説明

ポリエチレン系シート、それを成形してなるPTP包装用蓋材、及び、PTP包装材

【課題】例えばPTP包装材として好適に利用できるように、十分なプレススルー性、防湿性、耐衝撃性を兼ね備えた新たなポリエチレン系シートを提供する。
【解決手段】示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解温度が100〜140℃であり、かつ、結晶融解熱量が140〜200J/gであるエチレン系重合体(A)、結晶核剤(B)、及び、環状オレフィン系樹脂(C)を含んでなるシートであり、(A)、(B)、及び、(C)の混合物中に占める(B)の割合が0.01質量%以上、3.0質量%以下であり、且つ(C)の割合が5質量%以上、50質量%以下であることを特徴とするポリエチレン系シートを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレススルー性、防湿性、耐衝撃性に優れたポリエチレン系シート、及び、それを成形してなるPTP包装用蓋材、及び、PTP包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品等の包装分野においては、カプセルや錠剤等の固形剤、粒状の食品等を包装するためにPTP(プレススルーパッケージ)包装が広く利用されている。また、食品等の包装分野においては、食品等を包装するためにPTP包装によく似たブリスターパッケージも広く利用されている。
【0003】
PTP包装とは、例えば、透明のシートを底材として圧空成形、真空成形等を施すことにより錠剤やカプセル等の固形剤を収納するポケット部を形成し、ポケット部にカプセル等を収納した後、例えば、アルミ箔のように手で容易に引き裂いたり、容易に開封したりできる材質の箔やフィルムを蓋材として積層して一体化した形態の包装である。PTP包装によれば、底材のポケットに収納された固形剤や食品等を開封前に直接肉眼で確認でき、開封する際には、ポケット部の固形剤等を指で押して蓋材を押し破ることにより、内容物を容易に取り出すことができる。
【0004】
また、ブリスターパッケージとは、シートを真空成形等して食品等の形態に応じたポケット部を形成し、このポケット部に食品等の内容物を収納した後、ヒートシール性コート紙やフィルム等で封をする形態の包装である。
【0005】
PTP包装やブリスターパッケージの蓋材には、ポケット部を指で押して内容物を押し出して蓋材を容易に破ることができる特性としての“プレススルー性”や、防湿性が求められるため、一般的にはアルミ箔が使用されている。しかし、アルミ箔を使用すると、金属探知機を用いた異物検査が困難である点や、内容物の取出し時にアルミ片を誤飲してしまう場合がある点、さらには廃棄時における底材と蓋材の分離が困難でありマテリアルリサイクルができない点など、様々な場面においてアルミ箔を使用した場合の問題点が挙げられるため、アルミ箔を使用しない蓋材が望まれている。
【0006】
そこで、アルミ箔を使用しない蓋材として、例えば特許文献1には、ポリプロピレン若しくはその共重合体、又は、光分解促進剤を添加したポリプロピレン若しくはその共重合体からなる二軸若しくは一軸延伸フィルムの片面にヒートシール層を設けたPTP包装用蓋材が開示されている。
また、特許文献2には、結晶性ポリエステル樹脂と、特定のブロック共重合ポリエステル樹脂との混合物からなる層の片面に、高融点の結晶性ポリエステル樹脂を積層し、少なくとも一軸延伸してなるPTP包装用蓋材が開示されている。
【0007】
一方、特許文献3には、無機質粉末を充填してなるポリプロピレン系シートからなるPTP包装用蓋材が開示されている。
特許文献4には、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレンゴム、またはこれらの共重合体あるいは混合物からなる樹脂に対して無機フィラーを配合してなるPTP包装用蓋材が開示されている。
また、特許文献5には、ポリプロピレンに対して平均アスペクト比が10以上で、かつ、平均長径が0.1〜20μmの板状フィラーを含有するPTP包装用蓋材が開示されている。
加えて、特許文献6には、熱可塑性樹脂に対して無機フィラーを含む層を少なくとも1層有する延伸フィルムからなるPTP包装用蓋材が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献7には、非晶性ポリオレフィン樹脂に石油樹脂を添加したフィルム、又は、非晶性ポリオレフィン樹脂に石油樹脂、無機材料を添加したフィルム、又は、非晶性ポリオレフィン樹脂に石油樹脂、有機樹脂を添加したフィルムにシール層を積層してなるPTP包装用蓋材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−122180号公報
【特許文献2】特開2004−099137号公報
【特許文献3】特開平09−057920号公報
【特許文献4】特開平09−240727号公報
【特許文献5】特開2006−052292号公報
【特許文献6】特開2010−264987号公報
【特許文献7】特開平11−313870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1や特許文献2の技術に関しては、ポリプロピレンやポリエステル系樹脂を基材としているため、延伸を行ったとしても内容物を保護するための十分な防湿性を得ることが困難であった。
【0011】
特許文献3〜5の技術に関しては、無機フィラーを添加することで薬剤取出し性の向上が図れるものの、実用上十分な薬剤取出し性を付与するためには無機フィラーを高充填する必要があり、輸送時における蓋材の破損等の発生が懸念される。また、無機フィラーは、一般的に親水性であるため、蓋材の防湿性を低下させる場合がある。
【0012】
特許文献6の技術に関しては、延伸により機械特性、防湿性の向上を図っているものの、該技術においてはプレススルー性と防湿性のバランスを取ることが非常に困難であった。
さらに、特許文献6の技術に関して言えば、非晶性ポリオレフィンと石油樹脂の混合物からなる蓋材であり、耐衝撃性の低い非晶性ポリオレフィンに対して石油樹脂を多量に添加することで、内容物の取出し性に優れたものとすることができる反面、輸送時における蓋材や内容物の破損等が懸念される。
【0013】
そこで本発明の目的は、このような従来技術の課題に鑑み、十分なプレススルー性、防湿性、耐衝撃性を兼ね備えた新たなポリエチレン系シート、及び、それを成形してなるPTP包装用蓋材、及び、PTP包装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記(A)、(B)、及び、(C)を含んでなるシートであり、(A)、(B)、及び、(C)の混合物中に占める(B)の割合が0.01質量%以上、3.0質量%以下であり、且つ(C)の割合が5質量%以上、50質量%以下であることを特徴とするポリエチレン系シートを提案するものである。
(A)示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解温度が100〜140℃であり、かつ、結晶融解熱量が140〜200J/gであるエチレン系重合体
(B)結晶核剤
(C)環状オレフィン系樹脂
【発明の効果】
【0015】
本発明が提案するポリエチレン系シートは、十分なプレススルー性、防湿性、及び、耐衝撃性を有するため、例えば医薬品や食品などの包装資材、特に医薬品用のPTP(プレススルーパック)などの蓋材のように、プレススルー性や防湿性、耐衝撃性が要求される材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】PTP包装体の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例としてのポリエチレン系シート(以下、「本シート」とも称する)について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<エチレン系重合体(A)>
本シートに用いるエチレン系重合体(A)は、エチレン単独重合体であってもよいし、或いは、エチレンと、エチレン以外のモノマー成分、特にはα―オレフィンとの共重合体であってもよい。また、これらの混合物を用いることもできる。
【0019】
ここで、エチレンと共重合するα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、へキセン−1、へプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、3−メチル−ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1等を例示することができる。中でも、工業的な入手し易さや諸特性、経済性などの観点から、プロピレン、ブテン−1、へキセン−1、オクテン−1が好適である。
エチレンと共重合するα−オレフィンは1種のみを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもかまわない。
【0020】
以上の中でも、エチレン単独重合体、或いは、エチレンと、ブテン−1、ヘキセン−1、及びオクテン−1からなる群より選ばれる少なくとも1種類のα−オレフィンとの共重合体を用いるのが好ましい。
【0021】
エチレンと、ブテン−1、ヘキセン−1、及びオクテン−1からなる群より選ばれる少なくとも1種類のα−オレフィンとの共重合体を用いる場合、共重合体中に占めるブテン−1、ヘキセン−1、及びオクテン−1の割合の合計が0.1〜4.0質量%であることが好ましく、中でも0.3質量%以上或いは3.5質量%以下、その中でも0.5質量%以上或いは3.0質量%以下であることがさらに好ましい。α−オレフィンの割合がかかる範囲内であれば、本シートの防湿性、透明性をさらに優れたものとすることができる。
【0022】
また、エチレン系重合体(A)としては、特にシングルサイト触媒を用いて重合されるエチレン単独重合体、及び/又は、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体を用いることが好ましい。
シングルサイト触媒を用いて重合されるエチレン単独重合体、及び/又は、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体は、分子量分布指数(Mw/Mn)が小さく、分子の長さが比較的均一であるため、結晶核剤を添加した場合に微細な結晶を形成することが可能となるため、透明性、防湿性を特に向上することができる。このような点から、エチレン系重合体(A)の分子量分布指数(Mw/Mn)は2.50〜5.00、特に2.60以上或いは4.50以下、中でも3.00以上或いは4.00以下であるのが好ましい。
【0023】
シングルサイト触媒としては、例えばメタロセン化合物とメチルアルミノオキサンとを組み合わせたメタロセン触媒を挙げることができる。シングルサイト触媒を用いて重合されるエチレン単独重合体、及び/又は、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体の特徴として、分子量分布が狭い点、同じ密度であっても結晶融解熱量が低い点などを挙げることができる。
【0024】
また、防湿性の点から、エチレン系重合体(A)の密度が、0.930〜0.958g/cmであることが好ましく、中でも0.932g/cm以上或いは0.947g/cm以下であることがより好ましく、その中でも0.935g/cm以上或いは0.942g/cm以下であることがさらに好ましい。前記エチレン系重合体(A)の密度がかかる範囲内であれば、本シートの防湿性をさらに高めることができる。
【0025】
エチレン系重合体(A)は、示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解温度が100〜140℃であり、かつ、結晶融解熱量が140〜200J/gを満足することが必要である。かかる範囲内に結晶融解温度及び結晶融解熱量を有するエチレン系重合体(A)を用いることで、PTP包装やブリスターパッケージの蓋材として優れた防湿性を発現することができる。中でも、前記結晶融解温度は110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。
また、前記結晶融解熱量は145J/g以上であることがより好ましく、中でも150J/g以上がさらに好ましい。
なお、前記結晶融解熱量の上限は200J/gである。
このような結晶融解温度は、示差走査熱量計を用いて、JIS K7121に準じて加熱速度10℃/分で測定することができ、該結晶融解熱量は、示差走査熱量計を用いて、JIS K7122に準じて加熱速度10℃/分で測定することができる。
【0026】
<結晶核剤(B)>
本シートに用いる結晶核剤(B)は、前記エチレン系重合体(A)の防湿性を向上させる効果が認められれば、その種類を特に制限するものではない。
例えばジベンジリデンソルビトール(DBS)化合物、1,3−O−ビス(3,4ジメチルベンジリデン)ソルビトール、ジアルキルベンジリデンソルビトール、少なくとも一つの塩素または臭素置換基を有するソルビトールのジアセタール、ジ(メチルまたはエチル置換ベンジリデン)ソルビトール、炭素環を形成する置換基を有するビス(3,4−ジアルキルベンジリデン)ソルビトール、脂肪族、脂環族、および芳香族のカルボン酸、ジカルボン酸または多塩基性ポリカルボン酸、相当する無水物および金属塩などの有機酸の金属塩化合物、環式ビス−フェノールホスフェート、2ナトリウムビシクロ[2.2.1]ヘプテンジカルボン酸などの二環式ジカルボン酸及び塩化合物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−ジカルボキシレートなどの二環式ジカルボキシレートの飽和の金属または有機の塩化合物、1,3:2,4−O−ジベンジリデン−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−メチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−エチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−イソプロピルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−n−プロピルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−n−ブチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−メチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−エチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−イソプロピルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−n−プロピルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−n−ブチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,3−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,4−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,5−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,4−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,5−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,3−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,4−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,5−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,4−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,5−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,4,5−トリメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,4,5−トリメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,4,5−トリエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,4,5−トリエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−メチルオキシカルボニルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−エチルオキシカルボニルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−イソプロピルオキシカルボニルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(o−n−プロピルオキシカルボニルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(o−n−ブチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(o−クロロベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−クロロベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−[(5,6,7,8,−テトラヒドロ−1−ナフタレン)−1−メチレン]−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−[(5,6,7,8,−テトラヒドロ−2−ナフタレン)−1−メチレン]−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−p−メチルベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−メチルベンジリデン−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−p−エチルベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−エチルベンジリデン−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−p−クロルベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−クロルベンジリデン−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−(2,4−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3−O−(2,4−ジメチルベンジリデン)−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−(3,4−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3−O−(3,4−ジメチルベンジリデン)−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−メチル−ベンジリデン−2,4−O−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチル−ベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−メチル−ベンジリデン−2,4−O−p−クロルベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−クロル−ベンジリデン−2,4−O−p−メチルベンジリデン−D−ソルビトールなどのジアセタール化合物、ナトリウム2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、アルミニウムビス[2,2’−メチレン−ビス−(4−6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート]、燐酸2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウムや、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等の脂肪酸、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、ヘベニン酸アミドなどの脂肪酸アミド、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩、シリカ、タルク、カオリン、炭化カルシウム等の無機粒子、グリセロール、グリセリンモノエステルなどの高級脂肪酸エステル、及び類似物を挙げることができる。
これらの中でも、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、ヘベニン酸アミドなどの脂肪酸アミド、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩が特に好ましい。
以上の結晶核剤は、これらのうちの一種を単独で用いることも、また、これらのうちの二種類を選択して組み合わせて併用することもできる。
【0027】
結晶核剤(B)の具体例としては、新日本理化(株)の商品名「ゲルオールD」シリーズ、旭電化工業(株)の商品名「アデカスタブ」、ミリケンケミカル(株)の商品名「Millad」、「Hyperform」、BASF(株)の商品名「IRGACLEAR」等が挙げられ、また結晶核剤のマスターバッチとしては理研ビタミン(株)の商品名「リケマスターCN」、ミリケンケミカル(株)の商品名「Hyperform Concenrate」等が挙げられる。この中でも特に防湿性を向上する効果が高いものとして、ミリケンケミカル(株)の商品名「Hyperform HPN−20E」、「Hyperform Concenrate HL3−4」、理研ビタミン(株)の商品名「リケマスターCN−001」、「リケマスターCN−002」が挙げられる。
【0028】
<環状オレフィン系樹脂(C)>
本シートは、前記エチレン系樹脂(A)とは非相溶である環状オレフィン系樹脂(C)を含有することが重要である。このような環状オレフィン系樹脂(C)を含有することにより、環状オレフィン系樹脂(C)が、プレススルー時において破壊の開始点となるため、防湿性を低下させることなく優れたプレススルー性を付与することができる。
【0029】
環状オレフィン系樹脂(C)としては、(i)環状オレフィンの開環(共)重合体を必要に応じ水素添加した重合体、(ii)環状オレフィンの付加(共)重合体、(iii)環状オレフィンとエチレン、プロピレン等α−オレフィンとのランダム共重合体、(iv)前記(i)〜(iii)を不飽和カルボン酸やその誘導体等で変性したグラフト変性体等を例示できる。
具体的には、日本ゼオン(株)の商品名「ZEONOR」シリーズ、三井化学(株)の商品名「アペル」シリーズ、ポリプラスチックス(株)の商品名「TOPAS」シリーズがあげられる。なお、環状オレフィン系重合体は、例えば、特開昭60−168708号公報、特開昭61−115916号公報、特開昭61−271308号公報、特開昭61−252407号公報などに記載されている公知の方法に準じて製造することもできる。
【0030】
また、環状オレフィン開環(共)重合体あるいは環状オレフィン開環(共)重合体の水添物を、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸あるいはその無水物の変性剤で変性したグラフト共重合体も使用することができる。
【0031】
前記環状オレフィン系樹脂(C)のガラス転移温度は、好ましくは50〜105℃であり、より好ましくは55〜90℃である。前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度がかかる範囲内にあれば、本シートの耐熱性を低下させることなく、プレススルー性を向上させることができる。
【0032】
環状オレフィン系樹脂(C)は、非晶性のものが好ましい。例えばエチレンと、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン等の脂環式オレフィンとが共重合しているものは、これらの脂環式オレフィンの共重合比率が高くなるにつれて結晶性が低下する。同時に、エチレン比率が低くなるため、エチレン系重合体(A)との相溶性が低下し、プレススルー性が向上する。
【0033】
(各成分の含有割合)
前記(A)、(B)、及び、(C)の混合物中における結晶核剤(B)の含有量は、0.01〜3.0質量%であることが重要であり、中でも0.03質量%以上或いは2.0質量%以下であるのがさらに好ましく、その中でも特に0.05質量%以上或いは1.0質量%以下であるのがより一層好ましい。かかる範囲内で結晶核剤(B)を配合することにより、結晶核剤の過剰な添加による耐熱性や機械特性の低下を生じることなく、効果的に防湿性を向上させることができる。
【0034】
また、前記(A)、(B)、及び、(C)の混合物中における環状オレフィン系樹脂(C)の含有量は、5質量%以上、50質量%以下であることが重要であり、中でも10質量%以上、45質量%以下であるのがさらに好ましく、その中でも特に15質量%以上、40質量%以下であるのがより一層好ましい。かかる範囲内で環状オレフィン系樹脂(C)を配合することにより、耐衝撃性を低下させることなく、効果的にプレススルー性を向上することができる。
【0035】
<オレフィン相溶樹脂(D)>
本シートは、防湿性のさらなる向上という観点から、さらにオレフィン相溶樹脂(D)を含有することが好ましい。
【0036】
オレフィン相溶樹脂(D)としては、オレフィン系樹脂、特にエチレン系重合体(A)と相溶し、かつエチレン系重合体(A)よりもガラス転移温度が高い樹脂であるのが好ましい。このような樹脂として、例えば石油樹脂、テルペン樹脂、クマロン−インデン樹脂、ロジン系樹脂、及び、これらの水素添加誘導体からなる群から選ばれる1種類の樹脂又は2種類以上の樹脂を挙げることができる。
【0037】
前記石油樹脂としては、例えばシクロペンタジエンもしくはその二量体からの脂環式石油樹脂、C9成分からの芳香族石油樹脂等を挙げることができる。また、前記テルペン樹脂としては、例えばβ−ピネンからのテルペン−フェノール樹脂などを挙げることができる。さらに、前記ロジン系樹脂としては、例えばガムロジン、ウッドロジン等のロジン樹脂、グリセリン、ペンタエリスリトールなどで変性したエステル化ロジン樹脂等を挙げることができる。
【0038】
このようなオレフィン相溶樹脂(D)は、エチレン系重合体(A)に混合した場合に比較的良好な相溶性を示し、色調、熱安定性、相溶性、耐透湿性などをさらに高める観点から、水素添加物誘導体、特に水素添加率(以下「水添率」という)が95%以上であり、かつ水酸基、カルボキシル基、ハロゲンなどの極性基、あるいは二重結合などの不飽和結合を実質上含有しない、石油樹脂またはテルペン樹脂を用いることが好ましい。
【0039】
オレフィン相溶樹脂(D)は、その分子量を変えることにより、種々の軟化温度のものを得ることができる。
オレフィン相溶樹脂(D)のJIS K2207に基づき測定した軟化温度Ts(D)は、前記エチレン系重合体(A)の示差走査熱量測定における冷却速度10℃/分で測定される結晶化ピーク温度Tc(A)+15℃以下、すなわち結晶化ピーク温度Tc(A)+15℃を超えた高温にならないことが好ましく、Tc(A)+10℃以下であることがより好ましく、Tc(A)+5℃以下であることがさらに好ましい。なお、Tc(A)の下限は80℃である。
【0040】
前記オレフィン相溶樹脂(D)の軟化温度Ts(D)の上限が前記条件を満たすことで、エチレン系重合体(A)の結晶化過程においてオレフィン相溶樹脂(D)分子の自由度が高い状態にあり、エチレン系重合体(A)の結晶化が阻害されず、微細な結晶が形成され、防湿性に優れたポリエチレン系シートを得ることができる。また、Ts(D)が80℃以上であれば、成形時におけるペレットのブロッキングや、二次加工時或いは輸送時或いは使用時における成形品表面へのブリードアウトを生じることがない。
【0041】
オレフィン相溶樹脂(D)の具体例としては、例えば、三井化学(株)の商品名「ハイレッツ」シリーズ、「ペトロジン」シリーズ、荒川化学工業(株)の商品名「アルコン」シリーズ、ヤスハラケミカル(株)の商品名「クリアロン」シリーズ、出光石油化学(株)の商品名「アイマーブ」シリーズ、トーネックス(株)の商品名「エスコレッツ」シリーズ等があげられる。
【0042】
前記オレフィン相溶樹脂(D)の含有量は、前記(A)、(B)、(C)、及び、(D)の混合物中に占める割合が、5質量%以上、30質量%以下であることが好ましく、中でも10質量%以上、25質量%以下であるのがさらに好ましく、その中でも特に15質量%以上、20質量%以下であるのがより一層好ましい。かかる範囲内でオレフィン相溶樹脂(D)を配合することにより、オレフィン相溶樹脂のシート表面へのブリードや、シートの耐衝撃性を低下させることなく、防湿性をさらに向上することができる。
【0043】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、本シートを構成する樹脂組成物に対して、エチレン系重合体(A)以外のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂や、ポリオレフィン系、あるいは、ポリスチレン系の熱可塑性エラストマー等の樹脂、及び、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、染料等の添加剤を含有させることができる。
【0044】
<本シートの製造方法>
本シートの製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、前記エチレン系重合体(A)、結晶核剤(B)、環状オレフィン系樹脂(C)、及び、その他添加剤を単軸、あるいは、二軸押出機等で溶融混合し、Tダイにより押出し、キャストロールで急冷、固化することにより、無延伸シートを作製することができる。
【0045】
成形温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類によって流動特性が変化するため適宜調整されるが、概ね180〜260℃、好ましくは200〜240℃である。
ここで、無延伸シートとは、シートの強度を高める目的で積極的に延伸しないシートを意味し、例えば、押出成形の際に延伸ロールによって2倍未満に延伸されたものは無延伸シートに含むものとする。
【0046】
本シートの効果を損なわない範囲で、他の層を積層してなる多層シートとする場合、多層化の方法については公知の方法、例えば、共押出、押出ラミネート、熱ラミネート、ドライラミネート等の方法を用いることができる。
中でも共押出の場合は、各々の層を構成する各材料を、それぞれ別々の押出機等で溶融混合し、フィードブロックやマルチマニホールドダイなどを用いて積層して押出し、キャストロールで急冷、固化することにより作製することができる。
また、熱ラミネートの場合は、各々の層を構成する無延伸シートを別々に作製した後に重ね合わせ、加熱ラミネートロールを通して圧着積層することにより作製することができる。
【0047】
さらに、本シートが有する二次加工性を損なわない範囲で、耐熱性、防湿性、耐衝撃性のさらなる向上を目的として、ロール法、テンター法、チューブラー法等を用いて一軸若しくは二軸に延伸することもできる。
【0048】
<シートの厚み>
本シートの厚みは、特に限定するものではない。例えばプレススルー性及び耐衝撃性を考慮した場合、0.02mm以上、0.2mm以下であることが好ましく、0.03mm以上、0.18mm以下であることがより好ましく、0.05mm以上、0.15mm以下であることがさらに好ましい。本シートの厚さが0.02mm以上であれば、優れた耐衝撃性を得ることができ、PTP包装やブリスターパッケージ等に用いた際に内容物の破損を防ぐことができる。一方、本シートの厚みが0.2mm以下であれば、優れたプレススルー性を発現させることができ、PTP包装やブリスターパッケージ等に用いた場合に、内容物を容易に取り出すことができる。
【0049】
また、本シートに他の層を積層した多層シートとする場合、本発明の効果を損なわない範囲で各層の厚み比を適宜調整可能である。この際、厚み方向に占める本シートの割合の下限が、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。なお、上限は100%である。かかる範囲内で多層シートの厚み比を調整することでプレススルー性、防湿性に優れたポリエチレン系シートを提供することができる。
【0050】
<本シートの物性値>
本シートをPTP包装やブリスターパッケージの蓋材として使用する場合、内容物の水分による劣化防止の観点から、JIS K7129B法に基づき温度40℃、相対湿度90%で測定した厚み0.08mmでの水蒸気透過率が1.5g/(m・24時間)以下であることが好ましく、中でも1.0g/(m・24時間)以下であることがさらに好ましく、その中でも特に0.8g/(m・24時間)以下であることがより一層好ましい。厚み0.08mmでの水蒸気透過率が1.5g/(m・24時間)以下であれば、包装材として十分な防湿性を有する製品が得られる。
【0051】
さらに、プレススルー性と耐衝撃性の観点から、本シートについてJIS Z1707に基づき測定した厚み0.08mmにおける貫孔強度が1.5N以上、3.0N以下であることが好ましく、中でも1.7N以上、2.8N以下であることがさらに好ましく、1.9N以上、2.5N以下であることがより一層好ましい。
本シートの貫孔強度が1.5N以上であれば、外部からの衝撃により本シートが容易に破れることなく耐衝撃性に優れるため、本シートをPTP包装材に用いた場合に内容物を十分保護することができる。また、本シートの貫孔強度が3.0N以下であれば、プレススルー性に優れたPTP包装用蓋材として用いることができる。
【0052】
<本シートの用途>
本シートは、真空成形、圧空成形、圧空真空成形、プレス成形、その他の熱成形によって、各種形状の成形体に形成することができる。例えば、包装用成形体、特にPTP包装やブリスターパッケージなどの包装容器の蓋材或いは底材として好適に利用することができる。
【0053】
例えば本シートを蓋材として使用してPTP包装する場合には、底材となるシートに真空、あるいは、圧空成形等によりポケット部を形成した後、該ポケット部に内容物を充填し、蓋材となる本シートを加熱融着、圧着等の方法を用いて貼り合せることで、PTP包装体を製造することができる。
また、本シートを成形してPTP包装容器の底材として利用すれば、プレススルー性、防湿性、耐衝撃性に優れたPTP包装容器を作成できるだけでなく、使用済みのPTP包装材のリサイクル性にも優れるため好適である。
【0054】
また、製品の意匠性や底材との融着性などを高める目的で、シート表面にエンボス加工や、艶消し加工等の加工を行ってもよい。この場合、一旦鏡面状のシートを作成してからエンボスロールや艶消しロールで加工を施すようにしても、押出成形の際にキャストロールをエンボスロールや艶消しロールに変更して成形するようにしてもよい。
本発明の趣旨を損なわない限り、シート表面に帯電防止剤、シリコーン、ワックスなどをコーティングすることも、傷付着防止などの目的で表面保護シートを用いて皮膜を形成することも、印刷層を設けることも可能である。なお、印刷層の形成手段は現在公知の任意の手段を採用可能である。
【0055】
このように本シートは、プレススルー性、防湿性、耐衝撃性の全てに優れるため、例えば、医薬品や食品等の包装分野においてカプセルや錠剤等の固形剤、粒状の食品等を包装するためのPTP包装用の蓋材や、食品等の包装分野における食品等を包装するためのブリスターパッケージ等の蓋材に使用することができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示される原料及びシート(サンプル)についての種々の測定値及び評価は次のようにして行った。ここで、フィルムの押出機からの流れ方向を縦方向、その直交方向を横方向と呼ぶ。
【0057】
(1)結晶融解温度(Tm)
(株)パーキンエルマーの示差走査熱量計、商品名「Pyris1 DSC」を用いて、JIS K7121に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で−40℃から200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で−40℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから結晶融解温度(Tm)(℃)を求めた。
【0058】
(2)結晶融解熱量(ΔHm)
(株)パーキンエルマーの示差走査熱量計、商品名「Pyris1 DSC」を用いて、JIS K7122に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で−40℃から200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で−40℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから結晶融解熱量(ΔHm)(J/g)を求めた。
【0059】
(3)結晶化ピーク温度(Tc)
(株)パーキンエルマーの示差走査熱量計、商品名「Pyris1 DSC」を用いて、JIS K7121に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で−40℃から200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で−40℃まで降温した時に測定されたサーモグラムから結晶化ピーク温度Tc(℃)を求めた。
【0060】
(4)軟化温度(Ts)
JIS K2207に準じてオレフィン相溶樹脂(D)の軟化温度を求めた。
【0061】
(5)分子量分布指数(Mw/Mn)
日本ウォーターズ(株)の商品名GPCシステムを用いて重量平均分子量(Mw)、及び、数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布指数(Mw/Mn)を算出した。
【0062】
(6)防湿性(水蒸気透過率)
JIS K7129Bに基づき、MOCON社の商品名PERMATRAN W 3/31を用いて、厚み0.08mmのシート(サンプル)について、40℃、90%RHの雰囲気下で24時間静置した時の水蒸気透過率を測定した。
水蒸気透過率が1.5g/(m・24時間)以下であるものを合格とした。
【0063】
(7)プレススルー性
厚み0.3mmのポリプロピレンシート(三菱樹脂(株)の商品名スーパーホイルE0030NA)を底材材料として使用し、これをPTP成形機としてのCKD(株)の商品名FBP−200Uを用いて、約140℃の熱板により加熱した後、圧空加圧してポケット部を成形した。次に、該ポケット部に内容物(錠剤)を装填した後、ポケット型ロールと約160℃の加熱ロールにより、前記の底材と、蓋材としてのシート(サンプル)を加熱溶着してPTP包装を成形した。
【0064】
得られたPTP包装のポケット部を指で押して内容物(錠剤)を取出し、プレススルー性を以下の基準により評価した。
○:一般的なアルミ箔の蓋材と同等の感触で内容物が取り出せた。
△:若干抵抗はあるものの、実用上問題ないレベルで内容物が取り出せた。
×:蓋材が破れず、内容物が取り出せなかった。
【0065】
(8)貫孔強度
JIS Z1707に基づき、厚み0.08mmのシート(サンプル)に、直径1mm、先端形状半径0.5mmの撃針棒を試験速度50mm/分で突き刺した時の荷重を測定した。
貫孔強度が1.5N以上、3.0N以下であるものを合格とした。
【0066】
<使用した材料>
[エチレン系重合体(A)]
(A)−1:メタロセン系触媒で重合したエチレン系重合体(エチレン/ブテン−1/オクテン−1=97.9/0.8/1.3質量%、密度=0.947g/cm、結晶融解温度=131℃、結晶融解熱量=181J/g、結晶化ピーク温度Tc(A)=113℃、Mw/Mn=2.87)
(A)−2:メタロセン系触媒で重合したエチレン系重合体(エチレン/ヘキセン−1/オクテン−1=96.3/2.4/1.3質量%、密度=0.937g/cm、結晶融解温度=126℃、結晶融解熱量=158J/g、結晶化ピーク温度Tc(A)=112℃、Mw/Mn=2.87)
(A)―3:エチレン単独重合体(エチレン=100質量%、密度=0.958g/cm3、結晶融解温度=134℃、結晶融解熱量=195J/g、結晶化ピーク温度Tc(A)=116℃、Mw/Mn=4.72)
【0067】
[結晶核剤(B)]
(B)−1:脂肪酸金属塩(ステアリン酸亜鉛/1,2−シクロヘキサンジカルボン酸カルシウム塩=34/66質量%)
【0068】
[環状オレフィン系樹脂(C)]
(C)−1:環状オレフィン系樹脂(ポリプラスチックス(株)製 商品名「TOPAS9506F−04」、ガラス転移温度=68℃、非晶性(結晶融解熱量=0J/g))
【0069】
[オレフィン相溶樹脂(D)]
(D)−1:水素添加石油樹脂(荒川化学工業(株)製 商品名「アルコンP115」、軟化温度Ts(D)=115℃)
【0070】
(実施例1)
(A)−1、(B)−1、及び、(C)−1を混合質量比89.9:0.1:10の割合でドライブレンドした後、40mmφ同方向二軸押出機を用いて230℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで約40℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み0.08mmのシート(サンプル)を作製した。
得られたシート(サンプル)について、防湿性(水蒸気透過率)、プレススルー性、貫孔強度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例2)
(A)−1、(B)−1、及び、(C)−1の混合質量比を69.9:0.1:30とした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例3)
(A)−1、(B)−1、及び、(C)−1の混合質量比を54.9:0.1:45とした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例4)
(A)−1、(B)−1、及び、(C)−1の混合質量比を69.95:0.05:30とした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例5)
(A)−1、(B)−1、及び、(C)−1の混合質量比を69:1:30とした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例6)
(A)−1、(B)−1、(C)−1、及び、(D)−1を混合質量比49.9:0.1:30:20の割合でドライブレンドした後、実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例7)
(A)−2、(B)−1、及び、(C)−1を混合質量比69.9:0.1:30の割合でドライブレンドした後、実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例8)
(A)−3、(B)−1、及び、(C)−1を混合質量比69.9:0.1:30の割合でドライブレンドした後、実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例1)
(A)−1を単独で用い、実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例2)
(A)−1、及び、(B)−1を混合質量比99.9:0.1の割合でドライブレンドした後、実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例3)
(A)−1、及び、(C)−1を混合質量比70:30の割合でドライブレンドした後、実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例4)
(A)−1、(B)−1、及び、(C)−1を混合質量比39.9:0.1:60の割合でドライブレンドした後、実施例1と同様の方法でシートの作製、評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例5)
エチレン系重合体(A)の代わりに、宇部丸善ポリエチレン(株)の商品名ユメリット2040FC(直鎖状低密度ポリエチレン、密度=0.918g/cm、結晶融解熱量=134J/g、分子量分布指数=2.80、以下(P)−1と略する)を用い、(P)−1、(B)−1、及び、(C)−1を混合質量比69.9:0.1:30の割合でドライブレンドした後、実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1より明らかである通り、実施例1〜8で作製したシートは、防湿性、プレススルー性、耐衝撃性に優れ、PTP包装用蓋材として用いるために好適なシートであった。
一方、比較例で作製したシートは、防湿性、プレススルー性、耐衝撃性の少なくとも1つの特性において、本発明のポリエチレン系シートに劣っていた。
【0085】
この結果と今まで行ってきた試験結果からすると、(A)、(B)、及び、(C)の混合物中に占める(B)の割合が0.01〜3.0質量%であり、且つ、(C)の割合が5〜50質量%であれば、実施例1〜8と同様の効果を得ることができると考えられる。
また、エチレン系重合体(A)の結晶融解温度が100〜140℃であり、かつ、結晶融解熱量が140〜200J/gであるエチレン系重合体であれば、実施例1〜8で使用したエチレン系重合体と同様の効果を得ることができると考えられる。
【0086】
エチレン系重合体(A)に関しては、防湿性と透明性をさらに向上させる観点から、エチレン以外のモノマー成分として、ブテン−1、ヘキセン−1、及び、オクテン−1からなる群より選ばれる少なくとも1種類のα−オレフィンを含有するものが好ましく、中でも(A)中に占めるブテン−1、ヘキセン−1、及び、オクテン−1の割合の合計が0.1〜4.0質量%であるのが好ましいと考えることができる。
【0087】
(実施例9)
実施例6と同様の材料割合及び手順で厚み0.3mmのシートを作製し、これを底材として使用する一方、実施例6で作製した厚み0.08mmのシートを蓋材として使用し、次のようにPTP包装体を作成した。
【0088】
実施例6と同様の材料割合及び手順で得た厚み0.3mmのシートを、PTP成形機としてのCKD(株)の商品名FBP−200Uを用いて、約140℃の熱板により加熱した後、圧空加圧してポケット部を成形して底材を形成した。次いで、該ポケット部に内容物(錠剤)を装填した後、ポケット型ロールと約160℃の加熱ロールにより、前記底材と、実施例6で作製した厚み0.08mmのシート(蓋材)とを加熱溶着してPTP包装体を作成した。
このようにして得られたPTP包装体は、優れたプレススルー性、防湿性、耐衝撃性を有するだけでなく、蓋材と底材が同一組成からなるためリサイクル性にも優れたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(B)、及び、(C)を含んでなり、(A)、(B)、及び、(C)の混合物中に占める(B)の割合が0.01質量%以上、3.0質量%以下であり、且つ、(C)の割合が5質量%以上、50質量%以下であることを特徴とするポリエチレン系シート。
(A)示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される結晶融解温度が100〜140℃であり、かつ、結晶融解熱量が140〜200J/gであるエチレン系重合体
(B)結晶核剤
(C)環状オレフィン系樹脂
【請求項2】
前記(A)は、エチレン以外のモノマー成分として、ブテン−1、ヘキセン−1、及び、オクテン−1からなる群より選ばれる少なくとも1種類のα−オレフィンを含有し、且つ、前記(A)中に占めるブテン−1、ヘキセン−1、及び、オクテン−1の割合の合計が0.1〜4.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン系シート。
【請求項3】
JIS K7129B法に基づき、温度40℃、相対湿度90%で測定した厚み0.08mmでの水蒸気透過率が1.5g/(m・24時間)以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエチレン系シート。
【請求項4】
JIS Z1707に基づき測定した厚み0.08mmにおける貫孔強度が1.5N以上、3.0N以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のポリエチレン系シート。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のポリエチレン系シートからなるPTP包装用蓋材。
【請求項6】
請求項1〜4の何れかに記載のポリエチレン系シートからなるPTP包装用蓋材と、PTP包装用底材とを組み合わせてなるPTP包装材。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかに記載のポリエチレン系シートからなるPTP包装用蓋材と、請求項1〜4の何れかに記載のポリエチレン系シートからなるPTP包装用底材とを組み合わせてなるPTP包装材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−172100(P2012−172100A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36723(P2011−36723)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】