファイナルセット処理を行い、ポリエステル複合糸からなる布帛とした。
このとき布帛を構成するポリエステル複合糸は、そのシース部を構成する芯鞘型ポリエステル複合繊維において、繊維表面およびその近傍に微細孔がほぼ繊維軸方向に多数配列しており、n数10で微細孔の大きさを測定したところ、巾は0.01μm〜2μmで分布しており、その平均値は1.2μmであった。また、長さは0.3μm〜12μmで分布しており、その平均値は8μmであった。
得られた布帛の防透性は91.8%、繊維物性に優れており、良好なかさ高性、スパン感を有するとともに吸水性、ドライ感、防透性にも優れたスパンライクなポリエステル布帛であった。
【0053】
なお、皺回復性の評価としては、図1のような器具に織物を筒状に挿入し〔図1(イ)〕、これに図1(ロ)のように重しを置いて3時間放置後、重しを取って30分放置した時の皺の程度を表1の基準で採点したものである。図1において、14は試料ホルダー、15は筒状の織物。16は重しである。
また、風合い(ドライ感)についての各評価項目は、熟練した5人の官能検査で、全員が良好と判定したものを(優)、3人以上が良好と判断したものを(良)、3人以上が不良と判断したものを(不良)とランク付けした。
【0054】
[実施例2〜3、比較例1〜3]
ポリエステル繊維(B)の芯鞘比率を表2記載のとおりとなるようにした以外は、実施例1と同様にした。結果を表4に合わせて示す。
【0055】
〔実施例4〜5、比較例4〜5〕
ポリエステル繊維(A)とポリエステル繊維(B)の物性を表3記載のとおりとなるようにした以外は、実施例1と同様にした。結果を表4に合わせて示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリエステル複合糸から得られるポリエステル布帛は、良好なかさ高性、ドレープ性、反発性を有するとともに、吸水性、ドライ感、防透性かつ、皺回復性に優れるので、得られるポリエステル布帛は、各種衣料用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部が伸度(ELA)が40%以下、伸長剛性率(EMA)が7.85GPa以上、沸水収縮率(BWSA)が5%以上、160℃における熱応力(TSA)が0.88mN/dtex以上のポリエステルマルチフィラメント糸Aより構成され、シース部が糸伸度(ELB)が80%以上、10%伸長時の弾性回復率(ERB)が50%以下、伸長剛性率(EMB)が5.89GPa以下、沸水収縮率(BWSB)が15%以下、160℃における熱応力(TSB)が0.44mN/dtex以下のポリエステルマルチフィラメント糸Bより構成されてなる2層構造の複合糸であって、上記ポリエステルマルチフィラメント糸Bを形成するポリエステル単糸が、ポリエステルa成分とポリエステルb成分からなる芯鞘型複合繊維であり、芯部を形成するポリエステルaは艶消し剤を5重量%以上含み、鞘部を形成するポリエステルbは幅が0.01〜3μm、長さが幅の3〜50倍である微細孔を有し、かつ繊維断面の芯部の面積と鞘部の面積との比が35:65〜80:20であることを特徴とするポリエステル複合糸。
【請求項2】
ポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bとが、3:7〜1:9の割合(重量比)である請求項1記載のポリエステル複合糸。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリエステル複合糸を含むことを特徴とするポリエステル布帛。

【図1】
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【公開番号】特開2010−236146(P2010−236146A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86055(P2009−86055)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】