説明

ポリオレフィン成形体、ポリオレフィン成形体の焼却時における二酸化炭素発生量の低減方法、及びマスターバッチ

【課題】ポリオレフィン成形体の強度を担保しながら、該ポリオレフィン成形体焼却時の二酸化炭素発生量の低減効果を高める。
【解決手段】ポリオレフィン成形体に加熱により二酸化炭素を発生しない無機化合物の粉末を含有させる。無機化合物の粉末は、該無機化合物の粉末を被覆する第1の表面修飾剤と、前記第1の表面修飾剤を被覆する第2の表面修飾剤と、によって被覆されてポリオレフィン成形体に含有させる。第2の表面修飾剤は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸とポリオレフィンとの共重合体、及び無水マレイン酸変性オレフィン系エラストマからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、第1の表面修飾剤は無機化合物の粉末と第2の表面修飾剤とに対して親和性を有するカップリング剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン成形体、ポリオレフィン成形体の焼却時における二酸化炭素発生量の低減方法、及びポリオレフィン成形体の成形時に成形材料に添加されるマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリオレフィンをはじめとするプラスチックは、使用用途に応じてフィルム、板、管、繊維等に成形されて容器、包装、建材、電子部品などの種々の産業分野で活用されており、その使用量は一層増加している。そして、それに付随してプラスチックの廃棄物も増加している。そこで、一般的な廃棄物処理方法の一つである焼却によって使用後のプラスチックを廃棄する場合には、環境保全の意識の高まりも相俟って、二酸化炭素の発生が問題視されるようになっている。しかしながら、ポリオレフィン成形体の焼却時における二酸化炭素発生量を低減する実用的な技術は未だ提案されていない。
【0003】
そこで、本発明者は、ポリオレフィン成形体の焼却時における二酸化炭素発生量を低減するために、成形体を構成するポリオレフィンの一部を、加熱により二酸化炭素を発生しない無機化合物の粉末に置き換えることを独自に想起した。焼却時の二酸化炭素発生量の低減を目的とするものではないが、従前、無機化合物を含有した成形体はあった。例えば、特許文献1には、ポリエステルフィルムの光沢性を向上させるために、顔料としての硫酸バリウムを含有させることが記載されている。また、特許文献2には、板状成形体の強靭性を高めるために、タルクの粉末を熱可塑性樹脂に添加することが記載されており、その際、タルクの粉末と熱可塑性樹脂との親和性を高めるためにチタネート系カップリング剤又はアルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤で処理することが記載されている。このような成形体は、焼却時の二酸化炭素発生量の低減を意図しているわけではないが、無機化合物を含まない同重量の成形体と比較すると、結果的に焼却時における二酸化炭素の発生量が少なくなると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−279074号公報
【特許文献2】特開2006−111822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
焼却時の二酸化炭素発生量を低減する目的で無機化合物を含有させる場合、その低減効果を高めるために、無機化合物の含有量を高める含有量をできるだけ高めることが望ましい。しかし、上記特許文献1のように、無機化合物の粉末をそのまま成形体中に含有させた場合、その含有量が高いほど成形体の強度が低下する問題点があった。特に、薄く成形された、レジ袋やゴミ袋として広く利用されている袋状の成形体や、包装材料として広く利用されているフィルムの状の成形体ではその問題点が顕在化しやすい。また、上記特許文献2のように、無機化合物の粉末をカップリング剤で処理したうえで成形体中に含有させた場合であっても、熱可塑性樹脂との親和性を高めて分散性を向上させることはできが、成形体の強度低下を防ぐことはやはりできない。したがって、焼却時の二酸化炭素発生量の低減と、成形体の強度の確保とは、互いにトレードオフ関係にあり、成形体の強度を担保し、尚且つ焼却時の二酸化炭素発生量の低減効果を高めることは困難であった。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ポリオレフィン成形体の強度を担保しながら、該ポリオレフィン成形体焼却時の二酸化炭素発生量の低減効果を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、ポリオレフィン成形体に表面修飾剤で被覆された無機化合物の粉末を含有させる。無機化合物は加熱により二酸化炭素を発生しない無機化合物であり、例えば、タルク、沸石、金属水酸化物、硫酸マグネシウム又は硫酸バリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種を用いることができる。無機化合物の粉末は、該無機化合物の粉末を被覆する第1の表面修飾剤と、前記第1の表面修飾剤を被覆する第2の表面修飾剤と、によって被覆されてポリオレフィン成形体に含有されている。第2の表面修飾剤は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸とポリオレフィンとの共重合体、及び無水マレイン酸変性オレフィン系エラストマからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、第1の表面修飾剤は無機化合物の粉末と第2の表面修飾剤とに対して親和性を有するカップリング剤である。
【0008】
表面修飾剤で被覆された無機化合物の粉末は、好ましくは、表面修飾剤で被覆された無機化合物の粉末とバインダー樹脂とを含有するマスターバッチとして調製されて、ポリオレフィン成形体の成形時に成形材料に添加される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱により二酸化炭素を発生しない無機化合物をポリオレフィン成形体に含有させ、成形体中のポリオレフィン含有量を相対的に少なくすることで、成形体の焼却時の二酸化炭素発生量を低減することができる。それに加え、成形体に含有させる無機化合物の粉末が、第1の表面修飾剤を介在して、第2の表面修飾剤で被覆されていることにより、以下の作用を奏する。すなわち、第1の表面修飾剤が、無機化合物の粉末と第2の表面修飾剤とに対して親和性を有するため、第2表面修飾剤が無機化合物により強固に結び付くことができる。そして、その第2の表面修飾剤中のポリオレフィンに由来する長い分子鎖が成形体を構成するポリオレフィンと絡み合って強く結合される。このような第1の修飾剤と第2の修飾剤との作用により、無機化合物の粉末を含むことで著しく強度が低下しやすい形態の袋状の成形体やフィルム状の成形体においても、強度低下を抑制しながら無機化合物の含有量を高めることが可能となる。その結果、成形体の強度を担保しながら焼却時の二酸化炭素発生量の低減効果を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、ポリオレフィン成形体(以下、成形体と省略することがある。)には、成形体を形作る主たる構成材料として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが含まれている。その形状は限定されないが、例えば、フィルム状、袋状、シート状、板状等の種々の形状に成形されたものである。例えば、二枚のシートの間に書類等の紙片を挟み込むファイルにも好適に利用することができる。もちろん、複雑形状の成形品ともなる。好ましくは、フィルムないし袋状とされる。従来、強度確保が特に困難だったフィルムないし袋のような薄い成形体であっても、強度を確保することができるためである。そのため、例えば、レジ袋(買い物袋)、ゴミ袋に好適に利用することができる。本発明では、当該ポリオレフィン成形体に、加熱により二酸化炭素を発生しない無機化合物を含有させている。それにより、焼却時に二酸化炭素を生じるポリオレフィンの含有量を相対的に減らすことができ、その分だけ成形体の焼却時の二酸化炭素発生量を減少させることができる。
【0011】
前記加熱により二酸化炭素を発生しない無機化合物としては、例えば、タルク、沸石、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。無機化合物は、粉末の状態で成形体に含有されている。無機化合物粉末は、後述する表面修飾剤で予め被覆されて、成形体の成形時に成形材料とともに成形されることにより、成形体中に均一に分散して成形体に含有されている。そのため、粉末化の加工性、表面修飾しやすさ、原料入手の利便性などを考慮すると、硫酸バリウムは本発明の無機化合物として特に好適である。
【0012】
無機化合物の粉末の粒子径は、成形体の強度等の物理特性を損ないにくくするため、できるだけ小さいことが好ましく、例えば、粒子径が12μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、粒子径が5μm以下である。しかし、無機化合物粉末の粒子径が1μmより小さくなると、分散性が悪くなる。その結果、成形体の強度等の物理特性の低下や外観不良などの不具合が生じる可能性がある。そのため、最も望ましくは、粒子径が1〜3μmの無機化合物粉末を用いることができる。なお、無機化合物粉末の粒子径はレーザー粒子径測定器により測定することができ、測定した粒子の長径を粒子径とすることができる。
【0013】
無機化合物粉末を被覆する表面修飾剤としては、無機化合物の粉末を直接被覆する第1の表面修飾剤と、第1の表面修飾剤を被覆する第2の表面修飾剤と、が使用される。まず、第2の表面修飾剤から説明する。
【0014】
第2の表面修飾剤は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸とポリオレフィンとの共重合体、及び無水マレイン酸変性オレフィン系エラストマからなる群より選ばれた少なくとも1種である。無水マレイン酸変性ポリオレフィンとは、具体的には、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等が含まれる。無水マレイン酸とポリオレフィンとの共重合体としては、具体的には、無水マレイン酸とポリエチレンとの共重合体、無水マレイン酸とポリプロピレンとの共重合体等が含まれる。例えば、無水マレイン酸とポリエチレンとの共重合体である、DuPont社のFUSABOND E EC-603Dは効果的に用いることができる。無水マレイン酸変性オレフィン系エラストマは、グラフト重合によって、無水マレイン酸をポリオレフィンエラストマに結合させて得ることができる。これらの第2の表面修飾剤は、ポリオレフィンに由来する比較的長い分子鎖を有するとともに、無水マレイン酸に由来する官能基を有する。
【0015】
第2の表面修飾剤は、メルトインデックス(MI)が5〜30g/10min(190℃、2.16kg)であると、後で述するように、第1の表面修飾剤で被覆された無機化合物の粉末を効率よく被覆することができるため、好ましい。また、その作用機構は必ずしも明らかではないが、第2の表面修飾剤においては、ポリオレフィンに対して無水マレイン酸に由来する官能基が多く導入されていると、第1の表面修飾剤との相溶性が高まるため、好ましい。
【0016】
第1の表面修飾剤は、無機化合物及び第2の表面修飾剤の双方に対して親和性を有するカップリング剤である。このような第1の表面修飾剤として、例えば、チタネート系カップリング剤又はアルミニウム系カップリング剤等を用いることができる。無機化合物粉末の表面に、これらの第1の表面修飾剤が化学的あるいは物理的に結合することにより、第2の表面修飾剤との親和性を高めることができる。また、無機化合物粉末が疎水性に変質し、無機化合物粉末が水分の影響を受けにくくなる。
【0017】
上記チタネート系カップリング剤としては、従来公知のものを使用できる。例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート等が挙げられる。上記アルミニウム系カップリング剤としては、従来公知のものを使用できる。例えば、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムエチレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0018】
第1の表面修飾剤の無機化合物に対する割合は、無機化合物粉末の表面全体を被覆するに足る割合であればよい。したがって、第1の表面修飾剤の割合は無機化合物粉末の表面積により適宜設定することができるが、一般には、無機化合物100重量部に対する第1の表面修飾剤の割合は、1重量部以上40重量部以下、好ましくは1重量部以上10重量部以下、更に好ましくは1重量部以上5重量部以下である。
【0019】
第2の表面修飾剤の無機化合物に対するの割合も、第1の表面修飾剤で被覆された無機化合物粉末の表面全体を被覆するに足る割合とすればよい。第2の表面修飾剤の割合は、第1の表面修飾剤で被覆された無機化合物粉末の表面積により適宜設定することができるが、一般には、無機化合物100重量部に対する第2の表面修飾剤の割合は、2重量部以上40重量部以下、好ましくは2重量部以上10重量部以下、更に好ましくは2重量部以上5重量部以下である。
【0020】
無機化合物粉末は、まず第1の表面修飾剤によって被覆される第1の工程と、第2の表面修飾剤で被覆される第2の工程とを経て表面修飾される。先ず、第1の工程では、無機化合物粉末と、第1の表面修飾剤とを加熱しながら混合することにより、無機化合物粉末を第1の表面修飾剤で被覆する。このときの加熱温度は、120℃以上135℃以下が好ましい。120℃より低いと、反応効率が低いため好ましくない。135℃以上であると第1の表面修飾剤の変質を招くおそれがあるため好ましくない。次に、第2の工程では、第1の工程で得られた第1の表面修飾剤で被覆された無機化合物粉末と、第2の表面修飾剤とを、第1の工程における加熱温度よりも高い温度で加熱しながら混合することにより第1の表面修飾剤の外側を第2の表面修飾剤で被覆する。このときの加熱温度は150℃以上160℃以下が好ましい。このような温度範囲であると第2の表面修飾剤が溶融して反応する。160℃を超えると、第2の表面修飾剤が分解しやすくなり、変色や反応効率の低下を招くため好ましくない。第2の表面修飾剤による被覆機構は、溶融した第2の表面修飾剤による単純な物理被覆と、それに加え、無水マレイン酸に由来する官能基と第1の表面修飾剤との相互作用が生じているものと推察される。
【0021】
表面修飾された無機化合物粉末は、成形体を成形するにあたり、成形材料と均一に混合されて、成形体に含有される。表面修飾された無機化合物粉末は、外側の第2の表面修飾剤が有する比較的長い分子鎖がポリオレフィンと絡み合うことで、成形体の強度低下を抑制することができるため、成形体に比較的多く含有させることができる。成形体を焼却した際の二酸化炭素発生量の低減効果をより大きくする観点からすると、成形体中の無機化合物の含有量は、できるだけ多くするのが好ましい。そのため、成形体中の無機化合物の含有量は、10重量%以上とするのが好ましい。成形体中の無機化合物の含有量が10重量%より少ないと、成形体を焼却する際に得られる二酸化炭素発生量の低減効果が少ないため、好ましくない。しかし、無機化合物の含有量が35重量%を超えると、成形性が低下する。特に袋状に成形する際には成形性の低下が顕著である。そのため、無機化合物の含有量は、35重量%以下とするのが好ましい。成形体の成形性や強度等の物理特性を担保しながら、成形体の焼却時における二酸化炭素発生量の低減効果をできるだけ高水準で確保するには、成形体中の無機化合物の含有量を20〜30重量%とするのが、より好ましい。
【0022】
表面修飾された無機化合物粉末をポリオレフィン等の成形材料に添加するにあたっては、成形材料が粉末の場合、そのまま添加してもよいが、バインダー樹脂によって適宜の形状に成形したマスターバッチとして添加すれば、成形材料の形態に関わらず均一に添加しやすく、また、取り扱いが容易であるため好ましい。マスターバッチは、以下の第1〜4の工程を経て製造することができる。
【0023】
[第1の工程]
まず、第1の工程において、無機化合物粉末と、第1の表面修飾剤とを加熱しながら混合することにより、無機化合物粉末の表面を第1の表面修飾剤で被覆する。このときの加熱温度は120℃以上135℃以下が好ましい。混合時間は、例えば、10分程度とすることができる。
【0024】
[第2の工程]
次に、第1の工程に得られた第1の表面修飾剤で被覆された無機化合物粉末と、第2の表面修飾剤とを加熱しながら混合する。このときの加熱温度は150℃以上160℃以下が好ましい。混合時間は、例えば、5分程度とすることができる。これにより、第1の表面修飾材と第2の表面修飾材とで被覆された無機化合物の粉末を得ることができる。
【0025】
第1の工程と第2の工程における混合には、加熱機能を有する各種攪拌機を用いることができる。例えば、ジャケット付きの、ナウターミキサー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、などを用い、ジャケットに加熱されたオイル等を通すことにより加熱しながら混合することができる。
【0026】
[第3の工程]
次に、第3の工程においては、まず、第2の工程で得られた無機化合物粉末を40℃以下になるまで冷却する。ここで、冷却とは、攪拌機のジャケットに冷水を流すなど積極的な冷却でもよいし、あるいは放冷でもよい。次に、バインダー樹脂、および必要に応じて各種の添加剤(滑剤、熱安定剤、酸化防止剤等)とを混合する。混合には、各種の攪拌機を用いることができる。
【0027】
[第4の工程]
次に、第4の工程においては、第3の工程で得られた混合物を90℃以上180℃以下に加熱してサイコロ状、円柱状、球状、扁平な球状等、所定形状に成形しマスターバッチを得る。第4の工程においては、加熱混練可能な各種の押出成形機を使用することができる。特に、二軸押出成形機を用いると、無機化合物粉末が均一に分散した外観の良いマスターバッチを得ることができるため好ましい。真空機能を備えた二軸押出成形機であれば、混合物を加熱することによって発生する揮発成分を取り除くことができ、より外観の良いマスターバッチを得ることができる。
【0028】
マスターバッチに含まれる無機化合物粉末の割合は、15重量%以上90重量%以下が好ましい。無機化合物の割合が15重量%より少ないと、バインダー樹脂の割合が必要以上に多くなり、成形材料に対するマスターバッチの添加量が多くなるため、コスト上昇を招き好ましくない。また、90重量%を超えると、バインダー樹脂の割合が減ることで形状を保ちにくくなるため好ましくない。成形材料に対するマスターバッチの添加量を抑えながら保形性を確保する観点で、より好ましくは、30重量%以上80%以下、最も好ましくは、60重量%以上75重量%以下である。
【0029】
マスターバッチを成形するにあたり用いられる上記バインダー樹脂は、マスターバッチ中に含有される無機化合物や他の構成成分を互いに結合するキャリアレジンとして機能するものである。バインダー樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA樹脂(エチレンと酢酸ビニルの共重合体)等を用いることができる。成形材料と同種の樹脂をバインダー樹脂とすれば、より好ましい。
【0030】
マスターバッチには、表面修飾された無機化合物粉末及びバインダー樹脂の他に、例えば、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤等の添加剤を含有することができる。
【0031】
滑剤を添加することにより、マスターバッチの成形性を安定させるとともに、マスターバッチを成形材料に添加した際における当該成形材料との摩擦を低減することができる。滑剤としては従来公知のものを使用することができる。本発明に使用する滑剤としては、具体的には以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
上記滑剤としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素系滑剤、ステアリン酸等の脂肪酸系滑剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属せっけん系滑剤等を例示することができる。滑剤は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。中でも、ステアリン酸は、各種の熱可塑性樹脂との相溶性に優れるため、好適に用いることができる。
【0033】
マスターバッチ中に含有される滑剤の割合は、15重量%以下が好ましい。滑剤を15重量%より多く含有させると、マスターバッチを成形する際に、マスターバッチの構成材料が互いにスリップすることにより、かえって成形性が損なわれるためである。滑剤の割合は、さらに好ましくは、3重量%以上6重量%以下である。滑剤の割合がこの範囲であれば、マスターバッチを成形する際に構成材料同士の潤滑性を向上させ、成形性を良好に保つことができる。また、マスターバッチをプラスチック材料に添加した際は、マスターバッチとプラスチック材料との摩擦を適度に緩和することができる。
【0034】
また、マスターバッチには、熱安定剤を添加することができ、それによりマスターバッチ成形時の加熱による熱可塑性樹脂の変色を防ぐことができる。熱安定剤としては、プラスチックの成形加工において用いられる種々の熱安定剤を使用することができる。熱安定剤としては、具体的には以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
上記熱安定剤としては、脂肪族カルボン酸塩ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の脂肪族カルボン酸塩熱安定剤、ジメチルスズビス−2−エチルヘキシルチオグリコレート、モノ/ジメチルスズステアロキシエチルメルカプタイド等の有機スズメルカプタイド類、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズビスブチルマレエート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズビス−2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジブチルスズβ−メルカプトプロピオネート等の有機スズマレエート類、およびジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズビス−2−エチルヘキシルチオグリコレート等の有機スズカルボキシレート類等の各種有機スズ系熱安定剤を例示することができる。熱安定剤は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。マスターバッチ中に含有される熱安定剤の割合は、10重量%以下が好ましい。より好ましくは、1重量%以上3重量%以下である。
【0036】
また、マスターバッチには、酸化防止剤を添加することができ、それによりマスターバッチ製造時に熱可塑性樹脂が加熱により酸化して品質が劣化するのを防ぐことができる。酸化防止剤としては、マスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂と相溶性を有するものであればよく、プラスチックの成形加工に一般的に用いられる種々の酸化防止剤を使用することができる。酸化防止剤としては、具体的には以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものはない。
【0037】
上記酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオシプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等の硫黄系酸化防止剤、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスファイト等のリン酸系酸化防止剤等を例示することができる。酸化防止剤は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。マスターバッチ中に含有される酸化防止剤の割合は、15重量%以下が好ましい。
【0038】
なお、無機化合物粉末、バインダー樹脂および各種添加剤の配合割合基準を示したが、それらをすべて加算して100重量%になるような範囲内で調製すべきことはいうまでもない。また、添加剤は、一種ないし複数種用いることができるが、添加剤を複数種使用する場合には、添加剤全体として、無機化合物粉末とバインダー樹脂との作用を阻害しない範囲内で各添加剤の配合割合を調整する。
【0039】
[試験例1]
試験例1では、まず、無機化合物として粒径2μmの硫酸バリウム粉末を用いて表1に示されるNo.1〜4のマスターバッチを作成した。No.1では、第1の表面修飾剤としてアルミニウムエチレート、第2の表面修飾剤として無水マレイン酸変性ポリエチレンを用意し、バインダー樹脂としてポリエチレンを用いて、マスターバッチを作成した。No.1のマスターバッチは、上記第1〜4の工程を順次経て作成し、第1の表面修飾剤と第2の表面修飾剤とで被覆された無機化合物粉末を含有する。No.2のマスターバッチは、第2の工程を省略して作成し、第1の表面修飾剤のみで表面修飾された無機化合物の粉末を含有する。No.3のマスターバッチは、第1の工程を省略して作成し、第2の表面修飾剤のみで表面修飾された無機化合物の粉末を含有する。No.4では、第2の表面修飾剤を無水マレイン酸とポリエチレンとの共重合体に変更し、上記第1〜4の工程を順次経て第1の表面修飾剤と第2の表面修飾された無機化合物の粉末を含有するマスターバッチを作成した。
【0040】
【表1】



【0041】
次に、No.1〜4のマスターバッチ30重量部を、それぞれHDPE(高密度ポリエチレン)70重量部と混合し、無機化合物の含有量が21重量%である厚さ25μmのフィルム1〜5を作成した。対照として、無機化合物の粉末を含有しない厚さ25μmのHDPEのフィルム4を作成した。
【0042】
【表2】



【0043】
試験例1では、第1の表面修飾剤と第2の表面修飾剤とで被覆された無機化合物粉末を含むフィルム1は、第1の表面修飾剤のみで被覆された無機化合物粉末を含むフィルム2よりも引張強度が高かった。そして、このフィルム1は、無機化合物を含まないフィルム5よりも引張強度が若干低いものの、ほとんど遜色ない程度であった。これは、フィルム1において、第2の表面修飾剤としての無水マレイン酸変性ポリエチレンの長い分子鎖が高密度ポリエチレンと絡み合うことで、無機化合物の粉末と高密度ポリエチレンとの相溶性が高められたためであると推察された。しかし、第2の表面処理剤のみで被覆された無機化合物粉末を含むフィルム3は、フィルム1よりも引張強度が低かった。これにより、第1の表面修飾剤を介在して第2の表面修飾剤を無機化合物の粉末に被覆することによってこそ、フィルムの引張強度を担保することができることが明らかとなった。これは、第1の表面修飾剤によって第2の表面修飾剤と無機化合物の親和性が高められることで、無機化合物の粉末と高密度ポリエチレンとの結び付きがより強固になったためであると推察された。
【0044】
また、フィルム1と、第2の表面修飾剤を無水マレイン酸とポリエチレンとの共重合体に変更したフィルム4を比較すると、フィルム4の方が引張強度が高く、その引張強度は、無機化合物を含まないフィルムと同等であった。これにより、無水マレイン酸とポリエチレンとの共重合体は、第2の表面修飾剤としてより好適に用いることができることが明らかとなった。
【0045】
[試験例2]
試験例2では、上記試験例1作成したNo.1のマスターバッチを用い、無機化合物の含有量が7,14,21重量%のHDPE(高密度ポリエチレン)フィルムを作成した。作成した各フィルムについて、試料を1g採取し、燃焼管式空気法(JIS K 2541−3に準拠)によって、850℃の条件下で二酸化炭素の発生量を測った。その結果を表3に示す。
【0046】
【表3】



【0047】
この結果により、無機化合物をフィルムに含有させることにより、無機化合物の含有量に比例して焼却時の二酸化炭素発生量を減少させることが可能であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面修飾剤で被覆された無機化合物の粉末を含有し、
前記無機化合物は加熱により二酸化炭素を発生しない無機化合物であり、
前記無機化合物の粉末は、該無機化合物の粉末を被覆する第1の表面修飾剤と、前記第1の表面修飾剤を被覆する第2の表面修飾剤と、によって被覆されており、
前記第2の表面修飾剤は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸とポリオレフィンとの共重合体、及び無水マレイン酸変性オレフィン系エラストマからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、
前記第1の表面修飾剤は前記無機化合物の粉末と前記第2の表面修飾剤とに対して親和性を有するカップリング剤である、ポリオレフィン成形体。
【請求項2】
請求項1に記載のポリオレフィン成形体であって、
前記無機化合物は、タルク、沸石、金属水酸化物、硫酸マグネシウム又は硫酸バリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種である、ポリオレフィン成形体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のポリオレフィン成形体であって、
袋状、管状、シート状又は板状に成形されたポリオレフィン成形体。
【請求項4】
ポリオレフィン成形体の焼却時における二酸化炭素発生量の低減方法であって、
前記ポリオレフィン成形体に、表面修飾剤で被覆された無機化合物の粉末を含有させ、
前記無機化合物は、加熱により二酸化炭素を発生しない無機化合物であり、
前記無機化合物の粉末は、該無機化合物の粉末を被覆する第1の表面修飾剤と、前記第1の表面修飾剤を被覆する第2の表面修飾剤と、によって被覆されており、
前記第2の表面修飾剤は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸とポリオレフィンとの共重合体、及び無水マレイン酸変性オレフィン系エラストマからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、
前記第1の表面修飾剤は前記無機化合物の粉末と前記第2の表面修飾剤とに対して親和性を有するカップリング剤であることを特徴とするポリオレフィン成形体の焼却時における二酸化炭素発生量の低減方法。
【請求項5】
ポリオレフィン成形体の成形時に成形材料に添加されるマスターバッチであって、
表面修飾剤で被覆された無機化合物の粉末とバインダー樹脂とを含有し、
前記無機化合物は、加熱により二酸化炭素を発生しない無機化合物であり、
前記無機化合物の粉末は、該無機化合物の粉末を直接被覆する第1の表面修飾剤と、前記表面修飾剤を被覆する第2の表面修飾剤と、によって被覆されており、
前記第2の表面修飾剤は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸とポリオレフィンとの共重合体、及び無水マレイン酸変性オレフィン系エラストマからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、
前記第1の表面修飾剤は前記無機化合物の粉末と前記第2の表面修飾剤とに対して親和性を有するカップリング剤であることを特徴とするマスターバッチ。


【公開番号】特開2010−275418(P2010−275418A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129153(P2009−129153)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(506212189)株式会社中京商事 (1)
【Fターム(参考)】