説明

ポリエーテルイミドで縫合した強化ファブリック及びそれを含む複合材料

【課題】熱湿潤サイクリング時に微小亀裂発生の少ない複合材料を提供する。
【解決手段】第1の態様では、(a)強化ファブリック層と、(b)強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれたポリエーテルイミド繊維とを含有するプリフォーム。強化ファブリック層のポリエーテルイミド含量が約10重量%未満である。別の態様では、プリフォームを含む未硬化及び硬化複合材組成物であり、硬化複合材組成物を含む物品及び硬化複合材組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化複合材組成物に関し、さらに、真空補助樹脂トランスファー法を用いて製造した強化複合材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は代表的には、優れた剛性、耐衝撃性、耐疲労性その他の望ましい機械的特性を示す軽量だが高強度の材料である。多くの場合、繊維強化複合材料は優れた耐食性も示す。繊維強化複合材料は、航空機、宇宙船、自動車、鉄道車両、船舶、建設材料、スポーツ用品など、そのほか高強度と軽量を兼ね備えることが望ましい商業及び技術向け用途を含む様々な用途に用いられている。
【0003】
高強度などの特定の特性を有する繊維強化複合部品を製造する伝統的な方法では、通常、プレプレグテープを用いる。しかし、プレプレグテープを用いる方法はコスト的にとても有利なわけではない。近年、連続繊維で強化した複合材料を製造する別法が出現した。この方法では、繊維の一方向パイルの複数層を縫合(スティッチ)することにより、複合物製造段階で、補強材の配向を固定する。こうして得られたファブリックは、ファブリック中の繊維が多かれ少なかれクリンプ(捲縮)なしであるので、ノンクリンプファブリックとも称される。ノンクリンプファブリックは、繊維がまっすぐであり、繊維支配の複合材料特性、例えば張力や圧縮が強くなるので、織布より好適である。さらに、一方向繊維の層複数を製造段階で合体することが可能であるので、ノンクリンプファブリック強化材のレイアップはプレプレグテープのレイアップより迅速にできる。代表的には、ノンクリンプファブリック工業で用いられるスティッチはポリエステル又はナイロン繊維から形成されている。しかし、ポリエステル又はナイロンでスティッチしたノンクリンプファブリックを用いた複合材料は、熱湿潤サイクリング時に樹脂ポケットの残留応力により微小亀裂を形成しやすい。その上、このように形成された微小亀裂はスティッチと樹脂との界面に沿って伝播し、これが複合材料の諸特性の劣化につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0048853号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
強化複合材料を製造する方法がいくつか知られている。近年、繊維強化複合材料の製造に、真空補助樹脂トランスファー成形(vacuum assisted resin transfer molding)法が広汎に使用されている。この分野での進歩はあるものの、宇宙船、自動車、鉄道車両などの要求の高い用途で必要とされている、物性、性能向上及び高い繊維容量を示す、ノンクリンプファブリックに基づく繊維強化複合材料を得るために、さらなる改良が必要とされている。さらに、樹脂トランスファー成形法を用いて、繊維強化ノンクリンプファブリック複合材料に簡単かつ効率よく転換することができる未硬化材料系を確立する必要がある。本発明は、複合材組成物に関連した上記その他の課題への解決策を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、本発明は、(a)強化ファブリック層と、(b)強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれたポリエーテルイミド繊維とを含有し、前記強化ファブリック層のポリエーテルイミド含量が約10重量%未満である、プリフォーム(予備成形物)を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、(a)強化ファブリック層と、(b)強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれたポリエーテルイミド繊維と、(c)未硬化エポキシ樹脂とを含有し、前記強化ファブリック層のポリエーテルイミド含量が約10重量%未満である、未硬化複合材組成物を提供する。
【0008】
他の態様では、本発明は、(a)未硬化エポキシ樹脂を含有する配合物を強化ファブリック層に接触させて未硬化複合材組成物を形成する工程を含み、前記強化ファブリック層にはポリエーテルイミド繊維がスティッチ糸材料として組み込まれ、前記強化ファブリック層のポリエーテルイミド含量が約10重量%未満である、方法を提供する。
【0009】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、以下の詳細な説明を参照することで、一層容易に理解できるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲において、多数の用語に言及するが、その用語が次の意味を有するものと定義する。
【0011】
単数表現は、文脈上明らかにそうでない場合以外は、複数も含む。
【0012】
「任意の」又は「所望に応じて」は、後述する事象や状況が起こっても起こらなくてもよいことを意味し、関連する説明は事象が起こった場合と事象が起こらなかった場合両方を包含する。
【0013】
本明細書及び特許請求の範囲全体を通して用いた近似的な表示は、それが関与する基本機能に変化をもたらすことなく変動することが許される量的表現を修飾するのに適用することがある。したがって、「約」及び「実質的に」のような用語で修飾された値は、特定された正確な値に限定されない。幾つかの例では、近似的な表示はその値を測定する計器の精度に対応する。同様に、「存在しない」は、用語と組み合わせて用いることができ、ごくわずかな数又は量を含んでも、組み合わせた用語が存在しないと見なす。本明細書及び特許請求の範囲において、文脈か用語がそうでないと明示する場合以外は、範囲の限定はその上下限を組合わせたり、交換することができ、このような範囲は、表示通りでかつすべての下位範囲を包含する。
【0014】
ここで用いる用語「芳香族基」は、少なくとも1つの芳香族部分を有する原子価1以上の原子の配列を示す。少なくとも1つの芳香族部分を有する原子価1以上の原子の配列は、窒素、硫黄、セレン、ケイ素及び酸素などのヘテロ原子を含んでも、或いは炭素及び水素のみから構成されてもよい。ここで用いる用語「芳香族基」は、フェニル、ピリジル、フラニル、チエニル、ナフチル、フェニレン及びビフェニル基を含むが、これらに限定されない。上記の通り、芳香族基は少なくとも1つの芳香族部分を有する。芳香族部分は常に、(4n+2)個の「非局在化」電子を有する環状構造であり、ここでnは1以上の整数であり、具体的にはフェニル基(n=1)、チエニル基(n=1)、フラニル基(n=1)、ナフチル基(n=2)、アズレニル基(n=2)、アントラセニル基(n=3)などがある。芳香族基は非芳香族成分を含有してもよい。例えば、ベンジル基はフェニル環(芳香族部分)とメチレン基(非芳香族成分)とを含む芳香族基である。同様に、テトラヒドロナフチル基は、芳香族部分(C63)が非芳香族成分−(CH24−に縮合した芳香族基である。記述の便宜上、用語「芳香族基」はここでは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロ芳香族基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えばエステルやアミドなどのカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広い範囲の官能基の導入を包含すると定義する。例えば、4−メチルフェニル基は、メチル基を有するC7芳香族基であり、ここでメチル基はアルキル基である官能基である。同様に、2−ニトロフェニル基は、ニトロ基を有するC6芳香族基であり、ここでニトロ基は官能基である。芳香族基はハロゲン化芳香族基を含み、例えば4−トリフルオロメチルフェニル、ヘキサフルオロイソプロピリデンビス(4−フェニ−1−イルオキシ)(即ち、−OPhC(CF32PhO−)、4−クロロメチルフェニ−1−イル、3−トリフルオロビニル−2−チエニル、3−トリクロロメチルフェニ−1−イル(即ち、3−CCl3Ph−)、4−(3−ブロモプロピ−1−イル)フェニ−1−イル(即ち、4−BrCH2CH2CH2Ph−)などがある。芳香族基の別の例には、4−アリルオキシフェニ−1−オキシ、4−アミノフェニ−1−イル(即ち、4−H2NPh−)、3−アミノカルボニルフェニ−1−イル(即ち、NH2COPh−)、4−ベンゾイルフェニ−1−イル、ジシアノメチリデンビス(4−フェニ−1−イルオキシ)(即ち、−OPhC(CN)2PhO−)、3−メチルフェニ−1−イル、メチレンビス(4−フェニ−1−イルオキシ)(即ち、−OPhCH2PhO−)、2−エチルフェニ−1−イル、フェニルエテニル、3−ホルミル−2−チエニル、2−ヘキシル−5−フラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(4−フェニ−1−イルオキシ)(即ち、−OPh(CH26PhO−)、4−ヒドロキシメチルフェニ−1−イル(即ち、4−HOCH2Ph−)、4−メルカプトメチルフェニ−1−イル(即ち、4−HSCH2Ph−)、4−メチルチオフェニ−1−イル(即ち、4−CH3SPh−)、3−メトキシフェニ−1−イル、2−メトキシカルボニルフェニ−1−イルオキシ(例えば、メチルサリチル)、2−ニトロメチルフェニ−1−イル(即ち、2−NO2CH2Ph)、3−トリメチルシリルフェニ−1−イル、4−t−ブチルジメチルシリルフェニ−1−イル、4−ビニルフェニ−1−イル、ビニリデンビス(フェニル)などがある。用語「C3−C10芳香族基」は炭素原子数3個以上10個以下の芳香族基を含む。芳香族基1−イミダゾリル(C322−)は、C3芳香族基の1例である。ベンジル基(C77−)はC7芳香族基の1例である。
【0015】
ここで用いる用語「脂環式基」は、環状であるが、芳香族ではない、原子の配列を含む、原子価1以上の基を示す。ここで定義する用語「脂環式基」は芳香族基を含有しない。「脂環式基」は1つ以上の非環状成分を含有してもよい。例えば、シクロヘキシルメチル基(C611CH2−)は、シクロヘキシル環(環状であるが、芳香族ではない、原子の配列)とメチレン基(非環状成分)からなる脂環式基である。脂環式基は、窒素、硫黄、セレン、ケイ素及び酸素などのヘテロ原子を含んでも、或いは炭素と水素のみから構成されてもよい。記述の便宜上、用語「脂環式基」はここでは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えばエステルやアミドなどのカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広い範囲の官能基の導入を包含すると定義する。例えば、4−メチルシクロペンタ−1−イル基は、メチル基を有するC6脂環式基であり、ここでメチル基はアルキル基である官能基である。同様に、2−ニトロシクロブタ−1−イル基は、ニトロ基を有するC4脂環式基であり、ここでニトロ基は官能基である。脂環式基は1個又は2個以上のハロゲン原子を有してもよく、その場合ハロゲン原子は同じでも異なってもよい。ハロゲン原子には、例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1個又は2個以上のハロゲン原子を有する脂環式基には、2−トリフルオロメチルシクロヘキサ−1−イル、4−ブロモジフルオロメチルシクロオクタ−1−イル、2−クロロジフルオロメチルシクロヘキサ−1−イル、ヘキサフルオロイソプロピリデン−2,2−ビス(シクロヘキサ−1−イル)(即ち、−C610C(CF32610−)、2−クロロメチルシクロヘキサ−1−イル、3−ジフルオロメチレンシクロヘキサ−1−イル、4−トリクロロメチルシクロヘキサ−1−イルオキシ、4−ブロモジクロロメチルシクロヘキサ−1−イルチオ、2−ブロモエチルシクロペンタ−1−イル、2−ブロモプロピルシクロヘキサ−1−イルオキシ(例えば、CH3CHBrCH2610O−)などがある。脂環式基の他の例には、4−アリルオキシシクロヘキサ−1−イル、4−アミノシクロヘキサ−1−イル(即ち、H2NC610−)、4−アミノカルボニルシクロペンタ−1−イル(即ち、NH2COC58−)、4−アセチルオキシシクロヘキサ−1−イル、2,2−ジシアノイソプロピリデンビス(シクロヘキサ−4−イルオキシ)(即ち、−OC610C(CN)2610O−)、3−メチルシクロヘキサ−1−イル、メチレンビス(シクロヘキサ−4−イルオキシ)(即ち、−OC610CH2610O−)、1−エチルシクロブタ−1−イル、シクロプロピルエテニル、3−ホルミル−2−テトラヒドロフラニル、2−ヘキシル−5−テトラヒドロフラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(シクロヘキサ−4−イルオキシ)(即ち、−OC610(CH26610O−)、4−ヒドロキシメチルシクロヘキサ−1−イル(即ち、4−HOCH2610−)、4−メルカプトメチルシクロヘキサ−1−イル(即ち、4−HSCH2610−)、4−メチルチオシクロヘキサ−1−イル(即ち、4−CH3SC610−)、4−メトキシシクロヘキサ−1−イル、2−メトキシカルボニルシクロヘキサ−1−イルオキシ(即ち、2−CH3OCOC610O−)、4−ニトロメチルシクロヘキサ−1−イル(即ち、NO2CH2610−)、3−トリメチルシリルシクロヘキサ−1−イル、2−t−ブチルジメチルシリルシクロペンタ−1−イル、4−トリメトキシシリルエチルシクロヘキサ−1−イル(例えば(CH3O)3SiCH2CH2610−)、4−ビニルシクロヘキセン−1−イル、ビニリデンビス(シクロヘキシル)などがある。用語「C3−C10脂環式基」は、炭素原子数3以上10以下の脂環式基を含む。脂環式基2−テトラヒドロフラニル(C47O−)はC4脂環式基の1例である。シクロヘキシルメチル基(C611CH2−)はC7脂環式基の1例である。
【0016】
ここで用いる用語「脂肪族基」は、環状でない原子の直鎖状もしくは分岐状配列からなる、原子価1以上の有機基を示す。脂肪族基は1個以上の炭素原子を有すると定義される。脂肪族基を構成する原子の配列は、窒素、硫黄、ケイ素、セレン及び酸素などのヘテロ原子を含んでも、或いは炭素及び水素のみから構成されてもよい。記述の便宜上、用語「脂肪族基」はここでは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えばエステルやアミドなどのカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広い範囲の官能基を「環状でない原子の直鎖状もしくは分岐状配列」の一部として包含すると定義する。例えば、4−メチルペンタ−1−イル基は、メチル基を有するC6脂肪族基であり、ここでメチル基はアルキル基である官能基である。同様に、4−ニトロブタ−1−イル基は、ニトロ基を有するC4脂肪族基であり、ここでニトロ基は官能基である。脂肪族基は1個又は2個以上のハロゲン原子を有するハロアルキル基でもよく、その場合ハロゲン原子は同じでも異なってもよい。ハロゲン原子には、例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1個又は2個以上のハロゲン原子を有する脂肪族基には、アルキルハライド、具体的にはトリフルオロメチル、ブロモジフルオロメチル、クロロジフルオロメチル、ヘキサフルオロイソプロピリデン、クロロメチル、ジフルオロビニリデン、トリクロロメチル、ブロモジクロロメチル、ブロモエチル、2−ブロモトリメチレン(即ち、−CH2CHBrCH2−)などがある。脂肪族基の他の例には、アリル、アミノカルボニル(即ち、−CONH2)、カルボニル、2,2−ジシアノイソプロピリデン(即ち、−CH2C(CN)2CH2−)、メチル(即ち、−CH3)、メチレン(即ち、−CH2−)、エチル、エチレン、ホルミル(即ち、−CHO)、ヘキシル、ヘキサメチレン、ヒドロキシメチル(即ち、−CH2OH)、メルカプトメチル(即ち、−CH2SH)、メチルチオ(即ち、−SCH3)、メチルチオメチル(即ち、−CH2SCH3)、メトキシ、メトキシカルボニル(即ち、CH3OCO−)、ニトロメチル(即ち、−CH2NO2)、チオカルボニル、トリメチルシリル(即ち、(CH33Si−)、t−ブチルジメチルシリル、3−トリメトキシシリルプロピル(即ち、(CH3O)3SiCH2CH2CH2−)、ビニル、ビニリデンなどがある。さらに例示すると、C1−C10脂肪族基は1個以上10個以下の炭素原子を含有する。メチル基(即ち、CH3−)はC1脂肪族基の1例である。デシル基(即ち、CH3(CH29−)はC10脂肪族基の1例である。
【0017】
前述したように、1実施形態では、本発明は、(a)強化ファブリック層と、(b)強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれたポリエーテルイミド繊維とを含有し、前記強化ファブリック層のポリエーテルイミド含量が約5重量%未満である、プリフォームを提供する。
【0018】
強化ファブリック層は、織物状又はフェルト状繊維の層1つ又は2つ以上を含むことができる。一実施形態では、強化ファブリック層はブレード又はマットとすることができる。一実施形態では、強化ファブリック層は連続繊維の不織布を含んでもよい。不織布の例には、スパンボンド、スパンレース又はファブリックメッシュがあるが、これらに限らない。スパンボンド繊維は、連続繊維を連続紡糸し、熱ボンドすることにより製造する。スパンレース繊維は、連続繊維を連続紡糸し、機械的にボンドすることにより製造する。一実施形態では、強化ファブリック層は不織メッシュ繊維である繊維を含むことができる。一実施形態では、強化ファブリック層はノンクリンプファブリックである。ここで用いる用語「ノンクリンプファブリック」(non-crimp fabric)は、「経編」とも「方向性配向構造ファブリック」(DOS(directionally oriented structure)ファブリック)とも称されるが、1つ又は2つ以上の繊維層を互いに重ね合わせ、第2の非構造用糸で、クリンプを形成せずに、所定位置に保持したファブリックを指す。一実施形態では、ノンクリンプファブリックは、一方向性とすることができ、即ち繊維を単一方向に配向することができる。別の実施形態では、ノンクリンプファブリックは多軸とすることができ、この場合繊維の層を一つおきに様々な方向、例えば0°、45°、90°及び−45°に並べて、最適な強度の強化ファブリック層を形成することができる。繊維層を0°で整列させる場合、これは、繊維がファブリックの長さ(「経糸方向」ともいう)に沿って整列された状態を指し、、一方、90°の層では、繊維がファブリックの幅(「緯糸方向」ともいう)に沿って整列される。ノンクリンプファブリックにおける他の繊維層は、異なる角度、例えば+45°又は−45°で整列させることができる。代表的には、第2の非構造用糸で繊維層を様々な配向でスティッチ(縫合)して、準等方性強化を実現する。一実施形態では、スティッチは、繊維層を実質的に横断方向に進み、所定のパターンに従う。一実施形態では、強化ファブリックは炭素ノンクリンプファブリックである。
【0019】
強化プリフォーム層の寸法は、組成物が目指す特定の用途に従って広い範囲で変えることができる。一実施形態では、強化プリフォーム層を構成する繊維は、約100g/m2〜約750g/m2の範囲の目付(面積当たり重量)を有する。強化ファブリック層は約10重量%未満のポリエーテルイミドを含有する。別の実施形態では、強化ファブリック層は約1重量%未満のポリエーテルイミドを含有する。さらに他の実施形態では、強化ファブリック層はポリエーテルイミドを含有しない。
【0020】
前述したように、本発明の組成物はポリエーテルイミド繊維成分を含有する。ポリエーテルイミド繊維成分は強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれる。代表的には、ポリエーテルイミド繊維成分は、強化ファブリック層の繊維層をスティッチするのに用いられる第2の非構造用糸として機能することができる。
【0021】
一実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は下記の構造単位Iを含む。
【0022】
【化1】

式中、Tは単結合、O、S、SO、CO、SO2、C1−C20脂肪族基、C2−C20脂環式基及びC2−C20芳香族基からなる群から選択される二価連結基であり、R1はC1−C20脂肪族基、C2−C20脂環式基及びC2−C20芳香族基から選択される二価基である。代表的には、二価連結基Tは構造単位Iの両芳香環に3,3’か、4,4’か、3,4’か、4,3’などの位置で結合することができる。
【0023】
一実施形態では、二価連結基Tは−O−Z−O−とすることができ、ここでZはC1−C20脂肪族基、C2−C20脂環式基又はC2−C20芳香族基を示す。別の実施形態では、Zは下記の構造単位IIを含む。
【0024】
【化2】

式中、QはC1−C12脂肪族基、C3−C12脂環式基、C4−C18芳香族基、−O−、−S−、−C(O)−、−SO2−、−SO−、−Cy2y−(yは1〜8の整数)及びこれらのフッ素置換誘導体、例えばペルフルオロアルキレン基からなる群から選択される二価基であるが、これらに限らない。Cy2y基の具体例には、メチレン、エチレン、エチリデン、プロピレン及びイソプロピリデンがあるが、これらに限らない。
【0025】
一実施形態では、ポリエーテルイミドはコポリマーとすることができる。ポリエーテルイミドの混合物を使用してもよい。ポリエーテルイミドは、当業者に周知の方法、例えば、芳香族ビス(エーテル無水物)と有機ジアミンとの反応により製造することができる。ポリエーテルイミド繊維はジアミンとビス(エーテル無水物)に由来する構造単位を含有する。
【0026】
芳香族ビス無水物及び有機ジアミンの具体例は、例えば米国特許第3972902号、同第4455410号及び米国特許出願公開第2010/0048853号(いずれも先行技術として援用する)に開示されている。適当なビス(エーテル無水物)の例には、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物があるが、これらに限らない。芳香族ビス無水物の具体例には、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル−2,2−プロパン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、及びこれらの組み合わせがある。
【0027】
通常、ポリエーテルイミド繊維の合成にはどのようなジアミン化合物を用いてもよい。有機ジアミン化合物の例には、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、4−メチルノナメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、N−メチル−ビス(3−アミノプロピル)アミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)エタン、ビス(3−アミノプロピル)スルフィド、1,4−シクロヘキサンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2−メチル−4,6−ジエチル−1,3−フェニレンジアミン、5−メチル−4,6−ジエチル−1,3−フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、1,5−ジアミノナフタレン、ビス(4−アミノフェニル)メタン、ビス(2−クロロ−4−アミノ−3,5−ジエチルフェニル)メタン、ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,4−ビス(p−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−メチル−o−アミノフェニル)ベンゼン、ビス(p−メチル−o−アミノペンチル)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−イソプロピルベンゼン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルホン及びビス(4−アミノフェニル)エーテルがある。これらの化合物の混合物を使用してもよい。ある実施形態では、有機ジアミンは、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、スルホニルジアニリン、又はこれらの化合物の1つ又は2つ以上を含む組み合わせを含む。
【0028】
代表的なポリエーテルイミドには、SABIC Innovative Plastics社(米国マサチュウセッツ州ピッツバーグ所在)により登録商標ULTEMにて製造されているもの、具体的にはULTEM1000(数平均分子量Mn=21,000g/mol、Mw=54,000g/mol、分散度2.5)、ULTEM1010(Mn=19,000g/mol、Mw=47,000g/mol、分散度2.5)、ULTEM CRS5001、ULTEM CRS5011及びULTEM9011(Mn=19,000g/mol、Mw=47,000g/mol、分散度2.5)などがあるが、これらに限らない。なお、これらは米国特許第3847867号、同第4650850号、同第4794157号、同第4855391号、同第4820781号及び同第4816527号(いずれも先行技術として援用する)に記載されている。
【0029】
ポリエーテルイミド樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が約500〜約1,000,000g/mol、別の実施形態ではMw約5,000g/mol〜約500,000g/mol、さらに他の実施形態ではMw約10,000g/mol〜約75,000g/molとすることができる。
【0030】
一実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は線密度が約0.1デニール/フィラメント〜約100,000デニール/フィラメント(dpf)の範囲とすることができる。別の実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は線密度が約1dpf〜約100dpfの範囲とすることができる。
【0031】
一実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は平均直径が約1μm〜約1mmの範囲とすることができる。別の実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は直径が約5μm〜約500μmの範囲とすることができる。代表的には、ポリエーテルイミド繊維は厚さの均一な連続フィラメントである。一実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は厚さが不規則でもよい。一実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は、任意の形状、例えば円形、三角形、多角形、花びら形又は不定形、具体的にはL形、T形、Y形、W形、8枚花びら形、平坦形及びダンベル形のいずれでもよい。一実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は、忠実でも中空でもよい。
【0032】
一実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は、プリフォームの総重量に基づいて約0.01重量%〜約10重量%に相当する量でプリフォーム中に存在する。別の実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は、プリフォームの総重量に基づいて約0.1重量%〜約1重量%に相当する量でプリフォーム中に存在する。
【0033】
別の態様では、本発明は、強化ファブリック層と、強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれたポリエーテルイミド繊維と、未硬化エポキシ樹脂とを含有する未硬化複合材組成物を提供する。
【0034】
代表的には、未硬化エポキシ樹脂は、複数のエポキシ基を有する反応性モノマーを含有する。未硬化エポキシ樹脂は硬化により熱硬化エポキシ樹脂に変換することができる。一実施形態では、未硬化エポキシ樹脂は、2つのエポキシ基を有する少なくとも1つのモノマーを含有し、未硬化エポキシ樹脂は硬化剤での処理により硬化エポキシ樹脂に変換される。適当な未硬化エポキシ樹脂を例示すると、下記成分、多価フェノールポリエーテルアルコール、エポキシ化フェノール−ホルムアルデヒドノボラック樹脂などのノボラック樹脂のグリシジルエーテル、単核の二及び三価フェノールのグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAのジグリシジルエーテルなどのビスフェノールのグリシジルエーテル、多核のフェノールのグリシジルエーテル、脂肪族ポリオールのグリシジルエーテル、脂肪族二酸ジグリシジルエステルなどのグリシジルエステル、グリシジルアミド、アミド含有エポキシなどの窒素含有グリシジルエポキシ、シアヌル酸のグリシジル誘導体、メラミン由来グリシジル樹脂、p−アミノフェノールのトリグリシジルエーテルアミンなどのグリシジルアミン、グリシジルトリアジン、チオグリシジルエーテル、ケイ素含有グリシジルエーテル、モノエポキシアルコール、グリシジルアルデヒド、2、2’−ジアリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ブタジエンジオキシド及びビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテルの1つ又は2つ以上を含有するエポキシ樹脂が挙げられる。
【0035】
本発明で使用できる追加のエポキシ樹脂は、下記成分、オクタデシレンオキシド、エピクロロヒドリン、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(例えば、米国テキサス州ヒューストン所在Shell Chemical社から商品名「EPON828」、「EPON1004」及び「EPON1001F」及び米国ミシガン州ミッドランド所在Dow Chemical社から商品名「DER−332」及び「DER−334」にて入手できるもの)、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(例えば、米国ニューヨーク州ホーソーン所在Ciba−Geigy社から商品名「ARALDITE GY281」にて及びShell Chemical社から商品名「EPON862」にて入手できるもの)、ビニルシクロヘキセンジオキシド(例えば、米国コネチカット州ダンベリー所在Union Carbide社から商品名「ERL4206」にて入手できるもの)、3,4−エポキシシクロヘキシル−メチル−3,4−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(例えば、Union Carbide社から商品名「ERL−4221」にて入手できるもの)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン(例えば、Union Carbide社から商品名「ERL−4234」にて入手できるもの)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート(例えば、Union Carbide社から商品名「ERL−4299」にて入手できるもの)、ジペンテンジオキサイド(例えば、Union Carbide社から商品名「ERL−4269」にて入手できるもの)、エポキシ化ポリブタジエン(例えば、FMC社から商品名「OXIRON2001」にて入手できるもの)、エポキシシラン、例えばβ−3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン及びγ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(例えば、Ciba−Geigy社から商品名「ARALDITE RD−2」にて入手できるもの)、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル(例えば、Shell Chemical社から商品名「EPONEX1510」にて入手できるもの)、及びフェノール−ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジルエーテル(例えば、Dow Chemical社から商品名「DEN−431」及び「DEN−438」にて入手できるもの)の1つ又は2つ以上を含有することができる。適当なエポキシ樹脂の追加例としては、Cytec Engineered Materials社(米国アリゾナ州テンピ所在)から市販されている強靱化エポキシ樹脂「Cycom977−2」、エポキシ樹脂「Cycom977−20」、「CycomPR520」及び「Cycom5208」;Hexcel社(米国カルフォルニア州ダブリン所在)から市販されている2液形アミン硬化エポキシ系「HexFLow RTM−6」及び「HexFlow VRM34」;及びHenkel−Loctite社(米国カルフォルニア州ベイポイント所在)から市販されている「LX70412.0」があるが、これらに限らない。
【0036】
一実施形態では、未硬化エポキシ樹脂は、複合材組成物の総重量に基づいて約10重量%〜約80重量%に相当する量で複合材組成物中に存在する。別の実施形態では、未硬化エポキシ樹脂は、複合材組成物の総重量に基づいて約20重量%〜約60重量%に相当する量で複合材組成物中に存在する。他の実施形態では、ポリエーテルイミド繊維は、複合材組成物の総重量に基づいて約25重量%〜約50重量%に相当する量で複合材組成物中に存在する。
【0037】
一実施形態では、本発明は、強化ファブリック層と、強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれたポリエーテルイミド繊維と、硬化エポキシ樹脂とを含有する硬化複合材組成物を提供する。なお、硬化複合材組成物は未硬化エポキシ樹脂を含有する配合物から誘導された構造単位を含む。前述したように、本発明の硬化複合材組成物は、強化ファブリック、ポリエーテルイミド繊維及び未硬化エポキシ樹脂を含む組成物の繊維成分中への注入により製造することができる。一態様では、本発明が提供する配合物は、配合物の粘度が比較的低いことから、硬化複合材組成物の製造に使用するのに特に適当である。一実施形態では、硬化複合材組成物の製造に使用する配合物は、製造プロセスにおいて、樹脂注入と言及する時点で繊維成分と完全かつ均一に接触するのに特に良好な粘度特性を有する。一実施形態では、注入は、真空補助樹脂トランスファー法(以下VARTMともいう)により行う。一実施形態では、未硬化エポキシ樹脂、強化ファブリック及びポリエーテルイミド繊維を含有する配合物の粘度は、注入工程を行う温度(注入温度)で約10センチポアズ〜約2500センチポアズの範囲である。別の実施形態では、配合物の粘度は、注入温度で約25センチポアズ〜約500センチポアズの範囲である。代表的には、注入温度は約20℃〜約150℃の範囲にあるが、それより低い注入温度でも高い注入温度でも使用できる。一実施形態では、本方法はさらに、未硬化複合材組成物を硬化して硬化複合材料を得る工程を含む。
【0038】
強化ファブリック、ポリエーテルイミド繊維及び硬化エポキシ樹脂を含有する組成物は、ある実施形態では、連続相及び不連続相のいずれか又は両方のガラス転移が観察できることを特徴とする。一実施形態では、硬化複合材組成物は約180℃超のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0039】
本発明の硬化複合材組成物は、ある実施形態では特に亀裂形成に耐性がある。一実施形態では、複合材組成物は、−54℃〜71℃の範囲での熱湿潤試験2000サイクル後、標準試験クーポンの断面に生じる微小亀裂の密度が約5微小亀裂/cm2未満である。別の実施形態では、同じ試験手順後に0°、90°及び45°で切断した試験クーポンに観察される微小亀裂が長さ800μm未満である。
【0040】
当業者に明らかなように、本発明の硬化複合材組成物は、ここに開示するような顕著な性能特性を必要とする物品の製造に広汎に適用できる。種々の実施形態で、本発明の硬化複合材組成物を含む物品は、高強度と軽量を兼ね備える必要がある航空及び宇宙用途に特に有用であると予想される。したがって、本発明の硬化複合材組成物は、航空機の高強度軽量部品、例えば翼、胴体又は航空機エンジンのタービンブレードの製造に有用であると考えられる。本発明の硬化複合材組成物の他の有望な用途には、宇宙船の耐力構造、自動車の耐力構造、建設材料、例えば梁及び屋根材、個人用通信機器、例えば携帯電話、家具、例えばテーブルや椅子、スポーツ用具、例えばテニスラケット及びゴルフクラブ、スポーツ施設の座席、電車車両及び機関車の耐力構造、個人用小型船舶、帆船及び大型船の耐力構造並びに上記の用途で高強度と軽量を兼ね備える必要がある非耐力構造に有用である。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は、本発明の方法及び実施形態を具体的に示すものである。
【0042】
方法I:ノンクリンプファブリックの繊維でのスティッチ
Hexcel社(米国カルフォルニア州ダブリン所在)の炭素ノンクリンプファブリック(T700GC、+60°/0°/0°/−60°)からポリエステルスティッチを取り除いた。Hexcel社製ノンクリンプファブリックにポリエーテルイミド繊維を手作業でスティッチして、ポリエーテルイミドスティッチを有するノンクリンプファブリックを製造した。同様に、Hexcel社製ノンクリンプファブリックにポリエステルスティッチを手作業でスティッチしたノンクリンプファブリックと、Hexcel社製ノンクリンプファブリックにナイロンスティッチを手作業でスティッチしたノンクリンプファブリックを製造した。スティッチ緻密度及びスティッチパターンは上で製造した3つのノンクリンプファブリックとも同一であった。
【0043】
実施例1:真空補助樹脂トランスファー成形(VARTM)法による硬化複合材組成物の製造
ポリエーテルイミドスティッチを有するノンクリンプファブリック5〜7プライを積層し、樹脂入口及び完全真空(約30インチHg)の出口を有するナイロン真空バッグフィルムエンクロージャーに封入した。第2のバッグを用いて適正な真空シールを確保した。RTM6エポキシ樹脂(米国カルフォルニア州ダブリン所在Hexcel社から入手)を供給チャンバーで80℃に加熱し、真空下で脱泡した。注入に先立って、供給チャンバーの真空を約10インチHgに下げた。繊維構造中への樹脂注入を開始し、注入を通常90℃の温度で行った。注入プロセス中樹脂流れをモニターし、注入プロセスには約30分を要し、注入プロセスの終点で真空出口の樹脂を観察し、パネル内の空気空隙をなくした。入口及び出口チューブ両方をStaplaチューブ封止具で挟み、アセンブリ内に高レベルの真空を維持した。樹脂充填アセンブリを真空下180℃で2時間硬化して、硬化複合材組成物からなる気孔のないパネルを得た。
【0044】
比較例
比較例1ではナイロンスティッチを有するノンクリンプファブリックを用い、比較例2ではポリエステルスティッチを有するノンクリンプファブリックを用いた以外は上記と同じプロセスで、比較例1及び2を製造した。
【0045】
方法2:熱衝撃サイクル及び微小亀裂分析
注入後、複合材料パーツをウオータージェットで切断し、熱衝撃サイクルにかけた。熱衝撃チャンバーはそれぞれ温度約71℃及び温度約−54℃に保たれた2つのコンパートメントからなる。パーツを各熱衝撃チャンバー内に5分間保持し、これを1サイクルとした。パーツを約400〜2000回の熱衝撃サイクルに供した。熱衝撃チャンバー内での処理後、処理済みパーツを光学顕微鏡で微小亀裂の有無について検査した。倍率50xの光学顕微鏡及び自動画像解析ソフトを用いて生じた微小亀裂を分析した。微小亀裂の数と長さを5.5インチ×1/8インチの総断面で求めた。
【0046】
【表1】

表1のデータからわかるように、ポリエーテルイミドスティッチを有する複合材料は、2000サイクルの熱衝撃処理後でもなんら微少亀裂が認められなかった。比較例1及び2の複合材料は、400サイクルの熱衝撃処理を受けると微小亀裂が発生した。ほかに、ポリエーテルイミドは、エポキシ樹脂との相溶性がポリエステル及びナイロンより良好であることも認められた。さらに、ポリエーテルイミド繊維のガラス転移温度(Tg>210℃)は、ほとんどの宇宙等級エポキシ系の硬化温度(約180℃)より高く、その結果ポリエーテルイミドスティッチが硬化プロセスの間より低い熱膨張係数を有することになり、これによりスティッチが配置された樹脂ポケット区域内の残留応力を少なくする効果があり、また耐微小亀裂性複合材組成物となる。本発明の硬化複合材組成物は、熱湿潤サイクルで優れた耐微小亀裂性を発揮する(実施例1)。
【0047】
上記の実施例は例示にすぎず、本発明のいくつかの特徴だけを例証するものである。特許請求の範囲は着想した広い範囲で本発明を請求することを目的としており、ここで示した実施例は可能な多種多様なすべての実施形態から選択された実施形態を具体的に示すものである。したがって、出願人は、特許請求の範囲が本発明の特徴を示すのに用いた実施例の選択に限定されないと考えている。特許請求の範囲で用いた用語「含む」、「含有する」及びこの文法上の異形は、論理的に境界を定め、「のみからなる」、「からなる」などの言及範囲が変動する(異なる)語句を包含する。必要に応じ、様々な範囲を与えたが、これらの範囲は、範囲内にあるすべての下位範囲を含む。これらの範囲の変更は当業者にとって自明であり、これらの範囲の変更を記載していなくても、特許請求の範囲は可能な限りこれらの変更を含むものとする。文言の不明確さのために現在は予想できない均等物及び置換が科学技術の進展により可能になるかもしれず、これらの変更は可能な限り特許請求の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)強化ファブリック層と、
(b)強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれたポリエーテルイミド繊維と
を含むプリフォームであって、前記強化ファブリック層のポリエーテルイミド含量が約10重量%未満である、プリフォーム。
【請求項2】
前記ポリエーテルイミド繊維が構造単位Iを含有する、請求項1記載のプリフォーム。
【化1】

式中、Tは単結合、O、S、SO、CO、SO2、C1−C20脂肪族基、C2−C20脂環式基及びC2−C20芳香族基からなる群から選択される二価連結基であり、R1はC1−C20脂肪族基、C2−C20脂環式基及びC2−C20芳香族基から選択される二価基である。
【請求項3】
前記強化ファブリック層がノンクリンプファブリックを含む、請求項1記載のプリフォーム。
【請求項4】
前記強化ファブリック層がポリエーテルイミドを含まない、請求項1記載のプリフォーム。
【請求項5】
(a)強化ファブリック層と、
(b)強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれたポリエーテルイミド繊維と、
(c)未硬化エポキシ樹脂と
を含む未硬化複合材組成物であって、前記強化ファブリック層のポリエーテルイミド含量が約10重量%未満である、未硬化複合材組成物。
【請求項6】
(a)未硬化エポキシ樹脂を含有する配合物を強化ファブリック層に接触させて未硬化複合材組成物を形成する工程
を含む方法であって、前記強化ファブリック層にはポリエーテルイミド繊維がスティッチ糸材料として組み込まれ、前記強化ファブリック層のポリエーテルイミド含量が約10重量%未満である、方法。
【請求項7】
未硬化エポキシ樹脂を強化ファブリック層中に約20℃〜約140℃の注入温度で注入することにより接触を行う、請求項6記載の方法。
【請求項8】
接触工程を真空補助樹脂トランスファー成形条件下、注入温度で行う、請求項6記載の方法。
【請求項9】
(a)強化ファブリック層と、
(b)強化ファブリック層にスティッチ糸材料として組み込まれたポリエーテルイミド繊維と、
(c)硬化エポキシ樹脂と
を含む硬化複合材料であって、前記強化ファブリック層のポリエーテルイミド含量が約10重量%未満である、硬化複合材料。
【請求項10】
請求項9記載の硬化複合材料を含む物品。

【公開番号】特開2012−92337(P2012−92337A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234512(P2011−234512)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】