説明

ポリエステル長繊維不織布及びその製造方法

【課題】 高剛性で塵埃除去性に優れたポリエステル長繊維不織布を提供する。
【解決手段】 ポリエステル長繊維を構成繊維とする不織布であって、ポリエステル長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した


形状となっている。かかるポリエステル長繊維は、ノズル孔の形状を以下のような形状に変更する他は、従来公知の方法で得ることができる。すなわち、ノズル孔の形状は、Y字の下端で上下左右に連結し、かつ、隣り合うY字の/同士及び\同士が平行である


形状となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高剛性のポリエステル長繊維不織布及びその製造方法に関し、特に剛性及び塵埃除去性に優れ、フィルター材の補強材として好適なポリエステル長繊維不織布及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル不織布は、従来より、種々の用途に用いられている。特に、ポリエステル繊維は他の合成繊維に比べて高剛性であるため、ポリエステル繊維を構成繊維とするポリエステル不織布はフィルター材に積層貼合されて補強材としても用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、ポリエステル繊維を含むエアレイド不織布を高剛性エアフィルター材として用いることが記載されている。そして、ポリエステル繊維の横断面形状を異形とすることによって、剛性及び塵埃除去性に優れたものになると記載されている(特許文献1の段落0013)。
【0004】
【特許文献1】WO2008/053741号公報(特許請求の範囲及び段落0013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された横断面異形形状としては、長円形状、楕円形状、三角形状、台形状などの四角形状、五角形状、六角形状、Y型、W型などが挙げられているだけである。
【0006】
本発明者は、今般、繊維の横断面形状を従来知られていなかった形状とすることにより、より高剛性で、かつより塵埃除去性に優れたポリエステル長繊維不織布を得ることに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、ポリエステル長繊維を構成繊維とする不織布であって、該ポリエステル長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した

形状(以下、「略Y4形状」という。)であることを特徴とするポリエステル長繊維不織布及びその製造方法に関するものである。
【0008】
本発明に係るポリエステル長繊維不織布は、その構成繊維の横断面形状に特徴を有するものである。この横断面形状は、図1に示すような略Y字を四個持つものである。そして、略Y字の下端1で上下左右に連結して、図2に示すような略Y4形状となっている。この略Y4形状は、四個の凹部2と八個の凸部3と四個の小凹部4とを有している。特に、四個の凹部2の箇所に塵埃が捕捉されやすく、塵埃除去性に優れている。また、中央の略+字部5と、略+字部5の各先端に連結された四個の略V字部6により、高剛性となっている。すなわち、六角形やY字等の単なる異形ではなく、剛性の高い略+字部5と略V字部6の組み合わせによって、より高剛性となるのである。
【0009】
ポリエステル長繊維は、一種類のポリエステルからなるものでもよいが、低融点ポリエステルと高融点ポリエステルとを組み合わせるのが好ましい。すなわち、ポリエステル長繊維の横断面形状の略V字部6が低融点ポリエステルで形成され、略+字部5が高融点ポリエステルで形成された複合型するのが好ましい。複合型ポリエステル長繊維を集積した後、低融点ポリエステルを軟化又は溶融させた後、固化させることにより、ポリエステル長繊維相互間が低融点ポリエステルによって融着された不織布が得られるからである。
【0010】
ポリエステル長繊維不織布は、溶融紡糸する際に用いるノズル孔を変更する以外は、従来公知の方法で得られる。すなわち、ポリエステル樹脂を溶融紡糸して得られたポリエステル長繊維を集積してポリエステル長繊維不織布を製造する方法において、溶融紡糸する際に用いるノズル孔の形状が、Y字の下端で上下左右に連結し、かつ、隣り合うY字の/同士及び\同士が平行である

形状(以下、「Y4形」という。)のものを用いるというものである。
【0011】
このノズル孔は、図3に示すY字を四個持つものである。そして、Y字の下端7で上下左右に連結して、図4に示すY4形となっている。このY4形は、隣り合うY字の/8,8同士が平行であり、また\9,9同士が平行となっている。かかるY4形のノズル孔にポリエステル樹脂を供給して溶融紡糸することにより、横断面が略Y4形状のポリエステル長繊維を得ることができるのである。特に、隣り合うY字の/8,8同士及び\9,9同士が平行となっていることにより、四個の凹部2を持つポリエステル長繊維を得ることができる。また、略+字部5と、その各々の先端に設けられた略V字部6とを持つポリエステル長繊維を得ることができる。
【0012】
Y4形のノズル孔に供給するポリエステル樹脂は、一種類であってもよいし、二種類であってもよい。特に、低融点ポリエステル樹脂と高融点ポリエステル樹脂の二種類を用いるのが好ましい。すなわち、低融点ポリエステル樹脂をY4形のV字部10に供給し、高融点ポリエステル樹脂をY4形の+字部11に供給するのが好ましい。かかる供給態様で溶融紡糸することにより、略V字部6が低融点ポリエステルで形成され、略+字部5が高融点ポリエステルで形成された複合型ポリエステル長繊維が得られる。
【0013】
複合型ポリエステル長繊維を得た後、これを集積して一般的に繊維ウェブを形成する。そして、繊維ウェブを部分的に加熱加圧することにより、複合型ポリエステル長繊維中の低融点ポリエステルを軟化又は溶融させ、冷却して固化させることにより、複合型ポリエステル長繊維相互間を低融点ポリエステルで融着して、ポリエステル長繊維不織布を得ることもできる。
【0014】
本発明に係るポリエステル長繊維不織布の構成繊維であるポリエステル長繊維の繊度は、任意である。実用性のある高剛性のポリエステル長繊維不織布を得るには、ポリエステル長繊維の繊度は10デシテックス以上であるのが好ましい。また、ポリエステル長繊維不織布の目付も任意であるが、実用性のある高剛性のポリエステル長繊維不織布とするためには、50g/m2以上であるのが好ましい。
【0015】
本発明に係るポリエステル長繊維不織布は、従来公知の用途であれば、どのような用途にでも用いることができる。本発明に係るポリエステル長繊維不織布は、高剛性であり、かつ塵埃除去性に優れているという特性を持っているため、フィルター材の補強材として用いるのが好ましい。すなわち、フィルター材に積層貼合して、フィルター材の補強材として使用すれば、積層貼合されたフィルターは高剛性となって、プリーツ加工性や取扱性に優れたものになる。また、本発明に係るポリエステル長繊維不織布よりなる補強材は塵埃除去性に優れているため、フィルター材として微細な塵埃を除去する中高性能フィルター材を用いた場合には、この補強材が粗い塵埃を除去するプレフィルターとしての役割も担うことになる。なお、塵埃除去性に優れていることから、拭き布としての用途にも適している。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るポリエステル長繊維不織布の構成繊維であるポリエステル長繊維は、その横断面が、略+字部とこの各先端に設けられた略V字部とからなる。略+字部も略V字部も、いずれも円形等の比べて高剛性であり、しかも高剛性のものが組み合わされていることにより、さらに高剛性になる。したがって、かかるポリエステル長繊維を構成繊維とするポリエステル長繊維不織布は、高剛性であるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係るポリエステル長繊維不織布の構成繊維であるポリエステル長繊維は、その横断面に四個の凹部を持っている。そして、この凹部は塵埃を捕捉しやすく、塵埃除去性に優れているという効果を奏する。
【実施例】
【0018】
本発明を以下実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、特定の横断面形状を持つポリエステル長繊維を構成繊維とする不織布は、高剛性であり、かつ塵埃除去性に優れているとの知見に基づくものであると解釈されるべきである。
【0019】
実施例1
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(TPA)92mol%及びイソフタール酸(IPA)8mol%を用い、ジオール成分としてエチレングリコール(EG)100mol%を用いて共重合し、低融点ポリエステル(相対粘度〔ηrel〕1.44、融点230℃)を得た。この低融点ポリエステルに、結晶核剤として4.0質量%の酸化チタンを添加して、低融点ポリエステル樹脂を準備した。一方、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(TPA)100mol%とジオール成分としてエチレングリコール(EG)100mol%を用いて共重合し、高融点ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、相対粘度〔ηrel〕1.38、融点260℃)を準備した。そして、図4に示したノズル孔を用い、V字部に低融点ポリエステル樹脂を供給し、+字部に高融点ポリエステル樹脂を供給して、紡糸温度285℃、単孔吐出量9.17g/分で溶融紡糸した。なお、低融点ポリエステル樹脂の供給量と高融点ポリエステル樹脂の供給量の重量比は、1:1.75であった。
【0020】
ノズル孔から排出されたフィラメント群を、2m下のエアーサッカー入口に導入し、複合型ポリエステル長繊維の繊度が20.14デシテックスとなるように牽引した。エアーサッカー出口から排出された複合型ポリエステル長繊維群を開繊装置にて開繊した後、移動するネット製コンベア上に集積し、繊維ウェブを得た。この繊維ウェブを、表面温度が210℃のエンボスロール(各エンボス凸部先端の面積は0.7mm2で、ロール全面積に対するエンボス凸部の占める面積率は15%)とフラットロールからなる熱融着装置に導入し、両ロール間の線圧300N/cmの条件で熱融着して、目付50g/m2のポリエステル長繊維不織布を得た。
【0021】
実施例2
移動するネット製コンベアの速度を下げた他は実施例1と同一の方法により、目付70g/m2のポリエステル長繊維不織布を得た。
【0022】
比較例1
実施例1で使用した低融点ポリエステル樹脂及び高融点ポリエステル樹脂を準備した。そして、図5に示した中心から六本のスリット孔が放射状に延びているノズル孔を用い、各スリット孔のa部に低融点ポリエステル樹脂を、b部に高融点ポリエステル樹脂を供給して、紡糸温度285℃、単孔吐出量8.34g/分で溶融紡糸した。なお、低融点ポリエステル樹脂の供給量と高融点ポリエステル樹脂の供給量の重量比は、1:1.5であった。溶融紡糸されたポリエステル長繊維は、複合型であって、横断面が六葉形状であった。その後は、実施例1と同様にして、繊度20.14デシテックスとなるように牽引し、同様に開繊集積して繊維ウェブを得た後、熱融着装置に同一条件で導入して、目付50g/m2のポリエステル長繊維不織布を得た。
【0023】
比較例2
移動するネット製コンベアの速度を下げた他は実施例1と同一の方法により、目付70g/m2のポリエステル長繊維不織布を得た。
【0024】
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2で得られたポリエステル長繊維不織布の剛軟度及び通気度を以下の方法で測定し、この結果を表1に示した。
(1)剛軟度(mN):曲げ反発性( 剛軟度) JIS L 1096 A法(ガーレ法)に準拠し、剛軟性を測定した。試料片は長さ37.8mm×幅25.4mmのものを5個用い、これらの平均値を剛軟度とした。なお、ポリエステル長繊維不織布の縦方向(機械方向)の剛軟度を測定するときは、試料片の長さ方向が縦方向に一致するように、試料片を採取した。また、ポリエステル長繊維不織布の横方向(幅方向)の剛軟度を測定するときは、試料片の長さ方向が横方向に一致するように、試料片を採取した。
(2)通気度(cc/cm2/sec.):フラジール型通気度試験機(DAIEI KAGAKUSEIKI SEISAKUSHO LTD.TEXTILE AIR PERMEABILITY TESTER 織物通気度試験機) を用い、JIS L 1096の「一般織物試験方法」に準拠し、傾斜型気圧計は12.7mmに固定して通気度を測定した。
【0025】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
剛軟度(縦方向) 剛軟度(横方向) 通気度
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実施例1 1.20 0.30 400以上
実施例2 2.21 0.76 297
比較例1 0.31 0.05 400以上
比較例2 1.13 0.56 330
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【0026】
実施例1と比較例1及び実施例2と比較例2とを対比すれば明らかなとおり、実施例に係るポリエステル長繊維不織布は、通気度は殆ど差がないが、剛軟度に優れていることが分かる。したがって、実施例に係るポリエステル長繊維不織布は、フィルター材の補強材として好適であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明におけるポリエステル長繊維の横断面形状である略Y4形状の一つの略Y字を示した図である。
【図2】本発明におけるポリエステル長繊維の横断面形状である略Y4形状を示した図である。
【図3】本発明に用いるY4形のノズル孔の一つのY字を示した図である。
【図4】本発明に用いるY4形のノズル孔を示した図である。
【図5】比較例で用いたノズル孔を示した図であり、このノズル孔により六葉断面のポリエステル長繊維が得られる。
【符号の説明】
【0028】
1 ポリエステル長繊維の横断面形状である略Y4形状の一つの略Y字の下端
2 略Y4形状で形成された凹部
3 略Y4形状で形成された凸部
4 略Y4形状で形成された小凹部
5 略Y4形状中の略+字部
6 略Y4形状中の略V字部
7 溶融紡糸する際のノズル孔の形状であるY4形状の一つのY字の下端
8 Y字の/
9 Y字の\
10 Y4形のV字部
11 Y4形の+字部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル長繊維を構成繊維とする不織布であって、該ポリエステル長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した

形状(以下、「略Y4形状」という。)であることを特徴とするポリエステル長繊維不織布。
【請求項2】
略Y4形状の各々の略V字部が低融点ポリエステルよりなり、その他の略+字部が高融点ポリエステルよりなる複合型ポリエステル長繊維よりなる請求項1記載のポリエステル長繊維不織布。
【請求項3】
低融点ポリエステルの融着によって、ポリエステル長繊維相互間が結合されている請求項2記載のポリエステル長繊維不織布。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリエステル長繊維不織布よりなるフィルター材用補強材。
【請求項5】
ポリエステル樹脂を溶融紡糸して得られたポリエステル長繊維を集積してポリエステル長繊維不織布を製造する方法において、
溶融紡糸する際に用いるノズル孔の形状が、Y字の下端で上下左右に連結し、かつ、隣り合うY字の/同士及び\同士が平行である

形状(以下、「Y4形」という。)であることを特徴とするポリエステル長繊維不織布の製造方法。
【請求項6】
Y4形の各々のV字部に低融点ポリエステル樹脂を、その他の+字部に高融点ポリエステ樹脂を供給して、溶融紡糸する請求項5記載のポリエステル長繊維不織布の製造方法。
【請求項7】
溶融紡糸して複合型ポリエステル長繊維を得た後、該複合型ポリエステル長繊維を集積し、その後、部分的に加熱加圧することにより、該複合型ポリエステル長繊維中の低融点ポリエステルを軟化又は溶融させて、該複合型ポリエステル長繊維相互間を融着する請求項6記載のポリエステル長繊維不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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