説明

ポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法

【課題】微量の試料で実施できる上、高い精度でポリエーテル含有高分子の劣化状態を評価することができるポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法を提供する。
【解決手段】
ポリエーテル系ポリウレタン等のポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を、熱分解ガスクロマトグラフィー法を使用し、あるいは熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析法を使用し、測定することにより、該ポリエーテル含有高分子の劣化度を評価する。ポリエーテル部由来の熱分解生成物は、アルコール、エーテル、ケトンであり、ポリオールとして例えばポリオキシプロピレントリオールを使用した場合は、特にジイソプロピルエーテル、4−イソプロポキシ−2−ブタノンの組成変化を測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテル系ポリウレタン等、ポリエーテルを含有する高分子の劣化度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテル系ポリウレタン等のポリエーテルをポリマー鎖に含有する高分子(以下ポリエーテル含有高分子とする。)は、機械的物性と施工性に優れているため、主にシーリング材(本明細書において「シーリング材」は、特に断りのない限り不定形の湿式シーリング材を意味するものとする。)の主成分として利用され、特に建築分野で多く使用されている。建築用シーリング材は、屋外など、高温にさらされるような過酷な条件下で使用される場合が多く、高い耐候性能が求められるが、計画的なメンテナンスを実現することや、雨漏れ等の不具合を未然に防止する上で、実使用環境下での劣化度を正確に評価することが必要とされている。
【0003】
シーリング材の劣化度を判定する項目として、シーリング材の外装材からの剥離、シーリング材自身の破断、破損、変形などを外観検査する方法が挙げられている。しかし、外観検査から分かる劣化が起こっている場合には、既にシーリング材自身の劣化が進んでいる場合が多かった(非特許文献1)。そこで、劣化が外観からは分からない段階でもシーリング材の劣化度を評価することができる劣化度評価方法が必要とされていた。
【0004】
さらに、建築後数年以上経過した建物(経年建物)のシーリング材の劣化状況を診断する際には、シーリング材のサンプリングを最小量に留めて現場での修復を容易にできることが求められていた。また、一度施工されたシーリング材は溶剤により溶解してから分析することは困難であり、固体状態のままで分析することが必要とされていた。
【0005】
従来、かかるポリウレタン系シーリング材の劣化評価方法としては、特許文献1に、ウレタン成分の溶出量および可塑剤量を測定することにより劣化の程度を評価する方法が提案されている。しかし、該方法では、測定のために必要な試料の量が多く、経年建物などからのサンプリングは困難であり、また劣化の指標となる物質が不明であるため、劣化の定量的な評価が困難であった。
【0006】
また、特許文献2には、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いてポリブチレンテレフタレートの劣化により発生する酸無水物をアルカリの存在下で、熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析法で定量することにより、ポリブチレンテレフタレートの劣化度を評価する方法が提案されている。しかし、該方法は、ポリブチレンテレフタレートの劣化により発生する物質が酸無水物であることが既に分っている上で、熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析法を用いて劣化評価を行っているものであり、ポリエーテル系ポリウレタン等のポリエーテル含有高分子については、劣化の指標となる物質が分っていないため、採用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−137383号公報
【特許文献2】特開2001−356116号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】防水ジャーナル、17巻3号、第65−72頁、1986年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、上記不具合を少なくとも部分的に解消し得るポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法を提供することを目的とする。
特に、本発明は、微量の試料で実施できる上、高い精度でポリエーテル含有高分子の劣化状態を評価することができるポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の発明によれば、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を測定することにより、該ポリエーテル含有高分子の劣化度を評価することを特徴とするポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法が提供される。
第二の発明によれば、第一の発明において、ポリエーテル含有高分子がポリエーテル系ポリウレタンであることを特徴とするポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法が提供される。
第三の発明によれば、第二の発明において、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部が、ポリエーテルトリオールを含有し、ポリエーテル部由来の熱分解生成物としてジイソプロピルエーテルを定量することを特徴とするポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法が提供される。
第四の発明によれば、第一乃至第三の発明のいずれか一において、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を、熱分解ガスクロマトグラフィーにより測定することを特徴とするポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法が提供される。
第五の発明によれば、第一乃至第三の発明のいずれか一において、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を、熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析法により測定することを特徴とするポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法が提供される。
【0011】
上記発明に加えて、ポリエーテル系ポリウレタン等のポリエーテル含有高分子を含むシーリング材の劣化度評価方法であって、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を、好ましくは熱分解ガスクロマトグラフィーにより、あるいは好ましくは熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析法により、測定することにより、該シーリング材の劣化度を評価することを特徴とするシーリング材の劣化度評価方法が提供され、ここで、一態様では、ポリエーテル系ポリウレタン等のポリエーテル含有高分子のポリエーテル部はポリエーテルトリオールを含有し、ポリエーテル部由来の熱分解生成物としてジイソプロピルエーテルが定量される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微量のポリエーテル含有高分子の試料で、高精度に劣化度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る劣化度評価方法を実施するために用いることができる熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析装置の概略図である。
【図2】促進劣化試験前(0時間)のシーリング材試料と、10000時間の促進劣化試験を実施した後のシーリング材試料のパイログラム(保持時間:0分〜10分)を示す。図中、ピーク1はジイソプロピルエーテル、ピーク2は4−イソプロポキシ−2−ブタノンである。
【図3】促進劣化試験前(0時間)のシーリング材試料と、2000時間、4000時間、6000時間、8000時間、および10000時間の促進劣化試験を実施した後のシーリング材試料を、熱分解ガスクロマトグラフィーで測定し、試料中の全ピークの面積に対するジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンの各ピークの面積比を算出し、促進劣化前を1とした場合のジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンにおける各ピークの面積比の変化を示す。
【図4】促進劣化試験を行なったものと同一組成のシーリング材を使用した竣工後5年、6年、11年、14年を経過した建物の南面から採取したシーリング材を熱分解ガスクロマトグラフィーで測定し、シーリング材試料中の全ピークの面積に対するジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンの各ピークの面積比を算出し、劣化前を1とした場合のジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンにおける各ピークの面積比の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発明者らは、シーリング材の外観や物理的形状を評価する方法ではなく、ポリエーテル含有高分子の特定の成分の組成の変化の度合いが劣化の程度を示すことを見出した。すなわち、本発明者らは、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物を測定することにより、ポリエーテル含有高分子の劣化度を推定することに成功した。また、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物を測定するためには、熱分解ガスクロマトグラフィーあるいは熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析法を使用することが好ましいことを見出した。
【0015】
すなわち、従来は、屋外の建物等のシーリング材に使われるポリエーテル系ポリウレタン等のポリエーテル含有高分子は、3次元の架橋構造を有し、組成は極めて複雑であり、さらに多種類の添加剤等が配合されているので、劣化したシーリング材自体を分析してポリエーテル含有高分子の劣化度を評価することは極めて難しいと考えられていた。しかし、本発明者らは、鋭意研究の結果、ある熱分解条件に設定すると、シーリング材中に含まれる添加剤等によらず、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部に由来する特定の熱分解生成物が生じ、かつその熱分解生成物の量が、ポリエーテル含有高分子の劣化に略比例して増加することを見出した。
【0016】
よって、本発明の一実施形態に係る劣化度評価方法では、熱分解ガスクロマトグラフィーを使用し、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物の量、一例ではガスクロマトグラムの組成比を測定することにより、ポリエーテル含有高分子の劣化度を推定する。かかる方法によれば、劣化したポリエーテル含有高分子を、前処理を行なうことなく固体のままで直接に分析試料に供することができるため、精度の高い劣化度評価が可能になる。
【0017】
さらに、本発明の他の実施形態に係る劣化度評価方法では、ポリエーテル含有高分子を構成するモノマー成分と添加剤等の種類が分からなくても、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法(熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析とを連続して行う分析方法)により定性分析した後に、あるいはこれと同時に、定量分析を行なうことにより、正確な劣化度評価が可能になる。さらに、本発明では、数mg以下という微量の試料でも劣化度の推定が可能となり、経年建物からサンプリングする場合に建築物を傷めてしまうという従来の方法における問題点を克服することができ、容易にポリエーテル含有高分子の劣化度を評価することができる。
【0018】
ここで、本発明の「ポリエーテル含有高分子」は、建物等の屋内外のシーリング材として使用される。よって、本発明のポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法は、一態様では、シーリング材の劣化度評価方法である。かかるシーリング材には、通常、ポリエーテル含有高分子以外に可塑剤が含有せしめられ、さらに熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、防藻剤、防かび剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、充填剤、および顔料などが適宜含有せしめられる。
【0019】
本発明のポリエーテル含有高分子は、ポリエーテルを分子中に含む高分子であれば、ポリエーテルを主鎖中に含んでいてもペンダント鎖として含んでいても良いが、具体的には、シーリング材として汎用されているポリエーテル系ポリウレタン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエーテル変性ポリサルファイド、特にポリエーテル系ポリウレタンが挙げられる。
【0020】
以下、代表的なポリエーテル系ポリウレタンについて説明すると、これは、少なくとも二個以上のイソシアネート基を持つ硬化剤と少なくとも二個以上の水酸基を持つポリオール化合物との反応によって得られるものである。
【0021】
1成分型ポリエーテル系ポリウレタンは、例えば、ジイソシアネートとポリエーテルジオールおよびポリトリオールとの反応によって得られるプレポリマーを原料として用い、空気中の水分と反応させることにより硬化せしめるものである。また2成分型ポリエーテル系ポリウレタンは、ジイソシアネートとポリエーテルジオールおよびポリトリオールとの反応によって得られるプレポリマーと硬化剤であるポリオールあるいはポリアミンとを反応させることによって硬化せしめるものである。
上述のイソシアネートの例としては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートなどがある。
【0022】
上述のポリオールは1分子あたり2個以上の水酸基を有するもので、数平均分子量としては、400〜7000の範囲であることが好ましい。ジオールとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシヘキサメチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体がある。トリオールとしては、ポリオキシエチレントリオール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシテトラメチレントリオール、ポリオキシヘキサメチレントリオールがある。また、トリオールとジオールとを適宜混合して使用することも好ましい。
【0023】
可塑剤としては、フタル酸エステル系化合物、ポリエステル系あるいは脂肪族ポリウレタンのような高分子可塑剤を単独であるいは混合して用いることができる。熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物あるいはヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物が代表的なものである。
【0024】
熱分解ガスクロマトグラフィー(PyGC)は、微量の試料を瞬間的に熱分解させ、その熱分解生成物をガスクロマトグラフへ導入・分離し、パイログラムを得る分離分析法である(可児浩、2002年北海道立工業試験場技術情報、第24巻4号11頁)。赤外分光分析など分光分析法や示差走査熱量測定など熱分析法では困難であった黒色のゴムのような試料やゴムや熱硬化性樹脂のように融点を持たない高分子にも、熱分解ガスクロマトグラフィーは適用できる。
【0025】
質量分析法(MS)は、試料の質量電荷比(質量を電荷の数で割った値)を求めるときに使用される分析法である。本願発明の方法では、電子衝撃イオン化、化学イオン化、電界イオン化、あるいは高速原子衝撃イオン化法などが利用でき、単収束磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、二重収束型、あるいはイオンサイクロトロン型の質量分析計を用いることができるが、これらに限られるものではない。
【0026】
ポリエーテル含有高分子またはシーリング材の劣化度は、サンプリングしたポリエーテル含有高分子またはシーリング材について、熱分解ガスクロマトグラフィーにより、ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物のガスクロマトグラムの組成比を計算し、その数値の経時的変化を見ることにより評価する。ポリエーテル含有高分子の劣化に伴ってポリエーテル含有高分子中のポリエーテル部由来の熱分解生成物の組成比が増加していく現象を利用してポリエーテル含有高分子の劣化度を推定するものである。
【0027】
ここで、「ポリエーテル含有高分子中のポリエーテル部由来の熱分解生成物の組成比」とは、ポリエーテル含有高分子を熱分解することによって生成する全熱分解物に対するポリエーテル部由来の特定の熱分解物の含有比を意味する。この含有比は、クロマトグラムのピーク面積比から推定することができる。
【0028】
また、「ポリエーテル部由来の熱分解生成物」とは、ポリエーテル部が熱分解されて生成するアルコール、エーテル、ケトンである。ポリオールとしてポリオキシプロピレントリオールを使用した場合の熱分解生成物は、ジイソプロピルエーテル、4−イソプロポキシ−2−ブタノンである。特にジイソプロピルエーテルの場合は劣化に対する感度が高く、劣化度を判定する上で有利である。
【0029】
本発明の方法では、ポリエーテル含有高分子の劣化度を評価するための試料は例えば数mgあればよく、少なくとも0.01mg程度あれば評価することができる。したがって、経年建物のシーリング材の劣化状況を診断する場合であっても、建物を傷つけることを最小限に抑えて、試料を容易に採取でき、例えば0.01〜1.0mgを精秤し、測定試料に供することができる。よって、また、0.3〜0.5mgの範囲で、毎回同量の試料とするのが、測定の再現性を高める上では好ましい。
【0030】
また、シーリング材中には、通常、可塑剤の他、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、防藻剤、防かび剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、充填剤、顔料などの種々の添加剤が含まれるが、それらが存在していてもシーリング材劣化度の評価には問題は無い。
【0031】
また本発明の方法では、分析法として熱分解ガスクロマトグラフィーを用いるので、固体状態の試料においても高感度でかつ高精度の測定が可能となる。測定に際しては、試料を加熱して発生したガスをカラムで分離し、定性と定量を行なう。ここで、加熱温度はポリエーテル含有高分子の種類によって変えることができ、通常は400℃〜700℃が好ましく、400℃未満ではポリエーテル含有高分子の分解がほとんど起こらないので成分分析はできず、700℃より高い温度ではポリエーテル含有高分子や添加剤の分解が進みすぎて多量の不必要な成分が生成するために定量が困難となる。加熱条件は試料全体にわたって均一に0.1〜2秒という短時間で行なうことが好ましい。これは、加熱時間が長くなると副反応が起こり分解物とは異なる成分が生成するという問題点があるためである。また、加熱の際に昇温することによって、ポリエーテル含有高分子と添加剤を識別して分析を行なうこともできる。
【0032】
試料を熱分解する方法としては、フィラメント型、誘導加熱型、あるいは加熱炉型の熱分解装置を使用するが、測定する試料により最適なものを選択すれば良い。ガスクロマトグラフ装置は、一般的な装置を用いれば良く、カラムの固定相は測定する試料によって選択すれば良い。検出器に関しては、水素炎イオン化検出器、熱伝導度検出器、あるいは電子捕獲検出器などがあり、必要に応じて選択することができる。
【0033】
また、熱分解ガスクロマトグラフィーにより分離して得られた成分が不明な場合には、質量分析を行なうことにより、各成分の同定を行なうことができる。熱分解ガスクロマトグラフ装置と質量分析装置を直結した一連の装置を用いて、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法(PyGC-MS)質量分析を用いることが好ましい。
【0034】
図1は熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析装置の概略図である。分析するポリエーテル含有高分子試料は試料注入部2に投入される。熱分解装置3の温度が所定の値になった時に、投入された試料は熱分解装置3内に供給され、急速に加熱されて分解される。ポリエーテル含有高分子試料が加熱・分解されて発生したガスはキャリアガス1によってカラム4内に導入される。ガスクロマトグラフ分析を行う場合には、スプリッタ5を経て検出器6により分析される。質量分析が必要な場合には、スプリッタ5を経てインターフェース7に導入され、次いで質量分析計8に導入され、質量分析を行なう。熱分解部(熱分解装置3)には、フロンティアラボ社製ダブルショットパイロライザーPY-1020Dを用いることができる。ガスクロマトグラフ部(検出器6)には、Agilent社製P−6890を用いることができる。質量分析部(質量分析計8)には、JEOL社製AutoMass-IIを用いることができる。
【0035】
かかる熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法では、試料の定性分析が可能で、ポリエーテル含有高分子のみでなく、可塑剤、ヒンダードフェノールの熱安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)や紫外線吸収剤(UVA)のような添加剤の定性、定量が可能となる。したがって、劣化したポリエーテル含有高分子のヒンダードフェノールの熱安定剤、HALSやUVAの残量を知ることも可能であり、ポリエーテル含有高分子の劣化度の評価とともに、ヒンダードフェノールの熱安定剤、HALSやUVAの安定化効果もしくはこのような添加剤がポリエーテル含有高分子の耐候性に及ぼす効果を確認することができる。
【0036】
以上をまとめると、本発明によれば、ポリエーテル含有高分子中のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を測定することにより、劣化度を推定することを特徴とするポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法が提供される。外観や物理的形状を評価する方法ではなく、ポリエーテル含有高分子を形成する成分とポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を測定することにより、従来法に比べて客観的に劣化度評価を行うことが可能で、劣化度評価の精度が優れている。
【0037】
また、一実施形態では、ポリエーテル含有高分子中のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を熱分解ガスクロマトグラフィーにより測定することにより、劣化度を推定することを特徴とするポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法が提供されるので、劣化したポリエーテル含有高分子に前処理を行なうことなく固体のままで直接に分析試料に供することができ、劣化度評価の精度が優れている。さらに、数mg以下という微量の試料でも劣化度の推定が可能であり、また、赤外分光分析など分光分析法や示差走査熱量測定のように試料の色や融点などの影響をあまり受けないという利点がある。
【0038】
さらに、一実施形態では、熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析法により、ポリエーテル含有高分子中のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を測定することにより、劣化度を推定することを特徴とするポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法が提供されるので、ポリエーテル含有高分子と添加剤の種類が分からなくても、熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析法により定性分析した後に、あるいは同時に、定量分析を行なうことが可能である。したがって、ポリエーテル含有高分子と添加剤等の種類が不明である場合でも使用できるため、劣化度評価が可能なポリエーテル含有高分子が広範囲にわたるという点で優れている。また、熱安定剤、紫外線吸収剤などの多数の添加物が含まれていても、それらに影響されることがないという点でも優れている。
【0039】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。例えば、上記においては、ポリエーテル含有高分子を含むシーリング材の劣化度を評価した例を示したが、ポリエーテル含有高分子がシーリング材以外の用途に使用されている場合(例えば、ガスケット等とも呼ばれる定形の乾式シーリング材、接着剤、伸縮性が求められる合成繊維など)においても、ポリエーテル含有高分子の熱分解生成物の組成変化が劣化に相関している限り、本発明の方法を適用できる。
【0040】
また、本発明に係る劣化度評価方法は、経年建物のシーリング材の劣化診断に用いられるのみならず、建築の設計施工段階等においてシーリング材の耐候性を評価するためにも使用することができ、よって一実施形態では、ポリエーテル含有高分子を含んでなるシーリング材を促進劣化試験によって劣化させ、その劣化が促進されたシーリング材の劣化度を本発明に係る方法によって評価することができる。これにより、建築前の段階において、合理的で計画的なメンテナンス計画の作成や、精度の高いライフサイクルコストの算定が実現できる。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0041】
実施例1
<シーリング材の作成>
重量平均分子量5000のポリオキシプロピレントリオール10重量%と重量平均分子量2000のポリオキシプロピレングルコール50重量%とジ−2−エチルヘキシルフタレート29重量%を反応容器に入れ、110℃、50mmHgで2時間減圧脱水した。その後反応生成物を80℃に冷却し、4,4−ジフェニルメタンジイソシアナートを11重量%加えて攪拌した。80℃で30時間反応させ、イソシアナート含有ウレタンプレポリマーを得た。
【0042】
上で得たイソシアナート含有ウレタンプレポリマー60重量%を、乾燥窒素ガスを封入した混練容器に入れ、さらに充填剤として、炭酸カルシウムを25重量%、シリカを5重量%、溶剤として、キシレンを10重量%加えて、攪拌装置中で混練してウレタン系シーリング組成物を得た。このようにして得たウレタン系シーリング組成物を厚さ2mmのシート状に作成し、23℃、相対湿度50%の中で4週間の養生を行った。
上記の試料から切り出した試験体を用いて、以下の試験を行った。
【0043】
<促進劣化試験>
促進劣化試験として、作成したシートの両面を、油性成分を吸着する厚さ1mmのセルロース系不織布のシートで挟み、0.5g/cmで加圧し、恒温恒湿における暴露を実施した。また、このセルロース系不織布シートは、2000時間毎に交換した。促進劣化試験の条件は、温度80℃で湿度5%RHとし、促進劣化試験時間は、2000時間、4000時間、6000時間、8000時間、10000時間で実施した。それぞれの促進劣化試験を実施したシートは、試験経過後にそれぞれ、恒温恒湿槽から取り出して分析に供した。促進劣化試験実施前後のシートの内部(中心部近く)から0.5mgの分析用試料を得て、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に用いた。
【0044】
<熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析>
熱分解は、熱分解装置(フロンティアラボ社製ダブルショットパイロライザー PY−1020D)を用いて、熱分解温度600℃で行った。ガスクロマトグラフィーで使用したカラムはDurabond DB−1(内径:0.25mm、長さ:30m、膜厚:0.25μm)であり、Agilent社製の検出器(P−6890)を使用した。温度条件は、50℃5分間保持、50℃から320℃へ昇温(昇温速度10℃/分)、320℃8分間保持で行った。質量分析は、JEOL社製AutoMass-IIを用いた。質量分析測定条件は、電子衝撃型イオン化法で、質量測定範囲:m/z=10〜700(m:質量、z:電荷)である。
【0045】
促進劣化試験の実施前のシーリング材試料を熱分解ガスクロマトグラフィーにより分析し、パイログラムを得た(図2の0hr)。さらに、促進劣化試験の実施前のシーリング材試料について、ガスクロマトグラフで分離した各成分の質量分析スペクトルを取得することにより、各成分の定性を行なった。その結果、保持時間6.1分で、ジイソプロピルエーテルを検出し、6.3分で1,2,4−トリメチルシクロペンタン(当該シーリング材固有のピーク)を検出し、6.5分で、4−イソプロポキシ−2−ブタノンを検出した。また、保持時間の大きい部分で、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートとジ−2−エチルヘキシルフタレートを検出することができた。
【0046】
また、前述の80℃5%RH、2000時間、4000時間、6000時間、8000時間、10000時間の促進劣化試験を実施したシーリング試料についても、上記と同様にして、熱分解ガスクロマトグラフィー分析を実施し、各試料についてパイログラムを得た(10000時間の促進劣化試験を実施したシーリング試料についてのみ図2に示す)。
促進劣化試験前(0時間)のシーリング材試料から得られたパイログラムと、各劣化試験時間の促進劣化試験を実施したシーリング材試料から得られたパイログラムを比較すると、促進劣化試験時間が増加するにつれてジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンのピーク面積比は大きくなり、促進劣化試験時間との相関性が高かった。これに対して、1,2,4−トリメチルシクロペンタンについては、促進劣化試験時間とともに、面積比は小さくなり、相関性はあまり高くなかった。
【0047】
促進劣化試験前(0時間)のシーリング材試料と、2000時間、4000時間、6000時間、8000時間、および10000時間の促進劣化試験を実施したシーリング材試料中の全ピークの面積に対するジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンの各ピークの面積比を算出し、促進劣化前を1とした場合のジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンの各ピーク面積の増減比を求め、図3に示した。この結果から分かるように、促進劣化試験時間が増加するとともに、ジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンの増減比が大きくなった。すなわち、ジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンの各ピーク面積の増減比の値から、シーリング材の劣化度を推定することが可能であることが分かった。また、劣化初期から、促進劣化時間との相関性が良く、初期の劣化状況を把握することができることも分かった。特にジイソプロピルエーテルは劣化に対する感度が高く、劣化の指標としてより適していると考えられる。
【0048】
実施例2
<実暴露塗膜の劣化度評価>
促進劣化試験を行なったものと同じ組成のシーリング材を使用した竣工後5年、6年、11年、14年を経過した建物の南面からシーリング材をサンプリングして、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に供した。上記と同様の分析を行い、シーリング材試料中の全ピークの面積に対するジイソプロピルエーテルおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンの各ピークの面積比を算出し、劣化前を1とした場合のジイソプロピルエーテルピークおよび4−イソプロポキシ−2−ブタノンの各ピーク面積の増減比を求め、図4に示した。この結果、実暴露試験においても、ピーク面積比は実暴露時間との相関性が良いことが分った。
【0049】
また、図3と図4より、ジイソプロピルエーテルの場合は、促進劣化試験時間400時間が実暴露(現実の経年建物による暴露)のほぼ1年に相当し、4−イソプロポキシ−2−ブタノンの場合は、促進劣化試験時間420時間が実暴露(現実の経年建物による暴露)のほぼ1年に相当することが分かった。この結果、ポリエーテル部由来の熱分解生成物を定量することにより、正確に劣化度を評価でき、劣化診断にも適用できることが分った。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明のポリエーテル含有高分子の劣化評価方法は、ポリエーテル含有高分子の劣化度を微量の試料で、高精度に評価することができ、評価可能なポリエーテル含有高分子の範囲も広いので、経年建物のシーリング材の劣化度を評価する方法やそれを使用した劣化診断に有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 キャリアガス供給
2 試料注入部
3 熱分解装置
4 カラム
5 スプリッタ
6 ガスクロマトグラフ検出器
7 インターフェース
8 質量分析計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を測定することにより、該ポリエーテル含有高分子の劣化度を評価することを特徴とするポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法。
【請求項2】
前記ポリエーテル含有高分子がポリエーテル系ポリウレタンであることを特徴とする請求項1記載のポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法。
【請求項3】
前記ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部が、ポリエーテルトリオールを含有し、ポリエーテル部由来の熱分解生成物としてジイソプロピルエーテルを定量することを特徴とする請求項2記載のポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法。
【請求項4】
前記ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を、熱分解ガスクロマトグラフィーにより測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法。
【請求項5】
ポリエーテル含有高分子のポリエーテル部由来の熱分解生成物量の変化を、熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析法により測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリエーテル含有高分子の劣化度評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−149844(P2011−149844A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11698(P2010−11698)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】