説明

ポリエチレンパイプ

【課題】 成形表面の平滑性が良好で、剛性と長期クリープ性のバランスに優れたポリエチレンパイプを提供する。
【解決手段】 密度が925〜970kg/m、メルトフローレートが0.05〜5.0g/10分、160℃における溶融張力が50mN以上、一軸伸長粘度測定において歪硬化性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン・α−オレフィン共重合体からなるポリエチレンパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン樹脂は、剛性、耐衝撃性、ESCR、伸び特性などの機械的性質が良好で、耐腐食性や耐薬品性にも優れるため、ガス輸送用あるいは給排水用パイプ材料として使用されている。
【0003】
しかしながら、最近は環境問題への配慮や取り扱い易さの観点から、パイプの薄肉軽量化の要望が高く、肉厚を薄くしても充分な強度が得られ、かつ、ESCRなどの長期クリープ性にも優れたポリエチレン樹脂が望まれている。また、製品の生産性の観点からは、成形加工時の負荷が少なく、生産速度を高めることが可能であり、かつ得られたパイプの表面平滑性が良好なポリエチレン樹脂が望まれている。
【0004】
一般に、肉厚を薄くして製品強度を維持するには、剛性(即ちポリエチレンの密度)を高くする必要があるが、長期クリープ性は密度と相反する関係にあり、薄肉化に対応するためポリエチレンの密度を高くすると、ESCRなどの長期クリープ性が不足する問題が生じる。また、押出負荷を低下させるには、基本的にMFRを大きくすることが必要であるが、MFRを大きくすることにより、押出成形時に溶融垂れなどが生じ、パイプ成形性が悪化するとともに、長期クリープ性が低下する問題が生じる。従って、従来の技術では、表面平滑性、剛性、長期クリープ性の全てを満足するポリエチレンパイプを得ることは困難であった。
【0005】
近年、上記課題を解決する目的で、低分子量成分と高分子量成分を別々に製造し、高分子量成分にのみコモノマーを導入することで、剛性と長期クリープ性のバランスを改良する方法(特許文献1参照)、特定の物性を有する線状系ポリエチレンに高圧法低密度ポリエチレンをブレンドすることで表面光沢性と耐久安定性を共に改良する方法(特許文献2参照)、特定の物性を有するポリエチレン樹脂にフッ素系エラストマーを添加することで押出成形性を改良し、長期クリープ性と良好な表面平滑性を両立させる方法(特許文献3)等が開示されているが、表面平滑性、剛性、長期クリープ性の全てを満足するまでには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−109521号公報
【特許文献2】特開2008−285604号公報
【特許文献3】特開2000−143892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、押出成形時の表面平滑性が良好で、かつ剛性と長期クリープ性のバランスに優れ、ガス輸送用パイプや給排水用パイプに好適なポリエチレンパイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、特定のエチレン・α−オレフィン共重合体が、押出成形時の表面平滑性が良好で、かつ剛性と長期クリープ性のバランスに優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、密度が925〜970kg/m、メルトフローレートが0.05〜5.0g/10分、160℃における溶融張力が50mN以上、一軸伸長粘度測定において歪硬化性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体からなることを特徴とするポリエチレンパイプに関するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリエチレンパイプを構成するエチレン・α−オレフィン共重合体は、JIS K7676に準拠して測定した密度が925〜970kg/mの範囲であり、好ましくは930〜965kg/mの範囲であり、特に好ましくは935〜960kg/mの範囲である。密度が970kg/mを超える場合、ECSR等の長期クリープ性が低下する恐れがあり、密度が925kg/m未満では、輸送流体の内圧を保持するための剛性が不足する恐れがある。
【0011】
本発明のポリエチレンパイプを構成するエチレン・α−オレフィン共重合体は、190℃、2.16kg荷重におけるMFRが0.05〜5.0g/10分、好ましくは0.1〜1.0g/10分である。MFRが0.05g/10分未満の場合は溶融粘度が高すぎて押出負荷が大きいばかりでなく、押出成形時に表面荒れが発生し、パイプ表面の平滑性が損なわれる恐れがある。また、MFRが5.0g/10分を超えると押出成形時に溶融垂れなどが生じ、パイプの真円度が低下するとともに、長期クリープ性が悪化する恐れがある。
【0012】
本発明のポリエチレンパイプを構成するエチレン・α−オレフィン共重合体は、160℃における溶融張力は50mN以上であり、かつ一軸伸長粘度測定において歪硬化性を有する。溶融張力が50mN未満の場合、押出成形時に溶融垂れなどが生じ、パイプの真円度が低下するため好ましくない。また、歪硬化性がない場合はパイプの肉厚がばらつく、いわゆる偏肉問題が発生する。
【0013】
歪硬化性は、マイスナー型一軸伸長粘度計を用いて、160℃で、ひずみ速度0.07〜0.1s−1の条件で測定した伸長粘度の最大値を、その時間の線形領域の伸長粘度で除した値を非線形パラメーターλと定義し、λが1を超えると歪硬化性があると確認できる。なお、M. Yamaguchi et al.Polymer Journal 32,164(2000).に記載のように、線形領域の伸長粘度は動的粘弾性より計算できる。λが1の場合、歪硬化性がないと判断できる。
【0014】
本発明に用いられるエチレン・α−オレフィン共重合体は、該範疇に属するものであれば如何なるエチレン・α−オレフィン共重合体であってもよい。また、市販品として入手したものであってもよく、例えば(商品名)TOSOH−HMS CK38(東ソー(株)製)、(商品名)TOSOH−HMS CK58(東ソー(株)製)等が入手可能である。
【0015】
本発明のポリエチレンパイプを構成するエチレン・α−オレフィン共重合体は、無添加、または、必要に応じて酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、有機・無機顔料等、通常ポリオレフィンに使用される添加剤を添加しても構わない。樹脂中に上記の添加剤を混合する方法は特に制限されるものではないが、例えば、重合後のペレット造粒工程で直接添加する方法、また、予め高濃度のマスターバッチを作製し、これを成形時にドライブレンドする方法等が挙げられる。
【0016】
本発明のポリエチレンパイプを構成するエチレン・α−オレフィン共重合体は、本発明の効果を損なわない程度の範囲内で、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、エチレンープロピレン共重合体ゴム、ポリー1−ブテン等の他の熱可塑性樹脂と混合して用いることもできる。
【0017】
本発明のポリエチレンパイプの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記記載のポリエチレン系重合体を170℃ないし220℃の温度で溶融し、単軸押出機に付属したスパイダーストレートダイより円筒状に押出し、サイジング槽にてサイジングプレートを通すことにより外径を形成させるとともに、20℃〜60℃に設定した一次冷却水槽を通過させ、さらに15℃〜25℃に設定した二次冷却水槽を通過させて、引取機により一定速度で引取ることにより成形される。
【0018】
本発明のポリエチレンパイプは、ガス輸送用あるいは給排水用パイプとして好適に利用される。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリエチレンパイプは、従来のポリエチレンパイプに比べ、押出成形時の表面平滑性が良好で、かつ剛性と長期クリープ性のバランスに優れるため、ガス輸送用パイプや給排水用パイプに好適に利用される。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0021】
〜エチレン・α−オレフィン共重合体〜
実施例および比較例には下記に示す市販のエチレン・α−オレフィン共重合体を使用した。
A:東ソー(株)製、(商品名)東ソーHMS CK38(MFR0.8g/10分、
密度938kg/m、溶融張力100mN)
B:東ソー(株)製、(商品名)東ソーHMS CK58(MFR0.3g/10分、
密度955kg/m、溶融張力200mN)
C:東ソー(株)製、(商品名)東ソーHMS CK68(MFR0.2g/10分、
密度958kg/m、溶融張力180mN)
D:東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 5110(MFR0.9g/10分、
密度961kg/m、溶融張力45mN)
E:東ソー(株)製、(商品名)ペトロセン 173(MFR0.3g/10分、
密度924kg/m
、溶融張力127mN)
F:日本ポリエチレン(株)製、(商品名)KBX47D(MFR0.04g/10分、密度946k
g/m、溶融張力160mN)

〜エチレン・α−オレフィン共重合体の物性〜
<密度>
JIS K6760(1995)に準拠して密度勾配管法で測定した。
<メルトフローレート(MFR)>
ASTM D1238条件Eに準ずる方法にて測定を行った。
<溶融張力>
溶融張力の測定用試料は、サンプルに耐熱安定剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガノックス1010TM;1,500ppm、イルガフォス168TM;1,500ppm)を添加したものを、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで30分間混練したものを用いた。
【0022】
溶融張力の測定は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名キャピログラフ)に、長さが8mm,直径が2.095mmのダイスを流入角が90°になるように装着し測定した。温度を160℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。最大延伸比が47未満の場合、破断しない最高の延伸比での引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。
<歪硬化性>
マイスナー型一軸伸長粘度計((株)東洋精機製作所製、メルテンレオメーター)を用いて160℃、ひずみ速度0.1s−1の条件で測定した伸長粘度の最大値と動的粘弾性測定から計算した線形領域の伸長粘度の比により非線形パラメーター(λ)を求め、λが1より大きい場合に○(歪硬化性有り)、λ=1の場合に×(歪硬化性無し)と判断した。
【0023】
〜パイプの成形性およびパイプ物性〜
<パイプ成形>
スパイダーストレートダイ(外径38mm、内径31mm)を装着した、50mmφ押出機(アイペック社製)を用いて、シリンダー温度170℃で溶融樹脂を円筒状に押出し、引取速度1m/分でサイジングプレート、冷却水槽を通過させて、外径32mm、厚み3mmのパイプを成形した。
<表面平滑性(パイプ表面の表面粗さ)>
上記の条件で得られたパイプの内面の表面粗さRa値(μm)をデジタル顕微鏡(キーエンス社製超深度形状測定顕微鏡VK−8550)を使用して測定した。
<真円度>
成形パイプの外径を円周方向に等間隔に4箇所測定し、外径の最大値と最小値の差を平均外径で除した値を真円度とした。値が小さいほど外径の最大値と最小値の差が小さく、真円度は良好となる。
<偏肉>
成形パイプの厚みを円周方向に等間隔に8箇所測定し、厚みの最大値と最小値の差を平均厚みで除した値を偏肉とした。値が小さいほど厚みの最大値と最小値の差が小さく、偏肉は良好となる。
<剛性(引張降伏強さ)>
JIS−K−7113の付属書1に記載された1号形小形試験片[1(1/2)号形]をパイプから打ち抜き、JIS−K−7113に準拠して測定した。測定は引張試験機(東洋精機(株)製、商品名テンシロンUTM−2.5T)により引張速度50mm/分で実施した。
<長期クリープ性(ESCR)>
ASTM D1693に準拠して、3mm肉厚のプレス成形板から38×13×3mmの試験片を打抜き、100℃の沸騰水中で1時間浸した後に23℃で24時間状態調整を行った。試験片に規定のノッチを入れ、ホルダーに設置した後、(商品名)ノニオンNS210(日本油脂製)の10%溶液中へ浸漬し、クラックの発生する迄の時間を測定した。
【0024】
実施例1
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)を50mmφの押出スクリューを有するパイプ成形機(アイペック社製)を用いて、外径32mm、厚み3mmのパイプを成形し、表面平滑性(表面粗さ)、真円度、偏肉、剛性(引張降伏強さ)、長期クリープ性(ESCR)を評価した。得られたパイプは表面が平滑で、真円度が高く、偏肉が少ないと共に、剛性と長期クリープ性のバランスに優れることが確認された。エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の特性を表1に示す。また、パイプの成形性、物性の評価結果を表2に示す。
【0025】
実施例2
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)に替えてエチレン・α−オレフィン共重合体(B)を使用した以外は、実施例1と同様の方法でパイプを成形した。得られたパイプは表面が平滑で、真円度が高く、偏肉が少ないと共に、剛性と長期クリープ性のバランスに優れることが確認された。エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の特性を表1に示す。また、パイプの成形性、物性の評価結果を表2に示す。
【0026】
実施例3
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)に替えてエチレン・α−オレフィン共重合体(C)を使用した以外は、実施例1と同様の方法でパイプを成形した。得られたパイプは表面が平滑で、真円度が高く、偏肉が少ないと共に、剛性と長期クリープ性のバランスに優れることが確認された。エチレン・α−オレフィン共重合体(C)の特性を表1に示す。また、パイプの成形性、物性の評価結果を表2に示す。
【0027】
比較例1
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)に替えてエチレン・α−オレフィン共重合体(D)を使用した以外は、実施例1と同様の方法でパイプを成形した。得られたパイプは表面平滑性には優れていたが、真円度が低く、偏肉が大きいものであった。エチレン・α−オレフィン共重合体(C)の特性を表1に示す。また、パイプの成形性、物性の評価結果を表2に示す。
【0028】
比較例2
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)に替えてエチレン・α−オレフィン共重合体(E)を使用した以外は、実施例1と同様の方法でパイプを成形した。得られたパイプは表面が平滑で、真円度が高く、偏肉が少ないものであったが、剛性が低く、長期クリープ性も低いレベルであった。エチレン・α−オレフィン共重合体(E)の特性を表1に示す。また、パイプの成形性、物性の評価結果を表2に示す。
【0029】
比較例3
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)に替えてエチレン・α−オレフィン共重合体(F)を使用した以外は、実施例1と同様の方法でパイプを成形した。得られたパイプは表面荒れが発生し、押出成形時の負荷も大きいものであった。エチレン・α−オレフィン共重合体(F)の特性を表1に示す。また、パイプの成形性、物性の評価結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が925〜970kg/m、メルトフローレートが0.05〜5.0g/10分、160℃における溶融張力が50mN以上、一軸伸長粘度測定において歪硬化性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体からなることを特徴とするポリエチレンパイプ。

【公開番号】特開2013−43921(P2013−43921A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181621(P2011−181621)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】