説明

ポリエステル重縮合反応用触媒及びポリエステルの製造方法

【課題】
高活性で、しかも短時間で効率的にポリエステルを製造することができ、生成ポリエステルの着色の問題を解決したポリエステル重縮合反応用触媒及びこの触媒を用いたポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】
(1)パラタングステン酸塩(例えば、パラタングステン酸アンモニウム等)が(2)含酸素有機溶媒(例えば、グリコール類等)に可溶化され、要すれば酸性化合物(例えば、リン酸等)を含んでなるポリエステル重縮合反応用触媒、及びこの重縮合反応用触媒を用いるポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル重縮合反応用触媒及びポリエステルの製造方法に関するものであり、詳しくはフィルム、ボトル、繊維、産業用資材といった各種用途に好適なポリエステルを製造する方法に有用なポリエステル重縮合反応用触媒及び該触媒を用いたポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステルは機械的強度、化学的安定性など、その優れた性質ゆえに種々の分野、例えば衣類用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などの各種フィルムやシート、ボトル容器等の中空成形品などに用いられている。中でも、ガスバリア性、衛生性などに優れ、比較的安価で軽量であるために各種食品、飲料包装容器として幅広く用いられ、かつその応用分野はますます拡大している。
【0003】
ポリエステルは工業的には、一般に多段階プロセスで製造されている。まず、エステル化工程においてジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体とグリコールとを直接エステル化するかまたはエステル交換することにより、比較的低分子量のオリゴエステルを予備縮合物として製造する。ついでこの予備縮合物を重縮合工程において、重縮合反応用触媒の存在下、溶融状態で副生するアルコールおよび/または水を分離しながら重縮合させ、目的とする高分子量のポリエステルとする。得られたポリエステルは、必要に応じさらに固相重縮合工程に供される。
【0004】
現在、工業的プロセスにおける重縮合反応用触媒としては、主にゲルマニウム化合物またはアンチモン化合物が用いられている。ゲルマニウム化合物は高活性で優れた触媒ではあるが、重縮合工程で供給された触媒の一部(例えばGeOでは60〜70%)が重縮合工程で系外に留去してしまうため、回収して再び系内に供給するなどの操作上の工夫が必要であり、工程が複雑になる。また、通常ゲルマニウム化合物は、ゲルマニウム鉱石の産出量が少ないため高価であり、得られるポリエステルのコスト上昇の一因となっている。
一方、アンチモン化合物は、ゲルマニウム化合物に比較してかなり安価であり、ゲルマニウム化合物同様高い活性を有する触媒であるため広く用いられているが、重縮合反応時に金属アンチモンが析出することがあるため、ポリエステルに黒ずみや異物が発生する場合がある。加えて現在、環境面からは、より安全性の高い触媒が求められつつある。
【0005】
これらの問題点を解決するため、ゲルマニウム化合物やアンチモン化合物に代えてチタン化合物をポリエステル重縮合反応用触媒として利用するための検討が多く行われているが、チタン化合物を用いて得られるポリエステルは熱安定性が低く、著しく着色してしまう場合が多い。そのため通常ポリエステル製造時において、熱安定性を向上し、着色を抑制するためにリン化合物が添加されているが、チタン化合物はリン化合物によって重縮合反応における触媒活性(以下、「重縮合活性」と記す)が著しく低下するという問題があった。
【0006】
重縮合反応用触媒としては、上記以外の金属化合物として、タングステン化合物であるタングステン酸およびその塩をポリエステル重縮合反応用触媒として用いることが米国特許3、142、733号及び特公昭44−19554号公報に記載されている。しかしながら、タングステン化合物が一般に種々の溶媒に難溶であることから、反応系に固体の状態で直接添加せざるを得ず、そのために十分な重縮合活性が得られないばかりか、実際の工業プロセスでは、固体状の触媒を定量的に連続供給することが難しく、また製造されるポリエステル樹脂中の異物の原因となってしまう場合がある。米国特許3、472、613号において、パラタングステン酸アンモニウムが酸によって水溶媒に溶解可能であり、均一な液組成物を調製できることが報告されているが、これをポリエステル重縮合反応用触媒として用いようとすると重縮合反応系内に多量の水を添加してしまうためにポリエステルの加水分解反応が起こり、ポリエステル重縮合反応用触媒としては適していない。更に、タングステンアリルオキサイドをポリエステル重縮合反応用触媒として用いることが特公昭46-12153号公報に
報告されているが、重縮合活性が十分でなくより活性の高い触媒が求められている。
【特許文献1】米国特許3、142、733号公報
【特許文献2】米国特許3、472、613号公報
【特許文献3】特公昭44−19554号公報
【特許文献4】特公昭46-12153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑み、ポリエステルの製造において十分な重縮合活性を有し、かつ得られるポリエステルの着色の問題を解決した重縮合反応用触媒及び該触媒を用いたポリエステルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、パラタングステン酸塩を含酸素有機溶媒に可溶化してなる触媒が、従来公知のタングステン化合物を用いた触媒の場合と比較し、重縮合反応用触媒として非常に高い活性を有することを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明の要旨は、(1)パラタングステン酸塩が(2)含酸素有機溶媒に可溶化されてなるポリエステル重縮合反応用触媒、及びこの重縮合反応用触媒を用いるポリエステルの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の重縮合反応用触媒である(1)パラタングステン酸塩が(2)含酸素有機溶媒に可溶化されてなる重縮合反応用触媒は高い重縮合活性を有するので、該触媒を用いてポリエステルを製造することにより、高い反応速度で色調の良好なポリエステルを得ることが可能になる。よって、本発明の重縮合反応用触媒及びポリエステルの製造方法は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に限定されるものではない。
【0011】
(重縮合反応用触媒)
本発明の重縮合反応用触媒は、(1)パラタングステン酸塩が(2)含酸素有機溶媒に可溶化されてなる触媒である。
本発明において“可溶化”とは、パラタングステン酸塩を含酸素有機溶媒中に溶解もしくは均一に分散させた際、目視で観察し透明な状態あるいは可溶化前(混合もしくは分散時)と比較してより透明な状態になることをいう。具体的には(1)パラタングステン酸塩を(2)含酸素有機溶媒と混合して混合液としたときに、溶解せずに該混合液中に残存しているパラタングステン酸塩の重量が、混合前のパラタングステン酸塩の重量より少なくなることを“可溶化”という。従って、本発明の重縮合反応用触媒は、このパラタングステン酸塩の少なくとも一部が含酸素有機溶媒中に溶解している混合液である。
【0012】
ここで、混合液中の残存パラタングステン酸塩重量の測定は以下の方法で行われる。即ち、まずポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルター(孔径1μm)を秤量する。続いて該メンブレンフィルターをエタノール溶液で濡らして親媒体化した後、これを用いて(1)パラタングステン酸塩と(2)含酸素有機溶媒との混合液をろ過し、室温のエチレングリコールで2回洗浄し、更に室温のエタノールで2回洗浄した後に、循環型熱風乾燥機で1.0×10Pa、50℃、6時間乾燥し、秤量する。ろ過前後の秤量値の差をとることにより、混合液中の残存重量が測定される。
【0013】
本発明のポリエステル重縮合反応用触媒は、上記の如くパラタングステン酸塩の可溶化によりその少なくとも一部が含酸素有機溶媒中に溶解されている混合液からなるものである。触媒としての混合液において、溶解せずに残存するパラタングステン酸塩の重量は、重縮合活性、ポリエステル樹脂中の異物の点から低い程好ましく、混合前のパラタングステン酸塩の重量に対し、通常80重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは12重量%以下、更に好ましくは6重量%以下であり、最も好ましくは0重量%である。
【0014】
本発明の重縮合反応用触媒に用いられる(1)パラタングステン酸塩とは、下記の一般式(I)で表されるものである。
(化1)
MIn O・12(WO3)・xHO (I)
一般式(I)中、MIはカチオンを表し、nは4から10の範囲で、W及びMIの原子価に応じ中性塩となるような値をとる。xは0以上の任意の整数を表す。MIで表されるカチオンとしては、NH;Li、Na、K、Rb、Cs等の短周期表(以下同様)第I族の金属カチオン;Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Gd3+等の第II族金属カチオン;Al3+等の第III族金属カチオン;Sb3+等の第V族金属カチオンが挙げられる。これらのカチオンは、上記の中から選ばれる一つ、もしくは複数のカチオンの組み合わせにより構成される。また、MIで表されるカチオンの一部がHで置換されていてもよい。
【0015】
本発明の重縮合反応用触媒に用いられる(1)パラタングステン酸塩の具体的な例としては、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸カリウム、パラタングステン酸カルシウム、パラタングステン酸アンチモン、パラタングステン酸マグネシウム、パラタングステン酸セリウム、およびそれらの水和物等があげられる。工業試薬として入手の容易さから、好ましくはパラタングステン酸アンモニウム、およびその水和物が用いられる。
【0016】
本発明の重縮合反応用触媒としての混合液中におけるタングステン濃度は、金属原子換算で、通常0.05重量%〜20重量%の範囲であり、好ましくは0.1重量%〜10重量%、より好ましくは0.1重量%〜1重量%の範囲である。タングステン濃度が、この範囲を超えて低すぎると十分な重縮合活性が得られず、他方、高濃度にするためには、溶媒に対する溶解度の低いタングステン酸塩を多量に使用しなければならす、溶解せずに残存する固体が増加して、生成ポリエステルの異物の原因となる場合があり、又、触媒の長期保存時に触媒の結晶が析出する場合があるので、触媒の安定性の点からも好ましくない。
【0017】
本発明の重縮合反応用触媒に用いられる(2)含酸素有機溶媒としては、ポリエステル重縮合反応に影響を及ぼさない限り特に制限は無いが、アルコール類、及び/又はカルボン酸類が好ましく用いられる。アルコール類の具体的な例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アリルアルコール、フェノール等の脂肪族或いは芳香族アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール等のアルキレングリコ−ル類が挙げられる。これらの中でも、好ましいものはポリエステル樹脂の原料となるグリコール成分であり、例えばポリエチレンテレフタレートにおいてはエチレングリコールである。カルボン酸類としては、カルボン酸及びそのエステル類が用いられ、その具体的な例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸等の脂肪族或いは芳香族カルボン酸、酢酸エチル、安息香酸エチル等のカルボン酸アルキルエステル類が挙げられる。
【0018】
本発明の重縮合反応用触媒は、更に(3)酸性化合物を含むことがパラタングステン酸塩の可溶化の容易さ、重縮合活性及びポリエステルの着色の点で好ましい。本発明における酸性化合物とは、ブレンステッド酸の性質を有するものであり、含酸素有機溶媒に溶解した場合に少なくとも、その溶媒自身のpHよりもpHが低下するような有機および無機化合物である。
酸性化合物としては、硫黄化合物及び/又はリン化合物が好ましい。
具体的には、硫黄化合物として、硫酸、二硫酸、亜硫酸等の酸性無機硫黄化合物及びそれらの誘導体、p−トルエンスルホン酸、フェニルスルホン酸等の芳香族スルホン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0019】
リン化合物としては、正リン酸、メタリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等の無機リン化合物、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート等のリン酸エステル類、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸等のアルキルホスホン酸及びそれらの誘導体、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸等のアルキスホスフィン酸及びそれらの誘導体、フェニルホスホン酸、ジフェニルホスホン酸等の芳香族ホスホン酸及びそれらの誘導体、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等の芳香族ホスフィン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。
これらの中、好ましくはp−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、フェニルホスホン酸等が用いられる。また還元性を持つ次亜リン酸等を用いてタングステンを青く発色させ、重縮合反応用触媒を青くすることで得られるポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂の黄色味を抑えることも可能である。
【0020】
本発明の重縮合反応用触媒における(3)酸性化合物の使用量は、パラタングステン酸塩及び酸性化合物の種類によっても異なるが、パラタングステン酸塩に対し通常0.05〜20モル%、好ましくは0.5〜5モル%である。この範囲より少なすぎると、パラタングステン酸塩の溶解性や重縮合活性に有効ではなく、多すぎると重合反応速度等を低下させる場合がある。
【0021】
本発明の重縮合反応用触媒の調製方法、即ち可溶化方法は特に限定されず、例えば(1)パラタングステン酸塩を(2)含酸素有機溶媒に加えたスラリー状の混合物を、攪拌しながら加熱する方法、或いは(1)パラタングステン酸塩と(2)含酸素有機溶媒との混合物に更に(3)酸性化合物を加えて分散状態とする方法等が挙げられるが、特に(3)酸性化合物を用いる方法が、パラタングステン酸の可溶化の容易さ、重縮合活性、及び得られるポリエステルの着色の点で好ましい。
(3)酸性化合物を用いる場合、その調製方法は特に制限されるものではなく、パラタングステン酸塩を含酸素有機溶媒に可溶化した後に酸性化合物を加えてもよく、パラタングステン酸塩と酸性化合物を同時に含酸素有機溶媒に加えてから可溶化してもよい。常温で可溶化しにくい場合には加熱してもよい。また一度可溶化させた後、パラタングステン酸塩、含酸素有機溶媒或いは酸性化合物等を必要に応じ更に加えてもよい。
【0022】
本発明の重縮合反応用触媒を用いたポリエステルの製造方法において、該触媒の使用量は、タングステン金属原子換算の重量比として、ポリエステルの全重合原料に対して通常1〜1000ppmの範囲、好ましくは10〜200ppmの範囲で用いるのが好ましい。該触媒の添加時期としては特に限定されず、重合原料となるスラリーの調製時やエステル化工程の任意の段階および重縮合工程の初期に供給することができる。
【0023】
本発明のポリエステル重縮合反応用触媒を使用する製造方法では、パラタングステン酸塩と共に他の金属化合物を使用してもよい。他の金属化合物としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、マグネシウム、亜鉛から選ばれる少なくとも一種の金属原子を有する金属化合物が用いられる。中でも、チタンアルコキシド、酸化ゲルマニウム、酸化アンチモン、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛が好ましく用いられる。これらの金属化合物は、本発明の重縮合反応用触媒である混合液に加えてもよいし、重縮合反応用触媒の混合液とは別に添加してもよい。具体的には、原料スラリー調製時やエステル化工程の任意の段階、及び重縮合反応工程の初期に添加することができ、特に制限されるものではない。
【0024】
(ポリエステル原料)
本発明のポリエステルは、ジカルボン酸、特に芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分とグリコール成分から製造される。
ジカルボン酸成分の具体的な例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸若しくはその無水物、又はこれらのジメチルエステル等の芳香族ジカルボン酸及びその炭素数1〜4程度のアルキルエステル、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸及びこれらのジアルキルエステル等の脂肪族ジカルボン酸及びそのアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸及びそのエステルなどが挙げられる。これらのうち、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、2、6−ナフタレンジカルボン酸が好適に用いられ、更に好ましくはテレフタル酸が用いられる。
【0025】
グリコール成分の具体的な例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1、3−プロパンジオール、1、3−ブタンジオール、1、4−ブタンジオール等の脂肪族グリコ−ル、1、4−シクロヘキサンジオ−ル、1、4−シクロヘキサンジメタノ−ル等の脂環族グリコ−ル、ビスフェノールA、ビスフェノ−ルAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコ−ルなどが挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、テトラメチレングリコールが好適に用いられ、更に好ましくはエチレングリコールが用いられる。
【0026】
また本発明の効果を逸脱しない範囲で、前記原料のジカルボン酸成分及びグリコール成分に加え、p−オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、グリセリン、ペンタエリスリトール等の単官能および/または多官能化合物、又はその誘導体からなる成分を共重合成分として用いてもよい。
【0027】
(ポリエステルの製造方法)
本発明のポリエステル製造方法としては、上記重縮合反応用触媒を使用する他は特に限定されず、エステル化反応、重縮合反応及び要すればそれに続く固相重縮合反応を行うことよりなる公知のポリエステル製造方法を用いることができる。即ち、ジカルボン酸成分とグリコール成分を、要すれば共重合成分と共に必要に応じてエステル化触媒の存在下、エステル化反応させて低分子量体(オリゴエステル)を生成し、次いで重縮合反応させる方法が用いられる。例えば、ポリエステル製造方法として多段階プロセスを使用する場合、第一段階でのポリエステル予備縮合物(オリゴエステル)の製造を、ジカルボン酸成分と過剰のグリコール成分とのエステル化反応にて行うが、その場合、ジカルボン酸成分に対する過剰のグリコール成分を、モル比で通常1.02〜2.0、好ましくは1.03〜1.7の比率で用い、230℃〜280℃、好ましくは250〜270℃の温度、大気圧に対する相対圧力で0〜0.3MPa、好ましくは0〜0.2MPaの圧力下、無触媒またはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物などのエステル化触媒の存在下エステル化反応させることにより行うことができる。
【0028】
次いで、第二段階、即ち重縮合工程における重縮合反応では、本発明の上記重縮合反応用触媒を使用し、該触媒の存在下、ポリエステル予備縮合物を、副生するアルコールおよび/または水を分離しながら重縮合反応させることにより、目的とする高分子量のポリエステルを得ることができる。一般的に重縮合反応は、温度は通常250〜300℃、好ましくは260〜295℃にて、常圧から漸次減圧にして、最終的に通常絶対圧力で1500Pa〜10Pa、好ましくは650Pa〜50Paの減圧下で、1〜20時間で重縮合させることにより達成される。これらの操作は連続式、または回分式の何れの方法を用いてもよい。
【0029】
通常、重縮合工程により得られたポリエステルは、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口よりストランド状に抜き出して、水冷しながらまたは水冷後、カッターで切断されてペレット状、チップ状等の粒状体とされる。得られたポリエステル粒状体の固有粘度は、通常0.4dl/g以上、1.5dl/g以下となるのが好ましい。
【0030】
本発明の重縮合反応用触媒を用いると重合反応速度が従来法に比べて大幅に向上するので、触媒の使用量を増やすことにより、更に生産性を向上することができる。一方、触媒のコストを抑えるために使用量を少なくすることも可能である。
【0031】
このようにして得られたポリエステルは、所望によりさらに固相重縮合を行ってもよい。一般的に固相重縮合は、固相重縮合反応に供するポリエステルが溶融しない程度の温度乃至それより80℃低い温度範囲、好ましくは190〜250℃、特に好ましくは195〜240℃の温度条件下、窒素、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガス雰囲気中或いは減圧雰囲気下で反応が行われる。不活性ガス雰囲気中で反応を行う場合には760Torr以下、好ましくは150Torr以下で、あるいは減圧雰囲気下で反応を行う場合には0.1Torr〜50Torr、好ましくは0.5Torr〜10Torrにて行われる。固相重縮合の温度、圧力、反応時間、不活性ガス流量などは、生成物であるポリエステルが所望の物性を有するよう、適宜選択されるが、本発明の重縮合反応用触媒を用いると、重縮合反応用触媒が固相重縮合においても高い活性を有するため、重縮合反応用触媒として従来既知の触媒を用いる製造方法に比べて、反応時間を短くできるという利点がある。
【0032】
本発明のポリエステル製造方法では、生成するポリエステルの特性が損なわれない範囲において各種の触媒以外の添加剤、例えば熱安定剤、酸化安定剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。なお、本発明におけるポリエステルの物性等は以下の方法で測定した。
【0034】
<固有粘度の測定>
ポリエステル試料0.5gを、フェノール/1、1、2、2−テトラクロロエタン(重量比1/1)混合溶媒に、濃度(c)を1.0g/dlとして、110℃、30分間で溶解させる。この溶液についてウベローデ型毛細粘度管を用いて、30℃で相対粘度(ηrel)を測定する。この相対粘度から下記式に従って求めた比粘度(ηsp)について濃度(c)との比(ηsp/c)を求める。
(ηsp)=(ηrel)−1
濃度(c)を0.5g/dl、0.2g/dl、0.1g/dlとした溶液についても同様にしてそれぞれ濃度との比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度[η](dl/g)として求めた。
【0035】
<色調)>
重縮合反応で得られたポリエステルチップを粉体測色用セルに充填し、測色色差計ZE−2000(日本電色工業(株))を使用して、JIS Z8730の参考例1に記載されるLab表示系におけるハンターの色差式の色座標によるカラーb値を求めた。
【0036】
<重縮合反応速度>
重縮合反応速度Vcは下記式(4)によって求められる。
(数1)
Vc =ln(Mn’/Mn/時間(分))×10 (4)
【0037】
式(4)中、Mn’は重縮合反応後のポリエステルの固有粘度[η](dl/g)より算出されるポリマーの数平均分子量であり、Mnは重縮合反応前のポリエステル予備縮合物の固有粘度より算出されるポリマーの数平均分子量である。時間(分)は減圧開始後の重縮合反応時間である。
なお、分子量Mn及びMn’は下記式(5)の相関によって求められる。
(数2)
分子量(MnまたはMn’)=(固有粘度[η]/0.00021)(1/0.82) (5)
【0038】
〔実施例1〕
(原料オリゴマーの生成)
テレフタル酸ジメチル2012kg(10.4×10モル)とエチレングリコール1286kg(20.7×10モル)とをエステル化反応槽に供給して溶解後、エチレングリコールに溶解させた酢酸カルシウムを、カルシウム原子として0.20kg(エステル交換反応により得られる生成物に対して100ppm)となるように添加し、220℃に保持しつつ、生成するメタノールを留出させながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応が終了した後、このエステル化反応槽に、テレフタル酸1721kg(10.4×10モル)とエチレングリコール772kg(12.4×10モル)とをスラリー調製槽で攪拌・混合して得られたスラリーを3時間かけて連続的に移送し、常圧下、250℃でエステル化反応を行い、移送開始から4時間反応を行った後に、反応液の50%を系外へ抜き出した。
【0039】
このエステル化反応槽において、前記と同様にして得られたテレフタル酸とエチレングリコールからなるスラリーを追加してエステル化反応を行い、反応液の50%を重縮合反応槽に移送する工程を、計10回繰り返して行い、エステル化反応液中の酢酸カルシウムの濃度を0.5ppm以下とした。
このようにして、実質的にエステル交換触媒成分を含有しないテレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応生成物を製造した。このエステル化反応生成物を、エステル化反応槽から重縮合反応槽に移送する途中で抜き出し、大気下で冷却・固化させることにより以下の実施例で使用する原料オリゴマーを得た。この原料オリゴマーの製造に用いられたエチレングリコールのテレフタル酸に対するモル比は、最終的に1.2となり、得られた原料オリゴマーの数平均分子量(Mn)は1280であった。
【0040】
(重縮合反応用触媒調製−1)
エチレングリコールにパラタングステン酸アンモニウム・5水和物0.1430gとパラトルエンスルホン酸・1水和物0.1228gを加えて30mlとし、27℃で1時間攪拌して可溶化した。均一な透明溶液が得られ、タングステン濃度は、金属原子換算で0.3重量%となる。これを重縮合反応用触媒とする。
【0041】
(重縮合反応)
原料オリゴマーのうちから104gを、重縮合反応器に移して系内を窒素で置換した後オイルバス(270℃一定)でオリゴマーを溶解した。その後にポリエステル中のタングステン濃度が100ppmになるよう上記重縮合反応用触媒を添加した。添加完了後10分間攪拌しながら放置した。その後徐々に減圧して20分で絶対圧力130Paとし、減圧開始から1時間重縮合反応を行った。攪拌を停止し、窒素にて常圧に戻し、重縮合反応器をオイルバスから取り出した。重縮合反応器をオイルバスから取り出した後、速やかに該反応器の抜き出し口を開け、窒素で系内を微加圧にすることでポリエステルを抜き出し、水冷・固化させてポリエステル樹脂を得た。
得られたポリエステル樹脂の固有粘度は0.585dl/gであり、カラーb値は6.2であった。
【0042】
〔実施例2〕
以下の方法で調製した重縮合反応用触媒を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂を製造した。得られたポリエステル樹脂の固有粘度は0.581dl/gであり、カラーb値は6.2であった。
(重縮合反応用触媒調製−2)
エチレングリコールにパラタングステン酸アンモニウム・5水和物0.1430gとリン酸水溶液(85wt%)0.0744gを加えて30mlとし、窒素雰囲気下100℃で1時間攪拌して可溶化した。均一な透明溶液が得られ、タングステン濃度は、金属原子換算で0.3重量%となる。
【0043】
〔実施例3〕
以下の方法で調製した重縮合反応用触媒を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂を製造した。得られたポリエステル樹脂の固有粘度は0.561dl/gであり、カラーb値は6.2であった。
(重縮合反応用触媒調製−3)
エチレングリコールにパラタングステン酸アンモニウム・5水和物0.1430gとフェニルホスホン酸0.1021gを加えて30mlとし、窒素雰囲気下100℃で1時間攪拌して可溶化した。タングステン濃度は、金属原子換算で0.3重量%となる。
【0044】
〔実施例4〕
以下の方法で調製した重縮合反応用触媒を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂を製造した。得られたポリエステル樹脂の固有粘度は0.441dl/gであり、カラーb値は3.2であった。
(重縮合反応用触媒調製−4)
エチレングリコールにパラタングステン酸アンモニウム・5水和物0.4290gと次亜リン酸水溶液(31重量%)0.4110gを加えて3mlとし、窒素雰囲気下160℃で30分攪拌して可溶化した後、エチレングリコールで90mlに希釈した。青色を呈しほぼ均一で透明な溶液が得られ、溶液中の固体残存量を測定した結果、使用したパラタングステン酸塩に対し5重量%であった。タングステン濃度は、金属原子換算で0.3重量%となる。
【0045】
〔実施例5〕
以下の方法で調製した重縮合反応用触媒を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造した。得られたポリエステル樹脂の固有粘度は、0.594dl/gであり、カラーb値は5.5であった。
(重縮合反応用触媒調製−5)
エチレングリコールにパラタングステン酸アンモニウム・5水和物0.4290gと次亜リン酸水溶液(31重量%)0.4110gを加えて6mlとし、窒素雰囲気下150℃で60分攪拌して可溶化した後、エチレングリコールで90mlに希釈し、青色を呈した均一な透明溶液が得られた。タングステン濃度は、金属原子換算で0.3重量%となる。
【0046】
〔実施例6〕
以下の方法で調製した重縮合反応用触媒を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂を製造した。得られたポリエステル樹脂の固有粘度は0.515dl/gであり、カラーb値は6.1であった。
(重縮合反応用触媒調製−6)
エチレングリコールにパラタングステン酸アンモニウム・5水和物0.1430gを加えて30mlとし、窒素雰囲気下150℃で1時間攪拌して可溶化した。均一な透明溶液が得られ、タングステン濃度は、金属原子換算で0.3重量%となる。
【0047】
〔実施例7〕
以下の方法で調製した重縮合反応用触媒を使用し、重合時間を80分としたこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂を製造した。得られたポリエステル樹脂の固有粘度は0.408dl/gであり、カラーb値は5.2であった。
(重縮合反応用触媒調製−7)
エチレングリコールにパラタングステン酸アンモニウム・5水和物0.0114gを加えて2.4mlのスラリーとし、これを触媒(a)とした。エチレングリコールにパラタングステン酸アンモニウム・5水和物0.1430gとパラトルエンスルホン酸・1水和物0.1228gを加えて30mlとし、27℃で1時間攪拌して可溶化したものを触媒(b)とした。触媒(a)と(b)を重縮合反応器への添加10秒前に体積比4:1となるように混合して3秒間攪拌した。混合物中の残存固体は、使用したパラタングステン酸塩に対して80重量%であった。またタングステン濃度は、金属原子換算で0.3重量%となる。
【0048】
〔比較例1〕
以下の方法で調製した重縮合反応用触媒を使用し、重合時間を115分としたこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂を製造した。得られたポリエステル樹脂の固有粘度は0.515dl/gであり、カラーb値は6.1であった。
(重縮合反応用触媒調製−8)
エチレングリコールにパラタングステン酸アンモニウム・5水和物0.0143gを加えて3mlのスラリーとした。タングステン濃度は、金属原子換算で0.3重量%となる。
【0049】
上記実施例及び比較例の結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0050】
比較例1に対し、パラタングステン化合物を可溶化した実施例はすべて高い活性を示す結果となった。加えて実施例4では顕著にb値が低く、色調が良好なポリエステル樹脂が得られることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)パラタングステン酸塩が(2)含酸素有機溶媒に可溶化されてなるポリエステル重縮合反応用触媒。
【請求項2】
さらに(3)酸性化合物を含む請求項1に記載のポリエステル重縮合反応用触媒。
【請求項3】
(1)パラタングステン酸塩がパラタングステン酸アンモニウムである請求項1または請求項2に記載のポリエステル重縮合反応用触媒。
【請求項4】
(2)含酸素有機溶媒が、アルコール類及び/又はカルボン酸類である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリエステル重縮合反応用触媒。
【請求項5】
(3)酸性化合物が、硫黄化合物及び/又はリン化合物である請求項2乃至4のいずれか1項に記載のポリエステル重縮合反応用触媒。
【請求項6】
触媒中のタングステン濃度が、金属原子換算で0.05重量%〜20重量%の範囲である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のポリエステル重縮合反応用触媒。
【請求項7】
ジカルボン酸成分とグリコール成分からポリエステルを製造する方法において、ポリエステル重縮合反応用触媒として、請求項1及至6のいずれか一項に記載のポリエステル重縮合反応用触媒を使用することを特徴とするポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2006−124599(P2006−124599A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317656(P2004−317656)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】