説明

ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂を基材とするめっき物

【課題】ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂を基材とするめっき物を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上に、還元性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は、前記基材上に、導電性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料を塗布し、該導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して塗膜層を形成し、そして該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物であって、
前記オレフィン系ポリマーは、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体であり、前記下地塗料中における前記還元性高分子微粒子又は前記導電性高分子微粒子と前記オレフィン系ポリマーの質量比は、3:20ないし3:150の範囲であることを特徴とするめっき物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂を基材とする、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物であって、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、簡易な無電解めっき法により製造することができるめっき物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ABS樹脂に代表されるプラスチック樹脂基材へ、無電解めっき法を用いて、銅、ニッケル等の金属膜を被覆する技術はよく知られている。しかし、無電解めっきによって得られた金属被膜は、プラスチック素材との密着強度が十分でないといった問題があるため、無電解めっきを施す前の前処理として、化学的な薬品によるプラスチック表面のエッチング処理(表面粗化)を行う必要があった。このエッチング処理に使用される薬品は、クロム酸、過マンガン酸、硫酸、有機溶剤等が使用されていた。
【0003】
一方、ポリオレフィン系樹脂を基材として用いる場合は、上述のクロム酸、過マンガン酸等の強酸を用いるエッチング処理を行うことができない(樹脂が溶解してしまうため)ことにより、例えば、特開平05−59587号公報(いすゞ自動車株式会社:特許文献1)に記載されるように、ポリオレフィン系樹脂基材とめっき金属との高い密着性を可能とするために、あらかじめポリオレフィン系樹脂基材中に酸性薬剤で溶解する無機化合物を混合させておき、エッチング処理(酸性エッチング液)を行った際、前記無機化合物が溶解してポリオレフィン系樹脂基材表面に、投錨効果によりめっき金属との高い密着性を可能とする凹凸を形成するという方法が提言されている(例えば、図1参照)。
また、ポリアセタール系樹脂基材を用いる場合は、「無電解めっき 基礎と応用」(日刊工業新聞社 2002年4月30日 初版6刷発行 p141 6.1[3])(非特許文献1)に記載されるように、クロム酸を用いるエッチングでは、ポリアセタール系樹脂基材が分解・破壊されてしまうため、リン酸若しくは塩酸、硫酸で加熱しながらエッチング処理するという方法が提言されており、また、特表2007−521363号公報(特許文献2)に記載されるように、ポリアセタール系樹脂基材とめっき金属との高い密着性を可能とするために、あらかじめポリアセタール系樹脂基材中に酸可溶性粒子を添加しておき、酸エッチング処理を行った際、前記酸可溶性粒子が溶解してポリアセタール系樹脂基材表面に、投錨効果によりめっき金属との高い密着性を可能とする凹凸を形成するという方法が提言されている。
【0004】
つまり、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂を基材として用いて、密着性の高い金属膜を無電解めっき法で形成するためには、上述のように、基材を溶解又は破壊しない条件でのエッチング処理により、基材表面に、投錨効果によりめっき金属との高い密着性を可能とする凹凸を形成することが重要となる(例えば、図1参照)が、一方で、基材表面に形成された凹凸のために、めっきの膜厚を厚くしないと(少なくとも10μm程度必要)平滑な金属面が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開平05−59587号公報
【特許文献2】特表2007−521363号公報
【非特許文献1】日刊工業新聞社 2002年4月30日 初版6刷発行 p141 6.1[3]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂を基材とする、薄くて平滑
性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物であって、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、簡易な無電解めっき法により製造することができるめっき物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、無電解めっき処理を行う前に、2軸延伸PETフィルム、PIフィルム等の樹脂フィルム上に、還元性高分子微粒子を含む塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は導電性高分子微粒子を含む塗料を塗布して塗膜層を形成した後に、アルカリ処理等により、脱ドープして塗膜層中の高分子微粒子を還元性とすれば、煩雑なエッチング処理等を行わなくても、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物が得られることを見出した。
【0007】
しかし、上記方法では、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂を基材として用いた場合には、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物が得られにくい傾向にあることが判った。
【0008】
そのため、本発明者らは、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂を基材として用いた場合でも、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物を得る方法に付き、鋭意検討した結果、無電解めっき処理を行う前に、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上に、還元性高分子微粒子と塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体であるオレフィン系ポリマーとを含み、前記高分子微粒子と前記オレフィン系ポリマーの質量比が特定の範囲内となる下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又前記基材上に、導電性高分子微粒子と前記オレフィン系ポリマーとを含み、前記高分子微粒子と前記オレフィン系ポリマーの質量比が特定の範囲内となる下地塗料を塗布して塗膜層を形成した後に、アルカリ処理等により、脱ドープして塗膜層中の高分子微粒子を還元性とすれば、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物が得られることを見出し、
更に、無電解めっき処理を行う前に、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上に、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を含むプライマー層を形成し、この上に還元性高分子微粒子と塩素化ポリオレフィン、ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体又はカルボン酸基含有樹脂とを含み、前記高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比が特定の範囲内となる下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は、該プライマー層上に導電性高分子微粒子と前記有機ポリマーとを含み、前記高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比が特定の範囲内となる下地塗料を塗布して塗膜層を形成した後に、アルカリ処理等により、脱ドープして塗膜層中の高分子微粒子を還元性とすれば、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物が得られることを見出し、
本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上に、還元性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は、前記基材上に、導電性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料を塗布し、該導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して塗膜層を形成し、そして該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物であって、
前記オレフィン系ポリマーは、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体であり、前記下地塗料中における前記還元性高分子微粒子又は前記導電性高分子微粒子と前記オレフィン系ポリマーの質量比は、3:20ないし3:150の範囲であることを特徴とするめっき物、
(2)ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上にプライマー層を形成し、
この上に還元性高分子微粒子及び有機ポリマーを含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は、該プライマー層上に導電性高分子微粒子及び有機ポリマーを含む下地塗料を塗布し、該導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して塗膜層を形成し、そして該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物であって、
前記プライマー層は、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を含み、前記有機ポリマーは、塩素化ポリオレフィン、ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体又はカルボン酸基含有樹脂であり、前記下地塗料中における前記還元性高分子微粒子又は前記導電性高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比は、3:20ないし3:150の範囲であることを特徴とするめっき物、
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、容易にポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上に薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物を得ることができる。
【0011】
本発明は特に、基材表面にエッチング処理を行わないため、基材の表面に細かな凹凸が形成されておらず、そのため、薄いめっき膜(例えば、1μm未満)であっても、表面の平滑性に優れる金属めっき膜とすることが可能であり、作業性の観点からだけでなく、経済的な観点においても優れるものである。
これにより、強酸等の薬品に対して不安定であるポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂等においても、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物を得ることができる。
【0012】
本発明のめっき物における塗膜層は、その上側半分の中に還元性高分子微粒子の存在比が高くなるよう、例えば、前記微粒子のうち60%以上の粒子が上側半分の中に存在するよう形成するのが好ましく、それにより塗膜層の下側半分にはオレフィン系ポリマー又は有機ポリマー(バインダー)の存在比が高くなって基材と塗膜層の密着性が向上するため、結果として、金属めっき膜と基材との密着性が向上することになる。
また、塗膜層の表面近くにおいては還元性高分子微粒子の存在比が高くなるため、表面上における触媒金属の吸着量が増加することになるが、これにより、形成する金属めっき膜は、比較的薄い塗膜層においても露出部(ムラ)がない均一なものとすることができる。
【0013】
本発明のめっき物は、還元性高分子微粒子だけでなく、導電性高分子微粒子を用いても同様に製造することができる。この場合、無電解めっきを行う前に、導電性高分子微粒子を脱ドープして還元性にしておく必要があるが、本発明のめっき物においては、上記と同様に、比較的薄い層(導電性高分子微粒子層)においても優れた密着性及び均一性を維持できる。
また、塗膜層の上側半分中に高分子微粒子の存在比が高くなる、例えば、60%以上の粒子が上側半分中に存在する構造は、還元性高分子微粒子又は導電性高分子微粒子とオレフィン系ポリマー又は有機ポリマー(バインダー)を含む塗料を基材上に塗布した後の乾燥温度と時間を工夫するだけで容易に達成することができる。
【0014】
また、本発明のめっき物は、例えば、基材上に形成された還元性高分子微粒子を含む塗膜層上に、パラジウム等の触媒金属を還元・吸着させ、該パラジウム等の触媒金属が吸着された塗膜層上に金属めっき膜を形成することにより製造されるが、この際の、パラジウム等の触媒金属の還元及び高分子微粒子への吸着は、例えば、ポリピロールの場合、下図で示される状態になると考えられる。
【化1】

即ち、還元性の高分子微粒子(ポリピロール)がパラジウムイオンを還元することにより、高分子微粒子上にパラジウム(金属)が吸着されるが、これにより、
高分子微粒子(ポリピロール)はイオン化される、即ち、パラジウムによりドーピングされた状態となり、結果として導電性を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明は、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上に、還元性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は、前記基材上に、導電性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料を塗布し、該導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して塗膜層を形成し、そして該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物であって、
前記オレフィン系ポリマーは、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体であり、前記下地塗料中における前記還元性高分子微粒子又は前記導電性高分子微粒子と前記オレフィン系ポリマーの質量比は、3:20ないし3:150の範囲であることを特徴とするめっき物に関する。
【0016】
本発明に使用する基材は、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂である。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブチレン等が挙げられる。ポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドのホモポリマー又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーのホモポリマー、及びホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと少なくとも2個の隣接した炭素原子を主鎖に有するオキシアルキレン基を与える他のモノマーとの共重合体等が含まれる。基材の形態は特に限定されず、例えば、成形品、シート、フィルム等の何れの形態も含まれる。
また、本発明に使用する基材は、コロナ処理、プラズマ処理等の公知の処理を行ってもよい。
【0017】
還元性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料に使用する還元性高分子微粒子は、0.01S/cm未満の導電率を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
また、還元性高分子微粒子としては、0.005S/cm以下の導電率を有する高分子微粒子が好ましい。
還元性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。
【0018】
導電性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料に使用する導電性高分子
微粒子としては、導電性を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
導電性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。
【0019】
還元性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料及び導電性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料に使用するオレフィン系ポリマーは、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体である。
上記塩素化ポリオレフィンとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化プロピレン等が挙げられる。ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリスチレン等のポリオレフィンと無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物との共重合体が挙げられる。
【0020】
下地塗料中における前記還元性高分子微粒子又は前記導電性高分子微粒子と前記オレフィン系ポリマーの質量比は、3:20ないし3:150の範囲となる。
前記質量比において、3:20よりもオレフィン系ポリマーの比率が低くなる場合には、塗膜層と基材間の密着性が弱くなり、結果として、剥離強度が低下し、3:150よりもオレフィン系ポリマーの比率が高くなる場合には、金属めっきの析出が悪くなり、結果として、めっき析出性及び表面の平滑性が低下する。
【0021】
前記オレフィン系ポリマーとして、塩素化ポリオレフィンを使用する場合は、前記塩素化ポリオレフィンの固形分に対する塩素原子の量を5ないし40質量%の範囲とするのが好ましい。
塩素原子の量が5質量%未満となると、金属めっき膜と塗膜層間の密着性を高く保てない場合があり、また、40質量%を超えると、基材と塗膜層間の密着性を高く保てない場合がある。
前記オレフィン系ポリマーとして、ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を使用する場合は、前記ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体の固形分に対するジカルボン酸無水物の量を0.1ないし10質量%の範囲とするのが好ましい。
ジカルボン酸無水物の量が0.1質量%未満となると、金属めっき膜と塗膜層間の密着性を高く保てない場合があり、また、10質量%を超えると、基材と塗膜層間の密着性を高く保てない場合がある。
【0022】
前記下地塗料には、導電性又は還元性の高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーに加えて、溶媒を含み得る。
前記下地塗料に含み得る溶媒としては、前記オレフィン系ポリマーを溶解することができるものであれば特に限定されないが、基材を大きく溶解するものは好ましくない。但し、基材を大きく溶解する溶媒であっても、他の低溶解性の溶媒と混合することにより、溶解性を低下させて使用することが可能である。
前記下地塗料に含み得る溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
尚、導電性又は還元性の高分子微粒子として、予め有機溶媒に分散された分散液を使用する場合は、分散液に使用されている有機溶媒を下地塗料の溶媒の一部又は全部として使用することができる。
【0023】
更に、前記下地塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0024】
ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材への前記下地塗料の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スプレー、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、オフセット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。
乾燥条件も特に限定されず、室温、又は加熱条件下で行うことができる。
加熱を行う場合の温度は、基材のTgより低い温度で行うことが好ましい。
【0025】
塗膜層の上側半分の中に還元性高分子微粒子の存在比が高くなるよう、例えば、前記微粒子のうち60%以上の粒子が上側半分の中に存在するよう形成するのが好ましいが、そのような構成は、塗料の塗布後、緩和な条件で時間をかけて乾燥することにより達成することができる。
具体的な方法としては、例えば、30ないし60℃の低い温度で長時間かけて乾燥したり、30ないし60℃の低い温度から徐々に温度を上げて乾燥することにより達成することができる。
2段階以上の異なった温度で乾燥する場合は、例えば、有機溶媒としてトルエンを使用した場合、40℃で10分間乾燥後、60℃で10分間乾燥し、その後80℃で10分間乾燥することにより塗膜層の上側半分の中に微粒子のうち60%以上の粒子が存在する構成とすることができる。
【0026】
形成される塗膜層の厚さは、0.5μmないし100μmの範囲とするのが好ましい。
塗膜層の厚さを薄くし過ぎると、塗膜層を均一に形成することが困難となる場合があるため、塗膜層の厚さは0.5μm以上とするのが好ましい。また、塗膜層の膜厚を厚くしても、例えば、100μmを超えても塗膜強度を維持することは可能であるものの、塗膜層を厚くし過ぎると、バインダー(オレフィン系ポリマー、有機ポリマー)の種類や配合割合等によっては、塗膜強度が低下する場合があるため、塗膜層の厚さは100μm以下とするのが好ましい。
【0027】
導電性の高分子微粒子を用いて形成された塗膜層は、微粒子を還元性とするために脱ドープ処理が行われる。
脱ドープ処理としては、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
【0028】
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。
導電性高分子微粒子を用いて形成された層は、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。
例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。
上記の脱ドープ処理により、導電性の高分子微粒子を用いて形成された塗膜層中の高分子微粒子は還元されて、還元性高分子微粒子となる。
【0029】
上記のようにして製造された、還元性の高分子微粒子を含む塗膜層が形成されたポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材を無電解めっき法によりめっき物とするが、該無電解めっき法は、通常知られた方法に従って行うことができる。
即ち、前記基材を塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後
、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することによりめっき物を得ることができる。
【0030】
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。
好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。
上記の操作により、塗膜中の還元性高分子微粒子は、結果的に、導電性高分子微粒子となる。
【0031】
上記で処理された基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき膜が形成される。
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。
即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。
無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。
得られためっき物は、使用した基材のTgより低い温度において、数時間以上、例えば、2時間以上養生するのが好ましい。
上記の方法により、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物を製造することができる。
尚、上記めっき物は、基材(ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂)、塗膜層(導電性高分子微粒子+オレフィン系ポリマー)及び金属めっき膜から構成される3層構造となる(例えば、図2参照。)。
【0032】
本発明はまた、ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上にプライマー層を形成し、この上に還元性高分子微粒子及び有機ポリマーを含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は、該プライマー層上に導電性高分子微粒子及び有機ポリマーを含む下地塗料を塗布し、該導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して塗膜層を形成し、そして該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物であって、
前記プライマー層は、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を含み、前記有機ポリマーは、塩素化ポリオレフィン、ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体又はカルボン酸基含有樹脂であり、前記下地塗料中における前記還元性高分子微粒子又は前記導電性高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比は、3:20ないし3:150の範囲であることを特徴とするめっき物にも関する。
【0033】
基材として使用するポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂、下地塗料に使用する還元性高分子微粒子又は導電性高分子微粒子としては、前述と同様のものが挙げられる。
【0034】
プライマー層は、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を含むプライマー塗料を基材上に塗布し、必要に応じて乾燥等を行うことにより形成することができる。
上記塩素化ポリオレフィンとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化プロピレン等が挙げられる。ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリスチレン等のポリオレフィンと無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物との共重合体が挙げられる。
【0035】
前記プライマー塗料において、塩素化ポリオレフィンを使用する場合は、前記塩素化ポリオレフィンの固形分に対する塩素原子の量を5ないし40質量%の範囲とするのが好ましい。
塩素原子の量が5質量%未満となると、塗膜層とプライマー層間の密着性を高く保てない場合があり、また、40質量%を超えると、基材とプライマー層間の密着性を高く保てない場合がある。
【0036】
前記プライマー塗料において、ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を使用する場合は、前記ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体の固形分に対するジカルボン酸無水物の量を0.1ないし10質量%の範囲とするのが好ましい。
ジカルボン酸無水物の量が0.1質量%未満となると、塗膜層とプライマー層間の密着性を高く保てない場合があり、また、10質量%を超えると、基材とプライマー層間の密着性を高く保てない場合がある。
【0037】
前記プライマー塗料には、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体に加えて、溶媒を含み得る。
前記プライマー塗料に含み得る溶媒としては、前記塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を溶解することができるものであれば特に限定されないが、基材を大きく溶解するものは好ましくない。但し、基材を大きく溶解する溶媒であっても、他の低溶解性の溶媒と混合することにより、溶解性を低下させて使用することが可能である。
前記プライマー塗料に含み得る溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0038】
更に、前記プライマー塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0039】
ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材への前記プライマー塗料の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スプレー、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、オフセット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。
乾燥条件も特に限定されず、室温、又は加熱条件下で行うことができる。
加熱を行う場合の温度は、基材のTgより低い温度で行うことが好ましい。
【0040】
プライマー層の厚さは、0.1ないし50μmとなるようにするのがよく、好ましくは1ないし10μmである。。
厚さが0.1μm未満であると塗膜層との高い密着性が保てない場合があり、厚さが50μmを超えると、充分な乾燥ができずに粘性が残り、基材と塗膜層に対する密着性が劣る場合がある。
【0041】
還元性高分子微粒子又は導電性高分子微粒子と有機ポリマーとを含む下地塗料に使用する有機ポリマーは、塩素化ポリオレフィン、ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物
共重合体又はカルボン酸基含有樹脂である。
上記塩素化ポリオレフィンとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化プロピレン等が挙げられる。ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリスチレン等のポリオレフィンと無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物との共重合体が挙げられる。カルボン酸基含有樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、スチレン、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル等のオレフィン系モノマーと、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボン酸基を有するモノマーとのコポリマー、又は、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボン酸基を有するモノマーのホモポリマー等が挙げられる。
【0042】
下地塗料中における前記還元性高分子微粒子又は前記導電性高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比は、3:20ないし3:150の範囲となる。
前記質量比において、3:20よりも有機ポリマーの比率が低くなる場合には、塗膜層とプライマー層間の密着性が弱くなり、結果として、剥離強度が低下し、3:150よりも有機ポリマーの比率が高くなる場合には、金属めっきの析出が悪くなり、結果として、めっき析出性及び表面の平滑性が低下する。
【0043】
上記下地塗料に使用し得る溶媒及びその他の成分は、前述と同様のものが挙げられる。また、上記下地塗料の塗布・乾燥方法も、前述と同様に行うことができる。
【0044】
形成される塗膜層の厚さは、0.5μmないし100μmの範囲とするのが好ましい。
塗膜層の厚さを薄くし過ぎると、塗膜層を均一に形成することが困難となる場合があるため、塗膜層の厚さは0.5μm以上とするのが好ましい。また、塗膜層の膜厚を厚くしても、例えば、100μmを超えても塗膜強度を維持することは可能であるものの、塗膜層を厚くし過ぎると、バインダー(オレフィン系ポリマー、有機ポリマー)の種類や配合割合等によっては、塗膜強度が低下する場合があるため、塗膜層の厚さは100μm以下とするのが好ましい。
【0045】
尚、脱ドープ処理条件及び無電解めっき条件に付いても前記と同様に行うことができる。
【0046】
上記の方法により、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物を製造することができる。
尚、上記めっき物は、基材(ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂)、プライマー層、塗膜層(導電性高分子微粒子+有機ポリマー)及び金属めっき膜から構成される4層構造となる(例えば、図3参照。)。
【0047】
以下に、本発明の下地塗料に使用され得る導電性又は還元性の高分子微粒子を製造するための具体的な方法を記載する。
【0048】
(1)還元性高分子微粒子の製造方法
還元性高分子微粒子は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0049】
π−共役二重結合を有するモノマーとしては、還元性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N
−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール及び3−フェニルナフチルアミノピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン及びp−メチルアニリン等のアニリン誘導体、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体が挙げられ、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0050】
また前記製造に用いるアニオン系界面活性剤としては、種々のものが使用できるが、疎水性末端を複数有するもの(例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)が好ましい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミセルを形成させることができ、重合後において水相と有機溶媒相との分離がスムーズであり、有機溶媒相に分散した還元性高分子微粒子が入手し易い。
疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)、スルホコハク酸ジ−2−エチルオクチルナトリウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
【0051】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.05mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.005mol〜0.03molである。0.05mol以上では添加したアニオン性界面活性剤がドーパントとして作用し、得られる微粒子は導電性を発現するため、これを用いて無電解めっきを行うためには脱ドープの工程が必要となる。
【0052】
ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、アルキルグルコシド類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビダン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類が挙げられる。これらを一種類または複数混ぜて使用してもよい。特に安定的にO/W型エマルションを形成するものが好ましい。
【0053】
反応系中でのノニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し、アニオン系界面活性剤と足して0.2mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では重合後において、水相と有機溶媒相との分離が困難になり、有機溶媒相にある還元性高分子微粒子を得る事ができなくなる事から好ましくない。
【0054】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。
なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびπ−共役二重結合を有するモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した還元性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0055】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0056】
前記製造で使用する酸化剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸のような有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過酸化水素のような過酸化物が使用できる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。塩化第二鉄等のルイス酸でもπ−共役二重結合を有するモノマーを重合できるが、生成した粒子が凝集し、微分散できない場合がある。特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0057】
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、ポリマー微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集してポリマー微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0058】
前記ポリマー微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合させる工程、
(d)有機相を分液しポリマー微粒子を回収する工程。
【0059】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0060】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子を入手することができる。
【0061】
上記の製造法により得られるポリマー微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体のポリマーよりなり、そしてアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径を有し、有機溶媒中で分散可能であることである。
ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。
上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
得られたポリマー微粒子の導電率は0.01S/cm未満であり、好ましくは、0.005S/cm以下である。
【0062】
こうして得られた有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の還元性高分子微粒子成分として使用することができる。
【0063】
(2)導電性高分子微粒子の製造方法
使用する導電性高分子微粒子は、例えば、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0064】
π−共役二重結合を有するモノマー及びアニオン系界面活性剤としては還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0065】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.2mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.05mol〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では得られた導電性高分子微粒子に導電性の湿度依存性が生じてしまう場合がある。
【0066】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した導電性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0067】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0068】
前記製造で使用する酸化剤としては、還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電性高分子微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集して導電性高分子微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0069】
前記導電性高分子微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合しアニオン系界面活性剤にポリマー微粒子を接触吸着させる工程、
(d)有機相を分液し導電性高分子微粒子を回収する工程。
【0070】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好
ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0071】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子を入手することができる。
【0072】
上記の製造法により得られる導電性高分子微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体よりなり、そしてアニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径と、有機溶媒中で分散可能であることである。
ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。
上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、脱ドープ処理して還元性とした際に、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
【0073】
こうして得られた有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の導電性高分子微粒子成分として使用することができる。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
製造例1:導電性ポリピロール微粒子(分散液)の調製
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム1.5mmolをトルエン50mLに溶解し、さらにイオン交換水100mLを加え20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌し、次いで0.2M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(0.4mol相当)を少量ずつ滴下し、4時間反応を行った。反応終了後、有機層を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエン中に分散した導電性粒子分散液を得て、トルエンにて導電性微粒子の固形分濃度0.6%に調整した。
【0075】
製造例2:下地塗料の調製
製造例1で調製した導電性ポリピロール微粒子(分散液)の量、オレフィン系ポリマー又は有機ポリマー(バインダー1ないし5(それぞれA1ないしA5に対応する))の量及び種類並びに溶媒の量及び種類を表3の記載の通りに添加混合することにより、実施例1ないし7及び比較例1ないし11に使用した下地塗料を調製した。
尚、プライマー塗料としては、バインダー1ないし4(それぞれA1ないしA4に対応する)を使用した。
尚、表3に記載のバインダーA1ないしA5の詳細を表1に纏めた。
【表1】

【0076】
実施例1:めっき物(ポリプロピレン樹脂(PP)基材、4層構造)の製造
<プライマー層の形成>
ポリプロピレン樹脂(PP)基材(ポリプロピレン樹脂:厚さ0.5cm、幅×長さ5cm×5cmの樹脂プレート)をバインダー2(プライマー塗料)にディッピングし、120℃の熱風で10分間乾燥させることによりプライマー層を形成した。
<塗膜層の形成>
プライマー層が形成されたPP基材を製造例2で調製した下地塗料(組成は表3の実施例1に記載)にディッピングし、120℃の熱風で10分間乾燥することにより、塗膜層を形成した。
<無電解めっき法によるめっき物の製造>
上記で製造した塗膜層が形成されたPP基材を、1M水酸化ナトリウム水溶液中に、35℃で5分間浸漬後、洗浄水で洗浄することにより、導電性高分子微粒子を還元性とした。
次に、上記処理がなされた基材を、0.02%塩化パラジウム−0.01%塩酸水溶液中に35℃で5分間浸漬後、洗浄水で水洗した。次に、該基材を無電解銅めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し銅めっきを施し、洗浄水で水洗した後、水分を乾燥させて実施例1のめっき物を製造した。
【0077】
実施例2ないし5:めっき物(ポリプロピレン樹脂(PP)基材、4層構造)の製造
表3に実施例2ないし5として記載されたプライマー塗料及び下地塗料をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、実施例2ないし5のめっき物を製造した。
【0078】
実施例6:めっき物(ポリアセタール樹脂(POM)基材、4層構造)の製造
ポリプロピレン樹脂(PP)基材に代えて、ポリアセタール樹脂(POM)基材(ポリアセタール樹脂:厚さ0.5cm、幅×長さ5cm×5cmの樹脂プレート)を使用し、且つ表3に実施例6として記載されたプライマー塗料及び下地塗料を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、実施例6のめっき物を製造した。
【0079】
実施例7:めっき物(ポリプロピレン樹脂(PP)基材、3層構造)の製造
<塗膜層の形成>
ポリプロピレン樹脂(PP)基材(ポリプロピレン樹脂:厚さ0.5cm、幅×長さ5cm×5cmの樹脂プレート)を、製造例2で調製した下地塗料(組成は表3の実施例7に記載)にディッピングし、120℃の熱風で10分間乾燥することにより、塗膜層を形成した。
<無電解めっき法によるめっき物の製造>
上記で製造した塗膜層が形成されたPP基材を、1M水酸化ナトリウム水溶液中に、35℃で5分間浸漬後、洗浄水で洗浄することにより、導電性高分子微粒子を還元性とした。
次に、上記処理がなされた基材を、0.02%塩化パラジウム−0.01%塩酸水溶液中に35℃で5分間浸漬後、洗浄水で水洗した。次に、該基材を無電解銅めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し銅めっきを施し、洗浄水で水洗した後、水分を乾燥させて実施例7のめっき物を製造した。
【0080】
比較例1:めっき物(ポリプロピレン樹脂(PP)基材、3層構造)の製造
表3に比較例1として記載されたプライマー塗料及び下地塗料を用いた以外は、実施例7と同様の操作を行うことにより、比較例1のめっき物を製造した。
【0081】
比較例2ないし5:めっき物(ポリプロピレン樹脂(PP)基材、4層構造)の製造
表3に比較例2ないし5として記載されたプライマー塗料及び下地塗料をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、比較例2ないし5のめっき物を製造した。
【0082】
比較例6:めっき物(ポリアセタール樹脂(POM)基材、3層構造)の製造
ポリプロピレン樹脂(PP)基材に代えて、ポリアセタール樹脂(POM)基材(ポリアセタール樹脂:厚さ0.5cm、幅×長さ5cm×5cmの樹脂プレート)を使用し、且つ表3に比較例6として記載されたプライマー塗料及び下地塗料を用いた以外は、実施例7と同様の操作を行うことにより、比較例6のめっき物を製造した。
【0083】
比較例7ないし9:めっき物(ポリプロピレン樹脂(PP)基材、3層構造)の製造
表3に比較例7ないし9として記載されたプライマー塗料及び下地塗料をそれぞれ用いた以外は、実施例7と同様の操作を行うことにより、比較例7ないし9のめっき物を製造した。
【0084】
比較例10:めっき物(ポリプロピレン樹脂(PP)基材、4層構造)の製造
表3に比較例10として記載されたプライマー塗料及び下地塗料を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、比較例10のめっき物を製造した。
【0085】
比較例11:エッチング+無電解めっきによるめっき物の製造(ポリプロピレン樹脂(PP)基材)
基材:ポリプロピレン樹脂(PP)基材(粒子径1μmの炭酸カルシウムを5%含有する、厚さ0.5cm、幅×長さ5cm×5cmの樹脂プレート)を以下の(1)ないし(6)の工程に付すことにより比較例11のめっき物を製造した。
(1)脱脂工程:ホウ酸ナトリウム30g/L、リン酸ナトリウム20g/L、ノニオン系界面活性剤2g/Lからなる水溶液中(50℃)に、基材を5分間浸漬した後、洗浄水で洗浄した。
(2)エッチング工程:濃硫酸390g/Lからなる水溶液中(75℃)に基材を7分間浸漬後、洗浄水で洗浄した。
(3)中和工程:濃硫酸50cc/Lの水溶液中(室温)に基材を1分間浸漬後、洗浄水
で洗浄した。
(4)キャタリスト:塩化パラジウム0.3g/L、塩化第一錫10g/L、濃硫酸200cc/Lからなる水溶液中(室温)に基材を3分間浸漬後、洗浄水で洗浄した。
(5)アクセレーター:濃硫酸75cc/Lの水溶液(40℃)に、基材を3分間浸漬後、洗浄水で洗浄した。
(6)無電解めっき:硫酸銅10g/L、ロシェル塩40g/L、ホルムアルデヒド10g/L、水酸化ナトリウム9g/L、チオ尿素5g/Lからなる水溶液(25℃)に基材を10分間浸漬後、洗浄水で洗浄した。
【0086】
比較例12:エッチング+無電解めっきによるめっき物の製造(ポリアセタール樹脂(POM)基材)
ポリプロピレン樹脂(PP)基材に代えてポリアセタール樹脂(POM)基材(粒子径1μmの炭酸カルシウムを5%含有する、厚さ0.5cm、幅×長さ5cm×5cmの樹脂プレート)を用いた以外は、比較例11と同様の操作を行うことにより、比較例12のめっき物を製造した。
【0087】
試験例1
上記で製造した実施例1ないし7、比較例1ないし12のめっき物において、各種の評価試験を行いその結果を表3に纏めた。
尚、評価項目及びその評価方法・評価基準は表2に記載した通りである。
【表2】

尚、表3中において、PPは、ポリプロピレン樹脂、POMは、ポリアセタール樹脂を意味し、バインダーの種類A1ないしA5は、表1中で示されたものを表し、質量比(ポリピロール/ポリマー)は、ポリピロールとバインダー(オレフィン系ポリマー又は有機ポリマー)の質量比を表す。
また、表中*2は層剥離が基材−塗膜層間で生じたこと、*3は層剥離がプライマー層−塗膜層間で生じたこと及び*4は層剥離が基材−プライマー層間で生じたことを示す。
【表3】

【0088】
<結果>
1)4層構造のめっき物について
官能基としてハロゲン原子又はカルボン酸無水物を有するオレフィン系ポリマーを含むプライマー塗料及びポリピロールと官能基としてハロゲン原子、カルボン酸無水物、カルボン酸の何れか1種を有する有機ポリマーとを特定の質量比(3:20ないし3:150)で含む下地塗料を用いて製造した実施例1ないし6のめっき物(4層構造)は、めっき析出性に優れ、薄くても(0.3μm)平滑性に優れ、且つ密着性に優れる(高い剥離強度を有する)金属めっき膜が形成されためっき物であった。
比較例2のめっき物は、ポリピロールとバインダー(有機ポリマー)との質量比が、3:20よりも有機ポリマーの比率が低い3:10であったため、剥離強度において、セロハンテープで若干剥がれる(プライマー層−塗膜層間)という△の評価となった。
比較例3のめっき物は、ポリピロールとバインダー(有機ポリマー)との質量比が、3:150よりも有機ポリマーの比率が高い3:170であったため、めっき析出性において、部分的にめっきが析出していないという△の評価であり、剥離強度において、めっきが部分的にしか析出しなかったため測定不能とした。
比較例4のめっき物は、プライマー塗料として官能基としてハロゲン原子又はカルボン酸無水物を有さず、代わりにカルボン酸を有するスチレン系ポリマーを含むバインダー1(A1)を使用したため、剥離強度において、セロハンテープで簡単に剥がれる(基材−プライマー層間)という×の評価となった。
比較例5のめっき物は、プライマー塗料として官能基としてハロゲン原子又はカルボン酸無水物を有さず、代わりにヒドロキシル基を有するオレフィン系ポリマーを含むバインダー4(A4)を使用したため、剥離強度において、セロハンテープで若干剥がれる(プライマー層−塗膜層間)という△の評価となった。
比較例10のめっき物は、下地塗料として、官能基としてハロゲン原子、カルボン酸無水物、カルボン酸の何れも有さない有機ポリマーを含むバインダー5(A5)を使用したため、剥離強度において、セロハンテープで簡単に剥がれる(プライマー層−塗膜層間)という×の評価となった。
【0089】
2)3層構造のめっき物について
ポリピロールと官能基としてハロゲン原子又はカルボン酸無水物を有するオレフィン系ポリマーとを特定の質量比(3:20ないし3:150)で含む下地塗料を用いて製造した実施例7のめっき物(3層構造)は、めっき析出性に優れ、薄くても(0.3μm)平滑性に優れ、且つ密着性に優れる(高い剥離強度を有する)金属めっき膜が形成されためっき物であった。
比較例1のめっき物は、下地塗料として、官能基としてハロゲン原子又はカルボン酸無水物を有さず、代わりにカルボン酸を有するスチレン系ポリマーを含むバインダー1(A1)を使用したため、剥離強度において、セロハンテープで簡単に剥がれる(基材−塗膜層間)という×の評価となった。
比較例6のめっき物は、基材としてポリアセタール樹脂(POM)を用い、下地塗料として、官能基としてハロゲン原子又はカルボン酸無水物を有さず、代わりにカルボン酸を有するスチレン系ポリマーを含むバインダー1(A1)を使用したため、剥離強度において、セロハンテープで簡単に剥がれる(基材−塗膜層間)という×の評価となった。
比較例7のめっき物は、下地塗料として、官能基としてハロゲン原子又はカルボン酸無水物を有さず、代わりにヒドロキシル基を有するオレフィン系ポリマーを含むバインダー4(A4)を使用したため、剥離強度において、セロハンテープで簡単に剥がれる(基材−塗膜層間)という×の評価となった。
比較例8のめっき物は、下地塗料において、ポリピロールとバインダー(オレフィン系ポリマー)との質量比が、3:20よりもオレフィン系ポリマーの比率が低い3:10であったため、剥離強度において、セロハンテープで若干剥がれる(基材−塗膜層間)という△の評価となった。
比較例9のめっき物は、下地塗料において、ポリピロールとバインダー(オレフィン系ポリマー)との質量比が、3:150よりもオレフィン系ポリマーの比率が高い3:170であったため、めっき析出性において、部分的にめっきが析出していないという△の評価であり、剥離強度において、めっきが部分的にしか析出しなかったため測定不能とした。
また、エッチング処理を行うことにより製造された比較例11(ポリプロピレン樹脂(PP)基材(粒子径1μmの炭酸カルシウムを5%含有する、厚さ0.5cm、幅×長さ5cm×5cmの樹脂プレート)を用いる)及び比較例12(ポリアセタール樹脂(POM)基材(粒子径1μmの炭酸カルシウムを5%含有する、厚さ0.5cm、幅×長さ5cm×5cmの樹脂プレート)を用いる)のめっき物は、表面粗化により形成された細かな凹凸により、0.3μm程度のめっき厚では、表面の平滑性が得られなかったことを示す(めっき表面平滑性:×)。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】投錨効果によりめっき金属との高い密着性を可能とする凹凸を形成しためっき物の切断面を表す概略図である。
【図2】実施例7のめっき物(3層構造)の切断面を表す概略図である。
【図3】実施例1ないし6のめっき物(4層構造)の切断面を表す概略図である。
【符号の説明】
【0091】
1:基材(ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂)
2:金属めっき膜
3:酸溶解性無機物
4:塗膜層(導電性高分子微粒子+オレフィン系ポリマー)
5:塗膜層(導電性高分子微粒子+有機ポリマー)
6:プライマー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上に、還元性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は、前記基材上に、導電性高分子微粒子及びオレフィン系ポリマーを含む下地塗料を塗布し、該導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して塗膜層を形成し、そして該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物であって、
前記オレフィン系ポリマーは、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体であり、前記下地塗料中における前記還元性高分子微粒子又は前記導電性高分子微粒子と前記オレフィン系ポリマーの質量比は、3:20ないし3:150の範囲であることを特徴とするめっき物。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂又はポリアセタール系樹脂基材上にプライマー層を形成し、この上に還元性高分子微粒子及び有機ポリマーを含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は、該プライマー層上に導電性高分子微粒子及び有機ポリマーを含む下地塗料を塗布し、該導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して塗膜層を形成し、そして該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物であって、
前記プライマー層は、塩素化ポリオレフィン又はポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を含み、前記有機ポリマーは、塩素化ポリオレフィン、ポリオレフィン/不飽和ジカルボン酸無水物共重合体又はカルボン酸基含有樹脂であり、前記下地塗料中における前記還元性高分子微粒子又は前記導電性高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比は、3:20ないし3:150の範囲であることを特徴とするめっき物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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