説明

ポリオレフィン系樹脂フィルム及び積層シート

【課題】高分子型帯電防止剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルムや、高分子型帯電防止剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルム層と該ポリオレフィン系樹脂フィルム層に積層された発泡層とを有する積層シートなどにおいて、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図ることを課題としている。
【解決手段】ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種と、高分子型帯電防止剤とを含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルムであって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物には、さらに滑剤が含有されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤にアイオノマー樹脂が用いられていることを特徴とするポリオレフィン系樹脂フィルムなどを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種と、高分子型帯電防止剤とを含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルム、及び、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種と高分子型帯電防止剤とを含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルム層と、該ポリオレフィン系樹脂フィルム層に積層された発泡層とを有する積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂フィルムや、該ポリオレフィン系樹脂フィルムからなるフィルム層と発泡層とを有する積層シートは、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂といった比較的安価な材料を用いて形成されているばかりでなく製造に要するコストも低いことから安価な商品として市販されている。
また、ポリオレフィン系樹脂フィルムや積層シートは、耐熱性や機械的強度に優れていることから、従来、養生シート、組立箱、仕切り材、電気・電子部品容器、機械部品容器、及び食品容器等に広く用いられている。
しかし、ポリオレフィン系樹脂フィルムは、静電気によって帯電されやすく、保管中に挨等が付着して汚れを生じやすいという問題や、電気・電子部品に対して悪影響を及ぼすおそれが有り改善が求められている。
【0003】
このようなポリオレフィン系樹脂フィルムの帯電による諸問題は、フィルム表面の表面抵抗率の値を低下させることで防止されることが知られており、例えば、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂では、樹脂単体のフィルムの表面抵抗率の値が、通常、1015(Ω/□)オーダーを超えるレベルであるのに対してこれを1013(Ω/□)オーダー以下に低下させることで上述のような問題を低減させ得ることが知られている。
【0004】
この表面抵抗率を低下させる手法として、ポリオレフィン系樹脂フィルムの形成に用いる樹脂組成物中に帯電防止剤と呼ばれる成分を含有させる方法が採用されており、従来、界面活性剤などの成分を原材料中に含有させることが行われている。
この界面活性剤などの分子量が1000程度、あるいは、それ以下のものは“低分子型帯電防止剤”とも呼ばれており、これらの低分子型帯電防止剤は、帯電防止に有効ではあるもののポリマー中における拡散速度が大きいため経時的にポリオレフィン系樹脂フィルム表面に滲出して、いわゆる“ブリードアウト”という問題を発生させるおそれを有する。
【0005】
近年、このようなことから、低分子型帯電防止剤に代えて分子量が1000を超え、数万に及ぶような高分子量の物質を主成分とする、いわゆる“高分子型帯電防止剤”の利用が検討されている(下記特許文献1参照)。
この高分子型帯電防止剤としては、エーテル結合やエステル結合を含んだ極性ブロックと、アルキルなどからなる非極性ブロックとを有する共重合体が知られており、このような帯電防止剤は、ポリマー中における移行性が低いことから、この高分子型帯電防止剤を用いることでブリードアウトの問題を抑制させることができる。
【0006】
しかし、このような高分子型帯電防止剤は、比較的、大量に配合しないと効果が発揮されず、しかも、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂に比べてはるかに高価であるためポリオレフィン系樹脂フィルムの材料コストを増大させてしまうおそれがあり、ポリオレフィン系樹脂フィルムの汎用性を低下させるおそれを有する。
【0007】
また、例えば、高分子型帯電防止剤としては、アイオノマー樹脂がその成分として用いられたものが知られているが、このアイオノマー樹脂は、ポリオレフィン系樹脂をベースポリマーとする組成物中に配合される場合に、10質量%を超えるような配合量としても当該ポリオレフィン系樹脂組成物で形成された成形品に対して十分な帯電防止性能を発揮させることができない場合があり、実際上は、ポリオレフィン系樹脂組成物に含有させる高分子型帯電防止剤としては利用されてはいない。
【0008】
このように、従来のポリオレフィン系樹脂フィルムや、積層シートは、その成分として、高分子型帯電防止剤を、比較的大量に配合しないと求める帯電防止効果を得ることが難しいという問題を有している。
なお、これまでに高分子型帯電防止剤を少ない量で有効に作用させるための検討がなされてはいるもののその手法はいまだ確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−274031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高分子型帯電防止剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルムや、高分子型帯電防止剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルム層と該ポリオレフィン系樹脂フィルム層に積層された発泡層とを有する積層シートに対して、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ良好なる帯電防止効果を発揮させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討を行ったところ、ポリオレフィン系樹脂組成物に滑剤として配合される、脂肪酸、脂肪酸アマイド、あるいは、脂肪酸金属塩などをアイオノマー樹脂と併用することで、該ポリオレフィン系樹脂組成物によって形成される成形品の表面抵抗率を大きく低下させ得ることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するためのポリオレフィン系樹脂フィルムに係る本発明は、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種と、高分子型帯電防止剤とを含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルムであって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物には、さらに滑剤が含有されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤にアイオノマー樹脂が用いられていることを特徴としている。
【0013】
また、上記課題を解決するための積層シートに係る本発明は、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種と高分子型帯電防止剤とを含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルム層と、該ポリオレフィン系樹脂フィルム層に積層された発泡層とを有する積層シートであって、前記ポリオレフィン系樹脂フィルム層の形成に用いられているポリオレフィン系樹脂組成物には、さらに滑剤が含有されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤にアイオノマー樹脂が用いられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリオレフィン系樹脂フィルムならびに積層シートは、その形成に用いられるポリオレフィン系樹脂組成物に高分子型帯電防止剤としてアイオノマー樹脂が含有され、しかも、このアイオノマー樹脂は滑剤とともにポリオレフィン系樹脂組成物に含有される。
このアイオノマー樹脂と滑剤との相互作用によって優れた帯電防止効果が発揮されるため、アイオノマー樹脂(高分子型帯電防止剤)の使用量を低減しつつもポリオレフィン系樹脂フィルムや積層シートに優れた帯電防止性を付与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第二実施形態に係る積層シートの構造を示す断面図。
【図2】他形態の積層シートの構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一実施形態)
本発明に係る第一の実施形態としてポリオレフィン系樹脂フィルムについて、以下に説明する。
まず、前記ポリオレフィン系樹脂フィルムを形成するためのポリオレフィン系樹脂組成物について説明する。
【0017】
本実施形態における前記ポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種からなるポリオレフィン系のベース樹脂と、高分子型帯電防止剤とを含有し、さらに、滑剤を含有している。
【0018】
ベース樹脂を構成させるための前記ポリエチレン(PE)系樹脂としては、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、直鎖低密度ポリエチレン樹脂、(高圧法によって得られる)低密度ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
前記ポリプロピレン(PP)系樹脂としては、プロピレン成分のみからなるホモポリプロピレン樹脂、プロピレン成分以外にエチレンなどのオレフィン成分を含有するランダム共重合体やブロック共重合体が挙げられる。
なお、上記のような共重合体を採用する場合には、プロピレン以外のオレフィンを共重合体中に0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜10質量%の割合で含有させたものを用いることが望ましい。この場合のオレフィン成分としては、エチレン、あるいは、炭素数4〜10のα−オレフィンを挙げることができる。
【0019】
また、本実施形態のポリオレフィン系樹脂組成物には、これら以外に、ポリブテン樹脂や、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂などのポリオレフィン系樹脂を前記ベース樹脂の一部として含有させうる。
【0020】
前記高分子型帯電防止剤としては、アイオノマー樹脂が用いられ、該アイオノマー樹脂としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステルアミドなどのアイオノマーが挙げられる。
また、このアイオノマー樹脂に加えて、特開2001−278985号公報等に記載されているようなオレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体等を前記高分子型帯電防止剤として前記ポリオレフィン系樹脂組成物に含有させることができる。
【0021】
なお、前記高分子型帯電防止剤に用いられるアイオノマー樹脂としては、例えば、三井デュポンポリケミカル社から、商品名「エンティラMK400」、商品名「エンティラSD100」などとして市販のカリウムアイオノマー樹脂が挙げられる。
【0022】
また、帯電防止効果を高めるために、アルキルベンゼンスルホン酸塩、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤や、その他の界面活性剤又はアルカリ金属塩などの低分子型帯電防止剤を併用してもよい。
ただし、これらの添加によって、溶出イオン量が増加することがあるので使用量は、ポリオレフィン系樹脂組成物に含有される帯電防止剤(高分子型帯電防止剤+低分子型帯電防止剤)の合計量に占める割合が0.5質量%未満となるように含有させることが好ましい。
【0023】
このアイオノマー樹脂と併用させる滑剤としては、飽和又は不飽和の脂肪酸、該脂肪酸金属塩、脂肪酸アマイドあるいは、ポリオレフィンワックスなどが好適である。
この脂肪酸やその金属塩としては、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ラウリン酸や、そのカルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。
また、脂肪酸アマイドとしては、例えば、ラウリン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド等の飽和脂肪酸モノアマイド類、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスカプリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスイソステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アマイド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アマイド等の飽和脂肪酸ビスアマイド類、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、リシノ−ル酸アマイド等の不飽和脂肪酸モノアマイド類、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスエルカ酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アマイド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アマイド等の不飽和脂肪酸ビスアマイド類や、N−ステアリルステアリン酸アマイド、N−オレイルオレイン酸アマイド、N−ステアリルオレイン酸アマイド、N−オレイルステアリン酸アマイド、N−ステアリルエルカ酸アマイド、N−オレイルパルミ酸アマイド等の置換アマイド類、メチロ−ルステアリン酸アマイド、メチロ−ルベヘン酸アマイド等のメチロールアマイド類等が挙げられる。
一方、ポリオレフィンワックスとしては、メタロセン系触媒を用いて製造された極性または非極性のポリエチレン系ワックスまたは極性または非極性のポリプロピレン系ワックス等が挙げられる。
【0024】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂組成物における前記ベース樹脂、前記高分子型帯電防止剤、及び前記滑剤の配合割合などは特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率は、1×108Ω/□〜1×1013Ω/□のいずれかであることが好ましいことから、このような表面抵抗率をポリオレフィン系樹脂フィルムに付与させ得るものの中で、より高分子型帯電防止剤の含有量の低減が可能な配合割合を選択することが好ましい。
なお、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率は、1×109Ω/□〜1×1012Ω/□のいずれかとさせることがより好ましく、1×109Ω/□〜1×1011Ω/□のいずれかとさせることが最も好ましい。
このような表面抵抗率の値をポリオレフィン系樹脂フィルムに付与しうるアイオノマー樹脂のポリオレフィン系樹脂組成物に占める含有量としては、通常、5〜20質量%のいずれかであり、5〜15質量%のいずれかであることが好ましい。
【0025】
また、前記滑剤は、通常、ポリオレフィン系樹脂組成物全体に占める割合が0.01〜5.0質量%の内のいずれかとなる割合で含有される。
前記アイオノマー樹脂や前記滑剤は、前記下限値未満の配合量とされると、これらの相互作用によって発揮される帯電防止効果が十分発揮されなくなるおそれを有する。
一方で、アイオノマー樹脂が前記上限値を超える場合には、ポリオレフィン系樹脂フィルムの材料コストが高くなってしまうおそれを有し、滑剤が前記上限値を超える場合には、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面に当該滑剤が滲出する、いわゆる、ブリードアウトを生じるおそれを有する。
このような観点から、より好ましいアイオノマー樹脂や滑剤の配合量は各々8〜13質量%及び0.3〜1.0質量%である。
【0026】
また、ここでは詳述しないが、本実施形態のポリオレフィン系樹脂フィルムの形成に用いられるポリオレフィン系樹脂組成物には、一般的なポリマーフィルムの形成に用いられる配合剤を含有させることができ、例えば、耐候剤や老化防止剤といった各種安定剤、加工助剤、防曇剤、顔料、充填剤などを添加剤として適宜含有させることができる。
【0027】
次いで、このようなポリオレフィン系樹脂組成物を用いてポリオレフィン系樹脂フィルムを製造する製造方法について説明する。
本実施形態においては、一般的なフィルム製造方法に用いられる方法を採用することができ、例えば、前記ベース樹脂、前記アイオノマー樹脂、及び、前記滑剤などを含有するポリオレフィン系樹脂組成物を作製する樹脂混練工程を実施した後に、得られたポリオレフィン系樹脂組成物をフィルム状に押出し加工する押出し工程を実施する方法などを採用しうる。
以下に、それぞれの工程に関して、より具体的に説明する。
【0028】
(樹脂混練工程)
まず、ベース樹脂、アイオノマー樹脂、滑剤と、必要に応じて各種の添加剤とを計量してタンブラーブレンダー、へンシェルミキサーなどでドライブレンドした後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどなどで各配合材料が略均一に混合された状態となるように溶融混練する。
なお、滑剤に関しては、ベース樹脂やベース樹脂に対して親和性の高い樹脂に高い濃度で含有させた滑剤添加用樹脂ペレットを予め作製しておき、いわゆる、マスターバッチ方式で前記溶融混練に供してもよい。
そして、この溶融混練物をストランド状に押出してペレタイズするか、ホットカットしてペレット化するなどしてポリオレフィン系樹脂組成物からなるペレットを作製する。
【0029】
(押出し工程)
上記樹脂混練工程で得られたペレットを熱溶融状態でフィルム状に押出し加工する方法としては、例えば、サーキュラーダイなどから押出してインフレーション法によってフィルム化したり、T−ダイなどから押出してキャスト法によってフィルム化したりする方法があげられる。
この内、T−ダイなどのフラットダイでは、押出し方向への延伸が容易である一方で幅方向への延伸のためにはテンターなどの設備を要することから、幅方向への延伸も容易なサーキュラーダイを用いた押出し工程を実施することが好ましい。
【0030】
この樹脂混練工程、及び、押出し工程において、アイオノマー樹脂が、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂といった相溶性の低いベース樹脂中に分散されることによってベース樹脂をマトリックスとし、アイオノマー樹脂を分散相とした海島構造がポリオレフィン樹脂フィルム中に形成される。
【0031】
そして、前記滑剤は、押出し工程において、マトリックス内部で内部潤滑剤として働き、アイオノマー樹脂によって形成された分散相の分散性を向上させる。つまり、単独では、局所的に偏って分散してしまうアイオノマー樹脂による分散相が、より均一に分散されるようになり、隣接した分散相どうしの平均距離をより短いものに出来る。
【0032】
しかも、押出し工程においては、アイオノマー樹脂が樹脂の流れ方向(押出し方向)に沿って長く延び、比較的アスペクト比の高い粒子状となって分散相を形成し、1μm長さを超える粒子状となって分散相を形成し得ることから、例えば、10質量%以下の添加量でアイオノマー樹脂をポリオレフィン系樹脂組成物に含有させだけでポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の低減を図ることができる。
【0033】
このことについてより詳しく説明すると、本実施形態におけるポリオレフィン系樹脂フィルムでは、1μm長さを超えるような細長い形状の分散相が形成され、アイオノマー樹脂のイオンの作用による導電路がこの分散相によって形成されることとなる。
ここで、本実施形態のポリオレフィン系樹脂フィルムにおいては、樹脂の流れ方向に沿って上記のような長細い粒状に分散相が形成されることから、この粒子の長手方向に沿った電気抵抗値の低減が図られることとなる。
【0034】
また、通常、分散相を形成しているアイオノマー樹脂粒子と、この粒子に隣接する別のアイオノマー樹脂粒子との間の電気抵抗値は、主として、分散相間の距離によって決定されることになる。
つまり、樹脂の流れ方向と直交する方向に電圧を印加した場合においては、アイオノマー樹脂粒子どうしが隣り合せとなる区間における最も電気抵抗値の低い箇所(通常、粒子どうしが最も接近している箇所)を通って流れる電荷の量によって電気抵抗値が左右されることになる。
そして、本実施形態のポリオレフィン系樹脂フィルムにおいては、樹脂の流れ方向に沿って長細い粒状に分散相が形成されることから、アイオノマー樹脂粒子どうしが隣り合わせとなる区間が長く形成され、その間に電気抵抗値の低い箇所が形成される可能性が高くなる。
したがって、イオン伝導に有利な樹脂の流れ方向以外の方向においても電気抵抗値の低減が図られることとなり、高分子型帯電防止剤の配合量を、例えば、5〜10質量%に低減したとしてもポリオレフィン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を、一般的に求められる1013(Ω/□)オーダー以下(1×1014未満)の値となるように低下させうる。
【0035】
上記に示したように、特に、アイオノマー樹脂粒子の長手方向となる方向に対して電気抵抗値の低減を図ることができるため、ポリオレフィン系樹脂フィルムを連続的な押出し成形によって長尺状とし、ロール状に巻き取った場合においてより顕著な効果が発揮されることとなる。
すなわち、通常、ロール状に巻き取られた樹脂フィルムは、外側のフィルムが引き出されて使用され、引き出されるフィルムがその内側で接しているフィルムの背面から離れる際に静電気を発生させやすいが、本実施形態のポリオレフィン系樹脂フィルムは、ロール巻取り方向にアイオノマー樹脂粒子が長く延びる状態となっており、この方向に向けての電気抵抗値が特に低減されていることから、フィルムの引き出しによって静電気が発生されたとしてもその電荷を引き出される方向とは逆の、フィルムどうしが接触している箇所に向けて移動させることが容易で、電気的な中和を図ることが容易である。
このように本実施形態のポリオレフィン系樹脂フィルムは、容器などの製品に加工された際においても優れた帯電防止性が発揮されるのみならず、フィルムロールなどの中間製品の状態においてもその優れた効果が発揮されるものである。
【0036】
なお、本実施形態においては、極性を大きく相違させるアイオノマー樹脂とポリオレフィン系樹脂とを用いることから上記のような効果を発揮させるのに適した海島構造が形成されるものである。
例えば、相溶性の高い樹脂どうしであれば、例え海島構造が形成されたとしても、微細な分散状態となりやすく、十分な表面抵抗率の低減を図ることが難しくなって、十分な帯電防止性能を付与することが難しくなるおそれを有する。
このような点において、マトリックスを形成する樹脂と、分散相を形成する樹脂との溶解パラメーター(SP値)は、1.0以上相違させることが好ましい。
また、相溶性の低い樹脂を用いた場合であっても押出し時に過度なせん断が加えられるなどすると微細な分散状態となってしまうおそれを有する。
例えば、単位時間当たりの樹脂吐出量を得る場合であっても、シリンダー径の小さな押し出し機でスクリューを高速回転させるなどした場合には、得られる製品における分散相が微細な状態となってしまう可能性が高いことから、分散相の粒子形状が1μm以上の長さとなるように樹脂の選択とともに押し出し条件を調整することが好ましい。
【0037】
なお、アイオノマー樹脂以外に、ポリオレフィン系樹脂と相溶性の低い樹脂をさらに含有させて、当該樹脂で分散相を形成させ、その周囲にアイオノマー樹脂を濃化させたり、滑剤を濃化させたりして同種の効果を発揮させることもできる。
このポリオレフィン系樹脂と相溶性の低い樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられる。
【0038】
以上のようにして、本実施形態のポリオレフィン系樹脂フィルムは、その形成材料における高分子型帯電防止剤の含有量を抑制しつつ表面抵抗率の低減を図ることができる。
【0039】
(第二実施形態)
次いで、本発明の第二の実施形態として、積層シートについて説明する。
図1は、本実施形態に係る積層シートの断面図であり、この図1にも示されているように、本実施形態に係る積層シート1は、ポリオレフィン系樹脂フィルム層10と該ポリオレフィン系樹脂フィルム層10に接着状態で積層された発泡層20とを有している。
【0040】
このポリオレフィン系樹脂フィルム層10の形成には、第一実施形態において述べたポリオレフィン系樹脂組成物が用いられており、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種と、高分子型帯電防止剤としてのアイオノマー樹脂と、脂肪酸アマイドなどの滑剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物が用いられている。
すなわち、積層シート1は、その表面層が、表面抵抗率の低いポリオレフィン系樹脂フィルム層10によって形成されることで帯電防止が図られている。
【0041】
一方で、発泡層20の形成に用いる樹脂組成物としては、特に限定されるものではなく、ポリオレフィン系樹脂フィルム層10と同じように帯電防止の処方がなされた樹脂組成物であっても、このような処方がなされていない樹脂組成物であってもよい。
例えば、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種を含有するベース樹脂に対して、加熱分解型の発泡剤を含有させるか、ガス発泡のための核剤を含有させるかしたものなどが挙げられる。
【0042】
なかでも、ポリプロピレン系樹脂として共重合体を採用する場合には、プロピレン以外のオレフィン成分が共重合体中に0.5〜30質量%、特に、1〜10質量%の割合で含有されているものが好ましい。
この場合のオレフィンとしては、エチレン、あるいは、炭素数4〜10のα−オレフィンを挙げることができる。
特に、発泡性に優れた高溶融張力ポリプロピレン系樹脂が好ましく、例えば、特許第2521388号公報に記載されているものが好適に使用されうる。
【0043】
前記加熱分解型の発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとクエン酸の混合物などが挙げられる。
また、前記核剤としては、例えば、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物、ポリテトラフルオロエチレン、などの有機化合物などが挙げられる。
これらは、単独、または、複数組み合わせて発泡層20の形成に用いることができる。
【0044】
また、その他の成分として、シート状の発泡体を形成させるための樹脂組成物に関して従来公知の成分をこの発泡層20の形成に用いる樹脂組成物にも含有させうる。
【0045】
なお、“ポリオレフィン系樹脂フィルム層”との用語は、上記のように発泡層20が発泡状態であるのに対してフィルム状に非発泡な状態に形成されていることをもってこのような用語を用いているもので、一旦、発泡層を形成させるためのシートとは別に作製されたポリオレフィン系樹脂フィルムによって形成される場合に限定しているものではない。
したがって、本実施形態の積層シートとしては、ポリオレフィン系樹脂フィルム層10を形成させるためのポリオレフィン系樹脂フィルムと、発泡層20を形成させるための発泡シートとを、一旦、別々に作製した後に、これらをヒートラミネートして一体化させたものが挙げられるが、このような積層シートに代えて共押出し成形法によってポリオレフィン系樹脂フィルム層と発泡層とを形成させたものも採用が可能である。
【0046】
しかも、共押出し成形法では、帯電防止性を有するポリオレフィン系樹脂フィルム層10を均一、且つ、薄肉に形成させることが容易である点においてヒートラミネートなどの方法に比べて優れている。
特には、本実施形態に係る積層シート1を作製する方法として、フィードブロック法による共押出し成形法を採用することが好ましい。
【0047】
このような共押出し成形法としては、例えば、特開平6−238788号公報に記載の方法を採用することができる。
すなわち、帯電防止性能を有するポリオレフィン系樹脂フィルム層10の押出しと発泡層20の押出しに異なる押出し機を用いて、これらから押出される溶融状態の樹脂組成物を一つのダイに合流させた後、これを、例えば、サーキュラーダイの内側に沿って発泡層形成用の樹脂組成物を押出させるとともに外側に沿ってポリオレフィン系樹脂フィルム層形成用の樹脂組成物を押出させ、内外二層となる状態での押出しを実施することで外側にポリオレフィン系樹脂フィルム層10が形成され内側に発泡層20の形成された筒状の積層シート1を形成させることができる。
【0048】
この積層シート1においても、ポリオレフィン系樹脂フィルム層10に第一実施形態のポリオレフィン系樹脂フィルムと同様にアイオノマー樹脂の均一な分散状態が形成されることから少ない高分子型帯電防止剤の使用量でありながらも優れた帯電防止性が発揮されることとなる。
【0049】
なお、この第二実施形態においては、ポリオレフィン系樹脂フィルム層10と発泡層20との2層構造の積層シートを例示しているが、例えば、図2に示すような複数のフィルム層を有する場合や、複数の発泡層を有する場合も本発明の意図する範囲である。
例えば、発泡層20の両面にポリオレフィン系樹脂フィルム層10,10’を設けたり(図2(a))、両表面を構成する2層のポリオレフィン系樹脂フィルム層10,10’の間に、複数の発泡層20,20’を設けたり(図2(b))する場合も本発明の積層シートとして意図する範囲のものである。
さらには、発泡層20の片面に2層のポリオレフィン系樹脂フィルム層10,10”を設ける(図2(c))場合も本発明の意図する範囲である。
また、2層又はそれ以上のポリオレフィン系樹脂フィルム層は、発泡層の片面側のみならず両面に形成させることもでき、これらに限らず種々の積層構造を積層シートに形成させ得る。
なお、この図2(a)、図2(b)に示すように両面にポリオレフィン系樹脂フィルム層を設けている場合には、必要な側にのみ帯電防止性能を付与させればよく、いずれか一方、又は両方のポリオレフィン系樹脂フィルム層をアイオノマー樹脂を含んだ高分子型帯電防止剤と滑剤とを含有するポリオレフィン樹脂組成物によって形成させることができる。
また、図2(c)に示すように発泡層20の片面に2層のポリオレフィン系樹脂フィルム層を設ける場合は、外側のポリオレフィン系樹脂フィルム層10のみ、又は、外側のポリオレフィン系樹脂フィルム層10と内側のポリオレフィン系樹脂フィルム層10”の両方を高分子型帯電防止剤と滑剤とを含有するポリオレフィン樹脂組成物によって形成させることができる。
【0050】
第一実施形態のポリオレフィン系樹脂フィルムや、この第二実施形態の積層シートは、高分子型帯電防止剤の使用量が抑制されており、材料コストの低減が図られることから、一般消費材用途において好適となり、特に、ホコリの付着など、保管時の汚損が抑制されることから食品用途などに好適なものとなる。
例えば、第二実施形態の積層シートは、食品トレーなどの原材料シートとして好適に用いられ得る。
【実施例】
【0051】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(配合剤)
以下に、ポリオレフィン系樹脂フィルムの作製に用いる配合剤の略称と、その詳細とを記載する。

【0053】
(配合1〜18)
下記表1〜3に示す配合にて、ポリオレフィン系樹脂フィルムを作製した。
また、得られたポリオレフィン系樹脂フィルムに対して、JIS K 6911:1995「熱硬化性プラスチックー般試験方法」記載の方法により表面抵抗率の値を測定した。
具体的には、一辺が10cmの平面正方形状の試験片を温度22℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置した後、温度22℃、湿度60%の環境下、試験装置(アドバンテスト社製、デジタル超高抵抗/微少電流計R8340及びレジスティビティ・チェンバR12702A)を使用し、試験片に、約30Nの荷重にて電極を圧着させ500Vの電圧を印加して1分経過後の抵抗値を測定し、次式により算出した。
ρs=π(D+d)/(D−d)×Rs
ただし、
ρs:表面抵抗率(Ω/□)
D:表面の環状電極の内径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、7cm)
d:表面電極の内円の外径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、5cm)
Rs:表面抵抗(Ω)
【0054】
また、測定は3回実施し、それぞれの算術平均値を求めた。
結果を、表1〜3に併せて示す。
【0055】
【表1】

この表から、アイオノマー樹脂が用いられてなる高分子型帯電防止剤を使用した際、ベースPP樹脂に滑剤が入っているものを用いることで、前記高分子型帯電防止剤の使用量低減を図りつつ、成形品に対して優れた帯電防止性能を発揮させうることがわかる。
【0056】
【表2】

この表からも、アイオノマー樹脂が用いられてなる高分子型帯電防止剤を滑剤または滑剤入りのPP樹脂と併用することで、前記高分子型帯電防止剤の使用量低減を図りつつ、成形品に対して優れた帯電防止性能を発揮させうることがわかる。
【0057】
【表3】

【0058】
この表からも、アイオノマー樹脂が用いられてなる高分子型帯電防止剤を滑剤と併用することで、前記高分子型帯電防止剤の使用量低減を図りつつ、成形品に対して優れた帯電防止性能を発揮させうることがわかる。
【符号の説明】
【0059】
1:積層シート、10:ポリオレフィン系樹脂フィルム層、20:発泡層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種と、高分子型帯電防止剤とを含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルムであって、
前記ポリオレフィン系樹脂組成物には、さらに滑剤が含有されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤にアイオノマー樹脂が用いられていることを特徴とするポリオレフィン系樹脂フィルム。
【請求項2】
前記滑剤が脂肪酸アマイドである請求項1記載のポリオレフィン系樹脂フィルム。
【請求項3】
前記滑剤がポリオレフィンワックスである請求項1記載のポリオレフィン系樹脂フィルム。
【請求項4】
ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の内の少なくとも1種と高分子型帯電防止剤とを含有するポリオレフィン系樹脂組成物によって形成されているポリオレフィン系樹脂フィルム層と、該ポリオレフィン系樹脂フィルム層に積層された発泡層とを有する積層シートであって、
前記ポリオレフィン系樹脂フィルム層の形成に用いられているポリオレフィン系樹脂組成物には、さらに滑剤が含有されており、しかも、前記高分子型帯電防止剤にアイオノマー樹脂が用いられていることを特徴とする積層シート。
【請求項5】
前記滑剤が脂肪酸アマイドである請求項4記載の積層シート。
【請求項6】
前記滑剤がポリオレフィンワックスである請求項4記載の積層シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−144241(P2011−144241A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5173(P2010−5173)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】