説明

ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロール、およびその製造方法

【課題】後加工時の熱処理工程におけるフィルムの通過性が後加工の条件に拘わらずロール全長に亘って良好な実用性の高いポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、フィルムの巻き終わりから、フィルムの巻き長を9等分した長さ毎に試料切り出し部を設けるとともに、フィルムの巻き始めから2m以内に最終の切り出し部を設けることによって、合計10個の試料切り出し部を設けたとき、各切り出し部において、左右両端際のHS150がいずれも所定の範囲内の値となり、左右両端際のHS150の差が所定の範囲内の値となるように調整されている。また、左右両端際のHS150の長手方向における変動量が、いずれも所定の範囲内の値となるように調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールに関するものであり、詳しくは、優れた加工特性を有するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸配向ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、優れた透明性、寸法安定性、耐薬品性から各種光学用フィルムとして利用されている。特に、強度、寸法安定性が要求されるLCDのプリズムレンズシート用ベースフィルム、防眩フィルム用ベースフィルム、およびCRT用破砕防止フィルム等の用途に好適に用いられる。かかる二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、回転速度に差を設けたロール間で長手方向に延伸された後に、テンター内でフィルムの端部を把持された状態で幅方向に延伸され、熱固定されることによって製造される。この場合、フィルムの幅方向の端部際では熱固定時に長手方向の緩和ができないため、フィルム幅方向の位置によっては長手方向の熱収縮率に差異が生じる。したがって、ミルロールの端縁際に相当するスリットロールでは、幅方向の片端縁際の熱収縮率(長手方向の熱収縮率)が他端縁際の熱収縮率よりも大きくなる。このようなスリットロールを利用すると、後加工時の熱処理工程でフィルムの通過性が悪化する。場合によっては、フィルムが機台の枠やその他で擦れて傷がつく。また、フィルムが傷付かないようにする為に、後加工条件を調整することは非常に手間がかかる作業である。上記の理由から、ミルロールの端縁際以外のスリットロールしか光学用途として、後加工条件を調整せずに、利用することができなかった。
【0003】
一方、後加工コストの低減のために幅広のスリットロールの需要が増加してきている。広幅のスリットロールを採取するためにはミルロールの幅を広くすることが望ましい。しかしながら、ミルロールの幅を広くすると、熱固定の際に幅方向での温度を均一に保つのが難しくなる。つまり、位置的にも時間的にも温度の変動幅が大きくなる。それゆえ、ミルロールの幅を広くするためには、熱風吹き出し量等を微調整して、熱固定装置の幅方向における温度の均一性を保つ必要がある。ところが、熱風吹き出し量等の微調整する場合であっても、後加工でのフィルムの通過性を改善するために十分なレベルにまでフィルム端縁部の熱収縮率差を低減させることはできない。
【0004】
これまで、出願人は、フィルムの幅方向における熱収縮率の差を低減する方法として、以下の手段によりフィルムの幅方向の温度を中央部から端部にかけて高くすることで、端部際の緩和量を中央部分の緩和量に近づける方法を提案している(特許文献1)。すなわち、フィルムの熱固定工程において、(1)フィルムの進行方向に対して一定間隔で上下に配置させたプレナムダクト(熱風の吹き出し口)に連続的な遮蔽板を被せること、(2)その遮蔽板の幅がフィルム進行方向側にしたがって徐々に拡がっていること。
【0005】
【特許文献1】特開2001−138462号公報
【0006】
さらに、出願人は、フィルムの幅方向における熱収縮率の差を低減する方法として、フィルムの熱固定工程において、5本のプレナムダクトに不連続な遮蔽板を取り付け、各プレナムダクトから単位時間当たりに吹き出す熱風の量を一定にし、プレナムダクトから吹き出す風速を増加させることで端部に当たる熱風量を増加させる方法を開示している(特許文献2)。
【0007】
【特許文献2】特開2002−79638
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プレナムダクトに連続的な遮蔽板を被せるだけの特許文献1の方法では、後加工(塗工および乾燥)における熱処理が120℃程度での通過性はある程度改善されるものの、フィルム端部際のフィルムの緩和はいまだ不十分である。すなわち、上記方法では、160℃程度の熱処理を比較的長時間(10〜60秒)に亘って行った場合(ハードコート膜の形成など)の通過性はさほど改善されない。それゆえ、高温で長時間での後加工をする場合には、条件を調整せざるを得ないが、かかる調整ができない場合もある。
【0009】
加えて、特許文献1の方法では、熱固定ゾーンにおける温度の乱調が生じるため、1,000m以上の長尺なフィルム(ミルロール)を製造する場合は、フィルムの幅方向における熱収縮率の差が大きい部分が生じる。
【0010】
また、特許文献2の方法では、各プレナムダクトの風量は一定であるので、各プレナムダクト毎に風速が異なるため、熱固定装置内で乱流が生じる。従って、熱固定ゾーンにおける温度に大きな不均一性が生じており不都合である。また、遮蔽板による幅方向の熱収縮率の差を低減する効果は満足できるレベルではなかった。
【0011】
本発明の目的は、上記問題点を解消し、後加工時の熱処理工程におけるフィルムの通過性がロール全長に亘って良好なポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロール、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる本発明の内、請求項1に記載された発明の構成は、長さが300m以上8,000m以下で幅が0.7m以上2.2m以下となるようにスリットされたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを巻き取ってなり、巻き取られたフィルムの巻取方向と45度の角度をなす方向の屈折率と巻き取られたフィルムの巻取方向と135度の角度をなす方向の屈折率との差異であるΔnabが0.015以上0.060以下であるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールであって、フィルムの巻き終わりから2m以内に最初の試料切り出し部を設け、フィルムの巻き始めから2m以内に最終の切り出し部を設け、それらの最初と最終の切り出し部との間を9等分した長さ毎に試料切り出し部を設けることによって、合計10個の試料切り出し部を設けたとき、下記要件(1)〜(3)を満たすことにある。
(1)前記各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、その2つの試料について、150℃で30分間加熱したときのフィルム巻き取り方向の熱収縮率であるHS150を求め、それらのHS150の差である熱収縮率差を求めたときに、すべての切り出し部における熱収縮率差が、いずれも0.1%以下であること
(2)前記各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、それぞれの試料についてHS150を求めたときに、すべての切り出し部における両端縁の試料のHS150が、いずれも0.7%以上2.0%以下であること
(3)前記各切り出し部において求めたロールの幅方向における片端縁側のHS150の変動量、および、前記各切り出し部において求めたロールの幅方向における他端縁側のHS150の変動量が、いずれも0.25%以下であること
【0013】
請求項2に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、巻き取られたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの厚みが70μm以上400μm以下であることにある。
【0014】
請求項3に記載された発明の構成は、請求項1に記載されたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを製造するための製造方法であって、押出機から原料樹脂を溶融押し出しすることにより未延伸シートを形成するフィルム化工程と、そのフィルム化工程で得られる未延伸シートを縦方向および横方向に二軸延伸する二軸延伸工程と、二軸延伸後のフィルムを熱固定する熱固定工程とを含んでおり、その熱固定工程が、下記要件(4)〜(6)を満たす熱固定装置において行われることにある。
(4)熱風を吹き出す幅広な複数のプレナムダクトが、フィルムの進行方向に対して上下に対向して配置されていること
(5)前記複数のプレナムダクトに熱風の吹き出し口を遮蔽するための遮蔽板が取り付けられていること
(6)前記各遮蔽板のフィルムの進行方向における寸法が、フィルムの進行方向における各プレナムダクトの吹き出し口の寸法と略同一に調整されており、前記各遮蔽板のフィルムの幅方向における寸法が、フィルムの進行方向に対して次第に長くなるように調整されていること
【0015】
請求項4に記載された発明の構成は、請求項3に記載された発明において、二軸延伸工程がフィルムを縦方向に延伸した後に横方向に延伸するものであるとともに、その横延伸を行うゾーンと熱固定装置との間に、風の吹き付けを実行しない中間ゾーンを設けたことにある。
【0016】
請求項5に記載された発明の構成は、請求項3、または請求項4に記載された発明において、熱固定装置が、複数の熱固定ゾーンに分割されているとともに、隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が、いずれも、250℃・m/s以下となるように設定されていることにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、プリズムレンズ加工やハードコート加工、AR加工などの後加工時におけるフィルムの通過性が非常に優れているため、きわめて高い歩留まりで後加工することができる。したがって、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、プリズムレンズシート用のベースフィルム、バックライト用ベースフィルム、ARフィルム用ベースフィルム、CRT用破砕防止フィルム等の光学用フィルムや、後加工の熱処理が高温(160℃程度)で比較的長時間(10〜60秒)行われる加工用フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを構成するフィルムは、エチレングリコールおよびテレフタル酸を主な構成成分とする。本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を共重合させても良い。上記の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシベンゾフェノン、ビス−(4−カルボキシフェニルエタン)、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサン−1、4−ジカルボン酸などが挙げられる。上記の他のグリコール成分としては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールAなどのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。この他、p−オキシ安息香酸などのオキシカルボン酸成分も利用され得る。
【0019】
このようなポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETという)の重合法としては、例えば以下の方法が利用できる。(1)テレフタル酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびジオール成分を直接反応させる直接重合法。(2)テレフタル酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のジオール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法。
【0020】
本発明のフィルムロールをPETによって形成する場合には、原料であるPETの極限粘度(IV)は、0.45〜0.70dl/gの範囲が好ましい。PET原料の極限粘度が0.45以上であると、フィルムの延伸性や耐引き裂き性が向上するため好ましい。また、極限粘度が0.70dl/g以下であると、濾圧が適度に低くなり、高精度濾過が可能となる。なお、樹脂原料のIVは、たとえば、以下のような方法で求められる。
【0021】
[極限粘度(IV)]
PETの粉砕試料を乾燥後、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(重量比)の混合溶媒に溶解し、オストワルド粘度計を用いて、30℃で0.4(g/dl)の濃度の溶液の流下時間、および、溶媒のみの流下時間を測定する。それらの時間比率から、Hugginsの式を用い、Hugginsの定数が0.38であると仮定してIVを算出する。なお、極限粘度は〔η〕とも表される。
【0022】
また、本発明のフィルムロールをPETによって形成する場合には、PET原料の酸価(AV)は、3〜30eq/tの範囲が好ましく、5〜25eq/tであるとより好ましい。酸価が3eq/t以上であると、重合速度が適度に速くなり、製造効率が向上するので好ましい。また、酸値が30eq/t以下であると、加水分解が抑制され、適度な重合度となるので好ましい。なお、樹脂原料の酸価は、たとえば、以下のような方法で求められる。
【0023】
[酸価]
原料を粉砕した後、ベンジルアルコールに溶解し、クロロホルムを加えてから水酸化ナトリウム溶液で中和滴定し、PET1t当たりの水酸化ナトリウムの当量を算出する。
【0024】
さらに、本発明のフィルムロールをPETによって形成する場合には、原料樹脂(再生原料を含む)に異物が含まれていないことが望ましい。特に、光学用途向けのフィルムロールを製造する場合には、溶融押出しする際に高精度濾過を行い、製膜後のフィルム1mあたりに存在する直径20μm以上の異物が10個以下となるように調整するのが好ましい。高精度濾過を行う場合、初期濾過効率が90%以上で濾過粒子サイズが15μm以下の濾材を用いることが好ましい。ここで、初期濾過効率とはANSI/B93.36−1973により測定される数値をいう。なお、原料中の異物の個数は、たとえば、以下のような方法で求められる。
【0025】
[異物の個数]
位相差顕微鏡およびCCDカメラを用いて、溶融させた原料チップの拡大画像を撮影し、画像処理装置を用いて異物数を計数する。
【0026】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、一旦広幅に製造されたミルロールをスリットしたスリットロールであり、Δnab(巻き取られたフィルムの巻取方向と45度の角度をなす方向の屈折率と巻き取られたフィルムの巻取方向と135度の角度をなす方向の屈折率との差異(絶対値))が0.015以上0.060以下であるものに限定される。すなわち、Δnabが0.015以上の歪んだスリットロールでは、上記した“歪み(すなわち、幅方向における物性差)”の問題が生じる。また、Δnabが0.060以下のスリットロールでは、本発明の要件を満たすように熱収縮性率差等を調整することできる。なお、本発明におけるΔnabとは、スリットロールの片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置においてそれぞれΔnabを測定し、それらの2つの値の内の大きい方をいう。
【0027】
また、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、後述する方法により試料切り出し部を設定した場合に、各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、その2つの試料について、150℃で30分間加熱したときのフィルム巻き取り方向の熱収縮率であるHS150を求め、それらのHS150の差である熱収縮率差を求めたときに、すべての切り出し部における熱収縮率差が、いずれも0.1%以下であることが必要である。
【0028】
すなわち、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、合計10個の切り出し部において求めた合計10個の熱収縮率差(各切り出し部から切り出したフィルム試料における両端縁のHS150の差)が、いずれも0.1%以下であることが必要である。各切り出し部における熱収縮率差が、0.1%以下であると、後加工におけるフィルムの通過性が良好となり好ましい。また、各切り出し部における熱収縮率差は、0.08%以下であるとより好ましく、0.06%以下であると特に好ましい。なお、各切り出し部における熱収縮率差は、低いほど好ましいが、測定精度を考慮すると、0.05%程度が限界であると考えられる。
【0029】
HS150の測定に使用するフィルム試料は、次の手順によって設けた10個の切り出し部から切り出す。
(1)フィルムの巻き終わりから2m以内に最初の試料切り出し部を設ける。
(2)巻き取ったフィルムの長さを9で除した値(以下、「切り出し部間隔」という)を算出する。
(3)フィルムの巻き終わりから各「切り出し部間隔」の前後10m以内の位置に試料切り出し部を設ける。
(4)フィルムの巻き始めから2m以内に最終の切り出し部を設ける。
【0030】
上記試料の切り出しについてより具体的に説明する。たとえば、長さ500mのフィルムがロールに巻回されている場合、フィルムの巻き終わりから2m以内までの間で、最初の試料(1)を切り取る。なお、試料の切り出しは、ロールの幅方向(フィルムの巻き取り方向と直交する方向)における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置を含めて、フィルムの巻き取り方向(長手方向)に沿う辺と幅方向に沿う辺とを有するように矩形状に切り取る(斜めには切り取らない)。次いで、フィルムの巻き長を9で除すことによって「切り出し部間隔」を算出する。なお、「切り出し部間隔」は、「1m」の単位まで算出する。したがって、上記の如く、巻き長が500mである場合には、最初の切り出し部を設け得る巻き終わりから2mと最終の切り出し部を設け得る巻き始めから2mとを予め500mから差し引き、残りの496mを9等分した55mを「切り出し部間隔」とする。続いて、フィルムの巻き終わりから55±10m巻き始め側に離れたところで、2番目の試料(2)を切り取る。以下、同様に、巻き始め側に55mずつの間隔を隔てて順次試料を切り取り、合計10個の試料を得る。すなわち、巻き終わりから2m以内の位置で最初の試料(1番目の試料)を切り出し、巻き終わりから57m付近の位置で2番目の試料を切り出し、巻き終わりから112m付近の位置で3番目の試料を切り出し、同様に、巻き終わりから55m離れた位置毎に4番目〜9番目の試料を切り出し、巻き始めから2m以内の位置で最終の試料(10番目の試料)を切り出す。
【0031】
さらに、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、上記した方法により試料切り出し部を設定した場合に、各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、それぞれの試料についてHS150を求めたときに、すべての切り出し部における両端縁の試料のHS150が、いずれも0.7%以上2.0%以下であることが必要である。
【0032】
すなわち、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、合計10個の切り出し部において、切り出したフィルム試料の両端縁のHS150の値(合計20個のHS150の値)が、いずれも0.7%以上2.0%以下であることが必要である。各切り出し部から切り出したフィルム試料の両端際におけるHS150の値が2.0%以下であると、後加工におけるフィルムの通過性が良くなるので好ましい。また、各切り出し部から切り出したフィルム試料の両端際におけるHS150の値は、1.5%以下であるとより好ましく、1.2%以下であると特に好ましい。なお、各切り出し部から切り出したフィルム試料の両端際におけるHS150の値は、低いほど好ましいが、0.7%程度が下限であると考えている。
【0033】
さらに、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、各切り出し部において求めたロールの幅方向における片端縁側のHS150の変動量、および、各切り出し部において求めたロールの幅方向における他端縁側のHS150の変動量が、いずれも0.25%以下であることが必要である。
【0034】
すなわち、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、各切り出し部から切り出した10枚のフィルムについて、片端縁側(幅方向における片端縁側)のHS150と他端縁側(幅方向における他端縁側)のHS150を求めたときに、片端縁側の10個のHS150の変動量(最高値と最低値との差)が0.25%以下であるとともに、他端縁側の10個のHS150の変動量が0.25%以下であることが必要である。
いずれかの端縁側の10個のHS150の変動量が0.25%以下であると、後加工時におけるフィルムの通過性が良くなるので好ましい。また、各端縁側の10個のHS150の変動量は0.20%以下であるとより好ましく、0.18%以下であるとなお好ましく、0.016%以下であるとさらに好ましく、0.15%以下であると特に好ましい。なお、各端縁側の10個のHS150の変動量は、低いほど好ましいが、測定精度を考慮すると、0.05%程度が限界であると考えられる。
【0035】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、原料であるポリエチレンテレフタレート系樹脂を溶融押し出しして得られた未延伸シート(未延伸積層フィルムあるいは未延伸積層シート)を縦方向(長手方向)および横方法(幅方向)に二軸延伸した後にロール状に巻き取り、後述する方法で熱固定することによって製造することができる。
【0036】
未延伸シートを得る方法としては、約285℃で溶融したポリエチレンテレフタレート系樹脂をシート状に溶融押出し、溶融シートを冷却ロールで冷却固化する方法等を好適に採用することができる。なお。押出機に供するポリエチレンテレフタレート系樹脂のペレットは十分に乾燥したものであるのが望ましい。さらに、易滑性付与を目的とした微粒子を含有するポリエチレンテレフタレート系樹脂も好適に使用できる。
【0037】
シート状溶融物を回転冷却ドラムに密着させる方法としては、たとえばエアナイフを使用する方法や静電荷を印荷する方法等が好ましく適用できる。それらの方法では後者が好ましく使用される。
【0038】
また、このシート状溶融物を冷却する方法としては、たとえばシート面に槽内の冷却用液体に接触させる方法、シートエア面にスプレーノズルで蒸散する液体を塗布する方法、高速気流を吹きつけて冷却する方法を併用しても良い。このようにして得られた未延伸シートを二軸方向に延伸してフィルムを得る。
【0039】
フィルムを二軸方向に延伸する方法としては、得られた未延伸シートを、ロールあるいは、テンター方式の延伸機により長手方向に延伸した後に、一段目の延伸方向と直交する幅方向に延伸を行う方法を挙げることができる。長手方向の延伸温度は、75〜120℃が好ましく、長手方向の延伸倍率は2.5〜4.5倍、好ましくは3.0〜4.3倍である。長手方向の延伸温度が75℃以上では、フィルムが破断し難くなるため、好ましい。また、120℃以下では、得られたフィルムの厚み斑が生じ難くなるため、好ましい。長手方向の延伸倍率が2.5倍以上では、フィルムの平面性の点で好ましい。また、4.6倍以下であると配向による破断頻度が少なくなり好ましい。
【0040】
幅方向に延伸する場合には、延伸温度は80〜210℃であることが必要であり、好ましくは130〜200℃である。幅方向の延伸温度が80℃以上では、フィルムが破断し難くなるため、好ましい。また、210℃以下では、得られたフィルムの平面性の点で好ましい。幅方向の延伸倍率は、3.0〜5.0倍、好ましくは3.6〜4.8倍である。幅方向の延伸倍率が3.0倍以上では得られたフィルムの厚み斑が生じ難くなるため、好ましい。幅方向の延伸倍率が5.0倍以下であると配向による破断頻度が少なくなり好ましい。
【0041】
引き続き、熱固定処理を行う。熱固定処理工程の温度は180℃以上240℃以下が好ましい。熱固定処理の温度が180℃以上では、熱収縮率の絶対値が小さくなり好ましい。また、熱固定処理の温度が240℃以下であると、フィルムが不透明になり難く、また破断の頻度が少なくなり好ましい。なお、好適な熱固定処理方法については、後述する。
【0042】
熱固定処理で把持具のガイドレールを先狭めにして、弛緩処理することは熱収縮率、特に幅方向の熱収縮率の制御に有効である。弛緩処理する温度は熱固定処理温度からポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムのガラス移転温度Tgまでの範囲で選べるが、好ましくは(熱固定処理温度)−10℃〜Tg+10℃である。この幅弛緩率は1〜6%が好ましい。1%未満では効果が少なく、6%以下であるとフィルムの平面性の点で好ましい。
【0043】
ここでは、最初に長手方向に延伸した後、幅方向に延伸を行う方法について述べたが、延伸順序は逆であっても良い。また、縦延伸および横延伸は、各方向への延伸を一段階で行っても良いし、二段階以上に分けて行うことも可能である。加えて、上記の如く、逐次二軸延伸する方法の他に、縦方向および横方向に同時に延伸する同時二軸延伸法を採用することも可能である。ただし、本発明の特性を満たすために最適な温度条件や縦横の延伸倍率をとることが重要であり、最終的に得られたフィルム特性が本発明の要件を満足するものであれば良い。
【0044】
また、フィルムに機能性を付与するため、2層以上の多層構造を有するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとしても良い。易滑層や易接着層を塗布する面をA層、その反対面をB層、これら以外の面をC層とすると、フィルム厚み方向の層構成は、A/B,A/C/BあるいはA/C/E/D/B等の構成が考えられる。A〜E層の各層は、それぞれ、材質が同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0045】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを構成するフィルムの厚みは、光学用途に使用する場合には、70μm以上400μm以下の厚みであると好ましい。
【0046】
また、フィルムロールの幅は、取扱い易さの点から、フィルムロールの幅の下限は、0.7m以上であると好ましく、1.0m以上であるとより好ましい。一方、フィルムロールの幅の上限は、後加工する装置の大きさによって定まるが、現状では2.2mが最大幅と考えられており、2.0m以下であるとより好ましく、1.5m以下であるとさらに好ましい。加えて、フィルムロールの巻長は、巻き易さや取扱い易さの点から、フィルムが70μm程度の厚みである場合には、8,000m以下であると好ましく、7,000m以下であるとより好ましい。また、フィルムが400μm程度の厚みである場合には、1,200m以下であると好ましく、1,100m以下であるとより好ましい。したがって、フィルムの厚みが70〜400μmの中間である場合には、300m以上8,000m以下の巻長となるように設定するのが好ましい。なお、巻取りコアとしては、通常、3インチ、6インチ、8インチ等の紙、プラスチックコアや金属製コアを使用することができる。
【0047】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは単層でも、2層以上の積層構造を有するフィルムでも良い。また、透明性を重視して微粒子を入れない二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの片面、又は両面に易接着性や易滑性を付与する目的で種々のコーティングを製膜時に付与したもの好適に用いられる。
【0048】
また、本発明のフィルムロールを構成するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム中には、必要に応じて微粒子を添加することができる。その際に添加する微粒子としては、公知の無機微粒子や有機微粒子を挙げることができる。さらに、フィルムを形成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、たとえば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。本発明におけるポリエチレンテレフタレート系樹脂には、微粒子を添加してポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの滑り性を良好なものとすることが好ましい。微粒子としては、たとえばシリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等の無機粒子を挙げることができる。また、有機系微粒子として、たとえばアクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05〜2.0μmの範囲内で、必要に応じて選択することができる。
【0049】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムに上記粒子を配合する方法としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を製造する段階で添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めても良い。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエチレンテレフタレート系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエチレンテレフタレート系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うことができる。
【0050】
さらに、本発明のフィルムロールを構成するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムには、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0051】
次に、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを得るための好ましい製造方法について説明する。
【0052】
通常、延伸後のフィルムの熱固定処理は、長尺状の熱風吹き出し口を有する複数本のプレナムダクトを長手方向に垂直に配置した熱固定装置内で実施される。このような熱固定装置では、加熱効率を良くするために、「熱風の循環」が行われる。熱固定装置に設置された循環ファンにより熱固定装置内の空気を吸引し、その吸引した空気を温調して、再度、プレナムダクトの熱風吹き出し口から排出される。このようにして、「熱風の吹き出し→循環ファンによる吸引→吸引した空気の温調→熱風の吹き出し」の「熱風循環」が行われる。
【0053】
また、上述したように、フィルムロールの幅方向における熱収縮率差(片端縁際のHS150と他端縁際のHS150との差)は、熱固定を行う際にフィルム端縁部の緩和が不十分であるために発生する。図1に示すように、熱固定処理において各プレナムダクト3,3・・の熱風吹き出し口2,2・・の中央部分に連続した大型の遮蔽板Sを被せる方法(特開2001−138462号公報参照)によって、短尺のフィルムを後加工で比較的低温(例えば。120℃)で処理する場合の通過性は改善される。しかし、長尺のフィルムにおける通過性や、後加工での熱処理を高温(例えば、160℃)で行った場合の通過性は、改善されない。
【0054】
本発明者らは、図1に示す方法では何故「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」が改善されないのかを理解するため、熱固定装置内における現象の解析を詳細に行った。その結果、複数本のプレナムダクトに跨るような連続した大型の遮蔽板をプレナムダクトの熱風吹き出し口に被せると、遮蔽板により熱風の流れが制限され、上記した「熱風の循環」がスムーズに行われず、熱固定装置内で温度の乱調(温度のハンチング現象)が生じることを突き止めた。
【0055】
本発明者らは、上記した「温度のハンチング現象」によりフィルム端部際の熱緩和が不十分になる為に、「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」が悪くなるのではないかと推測した。そこで、本発明者らは、「熱風の循環」をスムーズにするとで、「長尺のフィルムにおける通過性」および「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」を改善できるのではないかと考えた。そして、熱固定装置の温度風量条件、遮蔽板の被覆態様、および後加工におけるフィルムの通過性の三者の関係を把握すべく試行錯誤した結果、フィルムロール製造の際に、下記(1)の手段を講じることにより、「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」が改善される傾向が見られた。そして、その知見に基づいて、本発明者らが、さらに試行錯誤した結果、下記(1)の手段を講じた上で、下記(2),(3)の手段を講じることにより、後加工における通過性の良好なフィルムロールを得ることが可能となることを見出し、本発明を案出するに至った。
(1)熱固定装置におけるプレナムダクトの温度・風量の調節
(2)熱固定装置におけるプレナムダクトの熱風吹き出し口の遮断条件の調整
(3)延伸ゾーンと熱固定装置との間における加熱の遮断
以下、上記した各手段について順次説明する。
【0056】
(1)熱固定装置におけるプレナムダクトの温度・風量の調節
熱固定工程では加温・冷却を段階的に行うために、一般に、熱固定装置は温度の異なるいくつかの区分(熱固定ゾーン)に分かれている。本発明のフィルムロールの製造においては、熱固定装置の隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が、いずれも、250℃・m/s以下となるように、各プレナムダクトから吹き出される熱風の温度、風量を調節することが不可欠である。たとえば、熱固定装置が第1〜3の熱固定ゾーンに分割されている場合には、第1ゾーン−第2ゾーン間における温度差と風速差との積、第2ゾーン−第3ゾーン間における温度差と風速差との積のいずれもが、250℃・m/s以下となるように調節される。このように、熱風の温度、風量を調節することによって、「熱風の循環」がスムーズになる。後述する不連続な遮蔽板を熱風吹き出し口に取り付る方法と組み合わせると、「温度のハンチング現象」が効果的に抑制される。これにより初めて、後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性が良好な長尺のフィルムを得ることが可能となる。
【0057】
隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が250℃・m/s以下であると(たとえば、隣接し合う熱固定ゾーン同士の温度差が20℃となるように設定するとともに、隣接し合う熱固定ゾーン同士の風速差が10m/sとなるように設定する)、熱固定装置における「熱風の循環」がスムーズに行われ、「温度のハンチング現象」を効果的に抑制することができるので好ましい。加えて、隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が250℃・m/s以下であると、フィルムの通過により生じる随伴流として上流の熱固定ゾーンから下流の熱固定ゾーンへと流れ込む空気の温度差が小さくなる。そのため、下流の熱固定ゾーンの幅方向における温度が安定する為、好ましい。また、当該温度差と風速差との積は、200℃・m/s以下であると好ましく、150℃・m/s以下であるとより好ましい。また、特許文献2のように、各プレナムダクトの風量を一定にし、各プレナムダクトの風速を異なるようにすると「温度のハンチング現象」が起こる。本発明では、各ゾーン内での風速を一定にすることで、「温度のハンチング現象」を効果的に抑制する。
【0058】
(2)熱固定装置におけるプレナムダクトの遮断条件の調整
本発明のフィルムロールの製造においては、複数のプレナムダクトに跨る大きな遮蔽板を取り付けるのではなく、図2に示すように、個々のプレナムダクト3,3・・の熱風吹き出し口(ノズル)2,2・・を一つずつ遮蔽するように棒状の遮蔽板S,S・・を取り付ける必要がある。このような不連続な遮蔽板を用いることで、「熱風の循環」がスムーズに行われる。また、同一の長さの遮蔽板を各プレナムダクトに取り付けるのではなく、熱固定装置の入口から出口(フィルムの通過方向)にかけて遮蔽板の長さを次第に長くするのが好ましい(図1参照)。このように、長さを調整することで、フィルム端縁部に曝される熱風温度が調整され、フィルム端縁部の歪みの解消が促される。なお、遮蔽板の材質は、熱固定装置の温度に耐えることができ、かつ、フィルムを汚したり、フィルムを粘着させたりしないものであればよいが、熱膨張の点からプレナムダクトと同一の材料を用いるのが好ましい。また、遮蔽板によるフィルム端縁部の熱収縮率差を本発明の程度に抑えるためには、遮蔽板の数は多い方が好ましく、15枚以上にすることが望ましい。
【0059】
(3)延伸ゾーンと熱固定装置との間における加熱の遮断(中間ゾーンの設置)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、通常、縦−横延伸された後に、熱固定処理される。本発明のフィルムロールの製造においては、縦−横延伸されるゾーンと熱固定処理される熱固定装置との間に、積極的な熱風の吹き付けを行わない中間ゾーンを設置することが望
ましい。これにより、延伸ゾーンと熱固定装置との間で、完全に加熱の遮断が行われる。より具体的には、延伸ゾーンおよび熱固定装置をフィルム製造時と同一条件にした状態で、延伸ゾーンと熱固定装置との間に短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、延伸ゾーンおよび熱固定装置の熱風を遮断するのが好ましい。なお、そのような中間ゾーンは、ハウジングによって囲われていても良いし、連続的に製造されるフィルムが露出するように設けられていても良い。かかる中間ゾーンにおける熱風の遮断が十分になされると、熱固定装置中における遮蔽板による遮蔽効果が発揮され、後加工時における良好なフィルムの通過性が得られるようになり好ましい。
【0060】
上述した通り、上記した(1)〜(3)までの方法を採用することにより、熱固定装置における「熱風の循環」がスムーズに実行され、「温度のハンチング現象」を抑えることが可能となり、その結果、幅方向の端部際で長手方向の緩和を十分に促すことができ、「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」を改善することが可能となる。なお、上記説明においては、プレナムダクトを設置した熱固定装置において「熱風の循環」をスムーズに実行させて「温度のハンチング現象」を抑える方法を示した。上記説明は、生産レベルにおいて如何にフィルムに熱エネルギーを付与すれば本発明のフィルムロールが得られるか、という技術的思想を開示したものであるが、当業者であれば、かかる技術的思想を上記した方法と異なった方法により容易に実施することができ、異なった方法で本発明のフィルムロールを得ることができる。すなわち、別のタイプの熱固定装置であっても、「熱風の循環」をスムーズに実行させて「温度のハンチング現象」を抑えた上で、幅方向の端部際で長手方向に十分に緩和させるに足る熱エネルギーをフィルムに付与することにより、本発明のフィルムロールの如く「長尺のフィルムにおける通過性」や「後加工における熱固定処理を高温にて行った場合の通過性」の改善されたフィルムロールを得ることが可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。なお、フィルム特性の評価方法は以下の通りである。
【0062】
[Δnab
試料フィルムをフィルムロールの端縁部(端縁から50mm以内の領域)から切り出した。切り出された試料フィルムを23℃、65%RHの環境下で2時間以上放置した。各試料サンプルについて、アタゴ社製の「アッベ屈折計4T型」を用い、フィルムの巻取方向と45度の角度をなす方向の屈折率(n)と、フィルムの巻取方向と135度の角度をなす方向(すなわち、上記した45度の角度をなす方向と90度の角度をなす方向)の屈折率(n)とを測定した。これら2つの屈折率の差異の絶対値をΔnabとし、Δnab=│n―n│により算出した。フィルムロールの両端縁部についてΔnabを測定し、いずれか大きい方を本発明のΔnabとした。
【0063】
[フィルムの熱収縮率] フィルムの巻き終わりから2m以内に最初の試料切り出し部を設け、フィルムの巻き終わりから、フィルムの巻き長を9等分した長さ毎に試料切り出し部を設けるとともに、フィルムの巻き始めから2m以内に最終の切り出し部を設けることによって、1本のフィルムロールについて合計10個の試料切り出し部を設けた。各切り出し部について、フィルムロールの左右の端縁部(端縁から50mm以内の部分)から、フィルム巻き取り方向にそって、幅20mm、長さ250mmの試料フィルムを切り出し、左端縁部、右端縁部それぞれにつき10個の試料フィルムを得た。各試料フィルムに200mm間隔で標線をしるし、150℃に調節した加熱オーブンに入れ、JIS C−2318に準拠して、熱収縮量の測定を実施した。
【0064】
[フィルムの通過性]
熱処理後のフィルムの平面性を下記方法により評価した。熱処理工程として、2本のロールの間隔が1,900mmであるコーターを用い、温度を100℃あるいは160℃、炉内張力を100Nに設定した。次いで、ロール間隔が2,000mmになるよう2本のロールを水平に配置し、さらに2本のロールの中央位置に、ロール上面の共通接線から30mm下の位置に上面が位置されるように鉄棒を配置した。熱処理工程を通過させたフィルムを98Nの張力下で2本のロール間を通過させた。フィルムを通過させた際に、鉄棒にフィルムが接触しない場合は○とし、鉄棒に接触した場合には×とした。これらの工程は連続して行ない、フィルムが鉄棒に接触したか否かの確認は目視にて行った。
【0065】
また、実施例および比較例におけるフィルムロールの製膜条件を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
[実施例1]
添加剤としてシリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製、サイリシア310)を0.03質量%含有したポリエチレンテレフタレート([η]=0.60)を水分率が50ppm以下となるまで乾燥した。乾燥したポリエチレンテレフタレートを押出機のホッパに仕込み、押出機内で285℃の温度で溶融させた。溶融した樹脂を押出機内でステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度:10μm以上の粒子を90%カット)によって濾過した。次いで、溶融した樹脂をT型ダイスからシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて、表面が30℃に調節されたキャスティングドラムに巻き付けた。キャスティングドラムで冷却固化させることによって、厚さ1,380μmの未延伸シートを得た。
【0068】
上記した未延伸シートを、加熱されたロール群と近赤外線ヒーターとによって100℃に加熱し、その後、周速差のあるロール群で、長手方向への連続的に3.5倍の延伸を行った。次いで、その一軸延伸フィルムの端部をクリップで把持して130℃で加熱された熱風ゾーンに導き、幅方向への連続的に4.0倍の延伸を行った。さらに、後述する方法により238℃で熱固定処理を行った後、225℃で1.7%の横緩和処理を行った。これをロール状に巻き取ることによって、厚さ100μmで幅3,300mmのフィルムを6,500m巻き取った二軸配向ポリエステルフィルムロール(ミルロール)を作製した。そのミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去し、残りの部分を幅方向に等間隔に3つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層(巻き終わり部分)から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長3,010mの6本のスリットロールを得た。上記の如く得られた6本のスリットロールのうち、ミルロールの片方の端縁側(フィルムの流れの上流から下流を見たときの右側)に相当するスリットロールを用いて、フィルム及びフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0069】
[熱固定処理]
上記熱固定処理は、図3に示す構造を有する熱固定装置で行った。熱固定装置は第1〜4ゾーンという4個の熱固定ゾーンに区切られている。第1〜3ゾーンには、それぞれ、8個ずつのプレナムダクトa〜xが設けられている。第4ゾーンにも、8個のプレナムダクトが設けられている。各プレナムダクトは、フィルムの進行方向に対して垂直となるように、フィルムの進行方向に対して400mm間隔で上下に設置されている。プレナムダクトの熱風吹き出し口(ノズル)から、延伸されたフィルムに熱風が吹き付けられるようになっている。
【0070】
実施例1においては、a〜oの15本のプレナムダクトの熱風吹き出し口に、不連続な棒状の遮蔽板S,S・・を、図2に示す態様で取り付けた。プレナムダクトa〜oの熱風吹き出し口に遮蔽板S,S・・を取り付けた熱固定装置を上から見た様子を図4に示す。取り付けられた各遮蔽板S,S・・の長手方向の中心は、熱固定装置を通過するフィルムの幅の中心と略一致するように設定されている。また、各遮蔽板S,S・・の長さ(製造されるフィルムの幅方向における寸法)は、熱固定装置の入口から出口にかけて次第に幅広になるように設定した。a〜oの各プレナムダクトの熱風吹き出し口の遮蔽率(遮蔽板による熱風吹き出し口の遮蔽面積/熱風吹き出し口の面積)を表2に示す。なお、実施例1における遮蔽板による遮蔽態様を「A態様」とする。
【0071】
【表2】

【0072】
また、実施例1における、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速の各調整値を表3に示す。なお、実施例1の熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度条件、風速条件は、隣接する熱固定ゾーン間の温度差と風速差との積が、いずれも、250℃・m/s以下に設定した。なお、実施例1における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「I条件」とする。
【0073】
【表3】

【0074】
[実施例2]
押出機の押出量を増加させて、未延伸シートの幅を増加させるとともに、熱固定装置の各プレナムダクトの熱風吹き出し口に取り付ける遮蔽板を表2に示す遮蔽率となるように変更し、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3に示す各調整値に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ100μmで幅5,300mmのフィルムを6,500m巻き取ったミルロールを得た。そのミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去し、残りの部分を幅方向に等間隔に5つにスリットする工程を繰り返、ミルロールの表層から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長3,010mの10本のスリットロールを得た。そして、上記の如く得られた10本のスリットロールのうち、ミルロールの片方の端縁側(フィルムの流れの上流から下流を見たときの右側)に相当するスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。なお、実施例2における遮蔽板による遮蔽態様を「B態様」とし、実施例2における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「II条件」とする。
【0075】
[実施例3]
押出機の押出量を増加させて、未延伸シートの厚みを2,440μmまで増加させるとともに、キャスティングドラムでの冷却の際に16℃の冷却風を併用し、長手方向への延伸倍率を3.3倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ188μmで幅3,300mmのフィルムを4,500m巻き取ったミルロールを得た。そのミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去し、残りの部分を幅方向に等間隔に3つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長2,010mの6本のスリットロールを得た。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0076】
[実施例4] 熱固定装置の各プレナムダクトの熱風吹き出し口に取り付ける遮蔽板を表2に示す遮蔽率となるように変更し、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3に示す各調整値に変更した以外は、実施例2と同様にして10本のスリットロールを得た。なお、実施例4における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「III条件」とする。そして、実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0077】
[実施例5]
未延伸シートの引取速度を調整して未延伸シートの厚みを1,030μmに変更するとともに、横緩和処理の比率を2.3%に変更し、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3に示す各調整値に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ75μmで幅3,300mmのフィルムを12,300m巻き取ったミルロールを得た。ミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去し、残りの部分を幅方向に等間隔に3つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ150mを除外することによって、幅1,000mmで巻長6,010mの6本のスリットロールを得た。なお、実施例5における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「VIII条件」とする。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0078】
[実施例6]
未延伸シートの引取速度を調整して未延伸シートの厚みを1,720μmに変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ125μmで幅3,300mmのフィルムを6,500m巻き取ったミルロールを得た。そのミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去し、残りの部分を幅方向に等間隔に3つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ300mを除外することによって、幅1,000mmで巻長3,010mの6本のスリットロールを得た。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0079】
[実施例7]
未延伸シートの引取速度を調整して未延伸シートの厚みを3,250μmに変更すると共に、キャスティングドラムでの冷却の際に16℃の冷却風を併用し、長手方向への延伸倍率を3.3倍に変更し、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速をVIII条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ250μmで幅3,300mmのフィルムを2,500m巻き取ったミルロールを得た。そのミルロールを巻き返しながら、両端部を150mmずつ除去し、残りの部分を幅方向に等間隔に3つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長1,010mの6本のスリットロールを得た。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0080】
[実施例8]
未延伸シートの引取速度を調整して未延伸シートの厚みを1,030μmに変更するとともに、横緩和処理の比率を2.3%に変更し、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3に示す各調整値に変更した以外は、実施例2と同様にして、厚さ75μmで幅5,200mmのフィルムを12,300m巻き取ったミルロールを得た。しかる後、そのミルロールを巻き返しながら、両端部を100mmずつ除去しながら残りの部分を幅方向に等間隔に5つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層(巻き終わり部分)から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長6,010mの10本のスリットロールを得た。なお、実施例4における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「IX条件」とする。そして、実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0081】
[実施例9]
未延伸シートの引取速度を調整して未延伸シートの厚みを1,720μmに変更した以外は実施例8と同様にして、厚さ125μmで幅5,200mmのフィルムを6,500m巻き取ったミルロールを得た。そのミルロールを巻き返しながら、両端部を100mmずつ除去し、残りの部分を幅方向に等間隔に5つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ300mを除外することによって、幅1,000mmで巻長3,010mの10本のスリットロールを得た。そして、実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0082】
[実施例10]
未延伸シートの引取速度を調整して未延伸シートの厚みを2,440μmに変更すると共に、キャスティングドラムでの冷却の際に16℃の冷却風を併用し、長手方向への延伸倍率を3.3倍に変更した以外は、実施例8と同様にして、厚さ188μmで幅5,200mmのフィルムを4,500m巻き取ったミルロールを得た。そのミルロールを巻き返しながら、両端部を100mmずつ除去し、残りの部分を幅方向に等間隔に5つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長2,010mの10本のスリットロールを得た。そして、実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0083】
[実施例11]
未延伸シートの引取速度を調整して未延伸シートの厚みを3,250μmに変更すると共に、キャスティングドラムでの冷却の際に16℃の冷却風を併用した以外は、実施例10と同様にして、厚さ250μmで幅5,200mmのフィルムを2,500m巻き取ったミルロールを得た。そのミルロールを巻き返しながら、両端部を100mmずつ除去し、残りの部分を幅方向に等間隔に5つにスリットする工程を繰り返し、ミルロールの表層から凡そ200mを除外することによって、幅1,000mmで巻長1,010mの10本のスリットロールを得た。そして、実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0084】
[比較例1]
熱固定装置のa〜oの各プレナムダクトの熱風吹き出し口に、一体となった大型の遮蔽板を取り付けた以外は、実施例1と同様にして、6本のスリットロールを得た。大型の遮蔽板の形状は各遮蔽率が実施例1と同じになるように調整した。実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0085】
[比較例2]
熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3に示す各調整値に変更し、熱固定装置のa〜vの各プレナムダクトの熱風吹き出し口に、一体となった大型の遮蔽板を取り付けた以外は、実施例2と同様にして、10本のスリットロールを得た。大型の遮蔽板の形状は各遮蔽率が実施例2と同じになるように調整した。比較例2における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「IV条件」とする。実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0086】
[比較例3]
熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3に示す各調整値に変更し、熱固定装置のa〜vの各プレナムダクトの熱風吹き出し口に、一体となった大型の遮蔽板を取り付けた以外は、実施例2と同様にして、10本のスリットロールを得た。大型の遮蔽板の形状は各遮蔽率が実施例2と同じになるように調整した。実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0087】
[比較例4]
熱固定装置のa〜oの各プレナムダクトの熱風吹き出し口に取り付ける棒状の遮蔽板による遮蔽態様を表2に示すように変更するとともに、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3に示す各調整値に変更した以外は、実施例1と同様にして6本のスリットロールを得た。なお、比較例4における各遮蔽板のフィルム幅方向の長さは、熱固定装置の入口から出口にかけて次第に幅狭になるように調整されている。また、比較例4における遮蔽板による遮蔽態様を「C態様」とし、比較例4における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「V条件」とする。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0088】
[比較例5]
各プレナムダクトの熱風吹き出し口に遮蔽板を取り付けることなく熱固定を実施するとともに、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3に示す各調整値に変更した以外は、実施例1と同様にして6本のスリットロールを得た。なお、比較例5における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「VI条件」とする。そして、実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0089】
[比較例6]
各プレナムダクトの熱風吹き出し口に遮蔽板を取り付けることなく熱固定を実施するとともに、熱固定装置の第1〜4ゾーンの温度、風速を表3に示す各調整値に変更した以外は、実施例2と同様にして10本のスリットロールを得た。なお、比較例6における第1〜4ゾーンの温度、風速条件を「VII条件」とする。そして、実施例2と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0090】
[比較例7]
実施例1と同様の原料種で未延伸シートの引取速度を調整するとともに、不連続な遮蔽板を取り付けた5つのプレナムダクトを有する熱固定装置により熱固定を行うとともに、遮蔽板を取り付けた各プレナムダクトの熱風量を一定にしてプレナムダクトから吹き出す風速をプレナムダクト毎に変更させ、熱固定装置の条件を表1、2、3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、6本のスリットロールを得た。なお、表3に示した風速は最初のプレナムダクトの風速と最後のプレナムダクトの風速を示している。また、比較例7における遮蔽板による遮蔽態様を「D態様」とし、熱固定装置の温度、風速条件を「X条件」とする。実施例1と同位置にあるスリットロールを用いて、フィルムおよびフィルムロールの特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【表4】

【0091】
[実施例のフィルムの効果]
表4から、実施例のフィルムロールは、いずれも、ロール全幅に亘る熱収縮率の差(すなわち、熱収縮率差)が小さい上、長手方向における熱収縮率の変動量も小さく、後加工時における通過性が良好であり、後加工に適している。これに対して、比較例のフィルムロールは、ロール全幅に亘る熱収縮率差が大きい上、長手方向における熱収縮率の変動量も大きく、後加工時における通過性が不良である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールは、上記の如く優れた加工特性を有しているため、各種の光学用部材に使用される光学用フィルムやその他の後加工における熱処理を高温ゾーン(160℃程度)にて比較的長時間(10〜60秒)に亘って行う加工用フィルムとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】従来の遮蔽板による遮蔽態様を示す説明図(aは、熱固定装置の一部の鉛直断面を示したものであり、bは、プレナムダクトの熱風吹き出し口に遮蔽板を取り付けた状態を上から見た状態を示したものである)。
【図2】本発明における遮蔽板による遮蔽態様を示す説明図である(aは、熱固定装置の一部の鉛直断面を示したものであり、bは、プレナムダクトの熱風吹き出し口に遮蔽板を取り付けた状態を上から見た状態を示したものである)。
【図3】実施例・比較例で用いた熱固定装置を上から透視した状態を示す説明図である。
【図4】実施例1における遮蔽板による遮蔽態様を示す説明図である。
【符号の説明】
【0094】
1:熱固定装置
2:熱風吹き出し口
3,a〜x:プレナムダクト
F:フィルム
S:遮蔽板
A:フィルムの巻き取り方向
Z1:第1ゾーン
Z2:第2ゾーン
Z3:第3ゾーン
Z4:第4ゾーン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが300m以上8,000m以下で幅が0.7m以上2.2m以下となるようにスリットされたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを巻き取ってなり、
フィルムの巻取方向と45度の角度をなす方向の屈折率とフィルムの巻取方向と135度の角度をなす方向の屈折率との差異であるΔnabが0.015以上0.060以下であるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールであって、
フィルムの巻き終わりから2m以内に最初の試料切り出し部を設け、フィルムの巻き始めから2m以内に最終の切り出し部を設け、それらの最初と最終の切り出し部との間を9等分した長さ毎に試料切り出し部を設けることによって、合計10個の試料切り出し部を設けたとき、下記要件(1)〜(3)を満たすことを特徴とするポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロール。
(1)前記各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、その2つの試料について、150℃で30分間加熱したときのフィルム巻き取り方向の熱収縮率であるHS150を求め、それらのHS150の差である熱収縮率差を求めたときに、すべての切り出し部における熱収縮率差が、いずれも0.1%以下であること
(2)前記各切り出し部において、ロールの幅方向における片端縁から50mm以内の位置および他端縁から50mm以内の位置からそれぞれ試料を切り出し、それぞれの試料についてHS150を求めたときに、すべての切り出し部における両端縁の試料のHS150が、いずれも0.7%以上2.0%以下であること
(3)前記各切り出し部において求めたロールの幅方向における片端縁側のHS150の変動量、および、前記各切り出し部において求めたロールの幅方向における他端縁側のHS150の変動量が、いずれも0.25%以下であること
【請求項2】
巻き取られたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの厚みが70μm以上400μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロール。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールを製造するための製造方法であって、
押出機から原料樹脂を溶融押し出しすることにより未延伸シートを形成するフィルム化工程と、そのフィルム化工程で得られる未延伸シートを縦方向および横方向に二軸延伸する二軸延伸工程と、二軸延伸後のフィルムを熱固定する熱固定工程とを含んでおり、
その熱固定工程が、下記要件(4)〜(6)を満たす熱固定装置において行われることを特徴とするポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールの製造方法。
(4)熱風を吹き出す幅広な複数のプレナムダクトが、フィルムの進行方向に対して上下に対向して配置されていること
(5)前記複数のプレナムダクトに熱風の吹き出し口を遮蔽するための遮蔽板が取り付けられていること
(6)前記各遮蔽板のフィルムの進行方向における寸法が、フィルムの進行方向における各プレナムダクトの吹き出し口の寸法と略同一に調整されており、前記各遮蔽板のフィルムの幅方向における寸法が、フィルムの進行方向に対して次第に長くなるように調整されていること
【請求項4】
二軸延伸工程がフィルムを縦方向に延伸した後に横方向に延伸するものであるとともに、その横延伸を行うゾーンと熱固定装置との間に、風の吹き付けを実行しない中間ゾーンを設けたことを特徴とする請求項3に記載のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールの製造方法。
【請求項5】
熱固定装置が、複数の熱固定ゾーンに分割されているとともに、隣接し合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が、いずれも、250℃・m/s以下となるように設定されていることを特徴とする請求項3、または請求項4に記載のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−254414(P2008−254414A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151475(P2007−151475)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【特許番号】特許第4088843号(P4088843)
【特許公報発行日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】