説明

ポリエステル類の抜き出し方法

【課題】重合槽内に滞留したポリエステル類が粘度上昇して固化するのを抑制して、ポリエステル類を重合槽から簡単かつ速やかに抜き出すことができるポリエステル類の抜き出し方法を提供する。
【解決手段】重合後の後工程におけるトラブルにより重合槽からのポリエステル類の抜き出しが滞留することを検知して、重合中または重合完了後のポリエステル類を重合槽から抜き出すにあたり、該ポリエステル類の重合温度以上の沸点を有するグリコール類を前記重合槽内に添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合後の後工程におけるトラブルなどで、重合槽内に滞留したポリエステル類を重合槽から抜き出す、ポリエステル類の抜き出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエステル類の重合反応過程においては、撹拌しながら重合を進めていくと反応系の粘度が上昇していき、撹拌負荷が大きくなり、さらに撹拌を続けることが困難になる。そこで反応の途中でポリエステル類のプレポリマーを重合槽から抜き取り、冷却固化した後、必要に応じて粉砕して、これを再度加熱して重縮合反応を完結させる方法が採用される。
【0003】
重合後の後工程におけるトラブルのために、重合槽内での滞留時間が長くなり重合物が固化して抜き出せなくなった場合、従来は、重合槽内の内温を下げた後に溶剤を添加して重合物を分解した後に重合物を抜き出す方法を採用していた。溶剤としては、例えば、特許文献1に開示のモノエタノールアミンとトリエチレングリコールを使用していた(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−295392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された溶剤を使用してポリエステル類を抜き出す場合、前記溶剤は沸点が低いために、重合物の温度が高い段階で重合槽内に前記溶剤を添加すると突沸を起し危険なので、熱媒による間接冷却により重合温度を低下させた後に前記溶媒を添加し、槽内壁に固着した高粘度の重合物を溶解、洗浄していた。そのため前記冷却に時間を要し、さらに冷却中にも時間の経過により重合物の粘度が上昇し、それにより固化して重合物の抜き出しがより困難となっていた。
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、重合槽内に滞留したポリエステル類が粘度上昇して固化するのを抑制して、ポリエステル類を重合槽から簡単かつ速やかに抜き出すことができるポリエステル類の抜き出し方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る抜き出し方法は、重合後の後工程におけるトラブルにより重合槽からのポリエステル類の抜き出しが滞留することを検知して、重合中または重合完了後のポリエステル類を重合槽から抜き出すにあたり、該ポリエステル類の重合温度以上の沸点を有するグリコール類を前記重合槽内に添加することを特徴とする。
【0008】
本発明方法においては、前記グリコール類を予備加熱した後にポリエステル類に添加することが好ましい。または前記グリコール類を前記ポリエステル類に温度の急激な低下を起こさないように徐々に添加することが好ましい。
【0009】
前記グリコール類の添加量は重合槽内に添加したモノマー総量100重量部に対して10重量部以上であることが好ましい。
【0010】
前記グリコール類としては、重合温度(通常300℃)以上の沸点を有するテトラエチレングリコールを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る抜き出し方法では、重合槽内のポリエステル類の重合中または重合完了時に、該ポリエステル類の重合温度以上の沸点を有するグリコール類を前記重合槽内に添加することにより重合が抑制されるので、重合槽内の温度を低下させることがなく、重合槽内に滞留するポリエステル類の粘度上昇とそれによる固化を抑制することができるので、ポリエステル類を重合槽から簡単かつ速やかに抜き出すことができる。
【0012】
本発明では前記グリコール類を予備加熱した後に添加することで、ポリエステル類の急激な温度低下を防ぎ、ポリエステル類の粘度上昇とそれによる固化をより抑制することができる。
【0013】
本発明では、前記グリコール類の添加量をモノマー総量100重量部に対して10重量部以上とすることにより、ポリエステル類の粘度上昇とそれによる固化をより抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を説明する。本発明におけるポリエステル類は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル;p−ヒドロキシ安息香酸や2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸から得られる液晶ポリエステル、さらにこれらとテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸とハイドロキノン、レゾルシン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とから得られる液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0015】
次に図面を参照しながらポリエステル類の抜き出し方法の説明をする。図1はポリエステル類の製造装置の一実施形態を示す概略説明図である。図1に示すポリエステル類の製造装置10は、プレ重合槽(以下、単に重合槽という)11と、重合槽11の下方に配置されるダブルベルト式クーラ(以下、単にベルトクーラという)12と、ベルトクーラ12の出口側に配置される粉砕機13と、さらに搬送方向下流側に配置された再加熱装置14とを搬送方向に沿って順に設けている。重合槽11は槽内の温度を所定の温度に維持するためのジャケット15を備えている。
【0016】
重合槽11より抜き出された反応途中のポリエステル類は、ベルトクーラ12に流し込まれて冷却固化された後に、粉砕機13によって粉砕される。その後、粉砕されたポリエステル類は再加熱装置14によって再加熱されることで重縮合反応を完結させる。
【0017】
反応途中のポリエステル類を重合槽から抜き出した後の工程において、例えば、ベルトクーラ12に固化したポリエステル類が詰まったり、粉砕機13に固化したポリエステル類が詰まったりするなどのトラブルが発生することによって、重合槽からポリエステル類を抜き出せなくなる。その結果、重合槽内でのポリエステル類の滞留時間が長くなり、ポリエステル類の粘度が上昇し、それにより固化して、重合槽からの抜き出しが困難となる。
【0018】
そこで、上記トラブルが発生した場合は警報の作動やモニターによる管理によって重合槽からのポリエステル類の抜き出しが滞留することを検知し、検知後は手動または自動で重合槽にグリコール類を添加することで、ポリエステル類の粘度上昇とそれによる固化を抑制する。
【0019】
添加するグリコール類はポリエステル類の重合温度(300〜305℃)以上の沸点を有するテトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、グリコール類の添加は一括で添加してもよいし分割で添加してもよい。
【0020】
そして重合温度を急激に低下させないために、添加前にグリコール類を重合温度と同等か、またはその近傍の温度であってグリコール類の沸点未満の温度まで予備加熱をすることが好ましい。具体的には、グリコール類の予備加熱の温度から重合温度を引いた値は、好ましくは−20〜10℃、より好ましくは0〜10℃とするのがよい。ただし、グリコール類の予備加熱の温度が重合温度に比べて低い場合であっても、添加時間を長くして少しずつ添加することにより重合温度の急激な低下を避けることができる。
【0021】
グリコール類の添加量は、モノマー総量100重量部に対して10重量部未満の場合にポリエステル類の粘度上昇が充分に抑制されないおそれがあるため、通常、好ましくはモノマー総量100重量部に対して10重量部以上、より好ましくは30重量部以上とするのがよい。
【0022】
グリコール類を添加後は、重合槽内の内温を重合温度に維持しながら攪拌する。グリコール類の添加による槽内温度の低下などによって、ポリエステル類が固化した塊が形成された場合は、その塊は攪拌によって次第に溶解され、グリコール類の添加から約2時間経過するとポリエステル類は一相となる。一相となった段階で、ポリエステル類を重合槽から抜き出す。
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明の抜き出し方法を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
攪拌装置と、粘度を測定するためのトルクメータと、窒素ガス導入管と、温度計と、還流冷却器とを備える反応器に、ポリエステル類のプレポリマーの原料モノマーとしてp−ヒドロキシ安息香酸911.6g(6.6mol)、4,4−ジヒドロキシビフェニル409.7g(2.2mol)、テレフタル酸274.1g(1.65mol)、イソフタル酸91.4g(0.55mol)および無水酢酸1235.3g(12.1mol)と、触媒として1−メチルイミダゾール0.169gとを仕込んだ。次に反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、200rpmの攪拌下、窒素ガス気流下で15分かけて反応器の内温を140℃まで昇温させ、同温度を保持して30分間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを0.843g添加し、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら4時間かけて反応器の内温を300℃まで昇温させた。
【0025】
反応器の内温が300℃に到達後、内温を300〜305℃で維持し、攪拌下、1時間30分保持するとトルク値は約2.0kgf/cmまで上昇した。その時点で、300℃に予備加熱したテトラエチレングリコール(沸点324〜330℃)を攪拌下、1分で反応器に添加した。その際の添加量はモノマー総量100重量部に対してテトラエチレングリコール10重量部とした。添加後、トルク値は約0.9kgf/cmまで下がった。その後も攪拌を行い続けたところ、添加剤の添加開始時から5時間後、トルク値は4.0kgf/cmまで再上昇し、反応器内のポリエステル類は流動性を失った半固形状のものとなっていた。
【実施例2】
【0026】
テトラエチレングリコールの添加温度を20℃、添加時間を14分とした以外は、実施例1と同様にして重合を行った。添加後、トルク値は約0.9kgf/cmまで下がった。その後も攪拌を行い続けたところ、添加剤の添加開始時から5時間後、トルク値が4.0kgf/cmまで再上昇した。
【実施例3】
【0027】
モノマー総量100重量部に対してテトラエチレングリコールの添加量を30重量部とした以外は、実施例1と同様にして重合を行った。添加後、トルク値は約0.4kgf/cmまで下がった。その後も攪拌を行い続けたところ、添加剤の添加開始時から24時間以上経過後もトルク値は上昇せず、ほぼ一定であった。
【0028】
(比較例1)
添加剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして重合を行った。反応器の内温が300℃に到達後、内温を300〜305℃で維持し、攪拌を行い続けたところ、内温が300℃に到達した時から2時間後、トルク値が4.0kgf/cmまで上昇した。
【0029】
これらの結果を表1にまとめて示した。
【表1】

【0030】
表1から明らかなように、比較例1は0.5時間でトルク値が上昇したのに対し、実施例1、2、3は少なくとも5時間以上トルク値が再上昇せず、粘度上昇が抑制されていた。また、実施例1、2に比べて添加剤の添加量が多い実施例3はトルク値の再上昇までの経過時間がより長いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ポリエステル類の製造装置の一実施形態を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0032】
10:ポリエステル類の製造装置
11:重合槽
12:ベルトクーラ
13:粉砕機
14:再加熱装置
15:ジャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合後の後工程におけるトラブルにより重合槽からのポリエステル類の抜き出しが滞留することを検知して、重合中または重合完了後のポリエステル類を重合槽から抜き出すにあたり、該ポリエステル類の重合温度以上の沸点を有するグリコール類を前記重合槽内に添加することを特徴とする、重合槽内に滞留するポリエステル類の抜き出し方法。
【請求項2】
前記グリコール類を予備加熱した後に前記ポリエステル類に添加する、請求項1記載のポリエステル類の抜き出し方法。
【請求項3】
前記グリコール類を前記ポリエステル類に温度の急激な低下を起こさないように徐々に添加する、請求項1記載のポリエステル類の抜き出し方法。
【請求項4】
前記グリコール類の添加量がモノマー総量100重量部に対して10重量部以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル類の抜き出し方法。
【請求項5】
前記グリコール類がテトラエチレングリコールである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル類の抜き出し方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−161575(P2009−161575A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339232(P2007−339232)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】