説明

ポリエチレンの中空ビーズ

本発明は、制御された大きさおよび形態のポリエチレンの中空ビーズを製造するための方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエチレンの中空ビーズの分野およびこれらの製造方法の分野に関する。本発明は、また、これらの製造方法に使用される触媒成分にも関する。
【背景技術】
【0002】
鉄をベースとした触媒系はオレフィンの重合またはオリゴマー化の文献で述べられている。
【0003】
例えば、Britovsekら(非特許文献1)は、オレフィン、特にエチレンの重合に対して活性である鉄とコバルトをベースとする新規なオレフィン重合触媒を述べている。
【0004】
Small、BrookhartおよびBennett(非特許文献2)は、エチレンの重合に対して極めて活性である鉄およびコバルト触媒を述べている。
【0005】
SmallとBrookhart(非特許文献3)はプロピレンの重合用の新世代の鉄触媒を開示している。
【0006】
例えばRoscoeらは(非特許文献4)などのいくつかの他の研究グループは非相互作用性のポリスチレン担体上に担持されたメタロセンからポリオレフィン球を製造することができた。
【0007】
LiuとJin(非特許文献5)はポリスチレン鎖上に鉄をベースとした触媒を固定するための方法を開示している。
【0008】
これらの先行技術の資料はいずれも制御された形態および大きさのポリエチレンの中空ビーズを制御する問題に取り組んではいない。
【非特許文献1】G.J.P.Britovsek,V.C.Gibson,B.S.Kimberlay,P.J.Maddox,S.J.McTavish,G.A.Solan,A.J.P.White and D.J.Williams,in Chem.Comm.,1998,849
【非特許文献2】B.L.Small,M.Brookhart and A.M.A.Bennett,in J.Am.Chem.Soc.,1998,4049
【非特許文献3】B.L.Small and M.Brookhart,in Macromoleoules,1999,2120
【非特許文献4】S.B.Roscoe,J.M.Frechet,J.F.Walzer and A.J.Dias,in Science,1998,vol.280,270
【非特許文献5】C.Liu and G.Jin,in New J.Chem.2002,1485
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、制御された形態および大きさのポリエチレンの中空ビーズを製造するための方法を開示する。
【0010】
本発明は、また、ポリエチレンの中空ビーズの製造において極めて活性な担持された鉄をベースとした触媒成分も開示する。
【0011】
本発明は、担持された鉄をベースとした触媒成分を製造するための方法を更に開示する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、制御された大きさおよび形態のポリエチレンの中空ビーズを製造するための方法であって、
a)担体が多孔性の官能基化されたポリスチレンビーズであり、そして触媒成分がこの担体上に含浸され、そして一般式I
【0013】
【化1】

【0014】
(ここで、Rは同一であり、1〜20個の炭素原子を有するアルキルであり、そして
R’とR”は同一であるかあるいは異なり、1〜20個の炭素原子を有する置換あるいは非置換のアルキル、または非置換もしくは1〜20個の炭素原子の置換基を有する置換のアリールである)
の鉄をベースとする錯体である担持された触媒成分を準備し;
b)この担持された触媒成分を好適な活性化剤により活性化し;
c)エチレンモノマーを供給し;
d)重合条件下に維持し;
e)制御された形状および大きさのポリエチレンの中空ビーズを取り出す
段階を含んでなる方法を開示する。
Rは同一であり、好ましくは1〜4個の炭素原子を有するアルキルであり、更に好ましくはメチルである。
【0015】
R’とR”は同一であるかあるいは異なり、1〜6個の炭素原子を有する置換あるいは非置換のアルキルから選択されるか、あるいは非置換もしくは1〜6個の炭素原子の置換基を有する置換のアリールである。好ましくは、R’とR”は同一であり、そしてフェニルである。このフェニル上の置換基は、存在する場合には、誘起型の吸引性、供与性の効果または立体効果のいずれかを有することができる。
【0016】
誘起型の吸引性あるいは供与性の効果を有する置換基は、水素またはアルコキシ、またはNO2、またはCN、またはCO2Rまたは1〜20個の炭素原子を有するアルキル、またはハロゲンまたはCX3(ここで、Xはハロゲン、好ましくはフッ素である)、または3および4位の間の、あるいは4および5位の間の、あるいは5および6位の間の縮合環から選択可能である。
【0017】
この鉄をベースとする錯体の立体環境は、このフェニル上の2および6位の、場合によっては3、4および5位の置換基により決定される。
【0018】
この立体効果のためには、このフェニル上の好ましい置換基は、存在する場合には、tert−ブチル、イソプロピルまたはメチルから選択可能である。最も好ましい置換基は2および6位のイソプロピルまたは2、4および6位のメチルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、制御された形態および大きさのポリエチレンの中空ビーズの製造において極めて活性な担持された触媒成分であって、官能基化された多孔性のポリスチレンビーズから製造される担体と、この担体上に含浸される鉄をベースとする錯体とを含んでなるものを開示する。
【0020】
本発明は、また、この担持された触媒成分を製造する方法であって、
a)一般式II
【0021】
【化2】

【0022】
の官能基化された多孔性のポリスチレンビーズを準備し;
b)一般式I
【0023】
【化3】

【0024】
の鉄をベースとする錯体をジクロロメタン中に溶解し;
c)段階a)のビーズを段階b)の溶液により飽和させ;
d)この溶媒を蒸発し;
e)この担持された触媒成分の乾燥ビーズを取り出す
段階を含んでなる方法も開示する。
【0025】
すべての反応を不活性雰囲気中約20℃の室温および大気圧下で行う。
【0026】
出発の多孔性の官能基化されたポリスチレンビーズは250〜500ミクロンの大きさを有し、架橋度が0.5〜5%の範囲にある架橋ポリスチレンから製造される。架橋の適当なレベルを選択しなければならない;これは、形状拘束を確保するように充分に高いが、この活性成分の吸収を可能にするように充分に低くなければならない。1〜2%の架橋度が好ましい。
【0027】
次に、この担持された触媒成分を好適な活性化剤により活性化することにより触媒系が製造される。
【0028】
この活性化剤はアルモキサンまたはアルミニウムアルキルから選択可能である。
【0029】
このアルミニウムアルキルは式AlRXのものであり、そして各Rが同一であるかあるいは異なり、そしてハライドまたは1〜12個の炭素原子を有するアルコキシあるいはアルキル基から選択され、そしてXが1〜3である場合に使用可能である。特に好適なアルミニウムアルキルはジアルキルアルミニウムクロリドであり、最も好ましいのはジエチルアルミニウムクロリド(Et2AlCl)である。
【0030】
重合工程時にこの触媒成分を活性化するためにアルモキサンが使用され、そして当業界で既知のいかなるアルモキサンも好適である。
【0031】
この好ましいアルモキサンは、オリゴマーの線状アルモキサンに対しては式
【0032】
【化4】

【0033】
およびオリゴマーの環状アルモキサンに対しては式
【0034】
【化5】

【0035】
(ここで、nは1−40、好ましくは10−20であり、mは3−40、好ましくは3−20であり、そしてRはC1−C8アルキル基、好ましくはメチルである)
により表されるオリゴマーの線状および/または環状のアルキルアルモキサンを含んでなる。メチルアルモキサン(MAO)が好ましくは使用される。
【0036】
このポリエチレンの中空ビーズは、出発のポリスチレンビーズと最終のポリエチレンビーズを表す図1に見られるように0.5〜2mmの直径を有する。このビーズは極めて狭い大きさの分布を有する。
【0037】
触媒活性は、また、フェニル基上の置換基R’およびR”の性状によっても支配される。
【実施例】
【0038】
商品供給者から購入した出発材料と試薬を標準の精製の後に使用した。
−トルエンとテトラヒドロフラン(THF)に対してはナトリウムとベンゾフェノンにより、
−メタノールに対してはナトリウムにより、そして
−ジクロロメタン(DCM)に対しては五酸化リンにより
溶媒を乾燥し、使用前に蒸留した。
標準のシュレンク法を用いるアルゴン下の真空ラインで、あるいはJacomexグローブボックス法中ですべての操作を行った。
このロータリーシェイカーはLabquakeシェイカーである。
NMRスペクトルをBruker DPX200により200MHz(1Hに対して)および50MHz(13Cに対して)で記録した。
赤外ATR(シリシウム(silicium))スペクトルをIR Centaurus顕微鏡により4000−400cm-1の範囲で記録した。
高分解能質量スペクトルをCRMPO、University of RennesにおいてVarian MAT311(電子イオン化法)により得た。
元素分析をCNRSLaboratory,Vernaison(France)により行った。
触媒の合成
例えばBritovsekら(G.J.P.Britovsek,M.Bruce,V.C.Gibson,B.S.Kimberley,P.J.Maddox,S.Mastroianni,S.J.McTavish,C.Redshaw,G.A.Solan,S.Stromberg,A.J.P.White,D.J.Williams,in J.Am.Chem.Soc.,1999,8728)に述べられているように、2,6−ジアセチルピリジンを出発物質とするビスイミンの合成を行った。この鉄錯体を形成するために、Small and Brookhart(L.Small and M.Brookhart,in Macromolecules,1999,2120)に述べられている手順を適用した。すなわち、塩化鉄(II)をTHF中のこのビスイミンに添加した。この反応物を還流において30分間攪拌した。この反応混合物を室温で冷却した。鉄錯体の沈澱が生じ、この混合物を濾過した。この沈澱を真空下で乾燥した。
【0039】
【化6】

【0040】
3mLの無水エタノール中の163mg(1ミリモル)の2,6−ジアセチルピリジンの還流された均一な溶液に406mg(3ミリモル)の2,4,6−トリメチルアニリンをアルゴン雰囲気下で添加した。数滴の氷酢酸の添加の後、この溶液を90℃で20時間還流した。
【0041】
室温まで冷却すると、生成物がエタノールから結晶化した。濾過後、この黄色固体を冷エタノールにより洗浄し、そして減圧下で乾燥して、0.164g(42%)のこのビスイミンを得た。
【0042】
【化7】

【0043】
45.77mg(0.23ミリモル)の塩化鉄(II)四水和物を減圧下120℃で5時間乾燥した。この塩化鉄(II)をTHF中のこのビスイミンに添加した。この反応物を還流において30分間攪拌した。この反応混合物を室温で冷却した。鉄錯体の沈澱が生じ、この混合物を濾過し、そして減圧下で乾燥して、0.104g(87%)の青色錯体1を得た。
【0044】
【化8】

【0045】
アルゴン下で3.6mLのジクロロメタン(DCM)中のRapp Polymereから購入した177mg(0.2ミリモル)のポリスチレンAM−NH2ビーズ(1.13ミリモル/g、250〜315μmの大きさ)に0.44mL(3.0ミリモル)のトリエチルアミンをゆっくりと添加し、続いて0.36mL(2.4ミリモル)の6−ブロモヘキサノイルクロリドを注意深く添加した。この反応混合物をロータリーシェイカーにより室温で2時間攪拌し、その後液を排出した。次に、このビーズをジメチルホルムアミドにより30分間2回、DCMにより10分間2回、メタノールにより10分間2回、ジメチルホルムアミドにより30分間2回、DCMにより10分間2回、メタノールにより30分間2回洗浄し、減圧下で乾燥して、0.2ミリモルの白色ビーズ2を得た。カイザー試験を行って、反応が完結したことを確認した。
【0046】
【化9】

【0047】
多孔性ビーズの含浸
次の反応を全部グローブボックス中で行った。0.233mg(0.0448ミリモル)の錯体(I)を溶解することにより、5mLのDCM中の鉄錯体(1)の8.9×10-3M溶液を製造した。この溶液をビーズ(2)に添加した。この混合物をロータリーシェイカーにより室温で2時間攪拌した。次に、これらを排液し、2mLのDCMにより急いで洗浄し、次に減圧下で乾燥した。鉄錯体(1)の同一溶液を再度作製し、このビーズに2回目の添加を行った。この混合物をロータリーシェイカーにより室温で2時間攪拌した。これらを排液し、2mLのDCMにより急いで洗浄し、次に減圧下で乾燥して、青色のビーズ(3)を得た。鉄の量を
Fe(ICPAES):630ppm(重量)
ビーズ(3)の全装填量:1.128x10-2ミリモルFe/gビーズ
と測定した。
【0048】
【化10】

【0049】
エチレンの重合
アルゴン下で55mLのトルエン(55ml)、続いて3.2mLのMAO(30重量%トルエン中)を200mLのステンレススチール反応器に添加した。この反応器をアルゴンにより5分間掃気した。反応器中に2分前に添加した2mLのトルエンの助けを得て8.4mgの乾燥したビーズ(3)(9.47×l0-8モルFe)を急いで注入した。この反応器をアルゴンにより5分間再度掃気した。温度を50℃まで上昇させ、反応器を20バールのエチレンの下に置き、そして反応混合物を3時間攪拌した。この反応混合物を室温まで戻し、そしてアルゴン下でこの溶液を取り出した時に、このビーズをエタノールにより洗浄し、そして減圧下で乾燥して、0.727gの多孔性の球形ポリエチレン粒子を得た。この活性は鉄1モル当り生産されるポリエチレン7.67トンと測定された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は出発のポリスチレンビーズと最終のポリエチレン中空ビーズを表す。
【図2】図2はポリエチレンの中空ビーズを表す。図2aはこのビーズの外部の像であり、そして図2bは内部の像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御された大きさおよび形態のポリエチレンの中空ビーズを製造するための担持された触媒成分を製造する方法であって、
a)多孔性の官能基化されたポリスチレンビーズII
【化1】

(ここで、Aは可撓性腕部であり、そして2〜18個の炭素原子を有する置換あるいは非置換のアルキルである)
を準備し;
b)一般式I
【化2】

(ここで、Rは同一であり、1〜20個の炭素原子を有するアルキルであり、そして
R’とR”は同一であるかあるいは異なり、1〜20個の炭素原子を有する置換あるいは非置換のアルキル、または非置換の、もしくは1〜20個の炭素原子の置換基を有する置換のアリールである)
の鉄をベースとする錯体を溶媒中に溶解し;
c)段階a)のビーズを段階b)の溶液により飽和させ;
d)前記溶媒を蒸発し;
e)前記担持された触媒成分の乾燥ビーズを取り出す
段階を含んでなる方法。
【請求項2】
前記Rが同一であり、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R’とR”が同一であり、置換あるいは非置換のフェニルである請求項1〜2のいずれか一つに記載の方法。
【請求項4】
前記フェニル上の置換基が同一であり、2および6位のイソプロピルである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記フェニル上の置換基が同一であり、2、4および6位のメチルである請求項3に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法により入手可能な担持された触媒成分。
【請求項7】
請求項6に記載の担持された触媒成分と活性化剤を含んでなる担持された触媒系。
【請求項8】
ポリエチレンの中空ビーズを製造するための方法であって、
a)前記担体が多孔性の官能基化されたポリスチレンビーズであり、そして前記触媒成分がこの担体上に含浸され、そして一般式I
【化3】

の鉄をベースとする錯体である担持された触媒成分を準備し;
b)前記担持された触媒成分を好適な活性化剤により活性化し;
c)エチレンモノマーを供給し;
d)重合条件下に維持し;
e)制御された形状および大きさのポリエチレンの中空ビーズを取り出す
段階を含んでなる方法。
【請求項9】
請求項8の方法により入手可能な制御された形態および大きさのポリエチレンの中空ビーズ。


【図1】
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【公表番号】特表2006−522849(P2006−522849A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505536(P2006−505536)
【出願日】平成16年4月7日(2004.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/050484
【国際公開番号】WO2004/089542
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【出願人】(505252333)サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク (24)
【Fターム(参考)】