説明

ポリオレフィン微多孔膜、及び蓄電デバイス

【課題】寿命特性(サイクル試験で評価)と高出力特性(ハイレート特性で評価)を両立させ得る蓄電デバイスを実現し得る、ポリオレフィン微多孔膜を提供すること。
【解決手段】磁場勾配NMR法によって測定されたポリオレフィン微多孔膜の厚み方向の拡散係数をD(Z)、前記磁場勾配NMR法の測定に用いた電解液の拡散係数をD0、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率をεとした場合に、下式(1)で示される実効の厚み方向の拡散係数D(Z)effが4.20×10-11以上でかつ、下式(2)中のαで示されるブルッグマン指数が2.60≦α≦5.00であり、気液法で求められる孔数が60(個/μm2)以上であるポリオレフィン微多孔膜。
D(Z)eff=D(Z)×ε・・(1)
εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜、及びそれを備える蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ、非水系リチウム蓄電素子などと呼ばれるものも含む)の開発が活発に行われている。蓄電デバイスには通常、微多孔膜(セパレータ)が正負極間に設けられている。このようなセパレータは、正負極間の接触を防ぎ、イオンを透過させる機能を有する。
ここで、セパレータには、蓄電デバイスの良好な安全性確保の観点から、一定以上の物理的強度を備えることが求められる。即ち、蓄電デバイスの充放電に伴ってセパレータには電極からの圧力が加えられる場合があり、電極がセパレータを突き破って電極間の短絡が生じる可能性がある。
【0003】
このような事情のもと、例えば特許文献1には、超高分子量のポリエチレンを使用した微多孔膜が提案されている。また、特許文献2には、高密度ポリエチレンと高分子量ポリプロピレンの混合物からなる微多孔膜が提案されている。また、特許文献3には、ポリオレフィン樹脂と無機粉体を混ぜ込んだ微多孔膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2794179号公報
【特許文献2】特開2002−105235号公報
【特許文献3】特許第3831017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、セパレータには、蓄電デバイスの高出力特性を達成することが求められる場合がある。例えば、車載用途のリチウムイオン二次電池においては、高い安全性を確保する観点から比較的膜厚みの大きい(20μmを超えるような膜厚み)ポリオレフィン微多孔膜が用いられる。しかしながら、上記特許文献1〜3に記載された微多孔膜は、高出力特性を達成する観点から、なお改善の余地がある。
本発明は、寿命特性(サイクル試験で評価)と高出力特性(ハイレート特性で評価)を両立させ得る蓄電デバイスを実現し得る、ポリオレフィン微多孔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
磁場勾配NMR法によって測定されたポリオレフィン微多孔膜の厚み方向の拡散係数をD(Z)、前記磁場勾配NMR法の測定に用いた電解液の拡散係数をD0、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率をεとした場合に、実効の厚み方向の拡散係数D(Z)eff、は下式(1)で示されるが、下式(2)中のαで示される数値はブルッグマン指数と呼ばれる。
D(Z)eff=D(Z)×ε・・(1)
εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)
本発明者らは、この磁場勾配NMR法によって測定されたポリオレフィン微多孔膜の厚み方向の実効の拡散係数、ブルッグマン指数、及び気液法で求められる孔数が特定の範囲に調整されたポリオレフィン微多孔膜が、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
磁場勾配NMR法によって測定されたポリオレフィン微多孔膜の厚み方向の拡散係数をD(Z)、前記磁場勾配NMR法の測定に用いた電解液の拡散係数をD0、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率をεとした場合に、下式(1)で示される実効の厚み方向の拡散係数D(Z)effが4.20×10-11以上でかつ、下式(2)中のαで示されるブルッグマン指数が2.60≦α≦5.00であり、気液法で求められる孔数が60(個/μm2)以上であるポリオレフィン微多孔膜。
D(Z)eff=D(Z)×ε・・(1)
εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)
[2]
前記ポリオレフィン微多孔膜を形成するポリオレフィン樹脂が高密度ポリエチレンを含む、[1]記載のポリオレフィン微多孔膜。
[3]
突刺強度が2.4N/20μm以上20.0N/20μm以下である[1]又は[2]記載のポリオレフィン微多孔膜
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜をセパレータとして備える蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、寿命特性(サイクル試験で評価)と高出力特性(ハイレート特性で評価)を両立させ得る蓄電デバイスを実現し得る、ポリオレフィン微多孔膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜は、磁場勾配NMR法によって測定されたポリオレフィン微多孔膜の厚み方向の拡散係数をD(Z)、前記磁場勾配NMR法の測定に用いた電解液の拡散係数をD0、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率をεとした場合に、下式(1)で示される実効の厚み方向の拡散係数D(Z)effは4.20×10-11以上に、下式(2)中のαで示されるブルッグマン指数が2.60≦α≦5.00に調整されている。
D(Z)eff=D(Z)×ε・・(1)
εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)
【0011】
本実施の形態においてD(Z)は、磁場勾配NMR法によって測定されたポリオレフィン微多孔膜の膜厚方向の拡散係数を、D0は磁場勾配NMR法によって測定された測定に用いた電解液の拡散係数を示す。本発明者らは、磁場勾配NMR法によって測定されたポリオレフィン微多孔膜の厚み方向の拡散係数をD(Z)、測定に用いた電解液の拡散係数をD0、測定に用いたポリオレフィン微多孔膜の気孔率をεとした場合に、下式(1)で示される実効の厚み方向の拡散係数D(Z)effと下式(2)中のαで示されるブルッグマン指数の数値範囲とが特定の範囲に規定され、かつ突刺し強度が特定の範囲に規定された微多孔膜が、当該微多孔膜をセパレータとして用いた場合に、蓄電デバイスのハイレート特性やサイクル特性を左右し得ることを発見した。
D(Z)eff=D(Z)×ε・・(1)
εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)
厚み方向の拡散係数D(Z)effとブルッグマン指数αの数値を特定範囲に制御することにより、優れたハイレート特性とサイクル特性を有する蓄電デバイスが得られる。その理由は詳らかではないが、微多孔膜のZ方向のパラメータによりイオンの通り道である流路を規定することが、リチウムイオンの出入りのスムーズさと相関し、ハイレート特性とサイクル特性を左右しているものと推定される。
【0012】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜の実効の厚み方向の拡散係数D(Z)effの数値範囲は4.20×10-11以上であり、好ましくは4.30×10-11以上、より好ましくは4.50×10-11以上であり、特に好ましくは5.00×10-11以上である。D(Z)effが4.20×10-11未満であると、十分な透過性が確保できなくなる傾向にある。
【0013】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜のブルッグマン指数αの数値範囲は2.60≦α≦5.00であり、好ましくは2.65以上、より好ましくは2.70以上、更に好ましくは2.73以上であり、上限としては、好ましくは5.00以下、より好ましくは4.90以下、更に好ましくは4.70以下である。
ここで、2.60未満であると、サイクル特性が落ちる傾向にある。一方、5.00を超えると、電池を作製した際に、十分な透過性が確保できなくなる傾向にある。
【0014】
ブルッグマン指数αの値を上記特定範囲に調整するための手段としては、微多孔膜を構成するポリマーの濃度を調整する方法や、延伸条件や熱固定/熱緩和条件を調整する方法等が挙げられる。より具体的には、ブルッグマン指数αの値を小さくするには、ポリマー濃度を低くすること、延伸工程の際の延伸倍率を小さくすること、熱固定/熱緩和の工程の際の温度を低く保つこと、延伸倍率を小さくすること、更には、トータルの延伸倍率として、押し出し方向(以下、「MD方向」と表記する。)と幅方向(以下、「TD方向」と表記する。)の延伸倍率が等方的になるよう調整すること、等が挙げられる。一方、ブルッグマン指数αの値を大きくするには、延伸工程の際の延伸倍率を大きくすること、熱固定/熱緩和の工程の際に延伸を高い温度で行い、延伸倍率を大きくすること、更には、トータルの延伸倍率として、MD方向とTD方向の延伸倍率のどちらかが他方に比べて大きくなるよう調整すること、等が挙げられる。なお、磁場勾配NMR法及び気孔率の測定は、後述する実施例に記載された方法に準じて行うことができる。
【0015】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン樹脂組成物から形成される。本実施の形態において使用するポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられる。これら重合体は1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0016】
また、前記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等を用いてもよい。
【0017】
ここで、ポリオレフィン微多孔膜の融点を低下させる観点、又は突刺強度を向上させる観点から、前記ポリオレフィン樹脂は高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。
高密度ポリエチレンが、前記ポリオレフィン樹脂中に占める割合としては、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0018】
また、ポリオレフィン微多孔膜の耐熱性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂はポリプロピレンを含むことが好ましい。ポリプロピレンのポリオレフィン樹脂中に占める割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上である。また、ポリプロピレンのポリオレフィン樹脂中に占める割合は、好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。ポリプロピレンの割合を1質量%以上とすることは、ポリオレフィン微多孔膜の耐熱性を向上させる観点から好ましい。また、ポリプロピレンの割合を20質量%以下とすることは、延伸性をより良好にし、更に透気度の優れる微多孔膜を実現する観点から好ましい。
【0019】
ポリオレフィン樹脂全体の粘度平均分子量(Mv)としては10万以上120万以下であることが好ましい。より好ましくは30万以上80万以下である。Mvが10万以上であると溶融時の耐破膜性が発現しやすくなる傾向にあり、120万以下であると押出工程が容易となる傾向にあり、また、溶融時の収縮力の緩和が早くなり耐熱性が向上する傾向にある。
【0020】
前記ポリオレフィン樹脂組成物には必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の各種添加剤を混合して使用できる。
【0021】
前記ポリオレフィン樹脂組成物は、必要に応じて、無機粒子を含んでもよい。
このような無機粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛などの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維などが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。中でも、電気化学的安定性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニウムがより好ましく、シリカが特に好ましい。
【0022】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、例えば、下記(1)〜(5)の各工程を含む製造方法を用いることができる。
(1)ポリオレフィン樹脂と、可塑剤と、必要に応じて無機粒子とを混練して混練物を形成する混練工程、
(2)前記混練工程の後に混練物を押出し、シート状(単層、積層であることは問わない)に成形して冷却固化させるシート成形工程、
(3)シート成形工程の後、必要に応じて可塑剤や無機粒子を抽出し、更にシートを一軸以上の方向へ延伸する延伸工程、
(4)前記工程の後、必要に応じて可塑剤や無機粒子を抽出して、更にシートを一軸以上の方向へ延伸する延伸工程、
(5)延伸工程の後、必要に応じて可塑剤や無機剤を抽出し、更に熱処理を行う後加工工程。
以下、各工程について説明する。
【0023】
工程(1)は、ポリオレフィン樹脂と、可塑剤と、必要に応じて無機粒子とを混練して混練物を形成する混練工程である。
前記(1)の工程で用いられる可塑剤としては、ポリオレフィン樹脂と混合した際にポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒であることが好ましい。また、常温において液体であることが好ましい。
前記可塑剤としては、例えば、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジエチルヘキシルやフタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコールやステアリルアルコール等の高級アルコール類;等が挙げられる。
特にポリオレフィン樹脂としてポリエチレンが含まれる場合、可塑剤として流動パラフィンを用いることは、ポリオレフィン樹脂と可塑剤との界面剥離を抑制し、均一な延伸を実施する観点、又は高突刺強度を実現する観点から好ましい。また、フタル酸ジエチルヘキシルを用いることは、混練物を溶融押出しする際の負荷を上昇させ、無機粒子の分散性を向上させる(品位の良い膜を実現する)観点から好ましい。
【0024】
前記可塑剤が、前記混練物中に占める割合としては、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、上限としては、好ましくは80質量%以下、好ましくは70質量%以下である。当該割合を80質量%以下とすることは、溶融成形時のメルトテンションを高く維持し、成形性を確保する観点から好ましい。一方、当該割合を30質量%以上とすることは、成形性を確保する観点、及び、ポリオレフィンの結晶領域におけるラメラ晶を効率よく引き伸ばす観点から好ましい。ここで、ラメラ晶が効率よく引き伸ばされることは、ポリオレフィン鎖の切断が生じずにポリオレフィン鎖が効率よく引き伸ばされることを意味し、均一かつ微細な孔構造の形成や、ポリオレフィン微多孔膜の強度及び結晶化度の向上に寄与し得る。
【0025】
ポリオレフィン樹脂と、可塑剤と、必要に応じて無機粒子とを混練する方法としては、例えば、以下の(a),(b)の方法が挙げられる。
(a)ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを押出機、ニーダー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融混練させながら更に可塑剤を導入し混練する方法。
(b)予めポリオレフィン樹脂と無機粒子と可塑剤を、ヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練する工程を経て、該混練物を押出機に投入し、加熱溶融させながら更に可塑剤を導入し混練する方法。
【0026】
工程(2)は、前記混練工程の後に混練物を押出し、シート状(単層、積層であることは問わない)に成形して冷却固化させるシート成形工程である。
前記(2)の工程は、例えば、前記混練物をTダイ等を介してシート状に押し出し、熱伝導体に接触させて冷却固化させる工程である。当該熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できる。また、冷却固化をロール間で挟み込むことにより行なうことは、シート状成形体の膜強度を増加させる観点や、シート状成形体の表面平滑性を向上させる観点から好ましい。
【0027】
工程(3)は、シート成形工程の後、必要に応じて可塑剤や無機粒子を抽出し、更にシートを一軸以上の方向へ延伸する延伸工程である。
前記(3)の工程における延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法が挙げられる。中でも、同時二軸延伸方法を採用することは、ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度の増加や膜厚均一化の観点から好ましい。
トータルの面倍率は膜厚の均一性、引張伸度及び気孔率のバランスの観点より、8倍以上が好ましく、15倍以上がより好ましく、30倍以上が更に好ましい。トータルの面倍率が30倍以上であると、高強度で、且つ低い伸度のものが得られやすくなる。ここで、トータルの面倍率とは、MD方向の延伸倍率にTD方向の延伸倍率を乗じた値のことをいう。
【0028】
前記(3)の工程における延伸温度としては、ポリオレフィン樹脂の融点温度を基準温度として、好ましくは融点温度−50℃以上、より好ましくは融点温度−30℃以上、更に好ましくは融点温度−20℃以上であり、上限としては、好ましくは融点温度−2℃以下、より好ましくは融点温度−3℃以下である。延伸温度を融点温度−50℃以上とすることは、ポリオレフィン樹脂と無機粒子との界面、もしくはポリオレフィン樹脂と可塑剤との界面を良好に密着させ、ポリオレフィン微多孔膜の局所的かつ微小領域での耐圧縮性能を向上させる観点から好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂として高密度ポリエチレンを用いた場合、延伸温度としては115℃以上132℃以下が好適である。複数のポリオレフィンを混合して用いた場合は、その融解熱量が大きい方のポリオレフィンの融点を基準とすることができる。
【0029】
工程(4)は、前記工程の後、必要に応じて可塑剤や無機粒子を抽出して、更にシートを一軸以上の方向へ延伸する延伸工程である。
【0030】
前記(3)及び(4)の工程において、可塑剤や無機粒子の抽出は、抽出溶媒に浸漬、あるいはシャワーする方法等により行なうことができる。抽出溶媒としては、ポリオレフィンに対して貧溶媒であり、且つ可塑剤や無機粒子に対しては良溶媒であり、沸点がポリオレフィンの融点よりも低いものが好ましい。このような抽出溶媒としては、例えば、n−ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン、フルオロカーボン系等ハロゲン化炭化水素類、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、アルカリ水、が挙げられる。抽出溶媒は、単独若しくは2種以上を混合して使用することができる。
なお、無機粒子を用いる場合は全工程内のいずれかで全量あるいは一部を抽出してもよいし、製品中に残存させてもよい。また、抽出の順序、方法及び回数については特に制限はない。無機粒子の抽出は、必要に応じて行わなくてもよい。
【0031】
工程(5)は、延伸工程の後、必要に応じて可塑剤や無機剤を抽出し、更に熱処理を行う後加工工程である。
前記(5)の工程は、熱固定及び/又は熱緩和を行う工程であることが好ましい。
熱処理の方法としては、テンターやロール延伸機を利用して、所定の温度で延伸及び緩和操作等を行う熱固定方法が挙げられる。緩和操作とは、膜のMD及び/又はTDへ、ある緩和率で行う縮小操作のことである。緩和率とは、緩和操作後の膜のMD寸法を操作前の膜のMD寸法で除した値、或いは緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値、或いはMD、TD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。所定の温度としては、熱収縮率の観点より100℃以上が好ましく、気孔率及び透過性の観点より135℃未満が好ましい。所定の緩和率としては、熱収縮率の観点より0.9以下が好ましく、0.8以下であることがより好ましい。また、しわ発生防止と気孔率及び透過性の観点より0.6以上であることが好ましい。緩和操作は、MD、TD両方向で行ってもよいが、MD或いはTD片方だけの緩和操作でも、操作方向だけでなく操作と垂直方向についても、熱収縮率を低減することが可能である。
【0032】
なお、前記微多孔膜の製造方法としては、(1)〜(5)の各工程に加え、積層体を得るための工程として、単層体を複数枚重ね合わせる工程を採用することができる。また、電子線照射、プラズマ照射、界面活性剤塗布、化学的改質などの表面処理工程を採用することもできる。
【0033】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は、好ましくは2.4N/20μm以上、より好ましくは3.0N/20μm以上であり、更に好ましくは3.5N/20μm以上であり、上限としては、好ましくは20.0N/20μm以下、より好ましくは10.0N/20μm以下、更に好ましくは8.0N/20μm以下であり、特に好ましくは7.5N/20μm以下である。突刺強度を2.4N/20μm以上とすることは、電池捲回時における脱落した活物質等による破膜を抑制する観点から好ましい。また、充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡するリスクを低減し得る観点からも好ましい。一方、20.0N/20μm以下とすることは、加熱時の配向緩和による幅収縮を低減し得る観点から好ましい。
なお、上記突刺強度は、ポリオレフィン樹脂の分子量、ポリオレフィン樹脂の割合、及び、前記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整する方法等により調節することが可能である。
ここで、突刺強度は、カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定し、次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、23±2℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより計測した最大突刺荷重(N)の値を言う。
【0034】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、ハイレート時のリチウムイオンの急速な移動に追従する観点から、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは55%以上である。また、膜強度及び自己放電の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%、更に好ましくは80%以下である。
なお、上記気孔率は、前記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整する方法、及び/又は、前記(5)の熱固定及び熱緩和工程の温度、倍率を調整する方法等により調節することが可能である。
【0035】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜の140℃における幅方向の熱収縮率は、好ましくは33%以下、より好ましくは20%以下である。140℃における幅方向の熱収縮率を33%以下とすることにより、蓄電デバイス作製時に加熱工程があった場合、収縮が発生し電極同士が接触し短絡が発生するリスクを低減し得る。また、収縮が小さいことは、長期の信頼性を確保する観点からも好ましい。
なお、上記熱収縮率は、前記(5)の熱固定及び熱緩和工程の温度、倍率を調整する方法等により調節することが可能である。
ここで、熱収縮率は、ポリオレフィン製微多孔膜を各辺がMDとTDに平行となるように100mm四方に切り取り、温度を140℃に温調したオーブン内に1時間放置した後に測定したTD熱収縮率の値を言う。
【0036】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、上限としては、好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下、更に好ましくは50μm以下である。膜厚を2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点から好適である。一方、膜厚を100μm以下とすることは、セパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向があるので好ましい。
【0037】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜の透気度は、好ましくは10秒/100cc以上、より好ましくは50秒/100cc以上であり、上限としては、好ましくは1000秒/100cc以下、好ましくは500秒/100cc以下、更に好ましくは300秒/100cc以下である。透気度を10秒/100cc以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好ましい。一方、1000秒/100cc以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。
なお、上記透気度は、前記(5)の熱固定及び熱緩和工程の温度、倍率を調整する方法等により調節することが可能である。
【0038】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜の孔数(個/μm2)は、好ましくは60個/μm2以上、より好ましくは65個/μm2以上であり、さらに好ましくは70個/μm2であり、特に好ましくは100個/μm2である。孔数を60個/μm2以上とすることは、蓄電デバイスのサイクル特性を上昇させる観点から好ましい。
なお、上記孔数は、前記(5)の熱固定及び熱緩和工程の温度、倍率を調整する方法等により調節することが可能である。
【0039】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜は、特に非水電解液を用いるような蓄電デバイス用セパレータとして有用である。本実施の形態の蓄電デバイスは、上述したポリオレフィン微多孔膜をセパレータに用い、正極と、負極と、電解液とを含む。
前記蓄電デバイスは、例えば、前記ポリオレフィン微多孔膜を幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして調製し、当該セパレータを、正極―セパレータ―負極―セパレータ、又は負極―セパレータ―正極―セパレータの順で重ね、円又は扁平な渦巻状に巻回して巻回体を得、当該巻回体を電池缶内に収納し、更に電解液を注入することにより製造することができる。
なお、前記蓄電デバイスは、正極―セパレータ―負極―セパレータ、又は負極―セパレータ―正極―セパレータの順に平板状に積層し、袋状のフィルムでラミネートし、電解液を注入する工程を経て製造することもできる。
【0040】
本実施の形態の蓄電デバイスは高出力、長期信頼性に優れるので、電気自動車やハイブリッド自動車用として、特に有用である。
【0041】
なお、上述した各種パラメータの測定方法については特に断りの無い限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定される。
【実施例】
【0042】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0043】
(1)粘度平均分子量(Mv)
ASTM−D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η]を求めた。
ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
ポリプロピレンのMvは次式により算出した。
[η]=1.10×10−4Mv0.80
【0044】
(2)膜厚
微小測厚器(東洋精機製 タイプKBM)を用いて室温23℃で測定した。
【0045】
(3)気孔率
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm3)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/混合組成物の密度)/体積×100
なお、膜密度(混合組成物の密度)は、用いたポリオレフィン樹脂及び無機粒子の各々の密度並びに混合比より計算で求められる値を用いた。ポリプロピレン樹脂については、密度を0.91(g/cm3)として、ポリエチレン樹脂については、密度を0.95(g/cm3)として、計算した。
【0046】
(4)透気度
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製)を用いて測定した。
【0047】
(5)突刺強度
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定し、次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、23±2℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより計測した最大突刺荷重の値として求めた。
【0048】
(6)5Cレート(ハイレート特性、%)
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となるアルミニウム箔にダイコーターで塗布し、乾燥し、ロールプレス機で圧縮成形して正極を作製した。
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる銅箔にダイコーターで塗布し、乾燥し、ロールプレス機で圧縮成形して負極を作製した。
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて調製した。
d.電池組立
セパレータを18mmφ,正極及び負極を16mmφの円形に切り出し、正極と負極の活物質面が対向するよう、正極、セパレータ、負極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接していた。この容器内に前記した非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間電池作成後の最初の充電を行った。続いて3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
e.1C容量測定(mAh)
25℃雰囲気下、1.1A(1.0C)の電流値で電池電圧3.6Vまで充電し、さらに3.6Vを保持するようにして電流値を1.1Aから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行った。次に1.1A(1.0C)の電流値で電池電圧2.0Vまで放電し、1C放電容量を得た。
f.5Cレート
25℃雰囲気下、1.1A(1.0C)の電流値で電池電圧3.6Vまで充電し、さらに3.6Vを保持するようにして電流値を1.1Aから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行った。次に、5.5A(5.0C)の電流値で電池電圧2.0Vまで放電し、5C放電容量を得た。
1C放電容量に対する5C放電容量の割合を5C容量維持率(%)と定義し、ハイレート特性の指標として用いた。
【0049】
(7)釘刺し試験
上記負極、ポリオレフィン微多孔膜、上記正極、ポリオレフィン微多孔膜の順に重ねて渦巻状に複数回捲回することで電極板積層体を作製した。この電極板積層体を外径が18mmで高さが65mmのステンレス製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製タブを容器蓋端子部に、負極集電体から導出したニッケル製タブを容器壁に溶接した。その後、真空乾燥を行い、アルゴンボックス内にて容器内に上記非水電解液を注入し、封口することにより電池を組み立てた。
組立てた電池を1/3Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を5時間行い、その後1/3Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。次に、1Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を2時間行い、その後1Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。最後に1Cの電流値で4.2Vの定電圧充電をした後に4.2Vの定電圧充電を2時間行った。このようにして、前処理後の電池を得た。
また、前記前処理後の電池に対し、室温23±2℃環境にて、直径2.7mmの鉄釘をケースの外から、積層体の端部から3mmの所に、5mm/秒の速度で2mmの深さまで突き刺した。釘刺し位置から離れた電池の側面に付した熱電対で30秒後の到達温度を測定した。この時の温度が50℃以下の場合を◎、50℃を超え60℃以下の場合を○、60℃を超える場合を×として、釘刺し試験評価の指標として用いた。
【0050】
(8)実効の厚み方向の拡散係数D(Z)eff、拡散係数D0
微多孔性フィルムをNMR測定用サンプルチューブの内径より0.1〜0.3mm狭めた直径となる円形サンプルを作成する。得られた円形サンプルを4〜5cmの厚さに積層してNMR測定用サンプルチューブにセットする際に、積層したサンプルの内部に、リチウム塩LiN(SO2CF32(LiTFSI)をエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの比が1:1となる混合溶媒に溶解した電解液を浸透させて保持させた状態で、磁場勾配NMR測定法で、30℃におけるリチウムイオンの拡散係数D(Z)を求めた。磁場勾配NMR測定法では観測されるピーク高さをE、磁場勾配パルスを与えない場合のピーク高さをE0、核磁気回転比をγ(T-1・s-1)、磁場勾配強度をg(T・m-1)、磁場勾配パルス印加時間をδ(s)、拡散待ち時間をΔ(s)、自己拡散係数をD(m2・s-1)とした場合、下式が成り立つ。
Ln(E/E0)=D(Z)×γ2×g2×δ2×(Δ−δ/3)
上式から、g、δ、Δを変化させてNMRピークの変化を観測することでD(Z)が得られる。実際には、NMRシーケンスとしてbpp−led−DOSY法を用い、Δ、及びδを固定してgを0からLn(E/E0)≦−3となる範囲で10点以上変化させ、Ln(E/E0)をY軸、γ2×g2×δ2×(Δ−δ/3)をX軸としてプロットした直線の傾きからDを得た。Δ、及びδの設定値は任意であるが、測定対象の縦緩和時間をT1(s)、横緩和時間をT2(s)とした場合に下記の条件を満たす必要がある。
10ms<Δ<T1
0.2ms<δ<T2
実際には、Δ=50msとし、δを0.4ms≦δ≦3.2msの範囲の任意の値として、磁場勾配NMR測定を実施した。多孔質フィルムの構造の影響により、自己拡散が阻害を受けると上記のプロットが下に凸の曲線となるが、この場合にはLn(E/E0)が0から−2の範囲で曲線を直線近似し、この傾きからD(Z)得た。
実行の拡散係数D(Z)effは下式のように、得られたD(Z)に測定に用いた微多孔性フィルムの気孔率(ε)を乗ずることで得られる。
D(Z)eff=D(Z)×ε
拡散係数D0は、微多孔性フィルムがない状態で上記操作を行うことで得られる。
【0051】
(9)平均孔径(μm)、屈曲率(曲路率)、及び孔数(個/μm2
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、微多孔膜の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、また微多孔膜の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定する。
この場合、孔径d(μm)と屈曲率τ(無次元)は、空気の透過速度定数Rgas(m3/(m2・sec・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m3/(m2・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力Ps(=101325Pa)、気孔率ε(%)、膜厚L(μm)から、次式を用いて求めることができる。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3Ps)×106
τ=(d×(ε/100)×ν/(3L×Ps×Rgas))1/2
ここで、Rgasは透気度(sec)から次式を用いて求められる。
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10-4)×(0.01276×101325))
また、Rliqは透水度(cm3/(cm2・sec・Pa))から次式を用いて求められる。
liq=透水度/100
なお、透水度は次のように求められる。直径41mmのステンレス製の透液セルに、あらかじめアルコールに浸しておいた微多孔膜をセットし、該膜のアルコールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm3)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、νは気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、空気の平均分子量M(=2.896×10-2kg/mol)から次式を用いて求められる。
ν=((8R×T)/(π×M))1/2
さらに、孔数B(個/μm2)は、次式より求められる。
B=4×(ε/100)/(π×d2×τ)
【0052】
(10)平均一次粒子径(結晶径)
走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡により、微多孔膜の表面の粒子を目視で観察して、任意に抽出した50個の一次粒子の粒子径の平均を平均一次粒子径とした。
なお、粒子径は、二軸平均径、すなわち、短径と長径の平均値とした。ここで、短径、長径とは、それぞれ、粒子に外接する面積が最小となる外接長方形の短辺、長辺である。
【0053】
(11)D50平均粒子径
50mlのポリ容器に無機粒子10質量部を精製水20質量部に加え、分散剤ディスパーサント5468(サンノプコ社製、ポリカルボン酸アンモニウム)を0.025質量部添加して蓋を閉めてから手で良く振って分散させた後に、粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300II、レーザー回折・散乱法)を用いて粒径分布を測定し、累積頻度が50体積%となる粒径をD50平均粒子径とした。
【0054】
[実施例1]
Mvが30万のホモポリマーのポリエチレンを95質量%、Mvが40万のポリプロピレンを5質量%(PPブレンド量 5質量%)を、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマー混合物を得た。得られたポリマー混合物は窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-52/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が58質量%となるように(即ち、ポリマー濃度(「PC」と略記することがある)が42質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。
続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度30℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、厚み1650μmのゲルシートを得た。
次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率5.0倍、設定温度126℃とした。
次に、塩化メチレン槽に導き、塩化メチレン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後塩化メチレンを乾燥除去した。
次に、TDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定温度は126℃で、延伸倍率3.40倍でHS(熱固定)を行い、その後のTDの緩和率を0.95として微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0055】
[実施例2]
ゲルシートの厚みを1710μm、流動パラフィン量比を62質量%、二軸延伸温度を121℃、HS温度を119℃、HS倍率を3.0倍、その後のTDの緩和率を0.94にしたこと以外は、実施例1と同様の方法により微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例3]
ゲルシートの厚みを1930μm、二軸延伸倍率をMD7.0倍、TD6.1倍、二軸延伸温度を123℃、HS温度を118℃、HS倍率を3.0倍、その後のTDの緩和率を0.94にしたこと以外は、実施例1と同様の方法により微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例4]
粘度平均分子量(Mv)が70万のホモポリマーのポリエチレンを47.5質量%、Mv30万のホモポリマーのポリエチレンを47.5質量%、Mvが40万のポリプロピレンを5質量%(PPブレンド量 5質量%)、流動パラフィン量比を62質量%、ゲルシートの厚みを1820μm、二軸延伸温度を122℃、HS温度を121℃、HS倍率を2.0倍、その後のTDの緩和率を0.9にしたこと以外は、実施例1と同様の方法により微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例5]
粘度平均分子量(Mv)が200万のホモポリマーのポリエチレンを32質量%、Mv30万のホモポリマーのポリエチレンを48質量%、無機粒子ZnO−1(酸化亜鉛、平均一次粒子径100nm、D50平均粒子径9.65μm、密度5.5g/cm3)を20質量%、及び酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.2質量部、滑剤としてステアリン酸カルシウムを0.3質量部の割合で含む混合物を、ヘンシェルミキサーにて予備的に混合(予備混練)した。得られた予備混合物(予備混練物)を二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-52/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が68質量%となるように(即ち、ポリマー濃度(「PC」と略記することがある)が32質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。
続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度70℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、厚み1440μmのゲルシートを得た。
次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.6倍、設定温度121℃とした。
次に、塩化メチレン槽に導き、塩化メチレン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後塩化メチレンを乾燥除去した。
次に、TDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定温度は135℃で、延伸倍率1.55倍でHS(熱固定)を行い、その後のTDの緩和率を0.85として微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例6]
粘度平均分子量(Mv)が200万のホモポリマーのポリエチレンを24質量%、Mv30万のホモポリマーのポリエチレンを36質量%、無機粒子SiO2(疎水性乾式シリカ、平均一次粒子径16nm、D50平均粒子径0.16μm、密度5.5g/cm3)を40質量%、ゲルシートの厚みを1800μm、二軸延伸倍率をMD7.0倍、TD6.6倍、二軸延伸温度を121℃、HS温度を135℃、HS倍率を1.55倍、その後のTDの緩和率を0.8にしたこと以外は、実施例5と同様の方法により微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0060】
[実施例7]
粘度平均分子量(Mv)が200万のホモポリマーのポリエチレンを30質量%、Mv30万のホモポリマーのポリエチレンを20質量%、無機粒子ZnO−2(酸化亜鉛、平均一次粒子径100nm、D50平均粒子径0.44μm、密度5.5g/cm3)を50質量%、ゲルシートの厚みを1440μm、流動パラフィン量比を57質量%、二軸延伸倍率をMD7.0倍、TD6.4倍、二軸延伸温度を125℃、HS温度を127℃、HS倍率を2.15倍、その後のTDの緩和率を0.9にしたこと以外は、実施例5と同様の方法により微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例8]
粘度平均分子量(Mv)が200万のホモポリマーのポリエチレンを20質量%、Mv30万のホモポリマーのポリエチレンを30質量%、無機粒子ZnO−3(酸化亜鉛、平均一次粒子径100nm、D50平均粒子径2.11μm、密度5.5g/cm3)を50質量%、ゲルシートの厚みを1460μm、二軸延伸温度を120℃、HS温度を137℃、HS倍率を1.7倍、その後のTDの緩和率を0.9にしたこと以外は、実施例5と同様の方法により微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0062】
[実施例9]
粘度平均分子量(Mv)が200万のホモポリマーのポリエチレンを22質量%、Mv30万のホモポリマーのポリエチレンを33質量%、無機粒子(Al23.H2O、平均一次粒子径40nm、D50平均粒子径0.45μm、密度3.02g/cm3)を45質量%、ゲルシートの厚みを1550μm、HS温度を131℃にしたこと以外は、実施例5と同様の方法により微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0063】
[比較例1]
ポリプロピレン樹脂を2.5インチの押出し機にて220℃にて押出し、溶融したポリマーを吹込空気によって冷却した。次いで、押出された薄膜を127℃で2分間アニール後、室温で20%まで冷間延伸し、次いで300%まで1軸延伸し、その後130℃条件下、2分間の熱処理を行った。得られたセパレータの物性と評価結果を表1に示す。
【0064】
[比較例2]
ゲルシートの厚みを1890μm、PCを35質量%、二軸延伸温度を123.5℃、HS温度を127.0℃、HS倍率を1.65倍、その後のTDの緩和率を0.8にしたこと以外は、実施例4と同様の方法により微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0065】
[比較例3]
粘度平均分子量(Mv)が100万の超高分子量ポリエチレン19.2質量%、Mvが25万の高密度ポリエチレン12.8質量%、フタル酸ジオクチル(DOP)48質量%、微粉シリカ20質量%を混合造粒した後、先端にTダイを装着した二軸押出機にて溶融混練した後に押出し、両側から加熱したロールで圧延し、厚さ105μmのシート状に成形した。該成形物からDOP、微粉シリカを抽出除去し、抽出膜を作製した。該抽出膜を2枚重ねて、延伸温度125.5℃で、MDに4.7倍延伸した後、120℃でTDに2.45倍延伸し、最後に137.5℃にて熱処理して9%延伸緩和することにより微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0066】
[比較例4]
ゲルシートの厚みを2180μm、PCを37質量%、二軸延伸温度を125.5℃、HS温度を128.5℃、HS倍率を2.1倍にしたこと以外は、実施例4と同様の方法により微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性と評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜9の、厚み方向のリチウムイオンの実効の拡散係数D(Z)effとブルックマン指数αの値と孔数が特定範囲に調整されたポリオレフィン微多孔膜をセパレートとして用いた電池は、いずれも良好なサイクル特性及び優れたハイレート特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のポリオレフィン製微多孔膜は、特に高出力密度の蓄電デバイス用セパレータとしての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場勾配NMR法によって測定されたポリオレフィン微多孔膜の厚み方向の拡散係数をD(Z)、前記磁場勾配NMR法の測定に用いた電解液の拡散係数をD0、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率をεとした場合に、下式(1)で示される実効の厚み方向の拡散係数D(Z)effが4.20×10-11以上でかつ、下式(2)中のαで示されるブルッグマン指数が2.60≦α≦5.00であり、気液法で求められる孔数が60(個/μm2)以上であるポリオレフィン微多孔膜。
D(Z)eff=D(Z)×ε・・(1)
εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)
【請求項2】
前記ポリオレフィン微多孔膜を形成するポリオレフィン樹脂が高密度ポリエチレンを含む、請求項1記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
突刺強度が2.4N/20μm以上20.0N/20μm以下である請求項1又は請求項2記載のポリオレフィン微多孔膜
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜をセパレータとして備える蓄電デバイス。

【公開番号】特開2012−102199(P2012−102199A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250272(P2010−250272)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】