説明

ポリオレフィン系樹脂シートの製造方法

【課題】高速かつ高圧な圧延伸をすることなく、さらにポリオレフィン系樹脂シートの結晶化度を向上させ、耐熱性、及び寸法安定性に優れたポリオレフィン系樹脂シートを提供すること。
【解決手段】本発明のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法は、ポリオレフィン系樹脂を溶融させ、溶融ポリオレフィン系樹脂とする溶融工程と上記溶融工程後のポリオレフィン系樹脂を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内で所定時間保持する保持工程と前記保持工程後のポリオレフィン系樹脂を、上記温度内で加圧する加圧工程とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂シートの製造方法に関する。さらに詳しくは、優れた耐熱性を有するポリオレフィン系樹脂シートを提供することができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる汎用プラスチックは、加工がきわめて容易であり、金属等の材料に比較して軽量であり、かつ安価なことからシート、袋、各種容器、包装等の日用品の他、自動車、電機等の工業製品、雑貨等の材料として広く使用されている。代表的な汎用プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等が挙げられるが、これらの樹脂は、いずれも機械的強度が十分でなく、また耐熱性に欠ける。また、工業製品の材料として透明性を要求される場合にもその要求を満たさない場合がほとんどである。例えば、上記汎用プラスチックの中でも比較的耐熱性が高いといわれているポリプロピレンでさえもその軟化温度は、高々130℃程度であり、工業製品として使用するには十分でない。このように汎用プラスチックは、各種工業製品に要求される十分な透明性、機械的特性を有していないためその用途が限定されているという問題点を有する。
【0003】
そこで、汎用プラスチックの耐熱性、機械的特性、透明性等の工業製品に要求される諸物性を大幅に改善することによって高機能化し、エンジニアプラスチックの代替材料として使用することが提案されている。例えば、特許文献1には、結晶化温度にしたロッド状のポリプロピレンを高速で押しつぶして、ポリプロピレンの結晶体を製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、高い結晶性の高分子結晶体が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたポリプロピレンの結晶体の製造方法は、ロッド内の歪み速度によってばらつきが生じ、ポリプロピレンの結晶体としての均一性が低く、しかも高分子量のポリプロピレンの結晶体を大量にかつ連続的に製造することができないという問題を有する。また、特許文献2に記載された高分子結晶体は、核剤を含んでいるため、高分子融液と結晶化温度の差が小さくなり、高分子結晶体の成形条件が狭くなってしまう。
【0005】
そこで、結晶性樹脂の分子鎖を大量かつ高い配向性では配向させるために、結晶性樹脂の溶融物を大きな歪速度で変形するように特定の温度にて圧延する樹脂フィルムを製造する方法が提案されている(特許文献3)。また、過冷却状態の高分子の融液を一対の挟持ロールに挟んで臨界伸長ひずみ速度以上の伸長ひずみ速度で圧延伸して結晶化させることによって製造される高分子シートが開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/108251号
【特許文献2】特開2008−248039号公報
【特許文献3】国際公開第2010/084766号
【特許文献4】国際公開第2010/084750号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3及び4に開示された結晶性樹脂フィルムの製造方法、又は高分子シートの製造方法では臨界伸張ひずみ速度以上で圧延伸しないと高結晶化が達成できないため通常の圧縮機では対応することができず、さらなる改善が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ポリオレフィン系樹脂シートの結晶化度を向上させ、耐熱性及び寸法安定性に優れたポリオレフィン系樹脂シートを提供することにある。
【0009】
本発明者らは、溶融したポリオレフィン系樹脂を加圧処理する前に所定の温度にて一定時間保持することにより、耐熱性及び寸法安定性に優れたポリオレフィン系樹脂を製造可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、具体的に本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) ポリオレフィン系樹脂を溶融させ、溶融ポリオレフィン系樹脂とする溶融工程と、
上記溶融工程後のポリオレフィン系樹脂を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内で所定時間保持する保持工程と、
上記保持工程後のポリオレフィン系樹脂を、上記温度内で加圧する加圧工程と、を備えたことを特徴とするポリオレフィン系樹脂シートの製造方法。
【0011】
(2) 上記保持工程は、上記温度内の温度T1まで降温した後に、上記温度内の温度T2まで昇温し、その後当該温度T2にて保持すること特徴とする(1)記載のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法。
【0012】
(3) 上記加圧工程後、さらにアニーリング処理をする工程を備えたことを特徴とする(1)又は(2)記載のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法。
【0013】
(4) 上記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン樹脂であることを特徴とする(1)ないし(3)いずれか記載のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法。
【0014】
(5) (1)ないし(4)いずれか記載のポリオレフィン系樹脂シート製造方法によって得られたポリオレフィン系樹脂シートであって、JIS K7133による加熱寸法変化測定法で測定した縦寸法変化率及び横寸法変化率が1.0%以下であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂シート。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法によれば、高速かつ高圧の条件下でなく緩和された条件で、結晶化度が向上し、耐熱性及び寸法安定性に優れたポリオレフィン系樹脂シートを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ポリプロピレン樹脂シートの製造工程における温度変化(実施例1〜4)を示した図である。
【図2】ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度測定結果(実施例1)を示すグラフである。
【図3】ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度測定結果(実施例2)を示すグラフである。
【図4】ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度測定結果(実施例3)を示すグラフである。
【図5】ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度測定結果(実施例4)を示すグラフである。
【図6】ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度測定結果(比較例1)を示すグラフである。
【図7】ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度測定結果(比較例2)を示すグラフである。
【図8】ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度測定結果(実施例5)を示すグラフである。
【図9】ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度測定結果(比較例3)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ポリオレフィン系樹脂の製造方法>
本発明のポリオレフィン系樹脂の製造方法は、ポリオレフィン系樹脂を溶融させ、溶融ポリオレフィン系樹脂とする溶融工程と、上記溶融工程後のポリオレフィン系樹脂を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内で所定時間保持する保持工程と、上記保持工程後のポリオレフィン系樹脂を上記温度内で加圧する加圧工程とを備えたことを特徴とする。以下、各工程について説明する。なお、本発明のポリオレフィン系樹脂の製造方法において、ポリオレフィン系樹脂シートとは、シートのみならずフィルムを含む概念である。
【0018】
(溶融工程)
本発明のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法においては、原料となるポリオレフィン系樹脂を溶融させて、溶融ポリオレフィン系樹脂とする。ポリオレフィン系樹脂を溶融ポリオレフィン系樹脂とするためには、使用するポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度において加熱することにより行う。
【0019】
例えば、上記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン樹脂である場合には、ペレット状のポリオレフィン系樹脂を圧縮機の天板内に供給し、天板を加熱することによって、ポリオレフィン系樹脂を溶融させ、溶融ポリオレフィン系樹脂とすることができる。溶融ポリオレフィン系樹脂の温度は、均一な流動性を保持することができる温度であれば、特に制限されるものではないが、使用するポリオレフィン系樹脂の融点よりも30〜50℃高いことが好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン樹脂を使用した場合には、結晶性ポリプロピレンの融点である約160℃よりも30〜50℃高い、180〜210℃に設定することができる。
【0020】
溶融ポリオレフィン系樹脂に使用するポリオレフィン系樹脂とは、いわゆるポリオレフィン樹脂が含まれ、結晶性ポリオレフィンであることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4メチル1−ペンテン、1−ヘキセン、又はこれらポリマーを構成するモノマーと他のモノマーとのブロック共重合体又はランダム共重合体を例示することができる。
【0021】
(保持工程)
次に、本発明のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法は、上記溶融工程後のポリオレフィン系樹脂を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内で所定時間保持する保持工程を有する。従来のポリオレフィン系樹脂シート等の製造方法においては、溶融した結晶性樹脂をダイ等から吐出して、その直後にそのまま樹脂シート又はフィルムとするものであるが、本発明のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法においては、上記温度保持工程を設け、溶融工程後のポリオレフィン系樹脂を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内で所定時間保持することにより、ポリオレフィン系樹脂の分子鎖の配向性を整え、ポリオレフィン系樹脂の結晶化度をさらに向上させることに寄与しているものと推定される。
【0022】
上記溶融ポリオレフィン系樹脂とする工程が終了した後の溶融ポリオレフィン系樹脂の温度は、当該ポリオレフィン系樹脂の融点よりも30〜50℃高いものとなっているので、温度保持工程では、上記溶融工程後のポリオレフィン系樹脂を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の温度まで降温させる。
【0023】
ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の温度は、使用するポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の温度であれば、ポリオレフィン系樹脂の物理的性質に応じて適宜設定することができるものであるが、好ましくはポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)プラス5℃以上かつ融点(Tm)マイナス5℃以下、より好ましくは、ガラス転移温度(Tg)プラス10℃以上かつ融点(Tm)であることが好ましい。上記範囲内であれば、ポリオレフィン系樹脂を構成する分子鎖の配向性を向上することができるため好ましい。
【0024】
例えば、ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン樹脂を使用した場合には、結晶性ポリプロピレン(アイソタクチックポリプロピレン)樹脂の融点が約160℃であることから、上記温度を125〜150℃の範囲に設定することができる。なお、本発明におけるガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内で所定時間保持とは、一定の温度で保持することのみならず、温度内で昇降温することも含む意味である。
【0025】
また、溶融ポリオレフィン樹脂の温度を降温し、その温度を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の温度とする場合の降温速度は、ポリオレフィン系樹脂の分子鎖の配向性を向上させることができるものであれば、特に制限されるものではなく、使用するポリオレフィン系樹脂の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、ポリプロピレン系樹脂を使用した場合には、降温速度を3.0〜10.0℃/分の範囲に設定することができる。
【0026】
例えば、溶融ポリオレフィン系樹脂が溶融ポリプロピレン樹脂であり、その温度が200℃である場合には、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の温度を150℃に設定し、降温速度を7.7℃/分に設定し、10分程度で上記温度に10〜13分程度で到達することも可能である。
【0027】
上記保持工程においては、降温後に一定温度、上記例であれば150℃で所定時間保持することが好ましい。降温後の上記温度にて温度保持(ホールド)する時間は、使用するポリオレフィン系樹脂の物理的性質に応じて異なり、特に制限されるものではないが、好ましくは10〜30分、より好ましくは15〜20分であることが好ましい。
【0028】
さらに、上記保持工程においては、溶融後のポリオレフィン樹脂を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の温度T1まで降温した後に、上記温度内の温度T2まで昇温し、その後当該温度T2にて保持することも好ましい。
【0029】
上記保持工程において、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の上記温度T2よりも低い温度T1まで一旦冷却することより、溶融ポリオレフィン系樹脂を過冷却状態とし、ポリオレフィン系樹脂を構成する分子鎖の分子運動量を一旦小さくし、その後温度T1から温度T2まで昇温することにより、再びポリオレフィン系樹脂を構成する分子鎖の分子運動を再開させて、ポリオレフィン系樹脂の分子鎖の配向をさらに緻密に制御することができるためであると考えられる。
【0030】
上記温度T1は、温度保持する温度T2よりも好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは20〜40℃低い温度であることが好ましい。温度T1と温度T2との差が10℃以上50℃以下であると、過冷却状態の効果が顕著となり、ポリオレフィン系樹脂の配向性が向上するため好ましい。
【0031】
なお、上記溶融後のポリオレフィン系から温度T1に降温する場合の速度及び温度T1から温度T2に昇温する場合の昇温速度は、ポリオレフィン系樹脂の分子鎖の配向性に悪影響を及ぼす速度でなければ特に制限されるものではなく、50〜100℃/分であることが好ましい。昇温速度が50℃/分以上であると温度T1まで冷却することによる過冷却状態の効果を保持することができるため好ましく、100℃/分以下であるとポリオレフィン系樹脂の温度が不均一とならないため好ましい。
【0032】
(加圧工程)
次に、本発明のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法においては、上記保持工程後のポリオレフィン系樹脂を、上記温度内で加圧する加圧工程を備える。上記保持工程を経た溶融後のポリオレフィン系樹脂を加圧することにより、溶融ポリオレフィン系樹脂を当該樹脂シートとすることができる。本発明においては、上記保持工程において、溶融後のポリオレフィン系樹脂の温度を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の温度にて、溶融ポリオレフィン樹脂を所定時間保持することにより、強固にポリオレフィン系樹脂の分子鎖の配向性を調整しているため、温和な条件での加圧処理によりシート化が可能である。加圧条件は、例えば1.0GPa以下などを例示できる。
【0033】
(冷却工程)
その後、冷却固化させることによって、本発明のポリオレフィン系樹脂シートを得ることができる。冷却は従来公知の手段を用いて従来公知の条件で行うことができ特に限定されない。
【0034】
(アニーリング処理)
本発明のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法においては、上記加圧工程を経たポリオレフィン系樹脂シートを所定の条件でアニーリング処理することもできる。ポリオレフィン系樹脂をアニーリング処理することにより、寸法安定性を向上させることができる。
【0035】
上記アニーリング処理は、上記ポリオレフィン系樹脂を所定の温度で所定時間加熱することにより行うことができる。アニーリング処理温度としては、ポリオレフィン系樹脂の融点以下の温度であることが好ましく、アニーリング処理時間は、1日〜10日であることが好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂がアイソタクチックポリプロピレンの場合には、150℃の雰囲気下で2〜4日程度静置するなどの方法がある。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名ノバティックPP「EA6A」(ホモポリプロピレン、MFR:1.9g/10分)を使用し、上記ポリプロピレン樹脂のペレットを200℃に加熱した天板に入れ、溶融ポリプロピレン樹脂とした。
【0038】
次に、上記溶融ポリプロピレン樹脂を降温速度40℃/分で温度155℃まで低下させた。155℃まで降温させたポリプロピレン樹脂を13分間保持した。降温保持した溶融ポリプロピレン樹脂を、10〜30MPaの圧力条件で、表1に示す温度と時間圧力処理し、その後表1及び図1に示す条件で冷却した。図1に溶融ポリプロピレン樹脂の各製造プロセスにおける温度変化(経過時間、溶融ポリプロピレンの樹脂温度)の概略を示した。
【0039】
【表1】

【0040】
(融点:[Tm]の測定)
上記各工程を経て製造された実施例1のポリプロピレン樹脂シートの融点[Tm]を測定した。ここで、融点[Tm]とは、下記示差走査熱量(DSC)測定によって得られたピークトップの温度をいう。融点[Tm]の測定は、示差走査熱量(DSC)測定機により行った。示差走査熱量(DSC)測定機としては、示差走査熱量計「DSC−60」(株式会社島津製作所製)を使用し、昇温速度10℃/分で測定した。
【0041】
(結晶化度の測定)
上記ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度の測定はXRD(X線回折)により行った。
測定機としては、全自動水平型多目的X線回折装置「SmartLab」(株式会社リガク)を使用した。なお、具体的な結晶化度の算出方法は、下記計算式により算出した。
結晶化度(%)= 結晶部ピーク面積×100/(結晶部ピーク面積+非晶部面積)
【0042】
(寸法変化率の測定)
さらに、上記ポリプロピレン樹脂シートの寸法変化率の測定を行った。寸法変化率の測定は、JIS K7133による加熱寸法変化測定法に従って、ポリプロピレン樹脂シートの縦寸法変化率及び横寸法変化率を測定した。ここで、上記「縦寸法変化率」とは、シートの流れ方向における寸法変化率をいい、「横寸法変化率」とは、シートの流れ方向に対する幅方向における寸法変化率をいう。なお、加熱寸法変化測定法おける条件は、150℃、30分加温静置とした。
【0043】
(実施例2〜4)
表1及び図1に示したように溶融ポリプロピレン樹脂の温度保持工程、加圧工程の処理条件を変化させた以外は実施例1と同様にしてポリプロプレン樹脂シートを製造した。得られた当該樹脂シートについて、結晶化度、融点の測定、縦寸法変化率及び横寸法変化率の測定を行った。結果を表2に示す。
【0044】
(比較例1、2)
溶融ポリプロピレン樹脂を温度保持しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂シートを製造した。なお、上記表1及び図1に示すように比較例1においては、200℃の溶融ポリオレフィン樹脂を降温させる降温速度を150℃/分(急冷)とし、比較例2においては、上記降温速度を75℃/分(徐冷)とした。
【0045】
上記実施例及び比較例のポリプロピレン樹脂の融点、結晶化度、縦寸法変化率及び横寸法変化率について測定した結果を表2にまとめて示す。
【0046】
【表2】

【0047】
また、上記実施例及び比較例で製造したポリプロピレン樹脂の結晶化度の測定結果(X線回折:XRD)を図2〜図7に示した。なお、図2〜図7の測定結果は、各々図2(実施例1)、図3(実施例2)、図4(実施例3)、図5(実施例4)、図6(比較例1)、図7(比較例2)とした。
【0048】
表2によれば、溶融ポリプロピレン樹脂を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の温度に降温させ、当該温度で所定時間保持することにより、ポリプロピレン樹脂シートの結晶化度、融点、縦寸法変化率及び横寸法変化率を向上させることが可能であることが判明した。特に、実施例2及び3においては、原料となるポリプロプレン樹脂の融点が167℃であり、上記保持工程を経て得られたポリプロピレン樹脂シートの融点が174℃となっており、ポリプロピレン樹脂の結晶化度の向上による融点の上昇と寸法変化率の向上を確認することができる。
【0049】
また、ポリプロピレン系樹脂シートの融点が上昇する測定結果は、結晶化度の測定結果(X線回折:XRD)からも容易に裏づけることができる。図3、4からも明らかなように、溶融ポリプロピレン樹脂をガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の温度に降温させ、当該温度で所定時間保持することにより得られた実施例2、3のポリプロピレン樹脂シートは、12.0、14.0、18.0及び22.0(2θ[deg])付近に4つの鋭い強度ピーク(cps)を有しており、その強度も250000〜300000cpsとなっており、これらのピーク強度より算出した結晶化度は61.5(実施例2)、64.0(実施例3)となった。図3、4において、特に顕著であるのは、2θ=14.0に鋭くピーク強度が観測できることである。すなわち、2θ=14.0の鋭いピークは、ポリプロピレン樹脂シートの分子鎖の配向性がさらに強固となることにより、結晶化度が向上していることに起因するものであるものと考えられる。
【0050】
これに対して、図6、7に示されるように、比較例のポリプロピレン樹脂シートのポリプロピレンは、上記4つのピークと同様な位置にピークを有しているものの、いずれもそれらのピークは鋭いものにはなっておらず、図6、7の測定結果(XRD)か算出した結晶化度は、56.0%程度となった。上記実施例及び比較例の対比からも明らかなように、溶融ポリプロピレン樹脂を融点以下の温度に降温させ、当該温度で所定時間保持することにより、結晶化度を向上させることができ、当該樹脂の耐熱性の向上を図ることが可能となり、しかも寸法変化率も向上することが分かる。
【0051】
(実施例5、比較例3)
実施例5においては、上記実施例2と同じ条件により、ポリプロピレン樹脂シートを製造し、その後、更にアニーリング(熱処理)を行い、ポリプロピレン樹脂シートとした。なお、アニーリング処理(熱処理)の条件は、150℃で4日間行った。また、比較例3として、それぞれ上記比較例1と同じ条件により、ポリプロピレン樹脂シートを製造し、その後、更にアニーリング(熱処理)を行い、ポリプロピレン樹脂シートとした。上記実施例5及び比較例3で得られたポリプロピレン樹脂シートについて、実施例1と同様に結晶化度(XRD)、融点の測定、縦寸法変化率及び横寸法変化率の測定を行った。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3の実施例2及び実施例5を対比すると、ポリプロピレン樹脂シートをアニーリング処理することにより、縦寸法変化率(MD)1.0%(実施例2)から0.6%(実施例5)、横寸法変化率(TD)が0.7%(実施例2)から0.5%(実施例5)となり、いずれの方向においても寸法変化率の値は低下し、寸法安定性がさらに向上することが判明した。
【0054】
すなわち、本発明のポリオレフィン系樹脂の製造方法は、溶融ポリプロピレン樹脂をガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内の温度に降温させ、当該温度で所定時間保持することにより、結晶化度を向上させポリオレフィン系樹脂の耐熱性及び寸法安定性を優れたものとすることができ、さらに得られた当該樹脂シートを所定の条件でアニーリング処理することにより更に寸法安定性を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を溶融させ、溶融ポリオレフィン系樹脂とする溶融工程と、
前記溶融工程後のポリオレフィン系樹脂を、ガラス転移温度(Tg)を超えて融点(Tm)未満の間の温度内で所定時間保持する保持工程と、
前記保持工程後のポリオレフィン系樹脂を、前記温度内で加圧する加圧工程と、を備えたことを特徴とするポリオレフィン系樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記保持工程は、前記温度内の温度T1まで降温した後に、前記温度内の温度T2まで昇温し、その後当該温度T2にて保持すること特徴とする請求項1記載のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記加圧工程後、さらにアニーリング処理をする工程を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂シート製造方法によって得られたポリオレフィン系樹脂シートであって、JIS K7133による加熱寸法変化測定法で測定した縦寸法変化率及び横寸法変化率が1.0%以下であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−166407(P2012−166407A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28165(P2011−28165)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】