説明

ポリオキシメチレン樹脂組成物及びそれからなる成形品

【課題】導電性に優れ、かつ引張強度、伸び、衝撃強度等の物性バランスに優れたポリオキシメチレン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)オキシメチレンユニットを主たる構成単位とする重合体中に、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1〜10モル含有するポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、(B)導電性カーボンブラック3〜15質量部、(C)ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)またはポリエーテルエステルアミド(C−2)を1〜10質量部含有することを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物およびその成形品による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオキシメチレン樹脂組成物及びそれからなる成形品に関し、詳しくは、導電性に優れ、かつ引張強度、伸び、衝撃強度等の物性バランスに優れたポリオキシメチレン樹脂組成物及びそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシメチレン樹脂は、機械的物性(耐摩擦性・磨耗性、耐クリープ性、寸法安定性等)のバランスに優れ、また極めて優れた耐疲労性を有している。また、この樹脂は耐薬品性にも優れており、かつ吸水性も少ない。従って、ポリオキシメチレン樹脂は、これらの特性を生かして、エンジニアリングプラスチックとして、自動車内装部品、家屋の内装部品(熱水混合栓等)、衣料部品(ファスナー、ベルトバックル等)、建材用途(配管・ポンプ部品等)、機械部品(歯車等)等に幅広く利用されてきている。
【0003】
しかし、ポリオキシメチレン樹脂の電気抵抗は極めて高いので、静電気ノイズ、表面への異物付着等、静電帯電の問題があり、利用分野によってはこれが障害となる。
ポリオキシメチレン樹脂の内部電気抵抗を低下させるためには、金属粉末及び金属繊維、炭素繊維、グラファイト又はカーボンブラック等を配合して導電性を付与することが行われる。カーボンブラックを配合した導電性ポリオキシメチレン樹脂組成物の例は、特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の技術では、金属粉末等の導電剤の配合により、引張伸び、衝撃強度等の機械的強度が低下してしまう。そして、ポリオキシメチレン樹脂の利用分野の拡大に伴い、要求特性は高度化する傾向にあり、導電性に優れ、かつ引張強度、伸び、衝撃強度等の物性バランスに優れたポリオキシメチレン樹脂組成物が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4391741号公報
【特許文献2】米国特許第4555357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、導電性に優れ、かつ引張強度、伸び、衝撃強度等の物性バランスに優れたポリオキシメチレン樹脂組成物及びそれからなる樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリオキシメチレン樹脂として、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを特定量含有するポリオキシメチレン樹脂を使用し、導電性カーボンブラックを特定量、ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物またはポリエーテルエステルアミドを特定量で含有する樹脂組成物が、導電性に優れ、引張強度、伸び、衝撃強度等の物性バランスに優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、(A)オキシメチレンユニットを主たる構成単位とする重合体中に、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1〜10モル含有するポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、(B)導電性カーボンブラック3〜15質量部、(C)ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)またはポリエーテルエステルアミド(C−2)を1〜10質量部含有することを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物が提供される。
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、(A)ポリオキシメチレン樹脂が、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量が高いポリオキシメチレン樹脂(A1)と炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量が低いポリオキシメチレン樹脂(A2)の混合物であることを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物が提供される。
【0010】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、(A)オキシメチレン樹脂が、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり3〜7モル含有するポリオキシメチレン樹脂と、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1〜2.8モル含有するポリオキシメチレン樹脂との混合物であることを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、さらに、(D)アミノ置換トリアジン化合物を、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜10質量部含有することを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、さらに、(E)脂肪酸カルシウムを、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜10質量部含有することを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、さらに、(F)離型剤を、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜10質量部含有することを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、さらに、(G)芳香族ジヒドラジド化合物及び20℃における水100gに対する溶解度が1g未満の脂肪族ジヒドラジド化合物より成る群から選ばれたジヒドラジド化合物を、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜1質量部含有することを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)の分子量が、10,000以上であることを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、(F)離型剤が、高級脂肪酸アミド及び/又は高級脂肪酸ビスアミドであることを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物が提供される。
【0017】
さらに、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明のポリオキシメチレン樹脂組成物を成形してなる成形品が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物は、導電性に優れ、かつ引張強度、伸び、衝撃強度等の物性バランスに優れる。このため、本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物を成形してなる成形品は、導電性・永久帯電防止性を必要とするOA機器部品、自動車部品、産業用機器部品、可燃物用容器・配管等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1.発明の概要]
本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物は、(A)オキシメチレンユニットを主たる構成単位とする重合体中に、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1〜10モル含有するポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、(B)導電性カーボンブラック3〜15質量部、(C)ポリエチレングリコール(C−1)もしくはそのイソシアネート変性物またはポリエーテルエステルアミド(C−2)を1〜10質量部含有することを特徴とする。
【0020】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定して解釈されるものではない。
なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0021】
[2.(A)ポリオキシメチレン樹脂]
本発明に用いる(A)ポリオキシメチレン樹脂は、−(−O−CRH−)−(但し、Rは水素原子、有機基を示す。)で示されるアセタール構造の繰り返しを有する高分子であり、Rが水素原子であるオキシメチレンユニット(−CHO−)を主たる構成単位とし、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1〜10モル含有するポリオキシメチレン樹脂である。
【0022】
炭素数2以上のオキシアルキレンユニットとしては、炭素数2以上の分岐していてもよいオキシアルキレン基が挙げられ、好ましくは炭素数2〜10の、より好ましくは炭素数2〜4の分岐をしていてもよいオキシアルキレン基であり、特に好ましくは、オキシエチレン基(−CHCHO−)、オキシプロピレン基(−CHCHCHO−)、オキシブチレン基(−CHCHCHCHO−)である。これらのなかでも、特にオキシエチレン基が好ましい。ポリオキシメチレン樹脂中の炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量は、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1〜10モルであり、好ましくは0.5〜10モル、より好ましくは1〜10モル、さらに好ましくは1.5〜10モルであり、特には1.5〜9モルである。
炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量が、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1モル未満では、熱安定性や耐衝撃性が十分ではなく、また10モルを超えると引張強度や曲げ強度等の機械的強度が悪化する。
【0023】
本発明に用いる(A)ポリオキシメチレン樹脂は、オキシメチレンユニットを主たる構成単位とし、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを上記範囲で含有するものであれば、コポリマー(ブロックコポリマーを含む)やターポリマー、それ以上の多元系共重合体であってもよく、更には線状構造のみならず分岐、架橋構造を有していてもよい。
【0024】
本発明に用いる(A)ポリオキシメチレン樹脂は、混合物であってもよく、特に炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量が高いポリオキシメチレン樹脂(A1)(以下、単に「高含有ポリオキシメチレン樹脂(A1)」という場合がある)と、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量が低いポリオキシメチレン樹脂(A2)(以下、単に「低含有量ポリオキシメチレン樹脂(A2)」という場合がある)を混合して用いることが好ましい。
【0025】
高含有量ポリオキシメチレン樹脂(A1)としては、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量が、オキシメチレンユニット100モルあたり3〜7モルのものが好ましく、4〜6モルのものがより好ましい。低含有量ポリオキシメチレン樹脂(A2)としては、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量が、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1〜2.8モルのものが好ましく、0.5〜2.4モルのものがより好ましい。
混合する場合の高含有量ポリオキシメチレン樹脂(A1)と低含有量ポリオキシメチレン樹脂(A2)の含有量比は、(A1):(A2)が10:90〜90:10(質量比)が好ましく、より好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは30:70〜70:30、特には40:60〜60:40である。
【0026】
本発明で用いる(A)ポリオキシメチレン樹脂のメルトインデックス(ASTM−D1238規格:190℃、2.16Kg)は、通常1〜100g/10分であるが、0.5〜80g/10分が好ましく、特には1〜50g/10分が好ましい。1g/10分未満では成形性が低下する場合があり、100g/10分を超えると靭性、耐疲労特性が悪くなりやすい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、上記(A)ポリオキシメチレン樹脂以外の他のポリオキシメチレン樹脂を含有していてもよく、このような樹脂として、オキシメチレンユニットのみを構成単位とするホモポリマー、または、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1モル未満もしくは10モル超を含有する共重合ポリオキシメチレン樹脂が挙げられる。他のポリオキシメチレン樹脂を含有する場合の含有量の上限は、好ましくは(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらには10質量部以下、特には5質量部以下である。
【0028】
ポリオキシメチレン樹脂の製造方法は公知であり、本発明ではそのいずれの方法で製造されたポリオキシメチレン樹脂も用いることができる。
例えば、オキシメチレン基と、炭素数2以上のオキシアルキレン基を構成単位とするポリオキシメチレン樹脂の製造方法としては、ホルムアルデヒドの3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のオキシメチレン基の環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、1,3−ジオキソラン、1,3,6−トリオキソカン、1,3−ジオキセパン等の炭素数2以上のオキシアルキレン基を含む環状オリゴマーとを共重合することによって製造することができる。
【0029】
[3.(B)導電性カーボンブラック]
本発明で使用する導電性カーボンブラックとしては、ASTM D2414に準拠して測定されるジブチルフタレー卜(DBP)吸油量が、100ml/100g以上のものが好ましく、より好ましくは200ml/100g以上、特には300ml/100g以上のカーボンブラックが挙げられる。DBP吸油量が100ml/100gより小さい値を有するカーボンブラックを使用した場合、得られた樹脂組成物に導電性を付与しにくくなるため好ましくない。
【0030】
また、平均一次粒子径は10〜80nm、さらには20〜70nm、特に30〜60nmのものが好ましい。カーボンブラックの粒子径が10nm未満の場合は、分散性が劣る傾向にある。一方、粒子径が80nmを超えると、導電性を付与しにくくなる場合がある。
なお、カーボンブラックの平均一次粒子径は、ASTM D3849(カーボンブラックの標準試験法−電子顕微鏡法による形態的特徴付け)に記載の手順によりアグリゲート拡大画像を取得し、このアグリゲート画像から単位構成粒子として3,000個の粒子径を測定し、算術平均して得られた値である。
【0031】
BET比表面積は、600m/g以上、好ましくは700m/g以上であることが好ましい。BET比表面積が600m/g未満であると、導電性を発現させるために必要な配合量が多くなって、導電性、引張伸度、耐衝撃性等のバランスを取ることが困難となる傾向にある。なお、BET比表面積は、ASTM D4820に記載の手順で測定することができる。
【0032】
導電性カーボンブラックの灰分は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%未満が特に好ましい。このようなカーボンブラックを使用することにより、導電性を付与しやすい傾向にあり好ましい。
【0033】
導電性カーボンブラックとしては、アセチレンガスを熱分解して得られるアセチレンブラック、原油を原料としファーネス式不完全燃焼によって製造されるケッチェンブラック等が挙げられる。
これらの導電性カーボンブラックは、ペイント等に着色目的で加える顔料用カーボンブラックとは異なり、通常微細な粒子が連なった形態(ストラクチャ)を有している。
たとえば、アメリカのCABOT社製バルカンXC72、旭カーボン社製旭HS−500、ライオン・アクゾ社製ケッチェンブラックEC、東海カーボン社製SEAST−116などが使用できる。
【0034】
また、導電性カーボンブラックの含有量は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、導電性カーボンブラック3〜15質量部であり、好ましくは4〜13質量部、より好ましくは5〜12質量部、特には6〜10質量部である。3質量部より少ないと得られた樹脂組成物に導電性を付与しにくくなり、また、15重量部より多い含有量であると樹脂組成物の強度が著しく低下し、実用に供しないため好ましくない。
【0035】
[4.ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)、ポリエーテルエステルアミド(C−2)]
本発明の樹脂組成物は、(C)ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)またはポリエーテルエステルアミド(C−2)を含有する。
【0036】
ポリエチレングリコールとしては、数平均分子量は、通常は5,000〜2,000,000、好ましくは10,000〜1,000、000、より好ましくは15,000〜100,000である。数平均分子量が5,000より小さいと、成形品の耐衝撃性が不十分となる場合があり、一方、2,000,000より大きいとポリオキシメチレン樹脂と混ざり難くなりやすい。なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によるポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0037】
ポリエチレングリコ−ルのイソシアネート変性物としては、ポリエチレングリコールをイソシアネートで変性したものでもよく、例えば、ポリエチレングリコールに対してイソシアネート化合物を、好ましくは0.01〜5質量%程度を添加することにより得られるものが挙げられる。この例として、三洋化成社製メルポールF220等が挙げられる。
【0038】
変性に用いるイソシアネート化合物としては、イソシアネート基を1または2以上有する化合物が好ましく、例えばプロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、へキシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、シクロへキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、p−ニトロフェニルイソシアネート、2−クロロエチルイソシアネート、ステアロイルイソシアネート、プロパンジイソシアネート、へキサンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンフルオロプロパンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート等を好ましく挙げることができる。これらイソシアネート化合物は、その1種または2種以上を使用することができ、適当な溶媒による溶液状態でポリエチレングリコールと反応させることにより製造される。
【0039】
ポリエチレングリコールのイソシアネート変性物としては、数平均分子量は、通常は5,000〜2,000,000、好ましくは10,000〜1,000,000、より好ましくは15,000〜100,000である。数平均分子量が5,000より小さいと、成形品の耐衝撃性が不十分となる場合があり、一方、2,000,000より大きいとポリオキシメチレン樹脂と混ざり難くなりやすい。なお、数平均分子量は、GPC測定によるポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0040】
ポリエチレングリコ−ルもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)の含有量は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、1〜10質量部の範囲であり、好ましくは2〜9重量部、より好ましく3〜8である。含有量が1より少ないと、得られる成形品の耐衝撃性や引張伸びが不十分であり、10より大きいと引張強度の低下が大きくなる。
【0041】
ポリエーテルエステルアミド(C−2)としては、典型的には、ポリアミド単位とポリオキシアルキレングリコール単位とから主として構成される。通常は、ポリアミド単位15〜90質量%とポリオキシアルキレングリコール単位85〜10質量%とから主として構成される。本発明で用いられるポリエーテルエステルアミドは、セグメント化共重合体であることが好ましい。
【0042】
ポリエーテルエステルアミドを構成するポリアミド単位は、アミド結合を有する重合体であって、(1)ラクタムの開環重縮合体、(2)アミノカルボン酸重縮合体、(3)ジカルボン酸とジアミンの重縮合体のいずれでもよい。(1)のラクタムとしては、カプロラクタム、エナントラクタム、ラウロラクタム、ウンデカノラクタム等が挙げられる。(2)のアミノカルボン酸としては、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノカプリル酸、ω−アミノペンゴン酸、ω−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。(3)のジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジ酸、ドデカンジ酸、イソフタル酸、重合脂肪酸等が挙げられ、またジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。これらのポリアミド単位の分子量は300〜15,000、好ましくは800〜5,000である。なお、上記アミド単位形成モノマーとして例示したものは2種類以上併用してもよい。ポリアミド単位として好ましいものは、ラウロラクタムを開環重縮合したポリアミド(ポリアミド12)や、主として重合脂肪酸とジアミンの重縮合反応より得られるダイマー酸ポリアミドである。なお、重合脂肪酸とは不飽和脂肪酸の重合体、あるいはかかる重合体を水素添加して不飽和度を下げたものである。
重合脂肪酸としては、例えば10〜24程度の炭素数を有し、二重結合又は三重結合を一個以上有する一塩基性脂肪酸の二量体(ダイマー酸)及び/又はその水素添加物が好ましい。ダイマー酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸等の二量体が挙げられる。その代表的なものの一つは、炭素数36の二塩基酸及び/又は水素添加物を主体とし、他に少量の炭素数18の一塩基酸(モノマー)や炭素数54の三塩基酸(トリマー)を含有しているものである。
【0043】
ポリエーテルエステルアミドを構成するポリオキシアルキレングリコール単位とは、炭素数2〜4のオキシアルキレン単位からなり、200〜8,000の分子量を有するものであって、具体的にはポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコール等が挙げられるが、これらのうち、好ましいものはポリオキシエチレングリコールである。
【0044】
これらのポリエーテルエステルアミドとその製造法は知られており、例えば、ポリエーテルとジカルボン酸からなる縮合ポリエステルプレポリマーの存在下に陰イオン触媒を用いてラクタムを開環重合させる方法(米国特許第3993709号公報)、ラクタム又はω−アミノカルボン酸、ジカルボン酸及びポリオールを加熱重合させる方法(西独国特許公開第2712987号及び同第2936976号公報)、分子鎖末端にカルボキシル基を有するジカルボン酸アミドとポリオールとをチタン酸塩系触媒を用いて縮合させる方法(米国特許第4230838号公報)等がある。
【0045】
ポリエーテルエステルアミドは、融点又は軟化点は、好ましくは175℃以下であり、より好ましくは170℃以下である。このようなポリエーテルエステルアミドを用いることにより、ポリオキシメチレン樹脂と混練する温度においてポリエーテルエステルアミドが溶融状態となるため、ポリエーテルエステルアミドの分散性がより向上するという利点がある。
【0046】
なお、本発明における融点とは、示差走査熱量測定(DSC)法により観測される吸熱ピークのピークトップの温度である。吸熱ピークとは、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温した時に観測される吸熱ピークとする。例えば、次の要領で求めることができる。30〜210℃まで10℃/分の速度で昇温し、210℃で2分間保持した後、50℃まで20℃/分の速度で降温する。更に、10℃/分の速度で210℃まで昇温し、昇温時に観測される吸熱ピークのピークトップから融点を求める。昇温時の最高温度は、予想されるポリエーテルエステルアミドの融点に応じて適宜調整すればよく、通常は融点+50℃までの範囲で選択する。また、融点180℃以下とは、DSCで観測される融点が、ポリエーテルエステルアミドの重量平均分子量500〜100,000の範囲において常に180℃以下であることを言う。
また、本発明における軟化点とは、JIS K2207規格に準拠して測定される温度である。
【0047】
本発明で好ましく使用することができるポリエーテルエステルアミド(C−2)としては、例えば特開平11−228691号公報等によって示される方法で製造されるポリエーテルエステルアミドや、特開2002−146212号公報に記載されるポリエーテルエステルアミドが挙げられる。
【0048】
ポリエーテルエステルアミドとしては、特に好ましいものは、ポリアミドとポリ(アルキレンオキサイド)グリコールブロックとがエステル結合で結合されたポリエーテルエステルアミドであり、三洋化成工業社製の「ペレスタットN1200」等として入手することができる。
【0049】
ポリエーテルエステルアミドの重量平均分子量は任意であるが、通常は500〜100,000、好ましくは1,000〜50,000である。なお、重量平均分子量とは、GPC測定によって測定された、ポリスチレン換算の値をいう。
【0050】
ポリエーテルエステルアミド(C−2)の含有量は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、1〜10質量部の範囲であり、好ましくは2〜9重量部、より好ましく3〜8である。含有量が1質量部より少ないと、得られる成形品の耐衝撃性や引張伸びが不十分であり、10質量部より大きいと引張強度の低下が大きくなる。
なお、ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)とポリエーテルエステルアミド(C−2)を併用する場合は、両者の合計の含有量が3〜10質量部となるように配合する。
【0051】
[5.(D)アミノ置換トリアジン化合物]
本発明の樹脂組成物には、さらに、(D)アミノ置換トリアジン化合物を含有することも好ましい。アミノ置換トリアジン化合物は、従来公知の任意のアミノ置換トリアジン類を使用できるが、中でも下記一般式(1)で示される構造を有するアミノ置換トリアジン類、又はこれとホルムアルデヒドとの初期重縮合物が好ましい。
【化1】

【0052】
上記一般式(1)において、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、炭素数1〜10のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は置換されていてもよいアミノ基を示すが、R〜Rのうち少なくとも一つは置換されていてもよいアミノ基を示す。
【0053】
アミノ置換トリアジン化合物の具体例としては、例えばグアナミン、メラミン、N−ブチルメラミン、N−ブチルメラミン、N−フェニルメラミン、N,N−ジフェニルメラミン、N,N−ジアリルメラミン、N,N’,N’’−トリフェニルメラミン、N,N’,N’’−トリメチロールメラミン、ベンゾグアナミン、2,4−ジアミノ−6−メチル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ブチル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ベンジルオキシ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ブトキシ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−シクロヘキシル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−クロロ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−sym−トリアジン、アメリン(N,N,N’,N’−テトラシアノエチルベンゾグアナミン)が挙げられる。
これらのアミノ置換トリアジン化合物は、ホルムアルデヒドとの初期重縮合物(プレポリマー)として用いてもよい。例えばメラミン、メチロールメラミン、ベンゾグアナミン等とホルムアルデヒドとの初期重縮合物を用いるのが好ましく、水溶性のメラミン−ホルムアルデヒド樹脂を用いるのが特に好ましい。
【0054】
(D)アミノ置換トリアジン化合物の含有量は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜10質量部が好ましく、7質量部以下がより好ましく、特に5質量部以下が好ましい。含有量が多すぎると、樹脂組成物の調製時に樹脂への分散が不良となり、ポリオキシメチレン樹脂組成物中で凝集し、いわゆる異物となる場合がある。
【0055】
[6.(E)脂肪酸カルシウム]
本発明の樹脂組成物は、更に(E)脂肪酸カルシウムを含有することが好ましい。脂肪酸カルシウムとしては、炭素数12〜60の飽和脂肪酸カルシウムが好ましく、また、一部の水素原子がヒドロキシル基などの置換基で置換されたものも使用できる。
脂肪酸カルシウムとしては、ステアリン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、アラキン酸、べヘン酸、モンタン酸などの炭素数12〜22の脂肪酸由来のジ脂肪酸カルシウムであることが好ましく、具体的な例としては、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ヘプタデシル酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられ、好ましくは、パルミチン酸カルシウム、ヘプタデシル酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムであり、特に好ましくはステアリン酸カルシウムである。
【0056】
(E)脂肪酸カルシウムの含有量としては(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、さらに好ましくは0.01〜5質量部であり、より好ましくは0.01〜3質量部である。脂肪酸カルシウムは1種類で用いても良いし、2種類以上組み合わせて用いても良い。脂肪酸カルシウムの含有量が0.01質量部よりも少ないと目的とする熱安定性を得ることができにくく、10質量部より多い場合は機械的特性等を損ねることになりやすい。
【0057】
[7.(F)離型剤]
本発明の樹脂組成物においては、離型剤を含有することも好ましい。
離型剤としては、例えば、高級脂肪酸アミド及び/又は高級脂肪酸ビスアミド、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。中でも、少量の添加で離型向上効果が優れる点から、高級脂肪酸アミド及び/又は高級脂肪酸ビスアミドが好ましい。
【0058】
[高級脂肪酸(ビス)アミド]
本発明で用いられる高級脂肪酸アミド及び/又は高級脂肪酸ビスアミド(以下、これらをあわせて「高級脂肪酸(ビス)アミド」という場合がある)は、高級脂肪酸のアミド、高級脂肪酸のビスアミドであり、高級脂肪酸及び/又は多塩基酸とジアミンとの脱水反応によって得られる化合物が好ましい。高級脂肪酸としては、炭素数16以上、例えば炭素数16〜30の飽和脂肪族モノカルボン酸が好ましく、具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられる。
多塩基酸としては、二塩基酸以上のカルボン酸で、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸類及びフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸並びにシクロヘキシルジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0059】
高級脂肪酸(ビス)アミドとしては、具体的には、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、モンタン酸アミドなどが挙げられる。また、高級脂肪酸ビスアミドとしては、上記の高級脂肪酸と炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6の脂肪族ジアミンとの反応により得られる高級脂肪酸ビスアミドが挙げられ、具体的には、メチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリルアミド等が挙げられる。これらのうち、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリルアミドが好ましい。
これらの高級脂肪酸(ビス)アミドは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0060】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0061】
一方、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおけるアルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する意味で用いる。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0062】
また、上記のエステルは、単一物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0063】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0064】
脂肪族炭化水素化合物としては、粘度平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物が好ましく、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素化合物としては、脂環式炭化水素化合物も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。
また、脂肪族炭化水素化合物の粘度平均分子量は、より好ましくは10,000以下である。
【0065】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
なお、脂肪族炭化水素化合物は単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0066】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0067】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0068】
(F)離型剤の含有量は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、その上限は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらには2質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の向上効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0069】
[8.ジヒドラジド化合物]
本発明の樹脂組成物は、ヒドラジド化合物を含有することも好ましい。
本発明に用いるヒドラジド化合物としては、脂肪族或いは芳香族の何れのヒドラジドでも使用することができるが、ジヒドラジド化合物が好ましく、特に、ジヒドラジド化合物として、(G)芳香族ジヒドラジド化合物及び20℃における水100gに対する溶解度が1g未満の脂肪族ジヒドラジド化合物より成る群から選ばれたジヒドラジド化合物を用いるのが好ましい。
芳香族ジヒドラジド化合物とは、2個のカルボン酸基やスルホン酸基を有する芳香族化合物のそれぞれの酸基にヒドラジンが反応した化合物で、例えば、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、1,5−ナフタレンジカルボヒドラジド、1,8−ナフタレンジカルボヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド、1,5−ジフェニルカルボノヒドラジド、2,4−トルエンジスルホニルヒドラジド、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等が挙げられる。
【0070】
また、20℃における水100gに対する溶解度(以下、「水溶解度」という場合がある。)が1g未満の脂肪族ジヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド(水溶解度0.2g以下)、セバシン酸ジヒドラジド(同0.01g以下)、1,12−ドデカン二酸ジヒドラジド(同0.01g以下)、1,18−オクタデカンジカルボヒドラジド(同0.1g以下)等が挙げられる。水溶解度が1g以上の脂肪族ジヒドラジド化合物は、ポリオキシメチレン樹脂組成物からのホルムアルデヒド発生抑制効果が十分でない傾向がある。
【0071】
ジヒドラジド化合物のなかでも好ましいものとしては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、1,12−ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等が挙げられる。特にセバシン酸ジヒドラジド、1,12−ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等を用いるのが好ましい。
【0072】
(G)芳香族ジヒドラジド化合物及び20℃における水100gに対する溶解度が1g未満の脂肪族ジヒドラジド化合物より成る群から選ばれたジヒドラジド化合物の含有量は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対して、0.01〜1質量部であることが好ましい。含有量が0.01質量部未満では成形品からのホルムアルデヒドの発生を低減させる効果が不十分で、逆に1質量部を超えると射出成形時の金型付着物が増加し、成形を効率的に行えなくなりやすい。より好ましい含有量は、0.05〜1質量部、特には、0.05〜0.5質量部である。
【0073】
[9.その他配合成分]
また、本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物には、上記の成分の他に、本発明の目的を損なわない範囲内で公知の種々の添加剤を含有してもよい。
添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール化合物等の熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、核剤、可塑剤、流動性改良剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、顔料、充填剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0074】
[10.ポリオキシメチレン樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、上記の(A)〜(C)成分、及び必要に応じて添加されるその他の成分を、任意の順序で混合、混練することによって製造することができる。
混合・混練の温度、圧力等の条件は、従来公知のポリオキシメチレン樹脂組成物の製造方法に鑑みて適宜選択すればよい。例えば、混練はポリオキシメチレン樹脂の溶融温度以上で行えばよいが、通常は180℃以上、230℃以下で行うのが好ましい。製造装置としても従来からこの種の樹脂組成物の製造に用いられている慣用の押出機や混練機、例えば、押出機、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル等を利用することができるが、特に好ましい溶融混合機又は混練機としては、押出機、ニーダー等の密閉式装置を挙げることができる。
【0075】
具体的には、例えば、(A)ポリオキシメチレン樹脂に対して、(B)導電性カーボンブラック、ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)またはポリエーテルエステルアミド(C−2)、さらに必要により含有するその他成分の所定量を、同時に又は任意の順序で配合し、ミキサー、押出機又は混練機等によって混合する。また、各成分は、個別に、あるいは順次供給したり、予め、前記配合原料の一部を混合したマスターバッチとして、供給してもよい。本発明においては、上記の各成分を予め混合して得られたドライブレンド物を一軸又は二軸押出機で溶融混練してストランド状に押出し、ペレット化することにより、所望の組成のポリオキシメチレン樹脂組成物を得る方法を採用することが好ましい。
またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、射出成形品、ブロー成形品あるいは押出成形品等にすることもできる。
【0076】
[11.成形品]
本発明ポリオキシメチレン樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、射出ブロー成形等の成形法により、種々の成形品とすることができる。流動性、加工性の観点から、射出成形が好ましい。
成形品としては、ペレット、丸棒、厚板等の素材、シート、チューブ、パイプ、各種容器、キャップ、また、機械、電気・電子機器、自動車、建材その他の各種部品等の製品が挙げられる。
特には、導電性・永久帯電防止性を必要とするOA機器部品、自動車部品、産業用機器部品、可燃物用容器・配管等に好適に使用することができる。例えば、自動車用燃料タンクのキャップやポンプモジュール部品、ガソリンスタンドの給油装置部品や配管部材、OA機器(たとえばプリンター、複写機、電子写真装置、ファクシミリ機)の軸受、ローラー、導電性ローラー、アース機能を付与した軸受、燃料ポンプ用部品、磁気ディスクドライブ装置のランプ部材、電気電子素子部品、電池関連部品、静電塗装装置部品、パソコン・携帯電話などに用いる電磁波シールド部品、キースィッチ等々に好適に使用することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0078】
実施例及び比較例で使用した各原料成分は、以下の表1のとおりである。
【表1】

【0079】
(実施例1〜9、比較例1〜2)
上記(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、表2に記載の上記各成分を、表2に記載した量で、秤取り、川田製作所社製スーパーミキサーを用いて均一に混合したのち、常法に従って、2軸押出機(池貝社製PCM−30、スクリュー径30mm)を用いて、スクリュー回転数120rpm、シリンダー設定温度190℃の条件下に、溶融混練したのち、ペレット化した。
以下の評価方法を行うことにより、表2に示す結果を得た。
【0080】
[測定及び評価方法]
測定及び評価は、以下の方法で行った。
(1)引張降伏点強度および破断点歪
上記ペレットを80℃で3時間、熱風循環乾燥機にて乾燥した後、住友重機械工業社製SG−75射出成形機を用いて、ISO9988−2規格に準拠し、シリンダー温度175〜195℃、金型温度90℃の条件で、ISO引張試験用試験片を作製した。得られた試験片を用い、ISO527規格に準拠して、引張強度の測定を行った。
【0081】
(2)シャルピー衝撃強度
上記ペレットを80℃で3時間、熱風循環乾燥機にて乾燥した後、、住友重機械工業社製SG−75射出成形機を用いて、ISO9988−2規格に準拠し、シリンダー温度175〜195℃、金型温度90℃の条件で、ISOシャルピー衝撃試験用試験片を作製した。得られた試験片を用い、ISO規格179−1及びISO179−2に準拠してシャルピー衝撃強度(ノッチ有り、無し)を測定した。
【0082】
(3)体積抵抗率
上記ペレットを80℃で3時間、熱風循環乾燥機にて乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製、SH100、型締め力100T)により、シリンダー温度175〜195℃、金型温度90℃の条件で、金型として縦100mm、横100mm、厚み2mmのものを使用し、体積抵抗率測定用試験片を作製した。得られた試験片を用い、JIS K7194に準拠し、「ロレスタAP MCP−T400」にて体積抵抗率を測定した。体積抵抗率はΩ・cmの単位で表示する。
【0083】
【表2】

【0084】
表2より明らかなとおり、本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物は、導電性に優れ、かつ引張降伏点強度、引張破断点歪、シャルピー衝撃強度(ノッチ付、ノッチ無し共)に優れことが分かる。
一方、比較例1〜2では、導電性はあるものの、引張破断点歪、シャルピー衝撃強度が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物は、導電性に優れ、かつ引張強度、伸び、衝撃強度等の物性バランスに優れたポリオキシメチレン樹脂材料である。
従って、本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物は、特には、導電性・永久帯電防止性を必要とするOA機器部品、自動車部品、産業用機器部品、可燃物用容器・配管等に好適に使用することができ、産業上の利用性は非常に高いものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)オキシメチレンユニットを主たる構成単位とする重合体中に、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1〜10モル含有するポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、(B)導電性カーボンブラック3〜15質量部、(C)ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)またはポリエーテルエステルアミド(C−2)を1〜10質量部含有することを特徴とするポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリオキシメチレン樹脂が、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量が高いポリオキシメチレン樹脂(A1)と炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量が低いポリオキシメチレン樹脂(A2)の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項3】
(A)オキシメチレン樹脂が、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり3〜7モル含有するポリオキシメチレン樹脂と、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを、オキシメチレンユニット100モルあたり0.1〜2.8モル含有するポリオキシメチレン樹脂との混合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(D)アミノ置換トリアジン化合物を、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜10質量部含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(E)脂肪酸カルシウムを、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜10質量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、(F)離型剤を、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜10質量部含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、(G)芳香族ジヒドラジド化合物及び20℃における水100gに対する溶解度が1g未満の脂肪族ジヒドラジド化合物より成る群から選ばれたジヒドラジド化合物を、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜1質量部含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項8】
ポリエチレングリコールもしくはそのイソシアネート変性物(C−1)の分子量が、10,000以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項9】
(F)離型剤が、高級脂肪酸アミド及び/又は高級脂肪酸ビスアミドであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2012−162589(P2012−162589A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21600(P2011−21600)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】