説明

ポリエーテルポリカーボネートの製造方法

【課題】簡便な操作で、フェノール等の反応副生物を効率的に低減し、高純度のポリエーテルポリカーボネートを製造できる方法の提供。
【解決手段】撹拌翼を備えた反応器内において炭酸エステルとポリエーテルジオールとを反応させてポリエーテルポリカーボネートを製造する方法であって、反応中において、単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を超え、200kW/m3以下の撹拌条件で撹拌しながら反応させることで、生成したポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量を低下させる工程を含んでいる、ポリエーテルポリカーボネートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルポリカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、耐衝撃性、耐候性、透明性等に優れており、特に芳香族ポリカーボネートは光学材料や建築材料等に使用されている。
一方、脂肪族ポリカーボネートも同様の特性を有することから、種々の用途が提案されている。例えば、芳香族ポリカーボネートと共重合体を成すことで、低光弾性定数の樹脂となることが知られている(特許文献1参照)。また特定の脂肪族ポリカーボネートは、これを主成分とすることで粘着剤同士は粘着するが、指や物品には粘着性が低い「選択的粘着性」を有する粘着剤となることも知られている(特許文献2参照)。
【0003】
脂肪族ポリカーボネートのうち、繰り返し単位がオキシアルキレン基であるポリエーテルポリカーボネートは、液状のものは潤滑剤(特許文献3参照)や熱可塑性ポリウレタンの前駆体(特許文献4参照)となることが知られている。また、ポリエーテルポリカーボネートにおいても、「選択的粘着性」を有するものが知られている(特許文献5参照)。
【0004】
このようなポリカーボネートの製造方法としては、炭酸エステルとジオールとをエステル交換させ重縮合する方法が広く用いられている(特許文献6参照)。また、反応においてヒドロキシル基を有する有機化合物としてフェノールが副生物として生成することが知られている(特許文献7参照)。
【0005】
ヒドロキシル基を有する化合物を除去する方法として種々の方法が提案されており、活性炭の吸着特性を利用した除去方法が工業的に広く用いられている(特許文献8及び9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−42032号公報
【特許文献2】特開平9−235537号公報
【特許文献3】特開平9−508674号公報
【特許文献4】特開2005−232447号公報
【特許文献5】特開2009−41004号公報
【特許文献6】特開2007−154211号公報
【特許文献7】特開2008−239650号公報
【特許文献8】特開平3−207485号公報
【特許文献9】特公昭61−51957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭酸エステルとジオールとをエステル交換させ重縮合することによりポリカーボネートを製造する方法では、重縮合反応を効率的に進めるために、エステル交換反応によって副生するヒドロキシル基を有する化合物(例えばアルコール類、フェノール類)を系外へと効率的に除去することが望ましい。
しかしながら、重縮合反応の進行により反応生成物の分子量が増加すると、系内の溶融粘度が急激に上昇するため、副生するヒドロキシル基を有する化合物の留去が困難となる。
【0008】
この問題に対し、上記特許文献6記載の技術では、溶融粘度の上昇する重縮合反応の後期工程について、系内の温度を高温にして溶融粘度を低下させ、撹拌を実施する方法が提案されている。しかしながら、溶融粘度を低下させるために高温で反応を行うことは、反応生成物の熱分解に起因するポリカーボネートの品質劣化が懸念される。
【0009】
副生するヒドロキシル基を有する化合物は、低分子量であることに起因して刺激臭を発し、またヒドロキシル基を有する反応副生物によるポリエーテルポリカーボネートの製品純度の低下による性能劣化が懸念されることから、エステル交換による重縮合反応の後に、反応副生物を除去する工程を設ける必要がある。
【0010】
この問題に対し、上記特許文献7記載の技術では、蒸留による副生物除去法が用いられている。しかし、ポリエーテルポリカーボネートと副生物を蒸留によって分離しようとすると、ポリエーテルポリカーボネートの溶融粘度が非常に高いために、分離操作が煩雑となる。
また、ポリエーテルポリカーボネートを溶媒等に溶解させて見掛け粘度を下げた上で、上記特許文献8、9に記載されるような活性炭等の吸着剤を用いて副生物を除去する方法も考えられるが、吸着操作により反応時間が増加、あるいは吸着処理設備が必要となることから製造設備の機器費増加が懸念される。
【0011】
従って、本発明の課題は、簡便な操作で、フェノール、アルコール等のヒドロキシル基を有する反応副生物を効率的に低減し、高純度のポリエーテルポリカーボネートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、撹拌翼を備えた反応器内において炭酸エステルとポリエーテルジオールとを反応させてポリエーテルポリカーボネートを製造する方法であって、
反応中において、単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を超え、200kW/m3以下の撹拌条件で撹拌しながら反応させることで、生成したポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量を低下させる工程を含んでいる、ポリエーテルポリカーボネートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、簡便な操作で、ヒドロキシル基を有する反応副生物を効率的に低減し、高純度のポリエーテルポリカーボネートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリエーテルポリカーボネートの製造方法は、撹拌翼を備えた反応器内において炭酸エステルとポリエーテルジオールとのエステル交換による重縮合反応を実施する。
重縮合反応開始時及び初期段階においては、重合度が低いことから反応系の溶融粘度も低く、撹拌翼による反応器内の撹拌自体は容易であるが、重縮合反応が進行し、ポリエーテルポリカーボネートの重合度が上がると反応系の溶融粘度も上がる。
本発明のポリエーテルポリカーボネートの製造方法は、このようにポリエーテルポリカーボネートの重合度が上がり(重量平均分子量が増加して)、反応系の溶融粘度が上昇した反応段階の所望段階(目的とする重合度に達した段階)において、単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を超え、200kW/m3以下の撹拌条件で撹拌しながら反応させることで、生成したポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量を低下させる工程を含むものである。
本発明において「単位体積当りの撹拌所要動力」とは、日置電機株式会社製 HIOKI3169 クランプオン パワーハイテスタを用いて、反応中の攪拌動力(単位kW)の測定値と反応原料仕込み前の空転動力(単位kW)の測定値の差を求め、更にその値を仕込んだ反応原料の体積(単位m3)で除した値である。
【0015】
<撹拌翼を備えた反応器>
本発明の製造方法で用いる撹拌翼を備えた反応器は、槽型、管型、塔型、竪型、横型のいずれの形式であってもよいが、撹拌翼を備えた竪型反応器を好ましく用いることができる。
撹拌翼は特に制限はなく、エッジドタービン翼、タービン翼、スクリュー翼、パドル翼、アンカー翼、ヘリカルリボン翼、ダブルヘリカルリボン翼、格子型翼等の当分野において知られている撹拌翼を使用できる。
反応器の反応器内径(D)と撹拌翼直径(d)の比d/Dは、均一に反応させる観点から、0.30〜0.98が好ましく、0.60〜0.98がより好ましい。
【0016】
<仕込み原料等>
本発明の製造方法に用いられる炭酸エステルとしては、炭素数1〜12のアルコールの炭酸エステルが好ましく、特に限定されるものではないが、粘着性発現の観点から、炭酸ジメチル、炭酸ジフェニル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等が挙げられ、炭酸ジメチル、炭酸ジフェニルが好ましい。
【0017】
本発明の方法に用いられるポリエーテルジオールは、下記一般式(I)で表される化合物が好適である。
HO−(AO)n−H (I)
[式中、Aは炭素数2〜6のアルキレン基、nは平均値で5〜1000の数、n個のAは同一でも異なっていても良い。]
【0018】
一般式(I)において、Aは炭素数2〜6のアルキレン基を示し、n個のAは同一でも異なっていても良いが、選択的粘着性発現の観点から、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基がより好ましく、エチレン基とプロピレン基が混合しているものが更に好ましい。
【0019】
また、異なるアルキレンオキシ基からなる場合、これらはブロック構造でも、ランダム構造でもよいが、選択的粘着性発現の観点から、ランダム構造がより好ましい。
【0020】
一般式(I)において、nはアルキレンオキシ基の平均付加モル数を示し、選択的粘着性発現の観点から、5〜1000の数であり、好ましくは7〜700、更に好ましくは10〜500の数である。
【0021】
本発明の製造方法に用いられるポリエーテルジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体が挙げられ、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合が好ましく、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダム共重合体がより好ましい。
ポリエーテルジオールとして市販品を用いることもでき、例えばアデカポリエーテルPR-3005、3007、PR-5007(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
【0022】
本発明の製造方法に用いられるポリエーテルジオールの数平均分子量は、水やアルコールへの良好な溶解性を得る観点から、200〜50000が好ましく、300〜30000がより好ましく、400〜20000が更に好ましい。
【0023】
本発明の製造方法においては、ポリエーテルジオール以外に、他のポリオールを共存させてもよい。
他のポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、テトラメチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のジオール、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール等のポリオール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物等の芳香族含有ジオール等が挙げられる。
【0024】
全ポリオール中のポリエーテルジオールの割合は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0025】
炭酸エステルとポリエーテルジオールをエステル交換反応させる際の反応モル比は、選択的粘着性発現の観点から、炭酸エステルのモル数/ポリエーテルジオールのモル数として、1/0.9〜1/1.1が好ましく、1/0.95〜1/1.05がより好ましい。
【0026】
炭酸エステルとポリエーテルジオールをエステル交換反応させる際には、通常のエステル交換反応触媒が使用できる。
このような触媒としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びそれらのアルコキシド、水素化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、酸化物や、亜鉛、アルミニウム、スズ、チタン、鉛、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、マンガン、ジルコニウムなどの化合物が挙げられる。また、トリエチルアミン、イミダゾールなどの有機塩基化合物を用いることもできる。
これらの触媒の中では反応性、及び入手性の観点から、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の化合物、スズ、チタンなどの化合物が好ましい。
【0027】
<重縮合反応工程(撹拌による分子量低下を含む工程)>
本発明のエステル交換による重縮合反応は、上記したような撹拌翼を備えた反応器を使用して、好ましくは単一の反応器を使用して行うことができる。反応形式はバッチ式、連続式、バッチ式と連続式の組み合わせのいずれもよい。
【0028】
炭酸エステルとポリエーテルジオールのエステル交換反応における反応温度は、反応生成物の熱劣化を抑制し、品質の良好なポリエーテルポリカーボネートを得る観点から、80〜300℃が好ましく、100〜250℃がより好ましく、110〜200℃が更に好ましく、120〜180℃が特に好ましい。
【0029】
エステル交換反応における反応圧力は常圧でもよいが、減圧下が好ましい。ポリエーテルポリカーボネートの重縮合反応は平衡反応であるので、減圧下で、副生するヒドロキシル基を有する化合物の揮発が促進され、効果的に副生するヒドロキシル基を有する化合物を系外に除去することができるからである。
減圧条件としては0.1kPa〜67kPa(絶対圧)が好ましく、0.1kPa〜40kPa(絶対圧)がより好ましい。
【0030】
常圧の場合、窒素などの不活性気体を流通させることで副生するヒドロキシル基を有する化合物の系外への除去を促進することができる。
更に、減圧と不活性気体の流通を併用することで、より効果的に副生するヒドロキシル基を有する化合物を系外に除去することができる。
不活性気体としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の周期表第18族の元素、及び窒素が挙げられるが、取り扱い性、入手容易性、コスト等の観点から窒素が好ましい。
不活性ガスの流通条件としては、仕込み容量に対して、好ましくは0.1倍〜20倍、より好ましくは0.1倍〜10倍、更に好ましくは1〜5倍の不活性ガスを流通させることが好適である。
不活性ガスの流通方法としては、副生するヒドロキシル基を有する化合物の系外への除去を促進する観点から、反応器底部等から不活性ガスを供給するなどして、反応器内容物中に不活性ガスを流通させる方法(即ち、バブリング処理)が好ましい。
【0031】
撹拌翼の回転数は、撹拌剪断力による反応生成物の分解の観点より、1r/min以上が好ましく、10r/min以上がより好ましく、40r/min以上が更に好ましい。また、設備負荷の観点より300r/min以下が好ましく、100r/min以下がより好ましく、70r/min以下が更に好ましい。
【0032】
重縮合反応が進行し(重量平均分子量が増加して)、反応系の溶融粘度が上昇した反応の所望段階(目的とする重合度に達した段階)には、単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を超え、200kW/m3以下の撹拌条件で撹拌しながら反応させることで、生成したポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量を低下させる。
【0033】
撹拌剪断力による反応生成物の分解により重合度を低減させて、ヒドロキシル基を有する反応副生物の含有量を効率的に低減させる観点、及び重合度を低減させる観点より、単位体積当りの撹拌所要動力は25kW/m3を超えており、25.5kW/m3を超えた撹拌条件で反応を行うことが好ましい。
また撹拌機の大型化を抑制する観点より、単位体積当りの撹拌所要動力は200kW/m3以下であり、100kW/m3以下の撹拌条件で反応を行うことが好ましく、40kW/m3以下の撹拌条件で反応を行うことがより好ましく、35kW/m3以下の撹拌条件で反応を行うことが更に好ましい。
【0034】
重縮合反応工程は、重量平均分子量の低下を含む工程であることから、反応系の溶融粘度が上昇した反応の所望段階(目的とする重合度に達した段階)は、最終的に得ようとするポリエーテルポリカーボネートの重合度よりも大きな重合度となった段階である。
なお、使用する炭酸エステルとポリエーテルジオールの分子量により重量平均分子量は異なることから、重合度を目安とするものであるが、特定の炭酸エステルと特定のポリエーテルジオール(例えば、製造例1に記載のエチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダムコポリマーと炭酸ジフェニル)を使用するときは、目的とする重合度に達した段階は、所定の重合度に相当する重量平均分子量で判断することになる。
本発明の製造方法では、生成したポリエーテルポリカーボネートの重合度が10以上になったときに所定の単位体積当りの撹拌所要動力で撹拌することが好ましく、ヒドロキシル基を有する反応副生物を効率的に低減させる観点より、重合度が15以上になったときがより好ましく、重合度が20以上になったときが更に好ましい。また、ポリエーテルポリカーボネートの生産性、及び取り扱い性の観点より、重合度が500になる以前が好ましく、重合度が300になる以前がより好ましく、重合度が200になる以前が更に好ましい。
【0035】
また目的とする重合度に達した段階において、単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を超え、かつ200kW/m3以下の撹拌条件で撹拌しながら反応を進行させるとき、重縮合反応と撹拌剪断力による反応生成物の分解の双方が起きている。このため、単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を超える条件で撹拌を開始したときでも、反応系の粘度の低下及び上昇に伴って単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を上下することがある。
このため、撹拌所要動力が25kW/m3を超えた時間における積算の撹拌所要動力により制御することができる。
本発明の製造方法では、撹拌所要動力が25kW/m3を超えた時間における積算の撹拌所要動力が4kW/m3・h以上となるように撹拌することが好ましく、反応系内の溶融粘度を素早く低下させる観点より、積算の撹拌所要動力が7kW/m3・h以上とすることがより好ましく、10kW/m3・h以上とすることが更に好ましく、15kW/m3・h以上とすることが特に好ましい。
また、ポリエーテルポリカーボネートの分子量を好ましい範囲にする観点、及び経済性の観点より、積算の撹拌所要動力が200kW/m3・h以下が好ましく、150kW/m3・h以下がより好ましく、100kW/m3・h以下が更に好ましい。
【0036】
最終的に得ようとするポリエーテルポリカーボネートの分子量は、使用する炭酸エステルとジオールの種類(分子量)のほか、ポリエーテルポリカーボネートの用途により異なるものであるが、反応系内の溶融粘度を考慮すると、重量平均分子量は5万以上が好ましく、8万以上がより好ましく、9万以上が更に好ましい。また用途にもよるが、「選択的粘着性」を有する粘着剤として用いる場合、常温で十分な粘着性を示す観点から、100万以下が好ましく、50万以下がより好ましく、30万以下が更に好ましい。
【0037】
低下させる分子量は、反応系内の溶融粘度の低下状態を考慮すると、重量平均分子量で5000以上低下させることが好ましく、10000以上低下させることがより好ましく、20000以上低下させることが更に好ましい。
【0038】
重縮合工程において、目的とする重合度に達した段階、及び単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を超える条件で撹拌することによる分子量の低下は、次のようにして確認することができる。
重縮合反応が進行した段階で適宜(1回又は2回以上)サンプリングして重量平均分子量を測定して、使用した仕込み原料(炭酸エステルとポリエーテルジオール)に対応する所望の重合度であることを確認する。その後、所定の撹拌条件にて撹拌した後、適宜(1回又は2回以上)サンプリングして重量平均分子量を測定して、重量平均分子量が低下したことを確認する。
【0039】
さらに付加的な確認方法として、分子量低下後におけるヒドロキシル基を有する反応副生物(使用する炭酸エステルとポリエーテルジオールに応じて異なるもので、アルコール、フェノール等)の含有量を測定する方法を適用することもできる。
分子量低下後におけるヒドロキシル基を有する反応副生物の含有量は、刺激臭・異臭を呈さず高純度のポリエーテルポリカーボネートを得る観点から、ポリエーテルポリカーボネート1kgに対して500mg/kg以下が好ましく、より好ましくは300mg/kg以下、更に好ましくは100mg/kg以下に低下させることが好適である。
【0040】
本発明の製造方法では、反応の進度に応じて、連続的に又は段階的に、撹拌翼回転数等の撹拌操作条件を変化させることもできる。
本発明の製造方法では、ポリエーテルポリカーボネートの分子量は、系内の溶融粘度を低下させてヒドロキシル基を有する反応副生物を効率的に低減させる観点より、重量平均分子量を反応途中で1回以上低下させることが好ましく、2回以上低下させることがより好ましい。
【0041】
本発明の製造方法では、炭酸エステルとポリエーテルジオールとの平衡反応であるエステル交換反応による重縮合によりポリエーテルポリカーボネートが生成する。
このエステル交換による重縮合反応では、ヒドロキシル基を有する反応副生成物が反応系外に排出されることにより進行すると考えられる。
重縮合反応により生成したポリエーテルポリカーボネートが同程度の重合度であれば、粘弾性も同程度であるので、ヒドロキシル基を有する反応副生物の除去性は同程度であると考えられる。
しかしながら、本発明の製造方法を適用することによって、同程度の重合度でありながらヒドロキシル基を有する反応生成物の含有量を低下させることができる要因は明らかではないが、所定の撹拌条件による制御操作の結果、重合度の低下に伴い、ヒドロキシル基を有する反応生成物が反応系内での濃度が低減している。
【0042】
重縮合反応の終了後、得られたポリエーテルポリカーボネートに炭素数1〜4のアルコールを添加し、均一に希釈・溶解させることで、収率良く反応器から抜き出すことができる。
炭素数1〜4のアルコールを添加しポリエーテルポリカーボネートを希釈・溶解する温度は、収率良く反応器から抜き出す観点から15〜120℃が好ましく、50〜110℃がより好ましく、60〜100℃が更に好ましい。希釈・溶解操作の圧力は常圧でも加圧でもよい。
炭素数1〜4のアルコールの添加量は収率良く反応器から抜き出す観点から、ポリエーテルポリカーボネート1質量部に対し、0.01〜20質量部が好ましく、1〜15質量部がより好ましく、1.5〜10質量部が更に好ましい。
炭素数1〜4のアルコールは取り扱い性の観点から、炭素数は1〜3がより好ましく、2が更に好ましい。
【0043】
ヒドロキシル基を有する反応副生物の含有量を更に低減させるために、エステル交換反応後に、精製処理を行ってもよい。これら精製処理は、合成吸着剤、イオン交換樹脂、活性炭による吸着処理、及び溶媒精製処理を適用することができる。
なお、本発明の製造方法を実施して得られたポリエーテルポリカーボネートは、従来法により得られたものと比べるとヒドロキシル基を有する反応副生物の含有量が少ないため、精製処理を実施する場合であっても、吸着剤量を減少させたり、精製処理に要する時間を短縮させたりすることができる。
【0044】
吸着処理を実施するときは、例えば、回分式や連続式等の公知の方法を用いることができる。
具体的には、
1)吸着処理槽内に仕込んだポリエーテルポリカーボネート溶液に吸着剤を直接投入して処理を行う回分法や、
2)吸着剤を充填した固定床式吸着塔にポリエーテルポリカーボネート溶液を流通式若しくは循環式にて通液させる連続法等が挙げられる。
【0045】
本発明の製造方法を適用して得られるポリエーテルポリカーボネートは、例えば、特開2009−41004号公報に記載された下記一般式(II)で表される構成単位を有するポリエーテルポリカーボネートが好適である。
【0046】
【化1】

【0047】
〔式中、Aは炭素数2〜6のアルキレン基、nは平均値で5〜1000の数、pは平均値で5〜100の数であり、(n×p)個のAは同一でも異なっていても良い。〕
【0048】
一般式(II)において、Aは炭素数2〜6のアルキレン基を示し、(n×p)個のAは同一でも異なっていても良いが、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基がより好ましく、エチレン基とプロピレン基の混合基が更に好ましい。
また、異なるアルキレンオキシ基からなる場合、これらはブロック構造でも、ランダム構造でもよいが、選択的粘着性発現の観点から、ランダム構造がより好ましい。
【0049】
nは、選択的粘着性発現の観点から、5〜1000の数であり、好ましくは7〜700、更に好ましくは10〜500の数である。
pは[(AO)nCOO]基の平均繰り返し数を示す5〜100の数であり、好ましくは7〜70、更に好ましくは10〜50の数である。
【0050】
ポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量は、べたつきを少なくする観点から、5万以上が好ましく、8万以上がより好ましく、9万以上が更に好ましい。また用途にもよるが、「選択的粘着性」を有する粘着剤として用いる場合、常温で十分な粘着性を示す観点から、100万以下が好ましく、50万以下がより好ましく、30万以下が更に好ましい。
なお、ポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量は、下記実施例に記載の方法により測定した値である。
【0051】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルポリカーボネートは例えば粘着剤として使用することができるが、粘着剤に用いる場合、粘着性能を発揮する観点より、ポリエーテルポリカーボネートの重合度は8以上が好ましく、重合度10以上がより好ましく、重合度12以上が更に好ましい。
【0052】
更に粘着剤として用いる場合、溶媒を含有することができる。溶媒としては、水、炭素数1〜4のアルコール等が挙げられる。粘着剤中の溶媒の含有量は粘着剤に用いる場合、粘着性能を発揮する観点より、0.1〜99.9質量%が好ましく、10〜99質量%がより好ましく、50〜97質量%が更に好ましく、90〜95質量%が特に好ましい。
炭素数1〜4のアルコールは粘着性能を発揮する観点から、炭素数は1〜3がより好ましく、2が更に好ましい。
かかる粘着剤は、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム、紙、不織布、織布等の多孔質材料、金属箔等の基材の片面または両面に塗着ないし転写して、シート状やテープ状などの形態の粘着シートとして用いることができ、特に粘着剤同士は粘着するが、他のものには粘着性が低い選択的粘着剤として有用である。
【実施例】
【0053】
以下の例において、ポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量並びに残存フェノール量は次に示す方法で測定した。
【0054】
<重量平均分子量の測定方法>
ポリスチレンゲルを用いたゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により、下記条件で測定した。ポリスチレン標準サンプルで分子量を校正し、重量平均分子量、及び数平均分子量を決定した。
【0055】
GPCの測定条件
・サンプル濃度:0.25質量%(クロロホルム溶液)
・サンプル注入量:100μl
・溶離液:クロロホルム
・流速:1.0ml/min
・測定温度:40℃
・カラム:商品名「K−G」(1本)+商品名「K−804L」(2本)(以上、Shodex社)
・検出器:示差屈折計(GPC装置 商品名「HLC−8220GPC」(東ソー社)に付属)
・ポリスチレン標準サンプル:「TSKstandard POLYSTYRENE F−10」(分子量10.2万)、F−1(1.02万)、A−1000(870)(以上、東ソー社)、及び「POLYSTYRENE STANDARD」(分子量90万、3万;西尾工業社)
【0056】
<残存フェノール量の測定方法>
残存フェノール量はガスクロマトグラフィー(GC)により、下記条件で測定し、絶対検量法により求めた。
【0057】
GCの測定条件
・装置:商品名「6890N Network GC system」 (Agilent Technologies社)
・カラム:商品名「DB−1」(Agilent Technologies社;100%ジメチルポリシロキサン; 型番Agilent 122−1031;長さ30m、径0.25mm、膜厚0.1μm)
・条件:スプリットモード (スプリット比1:25)、注入口温度250℃、検出器温度300℃、カラム温度50℃で4分間保持、10℃/minで300℃まで昇温
・検出器:FID(GC装置 商品名「6890N Network GC system」 (Agilent Technologies社)に付属)
【0058】
製造例1
アンカー翼型撹拌機(翼直径d=1.2m)、分留コンデンサー及び温度計を具備した反応容器(内径D=1.8m、内容積6m3)(d/D=約0.67)に、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダムコポリマー(数平均分子量5000、水酸基価22.0mgKOH/g、株式会社ADEKA製 商品名「アデカポリエーテルPR−5007」比重1.09、20℃)1000kg、炭酸ジフェニル43.9kg、1.0Mカリウムtert−ブトキシド/tert−ブタノール溶液200mlを入れた。
撹拌回転数60r/min及び翼先端速度3.8m/sの撹拌操作条件(空転動力15kW)にて撹拌しながら120℃まで昇温し、そのまま1時間加熱した。撹拌を続けながら、真空ポンプを用いて6.6kPa(abs)まで減圧吸引し、120℃にて1時間加熱を行いサンプリングを行った(以下、ポリマー1という)。反応における単位体積当たりの撹拌所要動力は、最大で0.8kW/m3であった。ポリマー1の重量平均分子量は13000、数平均分子量は8400、重合度は1.7、残存フェノール量は21000mg/kgであった。
【0059】
実施例1
製造例1のポリマー1をそのまま同じ反応容器で、引き続き、撹拌回転数60r/min及び翼先端速度3.8m/sの撹拌操作条件(空転動力15kW)にて撹拌を続けながら、1.3kPa(abs)以下に減圧吸引後、160℃まで昇温し、反応により生成するフェノールを系外へ排出しつつ、11時間反応を行いサンプリングを行った(以下、ポリマー2という)。反応における単位体積当たりの撹拌所要動力は、最大で25.9kW/m3であった。ポリマー2の重量平均分子量は146000、数平均分子量は81000、重合度は16、残存フェノール量は1800mg/kgであった。
更に引き続き、撹拌回転数60r/min及び翼先端速度3.8m/sの撹拌操作条件(空転動力15kW)にて撹拌を続けながら、圧力1.3kPa(abs)以下、160℃で更に5時間反応を行い、ポリエーテルポリカーボネートを得た(以下、ポリマー3という)。このポリマー3の重量平均分子量は94000、数平均分子量は49000、重合度は9.8、その時の残存フェノール量は100mg/kgであった。撹拌所要動力が25kW/m3を超えた時間での積算の撹拌所要動力は17.9kW/m3・hであった。
【0060】
製造例2
アンカー翼型撹拌機(翼直径d=0.55m)、分留コンデンサー及び温度計を具備した反応容器(内径D=0.65m、内容積0.2m3)(d/D=約0.85)に、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダムコポリマー(数平均分子量5000、水酸基価22.0mgKOH/g、株式会社ADEKA製 商品名「アデカポリエーテルPR−5007」比重1.09、20℃)50kg、炭酸ジフェニル2.2kg、1.0Mカリウムtert−ブトキシド/tert−ブタノール溶液10mlを入れた。
撹拌回転数50r/min及び翼先端速度1.4m/sの撹拌操作条件(空転動力2.9kW)にて撹拌しながら120℃まで昇温し、そのまま1時間加熱した。撹拌を続けながら、真空ポンプを用いて6.6kPa(abs)まで減圧吸引し、120℃にて1時間加熱を行いサンプリングを行った(以下、ポリマー4という)。反応における単位体積当たりの撹拌所要動力は、最大で0.5kW/m3であった。ポリマー4の重量平均分子量は13000、数平均分子量は8200、重合度は1.6、残存フェノール量は22000mg/kgであった。
【0061】
実施例2
製造例2のポリマー4をそのまま同じ反応容器で、引き続き、撹拌回転数50r/min及び翼先端速度1.4m/sの撹拌操作条件(空転動力2.9kW)にて撹拌を続けながら、1.3kPa(abs)以下に減圧吸引後、160℃まで昇温し、反応により生成するフェノールを系外へ排出しつつ、14時間反応を行いサンプリングを行った(以下、ポリマー5という)。反応における単位体積当たりの撹拌所要動力は、最大で32.7kW/m3であった。ポリマー5の重量平均分子量は218000、数平均分子量は117000、重合度は23、残存フェノール量は700mg/kgであった。
更に引き続き、撹拌回転数50r/min及び翼先端速度1.4m/sの撹拌操作条件(空転動力2.9kW)にて撹拌を続けながら、圧力1.3kPa(abs)以下、160℃で更に5時間反応を行い、ポリエーテルポリカーボネートを得た(以下、ポリマー6という)。このポリマー6の重量平均分子量は187000、数平均分子量は94000、重合度は19、その時の残存フェノール量は300mg/kgであった。撹拌所要動力が25kW/m3を超えた時間での積算の撹拌所要動力は55.7kW/m3・hであった。
【0062】
比較例1
製造例1のポリマー1をそのまま同じ反応容器で、引き続き、撹拌回転数60r/min及び翼先端速度3.8m/sの撹拌操作条件(空転動力15kW)にて撹拌を続けながら、1.3kPa(abs)以下に減圧吸引後、160℃まで昇温し、反応により生成するフェノールを系外へ排出しつつ、6.5時間反応を行いサンプリングを行った(以下、ポリマー7という)。反応における単位体積当たりの撹拌所要動力は、最大で2.1kW/m3であった。ポリマー7の重量平均分子量は92000、数平均分子量は53000、重合度は11、残存フェノール量は4400mg/kgであった。
【0063】
比較例2
製造例2のポリマー4をそのまま同じ反応容器で、引き続き、撹拌回転数50r/min及び翼先端速度1.4m/sの撹拌操作条件(空転動力2.9kW)にて撹拌を続けながら、1.3kPa(abs)以下に減圧吸引後、160℃まで昇温し、反応により生成するフェノールを系外へ排出しつつ、12時間反応を行いサンプリングを行った(以下、ポリマー8という)。反応における単位体積当たりの撹拌所要動力は、最大で24.3kW/m3であった。ポリマー8の重量平均分子量は185000、数平均分子量は102000、重合度は20、残存フェノール量は1500mg/kgであった。
【0064】
【表1】

【0065】
最終生成物の重量平均分子量が同程度である実施例1と比較例1、及び実施例2と比較例2をそれぞれ比較すると、最大撹拌所要動力が25kW/m3を超えると残存フェノール量が低減されたことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撹拌翼を備えた反応器内において炭酸エステルとポリエーテルジオールとを反応させてポリエーテルポリカーボネートを製造する方法であって、
反応中において、単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を超え、200kW/m3以下の撹拌条件で撹拌しながら反応させることで、生成したポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量を低下させる工程を含んでいる、ポリエーテルポリカーボネートの製造方法。
【請求項2】
反応中において、生成したポリエーテルポリカーボネートの重合度が10以上になった段階で、単位体積当りの撹拌所要動力が25kW/m3を超え、200kW/m3以下の撹拌条件で撹拌しながら反応させる、請求項1記載のポリエーテルポリカーボネートの製造方法。
【請求項3】
撹拌所要動力が25kW/m3を超え、200kW/m3以下である条件で撹拌反応させた時間における撹拌所要動力の積算値が4kW/m3・h以上となるように撹拌しながら反応させる、請求項1又は2記載のポリエーテルポリカーボネートの製造方法。
【請求項4】
生成物中にポリエーテルポリカーボネートと共にヒドロキシル基を有する副生物が含有されており、
前記ポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量が50,000以上であり、かつ前記副生物の含有量がポリエーテルポリカーボネート1kgに対して500mg/kg以下に低減されている、請求項1〜3の何れか1項に記載のポリエーテルポリカーボネートの製造方法。
【請求項5】
生成したポリエーテルポリカーボネートの重量平均分子量を5000以上低下させる、請求項1〜4の何れか1項に記載のポリエーテルポリカーボネートの製造方法。
【請求項6】
撹拌翼を備えた反応器の内径(D)と撹拌翼の直径(d)の比d/Dが、0.3〜0.98である、請求項1〜5の何れか1項に記載のポリエーテルポリカーボネートの製造方法。
【請求項7】
単一の反応機を用いて反応を行う、請求項1〜6の何れか1項に記載のポリエーテルポリカーボネートの製造方法。

【公開番号】特開2013−14650(P2013−14650A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146954(P2011−146954)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】