説明

ポリオキシエチレン付加カリックスアレーン誘導体の製造方法

【課題】熱硬化性及び/又は光硬化性を有するカリックスアレーン誘導体樹脂組成物を製造する際の中間体として有用なポリオキシエチレン付加カリックスアレーン誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオキシエチレン付加剤として炭酸エチレンを使用した、p-tert-ブチルカリックス[6]アレーンヘキサヒドロキシルエチルエーテル、p-tert-ブチルカリックス[6]アレーンドデカヒドロキシルエチルエーテル、p-tert-ブチルカリックス[4]アレーンテトラヒドロキシルエチルエーテルなどに代表されるカリックスアレーン誘導体の工業的な製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオキシエチレン付加カリックスアレーン誘導体の製造方法に関する。より詳細には、熱硬化性及び/又は光硬化性を有するカリックスアレーン誘導体樹脂組成物を製造する際の中間体として有用なポリオキシエチレン付加カリックスアレーン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カリックスアレーンは、p-メチルフェノール、p-tert-ブチルフェノールなどのパラアルキル置換フェノールとホルムアルデヒドの縮合によって得られる環状化合物である。環状4量体をカリックス[4]アレーン、環状6量体をカリックス[6]アレーン、環状8量体をカリックス[8]アレーンなどのように、環を構成するフェノール基の数(n)により、カリックス[n]アレーンと称される。カリックスアレーンの合成方法に関しては、C.D.Gutscheらにより構造の確定とともに確立され(例えば非特許文献1参照)、反応条件を調節することにより、環状4量体のカリックス[4]アレーン、環状6量体のカリックス[6]アレーン、環状8量体のカリックス[8]アレーンなどのカリックスアレーン類を作り分けることができる。
係るカリックスアレーン類は、疎水性の空洞部分を有することから包摂材料として;カチオン捕捉能を有することから金属類の除去剤として;熱的安定性が高いことから耐熱性を利用した材料などとしての利用が期待されている。
係るカリックスアレーンの耐熱性を利用した用途として、カリックスアレーンのフェノール性水酸基にスペーサーを介して重合性官能基(例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、プロペニル基など)を結合させた化合物からなる熱及び/又は光硬化性樹脂組成物が検討されている。係る硬化性樹脂組成物は加熱及び/又は光照射により耐熱性・硬度に優れた硬化塗膜が形成されることから、各種レジスト膜、塗料、印刷インキなどとしての利用が研究されている(例えば特許文献1〜3参照)。
上述したカリックスアレーンのフェノール性水酸基にスペーサーを介して重合性官能基を結合させた化合物において、スペーサーとしては種々の基が検討されているが、硬化膜の性状や操作性・簡便性の点から、オキシエチレン基(-CH2-CH2-O-)を含めてポリオキシエチレン基(即ち-(CH2-CH2-O-)p-、pは整数)が好ましいとされており、係るポリオキシエチレン基をスペーサーとして有する上記化合物の製造には、その中間体としてカリックスアレーンのポリオキシエチレン付加物、即ちカリックスアレーンのフェノール性水酸基にポリオキシエチレン-(CH2-CH2-O-)p-H(pは整数)を付加させた化合物を調製する必要がある。
【0003】
上記の観点から、本発明者らは、カリックスアレーンのフェノール性水酸基にポリオキシエチレンを付加させた化合物の工業的製造方法を検討した。水酸基へのポリオキシエチレンの付加は一般に酸化エチレンを反応させることにより行われているが、酸化エチレンは常温で気体であり操作性が悪いこと及び爆発性を有するという問題がある。また、前記の特許文献1〜3では、エチレンクロルヒドリンを使用してポリオキシエチレン付加を行っているが、エチレンクロルヒドリンは毒性が強く(経口LD50:ラットで71mg/kg)、しかも引火性が高い(引火点:60℃)という問題があり、工業的な生産には適していない。
そこで、本願発明者らは、ポリオキシエチレン付加剤として炭酸エチレンを使用することを想起した。炭酸エチレンは、低毒性(経口LD50:ラットで>5000mg/kg)であり、無臭であり、引火性が低く(引火点:150℃)、環境負荷が少ないという特長を有し、工業的な生産に好適である。
炭酸エチレンを使用したフェノール性水酸基のヒドロキシエチル化としては、特許文献4に記載の方法が知られている。この文献に記載の方法は、ビスフェノール化合物に過剰の炭酸エチレンをエステル交換触媒(例えば炭酸カリウム)の存在下に高温(例えば200℃)で溶融反応させるものである。この方法を、カリックスアレーンのフェノール性水酸基のポリオキシエチレン付加に適用したが反応はほとんど進行せず、目的物を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−263560号公報
【特許文献2】特開平11−43524号公報
【特許文献3】特開平11−72916号公報
【特許文献4】特開平8−295646号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 103, 3782 (1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、カリックスアレーンのポリオキシエチレン付加物の製造方法を更に検討したところ、カリックスアレーンと炭酸エチレンを第3級アミンの存在下に反応させると、ポリオキシエチレン付加が進行することを見出した。しかも、炭酸エチレン及び第3級アミンの使用量を調整するなど、反応条件の調整により、ポリオキシエチレン付加量をコントロールすることができることも判明した。
本発明は係る知見に基づくものであり、カリックスアレーンのポリオキシエチレン付加物を工業的に製造することのできる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、一般式(2)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、nは4〜10の整数である)
で表わされるカリックスアレーンを、第3級アミンの存在下に、炭酸エチレンと反応させ、一般式(1)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R及びnは前記と同じ、mは1〜5の整数である)
で表わされるカリックスアレーン誘導体を得ることからなるカリックスアレーン誘導体の製造方法である。
一般式(1)で表わされる化合物において、Rがtert-ブチル基であり、nが4、6又は8であるカリックスアレーン誘導体が好ましい。また、第3級アミンとしてはトリプロピルアミン又はトリエチルアミンを使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、カリックスアレーンのポリオキシエチレン付加物を、炭酸エチレンを使用して製造しており、炭酸エチレンは低毒性であり、無臭であり、引火性が低いことから、目的物を工業的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は上記の構成よりなり、前記一般式(1)で表されるカリックスアレーン誘導体の製造方法である。
一般式(1)で表されるカリックスアレーン誘導体において、nは4〜10の整数であり、nが4、6又は8、特にnが4又は6が好適である。
また、Rのアルキル基は炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状アルキル基を意味する。炭素数が12を超えると、カリックスアレーン誘導体の耐熱性が劣るので好ましくない。係るアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、オクチル、tert-オクチル、デシル、ドデシルなどが例示される。工業的な生産を考慮すると、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、tert-オクチル、特にエチル、イソプロピル、tert-ブチルが好ましい。
mは1〜5の整数であり、1〜3が好ましい。前述の硬化性樹脂組成物として利用する場合、カリックスアレーン誘導体は液状の方がコーティング操作での取り扱いが容易であるが、mが1未満であるとカリックスアレーン誘導体が粉末状となり易く、操作性に問題がでてくる。
【0014】
本発明の製造方法は、下記の反応工程式で表わすことができる。なお、式中、n、R及びmは前記と同じである。
【0015】
【化3】

【0016】
本発明の製造方法は、上記反応工程式に示されるように、一般式(2)で表されるカリックスアレーンを、第3級アミンの存在下に、炭酸エチレンと反応させ、一般式(1)で表されるカリックスアレーン誘導体を得るものである。
この方法において、前記非特許文献1に記載されるように一般式(2)で表されるカリックスアレーンは既に公知である。また、炭酸エチレンも公知化合物である。
【0017】
第3級アミンとしては、脂肪族第3級アミン、芳香族第3級アミン(例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N−メチルプロピルアニリンなど)が例示でき、脂肪族第3級アミンが好適に使用される。
当該脂肪族第3級アミンとしては、同一又は異なったアルキル基で置換されたトリアルキルアミンが挙げられる。当該アルキル基としては炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状アルキル基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、オクチル、tert-オクチル、デシル、ドデシルなどが例示される。
トリアルキルアミンの具体的な例としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリドデシルアミン、ジエチルプロピルアミン、ジブチルオクチルアミン、ジオクチルメチルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジエチルドデシルアミンなどが例示される。工業的生産を考慮すると、トリプロピルアミン、トリエチルアミンを使用するのが好ましい。
【0018】
上記反応工程式に示される反応は無溶媒でも行うことは可能であるが、通常は有機溶媒中で行われる。当該有機溶媒としては、反応に悪影響を与えない溶媒であれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、クロロホルム、1,2−ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素、DMF、DMSO等の極性溶媒などが挙げられ、当該溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。なお、反応温度が高いほど反応が進行することから、キシレン、DMFなどの高沸点溶媒を使用するのが好ましい。
【0019】
反応温度は反応が進行する温度であれば特に限定はされないが、通常は加熱下に行われ、好ましくは溶媒の沸点にて行われる。反応時間は、反応温度、使用する炭酸エチレン量、第3級アミンの量と種類などによるが、通常は5〜24時間程度にて行われる。
【0020】
一般式(2)で表わされるカリックスアレーンに対する炭酸エチレン及び第3級アミンの使用量は、所望するmの数、反応条件(例えば反応温度、反応時間等)などにより適宜調整することができる。一般に、フェノール性水酸基の数を勘案して、一般式(2)で表わされるカリックスアレーンに対して、炭酸エチレンをm×(1.2〜2)当量、第3級アミンをm×(1〜1.5)当量程度使用される。
例えば、一般式(1)において、mが1(平均)のカリックスアレーン誘導体を製造する場合には、一般式(2)で表わされるカリックスアレーンに対して、炭酸エチレンを1.5〜2当量程度、第3級アミンを1.2〜1.8当量程度を使用するのが好ましい。同様に、mが2(平均)のカリックスアレーン誘導体を製造する場合には、一般式(2)で表わされるカリックスアレーンに対して、炭酸エチレンを2〜4当量程度、第3級アミンを1.5〜2.5当量程度を使用するのが好ましい。
【0021】
反応終了後、常法に準じて、分離・精製することにより、一般式(1)で表されるカリックスアレーン誘導体を得ることができる。係る後処理としては、例えば、反応液を酸含有水で洗浄し、次いで食塩水で洗浄後、溶媒を留去し、次いで減圧乾燥する方法などを挙げることができる。
分離・精製に際して、必要に応じて、活性炭処理などの工程を付加してもよい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の詳細について実施例によって具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
p-tert-ブチルカリックス[6]アレーンヘキサヒドロキシルエチルエーテル(一般式(1)で表される化合物において、nが6、mが1、Rがtert-ブチルの化合物)の製造
o-キシレン1541.5gの中にトリプロピルアミン318.1g(2.2モル、1.2当量(一般式(2)で表わされる化合物に対して、以下同様))を仕込み、室温下でp-tert-ブチルカリックス[6]アレーン300g(0.3モル)を投入し、室温下で1時間撹拌した。炭酸エチレン285.2g(3.25モル、1.8当量)を加え、室温下で1時間撹拌した後、還流温度まで昇温し17時間反応した。冷却後、水洗、溶媒留去してp-tert-ブチルカリックス[6]アレーンヘキサヒドロキシルエチルエーテルを主成分とする生成物353g(収率95%)得た。
【0024】
実施例2
p-tert-ブチルカリックス[6]アレーンドデカヒドロキシルエチルエーテル(一般式(1)で表される化合物において、nが6、mが2、Rがtert-ブチルの化合物)の製造
実施例1において、トリプロピルアミン2.0当量、炭酸エチレン2.7当量を用いたこと以外は、全く同様の操作でp-tert-ブチルカリックス[6]アレーンドデカヒドロキシルエチルエーテルを主成分とする生成物428g(収率95%)得た。
【0025】
実施例3
p-tert-ブチルカリックス[4]アレーンテトラヒドロキシルエチルエーテル(一般式(1)で表される化合物において、nが4、mが1、Rがtert-ブチルの化合物)の製造
実施例1においてp-tert-ブチルカリックス[6]アレーンの代わりにp-tert-ブチルカリックス[4]アレーンを用いたこととトリプロピルアミン1.5当量、炭酸エチレン2.0当量を用いたこと以外は、全く同様の操作でp-tert-ブチルカリックス[4]アレーンテトラヒドロキシルエチルエーテルを主成分とする生成物を収率93%で得た。
【0026】
実施例1及び2と同様な方法で、炭酸エチレンの使用量並びに第3級アミンの種類及び使用量を変化させて、p-tert-ブチルカリックス[6]アレーンポリヒドロキシルエチルエーテルを製造した。その結果を、実施例1及び2を含めて表1に示した。
また、実施例3と同様な方法で、炭酸エチレンの使用量及びトリプロピルアミンの使用量を変化させて、p-tert-ブチルカリックス[4]アレーンポリヒドロキシルエチルエーテルを製造した。その結果を、実施例3を含めて表2に示した。
表1及び2に示されるように、炭酸エチレンの使用量並びに第3級アミンの種類及び使用量を調整することにより、mの数をコントロールできることが判明した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、nは4〜10の整数である)
で表わされるカリックスアレーンを、第3級アミンの存在下に、炭酸エチレンと反応させ、一般式(1)
【化2】

(式中、R及びnは前記と同じ、mは1〜5の整数である)
で表わされるカリックスアレーン誘導体を得ることを特徴とするカリックスアレーン誘導体の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)で表わされる化合物において、Rがtert-ブチル基であり、nが4、6又は8である請求項1記載のカリックスアレーン誘導体の製造方法。
【請求項3】
第3級アミンがトリプロピルアミン又はトリエチルアミンである請求項1又は2記載のカリックスアレーン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2012−102035(P2012−102035A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250795(P2010−250795)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000107561)スガイ化学工業株式会社 (5)
【出願人】(000190895)新中村化学工業株式会社 (19)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】