説明

ポリエチレングリコールサンプルの多分散度および/または分子量分布を決定する方法

本明細書に開示されるのは、質量分析法を用いて反応性PEGサンプルの多分散度(PDI)および分子質量分布(MMD)を測定する方法である。より具体的には、高分子量PEGサンプルに対して既知のMALDI−TOF分析より正確な測定結果を提供するGEMMAと呼ばれる質量分析法が、PEGサンプルのPDIおよびMMDを測定するために用いられる。いくつかの実施形態において、PEGの第2の末端は、メトキシメチル基を含む。様々な実施形態において、反応性官能基は、スクシンイミジルスクシネート基を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2008年11月18日に出願された米国仮特許出願第61/115,781号の利益を主張し、この米国仮特許出願の開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
現代社会において、ポリマーは、広範囲にわたる応用に提供されている。顕著な用途の1つは、ペプチドおよびタンパク質へのそれらの結合である。合成ペプチドおよび組み換えタンパク質は、いくつかの内的要因、生体内での低い安定性、それゆえに短い血中濃度半減期、および免疫原性のために自由な適用は制限されるが、効能のある特異的な治療薬として広く用いられている。ポリエチレングリコール(PEG:polyethylene glycol)、デキストランもしくはポリ(アミノ酸)のようなポリマーを用いた、ペプチド/タンパク質ベースの薬物の結合は、これらの制限を克服し、ペプチド/タンパク質療法の大規模な適用を促進するための戦略として評判を高めている。
【0003】
タンパク質/ペプチド結合に適するポリマーは、様々な基準を満たす必要がある。該ポリマーは、体内での進行蓄積を回避するために、易生分解性でなくてはならない。その多分散度は、最終的なタンパク質結合体に許容しうる均質性をもたらすために、可能な限り1に近くなくてはならない。所望の体区画での分布および蓄積ならびに持続性作用が、十分な体/区画滞留時間によって提供されなくてはならない。最後に、不均質な生成物をもたらす架橋を回避するために、ペプチド/タンパク質へのポリマーの結合が単一反応基によって達成されなくてはならない。
【0004】
PEGは、優れた特性ゆえにポリマー−薬物結合に用いられる最も顕著なポリマーの1つである。PEGは、無毒性、非免疫原性、非抗原性であり、他の溶媒のみならず水にも溶解度が高く、ヒト用としてFDAおよびEMEAに承認されている。水および他の多くの有機溶媒中におけるその溶解度は、タンパク質および/またはペプチドを穏やかな生理的条件下でペグ化することを可能にする。PEGの屈曲性鎖とエチレンオキシド単位当たり2〜3個の水分子を結合する能力との両方が、免疫原性および抗原性を低減し、立体障害の増加によりペプチド/タンパク質の酵素分解を妨げるその能力に寄与する。PEGの医薬用途に関わる別の重要な特性は、低多分散度(PDI:polydispersity)、M/Mが約1.01から約1.1、の可能性である。
【0005】
薬物結合に適用されるポリマーの必要条件を考慮すると、PEGは適切な選択肢である。PEGタンパク質結合体は、免疫原性および抗原性が低減され、体内滞留時間が短縮され、かつ代謝酵素に対する安定性が向上した治療薬を提供することができる。PEG結合体では未修飾タンパク質と比較していくつかの生物活性が失われることもあるが、この損失は、しばしば半減期の増加によって補うことができる。タンパク質のペグ化が1970年代に導入されて以来、数多くのPEG−薬物結合体、例えばADAGEN(登録商標)、NEULASTA(登録商標)、SOMAVERT(登録商標)、PEGASYS(登録商標)、PEG−INTRON(登録商標)、ONCASPAR(登録商標)が導入され、より多くのPEG−タンパク質が現在治験フェーズにある。PEGのさらなる医薬応用には、抗腫瘍薬、ペプチド、もしくはオリゴヌクレオチドのような、より小さい薬物への結合ならびに薬物送達システムあるいは診断キャリアとしての用途がある。
【0006】
薬物製造は、厳しい管理を受けるので、薬物結合に適用される反応性PEGのバッチは、詳細に評価されなければならない。一般に、モノメトキシル化PEG(mPEG:monomethoxylated PEG)が用いられる。mPEGは、メトキシドイオンを用いて開始されるアニオン開環重合によって合成される。重合の間に存在する微量の水ゆえに、市販のmPEGには、望ましくない架橋副生成物および様々なレベルのカプリング基をもたらす、かなりの量(15%まで)のジオールPEGが含まれる可能性がある。
【0007】
PEGバッチは、一般に様々な数のモノマーによって構築された分子からなり、従って、理想的な場合にはガウス型分子質量分布(MMD:molecular mass distribution)を生じる。起こりうる結果は、様々な生物学的特性、例えば体内滞留時間および/または免疫原性、を持つ薬物結合体である。望ましくない架橋生成物を回避し、PEGサンプルのPDIおよびMMDを測定するために、結合プロセスの前に、クロマトグラフィーもしくは動的光散乱法のような様々な分析技術を用いてバッチを評価することが推奨されている。しかしながら、PEGサンプルのPDIおよび/またはMMDを見積もる他の方法の必要性も存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示されるのは、PEGサンプルのPDIおよび/またはMMDを、気相電気泳動移動度巨大分子分析(GEMMA:gas phase electrophoretic mobility macromolecular analysis)を用いて測定する方法である。特に、本明細書に開示される方法は、a)異なった分子量の複数のPEGポリマーを含むPEGサンプルを提供する工程であって、それぞれのPEGポリマーは、第1の末端および第2の末端を含み、第1の末端は、反応性官能基を含む、提供する工程;b)該PEGサンプルをイオン化して、複数のイオンを提供する工程;c)該複数のイオンを還元して、中性または一価の種を提供する工程;d)微分型移動度分析器(DMA:differential mobility analyzer)を用いて、該複数の中性または一価の種をそれぞれの種の電気泳動移動度直径(EMD:electrophoretic mobility diameter)によって分離する工程;およびe)それぞれ種のEMDをPEGサンプルのPDIおよび/またはMMDに関連づける工程を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、PEGの第2の末端は、メトキシメチル基を含む。様々な実施形態において、反応性官能基は、スクシンイミジルスクシネート基を含む。サンプルにおけるPEGの濃度は、少なくとも約1nMまたは少なくとも約0.2mMとすることができる。いくつかの特定の場合に、サンプルにおけるPEGの濃度は、約5nMから約100mMである。
【0010】
PEGサンプルをイオン化することは、サンプルにエレクトロスプレーイオン化を受けさせることによって可能である。イオンを還元することは、イオンを両極性雰囲気に曝露することによって可能である。特定の場合に、両極性雰囲気は、ポロニウム源によって生成することができる。キャラクタライズすることは、それぞれのイオンのEMDを既知の分子量のEMDに関連づけることによることができる。それぞれのイオンのEMDは、少なくとも約3nmとすることができる。イオンは、ユニマー、二量体、三量体、またはquadramerを形成することができる。いくつかの場合には、イオンが三量体および二量体を形成し、PEGサンプルのPDIおよびMMDの両方が算出される。特定の場合に、PDIおよび/またはMMDの算出精度は、少なくとも5%、または少なくとも2%である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、PEG−スクシンイミジルスクシネートの構造、および様々なPEGサンプルに対して算出された分子量をモノマー数とともに示す。
【図2】図2は、3つのPEGサンプルのGEMMAスペクトルを示す。各GEMMAスペクトルではユニマー、一価の1つのポリマー鎖、二または三量体を含んだエアロゾル液滴に対応する、2つから3つのピークを観察することができる。
【図3】図3は、様々な濃度のmPEG−SS 20KのGEMMAスペクトルを示す。
【図4】図4は、挙げられた技術(DHB、SuperDHB、およびNaClを含むSuperDHB)によって調製され、リフレクトロン・モードで取得されたmPEG−SS 2KのMALDI−TOF質量スペクトルを示す。図4の挿入図は、狭いm/z範囲の質量スペクトルの詳細を観察可能な分子イオンおよび対応する質量値の違う(ΔM)とともに示す。
【図5】図5は、NaClを含んだsuperDHBを用いたmPEG−SS 5K,10Kおよび20KのMALDI−TOF質量スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に開示されるのは、PEGサンプルのPDIおよび/またはMMDを測定する方法である。PEGサンプルは、タンパク質結合治療薬を形成するためのタンパク質またはペプチドへの結合前に評価される。かかる治療薬が、様々な薬物管理委員会(例えば、FDAおよびEDMA)によって典型的に厳しく管理またはモニターされることから、かかる測定は、タンパク質またはペプチドへの結合に関わる特定のPEGサンプルの適合性を検証するために重要である。典型的に、適切なPEGサンプルは、1に近い、例えば約1.05から約1.2、または約1.05から約1.1のPDIを有する。
【0013】
PEGサンプルは、通常は複数のポリマー、すなわち、エチレングリコール単量体の繰り返し数が異なるために分子量が異なるポリマーを有する。PEGサンプルにおけるPEGポリマーの分子量分布の測定がサンプルのMMDを提供する。サンプルのPDIは、ポリマー・サンプルの重量平均(M):数平均分子量(M)の比率に関する測定結果である。Mは、ポリマー・サンプルから無作為に選択された特定のポリマーが、平均するとMの質量を持つポリマーの重量平均質量である。Mは、ポリマーの数平均質量であり、ポリマー・サンプルにおけるすべてのポリマーのすべての分子量の平均である。
【0014】
本開示の方法において分析されるPEGサンプルは、典型的に1つの末端に反応性官能基を有する。例えば、PEGは、1つの末端にタンパク質またはペプチドへの結合を可能にする適切な反応基、および他の末端に非反応性官能基を有することができる。非反応性官能基は、特定の反応条件下で不活性な官能基である。タンパク質および/またはペプチドへのPEGのカップリング条件下において、非反応性官能基は、以下には限定されないが、メトキシ基とすることができる。反応性官能基は、特定の反応条件下において対象のタンパク質、ペプチド、または他の分子と結合体を形成することができる官能基である。かかる反応性官能基の非限定の例は、スクシンイミジルスクシネートなどを含む。
【0015】
PEGサンプルは、GEMMAを用いた質量分析法によって分析される。GEMMAでは、サンプルがイオン化される。イオン化は、エレクトロスプレーイオン化によって可能であるが、他の既知のイオン化技術を用いることもできる。次に、形成されたイオンが還元されて一価のイオンまたは中性種が形成される。イオンは、還元雰囲気、例えば両極性雰囲気に曝露されることによって還元されることができる。いくつかの場合に、両極性雰囲気は、ポロニウム源のようなα粒子源に由来する。イオンは、次に空気中における移動度に応じてイオンを分離する微分型移動度分析器を用いて分離される。次に、イオンは、凝縮粒子カウンタを用いて検出される。各イオンの電気泳動移動度直径(EMD)は、ミリカンの式を用いて算出することができ、その後イオンの分子量に関連づけることができる。通常は、かかる関連づけに、分子量が既知の分子に関するEMDの比較が用いられる。GEMMA分析は、Allmaier,et al.,J.Mass.Spec.,36:1038−1052(2001)で一般的に論じられる。
【0016】
GEMMA分析では、分子量を測定するためにイオンのEMDを用いるので、一般にEMDが大きいほどより正確な測定が提供される。従って、いくつかの実施形態において、イオンのEMDは、少なくとも2nm、または少なくとも3nmである。イオンは、ユニマー(1個のイオン)、二量体(一緒にクラスター化した2個のイオン)、三量体(一緒にクラスター化した3個のイオン)、quadramer(一緒にクラスター化した4個のイオン)、またはより高次の構造を形成することができる。三量体およびquadramerが形成されると、EMDが典型的に大きくなり、従って粒子カウンタを用いてより容易に検出することができる。それゆえに、MMDおよび/またはPDIのより正確な測定が、かかる構造の形成によって可能になる。
【0017】
サンプル中のPEGの濃度によって、二量体、三量体、quadramerなどの形成をもたらすことができる。濃度が高いほど、より多くの二量体、三量体、および/またはquadramerが形成される。いくつかの場合に、PEGサンプルは、少なくとも1nM、少なくとも2nM、少なくとも3nM、少なくとも5nM、少なくとも10nM、少なくとも50nM、少なくとも0.1mM、または少なくとも0.2mMのPEG濃度を有する。
【0018】
測定の精度は、当分野で知られる方法によって測定することができる。PDIおよび/またはMMD測定の精度は、少なくとも約5%、少なくとも約4%、少なくとも約3%、または少なくとも約2%とすることができる。
【0019】
国内的および国際的な規制機関の厳重な管理が、薬物製造(例えば、組み換えタンパク質)においてペグ化に適用される反応性PEGポリマーのバッチに関する正確なキャラクタリゼーションを強いる。MMDおよび多分散度の測定は、不均質な最終生成物に起因して特に重要である。本開示のように、MALDI−TOF MSおよびGEMMA、異なった物理化学的原理に基づく2つの装置を用いて、4つのmPEG−SSバッチが分析された。MALDI−TOF MS分析による分子質量の測定は、飛行時間および相関するm/z値の測定に基づき、GEMMA分析は、電気泳動移動度直径および導出される分子質量に従って機能する。mPEG−SSバッチについて得られたMMD極大は、会社によって公表された仕様、MMD±10%、の範囲内にあり、GEMMAまたはMALDI−TOFによって達成されるデータ品質に関しては、より詳細な製品情報、例えば会社によって得られた正確なMMD極大の欠如ゆえに、さらなる結論を引き出すことはできなかった。GEMMAならびにMALDI−TOFデータから、mPEG−SS 2Kに対して1.02、およびmPEG−SS 5K、10K,20Kに対して1.01の多分散度の値が算出され、mPEG−SS誘導体が、低いMMDを提示し、タンパク質およびペプチドへの結合に利用するのに好ましい基準を満たすことが示唆された。
【0020】
MMDの増加とともに、ポリマーのGEMMA分析の精度は向上し、MALDI−TOF MSの精度は低下する。MALDI−TOF MSの精度の低下は、TOF質量分析器の分解能の減少に基づく。GEMMAの精度の向上は、1から3個のPEG鎖を含んだ多量体クラスターの検出に基づくものであり、これらがMMDの相対的な狭小化をもたらす。従って、低いMMDを持つPEGに対しては、MALDI−TOF MSを利用してより有意義なデータを得ることができるのに対して、高いMMDを持つPEGの分析には、GEMMAの方がより適切な方法である。
【実施例】
【0021】
構造と算出された正確な分子質量とが図1に示される4つのモノメトキシPEG−スクシンイミジルスクシネート(mPEG−SS)サンプルが、MMDおよびPDIによってキャラクタライズされた。各サンプルのEMDが、GEMMAによって測定された。多価の巨大分子イオンが、ナノエレクトロスプレー(nES:nano electrospray)を用いて生成され、中性および一価のイオンを得るために、電荷が、ポロニウム源を用いて生成された両極性雰囲気によって還元された。ナノ微分型移動度分析器(nDMA:nano differential mobility analyzer)を用いて、これらのイオンが、EMDに従ってサイズ分離され、凝縮粒子カウンタ(μCPC:condensation particle counter)によって検出された。既知の分子に関するEMD対分子量の相関関係に基づいて、4つのmPEG−SS誘導体のMMDが決定された。GEMMAにおいて得られたデータを確認し、かつ補完するために、MALDI−TOF MSが適用された。加速された分子イオンがイオン源と検出器との間の距離を通過するのに必要な時間に基づいて、サンプルの正確な分子量データが測定された。
【0022】
化学薬品:
2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)および2−ヒドロキシ−5−メトキシ安息香酸(MSA)がSigma−Aldrich(Steinheim,Germany)から購入された。塩化ナトリウム、酢酸アンモニウム、エタノール96%(EtOH)および水p.a(25°Cにおける導電率≦1μS/cm)がMerck(Darmstadt,Germany)から入手された。SunBio(Anyang City,South Korea)からの薬物用途専用の4つの直鎖PEGサンプル(メトキシPEG−スクシンイミジルスクシネート)、すなわち、mPEG−SS 2K、mPEG−SS 5K、mPEG−SS 10KおよびmPEG−SS 20Kが検討された。
【0023】
MALDI−TOF MSのためのサンプル調製:
MALDI−TOF MS分析のために、PEGが水に溶解され、mPEG−SS 2Kに対して1mg/mL、およびmPEG−SS 5K、10Kおよび20Kに対して10mg/mLの濃度が得られた。水/EtOH(9:1、v/v)に溶解したDHBに基づく3つのマトリックス・システムが、最高質量分析分解能の観点から評価された。
マトリックス・システムAは、1mLの水/EtOH(9:1、v/v)に溶解した10mgのDHBからなった。2μLのPEG溶液と1μLのマトリックス溶液とがステンレス製MALDIターゲット上で直接に混合された。マトリックス・システムBは、superDHB、水/EtOH(9:1、v/v)中のDHBとMSAとの混合物(9:1、w/w)、からなった;PEG溶液とマトリックス溶液とがエッペンドルフ管中で予め混合され(1:4、v/v)、1.5μLのこの混合物が2回ターゲット上に塗られた。スポットは、0.8μLのEtOHを用いて再結晶化された。
マトリックス・システムCは、PEG濃度に関連して1:1(v/v)の比率で0.1MのNaCl溶液を加えたsuperDHB(1mLの水/EtOH(9:1、v/v)に溶解したDHB/MSA(9:1、w/w))からなった。
【0024】
ポリマー・サンプルのMALDI−TOF質量スペクトルが、窒素レーザー(λ=337nm)を装備したAXIMA TOF(Shimadzu Biotech Kratos Analytical,Manchester,UK)で取得された。装置は、陽イオン、リニアならびにリフレクトロン・モードで動作された。各質量スペクトルは、連続した任意抽出の80から800レーザーショットを平均することによって取得された。データ解析前に、質量スペクトルがSavitsky−Golayアルゴリズムを用いてスムージングされた。
【0025】
GEMMA分析のためのサンプル調製:GEMMA分析のために、4つすべてのPEGが、酢酸アンモニウム緩衝剤(pH6.8;20mM)に溶解され、1mg/mLの濃度が得られた。GEMMAシステムは、ナノ−エレクトロスプレー(nES)ユニット、ナノ微分型移動度分析器(nDMA)、および検出器として超微細凝縮粒子カウンタ(μCPC)(すべての部分がTSI Inc,Shoreview,Mn,USA製)からなる。多価イオンが、エレクトロスプレー・プロセスによって生成され、電荷が低減されて、中性または一価の分子が得られた。イオンは、電気泳動移動度直径(EMD)に従ってnDMAにおいてサイズ分離され、μCPCを用いて検出された。PEGサイズを測定して分子量を導出するために、いくつかの明確に特徴づけられた球状の標準タンパク質のEMDが測定され、キャリブラントとして用いられた。その結果に基づいて、未知のポリマーのEMDと分子質量との間の相関関係がキャラクタライズされた。nES源の設定は2kVであり、使用された酢酸アンモニウム緩衝剤(pH6.8;20mM)に対して装置を安定なコーンジェット・モードで動作させるために、0.3L/分のCO(99.995%,Air Liquide,Schwechat,Austria)/1L/分の圧縮空気(99.999%合成空気,Air Liquide)が適用された。溶融石英キャピラリーの内径は150nmであり、エレクトロスプレー・プロセスは陽イオン・モードで動作された。各最終サイズのGEMMAスペクトルに対して、10回のスキャンが平均された。
【0026】
図2は、検討された4つのPEGのうちの3つに対して得られたGEMMAスペクトルを示す。各GEMMAスペクトルにおいて、ユニマー、一価の1つのポリマー鎖、二または三量体、単一電荷を帯びたクラスターを形成した2つまたは3つのポリマー鎖、を含んだエアロゾル液滴に対応する、2から3個のピークを観察することができる。すべてのEM直径の値、および対応するMMD極大が表1に要約される。3nm粒径におけるμCPC分析器の機能的限界ゆえに、mPEG−SS 2KではGEMMAデータを得ることができなかった。同じ理由のために、mPEG−SS 5Kのユニマーは検出できなかった。しかしながら、mPEG−SS 5Kの二および三量体は、3.72nmおよび4.29nmのEM直径で検出可能であった。mPEG−SS 10KのGEMMAスペクトルは、ユニマー(3.85nm)、ならびに二量体(4.78nm)および三量体(5.52nm)を提示した。mPEG−SS 20Kは、EM直径が4.78nmのユニマー、5.94nmの二量体および6.85nmの三量体を生じた。
【0027】
【表1】

二量体および三量体の形成(およびその存在割合)は、サンプル濃度と直接に相関し、mPEG−SS 20Kの様々な濃度におけるGEMMAスペクトルを提示した図3にこれが示される。サンプル濃度の増加とともに(0.2mM〜1nM)ユニマーだけでなく、二および三量体、より高濃度(0.2mM〜20nM)ではさらに4量体も検出された。1nM未満の濃度からはユニマーのみが検出された。
【0028】
これらの多量体クラスターは、固有の質量分布を有する個別分子を含み、それらが質量分布の相対的な狭小化をもたらすので、MMDの測定には、これらのクラスターを検出することが望ましい。クラスター化プロセスによって得られる質量分布のこの相対的な狭小化を、様々なPEG標準品をキャラクタライズするために利用することができる。形成された多量体クラスターに基づいてMMD極大が測定され、mPEG−SS 5Kに対して4.77kDa、mPEG−SS 10Kに対して9.76kDa、およびmPEG−SS 20Kに対して18.70kDaが得られた。GEMMA分析の精度は、mPEG−SS 5K(±4.4%)からmPEG−SS 20K(±1.8%)に向上した。すべてのMMD極大データが表2に要約される。
【0029】
【表2】

マトリックスDHBの3つの調製方法、広く使用されるPEGキャラクタリゼーション用MALDIマトリックスが、得られるMMDおよび信号強度に関して評価された。一般に、水/EtOHに溶解したDHBは、長い針状結晶を形成し、ターゲット・スポット上にサンプルおよびマトリックスの不均質な分布を生じさせる。高いS/N比および質量分析分解能を有するMALDI−TOF質量スペクトルの取得は、マトリックスおよびサンプルが明確な結晶構造内で均質に混合された、いわゆる「スイート・スポット」においてのみ可能である。10%のMSA添加および/またはEtOHを用いた再結晶化が、好ましくないDHBの結晶化挙動を克服するために役立つ。いずれの場合も、より小さくてより一様に分布した結晶が形成され、かくして感度および分解能の向上をもたらす。再結晶化は、好ましい副次的効果、塩汚染の除去を伴うこともありうる。バイオポリマーのMALDI−TOF MSとは対照的に、合成ポリマーのイオン化は、ほとんどがプロトン化よりむしろカチオン化によって生じ、延いては(無機)カチオン化剤の添加が質量分析感度の増加をもたらす。カチオン化剤の使用に伴う別の効果は、ポリマー・サンプル、マトリックスまたは溶媒中に存在する他の塩汚染の抑制である。mPEG−SSサンプルのMALDI−TOF質量スペクトルに対する、上述のマトリックス添加物(MSA)、カチオン化剤および再結晶化の影響が調べられた。
【0030】
図4は、挙げられた技術(DHB、superDHB、およびNaClを含むSuperDHB)によって調製され、リフレクトロン・モードで取得されたmPEG−SS 2KのMALDI−TOF質量スペクトルを示す。図4の挿入図は、狭いm/z範囲の質量スペクトルの詳細を観察可能な分子イオンおよび対応するΔM値とともに示す。3つすべての質量スペクトルにおいて、Na付加イオンが最も顕著な種である。添加物のないDHBを用いた単純な調製でさえも、44Da間隔の3つのイオン群、それぞれNa付加イオン(最も強い種)、K付加イオン(Δm 38Da、またはNa付加イオンに対してΔm 16Da)、および[M+Na+K−H](Na付加イオンに対してΔm 39Da)に由来する第3の信号を示す。superDHBの使用によって、同じくNa付加イオン(最も強い)とK付加イオンとを含んだMALDI−TOF質量スペクトルが測定されたが、第3の種は観測できなかった。おそらく、この種は、EtOHを用いた再結晶化によって除去された。第3のマトリックス溶液は、カチオン化剤として作用するNaClを混合したsuperDHBであった。ここで漸く、mPEG−SS 2Kのプロトン化分子イオンを測定することができたが、Na付加イオンが依然としてより顕著なピークであったのに対して、K付加イオンは観測することはできなかった。NaClを含んだsuperDHBは、より単純なMALDI−TOF質量スペクトルを生じ、プロトン化分子イオンならびに依然として優勢なNa付加イオンを示した。質量スペクトルの分析がm/z 1477からm/z 2797に至るMMDを示した。他のポリマー・サンプル、mPEG−SS 5K、10Kおよび20KのMALDI−TOF質量分析のために、NaClを含んだsuperDHBが用いられた。図5に、得られた質量スペクトルが示される。リフレクトロン・モードで取得されたmPEG−SS 5Kの陽イオンMALDI質量スペクトルは、m/z 4075で始まってm/z 5703に至る、隣接したポリマー分子イオン間の質量差が44DaのNa付加イオン分布を示す。K付加体もプロトン化分子イオンも観測されなかった。mPEG−SS 10Kの質量スペクトルが、リフレクトロン・モードで分析されたmPEG−SS 2Kおよび5Kとは違って、リニア動作モードで取得され、44Da差を持つ一連のNa付加イオンが得られた。
【0031】
ポリマー種の分子イオン分布は、m/z 8950からm/z 11590に及ぶ。mPEG−SS 20KのMALDI−TOF質量分析が、同じくリニア動作モードで行われ、m/z 17800で始まってm/z 21450で終わる分離された信号が得られた。このm/z範囲において達成可能な質量分析分解能は、(ちょうど44Da離れた)ポリマー種の個別分子イオンを分離するためにはもはや十分でなかった。表2に、MALDI−TOF MSによって得られたMMD極大が要約される。以下のMMD極大が得られた:mPEG−SS 2Kに対して2191Da、mPEG−SS 5K 4870Da、mPEG−SS 10K 10150Da、およびmPEG−SS 20Kに対して19720Da。これらの値は、図1のリストにおける算出された平均分子質量とは異なる;mPEG−SS 2Kでは+200Da、mPEG−SS 5Kでは−118Da、mPEG−SS 10Kでは+140Da、mPEG−SS20Kでは−290Daの差を生じる。TOF質量分析器の分解能の減少ゆえに、MALDI−TOF質量分析の精度は、mPEG−SS 2K(±0.3%)からmPEG−SS 20K(±1.7%)まで低下した。
【0032】
検討されたmPEG−SS誘導体のMMD極大を比較すると、2つの方法(GEMMAおよびMALDI−TOF MS)の精度が、逆傾向にあることが認められた。MMDの増加とともに、ポリマーのGEMMA分析の精度は向上し、MALDI−TOF MSの精度は低下する。MALDI−TOF MSの精度低下は、TOF質量分析器の分解能の減少に基づくものである。GEMMAの精度向上は、1から3個のPEG鎖を含んだ多量体クラスターの検出に基づくもので、これがMMDの相対的な狭小化をもたらす。従って、低いMMDを持つPEGでは、MALDI−TOF MSを利用してより有意義なデータを得ることができ、一方でより高いMMDを有するPEGの分析に対しては、GEMMAがより適切な方法である。しかしながら、両方法ともに、会社によって公表された仕様、MALDI−TOF MSを用いて得られたMMD±10%、の範囲内にあるMMD極大をもたらす。MMDデータは、製品データシートによって提供され、適用された方法に関する情報は、www.sunbio.comで得られた。従って、MALDI−TOF MSによって得られたMMD極大(2190Da)は、mPEG−SS 2Kに対して1800から2200Daの公表仕様の範囲内にある。上述のように、mPEG−SS 2Kに対するMMD極大は、3nm粒径におけるμCPC検出器の機能的限界ゆえにGEMMA分析では得ることができなかった。mPEG−SS 5Kに対する4770Da(GEMMA)および4870Da(MALDI−TOF MS)のMMD極大も、3600から4400Daの会社仕様を満たす。mPEG−SS 10Kに対して、GEMMA分析では9760Da、MALDI−TOF分析では10150Daの極大が得られ、9000から11000DaのMMDに完全に適合した。また、mPEG−SS 20Kに対して取得されたMMD極大、18700Da(GEMMA)および19700(MALDI−TOF MS)も、18000から22000Daの仕様の範囲内にあった。
【0033】
mPEG−SS誘導体のキャラクタリゼーションのための第2のパラメータは、多分散度であり、表3にデータが要約される。会社によって公表された多分散度は、MALDI−TOF MSデータならびにGPCデータに基づくものであり、与えられた仕様は1.05〜1.1である。MALDI−TOFデータに基づく多分散度の算出は、MALDI−MSアプリケーション・ソフトウェア(Shimadzu Biotech Launchpad 2.7,Shimadzu Biotech Kratos Analytical,Manchester,UK)によってサポートされたのに対して、GEMMAデータに基づく算出は、他の式を用いることによって行なわれた。mPEG−SS 2KではμCPC(GEMMA検出器)の機能的限界ゆえにGEMMAデータを得ることができなかったので、MALDIデータだけから多分散度が算出された。MALDI−TOF MSは、1.02の多分散度を示した。mPEG−SS 5K、10Kおよび20Kに対して、多分散度は、MALDI−TOFならびにGEMMAデータから算出することができ、両方法およびすべての実験を通じて一貫した1.01の多分散度が得られた。算出されたすべての多分散度の値は、会社データと一致し、公表された限界値よりさらに低い。従って、すべてのmPEG−SSサンプルは、低い多分散度の値によって示唆される非常に低いMMDを提示する。
【0034】
【表3】

上記は、本発明を記載し、かつ例示するが、添付の請求項によって規定される本発明を限定することは意図されない。本出願に開示され、かつ請求されるすべての方法は、過度の実験を行うことなく本開示を踏まえて作り出し、かつ実行することができる。本発明の材料および方法が特定の実施形態に関して記載されたが、当業者には当然のことながら、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される材料および/または方法ならびに方法のステップまたはステップの順序に変化を加えることができる。より具体的には、本明細書に記載される薬剤は、化学的にも生理学的にも関連するいくつかの薬剤によって置き換えることができ、併せて同じかまたは同様の結果が達成されるであろうことは明らかであろう。
【0035】
【数1】

【0036】
【数2】

【0037】
【数3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール(PEG)サンプルの多分散度を測定する方法であって、該方法は、
a)異なった分子量の複数のPEGポリマーを含む該PEGサンプルを提供する工程であって、それぞれのPEGポリマーは、第1の末端および第2の末端を含み、該第1の末端は反応性官能基を含む、工程;
b)該PEGサンプルをイオン化して、複数のイオンを提供する工程;
c)該複数のイオンを還元して、中性または一価の種を提供する工程;
d)微分型移動度分析器(DMA)を用いて、該複数の中性または一価の種をそれぞれの種の電気泳動移動度直径(EMD)によって分離する工程;および
e)それぞれの種の該EMDを該PEGサンプルの該多分散度に関連づける工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記第2の末端は、メトキシ基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応性官能基は、スクシンイミジルスクシネート基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン化する工程は、前記混合物にエレクトロスプレーイオン化を受けさせる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記還元する工程は、前記中性または一価の種を両極性雰囲気に曝露する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記両極性雰囲気は、ポロニウム源によって生成される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記関連づける工程は、それぞれの中性または一価の種の前記EMDを既知の分子量のEMDに関連づける工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの中性または一価の種の前記EMDは、少なくとも約3nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記PEGは、前記混合物中で少なくとも1nMの濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記PEGは、前記混合物中で少なくとも0.2mMの濃度を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記中性または一価の種は、ユニマー、二量体、三量体、quadramerまたはそれらの組み合わせを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記中性または一価の種は、三量体またはquadramerを形成し、前記関連づける工程は、前記混合物中での前記PEGの分子質量分布(MMD)を算出する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記MMD算出は、5%以内の精度を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記精度は、2%以内である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ポリエチレングリコール(PEG)サンプルの分子量分布を測定する方法であって、該方法は、
a)異なった分子量の複数のPEGポリマーを含む該PEGサンプルを提供する工程であって、それぞれのPEGポリマーは、第1の末端および第2の末端を含み、該第1の末端は反応性官能基を含む、工程;
b)該PEGサンプルをイオン化して、複数のイオンを提供する工程;
c)該複数のイオンを還元して、中性または一価の種を提供する工程;
d)微分型移動度分析器(DMA)を用いて、該複数の中性または一価の種をそれぞれの種の電気泳動移動度直径(EMD)によって分離する工程;および
e)それぞれの種の該EMDを該PEGサンプルの該分子量分布に関連づける工程
を含む、方法。
【請求項16】
前記第2の末端は、メトキシ基を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記反応性官能基は、スクシンイミジルスクシネート基を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記イオン化する工程は、前記混合物にエレクトロスプレーイオン化を受けさせる工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記還元する工程は、前記中性または一価の種を両極性雰囲気に曝露する工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記両極性雰囲気は、ポロニウム源によって生成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記関連づける工程は、それぞれの中性または一価の種の前記EMDを既知の分子量のEMDに関連づける工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記中性または一価の種の少なくとも1つのEMDは、少なくとも約3nmである、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記PEGは、前記混合物中で少なくとも1nMの濃度を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記PEGは、前記混合物中で少なくとも0.2mMの濃度を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記中性または一価の種は、ユニマー、二量体、三量体、quadramerまたはそれらの組み合わせを形成する、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記MMD算出は、5%以内の精度を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項27】
前記精度は、2%以内である、請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−509469(P2012−509469A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536612(P2011−536612)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/064896
【国際公開番号】WO2010/059661
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【出願人】(509213990)
【Fターム(参考)】