説明

ポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】洗浄工程における廃水量を低減したポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸、ポリオール、および重合禁止剤を有機溶媒中で、固形酸触媒を充填した固定層反応器を通過する経路を循環させながら反応させることを特徴とするポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル(メタ)アクリレートは、紫外線または電子線の照射により硬化可能な樹脂組成物として広範な用途に使用されており(例えば、特許文献1および2参照)、一般に多価アルコールと多塩基酸との縮合反応により得られるポリエステルポリオールに、(メタ)アクリル酸を縮合させて得られるものである。ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との縮合反応では、反応を促進させるためにパラトルエンスルホン酸を触媒として使用することが一般的である(例えば、特許文献3および4参照)。
【特許文献1】特開昭63−215719号公報
【特許文献2】特開平3−296514号公報
【特許文献3】特開2002−275226号公報
【特許文献4】特開2005−15525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、液体のパラトルエンスルホン酸を大量に使用すると、反応後の残存触媒およびアクリル酸を除去するための水洗作業を繰返し行う必要があり、経済的でない。さらに発生する廃水量も多く、その処理の問題もあった。本発明は、上記の問題に鑑み、洗浄工程における廃水量を低減したポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、固形酸触媒を用いること、さらにこの固形酸触媒を固定層反応器に充填し、その固定層反応器を含む経路を循環させながら反応させることにより、上記問題点が解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)(メタ)アクリル酸、ポリオール、および重合禁止剤を有機溶媒中で、固形酸触媒を充填した固定層反応器を通過する経路を循環させながら反応させることを特徴とするポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法。
(2)固形酸触媒がスルホン酸が官能基として導入されたものである上記(1)に記載のポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法。
(3)固形酸触媒がスルホン酸基含有ポリシロキサンである上記(1)に記載のポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明のポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法によれば、洗浄工程における廃水量を大幅に減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明における(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはそれに対応するメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリレートや(メタ)アクリロイル基においても同様である。
本発明のポリエステル(メタ)アクリレート(ポリエステルポリ(メタ)アクリレートとも表す)は、(メタ)アクリロイル基を備えるポリエステルであり、ポリオールと二塩基酸との重縮合反応に基づくエステル結合と、原料化合物であるポリオールに基づく水酸基と(メタ)アクリル酸との縮合反応に基づくエステル結合を有し、原料化合物であるポリオールと(メタ)アクリル酸との比率を変えることで、ポリエステル(メタ)アクリレートにおける官能基((メタ)アクリロイル基)の数を変化させることができ、また原料化合物であるポリオールの数平均分子量を調整することにより、所望の重合度のポリエステル(メタ)アクリレートとすることが可能となる。
【0007】
本発明において、ポリエステル(メタ)アクリレートは、オキシアルキレン基を有するポリエステルポリ(メタ)アクリレートであることが好ましく、その為に、ポリオールとしては、ポリオキシアルキレン系ポリオールを用いることが好ましく、なかでも、数平均分子量が400〜1500であるポリオキシアルキレン系ポリオールを用いることが好ましい。さらに、本発明で用いられるポリオールとしては、数平均分子量が400〜1500のポリ(オキシエチレンーオキシプロピレン)ポリオールまたは数平均分子量が400〜1500のポリオキシエチレンポリオールの少なくとも一方を含むことがさらに好ましく、これら以外の他のポリオール成分を含んでいてもよい。
【0008】
ここで、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)ポリオールとは、多価アルコールにエチレンオキサイド(以下、「EO」という。)およびプロピレンオキサイド(以下、「PO」という。)をランダムまたはブロック状に付加して、末端基の少なくとも一つを水酸基にしたものをいう。また、ポリオキシエチレンポリオールとは、多価アルコールにエチレンオキサイド(以下、「EO」という。)を付加して、同様に末端基の少なくとも一つを水酸基にしたものをいう。
また、数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の数平均分子量をいう。
【0009】
ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)ポリオールとしては、ビスフェノールAのEO−PO付加物、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)ジオール等が挙げられ、ポリオキシエチレンポリオールとしては、ポリエチレングリコールエーテル、グリセリンのジ(ポリエチレングリコールエーテル)、グリセリンのトリ(ポリエチレングリコールエーテル)等が例示でき、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0010】
他のポリオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、メチルオクタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ビスフェノールAのPO付加物等の2価アルコールが挙げられる。
【0011】
本発明で用いられるポリオールとしては、ポリオールと二塩基酸とを従来公知の方法により重縮合させて得たポリエステルポリオールを用いてもよい。また、二塩基酸としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、フマル酸、イソフタル酸、フタル酸が挙げられ、二塩基酸無水物としては、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンヘキサヒドロ無水フタル酸などが例示できる。これらの二塩基酸および二塩基酸無水物は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、上述の2塩基酸および二塩基酸無水物のなかでも、コハク酸、フマル酸、イソフタル酸、フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸が好ましい。また、二塩基酸として、脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸等を用いることもできる。さらに、二塩基酸誘導体、例えば、二塩基酸無水物を用いても良い。
なお、本発明の(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体、例えば上述のポリエステル(メタ)アクリレートを与えることが可能な(メタ)アクリル酸クロライド等も含まれる。
【0012】
本発明で用いられる重合禁止剤としては、メトキノン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フエノチアジン、t−ブチルクレゾール等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明で用いられる有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系有機溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系有機溶剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
本発明において用いられる固形酸触媒は、通常エステル化触媒に使用されている酸を、固定層反応ができるように、触媒の担体として用いられる多孔性物質に担持あるいは、含浸させて使用される。多孔性の物質としては、例えば、シリカゲル、アルミナ、シリカ/アルミナ、ケイソウ土、活性炭などが挙げられる。酸としては、硫酸、パラトルエンスルホン酸(PTS)、クロロスルホン酸、メチルスルホン酸などが挙げられる。また、陽イオン交換樹脂、H型ゼオライト、H型モンモリロナイト等の固形酸触媒の場合は、そのまま使用し得る。例えばアンバーリスト15(ローム・アンド・ハース社製)、DELOXAN ASP1/7、ASP VI(デグサジャパン社製)、ダイヤイオンRCP−145H、RCP−160M(三菱化学社製)等が好適に使用される。
【0014】
本発明において用いられるポリオールの量は、(メタ)アクリル酸100質量部に対して、10〜50質量部が好ましく、20〜40質量部がより好ましい。
本発明において用いられる重合禁止剤の量は、(メタ)アクリル酸とポリオールの合計量100質量部に対して、0.5質量部以下が好ましく、0.1〜0.5質量部がより好ましい。
【0015】
次に本発明を図1に示すフローシートに基づいて具体的に説明する。本反応は、上述の反応原料である(メタ)アクリル酸、ポリオール、重合禁止剤および有機溶媒を反応釜(1)に仕込んで行われる。反応原料を仕込んだ反応釜の外側に設置されたジャケットに水蒸気または加熱用熱媒体を供給し、反応釜内の反応温度を維持しつつ、その反応原料を循環ポンプ(2)を使用して固定層反応器(3)に循環させて反応を進行させる。反応の進行に伴い発生する水は、有機溶媒とともに反応釜(1)上部より蒸発され、コンデンサ(4)で凝縮され、分離槽(5)に受けられる。次に水は反応系外へ排出され、有機溶媒は反応釜(1)に戻される。
【0016】
反応温度は、通常50〜120℃で行われるが、60〜110℃が好ましく、さらに好ましくは70〜100℃である。50℃未満では、触媒の活性が不十分で反応速度が遅くなるため、所望の反応率を得るための時間が長くなってしまい経済的ではない。また、120℃を超えると(メタ)アクリル酸同士が重合してしまう可能性があるため好ましくない。
【0017】
本発明において用いられる固定層反応器としては、熱交換型二重管もしくは多管式反応器が好適である。この反応器を竪置きに設置し、反応管内に触媒を充填して、好適には下部より反応原料である(メタ)アクリル酸、ポリオール、重合禁止剤および有機溶媒を循環・供給させる。反応管の外側には水蒸気、温水または加熱用熱媒体を供給し、反応管内の反応温度を維持する。
【0018】
固定層反応器を循環させる(メタ)アクリル酸、ポリオール、重合禁止剤および有機溶媒の循環流量は、通常10〜100m/m・hrであり、好ましくは20〜60m/m・hrで行うのが良い。循環流量が10m/m・hr未満では、反応水が迅速に除去されないために反応速度が低下する。また循環流量が100m/m・hrを超えると固定層反応器内の圧力損失が大きくなりすぎるため、安全操業、エネルギー効率の面で不利である。尚、ここに示す循環流量の計算は下記式による。
【0019】
【数1】

【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1>
攪拌機、温度計、冷却管および窒素ガス導入管を備える反応容器に窒素ガスを導入した後、イソフタル酸を166質量部、ジエチレングリコールを159質量部、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールを16質量部、ジブチルチンジラウレートを0.17質量部反応容器に仕込み、200〜240℃で5時間加熱攪拌させ、縮合水を留出させながら酸価が5mgKOH/g以下になるまで合成を継続した。得られた樹脂は、酸価2mgKOH/g、重量平均分子量1000のポリエステルポリオールであった。
【0021】
攪拌機、温度計、冷却管および空気ガス導入管を備える反応容器に空気ガスを導入した後、ポリオールとして上記のポリエステルポリオールを240質量部、(メタ)アクリル酸としてアクリル酸を72質量部、重合禁止剤としてメトキノン(MQ)を1質量部、有機溶剤としてトルエンを80質量部用いて、これらを反応容器にいれた。また、固定層反応器として内径30mm、長さ300mmのガラス製二重管の反応塔を用い、この内管に、固形強触媒として、表1に示すようなスルホン酸基含有ポリシロキサン(デグサジャパン社製 DELOXAN ASP1/7)を55質量部充填し、外部のジャケットにヒーターで80℃まで加熱した温水を循環した。反応系の圧力を200〜500mmHgの減圧下で、反応材料を所定温度まで昇温した後、反応材料を循環流量60m/m・hrで固定層反応器に循環・供給し反応を開始した。約20時間反応させ、15mg/KOH以下となった時点で反応を完了させた。
【0022】
得られた溶液を冷却した後、水道水50質量部、水道水400質量部、水道水400質量部をこの順に用いて、廃水中の酸濃度が1%以下となるまで洗浄した。
次いで、洗浄後の溶液にメトキノン(MQ)を0.25質量部加え、85℃、5mmHgの減圧下でトルエンを脱溶させてポリエステル(メタ)アクリレートを得た。得られたポリエステル(メタ)アクリレートの特性および洗浄後の廃水の評価結果を表1に示す。
【0023】
ここで、得られたポリエステル(メタ)アクリレート(製品)の特性は、以下のようにして求めた。
(1)酸価の測定方法
JIS K1557による。
(2)数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)
使用機器:日立L6000型高速液体クロマトグラフィー
カラム:ゲルパックR420、R430及びR440(商品名:日立化成工業株式会社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
液量:2ml/分
検出器:日立L3350型示差屈折率計
標準液:ポリスチレン換算
【0024】
<実施例2〜5および比較例>
実施例2〜5は、固形酸触媒を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。比較例は、固形酸触媒を表1に示すよう液体酸触媒55質量部に変えて、固定層反応器を用いずにその酸触媒を直接反応容器に仕込んで固定層反応器を通過する循環を行わずに反応させた以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0025】
<実施例6〜7>
循環流量を表2に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。
【0026】
<実施例8〜9>
固形酸触媒の量を表3に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
上述の実施例によれば、表1〜表3に示すとおり、実施例1〜9はいずれも廃水量が50質量部という結果となり、比較例に比べてポリエステル(メタ)アクリレートの洗浄工程における廃水量を大幅に減らすことができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一態様を示すフローシートである。
【符号の説明】
【0032】
1 反応釜
2 循環ポンプ
3 固定層反応器
4 コンデンサ
5 分離槽
6 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸、ポリオール、および重合禁止剤を有機溶媒中で、固形酸触媒を充填した固定層反応器を通過する経路を循環させながら反応させることを特徴とするポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
固形酸触媒が、スルホン酸が官能基として導入されたものである請求項1に記載のポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項3】
固形酸触媒が、スルホン酸基含有ポリシロキサンである請求項1に記載のポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263515(P2009−263515A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115396(P2008−115396)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】