説明

ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロール、およびその製造方法

【課題】後加工時の熱処理工程におけるフィルムの通過性がロール全長に亘って良好であり、透明性がきわめて高い上、滑り性、接着性が良好でポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを提供する。
【解決手段】フィルムロールは、実質的に粒子を含有しないフィルム基材の少なくとも片面に、ウレタン樹脂と粒子とを含む塗布液を塗工し、乾燥した後に、少なくとも一方向に延伸して巻き取ることによって得られる。そして、フィルムの巻き終わりからフィルムの巻き始めまでに、略等間隔で合計10個の試料切り出し部を設けたとき、各切り出し部において、左右両端際のHS150がいずれも所定の範囲内の値となり、左右両端際のHS150の差が所定の範囲内の値となるように調整されている。また、左右両端際のHS150の長手方向における変動量が、いずれも所定の範囲内の値となるように調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールに関するものであり、詳しくは、優れた加工特性を有するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸配向ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、優れた透明性、寸法安定性、耐薬品性から各種光学用フィルムとして多く利用されている。特に、優れた強度、寸法安定性が要求されるLCDのプリズムレンズシート用ベースフィルム、防眩フィルム用ベースフィルム、およびCRT用破砕防止フィルム等の用途に好適に用いられる。かかる二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、回転速度に差を設けたロール間で長手方向に延伸された後に、テンター内でフィルムの端部を把持された状態で幅方向に延伸され、テンター内で熱固定されることによって製造される。それゆえ、特にフィルムの幅方向の端部際で熱固定時に長手方向の緩和を促すことができないため、フィルムの幅方向におけるスリットロールの位置によって長手方向の熱収縮率が異なる、という事態が生じてしまう。したがって、一旦広幅で巻き取ったミルロールをスリットしたスリットロールのうち、ミルロールの端縁際に相当するスリットロールにおいては、幅方向の片端縁際の熱収縮率(長手方向の熱収縮率)が他端縁際の熱収縮率よりも大きくなる、という現象が生じてしまう。そして、そのような歪んだスリットロールを利用すると、プリズムレンズ加工、ハードコート加工、防眩(AR)加工等の後加工時の熱処理工程におけるフィルムの通過性が悪くなり、フィルムが後加工工程の中で機台の枠やその他で擦れることにより端部に傷を付けたりする事態が発生してしまう。また、フィルムが傷付かないようにユーザ側で後加工条件を調整するのは非常に手間がかかる。そのようにミルロールの端縁際に相当するスリットロールは、光学用途に用いることが困難であったため、ミルロールの端縁際以外のスリットロールしか光学用途に用いることができなかった。
【0003】
また、後加工コストの低減のために幅広のスリットロールに対する要求が増加してきているが、かかる広幅のスリットロールを限られたミルロールの幅から歩留まり良く採取するには、従来のように幅狭のミルロールから採取するよりも幅広のミルロールから採取する方が得策である。しかしながら、ミルロールを幅広にすると、熱固定装置の幅方向における温度の均一性を保つのが難しくなる。つまり、左右に温度差が生じたり、時間的に温度が不安定になってしまう。結果として、熱収縮率を幅方向、長手方向で一定にコントロールするのが難しくなる。それゆえ、ミルロールを幅広化するには、熱固定装置の幅方向における温度の均一性を良好に保つべく、熱風吹き出し量等を微調整することが不可欠である。ところが、熱風吹き出し量等の微調整により、幅方向における温度の均一性を改善することができ、左右の熱収縮率差をある程度低減することができるものの、後加工時におけるフィルムの通過性を良好なものにするために十分なレベルにまで左右の端縁際の熱収縮率差を低減させることはできない。
【0004】
それゆえ、ミルロールの幅に拘わらず、後加工工程におけるフィルムの通過性を良好なものとすべく、フィルムの幅方向における熱収縮率(フィルムの長手方向の熱収縮率)の差を低減する方法として、出願人によって、フィルムの熱固定工程において、フィルムの進行方向に対して一定間隔で上下に配置させたプレナムダクト(熱風の吹き出し口)に連続的な遮蔽板を被せ、その遮蔽板の幅をフィルム進行方向側にいくにしたがって徐々に拡げていくことにより、フィルムの幅方向の温度を中央部から端部にかけて高くして、端部際の緩和量を中央部分の緩和量に近づける方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−138462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、熱固定処理においてプレナムダクト(熱風の吹き出し部)に連続的な遮蔽板を被せるだけの方法では、端部際のフィルムを十分に緩和させることができない。したがって、後加工(塗工および乾燥)における熱処理を120℃程度の低温にて行った場合の通過性はある程度改善されるものの、被覆膜(ハードコート膜等)の乾燥効率を上げたり被覆膜の強度を高めたりする目的で後加工における熱処理を高温ゾーン(160℃程度)にて比較的長時間(10〜60秒)に亘って行った場合の通過性は、さほど改善されない。それゆえ、高温にて長時間に亘って後加工する場合には、後加工において条件を調整せざるを得ないし、条件調整ができない事態が生じることもある。
【0007】
加えて、熱固定処理においてプレナムダクトに遮蔽板を被せるだけの方法では、熱固定ゾーンにおける温度のハンチングが大きくなってしまうため、1,000m以上の長尺なフィルム(ミルロール)を製造する際に、通過性の悪い部分(すなわち、フィルムの幅方向における熱収縮率の差が大きい部分)が形成されてしまう。
【0008】
それゆえ、出願人らは、プレナムダクトに特定の態様で遮蔽板を被せて熱固定処理を実施することにより、後加工時の熱処理工程におけるフィルムの通過性を良好なものとする方法について提案した(特願2006−159918)。しかしながら、かかる方法を採用する場合であっても、特殊な光学用途等に利用すべく高度な透明性を発現させるために、実質的に粒子を含有していないポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて製膜を行うと、フィルムの滑り性が悪くなってしまい、ロールとして巻き取ることが不可能となり、後加工工程における良好な通過性も発現され得なくなってしまう。
【0009】
加えて、特願2006−159918号の二軸配向ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを、LCD(液晶ディスプレイ),CRT(カソードレイチューブ)等の表面保護用フィルムまたは反射防止用フィルム等の表面基材、印刷ラベル基材等に用いる場合には、被覆剤との接着性が必ずしも十分であるとは言えなかった。
【0010】
本発明の目的は、上記従来のフィルムおよびその製造方法が有する問題点を解消し、後加工時の熱処理工程におけるフィルムの通過性が後加工の条件に拘わらずロール全長に亘って良好な上、透明性がきわめて高く、滑り性の良好な高いポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを提供することにある。また、本発明の目的は、そのように後加工時の熱処理工程におけるフィルムの通過性がロール全長に亘ってきわめて良好な透明性の高いポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを安価かつ容易に製造することが可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の内、請求項1に記載された発明の構成は、長さが300m以上8,000m以下で幅が0.7m以上2.2m以下となるようにスリットされたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを巻き取ってなり、巻き取られたフィルムの巻取方向と45度の角度をなす方向の屈折率と巻き取られたフィルムの巻取方向と135度の角度をなす方向の屈折率との差異であるΔnabが0.015以上0.060以下であるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールであって、実質的に粒子を含有していないフィルム基材の少なくとも片面に、水分散性または水溶性のウレタン樹脂と粒子とを含む塗布液を塗工し、乾燥した後に、少なくとも一方向に延伸して巻き取ることによって得られるものであり、かつ、フィルムの巻き終わりから2m以内に最初の試料切り出し部を設け、フィルムの巻き始めから2m以内に最終の切り出し部を設け、それらの最初と最終の切り出し部との間を9等分した長さ毎に試料切り出し部を設けることによって、合計10個の試料切り出し部を設けたとき、下記要件(1)〜(3)を満たすものであり、なおかつ、巻き取られたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの厚みが70μm以上400μm以下であり、ヘイズが0.2以上1.3以下であることにある。
(1)前記各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、その2つの試料について、150℃で30分間加熱したときのフィルム巻き取り方向の熱収縮率であるHS150を求め、それらのHS150の差である熱収縮率差を求めたときに、すべての切り出し部における熱収縮率差が、いずれも0.1%以下であること
(2)前記各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、それぞれの試料についてHS150を求めたときに、すべての切り出し部における両端縁の試料のHS150が、いずれも0.7%以上2.0%以下であること
(3)前記各切り出し部において求めたロールの幅方向における片端縁側のHS150の変動量、および、前記各切り出し部において求めたロールの幅方向における他端縁側のHS150の変動量が、いずれも0.25%以下であること
【0012】
請求項2に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、フィルム内部に存在する粒子の量が1ppm以上100ppm以下であることにある。
【0013】
請求項3に記載された発明の構成は、請求項1、または請求項2に記載されたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを製造するための製造方法であって、押出機から原料樹脂を溶融押し出しすることにより未延伸シートを形成するフィルム化工程と、そのフィルム化工程で得られる未延伸シートを縦方向および横方向に二軸延伸する二軸延伸工程と、二軸延伸後のフィルムを熱固定する熱固定工程とを含んでおり、その熱固定工程が、下記要件(4)〜(6)を満たす熱固定装置において行われることにある。
(4)熱風を吹き出す幅広な複数のプレナムダクトが、フィルムの進行方向に対して上下に対向して配置されていること
(5)前記複数のプレナムダクトに熱風の吹き出し口を遮蔽するための遮蔽板が取り付けられていること
(6)前記各遮蔽板のフィルムの進行方向における寸法が、フィルムの進行方向における各プレナムダクトの吹き出し口の寸法と略同一に調整されており、前記各遮蔽板のフィルムの幅方向における寸法が、フィルムの進行方向に対して次第に長くなるように調整されていること
【0014】
請求項4に記載された発明の構成は、請求項3に記載された発明において、二軸延伸工程がフィルムを縦方向に延伸した後に横方向に延伸するものであるとともに、その横延伸を行うゾーンと熱固定装置との間に、風の吹き付けを実行しない中間ゾーンを設けたことにある。
【0015】
請求項5に記載された発明の構成は、請求項3、または請求項4に記載された発明において、熱固定装置が、複数の熱固定ゾーンに分割されているとともに、隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が、いずれも、250℃・m/s以下となるように設定されていることにある。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、プリズムレンズ加工やハードコート加工、AR加工などの後加工時の熱処理工程におけるフィルムの通過性等の後加工特性が非常に優れているため、きわめて高い歩留まりで後加工することができる。その上、非常に透明性が高く、接着性も良好である。したがって、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、プリズムレンズシート用のベースフィルム、バックライト用ベースフィルム、ARフィルム用ベースフィルム、CRT用破砕防止フィルム等の各種光学用部材の全般にわたり使用される光学用フィルムや、その他の後加工における熱処理を高温ゾーン(160℃程度)にて比較的長時間(10〜60秒)に亘って行う加工用フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを構成するフィルムは、エチレングリコールおよびテレフタル酸を主な構成成分として含有する。本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を共重合させても良い。上記の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシベンゾフェノン、ビス−(4−カルボキシフェニルエタン)、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサン−1、4−ジカルボン酸などが挙げられる。上記の他のグリコール成分としては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールAなどのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。この他、p−オキシ安息香酸などのオキシカルボン酸成分も利用され得る。
【0018】
このようなポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETという)の重合法としては、テレフタル酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびジオール成分を直接反応させる直接重合法、およびテレフタル酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のジオール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0019】
本発明のフィルムロールをPETによって形成する場合には、原料であるPETの極限粘度(IV)は、0.45〜0.70dl/gの範囲が好ましい。PET原料の極限粘度が0.45以下であると、回収されて再度押出機を通過した後のPETの重合度が低くなりすぎて、フィルムの延伸性が悪化したり、耐引き裂き性が低下したりするため好ましくない。反対に、極限粘度が0.70dl/gを上回ると、濾圧が大きくなりすぎて高精度濾過が困難となるので好ましくない。なお、樹脂原料のIVは、たとえば、以下のような方法で求められる。
【0020】
[極限粘度(IV)]
PETの粉砕試料を乾燥後、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(重量比)の混合溶媒に溶解し、オストワルド粘度計を用いて、30℃で0.4(g/dl)の濃度の溶液の流下時間、および、溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用いて、Hugginsの定数が0.38であると仮定して算出する。
【0021】
また、本発明のフィルムロールをPETによって形成する場合には、PET原料の酸価(AV)は、3〜30eq/tの範囲が好ましく、5〜25eq/tであるとより好ましい。酸価が3eq/t以下であると、重合速度が遅くなってしまい、製造効率が低下するので好ましくない。反対に、酸値が30eq/t以上であると、加水分解が進行し易く、重合度の低下を引き起こし易いので好ましくない。なお、樹脂原料の酸価は、たとえば、以下のような方法で求められる。
【0022】
[酸価]
原料を粉砕した後、ベンジルアルコールに溶解し、クロロホルムを加えてから水酸化ナトリウム溶液で中和滴定し、PET1t当たりの水酸化ナトリウムの当量を算出する。
【0023】
さらに、本発明のフィルムロールをPETによって形成する場合には、押出機に投入する前の原料(再生原料を含む)に異物が含まれていないことが望ましい。特に、光学用途向けのフィルムロールを製造する場合には、溶融押出しする際に、濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が15μm以下の濾材を用いて高精度濾過を行い、製膜後のフィルム1m2 当たりに存在する直径20μm以上の異物が10個以下となるように調整するのが好ましい。なお、原料中の異物の個数は、たとえば、以下のような方法で求められる。
【0024】
[異物の個数]
位相差顕微鏡およびCCDカメラを用いて、溶融させた原料チップの拡大画像を撮影し、画像処理装置を用いて異物数を計数する。
【0025】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、一旦広幅に製造されたミルロールを所定の個数にスリットしたスリットロールであり、Δnab(すなわち、巻き取られたフィルムの巻取方向と45度の角度をなす方向の屈折率と巻き取られたフィルムの巻取方向と135度の角度をなす方向の屈折率との差異(絶対値))が0.015以上0.060以下であるものに限定される。すなわち、Δnabが0.015を下回るスリットロールにおいては、上記した“歪み(すなわち、幅方向における物性差)”の問題が生じない。また、Δnabが0.060を上回るように歪んだスリットロールにおいては、本発明の要件を満たすように熱収縮性率差等を調整することが困難である。なお、本発明におけるΔnabとは、スリットロールの片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置においてそれぞれΔnabを測定し、それらの2つの値の内の大きい方をいう。
【0026】
また、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、後述する方法により試料切り出し部を設定した場合に、各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、その2つの試料について、150℃で30分間加熱したときのフィルム巻き取り方向の熱収縮率であるHS150を求め、それらのHS150の差である熱収縮率差を求めたときに、すべての切り出し部における熱収縮率差が、いずれも0.1%以下であることが必要である。
【0027】
すなわち、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、合計10個の切り出し部において求めた合計10個の熱収縮率差(各切り出し部から切り出したフィルム試料における両端縁のHS150の差)が、いずれも0.1%以下であることが必要である。各切り出し部における熱収縮率差が、0.1%を上回ると、後加工におけるフィルムの通過性が悪化するので好ましくない。また、各切り出し部における熱収縮率差は、0.08%以下であるとより好ましく、0.06%以下であると特に好ましい。なお、各切り出し部における熱収縮率差は、低いほど好ましいが、測定精度を考慮すると、0.05%程度が限界であると考えられる。
【0028】
本発明における試料の切り出しは、次の手順によって設けた切り出し部からフィルム試料を切り出すことによって行う。なお、下記3)において、「約切り出し部間隔毎」というのは、切り出し部間隔±10m程度のところで試料を切り出しても構わないということである。
1)フィルムの巻き終わりから2m以内に最初の試料切り出し部を設ける。
2)巻き取ったフィルムの長さ(巻き長)を9で除した値(以下、「切り出し部間隔」という)を算出する。
3)フィルムの巻き終わりから「切り出し部間隔」毎に、試料切り出し部を設ける。
4)フィルムの巻き始めから2m以内に最終の切り出し部を設ける。
【0029】
上記試料の切り出しについてより具体的に説明すると、たとえば、長さ500mのフィルムがロールに巻回されている場合、フィルムの巻き終わりから2m以内までの間で、最初の試料(1)を切り取る。なお、試料の切り出しは、ロールの幅方向(フィルムの巻き取り方向と直交する方向)における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置を含めて、フィルムの巻き取り方向(長手方向)に沿う辺と幅方向に沿う辺とを有するように矩形状に切り取る(斜めには切り取らない)ようにする。次いで、フィルムの巻き長を9で除すことによって「切り出し部間隔」を算出する。なお、「切り出し部間隔」は、「1m」の単位まで算出する。したがって、上記の如く、巻き長が500mである場合には、最初の切り出し部を設け得る巻き終わりから2mと最終の切り出し部を設け得る巻き始めから2mとを予め500mから差し引き、残りの496mを9等分した55mを「切り出し部間隔」とする。続いて、フィルムの巻き終わりから55m巻き始め側に離れたところで、2番目の試料(2)を切り取る。以下、同様に、巻き始め側に55mずつの間隔を隔てて順次試料を切り取り、合計10個の試料を得る。すなわち、巻き終わりから2m以内の位置で最初の試料(1番目の試料)を切り出し、巻き終わりから57m付近の位置で2番目の試料を切り出し、巻き終わりから112m付近の位置で3番目の試料を切り出し、同様に、巻き終わりから55m離れた位置毎に4番目〜9番目の試料を切り出し、巻き始めから2m以内の位置で最終の試料(10番目の試料)を切り出す。
【0030】
さらに、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、上記した方法により試料切り出し部を設定した場合に、各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、それぞれの試料についてHS150を求めたときに、すべての切り出し部における両端縁の試料のHS150が、いずれも0.3%以上2.0%以下であることが必要である。
【0031】
すなわち、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、合計10個の切り出し部において、切り出したフィルム試料の両端縁のHS150の値(合計20個のHS150の値)が、いずれも0.7%以上2.0%以下であることが必要である。各切り出し部から切り出したフィルム試料の両端際におけるHS150の値が2.0%を上回ると、後加工におけるフィルムの通過性が悪くなるので好ましくない。また、各切り出し部から切り出したフィルム試料の両端際におけるHS150の値は、1.5%以下であるとより好ましく、1.2%以下であると特に好ましい。なお、各切り出し部から切り出したフィルム試料の両端際におけるHS150の値は、低いほど好ましいが、0.7%程度が下限であると考えている。
【0032】
さらに、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、各切り出し部において求めたロールの幅方向における片端縁側のHS150の変動量、および、各切り出し部において求めたロールの幅方向における他端縁側のHS150の変動量が、いずれも0.25%以下であることが必要である。
【0033】
すなわち、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、各切り出し部から切り出した10枚のフィルムについて、片端縁側(幅方向における片端縁側)のHS150と他端縁側(幅方向における他端縁側)のHS150を求めたときに、片端縁側の10個のHS150の変動量(最高値と最低値との差)が0.25%以下であるとともに、他端縁側の10個のHS150の変動量が0.25%以下であることが必要である。いずれかの端縁側の10個のHS150の変動量が0.25%を上回ると、後加工時におけるフィルムの通過性が悪くなるので好ましくない。また、各端縁側の10個のHS150の変動量は0.20%以下であるとより好ましく、0.15%以下であると特に好ましい。なお、各端縁側の10個のHS150の変動量は、低いほど好ましいが、測定精度を考慮すると、0.05%程度が限界であると考えられる。
【0034】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、原料であるポリエチレンテレフタレート系樹脂樹脂チップを溶融押し出しして得られた未延伸フィルム(未延伸積層フィルムあるいは未延伸積層シート)を縦方向(長手方向)および横方法(幅方向)に二軸延伸した後にロール状に巻き取り、後述する方法で熱固定することによって製造することができる。
【0035】
未延伸シートを得る方法としては、易滑性付与を目的とした微粒子を含有するポリエチレンテレフタレート系樹脂のペレットを十分に乾燥した後、押出し機に供給し、約285℃でシート状に溶融押出しし、溶融シートを冷却ロールで冷却固化する方法等を好適に採用することができる。
【0036】
また、シート状溶融物を回転冷却ドラムに密着させながら、急冷して未延伸シートとするには公知の方法を適用することができ、たとえばシート状溶融物にエアナイフを使用する方法や静電荷を印荷する方法等が好ましく適用できる。それらの方法では後者が好ましく使用される。
【0037】
このシート状物のエア面の冷却をする方法としては、公知の方法を適用することができ、たとえばシート面に槽内の冷却用液体に接触させる方法、シートエア面にスプレーノズルで蒸散する液体を塗布する方法や高速気流を吹きつけて冷却する方法を併用しても良い。このようにして得られた未延伸シートを二軸方向に延伸してフィルムを得る。
【0038】
フィルムを二軸方向に延伸する方法としては、得られた未延伸シートを、ロールあるいは、テンター方式の延伸機により長手方向に延伸した後に、一段目の延伸方向と直交する幅方向に延伸を行う方法を挙げることができる。長手方向の延伸温度は、75〜120℃であり、長手方向の延伸倍率は2.5〜4.5倍、好ましくは3.0〜4.3倍である。長手方向の延伸温度が75℃未満では、フィルムが破断し易くなるため、好ましくない。また、120℃を超えると、得られたフィルムの厚み斑が悪くなりため、好ましくない。長手方向の延伸倍率が2.5倍未満では、得られたフィルムの平面性が悪くなり好ましくない。また、4.6倍を超えると長手方向の配向が強くなり、横方向での延伸において破断の頻度が多くなり好ましくない。
【0039】
幅方向に延伸する場合には、延伸温度は80〜210℃であることが必要であり、好ましくは130〜200℃である。幅方向の延伸温度が80℃未満では、フィルムが破断し易くなるため、好ましくない。また、210℃を超えると、得られたフィルムの平面性が悪くなるため、好ましくない。幅方向の延伸倍率は、3.0〜5.0倍、好ましくは3.6〜4.8倍である。幅方向の延伸倍率が3.0倍未満では得られたフィルムの厚み斑が悪くなり好ましくない。幅方向の延伸倍率が5.0倍を超えると延伸において破断の頻度が多くなり好ましくない。
【0040】
引き続き、熱固定処理を行う。熱固定処理工程の温度は180℃以上240℃以下が好ましい。熱固定処理の温度が180℃未満では、熱収縮率の絶対値が大きくなってしまうので好ましくない。反対に、熱固定処理の温度が240℃を超えると、フィルムが不透明になり易く、また破断の頻度が多くなり好ましくない。なお、好適な熱固定処理方法については、後述する。
【0041】
熱固定処理で把持具のガイドレールを先狭めにして、弛緩処理することは熱収縮率、特に幅方向の熱収縮率の制御に有効である。弛緩処理する温度は熱固定処理温度からポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムのガラス移転温度Tgまでの範囲で選べるが、好ましくは(熱固定処理温度)−10℃〜Tg+10℃である。この幅弛緩率は1〜6%が好ましい。1%未満では効果が少なく、6%を超えるとフィルムの平面性が悪化して好ましくない。
【0042】
ここでは、最初に長手方向に延伸した後、幅方向に延伸を行う方法について述べたが、延伸順序は逆であっても良い。また、縦延伸および横延伸は、各方向への延伸を一段階で行っても良いし、二段階以上に分けて行うことも可能である。加えて、上記の如く、未延伸フィルムを逐次二軸延伸する方法の他に、未延伸フィルムを縦方向および横方向に同時に延伸する同時二軸延伸法を採用することも可能である。ただし、本発明の特性を満たすために最適な温度条件や縦横の延伸倍率をとることが重要であり、最終的に得られたフィルム特性が本発明の要件を満足するものであれば良い。
【0043】
また、フィルムに機能性を付与するため、2層以上の多層構造を有するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとしても良い。易滑層や易接着層を塗布する面をA層、その反対面をB層、これら以外の面をC層とすると、フィルム厚み方向の層構成は、A/B,A/C/BあるいはA/C/E/D/B等の構成が考えられる。A〜E層の各層は、それぞれ、材質が同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0044】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを構成するフィルムの厚みは、特に限定はされない。しかしながら、光学用途に使用する場合には、70μm以上400μm以下の厚みであると好ましい。
【0045】
また、フィルムロールの幅は、特に制限されるものではないが、取扱い易さの点から、フィルムロールの幅の下限は、0.7m以上であると好ましく、1.0m以上であるとより好ましい。一方、フィルムロールの幅の上限は、後加工する客先の装置の大きさによって定まるが、現状では2.2mが最大幅と考えられており、2.0m以下であるとより好ましく、1.5m以下であるとさらに好ましい。加えて、フィルムロールの巻長も、特に制限されないが、巻き易さや取扱い易さの点から、フィルムが70μm程度の厚みである場合には、8,000m以下であると好ましく、7,000m以下であるとより好ましい。また、フィルムが400μm程度の厚みである場合には、1,200m以下であると好ましく、1,100m以下であるとより好ましい。したがって、フィルムの厚みが70〜400μmの中間である場合には、300m以上8,000m以下の巻長となるように設定するのが好ましい。なお、巻取りコアとしては、通常、3インチ、6インチ、8インチ等の紙、プラスチックコアや金属製コアを使用することができる。
【0046】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは単層でも、2層以上の積層構造を有するフィルムでも良いし、透明性を重視して微粒子を入れない二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの片面、又は両面に後加工工程時の接着性を改良する目的や滑り性を改良する目的で種々のコーティングを製膜時に付与したものでもなんら差し支えがない。
【0047】
また、本発明のフィルムロールを構成するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム中には、実質的に微粒子が含まれていない(0ppmに近い)のが好ましいが、必要に応じて微粒子を添加することができる。その際に添加する微粒子としては、公知の無機微粒子や有機微粒子を挙げることができる。なお、フィルム中に含まれる微粒子の添加量は、0ppm以上100ppm以下、好ましくは80ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。さらに、フィルムを形成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、たとえば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0048】
また、本発明のフィルムロールを構成するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、ヘイズ値が0.2以上1.3以下であることが好ましい。ヘイズ値が1.3を超えると、透明性が不良となり、光学的な用途に適さなくなるので好ましくない。なお、ヘイズ値は、1.0未満であるとより好ましく、0.8未満であると特に好ましい。また、ヘイズ値は、小さいほど好ましいが、製造や後加工の際に必要な滑り性を付与する目的でフィルムに所定量の粒子を添加せざるを得ないこと等を考慮すると、0.2程度が下限になる。
【0049】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムに上記粒子を配合する方法としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めても良い。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエチレンテレフタレート系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエチレンテレフタレート系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うことができる。
【0050】
さらに、本発明のフィルムロールを構成するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムには、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0051】
次に、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを得るための好ましい製造方法について説明する。
【0052】
通常、延伸後のフィルムの熱固定処理は、長尺状の熱風吹き出し口を有する複数本のプレナムダクトを長手方向に垂直に配置した熱固定装置内で実施されることが多い。そして、そのようなプレナムダクトを設置した熱固定装置においては、加熱効率を良好なものとするために、熱固定装置に付設された循環ファンによって熱固定装置内の空気を吸引し、その吸引した空気を温調して、再度、プレナムダクトの熱風吹き出し口から排出することにより、「熱風の吹き出し→循環ファンによる吸引→吸引した空気の温調→熱風の吹き出し」という「熱風の循環」が行われる。
【0053】
また、上述したように、フィルムロールの幅方向における熱収縮率差(片端縁際のHS150と他端縁際のHS150との差)は、フィルムの幅方向の端部際で熱固定時に長手方向の緩和を促すことができないために発生する。そして、図1の如く、熱固定処理において各プレナムダクト3,3・・の熱風吹き出し口2,2・・の中央部分に連続した大型の遮蔽板S,S・・を被せる方法(特開2001−138462号公報参照)によって、短尺のフィルムにおいては、後加工における熱固定処理を低温にて行った場合の通過性は改善されるものの、長尺のフィルムにおける通過性や、後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性は、何ら改善されない。
【0054】
本発明者らは、連続した大型の遮蔽板をプレナムダクトの熱風吹き出し口に取り付けた場合には何故「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」が改善されないのかを突き止めるため、熱固定装置内における現象の解析を詳細に行った。その結果、複数本のプレナムダクトに跨るような連続した大型の遮蔽板をプレナムダクトの熱風吹き出し口に被せると、遮蔽板によりプレナムダクトの熱風吹き出し口から吹き出される熱風の流れが著しく制限され、上記した「熱風の循環」がスムーズに行われないことに起因して、熱固定装置内で温度のハンチング現象が発生していることを突き止めた。
【0055】
本発明者らは、上記した「温度のハンチング現象」が、フィルムの端部際における不十分な熱緩和を誘発しており、「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」に悪影響を与えているのではないかと推測した。さらに、本発明者らは、熱固定装置の温度、風量等の条件をコントロールした上で、プレナムダクトの熱風吹き出し口を遮蔽板で被覆する際の被覆方法を改良することによって、上記した「熱風の循環」をスムーズに実行することが可能となり、「温度のハンチング現象」を抑制することができ、ひいては、「長尺のフィルムにおける通過性」および「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」を改善できるのではないかと推測した。そして、熱固定装置の温度、風量条件、遮蔽板の被覆態様、および後加工におけるフィルムの通過性の三者の関係を把握すべく試行錯誤した結果、フィルムロール製造の際に、下記(1)の手段を講じることにより、「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」が改善される傾向が見られた。そして、その知見に基づいて、本発明者らが、さらに試行錯誤した結果、下記(1)の手段を講じた上で、下記(2),(3)の手段を講じることにより、後加工における通過性の良好なフィルムロールを得ることが可能となることを見出し、本発明を案出するに至った。
(1)熱固定装置におけるプレナムダクトの温度・風量の調節
(2)熱固定装置におけるプレナムダクトの熱風吹き出し口の遮断条件の調整
(3)延伸ゾーンと熱固定装置との間における加熱の遮断
以下、上記した各手段について順次説明する。
【0056】
(1)熱固定装置におけるプレナムダクトの温度・風量の調整
本発明のフィルムロールの製造においては、熱固定装置の隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が、いずれも、250℃・m/s以下となるように、各プレナムダクトから吹き出される熱風の温度、風量を調節することが不可欠である。たとえば、熱固定装置が第1〜3の熱固定ゾーンに分割されている場合には、第1ゾーン−第2ゾーン間における温度差と風速差との積、第2ゾーン−第3ゾーン間における温度差と風速差との積のいずれもが、250℃・m/s以下となるように調節されている必要がある。そのように、各熱固定ゾーンにおいてプレナムダクトの熱風吹き出し口から吹き出される熱風の温度、風量を調節することによって、後述するように不連続な遮蔽板をプレナムダクトの熱風吹き出し口に取り付けた場合に、熱固定装置における「熱風の循環」がスムーズに実行され、「温度のハンチング現象」が効果的に抑制されるため、初めて、後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性が良好な長尺のフィルムを得ることが可能となる。
【0057】
なお、隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が250℃・m/sを上回ると(たとえば、隣接し合う熱固定ゾーン同士の温度差が30℃となるように設定するとともに、隣接し合う熱固定ゾーン同士の風速差が10m/sとなるように設定すると)、熱固定装置における「熱風の循環」がスムーズに行われなくなり、「温度のハンチング現象」を効果的に抑制することができなくなるので好ましくない。加えて、隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が250℃・m/sを上回ると、フィルムの通過により生じる随伴流として上流の熱固定ゾーンから下流の熱固定ゾーンへと流れ込む空気の温度差が大きくなり、下流の熱固定ゾーンの幅方向における温度の安定性に悪影響が及ぶこととなるため、好ましくない。また、当該温度差と風速差との積は、200℃・m/s以下であると好ましく、150℃・m/s以下であるとより好ましい。
【0058】
(2)熱固定装置におけるプレナムダクトの遮断条件の調整
本発明のフィルムロールの製造においては、上記の如く、各熱固定ゾーンにおいてプレナムダクトの熱風吹き出し口から吹き出される熱風の温度、風量を調節した上で、熱固定装置内に配置された複数のプレナムダクトに跨る大きな遮蔽板を取り付けるのではなく、図2の如く、個々のプレナムダクト3,3・・の熱風吹き出し口(ノズル)2,2・・を一つずつ遮蔽するように棒状の遮蔽板S,S・・を取り付ける必要がある。また、そのように、各プレナムダクトに棒状の遮蔽板を取り付けるに際して、同一の長さの遮蔽板を各プレナムダクトに取り付けるのではなく、熱固定装置の入口から出口にかけて遮蔽板の長さを次第に長くするのが好ましい(図1参照)。なお、遮蔽板の材質は、熱固定装置内での熱膨張を考慮するとプレナムダクトと同一の材料を用いるのが好ましいが、熱固定装置の温度に耐えることができ、かつ、フィルムを汚したり、フィルムを粘着させたりしないものであれば、特に限定されるものではない。
【0059】
(3)延伸ゾーンと熱固定装置との間における加熱の遮断(中間ゾーンの設置)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、通常、上記したように縦・横延伸された後に、熱固定処理されることによって製造されるが、本発明のフィルムロールの製造においては、縦・横延伸されるゾーンと熱固定処理される熱固定装置との間に、積極的な熱風の吹き付けを行わない中間ゾーンを設置し、延伸ゾーンと熱固定装置との間において完全に加熱の遮断を行うのが好ましい。より具体的には、延伸ゾーンおよび熱固定装置をフィルム製造時と同一条件に調整し、その状態で延伸ゾーンと熱固定装置との間において、短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、延伸ゾーンおよび熱固定装置の熱風を遮断するのが好ましい。なお、そのように積極的な熱風の吹き付けを行わない中間ゾーンは、ハウジングによって囲われていても良いし、連続的に製造されるフィルムが露出するように設けられていても良い。かかる中間ゾーンにおける熱風の遮断が不十分であると、熱固定装置中における遮蔽板による遮蔽効果が不十分なものとなり、後加工時における良好なフィルムの通過性が得られないので好ましくない。
【0060】
(4)粒子を含有した水分散性または水溶性のポリウレタン樹脂の塗布
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、未延伸または一軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム(以下、基材フィルムという)の少なくとも片面に、粒子を含有した水分散性または水溶性のウレタン樹脂を含む塗布液を塗工し、塗膜(以下、被覆樹脂層あるいは易滑易接着層という)を乾燥後、少なくとも一方向に延伸して得られる。
【0061】
ポリウレタン樹脂を含む塗布液には、その性能を阻害しない範囲で、その他の成分を配合してもよい。たとえば、被覆樹脂層に耐ブロッキング性および滑り性を付与する目的で、粒子として不活性粒子および/またはワックス類を含有させても良い。被覆樹脂層に含まれる樹脂に対する粒子の配合割合は、通常、1.0〜20質量%の範囲である。好ましくは、フィルムの透明性を85%以上にするために、ポリウレタン樹脂に対して3.0〜7.0質量%の割合で粒子を配合する。なお、塗布液の塗工量は、延伸後のフィルムにおける最終的な塗布量(塗布した樹脂の固形分量)が0.02〜0.20g/mとなるように調整するのが好ましい。
【0062】
易滑易接着層の形成は、上記の成分を含有する塗布液を基材フィルムの少なくとも片面に塗工し、乾燥させることにより行われる。たとえば、水分散性ウレタン樹脂、および、好ましくは水分散性ポリエステル共重合樹脂としての水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂を配合した樹脂を含む塗布液の場合、固形分濃度は2〜10質量%、粘度は3〜50cps(B型粘度計により25℃で測定)である。
【0063】
被覆樹脂層(易滑易接着層)は、水分散性または水溶性のウレタン樹脂を含む塗布液を基材フィルムのすくなくとも片面に塗工して形成される。
【0064】
被覆樹脂層(易滑易接着層)に用いるウレタン樹脂としては、ウレタン成分を含む公知のポリイソシアネート、ポリオール、アニオン性基を有するポリウレタン樹脂またはそれらに準じたポリウレタン系樹脂を挙げることができる。
【0065】
たとえば、ウレタン樹脂のアニオン性基としては、好ましくは−SO+、−OSO+、−COO+のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩またはアンモニウム塩が用いられる。末端イソシアネート基が上記塩類でブロックされた熱反応型の水分散性のウレタン系樹脂は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネート、分子内に2個以上の活性水素原子を有する分子量が200〜20000の化合物、または分子内に2個以上の活性水素原子を有する鎖伸長剤を反応せしめて得られるプレポリマーから調製される。
【0066】
ウレタン樹脂以外に塗布液に含有させる樹脂としては、たとえば、水分散性または水溶性のポリエステル共重合樹脂が挙げられ、好ましくは水分散性スルホン酸金属塩基含有ポリエステル共重合樹脂が適している。
【0067】
ポリエステル共重合樹脂のジカルボン酸成分として、基材フィルムのポリエステルについて上述したもの以外に、樹脂の水分散性を付与するために、スルホン酸金属塩基含有ジカルボン酸としてのスルホテレフタル酸を用いても良い。また、グリコール成分としては、基材フィルムのポリエステルについて上述したもの以外に、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、グリセリン等を用いても良い。これらのジカルボン酸成分およびグリコール成分は、それぞれ単独で、または、任意の適切な2種以上を任意の適切な量で組み合わせて用いられる。
【0068】
水分散性スルホン酸金属塩基含有ポリエステル共重合樹脂を構成するポリエステルの好ましい例としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6―ナフタレート、ポリ−1,4―シクロへキサンジメチレンテレフタレートが挙げられる。かかるポリエステルは、必要に応じて、30モル%以下、好ましくは15モル%以下の上記酸成分またはグリコール成分を共重合したものでも良く、あるいは、このようなモル比で、上記酸成分およびグリコール成分から得られるポリエステルとブレンドしたものでも良い。
【0069】
不活性粒子としては、たとえば、シリカ、アルミナ−シリカ複合酸化物、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、シリカ、カオリナイト、タルク、マイカ、ゼオライト等の無機粒子;ベンゾグアナミン樹脂架橋体、スチレン樹脂などの有機粒子が挙げられる。また、その中でもシリカが好ましく、20〜150nm(ナノメータ)の平均粒径(電子顕微鏡でフィルム表面を観察したときの最大長さの平均値)を有するシリカが、特に好ましい。
【0070】
ワックス類としては、高級脂肪酸エステル類、カルナバワックス、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン等の水分散性または水溶性のワックス類が挙げられる。
【0071】
上述した通り、上記した(1)〜(3)までの方法を採用することにより、熱固定装置における「熱風の循環」がスムーズに実行され、「温度のハンチング現象」を抑えることが可能となり、その結果、幅方向の端部際で長手方向の緩和を十分に促すことができ、「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」を改善することが可能となる。なお、上記説明においては、プレナムダクトを設置した熱固定装置において「熱風の循環」をスムーズに実行させて「温度のハンチング現象」を抑える方法を示した。上記説明は、生産レベルにおいて如何にフィルムに熱エネルギーを付与すれば本発明のフィルムロールが得られるか、という技術的思想を開示したものであるが、当業者であれば、かかる技術的思想を上記した方法と異なった方法により容易に実施することができ、異なった方法で本発明のフィルムロールを得ることができる。すなわち、別のタイプの熱固定装置であっても、「熱風の循環」をスムーズに実行させて「温度のハンチング現象」を抑えた上で、幅方向の端部際で長手方向に十分に緩和させるに足る熱エネルギーをフィルムに付与することにより、本発明のフィルムロールの如く「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」の改善されたフィルムロールを得ることが可能である。
【0072】
さらに、上記した(4)の方法を採用することにより、「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」が良好であるばかりではなく、透明性が高い上、滑り性、接着性の良好なフィルムロールを得ることが可能である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。実施例および比較例におけるフィルムロールの製膜条件を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
[実施例1]
<塗布液の調整>
水分散性ウレタン樹脂として、重亜硫酸ソーダーでブロックしたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリウレタン樹脂である第一工業製薬(株)社製のエラストロンH−3 11.5質量部と、水分散性ポリエステル共重合樹脂として、スルホン酸ナトリウム含有ポリエステル共重合樹脂である東洋紡績(株)社製のMD−1250 7.5質量部とを、水39質量部およびイプロピルアルコール39質量部の混合溶液に加え、十分に混合した。
【0076】
さらに、自己架橋型ポリウレタン樹脂であるエラストロンH−3の触媒として、第一工業製薬(株)社製のエラストロンCat−64 0.24質量部を、上記の混合液に加え、アニオン性界面活性剤である大日本インキ化学工業(株)製のメガファックF−142D 0.06質量部を加えて、十分に撹拌混合した。
【0077】
次いで、凝集体シリカ(富士シリシア(株)社製、サイリシア310)0.02質量部を水2.68質量部にホモジナイザーにより1000rpmで1時間分散させた後、上記水分散性ウレタン樹脂および水分散性ポリエステル共重合樹脂の樹脂混合液97.5質量部にサイリシア310の水分散液2.7質量部を撹拌しながら加えて、塗布液Aを得た。
【0078】
<フィルムロールの製造>
一方、微粒子を含有しない(含有量0ppm)ポリエチレンテレフタレートを([η]=0.60)を水分率が50ppmとなるように乾燥した後に押出機直上のホッパ内に仕込み、押出機内で285度の温度にて溶融させた。また、押出機で溶融する際には、ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度:10μm以上の粒子を90%カット)で溶融樹脂を濾過した。次いで、溶融させた樹脂をT型のダイスからシートとして押し出し、静電印加キャスト法を用い、表面が30℃に調節されたキャスティングドラムに巻き付けて冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。
【0079】
しかる後、上記した未延伸シートを、加熱されたロール群とIRヒーターとによって100℃に加熱し、その後、周速差のあるロール群で、長手方向への連続的な3.5倍の延伸操作を行い、このフィルムの両面に、上記塗布液Aを、ウェットコート量を6.5g/mとなるように塗工し、温度120℃で乾燥させた後、幅方向に4倍に延伸し、次いで、その一軸延伸フィルムの端部をクリップで把持して130℃で加熱された熱風ゾーンに導き、幅方向への連続的な4.0倍の延伸操作を行った。さらに、後述する方法により熱固定処理を238℃で行い、225℃で1.7%の横緩和処理を行い、ロール状に巻き取ることによって、厚さ100μmで幅3,300mmのフィルムを6,500m巻き取った二軸配向ポリエステルフィルムロール(ミルロール)を得た。しかる後、そのミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去しながら残りの部分を幅方向に等間隔に3つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層(巻き終わり部分)から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長3,010mの6本のスリットロールを得た。
【0080】
<熱固定処理>
上記熱固定処理は、図3の如き構造を有する熱固定装置にて行った。熱固定装置は第1〜4ゾーンという4個の熱固定ゾーンに区切られており、第1〜3ゾーンには、それぞれ、8個ずつのプレナムダクトa〜xが設けられており、第4ゾーンにも、8個のプレナムダクトが設けられている。各プレナムダクトは、フィルムの進行方向に対して垂直となるように、フィルムの進行方向に対して400mm間隔で上下に設置されている。そして、それらのプレナムダクトの熱風吹き出し口(ノズル)から延伸されたフィルムに熱風が吹き付けられるようになっている。
【0081】
実施例1においては、a〜oの15本のプレナムダクトの熱風吹き出し口に、不連続な棒状の遮蔽板S,S・・を、図2の如き態様で取り付けた。図4は、プレナムダクトa〜oの熱風吹き出し口に遮蔽板S,S・・を取り付けた熱固定装置を上から見た様子を示したものであり、取り付けられた各遮蔽板S,S・・の長手方向の中心は、熱固定装置を通過するフィルムの幅の中心と略一致するように設定されている。また、各遮蔽板S,S・・の長さ(製造されるフィルムの幅方向における寸法)は、熱固定装置の入口から出口にかけて次第に幅広になるように(すなわち、末広がりになるように)調整されている。a〜oの各プレナムダクトの熱風吹き出し口の遮蔽率(遮蔽板による熱風吹き出し口の遮蔽面積/熱風吹き出し口の面積)を表2に示す。なお、実施例1における遮蔽板による遮蔽態様を「A態様」とする。
【0082】
【表2】

【0083】
また、実施例1においては、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3の如く調整した。なお、実施例1の熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度条件、風速条件においては、隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が、いずれも、250℃・m/s以下になっている。なお、実施例1における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「I条件」とする。
【0084】
【表3】

【0085】
[フィルムロールの特性評価]
上記の如く得られた6本のスリットロールのうち、ミルロールの片方の端縁側(フィルムの流れの上流から下流を見たときの右側)に相当するスリットロールを用いて、以下の方法により特性の評価を行った。また、熱収縮率の測定においては、フィルムの巻き終わりから2m以内に最初の試料切り出し部を設け、フィルムの巻き終わりから、フィルムの巻き長を9等分した長さ毎に試料切り出し部を設けるとともに、フィルムの巻き始めから2m以内に最終の切り出し部を設けることによって、1本のスリットロールについて合計10個の試料切り出し部を設け、その10個の試料切り出し部から試料フィルムを切り出した。評価結果を表4に示す。
【0086】
[Δnab]
各試料切り出し部から切り出された各試料フィルムを23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後に、アタゴ社製の「アッベ屈折計4T型」を用いて、巻き取られたフィルムの巻取方向と45度の角度をなす方向の屈折率、および、巻き取られたフィルムの巻取方向と135度の角度をなす方向(すなわち、上記した45度の角度をなす方向と90度の角度をなす方向)の屈折率をそれぞれ測定した。そして、それらの2つの屈折率の差異の絶対値をΔnabとして算出した。
【0087】
[フィルムの熱収縮率]
サンプル幅20mmで測定する方向に200mmの標線を入れ、150℃に調節した加熱オーブンに入れ、JIS C−2318に準拠して、熱収縮量の測定を実施した。
【0088】
[フィルムの通過性]
2本のロールの間隔が1,900mmであるコーターを用い、温度を100℃、炉内張力を100Nに設定して、スリットロールの熱処理を行った。次いで、フィルムの平面性を評価するために、ロール間隔が2,000mmの2本の水平に配置したロールにフィルムを98Nの張力下通過させた。なお、このロール間隔が2,000mmのロール間の中央位置には、水平に配置したロール上面の共通接線から30mm下の位置に鉄棒の上面が位置されるように鉄棒を配置し、フィルムを通過させた際に、その鉄棒にフィルムが接触しない場合は○とし、鉄棒に接触した場合には×とした。これらの工程は連続して行ない、フィルムが鉄棒に接触したか否かの確認は目視にて行った。
【0089】
[ヘイズ]
JIS−K−7136に準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、300A)を用いて測定した。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0090】
[動摩擦係数(μd)]
ASTM−D−1894に準拠し、引張試験機(ORIENTEC社製テンシロン RTC−1225A)を用い、23℃・65%RH環境下で、フィルムの表面と裏面とを接合させた場合の動摩擦係数μdを求めた(5回測定して平均値を算出した)。なお、上側のフィルムを巻き付けたスレッド(錘)の重量は、3.5kgであり、スレッドの底面積の大きさは、縦95mm×横90mmであった。また、摩擦測定の際の引張速度は、200mm/min.であった。なお、表4においては、μdが0.45未満のものを“○”、0.45以上0.80未満のものを“△”、0.80以上のものを“×”として示した。
【0091】
[ハードコート密着性]
塗膜厚さのバラツキ評価用のサンプルについて、フィルムの塗膜面に紫外線硬化型ハードコート剤(大日本インキ化学工業(株)社製のUNIDIC V−9005)をハンドコートで塗膜厚さ10μmとなるように塗工後、UV露光装置により500mj/cmの照射を行い、ハードコート剤を硬化をさせてハードコートフィルムを得る。このハードコートフィルムのハードコート面に、エヌティー(株)社製のNTカッターL−500Rで、測定サンプルごとに絶えず未使用の新しい刃を用いて、2mm角の碁盤目傷を100マス入れ、その上をニチバン(株)社製の24mm幅セロテープ(登録商標)を気泡の入らないように貼付し、その上を5回ほど体重を掛けこすり、十分に密着させた後、上記ハードコート面のセロテープ(登録商標)が密着されていない前後の両端部を手で押さえ、セロテープ(登録商標)の上の方向(角度90度方向)に急速に剥離し、剥離後のハードコート面を観察し、ハードコート層残留率(ハードコートがマス目全体または一部がセロテープ(登録商標)に持って行かれた場合は、このマス目についてはハードコート残留なしとして、マス目にハードーコート層の残留が認められたマス目数を全体のマス目数の比で表す)をもって、以下の基準で4段階のランクを付ける。
◎:すべての測定で碁盤目剥離テストでフィルム面側のインキ層の残留率が96/100以上
○:すべての測定のうち、碁盤目剥離テストでフィルム面側のインキ層の残留率が90/100〜95/100が10%以下、残りは96/100以上
△:すべての測定のうち、碁盤目剥離テストでフィルム面側のインキ層の残留率が90/100〜95/100が10%を超え50%以下、残りは96/100以上
×:すべての測定で碁盤目剥離テストでフィルム面側のインキ層の残留率が90/100〜95/100が50%を超える
【0092】
[塗膜厚さの測定方法]
フィルムサンプルを可視光硬化型樹脂(たとえば、エボキシ樹脂)により室温で放置硬化後、ダイヤモンドナイフを装着したウルトラミクロトームを用いて、超薄切片を作製して四酸化ルテニウムにより染色後、日本電子(株)社製のTEM2010を用いて、フィルムの断面写真(倍率は加速電圧200kvでDirect Mas×30000、Final Mag×76200)を得て、この写真より塗膜厚さの幅方向に5点測定した平均値を塗膜厚さとして算出する。
【0093】
[実施例2]
<塗布液の調整>
水分散性ウレタン樹脂として、重亜硫酸ソーダーでブロックしたイソシアネート基を有する自己架橋型ポリウレタン樹脂である第一工業製薬(株)社製のエラストロンH−3 19.0質量部を、水39質量部およびイプロピルアルコール39質量部の混合溶液に加え、十分に混合した。
【0094】
さらに、実施例1と同様に、自己架橋型ポリウレタン樹脂であるエラストロンH−3の触媒として、第一工業製薬(株)社製のエラストロンCat−64 0.24質量部を、上記の混合液に加え、アニオン性界面活性剤である大日本インキ化学工業(株)製のメガファックF−142D 0.06質量部を加えて、十分に撹拌混合した。
【0095】
次いで、実施例1と同様に、凝集体シリカ(富士シリシア(株)社製、サイリシア310)0.02質量部を水2.68質量部にホモジナイザーにより1000rpmで1時間分散させた後、上記水分散性ウレタン樹脂および水分散性ポリエステル共重合樹脂の樹脂混合液97.5質量部にサイリシア310の水分散液2.7質量部を撹拌しながら加えて、塗布液Bを得た。
【0096】
<フィルムロールの製造>
押出機による溶融押し出し量を増加させて、未延伸フィルムの幅を実施例1の未延伸フィルムよりも増加させるとともに、熱固定装置の各プレナムダクトの熱風吹き出し口に取り付ける遮蔽板を表2の如き遮蔽率となるように変更し、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3の如く変更した。また、縦延伸後に塗布する塗布液を上記した塗布液Bに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、厚さ100μmで幅5,300mmのフィルムを6,500m巻き取ったミルロールを得た。しかる後、そのミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去しながら残りの部分を幅方向に等間隔に5つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長3,010mの10本のスリットロールを得た。そして、上記の如く得られた10本のスリットロールのうち、ミルロールの片方の端縁側(フィルムの流れの上流から下流を見たときの右側)に相当するスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。なお、実施例2における遮蔽板による遮蔽態様を「B態様」とし、実施例2における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「II条件」とする。
【0097】
[実施例3]
<塗布液の調整>
水分散性ウレタン樹脂として、大日本インキ化学工業(株)社製のハイドランAP−30F 11.5質量部と、水分散性ポリエステル共重合樹脂として、スルホン酸ナトリウム含有ポリエステル共重合樹脂である東洋紡績(株)社製のMD−1250 7.5質量部とを、水39質量部およびイプロピルアルコール39質量部の混合溶液に加え、十分に混合した。
【0098】
上記の混合液に加え、アニオン性界面活性剤である大日本インキ化学工業(株)製のメガファックF−142D 0.06質量部を加えて、十分に撹拌混合した。
【0099】
次いで、実施例1と同様に、凝集体シリカ(富士シリシア(株)社製、サイリシア310)0.02質量部を水2.68質量部にホモジナイザーにより1000rpmで1時間分散させた後、上記水分散性ウレタン樹脂および水分散性ポリエステル共重合樹脂の樹脂混合液97.5質量部にサイリシア310の水分散液2.7質量部を撹拌しながら加えて、塗布液Cを得た。
【0100】
<フィルムロールの製造>
得られた塗布液Cを縦延伸後に塗布した以外は、実施例1と同様にして、厚さ100μmのフィルムを幅1,000mmで巻長3,010mに巻き取った6本のスリットロールを得た。そして、上記の如く得られた6本のスリットロールのうち、ミルロールの片方の端縁側(フィルムの流れの上流から下流を見たときの右側)に相当するスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0101】
[比較例1]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例1と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。そして、塗布液を塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして、厚さ100μmのフィルムを幅1,000mmで巻長3,010mに巻き取った6本のスリットロールを得た。そして、上記の如く得られた6本のスリットロールのうち、ミルロールの片方の端縁側(フィルムの流れの上流から下流を見たときの右側)に相当するスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0102】
[比較例2]
熱固定処理に利用する熱固定装置のa〜oの各プレナムダクトの熱風吹き出し口に、一体となった大型の遮蔽板を取り付けた以外は、実施例1と同様にして、3本のスリットロールを得た。なお、大型の遮蔽板による遮蔽率が、実施例1と同じになるように遮蔽板の形状を調整した。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0103】
[比較例3]
塗布液を塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして、厚さ100μmで幅1,000mmのフィルムを巻き取ったフィルムロールの製造を試みたが、フィルムの滑り性が不十分なため、外観の良好なフィルムロールを得ることはできなかった。得られた短尺のフィルムの特性を、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表4に示す。
【0104】
[比較例4]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例1と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。それ以外は、実施例1と同様にして、厚さ100μmのフィルムを幅1,000mmで巻長3,010mに巻き取った6本のスリットロールを得た。そして、上記の如く得られた6本のスリットロールのうち、ミルロールの片方の端縁側(フィルムの流れの上流から下流を見たときの右側)に相当するスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0105】
[比較例5]
<塗布液の調整>
まず、ジカルボン酸成分として(ジカルボン酸成分全体に対して)ジメチルテレフタレート49モル%、ジメチルイソフタルレート49モル%、および5−スルホナトイソフタル酸2モル%、グリコール成分として(グリコール成分全体に対して)エチレングリコール50モル%およびネオペンチルグリコール50モル%を用いて、常法によりエステル交換反応および重縮合反応を行って、水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂を調製した。
【0106】
次いで、水51.4質量部、イソプロピルアルコール38質量部、n−ブチルセルソルブ5質量部、および界面活性剤である大日本インキ化学工業(株)社製のメガファックF−142D 0.06質量部を混合した後、加熱撹拌し、77℃に達したら、上記水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂5質量部を加え、樹脂の固まりが無くなるまで撹拌し続けた後、樹脂水分散液を常温まで冷却して、固形分濃度5.0質量%の均一な水分散性共重合ポリエステル樹脂液を得た。
【0107】
さらに、凝集体シリカ粒子(富士シリシア(株)社製、サイリシア310)3質量部を水50質量部にホモジナイザーにより1000rpmで1時間分散させた後、上記水分散性共重合ポリエステル樹脂液99.46質量部にサイリシア310の水分散液0.54質量部を加えて、撹拌しながら水20質量部を加えて、塗布液Dを得た。
【0108】
<フィルムロールの製造>
得られた塗布液Dを縦延伸後に塗布した以外は、実施例1と同様にして、厚さ100μmのフィルムを幅1,000mmで巻長3,010mに巻き取った6本のスリットロールを得た。そして、上記の如く得られた6本のスリットロールのうち、ミルロールの片方の端縁側(フィルムの流れの上流から下流を見たときの右側)に相当するスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0109】
[参考例1]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例1と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。また、未延伸シートの作製の際には、押出機による溶融押し出し量を増加させて、未延伸フィルムの幅を実施例1の未延伸フィルムの幅より増加させた。そして、熱固定処理に利用する熱固定装置の各プレナムダクトの熱風吹き出し口に取り付ける遮蔽板を表2の如き遮蔽率となるように変更し、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3の如く変更し、塗布液の塗布は行わなかった以外は、実施例1と同様にして、厚さ100μmで幅5,300mmのフィルムを6,500m巻き取ったミルロールを得た。しかる後、そのミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去しながら残りの部分を幅方向に等間隔に5つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長3,010mの10本のスリットロールを得た。そして、上記の如く得られた10本のスリットロールのうち、ミルロールの片方の端縁側(フィルムの流れの上流から下流を見たときの右側)に相当するスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0110】
[参考例2]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.0065wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例1と同様に溶融押し出しし、冷却固化させるときに引取速度を下げて未延伸シートの厚みを2,440μmまで増加させた。そして、長手方向への延伸操作を3.3倍の延伸操作に変更し、塗布液の塗布を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、厚さ188μmで幅3,300mmのフィルムを4,500m巻き取ったミルロールを得た。しかる後、そのミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去しながら残りの部分を幅方向に等間隔に3つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長2,010mの6本のスリットロールを得た。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0111】
[参考例3]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例2と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。そして、得られた未延伸フィルムを延伸、熱固定する際に、熱固定装置の各プレナムダクトの熱風吹き出し口に取り付ける遮蔽板を表2の如き遮蔽率となるように変更し、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3の如く変更した以外は、実施例1と同様にして、3本のスリットロールを得た。なお、実施例4における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「III条件」とする。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0112】
[比較参考例1]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例1と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。そして、得られた未延伸フィルムを延伸、熱固定する際に、熱固定装置のa〜oの各プレナムダクトの熱風吹き出し口に、一体となった大型の遮蔽板を取り付けた以外は、実施例1と同様にして、3本のスリットロールを得た。なお、大型の遮蔽板による遮蔽率が、実施例1と同じになるように遮蔽板の形状を調整した。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0113】
[比較参考例2]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例2と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。そして、得られた未延伸フィルムを延伸、熱固定する際に、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3の如く変更し、熱固定装置のa〜vの各プレナムダクトの熱風吹き出し口に、一体となった大型の遮蔽板を取り付けた以外は、実施例2と同様にして、3本のスリットロールを得た。なお、大型の遮蔽板による遮蔽率が、実施例2と同じになるように遮蔽板の形状を調整した。また、比較例2における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「IV条件」とする。そして、実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0114】
[比較参考例3]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例2と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。そして、得られた未延伸フィルムを延伸、熱固定する際に、 熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3の如く変更し、熱固定装置のa〜vの各プレナムダクトの熱風吹き出し口に、一体となった大型の遮蔽板を取り付けた以外は、実施例2と同様にして、3本のスリットロールを得た。なお、大型の遮蔽板による遮蔽率が、実施例2と同じになるように遮蔽板の形状を調整した。そして、実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0115】
[比較参考例4]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例1と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。そして、得られた未延伸フィルムを延伸、熱固定する際に、熱固定装置のa〜oの各プレナムダクトの熱風吹き出し口に取り付ける棒状の遮蔽板による遮蔽態様を表2の如く変更するとともに、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3の如く変更した以外は、実施例1と同様にして、3本のスリットロールを得た。なお、比較参考例4における各遮蔽板の長さ(製造されるフィルムの幅方向における寸法)は、熱固定装置の入口から出口にかけて次第に幅狭になるように調整されている。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0116】
[比較参考例5]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例1と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。そして、得られた未延伸フィルムを延伸、熱固定する際に、各プレナムダクトの熱風吹き出し口に遮蔽板を取り付けることなく熱固定を実施するとともに、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3の如く変更した以外は、実施例1と同様にして、3本のスリットロールを得た。なお、比較参考例5における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「VI条件」とする。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0117】
[比較参考例6]
微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートの代わりに、添加剤として平均粒径0.7μmのシリカを0.03wt%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を用いて、実施例2と同様に溶融押し出しし、冷却固化させることによって、1,380μmの未延伸シートを得た。そして、得られた未延伸フィルムを延伸、熱固定する際に、各プレナムダクトの熱風吹き出し口に遮蔽板を取り付けることなく熱固定を実施するとともに、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3の如く変更した以外は、実施例2と同様にして、5本のスリットロールを得た。そして、実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0118】
【表4】

【0119】
[実施例のフィルムの効果]
表4から、実施例のフィルムロールは、いずれも、ロール全幅に亘る熱収縮率の差(すなわち、熱収縮率差)が小さい上、長手方向における熱収縮率の変動量も小さく、後加工時における通過性が良好であり、後加工に適していることが分かる。また、透明性がきわめて高く(ヘイズが低く)、その上、滑り性が良好(動摩擦係数が小さい)で、接着性(ハードコート密着性)も良好であることが分かる。これに対して、比較例のフィルムロールは、透明性が低かったり、滑り性が不良であったり、ロール全幅に亘る熱収縮率差が大きい上、長手方向における熱収縮率の変動量も大きく、後加工時における通過性が不良であったり、接着性が不良であったりすることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、上記の如く優れた加工特性を有しているため、各種の光学用部材に使用される光学用フィルムやその他の後加工における熱処理を高温ゾーン(160℃程度)にて比較的長時間(10〜60秒)に亘って行う加工用フィルムとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】従来の遮蔽板による遮蔽態様を示す説明図(aは、熱固定装置の一部の鉛直断面を示したものであり、bは、プレナムダクトの熱風吹き出し口に遮蔽板を取り付けた状態を上から見た状態を示したものである)。
【図2】本発明における遮蔽板による遮蔽態様を示す説明図である(aは、熱固定装置の一部の鉛直断面を示したものであり、bは、プレナムダクトの熱風吹き出し口に遮蔽板を取り付けた状態を上から見た状態を示したものである)。
【図3】実施例・比較例で用いた熱固定装置を上から透視した状態を示す説明図である。
【図4】実施例1における遮蔽板による遮蔽態様を示す説明図である。
【符号の説明】
【0122】
1・・熱固定装置、2・・熱風吹き出し口、a〜x・・プレナムダクト、F・・フィルム、S・・遮蔽板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが300m以上8,000m以下で幅が0.7m以上2.2m以下となるようにスリットされたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを巻き取ってなり、
巻き取られたフィルムの巻取方向と45度の角度をなす方向の屈折率と巻き取られたフィルムの巻取方向と135度の角度をなす方向の屈折率との差異であるΔnabが0.015以上0.060以下であるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールであって、
実質的に粒子を含有していないフィルム基材の少なくとも片面に、水分散性または水溶性のウレタン樹脂と粒子とを含む塗布液を塗工し、乾燥した後に、少なくとも一方向に延伸して巻き取ることによって得られるものであり、かつ、
フィルムの巻き終わりから2m以内に最初の試料切り出し部を設け、フィルムの巻き始めから2m以内に最終の切り出し部を設け、それらの最初と最終の切り出し部との間を9等分した長さ毎に試料切り出し部を設けることによって、合計10個の試料切り出し部を設けたとき、下記要件(1)〜(3)を満たすものであり、なおかつ、
巻き取られたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの厚みが70μm以上400μm以下であり、ヘイズが0.2以上1.3以下であることを特徴とするポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロール。
(1)前記各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、その2つの試料について、150℃で30分間加熱したときのフィルム巻き取り方向の熱収縮率であるHS150を求め、それらのHS150の差である熱収縮率差を求めたときに、すべての切り出し部における熱収縮率差が、いずれも0.1%以下であること
(2)前記各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、それぞれの試料についてHS150を求めたときに、すべての切り出し部における両端縁の試料のHS150が、いずれも0.7%以上2.0%以下であること
(3)前記各切り出し部において求めたロールの幅方向における片端縁側のHS150の変動量、および、前記各切り出し部において求めたロールの幅方向における他端縁側のHS150の変動量が、いずれも0.25%以下であること
【請求項2】
フィルム内部に存在する粒子の量が1ppm以上100ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロール。
【請求項3】
請求項1、または請求項2に記載されたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを製造するための製造方法であって、
押出機から原料樹脂を溶融押し出しすることにより未延伸シートを形成するフィルム化工程と、そのフィルム化工程で得られる未延伸シートを縦方向および横方向に二軸延伸する二軸延伸工程と、二軸延伸後のフィルムを熱固定する熱固定工程とを含んでおり、
その熱固定工程が、下記要件(4)〜(6)を満たす熱固定装置において行われることを特徴とするポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールの製造方法。
(4)熱風を吹き出す幅広な複数のプレナムダクトが、フィルムの進行方向に対して上下に対向して配置されていること
(5)前記複数のプレナムダクトに熱風の吹き出し口を遮蔽するための遮蔽板が取り付けられていること
(6)前記各遮蔽板のフィルムの進行方向における寸法が、フィルムの進行方向における各プレナムダクトの吹き出し口の寸法と略同一に調整されており、前記各遮蔽板のフィルムの幅方向における寸法が、フィルムの進行方向に対して次第に長くなるように調整されていること
【請求項4】
二軸延伸工程がフィルムを縦方向に延伸した後に横方向に延伸するものであるとともに、その横延伸を行うゾーンと熱固定装置との間に、風の吹き付けを実行しない中間ゾーンを設けたことを特徴とする請求項3に記載のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールの製造方法。
【請求項5】
熱固定装置が、複数の熱固定ゾーンに分割されているとともに、隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が、いずれも、250℃・m/s以下となるように設定されていることを特徴とする請求項3、または請求項4に記載のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−101164(P2008−101164A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286622(P2006−286622)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】