説明

ポリオレフィン繊維を半製品または最終用途製品に加工する方法、これにより得ることのできる半製品または最終用途製品、医療用途におけるこの半製品もしくは最終用途製品の使用、この半製品もしくは最終用途製品を含む医療製品、或いは、組成物の、ポリオレフィン繊維を半製品もしくは最終用途製品に加工する方法における紡糸仕上げ剤としての使用

【課題】繊維表面の残留物が極めて少なく、機械的諸特性が良好な繊維を提供する。
【解決手段】ゲル紡糸法によってマルチフィラメントポリエチレンヤーンを製造する方法であって、紡糸仕上げ剤が、50質量%未満の溶媒を含むフィラメントに、フィラメントに対して0.1〜10質量%の量で少なくとも1回塗布され、この紡糸仕上げ剤が、圧力0.1MPaにおける沸点が30〜250℃である少なくとも1種の揮発性化合物を少なくとも95質量%含み、この紡糸仕上げ剤が、フィラメントの融点よりも低い温度にフィラメントを曝すことによって引き続き除去される。例えば医療用途に極めて適したヤーンが、洗浄または抽出ステップを必要とせずに製造される。前記方法によって得られるポリエチレンヤーンおよび半製品または最終用途製品、ならびに医療用途におけるそれらの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン繊維を半製品または最終用途製品に加工する方法、これにより得ることのできる半製品または最終用途製品、医療用途におけるこの半製品もしくは最終用途製品の使用、この半製品もしくは最終用途製品を含む医療製品、或いは、組成物の、ポリオレフィン繊維を半製品もしくは最終用途製品に加工する方法における紡糸仕上げ剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
このような方法は、下記特許文献1から公知である。この特許公報は、実施例にあるような溶融紡糸ポリプロピレンフィラメントのように、紡糸仕上げ剤が1本またはそれ以上のフィラメントに塗布される工程について述べている。この紡糸仕上げ剤は、主にグリセロールおよび揮発性溶媒、特にイソプロパノールからなり、少量の他の機能的成分を必要に応じて含んでいてもよい。紡糸仕上げ剤を塗布した後には、溶媒は速やかに蒸発され、例えば加熱によって急速に蒸発され、これによってグリセロールおよび必要に応じて他の成分がヤーン上に残る。グリセロールを主体とする紡糸仕上げ剤は無毒であり、必要ならば水で洗浄することによりヤーンから除去することができるので、こうして得られたヤーンは、外科装置を製造するのに有用であることが示されている。
【0003】
繊維仕上げ剤(fibre finish)または仕上げ油(finishing oil)とも呼ばれる紡糸仕上げ剤は、高速繊維製造およびその後のさらなる加工を行うのに必須であることが、合成繊維製造業界では一般に認められている。紡糸仕上げ剤を塗布しないと、溶融物または溶液から紡糸された後の繊維に対して行われるほとんどすべての操作が、例えばもつれ、さらには途中でのフィラメントの切断によって妨げられることになる(例えば、下記非特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5466406号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、6巻、828ページ以降、John Wiley & Sons,Inc.New York(1986)、ISBN 0−471−80050−3
【非特許文献2】Processing of Polyester Fibres、45ページ以降、Elsevier、Amsterdam(1979)、ISBN 0−444−99870−5
【非特許文献3】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、Fibers、3. General Production Technology、Wiley−VCH Verlag GmbH、Weinheim(2002)
【非特許文献4】利用可能なhttp://www.mrw.interscience.wiley.com/ueic/ull_subframe.html
【発明の概要】
【0006】
紡糸仕上げ剤は、一般に、ガイドに対するフィラメントの摩擦を減らし、フィラメント間の凝集を改善するとともに、静電気の発生を抑制するために、ヤーンを巻き上げてパッケージにする前の紡糸プロセス中に塗布される。その後さらなる仕上げまたは別の仕上げを施して、例えば半製品または最終製品への取扱いおよび加工等の後続の加工ステップにおけるヤーンの挙動が修正される。
【0007】
当該技術による紡糸仕上げ剤は、一般に、溶媒に溶解または分散された、潤滑剤、乳化剤、静電防止剤、殺菌剤または殺真菌剤、および酸化防止剤のような成分の混合物からなる組成物である。紡糸仕上げ剤に使用される化合物としては、炭化水素オイル、長鎖脂肪族エステル、脂肪族鎖に結合したポリ(オキシアルキレン)縮合体、長鎖四級アンモニウム塩、長鎖アルキルホスフェート、シリコーンなどが挙げられる。一般に、紡糸仕上げ剤組成物は、少なくとも25質量%の成分を含有する。紡糸仕上げ剤は、浴を通して、ウイック、回転ホイールまたはニップロールを使用するか、またはスプレーによって塗布することができる。
【0008】
外科装置または移植のような医療用途に使用するのに適切なヤーンまたは繊維の場合には、例えば紡糸仕上げ剤から生じる残留物の存在は一般に認められないか、またはすべての成分について特別な認可が必要である。実質的に残留物のない繊維を製造する一つの方法は、塗布されたすべての紡糸仕上げ剤成分を除去するために、ある時点で繊維を徹底して洗浄することである。このような除去ステップは、有機溶媒、例えばクロロフルオロカーボンによる繊維の抽出、二酸化炭素のような超臨界ガスによる抽出、界面活性剤などを含む水溶液による洗浄、またはこれらの組み合わせからなる。この手法の欠点は、上述した典型的な紡糸仕上げ剤成分を完全に除去することは一般に困難であり、あるいは不可能でさえあり、クロロフルオロカーボンのような溶媒は少なくとも環境的に問題がある恐れがあり、製造プロセスのコストが大きくかさむことである。また、このような洗浄または抽出プロセスは、繊維の引張り強さのような機械的諸特性を損なう可能性がある。
【0009】
米国特許第5466406号明細書から公知の方法においては、紡糸仕上げ剤の主成分は、グリセロールであり、これは、無毒とされており、後で水によって洗い落とすことができる。しかし、この公知の方法の欠点は、紡糸仕上げ剤残留物の実質的にない繊維を製造するために洗浄ステップが依然として必要であり、残留物が残る恐れがある程度あることである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、表面における紡糸仕上げ剤残留物が低いレベルであるか、さらには測定可能な量の紡糸仕上げ剤残留物がないポリオレフィンヤーンを製造する方法であって、洗浄または抽出ステップを必要としない方法を提供することである。
【0011】
この目的は、
a)溶媒中に超高分子量ポリエチレンを含む溶液から少なくとも1本のフィラメントを紡ぐステップと、
b)得られた前記フィラメントを冷却してゲルフィラメントを形成するステップと、
c)前記ゲルフィラメントから前記溶媒の少なくとも一部を除去するステップと、
d)溶媒を除去する前、その間またはその後に、少なくとも一度の延伸ステップにおい
て前記フィラメントを延伸するステップと、
e)50質量%未満の前記溶媒を含むフィラメントに、紡糸仕上げ剤を前記フィラメントの0.1〜10質量%の量で少なくとも1回塗布するステップ、但し、前記紡糸仕上げ剤が、圧力0.1MPaにおいて30〜250℃の沸点を有する少なくとも1種の揮発性化合物を少なくとも95質量%含む、と、
f)その後、前記フィラメント表面における炭素および酸素の原子濃度が、XPS分析で測定して95%C以上かつ5%O以下になるように、前記フィラメントの融点よりも低い温度に前記フィラメントを曝すことにより前記紡糸仕上げ剤を除去するステップと、
を含むポリエチレンマルチフィラメントヤーンを製造する方法である本発明によって達成される。
【0012】
本発明の方法によって、フィラメントの表面の残留物が極めて少ない、またはフィラメントの表面に測定可能な量の残留物がないポリエチレンヤーンが、洗浄又は抽出ステップなしで製造される。紡糸仕上げ剤の残留が実質的にないこのようなポリエチレンヤーンは、高い引張り強さを有し、例えば医療用途に極めて適しているだけでなく、仕上げ剤残留物が問題になり得る他の用途、例えば繊維とマトリックス材料の接着が影響を受ける可能性がある複合材料においても極めて適している。本方法によって製造されるポリエチレンヤーンは、その後の加工中に滑り過ぎず、従来の紡糸仕上げ剤残留物を含む繊維よりも順調なブレーディング操作が可能になる。さらに別の利点は、この方法で得られたヤーンの染色挙動が、仕上げ剤残留物によって妨げられないことである。さらに重要な利点は、ポリオレフィンヤーンを製造する本方法においては、実際に必要な段階において紡糸仕上げ剤を塗布することができ、次の段階で有利ならば、続いて紡糸仕上げ剤を除去できることである。加えて、紡糸仕上げ剤は、望ましい場合には2つ以上の段階で塗布することができる。最終延伸ステップの前にも本発明による紡糸仕上げ剤を塗布する更なる利点は、おそらく仕上げ剤が蒸発するために、フィラメントが熱延伸後により効果的に冷却されることである。別の利点は、後続の巻取りステップにおいて製造される繊維パッケージが、パッケージ厚さの増加につれ温度変化が少なくなり、巻かれた繊維の引張り特性の変化がより少なくなることである。さらに別の利点は、用いる加工装置の汚れが減少することである。紡糸仕上げ剤成分が環境に悪影響を及ぼさず、無毒であり、低コストであることも有利である。
【0013】
本発明によるポリエチレンヤーン製造方法は、a)超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)溶液から少なくとも1本のフィラメントを紡ぐステップと、b)得られたフィラメントを冷却してゲルフィラメントを形成するステップと、c)ゲルフィラメントから溶媒の少なくとも一部を除去するステップと、d)溶媒を除去する前、その間、またはその後に少なくとも1回の延伸ステップにおいてフィラメントを延伸するステップとを含む。このような紡糸方法は、一般に、ゲル紡糸法と呼ばれる。UHMwPEのゲル紡糸は、欧州特許出願公開第0205960号明細書、同第0213208号明細書、米国特許第4413110号明細書、国際公開第01/73173号パンフレット、およびAdvanced Fiber Spinning Technology、T.Nakajima編、Woodhead Publ.Ltd(1994)、ISBN 1−855−73182−7、およびその中で引用された参考文献を含めて、様々な出版物に記載されている。
【0014】
本発明による方法において使用されるUHMwPEは、線状ポリエチレン、すなわち100個の炭素原子あたり1つ未満の側鎖または分枝、好ましくは300個の炭素原子当たり1つ未満の側鎖を有するポリエチレンであることが好ましい。但し、分枝は、一般に、少なくとも10個の炭素原子を含む。このポリエチレンは、さらに、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、オクテンなど、ポリエチレンと共重合することができる5mol%以下、またはそれ以上のアルケンをさらに含むことができる。ポリエチレンは、さらに、抗酸化剤、熱安定剤、着色剤などのこのような繊維に一般に用いられる添加剤を少量含むことができる。
【0015】
ポリエチレンは、5dl/gを超える固有粘度(IV)を有することが好ましい。このようなポリエチレンから製造される繊維は、高引張り強さ、引張り係数、破断時エネルギー吸収など極めて良好な機械的特性を有する。IVが10dl/gを超えるポリエチレンを選択することがより好ましい。このようなゲル紡糸UHMwPEヤーンは、高強度、低比重、良好な耐加水分解性、および優れた摩耗特性を併せ持ち、移植を含めて様々な医療用途における使用に適している。IVは、PTC−179法(Hercules Inc. Rev.Apr.29、1982)によって135℃においてデカリン中で測定される。溶解時間は16時間であり、抗酸化剤としてDBPCを2g/l溶液の量で用い、異なる濃度における粘度を濃度ゼロに外挿する。
【0016】
本発明による方法においては、例えば、パラフィンワックスまたはオイル、デカリンなどのUHMwPEゲル紡糸用の公知の溶媒のいずれかを使用することができる。フィラメントを冷却してゲルフィラメントにするのは、ガス流によって、またはフィラメントを液体冷却浴中で急冷することによって実施することができる。溶媒除去は、公知の方法、例えば、比較的揮発性の高い溶媒を蒸発させることによって、または抽出液体を使用することによって実施することができる。
【0017】
本発明によるポリエチレンヤーンを製造する方法は、さらに、少なくとも1回の延伸ステップにおいてフィラメントを延伸するステップも含む。フィラメントを伸張させる延伸は、一般に、ポリマー分子の少なくとも部分的な配向を生じ、繊維の機械的諸特性を改善する。延伸は、液体状態の繊維、すなわち、溶融フィラメントまたは溶液フィラメントに対して実施することができ、冷却後および溶媒の少なくとも一部を除去した後に、半固体もしくはゲル状フィラメントまたは固体フィラメントにはスピナレットの孔が残る。延伸は、2段階以上で、例えば液体、ゲルおよび/または固体状態のフィラメントに対して、ならびに/あるいは異なる温度で実施されることが好ましい。
【0018】
本発明によるポリエチレンヤーンを製造する方法は、さらに、e)50質量%未満の溶媒を含むフィラメントに、紡糸仕上げ剤をフィラメントの0.1〜10質量%の量で少なくとも1回塗布するステップ、但し、紡糸仕上げ剤は、圧力0.1MPaにおいて30〜250℃の沸点を有する少なくとも1種の揮発性化合物を少なくとも95質量%含む、も有する。
【0019】
紡糸仕上げ剤は、任意の公知の方法、例えば、浴を通して、ノズル、ウイック、回転ホイールまたはニップロールを使用して、またはスプレーによって塗布することができる。本発明による方法においては、紡糸仕上げ剤は、フィラメントの0.1〜10質量%の量で塗布される。塗布量は、例えば、必要な注入量に関する条件に依存する。一般に、量が多いほど摩擦が少なく静電気の帯電が少なく、これにより加工が容易になる。塗布量が多すぎると、過剰の仕上げ剤が落下し、または装置上にたまり、汚れまたは汚染、塵または他の粒子の堆積、あるいは滑りすぎのような望ましくない効果をもたらす恐れがある。したがって、塗布量は、好ましくは約0.2〜5質量%、より好ましくは0.3〜4、0.4〜3、さらに好ましくは0.5〜2.5質量%である。従来の仕上げ剤よりも多量の前記紡糸仕上げ剤を、後続のプロセスまたはその後の取扱いにおいて問題を生じることなく塗布することができる。最適量も、フィラメント直径および化合物の揮発性に応じて決まる。
【0020】
本発明による方法において、紡糸仕上げ剤を塗布する位置は、具体的な加工ステップに応じて決まるが、溶媒除去を妨げないために、フィラメントが50質量%未満の溶媒を含む段階とすべきである。紡糸仕上げ剤は、40質量%未満、30、20質量%未満、さらには10質量%未満の溶媒を含むフィラメントに塗布されることが好ましい。紡糸仕上げ剤は、最後の延伸ステップ前の、フィラメントが5質量%未満の溶媒を含むときに少なくとも繊維上に塗布され、フィラメントがロールなどの上を容易に移動できるようにすることが最も好ましい。延伸は、一般に、高温で実施され、紡糸仕上げ剤は、このような操作中に少なくとも一部が除去される。本方法における後続ステップに応じて、ある量の紡糸仕上げ剤を再び塗布することができる。紡糸仕上げ剤を必要な回数塗布することができ、しかも容易かつ実質的に完全に除去できることが、本発明による方法の明確な利点である。
【0021】
本発明による方法において塗布される紡糸仕上げ剤は、圧力0.1MPaにおいて約30〜250℃の沸点を有する少なくとも1種の揮発性化合物を含む。揮発性化合物は、ポリオレフィンに対して非溶媒でも溶媒でもよく、それらの混合物でもよい。ポリオレフィンの適切な溶媒の例は、デカリンのような脂肪族または芳香族炭化水素である。揮発性化合物は、ポリオレフィンの非溶媒であり、一般に、比較的極性の高い化合物であることが好ましい。これは、化合物が表面に残り、ポリオレフィン中にほとんど拡散せず、フィラメントの延伸挙動に影響を及ぼさず、蒸発、ガス流、エアジェットまたはエアナイフによってより容易に除去することができる利点を有する。また、極性化合物は、フィラメント間の凝集を制御し、静電気を抑制するのにより有効である。適切な揮発性化合物としては、CおよびH原子に加えてO、N、P、F、Clなど少なくとも1個のヘテロ原子も含む化合物のような極性有機化合物が挙げられる。適切な化合物の例としては、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、水、およびそれらの混合物が挙げられる。紡糸仕上げ剤は、少なくとも1種のアルコールおよび/またはケトンならびに水を含むことが好ましい。このような混合物は、均一であっても、分散体であっても、有効な機能と除去の容易さを併せ持つ。エタノール、ブタノールまたはイソプロパノールと水の混合物を用いて良好な結果が得られている。好ましい実施形態においては、紡糸仕上げ剤は、必要に応じて共沸であってもよいエタノール/水、またはイソプロパノール/水混合物である。別の実施形態においては、メチルイソブチルケトンの水分散体が選択される。さらに特別な実施形態においては、紡糸仕上げ剤は、実質的に水を含む。これは、簡単ではあるが極めて予想外の実施形態である。というのは、公知の紡糸仕上げ剤は、一般に、水を溶媒または分散媒として使用するが、それにもかかわらず水自体の有効な機能が今まで認識されていないからである。これは、紡糸仕上げ剤を塗布した後に水を直接蒸発させることがよく行われているからであろう。本発明の別の好ましい実施形態においては、紡糸仕上げ剤中の少なくとも1種の揮発性化合物は、ポリオレフィンの非溶媒と溶媒の混合物である。一般に、このような混合物は非混和性である。このような混合物は、ポリオレフィンの非溶媒中にポリオレフィン溶媒を分散させたものであり、例えば乱流による安定化によって物理的に安定化され、したがって界面活性剤のような化学安定剤を使用しないことが好ましい。界面活性剤のような化学安定剤は、他の残留物のレベルを増加させる恐れがある。適切な例としては、10質量%以下のデカリンが水に分散されたものが挙げられる。このような混合物を紡糸仕上げ剤として塗布することは、後続の加工ステップ中、例えば半製品の製造中に、フィラメント間の凝集および他の基材との接着をより良く制御できるという利点がある。
【0022】
紡糸仕上げ剤中の揮発性化合物の大気圧における沸点は、早すぎる蒸発を防止するために室温以上であり、ある時間内に完全に蒸発させるために約250℃未満とすべきである。加工温度、所望の作用時間、すなわち、紡糸仕上げ剤がフィラメント表面に残留すべき時間、および所望の除去し易さに応じて、この沸点は、好ましくは約40〜200℃、50〜180℃、60〜160℃、70〜150℃、より好ましくは75〜145℃である。
【0023】
紡糸仕上げ剤を蒸発によって除去するために、紡糸仕上げ剤塗布後にフィラメントを、フィラメントの融点よりも低い温度に、例えば加熱ガス流によって曝す。この温度は、フィラメントの緩和、さらには融解を防止するために融点未満にとどめるべきである。温度が高いほど蒸発が容易であるので、温度は、ポリエチレンフィラメントの融点よりも好ましくは約25℃、より好ましくは20、10、5℃、さらには2℃低い。本願では、フィラメントの融点を、本方法にあるような諸条件下でフィラメントの試料をDSCスキャンして観測されるのをピーク融点とする。フィラメントは、機械的諸特性がより良好に保持されるので、フィラメントまたはヤーンに歪みまたは張力をかけながら、融点近く、例えば融点よりも5℃または2℃低い温度に曝すことが好ましい。紡糸仕上げ剤の除去は、延伸ステップと同時に行われることがさらに好ましい。このような場合においては、紡糸仕上げ剤は、その機能を延伸ステップ中に果たし、このようなステップの最後に実質的に完全に除去される。その後の加工に紡糸仕上げ剤が残っているか、またはその利点が必要な場合には、機械的諸特性を損なう危険性なく紡糸仕上げ剤を再度塗布することができる。
【0024】
フィラメント表面における炭素および酸素原子濃度が、XPS分析で測定して95%C以上かつ5%O以下になるように、フィラメントの融点未満の温度にフィラメントを曝す諸条件、例えば時間、圧力、ガス流および温度は、通常の実験法によって見つけることができる。XPS測定方法の詳細を以下の実施例1に示す。
【0025】
本発明による方法において使用される紡糸仕上げ剤は、少なくとも95質量%の少なくとも1種の揮発性化合物と5質量%以下の他の成分とを含む。他の成分の例は、紡糸仕上げ剤の性能、例えばその潤滑機能または静電防止機能を向上させる添加剤、塩のような導電率を増加させる成分、あるいは殺菌剤もしくは殺真菌剤または酸化防止剤として作用する成分である。特別な実施形態においては、これら他の成分は、ポリオレフィンの不揮発性溶媒を含む。これは、このようにして製造された繊維と複合体中のマトリックス材料との接着性が改善されるという利点を有する。このような添加剤成分は、繊維の目的用途において、使用が認められているべきであることは言うまでもない。紡糸仕上げ剤が約5質量%の他の成分を含む場合には、塗布される紡糸仕上げ剤の量は、繊維上の残留量が所望のレベル以下になるように選択される。
【0026】
紡糸仕上げ剤は、好ましくは少なくとも96、97、98、99または99.5質量%、さらに好ましくは少なくとも99.7質量%の前記揮発性化合物を含む。このような高い含量の利点は、比較的多量の紡糸仕上げ剤が塗布される場合でも、または紡糸仕上げ剤が数回塗布される場合でも、残留量がさらに減少することである。このような場合には比較的多量の紡糸仕上げ剤を繊維に塗布することが望ましいことが判明した。特別な実施形態においては、紡糸仕上げ剤は、本質的に前記少なくとも1種の揮発性化合物のみを含む。驚くべきことに、潤滑および静電防止特性を付与するのに必要であると一般に考えられてきた成分を本質的に含まない紡糸仕上げ剤でも、ポリオレフィン繊維を安定なプロセスによって依然として製造できることが認められた。
【0027】
本発明による方法によって、残留物の実質的にないポリエチレンヤーン、すなわちヤーンまたはそのフィラメントの表面に残留物が極めて少ない、または測定可能な量の残留物がないポリエチレンヤーンが得られる。従来の紡糸仕上げ剤を用いて調製され、続いて洗浄または抽出ステップにかけられた繊維と比較して、本発明のヤーンは、機械的諸特性が改善され、特に、引張り強さは、従来通りに製造された繊維の水準であるのに対して、洗浄または抽出繊維の引張り強さは約10〜20%低下することがわかった。ポリエチレンヤーンの製造プロセス中に紡糸仕上げ剤を塗布しなかった場合には、製造は極めて困難であると考えられた。このようにして得られたヤーン材料の機械的諸特性は、従来の紡糸仕上げ剤を用いて製造された類似の材料よりも著しく劣り、引張り強さが約20%低下することが認められた。
【0028】
したがって、本発明は、本発明による方法によって得られ、引張り強さが少なくとも30cN/dtexであるポリエチレンヤーンにも関する。また、このようなヤーンは、表面の炭素および酸素原子濃度がXPS分析で測定して95%C以上かつ5%O以下である一方で、S(硫黄)またはP(リン)がXPSで検出されないことが好ましい。
【0029】
本発明によるポリエチレンヤーンは、引張り強さが少なくとも32、少なくとも34、さらには少なくとも36cN/dtexであることが好ましい。ヤーンの表面は、残留物が実質的になく、好ましくは、原子濃度がXPS分析で測定して96%C以上、さらには97、98、99%C以上、および4%O以下、さらには3、2、1%O以下である。引張り強さ測定およびXPS分析の手順を実施例1でさらに詳細に説明する。従来の紡糸仕上げ剤のほとんどは、ポリアルキレンオキシド誘導体、一般にポリエチレンオキシド誘導体(PEOと略記)、ならびにNaおよび/またはK含有化合物を添加剤として含有している。本発明によるポリエチレンヤーンは、それぞれNMR分光法およびNAA分析で測定して(使用した方法の詳細については実施例1を参照されたい)、一般に、500ppm未満のPEOおよび20ppm未満のカリウム(K)しか含有しない。本発明によるポリエチレンヤーンは、250ppm未満のPEOおよび10ppm未満のKしか含有しないことが好ましい。PEOレベルは200、100または50ppm未満であることがより好ましい。このような少量の残留物は、十分な再現性をもって測定することができる限界量である。このような少量の残留物しか含まないポリエチレンヤーン、または明確に処方されたこのような高純度ポリエチレンヤーンの利点は、医療用途および他の重要な用途における使用に極めて適していることである。
【0030】
本発明は、さらに、
a)繊維の0.5〜10質量%の紡糸仕上げ剤を塗布するステップ、但し、紡糸仕上げ剤は、圧力0.1MPaにおける沸点が30〜250℃である少なくとも1種の揮発性化合物を少なくとも95質量%含む、と、
b)さらなる加工ステップ中またはその後に繊維を繊維の融点未満の温度に曝すことによって紡糸仕上げ剤を除去するステップと
を含む、ポリオレフィン繊維を半製品または最終用途製品に加工する方法に関する。
【0031】
ポリオレフィン繊維をさらに加工し、それらを半製品または最終用途製品に変換する間に、摩擦、フィラメント間の凝集、および正電荷の発生に関係する同じ問題が、ポリエチレンヤーン製造方法についても上述したように一般に発生する。このようなさらなる加工および変換の例としては、後延伸(post−drawing)、撚り(plying)または加撚(twisting)、かさ高加工(texturizing)、ヒートセット、ブレーディング、製織(weaving)、ニッティング、ロープおよびコード製造、ならびに例えばフィラメントワインディングまたは一方向技術(unidirectional technique)による複合材料製造が挙げられる。本方法の利点は、紡糸仕上げ剤の残留が実質的にないポリオレフィン繊維から出発して、前記問題を克服しつつ、紡糸仕上げ剤の残留が実質的にない製品が、洗浄または抽出ステップが必要ないまま製造されることである。また、紡糸仕上げ剤は、必要ならば2段階以上で塗布することができる。
【0032】
本発明によるポリオレフィン繊維を加工する方法においては、あらゆるポリオレフィン繊維を使用することができる。繊維は、モノフィラメントまたはフィラメント、マルチフィラメントヤーン、テープなどの連続または半連続物体であると解釈される。原則的には、フィラメントは、あらゆる断面形状および厚さを有することができる。この繊維は、ゲル紡糸法などの溶融紡糸ならびに溶液紡糸を含めて、任意の公知の紡糸法によって製造することができる。様々なポリオレフィンを本発明による方法に使用することができる。適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレンおよびポリプロピレンのホモ−およびコポリマーが挙げられる。ポリオレフィンは、ポリエチレンまたはポリプロピレンと、少量の1種類もしくは複数の他のポリマー、特に他のアルケン−1−ポリマーとの混合物であってもよい。線状ポリエチレン(PE)がポリオレフィンとして選択されることが好ましい。線状ポリエチレンは、本明細書では、100個の炭素原子当たり少なくとも10個の炭素原子を有する1つ未満の側鎖または分枝しかもたず、好ましくは300個の炭素原子当たり1つ未満の側鎖しかもたず、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、オクテンなどそれと共重合することができる5mol%まで、またはそれ以上のアルケンをさらに含むことができるポリエチレンと解釈される。ポリオレフィンは、さらに、抗酸化剤、熱安定剤、着色剤などのこのような繊維に一般に用いられる添加剤を少量含むことができる。ポリオレフィン繊維は、その高強度および弾性率のためゲル紡糸UHMwPE繊維であることがより好ましい。
【0033】
紡糸仕上げ剤を再度除去するために、一般に高温、ただし繊維材料の諸特性が損なわれないようにポリオレフィン繊維の融点よりも十分、例えば約20℃低い温度に製品を曝す。この温度は、例えば後伸張(post−stretching)またはヒートセットステップ中に、ポリオレフィン繊維の融点よりも約10、5、さらには2℃低い温度まで上昇させることができるが、繊維は歪み下に維持されることが好ましい。本発明による方法のさらに好ましい実施形態は、上記ポリエチレンヤーン製造方法について記載された実施形態に類似している。
【0034】
本発明は、本発明によるポリオレフィン繊維を加工する方法によって得られる半製品または最終用途製品にも関する。より具体的には、本発明は、本発明による方法によって得られる製品に関し、この製品は表面の炭素および酸素原子濃度がXPS分析で測定して95%C以上かつ5%O以下である。このような製品における繊維表面は、残留物が実質的になく、好ましくは、原子濃度がXPS分析で測定して96%C以上、さらには97、98、99%C以上、および4%O以下、さらには3、2、1%O以下である。XPS分析の手順については、実施例1でさらに詳細に説明する。従来の紡糸仕上げ剤のほとんどは、ポリアルキレンオキシド誘導体、一般にポリエチレンオキシド誘導体(PEOと略記)、ならびにNaおよび/またはK含有化合物を添加剤として含有している。本発明によるポリエチレンヤーンは、それぞれNMR分光法およびNAA分析で測定して(方法の詳細については実施例1を参照されたい)、一般に、500ppm未満のPEOおよび20ppm未満のカリウム(K)しか含有しない。本発明による製品は、その中の繊維表面に250ppm未満のPEOおよび10ppm未満のKしか含有しないことが好ましい。PEOレベルは、200、100または50ppm未満であり、その最終レベルは検出限界以下であることがさらに好ましい。このような製品は、さらに、XPS分析によって測定して検出可能な量のSまたはPを含まないことが好ましい。残留物がこのように少量であるポリオレフィン繊維を含む製品の利点は、これらの製品が医療用途および他の重要な用途における使用に極めて適していることである。
【0035】
そのため、本発明は、医療用途における本発明によるポリエチレンヤーン、または本発明による半製品もしくは最終用途製品の使用にも関する。
【0036】
本発明は、さらに、本発明によるポリエチレンヤーンを含む医療製品、または本発明による半製品もしくは最終用途製品にも関する。
【0037】
最後に、本発明は、圧力0.1MPaにおける沸点が30〜250℃である少なくとも1種の揮発性化合物を少なくとも95質量%含む組成物の、ポリエチレンヤーンを製造する方法、またはポリオレフィン繊維を半製品もしくは最終用途製品に転化する方法における、紡糸仕上げ剤としての使用にも関する。この組成物の好ましい実施形態は、上記本発明による方法において記載された紡糸仕上げ剤組成物と同様である。
【0038】
以下の実施例および比較実験によって本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
【0039】
UHMwPEヤーンをゲル紡糸法によって製造した。IV 18dl/gのUHMwPEの2質量%デカリン溶液を、フィラメントを延伸するために力をかけながら窒素ガス流で冷却し、デカリンの約50%を同時に蒸発させることによって、スピナレットを通して約130℃で紡糸してフィラメントとした。体積比40/5/55のエタノール/ブタノール/水の混合物を、フィラメントに対して約2%の量でゲルフィラメントに塗布した。続いて、フィラメントをさらに2段階、すなわち、まず延伸比約4.5で約125〜130℃で約2分間、次いで、延伸比約6で約150℃で約2分間延伸し、その間に残留紡糸溶媒と塗布した紡糸仕上げ剤の両方を除去した。加工は安定した速度で途切れずに行われた。
【0040】
得られた繊維の諸特性を以下のとおり測定した。
・マルチフィラメントヤーンの引張り強さ(または強度)、引張り係数(またはモジュラス)および破断伸びを、繊維の公称ゲージ長さ500mm、クロスヘッド速度50%/minおよびInstron 2714クランプを用いて、ASTM D885Mに規定されたとおり、定義し測定した。測定した応力−歪み曲線に基づいて、0.3%と1%の歪みの間の勾配としてモジュラスを求めた。モジュラスおよび強度を計算するために、10メートルの繊維を計量して求めたタイターで、測定した張力を割った。
・DBPC 2mgの20mL溶液を含む重水素化1,1’,2,2’−テトラクロロエタン中の試料約8mgについて、ポリエチレンオキシド誘導体(PEO)量をBruker DRX−500装置を用いてH−NMR分光法によって135℃で測定した。示した量は、PEOに帰属された3.57ppmのシグナルの相対面積として計算したものである。PEOの検出限界は、約50ppmと推定された。
・繊維表面の原子濃度、特に炭素および酸素をXPS分析によって測定した。Phi Quantum 2000装置を用いて測定を実施した。フィラメントを金属試料ホルダーに巻き付けて試料を調製した。各分析において、(分析面積によって限定される)いくつかのフィラメントを測定した。各試料を2つの位置で測定した。測定中、分析計の軸と試料表面の角度は45°であり、情報深さは約5nmであった。測定スポットが100μmのMonochromatic AlKα放射を使用し、測定域は800×400μmであった。ワイドスキャン測定によって、表面の元素を同定した。元素の化学状態および濃度をナロースキャン測定によって求めた。標準感度係数を使用してピーク面積を原子濃度に変換した。脂肪族C−Cシグナルに加えてOシグナルの増加に対応するC−Oに帰属されるシグナルから、PEO誘導体の存在は明らかであった。
・試料形状に無関係に絶対的な結果が得られる中性子放射化分析(NAA)を用いてナトリウムおよびカリウム濃度を定量した。繊維試料をそれ以上の調製ステップなしでMol(Belgium)にあるBR−1原子炉のチャネルS84中に置き、中性子を照射した。寿命の短い放射性核種をガンマ分光法によっていわゆるK方法に従って分析した。
【0041】
これらの試験結果を表1にまとめる。
[実施例2]
【0042】
紡糸仕上げ剤としてイソプロパノール/水(25/75)組成物を約2.5質量%の量で塗布したことを除けば、実施例1と同様に、UHMwPE繊維をゲル紡糸法によって製造した。加工は、フィラメントが破断することなく順調に行われた。表1に、引張り測定および分析の結果をまとめる。
[実施例3]
【0043】
微粒子分散したデカリン約1質量%を含む水を約2質量%の量でフィラメントに塗布したことを除けば、実施例1と同様に、UHMwPE繊維をゲル紡糸法によって製造した。高強度ヤーンの製造は、従来の紡糸仕上げ剤を塗布した場合よりも約7%低い最終巻取り速度で連続して安定して加工が行われた。表1に、引張り測定および分析の結果をまとめる。
【0044】
比較実験A
従来の紡糸仕上げ剤を約2質量%の量で塗布した以外は、上記実施例と同様にUHMwPE繊維をゲル紡糸法によって製造した。紡糸仕上げ剤の正確な組成は、一般に所有権に関わる知識であり、塗布した仕上げ剤の一般的な組成は、ポリエチレンオキシド誘導体28.6質量%、NaおよびK含有化合物3.25質量%、香油0.05質量%、エチレングリコール1質量%であり、溶媒として水を用いた。水が蒸発した後に、成分の約0.7質量%が繊維表面に残留する。表1に、引張り測定および分析の結果をまとめる。
【0045】
比較実験B
この実験では、紡糸仕上げ剤を塗布しなかった以外は、別の実験で説明したのと同じゲル紡糸法によって、UHMwPE繊維を製造しようとした。フィラメントの延伸中に数回破断が生じた。それでも、比較的低い紡糸/延伸速度(実験1の約60%)で、ある代表的な試料材料を製造することができた。引張り特性は、表1に示すように、他の繊維よりもかなり劣ることが判明した。
【表1】

【0046】
比較実験C
DSM high Performance Fibers BV(NL)から入手可
能であり、従来の紡糸仕上げ剤を使用してゲル紡糸法で製造された市販UHMwPE繊維
試料のDyneema(登録商標)SK75の2*440dtexの2本撚りヤーンを、
繊維から紡糸仕上げ剤成分を除去する抽出手順にかけた。ヤーンを円柱状多孔ポリプロピ
レンコアに軽く巻き、クロロホルムを用いてソックスレー抽出に3時間かけた。クロロホ
ルム中に18時間放置した後に、クロロホルムを用いて試料を再度7時間ソックスレー抽
出し、その後この最後のサイクルを繰り返した。続いて、試料を、質量が7日後に一定に
なるまで乾燥機中で40℃で減圧乾燥した。抽出前(C1)および抽出後(C2)の引張
り特性を測定し、表面の残留濃度を測定した。表1の結果によれば、PEOタイプの化合
物の約85%が除去されたが、NおよびK含有化合物が繊維上に実質的に残留した。さら
に、引張り特性は、抽出によって約10〜14%低下した。
【0047】
比較実験D
DSM high Performance Fibers BV(NL)から入手可
能であり、従来の紡糸仕上げ剤を使用してゲル紡糸法で製造された市販UHMwPE繊維
試料のDyneema(登録商標)SK65の220dtexヤーンを、さらにソーダ1
g/dmを含有するいくつかの洗浄剤水溶液を用いた洗浄ステップにかけた。使用した
洗浄剤は、Zschimmer&Schwarz GmbH、Lahnstein、ドイ
ツから市販されている。このヤーンをガラス棒に軽く巻き付け、撹拌した洗浄剤溶液に8
0℃で15分間浸漬した。続いて、このヤーンを熱水(70℃)および冷水で洗った。P
EO含有化合物の含量をNMRで、NaおよびK含量をNAAで求めることによって、洗
浄の効果を測定した(詳細は実施例1参照)。
【0048】
表2にまとめた結果によれば、どの洗浄溶液も実質的にすべての仕上げ剤残留物をヤー
ンから除去することはできなかった。
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸仕上げ剤残留物が実質的に存在しないポリオレフィン繊維を半製品または最終用途製品に加工する方法であって、
a)前記繊維の0.5〜10質量%の紡糸仕上げ剤を塗布するステップであって、前記紡糸仕上げ剤が、圧力0.1MPaにおいて30〜250℃の沸点を有する少なくとも1種の揮発性化合物を少なくとも95質量%含むステップと、
b)さらなる加工ステップ中またはその後に前記繊維を前記繊維の融点未満の温度に曝すことによって前記紡糸仕上げ剤を除去するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記紡糸仕上げ剤が、CおよびHに加えて少なくとも1個のO原子を含む揮発性化合物、または水を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィン繊維がゲル紡糸UHMwPE繊維である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
XPS分析で測定して95%C以上かつ5%O以下である表面の炭素および酸素原子濃度を有し、それぞれNMR分光法およびNAA分析で測定して500ppm未満のポリアルキレンオキシド誘導体および20ppm未満のカリウムを含む、請求項2または3に記載の方法によって得ることのできる半製品または最終用途製品。
【請求項5】
医療用途における、請求項4に記載の半製品もしくは最終用途製品の使用。
【請求項6】
請求項4に記載の半製品もしくは最終用途製品を含む医療製品。
【請求項7】
圧力0.1MPaにおいて30〜250℃の沸点を有する少なくとも1種の揮発性化合物を少なくとも95質量%含む組成物の、ポリオレフィン繊維を製造する方法、または、ポリオレフィン繊維を半製品もしくは最終用途製品に加工する方法における紡糸仕上げ剤としての使用。

【公開番号】特開2010−65375(P2010−65375A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261150(P2009−261150)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【分割の表示】特願2004−558559(P2004−558559)の分割
【原出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】