説明

ポリオキシアルキレン修飾脂質およびその製造方法

【課題】生理活性物質の化学修飾やリポソームなどドラッグデリバリーシステムに使用可能なチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記の式(1)


(式中、RとRは同一または異なる炭素数4〜24の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で5〜1000であり、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基である。)
で表されるポリオキシアルキレン修飾脂質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質の化学修飾やリポソームなどドラッグデリバリーシステムに使用可能なチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラッグデリバリーシステムの分野では、これまで抗癌剤等の薬剤を内包したリポソーム製剤の研究が広く行われている。このような研究の中で、リポソーム製剤の血中滞留性を向上する目的で、リポソーム表面へ水溶性高分子を修飾するアプローチが盛んに取られてきた。水溶性高分子、例えばポリエチレングリコールが修飾された表面は周囲に水和層を形成しているため、そのリポソーム製剤は血液中で細網内皮系組織(Reticuloendothelial System:RES)に取り込まれにくく、血中滞留性が向上する。また、一般的に癌組織
周辺の血管は透過性が高い状態にあるため、リポソームのような粒子においても血中での滞留時間が長ければ長いほど、癌組織へ取り込まれる機会が多くなり、製剤の集積効率を向上させることができる。
【0003】
リポソームへ修飾されるポリエチレングリコール誘導体としては、疎水性化合物と結合させたポリエチレングリコール修飾脂質(PEG脂質)が広く利用されており、その例として、ジアシルホスファチジルエタノールアミン等のポリエチレングリコール修飾リン脂質(PEGリン脂質)があげられる。しかしながら、近年ではリン脂質の電荷が細胞膜と反発するため細胞への取り込み量を稼ぐことができない、また薬剤の電荷によってはリポソームに効率良く内包できない等の欠点も指摘されており、リポソーム製剤によっては電荷が無いジアシルグリセロール型のPEG脂質がより使用に適した材料であると考えられるようになっている。
【0004】
一方で、抗体、ペプチド、糖鎖、リガンドなど標的部位を認識する分子をPEG末端へ導入し、製剤の送達効率を積極的に高める工夫もなされている。このような分子をPEG末端へ導入するには、あらかじめPEG末端を反応性の活性基へと改変しておく必要がある。その活性基には、抗体、ペプチド、糖鎖、リガンドなどの反応性部位(例えば、リジン側鎖のアミノ基、システイン側鎖のチオール基)との反応に適した官能基が選ばれるが、リジン側鎖等のアミノ基へPEGを結合させたときに、しばしば活性点の不活性化など望ましくない状況に陥る場合がある。一般に、タンパク質などの生体関連分子に含まれるアミノ酸としてはリジンよりもシステインが少ないため、チオール基にPEGを結合させた方が活性点の不活性化が生じづらくなるといった利点がある。このような背景から、これまで汎用されているリン脂質については、チオール反応性PEGリン脂質が開発されてきたものの、近年注目され始めたジアシルグリセロール型のチオール反応性PEG脂質の開発実績は少ない。
【0005】
チオール反応性PEG脂質の例は示されていないが、チオール反応性PEG脂質の合成に応用可能な合成例の1つとして、ジアシルグリセロール型の活性化PEG脂質について記述した特許文献1があげられる。記載される製造方法では、ベンジルエーテル基で保護したPEG脂質を還元条件下で脱保護して水酸基とし、その水酸基をp−ニトロフェニルカーボネートへと変換して活性化PEG脂質を得ている。しかしながら、PEG脂質が還元条件下に晒されるため、脂質の連結基であるエステル基が分解しやすく、モノアシル脂質の副生が起きる場合がある。例示されているベンジルエーテル基以外の一般的な保護基の脱保護においても、酸化条件や酸、アルカリ条件など比較的厳しい条件が必要となるため、モノアシル脂質の副生が避けられない。
【0006】
また、脱保護を行わない製造方法として特許文献2があげられる。記載される製造方法では、マレイミド基に活性化したポリエチレングリコール鎖をD−グルカミンのアミノ基と反応させた後、D−グルカミンの水酸基に脂質鎖を導入している。しかし、この方法では立体障害などの要因ですべての水酸基に脂質鎖が導入されず、モノアシル脂質の副生が起きてしまうが、この問題については言及されていない。
【0007】
副生するモノアシル脂質は一般にはリゾ脂質と言われ、このリゾ脂質はリポソームを不安定化させるだけでなく、生体毒性が強く、生理活性を示すと報告されている。ドラッグデリバリーシステムとして利用される際、この問題は重視され、リゾ脂質含量が少ない、高純度のチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP1198490
【特許文献2】JP2010235450
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、モノアシル脂質含量の少ない、高純度のチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、モノアシル脂質含量が少ない、高純度のチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質、およびその製造方法を見い出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、ドラッグデリバリーシステムへの応用に際して好ましくないモノアシル脂質が副生する脱保護工程を、ポリオキシアルキレン鎖と脂質のカップリング反応工程の前に行うことを特徴とし、その工程中においてポリオキシアルキレン鎖に結合するアミノ基の保護基、脂質誘導体の活性基、脱保護で用いる酸を適切に選択した上で、特定の構造を持つチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質を製造した場合、その活性基の純度を大きく落とすことなく、モノアシル脂質含量が少ない、高純度のチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質が得られることを見出した。
即ち、本発明は、
(1) 下記の式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、RとRは同一または異なる炭素数4〜24の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で5〜1000であり、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基である。)
で表されるポリオキシアルキレン修飾脂質。
【0014】
(2) 工程(I)の反応を行った後に、工程(II)の反応を行うことを特徴とする、下記の式(1)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、RとRは同一または異なる炭素数4〜24の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で5〜1000であり、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基である。)
で表されるポリオキシアルキレン修飾脂質の製造方法:
工程(I):下記の式(2)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で5〜1000であり、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基であり、Pは酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基である。)
で表される化合物のPをスルホン酸で脱保護し、下記の式(3)
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で5〜1000であり、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基であり、Xはアミノ基とスルホン酸のイオン対である。)
で表される化合物を得る工程;
工程(II):式(4)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、RとRは同一または異なる炭素数4〜24の炭化水素基であり、Yは活性化カーボネート基である。)
で表される化合物を含む溶液に、上記の式(3)で表される化合物を含む溶液を滴下して反応させ、上記の式(1)で表される化合物を得る工程。
【0023】
(3) Zがマレイミドを含んで成る基である、(2)に記載のポリオキシアルキレン修飾脂質の製造方法。
【0024】
(4) 酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基Pがt−ブチルカーバメート基である、(2)に記載のポリオキシアルキレン修飾脂質の製造方法。
【0025】
(5) 酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基Pの脱保護に用いるスルホン酸がメタンスルホン酸である、(2)に記載のポリオキシアルキレン修飾脂質の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明で製造されるチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質はモノアシル脂質含量が少なく、リポソーム製剤の原料に使用される際、モノアシル脂質が混入したときの生体毒性やリポソームの自己崩壊などを抑えることができるため、ドラッグデリバリーシステムの分野において有用な機能材料の一つとなりえる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は薄層クロマトグラフィー上で各サンプルを分離、展開したTLC分析結果である。各サンプルをクロロホルム/メタノール=85/15にて展開後、ヨウ素発色にてスポットを確認した。サンプル1は実施例1の製造方法で得られた化合物(C) 100μg、サンプル2は比較例1の製造方法で得られた化合物(C) 100μg、サンプル3はモノアシル脂質 1μg、サンプル4はモノアシル脂質 2μg、サンプル5はモノアシル脂質 4μg、サンプル6はモノアシル脂質 8μg。
【図2】図2は実施例1で得られた化合物(B)のGPC分析結果である。
【図3】図3は比較例2で得られた化合物(F)のGPC分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、モノアシル脂質が副生する脱保護工程を、ポリオキシアルキレン誘導体と脂質誘導体のカップリング反応工程の前に行うことを特徴としているが、その製造に際して、モノアシル脂質含量が少ないチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質を活性基Zの純度を大きく落とすことなく得るためには、ポリオキシアルキレン誘導体に結合するアミノ基の保護基、脂質誘導体の活性基、脱保護で用いる酸を適切に選択する必要がある。
【0029】
脂質誘導体とポリオキシアルキレン誘導体の連結基には、モノアシル脂質の副生を抑えるために、化学結合の中でも穏やかな条件で容易に結合を形成することができる連結基、例えばウレタン結合を選択する必要がある。ウレタン結合で連結する場合、脂質誘導体、ポリオキシアルキレン誘導体のどちらか一方にアミノ基を配置する必要があるが、脂質誘導体の3位の炭素をアミノ化する場合、アミノ基の塩基性のために反応中や保存時にモノアシル脂質が副生するという恐れがある。そのため、ポリオキシアルキレン誘導体の末端をアミノ基にしておき、他方、脂質誘導体の水酸基を活性化して生じる基、例えば活性化カーボネート基にしておくことが望ましい。これらポリオキシアルキレン誘導体と脂質誘導体が形成する結合は、脂質化合物側にオキシカルボニル(−O−(C=O)−)を有し、ポリオキシアルキレン側に窒素原子(−NH−)を有する式(1)の化合物中のウレタン結合である。ポリオキシアルキレン誘導体の末端を活性基Zにする際には、副反応を起こす可能性があるため、前もってアミノ基を保護しておく必要がある。この保護されたアミノ基と活性基Zを有したポリオキシアルキレン誘導体が式(2)の化合物である。脱保護後には、アミノ基が活性基Zと副反応を起こさないように、酸とイオン対を形成させることでアミノ基の反応性を抑制しておく必要がある。この理由のために、アミノ基の保護には酸で脱保護可能な保護基を選択する必要がある。また、活性基Zは脱保護で使用する酸の種類によっても分解等が起き、純度が落ちる可能性がある。活性基Zの純度低下は、
ドラッグデリバリーシステムで使用する上で、患部を認識する分子を設計通りに導入することができなくなるため、製剤の送達効率を期待通りに高めることができず問題となる場合がある。したがって、本発明ではチオール反応性基として知られているマレイミド、ヨードアセトアミドを式(1)の化合物中の活性基Zとし、このZの純度が大きく低下しないような適切な酸、例えばメタンスルホン酸などのスルホン酸を選択する必要がある。
【0030】
以上のように、本発明は、ポリオキシアルキレン誘導体に結合するアミノ基の保護基、および脂質化合物の活性基を適切に選択した上で、式(2)の化合物の脱保護工程後に、式(3)の化合物と式(4)の化合物のカップリング反応工程を行うといった製造方法を考案することにより、モノアシル脂質含量が少ない、高純度のチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質の製造を可能としている。
【0031】
以下に、本発明の実施に際する説明を行っていく。
【0032】
【化6】

【0033】
本発明の式(1)で表されるチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質において、RおよびRは、同一または異なって、炭素数4〜24の炭化水素基である。「炭素数4〜24の炭化水素基」としては、例えば、炭素数4〜24の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、炭素数4〜24の直鎖状または分岐鎖状の1〜3個の二重結合を有するアルケニル基などが挙げられ、好ましくは炭素数11〜23の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基または炭素数11〜23の直鎖状または分岐鎖状の1〜3個の二重結合を有するアルケニル基である。
本発明の好ましい実施態様において、式(1)におけるRCOおよびRCOは、炭素数5〜25(好ましくは、炭素数12〜24)の脂肪酸由来のアシル基を示す。RCOおよびRCOの具体的なものとしては、例えば酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸などの飽和および不飽和の直鎖または分岐の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。RCOおよびRCOは互いに同じであっても異なっていてもよい。RおよびRの炭素数が24を超える場合、水相への分散が悪いため、リポソームを形成させる際に問題が生じる。また、RおよびRの炭素数が4より少ない場合、疎水性が低いため、リポソーム膜への相互作用が弱く、リポソームを形成させる際に問題が生じる。
【0034】
式(1)において、OAで示されるオキシアルキレン基は炭素数2〜4、好ましくは2または3のオキシアルキレン基であり、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシブチレン基などが挙げられる。一般に、アルキレン基の炭素数の少ない方がより親水性が高く、水への溶解性の観点からオキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましく、より好ましくはオキシエチレン基である。分子内にはnの数だけオキシアルキレン基が存在するが、このオキシアルキレン基は1種単独であってもよいし、2種以上が組み合わされていてもよく、その組み合わせ方に制限はない。またブロック状であってもランダム状であってもよい。
【0035】
式(1)において、nはオキシアルキレン基(OA)の平均付加モル数を表し、5〜1000、好ましくは10〜500の数である。nが5より小さいと、ポリオキシアルキレン鎖がもたらす血中滞留性の効果が小さい。またnが1000より大きいと、式(3)のポリオキシアルキレン誘導体と式(4)の脂質誘導体との反応性が低下するほか、式(1)の化合物の粘度が上昇して作業性が低下するため好ましくない。
【0036】
式(1)において、Rはポリオキシアルキレン誘導体と脂質誘導体を連結するリンカーの一部であり、炭素数1〜6の2価の炭化水素基である。Rの炭素数が6より大きいと結晶性が悪くなり、精製が難しくなる。当該炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキレン基、炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖のアルケニレン基、炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖のアルキニレン基などが挙げられる。具体的にはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ビニレン基、プロピレン基等が挙げられるが、好ましくはエチレン基、トリメチレン基である。
【0037】
式(1)において、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基であり、好ましくはマレイミドを含んで成る基である。具体的には、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかとポリオキシアルキレン誘導体とを連結するリンカーを有しており、下記式(5)で示される。
【0038】
【化7】

【0039】
(式中、jおよびkはそれぞれ独立して0〜6の整数であり、Lはアミド結合、ウレタン結合、エステル結合、エーテル結合または単結合のいずれかを表す。)
【0040】
本発明の式(1)で表されるチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質は、工程(I)の反応を行った後に、工程(II)の反応を行うことを特徴とした製造方法から得られる。
【0041】
以下に各工程の詳細な説明を行う。
工程(1)は、式(2)で表される化合物の酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基Pの保護基を酸を用いて脱保護し、式(3)で表される化合物を得る工程である。
【0042】
酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基Pは、酸で脱保護可能な保護されたアミノ基であれば特に制限されず、例えばPROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS(著者:Peter G.M. WUTS、THEODORA W. GREENE、出版元:John Wiley & Sons, Inc)等に記載の
公知の保護されたアミノ基を用いてもよい。具体的には、酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基Pとしては、メチルカーバメート基、エチルカーバメート基、tert−ブチルカーバメート基、トリメチルシリルエチルカーバメート基、アダマンチルカーバメート基、アセトアミド基、トリフルオロアセトアミド基、ベンズアミド基等が挙げられ、好ましくはtert−ブチルカーバメート基である。
【0043】
一般的に、酸の共存下でアミノ基は下記式(6)のような構造を形成する。
【0044】
【化8】

【0045】
式中、Aは一価の負電荷を有し、酸HAの共役塩基である。Aと−NHは、上記式(6)に示すzwitterイオンを形成し、アミノ基と酸のイオン対とはこのzwitterイオンを意味する。式(3)のXが示すアミノ基とスルホン酸のイオン対も同様のzwitterイオンの状態を指す。脱保護に使用するスルホン酸は、具体的にはメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等であり、好ましくはメタンスルホン酸である。ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸と比較して、メタンスルホン酸の酸性度は若干低いため、ポリオキシアルキレン鎖の分解が少ない。脱保護後、例えばメタンスルホン酸は下記式(6−1)に示すようにアミノ基とイオン対を形成する。
【0046】
【化9】

【0047】
また、PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS(著者:Peter G.M. WUTS、THEODORA W. GREENE、出版元:John Wiley & Sons, Inc)等で紹介されるその他の酸として、例え
ば塩酸、トリフルオロ酢酸等の酸があげられる。これらの酸を使用した場合、アミノ基と酸のイオン対が十分に形成されないためと予想されるが、アミノ基がZと副反応を起こし、ポリオキシアルキレン誘導体同士が反応した高分子量の不純物が生じてしまい問題となる。また、冷凍保存中にも高分子量の不純物が生じるため、工業的生産への展開が困難である。
【0048】
脱保護の反応温度は特に制限されないが、好ましくは10℃〜70℃であり、さらに好ましくは15℃〜55℃である。
【0049】
脱保護に使用するスルホン酸のモル数は、ポリオキシアルキレン誘導体のモル数の1倍〜100倍、好ましくは2倍〜40倍、さらに好ましくは4倍〜20倍である。スルホン酸のモル数が100倍より多いと、過剰のスルホン酸の除去が困難となり、作業のハンドリングが悪くなる。1倍より少ない場合は、アミノ基とのイオン対の形成に必要なスルホン酸の量に満たないため、高分子量の不純物が生じる可能性がある。
【0050】
工程(2)は、式(3)の化合物と式(4)の化合物を反応させて、式(1)の化合物を得る工程である。式(4)の化合物のYは、アミノ基と反応する活性化カーボネート基であれば特に制限されないが、好ましくは、p−ニトロフェニルカーボネート基、スクシンイミジルカーボネート基であり、反応性の観点から、より好ましくはスクシンイミジルカーボネート基である。
【0051】
式(3)の化合物と式(4)の化合物の反応温度は特に制限されないが、好ましくは10℃〜70℃であり、さらに好ましくは15℃〜55℃である。反応温度が10℃より低いとポリオキシアルキレン誘導体と脂質誘導体の反応が進まない恐れがある。反応温度が70℃より高いと熱履歴によりモノアシル脂質が副生してしまう恐れがある。
【0052】
式(3)の化合物と式(4)の化合物の混合方法としては、式(4)の化合物を含む溶
液に、式(3)の化合物を含む溶液を滴下していく。この際、式(4)の化合物の溶液に以下に示すような有機塩基を含むことが望ましい。有機塩基としては、アミノ基とスルホン酸のイオン対を解消できる三級アミン等の有機塩基であれば特に制限されないが、好ましくは、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジンであり、より好ましくはトリエチルアミンである。反応で使用する有機塩基のモル数は、ポリオキシアルキレン誘導体のモル数の1倍〜20倍、好ましくは2倍〜10倍、さらに好ましくは3倍〜5倍である。有機塩基のモル数が20倍より多いと、過剰の有機塩基の除去が困難となり、作業のハンドリングが悪くなる。1倍より少ない場合は、アミノ基とスルホン酸のイオン対を解消するのに必要な有機塩基の量に満たないため、未反応のポリオキシアルキレン誘導体が残存し問題である。
【0053】
式(3)の化合物を一括で添加した場合は、スルホン酸のイオン対が外れたポリオキシアルキレンアミンが反応系内に多数存在することになるため、アミノ基とZが副反応を起こしてしまい、ポリオキシアルキレン誘導体同士が反応した高分子量の不純物が生じやすい。
【0054】
以下に、式(1)の化合物であるチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質の製造方法について具体的な官能基をあげて説明するが、本工程はこれに限定されるものではない。
【0055】
工程(I):ポリエチレングリコールマレイミド化合物の脱保護工程
(式(2)、式(3)において、Pが酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基(tert−ブチルカーバメート基)、Xがアミノ基とメタンスルホン酸のイオン対、Zがマレイミドを含んで成る基、OAがオキシエチレン基を示す。)
【0056】
ポリエチレングリコール鎖の片方の末端がマレイミド基であり、もう片方の末端が化学的に保護されたアミノ基(tert−ブチルカーバメート基)である式(2)の化合物を反応溶剤のジクロロメタンに溶解する。反応溶剤は特に制限されないが、好ましくは、ポリエチレングリコール、メタンスルホン酸が溶解する有機溶媒である。次に、式(2)の化合物を溶解した溶液にメタンスルホン酸を添加して25℃で脱保護反応を行う。添加するメタンスルホン酸のモル数は少なくともポリオキシアルキレン誘導体のモル数以上であり、メタンスルホン酸とアミノ基のイオン対を形成させることが重要である。この工程により、ポリオキシアルキレン誘導体の片方の末端がマレイミド基であり、もう片方の末端がアミノ基とメタンスルホン酸とのイオン対である化合物(3)を得る。
【0057】
工程(II):ポリエチレングリコールマレイミド化合物と脂質誘導体のカップリング反応工程
(式(4)において、Yがスクシンイミジルカーボネート基、RCOおよびRCOがステアリン酸由来のアシル基を示す。)
【0058】
式(4)で表されるスクシンイミジルカーボネート基を導入した脂質誘導体を反応溶剤のトルエンに溶解する。反応溶剤は特に制限されないが、好ましくは、脂質誘導体、ポリエチレングリコール、有機塩基が溶解する有機溶媒である。次に、脂質誘導体を溶解した溶液に有機塩基としてトリエチルアミンを添加する。添加する有機塩基の種類は、アミノ基とメタンスルホン酸のイオン対を解消できるものであれば特に制限されない。添加する有機塩基のモル数は、少なくともイオン対を形成するメタンスルホン酸のモル数以上であり、メタンスルホン酸とアミノ基のイオン対を解消できる量を添加することが重要である。次に、工程(I)で得られた式(3)の化合物をトルエンに溶解し、このトルエン溶液
を脂質誘導体と有機塩基の混合溶液に滴下していき、25℃で反応させる。
【0059】
式(3)の化合物を含むトルエン溶液を一括で添加した場合は、メタンスルホン酸のイオン対が外れたポリオキシアルキレンアミン化合物が反応系内に多数存在することになるため、アミノ基とZが副反応を起こしてしまい、ポリオキシアルキレン誘導体同士が反応した高分子量の不純物が生じやすい。そのため、式(3)の化合物を含むトルエン溶液を滴下して投入することが重要となる。この工程により、マレイミド化ポリオキシアルキレン修飾脂質である式(1)の化合物を得る。
【0060】
この製造方法は、ポリオキシアルキレン誘導体に結合するアミノ基の保護基、脂質誘導体の活性基、脱保護で用いる酸を適切に選択した上で、ポリオキシアルキレン誘導体の脱保護工程後に脂質化合物とのカップリング反応工程を行っており、この製造方法により、モノアシル脂質含量が少ない、高純度のチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質の製造が可能となっている。本発明で製造されるチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質はモノアシル脂質が混入したときの生体毒性やリポソームの自己崩壊などを抑えることができるため、ドラッグデリバリーシステムの分野において有用な機能材料の一つとなりえる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中の化合物の分析、同定にはNMR、GPC、TLCを用いた。
H−NMRの分析方法>
H−NMRの分析では、日本電子データム(株)製JNM−ECP400およびJNM−ECA600を用いた。NMR測定値における積分値は理論値である。
<GPCの分析方法>
GPCシステムとしてはLC10AVPを用い、下記条件にて測定を行った。
展開溶媒:DMF
流速:0.7ml/min
カラム:PLgel MIXED−D 2本
カラム温度:40℃
検出器:RI(shodex製)
サンプル量:1mg/mL、100μL
GPC測定値には、高分子量不純物と低分子量不純物を溶出曲線の変曲点からベースラインに対して垂直に切って除いたメインピークでの解析値、および溶出開始点から溶出終了点までのピーク全体での解析値を併記した。
<TLC分析>
薄層クロマトグラフィーにはMerck製シリカゲルプレートを使用した。クロロホルム/メタノール=85/15(v/v)の混合溶剤で展開し、ヨウ素で発色後、サンプル
スポットを得た。
【0062】
(実施例1)
実施例1−1:ポリエチレングリコール化合物のマレイミド化工程
実施例1−2:ポリエチレングリコールマレイミド化合物の脱保護工程
実施例1−3:ポリエチレングリコールマレイミド化合物と脂質化合物のカップリング反応工程
実施例1−1、1−2、1−3の工程を順番に経て得られる式(1)の化合物の合成
(RCO、RCO=ステアリン酸由来のアシル基、R=トリメチレン基、OA=オキシエチレン基、n=45、Z=(CH−L−(CH−W;j=0、L=アミド結合、k=2、W=マレイミド基)
【0063】
実施例1−1:ポリエチレングリコール化合物のマレイミド化工程
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、および冷却管を付した100mL丸底フラスコへア
セトニトリル34g、t−ブチルカーバメート保護されたポリエチレングリコールエチルアミン化合物6.8g(3.4mmol)、スクシンイミジルマレイミドプロピオン酸1.1g(4.1mmol)を入れ、窒素を吹き込みながら攪拌し、25℃で2時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を200mLナスフラスコへ移し、エバポレータを用いて50℃でアセトニトリルを留去し、残った濃縮物を酢酸エチル48gで溶解した。その後、10℃まで冷却し、ヘキサン27gを添加して晶析を行い、析出した結晶を減圧ろ過した。得られた結晶に酢酸エチル48gを加えて40℃にて加温溶解後、10℃まで冷却し、ヘキサン27gを添加して晶析を行った。以後、同様の晶析を3回繰り返し、ヘキサンで洗浄した後、結晶を濾取、乾燥し、下記に示すt−ブチルカーバメート保護されたポリエチレングリコールマレイミド化合物(A)を得た。
1H−NMR(CDCl3,内部標準TMS)より特徴のあるピークとしては、
δ(ppm): 1.44 (12H, s, (CH3)3C-OC(=O)NH-CH2-CH2-)
1.75 (2H, t, (CH3)3C-OC(=O)NH-CH2-CH2-)
2.50-2.53 (2H, t, -CH2-CH2−NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
3.21-3.24 (2H, m, (CH3)3C-OC(=O)NH-CH2-CH2-)
3.40-3.80 (182H, m, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)
5.00 (1H, s, (CH3)3C-OC(=O)NH-CH2-CH2-)
6.27 (1H, s, -CH2-CH2NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
6.70 (1H, s, -CH2-CH2−NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
GPC分析;数平均分子量(Mn):2293 重量平均分子量(Mw):2355
多分散度(Mw/Mn):1.049 ピークトップ分子量(Mp):2304
【0064】
【化10】

【0065】
実施例1−2:ポリエチレングリコールマレイミド化合物の脱保護工程
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、および冷却管を付した100mL丸底フラスコへジクロロメタン45g、t−ブチルカーバメート保護されたポリエチレングリコールマレイミド化合物(A)5.7g(2.5mmol)、メタンスルホン酸2.4g(25mmol)を入れ、窒素を吹き込みながら攪拌し、25℃で3時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を200mLナスフラスコへ移し、エバポレータを用いて50℃でジクロロメタンを留去し、残った濃縮物を酢酸エチル50gで溶解した。溶液に酸吸着剤としてKW1000を2.9g添加し、室温で1時間攪拌後、不純物を吸着剤と共にろ過で除去した。その後、ろ液を10℃まで冷却し、ヘキサン50gを添加して晶析を行い、析出した結晶を減圧ろ過した。得られた結晶をヘキサンで洗浄した後、結晶を濾取、乾燥し、下記に示すメタンスルホン酸塩を形成しているポリエチレングリコールマレイミド化合物(B)を得た。
1H−NMR(CDCl3,内部標準TMS)より特徴のあるピークとしては、
δ(ppm): 1.95-2.15 (2H, m, CH3S(=O)2O・NH3-CH2-CH2-)
2.50-2.53 (2H, t, -CH2-CH2−NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
2.77 (2H, m, CH3S(=O)2O・NH3-CH2-CH2-)
3.21-3.24 (2H, m, CH3S(=O)2O・NH3-CH2-CH2-)
3.40-3.80 (182H, m, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)
6.27 (1H, s, -CH2-CH2NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
6.70 (1H, s, -CH2-CH2−NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
GPC分析;数平均分子量(Mn):2061 重量平均分子量(Mw):2141
多分散度(Mw/Mn):1.067 ピークトップ分子量(Mp):2124
【0066】
【化11】

【0067】
得られた化合物(B)をGPCで分析した結果を図2に示した。
【0068】
実施例1−3:ポリエチレングリコールマレイミド化合物と脂質化合物のカップリング反応工程
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、および冷却管を付した100mL丸底フラスコへトルエン17g、ジステアロイルグリセリルスクシンイミジルカーボネート2.3g(3.0mmol)、トリエチルアミン0.5g(5.0mmol)を入れ、窒素を吹き込みながら攪拌し、溶解した。温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、および冷却管を付した100mL丸底フラスコへトルエン34g、メタンスルホン酸塩を形成しているポリエチレングリコールマレイミド化合物(B)5.2g(2.5mmol)を入れ、窒素を吹き込みながら攪拌し、溶解した。ポリエチレングリコールマレイミド化合物を含むトルエン溶液をジステアロイルグリセリルスクシンイミジルカーボネートを含むトルエン溶液へ滴下し、40℃で2時間反応を行った。反応終了後、酸吸着剤としてKW1000を1.6g、アルカリ吸着剤としてKW700を0.3g反応溶液に添加し、室温で1時間攪拌後、不純物を吸着剤と共にろ過で除去した。エバポレータを用いて50℃でろ液からトルエンを留去した後、残った濃縮物をエタノールで溶解した。再度、エバポレータを用いて50℃でエタノールを留去した。濃縮物を乾燥し、マレイミド化ポリエチレングリコール修飾脂質(C)を得た。
1H−NMR(CDCl3,内部標準TMS)より特徴のあるピークとしては、
δ(ppm): 0.88 (6H, t, CH3(CH2)14-CH2-CH2-CO(=O)-)
1.25 (56H, m, CH3(CH2)14-CH2-CH2-CO(=O)-)
2.50-2.53 (2H, t, -CH2-CH2-NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
3.40-3.80 (182H, m, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)
6.27 (1H, s, -CH2-CH2-NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
6.70 (1H, s, -CH2-CH2-NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
【0069】
【化12】

【0070】
得られた化合物(C)はTLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)にて展開後、ヨウ素発色にて確認した(図1)。
【0071】
(比較例1)
比較例1−1:ポリエチレングリコール化合物と脂質化合物の反応工程
比較例1−2:ポリエチレングリコール修飾脂質の脱保護工程
比較例1−3:ポリエチレングリコール修飾脂質のマレイミド化工程
比較例1−1、1−2、1−3の工程を経て得られる化合物(1)の合成
(RCO、RCO=ステアリン酸由来のアシル基、R=トリメチレン基、OA=オキシエチレン基、n=45、Z=(CH−L−(CH−W;j=0、L=アミド結合、k=2、W=マレイミド基)
【0072】
比較例1−1:ポリエチレングリコール化合物と脂質化合物のカップリング反応工程
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、冷却管を付した100mL丸底フラスコへトルエン34g、t−ブチルカーバメート保護されたポリエチレングリコールプロピルアミン化合物6.8g(3.4mmol)、ジステアロイルグリセリルスクシンイミジルカーボネート3.1g(4.1mmol)を入れ、窒素を吹き込みながら攪拌し、40℃で2時間反応を行った。反応終了後、酸吸着剤としてKW1000を2.0g、アルカリ吸着剤としてKW700を0.3g反応溶液に添加し、室温で1時間攪拌後、不純物を吸着剤と共にろ過で除去した。エバポレータを用いて50℃でろ液からトルエンを留去した後、残った濃縮物をエタノールで溶解した。再度、エバポレータを用いて50℃でエタノールを留去した。濃縮物を乾燥後、t−ブチルカーバメート保護されたポリエチレングリコール修飾脂質(D)を得た。
1H−NMR(CDCl3,内部標準TMS)より特徴のあるピークとしては、
δ(ppm): 0.88 (6H, t, CH3(CH2)14-CH2-CH2-CO(=O)-)
1.25 (56H, m, CH3(CH2)14-CH2-CH2-CO(=O)-)
1.75 (2H, t, (CH3)3C-OC(=O)NH-CH2-CH2-)
3.21-3.24 (2H, m, (CH3)3C-OC(=O)NH-CH2-CH2-)
3.40-3.80 (182H, m, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)
【0073】
【化13】

【0074】
比較例1−2:ポリエチレングリコール修飾脂質の脱保護工程
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、および冷却管を付した100mL丸底フラスコへジクロロメタン45g、t−ブチルカーバメート保護されたポリエチレングリコール修飾脂質(D)6.5g(2.5mmol)、メタンスルホン酸2.4gを入れ、窒素を吹き込みながら攪拌し、25℃で3時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を200mLナスフラスコへ移し、エバポレータを用いて50℃でジクロロメタンを留去し、残った濃縮物を酢酸エチル50gで溶解した。溶液に酸吸着剤としてKW1000を2.9g添加し、室温で1時間攪拌後、不純物を吸着剤と共にろ過で除去した。エバポレータを用いて50℃でろ液から酢酸エチルを留去した後、残った濃縮物をエタノールで溶解した。再度、エバポレータを用いて50℃でエタノールを留去した。濃縮物を乾燥後、メタンスルホン酸塩を形成しているポリエチレングリコール修飾脂質(E)を得た。
1H−NMR(CDCl3,内部標準TMS)より特徴のあるピークとしては、
δ(ppm): 0.88 (6H, t, CH3(CH2)14-CH2-CH2-CO(=O)-)
1.25 (56H, m, CH3(CH2)14-CH2-CH2-CO(=O)-)
2.77 (2H, m, CH3S(=O)2O-・NH3+-CH2-CH2-)
3.21-3.24 (2H, m, CH3S(=O)2O-・NH3+-CH2-CH2-)
3.40-3.80 (182H, m, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)
【0075】
【化14】

【0076】
比較例1−3:ポリエチレングリコール修飾脂質のマレイミド化工程
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、および冷却管を付した100mL丸底フラスコへアセトニトリル34g、ポリエチレングリコール修飾脂質(E)5.2g(2.0mmol)、スクシンイミジルマレイミドプロピオン酸0.6g(2.4mmol)を入れ、窒素を吹き込みながら攪拌し、25℃で2時間反応を行った。反応終了後、エバポレータを用いて50℃でアセトニトリルを留去し、濃縮物を酢酸エチル50gで溶解した。溶液に酸吸着剤としてKW1000を0.8g添加し、室温で1時間攪拌後、不純物を吸着剤と共にろ過で除去した。エバポレータを用いて50℃でろ液から酢酸エチルを留去した後、残った濃縮物をエタノールで溶解した。再度、エバポレータを用いて50℃でエタノールを留去した。濃縮物を乾燥後、マレイミド化ポリエチレングリコール修飾脂質(C)を得た。
1H−NMR(CDCl3,内部標準TMS)より特徴のあるピークとしては、
δ(ppm): 0.88 (6H, t, CH3(CH2)14-CH2-CH2-CO(=O)-)
1.25 (56H, m, CH3(CH2)14-CH2-CH2-CO(=O)-)
2.50-2.53 (2H, t, -CH2-CH2-NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
3.40-3.80 (182H, m, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)
6.27 (1H, s, -CH2-CH2-NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
6.70 (1H, s, -CH2-CH2-NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
【0077】
【化15】

【0078】
得られた化合物(C)はTLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15)にて展開後、ヨウ素発色にて確認した(図1)。
【0079】
比較例1で合成したサンプル2では、ポリエチレングリコール修飾脂質が脱保護条件下に晒されるため、脂質残基のエステル基が分解し、図1に示す薄層クロマトグラフィー上のRf値 0.55の位置に4〜8%のモノアシル脂質の副生が確認された。比較例1に対し、実施例1で合成したサンプル1では、ポリエチレングリコール修飾脂質が脱保護条件下に晒されないため、モノアシル脂質は副生せず、その結果高純度で目的物を得ることができた。
【0080】
(比較例2)
実施例1−2において、脱保護の際にトリフルオロ酢酸を用いて得られる化合物(F)の合成
(X=アミノ基とトリフルオロ酢酸のイオン対、Z=(CH−L−(CH−W;j=0、L=アミド結合、k=2、W=マレイミド基、R=トリメチレン基、OA=オキシエチレン基、n=45)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、および冷却管を付した100mL丸底フラスコへジクロロメタン45g、t−ブチルカーバメート保護されたポリエチレングリコールマレイミド化合物(A)5.7g(2.5mmol)、トリフルオロ酢酸2.8g(25mmol)を入れ、窒素を吹き込みながら攪拌し、25℃で3時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を200mLナスフラスコへ移し、エバポレータを用いて50℃でジクロロメタンを留去し、残った濃縮物を酢酸エチル50gで溶解した。溶液に酸吸着剤としてKW1000を2.9g添加し、室温で1時間攪拌後、不純物を吸着剤と共にろ過で除去した。その後、ろ液を10℃まで冷却し、ヘキサン50gを添加して晶析を行い、析出した結晶を減圧ろ過した。得られた結晶をヘキサンで洗浄した後、結晶を濾取、乾燥し、下記に示すトリフルオロ酢酸塩を形成しているポリエチレングリコールマレイミド化合物(F)を得た。
1H−NMR(CDCl3,内部標準TMS)より特徴のあるピークとしては、
δ(ppm): 1.95-2.15 (2H, m, CF3C(=O)O・NH3-CH2-CH2-)
2.50-2.53 (2H, t, -CH2-CH2−NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
2.77 (2H, m, CF3C(=O)O・NH3-CH2-CH2-)
3.21-3.24 (2H, m, CF3C(=O)O・NH3-CH2-CH2-)
3.40-3.80 (182H, m, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)、(2H, t, -CH2(OCH2CH2)mOCH2-CH2-)
6.27 (1H, s, -CH2-CH2NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
6.70 (1H, s, -CH2-CH2−NH-C(=O)-CH2-CH2-Maleimide)
GPC分析;数平均分子量(Mn):2120 重量平均分子量(Mw):2195
多分散度(Mw/Mn):1.546 ピークトップ分子量(Mp):2164
【0081】
【化16】

【0082】
得られた化合物(F)をGPCで分析した結果を図3に示した。図2および図3のGPC分析から得られた主成分ピーク含量を表1に示した。また、実施例1および比較例2で得られた化合物の安定性試験(−20℃、1週間)を実施し、その結果を表1にまとめた。
【0083】
【表1】

【0084】
トリフルオロ酢酸を用いた比較例2では、アミノ基とマレイミド基が反応した高分子量体が副生し、主成分ピークが96%から87%へと9%減少し、−20℃、1週間の保存後にはさらに4%減少していた。メタンスルホン酸を用いた実施例1では、高分子量体の副生は観察されず、−20℃、1週間の保存後でも脱保護前の状態を維持することができた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、モノアシル脂質含量が少なく、リポソーム製剤の原料に使用される際、モノアシル脂質が混入したときの生体毒性やリポソームの自己崩壊などを抑えることができるため、ドラッグデリバリーシステムの分野において有用な機能材料の一つとなりえるチオール反応性ポリオキシアルキレン修飾脂質およびその製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)
【化1】

(式中、RとRは同一または異なる炭素数4〜24の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で5〜1000であり、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基である。)
で表されるポリオキシアルキレン修飾脂質。
【請求項2】
工程(I)の反応を行った後に、工程(II)の反応を行うことを特徴とする、下記の式(1)
【化2】


(式中、RとRは同一または異なる炭素数4〜24の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で5〜1000であり、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基である。)
で表されるポリオキシアルキレン修飾脂質の製造方法:
工程(I):下記の式(2)
【化3】


(式中、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で5〜1000であり、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基であり、Pは酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基である。)
で表される化合物のPをスルホン酸で脱保護し、下記の式(3)
【化4】


(式中、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは前記オキシアルキレン基の平均付加モル数で5〜1000であり、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、Zはマレイミドまたはヨードアセトアミドのいずれかを含んで成る基であり、Xはアミノ基とスルホン酸のイオン対である。)
で表される化合物を得る工程;
工程(II):下記の式(4)
【化5】


(式中、RとRは同一または異なる炭素数4〜24の炭化水素基であり、Yは活性化カーボネート基である。)
で表される化合物を含む溶液に、上記の式(3)で表される化合物を含む溶液を滴下して反応させ、上記の式(1)で表される化合物を得る工程。
【請求項3】
Zがマレイミドを含んで成る基である、請求項2に記載のポリオキシアルキレン修飾脂質の製造方法。
【請求項4】
酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基Pがt−ブチルカーバメート基である、請求項2に記載のポリオキシアルキレン修飾脂質の製造方法。
【請求項5】
酸で脱保護される化学的に保護されたアミノ基Pの脱保護に用いるスルホン酸がメタンスルホン酸である、請求項2に記載のポリオキシアルキレン修飾脂質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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