説明

ポリオレフィングラフト共重合体の製造方法および該製造法により得られた共重合体と熱可塑性樹脂を混合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒を用いてオレフィンモノマーを共重合して得られる重合体の特性向上のためのポリオレフィン共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 シリコーン系マクロモノマーラテックスにシリコーンと親和性のある疎水性有機溶媒、及びラテックスのミセル構造を破壊できる溶液を加え、後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒の存在下、オレフィンモノマーを共重合することにより目的とするポリオレフィン共重合体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配位重合触媒の存在下、オレフィンモノマーと、シリコーンポリマーとをグラフト共重合させることを特徴とする、ポリオレフィングラフト共重合体の製造方法および該製造法により得られた共重合体と熱可塑性樹脂を混合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフト共重合体は、その構造上の特徴から、ポリマーへの機能付与剤、表面機能付与剤、ポリマーブレンドの相溶化剤、ポリマー/フィラー系複合材料の界面活性化剤等々、機能性ポリマーとして有効に利用されている。
【0003】
また、乳化重合を利用して得られるグラフト共重合体としては、コアシェルポリマーが有名であり、特に、ジエン系ゴム粒子、アクリル系ゴム粒子、アクリル/シリコーン系複合ゴム粒子などを用いたコアシェルポリマー、例えば、ABS樹脂、MBS樹脂、ASA樹脂等が、耐衝撃性の高い樹脂あるいは樹脂組成物として市販されている。しかし、これらの樹脂はポリエチレン、ポリプロピレンなど低極性の樹脂には分散性が低いため適さないという問題があった。
【0004】
我々は既に、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、オレフィンモノマーと、乳化重合により製造された(メタ)アクリルマクロモノマーをグラフト共重合させることを特徴とする、ポリオレフィングラフト共重合体とその組成物並びに製造方法を見出しており(特許文献1)、このポリオレフィングラフト共重合体がポリオレフィンへの極性付与剤として機能しうることを示している。
【0005】
本願は、シリコーン系マクロモノマーラテックスに有機溶媒を加えて処理し、その後オレフィン重合を行うことによりハンドリング性が良好なシリコーン系のポリオレフィン共重合体が得られ、熱可塑性樹脂に配合することで、得られる成形体の摺動性を改良することができることを見出した。
【特許文献1】特開2003−147032
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、シリコーン、特に乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーラテックス存在下、オレフィンモノマーを配位重合させてポリオレフィンをグラフトさせた共重合体を製造する際に、配位重合触媒の失活を抑制し、少なかったポリオレフィンの生成量を改善した製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明を完成するにいたった。
【0008】
即ち本発明は、シリコーン系マクロモノマーラテックスにシリコーンと親和性のある疎水性有機溶媒、及びラテックスのミセル構造を破壊できる溶液を加え、後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒の存在下、オレフィンモノマーを共重合することにより得られることを特徴とするポリオレフィン共重合体の製造方法(請求項1)。
【0009】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Mはニッケル、パラジウム又は白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砥素またはアンチモンである。 R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1はフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。Rは水素、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、水酸基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエーテル基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエステル基、スルホン酸塩またげ炭素数1〜20の炭化水素基からなるスルホン酸エステル基である。)であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項2)。
【0012】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(2)、又は(3):
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Yはハロゲン原子である。mは1〜3である。)
であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項3)。
【0016】
一般式(1)における後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(4):
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1、Rf2は各々独立してフッ素原子または炭素数1〜20のふっ素化炭化水素基である。)
で表されることを特徴とする請求項2に記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項4)。
【0019】
一般式(1)〜(4)で表されるオレフィン重合用触媒のEが酸素、Xがリンであることを特徴とする請求項2〜4いずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項5)。
【0020】
一般式(1)〜(4)で表されるオレフィン重合用触媒のY又はRf1がフッ素であることを特徴とする請求項2〜5いずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項6)。
【0021】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(5)、又は(6):
【0022】
【化5】

【0023】
(式中、Mはニッケルまたはパラジウムである。R1,R4は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R2,R3は各々独立して水素原子、またはメチル基である。R5はハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、R5につながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L-は任意のアニオンである。)
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、Mはニッケルまたはパラジウムである。R1,R4は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R5はハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、R5につながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L-は任意のアニオンである。)
であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項7)。
【0026】
一般式(1)〜(6)で表される後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒のMがニッケルであることを特徴とする請求項2〜7いずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項8)。
【0027】
オレフィンモノマーが炭素数10以下のα‐オレフィンであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項9)。
【0028】
シリコーン親和性のある疎水性有機溶媒が脂肪族あるいは芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項10)。
【0029】
シリコーン系マクロモノマーラテックスのミセル構造を破壊する溶液が無機塩類あるいは無機酸もしくは有機酸の溶液であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法(請求項11)。
【0030】
請求項1〜11のいずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法により得られた共重合体と熱可塑性樹脂を混合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法(請求項12)である。
【発明の効果】
【0031】
本発明のポリオレフィン共重合体において、シリコーン系マクロモノマーラテックスを水と任意の割合で混合しない有機溶媒中に抽出することで、シリコーン系マクロモノマーラテックスそのものに対して配位重合触媒を添加してオレフィンモノマーを重合させたときよりも、配位重合触媒によるオレフィンモノマーの重合が効率良く進行する。その結果オレフィン重合量の高いポリオレフィングラフト共重合体を製造することができる。
また、合成した共重合体を添加した樹脂組成物は、従来の方法で合成した共重合体を添加した樹脂組成物の性能と同程度の耐磨耗性、摺動性を有し、さらに粉体特性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、シリコーン系マクロモノマーラテックスと、シリコーンと親和性のある疎水性有機溶媒、及びラテックスのミセル構造を破壊できる溶液を混合することにより、有機溶媒中にシリコーン系マクロモノマーを抽出し、有機溶媒中に抽出したシリコーン系マクロモノマーと配位重合触媒の存在下、オレフィンモノマーを重合して得られたポリオレフィン共重合体に関する。
【0033】
(配位重合触媒)
ポリオレフィンラテックスを製造するための配位重合触媒としては、水および極性化合物の共存下でオレフィン重合活性を有する配位重合触媒であれば特に制限はなく、好ましい例としてケミカル・レビュー(Chemical Review),2000年,100巻,1169−1203頁、ケミカル・レビュー(Chemical Review),2003年,103巻,283−315頁、有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293頁、アンゲバンテ・ケミー国際版(Angewandte Chemie International Edition),2002年,41巻,544−561頁に記載されているものを挙げる事ができる。
【0034】
但し、これに限定されるものではない。合成が簡便であり高活性が得られるという点から、一般式(5)〜(9)で示される後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が好ましい。
【0035】
【化7】

【0036】
(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R1,R4は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R2,R3は各々独立して水素原子、またはメチル基である。R5はハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、R5につながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L-は任意のアニオンである。)
【0037】
【化8】

【0038】
(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R1,R4は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R5はハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、R5につながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L-は任意のアニオンである。)
【0039】
【化9】

【0040】
(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R6,R7,R8は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1はフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。Rは水素、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、水酸基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエーテル基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエステル基、スルホン酸塩または炭素数1〜20の炭化水素基からなるスルホン酸エステル基である。)
【0041】
【化10】

【0042】
【化11】

【0043】
(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R6,R7,R8は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Yはハロゲン原子である。mは1〜3である。)
一般式(5)または(6)で示される後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒は、Brookhart触媒として知られている。
【0044】
水中で安定であることから特にMはパラジウムが好ましい。R1,R4で表される炭素数1〜4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−ブチル基などが好ましく、さらに好ましくはメチル基、イソプロピル基が好ましい。
【0045】
Xで表されるMに配位可能な分子としては、ジエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル、水、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどの極性化合物を例示することができるが、なくてもよい。またR5がヘテロ原子、特にエステル結合等のカルボニル酸素を有する場合には、このカルボニル酸素がXとして配位してもよい。
【0046】
また、オレフィンとの重合時には、該オレフィンが配位する形になることが知られている。 また、L-で表される対アニオンは、α−ジイミン型の配位子と遷移金属とからなる触媒と助触媒の反応により、カチオン(M+)と共に生成するが、溶媒中で非配位性のイオンペアを形成できるものならばいずれでもよい。
【0047】
両方のイミン窒素に芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子、具体的には、ArN=C(R2)−C(R3)=NArで表される化合物は、合成が簡便で、活性が高いことから好ましい。R2、R3は炭化水素基であることが好ましく、特に、水素原子、メチル基、および一般式(2)で示されるアセナフテン骨格としたものが合成が簡便で活性が高いことから好ましい。さらに、両方のイミン窒素に置換芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子を用いることが、立体因子的に有効で、ポリマーの分子量が高くなる傾向にあることから好ましい。従って、Arは置換基を持つ芳香族基であることが好ましく、例えば、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニルなどが挙げられる。
【0048】
本発明の後周期遷移金属錯体から得られる活性種中の補助配位子(R5)としては、炭化水素基あるいはハロゲン基あるいは水素基が好ましい。後述する助触媒のカチオン(Q+)が、触媒の金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合あるいは水素−炭素結合から、ハロゲン等を引き抜き、塩が生成する一方、触媒からは、活性種である、金属−炭素結合あるいは金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合を保有するカチオン(M+)が発生し、助触媒のアニオン(L-)と非配位性のイオンペアを形成する必要があるためである。
【0049】
5を具体的に例示すると、メチル基、クロロ基、ブロモ基あるいは水素基が挙げられ、特に、メチル基あるいはクロロ基が、合成が簡便であることから好ましい。なお、M+−ハロゲン結合へのオレフィンの挿入よりM+−炭素結合(あるいは水素結合)へのオレフィンの挿入の方がおこりやすいため、触媒の補助配位子として特に好ましいR5はメチル基である。
さらに、R5としてはMに配位可能なカルボニル酸素を持つエステル結合を有する有機基であってもよく、例えば、酪酸メチルから得られる基が挙げられる。
【0050】
助触媒としては、Q+-で表現できる。Qとしては、Ag、Li、Na、K、Hが挙げられ、Agがハロゲンの引き抜き反応が完結しやすいことから好ましく、Na、Kが安価であることから好ましい。Lとしては、BF4、B(C65)4、B(C63(CF32)4、PF6、AsF6、SbF6、(RfSO22CH、(RfSO23C、(RfSO22N、RfSO3が挙げられる。特に、PF6、AsF6、SbF6、(RfSO22CH、(RfSO23C、(RfSO22N、RfSO3が、極性化合物に安定な傾向を示すという点から好ましく、さらに、PF6、AsF6、SbF6が、合成が簡便で工業的に入手容易であるという点から特に好ましい。
【0051】
活性の高さからは、BF4、B(C65)4、B(C63(CF324が、特にB(C65)4、B(C63(CF324が好ましい。Rfは複数のフッ素基を含有する炭化水素基である。これらフッ素は、アニオンを非配位的にするために必要で、その数は多いほど好ましい。Rfの例示としては、CF3、C25、C49、C817、C65があるが、これらに限定されない。またいくつかを組み合わせてもよい。
【0052】
一般式(7)、(8)または(9)で示される後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒は、SHOP(Shell Higher Olefin Process)触媒として知られている。
(7)の中でも下記一般式(10):
【0053】
【化12】

【0054】
(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R6,R7,R8は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1,Rf2は各々独立してフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。)で表されるオレフィン系重合用触媒が好ましい。特に、Rf1がフッ素化炭化水素基である場合、乳化系でも高いエチレン重合活性を示すことが報告されている(Angew.Chem.Int.Ed.2002年,41巻,544頁)。Rf2を電子吸引性のフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基にすることでより高活性およびまたはより高分子量のポリオレフィンを得ることができる。
(7)は、以下の反応により調製するのが好ましい。
【0055】
【化13】

【0056】
(反応式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R6,R7,R8は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1はフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。Rは水素、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、水酸基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエーテル基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエステル基、スルホン酸塩または炭素数1〜20の炭化水素基からなるスルホン酸エステル基である。MLnはゼロ価のニッケル、パラジウムまたは白金化合物である。LはMに対して配位し、Mの価数をゼロ価に保持するものであれば特に制限はない。nは自然数である)。
【0057】
これらの反応が進行しやすいことから、Mはゼロ価のニッケルであることが好ましい。Eは酸素であることが好ましい。Xはリンであることが好ましい。
【0058】
f1、Rは各々独立して炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基が好ましい。具体例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニル基等が挙げられる。特に、Rf1はトリフルオロメチル基が好ましく、Rf2はペンタフルオロフェニル基が好ましい。
【0059】
また、R6,R7,R8は各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基が、特に置換芳香族基が好ましい。置換芳香族基として最も好ましいのはフェニル基である。
【0060】
(8)あるいは(9)は、以下の化合物によりその場で調製される配位子を用いてその場の反応で調製するのが好ましい。
【0061】
【化14】

【0062】
【化15】

【0063】
(反応式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R6,R7,R8は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Yはハロゲン原子である。mは1〜3である。MLnはゼロ価のニッケル、パラジウムまたは白金化合物である。LはMに対して配位し、Mの価数をゼロ価に保持するものであれば特に制限はない。nは自然数である。)
これらの反応が進行しやすいことから、Mはゼロ価のニッケルであることが好ましい。Eは酸素であることが好ましい。Xはリンであることが好ましい。
【0064】
ゼロ価のニッケル化合物としては、例えば、ビス(シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(シクロオクタテトラエン)ニッケル、ビス(1、3、7-オクタトリエン)ニッケル、ビス(シクロドデカトリエン)ニッケル、ビス(アリル)ニッケル、ビス(メタリル)ニッケル、トリエチレンニッケル、ビス(ブタジエン)ニッケル、ビス(イソプレン)ニッケルが好ましく、ビス(シクロオクタジエン)ニッケルが特に好ましい。
【0065】
これらビス(シクロオクタジエン)ニッケルは公知の方法に従って合成することもできるし、固体を取り出すことなく溶液のまま用いてもよい(例えば、実験化学講座第4版、371頁に準じて2価のニッケル化合物とシクロオクタジエン等とトリアルキルアルミニウムとから合成できる)。
【0066】
また、Yは塩素またはフッ素、特にフッ素であることが好ましい。
また、R6,R7,R8は各々独立して、炭素数1〜20の炭化水素基が、特に置換芳香族基が好ましい。置換芳香族基として最も好ましいのはフェニル基である。
【0067】
反応の促進のために、ホスフィン、ホスフィン酸化物、ケトン、エステル、エーテル、アルコール、ニトリル、アミン、ピリジン、オレフィン等を共存させるのが好ましい。特にオレフィンを共存させるのが好ましい。
【0068】
反応温度は0〜100℃、15〜70℃が好ましい。反応時間に特に制限はないが、20分間〜24時間が好ましい。反応は不活性雰囲気下で行うのが好ましく、アルゴン、窒素等が挙げられる。場合により微量の酸素、水分が存在していてもよい。反応は、通常溶媒を使用して実施するのが好ましく、溶媒としては脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。
【0069】
例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロヘプタン、エチルシクロヘキサン、ブチルクロリド、塩化メチレン、クロロホルムが挙げられる。一般に溶媒中のMの濃度は、1〜20000μmol/L、さらには10〜10000μmol/Lの範囲が好ましい。
【0070】
反応において、MLn/配位子のモル比は、反応収率を高めるため少なくともMLnを等量以上使用するのがよく、4/1〜1/1が好ましく、3/1〜2/1がより好ましい。
本発明のオレフィン系重合触媒は複核であってもよい。
【0071】
本発明のオレフィン系重合用触媒(7)、(8)、(9)の具体例としては、ニッケルが入手性の点から優れており、特に下記一般式で示される化合物を好適に例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0072】
【化16】

【0073】
【化17】

【0074】
【化18】

【0075】
(式中、Phはフェニル基、R’は炭素数1〜6の炭化水素基、nは1〜3を示す)。
【0076】
(オレフィンモノマー)
本発明に用いられる、オレフィンモノマーは、配位重合可能な炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物である。オレフィンモノマーの好ましい例としては炭素数2〜20のオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン等が挙げられる。
【0077】
この中でも炭素数10以下のα−オレフィンが重合活性の高さから好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
これらのオレフィンモノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上使用してもよい。
【0078】
また、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ジメタノオクタヒドロナフタリン、ジシクロペンタジエン等のジエンを少量併用してもよい。ジエンの使用量はオレフィンモノマー100重量部に対して好ましくは0〜20重量部である。
【0079】
オレフィンモノマーの使用量としては、制限はないが、分子量の大きい重合体を収率良く得られるという点から、オレフィンモノマー/触媒活性種がモル比で10〜109、さらには100〜107、とくには1000〜105とするのが好ましい。
【0080】
(シリコーン系マクロモノマー)
本発明で用いられる、乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーは、オレフィン系モノマーとグラフト共重合しうる炭素−炭素二重結合を1分子内に少なくとも1個以上持つことが好ましい。この炭素−炭素二重結合は配位重合しやすいものがよいが、特にアリル末端(α−オレフィン構造)、環状オレフィン末端、スチリル末端、(メタ)アクリル末端のものが好ましく、特に、(メタ)アクリル末端およびアリル末端のものが、配位重合しやすく、すなわち、オレフィンとグラフト共重合しやすいという点で好ましい。
【0081】
本発明の乳化重合により用いられたシリコーン系マクロモノマーは、オルガノシロキサンを主成分とするマクロモノマーである。
【0082】
オルガノシロキサンとしては、公知のものが多数存在するが、制限はなく、必要な機能に応じて、オルガノシロキサンの1種あるいは2種以上を選択すればよい。さらに、本発明のシリコーン系マクロモノマーは、他の単量体を含んでいても良い。主鎖骨格は直鎖状でも環状でも分岐状でも良く、架橋により三次元的な網目構造を取っていても良い。本発明のシリコーン系マクロモノマーは微粒子であっても良い。複合粒子であっても良く、コアシェル構造を取っていても良い。
【0083】
本発明のシリコーン系マクロモノマーは、オルガノシロキサン(以下、オルガノシロキサン(A−1)ともいう)と、分子内に該オルガノシロキサン(A−1)と反応可能な官能基および配位重合可能な炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、化合物(A−2)ともいう)とを反応させてなるシリコーン系マクロモノマーであることが好ましく、必要に応じて該オルガノシロキサン(A−1)および/または化合物(A−2)と反応可能な官能基を有する単量体(以下、化合物(A−3)ともいう)を含有していても良い。各成分の使用量には特に制限は無く任意の量で用いて良いが、好ましい使用量は、オルガノシロキサン(A−1)は好ましくは40〜99.99重量%、さらに好ましくは60〜99.9重量%である。
【0084】
少なすぎると得られるポリオレフィン系グラフト重合体の物性が低下しうる。化合物(A−2)は好ましくは0.01〜25重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。少なすぎるとオレフィン系モノマーとのグラフトが不充分になり、多すぎると得られるポリオレフィン系グラフト重合体の物性が低下しうる。化合物(A−3)を使用する場合は、好ましくは0〜50重量%以下、さらに好ましくは0〜30重量%以下である。多すぎると得られるポリオレフィン系グラフト重合体の物性が低下しうる。ただし、これらオルガノシロキサン(A−1)、化合物(A−2)および化合物(A−3)の合計は100重量%である。
【0085】
前記オルガノシロキサン(A−1)は、シリコーン系マクロモノマーの主骨格を構成するための成分である。オルガノシロキサン(A−1)は、乳化重合しうる液状のものであれば任意の分子量のものを使用しうるが、得られるシリコーン系マクロモノマーの物性が設計しやすいという点から、好ましくは分子量1000以下、特に好ましくは500以下である。オルガノシロキサン(A−1)としては、直鎖状、環状または分岐状のものを使用することが可能である。乳化重合系の適用可能性および経済性の点から、環状シロキサンが好ましい。
【0086】
かかる環状シロキサンの具体例としては、たとえばヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、1,2,3,4−テトラハイドロ−1,2,3,4−テトラメチルシクロテトラシロキサンなどがあげられる。また、2官能性のアルコキシシランもかかるオルガノシロキサン(A−1)として用いることができ、その具体例としては、たとえばジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシランなどがあげられる。さらには、環状シロキサンと2官能性のアルコキシシランとを併用することもできる。これらオルガノシロキサン(A−1)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
前記化合物(A−2)は、それ自身が有する官能基により前記オルガノシロキサン(A−1)と反応する。その結果、得られるシリコーン系マクロモノマーの側鎖または末端に配位重合可能な炭素−炭素二重結合を導入させることができる。この配位重合可能な炭素−炭素二重結合は、該シリコーン系マクロモノマーとオレフィン系モノマーとのグラフト共重合を可能にするための成分である。前記配位重合可能な炭素−炭素二重結合は、ビニル末端、アリル末端(α−オレフィン構造)、環状オレフィン末端、スチリル末端、(メタ)アクリル末端の炭素−炭素二重結合が好ましく、特に(メタ)アクリル末端およびアリル末端のものが、配位重合しやすく、すなわち、オレフィンとグラフト共重合しやすいという点で好ましい。
【0088】
化合物(A−1)と反応するための基としては、珪素原子に結合した加水分解性アルコキシ基またはシラノール基、あるいは化合物(A−1)と開環共重合しうる環状シロキサン構造を持つ基を用いることが好ましい。化合物(A−2)の具体例としては、たとえば3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン化合物、および1,3,5,7−テトラキス(アクリロキシプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5−トリス(アクリロキシプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサンなどのオルガノシロキサンがあげられる。
【0089】
これらのうち珪素1原子に加水分解性アルコキシ基またはシラノール基が2つ結合した化合物が好ましい。中でも3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが反応性が良好であるという点で特に好ましい。これら化合物(A−2)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
前記化合物(A−3)は、前記オルガノシロキサン(A−1)および/または化合物(A−2)と反応することでシリコーン系マクロモノマーの物性を調整することができる成分である。例えば珪素原子に結合した加水分解性基を分子中に少なくとも3個有する多官能シラン化合物またはその部分加水分解縮合物を用いると、シリコーン系マクロモノマー中に架橋構造を導入してTgや弾性率を調整することができる。
【0091】
このような多官能シラン化合物の具体例としてはメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリ(メトキシエトキシ)シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、などのアルコキシシラン、およびその部分加水分解縮合物;メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、テトラアセトキシシランなどのアセトキシシラン、およびその部分加水分解縮合物があげられる。また、化合物(A−3)としては、オルガノシロキサン(A−1)および/または化合物(A−2)と反応しうる官能基を有する非シリコーン系マクロモノマーを用いることもできる。そのようにしてシリコーンとアクリルとの複合粒子を得ることも可能である。これら化合物(A−3)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
本発明に用いられるシリコーン系マクロモノマーは、酸性もしくは塩基性条件下で行われる通常の重合方法により製造することができる。たとえば前記オルガノシロキサン(A−1)、化合物(A−2)ならびに必要に応じて用いられる化合物(A−3)を、乳化剤および水とともにホモミキサー、コロイドミル、ホモジナイザーなどを用いてエマルジョンとし、ついで、系のpHをアルキルベンゼンスルホン酸や硫酸などで2〜4に調整し、加熱して重合させた後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ成分を加えて中和するなどの方法で製造することができる。
【0093】
なお、原料の全部を一括添加したのち、一定時間撹拌してからpHを小さくしてもよく、また原料の一部を仕込んでpHを小さくしたエマルジョンに残りの原料を逐次追加してもよい。逐次追加するばあい、そのままの状態または水および乳化剤と混合して乳化液とした状態のいずれで添加してもよいが、重合速度の面から、乳化状態で追加する方法を用いることが好ましい。反応温度は50〜95℃が好ましい。50℃未満では重合速度が遅くなり、95℃を超えると重合安定性が乏しくなる。反応時間は好ましくは1〜100時間であり、さらに好ましくは5〜50時間である。反応時間が短すぎると重合が不充分であり、長すぎると生産性が低くなる。
【0094】
酸性条件下で重合を行う場合、通常、ポリオルガノシロキサンの骨格を形成しているSi−O−Si結合は切断と結合生成の平衡状態にある。この平衡は温度によって変化し、低温になるほど高分子量のポリオルガノシロキサンが生成しやすくなる。したがって、高分子量のポリオルガノシロキサンを得るためには、加熱によりオルガノシロキサン(A−1)を重合した後、重合温度以下に冷却して熟成を行うことが好ましい。具体的には、50℃以上で重合を行い重合転化率が75〜90%、さらに好ましくは82〜89%に達した時点で加熱を止め、10〜50℃、好ましくは20〜45℃に冷却して5〜100時間程度熟成を行うことができる。なお、ここで言う重合転化率は原料中のオルガノシロキサンの低揮発分への転化率を意味する。
【0095】
乳化重合に用いる水の量についてはとくに制限は無く、モノマーを乳化分散させるために必要な量であれば良く、通常前記オルガノシロキサン(A−1)、化合物(A−2)および化合物(A−3)の合計量に対して1〜20倍の重量を用いれば良い。使用する水の量が少なすぎると、であるモノマーの割合が相対的に多くなるため、エマルジョンがW/OからO/Wへの相の転換が起こりにくくなり、水が連続層となりにくい。使用する水の量が多すぎると安定性に乏しくなる上、釜効率が低くなる。
【0096】
乳化重合に用いる乳化剤は、反応を行うpH領域において乳化能を失わないものであれば特に限定なく公知のものを使うことができる。かかる乳化剤の例としては、たとえばアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0097】
また、該乳化剤の使用量にはとくに限定がなく、目的とするシリコーン系マクロモノマーの粒子径などに応じて適宜調整すればよい。充分な乳化能が得られ、かつ得られるシリコーン系マクロモノマーとそれから得られるポリオレフィン系グラフト共重合体の物性に悪影響を与えないという点から、前記エマルジョン中に0.05〜20重量%用いるのが好ましく、特には0.1〜10重量%用いるのが好ましい。
【0098】
シリコーン系マクロモノマーの粒子径は、前記乳化剤の使用量の増減などの通常の乳化重合技術を用いて制御することが可能である。熱可塑性樹脂と配合したときに良好な分散性を発現する点から、好ましくは20〜1000nm、さらに好ましくは30〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0099】
本発明の乳化重合により製造されたシリコーン系マクロモノマーは、上述のように単一のシリコーン系マクロモノマーのみからなるものであっても良いし、1種あるいは2種以上のマクロモノマーからなる複合粒子、さらにはラテックスブレンドであってもよい。
【0100】
(シリコーン系マクロモノマーとオレフィンモノマーの共重合)
本発明のポリオレフィン共重合体は、ビニルモノマーを通常の乳化重合法によりラジカル共重合させて得られるシリコーン系マクロモノマーラテックスに、シリコーン系マクロモノマーと親和性のある疎水性有機溶媒、及びラテックスのミセル構造を破壊できる溶液を加え、その後、後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒の存在下、オレフィンモノマーを共重合することにより得ることができる。
【0101】
本願で用いるマクロモノマーと親和性のある疎水性有機溶媒は水と任意の割合で混合しないものが好ましく、シリコーン系マクロモノマーラテックスに加えることにより、ラテックス中に含まれているシリコーン系マクロモノマーを水層から有機溶媒中に移動でき、また当該有機溶媒が実質的に水に溶解しないものであればよく、アルコールのように水に対する溶解性が高い有機溶媒以外が好ましい。
【0102】
マクロモノマーと親和性のある疎水性有機溶媒としては脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ブチルクロリド、塩化メチレン、クロロホルムが挙げられる。
【0103】
また、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等の極性溶媒であってもよいが、水溶性が比較的低く、かつオレフィンモノマー重合用触媒が溶解しやすい溶媒であることが特に好ましい。特に好ましい例としてはトルエン、塩化メチレン、クロロホルムおよびブチルクロリド、クロロベンゼン等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。
【0104】
また、抽出するマクロモノマーラテックスの固形分量としては、35%以下が良く、好ましくは2〜20%、さらには3〜10%程度が好ましい。固形分量の高いラテックスに対しては、純水を加えて上記の濃度まで希釈して抽出操作を行うことが好ましい。また、抽出するマクロモノマーラテックスの容量に対して、有機溶媒の量は特に制限はないが、同量またはそれ以上の量を使用することが好ましく、有機溶媒の量を多くするほど、マクロモノマーの凝集を防いで効率よく抽出が行える。
【0105】
ラテックスの固形分量、用いる疎水性有機溶媒の種類によってその使用量は一概には特定できないが、あえてその好ましい範囲を示すなら、実用的にはラテックス量の0.25倍容量〜3倍容量、さらにはラテックス量の0.5倍容量〜2.5倍容量が好ましい範囲として例示できる。
ラテックスの固形分量が低く例えば3〜10%程度の場合は、ラテックス量の0.25倍容量〜2倍容量、さらにはラテックス量の0.5倍容量〜1.8倍容量が好ましい範囲として例示できる。
【0106】
また、抽出操作時に併用するラテックスのミセル構造を破壊できる溶液については、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、硫酸塩又はアミノ酸塩類の水溶液等が挙げられる。例としては、塩化カルシウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、硫酸カルシウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液、アルギン酸ナトリウム水溶液等が挙げられる。これらの塩の水溶液は、飽和状態の上澄み液を使用しても良いが、好ましくは重量パーセント濃度が0.01〜20%の水溶液、さらに好ましくは5〜15%の水溶液が良い。これらの塩の水溶液は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。また、塩類の水溶液の添加量として特に制限はないが、抽出するマクロモノマーラテックスの容量以下が良く、好ましくはラテックス容量の半分以下、さらに好ましくはラテックス容量の3〜15%が良い。
【0107】
本発明の抽出操作において、シリコーン系マクロモノマーラテックスと有機溶媒を例えば攪拌等の手段で混合している所へ、上記の塩類の水溶液を少量ずつ添加することが好ましい。
塩類の水溶液の添加速度は遅くするのが好ましく、添加速度が速すぎるとシリコーン系マクロモノマーが凝集して、有機溶媒中に効果的に取り込まれなくなることがある。
【0108】
本発明の、配位重合触媒を用いた、オレフィンモノマーの重合方法は、溶液重合法または、(ミクロ)懸濁重合法等の方法で行うことができる。例えばトルエン中に配位重合触媒およびオレフィンモノマーを均一に分散させて反応させることが出来る。用いるオレフィンモノマーが反応温度において気体である場合は、低温で凝縮あるいは凝固させて液体もしくは固体として仕込んだ後に系を反応温度まで加熱しても良いし、圧力をかけて液体または気体として仕込んでも良い。オレフィンモノマーおよび配位重合触媒は、反応容器内に一括して全量を仕込んでも一部を仕込んだ後に残りを連続的にまたは間欠的に追加しても良い。
【0109】
本発明の、配位重合触媒を用いたオレフィンモノマーの重合方法において、(ミクロ)懸濁重合に用いる分散剤を添加することができる。具体例としてはリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、澱粉末シリカ等の水難溶性無機化合物;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等のノニオン系高分子化合物;ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタクリル酸およびその塩、メタクリル酸エステルとメタクリル酸およびその塩との共重合体等のアニオン系高分子化合物などがあげられる。
【0110】
重合の際、オレフィンモノマーおよび配位重合触媒の溶解度を高め反応を促進するための有機溶媒を併用してもよい。用いることができる有機溶媒としては特に制限はないが、脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ブチルクロリド、塩化メチレン、クロロホルムが挙げられる。配位重合触媒を用いる場合、配位重合触媒をこれら溶媒に溶解あるいは分散した状態で好ましくは溶解した状態で重合系に添加することが好ましい。
【0111】
また、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等の極性溶媒であってもよいが、水溶性が比較的低く、かつ触媒が溶解しやすい溶媒であることが特に好ましい。特に好ましい例としてはトルエン、塩化メチレン、クロロホルムおよびブチルクロリド、クロロベンゼン等が挙げられる。
【0112】
これらの溶媒は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。溶媒の合計使用量は、抽出操作に用いた疎水性有機溶媒も含めて反応液全体の体積に対して80容量%以下、さらには67容量%以下、特には55容量%以下が好ましい。これらの溶媒は、そのまま添加してもよいし、乳化させて添加しても良い。
【0113】
本発明のオレフィン共重合体の製造は、−30〜200℃、好ましくは0〜100℃で行われる。重合時間は特に制限はないが、通常10分〜5時間、反応圧力は特に制限はないが、常圧〜10MPaである。温度および圧力は、反応開始から終了まで常時一定に保っても良いし、反応途中で連続的もしくは段階的に変化させても良い。
【0114】
用いるオレフィンモノマーがエチレン、プロピレンなどの気体である場合は、重合反応によるモノマー消費に伴って徐々に圧力が低下しうるが、そのまま圧力を変化させて反応を行っても良く、モノマーを供給したり加熱するなどにより常時一定の圧力を保って反応を行っても良い。
【0115】
本発明により得られるポリオレフィン共重合体は通常固体として得られるが、微粒子で得られる事が好ましい。
【0116】
(樹脂組成物)
本発明のポリオレフィン共重合体は、各種の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に配合することにより樹脂組成物を製造するための原料として用いることができる。
【0117】
前記熱可塑性樹脂としては、一般に用いられている樹脂、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンオクテンゴム、ポリメチルペンテン、エチレン環状オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体などのビニルポリマー、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル−ポリスチレン複合体、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォンなどのエンジニアリングプラスチックが好ましく例示される。
【0118】
前記熱硬化性樹脂としては、一般に用いられている樹脂、例えばフェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ホリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが好ましく例示される。これら熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうちポリオレフィンが本発明のポリオレフィングラフト共重合体の分散性が良好であるという点で好ましく、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレンなどがあげられ好ましい。
【0119】
熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂とポリオレフィン共重合体との配合割合は、成形品の物性がバランスよくえられるように適宜決定すればよいが、充分な物性を得るためにはグラフト共重合体の量が熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂100重量部に対して0.1重量部以上、好ましくは5重量部以上であり、また熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の特性を維持するためには、グラフト共重合体粒子の量が熱可塑性樹脂100重量部に対して500重量部以下、好ましくは100重量部以下が好ましい。
【0120】
本発明のオレフィン共重合体の製造方法は、配位重合触媒によるオレフィンの重合、およびビニル系モノマーのラジカル重合のいずれも高い重合活性を維持できる。また、オレフィン系共重合体はポリオレフィン成分を含むためポリエチレン、ポリプロピレンなど低極性の樹脂に対しても良好な分散性を示し、かつビニル成分を含むため様々な機能を付与することができる。
【0121】
本発明の有機溶媒中にシリコーン系マクロモノマーを抽出し、有機溶媒中に抽出したシリコーン系マクロモノマーと配位重合触媒の存在下、オレフィンモノマーを重合して得られたポリオレフィン共重合体は、(組成物も含む)は、プラスチック、ゴム工業において知られている通常の添加剤、たとえば可塑剤、安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、ガラス繊維、充填剤、高分子加工助剤などの配合剤を含有することができる。
【0122】
本発明のポリオレフィン共重合体組成物を得る方法としては、通常の熱可塑性樹脂の配合に用いられる方法を用いることができ、たとえば、熱可塑性樹脂と本発明のポリオレフィン共重合体および所望により添加剤成分とを、加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて溶融混練することで製造することができる。また各成分の混練順序は特に限定されず、使用する装置、作業性あるいは得られる熱可塑性樹脂組成物の物性に応じて決定することができる。
【0123】
かくして得られるグラフト共重合体組成物の成形法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる、たとえば射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法などの成形法があげられる。
【実施例】
【0124】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
【0125】
[摺動性試験]
後述の手順でサンプルシート(厚さ0.7mm)を作成し、そこから約10×4cmの長方形のシートを切り出した。HEIDON TYPE 14DR(新東化学株式会社)にガラス球(φ=5mm、R=2.5)を取り付け、サンプルシートにセットし、そこに荷重200gをかけ、速度30mm/minで動かしたときの静摩擦係数(μs)、及び、動摩擦係数(μk)によって評価を行った。なお、試験は1サンプルにつき異なった3箇所で測定を行いその平均値を求めた。
【0126】
(合成例1)配位子の合成
窒素雰囲気下、Helvetica Chimica Acta.1928頁,76巻,1993年を参考にして合成したペンタフルオロベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド2.61g、乾燥THF(和光純薬(株)製)11mlを仕込み、氷浴を用いて0℃に冷却した。モレキュラーシーブで乾燥したトリエチルアミン(和光純薬(株)製)1.5mlを加え、15分攪拌した。さらにトリフルオロ酢酸無水物(東京化成製)0.78mlを滴下し、0℃で1時間、室温(15℃)で1時間反応させた。
【0127】
濾液を濃縮し、蒸留水(和光純薬(株)製)15mlで洗浄、乾燥した。得られた生成物を60℃のメタノールに溶解させ0℃まで徐々に冷却し、再結晶を行った。乾燥後の収量は、1.5gであった。1H−NMR(CDCl3)により、ベンジルプロトンが消失していることから、下記化学式で示される化合物が生成していることを確認した。
【0128】
【化19】

【0129】
(実施例1)シリコーン存在下でのエチレン共重合(1)
メタクリル基含有ポリジメチルシロキサンラテックス、固形分量47.6%)12.5mgに蒸留水112.5mLを加えて固形分量を4.76%として、500mL4口フラスコに入れた。このシリコーンラテックス溶液を攪拌しながら、減圧とアルゴン(エアウォーター社製、超高純度アルゴンガス)置換を20回繰り返すことで、シリコーンラテックス溶液の脱気と、フラスコ内のアルゴン置換を行った。
【0130】
次に、このアルゴン置換を行ったシリコーンラテックス溶液に1時間のアルゴンバブリング処理をしたトルエン125mLを攪拌しながら加えた。さらに1時間のアルゴンバブリング処理をした(追加しました)10%塩化カルシウム水溶液(重量パーセント濃度)12.5mLをシリンジで滴下すると2時間後にはトルエン層が白濁し、水層はほぼ無色透明となった。トルエン層と水層を共にアルゴン雰囲気下の耐圧オートクレーブ(TAIATSU TECHNO社製、TAS−1型オートクレーブ)にシリンジで導入し、オートクレーブ内液温を55℃に調節した。
【0131】
一方、Ni(cod)2(関東化学社製)7.0mg(25μmol)をアルゴン雰囲気下でシュレンク管に秤量した。また、別のシュレンク管に、(合成例1)の配位子を3.5mg(6.5μmol)秤量してアルゴン雰囲気下にした。Ni(cod)2、及び、配位子のシュレンクに0.15mLずつトルエンを加えて、これらを溶解させた後、Ni(cod)2のトルエン溶液を配位子のトルエン溶液に加えた。続いて、この溶液に1−ヘキセン(和光純薬社製、蒸留後、1時間のアルゴンバブリング処理をしたもの)0.09mLを加えた。1−ヘキセンを加えると、触媒溶液は黄色からオレンジ色へと変化した。色調の変化を確認した後、この溶液をシリンジでオートクレーブに加え、直ちに600rpmで撹拌を開始し、エチレンガス(住友精化(株)社製、PUREグレード)でオートクレーブ内を3MPaとした。エチレン導入後、エチレンの消費にともなう発熱が観測され、液温が上昇した。
【0132】
オートクレーブ内液温を55℃に保ち2時間反応させた後、未反応のエチレンガスを除去したところ、シャーベット状の生成物を得た。乾燥後、得られた白色固体の質量から生成したポリエチレンの質量を算出し、この反応での単位触媒あたりのエチレンモノマー取り込み数を示すTurn Over Number (以下、TONと略す)を求めた。
この反応での、ポリエチレンの生成量は3.26g、TON=17,900であった。仕込んだシリコーンの量を基準にすると、生成物内のポリエチレンとシリコーンの重量比は、ポリエチレン:シリコーン=1.00:1.83、であると算出した。
【0133】
また、シリコーン(シリコーンラテックスを塩化カルシウム水溶液で塩析した後、大量の水で洗って得た)は粘性の非常に高い油状であるのに対し、得られた共重合体は白色粉末として得られており、ポリエチレンと共重合させることによってハンドリング性が非常に向上した。
【0134】
得られたグラフト共重合体中に含まれるシリコーンについて、グラフトしているシリコーンとグラフトしていないシリコーンを、トルエンへの溶解度の差を利用して分離した。即ち、円筒濾紙内にポリエチレン重合後の生成物を約1gを精秤して100mLナス型フラスコに仕込み、この100mLナス型フラスコにトルエン80mLを加えて、室温で3時間処理した。トルエン中に抽出された量(シリコーン)と円筒濾紙内に残った量(グラフ共重合体)から、生成したグラフト共重合体中に含まれるシリコーンの内、ポリエチレンにグラフトした割合は69%と算出した。
【0135】
得られたグラフト共重合体2.0gとランダムPP(PC540R、サンアロマー社製)40gをプラストミル(東洋精機製、LABOPLASTOMILL)を用いて200℃、10分間、100rpmで溶融混練することにより熱可塑性樹脂組成物を得、185℃プレス(神藤金属工業所、型式NSF−50)して約0.7mm厚のシートを作成し、摺動性試験を行い評価した。
【0136】
(実施例2)シリコーン存在下でのエチレン共重合(2)
メタクリル基含有ポリジメチルシロキサンラテックス(固形分量47.6%)12.5mgに蒸留水112.5mLを加えて固形分量を4.76%として、500mL4口フラスコに入れた。このシリコーンラテックス溶液を攪拌しながら、減圧とアルゴン(エアウォーター社製、超高純度アルゴンガス)置換を20回繰り返すことで、シリコーンラテックス溶液の脱気と、フラスコ内のアルゴン置換を行った。
【0137】
次に、このアルゴン置換を行ったシリコーンラテックス溶液に1時間のアルゴンバブリング処理をしたトルエン125mLを攪拌しつつ加えた。さらに1時間のアルゴンバブリング処理をした10%塩化カルシウム水溶液(重量パーセント濃度)12.5mLをシリンジで滴下すると塩化カルシウムを加えてから2時間後にはトルエン層が白濁し、水層はほぼ無色透明となった。トルエン層と水層を共にアルゴン雰囲気下の耐圧オートクレーブ(TAIATSU TECHNO社製、TAS−1型オートクレーブ)にシリンジで導入し、オートクレーブ内液温を55℃に調節した。
【0138】
一方、Ni(cod)2(関東化学社製)13.8mg(50μmol)をアルゴン雰囲気下でシュレンク管に秤量した。また、別のシュレンク管に、(合成例1)の配位子を6.8mg(12.6μmol)秤量してアルゴン雰囲気下にした。Ni(cod)2、及び、配位子のシュレンクに0.3mLずつトルエンを加えて、これらを溶解させた後、Ni(cod)2のトルエン溶液を配位子のトルエン溶液に加えた。続いて、この溶液に1−ヘキセン(和光純薬社製、蒸留後、1時間のアルゴンバブリング処理をしたもの)0.18mLを加えた。1−ヘキセンを加えると、触媒溶液は黄色からオレンジ色へと変化した。色調の変化を確認した後、この溶液をシリンジでオートクレーブに加え、直ちに750rpmで撹拌を開始し、エチレンガス(住友精化(株)社製、PUREグレード)でオートクレーブ内を3MPaとした。エチレン導入後、エチレンの消費にともなう発熱が観測され、液温がわずかに上昇した。また、発熱終了後、オートクレーブ内液温を55℃に保ち攪拌を続けていたところ、反応開始30分経過頃から再び発熱が始まり、液温は90℃まで上昇した。
【0139】
その後、オートクレーブ内液温を65℃に保ち2時間反応させた後、未反応のエチレンガスを除去したところ、シャーベット状の生成物を得た。乾燥後、得られた白色固体のポリエチレンの生成量は27.7g、TON=78,500であった。仕込んだシリコーンの重量を基準にすると、生成物内のポリエチレンとシリコーンの重量比は、ポリエチレン:シリコーン=1.00:0.22、と算出した。触媒量を増やし、反応時の攪拌回転数を上げたことにより、より多くのポリエチレンが生成したために、相対的に生成物中のシリコーンの割合が小さくなってしまったと考えられる。
【0140】
(実施例1)と同様に、得られた共重合体は白色粉末として得られており、ポリエチレンと共重合させることによってシリコーンのハンドリング性は向上した。
得られたグラフト共重合体中に含まれるシリコーンについて、実施例1と同様にして生成したグラフト共重合体中に含まれるシリコーンの内、ポリエチレンにグラフトしている割合は53%と算出した。
【0141】
(比較例1)シリコーンラテックス存在下でのエチレン共重合
メタクリル基含有ポリジメチルシロキサンラテックス(固形分量47.6%)25mgに蒸留水225mLを加えて固形分量を4.76%として、500mL4口フラスコに入れた。このシリコーンラテックス溶液を攪拌しながら、減圧とアルゴン(エアウォーター社製、超高純度アルゴンガス)置換を20回繰り返すことで、シリコーンラテックス溶液の脱気とフラスコ内のアルゴン置換を行った後、アルゴン雰囲気下の1Lの耐圧オートクレーブ(TAIATSU TECHNO社製、TAS−1型オートクレーブ)にチューブを用いて導入し、オートクレーブ内液温を55℃に調節した。
【0142】
一方、Ni(cod)2(関東化学社製)14.0mg(51μmol)をアルゴン雰囲気下で20mlシュレンク管に秤量した。また、別の20mlシュレンク管に、(合成例1)の配位子を6.8mg(12.6μmol)秤量してアルゴン雰囲気下にした。Ni(cod)2、及び、配位子のシュレンクに0.3mLずつトルエンを加えて、これらを溶解させた後、Ni(cod)2のトルエン溶液を配位子のトルエン溶液に加えた。続いて、この溶液に1−ヘキセン(和光純薬社製、蒸留後、1時間のアルゴンバブリング処理をしたもの)0.18mLを加えた。1−ヘキセンを加えると、触媒溶液は黄色からオレンジ色へと変化した。
【0143】
色調の変化を確認した後、この溶液をシリンジでドデシル硫酸ナトリウム25mgと蒸留水0.9mLを入れた20mLシュレンク管に注入した。この混合液を超音波ホモジナイザー(SMT company社製、超音波分散機 UH‐600)によって乳化させた。なお、乳化の際の超音波の作用時間は10秒間程度である。この触媒乳化溶液を、先にシリコーンラテックス溶液を仕込んでおいた1Lオートクレーブ内にシリンジで加えた後、ただちに750rpmで撹拌を開始し、エチレンガス(住友精化(株)社製)でオートクレーブ内を3MPaとした。しかし、エチレンガスの消費、及び、オートクレーブ内液温の上昇は、反応全体を通して、まったくみられなかった。
【0144】
その後、オートクレーブ内液温を65℃に保ち2時間反応させた。反応後、未反応のエチレンガスを除去し、白色のラテックスを得た。しかし、少量をサンプリングして算出した乳化溶液中固形分量と仕込み固形分量がほぼ等しいことから、エチレンの重合は全く起こっていないと判断した。
【0145】
(比較例2)比較のシート(ランダムPP+シリコーン)作成
ランダムPP(PC540R、サンアロマー社製)40gとシリコーン2.0g(前述のメタクリル基含有ポリジメチルシロキサンラテックスラテックスを、10%塩化カルシウム水溶液を用いて塩析させた後、大量の純水で洗浄したもの)をプラストミル((株)東洋精機製、LABOPLASTOMILL)を用いて200℃、10分間、100rpmで溶融混練することにより熱可塑性樹脂組成物を得、185℃でプレスして約0.7mm厚のシートを作成し、摺動性試験を行い評価した。
【0146】
(比較例3)比較のシート(ランダムPP)作成
ランダムPP(PC540R、サンアロマー社製)40gをプラストミル((株)東洋精機製、LABOPLASTOMILL)を用いて200℃、10分間、100rpmで溶融混練することにより熱可塑性樹脂組成物を得、185℃でプレスして約0.7mm厚のシートを作成し、摺動性試験を行い評価した。
上記の3種類の熱可塑性樹脂組成物の物性の一覧を(表1)に摺動性試験の結果を示す。
【0147】
【表1】

【0148】
(表1)より、シリコーンとPEの共重合体の含有サンプル(実施例1)は、シリコーンのみ含まれるサンプル(比較例2)及び、シリコーン成分の含まれないサンプル(比較例3)に比べ、摩擦係数が小さいことから摺動性が向上していることが認められる。また、前述のように、シリコーンは粘性の非常に高い油状であるのに対し、得られた共重合体は白色粉末として得られており、ポリエチレンと共重合させることによってハンドリング性が非常に向上している。これらのことから、得られたグラフト共重合体は、ポリオレフィンにシリコーンの特徴である摺動性を付与できる改質剤として有用であり耐摩耗性の改良も期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン系マクロモノマーラテックスにシリコーンと親和性のある疎水性有機溶媒、及びラテックスのミセル構造を破壊できる溶液を加え、後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒の存在下、オレフィンモノマーを共重合することにより得られることを特徴とするポリオレフィン共重合体の製造方法。
【請求項2】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(1):
【化1】

(式中、Mはニッケル、パラジウム又は白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砥素またはアンチモンである。 R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1はフッ素原子または炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基である。Rは水素、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、水酸基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエーテル基、炭素数1〜20の炭化水素基からなるエステル基、スルホン酸塩またげ炭素数1〜20の炭化水素基からなるスルホン酸エステル基である。)
であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項3】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(2)、又は(3):
【化2】

【化3】

(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Yはハロゲン原子である。mは1〜3である。)
であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)における後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(4):
【化4】

(式中、Mはニッケル、パラジウムまたは白金である。Eは酸素または硫黄である。Xはリン、砒素またはアンチモンである。R1、R2、R3は各々独立して、水素または炭素数1〜20の炭化水素基である。Rf1、Rf2は各々独立してフッ素原子または炭素数1〜20のふっ素化炭化水素基である。)
で表されることを特徴とする請求項2に記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)〜(4)で表されるオレフィン重合用触媒のEが酸素、Xがリンであることを特徴とする請求項2〜4いずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)〜(4)で表されるオレフィン重合用触媒のY又はRf1がフッ素であることを特徴とする請求項2〜5いずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項7】
後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒が下記一般式(5)、又は(6):
【化5】

(式中、Mはニッケルまたはパラジウムである。R1,R4は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R2,R3は各々独立して水素原子、またはメチル基である。R5はハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、R5につながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L-は任意のアニオンである。)
【化6】

(式中、Mはニッケルまたはパラジウムである。R1,R4は各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R5はハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、R5につながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。L-は任意のアニオンである。)
であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項8】
一般式(1)〜(6)で表される後周期遷移金属錯体系のオレフィン重合用触媒のMがニッケルであることを特徴とする請求項2〜7いずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項9】
オレフィンモノマーが炭素数10以下のα‐オレフィンであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項10】
シリコーン親和性のある疎水性有機溶媒が脂肪族あるいは芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項11】
シリコーン系マクロモノマーラテックスのミセル構造を破壊する溶液が無機塩類あるいは無機酸もしくは有機酸の溶液であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のポリオレフィングラフト共重合体の製造方法により得られた共重合体と熱可塑性樹脂を混合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2008−138019(P2008−138019A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323045(P2006−323045)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】