説明

ポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの製造方法

【課題】白色のポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるフラン−2,5−ジカルボン酸化合物とエチレングリコールを反応させてエステル化合物を得る第1工程と、該エステル化合物を165℃以上185℃未満の反応温度で反応させて重縮合を行なう第2工程とを有し、前記第1工程および第2工程の反応をスカンジウムトリフラートからなる重合触媒の存在下で行なうポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの製造方法。


(式中、Xはヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの製造方法に関する。特に、プリンター等の筐体のプラスチック材料として用いられるポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレート(以下PEFとも記す)は、構造がポリエチレンテレフタレート(以下PETと記す)に近いため、プリンター等の電化製品における筐体のプラスチック材料としての応用が期待される。また、PEFの原料であるフラン−2,5−ジカルボン酸は糖類などの再資源可能な原料から合成することができるため、石油資源使用量を削減する効果がある材料として注目されている。
【0003】
しかし、PEFを溶融重合する場合、反応温度が185℃から250℃と高温のためフラン−2,5−ジカルボン酸に含有する不純物や重合途中に起こる副反応により合成されるPEFが着色していた。そのため、光学材料などの透明性が要求される材料には使用することが難しかった(特許文献1、非特許文献1参照)
【特許文献1】米国特許第2,551,731号明細書
【非特許文献1】Y.Hachihama,T.Shono,And K.Hyono,technol.Repts.Osaka Univ.,8,475(1958)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1では220℃で重合しているが着色についての記述はない。また、非特許文献1では重合触媒に炭酸カリウム(KCO)や酸化セリウム(CeO)、酸化鉛(PbO)を用いてPEFを合成しているが灰白色に着色していることが記述されている。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、白色のPEFを製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの製造方法は、下記一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Xはヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。)
で示されるフラン−2,5−ジカルボン酸化合物とエチレングリコールを反応させてエステル化合物を得る第1工程と、該エステル化合物を165℃以上185℃未満の反応温度で反応させて重縮合を行なう第2工程とを有し、前記第1工程および第2工程の反応をスカンジウムトリフラートからなる重合触媒の存在下で行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、L表色系において、白からの色差が14.4の白色のPEFを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための形態について説明する。
本発明に係るポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの製造方法は、下記一般式(1)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Xはヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。)
で示されるフラン−2,5−ジカルボン酸化合物とエチレングリコールを反応させてエステル化合物を得る第1工程と、該エステル化合物を165℃以上185℃未満の反応温度で反応させて重縮合を行なう第2工程とを有し、前記第1工程および第2工程の反応をスカンジウムトリフラートからなる重合触媒の存在下で行なうことを特徴とする。
【0013】
本発明におけるPEFの合成方法について説明する。PEFは、下記の一般式(1)で示されるフラン−2,5−ジカルボン酸化合物と、式(2)で示されるエチレングリコールとを反応させることにより得ることができる。
【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
一般式(1)において、Xはヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。アルコキシ基としては、メトキシ基またはエトキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
さらに、一般式(1)で示されるフランジカルボン酸化合物は、セルロースやグルコース、フルクトースなどのいわゆる植物原料(バイオマス)から公知の方法で製造することができる。
【0017】
本発明のPEFの製造方法の反応経路は、下記の一般式(3)に示すとおりである。
【0018】
【化5】

【0019】
nは11以上の整数を示す。
本発明に係るPEFは反応経路から縮合物と呼ぶことが出来る。
【0020】
次に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
本発明は、重合触媒のスカンジウムトリフラートの存在下で、フラン−2,5−ジカルボン酸化合物とエチレングリコールとを反応させてエステル化合物を得る第1工程と、得られたエステル化合物の重縮合を行う第2工程とを有する。
【0021】
第1工程のエステル化を行う反応温度は、150℃以上165℃未満、好ましくは150℃以上160℃未満の範囲が望ましい。150℃未満だとエステル化の進行が遅く、165℃以上だとエステル化は速く進行するが、未反応のフラン−2,5−ジカルボン酸が存在するうちに165℃以上にすると着色が進行するため好ましくない。
【0022】
一方、第2工程の重縮合を行う温度範囲は、165℃以上185℃未満、好ましくは170℃以上180℃未満の範囲が望ましい。165℃未満だと反応が遅く、185以上だと着色が進行するからである。
【0023】
第1工程においては、フラン−2,5−ジカルボン酸とエチレングリコール、重合触媒とを一緒に撹拌しながら徐々に150℃以上165℃未満で加熱し、フラン−2,5−ジカルボン酸とエチレングリコールのエステル化を行ない、エステル化合物を得る。このエステル化の終点は、反応混合物が透明になった時点で容易に確認できる。この時点で反応混合物はオリゴマーであり、ポリマーにはなっていない。
【0024】
前記エステル化合物は下記一般式(4)
【化6】

【0025】
(式中、nは2から10の整数を示す)で示されるフラン−2,5−ジカルボン酸化合物とエチレングリコールがエステルしたオリゴマーである。
【0026】
第2工程においては、反応系の温度を165℃以上185℃未満に加熱することでエステル交換反応を起こし、高分子量化を目的とした重縮合を開始させる。
この重縮合段階は、好ましくは減圧下で実施する。重縮合反応においては、副生成物としてエチレングリコールが生成し、これを除去することで重縮合の反応速度を高めるためである。具体的には、5Paから700Paである。5Pa未満では、この圧力を保持する重縮合反応装置を作製することが困難であり、700Paを越えると重縮合過程の反応速度が遅いため時間がかかり工業的に不利である。
【0027】
また、PEFを得た後に、公知の方法で固相重合を行い、さらに分子量を高めることもできる。
次に、反応初期に仕込むモノマーの量について説明する。初期に仕込むべきエチレングリコールの量は、フラン−2,5−ジカルボン酸1モルに対して1モル以上3モル以下が好ましい。
【0028】
過剰なエチレングリコールや、重縮合反応が進行するにつれて生成するエチレングリコールは、反応系を減圧下にすることで留去するか、または他の溶媒と共沸させ留去するか、または他の方法により反応系外へ除去することができる。
【0029】
次に重合触媒について説明する。重合触媒はスカンジウムトリフラートが用いられる。第1工程のエステル化に好適な重合触媒として知られるすず系の有機金属化合物触媒を用いた場合、フラン−2,5−ジカルボン酸とエチレングリコールのエステル化は進行するが着色の進行も速くなる。また、第2工程の重縮合工程に好適な重合触媒として知られるチタン系の有機金属化合物を使用した場合も着色が進行する。
【0030】
重合触媒の添加量は、フラン−2,5−ジカルボン酸1モルに対して1×10−4モル以上30×10−4モル以下、好ましくは1×10−4モル以上20×10−4モル以下の範囲が望ましい。1×10−4モル当量より量が少ないと反応速度が遅く、工業的に不利になる。一方、30×10−4モル当量より多いと反応速度は速くなるが、PEFのエステル結合の分解速度も速くなるためPEFの耐久性が悪くなる。
【0031】
次に重合触媒であるスカンジウムトリフラートの添加時期について説明する。重合触媒は第1工程のエステル化を始める段階から加えた方が好ましい。第1工程が150℃以上165℃未満で、重合触媒を添加せずにエステル化を行うとフラン−2,5−ジカルボン酸とエチレングリコールのエステル化の反応速度が遅いため長時間を要し、工業的に不利である。例えば、スカンジウムトリフラートの非存在下において、フラン−2,5−ジカルボン酸とエチレングリコールの反応を160℃で行ったところ、7時間を要してもフラン−2,5−ジカルボン酸の未反応物が残り反応液は透明にならなかった。一方、重合触媒を第1工程から加えた場合、160℃において2時間で反応液は透明になり、エステル化の進行が確認できた。続けて、減圧下で170℃の反応温度において重縮合を行った結果、L表色系において白からの色差が14.4で、数平均分子量(Mn)が4.9万のPEFが得られた。
【0032】
なお、白からの色差は次の式(5)によって計算したものである。0からのずれが大きいほど白からのずれが大きいことを示す。
【0033】
【数1】

【0034】
ここでいうLとは、国際照明委員会が制定したL表色系を示し、Lは明度、a、bは色相と彩度を示す色度を表す。
本発明で定義する白色とは、白からの色差が20以下のことをいう。白からの色差が20より大きいと上記の方法で得られたPEFは、黄色や灰色に呈色してしまう。そのため、PEFの白からの色差は20以下が好ましい。
【0035】
本発明により得られたPEFは熱可塑性樹脂である。このPEFは、光学機器やボトル、筐体材料の仕様に充分耐えうる物性を有する。また、PEFを成形用の熱可塑性樹脂とし、所望の形状に成形することができる。成形方法は特に限定されない。例えば、圧縮成形、押し出し成形または射出成形などを利用することができる。また、上記の方法で得られたPEFに、難燃剤、着色剤、内部離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種フィラーなどの添加剤を必要量添加してもよい。
【0036】
成形品の好ましい使用例としては、インクジェットプリンターのインクタンク、電子写真のトナー容器、包装用樹脂や複写機、プリンター等の事務機またはカメラの筐体等の構成材料としての用途を挙げることができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を記述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、実施例および比較例における、Lの測定やPEFの分子量測定には以下の装置、条件を用いた。
(1)Lの測定
分析機器:コニカミノルタ社製分光測色計CM−2500d
【0038】
(2)分子量測定
分析機器:Waters社製アライアンス2695
検出器:示差屈折検出器
溶離液:5mMトリフルオロ酢酸ナトリウムの濃度であるヘキサフルオロイソプロパノール溶液
流量:1.0ml/min
校正曲線:Plymer Laboratories社製のPMMA標準サンプルを用いて校正曲線を作成し、PEFの分子量を測定した。
カラム温度:40℃
【0039】
実施例1
窒素導入管、分留管−冷却管、SUS製撹拌羽を取り付けた0.1Lの三つ口フラスコを用意した。この三つ口フラスコに、フラン−2,5−ジカルボン酸を5g(32mmol)とエチレングリコールを6g(96mmol)、スカンジウムトリフラートを0.019g(0.038mmol)測りとった。三つ口フラスコ内にて窒素を20ml/minの流量で導入しながら撹拌を開始するとともに、160℃の液温である油浴に浸漬し、これら内容物を昇温させた。内容物が透明になりエステル化が進行するまで反応を行った。
【0040】
続いてバキュームポンプを反応装置に連結し減圧を開始した。減圧下(133Pa)、反応温度170℃において、重縮合反応を1時間行ったあと、ヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させ、メタノールで再沈殿させたものを60℃で一昼夜真空乾燥した。
【0041】
こうして得られたPEFに分光測色計CM−2500dの測定部を押し当てLを測定したところ、白からの色差が14.4と白色であった。また数平均分子量が4.9万(PMMA換算)と高分子量であった。
【0042】
比較例1
重合温度を変更した以外は実施例1と同様に行った。重合温度を185℃付近に保ったあたりから着色が濃くなり230℃で重合を継続した結果、白からの色差は42.6で見た目にも茶色であるPEFが得られた。
【0043】
以上の結果より、重合触媒にスカンジウムトリフラートを用いても反応温度を185℃以上にすると着色が濃くなることが分かる。
【0044】
比較例2
第1工程であるエステル化までは実施例1と同様に行った。重合触媒にポリエステルの合成に一般的に使用されるテトラ−n−ブトキシチタンを0.0083g(0.024mmol)添加し重縮合を行った。重合温度を185℃以下に保ったが着色が濃くなり、白からの色差が30.8で見た目にも茶色であるPEFが得られた。
【0045】
以上の結果より、反応温度を165℃以上185℃未満に保っても、テトラ−n−ブトキシチタンを添加すると着色することが明らかとなった。
【0046】
比較例3
重合触媒を添加しない以外は実施例1と同様にエステル化を行ったが、反応温度160℃において、7時間経過しても反応液は透明にならなかった。以上の結果より、重合触媒は第一工程の最初から加えた方が好ましいことが分かった。
【0047】
比較例4
重合触媒をモノブチルスズオキシドに変更した以外は実施例1と同様にエステル化を行った。反応液は実施例1と同様に透明になりエステル化の進行を確認できたが、反応液のbは3.77となり実施例1の値である−0.75に比べ黄色の着色が進行してしまっていることが分かった。
【0048】
以上の結果より、モノブチルスズオキシドはスカンジウムトリフラートと異なり、エステル化の段階で着色が進行していることが明らかとなった。
下記の表1に、実施例および比較例の反応を比較して示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(注)
(1)フラン−2,5−ジカルボン酸の仕込み量は5gである。
(2)EG:エチレングリコール
(3)Sc(OTf):スカンジウムトリフラート
(4)Tf:CFSO2−
(5)MBTO:モノブチルスズオキシド
(6)TBT:テトラ−n−ブトキシチタン
(7)エステル化の進行
○:反応混合物が透明になり、均一である。
×:反応混合物が透明にならず、不均一である。
【0051】
以上の結果より、重合触媒にスカンジウムトリフラートのみを使用し、かつその時の重合温度が165℃以上185℃未満とすることにより、白色のPEFを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、白色のPEFを製造することができるので、光学材料などの透明性が要求される材料に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Xはヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。)
で示されるフラン−2,5−ジカルボン酸化合物とエチレングリコールを反応させてエステル化合物を得る第1工程と、該エステル化合物を165℃以上185℃未満の反応温度で反応させて重縮合を行なう第2工程とを有し、前記第1工程および第2工程の反応をスカンジウムトリフラートからなる重合触媒の存在下で行なうことを特徴とするポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの製造方法。
【請求項2】
前記第1工程の反応は、150℃以上165℃未満の反応温度で行なう請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程の反応は、減圧下で行なう請求項1または2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−215467(P2009−215467A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61767(P2008−61767)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】