説明

ポリエステル重縮合用触媒、および該触媒を用いたポリエステル樹脂の製造方法

【課題】チタン化合物と塩素化合物を含むポリエステル重縮合用触媒、及び該ポリエステル重縮合用触媒を用いた明るみに優れる光学用フィルムに好適なポリエステル樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】チタン化合物と塩素化合物を含むポリエステル重縮合用触媒であって、該触媒1トン当たりに含まれる塩素原子の含有量をC(モル/トン)、チタン原子の含有量をT(モル/トン)としたとき、下記式(1)を満たすポリエステル重縮合用触媒を用いて、エステル化工程、溶融重縮合工程を経てポリエステル樹脂を製造するにあたり、該触媒を、該樹脂1トン当たりのチタン原子の含有量として0.002〜3.0モルとなる量で反応系に添加する。
1.0×10−5 ≦ C/T ≦ 4.5×10−4 (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン化合物を使用したポリエステル重縮合用触媒、及び該重縮合用触媒を用いたポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル樹脂は、化学的、物理的性質に優れていることから、飲料ボトル等の容器、フィルム、シート、繊維等の各種用途に広範囲に使用されている。一般にポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールとをエステル化反応若しくはエステル交換反応、及び溶融重縮合反応を経て、更に必要に応じて、固相重縮合反応させることにより製造される。そして、このような重縮合反応にはアンチモン、ゲルマニウム、アルミニウム、又はチタン等の化合物がポリエステル重縮合用触媒として使用されている。一般に、これらの重縮合用触媒に含まれる化合物種によって、ポリエステル製造時の活性だけでなく、得られるポリエステル樹脂の各種特性、例えば色調や透明性、触媒残渣由来の異物量などに強く影響するため、多くの検討がなされてきたが、いずれも十分に満足できるものではなく、例えば、液晶ディスプレイをはじめとする、フラットパネルディスプレイなどに用いられる光学フィルム用ポリエステル樹脂は、高い明るみと徹底した異物の低減が要求されている。
【0003】
例えば、アンチモン化合物を重縮合用触媒としたポリエステル樹脂においては、特有のくすみを生じて樹脂の明るみが低下するだけでなく、アンチモン化合物において懸念されている安全衛生性、環境への配慮、及び重縮合用触媒としての添加量が多く、該触媒残渣に由来する異物が生じやすい傾向がある等の点から、アンチモン化合物に代わるポリエステル重縮合用触媒が強く望まれていた。
【0004】
また、アルミニウム化合物は、ポリエステル樹脂の透明性や安全衛生性の面では好適であるが、アンチモン化合物に比べ価格が高く、また、低い重縮合活性を補うために、多量に添加すると重縮合用触媒が析出し、異物が発生するなどの問題があった。
一方、チタン化合物は、安価で、安全衛生性等への懸念もなく、また高い活性を有することから、重縮合反応に必要な添加量が少なくてすみ、触媒残渣に由来するポリエステル中の異物等も少ないことから注目されている。しかしながら、チタン化合物を重縮合用触媒として用いて得られるポリエステル樹脂は、特有の黄色みを有し、得られるポリエステルの明るみが低下する等の品質上の欠点があった。
【0005】
例えば、特許文献1には、ハロゲン化チタン化合物を加水分解して得られる固体性チタン化合物、特許文献2には、チタン化合物をアルカリ土類金属化合物と反応させて得られる固体性チタン化合物が開示されている。しかしながら、これらのような固体性チタン化合物は、エチレングリコール等の溶媒に不溶であり、ポリエステル樹脂製造時に触媒の添加配管を閉塞させるなどの問題が生じ得るだけでなく、重縮合活性が低く、ポリエステル樹脂製造時に多量に添加すると、得られる樹脂の明るみが低下する傾向があり、また、固体性チタン化合物が異物として樹脂中に残る懸念がある等、更なる改良が求められていた。
【0006】
これらに対して、チタン化合物として、テトラアルコキシチタンを重縮合用触媒に用いる例が知られている(例えば、特許文献3、4参照)。テトラアルコキシチタンは、溶媒に対する溶解性が高く、固体性チタン化合物のような配管の閉塞や異物の懸念は無く、空気中での取り扱い性に優れる等の特長を有しているが、ポリエステル重縮合用触媒として
用いた時は、例外なくポリエステル樹脂が黄色みを帯びるため、明るみが低下する傾向があり、従来より様々な改良が提案されてきた。
【0007】
例えば、特許文献5には、テトラアルコキシチタン、マグネシウム化合物、及びリン化合物を同一触媒内に含むポリエステル重縮合用触媒が開示されており、触媒活性やポリエステル樹脂の黄色みの点で一定の改良が見られているものの、明るみの高いポリエステル樹脂としては、更なる改良が求められていた。
また、前記のようなチタン化合物を重縮合用触媒として用いて製造したポリエステル樹脂の黄色みを改善するため、各種色材を添加する方法も開示されている(例えば、特許文献6参照)。このような方法によれば、確かに得られるポリエステル樹脂の黄色みは改良されるものの、色材を添加することによる明るみの悪化が避けられず、特に光学用フィルムや衣類用繊維等に用いる上で、品質上不十分であった。
【0008】
さらに、例えば特許文献7には、紡糸用ポリエステル樹脂のつや消しを目的として、酸化チタンなどの無機微粒子を添加する例も提案されており、結果的に樹脂の明るみが向上しているが、このような無機微粒子の添加は、触媒活性を低下させたり、異物などの原因となるため、高い重合度を要求される各種容器や、異物の混入を不適とする光学用フィルム用としては、満足な品質は得られておらず、やはり触媒そのものの改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-48973号公報
【特許文献2】特表2002−503274号公報
【特許文献3】特開2002−020475号公報
【特許文献4】特開平7−207010号公報
【特許文献5】国際公開2006/077963号パンフレット
【特許文献6】特開2005−023203号公報
【特許文献7】特開2006−188667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記実状に鑑み本発明の課題は、チタン化合物と塩素化合物を含むポリエステル重縮合用触媒、及び該ポリエステル重縮合用触媒を用いた明るみに優れる光学用フィルムに好適なポリエステル樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、塩素原子とチタン原子を特定量含むポリエステル重縮合用触媒を用いることにより、明るみに優れるポリエステルを製造する方法を見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[11]に存する。
[1] チタン化合物と塩素化合物を含むポリエステル重縮合用触媒であって、該触媒1トン当たりに含まれる塩素原子の含有量をC(モル/トン)、チタン原子の含有量をT(モル/トン)としたとき、下記式(1)を満たすことを特徴とするポリエステル重縮合用触媒。
1.0×10−5 ≦ C/T ≦ 4.5×10−4 (1)
[2] 塩素原子の含有量C(モル/トン)とチタン原子の含有量Tの比率が下記式(2)を満たすことを特徴とする[1]に記載のポリエステル重縮合用触媒。
【0012】
1.0×10−4 ≦ C/T ≦ 3.0×10−4 (2)
[3] チタン化合物が、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタンから
なる群より選ばれる[1]または[2]に記載のポリエステル重縮合用触媒。
[4] 塩素化合物が塩化水素、塩化アンモニウム、および四塩化チタンからなる群より選ばれた少なくとも1種である[1] 〜[3]に記載のポリエステル重縮合用触媒。
[5] [1] 〜[4]に記載のポリエステル重縮合用触媒を用い、ジカルボン酸成分とジオ
ール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応を行なうエステル化工程、及び該エステル化工程により得られたポリエステル低分子量体を溶融重縮合反応する溶融重縮合工程を経てポリエステル樹脂を製造する方法であって、ポリエステル重縮合用触媒を、ポリエステル樹脂1トン当たりのチタン原子の含有量として0.002〜3.0モルとなる量で反応系に添加することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
[6] マグネシウム化合物およびリン化合物を反応系に添加し、溶融重縮合反応することを特徴とする[5]に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
[7] マグネシウム化合物が、ポリエステル樹脂1トン当たりのマグネシウム原子の含有量として0.1〜3.0モルとなる量で反応系に添加され、かつリン化合物がポリエステル樹脂1トン当たりのリン原子の含有量として0.02〜4.0モルとなる量で反応系に添加することを特徴とする[6]に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
[8] マグネシウム化合物が、酢酸マグネシウム・4水和物である[6]または[7]に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
[9] リン化合物が、正リン酸、エチルアシッドホスフェート、およびトリメチルアシッドホスフェートからなる群より選ばれた少なくとも1種である[6]ないし[8]に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
[10] ジカルボン酸成分がテレフタル酸である[3]ないし[9]に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
[11] ジオール成分がエチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールである[5]ないし[10]に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明におけるポリエステル重縮合用触媒を用いることにより、明るみが高いポリエステル樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
<ポリエステル重縮合用触媒>
本発明のポリエステル重縮合用触媒は、塩素化合物とチタン化合物を含み、該触媒を用いて溶融重縮合反応させることにより、得られるポリエステル樹脂の明るみを高めることができる。
【0015】
(塩素とチタンとの比率)
本発明におけるポリエステル重縮合用触媒は、チタン化合物と塩素化合物を含む重縮合用触媒であり、塩素原子とチタン原子の比率が、通常下記式(1)を満たすし、好ましくは下記式(2)を、より好ましくは下記式(6)を満たす。
【0016】
1.0×10−5 ≦ C/T ≦ 4.5×10−4 (1)
1.0×10−4 ≦ C/T ≦ 3.0×10−4 (2)
1.5×10−4 ≦ C/T ≦ 2.5×10−4 (3)
【0017】
本発明のポリエステル重縮合用触媒において、塩素化合物としては、塩化水素、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、などの長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)におけ
る1族の塩化物、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、などの長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における2族の塩化物、三塩化チタン、四塩化チタン、モノアルコキシトリクロロチタン、トリアルコキシモノクロロチタンなどの塩化チタン類、塩化鉄、塩化銅、塩化ジルコニウム、塩化銀、塩化タングステン、塩化タンタルなどの遷移金属の塩化物、および塩化アンモニウムなどの無機塩化物、さらには、モノクロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン、トリクレン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2―テトラクロロエチレ
ンなどの塩化炭素類が挙げられ、中でも、溶融重縮合反応時に触媒活性を低下させず、かつ樹脂中で異物やヘーズの原因となりにくいことから、塩化水素、塩化アンモニウム、塩化チタン類が好ましく、塩化水素、塩化アンモニウムが更に好ましく、塩化アンモニウムが特に好ましい。これらの塩素化合物は、一種を単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0018】
本発明のポリエステル重縮合用触媒に含まれるチタン化合物は、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピロキシチタン、テトラ−i−プロピロキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタンテトラマー、テトラ−t−ブトキシチタン、テトラシクロヘキシロキシチタン、テトラベンジロキシチタンなどのテトラアルコキシチタン、酢酸チタン、蓚酸チタン、乳酸チタン、アセチルアセトキシチタンなどのチタンカルボキシレート及びそれらの金属塩、四フッ化チタン、四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物などのハロゲン化チタンが挙げられ、中で、テトラ−n−プロピロキシチタン、テトラ−i−プロピロキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタンなどのテトラアルコキシチタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、乳酸チタンが好ましく、特にテトラアルコキシチタンが好ましい。
【0019】
本発明におけるポリエステル重縮合用触媒として、アルコールなどの溶媒に不溶な固体性チタン化合物を用いると、得られるポリエステルの明るみが劣り、および触媒由来の異物が発生する傾向にある。
本発明のポリエステル重縮合用触媒において、該触媒1トン当たりに含まれる塩素原子の含有量C(モル/トン)と該触媒1トン当たりに含まれるチタン原子の含有量T(モル/トン)の比率を調整する方法は、特に制限されないが、基本的にはチタン化合物の慣用の製造方法を用いることができる。例えば、塩素原子の含有量、チタン原子の含有量が、それぞれ既知である塩素化合物とチタン化合物とを適量混合して調製する方法や、四塩化チタンにアルコールや各種カルボン酸化合物、水などを添加しながら、発生する塩化水素を蒸留する、あるいは、例えば、米国特許公報3119852号に記載されているとおり、アルカリ化合物を用いつつ、四塩化チタンにアルコールや、各種カルボン酸化合物、水などを添加し、発生する中和塩を適量除いて調製する方法などが挙げられる。
【0020】
本発明の触媒においては、C/Tの比率や樹脂の色調などを損なわない範囲で、触媒中に塩素化合物、チタン化合物以外の助触媒や溶媒、または各種添加剤などの成分を含んでいてもよい。
助触媒成分としては、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、鉄化合物、亜鉛化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物、コバルト化合物、マンガン化合物などが挙げられるが、なかでも、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物が好ましく、特にアルカリ土類金属化合物が好ましい。
【0021】
アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の酸化物、水酸化物、炭酸塩、または酢酸塩、乳酸塩、テレフタル酸塩、イソフタル酸塩などのカルボン酸塩等が挙げられるが、特にナトリウム化合物がコストの面で好ましい。
アルカリ土類金属化合物としては、マグネシウム、カルシウム等の酸化物、水酸化物、
炭酸塩、または酢酸塩、乳酸塩、テレフタル酸塩、イソフタル酸塩などのカルボン酸塩等が挙げられるが、特にマグネシウム化合物が触媒活性の点で好ましい。
【0022】
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどの無機化合物、酢酸マグネシウム、ラク酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの有機酸のマグネシウム塩、マグネシウムアルコキシドなどが挙げられる。なかでも、酢酸マグネシウムまたはその水和物が、グリコールに対する溶解度が高く、液状触媒を調製しやすい点で好ましい。
【0023】
本発明のポリエステル重縮合用触媒は、得られるポリエステル樹脂の色調、アセトアルデヒドや環状三量体等の副生成物の低減化、並びに、成形時の熱安定性の向上などの面で、リン化合物を用いるのが好ましく、それに伴い本発明のポリエステル樹脂には該リン化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物が含有されるのが好ましい。
なお、これらのリン化合物は、本発明の触媒とは別に、例えばジカルボン酸成分とジオール成分のスラリー、エステル化工程、または溶融重縮合工程等に添加してもよいし、本発明の触媒と予め混合・反応させて添加してもよい。
【0024】
リン化合物としては、具体的には、例えば、正リン酸、ポリリン酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ‐n‐ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、モノメチルアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等の5価のリン化合物、亜リン酸、次亜リン酸、及び、ジエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3価のリン化合物等が挙げられ、中でも、正リン酸、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、トリメチルホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、モノエチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート、亜リン酸が好ましく、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、トリメチルホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、モノエチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェートが特に好ましい。
【0025】
本発明において、前記チタン化合物、チタン化合物を除く前記金属元素の化合物、及び前記リン化合物は、ポリエステル樹脂における各含有量として、ポリエステル樹脂1トン当たり、チタン原子(Ti)として0.002〜3.0モルであるのが好ましく、0.002〜1.0モルであるのが更に好ましく、0.002〜0.2モルであるのが特に好ましい。
【0026】
又、ポリエステル樹脂1トンあたりに含まれるリン原子の含有量(P)としては、0.02〜4.0モルであるのが好ましく、0.02〜2.0モルであるのが更に好ましい。
さらに、チタン化合物を除く金属元素の化合物としては、ポリエステル樹脂1トンあたりのチタン原子を除く金属原子の合計含有量(M)として、0.1〜3.0モルであるのが好ましく、0.3〜1.0モルであるのが更に好ましい。
【0027】
又、前記チタン化合物、チタン化合物を除く金属元素の化合物、または前記リン化合物の量が、チタン原子(Ti)、リン原子(P)、チタン原子を除く金属原子の合計(M)
として、前記範囲のモル量を満足した上で、チタン原子(Ti)に対するリン原子(P)のモル比〔P/Ti〕が0.5〜50であることが好ましく、更に好ましくは0.5〜10、特に好ましくは1〜3である。又、チタン原子(Ti)に対する、チタン原子以外の金属原子の合計(M)のモル比〔M/Ti〕が0超過〜20であることが好ましく、更に好ましくは0超過〜10、特に好ましくは1〜6である。また、チタン原子以外の金属原子の合計(M)に対するリン原子(P)のモル比〔P/M〕が0超過〜10であることが好ましく、更に好ましくは0.05〜5、特には好ましく0.1〜2である。
【0028】
前記モル比〔P/Ti〕、及び前記モル比〔P/M〕が小さすぎる場合、並びに、前記モル比〔M/Ti〕が小さすぎる場合にはいずれも、得られる樹脂の色調が黄味がかったものとなり、その結果、明るみが低下する傾向となり、一方、前記モル比〔P/Ti〕、及び前記モル比〔P/M〕が大きすぎる場合、並びに、前記モル比〔M/Ti〕が大きすぎる場合にはいずれも、重縮合性が低下する傾向となる。
【0029】
本発明においては、前述したように、触媒中のチタン原子に対する塩素原子の含有比を特定範囲とすることにより、明るみが増したポリエステル樹脂が得られる。このような効果が得られる理由については定かではないが、以下のように考察される。
すなわち、一般にポリエステル樹脂の重縮合反応、特に溶融重縮合反応においては、ポリエステル分子鎖に発生したラジカルといわれる中間体を介した分解反応が生じること、及び特にチタン化合物をポリエステル重縮合用触媒とした場合、該分解反応を促進することにより、得られるポリエステル樹脂の黄色みが増し、明るみが低下するものと考えられる。
【0030】
一方、ハロゲン元素はそれ自体がラジカルとなり、その他のラジカルと反応することが知られていること、および四塩化チタンなどのハロゲン化チタンに代表されるようにチタン原子との結合も生成することから、本願発明におけるポリエステル重縮合用触媒は、塩素化合物から微小量遊離した塩素原子が、適度にチタン原子に作用しつつ、かつポリエステル分子鎖に生じたラジカルと反応し、分解反応が抑えられるため、ポリエステル樹脂の明るみが向上したものと考えられる。
【0031】
<ポリエステル樹脂の製造法>
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、ジカルボン酸成分とジオール成分との溶融重縮合反応において本発明の重縮合用触媒を用いること以外は、特に制限されず、基本的にはポリエステル樹脂の慣用の製造方法を用いることができる。
すなわち、本発明のポリエステル重縮合用触媒は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂や、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル樹脂、およびこれらの共重合体など、いずれのポリエステル樹脂の製造においても用いることができる。中でも、芳香族ポリエステル樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
以下、慣用の製造方法の一例として、ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートである場合を例に述べる。
【0032】
テレフタル酸若しくはそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応槽で、エステル化反応させ、若しくは、エステル交換触媒の存在下にエステル交換反応させた後、得られたエステル化反応生成物若しくはエステル交換反応生成物であるポリエステル低分子量体を重縮合槽に移送し、ポリエステル重縮合用触媒の存在下に、溶融重縮合反応させる。さらに、必要に応じて得られたポリエステル樹脂を固相重縮合反応に供してもよい。また、これらの製造方法はいずれも連続式でも、回分式でもよく、特に制限はされない。
【0033】
用いる原料は、ジカルボン酸成分に占めるテレフタル酸若しくはそのエステル形成性誘導体の割合を、好ましくは90モル%以上、更に好ましくは96モル%以上、特に好ましくは99モル%以上とするのが好ましく、また、ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合を、好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97モル%以上とする。テレフタル酸若しくはそのエステル形成性誘導体のジカルボン酸成分に占める割合、及びエチレングリコールのジオール成分に占める割合が小さすぎる場合は、得られるポリエステルの成形体としての機械的強度、ガスバリア性、及び耐熱性が低下する傾向がある。
【0034】
なお、テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1〜4程度のアルキル基を有するエステル等が挙げられる。また、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分として、例えば、フタル酸、イソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにこれらの炭素数1〜4程度のアルキル基を有するエステル、及びハロゲン化物、等の一種又は二種以上が共重合成分として用いられてもよい。
【0035】
また、エチレングリコール以外のジオール成分としては、例えばジエチレングリコールが挙げられ、そのジエチレングリコールのジオール成分に占める割合は、反応系内で副生する分も含め好ましくは5モル%以下、更に好ましくは1.5モル%以上、特に好ましくは2.5モル%以下である。また、その他のジオール成分として、例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、等の一種又は二種以上が共重合成分として用いられてもよい。
【0036】
更に、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、等の三官能以上の多官能成分、等の一種又は二種以上が共重合成分として用いられてもよい。
【0037】
なお、エステル交換反応の場合は、一般に助触媒としてエステル交換触媒を用いる必要があり、かつ、該触媒を多量に用いる必要があることから、本発明におけるポリエステル
の製造方法としては、原料としてジカルボン酸を使用し、エステル化反応を経て製造する方法が好ましい。
エステル化反応は、例えば、単一のエステル化反応槽、又は、複数のエステル化反応槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、該反応で生成する水と余剰のエチレングリコールを系外に除去しながら、エステル化反応率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)が、好ましくは90%以上、更に好ましくは93%以上に達するまで行われる。また、得られるエステル化反応生成物としてのポリエステル低分子量体の数平均分子量は500〜5,000であるのが好ましい。
【0038】
エステル化反応における反応条件としては、単一のエステル化反応槽を用いる場合、温度は好ましくは200〜280℃、圧力は好ましくは0〜400kPaG(Gは大気圧に対する相対圧力であることを表す)程度とし、攪拌下に1〜10時間程度の反応時間とする方法が一般的である。また、複数のエステル化反応槽を用いる場合は、第1段目のエステル化反応槽における反応温度の下限は好ましくは240℃、更に好ましくは245℃、上限は好ましくは270℃、更に好ましくは265℃、反応圧力は、下限が好ましくは5kPaG、更に好ましくは10kPaG、上限は好ましくは300kPaG、更に好ましくは200kPaGとし、最終段における反応温度を、下限を好ましくは250℃、更に好ましくは255℃、上限を好ましくは280℃、更に好ましくは275℃、反応圧力を好ましくは0〜150kPaG、更に好ましくは0〜130kPaGとする方法が通常用いられる。
【0039】
なお、エステル化反応において、例えば、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の第三級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性化合物等を少量添加しておくことにより、エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生を抑制することができる。
溶融重縮合反応の例としては、単一の溶融重縮合槽、又は、複数の溶融重縮合槽を直列に接続し、例えば、第1段目が攪拌翼を備えた完全混合型の反応器、第2段及び第3段目が攪拌翼を備えた横型プラグフロー型の反応器からなる多段反応装置を用いて、減圧下に、生成するエチレングリコールを系外に留出させながら行う方法が挙げられる。
【0040】
溶融重縮合反応における反応条件の例としては、単一の重縮合槽を用いる場合、温度は好ましくは250〜290℃、圧力は好ましくは常圧から漸次減圧として、最終的に好ましくは1.3〜0.013kPaG程度とし、攪拌下に1〜20時間程度の反応時間とする方法が一般的である。また、複数の重縮合槽を用いる場合の例としては、第1段目の重縮合槽における反応温度を、下限は好ましくは250℃、更に好ましくは260℃、上限は好ましくは290℃、更に好ましくは280℃、反応圧力を、上限を好ましくは−36kPaG、更に好ましくは−75kPaG、下限を好ましくは−100kPaG、更に好ましくは−99kPaGとし、最終段における反応温度を、下限は好ましくは265℃、更に好ましくは270℃、上限は好ましくは300℃、更に好ましくは295℃、反応圧力を、上限を好ましくは−100.0kPaG、更に好ましくは−100.6kPaG、下限を好ましくは−101.29kPaG、更に好ましくは−101.24kPaGとする方法が挙げられる。更に、中間段を用いる場合の反応条件としては、上記条件の中間の条件が選択され、例えば、3段反応装置における第2段の反応条件の一例として、反応温度を、下限は好ましくは265℃、更に好ましくは270℃、上限は好ましくは295℃、更に好ましくは285℃、反応圧力は、上限は好ましくは−94.8kPaG、更に好ましくは−97.3PaG、下限は好ましくは−101.17kPaG、更に好ましくは−101.03kPaGとする方法が挙げられる。
【0041】
本発明のポリエステル重縮合用触媒の反応系への添加は、前記ジカルボン酸成分とジオール成分の混合・調製段階、前記エステル化工程の任意の段階、又は、溶融重縮合工程の初期の段階のいずれであってもよい。しかし、色調、透明性に優れたポリエステルを高反応速度で製造するためには、本発明のポリエステル重縮合用触媒の反応系への添加を、エステル化率が90%以上となった段階以降に行うのが好ましく、具体的工程の例としては、多段反応装置における最終段のエステル化反応槽、又は、エステル化槽から溶融重縮合工程への移送段階のエステル化反応生成物に添加するのが好ましく、中でも、エステル化槽から溶融重縮合工程への移送段階のポリエステル低分子量体に添加するのがより好ましい。
【0042】
本発明において、前記リン化合物は、前期ジカルボン酸成分とジオール成分の混合・調製段階、前期エステル化反応工程の任意の段階、又は溶融重縮合工程の初期または末期段階のいずれであってもよい。
前記溶融重縮合反応により得られるポリエステル樹脂の固有粘度(〔η1 〕)は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液を溶媒として30℃で測定した値として、下限は好ましくは0.35dL/g、更に好ましくは0.50dL/g、上限は好ましくは0.75dL/g、更に好ましくは0.65dL/gとなる。固有粘度(〔η1 〕)が小さすぎると、後述する重縮合槽からの抜き出し時に、操作性が悪化する場合があり、一方、大きすぎると、得られるポリエステル樹脂中のアセトアルデヒド等の副生成物含有量の低減が困難な場合がある。
【0043】
前記溶融重縮合反応により得られるポリエステル樹脂は、通常、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出した後、該ストランド状樹脂を水冷しながら、または水冷後、カッターで切断してペレット状、チップ状等の粒状体とするが、更に、必要に応じて該粒状体を、固相重縮合反応させることができる。固相重縮合反応は従来公知の方法、例えば、特開平2004-292803号公報に記載されている方法等で行う
ことができる。
【実施例】
【0044】
<塩素原子量の測定>
触媒液試料を磁製ボートに約100mg精秤し、石英製管状炉(三菱化学社製 自動燃
焼吸収装置AQF−100型)で加熱(1100℃)し、生じたガス中の塩素分を、20
0wtppm炭酸ナトリウム水溶液で吸収した。吸収液をカートリッジフィルター(孔径:0.2μm;PTFE製)でろ過した。得られた吸収液中の塩素イオン濃度をイオンクロマトグラフ(Dionex社製 ICS−1000型)で測定した。なお、ここで塩素イオン濃度は、絶対検量線法で定量した。吸収液中の塩素イオン濃度および試料重量から、試料中の塩素原子の総量C(モル/トン)に換算した。
【0045】
<金属量の測定>
ポリエステル試料2.5gを、硫酸存在下に過酸化水素で常法により灰化、完全分解後、蒸留水にて50mlに定容したものについて、JOBINYVON社製プラズマ発光分光分析装置「ICP−AES JY46P型」を用いて定量し、ポリエステル1トン中の
、チタン原子としての総量T(モル/トン)、マグネシウム原子としての総量M(モル/トン)、及びリン原子としての総量P(モル/トン)を算出した。触媒液試料中の金属量についても、同様に実施した。
【0046】
<エステル化反応率>
ポリエステル低分子量体試料を乳鉢で粉砕し、その1.0gをビーカーに精秤し、これにジメチルホルムアミド40mlを加えて攪拌しながら180℃で20分間加熱して溶解
させた後、180℃のジメチルホルムアミド10mlでビーカー壁を洗浄し、室温まで冷却する。この溶液を、メトローム社製ポテンショグラフ「E−536型」自動滴定装置にて、複合pH電極「EA−120」を用い、0.1NKOHメタノール溶液で滴定した。得られた滴定曲線の変曲点から求めた滴定量〔A(ml)〕と、JIS K8006の方
法により調製、標定した、0.1N KOHメタノール溶液のファクター〔f1 〕、及び
試料重量〔W(g)〕とから、下式により、遊離の末端カルボキシル基量〔AV(meg/g)〕を求めた。
【0047】
AV(meg/g)={A×f1 ×(1/10)}/W
次いで、乳鉢で粉砕した試料0.3gを三角フラスコに精秤し、これに0.5N KO
Hエタノール溶液をホールピペットで20ml加え、更に純水10mlを加えて還流冷却器をセットし、表面温度を200℃にしたプレートヒーター上で、時々攪拌しながら2時間加熱還流して試料を加水分解した。放冷後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N塩酸水溶液で滴定した。なお、ここで、0.5N KOHエタノール溶液と0.5N
塩酸水溶液は、JIS K8006の方法により調製、標定した。また、フェノールフタ
レインは、1gをエタノール90mlに溶解し、純水で100mlに定容したものを用いた。また、同一条件で試料を入れないブランクの状態においても滴定した。その際の、試料の滴定量〔Vs (ml)〕、ブランクの滴定量〔Vb (ml)〕、0.5N 塩酸水溶
液のファクター〔f2 〕、及び試料重量〔W(g)〕とから、下式により、全カルボン酸由来のカルボキシル基量〔SV(meg/g)〕を求めた。
【0048】
SV(meg/g)={(Vb −Vs )×f2 ×(1/2)}/W
次いで、得られたAV(meg/g)、及びSV(meg/g)とから、下式により、エステル化反応率(%)を求めた。
エステル化反応率(%)={(SV−AV)/SV}×100
【0049】
<固有粘度[η]の測定>
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液を溶媒として、110℃で30分間の条件で溶解させた後、30℃において、濃度1.0g/dLのポリエステル樹脂溶液および溶媒のみの落下
秒数を測定し、以下の式より求めた。
IV=((1+4KηSP0.5−1)/(2KC)
(但し、ηSP=η/η−1であり、ηはポリマー溶液の落下秒数、ηは溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。)
【0050】
<色座標L値>
1gあたり100〜130粒のペレット状にしたポリエステル樹脂試料を、内径36mm 、深さ15mmの円柱状の粉体測色用セルにすりきりで充填し、測色色差計( 日本電色工業社製「ND−300A」)を用いて、JISZ8730のL a b 表色系におけ
るハンターの色差式の色座標Lを、反射法で、セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。尚、各値の表す意味として、明度指数L値は高い方が明るい色調を表し、色座標a値はマイナスになるほど緑味が強く、逆にプラスになるほど赤味が強い色調を表し、又、色座標b値はマイナスになるほど青味が強く、逆にプラスになるほど黄味が強い色調を表す。
【0051】
[実施例1]
<触媒液Aの調製>
温度計を備えた500ml三ツ口丸底フラスコにマグネチックスターラー、および無水n-ブタノール237.0g(3.2mol)を加え、窒素置換した後、攪拌しながら、
シリンジを用いて四塩化チタン152.0g(0.8mol)を240分かけて添加した。この間、反応内部温度は45〜50℃に保った。その後、該混合物にさらに無水n-ブタノール58.8gを添加した。その後、得られた混合物に無水アンモニアガスを40分間吹き入れた。
添加終了後、フラスコ内に2つの液層が得られ、下層を分液ロートにて分離し、減圧下で蒸留した。沸点160〜162℃、−99.967kPaGで蒸留した成分を回収し、触媒液Aを215g得た。触媒液Aのチタン原子含有量は14.1重量%、塩素原子含有量は20重量ppmであった。
【0052】
<エチレンテレフタレート低重合体の合成>
テレフタル酸43kg(260モル)、及び、エチレングリコール19kg(312モル)のスラリーを、予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約50kgが仕込まれ、温度250℃、圧力−18.69kPaGに保持されたエステル化反応槽に240分かけて順次供給し、供給終了後も更に60分かけてエステル化反応を行った。このエステル化反応生成物は溶融状態で空気と接触させると、得られる樹脂が黄変するため、窒素雰囲気下で50kg抜き出した。エステル化反応率は、97%であった。
【0053】
<溶融重縮合工程>
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管、減圧用排気口を備えた100gスケールのガラス反応容器にエチレンテレフタレート低重合体104gを仕込み、窒素−減圧置換によって系内を3回置換した後、窒素雰囲気下、260℃、常圧にて溶融した。溶融後、攪拌翼により攪拌し、溶解開始から60分後反応器内に、エチルリン酸(EAP)のエチレングリコール溶液を、溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりのリン原子含有量として0.194モルとなるよう添加した。その5分後に酢酸マグネシウム四水和物のエチレングリコール溶液を、溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりのマグネシウム原子含有量として0.247モルとなるよう添加した。さらに、その5分後に触媒液Aのエチレングリコール溶液を、溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりのチタン原子含有量として0.084モルとなるよう添加した。融解液を攪拌しながら、80分間で280℃まで段階的に昇温するとともに、反応系の圧力を60分間で常圧から−101.0kPaGまで段階的に下げ、温度280℃,圧力−101.0kPaGに到達した後は、温度、圧力を一定に保った。減圧開始170分後、攪拌を止め、系内に窒素ガスを導入することにより重合を停止した。その後ポリマーを反応容器より抜き出し、水冷却することにより、ストランド状のポリエステル樹脂を得た。これをカットしペレット状にした。減圧開始から重合停止までの時間(重合時間)と得られたポリマーの固有粘度と色調を下記表1に示す。
【0054】
[実施例2]
<触媒液Bの調製>
蒸留を160〜162℃、−100.9kPaGで行なった以外は実施例1と同様に行い、触媒液Bを得た。触媒液Bのチタン原子含有量は14.1重量%、塩素は26重量ppmであった。
【0055】
<溶融重縮合>
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート低分子量体の溶解開始から70分後、反応器内に、上記で調製した触媒液Bのエチレングリコール溶液を、溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりのチタン原子含有量として0.084モルとなるよう添加し、減圧開始193分後に重合を停止した以外は実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0056】
[実施例3]
<触媒液Cの調製(組成 Ti/Mg/P=1/1/1.2(モル比) 液状触媒)>
フラスコに酢酸マグネシウム四水和物30.50gとエタノール185.00gを入れて撹拌した。攪拌開始から60分後に、エチルアシッドホスフェート(モノエチル体:ジエチル体=1:1モル比)を11.95g、ジブチルアシッドホスフェートを17.92g加え、5分後に触媒液Aを48.40g添加した。添加後、60分間撹拌すると、完全に溶解し、均一かつ透明な液が得られた。得られた液体の低沸点成分をエバポレータで除去した後、エチレングリコールを140.43g添加し、さらにエバポレータで低沸点成分を除去し(60℃、−101.3kPaG)、均一かつ透明な液状触媒(触媒液C)を得た。触媒液Cのチタン原子含有量は3.4重量%、塩素原子含有量が3重量ppm含まれていた。
【0057】
<溶融重縮合工程>
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート低分子量体の溶解開始から60分後、反応器内に、上記で製造した触媒液Cのエチレングリコール溶液を、溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりチタン原子含有量として0.084モルとなるよう添加し、他の触媒は使用せず、減圧開始132分後に重合を停止した以外は実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
<触媒液Dの調製>
200ml滴下ロート、ジムロート式冷却管、窒素導入口、窒素排出口を取り付けた500ml三ツ口丸底フラスコに、マグネチックスターラーと無水n-ヘプタン140mL
を入れ、さらに、滴下ロートに無水n-ブチルアルコールを100ml入れ、反応容器内
を乾燥窒素で置換した。その後、シリンジを用いて四塩化チタンを27.6g(0.146mol)をゆっくり加え、窒素雰囲気下、100±2℃で還流させた。還流が始まってか
ら、滴下ロートから30分かけて無水n-ブチルアルコール10.8gをフラスコに添加
後、さらに360分かけて32.3gを添加し、さらに5分かけて10.8gを添加した(合計53.9g、0.727mol)。その後、フラスコを氷浴で冷却しながら、反応物がアルカリ性になるまで無水アンモニアガスを流通させた。析出物の発生がなくなったことを確認した後、アンモニアガスを流通させつつ、フラスコを加熱し、5分間還流させ、再度室温まで冷却し、内容物をろ過した。得られたろ液を、500mlフラスコに回収し、170℃で蒸留し、触媒液Dを得た。触媒液Dのチタン原子含有量は14.1重量%、塩素原子含有量は0.5重量ppmであった。
【0059】
<溶融重縮合>
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート低分子量体の溶解開始から70分後、反応器内に、上記で調製した触媒液Dのエチレングリコール溶液を、溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりチタン原子含有量として0.084モルとなるよう添加し、減圧開始144分後に重合を停止した以外は実施例1と同様に行った。得られた樹脂ペレットの色調L値は、64.44であり、不十分であった。得られた結果を表1に示す。
【0060】
[比較例2]
<触媒液Eの調製>
マグネチックスターラーを入れた300ml三ツ口丸型フラスコに窒素流通下、エチレングリコール97.14gを入れ、攪拌しながら塩酸(濃度35重量%)を2.86g加えて、さらに10分攪拌し、塩酸のエチレンレングリコール溶液を調製した。一方、100mlナスフラスコにマグネチックスターラーおよび触媒液D20gを入れて窒素置換した後、攪拌しながら該塩酸溶液を0.103g加えて、さらに10分攪拌し、触媒液Eを調製した。触媒液Eのチタン原子含有量は14.1重量%、塩素原子含有量は50重量ppmであった。
【0061】
<溶融重縮合>
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート低分子量体の溶解開始から70分後、反応器内に、上記で調製した触媒液Eのエチレングリコール溶液を、溶融重縮合終了時の
ポリエステル樹脂1トン当たりチタン原子含有量として0.084ppmとなるよう添加し、減圧開始167分後に重合を停止した以外は実施例1と同様に行った。得られた樹脂ペレットの色調L値は、64.86であり、不十分であった。得られた結果を表1に示す。
【0062】
[比較例3]
<触媒液Fの調製(組成 Ti/Mg/P=1/1/1.2(モル比) 液状触媒)>
実施例3において触媒液Aを触媒液Dにした以外は実施例3と同様に行った。チタン原子含有量は3.4重量%、塩素原子含有量は0.12重量ppmであった。
<溶融重縮合>
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート低分子量体の溶解開始から60分後、反応器内に、上記で製造した触媒液Fのエチレングリコール溶液を、溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりチタン原子含有量として0.084モルとなるよう添加し他の触媒は使用せず、減圧開始149分後に重合を停止した以外は実施例1と同様に行った。得られた樹脂ペレットの色調L値は、64.57であり、不十分であった。得られた結果を表1に示す。
【0063】
[実施例4]
<PBT実施例>
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管、減圧用排気口を備えた反応容器に、ジメチルテレフタレート132g、1,4―ブタンジオール74g及び触媒として触媒液Aの1,4―ブタンジオール溶液を、溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりのチタン原子含有量として1.296モルとなるよう添加し、窒素―減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
【0064】
次に、系内を撹拌しながら150℃まで加温後、215℃に昇温しながらエステル交換反応によって生成するメタノールを留出させつつ180分反応した。次に、触媒として触媒液Aの1,4―ブタンジオール溶液を溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりチタン原子含有量として0.703モル、酢酸マグネシウム四水和物を予め溶解させた1,4−ブタンジオール水溶液を、溶融重縮合終了時のポリエステル樹脂1トン当たりマグネシウム原子含有量として0.934モルになるように仕込み、90分かけて245℃まで昇温するとともに、90分かけて−100.80kPaGになるように減圧し、同減圧度で90分重縮合反応を行い、反応系を常圧に戻し重縮合を終了した。得られた樹脂を反応槽の底部からストランドとして抜き出し、10℃の水中を潜らせた後、カッターでストランドをカットすることによりポリエステル樹脂を得た。
得られたポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は0.87dL/g、色調L値が84.9であった。得られた結果を表1に示す。
【0065】
[実施例5]
<脂肪族ポリエステル実施例>
<触媒液Gの調製>
撹拌装置付きのガラス製ナス型フラスコに酢酸マグネシウム・4水和物を100g入れ、更に1500gの無水エタノール(純度99%以上)を加えた。更にエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の重量比は45:55)を130.8g加え、23℃で撹拌を行った。15分後に酢酸マグネシウム四水和物が完全に溶解したことを目視確認後、触媒液Aを529.5g添加した。更に10分間撹拌を継続し、均一混合溶
液を得た。この混合溶液を、ナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。60分後に殆どのエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体を得た。オイルバスの温度を更に80℃まで上昇させ、−96.3kPaGの減圧下で更に濃縮を行い粘稠な液体を得た。この液体状の触媒を、1,4−ブタンジオールに溶解させ、チタン原子含有量が3.5wt%となるよう調製した(触媒液G)。触媒液Gの塩素原子含有量は5重量ppmであった。
【0066】
<脂肪族ポリエステル樹脂の製造>
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、原料としてコハク酸中にリンゴ酸を0.14重量%含有したコハク酸100g、1,4−ブタンジオール99.2g、リンゴ酸0.24g(コハク酸に対して総リンゴ酸量0.33モル%)を仕込み、窒素−減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
【0067】
次に、系内を撹拌しながら1時間かけて230℃まで昇温し、この温度で1時間反応させた。その後、触媒液Gを添加した。添加量は得られるポリエステル樹脂1トン当たりのチタン原子含有量として1.044モルとなる量とした。30分かけて250℃まで昇温し、同時に90分かけて−100.85kPaGになるように減圧し、更に同圧力下で252分反応させポリエステル樹脂を得た。尚、減圧下での重縮合反応中は、反応容器の減圧用排気口を130℃に加熱し続けた。減圧用排気口から重合中に留出した主な揮発成分は、水、無水コハク酸、テトラヒドロフラン、コハク酸とブタンジオールの環状単量体ならびに少量の1,4−ブタンジオールであった。得られた結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のポリエステル重縮合用触媒は、主に光学用フィルムに用いられる高い明るみを有するポリエステル樹脂の製造に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物と塩素化合物を含むポリエステル重縮合用触媒であって、該触媒1トン当たりに含まれる塩素原子の含有量をC(モル/トン)、チタン原子の含有量をT(モル/トン)としたとき、下記式(1)を満たすことを特徴とするポリエステル重縮合用触媒。1.0×10−5 ≦ C/T ≦ 4.5×10−4 (1)
【請求項2】
前記塩素原子の含有量C(モル/トン)と前記チタン原子の含有量Tの比率が下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のポリエステル重縮合用触媒。
1.0×10−4 ≦ C/T ≦ 3.0×10−4 (2)
【請求項3】
前記チタン化合物が、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタンからなる群より選ばれる請求項1または2に記載のポリエステル重縮合用触媒。
【請求項4】
前記塩素化合物が塩化水素、塩化アンモニウム、および四塩化チタンからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリエステル重縮合用触媒。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリエステル重縮合用触媒を用い、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応を行なうエステル化工程、及び該エステル化工程により得られたポリエステル低分子量体を溶融重縮合反応する溶融重縮合工程を経てポリエステル樹脂を製造する方法であって、該ポリエステル重縮合用触媒を、該ポリエステル樹脂1トン当たりのチタン原子の含有量として0.002〜3.0モルとなる量で反応系に添加することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
マグネシウム化合物およびリン化合物を反応系に添加し、溶融重縮合反応することを特徴とする請求項5に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記マグネシウム化合物が、前記ポリエステル樹脂1トン当たりのマグネシウム原子の含有量として0.1〜3.0モルとなる量で反応系に添加され、かつリン化合物が前記ポリエステル樹脂1トン当たりのリン原子の含有量として0.02〜4.0モルとなる量で反応系に添加することを特徴とする請求項6に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記マグネシウム化合物が、酢酸マグネシウム・4水和物である請求項6または7に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記リン化合物が、正リン酸、エチルアシッドホスフェート、およびトリメチルアシッドホスフェートからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項6ないし8のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項10】
ジカルボン酸成分がテレフタル酸である請求項5ないし9のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記ジオール成分がエチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールである請求項5ないし10のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2013−91684(P2013−91684A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232928(P2011−232928)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】