説明

ポリエステル重合体およびその成形体およびポリエステル重合体の製造方法

本発明は、透明性、機械的、電気的特性に優れ、さらに光学的異方性が非常に小さく、成形性寸法安定性に優れた、エンジニアリングプラスチック、特に光学材料に適合するポリエステル共重合体を安定に提供することを目的とする。
上記課題は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジヒドロキシ化合物からなるポリエステル重合体であって、ジカルボン酸が脂環族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を含み、ジヒドロキシ化合物が一般式(1)で示される化合物を含み、ポリエステル重合体中のジエチレングリコールの量が6mol%以下であることを特徴とするポリエステル重合体により解決される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はポリエステル重合体及びその成形体およびポリエステル重合体の製造方法に係り、さらに詳細には、透明性、耐熱性に優れ、光学的異方性が非常に小さく、屈折率が高く、成形性に優れ、複屈折が小さく、生産性に優れ、エンジニアリングプラスチックのみならず、特に光学機器用の素材として好適なポリエステル重合体及びその成形体およびポリエステル重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
従来、透明で機械特性に優れている樹脂はエンジニアリングプラスチックとして光学材料として多く用いられている。例えばポリメチルメタクリレート(以下PMMAと略する)やポリカーボネート(以下PCと略する)、アモルファスポリオレフィン(以下APO)などが、コンパクトディスク、レーザーディスク、プロジェクションレンズ、f−θレンズ、撮影系レンズ、ファインダー系レンズ、ピックアップレンズ、デジタルカメラレンズ、マイクロレンズアレイなどの光学材料として、また、自動車の透明部品、反射材料等に使用されている。PMMAは透明性に優れ、光学的異方性も小さいのでよく使われるが、吸湿性が高く、成形後、反り等の変形が起り易く形態安定性が悪い。
一方PCは耐熱性が高く、透明性にすぐれているが、流動性が悪く成形品の複屈折が大きくなる等の問題があり、光学材料として十分に満足されたものとはいえない。APOは耐熱性が高く、透明性にすぐれているが、流動性が悪く、成形時に着色しやすい。また、蒸着膜やハードコート膜などを接着するには、プラズマ処理などの前工程を経ないと、十分な接着性が得られず、光学材料として十分に満足されたものとはいえない。
さらに近年レーザー光を用いて音声、画像、文字等の情報を記録、再生する光ディスク、デジタルビデオディスクが開発され、より高性能な光学特性を有する基板材料が要望されている。デジタルカメラ、携帯電話に使用される小型カメラの撮影系のレンズの小型化が進み、さらには、CCDやCMOSなどの画像認識装置も小型化、高精細化されつつあることから、より光学的異方性の少ない樹脂材料が要望されている。
ポリエステル重合体やポリエステル共重合体としては、芳香族ジカルボン酸と9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン類を用いた重合体が光学材料として提案されている(たとえば、特許第2843215号、特許第2843214号参照。)。また脂環族ジカルボン酸と9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン類を用いた重合体が提案されている(たとえば、特許第3331121号、特開平11−60706号公報、特開2000−319366号公報。)。これらのポリエステル共重合体は屈折率が高く、複屈折率が小さく、耐熱性に優れ、透明であることから、光学材料として有用であるが、工業的に製造する場合に、耐熱性などの物性のばらつきが大きい場合があり、品質が安定しないという課題がある。
ポリエステル重合体の原料として使用する脂環族ジカルボン酸の製造方法として、たとえば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の場合は高純度テレフタル酸をアルカリ金属塩の形にしてから水添して、酸で中和する方法が知られている。中和に用いる酸としては、硫酸や塩酸など酸が挙げられる(たとえば、特表平7−507041号公報参照。)。硫酸や塩酸を使用しない1,4−シクロヘキサンジカルボン酸製造法としては、触媒存在下水素添加を実施後、水蒸気と接触させ不純物を除去して製造する方法が知られている(たとえば、特開平6−184041号公報参照。)。
ポリエステル重合体の原料として使用するジヒドロキシ化合物として、たとえば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの場合の製造方法としてはフルオレノンにビスフェノキシエタノールをチオ酢酸やβ−メルカプトプロピオン酸、硫酸などを助触媒や触媒として、合成していることが報告されている(たとえば、特開平07−165657号公報、特開平10−17517号公報参照。)。
しかしながら、従来のポリエステル重合体では、状況によってはその製造中に極端に反応速度が遅くなったり、耐熱性が低下したり、黄変など樹脂カラー劣化等の問題が見られた。
【発明の開示】
本発明者らはかかる従来技術の諸欠点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、耐熱性などの物性のばらつきの少ないポリエステル重合体およびその製造方法を見いだし、本発明を完成したものであって、その目的とするところは、透明性、機械的、電気的特性に優れ、さらに光学的異方性が非常に小さく、成形性寸法安定性に優れた、エンジニアリングプラスチック、特に光学材料に適合するポリエステル共重合体を安定に提供することにある。さらに他の目的は、工業的生産が容易且つ安価に製造し得るポリエステル重合体及びその成形体並びに重合体の製造方法を提供することにある。
上記目的は、下記に示す通りのポリエステル重合体およびその成形体およびポリエステル重合体の製造方法によって達成される。すなわち、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジヒドロキシ化合物からなるポリエステル重合体であって、ジカルボン酸が脂環族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を含み、ジヒドロキシ化合物が一般式(1)で示される化合物を含み、ポリエステル重合体中のジエチレングリコール(DEG)の量が6mol%以下であることを特徴とするポリエステル重合体。

(Rは炭素数2から4のアルキレン基、R、R、R、及びRは水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい)
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジヒドロキシ化合物からなるポリエステル重合体であって、ジヒドロキシ化合物が一般式(1)で示される化合物を含み、ジカルボン酸が脂環族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸もしくはこれらのエステル形成性誘導体を含み、ポリエステル重合体中のジエチレングリコールの量が6mol%以下であることを特徴とするポリエステル重合体を特徴とするポリエステル重合体。

(Rは炭素数2から4のアルキレン基、R、R、R、及びRは水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい)
これらのポリエステル重合体をディスク基板、レンズ、シート、フィルム、チューブ、又はファイバーに成形加工してなるポリエステル成形体である。
そして、このポリエステル重合体は次の方法で製造される。ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体からなるジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物からポリエステル重合体を製造するに際して、原料のジカルボン酸成分が含有されるイオウ量が50PPM以下であり、且つ脂環族ジカルボン酸を含むものであり、ジヒドロキシ化合物が含有されるイオウ量が20PPM以下であり、且つ一般式(1)で示される化合物を含むものであり、これらをエステル交換または直接エステル化する第一工程と、減圧しながら縮重合反応を行う第二工程を経て製造することを特徴とするポリエステル重合体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例1のポリエステル重合体のNMRスペクトルである。
第2図は、比較例2のポリエステル重合体のNMRスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明をその実施の形態とともに説明する。
本発明のポリエステル重合体は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジヒドロキシ化合物からなるポリエステル重合体であって、ジカルボン酸が脂環族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を含み、ジヒドロキシ化合物が一般式(1)で示される化合物を含み、ポリエステル重合体中のジエチレングリコールの量が6mol%以下であることを特徴とするポリエステル重合体である。

(Rは炭素数2から4のアルキレン基、R、R、R、及びRは水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい)
ポリマー中のジエチレングリコールが6mol%を超えると、耐熱性の指標であるガラス転移温度の低下や、屈折率の低下が大きくなり、ポリマーの特性の変化が大きくなり、光学樹脂として使用できなくなる。また、工業的に安定した品質のポリマーを経済的に提供しにくくなる。
ジエチレングリコールの量は4mol%以下が好ましく、3mol%以下が特に好ましい。
本発明のポリエステル重合体は、溶融体の流動性と成形体の耐熱性の点から、ガラス転移温度(Tg)が80℃〜150℃であることが好ましく、さらに好ましくは100℃〜150℃である。
前記ポリエステルの一般式(1)で表わされるジヒドロキシ化合物と脂環族ジカルボン酸あるいは芳香族ジカルボン酸とを共重合成分として使用するとポリエチレンテレフタレート樹脂の成形性を損なわずに光学的異方性を低減する。
ポリエステル重合体中のジエチレングリコール量を6mol%とするには、反応条件を変えるなどの方法がある。もっとも効果的な方法は、ポリエステル重合体の原料であるジカルボン酸化合物、ジヒドロキシ化合物中のイオウ量を抑えることである。これらの原料中には、ジカルボン酸化合物、ジヒドロキシ化合物を製造する際に使用される含イオウ化合物が残留する。このイオウ量が多くなるとポリエステル重合体中のジエチレングリコール量が増え、その量が6mol%を超えると本発明の作用効果が得られなくなる。
極端にイオウ量が多い場合、つまりイオウ量が100PPMを超えると、重合反応の進行が極度に遅くなり、反応不良となり必要な重合度の重合体が得られなくなる。さらには、270℃という高温で重合反応を行うため、ステンレスの反応容器が腐食する場合もある。
従って、木発明のポリエステル重合体のイオウ量は70PPM以下であることが好ましい。
ジカルボン酸成分に含まれるイオウを含む化合物は、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の場合は硫酸が中和剤として使用されていることから、硫酸イオンとして主に検出される。ジカルボン酸化合物中のイオウ量は、イオンクロマトグラフィーで定量できる。
一方前記ポリエステルの一般式(1)に含まれる化合物からは、硫酸イオンは検出されない。製法から、チオ酢酸や、β−メルカプトプロピオン酸といった成分の混入が考えられる。イオウ成分の定量には、イオンクロマトグラフも使用できるが、微量電量滴定酸化法でも定量できる。この方法は試料を燃焼させ、燃焼生成した二酸化イオウを電解液に吸収させ、電量滴定し、消費された電気量からイオウ量を定量する方法である。あらかじめ標準液を用いて求めた回収係数で補正することで、精度が高まる。
光学的異方性の低減については、その特殊な分子構造、即ち2つのフェノール基のある主鎖方向に対してフルオレン基が垂直面に配置された構造と推定されており、これに起因すると考えられる。
本発明のポリエステル重合体には、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体が含まれる。一般にテレフタル酸やイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸(又ははそのエステル形成性誘導体)が主鎖方向に入ると、耐熱性を向上させるが、光学的異方性を大きくすることが知られている。そこで芳香族ジカルボン酸成分を減らし、脂肪族ジカルボン酸ないし脂環族ジカルボン酸に置き換えると光学的異方性を低減させる事は可能となる。光学的異方性の大きさは、高分子材料を用いて成形した成形体における複屈折を測定することで知ることができる。本材料の成形品の複屈折はほぼ零である。
光学的異方性の大きさは、高分子材料を用いて成形した成形体における複屈折を測定することで知ることができる。本材料の成形品の複屈折はほぼ零である。これは、高密度な記録媒体である光ディスク基板、特に光磁気ディスクとする際に重要な条件であり、記録媒体とした後のC/N比(Cはキャリアー:記録信号、Nはノイズ:雑音)を大きくできることになる。
また、デジタルカメラは小型軽量化と高精細化が求められている。デジタルカメラの画像を処理する、CCDやCMOSも小型化がすすみ、CCDやCMOS上に光を結像させるレンズ群も高精細な画像を得るためには複屈折が小さいことが要求される。本発明のポリエステル重合体は、このような光学レンズ材料としても優れた性能を発揮しうる。
本発明のポリエステル重合体に供する脂環族ジカルボン酸としては、下記一般式(2)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸等の単環式脂環族ジカルボン酸,または下記一般式(3),(4)で表されるデカリンジカルボン酸,下記一般式(5),(6)で表されるノルボルナンジカルボン酸,下記一般式(7),(8)で表されるアダマンタンジカルボン酸,下記一般式(9),(10),(11)で表されるトリシクロデセンジカルボン酸等の多環式脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。

(Rは水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。aは1から10の自然数である。)

(R及び、Rは水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。b、cは1から7の自然数である。)

(R及び、R10は水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。d、eは1から7の自然数である。)

(R11及び、R12は水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。f、gは1から7の自然数である。)

(R13及び、R14は水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。h、iは1から7の自然数である。)

(R15、R16及び、R17は水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。j、kは1から8の自然数で、lは1から9の自然数である。)

(R18、R19及び、R20は水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。mは1から7の自然数で、n、oは1から9の自然数である。)

(R21及び、R22は水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。p、qは1から7の自然数である。)

(R23及び、R24は水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。rは1から6の自然数で、sは1から7の自然数である。)

(R25及び、R26は水素又は炭素数1から7までのアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい。tは1から8の自然数で、uは1から6の自然数である。)
これらの脂環族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、通常ポリエステルに用いられるジカルボン酸エステル形成性誘導体が挙げられ、例えばジメチルエステル、ジエチルエステル等のアルキルエステル等が挙げられる。
これらの脂環族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体は、それぞれ単独で用いても良いし、必要に応じて2種以上併用しても良い。
これら脂環族ジカルボン酸の中でも1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸が、合成し易さ、成形性、光学特性等の点で好ましいが、これに限定されるものではない。
本発明において用いられる脂環族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体は、ジカルボン酸成分全体を100として1〜100mol%の間で任意に含有させることができるが、他のジカルボン酸として脂肪族ジカルボン酸とともに用いる場合には、耐熱性をより高めるため、多環式芳香族ジカルボン酸やビフェニルジカルボン酸とともに用いる場合には、複屈折率を低下させるため、各々50mol%以下が好ましい。
本発明において用いられる他の成分として用いられるジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の単環式芳香族ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸等の多環式芳香族ジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸等のビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。
本発明において、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられ、これらは単独でも2種類以上を組み合わせて使用しても良い。これらの中でも9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンが光学特性、成形性の面から最も好ましい。
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンは、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンにエチレンオキサイド(以下、EOと略する)を付加して得られる。この際、フェノールの両水酸基にエチレンオキサイドが1分子づつ付加した2EO付加体(9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン)の他に、さらに数分子過剰に付加した、3EO付加体、4EO付加体等の不純物が含まれる事がある。ポリエステル重合体の耐熱性を向上させるためには、2EO付加体の純度が95%以上で有ることが好ましく、さらに好ましくは97%以上である。
一般式(1)で表わされるジヒドロキシ化合物は、樹脂中のグリコール成分の10から95mol%であることが好ましい。95mol%以下の場合、溶融重合反応が進みやすく、重合時間が短いという利点がある。尚、95mol%より多い場合は、溶液重合法または界面重合法で製造することによって短時間で重合することができる。また、10mol%以上は、樹脂のガラス転移温度が高いという点で好ましい。
本発明において用いられる一般式(1)以外のジヒドロキシ化合物としては、通常プラスチックに用いられるものが挙げられるが、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール等の脂肪族グリコール類、シクロヘキサンジメタノール、シクロペンタンジメタノール等の脂環族グリコール類、1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール等の芳香族ジオール等が挙げられるが、中でもエチレングリコール、1,4−ブタンジオールが好ましく、特にエチレングリコールが耐熱性の面から好ましい。また、これらは単独でもよく、また2種以上を組み合わせて用いても良い。
また、必要に応じて1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−1−フェニルエタン等の主鎖及び側鎖に芳香環を有するジヒドロキシ化合物、その他のジヒドロキシ化合物を少なくとも1種以上を全ジオール成分の10mol%を限度として併用してもよい。
次に本発明のポリエステル重合体の製造方法について説明する。
工程は、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物を反応させてエステル化合物を得る第一工程、得られたエステル化合物を重縮合させる第二工程に分かれる。
エステル化反応は、<1>ジカルボン酸とジヒドロキシ化合物を反応させる直接エステル化反応、<2>ジカルボン酸エステルとジヒドロキシ化合物を反応させるエステル交換反応の2つあるが、本発明ではいずれの方法も採用できる。
重要なのは、原材料のイオウ量をコントロールすることである。具体的には、原材料ジカルボン酸化合物中のイオウ量は50PPM以下、ジヒドロキシ化合物中のイオウ量は20PPM以下とする必要がある。好ましくはジカルボン酸化合物中のイオウ量は40PPM以下、ジヒドロキシ化合物中のイオウ量は15PPM以下である。
ジカルボン酸化合物中のイオウ量が50PPMを超えるか、ジヒドロキシ化合物中のイオウ量が20PPMを超えると、副反応が起こりやすくなる。そして、副反応により多量に生成したジエチレングリコールの影響で、ポリエステル重合体の品質が下がる。
ジカルボン酸化合物、ジヒドロキシ化合物中のイオウは各々の製造工程で使用される含イオウ化合物の残留によるものである。これらの化合物を製造する際には、チオ酢酸、β−メルカプトプロピオン酸、硫酸等が使用される。不純物は蒸留、吸着、濾過などの精製工程により除かれるが、本発明の目的とする、優れた物性を有するポリエステル重合体を得るためには、精製を厳密に行いイオウ量が特定の値以下のジカルボン酸化合物、ジヒドロキシ化合物を用いることが重要である。
なお、上述した第一工程、第二工程の反応条件は使用する具体的な化合物の選択などに合わせて自由に設定可能である。一般的には、第一工程ではエステル交換反応を行う場合は、開放系で反応させ、直接エステル化反応を行う場合は開放系で反応させる場合と加圧系で反応させる場合がある。又、第二工程では昇温しつつ徐々に減圧して反応を進め、最終的には270℃程度、133Pa(1Torr)程度あるいはそれ以下で反応を進める。
本発明のポリエステル重合体には、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
これらの熱安定剤は、単独でもしくは2種以上混合して用いてもよい。かかる熱安定剤の配合量は、ポリエステル重合体を100重量部とした場合、0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましく、0.001〜0.2重量部が更に好ましい。
また、本発明のポリエステル重合体には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することもできる。かかる酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
これら酸化防止剤の配合量は、ポリエステル重合体を100重量部とした場合、0.0001〜0.5重量部が好ましい。
また、本発明のポリエステル重合体には溶融成形時の金型からの離型性をより向上させるために、本発明の目的を損なわない範囲で離型剤を配合することも可能である。かかる離型剤としては、一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基および/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。かかる離型剤の配合量は、ポリエステル重合体を100重量部とした場合、0.01〜5重量部が好ましい。
高級脂肪酸エステルとしては、炭素原子数1〜20の一価または多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルであるのが好ましい。かかる一価または多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネート、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。
なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。
本願発明の高級脂肪酸としては、炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸が好ましい。かかる脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、などが上げられる。
これらの離型剤は、単独でもしくは2種以上混合して用いてもよい。
本願発明のポリエステル重合体には、本願発明の目的を損なわない範囲で、光安定剤、を配合することができる。
かかる光安定剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。かかる光安定剤の配合量は、ポリエステル重合体を100重量部とした場合、0.01〜2重量部が好ましい。
これらの光安定剤は、単独でもしくは2種以上混合して用いてもよい。
本発明のポリエステル重合体には、レンズに成形した場合、ポリエステル重合体や紫外線吸収剤に基づくレンズの黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。
一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。具体的なブルーイング剤としては、例えば一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No68210、一般名Solvent Violet33[CA.No60725;、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No 68210]、一般名SolventBlue97および一般名Solvent Blue45[CA.No 61110]が代表例として挙げられる。これらブルーイング剤は通常ポリエステル重合体を100重量部とした場合、0.1×10−4〜2×10−4重量部の割合で配合される。
本発明のポリエステル重合体に熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、離型剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、顔料等を配合する場合、混和性を高めて安定した各物性を得るためには、配合剤をチップへの付着させる方法や溶融押出において単軸押出機、二軸押出機を使用して混練し、チップ化する方法がある。より混和性を高め安定した離型性や各物性を得るためには単軸押出機、二軸押出機を使用するのが好ましい。
単軸押出機、二軸押出機を用いる方法は、溶剤等を用いることがなく、環境への負荷が小さく、生産性の点からも好適に用いることができる。押出機の溶融混練温度は200から350℃好ましくは230℃から300℃である。200℃より低い温度であると、樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。350℃より高いと、樹脂の劣化が起こりやすくなり、樹脂の色が黄変したり、分子量が低下するため強度が劣化したりする
押出機を使用する場合、押出時に樹脂の焼け、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの異物除去の大きさは、求められる光学的な精度依存するが、100μm以下の異物カット能があるフィルターが好ましい。特に異物の混入を嫌う場合は、40μm以下、さらには10μm以下が好ましい。
押出機から吐出された樹脂は、押出後の異物混入を防止するために、クリーンルーム中で実施することが望ましい。
また、押出された樹脂を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気はヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。フィルターの大きさは種々あるが、10〜0.45μmのフィルターの使用が好ましい。
ポリエステル重合体の重合度は、固有粘度(フェノール60重量%、1,1,2,2−テトラクロロエタン40重量%の混合溶液中、20℃で測定)にして0.3〜0.8の範囲内のポリエステル重合体(第一成分)が好ましい。この固有粘度が極端に低い物はレンズ等に成形した時の機械的強度が弱い。また、固有粘度が大きくなると、成形する際の流動性が低下し、サイクル特性を低下させ、成形品の複屈折率が大きくなり易い傾向がある。従って、ポリエステル重合体としては重合度が固有粘度にして0.3〜0.8の範囲内のものを用い、さらに好ましくは0.35〜0.7の範囲内のものを用いる。
また、本発明のポリエステル重合体を光学材料に供する場合は、原料の投入工程を初め、重合工程、重合体をペレット状にする工程、射出成形やシート状あるいはフィルム状に成形する工程等、塵埃が混入しないように留意する。このような場合は、通常コンパクトディスク(以下CDと呼ぶ)用の場合はクラス1000以下、さらに高度な情報記録用の場合はクラス100以下が好ましい。
本発明のポリエステル重合体は非晶性であるので、透明性に優れ、また、優れた溶融粘弾性特性を有するので成形加工性に優れ、成形加工時に残留応力歪、分子配向が起こりにくい上、たとえそれらが残存していても光学異方性が極めて少ないという特性を有している。従って、透明性材料や光学材料が極めて有用で且つ良く適合する樹脂である。
本発明のポリエステル成形体は、前述のポリエステル重合体を、従来公知の成形法、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、押出成形法、加圧成形法、キャステイング成形法等の方法により得る事ができる。成形に際してはこれらの成形法からより適合する成形法を選択すれば良く、例えば光ディスク基板、レンズ、一般成形部品等は、射出成形法及び射出圧縮成形法が良く適合し、フィルム、シート、光ファイバー、繊維等は、押出成形法が適合する。また、ボトル、袋等はブロー成形法が、型付け成形は加圧成形法やトランスファー成形法が適合する。中でも本発明のポリエステル重合体の優れた特性である、透明性、低光学異方性、耐熱性を要望する成形体、即ち、光学用成形体を得るには射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法が好ましい。
光学用成形体の一例である光ディスク基板の成形には射出圧縮成形機がよく適合し、樹脂温度、金型温度、保持圧力等の成形条件を適正に選定することにより、ディスク基板の複屈折が小さく且つ、ディスク基板径方向の複屈折、厚み、転写性等極めて均一でソリが無い優れた物が得られる。このような成形条件は、組成、重合度等によって異なり一概に規定できないが、金型温度はガラス転移温度、即ち80℃以上150℃以下が好ましい。また、樹脂温度は230℃以上320℃以下が好ましい。230℃未満では、樹脂の流動性と転写性が悪くなり、成形時に応力歪が残り複屈折を大きくする。また320℃を越えると樹脂の熱分解が生起し易く、成形品の強度低下、着色の原因となり、さらに金型鏡面やスタンパの汚染、離型性の低下を来すことがある。
また、光学用成形体の一例であるプラスチックレンズ成形には射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、真空成形、その他の方法が用いられるが、量産性の点から射出成形機、射出圧縮成形機がよく適合し、樹脂温度、金型温度、保持圧力等の成形条件を適正に選定することにより光学歪みの小さいプラスチックレンズが容易に得られる。このような成形条件は、組成、重合度等によって異なり一概に規定できないが、成形温度230℃以上320℃以下、金型温度はガラス転移温度或いは、ガラス転移温度より5℃から20℃低い温度、即ち60℃以上150℃以下が好ましい。成形されたプラスチックレンズの精度は、寸法精度と表面特性によって表され、これらの精度が悪いと光学歪みが大きくなるが、本発明の樹脂を用い、上記条件で光学歪みの小さいプラスチックレンズが容易に得られる。
【実施例】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。実施例における重合体のガラス転移温度、複屈折率は以下に示す方法で測定した。
1.ガラス転移温度
示差走査熱量計(セイコー電子 DSC−110)に試料約10mgを用いて、10℃/minの昇温速度で加熱して測定した。JIS K 7121(1987)に準拠して、ガラス転移温度Tgを求めた。
2.屈折率
アタゴ社製アッベ屈折計 DR−M2で、波長589nmの干渉フィルターを用いD線での屈折率ndを測定した。測定試料は樹脂を160〜240℃でプレス成形し、厚み80〜150μmのフィルムを作成し、得られたフィルムを約8×20mmの短冊状に切り出し、測定試験片とした。界面液として1−ブロモナフタレンを用い20℃で測定した。
3.NMR
ブルカー社製DPX−400(400MHZ)のFT−NMR装置を用い、重水素化クロロホルムに試料を溶解し、テトラメチルシランを標品として混合し、プロトンNMRスペクトルを測定した。
4.ジエチレングリコールの定量
試料調製
50mlの1−プロパノールを200mlの共栓フラスコに入れ、2.81gの水酸化カリウム、精秤した2gの樹脂チップをいれ、水冷している玉入冷却管を取り付け、攪拌しながら、2時間加熱還溜した。冷却後、水10mlを加え、7gのテレフタル酸を加え、1時間加熱還溜した。内部標準として、1%のテトラエチレングリコールジメチルエーテルの1−プロパノール溶液を5ml添加し、約5分攪拌。濾過したサンプルをガスクロマトグラフにより定量し、ジエチレングリコールの含有量を求めた。
5.イオウの定量
硫酸成分に関しては、イオンクロマトグラフにより定量した。
試料調製
試料0.1gを20mlのメスフラスコに採取し、純水20mlでメスアップ後、超音波振動機にて10分間抽出した後、0.45μmのフィルターで濾過し、測定試料とした。
溶離液に7mmolのKOH水溶液を用い、カラムとしてAS−17(Dionex)を用い、定量を行った。
チオ酢酸や、β−メルカプトプロピオン酸、p−トルエンスルホン酸などの硫酸由来以外のイオウに成分に関しては、JIS−K2541に準拠した、三菱化学製イオウ定量装置 TOC−10でサンプルを燃焼させ、燃焼時発生した硫酸ガスを補足後、電量滴定により定量した。
【実施例1】
硫酸由来のイオウ含有量33PPMの1,4−シクロヘキサンジカルボン酸1mol(イーストマンケミカル社製)に対して、イオウ含有量7.7PPMの9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル社製、BPEF)0.8mol、エチレングリコール2.2molを原料とし、これらを反応槽に投入し、撹拌しながら常法に従って、室温から230℃に徐々に加熱してエステル化反応を行った。所定量の水を系外へ抜き出した後、重合触媒である酸化ゲルマニウム0.002molと、着色を防止するため、リン酸トリメチルエステル0.0014molとを投入して、昇温と減圧を徐々に行い、発生するエチレングリコールを抜きながら、加熱槽温度を270℃、真空度を133Pa(1Torr)以下に到達させた。この条件を維持し、粘度の上昇を待ち、所定の攪拌トルクに到達後(約4時間後)反応を終了し、反応物を水中に押し出してペレットを得た。
この樹脂を、200℃でプレスし、厚さ100μmのフィルムを得た。屈折率は1.607、ガラス転移温度は126℃、DEGの含有量は1.8mol%であった。
【実施例2〜7】
原料組成比、含有イオウ量を表1に示すように変えた他は実施例1と同様な操作でペレットを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。いずれも均一透明なものが得られ、成形性も良好であった。
比較例1
硫酸由来のイオウ含有量73PPMの1,4−シクロヘキサンジカルボン酸1mol(イーストマンケミカル社製)に対して、イオウ含有量7.7PPMの9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル社製)0.8mol、エチレングリコール2.2molを原料とし、これらを反応槽に投入し、撹拌しながら常法に従って、室温から230℃に徐々に加熱してエステル化反応を行った。所定量の水を系外へ抜き出した後、重合触媒である酸化ゲルマニウム0.002molと、着色を防止するため、リン酸トリメチルエステル0.0014molとを投入して、昇温と減圧を徐々に行い、発生するエチレングリコールを抜きながら、加熱槽温度を270℃、真空度を133Pa(1Torr)以下に到達させた。この条件を維持し、粘度の上昇を待ったが、所定の攪拌トルクに到達しなかったので所定時間後(約4時間後)反応を終了し、反応物を水中に押し出してペレットを得た。
この樹脂を、200℃でプレスしたがもろく、フィルムを得られなかった。ガラス転移温度は69℃、DEGの含有量は23mol%であった。結果を表1に示す。射出成形品はもろく、得られなかった。
比較例2
硫酸由来のイオウ含有量16PPMの1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(イーストマンケミカル社製)1molに対して、イオウ含有量25PPMの9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン大阪ガスケミカル社製)0.8mol、エチレングリコール2.2molを原料とし、これらを反応槽に投入し、撹拌しながら常法に従って、室温から230℃に徐々に加熱してエステル化反応を行った。所定量の水を系外へ抜き出した後、重合触媒である酸化ゲルマニウム0.002molと、着色を防止するため、リン酸トリメチルエステル0.0014molとを投入して、昇温と減圧を徐々に行い、発生するエチレングリコールを抜きながら、加熱槽温度を270℃、真空度を133Pa(1Torr)以下に到達させた。この条件を維持し、所定の攪拌トルクに到達後(約4時間後)反応を終了し、反応物を水中に押し出した。
この樹脂を、200℃でプレスし、厚さ100μmのフィルムを得た。屈折率は1.605、ガラス転移温度は112℃、DEGの含有量は7.2mol%であった。成形体は成形可能であるが、実施例1〜7と同様の原料組成比であり、所定量の9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンが残存するにも関わらず、屈折率、ガラス転移温度が低く、物性の低下が生じた。
比較例3
原料組成比、含有イオウ量を表1に示すように変えた他は比較例1と同様な操作でペレットを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。比較例2と同様物性の低下が生じた
比較例4
原料組成比、含有イオウ量を表1に示すように変えた他は比較例1と同様な操作で製造したが、トルクが全く上昇せず、ステンレス製の攪拌翼が腐食された。着色した反応物が得られ、目的の重合体は得られなかった。
【実施例8】
硫酸由来のイオウ含有量0PPMの1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル1mol(新日本理化社製)に対して、イオウ含有量10PPMの9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル社製)0.8mol、エチレングリコール2.2molを原料とし、触媒として、酢酸カルシウム0.0008mol、酢酸マンガン0.0002molを用い、これらを反応槽に投入し、撹拌しながら常法に従って、室温から230℃に徐々に加熱してエステル交換反応を行った。所定量のメタノールを系外へ抜き出した後、重合触媒である酸化ゲルマニウム0.002molと、着色を防止するため、リン酸トリメチルエステル0.0014molとを投入して、昇温と減圧を徐々に行い、発生するエチレングリコールを抜きながら、加熱槽温度を270℃、真空度を133Pa(1Torr)以下に到達させた。この条件を維持し、粘度の上昇を待ち、所定の攪拌トルクに到達後(約4時間後)反応を終了し、反応物を水中に押し出してペレットを得た。
この樹脂を、200℃でプレスし、厚さ100μmのフィルムを得た。屈折率は1.607、ガラス転移温度は121℃、DEGの含有量は2.5mol%であった。
【実施例9〜11】
原料組成比、含有イオウ量を表1に示すように変えた他は実施例8と同様な操作でペレットを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。いずれも均一透明なものが得られ、成形性も良好であった。
比較例5
原料組成比、含有イオウ量を表1に示すように変えた他は実施例10と同様な操作でペレットを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。実施例10に比べて、ガラス転移温度が10℃低くなり、物性の低下が生じた。
比較例6
原料組成比、含有イオウ量を表1に示すように変えた他は実施例8と同様な操作でペレットを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。実施例8に比べて、ガラス転移温度が11℃低くなり、物性の低下が生じた。
比較例7
原料組成比、含有イオウ量を表1に示すように変えた他は実施例9と同様な操作でペレットを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。実施例9に比べて、ガラス転移温度が8℃低くなり、物性の低下が生じた。
【実施例12】
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルエステル1molに対して、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル社製)0.55mol、エチレングリコール2.2molを原料とし、触媒として、酢酸カルシウム0.0008mol、酢酸マンガン0.0002molを用い、これらを反応槽に投入し、撹拌しながら常法に従って室温から230℃に徐々に加熱してエステル交換反応を行った。所定量のメタノールを系外へ抜き出した後、重合触媒である酸化ゲルマニウム0.012molと、着色を防止するため、リン酸トリメチルエステル0.0018molとを投入して、昇温と減圧を徐々に行い、発生するエチレングリコールを抜きながら、加熱槽温度を270℃、真空度を133Pa(1Torr)以下に到達させた。この条件を維持し、粘度の上昇を待ち、所定の攪拌トルクに到達後(約2時間後)反応を終了し、反応物を水中に押し出してペレットを得た。
ガラス転移温度は123℃、DEGの含有量は2.3mol%であった。
【実施例13】
原料組成比を表1に示すように変えた他は実施例12と同様な操作でペレットを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。いずれも均一透明なものが得られた。
比較例8
原料組成比を表1に示すように変えた他は実施例12と同様な操作でペレットを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。いずれも均一透明なものが得られたが、ガラス転移温度は実施例12に比べて12℃低いものとなり、物性が低下した。
【実施例14】
硫酸由来のイオウ含有量33PPMの1,4−シクロヘキサンジカルボン酸0.5mol(イーストマンケミカル社製)と硫酸由来のイオウ含有量0PPMのテレフタル酸に対して、イオウ含有量7.7PPMの9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル社製、BPEF)0.75mol、エチレングリコール2.2molを原料とし、これらを反応槽に投入し、撹拌しながら常法に従って、室温から230℃に徐々に加熱してエステル化反応を行った。所定量の水を系外へ抜き出した後、重合触媒である酸化ゲルマニウム0.002molと、着色を防止するため、リン酸トリメチルエステル0.0014molとを投入して、昇温と減圧を徐々に行い、発生するエチレングリコールを抜きながら、加熱槽温度を270℃、真空度を133Pa(1Torr)以下に到達させた。この条件を維持し、粘度の上昇を待ち、所定の攪拌トルクに到達後(約4時間後)反応を終了し、反応物を水中に押し出してペレットを得た。
この樹脂を、200℃でプレスし、厚さ100μmのフィルムを得た。屈折率は1.619、ガラス転移温度は136℃、DEGの含有量は2.5mol%であった。
比較例9
ジカルボン酸をテレフタル酸ジメチルエステルとし、9,9−ビス−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)−フルオレンを0molとした他は実施8と同様にして反応させ、ペレットを得た。ガラス転移温度は75℃と低く、耐熱性が不十分であった。レンズを成形したところ、白濁し、レンズには使用できなかった。



【産業上の利用可能性】
以上述べた如く、本発明のポリエステル重合体は、透明性に優れ、光学的異方性が小さく、成形性、寸法安定性、耐薬品性に優れた成形材料を提供できる。含有イオウ分の少ないモノマー原料を使用することにより、屈折率といった光学特性や、ガラス転移温度といった耐熱性の特性の低下を防止でき、光学材料用途、例えばプラスチックレンズ、光ファイバー、光ディスク、また繊維用途、マイクロレンズアレイ、フィルム用途、シート用途等産業的に有用な材料を安定して製造でき、一定した物性の材料を提供できることがわかる。また、歩留まりが改善され、経済効果が大きくなる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物からなるポリエステル重合体であって、ジカルボン酸化合物が脂環族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を含み、ジヒドロキシ化合物が一般式(1)で示される化合物を含み、ポリエステル重合体中のジエチレングリコールの量が6mol%以下であることを特徴とするポリエステル重合体。

(Rは炭素数2から4のアルキレン基、R、R、R、及びRは水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい)
【請求項2】
ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物からなるポリエステル重合体であって、ジカルボン酸化合物が脂環族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸もしくはこれらのエステル形成性誘導体を含み、ジヒドロキシ化合物が一般式(1)で示される化合物を含み、ポリエステル重合体中のジエチレングリコールの量が6mol%以下であることを特徴とするポリエステル重合体。

(Rは炭素数2から4のアルキレン基、R、R、R、及びRは水素または炭素数1から4のアルキル基、アリール基、アラルキル基であり同じであっても異なっていてもよい)
【請求項3】
含有されるイオウ量が70PPM以下である請求の範囲第1項または第2項記載のポリエステル重合体。
【請求項4】
脂環族ジカルボン酸が、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、またはトリシクロデセンジカルボン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載のポリエステル重合体。
【請求項5】
一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物が、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンであることを特徴とする請求の範囲第1項乃至第4項のいずれかに記載のポリエステル重合体。
【請求項6】
芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸、またはイソフタル酸あるいはこれらのエステル形成性誘導体であることを特徴とする請求の範囲第2項に記載のポリエステル重合体。
【請求項7】
請求の範囲第1項乃至第6項のいずれかに記載のポリエステル重合体をディスク基板、レンズ、シート、フィルム、チューブ、レンズシート又はファイバーのいずれかに成形加工してなるポリエステル成形体。
【請求項8】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体からなるジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物からポリエステル重合体を製造するに際して、原料のジカルボン酸化合物が含有されるイオウ量が50PPM以下であり、且つ脂環族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を含むものであり、ジヒドロキシ化合物が含有されるイオウ量が20PPM以下であり、且つ一般式(1)で示される化合物を含むものであり、これらをエステル交換または直接エステル化する第一工程と、減圧しながら縮重合反応を行う第二工程を経て製造することを特徴とするポリエステル重合体の製造方法。

【請求項9】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体からなるジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物からポリエステル重合体を製造するに際して、原料のジカルボン酸化合物が含有されるイオウ量が50PPM以下であり、且つ脂環族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を含むものであり、且つ芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を含むものであり、ジヒドロキシ化合物が含有されるイオウ量が20PPM以下であり、且つ一般式(1)で示される化合物を含むものであり、これらをエステル交換または直接エステル化する第一工程と、減圧しながら縮重合反応を行う第二工程を経て製造することを特徴とするポリエステル重合体の製造方法。


【国際公開番号】WO2004/078824
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503019(P2005−503019)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002420
【国際出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
レーザーディスク
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【出願人】(596154239)カネボウ合繊株式会社 (29)
【Fターム(参考)】