説明

ポリエーテル化合物組成物および電解質

【課題】イオン伝導性に優れ、他の部材に塗布したり含浸させたりできる程度に加工性に優れ、加工後には液漏れを生じさせない程度の形状保持性を有する、電解質として好適に用いることができるポリマー材料を提供すること。
【解決手段】対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するポリエーテル化合物に、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対して2モル当量以上のヨウ素(I)を配合してなる、液状のポリエーテル化合物組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテル化合物組成物および電解質に関し、さらに詳しくは、イオン伝導性に優れ、電解質として好適に用いることができるポリエーテル化合物組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池、燃料電池、色素増感太陽電池、アクチュエーターなどの電気化学デバイスにおいて、電極間のイオン伝導を得るために、電解質塩を溶媒に溶解してなる液状電解質が用いられてきた。しかし、溶媒を用いた液状電解質には、溶媒の揮発による液量の経時的な減少や液漏れのおそれがあることから、これに代わる電解質の開発が検討されている。
【0003】
そこで、イオン伝導性に優れるポリマー材料の電解質としての利用(いわゆる、ポリマー電解質)が検討されている。ポリマー電解質の代表的な例としては、非特許文献1に記載されているような、ポリエチレンオキシド(PEO)とアルカリ金属塩の錯体からなる高分子固体電解質が挙げられる。また、特許文献1には、ポリアルキレンオキシド主鎖、イオン性側鎖およびイオン性側鎖の対イオンからなり、イオン性側鎖または対イオンが液晶性を示すポリエーテル化合物を電解質組成物として用いることが提案されている。また、特許文献2には、主鎖または側鎖にカチオン構造を有し、そのカチオン構造の対アニオンとしてハロゲン化物イオンやポリハロゲン化物イオンを有する高分子化合物を用いた、固体状の電解質組成物が提案されている。これらの電解質組成物は、電解質の通常の使用環境下において殆ど流動性を示さない固体状であることから、電気化学デバイス使用時の液漏れの問題は解決される。
【0004】
しかしながら、特許文献1や2に記載されるような電解質組成物は、通常固形であり、例えば、他の部材に塗布したり含浸させたりするなどの加工を行うことが容易ではない。つまり、これらの電解質組成物には、電気化学デバイスへ電解質として適用する際の自由度に劣るという問題がある。そのため、他の部材に塗布したり含浸させたりできる程度に加工性に優れ、加工後には液漏れを生じさせない程度の形状保持性を有する電解質を得ることができる材料が渇望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−246066号公報
【特許文献2】国際公開第2004/112184号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】金村聖志監修「ポリマーバッテリーの最新技術II」、シーエムシー出版、2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、イオン伝導性に優れ、他の部材に塗布したり含浸させたりできる程度に加工性に優れ、加工後には液漏れを生じさせない程度の形状保持性を有する、電解質として好適に用いることができるポリマー材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するポリエーテル化合物に、従来配合されていた量よりも多い、特定量以上のヨウ素(I)を配合すると、用いるポリエーテル化合物が固体状であっても、高粘性の液状の組成物が得られ、そのように液状となった組成物が、極めて優れたイオン伝導性を発現すること見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
かくして、本発明によれば、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するポリエーテル化合物に、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対して2モル当量以上のヨウ素(I)を配合してなる、液状のポリエーテル化合物組成物が提供される。
【0010】
上記のポリエーテル化合物組成物では、ポリエーテル化合物が、その構成単位であるオキシラン単量体単位中に対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するものであることが好ましい。
【0011】
上記のポリエーテル化合物組成物では、ポリエーテル化合物が、下記の一般式(1)で表されるオキシラン単量体単位を有してなるものであることが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、RおよびRは互いに結合していてもよい。
【0014】
また、本発明によれば、上記のポリエーテル化合物組成物を含んでなる電解質組成物が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イオン伝導性に優れ、他の部材に塗布したり含浸させたりできる程度に加工性に優れ、加工後には液漏れを生じさせない程度の形状保持性を有する、電解質として好適に用いることができるポリエーテル化合物組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリエーテル化合物組成物は、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するポリエーテル化合物に、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対して2モル当量以上のヨウ素(I)を配合してなる組成物であって、液状のものである。ここで、液状とは、このポリエーテル化合物組成物が、使用される条件下において、流動性を有していることを意味する。
【0017】
本発明のポリエーテル化合物組成物を構成するポリエーテル化合物は、オキシラン単量体単位を複数個含んでなるポリエーテル化合物であって、その分子中に、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するものである。
【0018】
ポリエーテル化合物が有するオキシラン単量体単位の個数は、特に限定されるものではないが、1分子あたりの平均個数として、10〜200個であることが好ましく、10〜100個であることがより好ましい。なお、本発明のポリエーテル化合物組成物は、ポリエーテル化合物にヨウ素(I)を配合した状態で液状となるものであればよく、ヨウ素(I)を配合する前のポリエーテル化合物は、液状であっても、固体状であってもよい。
【0019】
ポリエーテル化合物が有するカチオン性基は、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するものであれば特に限定されないが、周期表第15族または第16族の原子を含有するオニウム塩構造を有するものであることが好ましく、なかでも窒素原子含有芳香族複素環中の窒素原子がオニウム塩となった構造を有するものであることがより好ましく、特にイミダソリウム環構造を有するカチオン性基であることが好ましい。
【0020】
ポリエーテル化合物は、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を有していれば、さらに、他の対アニオンを有するカチオン性基を有していても良い。ヨウ化物イオン以外他の対アニオンの例としては、例えば、Cl、Brなどのヨウ化物イオン以外のハロゲン化物イオンや、OH、SCN、BF、PF、ClO、(FSO、(CFSO、(CFCFSO、CHSO、CFSO、CFCOO、PhCOOなどを挙げることができる。
【0021】
ポリエーテル化合物における、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基の存在位置は特に限定されないが、ポリエーテル化合物の構成単位であるオキシラン単量体単位中に存在していることが好ましい。
【0022】
対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を単量体単位中に存在させる場合のオキシラン単量体単位は、その単位中に対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基が含まれている限りにおいて特に限定されないが、下記の一般式(1)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0023】
【化2】

【0024】
一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、RおよびRは互いに結合していてもよい。
【0025】
一般式(1)におけるR〜Rは、それぞれ独立に水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を表すものである。但し、RおよびRは互いに結合して、置換基を有していてもよい炭素数2〜20の2価の炭化水素基となっていてもよい。炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることができ、RおよびRが互いに結合した場合の炭素数2〜20のアルキレン基としては、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,5−ペンチレン基、1,6−ヘキシレン基、1,7−ヘプチレン基、4−メチル−2,2−ペンチレン基、2,3−ジメチル−2,3−ブチレン基などを例示することができる。R〜Rで表される基は、同じ繰り返し単位中で、全てが同じ基であってもよいし、部分的にまたは全てが異なる基であってもよい。また、ポリエーテル化合物中に、R〜Rが異なる、複数種の一般式(1)で表される繰り返し単位が含まれていてもよい。
【0026】
対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を単量体単位中に存在させる場合において、ポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位全体に対して、そのカチオン性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合は、特に限定されないが、通常2〜100モル%の範囲で選択される。
【0027】
また、ポリエーテル化合物を、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を有するオキシラン単量体単位と他の単量体単位との共重合構造とする場合などにおいて、そのポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位としては、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、1,2−ブチレンオキシド単位などのアルキレンオキシド単位、エピクロロヒドリン単位、エピブロモヒドリン単位、エピヨードヒドリン単位などのエピハロヒドリン単位、アリルグリシジルエーテル単位などのアルケニル基含有オキシラン単量体単位、グリシジルアクリレート単位、グリシジルメタクリレート単位などの(メタ)アクリル基含有オキシラン単量体単位、対アニオンとしてヨウ化物イオン以外のアニオンを有するカチオン性基を含有するオキシラン単量体単位などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
ポリエーテル化合物が、2種以上のオキシラン単量体単位を含有するものである場合において、それら複数の繰り返し単位の分布様式は特に限定されないが、ランダムな分布を有していることが好ましい。
【0029】
本発明のポリエーテル化合物組成物に用いるポリエーテル化合物において、その鎖末端の構造は特に限定されないが、鎖末端基の少なくとも一部として、下記の一般式(2)で表されるカチオン性基を有していることが好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
一般式(2)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、RおよびRは互いに結合していてもよい。
【0032】
また、本発明のポリエーテル化合物において、一般式(2)で表されるカチオン性基以外の、鎖末端基となり得る基の具体例としては、水素原子、ハロゲン基、アルキル基、ハロアルキル基、水酸基、下記の一般式(2)で表される基以外のカチオン性基などを挙げることができる。なかでも、ポリエーテル化合物の合成を容易にする観点からは、一方の末端基が水酸基で、他方の末端基が一般式(2)で表される基であるポリエーテル化合物が特に好適である。
【0033】
ポリエーテル化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、1000〜50,000であることが好ましく、1000〜40,000であることがより好ましい。また、ポリエーテル化合物の数平均分子量に対する重量平均分子量の比として求められる分子量分布も、特に限定されるものではないが、1.0〜15.0であることが好ましく、1.02〜8.0であることがより好ましい。
【0034】
また、ポリエーテル化合物の鎖構造も特に限定されず、直鎖状のものであってもよいし、グラフト状、放射状などの分岐を有する鎖構造のものであってもよい。
【0035】
本発明で用いるポリエーテル化合物の合成方法は、特に限定されず、目的のポリエーテル化合物を得られるものである限りにおいて、任意の合成方法を採用できる。但し、より容易に目的のポリエーテル化合物を得る観点からは、ハロゲン基を含有するポリエーテル化合物に、イミダゾール化合物などのオニウム化合物を反応させることにより、ハロゲン基をオニウムハライド基に変換して、さらに、オニウムハライド基がオニウムアイオダイド基を含まない場合には、アニオン交換反応によりヨウ化物イオンを導入し、オニウムアイオダイド基を得る方法が好適である。
【0036】
ハロゲン基を含有するポリエーテル化合物の合成は、公知の重合法や変性法に従って行えばよい。また、ハロゲン基を含有するポリエーテル化合物に、オニウム化合物を反応させて、オニウムハライド基に置換するためには、公知のオニウム化反応を応用すればよい。オニウム化反応の例については、特開昭50−33271号公報、特開昭51−69434号公報、および特開昭52−42481号公報などに開示されている。アニオン交換反応は、常法に従って行えばよく、例えば、オニウムハライド基を有するポリエーテル化合物にヨウ化物塩を接触させることにより、オニウムハライド基をオニウムアイオダイド基に変換することができる。
【0037】
本発明で用いるポリエーテル化合物を得るために、特に好適な方法としては、次に述べるポリエーテル化合物の製造方法を挙げることができる。すなわち、(1)オキシラン単量体を含む単量体組成物を、周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩と、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを含んでなる触媒の存在下で開環重合して、ハロゲン基を含有するポリエーテル化合物を得る工程、(2)得られたハロゲン基を含有するポリエーテル化合物を、イミダゾール化合物と反応させて、イミダゾリウムハライド構造を含有するポリエーテル化合物を得る工程、(3)任意の工程として、得られたイミダゾリウムハライド構造を含有するポリエーテル化合物に金属ヨウ化物塩を接触させて、イミダゾリウムハライド構造の少なくとも一部をイミダゾリウムアイオダイド構造に変換させる工程を含んでなるポリエーテル化合物の製造方法である。
【0038】
上記のポリエーテル化合物の製造方法における第一の工程は、オキシラン単量体を含む単量体組成物を、特開2010−53217号公報に記載される触媒である、周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩と、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを含んでなる触媒の存在下で開環重合して、ハロゲン基を含有するポリエーテル化合物を得る工程である。なお、用いるオキシラン単量体に特に限定されず、目的とするポリエーテル化合物の構造に応じて、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどを任意の割合で用いればよいが、オキシラン単量体単位中に対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するポリエーテル化合物を得るためには、単量体組成物中にエピクロロヒドリンを含有させることが好ましい。
【0039】
触媒の成分の1つとして用いられる周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩としては、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、ホスホニウム塩、アルソニウム塩、スチボニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩が例示され、これらのなかでも、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩が好適に使用され、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩が特に好適に使用され、アンモニウム塩が最も好適に使用される。なお、このオニウム塩として、オニウムハライドを用いることにより、得られるポリエーテル化合物の鎖末端にハロゲン基を導入することができる。
【0040】
周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩の使用量は、得るべきポリエーテル系重合体の目的とする分子量などに応じて決定すればよく、特に限定されないが、用いる全単量体に対して、0.0005〜10モル%の範囲で選択することが好ましい。
【0041】
もう1つの触媒の成分として用いられる、有するアルキル基が全て直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウムを挙げることができ、そのなかでも、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムが最も好適に用いられる。
【0042】
周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩と、有するアルキル基が全て直鎖状のアルキル基であるトリアルキルアルミニウムとの使用割合は、特に限定されないが、当該オニウム塩:当該トリアルキルアルミニウムのモル比が、1:1〜1:100の範囲であることが好ましく、1.0:1.1〜1.0:50.0の範囲であることがより好ましく、1.0:1.2〜1.0:10.0の範囲であることが特に好ましい。
【0043】
周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩と有するアルキル基が全て直鎖状のアルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを混合する方法は特に限定されないが、それぞれを溶媒に溶解または懸濁して、それらを混合することが好ましい。用いる溶媒は特に限定されないが、不活性の溶媒が好適に用いられ、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;あるいはこれらの混合溶媒;などが用いられる。触媒の成分を混合する際の温度や時間は特に限定されないが、−30〜50℃の条件下で10秒間〜30分間混合することが好ましい。
【0044】
以上の2成分からなる触媒の存在下で、オキシラン単量体を含む単量体組成物を重合させるにあたり、触媒と単量体とを混合する方法も特に限定されず、例えば触媒を含む溶媒に単量体組成物を添加しても良いし、単量体組成物を含む溶媒に触媒を添加しても良い。重合様式も特に限定されないが、重合を良好に制御する観点からは、溶液重合法により重合を行なうことが好ましい。溶媒としては、不活性の溶媒が好適に用いられ、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;あるいはこれらの混合溶媒;などが用いられる。これらの溶媒のなかでも、重合反応速度が速くなることから、非極性の溶媒が特に好適に用いられる。溶媒の使用量は特に限定されないが、単量体組成物の濃度が1〜50重量%となるように用いることが好ましく、3〜40重量%になるように用いることが特に好ましい。
【0045】
重合を行なう条件は、特に限定されず、用いる単量体や触媒の種類、目的とする分子量などに応じて決定すれば良い。重合時の圧力は、通常1〜500atmであり、好ましくは1〜100atmであり、特に好ましくは1〜50atmである。重合時の温度は、通常−70〜200℃であり、好ましくは−40〜150℃であり、特に好ましくは−20〜100℃である。重合時間は、通常10秒間〜100時間であり、好ましくは20秒間〜80時間であり、特に好ましくは30秒間〜50時間である。
【0046】
上記のポリエーテル化合物の製造方法では、以上述べたような、周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩と、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを含んでなる触媒を用いることにより、重合反応がリビング性を伴って進行するので、重合の制御が容易となり、その結果、所望の重合度でポリエーテル化合物を製造することが容易となる。また、前述したように、ポリエーテル化合物へのハロゲン基の導入を容易に行うことができる。
【0047】
上記のポリエーテル化合物の製造方法における第二の工程は、以上のようにして得られるハロゲン基を含有するポリエーテル化合物を、イミダゾール化合物と反応(4級化反応)させることにより、ハロゲン基をイミダゾリウムハライド構造含有基に変換させて、イミダゾリウムハライド構造を含有するポリエーテル化合物を得る工程である。
【0048】
用いられるイミダゾール化合物は、特に限定されないが、その具体例としては、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールなどを挙げることができる。
【0049】
ポリエーテル化合物とイミダゾール化合物との混合方法は、特に限定されず、例えば、ポリエーテル化合物を含む溶液にイミダゾール化合物を添加し混合する方法、イミダゾール化合物を含む溶液にポリエーテル化合物を添加し混合する方法、イミダゾール化合物とポリエーテル化合物の両方を溶液として調製しておき、両溶液を混合する方法などが挙げられる。
【0050】
溶媒としては、不活性の溶媒が好適に用いられ、非極性であっても極性であっても良い。非極性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式飽和炭化水素;などが挙げられる。極性溶媒としては、テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;酢酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル;アセトン、2−ブタノン、アセトフェノンなどのケトン;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒;エタノール、メタノール、水などのプロトン性極性溶媒;などが挙げられる。溶媒としては、これらの混合溶媒も好適に用いられる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、ポリエーテル化合物の濃度が1〜50重量%となるように用いることが好ましく、3〜40重量%になるように用いることがより好ましい。
【0051】
イミダゾール化合物の使用量は、特に限定されず、目的とするポリエーテル化合物のイミダゾリウム構造含有割合などに応じて決定すれば良い。具体的には、イミダゾール化合物の使用量は、用いるポリエーテル化合物のハロゲン基1モルに対し、通常、0.01〜100モル、好ましくは0.02〜50モル、より好ましくは0.03〜10モル、さらに好ましくは0.05〜2モルの範囲である。
【0052】
ポリエーテル化合物とイミダゾール化合物とを反応させる際の圧力は、特に限定されないが、通常1〜500atmであり、好ましくは1〜100atmであり、特に好ましくは1〜50atmである。反応時の温度も特に限定されず、通常0〜200℃、好ましくは20〜170℃、より好ましくは40〜150℃である。反応時間は、通常1分〜1,000時間であり、好ましくは3分〜800時間であり、より好ましくは5分〜500時間であり、さらに好ましくは30分〜200時間である。
【0053】
以上のようにして得られる、イミダゾリウムハライド構造を含有するポリエーテル化合物は、イミダゾリウムアイオダイド構造を含有するものであれば、そのまま本発明のポリエーテル化合物組成物に用いることができるものである。但し、イミダゾリウムハライド構造がイミダゾリウムアイオダイド構造を含有しない場合には、上記のポリエーテル化合物の製造方法における第三の工程である、得られたイミダゾリウムハライド構造を含有するポリエーテル化合物に金属ヨウ化物塩を接触させて、イミダゾリウムハライド構造の少なくとも一部をイミダゾリウムアイオダイド構造に変換させる工程に供する必要がある。
【0054】
アニオン交換反応に用いられる金属ヨウ化物塩は、特に限定されないが、ヨウ化カリウムが特に好適に用いられる。
【0055】
アニオン交換反応を行う条件は、特に限定されず、ポリエーテル化合物および金属ヨウ化物塩のみを混合してもよいし、有機溶媒などのその他の化合物が存在する条件下で行ってもよい。また、金属ヨウ化物塩の使用量は、特に限定されないが、用いるポリエーテル化合物が含有するイミダゾリウムハライド構造1モルに対し、通常0.01〜100モル、好ましくは0.02〜50モル、より好ましくは0.03〜10モルの範囲である。
【0056】
アニオン交換反応時の圧力は、通常1〜500atmであり、好ましくは1〜100atmであり、特に好ましくは1〜50atmである。反応時の温度は、通常、−30〜200℃、好ましくは−15〜180℃、より好ましくは0〜150℃である。反応時間は、通常、1分〜1000時間であり、好ましくは3分〜100時間であり、より好ましくは5分〜10時間であり、さらに好ましくは5分〜3時間である。
【0057】
アニオン交換反応が完了した後は、例えば減圧乾燥などの常法に従い、目的とするポリエーテル化合物を回収すれば良い。
【0058】
本発明のポリエーテル化合物組成物は、例えば以上のようにして得られる対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するポリエーテル化合物に、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対して2モル当量以上のヨウ素(I)を配合してなるものである。ヨウ素(I)の配合量は、用いるポリエーテル化合物の対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対して2モル当量以上であり、得られるポリエーテル化合物組成物が液状となる限りにおいて、特に限定されないが、用いるポリエーテル化合物の対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対して2〜30モル当量であることが好ましく、3〜15モル当量であることがより好ましい。このヨウ素(I)の配合量が少なすぎると、得られるポリエーテル化合物組成物がイオン伝導性に劣るものとなり、多すぎるとヨウ素(I)の昇華量が多くなって安全性の面で問題が生じるおそれがある。なお、ヨウ素(I)の配合量は、用いるポリエーテル化合物の対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対して2モル当量以上であっても、得られるポリエーテル化合物組成物が液状とならない場合には、ポリエーテル化合物にさらにヨウ素(I)を配合して、ポリエーテル化合物組成物を液状にする必要がある。液状ではないポリエーテル化合物組成物は、加工性に劣る上に、イオン伝導性にも劣るものとなるからである。
【0059】
ポリエーテル化合物とヨウ素(I)とを混合する方法は、特に限定されないが、例えば、乳鉢などを用いて機械的に混合する方法や、溶媒中に溶解または分散させて混合する方法などが挙げられる。
【0060】
本発明のポリエーテル化合物組成物は、ポリエーテル化合物とヨウ素(I)のみからなるものであってよいが、さらに、他の成分を含有するものであってもよい。そのような他の成分の代表例としては、架橋剤を挙げることができる。ポリエーテル化合物組成物に架橋剤を配合して架橋物を得ることにより、ポリエーテル化合物組成物の形状保持性を改良することができる。
【0061】
架橋剤は、ポリエーテル化合物が有する架橋性基の種類などに応じて適宜選択すればよい。用いられうる架橋剤の例としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;ジクミルペルオキシド、ジターシャリブチルペルオキシドなどの有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;s−トリアジン−2,4,6−トリチオールなどのトリアジン系化合物;メチロール基を持つアルキルフェノール樹脂;2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどのアルキルフェノン型光重合開始剤などの各種紫外線架橋剤などが挙げられる。ポリエーテル化合物が有する架橋性基が、エチレン性炭素−炭素不飽和結合含有基である場合には、これらのなかでも、硫黄、含硫黄化合物、有機過酸化物および紫外線架橋剤から選択される架橋剤を用いることが好ましく、有機過酸化物を用いることが特に好ましい。これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の配合割合は、特に限定されないが、ポリエーテル化合物100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましく、0.2〜7重量部がより好ましく、0.3〜5重量部がさらに好ましい
【0062】
架橋剤として、硫黄または含硫黄化合物を用いる場合には、架橋促進助剤、および架橋促進剤を併用することが好ましい。架橋促進助剤としては、特に限定されないが、例えば、亜鉛華、ステアリン酸などが挙げられる。架橋促進剤としては、特に限定されないが、例えば、グアニジン系;アルデヒド−アミン系;アルデヒド−アンモニア系;チアゾール系;スルフェンアミド系;チオ尿素系;チウラム系;ジチオカルバミン酸塩系;などの各架橋促進剤を用いることができる。架橋助剤および架橋促進剤は、それぞれ1種を単独で使用してもよく、2種以上併用して用いてもよい。
【0063】
架橋促進助剤および架橋促進剤の使用量は、特に限定されないが、ポリエーテル化合物100重量部に対して、0.01〜15重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。
【0064】
ポリエーテル化合物組成物に架橋剤を配合した場合において、架橋を行う方法は、用いる架橋剤の種類などに応じて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、加熱による架橋や紫外線照射による架橋を挙げることができる。加熱により架橋する場合の温度は、特に限定されないが、130〜200℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。架橋時間も特に限定されず、例えば1分間〜5時間の範囲で選択される。加熱方法としては、プレス加熱、オーブン加熱、蒸気加熱、熱風加熱、マイクロ波加熱などの方法を適宜選択すればよい。紫外線照射による架橋を行う場合は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、水銀−キセノンランプなどの光源を用いて、常法に従って、架橋性組成物に紫外線を照射すればよい。
【0065】
本発明のポリエーテル化合物組成物には、さらに他の成分を配合することができる。そのような成分の例としては、LiPF、LiTFSI、KIなどの金属塩、水、メタノール、エチレンカーボネートなどの低分子化合物、イオン液体、カーボン材料や無機材料などのフィラーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
以上のような、本発明のポリエーテル化合物組成物は、優れたイオン伝導性を有するものであるから、特に電気化学デバイスの電解質として好適に用いることができるものである。すなわち、本発明の電解質組成物は、本発明のポリエーテル化合物組成物を含んでなるものである。本発明の電解質組成物の用途は、特に限定されるものではないが、流動性を有するため加工が容易であり、かつ加工後に架橋を施しても優れたイオン伝導性を有することにより、電導性ゴム材料、高分子アクチュエーターのゲル状電解質、インクジェット法による分子配線のインクなどとして好適に用いることができる。また、本発明の電解質組成物は、ヨウ素およびヨウ化物イオンを組成物中に高濃度で均一な分散状態で保持することが可能なものであることから、色素増感太陽電池の電解質としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0068】
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0069】
〔数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)〕
ジメチルホルムアミドを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ−(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定した。なお、測定器としてはHLC−8320(東ソー社製)を用い、カラムはTSKgelα−M(東ソー社製)二本を直列に連結して用い、検出器は示差屈折計RI−8320(東ソー社製)を用いた。
【0070】
〔イオン伝導度〕
試料を、25℃、湿度0%の乾燥雰囲気の下、直径12mm、厚み200ミクロンの薄い円柱状のセルに導入し、このセルについてイオン伝導度の測定を行い、交流インピーダンス法により描かれたナイキストプロットの円弧のうち高周波側の実数成分をイオン伝導度とし、より低周波数側に現れる円弧はSUS電極における電荷移動抵抗とした。なお、測定装置や測定条件は以下の通りとした。
測定装置:インピーダンスアナライザ1260型とポテンショスタット1287型との組み合わせ(ともにソーラトロン社製)からなるイオン伝導度測定システム
測定電圧振幅:100mV
測定周波数範囲:1MHz〜0.1Hz
試験雰囲気:25℃
主電極材質:SUS304
【0071】
〔製造例1〕
(エピクロロヒドリンのリビングアニオン重合)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、テトラノルマルブチルアンモニウムブロミド3.22gとトルエン50mlを添加し、これを0℃に冷却した。次いで、トリエチルアルミニウム1.256g(テトラノルマルブチルアンモニウムブロミドに対して1.1当量)をノルマルヘキサン10mlに溶解したものを添加して、15分間反応させた。得られた触媒組成物に、エピクロロヒドリン10.0gを添加し、0℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。12時間反応後、重合反応液に少量の水を注いで反応を停止した。得られた重合反応液を0.1Nの塩酸水溶液で洗浄することにより触媒残渣の脱灰処理を行い、さらにイオン交換水で洗浄した後に、有機相を50℃で12時間減圧乾燥した。これにより得られた無色透明のオイル状物質の収量は9.9gであった。また、得られた物質のGPCによる数平均分子量(Mn)は1,050、分子量分布(Mw/Mn)は1.35であった。さらに、得られた重合体について1H−NMRを測定したところ、得られたオイル状物質が、重合開始末端にブロモメチル基を持ち、重合停止末端に水酸基を持つ、エピクロロヒドリン単位により構成されたオリゴマー(平均11量体)であると確認された。
【0072】
〔製造例2〕
(エピクロロヒドリンオリゴマーの1−メチルイミダゾールによる4級化)
製造例1で得られたエピクロロヒドリンオリゴマー5.0gと、1−メチルイミダゾール12.1gと、アセトニトリル10.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で48時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応物をトルエン/メタノール/水の等重量混合溶液にて洗浄した後、1−メチルイミダゾールおよびトルエンを含む有機相を除去して、水相を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の固体9.4gが得られた。この固体について、H−NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のエピクロロヒドリンオリゴマーの、繰り返し単位におけるクロロ基全てが対アニオンとして塩化物イオンを有する1−メチルイミダゾリウム基に、重合開始末端のブロモメチル基のブロモ基が対アニオンとして臭化物イオンを有する1−メチルイミダゾリウム基に、それぞれ置換された、対アニオンとしてハロゲン化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物であると同定された。
【0073】
〔製造例3〕
(1−メチルイミダゾリウムクロリド基を有するポリエーテル化合物のヨウ化カリウムによるアニオン交換)
製造例2で得られたポリエーテル化合物2.5gと、ヨウ化カリウム2.4gと、イオン交換水20mLとを攪拌機付きガラス反応器に添加した。室温で30分間反応させた後、50℃で1時間減圧乾燥したところ、薄赤色のオイル状物質が得られた。得られたオイル状物質をメタノール/アセトン/THF混合溶媒に溶解させ、溶け残った結晶性不溶分を分離した後、50℃で1時間減圧乾燥したところ、薄赤色の粉末状固体が得られた。得られた個体を、再度メタノール/アセトン/THF混合溶媒に溶解させ、溶け残った結晶性不溶分を分離した後、50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の粉末状固体3.5gが得られた。得られた固体についてH−NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料であるポリエーテル化合物の、繰り返し単位中の1−メチルイミダゾリウムクロリド基の塩化物イオンの全てと重合開始末端の1−メチルイミダゾリウムブロミド基の臭化物イオンの50モル%がヨウ化物イオンに置換された、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するイミダゾリウム構造(1−メチルイミダゾリウムアイオダイド基)を含有するポリエーテル化合物であると同定された。
【0074】
〔製造例4〕
(エピクロロヒドリンとアリルグリシジルエーテルのリビングアニオン共重合)
エピクロロヒドリン10.0gに代えて、エピクロロヒドリン9.0gとアリルグリシジルエーテル1.0gとの混合物を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、重合操作を行った。これにより得られた無色透明のオイル状物質の収量は9.9gであった。また、得られた物質のGPCによる数平均分子量(Mn)は1,050、分子量分布(Mw/Mn)は1.30であった。さらに、得られたオイル状物質について、H−NMR測定を行ったところ、このオイル状物質は、エピクロロヒドリン単位91.7モル%およびアリルグリシジルエーテル単位8.3モル%を含むものであることが確認できた。以上より、得られたオイル状物質は、重合開始末端にブロモメチル基を持ち、重合停止末端に水酸基を持つ、エピクロロヒドリン単位とアリルグリシジルエーテル単位とのランダム共重合構造により構成されたオリゴマー(平均でエピクロロヒドリン単位10個とアリルグリシジルエーテル単位1個とからなる11量体)であるといえる。
【0075】
〔製造例5〕
(共重合体中のエピクロロヒドリン単位の1−メチルイミダゾールによる4級化)
製造例1で得られたエピクロロヒドリンオリゴマーに代えて、製造例4で得られたオリゴマー5.0gを用いたこと以外は、製造例2と同様に操作を行ったところ、薄紫色のオイル状物質8.9gが得られた。このオイル状物質について、H−NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のオリゴマー中の全てのエピクロロヒドリン単位におけるクロロ基が、1−メチルイミダゾリウムクロリド基に、全ての重合開始末端のブロモメチル基のブロモ基が、1−メチルイミダゾリウムブロミド基に、それぞれ置換された、ポリエーテル化合物であると同定された。
【0076】
〔製造例6〕
(1−メチルイミダゾリウムクロリド基を有する共重合ポリエーテル化合物のヨウ化カリウムによるアニオン交換)
製造例2で得られたポリエーテル化合物に代えて、製造例5で得られたポリエーテル化合物2.5gを用いたこと以外は、製造例3と同様に操作を行ったところ、薄赤色の粉末状固体3.4gが得られた。得られた固体についてH−NMR測定と元素分析を行ったところ、出発原料であるポリエーテル化合物の、繰り返し単位中の1−メチルイミダゾリウムクロリド基の塩化物イオンと重合開始末端の1−メチルイミダゾリウムブロミド基の臭化物イオンの全てがヨウ化物イオンに置換された、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するイミダゾリウム構造(1−メチルイミダゾリウムアイオダイド基)を含有するポリエーテル化合物であると同定された。
【0077】
〔製造例7〕
(ポリエーテルグラフト共重合体の製造)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、テトラノルマルブチルアンモニウムブロミド3.22gとトルエン50mlを添加し、これを0℃に冷却した。ここに、トリエチルアルミニウム1.256gをノルマルヘキサン10mlに溶解したものを添加して、15分間反応させた。得られた反応溶液に、エピクロロヒドリン5.0gを添加し、0℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。12時間反応させた後、重合反応液にエピブロモヒドリンを5.0g添加し、25℃において48時間させた後、少量の水を添加して重合反応を停止した。反応溶液をトルエン/水の等重量混合溶剤で洗浄した後、有機相をろ過した上で回収し、50℃で12時間減圧乾燥したところ、無色透明の液状物質5.0gが得られた。得られた液状物質のGPCによる数平均分子量(Mn)は650、分子量分布(Mw/Mn)は1.40であった。この液状物質について、H−NMR測定を行うと、一部副反応により帰属困難なシグナルが観測されたものの、鎖末端にエポキシ環が導入されたオリゴエピクロロヒドリンであると同定できた。次に、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、テトラノルマルブチルアンモニウムブロミドを3.22gとトルエン150mlを添加し、これを0℃に冷却した。ここに、トリエチルアルミニウム1.256gをノルマルヘキサン10mlに溶解したものを添加して、15分間反応させた。得られた反応溶液に、エピクロロヒドリン35.0gと、上記のように得られた鎖末端にエポキシ環が導入されたオリゴエピクロロヒドリン5.0gを添加し、0℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。12時間反応させた後、重合反応液に少量の水を添加して反応を停止した。反応溶液をトルエン/水の等重量混合溶剤で洗浄した後、有機相をろ過した上で回収し、50℃で12時間減圧乾燥したところ、無色透明のオイル状物質40.0gが得られた。得られたオイル状物質のGPCによる数平均分子量(Mn)は4,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.30であり、未反応のオリゴエピクロロヒドリンに由来する低分子量のピークは見られなかった。したがって、得られたオイル状物質は、オリゴエピクロロヒドリンの主鎖に、さらにオリゴクロロヒドリンが側鎖として結合した、グラフト共重合体であると同定できる。
【0078】
〔製造例8〕
(ポリエーテルグラフト共重合体のクロロ基の1−メチルイミダゾールによる4級化)
製造例1で得られたエピクロロヒドリンオリゴマーに代えて、製造例7で得られたグラフト共重合体5.0gを用いたこと以外は、製造例2と同様に操作を行ったところ、薄赤色の粉末状固体9.0gが得られた。この固体について、H−NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のポリエーテルグラフト共重合体の、繰り返し単位におけるクロロ基全てが対アニオンとして塩化物イオンを有する1−メチルイミダゾリウム基に置換された、対アニオンとしてハロゲン化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテルグラフト共重合体であると同定された。
【0079】
〔製造例9〕
(対アニオンとしてハロゲン化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテルグラフト共重合体のヨウ化カリウムによるアニオン交換)
製造例2で得られたポリエーテル化合物に代えて、製造例8で得られたポリエーテルグラフト共重合体2.5gを用いたこと以外は、製造例3と同様に操作を行ったところ、薄赤色の粉末状固体3.3gが得られた。得られた固体についてH−NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料であるポリエーテルグラフト共重合体の、繰り返し単位中の1−メチルイミダゾリウムクロリド基の塩化物イオンの全てがヨウ化物イオンに置換された、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するイミダゾリウム構造(1−メチルイミダゾリウムアイオダイド基)を含有するポリエーテルグラフト共重合体であると同定された。
【0080】
〔実施例1〕
25℃、湿度0%の乾燥雰囲気下において、製造例3で得られた薄赤色の粉末状固体であるポリエーテル化合物1.00gおよびヨウ素(I)1.94g(ポリエーテル化合物が有する、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基(1−メチルイミダゾリウムアイオダイド基)に対して2モル当量)を自動乳鉢に加えて15分間攪拌して混合したところ、固体であるポリエーテル化合物は徐々に可塑化されて、最終的には黒紫色の粘性液状物である組成物が得られた。この組成物を、直径12mm、厚み200ミクロンの薄い円柱形状に加工し、コイン型セルに組み込み成型し、イオン伝導度を測定したところ、5.21×10−6(S/cm)であった。用いたポリエーテル化合物の組成、ヨウ素との混合後の性状、およびイオン伝導度の値などは、表1にまとめて示した。
【0081】
〔実施例2〜8および比較例1〜5〕
用いるポリエーテル化合物の種類と、添加するヨウ素(I)の量(ポリエーテル化合物が有する対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対するモル当量数)を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、組成物を得て、イオン伝導度の測定を行った。なお、実施例3においては、組成物を得るにあたり、さらに、ポリエーテル化合物が有する、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対して1モル当量のヨウ化リチウムを加えた。また、実施例7においては、組成物を得るにあたり、さらに、架橋剤として、ジクミルパーオキサイド0.010gを加え、得られた組成物は、直径12mm、厚み200ミクロンの金型に入れて、160℃で20分間加熱処理して架橋することにより、円柱形状への加工を行った。また、比較例3および6においては、粉末状のポリエーテル化合物のみを自動乳鉢に加えたが、15分間攪拌後も粉末状のままであったため、円柱形状への加工を行うことができず、イオン伝導度を測定できなかった。自動乳鉢での攪拌後の性状とイオン伝導度の値などは、表1にまとめて示した。
【0082】
〔比較例6〕
25℃、湿度0%の乾燥雰囲気下において、製造例3で得られたポリエーテル化合物に代えて、ヨウ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(関東化学工業社製)1.00gを用い、ヨウ素(I)の使用量を0.69g(ヨウ化テトラ−n−ブチルアンモニウムに対して1モル当量)を自動乳鉢に加えて15分間攪拌して混合したところ、固体状のヨウ素が粉砕されて、粉末状のヨウ化テトラ−n−ブチルアンモニウムと混合され、粉末状の組成物が得られた。この粉末状の組成物は、円柱形状への加工を行うことができず、イオン伝導度を測定できなかった。この比較例6の組成物の性状は、表1に示した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示す結果からわかるように、本発明のポリエーテル化合物組成物は、粘性の液状であることから加工性と加工後の形状保持性に優れるものであるといえ、また、優れたイオン伝導性を示すものである(実施例1〜8)。一方、カチオン性基を有していないポリエーテル化合物を用いた組成物は、ヨウ素を配合しても、全くイオン伝導性を示さないものであった(比較例1,2)。また、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を有するポリエーテル化合物を用いても、ヨウ素(I)を全く配合しなかったり、配合してもその量が対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基の2モル当量未満であったりすると、そもそも液状とならずイオン伝導性の測定が困難であるものであったり、低いイオン伝導性しか示さなかったりするものであった(比較例3〜5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するポリエーテル化合物に、対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基に対して2モル当量以上のヨウ素(I)を配合してなる、液状のポリエーテル化合物組成物。
【請求項2】
ポリエーテル化合物が、その構成単位であるオキシラン単量体単位中に対アニオンとしてヨウ化物イオンを有するカチオン性基を含有するものである、請求項1に記載のポリエーテル化合物組成物。
【請求項3】
ポリエーテル化合物が、下記の一般式(1)で表されるオキシラン単量体単位を有してなるものである請求項1または2に記載のポリエーテル化合物組成物。
【化1】

(一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、RおよびRは互いに結合していてもよい。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエーテル化合物組成物を含んでなる電解質組成物。

【公開番号】特開2012−214792(P2012−214792A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−81687(P2012−81687)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】