説明

ポリエチレングリコール沈殿によるポリペプチド比溶解度の予測

ポリエチレングリコール(PEG)に基づく体積排除沈殿を行ってポリペプチドの比溶解度を予測するための方法が記載される。異なるポリペプチドを、互いに対するまたは参照に対するそれらの溶解度について試験することができる。単一のポリペプチドを、異なる実験条件下でのその比溶解度について試験することができる。溶解度の決定は、一連の濃度のPEGに対してポリペプチドの対数溶解度をプロットしたグラフに基づく比較によって行うことができる。更に、複数のポリペプチドを比溶解度差について視覚的にまたは自動でハイスループットスクリーニングするための方法が提供され、この方法では、実際の溶解度または各PEG濃度での各試料の実際の沈殿量を測定する工程を省くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、蛋白の特性決定の分野に関する。より詳細には、本発明は、蛋白の溶解度を予測する方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている2006年5月19日に出願された米国特許仮出願第60/801,862号に対する優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
ポリペプチドを含有する医薬組成物の処方における重要な局面は、調製時に使用すべきポリペプチドの溶解度を決定することである。溶解度を決定するための手順は、例えば、数ある操作が用いられ、試験すべき1つまたは複数のポリペプチドを十分な量で得ることが難しいので、多数のポリペプチドの溶解度を評価するために使用することは一般に容易ではない。
【0004】
ポリエチレングリコール(PEG)は、非毒性かつ非吸着性の合成された長鎖両親媒性ポリマーであり、多数の工業用途において広く使用されている。PEGは、ポリペプチドを沈殿させるために周囲温度で使用できるので、研究室環境または工業環境において有用な分子である。
【0005】
例えば薬剤の候補であるポリペプチドの溶解度を、発見または開発の初期段階で検定し、これにより問題のある溶解度を有し得るポリペプチドを開発の比較的初期の段階で、例えば商業スケールにする前に特定するためのハイスループットスクリーニング方法が必要とされている。更に、溶解度を試験するのに必要な出発物質の量を最少にすることは、入手可能なポリペプチドの量が非常に限られている場合などに有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、1つまたは複数のポリペプチドの比溶解度を予測するための方法であって、PEG体積排除(volume exclusion)を行ってポリペプチドを沈殿させることを含む方法に関する。この検定は、本明細書中では、「比溶解度検定」または「PEG沈殿検定」と呼ばれる。より詳細には、本方法によって検定される試験ポリペプチドを、既知の溶解度を有する1つまたは複数のポリペプチドと比較し、これにより時間や費用がかかる、試験ポリペプチドを産生する商業スケールにする前に、潜在的に困難な溶解度の問題を伴うポリペプチドを検出することができる。また、この方法を使用して、選択されたポリペプチドの様々な使用に適するパラメーターを特定することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、試験ポリペプチドの比溶解度を予測するための方法に関する。この方法は、溶液中に試験ポリペプチドを含有する1つまたは複数の試料を提供し、これにより試験試料を提供し、試験試料を異なる濃度のポリエチレングリコール(PEG)と接触させ、これにより沈殿試料を形成し、PEGと接触させた各試験試料の沈殿を測定し、沈殿試料中の試験ポリペプチドの沈殿量を、対応する条件下で分析した少なくとも1つの参照ポリペプチド試料の溶解度と相関させ、これにより参照ポリペプチド試料に対する試験ポリペプチドの溶解度を決定する、または異なる実験条件下での1つまたは複数の沈殿試料中の試験ポリペプチドの沈殿量を相関させ、これにより各実験条件下での試験ポリペプチドの比溶解度を決定することを含む。いくつかの実施形態では、試験ポリペプチドは、抗体もしくは抗体フラグメント、リガンドと結合し得る分子または可溶性受容体である。ある実施形態では、この方法はまた、各試料について測定した溶解度値の対数を、その試料のPEG濃度に対してグラフを作成し、得られた線を0%PEGまで外挿し、これによりポリペプチドに関する見かけの溶解度値が得られることを更に含む。試験ポリペプチドは、PEGに結合しない場合もある。ある実施形態では、試験ポリペプチドのPEG沈殿は可逆的である。PEG沈殿は、試験ポリペプチドの二次構造を変化させない場合もある。いくつかの実施形態の場合、分析すべき試験ポリペプチドの出発濃度は、得られた溶解度値に実質的に影響を及ぼさない。この方法はまた、温度を上昇させることにより、選択されたPEG濃度に対する溶解度値が増大する、または緩衝液にシュークロースを添加することにより、試験ポリペプチドの溶解度が増大する実施形態を包含する。この方法はまた、分子量の高いポリペプチド試料の対数溶解度値を、PEG濃度に対してプロットすることにより得られる曲線の勾配が、分子量の低いポリペプチドの曲線の勾配と比較して大きくなるように実施することができる。本発明のいくつかの実施形態では、参照は、既知の溶解度を有するポリペプチドである。いくつかの場合、既知の溶解度を有するいくつかのポリペプチドを参照として使用して、例えば、試験ポリペプチドの比溶解度を決定することができる標準曲線を確立する。場合により、1つまたは複数の参照ポリペプチドは、試験ポリペプチドと同様の種類であるように選択され、例えば、抗体である試験ポリペプチドの比溶解度を決定するときには、既知の溶解度を有する抗体を参照ポリペプチドとして使用することができる。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の沈殿試料の濁度を決定することによって、沈殿を検定する。いくつかの実施形態では、沈殿試料を遠心分離機にかけ、沈殿物の量を求め、上澄み中の蛋白の量を決定する、または沈殿物中の蛋白の量を決定する。
【0008】
別の態様では、本発明は、ほぼ同じ分子量を有する少なくとも1つの他のポリペプチドに対する、ポリペプチドの比溶解度を決定するための方法に関する。この方法は、少なくとも2つの異なるポリペプチドを同じ濃度で含有する試料を提供し、各ポリペプチド試料を一連の濃度の試験PEGと接触させ、ポリペプチド試料を沈殿させる最低試験PEG濃度を求め、これにより各ポリペプチドを沈殿させるPEGの最小割合を求め、PEGの最小割合を、他のポリペプチドそれぞれに対する各ポリペプチドの溶解度と相関させることを含む。この方法のいくつかの実施形態では、検定の1つまたは複数の操作は、96ウェルプレートフォーマットにおいて行われる。この方法のいくつかの実施形態では、PEG濃度の範囲は約2%〜16%である。試料の乳白光を生じさせるPEGの最小試験濃度を決定することにより、このプレートまたは他のマルチ試料フォーマットを視覚的に読み取ってもよい。場合により、このプレートにおける試料の乳白光を自動プレートリーダーを用いて読み取る。
【0009】
特記しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野において通常の知識を有する者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本発明を実施または試験する際に、本明細書に記載されるものと同様または同等の方法および材料を使用することができるが、好適な方法および材料を以下に記載する。本明細書に言及される刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれている。更に、材料、方法および実施例は、単に例示的なものであって、制限的であることを意図するものではない。
【0010】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明、図面および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】フーリエ変換赤外分光(FTIR)による、PEG−10KとP1の結合試験の結果を示すグラフである。
【図2】FTIRによる、P1の二次構造分析の結果を示すグラフである。
【図3】PEGによるポリペプチド沈殿が完全に可逆的であるかどうかを試験するために設計された実験の結果を示す棒グラフである。
【図4】PEG−10KおよびPEG−20Kによる溶解度予測の正確性を比較する実験の結果を示すグラフである。代替の分子量を有するPEGを用いた体積排除法の有効性を比較するために、PEG−10KおよびPEG−20Kを用いて溶解度を試験した。
【図5】図5Aは異なる分子量を有するポリペプチドを使用して、ポリペプチドのサイズが状態図に及ぼす影響を試験した実験の結果を示すグラフである。図5Bは、ポリペプチドの分子量と、溶解度対PEG沈殿割合を示す(図1および図2におけるような)グラフ中の線の勾配との関係を示すグラフである。
【図6】図6AはP4についてのポリペプチド溶解度予測の再現性を示すグラフである。実験は3回行った。20mMコハク酸塩は、P4用の緩衝液処方物である。図6BはP1についてのポリペプチド溶解度予測の再現性を示すグラフである。実験は3回行った。50mMヒスチジンは、P1用の緩衝液処方物である。
【図7】図7Aは20mMコハク酸塩(pH6.0)中のP4の、PEGによって測定した溶解度に対して、ポリペプチド濃度が及ぼす影響を示すグラフである。初期ポリペプチド濃度は、5.5mg/mL(四角)および11mg/mL(菱形)である。図7Bは20mMコハク酸塩(pH6.0)中のP1の、PEGによって測定した溶解度に対して、ポリペプチド濃度が及ぼす影響を示すグラフである。初期ポリペプチド濃度は、5.5mg/mL(四角)および11mg/mL(菱形)である。
【図8】図8Aは20mMコハク酸塩(pH6.0)中のP4の予測溶解度に対して、可変温度(菱形:20℃、四角:0℃)が及ぼす影響を示すグラフである。図8Bは20mMコハク酸塩(pH6.0)中のP1の予測溶解度に対して、可変温度(菱形:20℃、三角:0℃)が及ぼす影響を示すグラフである。
【図9】P1の溶解度推測に対して、pH(三角:20mMコハク酸塩、pH6.0;四角:10mMリン酸塩、pH7.0;菱形:10mM Tris、pH8.0)が及ぼす影響を例証するグラフである。
【図10】0℃および20℃でのPEG−10KによるP1の予測溶解度のpHプロファイルのグラフである。
【図11】10mg/mLでP1を用いたPEG沈殿法の性能に対して、緩衝液のイオン強度が及ぼす影響を例証するグラフである。
【図12】図12AはPEG沈殿緩衝液にNaClを添加する場合に、P5の見かけの溶解度に対してシュークロースが及ぼす影響を検定する実験の結果を示すグラフである。図12BはPEG沈殿緩衝液にNaClを添加しない場合に、P5の見かけの溶解度に対してシュークロースが及ぼす影響を検定する実験の結果を示すグラフである。
【図13】PEG沈殿法を用いて、モノクローナル抗体の見かけの溶解度を決定するべく、ハイスループットスクリーニング(HTS)において使用した96ウェルプレートの写真の複製である。
【図14】PEG沈殿法により予測された比溶解度と、90mg/mLの濃度でのモノクローナル抗体溶液の乳白光との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に開示された方法は、ポリペプチドの特性、例えば溶解度の評価に関する利点を付与する。本方法は、限られた数の操作を行って、抗体または抗体フラグメントなどのポリペプチドの比溶解度を検定する。操作数を制限することは有利である。その理由は、例えば、操作数を制限することによりポリペプチドまたはポリペプチド群についての溶解度の測定値を得るための時間量を低減することができ、かつ、操作が少ないと処理中のポリペプチド損失量が最小限に抑えられるからである。
【0013】
比溶解度検定
本発明は、ポリペプチドの比溶解度を推測するための比較的迅速かつ効果的な方法(比溶解度検定)に対する希求に関する。一般に、この方法は、比溶解度を検定するための方法においてPEG沈殿を採用するが、これは、溶解度検定用の出発ポリペプチドの量を、膜による濃度測定手法を用いて実際の溶解度を測定する従来の手法におけるおよそ200mgから、約10mg〜約30mg(例えば、約5mg〜約100mg、約5mg〜約50mgまたは約10mg〜約50mg)まで低減することができる。この検定方法は、大量のポリペプチドの使用を余儀なくする。
【0014】
いくつかの実施形態では、この検定は、選択された濃度のPEG(PEG沈殿系)を、溶液中に目的のポリペプチド(試験ポリペプチド、選択された蛋白)を含有する試験試料に添加し、各PEG濃度でのポリペプチドの飽和濃度を求め、同じ検定条件下で試験した少なくとも1つの更なる(すなわち、異なる)ポリペプチドと、PEG濃度0での飽和線の外挿値を比較することを含む。他の実施形態では、試験ポリペプチドを、異なる緩衝液成分、pHまたは温度などの2つ以上の異なる条件下で調製し、様々なPEG濃度で溶解度について試験する。沈殿が観察される試料の上澄み中のポリペプチド濃度を測定することによって得られる飽和濃度を、対応するPEG濃度に対して、対数スケールでプロットすることができる。適合された線のY切片は、PEGが0でのポリペプチドの見かけの溶解度を示し、線の勾配も算出することができる。見かけの溶解度は、膜による濃度測定手法を用いて求めた実際の達成可能な溶解度とは非常に異なる可能性があるが、見かけの溶解度を利用して、1つのポリペプチドの、別のポリペプチドに対する比溶解度を比較することができる。適合された線の勾配は、PEGおよびポリペプチドの分子サイズに関係しているが、pH、温度および緩衝液には無関係である。
【0015】
1つの実施形態では、本発明は、ポリペプチド(例えば、試験ポリペプチド)の比溶解度を予測するための方法を提供し、本方法は、溶液中に試験ポリペプチドを含有する少なくとも1つの試料を提供し、異なる濃度のポリエチレングリコール(PEG)と試験ポリペプチドの各試料を接触させ、所与のPEG濃度での各試料の比溶解度を(例えば、沈殿量を試験することによって)求め、試験ポリペプチドの溶解度を、対応する条件下で分析した参照ポリペプチド試料または第2の試験ポリペプチド試料の溶解度と比較し、これにより参照ポリペプチドまたは第2の試験ポリペプチドに対する試験ポリペプチドの比溶解度を決定することを含む。本方法を用いて、更なる試験ポリペプチド(例えば、3、4、5、10、20、50、100、1000またはそれ以上)を比溶解度について試験してもよい。異なる実験条件下で調製または試験した試験ポリペプチドの複数の試料の比溶解度を比較し、これにより第2のポリペプチドに対する試験ポリペプチドの溶解度または一連の実験条件を決定する場合もある。ある実施形態では、ポリペプチドは蛋白であり、例えば、抗体、抗体フラグメント、リガンド結合分子または可溶性受容体である。2種類以上のポリペプチドを検定で使用することができ、または検定は、同一もしくは同様の種類全てであるポリペプチド、例えば、全ての抗体を利用してもよい。
【0016】
本発明は更に、各試料について測定した溶解度値の対数を、その試料のPEG濃度に対してグラフを作成し、得られた線を0%PEGまで外挿し、これにより所与のポリペプチド試料についての見かけの溶解度値または試験されたポリペプチドについての一連の溶解度値が得られることも含む、本明細書に記載されるような方法に関する。この方法のいくつかの態様において、ポリペプチドはPEGに結合しておらず、PEG沈殿は可逆的であり、PEGはポリペプチドの二次構造を変化させない、または分析すべきポリペプチドの出発濃度は、得られた溶解度値に実質的に影響を及ぼさない。本方法の更なる態様は、所与の(選択された)PEG濃度に対する溶解度値を増大させるために温度を上昇させること、またはポリペプチドの溶解度に影響を及ぼす(例えば、増大させる)ために緩衝液にシュークロースを添加することを含む。
【0017】
更に別の態様では、ポリペプチドの比溶解度を予測するための方法は、分子量の高いポリペプチド試料の対数溶解度値を、PEG濃度に対してプロットすることによって得られる曲線の勾配が、分子量の低いポリペプチド試料の曲線の勾配と比較して大きくなるように、実施されかつ分析される。
【0018】
別の実施形態では、本明細書において提供される方法はまた、異なるポリペプチドを同じ濃度で含有する複数のポリペプチド試料を提供することを含むこともでき、一連の濃度のPEGと、異なるポリペプチドそれぞれを混合し、異なるポリペプチドそれぞれを沈殿させるPEGの最小割合(すなわち、試験されたPEG濃度の最小割合)を求め(割合または濃度として表すことができる最小沈殿PEG濃度(MPPC))、他のポリペプチド試料に対するポリペプチドの溶解度とMPPCを相関させる。
【0019】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するポリペプチド試料は、96ウェルプレートフォーマットにおいて分析される。一般に、PEG濃度の範囲は、約2%〜16%である。結果として試料ウェル中に可視乳白光を生じさせるPEGの最小(最低)濃度を決定することによってプレートを視覚的に読み取ることができる。または自動プレートリーダーもしくは他の好適な装置を用いて、プレート内の試料ウェルの乳白光を読み取ることができる。
【0020】
可変パラメーターの溶解度検定
いくつかの実施形態では、ポリペプチドの比溶解度を決定するためのPEG検定を用いて、異なる検定条件下で、すなわち、溶解度に影響を及ぼし得る異なるパラメーターを用いて、選択されたポリペプチドの比溶解度を検定する。この種の検定は、例えば、ポリペプチドの溶解度が、貯蔵および臨床化合物としての使用などの特定目的に適するパラメーターを特定するのに有用である。
【0021】
この検定において変更できるパラメーターの一例は、緩衝液の組成である。試験可能な緩衝液としては、コハク酸塩緩衝液、ヒスチジン緩衝液またはリン酸塩緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。異なる緩衝液の存在下でポリペプチドの比溶解度を試験することは、ポリペプチドの特定用途に適する緩衝液を特定するのに有用な場合もある。
【0022】
ポリペプチドを含有する溶液の密度もまた、溶解度に影響を及ぼし得る。したがって、検定を用いて試験できるパラメーターは、溶液の密度または他の特性に影響を及ぼし得る分子の濃度の変化が、溶解度に及ぼす影響である。このような分子の例はシュークロースである。検定で使用できるシュークロースの濃度は、例えば、約0.5%〜10%である。比較的不活性であり、かつ、溶液の密度に影響を及ぼし得る他の分子も使用することができ、例えば、デキストランまたはグリセロールである。
【0023】
ポリペプチドの比溶解度に対する影響について検定できる別のパラメーターは、可変イオン強度である。試験できるイオン強度の非限定例としては、Na、Ca2+、K、Co2+、Cu2+、Fe2+、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Al3+、Fe3+などのカチオン、またはCl−1、NO、PO3−、SO2−、CO2−もしくはC(酢酸塩)などのアニオンが挙げられる。
【0024】
比溶解度の検定において変更できる更なるパラメーターは温度(例えば、約0℃〜約30℃、約5℃〜約40℃、約5℃〜約37℃、約15℃〜約37℃または約25℃〜約37℃)である。検定において変更および試験できる別のパラメーターはpH(例えば、約pH5.0〜約pH8.5、約pH5.5〜約pH8.0、約pH5.5〜約pH7.5および約pH6.0〜約pH7.5)である。
【0025】
検定で使用するポリペプチドの好適な濃度としては、制限なく、約1mg/mL〜約200mg/mLが挙げられる。
【0026】
本明細書で使用するとき、ポリペプチドの「実際の溶解度」とは、溶液に溶解し得るポリペプチドの最大量を指し、この測定は、PEGなどの体積排除剤の不在下で行われる。特定条件は、例えば、温度、緩衝液、イオン強度、pH、溶液密度またはこれらの組み合わせである。
【0027】
本明細書で使用するとき、ポリペプチドの「非溶解度」は、あるポリペプチド(一般には、試験ポリペプチド)を第2のポリペプチドまたはポリペプチド群と比較した溶解度、または場合によって、ある一連の条件(パラメーター)下でのポリペプチドペプチドを1つまたは複数の異なる条件下での同ポリペプチドと比較した溶解度を指す。実際の溶解度とは異なり、比溶解度は、数値を持つのではなく、むしろ、緩衝液、イオン強度、pH、溶液密度などの異なる条件またはこのような条件の変形の組み合わせの下で、あるポリペプチドを、既知の溶解度または比溶解度を有する参照ポリペプチド標準物などと比較するために用いられる。
【0028】
本明細書で使用するとき、ポリペプチドの「見かけの溶解度」または「予測溶解度」は、ポリペプチド試料のPEG濃度に対して対数溶解度値をプロットするときにグラフ上に生じる曲線を外挿することによって算出される数値であり、外挿は、対数溶解度を表す軸まで行うものであり、ポリペプチド試料のPEG濃度が0であるときのポリペプチド溶解度に対応するデータ点を表している。
【0029】
見かけの溶解度値は、ポリペプチドとそれ自身との溶液中での相互作用を反映する成分を包含し得る。これは、「活性項(activity term)」と呼ばれ、体積排除検定から取った線を外挿し、見かけの溶解度値を不正確に高くすることによって、得られる見かけの溶解度値を不当に増大させる可能性がある。これは、一般には、アルブミンなど、比較的高い溶解度を有するポリペプチドの場合であり、六方最密充填構造の剛球体の充填密度に基づき、677mg/mLの最大実際溶解度を有する。しかしながら、PEG沈殿実験において、その数は、見かけの溶解度が活性項を包含しているために、はるかに高く見える可能性がある。本明細書に開示される、比溶解度を決定するための方法は、実際の溶解度の正確な算出を提供するのではなく、同じ条件下でポリペプチドの溶解度を互いに比較するまたは異なる実験条件下で同じポリペプチドをそれ自身と比較するための方法を提供する。
【0030】
比溶解度検定の適用の一例において、あるポリペプチドまたは溶解度が不明であるポリペプチドを、低い溶解度を有することが知られているポリペプチド、例えば、実施例におけるP5抗体と比較する。溶解しにくいポリペプチドと同様の溶解度を有する蛋白またはポリペプチドの溶解度も低いであろう。このような情報は、例えば、このような蛋白またはポリペプチドを用いた用途に適する条件を決定するのに有用であり、または低い溶解度が許されない用途のための蛋白またはポリペプチドを選別するために使用することができる。故に、2つのポリペプチドに関するPEG沈殿法の結果が酷似している場合、または試験ポリペプチドが、既知の低溶解度を有するポリペプチドよりも低い比溶解度を示す場合、比溶解度検定を用いて、大規模生産において同様の溶解度に関する問題を引き起こしやすいポリペプチドを識別することができる。
【0031】
ポリペプチドの沈殿
本明細書に開示された比溶解度検定は、1つまたは複数の選択された(例えば、試験)ポリペプチド(例えば、少なくとも2つの選択されたポリペプチド、少なくとも3つの選択されたポリペプチド、少なくとも5つの選択されたポリペプチド、少なくとも10の選択されたポリペプチド、または10より多いポリペプチド)のPEG沈殿を含む。1回の検定で試験できるポリペプチドの数は、一般には、利用可能なフォーマット(例えば、マルチウェルプレートまたはプリントグリッド)および妥当な時間内にポリペプチドの数に関する工程を実施する能力により制限される。PEG沈殿は、選択されたポリペプチドを含有する水溶液にPEGの溶液を添加し、結果としてPEG/ポリペプチド溶液を生成し、溶液中においてポリペプチドを沈殿させるのに十分な時間、典型的には30分〜60分間、PEG/ポリペプチド溶液をインキュベートすることによって行われる。様々な時間を採用することができ、当業者にとって明白であろう方法を用いて経験的に決定してもよい。検定成分(ポリペプチドおよびPEGを含む)は、典型的には、例えばピペットで取るまたは振盪することによって室温で混合され、沈殿物を測定するのに十分な時間、典型的には約30分〜60分が経過するまで所望の温度でインキュベートされる。沈殿したポリペプチドを(例えば、遠心分離によって)除去することができ、上澄みまたは沈殿物中に残留するポリペプチドの量を求め、そのポリペプチドに関する溶解度を算出する。あるいは、沈殿物を収集する代わりに、例えばPEG/ポリペプチド溶液の乳白光(例えば、濁度)を検定することによって、沈殿を検定する。時には、遠心分離によって収集した沈殿物の量を決定すること、または収集した沈殿物中の蛋白の量を決定することによって沈殿を検定する。
【0032】
乳白光を検定する方法は、当技術分野において既知であり、例えば、UV/可視分光光度計によって400nm以上の波長での吸光度を検定すること、光電濁度測定(turbidometry)(例えば、自動濁度測定)の他の方法、目による単純な視覚化、直角光散乱または蛍光などが含まれる。比溶解度検定での使用に適するPEGの例としては、制限なく、PEG−10K、PEG−20K、またはおよそPEG4〜30Kの範囲内のものが挙げられる。一般には超高純度PEGを使用するが、PEG調製物の他の品質も好適であり得る(例えば、化学グレード、商業グレードまたは医薬グレード)。
【0033】
ポリペプチド
本明細書に記載される方法は、一般に、ポリペプチドフラグメントを含むポリペプチドの比溶解度を試験するために使用される。しかしながら、この方法は、PEGを用いて沈殿され得るあらゆる種類の分子の比溶解度を試験するために使用することができる。一般に、本明細書に記載される方法を用いて比溶解度について試験されるポリペプチドは、単離または精製された蛋白またはポリペプチドである。このような分子は、一般には、蛋白またはポリペプチドが得られる細胞または組織供給源からの細胞物質または他の汚染ポリペプチドを実質的に含まないか、または試験すべき分子が化学合成されるとき、この分子を含有する試料は、化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。「実質的に含まない」という語句は、選択された蛋白もしくはポリペプチドではない蛋白もしくはポリペプチド(本明細書中では、「汚染ポリペプチド」とも言う)、または化学前駆体を約30%、20%、10%または5%(乾燥重量による)未満有する、選択された蛋白またはポリペプチドの調製を意味する。選択された蛋白またはポリペプチドは、組み換え手段によって産生される場合、一般には、培養培地も実質的に含まない。すなわち、培養培地は、この蛋白またはポリペプチド調製物の容量の約20%未満、約10%未満および約5%未満を占める。
【0034】
本明細書で使用するとき、「ポリペプチド」は、長さまたは翻訳後修飾にかかわらず、アミノ酸の鎖を意味し、例えば、蛋白、ペプチド、蛋白またはポリペプチドフラグメントおよび共役蛋白を包含する。この用語はまた、非天然アミノ酸を含有するポリペプチドも包含する。ポリペプチドは、例えば、分泌系組み換えポリペプチド、天然供給源から単離されたポリペプチド、非分泌系組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドなどのあらゆる供給源から得ることができる。検定で使用するのに適するポリペプチド濃度は、約0.5mg/mL〜10mg/mL、約10mg/mL〜100mg/mL、および約100mg/mL〜300mg/mLである。検定で使用する蛋白は、変性している、または二次もしくは三次構造(例えば、天然構造または単離中などに誘発される構造)を有する可能性がある。試料中の不純物が目的のペプチドよりも実質的に低溶解性である場合、見かけの溶解度は過小評価されるであろう。逆に、不純物が目的のペプチドよりも実質的に高溶解性である場合、目的のペプチドの見かけの溶解度は過大評価されるであろう。
【0035】
比溶解度の決定
ポリペプチドまたは一連のポリペプチドの比溶解度を決定するために、沈殿の濁度または他の測定項目(試料のPEG沈殿後の沈殿物または上澄みの蛋白含有量など)を、変数(PEG濃度、pH、イオン強度、緩衝液のモル濃度、シュークロース濃度またはこれらの組み合わせなど)に対してプロットすることができる。例えば、選択されたポリペプチドまたは一連のポリペプチドのY切片を、同じ条件下で検定した1つまたは複数のポリペプチドのY切片と比較し、ポリペプチドの溶解度を(例えば、溶解度の低い方から高い方へ)ランク付けし、これにより比溶解度の測定を行う。比溶解度を決定する他の方法が本明細書に記載されており、乳白光を視覚的に評価すること、および、このような評価と比溶解度とを相関させることが含まれる。
【0036】
本方法の検証
(i)温度(1つまたは複数のポリペプチドの溶解度を増大させた)、
(ii)ポリペプチドの出発濃度(約1mg/mL〜約100mg/mLの濃度範囲では比溶解度の測定に影響を及ぼさなかった)、
(iii)pH(pHがpH8.0からpH6.0へ低下すると、溶解度を増大させた)、
(iv)緩衝液のイオン強度(イオン強度が増大すると、溶解度を低下させた。また、塩(NaCl)を添加することによって補償された)、および
(v)シュークロース(比較的低い溶解度を有するポリペプチドの溶解度でさえも向上させた)
などの実験パラメーターにおける変化の予測結果を比較することによって、比溶解度検定を検証した。
【0037】
これらの結果は全て、当技術分野で既知の方法を用いてパラメーターおよび溶解度を変更することに関連する知見と一致した。故に、比溶解度検定を用いて、他の方法により測定した溶解度と一致するポリペプチドの溶解度についての有用な情報を得ることができる。
【0038】
故に、本明細書に開示される比溶解度検定の結果は、検定条件が変更される場合の予測結果と一致し、これは更に、比溶解度を決定するPEG沈殿方法が、10倍の量の出発ポリペプチドを必要とし得る実際の溶解度測定に代わる好適な方法であることを示唆している。
【0039】
比溶解度検定を用いたハイスループットスクリーニング(HTS)
96ウェルフォーマットまたは同時分析のために複数の試料を(例えば、ウェルまたはプリントグリッド内に)収容するように設計された他のフォーマットを採用することによって、本明細書に記載される比溶解度検定を、選択されたポリペプチドの大規模分析方法において使用することができる。
【0040】
このような検定の例において、同様の分子量を有する異なるポリペプチド(例えば、分子量がほぼ等しい場合、溶解度のグラフにおける線の勾配が同じであろう異なる抗体)を同じポリペプチド濃度で懸濁し、96ウェルフォーマットまたは疎水性グリッドが印刷されたスライドなどの他のマルチウェルフォーマットにおいて、一連のPEG濃度(例えば、1〜20%)と混合し、沈殿が生じるのに十分な時間インキュベートし、各ポリペプチドを沈殿させる最低PEG濃度について視覚的にスクリーニングする。次いで、最低PEG濃度を、ポリペプチドの概算比溶解度と相関させる。
【0041】
このフォーマットは、試料が目に見えて曇り始めるまたは不透明になり始めるのを観察する(例えば、濁度を検定する)ことによって検定するように、ポリペプチドが沈殿し始めるPEGの概算濃度を決定することによって複数のポリペプチド試料を互いに比較して分析することを可能にする。故に、この技術は、他の技術において行われるような、沈殿物の遠心分離や上澄みでの濃度の読み取りの必要性を省くことができる。しかしながら、本方法のいくつかの場合には、このような方法(例えば、遠心分離や濃度の読み取り)を使用することもできる。
【0042】
比溶解度についてのハイスループット検定(比溶解度について一連のポリペプチドをスクリーニングするために使用する検定など)の結果を分析するために、(試料ウェルにおける乳白光を検査することにより)濁度を視覚的にスクリーニングすることができ、またはその代わりに、400〜600nmの範囲、例えば、500nmで測定を行うUV/可視分光光度計を用いてプロセスを自動化することができる。
【0043】
本明細書で使用するとき、「乳白光」という用語は、検出可能な濁度またはポリペプチド溶液(PEG/ポリペプチド溶液など)が沈殿物を含有することを示す他の視覚的な指標を意味する。乳白光は、人間の目では検出できない場合もある。このような場合、試料(例えば、ハイスループットスクリーニング試料)の分析は、可視分光光度計または試料の吸光度を検出するための同等手段を用いることによる分光光度法(例えば、自動分光光度法)などのより感度が高い方法を用いて行うことができる。
【実施例】
【0044】
以下の実施例により、本発明を更に例証する。実施例は、例証のためだけに提供されている。実施例は、本発明の範囲または内容をいかようにも制限するものと解釈すべきではない。
【0045】
(実施例1)
ポリペプチドのPEG沈殿を行うための一般的な方法
以下に記載される実験で使用するPEGは全てFluka Chemical Corp.(Ronkonkoma、NY)から購入した。緩衝液にPEGを溶解することにより、測定したpHに有意な変化が生じることが観察された:20mMコハク酸塩緩衝液に溶解した40%PEG−10Kを使用すると1pH単位も変化した。このpHの変化は、PEG濃度の増大と共にpHが徐々に上昇することによって、溶解度曲線の勾配を変化させることができた。故に、40%PEG−10K原液のpH値は、PEGを緩衝液に溶解した後に調節した。
【0046】
抗体原液を、選択された緩衝液にポリペプチドを透析することによって調製し、緩衝液で10mg/mLまたは5mg/mLに希釈した。ポリペプチド溶液と40%PEG−10K溶液とのアリコートを1.5mLのエッペンドルフチューブに添加し、表1に従って最終容量を350μlにし、完全に混合した。
【0047】
【表1】

【0048】
全ての溶液を、少なくとも30分間、標的温度で平衡させた。一定のポリペプチド対PEG比で沈殿が生じるのが観察された。全ての混合物を遠心分離機にかけて、ポリペプチド沈殿物を分離し、280nmおよび320nmで紫外分光法および可視分光法により上澄みを検定した。試料の温度は、インキュベーションおよび遠心分離プロセスの間中、20℃または0℃(氷水浴中)に維持した。0℃の水は熱容量が高いので、温度変動を低減するために0℃の氷水浴を選択した。溶解度図をプロットし、PEG濃度の関数として対数線形スケールで飽和溶解度データを用いて指数関数により適合させた。
【0049】
(実施例2)
ポリペプチド−PEG相互作用に関する検定
目的のポリペプチド(選択されたポリペプチド)がPEGと相互作用したかどうか、故に、比溶解度検定においてPEGと相互作用し、検定結果の分析に悪影響を及ぼすかどうかを検査するために、結合試験を行った。2つの小さなカラムを、各々に0.5mLのMabSelect(商標)ProA樹脂(GE Healthcare、Piscataway、NJ)を充填して準備した。両方のカラムを10mLの10mMリン酸塩(pH7.0)で洗浄し、エタノールを除去した。同じ緩衝液に溶解した30mg/mLの抗体(P1)を2mL、各々のカラムに添加し、フロースルーをカラムに再充填して最大結合を保証した。次いで、各カラムを10mLの結合緩衝液(10mMリン酸塩(pH7.0))で洗浄し、未結合のポリペプチドを除去した。次いで、50mMヒスチジン(pH6.0)に溶解した20%PEG−10Kを一方のカラムに添加し、その後、10mLの同緩衝液で洗浄した。各カラム内の樹脂を、1mLの水に懸濁し、各懸濁液を10mLの凍結乾燥バイアルに移した。2つのバイアルそれぞれの試料を凍結乾燥した。以下の3つの試料をフーリエ変換赤外分光(FTIR)を用いて分析した:PEG−10K粉末、PEGと共にインキュベートした凍結乾燥ProA−mAb樹脂、およびPEGと共にインキュベートしていない凍結乾燥ProA−mAb樹脂。3mgの各粉末試料を200mgのKBrと混合し、ダイプレスを用いて4トンの圧力で押し固めて13mmのディスクにした。MB FTIR分光光度計(ABB Bomen Inc.、Quebec、Canada)を用いてKBrペレットのフーリエ変換赤外分光(FTIR)分析を行った。FTIRは、ポリペプチドによる様々な赤外光波長の吸収を測定することによって有機物質を識別するために使用する分析技術である。赤外光の吸収は吸収帯を作り出すが、これらは、特定の分子成分および構造に特有である。2cm−1の解像度で行った合計256回のスキャンの平均を取り、各スペクトルを得た。データ獲得の間、分光光度計を乾燥した空気で連続的にパージし、大気水のスペクトル寄与を排除した。図1の結果が示すように、PEGはP1とは結合しない。共役ポリペプチドは、比溶解度検定を用いた試験を意図しているが、選択されたポリペプチドと共役した分子はPEGと相互作用してはならない。この実施例に記載される方法は、分子とのPEGの相互作用について試験するべく、当技術分野において既知の方法で改変することができる。
【0050】
(実施例3)
ポリペプチドにおける構造変化についての検定
PEG沈殿手順中にポリペプチドにおける構造変化が生じるかどうかを判断するために、PEGと接触していない水性P1抗体を、PEG技術により沈殿させたP1抗体と並行して分析した。50mMヒスチジン(pH6.0)に溶解した10mg/mLのP1を、40%PEG溶液を添加して最終PEG濃度を12%にすることによって沈殿させ、遠心分離により沈殿物を収集した。沈殿したポリペプチドおよび30mg/mLのP1溶液を、CaF窓を備えたBioCell液体セル(Biotools,Inc.、Wauconda、IL)内に充填し、ABB Bomen MB FTIR分光光度計によって測定した。スペクトルを水の寄与について補正し、9点平滑化関数で平滑化し、正規化し、アミドI領域における第2誘導体化により分析した。図2に示すように、ポリペプチドのPEG沈殿は、ポリペプチドの二次構造における変化を誘発しなかった。この結果は、当技術分野の知識に基づく予想と一致しており、故に、PEG沈殿法がポリペプチドの比溶解度を決定するのに有用であることを確認するものである。
【0051】
(実施例4)
PEG沈殿法の可逆性についての分析
PEG沈殿法(比溶解度検定)の検証には、沈殿で得られた上澄み中のポリペプチド含有量を測定することによって生成される体積排除曲線が、可溶性ポリペプチドおよび沈殿ポリペプチド間の平衡から得られることが必要である。平衡は、反応中、ポリペプチドの固相と水相との間には正味の変化がないことを示しており、固相が水相に戻ることができる(「可逆性」)ということに依存している。開示した方法の可逆性を試験するために、PEGにより沈殿されたP1抗体を再溶解し、上澄みを再定量して、出発ポリペプチドの量と比較した。50mMヒスチジン(pH6.0)に溶解した10mg/mLのP1抗体1mLを、同緩衝液に溶解した40%PEG−10Kを添加して最終PEG濃度を14%にすることによって沈殿させた。UV−可視分光光度計を用いて上澄み濃度を測定した。次いで、2mLの50mMヒスチジン(pH6.0)を混合物に添加し、沈殿物を完全に溶解し、遠心分離機にかけ、上澄み中のポリペプチドの濃度を測定した。濃度と容量とを乗算することにより、全可溶性ポリペプチドの量を算出した。図3のデータに示すように、再溶解させた後に回収したP1抗体の量は、開始時の量よりも著しく低下しておらず、これは、本方法が完全に可逆性であることを示しており、この検定要件を満たすことを実証している。
【0052】
(実施例5)
PEG分子量の影響
様々な分子量のPEGによる体積排除の有効性を比較するために、PEG−10KおよびPEG−20Kを用いて溶解度を試験した(図4)。50mMヒスチジン緩衝液(pH6.0)中に懸濁したP1を出発ポリペプチドとして使用し、実験を20℃で行った。10mg/mLのP1の沈殿には、PEG−10K濃度(約8.5%以上)と比較してわずかに低い濃度のPEG−20K(約7%以上)が必要である。その理由は、PEG−20Kの方が蛋白沈殿効率が高いからである。
【0053】
いずれの種類のPEGでも、勾配の差にかかわらず同様のY切片が得られ、これは、いずれの種類のPEGも同様の見かけの溶解度値を与えることを示している。高粘度のPEG−20K原液は、試料沈殿中の処理するのが困難であるため、後続の研究にはPEG−10Kを選択した。
【0054】
(実施例6)
ポリペプチドの分子量の影響
様々な分子量を有する更なるポリペプチドを使用して、ポリペプチドのサイズが、比溶解度検定を用いた溶解度の測定に及ぼす影響を試験した。図5Aは、試験した各ポリペプチドの得られた曲線を開示している。その後、各ポリペプチドについてのそれぞれの線の勾配をポリペプチドの分子量に対してプロットした。得られたグラフ(図5B)は、ポリペプチドのサイズが大きくなると、勾配が大きくなることを示している。
【0055】
PEGにより誘発されるポリペプチド沈殿の方法を用いた場合のいくつかの顕著な特徴は、図4を参照して理解することができる。4679mg/mLおよび5223mg/mLの見かけの溶解値は、切片によって推測されたものであり、不正確に高い。アルブミンの推定最大溶解度が677mg/mLであることが報告されており、すなわち、六方最密充填構造の剛球体の充填密度に基づき、1mLの容量に、667mgをはるかに超える蛋白を充填することは立体的に不可能である(AthaおよびIngham、J.Biol.Chem.256、12108〜12117頁(1981年))。AthaおよびInghamは、高濃度のポリペプチドは、結果として、活性に関連する項を包含する切片を生じさせるので、実際の溶解度限界値を超えることを指摘している。したがって、高可溶性ポリペプチドについてのデータの解釈には注意を払うべきである。外挿した見かけの溶解度は、実際の溶解度を表していない。故に、PEG沈殿方法は、以下の実験においては定量的ではなく、定性的であると考えるべきであり、すなわち、単一のポリペプチドの実際溶解度を正確に決定するための方法を用いるのではなく、この方法を使用して1つのポリペプチドを別のポリペプチドと比較することができる。
【0056】
(実施例7)
比溶解度検定の再現性
2つの異なるモノクローナル抗体P4(20mMコハク酸塩(pH6.0)中)およびP1(50mMヒスチジン(pH6.0)中)の両方を使用して、実施例1に記載の手順を用いた比溶解度検定の再現性を試験した。溶解度の測定は、3回、別々の日に行った(図6Aおよび図6B)。両方の温度で、両方のモノクローナル抗体について、溶解度予測の良好な再現性が観察された。故に、本明細書に開示された方法によれば、複数回試験した同じポリペプチドのポリペプチド溶解度について再現可能な結果が得られる。この再現性は、異なる温度(すなわち、最初の温度は2回試験して一貫した結果が得られ、第2の温度は2回試験して一貫した結果が得られた)でPEG沈殿を行ったときにも観察された。これらの結果は、PEG沈殿法を用いて溶解度を決定する上で著しい検定間の変動がないことを示している。この特徴は、商業用途などを対象とする比溶解度検定のような検定にとって重要である。
【0057】
(実施例8)
出発ポリペプチド濃度の影響
本明細書に記載されているPEG沈殿法が依然としてポリペプチド濃度とは無関係であるかどうかを判断するために、P4抗体およびP1抗体の両方を、実施例1の手順を用いて、低濃度5.5mg/mLおよび高濃度11mg/mLで試験した。溶液の全ポリペプチド含有量の変化が、ポリペプチドの予測溶解度に及ぼす影響は、図7Aおよび図7Bに例証されている。試験した両抗体について、外挿した溶解度値は、5.5mg/mL〜11mg/mLの全ポリペプチド濃度とは無関係である。
【0058】
これらのデータは、溶解度を決定するためのPEG沈殿法が、ある蛋白濃度の範囲にわたって使用可能であることを実証している。
【0059】
(実施例9)
温度の影響
比溶解度を決定するためのPEG沈殿法が、ポリペプチドの溶解度に対して温度が及ぼす既知の影響と一致するかどうかを試験するために、実施例1の一般的手順を用いるが、2つの異なる温度、つまり0℃および20℃で、P4およびP1の両方を試験した。見かけの溶解度の増大が、この手法を用いて高温(図8Aおよび図8B)で認められた。同様の溶解度に対する温度の影響は、実験を通して経験的に、例えば、実際の溶解度を試験する方法を用いて判明されている。故に、本明細書に記載されているPEG沈殿法は、実際の溶解度を試験する方法を用いて予想した結果と一致している。
【0060】
(実施例10)
pHの影響
様々なpHでのP1の溶解度を試験した(図9)。P1濃度対%PEG濃度の対数線形応答は、pHがpH6からpH8に上昇すると、Y切片(PEG濃度が0、つまり見かけの溶解度が0)は低下するが、勾配は変わらないことを示している。pHプロファイル(図10)は、ポリペプチドが、そのpI付近のpH(P1の場合、7.5〜8.0)で最低溶解度を有するとの予想とよく相関している。
【0061】
これらのデータは更に、PEG沈殿法が、実際の溶解度を決定するための方法などの、他の方法と一致する結果を生じることができることを実証している。
【0062】
(実施例11)
緩衝液およびイオン強度の影響
P1抗体に関する見かけの溶解度値を、コハク酸塩、ヒスチジンおよびリン酸塩などの異なる緩衝液を用いてpH6.0で試験し、様々な緩衝液で異なる結果が得られた(図11)。これらのデータによれば、10mMヒスチジン緩衝液のイオン強度が低いことは、その緩衝液中10mg/mL P1の場合に沈殿が生じなかったことの説明であることが実証され、このイオン強度は、後にNaClの添加によって補償され得る。故に、比溶解度検定を行うとき、イオン強度の増大は、蛋白の溶解度を低下させることができる。これは、実際の溶解度の予想測定と一致する。これは更に、本方法が、当技術分野で既知の標準的な溶解度検定で得られた結果と一致することを立証するものである。
【0063】
(実施例12)
シュークロースの影響
過去の研究では、シュークロースが限外ろ過/膜分離(diafiltration)中にP5の溶解度を向上させることが示されている。比溶解度検定方法の信頼性を確認するために、P5の予測溶解度に対するシュークロースの影響を試験した(図12Aおよび図12B)。10mMヒスチジン緩衝液(pH6.0、20℃)中のP5を、2%のシュークロースが添加される場合または添加されない場合で比較した。これらの実験結果は、図12Bに示されており、両試験緩衝液中にシュークロースが存在すると、P5の予測溶解度が増大したことを示している。
【0064】
シュークロースによって誘発される溶解度向上の程度は、一般には、イオン強度が低い緩衝液におけるよりも高い。これは、シュークロース試料および非シュークロース試料の両方に5mM NaClを添加することによって、比溶解度検定において試験した。図12Aに示すように、NaClは、シュークロースによって誘発される溶解度向上を大幅に低下させた。比溶解度検定のこれらの結果は、過去の実験に基づいて判明した、溶解度に対するシュークロースの影響とよく一致しており、更に、この比溶解度手法を立証している。
【0065】
(実施例13)
ハイスループットスクリーニングにおける比溶解度検定の使用
モノクローナル抗体を選択して、ハイスループットフォーマットにおける比溶解度検定の適用を実証する際に、ハイスループットスクリーニング用96ウェルプレートフォーマットを使用した。先にした全ての異なる条件(緩衝液、温度、濃度)下でも、状態図の勾配は、様々なモノクローナル抗体に関して依然として一定であるので、この研究のためには簡略化したバージョンのHTSが設計された。50mMヒスチジン(pH6.0)に全てのモノクローナル抗体を透析し、それらの濃度を10mg/mLに調節した。40%PEG−10K原液を同じ緩衝液中で調製し、pHを6.0に調節した。表2に従って、モノクローナル抗体およびPEG−10K原液を様々な比率でウェルに充填し、各ウェルの最終容量を200μlにすることによって、石英96ウェルプレートを準備した。カラム#1の2%からカラム#12の16%まで最終PEG濃度を増大させ、各列を特定のモノクローナル用に指定した。全ての試料を、上下に5回ピペットで移し、その後室温で15分間インキュベーションを行うことによって混合した。
【0066】
全てのモノクローナルの初期ポリペプチド濃度を同じレベルに調節した場合、より高溶解性であるモノクローナル抗体は、沈殿するためにより高い割合のPEGを必要とする。故に、ポリペプチドの沈殿に必要なPEGの最小割合は、ポリペプチドの比溶解度を示している(図13)。この簡略化したバージョンの方法は、沈殿工程後の上澄みの遠心分離、希釈および濃度測定を省くので、結果として、効率が高くなり、ポリペプチド物質に対する必要性が低減する。
【0067】
【表2】

【0068】
90mg/mLのモノクローナル抗体の試料の乳白光(沈殿を示す)の関係を、SPECTRAmax Plus384 Microplate Spectrophotometer(Molecular Devices Corp.、Sunnyvale、CA)上で500nm(A500)での分光光度計吸光度により測定し、比溶解度(すなわち、沈殿が観察された最低PEG濃度)との結果生じた関係を図14のグラフにプロットした。これらの結果は、比溶解度が低下するにつれ、乳白光が増大することを示している。
【0069】
他の実施形態
本発明を、その詳細な説明と共に説明してきたが、前述の説明は、本発明の範囲を例証するものであって、制限することを意図するものではなく、本発明の範囲は添付した特許請求の範囲によって画定されることを理解すべきである。他の態様、利点および変更も、特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験ポリペプチドの比溶解度を予測する方法であって、
a.試験ポリペプチドの溶液中の1つまたは複数の試料を用意し、これにより試験試料を提供し;
b.試験試料を異なる濃度のポリエチレングリコール(PEG)と接触させ、これにより沈殿試料を形成し;
c.PEGと接触した各試験試料の沈殿を決定し;
d.沈殿試料中の試験ポリペプチドの沈殿量を、対応する条件下で分析した少なくとも1つの参照ポリペプチド試料の溶解度と相関させ、これにより参照ポリペプチド試料に対する試験ポリペプチドの溶解度を決定するか;または異なる実験条件下での沈殿試料中の試験ポリペプチドの沈殿量を相関させ、これにより各実験条件下での試験ポリペプチドの比溶解度を決定することを含む、方法。
【請求項2】
試験ポリペプチドが抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試験ポリペプチドが、リガンドに結合し得る分子である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
試験ポリペプチドが可溶性受容体である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
試験ポリペプチドが抗体フラグメントである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
各試料について測定した溶解度値の対数を、その試料のPEG濃度に対してグラフを作成し、得られた線を0%PEGまで外挿し、これによりポリペプチドに関する見かけの溶解度値を得ることをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
試験ポリペプチドがPEGに結合しない、請求項1記載の方法。
【請求項8】
PEG沈殿が可逆的である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
PEGが、試験ポリペプチドの二次構造を変化させない、請求項1記載の方法。
【請求項10】
分析すべき試験ポリペプチドの出発濃度が、得られた溶解度値に実質的に影響を及ぼさない、請求項1記載の方法。
【請求項11】
温度を上昇させることにより、選択されたPEG濃度に対する溶解度値が増大する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
緩衝液にシュークロースを添加することにより、試験ポリペプチドの溶解度が増大する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
分子量の高いポリペプチド試料の対数溶解度値を、PEG濃度に対してプロットすることにより得られる曲線の勾配が、分子量の低いポリペプチドの曲線の勾配と比較して大きくなる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
参照が、既知の溶解度を有するポリペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
濁度を測定することによって沈殿を検定する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
沈殿試料を遠心分離に付し、沈殿物の量を決定し、上澄み中の蛋白の量を決定するか、または沈殿物中の蛋白の量を決定する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
ほぼ同じ分子量を有する少なくとも1つの他のポリペプチドに対する、ポリペプチドの比溶解度を決定する方法であって、
a.少なくとも2つの異なるポリペプチドを同じ濃度で含有する試料を用意し;
b.各ポリペプチド試料を一連の濃度の試験PEGと接触させ;
c.ポリペプチド試料を沈殿させる最低試験PEG濃度を測定し、これにより各ポリペプチドを沈殿させるPEGの最小割合を求め;
d.PEGの最小割合を、他のポリペプチドそれぞれに対する各ポリペプチドの溶解度と相関させることを含む、方法。
【請求項18】
少なくとも(b)〜(c)が、96ウェルプレートフォーマットにおいて行われる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
PEG濃度の範囲が約2%〜16%である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
試料の乳白光を生じさせるPEGの最小試験濃度を決定することにより、プレートを視覚的に読み取る、請求項17記載の方法。
【請求項21】
プレートにおける試料の乳白光を、自動プレートリーダーを用いて読み取る、請求項17記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公表番号】特表2009−537846(P2009−537846A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512051(P2009−512051)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/011818
【国際公開番号】WO2007/136693
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】