説明

ポリエチレンラミネート紙

【課題】ポリエチレンフィルムへの印刷に、有機溶剤を含有するインキに代えて、水やアルコールを基材とした水性印刷用インキを使用したものであっても、ポリエチレンフィルムに対するインキの接着性に優れた印刷されたポリエチレンラミネート紙を提供する。
【解決手段】紙材の少なくとも片側にポリエチレンフィルムがラミネート加工されたポリエチレンラミネート紙であって、上記ポリエチレンフィルムは、上記紙材とラミネート加工されていない側表面に表面処理がされた後、水性印刷インキを用いた印刷がされていることを特徴とするポリエチレンラミネート紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、飲食物容器に成形加工される、水性印刷インキ組成物を用いて印刷されたポリエチレンラミネート紙に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリエチレンと紙とをラミネートしたポリエチレンラミネート紙は、飲食物の容器として使用されている。
このようなポリエチレンラミネート紙としては、具体的に、耐水性をもたせるために、例えば、クラフト紙の片側又は両側にポリエチレンフィルムをラミネート加工し、成形加工されて紙コップや紙容器として使用されている。
さらに商品に識別性、美粧性を持たせるために、印刷されたポリエチレンフィルムを外側にラミネート加工したポリエチレンフィルムも使用されている。
【0003】
このようなポリエチレンフィルムに印刷するインキとしては、グラビアインキが従来から用いられており、乾燥性、耐水性、ぬれ性等に優れた溶剤性グラビア印刷インキが一般的に使用されていた(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、最近、環境問題、省資源、労働安全性等の見地から、有機溶剤の使用を極力抑えることが要望されており、ポリエチレンフィルムに印刷するインキとしても、水性タイプの印刷インキの要望が高まっている。
【0004】
ところが、ポリエチレンフィルムは、本質的に表面の濡れ張力が低いため、水性インキで印刷すると、ポリエチレンフィルムに対するインキの接着性が不充分となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−308321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、紙材にラミネート加工されたポリエチレンラミネート紙のポリエチレンフィルム表面への印刷に、有機溶剤を含有するインキに代えて、水やアルコールを基材とした水性印刷用インキを使用したものであっても、ポリエチレンフィルムに対するインキの接着性に優れたポリエチレンラミネート紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水性印刷用インキを用いて紙材にラミネート加工されたポリエチレンラミネート紙のポリエチレンフィルムに印刷する直前に、該ポリエチレンフィルムの印刷面を表面処理することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、紙材の少なくとも片側にポリエチレンフィルムがラミネート加工されたポリエチレンラミネート紙であって、上記ポリエチレンフィルムは、上記紙材とラミネート加工されていない側表面に表面処理がされた後、水性印刷インキを用いた印刷がされていることを特徴とするポリエチレンラミネート紙である。
上記水性印刷インキを用いた印刷がされる前の表面処理されたポリエチレンフィルムは、表面の濡れ張力が40mN/m以上であることが好ましい。
また、上記水性印刷インキは、顔料、バインダー樹脂及び水性媒体を含有する水性グラビア印刷用インキであり、上記バインダー樹脂は、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明のポリエチレンラミネート紙において、上記紙材の少なくとも片側にラミネート加工されたポリエチレンフィルムを有するポリエチレンラミネート紙(以下、単にポリエチレンラミネート紙ともいう)としては特に限定されず、従来公知のものが挙げられる。
【0010】
本発明では、上記ポリエチレンラミネート紙の上記紙材とラミネート加工された反対側のポリエチレンフィルム表面(以下、ポリエチレン表面ともいう)に、表面処理がされている。
上記ポリエチレン表面に上記表面処理がされることで、後述する水性印刷用インキ組成物の上記ポリエチレン表面に対する接着性が極めて優れたものとなる。また、上記表面処理を施すことで、上記ポリエチレン表面に水性印刷用インキ組成物で印刷した印刷物の耐熱性も優れたものとなる。
これは、上記表面処理によってポリエチレン表面に水酸基、ケト基、カルボキシル基等が生成され、これらの官能基がポリエチレン表面に対する水性印刷用インキ組成物の接着性や耐熱性等の性能に寄与しているものと考えられる。
【0011】
また、上記表面処理がされたポリエチレン表面は、濡れ張力が40mN/m以上であることが好ましい。40mN/m未満であると、水性印刷用インキ組成物による印刷物のポリエチレン表面への密着性及び耐熱性が不充分となることがある。上記濡れ張力は、42mN/m以上であることがより好ましく、45mN/m以上であることが更に好ましい。
【0012】
このようなポリエチレン表面への表面処理としては、具体的には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、グラフト重合処理等が挙げられる。これらの表面処理の具体的な方法としては、従来公知の方法が挙げられる。
また、上記ポリエチレン表面の表面処理の条件としては、ポリエチレン表面が上述した濡れ張力を充足する条件で行うことが好ましい。
【0013】
上記表面処理後のポリエチレンラミネート紙のポリエチレン表面に印刷する水性印刷インキとしては、例えば、顔料、バインダー樹脂、水性媒体及び添加剤を含有するものが挙げられる。
【0014】
上記顔料としては特に限定されず、一般に水性印刷用インキ組成物で使用できる無機顔料、有機顔料又は体質顔料等が挙げられる。
上記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。
また、上記有機顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等が挙げられる。
また、上記体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク等が挙げられる。
【0015】
上記水性印刷用インキ組成物において、上記顔料の含有量としては、無機顔料の場合、固形分質量比で0.5〜70質量%程度であることが好ましく、有機顔料の場合、固形分質量比で0.1〜40質量%程度であることが好ましい。上記無機顔料及び有機顔料の含有量が下限未満であると、充分な濃度の印刷物を上記ポリエチレンフィルム表面に得ることができないことがあり、一方、上限を超えると、上記水性印刷用インキ組成物による印刷が困難となることがある。
【0016】
上記バインダー樹脂としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。そのなかでも、印刷物の性能面から、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0017】
上記水性印刷用インキ組成物において、上記バインダー樹脂の配合量としては、固形分質量比で、1〜30質量%であることが好ましい。上記範囲外であると、印刷物の形成が困難となることがある。
【0018】
上記水性印刷用インキ組成物に使用可能な水性媒体としては、例えば、水、又は上記水性印刷用インキ組成物の性能に応じて、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メトキシプロパノール等の低級アルコール若しくは低級アルコキシプロパノール等の水混和性溶剤を適宜選択できる。
【0019】
また、上記水性印刷用インキ組成物に使用可能な添加剤としては、例えば、耐ブロッキング剤、消泡剤、架橋剤、静電気防止剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0020】
上記水性印刷用インキ組成物は、例えば、上述した顔料、バインダー樹脂及び水性媒体を、公知の分散装置を用いて撹拌、混合し、顔料及びバインダー樹脂が水性媒体に分散された分散体を調製した後、該分散体に上述した添加剤を添加し、更に混合することで調製することができる。
【0021】
なお、上記水性印刷用インキ組成物としては、市販されているものを用いることもできる。具体的には、例えば、スーパーエコピュア(サカタインクス社製)、ラミピュア(サカタインクス社製)等が挙げられる。
【0022】
上記表面処理をしたポリエチレン表面に、上記水性印刷用インキ組成物を印刷する方法としては特に限定されず、例えば、グラビア印刷等従来公知の印刷方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0023】
以上、本発明のポリエチレンラミネート紙は、水性印刷用インキ組成物を印刷するポリエチレン表面に予め表面処理を施すため、上記水性印刷用インキ組成物とポリエチレン表面との接着性は極めて優れたものとなり、また、印刷物の耐熱性にも優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0025】
(実施例1)
ポリエチレン表面がコロナ表面処理されたポリエチレンラミネート紙を用意し、コロナ表面処理されたポリエチレン表面に、水性印刷用インキ組成物としてスーパーエコピュア(サカタインクス社製)を用い、グラビア校正機((株)東谷製作所製)にて印刷を行った。次いで、温風乾燥を施してポリエチレンラミネート紙を製造した。
【0026】
(実施例2)
水性印刷用インキ組成物として、スーパーエコピュア(サカタインクス社製)に代えて、ラミピュア(サカタインクス社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンラミネート紙を製造した。
【0027】
(比較例1)
コロナ表面処理を行わずにポリエチレン表面に水性印刷用インキ組成物の印刷を行った以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンラミネート紙を製造した。
【0028】
実施例1、2及び比較例1のポリエチレンラミネート紙について、下記の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0029】
<表面張力>
JIS K6768に準じて、印刷前の各ポリエチレンラミネート紙のポリエチレン表面の濡れ張力を測定した。
【0030】
<耐熱性>
実施例1、2及び比較例1のポリエチレンラミネート紙の印刷面に、アルミ箔を、100〜200℃の熱傾斜を有する熱板を備えたヒートシール試験機にて1.6kg/cmの圧力で2秒間押圧し、インキがアルミ箔に転移する温度からインキ組成物の耐熱性を評価した。
【0031】
<接着性>
ポリエチレンラミネート紙の印刷面にセロテープ(登録商標)を貼り付け、これを急速に剥がした時、印刷物がポリエチレン表面から剥離する度合いから、印刷物の接着性を目視にて評価した。
○:印刷皮膜がフィルムから全く剥離しないもの
×:印刷皮膜がフィルムからかなり剥離するもの
【0032】
【表1】

【0033】
実施例に係るポリエチレンラミネート紙は、水性印刷インキ組成物の印刷前のポリエチレン表面の表面張力が高く、また、印刷物とポリエチレン表面との接着性、印刷した印刷物の耐熱性のいずれも優れたものであった。
一方、比較例1に係るポリエチレンラミネート紙は、ポリエチレン表面に表面処理をしていなかったため、表面張力、耐熱性及び接着性の全ての評価が実施例と比較して劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のポリエチレンラミネート紙は、水性印刷用インキ組成物を印刷するポリエチレン表面が予め表面処理されたものであるため、上記水性印刷用インキ組成物とポリエチレン表面との接着性は極めて優れたものとなり、また、印刷物の耐熱性にも優れたものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙材の少なくとも片側にポリエチレンフィルムがラミネート加工されたポリエチレンラミネート紙であって、
前記ポリエチレンフィルムは、前記紙材とラミネート加工されていない側表面に表面処理がされた後、水性印刷インキを用いた印刷がされていることを特徴とするポリエチレンラミネート紙。
【請求項2】
水性印刷インキを用いた印刷がされる前の表面処理されたポリエチレンフィルム表面の濡れ張力が40mN/m以上である請求項1記載のポリエチレンラミネート紙。
【請求項3】
水性印刷インキは、顔料、バインダー樹脂及び水性媒体を含有する水性グラビア印刷用インキであり、前記バインダー樹脂は、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載のポリエチレンラミネート紙。


【公開番号】特開2013−52657(P2013−52657A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194157(P2011−194157)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】