説明

ポリオキシメチレン樹脂組成物及び成形体

【課題】ポリオキシメチレン樹脂を含有する組成物であって、優れた耐衝撃性及び制振性能に加え、優れた耐油性をも付与されたポリオキシメチレン樹脂組成物及びその成形体を提供する。
【解決手段】本発明は、(A)ポリオキシメチレン樹脂と、(B)ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有し、粘弾性スペクトルにおけるtanδの主分散ピークが60℃以下である重合体又はその水添物と、(C)オイルと、を含有し、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との総量100質量部に対して、前記(A)成分の含有量が20〜99.5質量部であり、かつ前記(B)成分の含有量が0.25〜79.2質量部であり、前記(B)成分と前記(C)成分との総量100質量部に対して、前記(C)成分の含有量が1〜50質量部であるポリオキシメチレン樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシメチレン樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシメチレン樹脂は、バランスのとれた機械的特性と優れた摩擦摩耗性能とを併せ持つエンジニアリング樹脂として、各種の機構部品を初め、OA機器などに広く用いられている。しかしながら、従来、ポリオキシメチレン樹脂は、その耐衝撃性が十分なレベルにない。このため、ポリオキシメチレン樹脂をエラストマー成分との組成物として調製する試みがなされている。そのような試みとしては、ポリオキシメチレン樹脂にポリウレタン樹脂を配合する技術(例えば、特許文献1、2参照)、ポリオキシメチレン樹脂にオレフィン系エラストマーとポリウレタンとを配合する技術(例えば、特許文献3参照)、ポリアセタール樹脂に多層インターポリマーと熱可塑性ポリウレタンとを配合する技術(例えば、特許文献4参照)、ポリオキシメチレンに熱可塑性ポリウレタンとポリエーテルブロックコポリアミドとを配合する技術(例えば、特許文献5参照)などが知られている。これらの技術の中で、ポリウレタンをポリアセタール樹脂に添加する技術は実用化もされている。しかしながら、これらの組成物は優れた制振性能を有せず、更に摺動性能も著しく劣るため、制振及び消音を目的とする用途には適していない。
【0003】
この制振及び消音を目的とする用途へ展開の可能性のある材料として、熱可塑性ポリウレタンブロックと共役ジエン化合物単位と芳香族ビニル化合物単位とのブロックからなる樹脂とポリアセタール樹脂とからなる組成物(例えば、特許文献6参照)が知られている。しかしながら、この組成物は優れた制振性能を有しているものの、摺動性能に劣るため、その消音効果は小さいものである。
【0004】
そこで、上記の問題の解決技術として、本発明者らは、ポリオキシメチレン樹脂と、水素添加された芳香族ビニル−共役ジエンランダム共重合体を少なくとも一個有する粘弾性スペクトルにおけるtanδの主分散ピークが60℃以下の重合体と、任意にポリオレフィン系樹脂とを、特定範囲の割合で配合した組成物(特許文献7参照)を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−155453号公報
【特許文献2】特開昭59−145243号公報
【特許文献3】特開昭54−155248号公報
【特許文献4】特開昭62−036451号公報
【特許文献5】特開昭63−280758号公報
【特許文献6】特開平9−310017号公報
【特許文献7】国際公開第2005/035652号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献7で提案された組成物は、優れた制振性能及び消音効果を示すなど、上記従来の問題点を解決した組成物であるものの、耐油性は十分でなく、更に改良の余地がある。
【0007】
本発明は上記のような状況のもとでなされたものであって、ポリオキシメチレン樹脂を含有する組成物であって、優れた耐衝撃性及び制振性能に加え、優れた耐油性をも付与されたポリオキシメチレン樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリオキシメチレン樹脂組成物に、優れた耐衝撃性及び制振性能に加え、優れた耐油性を付与すべく、各種の高分子化合物を検討し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1](A)ポリオキシメチレン樹脂と、(B)ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有し、粘弾性スペクトルにおけるtanδの主分散ピークが60℃以下である重合体又はその水添物と、(C)オイルと、を含有し、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との総量100質量部に対して、前記(A)成分の含有量が20〜99.5質量部であり、かつ前記(B)成分の含有量が0.25〜79.2質量部であり、前記(B)成分と前記(C)成分との総量100質量部に対して、前記(C)成分の含有量が1〜50質量部であるポリオキシメチレン樹脂組成物。
[2]前記(A)成分は、(A−1)下記一般式(1)で表される数平均分子量10000〜500000のポリオキシメチレンブロック共重合体を含む、[1]記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
H−R3−O−(CR12k−R4−(CR12k−O−R3−H (1)
(式中、R1は水素原子、置換又は未置換のアルキル基、及び置換又は未置換のアリール基からなる群より選ばれる化学種を示し、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは2〜6の整数を示す。R3は下記一般式(2a)で表されるオキシメチレン単位と下記一般式(2b)で表されるオキシ炭化水素単位とを複数有するブロックを示し、前記オキシメチレン単位と前記オキシ炭化水素単位とは互いにランダムに存在し、前記オキシメチレン単位と前記オキシ炭化水素単位との総量100モル%に対して、前記オキシメチレン単位の含有量は95〜99.9モル%、前記オキシ炭化水素単位の含有量は0.1〜5モル%であり、2つのR3の平均の数平均分子量は5000〜250000である。R2は、水素原子、置換又は未置換のアルキル基、及び置換又は未置換のアリール基からなる群より選ばれる化学種を示し、互いに同一であっても異なっていてもよく、jは2〜6の整数を示す。R4は下記一般式(3a)で表されるエチレン単位と下記一般式(3b)で表されるn−ブチレン単位とを複数有するブロックを示し、前記エチレン単位と前記n−ブチレン単位とは互いにランダム又はブロックに存在し、前記エチレン単位と前記n−ブチレン単位との総量100モル%に対して、前記エチレン単位の含有量は2〜98モル%、前記n−ブチレン単位の含有量は2〜98モル%である。R4は、その数平均分子量が500〜10000であり、ヨウ素価20g−I2/100g以下の不飽和結合を有してもよい。)
−(CH2O)− (2a)
−((CR22j−O)− (2b)
−(CH2CH2)− (3a)
−(CH2CH2CH2CH2)− (3b)
[3]前記(A)成分は、(A−2)オキシメチレン単位と炭素数2以上のオキシアルキレン単位とを有し、前記オキシメチレン単位と前記オキシアルキレン単位との総量に対して、前記オキシアルキレン単位の含有量が0.1〜10モル%であるポリオキシメチレン共重合体を更に含み、前記(A−2)成分に対する前記(A−1)成分の質量比(A−1)/(A−2)が99/1〜10/90である、[2]記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
[4]前記(A)成分は、前記(A−1)成分からなる、[2]記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
[5]前記(B)成分の前記粘弾性スペクトルにおける前記tanδの主分散ピークが60℃〜−20℃である、[1]〜[4]のいずれか一つに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
[6][1]〜[5]のいずれか一つに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物を含む成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ポリオキシメチレン樹脂を含有する組成物であって、優れた耐衝撃性及び制振性能に加え、優れた耐油性をも付与されたポリオキシメチレン樹脂組成物及びその成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。ただし、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、(A)ポリオキシメチレン樹脂(「(A)成分」とも表記する。以下同様。)と、(B)ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有し、粘弾性スペクトルにおけるtanδの主分散ピークが60℃以下である重合体又はその水添物と、(C)オイルとを含有する樹脂組成物である。
【0012】
本実施形態で用いる(A)ポリオキシメチレン樹脂としては、ポリオキシメチレン単独重合体及びポリオキシメチレン共重合体が挙げられる。ポリオキシメチレン単独重合体は、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られるものである。したがって、ポリオキシメチレン単独重合体は、実質的にオキシメチレン単位からなる。ポリオキシメチレン共重合体は、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマールなどのグリコール、ジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテル、環状ホルマールとを共重合させて得られるものである。また、ポリオキシメチレン共重合体として、ホルムアルデヒドの単量体及び/又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる分岐を有するポリオキシメチレン共重合体、並びに、多官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる架橋構造を有するポリオキシメチレン共重合体も用いることができる。
【0013】
さらに、(A)ポリオキシメチレン樹脂は、両末端又は片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えばポリアルキレングリコール、の存在下、ホルムアルデヒドの単量体又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーを重合して得られるブロック成分を有するポリオキシメチレン単独重合体であってもよい。同じく、(A)ポリオキシメチレン樹脂は、両末端又は片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えば水素添加ポリブタジエングリコール、の存在下、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと環状エーテルや環状ホルマールとを共重合させて得られるブロック成分を有するポリオキシメチレン共重合体であってもよい。以上のように、本実施形態に係る(A)ポリオキシメチレン樹脂として、ポリオキシメチレン単独重合体及びポリオキシメチレン共重合体いずれをも用いられ得る。(A)ポリオキシメチレン樹脂は、好ましくはポリオキシメチレン共重合体を含む。
【0014】
トリオキサンを用いてポリオキシメチレン共重合体を得る場合、上記1,3−ジオキソラン等のコモノマーは、一般的には、トリオキサン100mol%に対して0.1〜60mol%、好ましくは0.1〜20mol%、更に好ましくは0.13〜10mol%用いられる。本実施形態において、ポリオキシメチレン共重合体の好適な融点は162℃〜173℃であり、より好ましくは167℃〜173℃、更に好ましくは167℃〜171℃である。その融点が167℃〜171℃であるポリオキシメチレン共重合体は、トリオキサン100mol%に対して1.3〜3.5mol%程度のコモノマーを用いることにより得ることができる。
【0015】
ポリオキシメチレン共重合体の重合に用いられる重合触媒としては、ルイス酸、プロトン酸及びそのエステル又は無水物等のカチオン活性触媒が好ましい。ルイス酸としては、例えば、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、より具体的には、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩が挙げられる。また、プロトン酸、そのエステル又は無水物の具体例としては、パークロル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸−3級ブチルエステル、アセチルパークロラート、トリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。これらの中でも、三フッ化ホウ素;三フッ化ホウ素水和物;及び、酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が好ましく、具体的には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテルを好適な例として挙げることができる。
【0016】
ポリオキシメチレン共重合体は、従来公知の方法、例えば米国特許第3027352号明細書、同第3803094号明細書、独国特許発明第1161421号明細書、同第1495228号明細書、同第1720358号明細書、同第3018898号明細書、特開昭58−98322号公報及び特開平7−70267号公報に記載の方法によって重合することができる。上記の重合により得られたポリオキシメチレン共重合体には、熱的に不安定な末端部〔−(OCH2n−OH基〕が存在するため、そのままでは実用に供することは困難である。そこで、不安定な末端部の分解除去処理を実施することが好ましく、具体的には、以下に示す特定の不安定末端部の分解除去処理を行うことが好適である。すなわち、その特定の不安定末端部の分解除去処理では、下記一般式(4)で表わされる少なくとも1種の第4級アンモニウム化合物の存在下に、ポリオキシメチレン共重合体の融点以上260℃以下の温度で、ポリオキシメチレン共重合体に対して、それを溶融させた状態で加熱処理を施す。
【0017】
[R5678+n-n (4)
ここで、式(4)中、R5、R6、R7及びR8は、各々独立して、炭素数1〜30の置換又は非置換のアルキル基;炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜30の置換又は非置換のアルキル基における少なくとも1個の水素原子が炭素数6〜20のアリール基で置換されたアラルキル基;又は、炭素数6〜20のアリール基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1〜30の置換又は非置換のアルキル基で置換されたアルキルアリール基を示し、置換又は非置換のアルキル基は直鎖状、分岐状、若しくは環状である。上記置換アルキル基における置換基は、ハロゲン原子、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、又はアミド基である。また、上記非置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基において水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。nは1〜3の整数を示す。Xは水酸基、又は炭素数1〜20のカルボン酸、ハロゲン化水素以外の水素酸、オキソ酸、無機チオ酸若しくは炭素数1〜20の有機チオ酸の酸残基を示す。
【0018】
第4級アンモニウム化合物は、上記一般式(4)で表わされるものであれば特に制限はないが、一般式(4)におけるR5、R6、R7、及びR8が、各々独立して、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、更に、R5、R6、R7、及びR8の少なくとも1つが、ヒドロキシエチル基であるものが特に好ましい。具体的には、テトラメチルアンモニウム、テトエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、1,6−ヘキサメチレンビス(トリメチルアンモニウム)、デカメチレン−ビス−(トリメチルアンモニウム)、トリメチル−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリプロピル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリ−n−ブチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム、トリプロピルベンジルアンモニウム、トリ−n−ブチルベンジルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、トリエチルフェニルアンモニウム、トリメチル−2−オキシエチルアンモニウム、モノメチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、モノエチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、オクダデシルトリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、テトラキス(ヒドロキシエチル)アンモニウム等の水酸化物;塩酸、臭酸、フッ酸等の水素酸塩;硫酸、硝酸、燐酸、炭酸、ホウ酸、塩素酸、よう素酸、珪酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、クロロ硫酸、アミド硫酸、二硫酸、トリポリ燐酸等のオキソ酸塩;チオ硫酸などのチオ酸塩;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸、シュウ酸などのカルボン酸塩が挙げられる。これらの中でも、水酸化物(OH-)、硫酸(HSO4-、SO42-)、炭酸(HCO3-、CO32-)、ホウ酸(B(OH)4-)、及びカルボン酸の塩が好ましい。カルボン酸の中では、蟻酸、酢酸、プロピオン酸が特に好ましい。第4級アンモニウム化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、上記第4級アンモニウム化合物に加えて、公知の不安定末端部の分解促進剤であるアンモニアやトリエチルアミン等のアミン類を併用してもよい。
【0019】
第4級アンモニウム化合物の使用量は、ポリオキシメチレン共重合体と第4級アンモニウム化合物との合計質量に対する下記式(5)で表わされる第4級アンモニウム化合物由来の窒素量に換算して、好ましくは0.05〜50質量ppm、より好ましくは1〜30質量ppmである。
P×14/Q (5)
ここで、式(5)中、Pは第4級アンモニウム化合物のポリオキシメチレン共重合体に対する濃度(質量ppm)を示し、14は窒素の原子量であり、Qは第4級アンモニウム化合物の分子量を示す。
【0020】
第4級アンモニウム化合物の使用量が0.05質量ppm未満であると不安定末端部の分解除去速度が低下する傾向にあり、50質量ppmを超えると不安定末端部の分解除去後のポリオキシメチレン共重合体の色調が悪化する傾向にある。
【0021】
本実施形態に係る(A)ポリオキシメチレン樹脂の不安定末端部は、融点以上260℃以下の温度でポリオキシメチレン樹脂を溶融させた状態で熱処理すると、分解除去される。この分解除去処理に用いる装置としては特に制限はないが、押出機、ニーダー等が好適である。分解により発生したホルムアルデヒドは通常、減圧下で除去される。第4級アンモニウム化合物をポリオキシメチレン共重合体中に存在させる方法には特に制約はなく、例えば、重合触媒を失活する工程において水溶液として添加する方法、重合により生成したポリオキシメチレン共重合体パウダーに吹きかける方法が挙げられる。いずれの方法を用いても、ポリオキシメチレン共重合体を加熱処理する工程において、その樹脂中に第4級アンモニウム化合物が存在していればよい。例えば、ポリオキシメチレン共重合体が溶融混練及び押し出される押出機の中に第4級アンモニウム化合物を注入してもよい。あるいは、その押出機等を用いて、ポリオキシメチレン共重合体にフィラーやピグメントを配合する場合、ポリオキシメチレン共重合体の樹脂ペレットに第4級アンモニウム化合物をまず添着し、その後のフィラーやピグメントの配合時に不安定末端部の分解除去処理を行ってもよい。
【0022】
不安定末端部の分解除去処理は、重合により得られたポリオキシメチレン共重合体と共存する重合触媒を失活させた後に行うことも可能であり、重合触媒を失活させずに行うことも可能である。重合触媒の失活処理としては、アミン類等の塩基性の水溶液中で重合触媒を中和失活する方法が挙げられる。重合触媒の失活を行わない場合、ポリオキシメチレン共重合体の融点以下の温度で不活性ガス雰囲気下にてその共重合体を加熱し、重合触媒を揮発により減少させた後、不安定末端部の分解除去操作を行うことも有効な方法である。
【0023】
上述のような不安定末端部の分解除去処理により、不安定末端部がほとんど存在しない非常に熱安定性に優れたポリオキシメチレン共重合体を得ることができる。
【0024】
これらの中でより好ましいポリオキシメチレン樹脂としては、(A−1)下記一般式(1)で表される数平均分子量10000〜500000のポリオキシメチレンブロック共重合体;あるいは、(A−2)オキシメチレン単位と炭素数2以上のオキシアルキレン単位とを有し、オキシメチレン単位とオキシアルキレン単位との総量に対して、オキシアルキレン単位を0.1〜10モル%、好ましくは0.1〜5モル%、より好ましくは0.2〜3モル%含有するポリオキシメチレン共重合体が挙げられる。これらの中でも特に好ましいポリオキシメチレン樹脂は、(A−1)下記一般式(1)で表される数平均分子量10000〜500000のポリオキシメチレンブロック共重合体である。この(A−1)ポリオキシメチレンブロック共重合体は、国際公開WO01/009213に示す方法により製造することが可能である。
【0025】
H−R3−O−(CR12k−R4−(CR12k−O−R3−H (1)
ここで、式中、R1は水素原子、置換又は未置換のアルキル基、及び置換又は未置換のアリール基からなる群より選ばれる化学種を示し、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは2〜6の整数を示す。R3は下記一般式(2a)で表されるオキシメチレン単位と下記一般式(2b)で表されるオキシ炭化水素単位とを複数有するブロックを示し、オキシメチレン単位とオキシ炭化水素単位とは互いにランダムに存在し、オキシメチレン単位とオキシ炭化水素単位との総量100モル%に対して、オキシメチレン単位の含有量は95〜99.9モル%、オキシ炭化水素単位の含有量は0.1〜5モル%であり、2つのR3の平均の数平均分子量は5000〜250000である。R2は、水素原子、置換又は未置換のアルキル基、及び置換又は未置換のアリール基からなる群より選ばれる化学種を示し、互いに同一であっても異なっていてもよく、jは2〜6の整数を示す。R4は下記一般式(3a)で表されるエチレン単位と下記一般式(3b)で表されるn−ブチレン単位とを複数有するブロックを示し、エチレン単位とn−ブチレン単位とは互いにランダム又はブロックに存在し、エチレン単位とn−ブチレン単位との総量100モル%に対して、エチレン単位の含有量は2〜98モル%、n−ブチレン単位の含有量は2〜98モル%である。R4は、その数平均分子量が500〜10000であり、ヨウ素価20g−I2/100g以下の不飽和結合を有してもよい。)
−(CH2O)− (2a)
−((CR22j−O)− (2b)
−(CH2CH2)− (3a)
−(CH2CH2CH2CH2)− (3b)
【0026】
上記置換アルキル基及び置換アリール基における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基及びアミド基が挙げられる。
【0027】
上記(A−1)成分は、オレフィン成分を含むポリマーとの相容性改良に効果があり、その点では(A−1)成分を単独で使用することが特に好ましい。また、(A−1)成分を(A−2)成分と併用する場合、それらの質量比(A−1)/(A−2)は、99/1〜10/90の範囲であると好ましく、95/5〜20/80の範囲であるとより好ましく、95/5〜70/30の範囲であると特に好ましい。
【0028】
本実施形態で用いられるポリオキシメチレン樹脂のメルトフローレイト(ASTM−D1238−57Tの条件で測定)は、成形加工の面から0.5g/10分以上であると好ましく、耐久性の面から100g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは1.0〜80g/10分、更に好ましくは5〜60g/10分、特に好ましくは7〜50g/10分の範囲である。
【0029】
本実施形態で用いられるポリオキシメチレン樹脂には、従来のポリオキシメチレン樹脂に使用されている安定剤、例えば熱安定剤の1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。熱安定剤としては、酸化防止剤、ホルムアルデヒドやぎ酸の捕捉剤及びこれらの組合せが好適である。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0030】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、1,4−ブタンジオール−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、トリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)が挙げられる。
【0031】
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、例えば、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネートメタン、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、N,N’−ビス−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プリピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’−テトラメチレンビス−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニルジアミン、N,N’−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニル)ヒドラジン、N−サリチロイル−N’−サリチリデンヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、N,N’−ビス(2−(3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)オキシアミドも挙げられる。
【0032】
これらヒンダードフェノール系酸化防止剤のなかでも、トリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンが好ましい。
【0033】
ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤としては、ホルムアルデヒド反応性窒素を含む化合物及び重合体、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、及びカルボン酸塩が挙げられる。ホルムアルデヒド反応性窒素を含む化合物及び重合体としては、例えば、ジシアンジアミド、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドとの共縮合物、ナイロン4−6、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン6−12、ナイロン12、ナイロン6/6−6、ナイロン6/6−6/6−10、ナイロン6/6−12等のポリアミド樹脂、ポリ−β−アラニン、ポリアクリルアミドが挙げられる。これらの中では、メラミンとホルムアルデヒドとの共縮合物、ポリアミド樹脂、ポリ−β−アラニン及びポリアクリルアミドが好ましく、ポリアミド樹脂及びポリ−β−アラニンがより好ましい。
【0034】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、及びカルボン酸塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはバリウムなどの水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、硼酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。具体的にはカルシウム塩が最も好ましく、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、珪酸カルシウム、硼酸カルシウム、及び脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)であり、これら脂肪酸は、ヒドロキシル基で置換されていてもよい。これらの中では、脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)が好ましい。
【0035】
安定剤の好ましい組合せは、特にトリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)又はテトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンに代表されるヒンダードフェノール系酸化防止剤と、特にポリアミド樹脂及びポリ−β−アラニンに代表されるホルムアルデヒド反応性窒素を含む重合体と、特に脂肪酸カルシウム塩に代表されるアルカリ土類金属の脂肪酸塩との組合せである。それぞれの安定剤の添加量は、ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.1〜2質量部、ホルムアルデヒド反応性窒素を含む重合体が0.1〜3質量部、アルカリ土類金属の脂肪酸塩が0.1〜1質量%の範囲であると好ましい。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物は、(B)ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体を含有する。(B)成分は、ビニル芳香族化合物と上記の共役ジエン化合物とを共重合したブロックを1個以上有する重合体又はその水添物であれば、いかなる重合体であってもよい。
【0037】
(B)成分は、これを樹脂組成物に添加することにより、耐衝撃性、制振性能の改良に効果がある。(B)成分として、具体的には、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックXと、少なくとも1個のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックYとからなるブロック共重合体、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックZと、少なくとも1個のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックYとからなるブロック共重合体、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックXと、少なくとも1個のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックY及び共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックZとからなるブロック共重合体、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ランダム共重合体、又はこれらの水添物が挙げられる。ここで、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックXにおけるビニル芳香族化合物の含有量は90質量%以上であると好ましく、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックYにおけるビニル芳香族化合物の含有量は、3重量%以上90質量%未満であると好ましく、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックZにおける共役ジエン化合物の含有量は97重量%以上であると好ましい。
【0038】
これらの中でもビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックXと、少なくとも1個のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックYとからなるブロック共重合体、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックZと、少なくとも1個のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックYとからなるブロック共重合体、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックXと、少なくとも1個のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックY及び共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックZとからなるブロック共重合体、又はこれらの水添物が、好ましい。上記のブロック共重合体中の共重合体ブロックはランダム共重合体ブロックであってもよく、その共重合体ブロックにおけるビニル芳香族化合物は均一に分布していても、又はテーパー状、すなわち、共重合体ブロック鎖の一方から他方に向かうにつれてその含有量が増加するように分布していてもよい。また、該共重合体ブロックについて、ビニル芳香族化合物が均一に分布しているブロック及び/又はテーパー状に分布しているブロックがそれぞれ複数個共存していてもよい。また該共重合体ブロックについて、ビニル芳香族化合物の含有量が異なるブロックが複数個共存していてもよい。
【0039】
ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックXと、少なくとも1個のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックYとからなるブロック共重合体としては、例えば、下記構造を有するブロック共重合体、すなわち、(X−Y)n、X−(Y−X)n−Y、Y−(X−Y)n+1、[(X−Y)km+1−W、[(X−Y)k−X]m+1−W、[(Y−X)km+1−W、[(Y−X)k−Y]m+1−Wが例示される。ここで、Wはカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物の開始剤の残基を示す。n、k及びmは、それぞれ独立に1以上の整数であり、一般的には1〜5である。
【0040】
また、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックZと、少なくとも1個のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックYとからなるブロック共重合体としては、例えば、下記構造を有するブロック共重合体、すなわち、(Z−Y)n、Z−(Y−Z)n−Y、Y−(Z−Y)n+1、[(Z−Y)km+1−W、[(Z−Y)k−Z]m+1−W、[(Y−Z)km+1−W、[(Y−Z)k−Y]m+1−Wが例示される。ここで、Wはカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物の開始剤の残基を示す。n、k及びmは、それぞれ独立に1以上の整数であり、一般的には1〜5である。
【0041】
さらに、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックXと少なくとも1個のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックY及び共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックZとからなるブロック共重合体としては、例えば、下記構造を有するブロック共重合体、すなわち、(X−Y−Z)n、X−(Y−X)n−Z、Z−(X−Y)n+1、[(X−Y−Z)km+1−W、[(X−Y−Z)k−X]m+1−W、[(Y−X−Z)km+1−W、[(Y−X)k−Z]m+1−Wが例示される。ここで、Wはカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物の開始剤の残基を示す。n、k及びmは、それぞれ独立に1以上の整数であり、一般的には1〜5である。
【0042】
上記のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体に用いるビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン及びジフェニルエチレンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、特にスチレンが好ましい。ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体におけるビニル芳香族化合物の含有量は、その重合体の総量に対して3〜90質量%であると好ましく、より好ましくは5〜88質量%、更に好ましくは10〜86質量%である。なお、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体におけるビニル芳香族化合物の含有量が50質量%以下、好ましくは40質量%以下の場合、その重合体はゴム的な弾性特性を示し、50質量%を超え、好ましくは60質量%を超える場合、高い制振性能を示す。本発明の目的を一層有効且つ確実に奏する観点から、上記ビニル芳香族化合物の含有量は、50〜80質量%であると好ましく、より好ましくは55〜75質量%の範囲、更に好ましくは60〜75質量%の範囲である。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物における(A)成分の含有量(配合割合)は、(A)成分と(B)成分と(C)成分との総量100質量部に対して、20〜99.5質量部であり、好ましくは20〜95質量部であり、更に好ましくは25〜90質量部であり、特に好ましくは30〜80質量部である。(A)成分が20質量部以上で成形加工時の流動性と成形品の外観とが良好となり、99.5質量部以下で優れた制振性能が付与される。
【0044】
上記のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体における共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン及び1,3−ペンタジエンが挙げられる。上記のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体における共役ジエン化合物の重合形式であるミクロ構造は特に限定されない。例えば、共役ジエン化合物がブタジエンである場合、1,2−ビニル結合、3,4−ビニル結合及び1,4−ビニル結合の合計量に対して、1,2−ビニル結合量が好ましくは2〜85%、より好ましくは8〜85%、更に好ましくは10〜85%である。また、共役ジエン化合物がイソプレンである場合、1,2−ビニル結合、3,4−ビニル結合及び1,4−ビニル結合の合計量に対する1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合との合計量が好ましくは2〜85%、より好ましくは3〜75%、更に好ましくは3〜60%である。そして、(B)成分の前駆体(プレポリマー)である共役ジエン化合物重合体、及び(B)成分であるビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体の数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算の分子量)は、それぞれ、好ましくは、1000〜1000000、より好ましくは10000〜800000、更に好ましくは30000〜500000である。
【0045】
ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体は、炭化水素溶媒中で、有機リチウム化合物を重合開始剤として共役ジエン化合物及びビニル芳香族化合物を、アニオン重合により重合して得られる。炭化水素溶媒としては、脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素を使用することができ、具体的には、プロパン、イソブタン、n−ヘキサン、イソオクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン及びトルエンが挙げられる。これらの中で好ましい溶媒は、n−ヘキサン、シクロヘキサン及びベンゼンである、炭化水素溶媒は1種を単独で又は2種以上の混合溶媒として用いられる。また、重合に使用する重合開始剤である有機リチウム化合物としては、例えば、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム及びtert−ブチルリチウム等のモノ有機リチウム化合物、並びに、ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,2−ジリチオ−1,2−ジフェニルメタン及び1,3,5−トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上の混合物で使用することができる。
【0046】
有機リチウム化合物の使用量は、目的とするビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体の数平均分子量に応じ、単分散ポリマー(重量平均分子量/数平均分子量=1)を前提とした計算で適宜選択できる。
【0047】
上記の共役ジエン化合物の重合形式であるミクロ構造の1,2−ビニル結合量、3,4−ビニル結合量の増加を抑制するため、あるいはビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体鎖中のランダム性を調整するために、上記重合において、エーテル類、第3級アミン類、アルカリ金属アルコキシド等の極性化合物を使用することができる。そのような極性化合物としては、例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジn−ブチルエーテル、エチレングリコールn−ブチル−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールジ−tert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、α−メトキシメチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシベンゼン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、カリウム−tert−アミルオキシド、カリウム−tert−ブチルオキシドが挙げられ、これらの化合物は1種を単独で又は2種以上の混合物として使用できる。かかる極性化合物を用いる場合の使用量は、有機リチウム化合物1モルに対して0モルを超えればよく、好ましくは0モルを超えて300モル以下である。
【0048】
さらに、ここで得たビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体に対して、炭化水素溶媒中で、水素添加触媒及び水素ガスを添加して水素添加反応を行うことにより、重合体中に存在する共役ジエン化合物に由来するオレフィン性不飽和結合を水添前の90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは55%以下、更に好ましくは20%以下まで低減化した、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体の水添物を得ることができる。この水添物を(B)成分として用いることもできる。共役ジエン化合物に由来するオレフィン性不飽和結合量が少ないほど、耐老化性や耐光性が高くなる。かかる水素添加反応は、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体に存在する共役ジエン化合物に由来するオレフィン性不飽和結合を低減化できるものであれば、その製法に制限はなく、いかなる製造方法でもよい。水素添加反応の方法として、例えば、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特開昭60−220147号公報、特開昭61−33132号公報、特開昭62−207303号公報、英国特許第1020720号明細書、米国特許第3333024号明細書及び同第4501857号明細書等に記載された方法が挙げられる。これらの方法で得られる水添物の水素添加率に関しては、赤外線分光分析、核磁気共鳴分析等により容易に知ることができる。
【0049】
これら(B)ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体又はその水添物は、粘弾性スペクトルにおけるtanδの主分散ピークが60℃以下であると常温(23℃)での制振・消音性能に優れる。さらに制振・消音の観点からは、その主分散ピークが60〜−30℃の範囲であると好ましく、60℃〜−20℃の範囲であるとより好ましく、50〜0℃の範囲であると更に好ましい。
【0050】
粘弾性スペクトルにおけるtanδの主分散ピークは下記のようにして測定される。まず、シート状の試料を、幅10mm、長さ35mmのサイズに切断し、レオメーター装置(商品名「ARES」、ティーエイインスツルメントー株式会社製)の捻りタイプのジオメトリーに試料をセットする。次いで、実効測定長さを25mm、ひずみを0.5%、周波数を1Hzに設定し、−80℃から80℃まで昇温速度3℃/分で昇温して粘弾性スペクトルを得る。得られた粘弾性スペクトルにおけるtanδの主分散ピーク温度は、所定のソフトウェア(商品名「RSI Orchestrator」、ティーエイインスツルメントー株式会社製)の自動測定により検出されるピークから求められる値である。
【0051】
この(B)ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有する重合体又はその水添物を、動架橋ポリマーとして使用することも可能である。
【0052】
本実施形態の樹脂組成物における(B)成分の含有量(配合割合)は、(A)成分と(B)成分と(C)成分との総量100質量部に対して0.25〜79.2質量部の範囲である。(B)成分が79.2質量部以下で成形加工時の流動性と成形品の外観とが良好となり、0.25質量部以上で優れた制振性能が付与される。好ましい(B)成分の配合割合は、(A)成分と(B)成分と(C)成分との総量100質量部に対して、5〜75質量部の範囲であり、より好ましくは10〜70質量部の範囲であり、更に好ましくは20〜70質量部の範囲である。
【0053】
(C)成分であるオイルを本実施形態の樹脂組成物に添加することにより、樹脂組成物の耐油性が改良される。ここで、オイルは、鉱物油系軟化剤又は合成樹脂系軟化剤のいずれであってもよい。鉱物油系軟化剤は、一般に、芳香族系炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素からなる群より選ばれる1種以上の軟化剤であり、通常、これら3種の軟化剤の混合物である。パラフィン系炭化水素の炭素原子数が全炭素原子中の50%以上を占めるものがパラフィン系オイルと呼ばれ、ナフテン系炭化水素の炭素原子数が全炭素原子中の30〜45%のものがナフテン系オイルと呼ばれ、また、芳香族系炭化水素の炭素原子数が35%以上のものが芳香族系オイルと呼ばれる。これらのなかで最も好ましいオイルは、パラフィン系オイルである。
【0054】
パラフィン系オイルとして、40℃における動粘度が好ましくは20〜800cst(センチストークス)、より好ましくは50〜600cstであり、流動度が好ましくは0〜−40℃、より好ましくは0〜−30℃であり、引火点(COC法)が好ましくは200〜400℃、より好ましくは250〜300℃であるものが用いられる。
【0055】
また、合成樹脂系軟化剤としては、例えば、ポリブテン、低分子量ポリブタジエンなどのポリαオレフィン系軟化剤、ポリオールエステル、ジエステル及びコンプレックスエステルなどのエステル系軟化剤、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン及び有機変性シリコーンなどのシリコーン系軟化剤を挙げられるが、この限りではない。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物における(C)成分の含有量は、(B)成分と(C)成分との総量100質量部に対して、1〜50質量部の範囲である。その含有量は、好ましくは3〜40質量部の範囲であり、より好ましくは5〜35質量部の範囲である。その含有量が1質量部以上であることにより、耐油性の効果が高くなり、その含有量が50質量%以下であることにより、耐衝撃性が極端に向上する。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法には、一般的に使用されている溶融混練機を用いることができる。溶融混練機としてはニーダー、ロールミル、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機が挙げられる。溶融混練の際の加工温度は180〜240℃であることが好ましく、品質や作業環境の保持のためには不活性ガスにより系内を置換したり、一段及び多段ベントで脱気したりすることが好ましい。
【0058】
また、(A)成分、(B)成分及び(C)成分をブレンダーで均一にブレンドした後、押出機にて混練する方法であってもよく、予め(C)成分と(B)成分とを混合した後、それらの混合物を(A)成分と混合し溶融混練してもよい。また、押出機の前段で(B)成分と(C)成分とを混練した後、サイドフィードにより(A)成分を押出機に供給して、それらを混練する方法であってもよく、押出機の前段で(B)成分と(C)成分とを混練した後、サイドフィードにより(C)成分を押出機に供給して、それらを混練する方法であってもよい。
【0059】
本実施形態の成形体は、上記樹脂組成物を成形して得られるものであり、その樹脂組成物を含む。この成形体は、射出成形法、ホットランナー射出成形法、アウトサート成形法、インサート成形法、ガスアシスト中空射出成形法、金型の高周波加熱射出成形法、圧縮成形法、インフレーション成形、ブロー成形、押出成形又は押出成形品の切削加工等の成形法で成形される。
【0060】
かかる成形体としては、例えば、ギヤ、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け及びガイド等に代表される機構部品、アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品が挙げられる。また、上記成形体としては、例えば、シャーシ、トレー、側板、プリンター及び複写機に代表されるオフィスオートメーション機器用部品、VTR(Video Tape Recorder)、ビデオムービー、デジタルビデオカメラ、カメラ及びデジタルカメラに代表されるカメラ又はビデオ機器用部品、カセットプレイヤー、DAT、LD(Laser Disk)、MD(Mini Disk)、CD(CompactDisk)(CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R(Recordable)、CD−RW(Rewritable)を含む。)、DVD(Digital Versatile Disk)(DVD−ROM、DVD−R、DVD−RW、DVD−RAM(Random Access Memory)、DVD−Audioを含む)、その他光デイスクドライブ、MFD、MO、ナビゲーションシステム及びモバイルパーソナルコンピュータに代表される音楽、映像又は情報機器、携帯電話及びファクシミリに代表される通信機器用部品、電気機器用部品、電子機器用部品が挙げられる。
【0061】
また、上記成形体としては、自動車用の部品であるガソリンタンク、フュエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジに代表される燃料廻り部品、ドアロック、ドアハンドル、ウインドウレギュレータ、スピーカーグリルに代表されるドア廻り部品、シートベルト用スリップリング、プレスボタン、スルーアンカー、タングに代表されるシートベルト周辺部品、コンビスイッチ部品、スイッチ類及びクリップ類の部品が挙げられる。さらに、上記成形体として、シャープペンシルのペン先及びシャープペンシルの芯を出し入れする機構部品、洗面台及び排水口、排水栓開閉機構部品、自動販売機の開閉部ロック機構及び商品排出機構部品、衣料用のコードストッパー、アジャスター及びボタン、散水用のノズル及び散水ホース接続ジョイント、階段手すり部及び床材の支持具である建築用品、使い捨てカメラ、玩具、ファスナー、チェーン、コンベア、バックル、スポーツ用品、自動販売機、家具、楽器及び住宅設備機器に代表される工業部品が好適に挙げられる。
【0062】
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、ポリオキシメチレン樹脂に優れた耐衝撃性、制振・消音性能を付与し、更に耐油性(耐グリース性)を改良した材料である。本実施形態の樹脂組成物は、精密機器、家電・OA機器、自動車、工業材料及び雑貨などにおける部品の材料として好適である。また、本実施形態の樹脂組成物は、OA機器、VTR機器、音楽・映像・情報機器、通信機器、自動車内外装部品及び工業雑貨の材料に好適である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。始めに、実施例及び比較例で用いる各成分及び評価方法を以下に示す。
【0064】
(各成分)
(A)ポリオキシメチレン樹脂
(A−1)成分
熱媒を通すことのできるジャケット付きの2軸パドル型連続重合機を80℃に調整し、水及び蟻酸を合わせて4ppm含むトリオキサンを40モル/時間、同時に環状ホルマールとして1,3−ジオキソランを2モル/時間、重合触媒としてシクロヘキサンに溶解させた三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1モルに対し5×10-5モルとなる量、連鎖移動剤として下記式(7)で表される両末端ヒドロキシル基水素添加ポリブタジエン(Mn=2330)をトリオキサン1モルに対し1×10-3モルになる量で、上記重合機に連続的に供給し重合を行った。重合機から排出されたポリマーをトリエチルアミン1%水溶液中に投入し重合触媒の失活を完全に行った後、そのポリマーを濾過、洗浄した。濾過洗浄後の粗ポリオキシメチレン共重合体1質量部に対し、第4級アンモニウム化合物として、トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム蟻酸塩を窒素の量に換算して20質量ppmになるよう添加し、それらを均一に混合した後、120℃で乾燥した。
【0065】
【化1】

【0066】
次に、上記乾燥後の粗ポリオキシメチレン共重合体100質量部に対し、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部、ステアリン酸カルシウムを0.02質量部添加し、ベント付き2軸スクリュー式押出機に供給した。押出機中の溶融しているポリオキシメチレン共重合体に必要に応じて水及び/又はトリエチルアミンを添加し、押出機の設定温度200℃、押出機における滞留時間5分の条件下で、その不安定末端部の分解を行った。不安定末端部を分解したポリオキシメチレン共重合体をベント真空度20Torrの条件下で脱揮し、押出機のダイス部よりストランドとして押し出しペレット化した。得られたブロック共重合体である(A−1)ポリオキシメチレン樹脂の曲げ弾性率は2550MPaであり、メルトフローレイトは9.3g/10分(ASTM D−1238−57T)であり、数平均分子量は52000であった。
【0067】
(A−2)成分
熱媒を通すことのできるジャケット付きの2軸パドル型連続重合機を80℃に調整し、水及び蟻酸を合わせて4ppm含むトリオキサンを40モル/時間、同時に環状ホルマールとして1、3−ジオキソランを2モル/時間、重合触媒としてシクロヘキサンに溶解させた三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1モルに対し5×10-5モルになる量、連鎖移動剤としてメチラール[(CH3O)2CH2]をトリオキサン1モルに対し2×10-3モルになる量で、上記重合機に連続的に供給し重合を行った。重合機から排出されたポリマーをトリエチルアミン1%水溶液中に投入し重合触媒の失活を完全に行った後、そのポリマーを濾過、洗浄した。濾過洗浄後の粗ポリオキシメチレン共重合体1質量部に対し、第4級アンモニウム化合物として、トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム蟻酸塩を窒素の量に換算して20質量ppmになるよう添加し、それらを均一に混合した後、120℃で乾燥した。
【0068】
次に、上記乾燥後の粗ポリオキシメチレン共重合体100質量部に対し、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部、ステアリン酸カルシウムを0.02質量部添加し、ベント付き2軸スクリュー式押出機に供給した。押出機中の溶融しているポリオキシメチレン共重合体に必要に応じて水及び/又はトリエチルアミンを添加し、押出機の設定温度200℃、押出機における滞留時間5分の条件下で、その不安定末端部の分解を行った。不安定末端部を分解したポリオキシメチレン共重合体をベント真空度20Torrの条件下で脱揮し、押出機ダイス部よりストランドとして押し出しペレット化した。得られた(A−2)ポリオキメチレン樹脂の曲げ弾性率2600MPaであり、メルトフローレイトは9.0g/10分(ASTM D−1238−57T)であり、数平均分子量は55000であった。
【0069】
(B)芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも一個有する重合体又はその水添物
窒素ガスで置換した攪拌機付き反応器内のシクロヘキサン溶媒中で、n−ブチルリチウムを重合開始剤として用い、X−Y−X構造を有し、数平均分子量100000、分子量分布1.1であるスチレン−ブタジエン共重合体を重合により得た。共重合体中のブロックX全ての含有量は15質量%であり、全結合スチレン量は62質量%であり、ブタジエン部分の1,2−ビニル結合量は30%であった。その後、窒素ガスで置換された別の反応器へ重合液を移送し、米国特許第4501857号明細書に記載された方法により、ポリブタジエン部分のエチレン性不飽和結合に対する水素添加反応を実施し、水素添加率50%のポリマーを得た。この水素添加反応後のポリマー溶液に熱劣化安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、溶剤であるシクロヘキサンを加熱除去した。こうして、水素添加されたX−Y−X構造を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも一個有する重合体の水添物を得た。このポリマーの粘弾性スペクトルにおけるtanδの主分散ピーク温度は10℃であった。
【0070】
(C)オイル
オイルとしてダイアナプロセスオイルPW380(出光興産(株)製、商品名)を用いた。
【0071】
[評価方法]
(1)機械的特性評価
実施例及び比較例で得られたペレットを80℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度205℃に設定された5オンス成形機(東芝機械(株)製、商品名「IS−100GN」)を用いて、金型温度90℃、射出時間35秒、冷却時間15秒の条件で物性評価用ISOダンベル試験片を成形した。この試験片に対して下記の試験を行った。
(i)引張伸度;ISO527−1&−2に基づいて測定した。
(ii)シャルピー衝撃強度;ISO179/1eAに基づいて測定した。
【0072】
(2)耐油性
実施例及び比較例で得られたペレットを80℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度200℃に設定された5オンス成形機(東芝機械(株)製、商品名「IS−100GN」)を用いて、金型温度70℃、射出時間20秒、冷却時間15秒の条件で30φギヤ試験片を成形した。この試験片に対して下記のようにして耐油性の試験を行った。
【0073】
まず、試験片のギヤ内径(D1)をマイクロゲージを用いて測定した。その後、試験片の開口部にグリース(商品名「PG641」、オレフィン系グリース、ダウコーニング製)を塗布し、70℃に加熱されたギヤオーブン内で9時間加熱処理を行った。試験片をオーブンから取り出した後、グリースを拭き取り、その試験片のギヤ内径(D2)を測定し、((D1)−(D2))を耐油性(μm)として評価した。
【0074】
(3)損失係数
無響音室にて、機械的特性評価に用いたものと同様の試験片の片方の端部を固定し、その固定端の根元をインパルスハンマーで打撃した際の放射音を測定し、小野測器社製の音響解析システムにより、ハンマーの加振力信号とマイクロホンの音圧信号との周波数応答関数から損失係数を求めた。損失係数の数値(%)が大きいと、制振性能・消音性能に優れることを意味する。
【0075】
[実施例1]
(A−1)成分20質量部と(B)成分62質量部とをブレンダーで均一に混合した後、その混合物を200℃に設定されたL/D=48の26mmφ二軸押出機(東芝機械(株)製、商品名「TEM−26SS」)のトップに重量式フィーダーを用いて供給した。さらに、(C)成分18質量部をその押出機に液添装置を用いて供給して、スクリュー回転数120rpm、押出速度11kg/時間の条件でそれらの溶融混練を行った。押し出された樹脂組成物をストランドカッターでペレット化とした。得られたペレットに対して上記各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例2]
(A−1)成分20質量部と、(B)成分62質量部と、安定剤としてトリエチレングリコール−ビス−〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕0.3質量部と、ポリアミド66 0.05質量部と、ステアリン酸カルシウム0.13質量部とを、ブレンダーで均一に混合した後、200℃に設定されたL/D=48の26mmφ二軸押出機(東芝機械(株)製、商品名「TEM−26SS」)のトップに重量式フィーダーを用いて供給した。さらに、(C)成分18質量部をその押出機に液添装置を用いて供給して、スクリュー回転数120rpm、押出速度11kg/時間の条件でそれらの溶融混練を行った。押し出された樹脂組成物をストランドカッターでペレット化した。得られたペレットに対して上記各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例3]
(B)成分77質量部を200℃に設定されたL/D=48の26mmφ二軸押出機(東芝機械(株)製、商品名「TEM−26SS」)のトップに重量式フィーダーを用いて供給し、(C)成分23質量部をその押出機に液添装置を用いて供給して、スクリュー回転数150rpm、押出速度15kg/時間の条件でそれらの溶融混練を行った。押し出された樹脂組成物をストランドカッターでペレット化した。得られた(B)成分と(C)成分との樹脂組成物80質量部と(A−1)成分20質量部と、安定剤としてトリエチレングリコール−ビス−〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕0.3質量部と、ポリアミド66 0.05質量部と、ステアリン酸カルシウム0.13質量部とを加え、ブレンダーで均一に混合した後、200℃に設定されたL/D=48の26mmφ二軸押出機(東芝機械(株)製、商品名「TEM−26SS」)のトップに重量式フィーダーを用いて供給して、スクリュー回転数120rpm、押出速度11kg/時間の条件で溶融混練を行った。押し出された樹脂組成物をストランドカッターでペレット化した。得られたペレットに対して上記各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例4〜8]
(A−1)成分と(B)成分と(C)成分との組成(単位:質量部。以下同様。)を表1に示すように変更した以外は実施例3と同様にしてペレットを得た。得られたペレットに対して上記各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例9〜11]
(A)成分として(A−1)成分及び(A−2)成分を表1に示す組成で用いた以外は実施例5と同様にしてペレットを得た。得られたペレットに対して上記各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例1〜5]
(A−1)成分及び/又は(A−2)成分と(B)成分と(C)成分とを表1に示す組成で用いた以外は実施例3と同様にしてペレットを得た。得られたペレットに対して上記各種測定を行った。結果を表2に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物は、成形、切削、又は成形・切削加工して得られる機構部品(例えば、ギヤ、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、関節、軸、軸受け、キーステム及びキートップからなる群から選ばれる少なくとも一種)、アウトサートシャーシの樹脂部品、シャーシ、トレー及び側板からなる群から選ばれる少なくとも一種の部品として用いることができ、下記の用途に利用可能性がある。すなわち、(1)プリンター及び複写機に代表されるOA機器に使用される部品、(2)VTR及びビデオムービーに代表されるビデオ機器に使用される部品、(3)カセットプレーヤー、LD、MD、CD(含CD−ROM、CD−R、CD−RW)、DVD(含DVD−ROM、DVD−R、DVD−RAM、DVD−Audio)、ナビゲーションシステム及びモバイルコンピューターに代表される音楽、映像、又は情報機器に使用される部品、(4)携帯電話、及びファクシミリに代表される通信機器に使用される部品、(5)自動車内外装部品に使用されるクリップ、スルーアンカー、タング、燃料タンク、燃料タンク及びその周辺部品に使用される部品、並びに、(6)使い捨てカメラ、玩具、ファスナー、コンベア、バックル、及び住設機器に代表される工業雑貨に使用される部品に産業上利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオキシメチレン樹脂と、(B)ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体ブロックを少なくとも1個有し、粘弾性スペクトルにおけるtanδの主分散ピークが60℃以下である重合体又はその水添物と、(C)オイルと、を含有し、
前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との総量100質量部に対して、前記(A)成分の含有量が20〜99.5質量部であり、かつ前記(B)成分の含有量が0.25〜79.2質量部であり、
前記(B)成分と前記(C)成分との総量100質量部に対して、前記(C)成分の含有量が1〜50質量部であるポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分は、(A−1)下記一般式(1)で表される数平均分子量10000〜500000のポリオキシメチレンブロック共重合体を含む、請求項1記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
H−R3−O−(CR12k−R4−(CR12k−O−R3−H (1)
(式中、R1は水素原子、置換又は未置換のアルキル基、及び置換又は未置換のアリール基からなる群より選ばれる化学種を示し、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは2〜6の整数を示す。R3は下記一般式(2a)で表されるオキシメチレン単位と下記一般式(2b)で表されるオキシ炭化水素単位とを複数有するブロックを示し、前記オキシメチレン単位と前記オキシ炭化水素単位とは互いにランダムに存在し、前記オキシメチレン単位と前記オキシ炭化水素単位との総量100モル%に対して、前記オキシメチレン単位の含有量は95〜99.9モル%、前記オキシ炭化水素単位の含有量は0.1〜5モル%であり、2つのR3の平均の数平均分子量は5000〜250000である。R2は、水素原子、置換又は未置換のアルキル基、及び置換又は未置換のアリール基からなる群より選ばれる化学種を示し、互いに同一であっても異なっていてもよく、jは2〜6の整数を示す。R4は下記一般式(3a)で表されるエチレン単位と下記一般式(3b)で表されるn−ブチレン単位とを複数有するブロックを示し、前記エチレン単位と前記n−ブチレン単位とは互いにランダム又はブロックに存在し、前記エチレン単位と前記n−ブチレン単位との総量100モル%に対して、前記エチレン単位の含有量は2〜98モル%、前記n−ブチレン単位の含有量は2〜98モル%である。R4は、その数平均分子量が500〜10000であり、ヨウ素価20g−I2/100g以下の不飽和結合を有してもよい。)
−(CH2O)− (2a)
−((CR22j−O)− (2b)
−(CH2CH2)− (3a)
−(CH2CH2CH2CH2)− (3b)
【請求項3】
前記(A)成分は、(A−2)オキシメチレン単位と炭素数2以上のオキシアルキレン単位とを有し、前記オキシメチレン単位と前記オキシアルキレン単位との総量に対して、前記オキシアルキレン単位の含有量が0.1〜10モル%であるポリオキシメチレン共重合体を更に含み、前記(A−2)成分に対する前記(A−1)成分の質量比(A−1)/(A−2)が99/1〜10/90である、請求項2記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)成分は、前記(A−1)成分からなる、請求項2記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)成分の前記粘弾性スペクトルにおける前記tanδの主分散ピークが60℃〜−20℃である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物を含む成形体。

【公開番号】特開2011−157448(P2011−157448A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19192(P2010−19192)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】