説明

ポリエチレンオキシドセグメントを有するバインダー樹脂を使用する印刷機上で現像可能なIR感受性印刷版

【課題】印刷機上で現像が可能な印刷版の製造に適した重合性コーティング組成物の提供。
【解決手段】本発明のコーティング組成物は、(i)重合性化合物と、(ii)ポリエチレンオキシドセグメントを含むポリマーバインダーとを含み、このポリマーバインダーは、主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド側鎖を含む少なくとも1つのグラフトコポリマーと、少なくとも1つのポリエチレンオキシドブロックおよび少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックを有するブロックコポリマーと、これらの組合せとからなる群から選択される。また本発明は、基体および重合性コーティング組成物を含む画像形成性要素も対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線(UV)、可視光線、および赤外線により露光することができる印刷機上(on-press)で現像可能なネガ型印刷版に関する。詳細には、本発明は、ポリエチレンオキシドセグメントを含有するポリマーバインダーを含む印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
輻射線感受性組成物は、高性能印刷版前駆体の製造に日常的に使用されている。主として、輻射線感受性組成物の性質、ひいては対応する印刷版前駆体の性質も改善する2つの方法がある。第1の方法は、組成物中の輻射線感受性成分(しばしばネガ型ジアゾ樹脂または光開始剤である)の性質の改善に関係する。もう1つの方法は、新規なポリマー化合物(「バインダー」)を使用することによる輻射線感受性層の物理的性質の改善に関係する。
【0003】
印刷版前駆体の分野における最新の発展は、レーザーまたはレーザーダイオードを用いて画像様露光することができる輻射線感受性組成物に関係する。このタイプの露光では、レーザーをコンピュータにより制御できるので、中間情報キャリアとしてのフィルムを必要としない。
【0004】
市販のイメージセッターで使用される高性能レーザーまたはレーザーダイオードは、800〜850nmの間、および1060〜1120nmの間の波長範囲内の光をそれぞれ放出する。したがって、そのようなイメージセッターを用いて画像様露光される印刷版前駆体、またはその内部に含まれる開始剤系は、近赤外範囲で感受性であるものでなければならない。またそのような印刷版前駆体は、基本的に昼光条件下で取り扱うことができ、その生産および処理を著しく促進する。
【0005】
印刷版を製造のために輻射線感受性組成物を使用する2つの可能な方法がある。ネガ型印刷版の場合、画像様露光した後に露光領域が硬化するような輻射線感受性組成物を使用する。現像工程では、非露光領域のみが基体から除去される。ポジ型印刷版の場合、非露光領域よりも露光領域のほうが所与の現像剤でより速く溶解するような輻射線感受性組成物を使用する。このプロセスは、光可溶化と呼ばれる。
【0006】
ネガ型の版は、例えばEP0672544、EP0672954、ならびに米国特許第5,491,046号およびEP0819985に記載されるように、画像様露光した後、一般に予備加熱工程を必要とする。このような版は、画像層に部分的な架橋しか引き起こさない非常に狭い温度範囲内での予備加熱工程を必要とする。印刷可能なコピーの数および印刷室の化学薬品への耐性に関する現行の基準を満たすため、ポストベーク工程と呼ばれる追加の加熱工程を実施し、その工程中に画像層がさらに架橋される。
【0007】
米国特許第4,997,745号は、300〜900nmの間を吸収する染料およびトリハロメチル-s-トリアジン化合物を含む感光性組成物について述べている。
【0008】
米国特許第5,496,903号およびDE19648313には、赤外(IR)範囲内で吸収する染料の他にボレート共開始剤も含む感光性組成物が記載されているが、ハロゲン化s-トリアジンも別の共開始剤として記載されている。
【0009】
開始剤系を有するその他の光重合性組成物については、米国特許第5,756,258号、米国特許第5,545,676号、米国特許第5,914,215号、JP11-038633、JP09-034110、米国特許第5,763,134号、およびEP0522175に記載されている。
【0010】
米国特許第6,245,486号は、印刷機上で現像が可能な版を含む輻射線感受性印刷版について開示している。しかしこの特許は、UV対応のネガ型の印刷機上で現像可能なフリーラジカル重合性層上に、IRアブレーションが可能なマスク層を有する組成物を必要とする。
【0011】
米国特許第6,245,481号は、IR露光の後にUVフラッド照射を必要とする、IRアブレーションが可能なUV光重合性の2層組成物を開示している。
【0012】
米国特許第5,599,650号は、フリーラジカル重合に基づいて、UV対応のネガ型の印刷機上で現像可能な印刷版について開示している。この特許では、現像性を高めるため、オーバーコート層内にフリーラジカルクエンチャーポリマー、特にニトロキシド基を含有するものを必要とする。
【0013】
米国特許第6,071,675号は、米国特許第5,599,650号に類似した印刷版を開示しているが、印刷機上現像性を改善しまたは粘着性を低下させるために、画像形成層に分散固体粒子を添加することをさらに必要とする。
【0014】
米国特許第6,309,792号およびWO00/48836は、ポリマーバインダーと、フリーラジカルにより重合可能な系と、特定の開始剤系とを含む、IR感受性組成物について述べている。WO00/48836の組成物は、組成物を十分硬化するために、露光後に予備加熱工程を必要とする。この印刷版前駆体は、水性現像液で現像しなければならない。
【0015】
米国出願第09/832,989号(代理人整理番号KPG 1109)は、米国特許第6,309,792号およびWO00/48836に記載されているものの他にロイコ染料を含有するIR感受性組成物について述べている。米国出願第09/832,989号は、IR露光後に予備加熱工程を必要とし、処理を行うために水性現像(aqueous development)工程を必要とする。
【0016】
米国特許第5,204,222号は、ポリウレタン主鎖を含むポリマーバインダーと併せて重合性成分を含んだ組成物について教示する。このポリマーバインダーの側鎖はポリエチレンオキシド鎖を含まない。
【0017】
米国特許第5,800,965号は、重合性成分としてポリエチレングリコールのモノマーを含む、フレキソ版に適切な組成物について教示する。
【0018】
フレキソ版も対象とする米国特許第6,037,102号は、ポリエチレンオキシド(PEO)主鎖ポリマー上にポリビニルアルコールグラフトを有するグラフトコポリマーを含んだ光重合性組成物について教示する。
【0019】
EP1,117,005は、1〜10個のエチレンオキシド単位を有するポリエチレンオキシド鎖を含有した光重合性化合物を開示している。この発明は、1個のエチレンオキシド単位を有するポリマーの使用によって例示される。エチレンオキシドが10個を超える場合、硬化した生成物の解像度と耐水性の両方が低下する。本発明による十分に長いPEOセグメントを有するバインダー樹脂については開示されていない。
【0020】
同時係属の米国特許出願第09/826,300号は、ポリエチレンオキシド側鎖を含むグラフトコポリマーについて開示しているが、重合性成分または開始剤を含む組成物については教示していない。側鎖はさらに、ポリエチレンオキシドセグメントと主鎖との間に疎水性セグメントを、またポリエチレンオキシド側鎖の末端に疎水性セグメントを含んでよい。
【0021】
同時係属の米国特許出願第10/066,874号(代理人整理番号KPG 1164)は、ポリアルキレンエーテルポリマーおよびコポリマー、すなわちポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドのブロックコポリマーを含むものについて開示している。しかし、この同時係属出願に開示されているポリアルキレンエーテルポリマーおよびコポリマーは、非露光領域の現像性と露光した画像領域の耐性に関して十分な相違をもたらさない。
上記特許または特許出願では、本発明によるPEOセグメントを有するバンダー樹脂を含有した重合性組成物について、まったく開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】EP0672544
【特許文献2】EP0672954
【特許文献3】米国特許第5,491,046号
【特許文献4】EP0819985
【特許文献5】米国特許第4,997,745号
【特許文献6】米国特許第5,496,903号
【特許文献7】DE19648313
【特許文献8】米国特許第5,756,258号
【特許文献9】米国特許第5,545,676号
【特許文献10】米国特許第5,914,215号
【特許文献11】JP11-038633
【特許文献12】JP09-034110
【特許文献13】米国特許第5,763,134号
【特許文献14】EP0522175
【特許文献15】米国特許第6,245,486号
【特許文献16】米国特許第6,245,481号
【特許文献17】米国特許第5,599,650号
【特許文献18】米国特許第6,071,675号
【特許文献19】米国特許第6,309,792号
【特許文献20】WO00/48836
【特許文献21】米国出願第09/832,989号
【特許文献22】米国特許第5,204,222号
【特許文献23】米国特許第5,800,965号
【特許文献24】米国特許第6,037,102号
【特許文献25】EP1,117,005
【特許文献26】米国特許出願第09/826,300号
【特許文献27】米国特許出願第10/066,874号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、本発明は、予備加熱工程または現像工程を必要としないという、印刷版および印刷版を製造するプロセスに関する技術分野での要求を満たすものである。十分な研究の結果、ポリエチレンオキシド(PEO)セグメントを有するある特定のポリマーバインダーを含有する重合性成分は、湿し水および印刷用インキによる印刷機上現像性も含めて、印刷機上現像性を含む水性現像液中で容易に現像可能であることがわかった。さらに、紫外、可視または赤外スペクトル領域内の電磁輻射線で画像様露光した後の露光領域は、予備現像加熱工程を必要とすることなく、現像性が阻害されて耐久性あるインキ受容画像領域としての役割を果たす。したがってPEOセグメントを有するある特定のポリマーバインダーは、驚くべきことに、露光した画像領域の耐久性を高めると共に非露光領域の現像性を増大させることによって、露光領域と非露光領域との差別化を高めることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって本発明の1つの目的は、重合性化合物と、ポリエチレンオキシドセグメントを含んだポリマーバインダーとを含む重合性組成物を提供することである。
【0025】
本発明の別の目的は、(a)基体と(b)この基体上に被覆された重合性組成物とを含み、この組成物が(i)重合性化合物と(ii)ポリエチレンオキシドセグメントを含むポリマーバインダーとを含む画像形成性要素であって、ポリマーバインダーが、主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド側鎖を含む少なくとも1つのグラフトコポリマーと、少なくとも1つのポリエチレンオキシドブロックおよび少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックを有するブロックコポリマーと、これらの組合せとからなる群から選択される画像形成性要素を提供することである。画像形成性要素は、紫外線、可視光線および赤外線のうちの1つで露光できることが好ましい。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、印刷機上で現像可能なネガ型印刷版を作成するための方法であって、(a)基体を準備する工程と、(b)この基体の表面に、重合性化合物とポリエチレンオキシドセグメントを含むポリマーバインダーとを含む組成物を含んで成るネガ型の層を塗布する工程と、(c)紫外線、可視光線および赤外線のうちの1つで画像形成する工程と、(d)印刷機上で現像する工程とを含み、別個の現像工程を含まない方法を提供することである。
【0027】
本発明によれば、UV露光フレーム、赤外線レーザープレートセッター、および可視CTP(Computer-to-plate;ダイレクト刷版)プレートセッターにより画像形成することができる、印刷機上で現像可能なまたは水現像可能な平版印刷版の製造が可能になる。
また本発明は、印刷機上で現像可能であり、それによって別個の現像工程を必要としない、レーザードレス可能(laser addressable)なデジタル画像印刷版前駆体も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例7のコーティングの、走査型電子顕微鏡(「SEM」)画像を示す図である。
【図2】本発明の実施例9のコーティングの、走査型電子顕微鏡(「SEM」)画像を示す図である。
【図3】本発明の実施例12のコーティングの、走査型電子顕微鏡(「SEM」)画像を示す図である。
【図4】本発明の実施例18のコーティングの、走査型電子顕微鏡(「SEM」)画像を示す図である。
【図5】本発明の実施例19のコーティングの、走査型電子顕微鏡(「SEM」)画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の組成物中に存在する重合性化合物は、付加重合可能なエチレン性不飽和基、架橋可能なエチレン性不飽和基、開環重合性基、アジド基、アリールジアゾニウム塩基、アリールジアゾスルホネート基、およびこれらの組合せから選択された重合性基を含有することが好ましい。
【0030】
付加重合可能なエチレン性不飽和基は、フリーラジカル重合、カチオン重合、またはこれらの組合せによって重合することができる。フリーラジカル付加重合可能なエチレン性不飽和基は、メタクリレート基、アクリレート基、およびこれらの組合せからなる群から選択することが好ましい。カチオン付加重合可能なエチレン性不飽和基は、ビニルエーテルと、スチレンおよびアルコキシスチレン誘導体などのビニル芳香族化合物と、これらの組合せとからなる群から選択することが好ましい。
【0031】
架橋可能なエチレン性不飽和基は、ジメチルマレイミド基、カルコン基、およびシンナメート基からなる群から選択されることが好ましい。
開環重合性基は、エポキシド、オキセタン、およびこれらの組合せからなる群から選択されることが好ましい。
【0032】
本発明の重合性化合物は、輻射線への露光後に、組成物が水性現像液に対して不溶性になるのに十分な量で存在する。重合性化合物とポリマーバインダーとの質量比は、約5:95から約95:5の範囲であり、好ましくは約10:90から約90:10であり、より好ましくは約20:80から約80:20であり、最も好ましくは約30:70から約70:30である。
【0033】
重合性組成物は、重合可能なエチレン性不飽和化合物と開始用フリーラジカルを発生させるための光開始剤系とを含んだフリーラジカル付加重合性組成物を含むことが好ましい。重合性組成物はさらに、少なくとも2個のチオール基を含む共重合性化合物を含有することができる。約300〜1400nmのスペクトル範囲に対応する紫外線、可視光線、および/または赤外線のスペクトル範囲内の電磁輻射線に対して活性な光開始系を使用することができる。そのような光開始剤系としては、例えば米国特許第4,997,745号に記載されているような、トリクロロメチルトリアジン単独または光増感剤と共にトリクロロメチルトリアジン;米国特許第5,546,258号に記載されているようなジアリールヨードニウム塩および光増感剤;例えば米国特許第5,599,650号に記載されているような、トリクロロメチルトリアジンと共に可視光活性化のための分光増感剤;米国特許第5,942,372号に記載されているような、アニリノ-N,N-2酢酸などのポリカルボン酸共開始剤と、ジアリールヨードニウム塩やチタノセン、ハロアルキルトリアジン、ヘキサアリールビスイミジゾール、ホウ酸塩、およびアルコキシまたはアシルオキシ基により置換された複素環式窒素原子を含有する光酸化剤などの2次共開始剤と共に、紫外線および可視光活性化のための3-ケトクマリン;米国特許第5,368,990号に記載されているような、シアニン染料、ジアリールヨードニウム塩、および芳香環に直接結合しているN、OまたはS基にメチレン基を介して結合されたカルボン酸基を有する共開始剤;米国特許第5,496,903号に記載されているような、トリクロロメチルトリアジンおよび有機ホウ素塩と共に、赤外線活性のためのシアニン染料;米国特許第6,309,792号に記載されているような、赤外線吸収剤、トリクロロメチルトリアジンおよびアジニウム化合物などの開始用フリーラジカルを生成することが可能な化合物、芳香環に直接結合しているN、O、S基にメチレン基を介して結合されたカルボン酸基を有するポリカルボン酸共開始剤が挙げられる。
【0034】
好ましい光開始剤系としては、紫外線、可視光線または赤外線吸収剤と、開始用フリーラジカルを生成することができる電子受容体と、電子および/または水素原子を供与することができかつ/または開始用フリーラジカルを形成することができる共開始剤が挙げられる。輻射線吸収剤の量は、輻射線に露光後に、組成物が水性現像液に対して不溶性になるのに要する量である。好ましくは、輻射線吸収剤の濃度は、約0.05〜3モル・l-1・cm-1、好ましくは約0.1〜1.5モル・l-1・cm-1、より好ましくは0.3〜1.0モル・l-1・cm-1の範囲内のモル吸光係数が得られるような範囲内であることが好ましい。
【0035】
光/熱活性化に好ましいIR吸収剤は、スクアリリウム染料、クロコネート染料、トリアリールアミン染料、チアゾリウム染料、インドリウム染料、オキサキソリウム染料、シアニンおよびメロシアニン染料、ポリアニリン染料、ポリピロール染料、ポリチオフェン染料、カルコゲノピリロアリーリデンおよびビス(カルコゲノピリロ)ポリメチン染料、オキシインドリジン染料、ピリリウム染料、およびフタロシアニン顔料である。他の有用な種類としては、アズレニウムおよびキサンテン染料、ならびにカーボンブラック、金属炭化物、ホウ化物、窒化物、炭窒化物、およびブロンズ構造の酸化物が挙げられる。シアニン染料が特に好ましい。
【0036】
別の実施形態で、重合性組成物は、1種のアリールジアゾニウム塩または複数種のアリールジアゾニウム塩と、縮合可能な化合物との縮合物を含むことが好ましい。縮合可能な化合物は、アルデヒド類、ビス-メトキシメチルジフェニルエーテル、およびこれらの混合物からなる群から選択することが好ましい。アリールジアゾニウム塩の縮合物を含む重合性組成物は、共反応性バインダーも含むことが好ましい。
【0037】
アリールジアゾニウム縮合物重合性組成物は、さらに、上述のような、重合可能なエチレン性不飽和化合物と開始用フリーラジカルを発生させるための光開始剤系とを含むフリーラジカル付加重合性組成物を含んでもよい。そのような組成物は、ジアゾフォトポリマーハイブリッド組成物として知られている。
【0038】
本発明の重合性組成物は、重合性化合物と、ポリエチレンオキシドセグメントを含むポリマーバインダーとを含み、このポリマーバインダーは、主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド(PEO)側鎖を有するグラフトコポリマーと、PEOを非PEOブロックと共に有するブロックコポリマーとから選択されるものである。
【0039】
好ましくは、グラフトおよびブロックコポリマーは、親水性と疎水性の両方のセグメントを含むことを表す両親媒性である。そのような両親媒性コポリマーも、表面活性になる傾向がある。PEOセグメントは親水性である。いかなる理論にも結びつけるわけではないが、疎水性セグメントと親水性セグメントとの組合せは、露光領域と非露光領域との差別化を高めるのに重要と考えられる。
【0040】
本発明で使用されるポリマーバンダーのガラス転移温度Tgは約35〜約220℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは約45〜約140℃、最も好ましくは約50〜約130℃である。上記範囲内のTg値を有するポリマーバインダーは固体であり、好ましくは非エラストマーである。ポリマーバインダーは架橋されていてもよいが、架橋されていないものが好ましい。グラフトコポリマーの主鎖ポリマーとブロックコポリマーの非PEOブロックのガラス転移温度Tgは、好ましくは40〜約220℃の範囲であり、より好ましくは約50〜約140℃、最も好ましくは約60〜約130℃である。
【0041】
グラフトおよびブロックコポリマーは、約2,000から約2,000,000の数平均分子量を有することが好ましい。PEOセグメントの数平均分子量(Mn)は、好ましくは約500から約10,000の範囲であり、より好ましくは約600から約8,000であり、最も好ましくは約750から約4,000である。Mn値が約500未満の場合、水性現像性を適切に促進させるのには不十分な親水性セグメントが存在する。しかしながら画像領域のインキ受容性は、10,000に近付くようなポリエチレンオキシドセグメントのMn値の増加と共に、低下する傾向がある。
【0042】
グラフトコポリマー中のPEOセグメントの量は、約0.5〜約60質量%の範囲であり、好ましくは約2〜約50質量%、より好ましくは約5〜約40質量%、最も好ましくは約5〜約20質量%である。ブロックコポリマー中のPEOセグメントの量は、約5〜約60質量%の範囲であり、好ましくは約10〜約50質量%、より好ましくは約10〜約30質量%である。グラフトおよびブロックコポリマー中のPEOセグメントが低レベルであると、現像性は低下する傾向があるが、高レベルであると、画像領域のインキ受容性が低下する傾向がある。
【0043】
ポリマーバインダーは、光重合性組成物を水性現像液に可溶性または不溶性にするのに十分な量で存在する。ポリマーバインダーの量は、好ましくは組成物の約10〜約90質量%の範囲であり、より好ましくは約30〜約70質量%である。水性現像性は、ポリマーバインダー中のPEOセグメントのレベルが増加すると共に増大する。しかしPEOレベルが過度に高いと、画像領域のインキ受容性は低下する傾向がある。
【0044】
グラフトコポリマーは、疎水性ポリマー骨格と、下記の式
-Q-W-Y
で表される複数のペンダント基とを有することが好ましく、
上記式中Qは2官能性接続基であり、Wは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択されるが、この場合、Wが親水性セグメントである場合にはYは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択されることを条件とし、さらにWが疎水性である場合にはYは親水性セグメントであることを条件とする。
【0045】
本発明の文脈において「グラフト」ポリマーまたはコポリマーという用語は、分子量が少なくとも200である基を側鎖として有するポリマーを指す。そのようなグラフトコポリマーは、例えばアニオン、カチオン、非イオン、またはフリーラジカルグラフト化法によって得ることができ、あるいは、そのような基を含有するモノマーを重合または共重合することによって得ることができる。本発明の文脈において「ポリマー」という用語は、オリゴマーを含めた高分子量および低分子量のポリマーを指し、ホモポリマーおよびコポリマーが含まれる。「コポリマー」という用語は、2種以上の異なるモノマーから誘導されたポリマーを指す。本発明の文脈において「骨格(backbone)」という用語は、複数のペンダント基が結合されたポリマー中の原子の鎖を指す。そのような骨格の例は、オレフィン性不飽和モノマーの重合から得られた「全炭素」骨格である。
【0046】
グラフトコポリマーは、各単位が下記の式で表される反復単位を好ましくは含む:
【0047】
【化1】

【0048】
ここで、R1およびR2のそれぞれは独立にH、アルキル、アリール、アラルキル、アルカリール、COOR5、R6CO、ハロゲン、およびシアノからなる群から選択され、
Qは、
【0049】
【化2】

【0050】
(ここで、R3はHおよびアルキルからなる群から選択され、R4はH、アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、およびこれらの組合せからなる群から選択される)、
からなる群から選択され、
Wは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、
Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、
ZはH、アルキル、ハロゲン、シアノ、アシルオキシ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、ヒドロキシアルキルオキシカルボニル、アシル、アミノカルボニル、アリール、および置換アリールからなる群から選択され、
ただし、Wが親水性セグメントである場合には、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択されることを条件とし、さらにWが疎水性である場合にはYは親水性セグメントであることを条件とする。
【0051】
ある実施形態では、本発明のグラフトコポリマーは、大部分が疎水性である主鎖セグメントと大部分が親水性である分枝セグメントとを含む。
【0052】
第2の実施形態で、グラフトコポリマーは、大部分が疎水性である主鎖セグメントと、疎水性および親水性のセグメントの両方を含む分枝セグメントとを含む。
【0053】
本発明のグラフトコポリマー中のWの親水性セグメントは、好ましくは下記の式で表されるセグメントである。
【0054】
【化3】

【0055】
ここで、R7、R8、R9、およびR10のそれぞれは水素であり、R3はHまたはアルキルであることができ、nは約12〜約250である。W中の疎水性セグメントは、-R12-、-O-R12-O-、-R3N-R12-NR3-、-OOC-R12-O-、または-OOC-R12-O-であることができ、各R12は独立に、炭素原子数が6〜120の線状、分枝状または環状アルキレン、炭素原子数が6〜120のハロアルキレン、炭素原子数が6〜120のアリーレン、炭素原子数が6〜120のアルカリーレン、炭素原子数が6〜120のアラルキレンであることができ、R3はHまたはアルキルであることができる。
【0056】
Y中の親水性セグメントは、H、R15、OH、OR16、COOH、COOR16、O2CR16、下記の式により表されるセグメントであることができる。
【0057】
【化4】

【0058】
ここで、R7、R8、R9、およびR10のそれぞれは水素であり、R3はHまたはアルキルであることができ、R13、R14、R15、およびR16のそれぞれは独立にHまたは炭素原子数が1〜5のアルキルであることができ、nは約12〜約250である。Y中の疎水性セグメントは、炭素原子数が6〜120の線状、分枝状または環状アルキル、炭素原子数が6〜120のハロアルキル、炭素原子数が6〜120のアリール、炭素原子数が6〜120のアルカリール、炭素原子数が6〜120のアラルキル、OR17、COOR17、またはO2CR17であることができ、ここでR17は炭素原子数が6〜20のアルキルである。
【0059】
好ましい実施形態では、グラフトコポリマーは、下記の式により表される反復単位を含む。
【0060】
【化5】

【0061】
ここで、R1およびR2のそれぞれは独立にH、アルキル、アリール、アラルキル、アルカリール、COOR5、R6CO、ハロゲン、またはシアノであることができ、
Qは、
【0062】
【化6】

【0063】
(ここで、R3はHまたはアルキルであることができ、R4は独立に、H、アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、またはこれらの組合せであることができる)
のうちの1つであることができ、
Wは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、
Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、
Zは、H、アルキル、ハロゲン、シアノ、アシルオキシ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、ヒドロキシアルキルオキシカルボニル、アシル、アミノカルボニル、アリール、および置換アリールからなる群から選択され、上記置換アリール中の置換基は、アルキル、ハロゲン、シアノ、アルコキシ、またはアルコキシカルボニルであることができ、アルキル基は、好ましくは炭素原子数が1〜22のアルキルであるが、
ただし、Wが親水性セグメントである場合には、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択されることを条件とし、さらにWが疎水性である場合にはYは親水性セグメントであることを条件とする。
【0064】
セグメントWは親水性セグメントまたは疎水性セグメントであることができ、ここで親水性セグメントは下記の式により表されるセグメントであることができる。
【0065】
【化7】

【0066】
上記式中、R7、R8、R9、およびR10のそれぞれは水素であり、R3はHおよびアルキルであることができ、nは約12〜約250である。疎水性セグメントは、-R12-、-O-R12-O-、-R3N-R12-NR3-、-OOC-R12-O-、または-OOC-R12-O-であることができ、各R12は独立に、炭素原子数が6〜120の線状、分枝状または環状アルキレン、炭素原子数が6〜120のハロアルキレン、炭素原子数が6〜120のアリーレン、炭素原子数が6〜120のアルカリーレン、または炭素原子数が6〜120のアラルキレンであることができ、R3はHまたはアルキルであることができる。
【0067】
Yは親水性セグメントまたは疎水性セグメントであることができ、ここで親水性セグメントはH、R15、OH、OR16、COOH、COOR16、O2CR16、下記の式により表されるセグメントであることができる。
【0068】
【化8】

【0069】
ここで、R7、R8、R9、およびR10のそれぞれは水素であり、R3はHまたはアルキルであることができ、R13、R14、R15、およびR16のそれぞれは独立にHまたは炭素原子数が1〜5のアルキルであることができ、nは約12〜約250である。Y中の疎水性セグメントは、炭素原子数が6〜120の線状、分枝状または環状アルキル、炭素原子数が6〜120のハロアルキル、炭素原子数が6〜120のアリール、炭素原子数が6〜120のアルカリール、炭素原子数が6〜120のアラルキル、OR17、COOR17、またはO2CR17であることができ、ここでR17は炭素原子数が6〜20のアルキルであることができる。
【0070】
別の好ましい実施形態では、セグメントW-Yは、下記の式
-(OCH2CH2)n-OCH3
により表すことができ、ただしnは約12〜約75である。この好ましい実施形態では、グラフトコポリマーは、例えば下記の式により表される反復単位を有する。
【0071】
【化9】

【0072】
ここで、nは約12〜約75である。より好ましくは、nは約45の平均値を有する。
【0073】
別の好ましい実施形態において、グラフトコポリマーは、下記の式により表される反復単位を含む。
【0074】
【化10】

【0075】
ここで、nは約12〜約75であり、より好ましくは、nは約45の平均値を有する。
【0076】
1つの好ましい実施形態では、本発明のグラフトコポリマーの主鎖ポリマーは、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、およびこれらの組合せからなる群から選択されたモノマー単位を含む。このモノマー単位は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸アリル、またはこれらの組合せであることがより好ましい。
【0077】
疎水性および/または親水性セグメントを有するグラフトコポリマーは、
(A)(i)下記の式
H-W-Y
(ここで、Wは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、ただし、Wが親水性セグメントである場合にはYは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、Wが疎水性である場合にはYは親水性セグメントである)
によって表される化合物と、
(ii)下記の式:
【0078】
【化11】

【0079】
(ここで、各R1は独立に、H、アルキル、アリール、アラルキル、アルカリール、COOR5、R6CO、ハロゲン、およびシアノからなる群から選択され、R4は、H、アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、およびこれらの組合せから選択され、Xは、グリシジルオキシ基、あるいはハロゲン、アルコキシ、またはアリールオキシからなる群から選択された脱離基である)により表される化合物からなる群から選択された重合性モノマーとを接触させることにより、重合性グラフトモノマーを生成する工程と、
(B)重合性グラフトモノマーおよび1つまたは複数のコモノマーを、グラフトコポリマーを生成するのに十分な温度および時間で共重合させる工程とを含むプロセスによって調製することができる。必要なら、接触工程を触媒の存在下で行う。
【0080】
コモノマーは、下記の化合物、すなわちスチレン、置換スチレン、α-メチルスチレン、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ハロゲン化ビニル、ビニルエステル、ビニルエーテル、およびα-オレフィンの1つまたは複数であることが好ましい。
【0081】
好ましい重合性モノマーは、H-W-Yと反応することができる任意のモノマーでよく、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、塩化アクリロイル、および塩化メタクリロイルなどの重合性モノマーが挙げられる。この反応は、典型的な場合、塩基、スズ化合物、またはこれらの混合物であることが好ましい触媒の存在下で行われる。酸触媒が認められる反応では、ルイス酸やプロトン酸などの酸触媒を使用することができる。
【0082】
式H-W-Yにより表される化合物は、好ましくは下記の式により表される化合物の1つまたは複数であることができる。
【0083】
【化12】

【0084】
ここで、R7、R8、R9、およびR10のそれぞれは水素であり、R3はHまたはアルキルであることができ、Yはアルキル、アシルオキシ、アルコキシ、またはカルボキシレートであることができ、nは約12〜約250である。
【0085】
グラフトコポリマーは、典型的な場合、グラフトモノマーとコモノマーのフリーラジカル共重合によって、好ましくはコモノマーとグラフトモノマーとの質量比を約99:1〜約45:55としてフリーラジカル共重合によって得られる。
【0086】
あるいはグラフトコポリマーは、まず本発明による重合性モノマーと1つまたは複数のコモノマーを、グラフト化可能なコポリマーを生成するのに十分な温度および時間で最初に共重合し、その後、基−W-Yをグラフト化可能なコポリマーにグラフト化することによって、調製することができる。そのようなグラフト化は、上記グラフト化可能なコポリマーと下記の式
H-W-Y
(ここで、Wは親水性セグメントまたは疎水性セグメントであることができ、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントであることができ、ただし、Wが親水性セグメントである場合にはYは親水性セグメントまたは疎水性セグメントであり、さらにWが疎水性である場合にはYは親水性セグメントである)
によって表される化合物とを触媒の存在下で接触させることによって実現することができる。
【0087】
本発明のグラフトコポリマーは、ヒドロキシ官能性またはアミン官能性のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルと、酸塩化物基、イソシアネート基および酸無水物基をなどの共反応性基を有するポリマーとを反応させることによって調製することができる。側鎖はさらに、PEOセグメントと主鎖との間に疎水性セグメントを含むことができ、PEO側鎖の末端に疎水性セグメントを含むことができる。本発明のグラフトコポリマーを調製するその他の方法としては、参照により本明細書に援用する米国特許出願第09/826,300号に記載されている方法が挙げられる。
【0088】
グラフトコポリマーの主鎖ポリマーは、付加ポリマーまたは縮合ポリマーであることができる。付加ポリマーは、アクリレートエステルおよびメタクリレートエステル、アクリル酸およびメタクリル酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル、スチレン、ビニルフェノール、およびこれらの組合せから調製することが好ましい。付加ポリマーは、スチレン、メチルメタクリレート、アリルアクリレートおよびメタクリレート、アクリル酸およびメタクリル酸、およびこれらの組合せから調製することがより好ましい。縮合ポリマーは、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリアミド、並びにフェノール/ホルムアルデヒドおよびピロガロール/アセトンポリマーなどのフェノールポリマーであることが好ましい。
【0089】
ポリマーバインダーは、それぞれが主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド側鎖を含んでいるグラフトコポリマーの混合物を含むこともできる。各グラフトコポリマーの主鎖ポリマーは、独立に、付加ポリマーおよび縮合ポリマーから選択される。好ましい付加ポリマーは、アリルアクリレートおよびメタクリレートなどのアクリレートエステルおよびメタクリレートエステル、アクリル酸およびメタクリル酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル、スチレン、ビニルフェノール、およびこれらの組合せからなる群から独立に選択されたモノマーのホモポリマーおよびコポリマーである。好ましい縮合ポリマーは、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリアミド、並びにフェノール/ホルムアルデヒドおよびピロガロール/アセトン縮合ポリマーなどのフェノールポリマーから独立に選択される。
【0090】
本発明のブロックコポリマーは、アニオン、カチオン、およびフリーラジカル重合などの従来の方法により製造することができる。原子移動ラジカル重合(ATRP)および可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合は、特に都合のよい方法である。PEOブロックコポリマーは、文献:M.Ranger他の「From well-defined diblock copolymers prepared by a versatile atom transfer radical polymerization method to supramolecular assemblies」、Journal of Polymer Science、Part A: Polymer Chemistry、Vol.39(2001)、第3861〜74頁に記載されるATRP法によって、都合よく調製される。
【0091】
ブロックコポリマーの少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックは、付加ポリマーまたは縮合ポリマーであることができる。付加ポリマーは、アリルアクリレートおよびメタクリレートなどのアクリレートエステルおよびメタクリレートエステル、アクリル酸およびメタクリル酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル、スチレン、およびビニルフェノールから選択されたモノマーのホモポリマーまたはコポリマーであることが好ましい。好ましい縮合ポリマーは、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリアミド、およびポリ尿素である。
【0092】
本発明の1つの好ましい実施形態では、ブロックコポリマーの少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックは、ポリアルキレンオキシドセグメントを含まない。別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックは、メタクリル酸メチル、アリルアクリレートおよびメタクリレート、アクリル酸およびメタクリル酸、スチレン、ビニルフェノール、およびこれらの組合せからなる群から選択されたモノマーのホモポリマーまたはコポリマーを含む。
【0093】
ポリマーバインダーは、上述のように、それぞれが少なくとも1つのPEOブロックおよび少なくとも1つの非PEOブロックを含むブロックコポリマーの混合物を含む。さらに、ポリマーバインダーは、上述のように、グラフトコポリマーとブロックコポリマーの混合物を含むことができる。
【0094】
本発明の別の実施形態は、重合性組成物は離散粒子を含む。粒子は、モノマー単位の様々な可能性ある組合せを含有するコポリマーの混合物を含むことができる。離散粒子は、重合性組成物中に懸濁したポリマーバインダーの粒子であることが好ましい。特に好ましい実施形態では、ポリマーバインダーは、少なくとも1つのグラフトコポリマーを含む。懸濁液中の粒子の直径は、約60nmから約300nmの間の範囲であることができる。そのような離散粒子の存在によって、非露光領域の現像性が高まる傾向がある。
【0095】
画像形成性要素の基体は、典型的な場合、アルミニウムシートである。しかし、当業者に一般的に知られているその他の材料も使用することができる。適切な基体としては、アルミニウムシートなどの金属;紙;ポリエチレンなどのα-オレフィンポリマーで片面または両面が被覆された紙;酢酸セルロースフィルムやポリビニルアセタールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ニトロセルロースフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルムなどのフィルム;ポリエチレンフィルムで被覆されたポリエステル、ポリプロピレンまたはポリスチレンフィルムなどの複合フィルム;金属化紙または金属化フィルム;金属/紙積層体などの平版印刷版を製造するのに従来から使用されている任意のシート材料が挙げられる。
【0096】
プラスチックフィルムの表面は、基体と有機コーティングとの間の接着が改善されるように当該技術分野で知られている表面処理法を使用して処理することがきる。
【0097】
好ましい基体はアルミニウムシートである。アルミニウムシートは、物理的粗面化、電気化学的粗面化、化学的粗面化、陽極酸化処理、およびシリケートシーリングなどを含めた当該技術分野で知られている金属仕上げ法で処理することができる。表面を粗面化する場合、平均粗さ(Ra)は好ましくは0.1〜0.8μmの範囲内であり、より好ましくは約0.1〜約0.4μmの範囲内である。アルミニウムシートの好ましい厚さは、約0.005インチ〜約0.020インチの範囲内である。好ましい基体は、平版印刷版に一般的に使用されるような、電気化学的に研磨され陽極酸化されたアルミニウムである。
【0098】
硫酸陽極酸化用の陽極孔径は、典型的な場合20nm未満であるが、リン酸陽極酸化用の陽極孔径は、典型的な場合30nmよりも大きい。リン酸陽極酸化がなされた大型の陽極孔基体を使用することは、硫酸陽極酸化基体よりも好ましい。特に、硫酸陽極酸化によって生成された陽極孔径よりも大きい陽極孔径を生成するものなどの他の従来の陽極酸化法も、本発明の陽極酸化基体の調製に使用することができる。
【0099】
ポリマーバインダーは、適切なコーティング法により、画像形成層のコーティング液に含ませた溶液または分散液として基体表面に塗布することができる。そのような方法の例は、水不混和性の有機溶媒にグラフトコポリマーを溶解させ、得られた溶液を水性媒体に分散させ、得られた分散液を基体表面に塗布し、その後、溶媒を蒸発により除去することである。適切に乾燥させた後の、層のコーティング質量は、好ましくは約0.2〜約5.0g/m2の範囲内であり、より好ましくは約0.7〜約2.5g/m2の範囲内である。
【0100】
画像形成は、赤外レーザーと、赤外線を吸収する輻射線吸収剤とを使用して実施することが好ましい。しかし、UVおよび可視光レーザーによる画像形成も、適切な輻射線吸収剤と併せて使用することができる。このように、本発明の画像形成性組成物はさらに輻射線吸収剤を含むことができ、これが重合を促進させるための増感剤として、または電磁輻射線を熱に変換することができる材料として働くことができる。
【0101】
画像形成性要素はさらに、上層(overlying layer)を含むことができる。上層の1つの可能性ある機能は、酸素不透過性化合物を含むことにより、酸素バリヤー層としての役割を果たすことである。「酸素不透過性化合物」という用語は、IR露光によって発生したラジカルの存続期間中、酸素が雰囲気から層へと拡散するのを防止する化合物を意味するものである。上層は、現像剤に対して可溶性、分散性または少なくとも透過性であるべきである。上層のその他の可能な機能には、
(1)画像様露光する前の取扱い中に表面層の引掻き傷などの損傷を防ぐこと、
(2)部分アブレーションをもたらす過剰露光による、画像様露光した領域の表面に対する損傷を防ぐこと、および
(3)非露光領域の現像性を促進させること
が含まれる。
【0102】
本発明の方法の画像様露光する工程は、好ましくは約300〜約1400nmの範囲内の輻射線で行い、約350〜約900nmの範囲内であることが好ましい。
【0103】
水性現像液による現像は、別個の現像工程を必要としないことが好ましい。印刷版は、直接印刷機に取り付けることができ、その場合、非露光領域は湿し水および/またはインキによって除去され、それにより別個の現像工程が不要になる。印刷機上現像用に設計された版は、適切な水性現像液を使用する従来のプロセスを用いても現像できることに留意されたい。本発明で開示される版としては、印刷機上で現像可能な版ならびに他の現像プロセスを目的とした版が挙げられる。
【0104】
水性現像液組成物は、グラフトコポリマー組成物の性質に応じて異なる。水性現像液の一般的な成分としては、界面活性剤、エチレンジアミン4酢酸の塩などのキレート剤、ベンジルアルコールなどの有機溶媒、および無機メタシリケートや有機メタシリケート、水酸化物、重炭酸塩などのアルカリ性成分が含まれる。水性現像液のpHは、グラフトコポリマー組成物の性質に応じて約5〜約14の範囲内であることが好ましい。
【0105】
印刷寿命を長くするために、現像の後、任意選択でポストベークを使用することができる。
【0106】
上記の熱的に画像形成可能な層の他、この熱的に画像形成可能な要素は、下層などの追加の層を有することができる。下層の可能性ある機能としては、
(1)画像様非露光領域の現像性を高めること、および
(2)画像様露光した領域に対して断熱層として作用すること
が挙げられる。
【0107】
そのような断熱ポリマー層は、例えば熱伝導性アルミニウム基体を介した通常なら急速な熱放散を防止する。これにより、熱的に画像形成可能な層の全体にわたって、特により低いセクションで、より効率的な熱画像形成が可能になる。これらの機能によれば、下層は、現像液に対して可溶性であるかまたは少なくとも分散性であるべきで、比較的低い熱伝導係数を有することが好ましい。
【0108】
本発明についてさらに、例示を目的としかつ限定するものではない以下の実施例で記述する。
【0109】
実施例1:マクロマー(Macromer)1の合成
【0110】
【化13】

【0111】
トルエン(266g)を500mLフラスコに入れ、その後N2雰囲気中で、ポリ(エチレングリコールモノメチルエーテル)(80g)(Mn 2000)および塩化メタクリロイル(4.2g)を添加した。その後、反応温度を30℃に維持しながら、トリエチルアミン(4.52g)を20分間にわたり添加した。さらに2時間過ぎた後、反応混合物の温度を50℃に上げ、その温度でさらに2時間保った。その後、反応混合物を室温に冷却し、濾過して、理論量で得られたトリエチルアミン塩酸塩を除去した。濾液に石油エーテルを添加してマクロマー1を沈殿させ、これを濾過により収集し、室温の真空炉内で乾燥させた。この反応を上記スキームに示す。nの平均値は約45であることが好ましい。
【0112】
実施例2:グラフトコポリマー1の合成
マクロマー1(7.5g)、水(48g)、および1-プロパノール(192g)を500mLフラスコに入れ、これを80℃に加熱した。スチレン(66.9g)およびアゾビス-イソブチロニトリル(0.48g)(Vazo-64、DuPont de Nemours Coから)を別のビーカー内で混合し、この溶液の一部(12g)をマクロマー溶液に添加すると、約10分以内で濁った。その後、残りの溶液を30分間かけて添加した。さらに3時間後、グラフトコポリマー1への変換は、不揮発分%の測定に基づくと約97%であった。スチレン:マクロマー1の質量比は、グラフトコポリマー1において約90:10であった。
【0113】
実施例3:印刷機上で現像可能な印刷版の製造
ブラシで研磨されリン酸陽極酸化されたアルミニウム基体にポリアクリル酸を下引きしたものに、表1に記載する溶液を塗布して、乾燥コーティング質量2g/m2を得た。
【0114】
【表1】

【0115】
次いで、得られたコーティングに、イソプロパノール(3.94部)および水(89.87部)中のポリビニルアルコール(5.26部)およびポリビニルイミダゾール(0.93部)の溶液をオーバーコートして、乾燥コーティング質量2g/m2を得た。得られた版について、Creo Trendsetter 3244xで250mJ/cm2で画像形成し、次いでAB Dick印刷機に直接取り付けた。この版で、500コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。第2の版は、中間の強度で12ユニットのOlec真空フレーム(5kWバルブ)で画像形成した。版をAB Dick印刷機に取り付け、500を超える良好な品質のコピーが得られた。
【0116】
実施例4:UV感受性の印刷機上で現像可能な印刷版の製造
IR染料を除去してオーバーコートを塗布しなかった他は、実施例3を繰り返した。得られた版について、中間の強度で6ユニットのOlec真空フレーム(5kWバルブ)で画像形成した。版をAB Dick印刷機に取り付け、300を超える良好な品質のコピーが得られた。
【0117】
実施例5:可視光感受性の印刷機上で現像可能な印刷版の製造
ブラシで研磨されリン酸陽極酸化されたアルミニウム基体にポリアクリル酸を下引きしたものに、表2に記載する溶液を塗布して、乾燥コーティング質量1.3g/m2を得た。
【0118】
【表2】

【0119】
【化14】

【0120】
次いで、得られたコーティングを、実施例3で述べたようにオーバーコートして、乾燥コーティング質量2g/m2を得た。得られた版について、530ランフィルタを備えたOriel 1000W Solar Simulatorモデル#81291(Oriel Instruments、Stratford、CT)を用い、4mW/cm2で5秒間画像形成した。
【0121】
版を、シンク内で、水と30%Varn142W/30%Varn Parの溶液とで処理した後、AB Dick印刷機に直接取り付けた。版は、500コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0122】
実施例6:グラフトコポリマー2の合成
脱イオン水(314.8g)およびドデシル硫酸ナトリウム(2.0g)を、窒素雰囲気中で1リットルの4つ口フラスコに入れ、70℃に加熱した。過硫酸ナトリウム(0.65g)と脱イオン水(20g)との予備混合物を、70℃で15分間で添加した。スチレン(79.5g)、マクロマー1(10g)、およびアクリル酸(7.9g)の予備混合物を、70℃で3時間で添加した。1時間半後、不揮発分%は22.5%対23%(理論上)であることがわかった。反応混合物を、水で室温に冷却した。水酸化アンモニウム溶液(8g)を室温で添加して、ラテックスを安定化した。
【0123】
実施例7:IR感受性印刷版の製造
バインダーの酸価の作用を例示するため、オーバーコートを塗布せずグラフトコポリマー1の代わりにグラフトコポリマー2を使用した他は、実施例3を繰り返した。図1は、得られたコーティングの走査型電子顕微鏡(「SEM」)解析を示す。図1に示すように、このコーティングは離散粒子を含む。この粒子の直径は最大で約60nmである。
【0124】
得られた版について、Creo Trendsetter 3244xで496mJ/cm2で画像形成し、次いでKomori印刷機に取り付けた。次いでこの版を、Prisco液体プレートクリーナで処理した。この版は、27,500コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0125】
実施例8:グラフトコポリマー3の合成
マクロマー1(7.5g)、水(48g)、および1-プロパノール(192g)を500mLフラスコに入れ、これを80℃に加熱した。メタクリル酸アリル(66.9g)およびVazo-64(0.48g)をゆっくりと添加した。このモノマーを添加して10分以内で、反応混合物のゲル化が生じた。したがってこの反応混合物を廃棄し、手順を以下のように変更した。
【0126】
2-ブタノン(384.1g)およびマクロマー1(4.25g)を、窒素雰囲気中で1リットルの4つ口クラスコに入れ、80℃に加熱した。メタクリル酸アリル(38.0g)およびVazo-64(0.3g)の予備混合物を、80℃で90分間で添加した。添加終了後、さらにVazo-64を0.13g添加した。その後、それぞれ0.13gのVazo-64をさらに2回投与した。不揮発分%に基づくポリマー変換は90%であった。メタクリル酸アリル:マクロマー1の質量比は、グラフトコポリマー3において約90:10であった。
【0127】
樹脂溶液を、ヘキサン(1200g)を使用して粉末形態で沈殿させ、高剪断混合機を使用して3000 RPMで15〜20分間撹拌した。次いでこの溶液を濾過し、生成物を室温で乾燥させた。
【0128】
実施例9:IR感受性の印刷機上で現像可能な印刷版の製造
グラフトコポリマー1の代わりにグラフトコポリマー3を使用し、オーバーコートを塗布しなかったこと以外は、実施例3を繰り返した。図2は、得られたコーティングのSEM解析を示す。図2に示すように、コーティングは離散粒子を含まない。
【0129】
得られた版について、Creo Trendsetter 3244xで、496mJ/cm2で画像形成し、次いでAB Dick印刷機に直接取り付けた。版は、1000コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0130】
しかるべく作成されCreo Trendsetterで361 mJ/cm2で画像形成された別の版を、ハードブランケットを備えEquinoxインキを使用するKomori印刷機に取り付けた。版は、40,000コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0131】
実施例10:IR感受性の印刷機上で現像可能な印刷版の製造
ブラシで研磨した基体の代わりに、ポリビニルリン酸によってシールされた陽極酸化層を有する電気化学的に研磨した基体を使用する他は、実施例3を繰り返した。
【0132】
得られた版について、Creo Trendsetter 3244xで、250mJ/cm2で画像形成し、次いでAB Dick印刷機に直接取り付けた。版は、500コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0133】
実施例11:グラフトコポリマー4の合成
Aldrichから得られかつ入手したままの状態で使用されるマクロマー1(50%水性溶液20g)、水(50g)、および1-プロパノール(240g)を1000mLフラスコに入れ、これを80℃に加熱した。メタクリル酸メチル(89.4g)およびVazo-64(0.65g)を別個のビーカー内で混合し、この溶液の一部(12g)をマクロマー溶液に添加すると、約10分以内で濁った。その後、残りの溶液を90分間かけて添加した。さらに3時間が経過した後、グラフトコポリマー4の変換は、不揮発%の測定に基づき約97%であった。メタクリル酸メチル:マクロマー1の質量比は、グラフトコポリマー4において約90:10であった。
【0134】
別の方法では、水(48g)および1-プロパノール(192g)の混合物に溶解したマクロマー1(7.5g)の溶液を500mLフラスコに入れ、これを80℃に加熱した。メタクリル酸メチル(66.9g)およびVazo-64(0.48g)を別個のビーカー内で混合し、この溶液の一部(12g)をマクロマー溶液に添加すると、約10分以内で濁った。その後、残りの溶液を30分間にわたり添加した。さらに3時間経過後、グラフトコポリマー4への変換は、不揮発分%の測定に基づき約97%であった。メタクリル酸メチル:マクロマー1の質量比は、グラフトコポリマーにおいて約90:10であった。
【0135】
実施例12:IR感受性印刷版の製造
グラフトコポリマー1の代わりにグラフトコポリマー4を使用し、Aldrichから得られたマクロマー1から調製した他は、実施例3を繰り返した。図3は、得られたコーティングのSEM解析を示す。図3に示すように、コーティングは離散粒子を含まない。
【0136】
得られた版について、Creo Trendsetter 3244xで、100mJ/cm2で画像形成し、次いでAB Dick印刷機に直接取り付けた。しかしグラフトコポリマー4を単独で使用すると、非露光領域の現像性と露光した画像領域の耐久性に関して十分な差別化が得られなかった。
【0137】
実施例13:グラフトコポリマー5の合成
マクロマー1(7.0g)、脱イオン水(60g)、およびn-プロパノール(240g)を1リットルのフラスコに入れ、83℃に加熱した。別個のビーカー内で、スチレン(92.4g)とVazo-64(0.65g)を一緒に混合した。この混合物の一部(12g)を添加し、30分後に残りの溶液を2時間で添加した。さらに3時間後、グラフトコポリマー5への変換は、不揮発分%の測定に基づき、約97%であった。スチレンマクロマー1の質量比は93:7であった。
【0138】
実施例14:IR感受性の印刷機上で現像可能な印刷版の製造
グラフトコポリマー1の代わりにグラフトコポリマー5を使用し、オーバーコートを塗布しなかったこと以外は、実施例3を繰り返した。
【0139】
得られた版について、Creo Trendsetter 3244xで、250mJ/cm2で画像形成し、次いでAB Dick印刷機に直接取り付けた。版は、400コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0140】
実施例15:マクロマー2の合成
トルエンを満たしたディーンスタークトラップを備える500mLのフラスコに、トルエン(25g)を入れ、その後N2雰囲気中で、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PEGME)(225g)、Mn 2000を添加した。反応混合物を110℃に加熱し、この温度を2時間保って、共沸蒸留により水をすべて除去した。その後、混合物を70℃に冷却し、ジラウリン酸ジブチルスズ(0.225g)を添加した後に、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート(23.6g)(m-TMI、Cytec Industries、West Patterson、N.J.から)を70℃で30分間かけて添加した。70℃でさらに2時間が経過した後、滴定およびFT-IR解析によって決定されるNCO基の消失から明らかにされるように、反応が終了した。その後、溶液をガラストレイに注いだ結果、1日後に蝋状の固体物質が得られた。この物質をメチルエチルケトン(300g)に溶解した後に、石油エーテル(2000g)を添加した結果、固体のマクロマー2が沈殿し、これを濾過により収集して、室温の真空炉内で乾燥した。
【0141】
実施例16:グラフトコポリマー6の合成
マクロマー2(7.5g)、水(48g)、および1-プロパノール(192g)を500mLフラスコに入れ、これを80℃に加熱した。スチレン(66.9g)およびVazo-64(0.48g)を別個のビーカー内で混合し、この溶液の一部(12g)をマクロマー溶液に添加すると、約10分以内で濁った。その後、残りの溶液を30分間にわたり添加した。さらに3時間後、グラフトコポリマー6への変換は、不揮発分%の測定に基づき約97%であった。スチレン:マクロマー2の質量比は、グラフトコポリマー6において約90:10であった。
【0142】
実施例17:IR感受性の印刷機上で現像可能な印刷版の製造
グラフトコポリマー1の代わりにグラフトコポリマー6を使用した他は、実施例3を繰り返した。
【0143】
得られた版について、Creo Trendsetter 3244xで、100mJ/cm2で画像形成し、次いでAB Dick印刷機に直接取り付けた。版は、500コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0144】
実施例18:オーバーコートがないIR感受性の印刷機上で現像可能な印刷版の製造
オーバーコートを塗布しない他は、実施例3を繰り返した。図4は、得られたコーティングのSEM解析を示す。図4に示すように、コーティングは離散した粒子を含む。この粒子の直径は、最大で約100〜200nmであった。
【0145】
得られた版について、Creo Trendsetter 3244xで、250mJ/cm2で画像形成し、次いでAB Dick印刷機に直接取り付けた。版は、600コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0146】
実施例19:印刷機上で現像可能な印刷版の製造
グラフトコポリマー2の代わりにグラフトコポリマー1(3.35質量部)とグラフトコポリマー2(0.18質量部)の組合せを使用した他は、実施例7を繰り返した。図5は、得られたコーティングのSEM解析を示す。図5に示すように、コーティングは離散粒子を含む。粒子の直径は最大で約100〜200nmである。
【0147】
得られた版について、Creo Trednsetter 3244xで、496mJ/cm2で画像形成し、次いでAB Dick印刷機に取り付けた。版は、1,000コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0148】
このように作成し画像形成した別の版を、ハードブランケットを備えEquinoxインキを使用するKomori印刷機に取り付けた。版は、30,000コピーを超える良好な品質のプリントを印刷した。
【0149】
比較例1:フリーラジカル発生剤を持たないIR感受性の印刷機上で現像可能な印刷版の製造
光重合性コート中の2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-2-トリアジンを省略した他は、実施例18を繰り返した。
【0150】
得られた版について、Creo Trendsetter 3244xで、250mJ/cm2で画像形成し、次いでAB Dick印刷機に直接取り付けた。コーティングを完全に洗い落とすと、版上には画像がないのでプリントは得られなかった。
【0151】
本発明について、特定の例示的な実施形態に関連して述べてきたが、付随する特許請求の範囲で述べる精神および範囲から逸脱することなく、当然のことながら、開示された実施形態に様々な変化、置換、および変更を加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基体と、(b)前記基体に塗布された重合性組成物とを含む画像形成性要素であって、前記組成物が、(i)重合性化合物と、(ii)ポリエチレンオキシドセグメントを含むポリマーバインダーとを含み、前記ポリマーバインダーが、主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド側鎖を含む少なくとも1つのグラフトコポリマーと、少なくとも1つのポリエチレンオキシドブロックおよび少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックを有するブロックコポリマーと、これらの組合せとからなる群から選択される、画像形成性要素。
【請求項2】
前記ポリマーバインダーが約35〜約220℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項3】
前記ポリマーバインダーが両親媒性である、請求項2に記載の画像形成性要素。
【請求項4】
前記ポリマーバインダーが、疎水性ポリマー骨格と、下記の式:
-Q-W-Y
(上記式中、Qは2官能性接続基であり、Wは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、ただしWが親水性セグメントである場合にはYは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択されることを条件とし、さらにWが疎水性である場合にはYは親水性セグメントであることを条件とする)
で表される複数のペンダント基とを含むグラフトコポリマーである、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項5】
前記ポリマーバインダーが、下記の式:
【化1】

(上記式中、R1およびR2のそれぞれは独立に、H、アルキル、アリール、アラルキル、アルカリール、COOR5、R6CO、ハロゲン、およびシアノからなる群から選択され、
Qは、
【化2】

(ここで、R3はHおよびアルキルからなる群から選択され、R4は、H、アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、およびこれらの組合せからなる群から選択される)
からなる群から選択され、
Wは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、
Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、
Zは、H、アルキル、ハロゲン、シアノ、アシルオキシ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、ヒドロキシアルキルオキシカルボニル、アシル、アミノカルボニル、アリール、および置換アリールからなる群から選択され、
ただし、Wが親水性セグメントである場合には、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択されることを条件とし、さらにWが疎水性である場合にはYは親水性セグメントであることを条件とする)
で表される反復単位を含むグラフトコポリマーである、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項6】
前記親水性セグメントWが、下記の式で表されるセグメントからなる群から選択される、請求項5に記載の画像形成性要素:
【化3】

(上記式中、R7、R8、R9、およびR10のそれぞれは水素原子であり、R3はHおよびアルキルからなる群から選択され、W中の前記疎水性セグメントは、-R12-、-O-R12-O-、-R3N-R12-NR3-、-OOC-R12-O-、および-OOC-R12-O-からなる群から選択され、ここで各R12は独立に、炭素原子数が6〜120の線状、分枝状または環状アルキレン、炭素原子数が6〜120のハロアルキレン、炭素原子数が6〜120のアリーレン、炭素原子数が6〜120のアルカリーレン、および炭素原子数が6〜120のアラルキレンからなる群から選択され、R3はHおよびアルキルからなる群から選択され、Y中の前記親水性セグメントは、H、RC15、OH、OR16、COOH、COOR16、O2CR16、下記の式により表されるセグメントからなる群から選択される:
【化4】

ここで、R7、R8、R9、およびR10のそれぞれは水素原子であり、R3はHおよびアルキルからなる群から選択され、ここでR13、R14、R15、およびR16のそれぞれは独立に、Hおよび炭素原子数が1〜5のアルキルからなる群から選択され、前記疎水性セグメントは、炭素原子数が6〜120の線状、分枝状または環状アルキル、炭素原子数が6〜120のハロアルキル、炭素原子数が6〜120のアリール、炭素原子数が6〜120のアルカリール、炭素原子数が6〜120のアラルキル、OR17、COOR17およびO2CR17からなる群から選択され、R17は炭素原子数が6〜20のアルキルであり、nは約12〜約250である)。
【請求項7】
前記ポリエチレンオキシドセグメントが約500から約10,000の範囲の数平均分子量を有する、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項8】
前記ポリマーバインダーがグラフトコポリマーであり、当該グラフトコポリマーのポリエチレンオキシドセグメントは約0.5〜約60質量%の範囲の量で存在する、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項9】
前記主鎖ポリマーが約40〜約220℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項10】
前記少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックが約40〜約220℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項11】
前記少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックがポリアルキレンオキシドセグメントを含まない、請求項10に記載の画像形成性要素。
【請求項12】
前記主鎖ポリマーが付加ポリマーおよび縮合ポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項13】
前記少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックが付加ポリマーおよび縮合ポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項14】
前記ポリマーバインダーが、それぞれが主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド側鎖を含むグラフトコポリマーの混合物を含む、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項15】
前記主鎖ポリマーが付加ポリマーおよび縮合ポリマーから独立に選択された、請求項14に記載の画像形成性要素。
【請求項16】
前記ポリマーバインダーがブロックコポリマーであり、当該ブロックコポリマーのポリエチレンオキシドセグメントが約5〜約60質量%の範囲の量で存在する、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項17】
紫外線、可視光線および赤外線のうちの1つで露光することができる、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項18】
前記重合性化合物が、付加重合可能なエチレン性不飽和基、架橋可能なエチレン性不飽和基、開環重合性基、アジド基、アリールジアゾニウム塩基、アリールジアゾスルホネート基、およびこれらの組合せから選択された重合性基を含有する、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項19】
前記付加重合可能なエチレン性不飽和基が、フリーラジカル重合、カチオン重合、およびこれらの組合せのうちの1つによって重合可能である、請求項18に記載の画像形成性要素。
【請求項20】
前記架橋可能なエチレン性不飽和基が、ジメチルマレイミド基、カルコン基、およびシンナメート基からなる群から選択される、請求項18に記載の画像形成性要素。
【請求項21】
前記開環重合性基が、エポキシド、オキセタン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項18に記載の画像形成性要素。
【請求項22】
重合性化合物とポリマーバインダーとの質量比が約5:95から約95:5の範囲である、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項23】
前記重合性組成物が、約300〜1400の範囲の電磁輻射線を吸収する輻射線吸収剤をさらに含む、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項24】
前記輻射線吸収剤が赤外吸収顔料または染料である、請求項23に記載の画像形成性要素。
【請求項25】
前記組成物が、(i)電子受容体と(ii)電子または水素原子を供与することあるいは炭化水素ラジカルを形成することが可能な共開始剤とを含むフリーラジカル開始剤系をさらに含む、請求項23に記載の画像形成性要素。
【請求項26】
前記重合性組成物が離散粒子を含む、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項27】
前記ポリマーバインダーが、前記重合性組成物中に懸濁された離散粒子を含む、請求項1に記載の画像形成性要素。
【請求項28】
前記ポリマーバインダーが、主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド側鎖を含む少なくとも1つのグラフトコポリマーを含む、請求項27に記載の画像形成性要素。
【請求項29】
(i)重合性化合物と、(ii)ポリエチレンオキシドセグメントを含むポリマーバインダーとを含む重合性組成物であって、前記ポリマーバインダーが、主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド側鎖を含む少なくとも1つのグラフトコポリマーと、少なくとも1つのポリエチレンオキシドブロックおよび少なくとも1つの非ポリエチレンオキシドブロックを有するブロックコポリマーと、これらの組合せとからなる群から選択される、重合性組成物。
【請求項30】
前記ポリマーバインダーが、約35〜約220℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
ポリマーバインダーが、疎水性ポリマー骨格と、下記の式:
-Q-W-Y
(上記式中、Qは2官能性接続基であり、Wは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、ただしWが親水性セグメントである場合にはYは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択されることを条件とし、さらにWが疎水性である場合にはYは親水性セグメントであることを条件とする)
で表される複数のペンダント基とを含むグラフトコポリマーである、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
前記ポリエチレンオキシドセグメントが約500〜約10,000の範囲の平均分子量を有する、請求項29に記載の組成物。
【請求項33】
前記ポリマーバインダーが、少なくとも1つのポリエチレンオキシドブロックを有するブロックコポリマーであり、前記ブロックコポリマーが、ポリエチレンオキシドセグメントを含まず、かつ約40〜約220℃の範囲のガラス転移温度Tgを有するセグメントを含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項34】
重合性化合物とポリマーバインダーとの質量比が約5:95〜約95:5の範囲である、請求項29に記載の組成物。
【請求項35】
前記重合性組成物が、約300〜1400nmの範囲の電磁輻射線を吸収する輻射線吸収剤をさらに含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項36】
前記組成物が、(i)電子受容体と(ii)電子または水素原子を供与することあるいは炭化水素ラジカルを形成することが可能な共開始剤とを含むフリーラジカル開始剤系をさらに含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項37】
前記重合性組成物が離散粒子を含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項38】
前記ポリマーバインダーが、前記重合性組成物中に懸濁された離散粒子を含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項39】
前記ポリマーバインダーが、主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド側鎖を含む少なくとも1つのグラフトコポリマーを含む、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
ネガ型印刷版の製造方法において、(a)基体を準備する工程と、(b)前記基体上に組成物を含むネガ型の層を塗布する工程と、(c)紫外線、可視光線および赤外線のうちの1つで画像形成する工程とを含み、前記組成物が、重合性化合物とポリエチレンオキシドセグメントを含むポリマーバインダーとを含み、当該ポリマーバインダーが、ポリエチレンオキシド側鎖を含む少なくとも1つのグラフトコポリマーと、少なくとも1つのポリエチレンオキシドブロックを有するブロックコポリマーと、これらの組合せとからなる群から選択される、ネガ型印刷版の製造方法。
【請求項41】
前記ポリマーバインダーが約35〜約220℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記印刷版が印刷機上で現像可能である、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
(d)印刷機で現像する工程をさらに含み、別個の現像工程を含まない、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記ポリマーバインダーが、疎水性ポリマー骨格と、下記の式:
-Q-W-Y
(上記式中、Qは2官能性接続基であり、Wは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、ただしWが親水性セグメントである場合にはYは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択されることを条件とし、さらにWが疎水性である場合にはYは親水性セグメントであることを条件とする)
で表される複数のペンダント基とを含むグラフトコポリマーである、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記ポリマーバインダーが、下記の式:
【化5】

(上記式中、R1およびR2のそれぞれは独立に、H、アルキル、アリール、アラルキル、アルカリール、COOR5、R6CO、ハロゲン、およびシアノからなる群から選択され、
Qは、
【化6】

(ここで、R3はHおよびアルキルからなる群から選択され、R4は、H、アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、およびこれらの組合せからなる群から選択される)
からなる群から選択され、
Wは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、
Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択され、
Zは、H、アルキル、ハロゲン、シアノ、アシルオキシ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、ヒドロキシアルキルオキシカルボニル、アシル、アミノカルボニル、アリール、および置換アリールからなる群から選択され、
ただし、Wが親水性セグメントである場合には、Yは親水性セグメントおよび疎水性セグメントからなる群から選択されることを条件とし、さらにWが疎水性である場合にはYは親水性セグメントであることを条件とする)
により表される反復単位を含むグラフトコポリマーである、請求項40に記載の方法。
【請求項46】
前記画像形成工程が、赤外レーザを使用した赤外照射により実施される、請求項40に記載の方法。
【請求項47】
前記現像工程後に前記印刷版をポストベークすることをさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項48】
前記重合性組成物が離散粒子を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項49】
前記ポリマーバインダーが、前記重合性組成物中に懸濁された離散粒子を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項50】
前記ポリマーバインダーが、主鎖ポリマーおよびポリエチレンオキシド側鎖を含む少なくとも1つのグラフトコポリマーを含む、請求項49に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107399(P2013−107399A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−23341(P2013−23341)
【出願日】平成25年2月8日(2013.2.8)
【分割の表示】特願2009−143497(P2009−143497)の分割
【原出願日】平成15年4月10日(2003.4.10)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】