説明

ポリエステル

【課題】色調、透明性、経時安定性が良好で、アンチモンを含有しておらず、衣料用繊維、産業資材用繊維、各種フィルム、シート、ボトルやエンジニアリングプラスチックなどの各種成形物、および塗料や接着剤などへの応用が可能なポリエステルを提供する。
【解決手段】アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物を含有するポリエステルであって、アントラキノン系青色染料を0.5〜5ppm、ペリノン系赤色染料を0.5〜5ppm含有し、ペリノン系赤色染料に対するアントラキノン系青色染料の含有量の質量比率が0.5〜3.0であり、ハンターのLab表色系におけるa値が−5〜0、b値が−1〜1であることを特徴とするポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色調改良剤として特定の染料を用いた、透明性や色調が良好なポリエステルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)は、機械的特性および化学的特性に優れており、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などの各種フィルムやシート、ボトルやエンジニアリングプラスチックなどの成形物への応用がなされている。
【0003】
PETの工業的な製造方法は、テレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化もしくはエステル交換によってビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートを得る工程と、これを高温、真空下で触媒を用いて重縮合する工程からなっている。この際、重縮合触媒として、安価で優れた触媒活性を有するという理由から、三酸化アンチモンが広く用いられている。三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、PETに黒ずみや異物が発生するという問題点を有している。また、最近環境面からアンチモンの安全性に関する問題が指摘されており、アンチモンを含まないポリエステルが望まれている。
【0004】
三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒としては、テトラアルコキシチタネートが提案されているが、これを用いて製造されたPETは著しく着色すること、ならびに熱分解を容易に起こすという問題がある。
【0005】
さらに、テトラアルキルチタネートとマグネシウム化合物とを接触させた成分を触媒として使用することが提案されているが、この触媒においても得られるPETの着色の問題は解決するに至っていない。(特許文献1参照)
三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒でかつ、テトラアルコキシチタネートを用いたときのような問題点を克服する重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物が実用化されているが、この触媒は非常に高価であるという問題点や、重合中に反応系から外へ溜出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し重合の制御が困難になるという問題点を有している。
【0006】
ところで、ボトルや各種成形品用に使用されるポリエステルについては、色調や透明性が高いレベルで要求されるため、色調改良剤として、一般的に、コバルト化合物が併用されている。
【0007】
しかし、ゲルマニウム化合物とコバルト化合物との関係については、例えば、コバルト化合物による色調改良剤とゲルマニウム化合物による重縮合触媒とを併用すると、得られるポリエステルは経時安定性が悪く、長期保存後のポリエステルの色調が悪化する、あるいは重合度が低下するという問題がある。これに対し、ゲルマニウム以外の化合物を触媒として用いた場合、得られるポリエステルは、透明性や色調が悪いため、色調改良剤としてのコバルト化合物の添加量を多くする必要があり、コストが高くなるだけでなく、透明性については悪化するという問題がある。
【0008】
また、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、コバルト化合物の併用も提案されているが(特許文献2参照)、この方法でもアンチモン化合物が使用されているため、色調が悪く、コバルト添加量を多くする必要があり、十分な透明性が得られない、あるいは、ゲルマニウム、アンチモン、コバルトの比率によっては、ポリエステルの経時安定性が悪くなるという問題がある。
【0009】
これに対し最近では、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を添加することで、色調および透明性に優れ、ポリエステル中での粗大な異物の発生を抑制することが提案されている(特許文献3参照)。

【特許文献1】特開2002−293906公報
【特許文献2】特開平10−67924号公報
【特許文献3】特開2005−113056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3の方法においても、異物の発生を完全に抑制することができず、溶融したポリエステルを長時間フィルタで濾過すると圧が上昇したり、ポリエステルの熱安定性に問題を残すことがわかってきた。
【0011】
よって本発明では、上記のような問題を解決するものとして、アンチモン化合物を含まない新規のポリエステル重縮合触媒を用い、かつ色調改良剤として特定の染料を用いることで、透明性や色調が良好なポリエステルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、以下の構成を要旨とする。
(a)アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物を含有するポリエステルであって、アントラキノン系青色染料を0.5〜5ppm、ペリノン系赤色染料を0.5〜5ppm含有し、ペリノン系赤色染料に対するアントラキノン系青色染料の含有量の質量比率が0.5〜3.0であり、ハンターのLab表色系におけるa値が−5〜0、b値が−1〜1であることを特徴とするポリエステル。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステルは、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物を重縮合触媒に用いており、チタン酸からなる被覆層を有することに起因する固溶体とチタン酸との複合効果により、少量の触媒添加量でも十分な重合度のものとして得られる。また、当該触媒のポリエステルへの分散性が良好であるため、異物の発生がほとんどなく、透明性が良好で、熱安定性に優れたポリエステルが提供される。さらに、本発明のポリエステルでは、特定の青系及び赤系染料を所定量含有させることで、透明性や色調のさらに優れたポリエステルとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について説明する。
本発明のポリエステルとしては、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とするものである。ここで、本発明のポリエステルにおいては、ポリエステルの特性を損なわない範囲で、テレフタル酸以外のジカルボン酸、三価以上の多価カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、環状エステル、またはエチレングリコール以外のグリコール、三価以上の多価アルコールを共重合させたものであってもよい。
【0015】
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、エイコサン二酸、トリシクロデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、オルソフタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0016】
これらジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0017】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0018】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などが挙げられる。
【0019】
エチレングリコール以外のグリコールとしては、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1,12−ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコールが挙げられる。
【0020】
これらグリコール以外の多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0021】
環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0022】
本発明のポリエステルとしては、アントラキノン系青色染料を0.5〜5ppm含有することが必要であり、1〜4ppm含有することが好ましい。また、ペリノン系赤色染料を0.5〜5ppm含有することが必要であり、1〜4ppm含有することが好ましい。アントラキノン系青色染料とペリノン系赤色染料の含有量が、少なくともいずれかにおいて0.5ppm未満の場合は、ポリエステルの色調改良効果が小さくなる。また、いずれか一方でも含有量が5ppmを超えると、得られるポリエステルの透明性が悪くなる。なお、本発明において、ppmはすべて質量ppmである。
【0023】
また、本発明におけるアントラキノン系青色染料とペリノン系赤色染料との含有量の質量比率としては、0.5〜3.0であることが必要であり、さらに1.5〜2.5であることが好ましい。この質量比率が0.5未満では、得られるポリエステルの赤みが強すぎることとなり、一方、3.0を超えると、得られるポリエステルの青みが強すぎることとなるため、好ましくない。
【0024】
本発明におけるアントラキノン系青色染料としては、カラーインデックス名で挙げると、例えば、SOLVENT BLUE 104、SOLVENT BLUE 122、 SOLVENT BLUE 45等があげられ、得られるポリエステルの色調や透明性の点で、SOLVENT BLUE 104が好ましい。
【0025】
本発明におけるペリノン系赤色染料としては、カラーインデックス名で挙げると、例えば、SOLVENT RED 179、SOLVENT RED 135等が挙げられ、得られるポリエステルの色調や透明性の点で、SOLVENT RED 135が好ましい。
【0026】
本発明のポリエステルとしては、ハンターのLab表色系におけるb値が−1〜1であり、かつa値が−5〜0であることが必要である。 ここで、b値が−1未満の場合、得られるポリエステルは青みが強すぎることとなり、逆にb値が1を超える場合、黄色味が強すぎることとなる。一方、a値が−5未満の場合、得られるポリエステルは緑がかったものとなり、逆にa値が0を超える場合、赤みが強すぎることとなる。
【0027】
ここで、a値並びにb値とは、ポリエステルの色調を表す表示法である。例えば、b値の場合、黄−青系の色相を表し、得られたポリエステルのb値が高くなることは、ポリエステルに黄色味が増していくことを意味する。
【0028】
本発明において、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体とは、それぞれが溶け合って均一な相となった固体であり、これらの結晶格子の一部は他の原子によって置き換わり、組成を変化させることができるものである。固溶体中におけるモル比率としては、アルミニウム/マグネシウム=0.1〜10であることが好ましく、優れた透明性となるポリエステルを得るには0.2〜5とするのがより好ましい。
【0029】
固溶体を形成するアルミニウム化合物の例としては、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩および無機酸塩が好ましく、これらの中でもさらに水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウムがとくに好ましい。
【0030】
また、固溶体を形成するマグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネート、酢酸以外のカルボン酸塩などが挙げられ、特に水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが好ましい。
【0031】
固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物とは、5〜100℃の範囲の温度、好ましくは、15〜70℃の範囲の温度で固溶体の存在下にチタンハロゲン化物、チタン酸塩もしくはチタンアルコキシド類を加水分解して、その表面にチタン酸を析出させることによって、固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層を形成させたものである。
【0032】
チタン化合物としては、チタンハロゲン化物、チタン酸塩、チタンアルコキシド類が用いられる。
【0033】
本発明のポリエステルとしては、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物を、30〜200ppm含有することが好ましく、50〜150ppm含有することがより好ましい。
本発明における当該化合物の含有量が30ppm未満であると、重縮合活性が不足し、極限粘度の低いポリエステルとなるため好ましくない。一方、当該含有量が200ppmを超えると、含有量が多すぎることで、透明性が悪く、b値の高いポリエステルとなるため好ましくない。
【0034】
本発明のポリエステルの製造は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化後、重縮合する方法、もしくは、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応を行った後、重縮合する方法のいずれの方法でも行うことができる。
【0035】
本発明のポリエステルの製造における赤色染料、青色染料、重合触媒の添加時期としては、重縮合反応の開始前が望ましいが、エステル化反応もしくはエステル交換反応の開始前および反応途中の任意の段階で反応系に添加することもできる。
本発明のポリエステルの製造における重合触媒の添加方法としては、粉末状態であってもよいし、エチレングリコールなどの溶媒のスラリー状であってもよい。
本発明のポリエステル中には、他の任意の重合体や安定剤、酸化防止剤、制電剤、消泡剤、染色性改良剤、艶消剤、蛍光増白剤、染料、顔料、その他の添加剤が含有されていてもよい。
【実施例】
【0036】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例において特性評価は次のようにして行った。
(a)極限粘度([η])
フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)を溶媒とし、温度20℃下で常法にしたがって測定した。
(b)ポリエステルの色調(L値、a値、b値)
日本電色工業社製の色差計ND-シグマ80型を用いて測定した。色調の判定は、ハンターのLab表色系で行った。ちなみに、L値は明度(値が大きい程明るい)、a値は赤−緑系の色相(+は赤味、−は緑味)、b値は黄−青系(+は黄味、−は青味)を表す。色調の判定は、ハンターのLab表色系で行った。L値が50以上、a値が−5〜0、b値が−1〜1である場合を合格とした。
(c)ポリエステルの透明性(プレートヘーズ)
乾燥したポリエステルペレットを押し出し温度280℃、金型冷却温度20℃、冷却時間30秒の条件で、厚さ5mm×長さ10cm×幅6cmのプレートに射出成形し、透明度を日本電色工業社製の濁度計 MODEL 1001DPで評価した(空気:ヘーズ0%)。 この値が小さいほど透明性が良好であり、3%未満である場合を合格とした。
【0037】
(d)熱安定性
経時促進試験として、ポリエステルペレットを130℃の常圧空気雰囲気下で120時間の熱処理を行った。熱処理前後におけるポリエステルペレットの極限粘度並びにポリエステルプレートのb値を比較した。
すなわち、熱安定性の評価としては、熱処理前の極限粘度[η]と熱処理後の極限粘度[η]1との比[η]/[η]が0.90以上であり、かつ熱処理後に成形したプレートのb値(b)と熱処理前に成形したプレートのb値(b)の差(b−b)が+4以下である場合を合格とした。
なお、評価に用いたプレートは、上記(c)の方法で成形されたものを用いた。色調測定は、日本電色工業社製の色差計ND-シグマ80型を用いて、プレートの厚さ方向について行った。
【0038】
なお、実施例において用いた重合触媒は次の通りである。
・TiコートHT−P(堺化学社製)
(アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被膜層を形成させたもの。)
【0039】
実施例1
ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体の存在するエステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコールとのモル比1/1.6 のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間としてエステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(平均重合度:7)を連続的に得た。
【0040】
このエチレンテレフタレートオリゴマー60.3kgを重合反応器に移送し、重合触媒として、TiコートHT−Pを5.8g(ポリエステル対して100ppmとなる量)加え、アントラキノン系青色染料としてSOLVENTBLUE 104(クラリアントジャパン社製SANDOPLAST BLUE 2B)を0.12g(ポリエステル中に2ppm含有する量)、ペリノン系赤色染料としてSOLVENT RED 135(クラリアントジャパン社製SANDOPLAST RED G)を0.12g(ポリエステル中に2ppm含有する量)を加え、重縮合反応器中を減圧にして、最終的に0.9hPa、280℃で3時間重縮合反応を行った後、常法により払い出してペレット化した。得られたポリエステル(平均重合度:110)の組成及び特性値を表1に示す。
【0041】
実施例2〜5、比較例1〜4では、実施例1における染料の添加量を変えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。得られたポリエステルの特性値を表1に示す。
【0042】
比較例5
比較例5では、実施例1における染料の替わりに酢酸コバルトを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。
得られたポリエステルの特性値を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1〜5では、良好な特性を有するポリエステルが得られたが、比較例では、次のような問題があった。
すなわち、比較例1では、赤色染料と青色染料のいずれも含有量が少なかったため、b値は3を超える高いものとなり、得られたポリエステルは黄色味を有するものであった。
比較例2では、青色染料の含有量が多かったため、b値が−3を超える低いものとなり、また得られたポリエステルの透明性は悪かった。
【0045】
比較例3では、赤色染料に対する青色染料の質量比率が小さかったため、得られたポリエステルの赤みが強く、a値、b値ともに大きかった。
比較例4では、赤色染料に対する青色染料の質量比率が大きかったため、得られたポリエステルの青みが強すぎ、b値が小さかった。
【0046】
また、比較例5では、染料の替わりに酢酸コバルトを用いているため、得られたポリエステルの透明性が悪かった。また、熱処理前後での極限粘度の比率及びb値差が大きいものとなり、得られたポリエステルは熱安定性が悪いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の表面にチタン酸からなる被覆層が形成された化合物を含有するポリエステルであって、アントラキノン系青色染料を0.5〜5ppm、ペリノン系赤色染料を0.5〜5ppm含有し、ペリノン系赤色染料に対するアントラキノン系青色染料の含有量の質量比率が0.5〜3.0であり、ハンターのLab表色系におけるa値が−5〜0、b値が−1〜1であることを特徴とするポリエステル。



【公開番号】特開2007−254534(P2007−254534A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78755(P2006−78755)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】