説明

ポリエーテル類の製造方法

【課題】スルホラン単独あるいはスルホランと他の水溶性重合溶剤を用いる製造方法では、昇温速度については特に詳細な開示はない。また昇温速度等の温度条件や反応スケールによっては、安定的に所望の重合度を与えることができないケースが散見されている。これらの反応挙動は安定的に同一品質のポリエーテル類を製造するにあたり、実用上大きな問題であった。
【解決手段】スルホラン単独またはスルホランと他の水溶性溶剤を混合し重合溶剤として用い、使用する全てのモノマー類が0.4mol以上でありかつ180℃〜最終保持温度までの反応溶液の昇温速度を0.5℃/min以上、5.0℃/min以下にコントロールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテル類を製造するにあたり、スルホラン単独またはスルホランと他の水溶性溶剤とを併用する製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテル類の中でポリエーテルエーテルケトンは、非常に高い耐熱性を有する熱可塑性樹脂であり、さらに耐薬品性や難燃性に優れ、高度の機械的強度や寸法安定性を備えたスーパーエンジニアリングプラスチックの1種である。当該重合体は、これらの優れた特性のために、自動車部品用途として使用されており、特にエンジン部品の性能向上と軽量化を図るために金属製のエンジン部品を代替する材料としての利用が知られている。さらには、電線の絶縁被覆や、電気・電子関連部品、鉛フリーはんだ素材や、電子回路基板、薬品、溶剤、腐食性ガス製造ラインの部品での利用も知られている。
【0003】
当該重合体の製造方法としては種々知られているが、工業的な製造法としては、ヒドロキノンと、両端にフッ素等のハロゲン基を有するベンゾフェノンとを、塩基の存在下に求核置換反応させて重合させる方法が最も一般的である。このような方法においては、性質の良好なポリエーテルエーテルケトンを得るために、ジフェニルスルホンを重合溶媒として使用することが広く知られている。この点については特許文献1〜4等を参照することができる。
【0004】
ジフェニルスルホンは重合溶媒としては優れたものであるが、常温では固体であり、非水性の溶媒であるため、上記の方法では一般にアセトン、エタノール、メタノールなどの低沸点水溶性溶媒でまずジフェニルスルホンを抽出したのち、生成したポリマーを精製する必要があり、重合後の処理工程が煩雑かつ時間がかかるものであった。
【0005】
上記問題を解決する手段として、特許文献5〜7に参照されるように、重合後の処理工程を簡素化するために水溶性溶剤を用いる方法が提案されている。具体的にはスルホラン、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン及び1,3−ジメチルイミダゾール−2−オンからなる一群の水溶性溶剤を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許4,176,222号明細書
【特許文献2】米国特許4,320,224号明細書
【特許文献3】米国特許4,711,945号明細書
【特許文献4】米国特許5,116,933号明細書
【特許文献5】中国特許出願公開第1817927号明細書
【特許文献6】日本再公表特許(A1) WO2003/050163号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記文献で開示されている水溶性重合溶剤を用いる製造方法では、昇温速度については特に詳細な開示はない。また昇温速度等の温度条件や反応スケールによっては、安定的に所望の重合度を与えることができないケースが散見されている。これらの反応挙動は安定的に同一品質のポリエーテル類を製造するにあたり、実用上大きな問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、スルホラン単独またはスルホランと他の水溶性溶剤を混合し重合溶剤として用い、使用する複数のモノマー類が0.4mol以上でありかつ180℃〜最終保持温度までの反応溶液の昇温速度を0.5℃/min以上、5.0℃/min以下にコントロールすることにより、所望の重合度を有するポリエーテル類が安定的に得られることを見出し、本発明の完成に至った。なお本発明のポリエーテル類の製造方法は、重合反応溶液を180℃から徐々に加熱した後、最終保持温度にて反応溶液の温度を保持するものである。また本発明では、使用する全てのモノマー類が0.4mol以上であることが好ましい。
【0009】
即ち本発明は、下記1)〜9)に関する。
【0010】
1)スルホラン単独またはスルホランと他の水溶性溶剤との混合溶剤中における重合反応において、使用する複数のモノマー類が0.4mol以上でありかつ180℃〜最終保持温度までの反応溶液の昇温速度が0.5℃/min以上、5.0℃/min以下であることを特徴とするポリエーテル類の製造方法。
【0011】
2)他の水溶性溶剤が、アミド系、エステル系、ケトン系、エーテル系、含硫黄系、カーボネート系溶剤の少なくとも一つから選ばれることを特徴とする請求項1に記載のポリエーテル類の製造方法。
【0012】
3)重合方法が、アルカリ金属塩を用いる脱塩重縮合反応であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエーテル類の製造方法。
【0013】
4)他の水溶性溶剤が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン及び1,3−ジメチルイミダゾール−2−オン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の溶剤である、請求項3に記載のポリエーテル類の製造方法。
【0014】
5)他の水溶性溶剤がN−メチル−2−ピロリドン及び/または1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンである請求項4に記載のポリエーテル類の製造方法。
【0015】
6)アルカリ金属塩が、Na2CO3,K2CO3,あるいはその混合物であることを特徴とする請求項1または6に記載のポリエーテル類の製造方法。
【0016】
7)最終保持温度が230℃〜270℃である請求項1に記載のポリエーテル類の製造方法。
【0017】
8)脱塩重縮合反応が、アルカリ金属塩の存在下で、芳香族二ハロゲン化物とヒドロキノン類とを重合させて、ポリエーテル類を与える反応である、請求項1〜7のいずれかに記載のポリエーテル類の製造方法。
【0018】
9)脱塩重縮合反応が、アルカリ金属炭酸塩の存在下で、下記式(1)で表される4,4'-ジハロベンゾフェノン類と、下記式(2)で表されるヒドロキノン類とを重合させてポリエーテルエーテルケトンを与える反応である、請求項8記載の製造方法。
X-Ar-C(=O)-Ar-X (1)
RO-Ar-OR (2)
式中、Arは、同一又は異なって、置換又は無置換のp-フェニレン基を表す。Xはハロゲン原子を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子、R'-基、R'-C(O)-基、R'OC(O)-基、R'3Si-基、又はR'2NC(O)-基を表す。ここでR'は、同一又は異なって、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基を表す。
【0019】
10)使用する全てのモノマー類が0.4mol以上である、請求項1に記載のポリエーテル類の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、ポリエーテル類を製造する際に溶剤としてスルホラン単独またはスルホランと他の水溶性溶剤を併用し、使用する複数のモノマー類を0.4mol以上としかつ180℃〜最終保持温度までの反応溶液の昇温速度を0.5℃/min以上、5.0℃/min以下にコントロールすることにより、十分な重合度まで安定的に到達可能なポリエーテル類の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明におけるスルホランとは、スルホラン誘導体を意味する。すなわち本発明におけるスルホランには、テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシドだけではなく、その誘導体も含まれる。例えば、2.4−ジメチルスルホラン、3−メチルスルホラン、3.4−エポキシテトラヒドロチオフェン、3,4−ジクロロスルホラン、3,4−ジブロモスルホランなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0022】
本発明においてはスルホランを単独で使用してもよいがスルホランと他の水溶性溶剤を併用してもよい。スルホランと併用する水溶性溶剤としては、水溶性溶剤であれば特に制約はなく単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合せて用いてもよい。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン及び1,3−ジメチルイミダゾール−2−オン等のアミド系溶剤、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン等の含イオウ系溶剤、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、グリセリン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール等のエーテル系溶剤、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などをあげることができるがこれに制約されるものではない。併用する量としては特に制限はないが、スルホラン100部に対して5部〜5000部の範囲で好適に用いることができる。10部〜1000部がさらに好ましく、15部〜200部が特に好ましい。
【0023】
本発明においてポリエーテル類を製造するための反応については特に制限はないが、脱塩重縮合反応を好適に用いることができる。具体的には塩基の存在下で、芳香族ジハロゲン化物とヒドロキノン類とを重合させて、ポリエーテル類を与える反応に対して本発明は好適に適用できる。ここでいうポリエーテル類としては、一般的なポリエーテルのほか、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエテルエーテルケトンケトン等が含まれる。例えば、以下に示した繰り返し単位を、単独又は組み合わせで含む重合体である。
−Ar-C(=O)−Ar-O-Ar -O−
−Ar-C(=O)−Ar -O-Ar-A-Ar-O−
−Ar-C(=O)−Ar−O−
−Ar-C(=O)−Ar -C(=O)−Ar-O-Ar -A-Ar -O−
−Ar-SO2-Ar-O -Ar-O−
一Ar-SO2 -Ar-O-Ar -A-Ar-O−
式中、Arは、同一又は異なって、置換又は無置換のp一フェニレン基を表す。フェニン基上の置換基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。一単位中に含まれるArはすべて同一であってもよいし、異なるものであってもよいが、すべてのArが無置換のp一フェニレン基を表すことが好ましい。
【0024】
Aは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、一SO2一、一CO一、又は2価の炭化水素基を表す。
【0025】
以下ではポリエ-テルエーテルケトンを製造する場合について具体的に説明する。すなわちスルホラン単独またはスルホランと他の水溶性溶剤とを併用した溶剤と塩基の存在下、100℃以上300℃未満の温度で、下記式(1)で表される4,4'-ジハロベンゾフェノン類と、下記式(2)で表されるヒドロキノン類とを重合させてポリエーテルエーテルケトンを製造する。
X-Ar−C(C=O)−Ar-X (1)
RO-Ar-OR (2)
式中、Arは、同一又は異なって、置換又は無置換p-フェニレン基を表す。Xは八ロゲン原子を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子.R'-基、R'(C=O)-基、R'3Si-基、又はR'2NC(O)-基を表す。ここでR'は、同一又は異なって炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基を表す。
【0026】
式(1)で表される4,4'-ジハロベンゾフェノン類としては、例えば、4,4'-ジフルオロベンゾフェノン、4,4'-ジクロロベンゾフェノン等が挙げられるが、Arが無置換のp-フェニレン基、Xがフッ素原子である4 ,4'-ジフルオロベンゾフェノンが好ましい。式(2)で表されるヒドロキノン類としては、Arが無置換のp-フェニレン基、Rが水素原子であるp一ヒドロキノンが好ましい。
【0027】
また、式(1)で表される4,4'-ジハロベンゾフェノン類とともに、下記式(3)で表される4,4'-ジハロジフェニルスルホン類や、下記式(4)で表されるビス-1,4-(4-ハロベンゾイル)ベンゼンを共重合させることもできる。式(2)で表されるヒドロキノン類とともに、下記式(5)で表されるビスフェノール類を共重合させることもできる。
X-Ar-SO2-Ar-X (3)
X-Ar-C(=O)-Ar-C(=0)-Ar-X (4)
RO-Ar-A-Ar-OR (5)
式中、Ar、X、及びRは上述のとおりである。Aは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO2-、-CO-、又は2価の炭化水素原子を表す。
【0028】
以上の重合反応は、塩基による求核置換反応に基づいた重縮合によって達成されるものである。前記塩基の具体例としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、アルキル化リチウム、リチウムアルミニウムハライド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムハイドライド、ナトリウムアルコキサイド、カリウムアルコキサイド、フォスファゼン塩基、Verkade塩基等が挙げられる。これらのうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
塩基は、通常、モル基準でヒドロキノン類(2)よりも多く使用されるが、その過剰量はヒドロキノン類(2)に対して100モル%以下の範囲で多いことが好ましく、80モル%以下の範囲がより好ましく、1〜50%の範囲が特に好ましい。
【0030】
本反応は系を加熱することによって進行する。具体的な反応温度(最終保持温度を意味する)としては、通常300℃未満、好ましくは200℃〜280℃の範囲、より好ましくは230〜270℃、さらに好ましくは240〜260℃の範囲である。本発明のポリエーテル類の製造方法は、反応溶液を徐々に加熱した後、最終保持温度にて反応溶液の温度を保持するものである。なお、最終保持温度に保持する際には、設定温度の上下10℃程度なら、ばらついてもかまわない。
【0031】
また、系中に予め存在している水や重縮合反応によって生成してくる水を共沸によって効率よく除去するために、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の共沸溶媒を反応系に補充してもかまわない。
【0032】
最終保持温度での反応液の保持時間は特に限定されず、所望の粘度又は分子量を考慮して適宜設定すればよいが、通常、24時間以下であり、好ましくは12時間以下であり、より好ましくは10時間以下、特に好ましくは6時間以下である。本発明では、180℃までの昇温速度には特に制限はない。目的のポリエーテル類の重合度を得るためには180℃〜最終保持温度までの昇温速度が0.5℃/min以上であることが好ましく、0.7℃/min以上であることがより好ましい。昇温速度が0.5℃/minより遅い場合は反応時間に関わらず重合度が上がり難くなる。これは180℃以上の高温領域では、速やかに反応系を昇温しないと、重合反応に関与する活性種が何らかの副反応により不活性化され、所定の重合反応を高選択的に進行させることができなくなるためと推定される。特に重合反応がアルカリ金属塩を用いる脱塩重縮合反応の場合に多く見られる。また、昇温速度は5.0℃/min以下である。昇温速度が5.0℃/minより大きい場合、環状化合物等を生成するなどの副反応が進行する場合がある。なお本発明の昇温速度は、180℃から最終保持温度までの昇温速度の平均値を意味するものである。180℃から最終保持温度まで昇温させる際には、1分間あたりの昇温幅の変動のばらつきが、平均昇温速度と比べてプラスマイナス50%以内であることが望ましい。
【0033】
反応のスケールは、生成する活性種が反応系に反応系に混入する微量の水分や酸素の影響を受ける可能性があるため、製造されるポリエーテル類の品質を安定的に保持するためには、使用する複数のモノマー類を0.4mol以上用いることが必要である。好ましくは0.5mol以上、より好ましくは0.8mol以上、さらに好ましくは1mol以上、特に好ましくは2mol以上である。この反応挙動は特に重合反応がアルカリ金属塩を用いる脱塩重縮合反応の場合に多く見られる。
【0034】
反応溶液の濃度については特に制限はないが、生成した活性種がモノマーあるいは生成したポリマー末端と高選択的に反応させる、好ましくない副反応を抑制する、分子内環化反応による環状オリゴマーの生成を抑制するという観点から、仕込みモノマーの全体仕込み量に対する割合(以下、溶液濃度という)は10wt%以上であることが好ましい。一方所望の重合度のポリエーテル類を得るためには、重合終了まで生成するポリエーテル類の溶解性を保持する必要があるため、反応溶液の濃度は30wt%以下であることが好ましい。したがい好ましい溶液濃度の範囲は10〜30wt%、さらに好ましい範囲は12〜28wt%、特に好ましい範囲は14〜26wt%である。これは特に重合反応がアルカリ金属塩を用いる脱塩重縮合反応の場合に当てはまる。
【0035】
本発明で使用するスルホランまたはスルホランと他の水溶性溶剤との混合溶剤は水溶性なので、反応後の反応混合物に水を含む溶剤を混合することによって、生成物の重合体から重合溶剤及び生成した塩を容易に分離することができる。さらに、水を含む溶剤での洗浄を繰り返すことによって、塩基に起因する副生物たるアルカリ金属塩(例えばフッ化ナトリウムや、フッ化カリウム)を除去することができるので、生成物たるポリエーテルエーテルケトンを簡単に精製することができる。すなわち本発明で使用するスルホランと他の水溶性溶剤との混合溶剤を使用すると、重合溶剤の分離及び重合体の精製を、水を含む溶剤を用いて実施することができる。例えば水だけではなく、メタノールや、エタノール等の水溶性溶剤等を含む水を含むものであってもよい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各種測定は以下の記載に沿って行った。
【0037】
(1)溶液粘度
ISO1628−1:1998の5.1、又はISO3105:1994の表B4に記載のサイズ番号1C(毛細管直径0.77mm)のウベローデ形粘度計を用いて、25℃で0.1g/dLの95%濃硫酸溶液、及び95%の濃硫酸について流出時間を測定し、得られた値を以下の式に代入して求めた。
溶液粘度ηi=ln(t/t0)/c
t:95%濃硫酸溶液の流出時間(秒)
t0:95%濃硫酸の流出時間(秒)
c:溶液濃度、すなわち0.1g/dL
【0038】
(2)ホットプレート安定性
予めアルミホイールで覆ったホットプレート(HP)を400℃±40℃にセットした。HPの場所により温度分布があった。空気下で乾燥後のポリマー約10〜20mgをHPに載せて、その溶融性・流動性・色変を観察した。20分後に十分な流動性を保持し、且つ顕著な色変が認められない場合は○、流動性がHPにサンプルを載せたときより明らかに低下しているがまだ流動性があり、且つポリマーがやや茶色に色変した場合には△、流動性を失い、且つポリマーが黒茶色に色変した場合には×と判定した。
【0039】
(3)メルトフローレート(MFR)
乾燥直後あるいは改めて140℃/2時間乾燥した粉末状のポリマーを用い、JIS K7210に準拠して、測定荷重:2.16kg、予熱:5min、測定温度:400℃にて測定を実施した。測定装置は、メルトインデクサー(東洋精機製)を用いた。
【0040】
(4)1H−NMRによるポリマー末端のOH基の確認
測定試料のコントロールは以下のように行った。すなわちポリマー試料約20mgにメタンスルホン酸0.6mLを加えて室温で1時間攪拌した後、重塩化メチレン0.2mLを加えて更に1時間攪拌することで試料を溶解した。その後、5mmφのNMR測定管に試料溶液を移した。1H−NMRスペクトルは、ブルッカー社製 Avance III 400 (400MHz) NMRスペクトロメーターを用いて測定した。ポリマー末端のOH基が結合したベンゼン環に帰属されるシグナルが7.02−7.12ppm(シグナルA)に、またポリマー末端のフッ素原子が結合したベンゼン環に帰属されるシグナルが7.2ppm(シグナルB)及び7.48ppm(シグナルC)に観測されることから、各々のシグナルを確認することにより残存OH基の有無を判断した。
【0041】
(実施例1)
電気ジャケット及び電磁攪拌翼が装備された7LハステロイC22製反応容器を用い、熱電対、窒素導入管、3方コック付きジムロート冷却管、ディーンスターク管を取り付けた。スルホラン(2754g)、1,3−ジメチルー2−イミダゾリジノン(936g)を投入した後に窒素フローを行い30分窒素置換した。以降の操作は反応系を窒素雰囲気下に保持して実施した。ハイドロキノン(308.73g:2.8mol)、4,4‘−ジフルオロベンゾフェノン(617.07g:2.828mol)を混合して投入し、1,3−ジメチルー2−イミダゾリジノン(450g)を追加し、昇温速度を1.00℃/minにコントロールして加熱を開始した。内温が100℃に到達した時点で炭酸ナトリウム(341.29g:3.22mol)、1,3−ジメチルー2−イミダゾリジノン(450g)を投入し加熱を継続した。反応副生成物の水が内温180℃付近よりディーンスターク管へ流出し始めるので、該温度を反応開始温度とみなし最終温度250℃までの時間を計測したところ67min(昇温速度1.04℃/minに該当)であった。内温が250℃に達したので、この時点を重合開始点とした。その後内温は250〜262℃の範囲で推移し、重合開始1h後に、窒素フロー下でテフロンチューブ/簡易注射器を用いて反応混合物約10gをサンプリングした。(テフロンは登録商標である。)固化したサンプリング物は脆いストランドであった。50mLサンプル管に入れて純水を加えて攪拌すると上澄液は黄色から赤っぽい色に着色した。2h後サンプリング物はやや脆かったが、洗浄時の上澄液は薄い黄色であった。3h後サンプリング物はゴム状で曲げても折れなかった。洗浄時の上澄液はほぼ透明であったため、重合度は十分に上昇したとみなし、4h後にはサンプリングを行わずに加熱を停止し反応容器より排出し室温に放冷し固化させた。放冷後固化した反応混合物をウルトラセントリミル粉砕機(型式 UCM150:日本コークス製)で微粉砕し、これにスルホラン7380gを加え、10Lのセパラブルフラスコに移し、マントルヒーターを使用し100℃で60分加熱攪拌した後、吸引ろ過した。2回目以降は、スルホラン4300gを用いる以外は、上記と同じ加熱攪拌・ろ過・洗浄をさらに2回繰返した。次にスルホランに代わり純水を使用し、同様の手法により洗浄を行った。洗浄後の固形物を、バットに広げ、熱風乾燥機にて120℃で一夜間乾燥し、粉末状の白色固体を得た。
【0042】
得られた重合体の溶液粘度は1.04dL/gであった。ホットプレート試験による空気下での熱安定性も10分放置後でも流動性を保持しており良好であった。1H−NMRによる末端定量ではOH末端は検出されなかった。
【0043】
(実施例2)
昇温速度を0.9℃/min(計測値:0.89℃/min)に設定した以外は実施例1と同様の操作および測定を実施した。
【0044】
(比較例1)
昇温速度を0.4℃/min(計測値:0.43℃/min)に設定した以外は実施例1と同様の操作および測定を実施した。
【0045】
(実施例3)
円筒型ハステロイC22製のフラスコ、ガラス製セパラブルフラスコ用フタ、ハステロイ製攪拌棒に2枚のピッチドパドル翼を取り付けた攪拌ユニット、ディーンシュターク水分離器、ジムロート冷却管、窒素導入用3方コックをからなる反応装置を準備した。原料の仕込み及び反応操作は全て窒素雰囲気下で実施した。
【0046】
反応装置にスルホラン615g及びNMP(N−メチル−2−ピロリドン)205gを投入し30分間窒素置換した。さらにハイドロキノン55.06g(0.5mol)及び4,4‘−ジフルオロベンゾフェノン110.74g(0.5075mol)を投入した。加熱攪拌を開始し、仕込んだモノマーが完全に溶解したのを確認した後、内温が71℃になった時点で炭酸ナトリウム66.24g(0.625mol)を投入した。昇温を継続し、加熱開始から108分で内温が180℃に到達した。さらに122分で245℃に到達した(180℃→245℃までの昇温速度は0.53℃/min)。245℃〜256℃の間でさらに3時間保持した後、加熱攪拌を停止した。
【0047】
固化した反応混合物を取り出し、そのうち約200gを粉砕機で粉砕した後、2Lガラス製セパラブルフラスコに移し500mLの純水で80℃/1時間加熱攪拌し、吸引濾過した。純水400mLを用いた以外は同様の洗浄・濾過操作をさらに3回繰返した。洗浄後の固形物を、アルミホイールを敷いたバットに広げ、熱風乾燥機にて120℃で一夜間乾燥し、粉末状の白色固体を得た。
【0048】
得られた重合体の溶液粘度は0.90dL/gであった。またMFR(メルトフローレート)は5.0g/10分であった。ホットプレート試験による空気下での熱安定性も10分放置後でも流動性を保持しており良好であった。
【0049】
(比較例2)
テフロン製三日月ペラ付ガラス攪拌棒、ディーンシュターク水分離器、ジムロート冷却管、窒素導入用3方コックを取り付けた円筒型ガラス製1Lセパラブルフラスコを準備した。(テフロンは登録商標である。)原料の仕込み及び反応操作は全て窒素雰囲気下で実施した。
【0050】
反応装置にスルホラン123g及びNMP(N−メチル−2−ピロリドン)41gを投入し30分間窒素置換した。さらにハイドロキノン11.01g(0.1mol)及び4,4‘−ジフルオロベンゾフェノン22.15g(0.1015mol)を投入した。加熱攪拌を開始し、仕込んだモノマーが完全に溶解したのを確認した後、内温が83℃になった時点で炭酸ナトリウム13.25g(0.125mol)を投入した。昇温を継続し、加熱開始から45分で内温が180℃に到達した。さらに20分で245℃に到達した(180℃→245℃までの昇温速度は3.25℃/min)。245℃〜251℃の間でさらに3時間保持した後、加熱攪拌を停止した。
【0051】
固化した反応混合物を粉砕機で粉砕した後、2Lガラス製セパラブルフラスコに移し500mLの純水で80℃/1時間加熱攪拌し、吸引濾過した。純水400mLを用いた以外は同様の洗浄・濾過操作をさらに3回繰返した。洗浄後の固形物を、アルミホイールを敷いたバットに広げ、熱風乾燥機にて120℃で一夜間乾燥し、粉末状の白色固体を得た。得られた重合体の溶液粘度は0.48dL/gであった。
【0052】
(実施例4)
電気ジャケット及び電磁攪拌翼が装備された7LハステロイC22製反応容器を用い、熱電対、窒素導入管、3方コック付きジムロート冷却管、ディーンスターク管を取り付けた反応装置を準備した。以下の操作は全て窒素雰囲気下で実施した。反応装置にスルホラン748g、酸トラップ剤としてNMP33g(N−メチル−2−ピロリドン)とDMDA(ジメチルドデシルアミン)1.3gを投入した後、ハイドロキノン88.1g(0.8mol)及び4,4‘−ジフルオロベンゾフェノン177.2g(0.812mol)を投入し、スルホラン310gで洗い込んだ。加熱攪拌を開始し、内温が80℃になった時点で炭酸ナトリウム48.8g(0.46mol)、炭酸カリウム63.6g(0.46mol)を投入し、スルホラン263gで洗い込んだ。昇温を継続し、加熱開始から67分で内温が180℃に到達した。さらに68分で260℃に到達した(180℃→260℃までの昇温速度は1.18℃/min)。261℃〜266℃の間でさらに5時間保持した後、加熱攪拌を停止し反応混合物を排出した。
【0053】
放冷後固化した反応混合物約200gを粉砕機で粉砕し、実施例3に記載の通り純水で洗浄、乾燥し粉末状の重合体を得た。得られた重合体の溶液粘度は0.79dL/g、MFRは27g/10minであった。
【0054】
(比較例3)
円筒型ハステロイC22製のフラスコ、このフラスコに適合し付帯器具が取り付け可能なハステロイC22製フタ、ハステロイ製攪拌棒に2枚のピッチドパドル翼を取り付けた攪拌ユニット、ディーンシュターク水分離器、ジムロート冷却管、窒素導入用3方コックをからなる反応装置を準備した。原料の仕込み及び反応操作は全て窒素雰囲気下で実施した。
【0055】
反応装置にスルホラン492gを投入し、さらにハイドロキノン33.03g(0.3mol)及び4,4‘−ジフルオロベンゾフェノン66.44g(0.3045mol)を投入した。加熱攪拌を開始し、内温が83℃になった時点で炭酸ナトリウム16.06g(0.152mol)及び炭酸カリウム20.94g(0.152mol)を投入した。昇温を継続し、加熱開始から50分で内温が180℃に到達した。さらに64分で260℃に到達した(180℃→260℃までの昇温速度は1.25℃/min)。その後260℃〜265℃の間でさらに4時間保持した。ただし260℃到達時点から約30分後から約40分間は265℃〜278℃で推移した。
【0056】
260℃到達から4時間後に加熱攪拌を停止した。1夜間放冷固化した反応混合物のうち約200gを取り出し、実施例3に記載の通り、粉砕、純水による洗浄、乾燥を経て灰白色の固体を得た。得られた重合体の溶液粘度は0.47dL/gであった。ホットプレート試験では、重合度が低いのにも係らず、ほとんど溶融が見られず次第に黒色化した。重合反応以外の副反応が起きていることが示唆された。
【0057】
上記の実施例、比較例について、以下の表にまとめた。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の補足説明
1)反応スケール:使用したヒドロキノンのmol数を示す。
2)モル比(F/OH):4.4'−ジフルオロベンゾフェノンとヒドロキノンのモル比。
3)溶媒種組成:使用した溶剤及びそれらの重量比。
4)アルカリ種 モル比対HQ:使用した炭酸塩及び HQ(ヒドロキノン)モル数に対する炭酸塩のモル比。
5)最終到達温度からの反応時間(h):最終温度(245〜265℃:幅あり)に到達してから反応を停止させるまでの時間
6)昇温速度(℃/min):180℃から最終到達温度(245〜265℃:幅あり)までに要した時間により算出した平均速度
7)粘度dL/g(時間):硫酸溶液粘度。上記測定方法(1)の通り。時間は最終温度に到達してからの時間。
8)ホットプレート安定性(空気下):上記測定方法(2)の通り。
9)メルトフローレート(MFR):上記測定方法(3)の通り。
10)残OH基の有無(1H−NMR):上記測定方法(4)の通り。
【0060】
表1から明らかなように、本発明に基づく実施例1〜4では、スルホラン単独またはスルホランと他の水溶性溶剤との混合溶剤中における重合反応において、使用する全てのモノマー類が0.4mol以上でありかつ180℃〜最終到達温度までの昇温速度を0.5℃/min以上、5.0℃/min以下にコントロールすることにより、重合度を十分にあげることができることが分かった。重合度が十分大きければ、良好な物性発現が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホラン単独またはスルホランと他の水溶性溶剤との混合溶剤中における重合反応において、使用する複数のモノマー類が0.4mol以上でありかつ180℃〜最終保持温度までの反応溶液の昇温速度が0.5℃/min以上、5.0℃/min以下であることを特徴とするポリエーテル類の製造方法。
【請求項2】
他の水溶性溶剤が、アミド系、エステル系、ケトン系、エーテル系、含硫黄系、カーボネート系溶剤の少なくとも一つから選ばれることを特徴とする請求項1に記載のポリエーテル類の製造方法。
【請求項3】
重合方法が、アルカリ金属塩を用いる脱塩重縮合反応であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエーテル類の製造方法。
【請求項4】
他の水溶性溶剤が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン及び1,3−ジメチルイミダゾール−2−オン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の溶剤である、請求項3に記載のポリエーテル類の製造方法。
【請求項5】
他の水溶性溶剤がN−メチル−2−ピロリドン及び/または1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンである請求項4に記載のポリエーテル類の製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属塩が、Na2CO3、K2CO3、あるいはその混合物であることを特徴とする請求項1または5に記載のポリエーテル類の製造方法。
【請求項7】
最終保持温度が230℃〜270℃である請求項1に記載のポリエーテル類の製造方法。
【請求項8】
脱塩重縮合反応が、アルカリ金属塩の存在下で、芳香族二ハロゲン化物とヒドロキノン類とを重合させて、ポリエーテル類を与える反応である、請求項1〜7のいずれかに記載のポリエーテル類の製造方法。
【請求項9】
脱塩重縮合反応が、アルカリ金属炭酸塩の存在下で、下記式(1)で表される4,4'-ジハロベンゾフェノン類と、下記式(2)で表されるヒドロキノン類とを重合させてポリエーテルエーテルケトンを与える反応である、請求項8記載の製造方法。
X-Ar-C(=O)-Ar-X (1)
RO-Ar-OR (2)
式中、Arは、同一又は異なって、置換又は無置換のp-フェニレン基を表す。Xはハロゲン原子を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子、R'-基、R'-C(O)-基、R'OC(O)-基、R'3Si-基、又はR'2NC(O)-基を表す。ここでR'は、同一又は異なって、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基を表す。
【請求項10】
使用する全てのモノマー類が0.4mol以上である、請求項1に記載のポリエーテル類の製造方法。