説明

ポリエーテル系樹脂水性分散体

【課題】 分散安定性に優れると共に、乾燥被膜の耐水性に優れるポリエーテル系樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】 ポリアセタール(A)、ポリフェニレンエーテル(B)、ポリフェニレンスルフィド(C)、ポリエーテルスルホン(D)及びポリエーテルエーテルケトン(E)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂でありカルボキシル基及び/又はスルホ基を有するポリエーテル系樹脂(F)並びに水を含有してなり、界面活性剤を含まないことを特徴とするポリエーテル系樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテル系樹脂水性分散体に関する。更に詳しくは、半導体、電子部品用のストレスバッファーコーティング剤、層間絶縁コーティング剤として好適に使用できるポリエーテル系樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン及びポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテル系樹脂は耐熱性、耐久性、耐薬品性及び耐磨耗性等の性能が優れることから電気・電子部品、自動車部品等に使用されている。近年、主に環境対策として、これらポリエーテル系樹脂の水性化が広く要請されており、今後も環境保全、省資源、安全性等の観点からますます重要性を増していくと考えられる。
上記ポリエーテル系樹脂を水に分散させる方法として、ポリエーテル系樹脂を有機溶剤に溶解させて界面活性剤を用いて水性分散体を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載の水性分散体は分散安定性を向上させる目的で界面活性剤を使用しているため、塗膜の耐水性の低下や塗膜から界面活性剤がブリードアウトするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−80329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は分散安定性に優れると共に、乾燥被膜の耐水性に優れるポリエーテル系樹脂水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、ポリアセタール(A)、ポリフェニレンエーテル(B)、ポリフェニレンスルフィド(C)、ポリエーテルスルホン(D)及びポリエーテルエーテルケトン(E)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂でありカルボキシル基及び/又はスルホ基を有するポリエーテル系樹脂(F)並びに水を含有してなり、界面活性剤を含まないことを特徴とするポリエーテル系樹脂水性分散体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリエーテル系樹脂水性分散体は、界面活性剤を使用することなく分散安定性に優れ、その乾燥被膜の耐水性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明におけるポリエーテル系樹脂(F)は、ポリアセタール(A)、ポリフェニレンエーテル(B)、ポリフェニレンスルフィド(C)、ポリエーテルスルホン(D)又はポリエーテルエーテルケトン(E)からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリエーテル系樹脂であり、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有する。カルボキシル基及び/又はスルホ基を有することにより、界面活性剤を含有することなく分散安定性に優れ、乾燥皮膜の耐水性に優れる水性分散体を得ることができる。
【0008】
ポリアセタール(A)としては、環状アセタール(a1)をカチオン開始剤(a2)で重合するとともに酸無水物(a3)と反応させることにより得られるポリアセタール及びアルデヒド(a4)をカチオン開始剤(a2)又はアニオン開始剤(a5)で重合するとともに酸無水物(a3)と反応させることにより得られるポリアセタール等が挙げられる。酸無水物(a3)と反応させることにより、ポリアセタール(A)にカルボキシル基を導入することができる。
【0009】
環状アセタール(a1)としては、5〜17員環の環状アセタールが使用できる。例えば1,3−ジオキソラン、2−エチル−1,3−ジオキソラン、2−プロピル−1,3−ジオキソラン、2−ブチル−1,3−ジオキソラン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−フェニル−2−メチル−1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−エチル−4−メチル−1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2,2,4−トリメチル−1,3−ジオキソラン、4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、4−ブチルオキシメチル−1,3−ジオキソラン、4−フェノキシメチル−1,3−ジオキソラン、4−クロルメチル−1,3−ジオキソラン、1、3−ジオキセパン、1,3,5−トリオキセパン、1,3,6−トリオキソカン、1,3,5−トリオキサン及びアンヒドロ糖誘導体等が挙げられる。
【0010】
カチオン開始剤(a2)として例えば、過塩素酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテル錯体、四塩化スズ、四塩化スズエーテル錯体、四塩化チタン、四塩化チタンエーテル錯体、五フッ化リン、五フッ化リンエーテル錯体、五フッ化ヒ素、五フッ化ヒ素エーテル錯体、五フッ化アンチモン、五フッ化アンチモンエーテル錯体及びトリエチルオキソニウムテトレフルオロボレート等が挙げられる。
【0011】
カチオン開始剤(a2)の使用量は、環状アセタール(A)に対して0.001〜10重量%が好ましい。
【0012】
酸無水物(a3)としては、1分子中に1個又はそれ以上の酸無水物基を有する炭素数8〜25の芳香族酸無水物(a3−1)及び炭素数2〜18の脂肪族環状酸無水物(a3−2)が挙げられる。
【0013】
炭素数8〜25の芳香族酸無水物(a3−1)としては、例えば無水フタル酸、ピロメリット酸二無水物、ジフェニルエーテル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン−1,3,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ベリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物及びm−又はp−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0014】
炭素数2〜18の脂肪族環状酸無水物(a3−2)としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物及び5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0015】
酸無水物(a3)の使用量は、環状アセタール(a1)に対して0.1〜6.0重量%が好ましい。
【0016】
アルデヒド(a4)としては例えばホルムアルデヒド、クロラール及びブロマール等が挙げられる。
【0017】
アニオン開始剤(a5)としては例えばリチウム−t−ブトキシド、リチウム−s−ブトキシド、ブチルリチウム、ナフタレンナトリウム及びクミルカリウム等が挙げられる。
【0018】
アニオン開始剤(a5)の使用量は、アルデヒド(a4)に対して1.0×10-6〜1.0×10-3重量%が好ましい。
【0019】
酸無水物(a3)の含有量はアルデヒド(a4)に対して0.1〜6.0重量%が好ましい。
【0020】
ポリアセタール(A)の製造における重合反応は、好ましくは−60℃〜80℃、更に好ましくは−50℃〜70℃、特に好ましくは−40℃〜60℃で行われる。温度が−60℃未満の場合は、重合速度が遅くなる。また、温度が80℃以上になると重合反応を制御することが難しくなってしまう。反応時間は好ましくは30分〜20時間である。重合反応は不活性ガス存在下で行うことが好ましい。
【0021】
ポリアセタール(A)を後述のスルホン化剤(b4)を使用してスルホン化することにより、ポリアセタール(A)にスルホ基を導入することもできる。
【0022】
ポリアセタール(A)のスルホン化は好ましくは−10℃〜150℃、更に好ましくは0℃〜140℃、特に好ましくは10℃〜130℃で行われる。温度が−10℃未満の場合はスルホン化速度が遅くなる。また、温度が150℃以上になると酸によりポリマーが分解するおそれがある。反応時間は好ましくは5分〜40時間である。
尚、後述のポリフェニレンエーテル(B)、ポリフェニレンスルフィド(C)、ポリエーテルスルホン(D)及びポリエーテルエーテルケトン(E)のスルホン化の条件も上記と同様である。
【0023】
ポリフェニレンエーテル(B)は、ハロゲン化銅(b1)を触媒としてアミン(b2)存在下、2,6−二置換フェノール(b3)を酸素を供給しながら酸化重合させた後、スルホン化剤(b4)でスルホン化することで製造される。スルホン化することにより、ポリフェニレンエーテル(B)にスルホ基が導入される。
【0024】
ハロゲン化銅(b1)としては例えば、塩化銅、臭化銅及びヨウ化銅等が挙げられる。
【0025】
ハロゲン化銅(b1)の使用量は、2,6−二置換フェノール(b2)に対して0.01〜10重量%が好ましい。
【0026】
アミン(b2)としては例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、イミダゾール及びモルホリン等が挙げられる。
【0027】
アミン(b2)の使用量は、2,6−二置換フェノール(b2)に対して0.1〜100重量%が好ましい。
【0028】
2、6−二置換フェノール(b3)としては例えば、2,6−ジメチルフェノール、2−エチル−6−メチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2−メチル−6−イソプロピルフェノール、2−クロロ−6−メチルフェノール、2−メトキシ−6−メチルフェノール、2−メチル−6−フェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、2−メチル−6−クロロフェノール及び2−メチル−6−ブロモフェノール等が挙げられる。
【0029】
スルホン化剤(b4)としては濃硫酸、発煙硫酸及びクロロスルホン酸等が挙げられる。
【0030】
ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の製造における重合反応は、好ましくは10℃〜100℃、更に好ましくは15℃〜95℃、特に好ましくは20℃〜90℃で行われる。温度が10℃未満の場合は、重合速度が遅くなる。また、温度が100℃以上になると重合反応を制御することが難しくなってしまう。反応時間は好ましくは1分〜50時間である。
【0031】
ポリフェニレンスルフィド(C)は、ポリハロゲン化芳香族化合物(c1)とアルカリ金属硫化物(c2)を重縮合させた後にスルホン化剤(b4)でスルホン化することにより製造されている。スルホン化することにより、ポリフェニレンスルフィド(C)にスルホ基が導入される。
【0032】
ポリハロゲン化芳香族化合物(c1)としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン及び2,5−ジクロロトルエン等が挙げられる。
【0033】
アルカリ金属硫化物(c2)としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム及び硫化セシウム等が挙げられる。
【0034】
アルカリ金属硫化物(c2)の使用量は、得られるポリフェニレンスルフィド(C)の強度の観点からポリハロゲン化芳香族化合物(c1)に対して95〜105モル%が好ましい。
【0035】
ポリフェニレンスルフィド(C)の製造における重合反応は、好ましくは200〜320℃、更に好ましくは210℃〜310℃、特に好ましくは220℃〜300℃で行われる。温度が200℃未満の場合は、重合速度が遅くなる。また、温度が320℃以上になると重合反応を制御することが難しくなってしまう。反応時間は好ましくは1分〜24時間である。
【0036】
ポリエーテルスルホン(D)は、スルホニル基を有するジハロジフェニル化合物(d1)とビスフェノール化合物(d2)をアルカリ金属化合物(d3)の存在下で重縮合させた後にスルホン化剤(b4)でスルホン化することにより製造される。スルホン化することにより、ポリエーテルスルホン(D)にスルホ基が導入される。
【0037】
スルホニル基を有するジハロジフェニル化合物(d1)としては、例えば4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジブロモジフェニルスルホン、1,4−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ベンゼン、4,4’−ビス(4−ブロモフェニルスルホニル)ビフェニル、ビス(4’−クロロビフェニル)スルホン、ビス(6−クロロビナフチル)スルホン、ビス(4−フルオロ−3−メチルフェニル)スルホン及びビス(3−フェニル−4−ブロモフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0038】
ビスフェノール化合物(d2)としては例えば、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3、3、5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン及び2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0039】
ビスフェノール化合物(d2)の使用量は、得られるポリエーテルスルホン(D)の強度の観点からスルホニル基を有するジハロジフェニル化合物(c2)に対して95〜105モル%が好ましい。
【0040】
アルカリ金属化合物(d3)としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド及びカリウムブトキシド等が挙げられる。
【0041】
アルカリ金属化合物(d3)の使用量は、得られるポリエーテルスルホン(D)の強度の観点からスルホニル基を有するジハロジフェニル化合物(c2)に対して190〜400モル%が好ましい。
【0042】
ポリエーテルスルホン(D)の製造における重合反応は、好ましくは100〜360℃、更に好ましくは110℃〜350℃、特に好ましくは120℃〜340℃で行われる。温度が100℃未満の場合は、重合速度が遅くなる。また、温度が360℃以上になると重合反応を制御することが難しくなってしまう。反応時間は好ましくは1分〜24時間である。重合反応は不活性ガス存在下で行うことが好ましい。
【0043】
ポリエーテルエーテルケトン(E)は、ジハロベンゾフェノン化合物(e1)とビスフェノール化合物(d2)をアルカリ金属化合物(d3)の存在下で重縮合させた後にスルホン化剤(b4)でスルホン化することにより製造される。スルホン化することにより、ポリエーテルエーテルケトン(E)にスルホ基が導入される。
【0044】
ジハロベンゾフェノン化合物(e1)としては、例えば、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ビス(4’−フルオロビフェニル)ケトン、ビス(6−クロロビナフチル)ケトン、ビス(4−フルオロ−3−メチルフェニル)ケトン及びビス(3−フェニル−4−フルオロフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0045】
ビスフェノール化合物(d2)の使用量は、得られるポリエーテルエーテルケトン(E)の強度の観点からジハロベンゾフェノン化合物(e1)に対して95〜105モル%が好ましい。
【0046】
アルカリ金属化合物(d3)の使用量は、得られるポリエーテルエーテルケトン(E)の強度の観点からスルホニル基を有するジハロベンゾフェノン化合物(e1)に対して190〜400モル%が好ましい。
【0047】
ポリエーテルエーテルケトン(E)の製造における重合反応は、好ましくは150〜320℃、更に好ましくは160℃〜310℃、特に好ましくは170℃〜300℃で行われる。温度が150℃未満の場合は、重合速度が遅くなる。また、温度が320℃以上になると重合反応を制御することが難しくなってしまう。反応時間は好ましくは1分〜20時間である。重合反応は不活性ガス存在下で行うことが好ましい。
【0048】
ポリアセタール(A)、ポリフェニレンエーテル(B)、ポリフェニレンスルフィド(C)、ポリエーテルスルホン(D)及びポリエーテルエーテルケトン(E)を得る際の反応には、有機溶媒(s)を用いることができる。
【0049】
有機溶媒(s)としては、公知の有機溶媒、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジフェニルスルホン、γ−ブチロラクトン、トルエン及びキシレン(各異性体及びそれらの混合物を含む)等が挙げられる。これらの有機溶媒(s)は1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
有機溶媒(s)を使用する場合の使用量は、(A)、(B)、(C)、(D)又は(E)の重量に対して50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下であり、環境汚染の観点からは使用しないことが特に好ましい。
【0050】
ポリエーテル系樹脂(F)におけるカルボキシル基及びスルホ基の含有量は、樹脂の酸価を測定することにより定量することができる。(F)の酸価は、分散性及び乳化安定性の観点から、5〜300であことが好ましく、更に好ましくは10〜280、特に好ましくは20〜260である。
【0051】
ポリエーテル系樹脂(F)が有するカルボキシル基及びスルホ基を中和剤により中和することにより樹脂粒子の分散安定性が更に向上する。
【0052】
中和剤としては、例えばアンモニア、炭素数1〜10のアミン化合物及びアルカリ金属(ナトリウム、カリウム及びリチウム等)の水酸化物が挙げられる。
炭素数1〜10のアミン化合物としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン及びモノエタノールアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン及びジエタノールアミン等の2級アミン並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン及びトリエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
【0053】
カルボキシル基及びスルホ基の中和剤としては、生成するポリエーテル系樹脂(F)の水性分散体の乾燥性及び乾燥後の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンが好ましく、更に好ましいのはアンモニア、モノエチルアミン、ジメチルアミン及びジエチルアミン、特に好ましいのはアンモニアである。
【0054】
中和剤の使用量は、ポリエーテル系樹脂水性分散体の分散安定性の観点から、ポリエーテル系樹脂中のカルボキシル基及びスルホ基1当量に対して、好ましくは0.1〜3当量であり、更に好ましくは0.5〜1当量である。
【0055】
本発明におけるポリエーテル系樹脂(F)の数平均分子量は、好ましくは2,000〜2,000,000又はそれ以上、更に好ましくは5,000〜500,000、特に好ましくは10,000〜100,000である。本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、溶媒としてジメチルホルムアミドを用い、標準ポリスチレンを基準にして測定される。
【0056】
(A)〜(E)のポリエーテル系樹脂に用いられる中和剤(c)は、水分散工程前、水分散工程中又は水分散後のいずれの時期に添加しても良いが、ポリエーテル系樹脂の安定性及び水性分散体の安定性の観点から、水分散工程前又は水分散工程中に添加することが好ましい。
【0057】
ポリエーテル系樹脂(F)を製造するための装置は、撹拌又は混練可能なものであれば特に限定されず、コルベン、簡易加圧反応装置(オートクレーブ)及び一軸又は二軸の混練機等が使用できるが、混練強度、密閉性及び加熱能力の観点から、一軸又は二軸の混練機が好ましい。一軸又は二軸の混練機としては、ニーダー[(株)栗本鐵工製「KRCニーダー」等]、一軸混練機及び二軸押出機[池貝(株)製「PCM−30」等]等が挙げられる。
【0058】
ポリエーテル系樹脂(F)の製造に際しては、触媒、酸化防止剤、着色防止剤、遅延剤及び可塑剤等の添加剤を併用することができる。
【0059】
本発明のポリエーテル系樹脂水性分散体は、ポリエーテル系樹脂(F)、水並びに必要により上記有機溶媒(s)及びその他の添加剤を構成成分とする。
【0060】
ポリエーテル系樹脂(F)を水に分散させる際に上述の有機溶媒(s)を使用することにより、ポリエーテル系樹脂(F)の分散性を更に向上させることができる。
【0061】
有機溶剤(s)を使用する場合、その使用量はポリエーテル系樹脂水性分散体の重量を基準として通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。尚、上述のポリエーテル系樹脂(F)の製造時を含めて、有機溶剤(s)を使用した場合には、環境汚染の観点からポリエーテル系水性分散体製造後に、ポリエーテル系樹脂水性分散体における(s)の含有量が好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下、特に好ましくは100ppm以下になるように(s)を留去することが好ましく、有機溶剤(s)を使用せず、有機溶剤を実質的に含まないことが最も好ましい。
【0062】
その他の添加剤としては、pH調整剤、破泡剤、抑泡剤、脱泡剤、酸化防止剤、着色防止剤、可塑剤及び離型剤等が挙げられる。
【0063】
本発明のポリエーテル系樹脂水性分散体の固形分濃度は、分散安定性及び輸送コストの観点から、好ましくは10〜65重量%、更に好ましくは20〜55重量%である。
【0064】
本発明のポリエーテル系樹脂水性分散体中のポリエーテル系樹脂(F)の体積平均粒子径は、分散安定性の向上の観点から、0.01〜5μmであることが好ましく、更に好ましくは0.01〜4μm、特に好ましくは0.02〜2μm、最も好ましくは0.03〜0.8μmである。体積平均粒子径は、(F)が有するカルボキシル基及びスルホ基の量や、必要により使用する有機溶媒(s)の量等により制御することができる。
【0065】
本発明における体積平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定装置[例えば、LA−750(堀場制作所製)]又は光散乱粒度分布測定装置[例えば、ELS−8000(大塚電子株製)]を用いて測定できる。
【0066】
本発明のポリエーテル系樹脂水性分散体は、ポリエーテル系樹脂(F)を必要により中和剤での中和を行った後、又は中和しながら水に分散させることで製造することができる。具体的には、分散混合装置として回転式分散混合装置を用いてポリエーテル系樹脂(F)の溶融温度未満の温度で水中に分散させる方法等が挙げられる。尚、製造に当たっては、必要により任意成分である上記有機溶媒(s)及びその他の添加剤が併用される。
【0067】
上記方法を用いる場合、ポリエーテル系樹脂(F)の形状を0.2〜50mmの粒状又はブロック状にすることが回転式分散混合装置に供給し易いという観点から好ましく、その大きさは、更に好ましくは0.5〜30mm、特に好ましくは1〜10mmである。
【0068】
ポリエーテル系樹脂(F)を粒子状に調整する手段としては、裁断、ペレット化、粒子化又は粉砕する等の手段を用いることができる。この粒子状への調整は、水中又は水の非存在下において実施することができる。例えば、シート状に圧延したポリエーテル系樹脂(F)を角形ペレット機[(株)ホーライ製]で粒子状にする方法が挙げられる。
【0069】
粒子状に調整されたポリエーテル系樹脂(F)を、水等とともに回転式分散混合装置に導入するが、この装置の主たる分散原理は、駆動部の回転等によって粒子に外部から剪断力を与えて粉砕し、分散させるという原理である。またこの装置は、常圧又は加圧下で稼働させることができる。
【0070】
回転式分散混合装置としては、例えばTKホモミキサー[プライミクス(株)製]、クレアミックス[エムテクニック(株)製]、フィルミックス[プライミクス(株)製]、ウルトラターラックス[IKA(株)製]、エバラマイルダー[荏原製作所(株)製]、キャビトロン(ユーロテック社製)及びバイオミキサー[日本精機(株)製]が挙げられ、これらの2種類以上の装置を併用してもかまわない。
【0071】
回転式分散混合装置を用いてポリエーテル系樹脂(F)を分散混合処理する際の分散液の温度としては、分散体であるポリエーテル系樹脂(F)の分解や劣化等を防ぐ観点から、ポリエーテル系樹脂(F)の溶融温度未満、好ましくは溶融温度よりも5℃以上低い温度で室温以上の温度、更に好ましくは溶融温度よりも10〜120℃低い温度で室温以上の温度が、分散効率及び分解・劣化抑制の観点から好ましい。
【0072】
ポリエーテル系樹脂(F)と水との回転式分散混合装置内の滞留時間は、分解・劣化抑制の観点から0.1〜60分であることが好ましく、更に好ましくは10〜30分である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を以て本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は重量部を意味する。
【0074】
<実施例1>
二軸混練機のKRCニーダーに、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン100部、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン79.5部及び炭酸カリウム105.9部を窒素雰囲気下で導入した。300℃で30分間混練して重合させた後、更に発煙硫酸(三酸化硫黄含量25%)20.9部を用いてスルホン化反応を行うことによりスルホ基を有するポリエーテルスルホンを得た。このポリエーテルスルホン100部を300℃に熱した加圧プレス機で圧延し、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断した後、温度制御可能な耐圧容器にイオン交換水220.7部及びトリエチルアミン12.6部と共に仕込み、TKホモミキサー[プライミクス(株)製]を用いて180℃40分間分散処理することで本発明のポリエーテルスルホン水性分散体を得た。
【0075】
<比較例1>
ポリエーテルスルホン[5003P 三井化学(株)製]15部をN−メチル−2−ピロリドン150部に溶解させた後、得られた溶液を1重量%オクチルフェノキシポリエトキシエタノール水溶液150部に攪拌しながら添加し、比較用のポリエーテルスルホン水性分散体を得た。
【0076】
実施例1及び比較例1で得られたポリエーテル系樹脂の酸価を以下の方法で測定した結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1で得られた水性分散体におけるポリエーテル系樹脂の固形分濃度、体積平均粒子径、造膜性、ポリエーテル系樹脂皮膜の耐水性を以下の方法で測定又は評価した結果を表1に示す。
【0077】
<樹脂の酸価>
本発明におけるポリエーテル系樹脂の酸価(mgKOH/g)の測定法は以下の通りである。
(1)ポリエーテル系樹脂をN,N−ジメチルホルムアミドで約5%に希釈し、N/10KOH水溶液で電位差滴定する。
(2)次式を用いて酸価を決定する。
酸価(mgKOH/g)=(A×f×5.61)/S
但し、Aは0.1mol/L水酸化カリウム滴定用溶液のmL数、fは0.1mol/L水酸化カリウム滴定用溶液の力価、Sは試料採取量(g)である。
【0078】
<固形分濃度>
ポリエーテル系樹脂水性分散体約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算することにより得ることができる。
【0079】
<体積平均粒子径>
ポリエーテル系樹脂水性分散体を、イオン交換水でポリエーテル系樹脂の固形分が0.01%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000(大塚電子(株)製)]を用いて測定する。
【0080】
<造膜性>
ポリエーテル系樹脂水性分散体を10cm×20cm×1cmのポリプロピレン製モールドに乾燥後の膜厚が0.2±0.1mmになる量を流し込み、常温で48時間乾燥後に造膜しているかどうかを目視評価する。均一に造膜している場合は○、皮膜に割れが生じている等均一に造膜していない場合は×とする。
【0081】
<皮膜の耐水性>
ポリエーテル系樹脂水性分散体を10cm×20cm×1cmのポリプロピレン製モールドに乾燥後の膜厚が0.2±0.1mmになる量を流し込み、常温で48時間乾燥して得られた皮膜を、イオン交換水に24時間浸漬した後、取り出した皮膜の状態を目視評価する。全く変化しない場合は○、白化が見られる場合は×とする。
【0082】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のポリエーテル系樹脂水性分散体は、半導体、電子部品用のストレスバッファーコーティング剤、層間絶縁コーティング剤として特に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール(A)、ポリフェニレンエーテル(B)、ポリフェニレンスルフィド(C)、ポリエーテルスルホン(D)及びポリエーテルエーテルケトン(E)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂でありカルボキシル基及び/又はスルホ基を有するポリエーテル系樹脂(F)並びに水を含有してなり、界面活性剤を含まないことを特徴とするポリエーテル系樹脂水性分散体。
【請求項2】
前記ポリエーテル系樹脂(F)の酸価が5〜300である請求項1記載のポリエーテル系樹脂水性分散体。
【請求項3】
前記カルボキシル基及び/又はスルホ基の少なくとも一部が、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤で中和されてなる請求項1又は2記載のポリエーテル系樹脂水性分散体。
【請求項4】
有機溶剤の含有量が1000ppm以下である請求項1〜3のいずれか記載のポリエーテル系樹脂水性分散体。
【請求項5】
前記ポリエーテル系樹脂(F)の体積平均粒子径が0.01〜5μmである請求項1〜4のいずれか記載のポリエーテル系樹脂水性分散体。

【公開番号】特開2012−153769(P2012−153769A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12545(P2011−12545)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】