説明

ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物およびその製造方法

【課題】フィルムや繊維などの成形品にしたときに実用に耐えうる平滑な表面を有し、かつヤング率を高められるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の提供。
【解決手段】水酸化フラーレンとジエチレングリコールを共重合したポリエチレン−2,6−ナフタレートとの樹脂組成物であって、水酸化フラーレンの添加量が0.01〜0.2重量%の範囲であり、ジエチレングリコールの共重合量が1.5〜5.0重量%の範囲であるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物、ならびに2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはそのエステル形成誘導体とエチレングリコールとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応および重縮合反応によって製造する際に、エステル化反応もしくはエステル交換反応が終了するまでの任意の段階で、水酸化フラーレンを、上述の範囲で添加する該樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物およびその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、延伸成形性が改良され、高ヤング率のポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムやポリエチレン−2,6−ナフタレート繊維を得ることができるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、優れた成形性と機械特性を有することから、フィルムや繊維などの材料として用いられてきている。
しかしながら、近年の要求はますます厳しくなり、更なる改良が望まれている。具体的には、磁気記録媒体のベースフィルムなどでは、例えばデータストレージなどで磁気記録媒体を薄膜化して、同一容積中の磁気記録媒体の長さを長尺化することが求められ、ヤング率などの更なる向上が求められている。また、タイヤコードなどの繊維に対しても、同様にヤング率などの機械的特性の向上が要求されてきている。
【0003】
このような要求に答えるため、特開2002−225198号公報(特許文献1)では、板状の不活性粒子を含有させることで、得られるポリエステルフィルムのヤング率を向上させることが提案されている。しかしながら、特許文献1に記載された方法では、ヤング率は高められるものの、得られる成形品の表面が該板状不活性粒子に粗されてしまう。そして、表面が粗くなると、磁気記録媒体のベースフィルムでは、得られる磁気記録媒体の表面も粗くなり、記録密度が上げられなくなり、結果として磁気記録媒体は薄くできても記録容量は大きくならないという問題があった。そのため、機械的特性を挙げつつ、表面性を損なわないものは未だ提供されていないのが実情であった。
【0004】
ところで、近年、ナノ材料の一種であるフラーレンが注目され、特開2004−182768号公報(特許文献2)では、熱可塑性樹脂にフラーレンを0.25質量%以上含有させることで、耐熱性を向上できることが提案されている。また、特開2004−75933号公報(特許文献3)では、フラーレンとして、水酸基などを付加したものを用いることで、より分散性を向上できることが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−225198号公報
【特許文献2】特開2004−182768号公報
【特許文献3】特開2004−75933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の問題を解消し、得られるフィルムや繊維などの成形品に、高ヤング率と表面平坦性を同時に具備する改質されたポリエステル樹脂組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の問題を解決するため研究を重ねた結果、ポリエステルの中でもポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂に、0.2重量%以下というごく微量の水酸化フラーレンを、特定量のジエチレングリコールと併存させると、驚くべきことに表面の平坦性などを損なうことなく、ヤング率などの機械的特性を向上できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、水酸化フラーレンとジエチレングリコールを共重合したポリエチレン−2,6−ナフタレートとの樹脂組成物であって、水酸化フラーレンの添加量が、該樹脂組成物の重量を基準として、0.01〜0.2重量%の範囲であり、ジエチレングリコールの共重合量が、ポリエチレン−2,6−ナフタレートの重量を基準として、1.5〜5.0重量%の範囲であるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはそのエステル形成誘導体とエチレングリコールとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応および重縮合反応によって製造する際に、エステル化反応もしくはエステル交換反応が終了するまでの任意の段階で、水酸化フラーレンを、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.01〜0.2重量%の範囲で添加するポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の製造方法も提供される。さらにまた、本発明の好ましい態様として、水酸化フラーレンがエチレングリコール溶液として添加され、添加する溶液中の水酸化フラーレンの濃度が0.05〜0.5重量%の範囲であるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0010】
ジエチレングリコール(以下、DEGと称する。)はポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂(以下、PENと称する。)などのポリエステルの重合工程で生じる副生成物であり、PENの場合、分子鎖中に共重合された状態で通常1重量%程度存在する。このDEGの割合が増えると延伸性が向上することは知られていたが、これは結晶性が低下して伸びやすくなっているだけで、ヤング率などの機械的特性はむしろ低下する傾向にあった。
【0011】
これに対して、本発明では、ポリエステルの中でもPENにおいて、1.5〜5.0重量%というDEGと0.01〜0.2重量%というごくごく微量の水酸化フラーレンとを併存させることで、延伸性が向上するだけでなくヤング率などの機械的特性も向上させたものであり、しかも特許文献1などのように表面性を損なうような不活性粒子を大量に含有させる必要もないことから、得られる成形品に表面平坦性を損なうこともない。
【0012】
したがって、本発明のPEN樹脂組成物を用いれば、フィルムや繊維などの得られる成形品に、優れた表面平坦性を持たせつつ、高ヤング率などを具備させることができ、その工業的価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物は、樹脂組成物の重量を基準として、水酸化フラーレンを0.01〜0.2重量%の範囲で含有させ、かつ同時にジエチレングリコールを、ポリエチレン−2,6−ナフタレートの重量を基準として、1.5〜5.0重量%の範囲で共重合していることが必要である。
【0014】
DEGの共重合量が下限未満では延伸性向上効果が得られず、水酸化フラーレンを含有していても、ヤング率などの機械的特性の向上効果が乏しくなる。一方、DEGの共重合量が上限を越えると、これらのDEGは通常PENの分子鎖中に共重合された状態で存在することから、PENの結晶性を低下させ、延伸性は向上するものの機械的特性の向上効果が乏しくなったり、さらには製膜自体不安定化する。好ましいジエチレングリコールの含有量は、1.7〜4.5重量%、さらには2.0〜4.0重量%である。
【0015】
また、水酸化フラーレンの含有させる量、すなわち添加量が下限未満では、DEGが上記範囲内で高い延伸性を具備していても、ヤング率などの機械的特性の向上効果が乏しくなる。一方、水酸化フラーレンの存在によってDEGは増加する傾向にあり、水酸化フラーレンの含有量が上限を超えると、DEGの割合を上記範囲内にすることが困難になり、結果としてヤング率などの機械的特性の向上効果が得られない。好ましい水酸化フラーレンの添加量は、0.03〜0.15重量%、さらには0.05〜0.13重量%である。
【0016】
さらにまた、樹脂組成物を形成する樹脂はPENであることが必要である。同様な検討をPENと同様に代表的なポリエステルであるポリエチレンテレフタレートでも行ったが、PENのような効果は得られなかった。この点から、PENと水酸化フラーレンとDEGとは相互に何らかの影響をし合っているものと考えられる。
【0017】
本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物は、ポリエチレン−2,6−ナフタレートと水酸化フラーレンおよびジエチレングリコールのみから構成されるものであっても良いが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、それ自体公知の各種添加剤等が含まれていても良い。例えば、本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物には、繊維やフィルムを製造する際に、巻取り性や搬送性等を良くするため、滑剤として不活性微粒子を含有させることができる。不活性微粒子としては、例えば周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機微粒子(例えば、カオリン、板状ベーマイト、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等)、シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン等の如き耐熱性の高い高分子よりなる微粒子等を挙げることができる。不活性微粒子をポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物に含有させる場合、微粒子の平均粒径は0.05〜1.0μm、更には0.1〜0.8μmであることが好ましい。また、不活性微粒子の含有量はポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物中に0.05〜0.5重量%、更には0.1〜0.3重量%であることが好ましい。また、不活性粒子は、種類、形状或はサイズの異なる2種類以上を併用してもよい。
【0018】
[ポリエチレン−2,6−ナフタレート]
本発明におけるPENは、全ジカルボン酸成分の60モル%以上が2,6−ナフタレンジカルボン酸、全グリコール成分の60モル%以上がエチレングリコールからなるものが好ましい。また、全ジカルボン酸成分の65モル%以上が2,6−ナフタレンジカルボン酸、全グリコール成分の65モル%以上がエチレングリコールからなることが更に好ましい。更に、全ジカルボン酸成分の90モル%以上が2,6−ナフタレンジカルボン酸、全グリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなることが特に好ましい。
【0019】
ポリエチレン−2,6−ナフタレートがDEG以外の共重合成分を有する場合、そのDEG以外の共重合成分としては、ジカルボン酸成分として例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ナトリウムジカルボン酸を、またグリコール成分として例えば、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなおを挙げることができる。なお、これらの共重合成分は1種のみでなく2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明におけるPENの固有粘度は、オルトクロロフェノール溶媒下、35℃で0.4dl/g〜0.8dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.5dl/g〜0.7dl/gである。固有粘度が0.4dl/g未満の場合は、本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物を繊維やフィルムに成形後、各製品に使用する際に要求される機械強度が不足することがある。他方、固有粘度が0.8dl/gを超える場合は、溶融重合工程および繊維やフィルムへの成形における溶融混練時の生産性が損なわれることがある。
【0021】
[水酸化フラーレン]
本発明における水酸化フラーレンは、フラーレンに水酸基が導入されたものであって、例えばC60骨格及び/またはC70骨格を有するものであることが好ましい。本発明の水酸化フラーレンは、C60骨格に水酸基が導入された水酸化フラーレン、C70骨格に水酸基が導入された水酸化フラーレンのいずれの形態であっても良いし、また、その両方が混合されたものであっても構わないが、C60骨格に水酸基が導入された水酸化フラーレンであることが最も好ましい。
【0022】
本発明における水酸化フラーレンの1分子当たりの水酸基数は、6〜12であることが好ましい。水酸基数が6〜12の範囲にあることで、ポリエチレン−2,6−ナフタレート中に配合させた際、延伸成形性の向上効果などが得られやすくなる。
【0023】
[ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物は、従来からそれ自体公知のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の製造方法によって製造でき、水酸化フラーレンの含有量、およびジエチレングリコールの共重合量が本発明の範囲を満たすものであれば、その製造方法は特に限定されるものではない。
【0024】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはそのエステル形成誘導体とエチレングリコールとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応および重縮合反応によって製造する際に、エステル化反応もしくはエステル交換反応が終了するまでの任意の段階で、水酸化フラーレンを0.01〜0.2重量%添加することで、より容易にジエチレングリコールの含有量を本発明の範囲に調整でき、かつ水酸化フラーレンによる効果を最大限に発現させることができる。
【0025】
まず、前記製造方法により、ジエチレングリコールの量を容易に本発明の範囲内とすることができる理由としては、水酸化フラーレンをエステル交換反応やエステル化反応中に添加することにより、水酸化フラーレンが何らかの触媒として作用するためか、ジエチレングリコールの副生反応がより容易に起こるためと考えられる。すなわち、通常DEGは1重量%程度しかないが、別途DEGなどを添加しなくても1.5重量%以上のDEGを存在させることができるという利点がある。また、水酸化フラーレンをエステル交換反応やエステル化反応中に添加することで、重縮合反応以降の段階やPENとしてから溶融混練するのに比べ、より均一に分散させやすいという利点もある。
【0026】
また、本発明の製造方法における水酸化フラーレンの添加量は、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.01〜0.2重量%の範囲である。水酸化フラーレンの添加量が下限未満では、水酸化フラーレンを添加させる効果が小さく、一方、上限を超える量を添加すると、前述の通りポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の結晶性が失われたり、添加時に粒子の凝集が起こってしまい、成形品の表面性を悪化させてしまうなどの弊害が起こる。好ましい添加量は0.03〜0.15重量%、さらに0.05〜0.13重量%の範囲である。
【0027】
さらに、本発明の製造方法における水酸化フラーレンの添加形態としては、水酸化フラーレン濃度が0.05〜0.5重量%のエチレングリコール溶液として添加することが好ましい。水酸化フラーレンがエチレングリコール中に上記割合で溶解した溶液の状態で添加されることにより、高度な水酸化フラーレンの分散性を達成でき、水酸化フラーレンによる効果をより発現しやすくなる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。なお、本発明における種々の物性値および特性は、以下のようにして測定されたものであり、かつ定義される。また、特に断りのない限り、「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」を意味する。
【0029】
(1)成形性および機械的特性
実施例で得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物を、溶融温度320℃にて、口径直径0.5mm、120孔数の紡糸口金より紡出・冷却し、オレイルオレートを主成分とするエマルジョン油剤を、繊維の油剤付着量が0.5%となるようにローラー式油剤付与装置で油剤付与した後、500m/minの速度で引き取り、太さ1200dtexの未延伸糸を得た。この未延伸糸を、延伸機にセットして温度140℃の加熱供給ロールと延伸ロールとの速度差により延伸を行う。その際、延伸ロールの速度を徐々に上げていき糸が破断するまでその操作を行う。糸が破断した時点の延伸ロール速度/加熱供給ロール速度の比をもって破断延伸倍率とし、この操作を5回続け、5回の破断延伸倍率の平均値をもって最大延伸倍率とする。そして、この最大延伸倍率が大きいほど成形性に優れると判断する。
つぎに、上記の最大延伸倍率に対して95%の延伸倍率で、上記未延伸糸を温度140℃の加熱供給ロールと延伸ロールとの速度差により延伸を行い、220℃で熱処理して延伸糸を得た。そして、この延伸糸を、引張荷重測定器(島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L 1013に準拠してヤング率を測定した。そして、このヤング率が高いものほど、機械的特性に優れると判断した。
【0030】
(2)ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物中のジエチレングリコールの共重合量
ヒドラジンにより樹脂を加水分解し、遊離したジエチレングリコールをガスクロマトグラフィー(Hewlett Packard社製6990)にて分析した。
【0031】
(3)表面平坦性
前述のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物を170℃で3時間乾燥した後、押出機ホッパーに供給し、280℃で溶融し、T型押出ダイを用いて、表面仕上げ0.3S、表面温度30℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、ポリエステル樹脂組成物からなる未延伸フィルムを得た。
この未延伸フィルムを75℃に予熱し、更に低速、高速のロール間で14mm上方より830℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱して縦方向に5.0倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、120℃にて横方向に4.5倍延伸した。更に引き続いて225℃で3秒間熱固定し、厚み4.5μmの二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを得た。そして、得られたフィルムの中心線平均粗さ(Ra)を、JIS−B601に準じて、(株)小坂研究所の触針式表面粗さ計(SURFCORDER SE,30C)を用いて以下の条件で測定した。
(a)触針先端半径:2μm
(b)測定圧力 :30mg
(c)カットオフ :0.08mm
(d)測定長 :8.0mm
(e)データのまとめ方:同一試料について6回繰り返し測定し、最も大きい値を1つ除き、残り5つのデータを用いて平均値として中心線平均粗さ(Ra)を求める。
このようにして得られた中心線平均粗さ(Ra)が小さいものほど表面平坦性に優れると判断した。
【0032】
(4)固有粘度
オルトクロロフェノール中、35℃で測定した値である。単位はdl/gである。
【0033】
[実施例1]
(1)C60骨格に水酸基が1分子当たり12個導入された水酸化フラーレン(フロンティアカーボン社製 nanom spectra HX10−S)を使用し、エチレングリコール99.6部に対し、水酸化フラーレン0.4部を添加して、常温にて4時間撹拌を行い、濃度0.4wt%の水酸化フラーレン/エチレングリコール溶液を調製した。
(2)2,6−ナフタレン酸ジメチル100部とエチレングリコール60部の混合物に、酢酸マンガン四水和物0.030部をエステル交換反応釜に仕込み、140℃から230℃まで徐々に昇温しつつ、生成するメタノールを系外に留出させながらエステル交換反応を行った。この間170℃にて前記(1)で調製した水酸化フラーレン/エチレングリコール溶液を用い、得られるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の重量に対して、水酸化フラーレンの添加量が0.125wt%となるよう添加し反応を続け、完全にメタノールの留出が終了したのち、リン化合物としてリン酸トリメチル0.020部を加え反応を終了させた。続いて5分後に重合触媒三酸化アンチモン0.024部を加え250℃まで加熱して一部のエチレングリコールを留出させたのち、重縮合反応釜へオリゴマーを移した。その後、常法に従い高真空下で加熱しながら、最終内温295℃にて所望の粘度に到達した時点で反応を終了させ、吐出部からストランド状に連続的に押し出し、冷却カッティングして約3mm前後のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の粒状ペレットを得た。このポリマーの固有粘度は0.62であった。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0034】
[比較例1]
水酸化フラーレンを添加しないこと以外は実施例1と同様な操作を実施し、固有粘度0.62のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の粒状ペレットを得た。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0035】
[比較例2]
水酸化フラーレンを添加せず、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物中のジエチレングリコール含有量が2.87重量%となるよう添加する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返し固有粘度0.62のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の粒状ペレットを得た。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0036】
[比較例3]
ジエチレングリコール副生反応の抑制剤として酢酸カリウム0.008部を添加する以外は、実施例1と同様な操作を実施し固有粘度0.62のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の粒状ペレットを得た。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0037】
[実施例2、3および比較例4]
水酸化フラーレンの組成物中の量を表1に示す量になるように変更した以外は実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0038】
[比較例5]
水酸化フラーレンの代わりに、板状アルミナ粒子(平均粒径0.6μm、アスペクト比10)を2重量%含有させた以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0039】
[比較例6]
(1)C60骨格に水酸基が1分子当たり12個導入されたの水酸化フラーレン(フロンティアカーボン社製 nanom spectra HX10−S)を使用し、エチレングリコール99.6部に対し、水酸化フラーレン0.4部を添加して、常温にて4時間撹拌を行い、濃度0.4wt%の水酸化フラーレン/エチレングリコール溶液を調製した。
(2)テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部の混合物に、酢酸マンガン四水和物0.038部をエステル交換反応釜に仕込み、140℃から230℃まで徐々に昇温しつつ、生成するメタノールを系外に留出させながらエステル交換反応を行った。この間170℃にて前記(1)で調製した水酸化フラーレン/エチレングリコール溶液を用い、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物中の水酸化フラーレン含有量が0.1wt%となるよう添加し反応を続け、完全にメタノールの留出が終了したのち、リン化合物としてリン酸トリメチル0.017部を加え反応を終了させた。続いて5分後に重合触媒三酸化アンチモン0.030部を加え240℃まで加熱して一部のエチレングリコールを留出させたのち、重縮合反応釜へオリゴマーを移した。その後、常法に従い高真空下で加熱しながら、最終内温290℃にて所望の粘度に到達した時点で反応を終了させ、吐出部からストランド状に連続的に押し出し、冷却カッティングして約3mm前後のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の粒状ペレットを得た。このポリマーの固有粘度は0.62であった。得られたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0040】
[比較例7]
水酸化フラーレンを添加しないこと以外は比較例6と同様な操作を実施し、固有粘度0.62のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の粒状ペレットを得た。得られたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、優れた表面平坦性を持ちつつ、高ヤング率などを具備するフィルムや繊維などの成形品が得られ、特に、高ヤング率が求められるタイヤコード用繊維や、表面平坦性と高ヤング率が求められる磁気記録媒体用フィルムの材料として好適に用いることができ、その工業的価値はきわめて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化フラーレンとジエチレングリコールを共重合したポリエチレン−2,6−ナフタレートとの樹脂組成物であって、水酸化フラーレンの添加量が、該樹脂組成物の重量を基準として、0.01〜0.2重量%の範囲であり、ジエチレングリコールの共重合量が、ポリエチレン−2,6−ナフタレートの重量を基準として、1.5〜5.0重量%の範囲であることを特徴とするポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはそのエステル形成誘導体とエチレングリコールとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応および重縮合反応によって製造する際に、エステル化反応もしくはエステル交換反応が終了するまでの任意の段階で、水酸化フラーレンを、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.01〜0.2重量%の範囲で添加することを特徴とするポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
水酸化フラーレンがエチレングリコール溶液として添加され、添加する溶液中の水酸化フラーレンの濃度が0.05〜0.5重量%の範囲である請求項2に記載のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−53243(P2010−53243A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219714(P2008−219714)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】