説明

ポリオレフィン繊維

本発明は、ポリオレフィン繊維の製造方法に関する。この方法は、少なくとも1つのポリオレフィンテープを提供するステップと;少なくとも1つのポリオレフィンテープを長手方向に加撚するか折畳むことによって前駆体繊維を得るステップと;前駆体繊維の2つ以上の部分を少なくとも部分的に融合させるのに充分な時間、前駆体繊維を張力下でポリオレフィンの融点範囲内の温度に曝露するステップとを含む。本発明は、この方法により得ることのできる繊維にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の技術分野]
本発明は、ポリオレフィン繊維を製造するための方法およびこれにより得ることのできるポリオレフィン繊維に関する。本発明は同様に、このポリオレフィン繊維の利用分野にも関する。
【0002】
[発明の背景]
ポリオレフィン繊維は、典型的に、押出しダイからポリオレフィンを含む流体組成物を紡糸することにより製造される。この要領で作られるポリオレフィン繊維は、例えば、複数の繊維を撚合することにより、マルチフィラメント糸にされてよい。同様にポリオレフィン繊維を、モノフィラメント様の繊維を含めたさらなる製品を作るための前駆体として使用してもよい。これを行なう1つの方法は、複数の前駆体ポリオレフィン繊維を1つの最終製品に融合させることにある。欧州特許第0740002B1号明細書では、フィラメント材料の糸から釣り糸を製造するプロセスにおいて、ゲル紡糸ポリオレフィンフィラメントの糸から作られた編組、加撚、または加撚かつ諸撚りされた釣り糸が、1.01〜2.5の範囲内の伸張比で伸張される一方で、隣接するフィラメントを少なくとも部分的に融合させるのに充分な時間前記ポリオレフィンの融点範囲内の温度に曝露されるプロセスが記述されている。このプロセスにおいて利用される糸は、連続マルチフィラメント糸、より具体的には、超高モル質量ポリエチレン(UHMwPE)のいわゆるゲル紡糸により作られた糸、例えばSpectra(登録商標)またはDyneema(登録商標)などの名称で市販されている糸である。
【0003】
公知のプロセスにおいては、糸または繊維は、多数の繊維で作られる。前駆体繊維間で考えられる特性の差異は、最終製品の特性に影響を及ぼすかもしれない。その上、当初は前駆体繊維間の界面であった最終製品の部分は、製品のその他の部分と異なる特性を有するかもしれない。
【0004】
[発明の目的]
本発明の目的は、上述の制限および/またはその他の制限が削減されている、ポリオレフィン繊維を製造する新規方法を提供することにある。
【0005】
[発明の開示]
ポリオレフィン繊維の製造方法において、少なくとも1つのポリオレフィンテープを提供するステップと;少なくとも1つのポリオレフィンテープを長手方向に加撚するか折畳むことによって前駆体繊維を得るステップと;前駆体繊維の2つ以上の部分を少なくとも部分的に融合させるのに充分な時間、前駆体繊維を張力下でポリオレフィンの融点範囲内の温度に曝露するステップと、を含む方法が提供されている。
【0006】
発明人らは今、ポリオレフィンテープの断面の形状からテープを長手方向に加撚または折畳むことが可能であること、そしてポリオレフィンテープの材料から隣接層の融合が可能であることを認識している。繊維は、本質的に幅方向の結合性をもつ1本または複数のテープで作られていることから、本発明に係る方法によって製造された繊維は、円形断面を有する複数のフィラメントで作られた繊維と比べてその横断方向でより均質な構造およびより優れた無欠性を有している。繊維を製造するために必要とされるテープの数は、一般に円形の断面を有する前駆体フィラメントを用いた場合に比べて少なくなる可能性がある。さらに、製品の表面は、多数の前駆体フィラメントで作られた製品と比べ、その融合した縁部の面積がはるかに小さくなるようにしてもよい。融合縁部は、繊維の表面の滑らかさを減少させる。テープの撚り方または折畳み方そして温度や圧力などの融合条件を調整することにより、繊維の表面上の融合縁部の面積ひいては表面粗度を調整してもよい。特に釣り糸での使用のためには、表面粗度が低いことが有利である。さらに、テープを繊維へと再整形する間に特性はさらに改善されるかもしれない。
【0007】
本発明の別の重要な利点は、繊維を構成するポリオレフィンテープが必ずしも、ゲル紡糸プロセスまたは溶融紡糸プロセスなどの紡糸プロセスによって製造される必要が無いということにある。例えば、充分な圧力および温度を加えることにより粉末ポリマーからポリオレフィンテープを製造してよい。粉末ポリマーからポリオレフィンテープを製造することは、例えば、参照により本明細書に援用されている米国特許第4,879,076号明細書および5,091,133号明細書から公知である。したがって、本発明によると、紡糸プロセス無しで繊維を作ることが可能になった。
【0008】
好ましくは、繊維は1本のテープで作られる。本発明の利点は、この実施形態において、さらに一層顕著である。ポリオレフィンテープの断面の形状から、例えば円形断面を有する繊維へと単一のポリオレフィンテープを再整形することが可能になる。このような再整形は、全体として円形断面を有する従来の繊維では不可能である。結果として得られる繊維の構造は、それが単一のテープで作られている場合に最も均質である。
【0009】
本明細書において、テープとは、あらゆる平坦な物体を意味するものと理解され、その断面寸法よりもはるかに大きい長さ寸法を有する物体を含む。「テープ」という用語は、リボン、バンド、フィルムまたはシートと呼ぶことのできる物体を含んでいる。断面は、矩形または楕円形などのさまざまな異方性形状を有していてよい。断面の長い方の軸は幅と呼ばれ、幅方向に垂直な断面の短い方の軸は厚みと呼ばれる。
【0010】
前駆体繊維は、本明細書中において、1本のまたは複数のテープを再整形することで作られ、融合により1つの実質的に一体の物体へと変形される予定の物体を意味するものと理解される。
【0011】
本明細書で使用されるテープを長手方向に加撚するまたは折畳むという表現は、テープを曲げるかまたはその他の形で再整形して一方の側縁をテープの別の部分と接触させ、こうしてテープの少なくとも一部分の幅をさらに小さくして、前駆体繊維を得ることを意味している。2本以上のテープが長手方向に加撚されるかまたは折畳まれている場合、本明細書では、それは、2本以上のテープの束が全体として加撚されているか折畳まれていることを意味する。この束は再整形されて束の一方の側縁が束の別の部分と接触し、こうして束の少なくとも一部分の幅はより小さくなり、前駆体繊維が得られる。
【0012】
所望の結果を得るために、テープを何回でも加撚するまたは折畳むことができる。例えば、テープを1メートルあたり2〜1500回(t/m)加撚することができる。特に、テープは50〜1000t/m、より好ましくは100〜700t/m加撚される。
【0013】
本明細書中で繊維とは、その断面寸法よりもはるかに大きい長さ寸法を有する細長い物体を意味するものと理解される。断面は、例えば円形、楕円形、矩形、正方形、U字形などのあらゆる形状のものであってよい。
【0014】
ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレンまたは、その機械的特性の実質的減少無く融合させることのできる任意のその他の適切なポリマーであってよい。
【0015】
隣接層を少なくとも部分的に融合させるステップについては、各々の利用分野に必要とされる融合度に応じて、パラフィン油などの融合助剤を使用することが可能である。
【0016】
好ましい実施形態において、ポリオレフィンテープは、HMwPEまたはUHMwPEテープである。HMwPEまたはUHMwPEテープとは、HMwPEまたはUHMwPEを、そのテープの合計重量の75wt%の割合で含むテープを意味する。この比率は、好ましくは少なくとも90wt%、そして最も好ましくは100wt%である。テープがHMwPEとUHMwPEの組合せで製造される場合、結果として得られるテープは、HMwPEおよびUHMwPEの比率に応じてHMwPEテープまたはUHMwPEテープであってよい。同様にして、HMwPEまたはUHMwPEを、繊維の合計重量の75wt%の割合で含む繊維は、HMwPEまたはUHMwPE繊維と呼ばれる。
【0017】
本明細書中において、高分子量ポリエチレン(HMwPE)は、分子量が50,000〜400,000であるポリエチレンを意味する。本明細書中、超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)は、分子量が少なくとも400,000であるポリエチレンとして定義される。UHMwPEは最高数百万の分子量を有していてよい。特に明記しないかぎり、本明細書中で言及されている分子量は、重量平均分子量(Mw)である。
【0018】
分子量を決定するために、固有粘度を使用してよい。固有粘度は、MnおよびMwなどの実際のモル質量パラメータよりもさらに容易に決定できる、モル質量(分子量とも呼ばれる)についての尺度である。IVは、デカリン中135℃でPTC−179方法(Hercules Inc.Rev.Apr.29、1982)にしたがって決定され、溶解時間は16時間であり、酸化防止剤としてのDBPCの量は溶液1lあたり2gであり、異なる濃度での粘度は、ゼロ濃度に対し外挿される。IVとMwの間にはいくつかの経験的関係が存在するが、このような関係は、モル質量分布により大きく左右される。Mw=5.37*10〔IV〕1.37(欧州特許出願公開第0504954A1号明細書を参照)という等式に基づくと、4.5dl/gというIVは、約4.2×10g/molのMwと等価であると考えられる。
【0019】
IVが5dl/g超である伸張されたUHMwPE繊維は、その分布鎖が長いために非常に優れた機械的特性、例えば高い引張り強度、モジュラスおよび破壊時エネルギー吸収を有する。より好ましくは、10dl/g超のIVを有するポリエチレンが選択される。それは、このようなUHMwPE糸をゲル紡糸することによって作られた糸が、高い強度、低い相対密度、優れた加水分解耐性および優れた摩耗特性の組合せを提供するからである。適切なUHMwPEは、典型的には5dl/g超、好ましくは約8〜40dl/g、より好ましくは10〜30または12〜28または15〜25dl/gの固有粘度を有する。
【0020】
好ましくは、本発明のHMwPEおよびUHMwPEは線状ポリエチレン、すなわち炭素原子100個あたり1個未満の側鎖または分岐、そして好ましくは炭素原子300個あたり1個未満の側鎖を伴うポリエチレンであり、一般に1分岐は少なくとも10個の炭素原子を含む。ポリエチレンのみ存在するのが好ましいが、あるいはこのポリエチレンはさらに、それと共重合されていてもいなくてもよいアルケン、例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンまたはオクテンなどを最高5mol%含んでいてよい。ポリエチレンはさらに、このような繊維について慣習的である添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、着色剤などを最高15重量%、好ましくは1〜10重量%まで含んでいてよい。
【0021】
一実施形態において、テープは、モノフィラメントテープである。本明細書中、モノフィラメントとは、紡糸により単一のスピンホールから得ることのできるフィラメントを意味するものとして理解される。本明細書中で使用されるモノフィラメントは円形断面を有する必要がないということが認識される。この実施形態は、このようなモノフィラメントテープが非常に均質な構造を有するという点で有利である。
【0022】
一実施形態によると、テープは、HMwPEおよび/またはUHMwPEを含む流体組成物を提供するステップと;異方性形状を有する1つのスピンホールを通して、流体組成物から流体テープを紡糸するステップと;流体テープを冷却して固化テープを得るステップと;少なくとも1つの延伸ステップにおいて少なくとも1方向に固化テープを延伸するステップとによって提供される。等方性形状は、例えば矩形または楕円形などのさまざまな形状であってよい。
【0023】
テープを提供するこのステップの間、固化テープをすでに長手方向に折畳んでいてよい。一実施形態において、固化テープを得るステップの後固化テープは、固化テープの幅よりも小さい幅をもつスロットを有する巻回装置により巻回される。この結果、固化テープは長手方向に折畳まれることになる。折畳まれた固化テープの隣接層は、延伸ステップ中に少なくとも部分的に融合されてよい。こうして得られたテープは、長手方向に折畳まれ場合によっては融合された層を含み、後続する加撚または折畳みステップに付されてよい。
【0024】
好ましくは、延伸ステップは、長手方向にのみ実施される。このような延伸ステップはテープに高い強度を与える。好ましくは、延伸比は少なくとも1.5、より好ましくは少なくとも5、より好ましくは少なくとも10である。このような延伸比で、特に高い強度が得られる。
【0025】
さらなる実施形態によると、テープは、少なくとも2つの方向に延伸を実施することにより提供される。延伸は、二方向にすなわち流れ方向ならびに実質的に横断方向に、またさらにはより多くの方向に行なわれてよい。好ましくは、延伸は少なくとも10という面積延伸比、すなわち面積の観点から見た伸張係数で行なわれる。この方法によって作られたテープは、広い幅を有していてよく、この幅が、後続するステップでテープを加撚するまたは折畳む要領に対してより多くの自由度を与える。
【0026】
好ましい一実施形態によると、テープはゲル紡糸されたUHMwPEテープである。UHMwPEのゲル紡糸は、欧州特許出願公開第0205960A号明細書、欧州特許出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレットおよびAdvanced Fiber Spinning Technology,Ed.T.Nakajima,Woodhead Publ.Ltd(1994),ISBN1−855−73182−7、およびそれらの中で引用されている参考文献を含めたさまざまな刊行物の中で記述されてきた。これらの刊行物は、参照により本明細書に援用される。したがって、本発明の一態様によると、流体組成物は、溶媒中のUHMwPEの溶液であり、方法は、少なくとも部分的に溶媒を除去するステップを含む。
【0027】
方法中、UHMwPEゲル紡糸用の公知の溶媒のいずれでも使用することができる。紡糸溶媒の適切な例としては、脂肪族および脂環式炭化水素、例えばオクタン、ノナン、デカンおよびパラフィン類(その異性体を含む);石油留分;鉱油;ケロシン;芳香族炭化水素例えばトルエン、キシレンおよびナフタレン(その水素化誘導体、例えばデカリンおよびテトラリンを含む);ハロゲン化炭化水素、例えばモノクロロベンゼン;およびシクロアルカン類またはシクロアルケン類例えばカリーン、フッ素、カンフェン、メンタン、ジペンテン、ナフタレン、アセナフタレン、メチルシクロペンタジエン、トリシクロデカン、1,2,4,5−テトラメチル−1,4−シクロヘキサジエン、フルオレノン、ナフチンダン、テトラメチル−p−ベンゾジキノン、エチルフオレン、フルオランテンおよびナフテノンが含まれる。UHMWPEのゲル紡糸のために、以上で列挙した紡糸溶媒の組合せも同様に使用してよく、これらの溶媒の組合せもまた単純さを期して紡糸溶媒と呼ぶ。一実施形態において、最適な紡糸溶媒は、例えばパラフィン油のように室温で低い蒸気圧を有する。同様に、本発明の方法は、例えばデカリン、テトラリンおよびケロシン品質等級のような室温で比較的揮発性を有する溶媒にとって特に有利であることも発見された。最も好ましくは、紡糸溶媒はデカリンである。
【0028】
ゲル紡糸され長手方向に延伸されたUHMwPEテープは、非常に高い強度を有する。好ましくはUHMwPEテープは、少なくとも20cN/dtex、好ましくは少なくとも25cN/dtex、さらに一層好ましくは少なくとも30cN/dtex、最も好ましくは少なくとも35cN/dtexの強度を有する。このような高い強度は、テープが延伸UHMwPEテープであるという事実に起因して得ることができる。
【0029】
さらに、ゲル紡糸され長手方向に延伸されたUHMwPEテープは、非常に高いモジュラスを有する。好ましくは、テープは少なくとも600cN/dtex、より好ましくは少なくとも900cN/dtex、さらに一層好ましくは少なくとも1300cN/dtexというモジュラスを有する。
【0030】
さらなる実施形態によると、テープは、溶融紡糸されたHMwPEテープまたは溶融紡糸されたUHMwPEテープであり、ここでUHMwPEは最高800,000の分子量を有する。溶融紡糸方法は、当該技術分野において周知であり、これには、PE組成物を加熱してPE溶融体を形成させるステップと、PE溶融体を押出し加工するステップと、押出し加工された溶融体を冷却して固化されたPEを得るステップと固化PEを少なくとも一回延伸するステップとが関与する。この方法は、例えば参照により本明細書に援用されている欧州特許出願公開第0344860A1号明細書、国際公開第03/037590A1号パンフレット、欧州特許出願公開第1445356号明細書および欧州特許出願公開第1743659A1号明細書の中で言及されている。したがって、本発明の一態様によると、流体組成物は、最高800,000の分子量を有するHMwPEおよび/またはUHMwPEの溶融体である。
【0031】
この実施形態では、プロセス性を考慮してPEが選択される。HMwPEは、問題なく溶融紡糸され得、最高800,000の分子量を有するUHMwPEも溶融紡糸可能である。より高い分子量は、より望ましい機械的特性をもつテープを提供するが、プロセス性は低下し、特に押出し加工はよりむずかしくなる。好ましくは、溶融紡糸され長手方向に延伸されたテープは、少なくとも13cN/dtex、好ましくは少なくとも16cN/dtex、さらに一層好ましくは少なくとも20cN/dtexの強度を有する。
【0032】
さらなる実施形態によると、HMwPEまたはUHMwPEは、組合せたエンドレスベルト間にHMwPEおよび/またはUHMwPEを含むポリマー粉末を供給するステップと、ポリマー粉末をその融点より低い温度で圧縮成形するステップと、結果として得られた圧縮成形ポリマーを圧延しその後延伸するステップとにより提供される。このようにしてテープを製造するプロセスは、例えば、参照により本明細書に援用されている米国特許第4,879,076号明細書および5,091,133号明細書から公知である。延伸比は、好ましくは少なくとも1.5、より好ましくは少なくとも5、さらにより好ましくは少なくとも10である。所望される場合、ポリマー粉末を供給し圧縮成形する前に、ポリマー粉末を、前記ポリマーの融点より高い沸点を有する適切な液体有機化合物と混合してもよい。圧縮成形は、ポリマー粉末を搬送しながら一時的にエンドレスベルト間に保持することによって実施してもよい。これは例えば、エンドレスベルトと連結してプレスプラテンおよび/またはローラーを提供することによって行なうことができる。このようにして作られたテープは、本発明の方法によって繊維の形に再整形される。この方法は、ゲル紡糸方法または溶融紡糸方法などの紡糸方法が関与しない、繊維を製造するための全く新規の方法を提供する。こうして、紡糸方法に存在するかもしれない制約を一切受けない繊維製造方法が提供される。
【0033】
このようにして得られたテープは、長手方向に細断されてよい。テープを細断することにより、断面の縦横比が1前後である繊維を作ることは可能であるものの、細断作業はテープを損傷しその強度を削減するかもしれないという点に留意すべきである。細断するだけで作られたこのような繊維は、数多くの利用分野にとっての所要強度を有していない。これとは対照的に、本発明の一実施形態によると、テープを長手方向に細断し、その後テープを長手方向に加撚するまたは折畳むステップに付し、その後融合ステップを実施する。細断によってひき起こされた損傷は、融合ステップの後実質的に消失し、非常に優れた強度値が結果としてもたらされることが発見された。この実施形態によって、最終的繊維の所望の厚みを高い強度と共に得ることができるようになる。
【0034】
一実施形態において、融合が関与するステップは、加撚または折畳みを受けたテープが1.01〜5.0、好ましくは1.1〜3.0、より好ましくは1.2〜2.5、さらに一層好ましくは1.4〜2.0、さらに一層好ましくは1.5〜1.8の延伸比で延伸されるのと同時に実施される。テープを融点範囲に付しながら行う延伸は、改善された機械的特性を例えば強度を有する繊維を結果としてもたらす。
【0035】
本発明は同様に、本発明に係る方法によって得ることのできる繊維にも関する。好ましくは、繊維は実質的に円形の断面を有する。しかしながら、繊維の考えられる断面には一切制限がない。断面は、例えば矩形、正方形、楕円形、U字形であってよい。
【0036】
ゲル紡糸されたモノフィラメントUHMwPEテープから作られた繊維は、非常に高い強度を有することが発見された。好ましくは、この繊維は、少なくとも20cN/dtex、好ましくは少なくとも25cN/dtex、さらに一層好ましくは少なくとも30cN/dtex、最も好ましくは少なくとも35cN/dtexの強度を有する。
【0037】
さらに、ゲル紡糸モノフィラメントUHMwPEテープから作られた繊維は、非常に高いモジュラスを有する。好ましくは、繊維は、少なくとも600cN/dtex、より好ましくは少なくとも900cN/dtex、さらに一層好ましくは少なくとも1300cN/dtexのモジュラスを有する。高いモジュラスは、釣り糸ならびに、一方の端部の小さな運動でさえも直ちにかつ実質的な減少無くもう一方の端部へと伝達されなくてはならないその他の利用分野において、特に有利である。
【0038】
一実施形態において、繊維は、実質的に円形の断面および少なくとも100μm、好ましくは少なくとも120μm、より好ましくは少なくとも150μmの直径を有する。このような大きい直径を有する繊維は、さまざまな利用分野のために直接使用されてよい。実際、本発明に係る方法は、繊維の厚みに関してほとんど上限を有していない。数センチメートルまでの値が可能である。繊維の厚みが大きい場合延伸力は増大するが、この問題を解決するための技術的手段は、業界で利用可能な標準的なものである。しかしながら、大部分の実践的利用分野について、このような非常に厚みの大きい繊維は必要ではない。したがって、繊維は好ましくは、多くとも3000μm、より好ましくは多くとも1500μm、より好ましくは多くとも500μmの直径を有する。繊維の直径は、本質的に、テープの幅と厚み、および適用されるテープの数によってのみ制限される。
【0039】
一実施形態において、繊維は、少なくとも0.5μm好ましくは少なくとも1μmの表面粗度Raを有する。これは、テープの加撚方法または折畳み方法、ならびに融合を行なう温度および圧力などの条件を調整することによって達成されてよい。結節形成性が重要である利用分野では、高い表面粗度が有利であるかもしれない。表面粗度を測定する方法の一例を以下で記述する。
【0040】
表面粗度Raは、光学式表面粗さ計(Veeco NT1100)を用いて決定される。糸の供試体を測定前に金でコーティングし、望ましくない内部反射を防止する。VSIモード(垂直走査式干渉分光法)を用いて糸供試体を走査する。走査の後、円筒および傾動補正によりプロファイルを補正して、光学式表面粗さ計のオペレーティングソフトを用いてフィラメントの円筒形状に合わせて調整する。表面粗度は、走査されたデータからオペレーティングソフトにより計算される。
【0041】
本発明の繊維には、釣り糸を含め、さまざまな利用分野がある。高い強度、モジュラスおよび破断伸度が組合わさって、特に有利な釣り糸を提供する。さらに、本発明の釣り糸は、それが水を封入せず、ほつれおよびもつれを受けやすい外部表面を呈していないという点で、編組糸で作られた釣り糸に比べて有利である。編組された釣り糸はまた、釣り糸の端部で擦り切れる傾向をも有し得る。結節の形に結ばれた場合、この「切れ端」は、擦り切れて毛羽立った突出部を作り上げ、これは、釣りをする時のルアーの外観および受容性に不利な影響を及ぼす可能性がある。さらに、ゲル紡糸ポリエチレンで作られた編組釣り糸は、釣り人の間で一般的に使用されている圧縮タイプの釣り糸クリッパできれいに切断され得ない。内部の全てのフィラメントが確実に均一に切断されるように、編組をハサミまたはその他のタイプのせん断装置で切断しなくてはならない。別の利用分野としては、本発明に係る繊維を含むたこ糸がある。これは、より細い繊維の編組で作られたたこ糸に比べ、空気抵抗が少ない。この繊維の高い機械的特性は、機械的設備内で使用されるアクチュエータケーブルなどのさまざまな利用分野において有利である。アクチュエータケーブルは、非常に小さい歪でさえアクチュエータの精確な制御に影響を及ぼすかもしれないことから、高いモジュラスを有していなければならない。
【0042】
ここで、以下の実施例を参照しながら、本発明についてより詳細に説明する。
【0043】
[方法]
・ IV:固有粘度は、異なる濃度で測定した粘度をゼロ濃度に対し外挿することによって、デカリン中135℃でPTC−179方法(Hercules Inc.Rev.Apr.29、1982)にしたがって判定され、ここで溶解時間は16時間、酸化防止剤としてのDBPCの量は溶液1lあたり2gであった。
・ dtex:繊維の線密度(dtex、g/10km)は、長さ10mの繊維片を秤量することによって測定した。mg単位の測定重量がdtexである。
・ 引張り特性:引張り試験は、500mmという繊維の公称ゲージ表を用いて、ASTMD885Mにしたがい、1kNのロードセルおよびInstron放物線繊維グリップの備わったInstron Z010引張り試験装置上で実施された。引張り強度は、各々の個別試料について測定された破壊時の力および線密度から決定された。引張り係数は、0.3〜1.0%歪のコードモジュラスとして決定された。破壊時の伸長および歪は、ゼロ歪で0.08Nの張力で100mmのゲージ長を使用することによって決定された。このゲージ長は、平坦空気圧グリップ区分(flat pneumatical grip section)の始めまで放物線グリップ区分上の全繊維長を内含していた。引張り試験中の歪速度は50mm/分であった。
【0044】
[1. ゲル紡糸されたUHMwPEモノフィラメントテープからの繊維の製造]
[1.1 ゲル紡糸されたUHMwPEモノフィラメントテープの製造]
[実施例1]
ゲル紡糸プロセスを介して、UHMwPEモノフィラメントテープを作った。デカリン中のIV20dl/gのUHMwPEの8wt%溶液を、約160℃で、1つのスピンホールをもつスピンプレートを通して溶液モノフィラメントテープへと紡糸した。溶液モノフィラメントテープを72mm×0.8mmのスロットから5mmのエアギャップに出し、水浴中に入れた。溶液モノフィラメントテープを、約30℃に保たれた水浴中で冷却してゲルテープを得、エアギャップに1.8という延伸比が適用されるような速度でこれを巻き取った。スピン速度は、2.8m/分で一定に保たれた。ゲルテープをその後さらに、125℃の平均温度で20の延伸比で延伸して、部分延伸テープを得た。部分延伸テープを、その幅より小さい幅のスロットを有する巻回装置を用いて、ボビンに巻回した。こうして部分延伸テープは長手方向に折畳まれることになった。スピン仕上げは適用されなかった。この折畳まれた部分延伸テープをその後、151℃の平均温度で3.5の延伸比で延伸して、完全延伸テープを得た。
【0045】
SEMによりテープの平坦な区分および断面を観察した。テープの折畳まれた区分が最終延伸中に融合されたことが観察された。テープの厚みは、重なったテープの層の数に応じて変化し、約10〜40μmの範囲内にあった。テープの幅は約0.85mmであった。
【0046】
テープの引張り特性を、以上で記述した方法にしたがって測定し、結果は表1に示す。
【0047】
[実施例2〜5]
実験を実施例1と類似の要領で実施したが、部分延伸テープは、実施例2ではさらに延伸させず、完全延伸テープを得るための第2の延伸ステップの延伸比は、実施例3、4および5についてそれぞれ2.5、3.0および4.0であった。糸の引張り特性を、以上で記述された方法にしたがって測定し、結果を表1に示す。
【0048】
【表1】



【0049】
[実施例6]
実施例1と類似の要領で実験を実施したが、部分延伸テープは、スロット無しで巻回装置を用いて巻回した。こうして長手方向の折畳み無しでテープを得た。
【0050】
テープの幅および厚みを、SEMによりそれぞれ4000μmおよび10μmと判定した。幅と厚みの間のこの比率の高さは、スピンプレートのスピンホールのものよりもはるかに高いことから、意外である。
【0051】
[1.2 ゲル紡糸テープからの繊維の製造]
[実施例7〜10]
全体として円形断面を有するモノフィラメント繊維を、実施例1にしたがって作ったテープを再整形することにより製造した。テープを300t/mで加撚し、151℃の温度で再度伸張させた。パラフィン油といった融合助剤は、パラフィン油が機械的特性の低下を導くことが判明したため、適用しなかった。伸張中、実施例7〜10についてそれぞれ、1.5、1,6、1.7および1.8の延伸比を得るため、各例について表2に記されている通りに張力を加えた。加撚したテープは、モノフィラメント繊維を結果としてもたらした。テープの引張り特性を、上述の方法にしたがって測定し、結果を表2に示す。強度は非常に高く、一つの実施例においては、38.9cN/dtexという高い強度が得られた。この強度は、多数のフィラメントから得られる公知の融合系よりも高いものである。この強度が高いことの理由は、融合多重フィラメント由来の糸が本発明に係る繊維に比べ融合により作られる界面がさらに多いという点にあると考えられるが、それに限定されない。
【0052】
【表2】



【0053】
[2. 圧縮成形により作られるUHMwPEテープからの繊維の製造]
UHMWPEの細かい粉末床を圧縮成形し圧延することにより調製したテープを、本発明にしたがった繊維製造プロセスに付した。当初のテープの幅は110mm、厚みは45μmであった。テープの強度は、16cN/dTexと測定された。テープをまず最初に細断して、幅を3mmにした。得られたテープを300t/mおよび450t/m(1メートルあたりの巻回数)で加撚した。加撚テープならびに非加撚テープの引張り特性を上述の方法にしたがって測定し、結果を表3に示す。
【0054】
【表3】



【0055】
当初のテープおよび細断テープ(表3で加撚無しとして記されたもの)の強度を比較することにより、細断ステップによって強度が実質的に減少したことがわかる。また、加撚作業により強度およびE−モジュラスが有意に減少したこともわかる。
【0056】
[実施例11〜14]
実施例11〜14についてそれぞれ、1.1、1.2、1.3および1.4の延伸比で150.6℃で、300t/mで加撚したテープを延伸した。延伸比は、被動ロールの速度間の比から計算する。パラフィン油のような融合助剤は一切適用しなかった。加撚したテープは、モノフィラメント繊維を結果としてもたらした。以上で記述した方法にしたがって繊維の引張り特性を測定し、結果を表4に示す。
【0057】
【表4】



【0058】
加撚した非延伸テープに比べ、強度およびE−モジュラスは劇的に増大した。強度は、テープの細断前のレベルかまたはさらに高いレベルまで増大したことが観察される。
【0059】
[実施例15〜25]
450t/mで加撚したテープを、表5に示されたそれぞれの温度および延伸比で延伸した。パラフィン油などの融合助剤は一切適用しなかった。加撚したテープは、モノフィラメント繊維を結果としてもたらした。以上で記述した方法にしたがって繊維の引張り特性を測定し、結果を表5に示す。
【0060】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン繊維の製造方法において、
a) 少なくとも1つのポリオレフィンテープを提供するステップと;
b) 前記少なくとも1つのポリオレフィンテープを長手方向に加撚するか折畳むことによって前駆体繊維を得るステップと;
c) 前記前駆体繊維の2つ以上の部分を少なくとも部分的に融合させるのに充分な時間、前記前駆体繊維を張力下でポリオレフィンの融点範囲内の温度に曝露するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィン繊維が1本のポリオレフィンテープで作られている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィンテープがHMwPEまたはUHMwPEテープである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップa)が、
− HMwPEおよび/またはUHMwPEを含む流体組成物を提供するステップと;
− 異方性形状を有するスピンホールを通して、前記流体組成物から流体テープを紡糸するステップと;
− 前記流体テープを冷却して固化テープを得るステップと;
− 少なくとも1つの延伸ステップにおいて少なくとも1方向に前記固化テープを延伸するステップと;
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記延伸ステップが、少なくとも1.5、好ましくは少なくとも5、より好ましくは少なくとも10の延伸比で、長手方向にのみ実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記延伸ステップが、少なくとも10という面積延伸比で少なくとも2方向に実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記流体組成物が溶媒中のUHMwPE溶液であり、少なくとも部分的に前記溶媒を除去するステップを含む、請求項4、5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記流体組成物が、最高800,000の分子量を有するHMwPEおよび/またはUHMwPEの溶融体である、請求項4、5または6に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップa)が、組合せたエンドレスベルト間にHMwPEおよび/またはUHMwPEを含むポリマー粉末を供給するステップと、前記ポリマー粉末をその融点より低い温度で圧縮成形するステップと、前記結果として得られた圧縮成形ポリマーを圧延しその後延伸するステップとを含んでいる、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップc)が実施される間、前記加撚されたまたは折畳まれたテープは延伸比1.01〜5.0、好ましくは1.1〜3.0、より好ましくは1.2〜2.5、さらに一層好ましくは1.4〜2.0、さらに一層好ましくは1.5〜1.8で延伸されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
好ましくは、実質的に円形の断面を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法により得ることのできる繊維。
【請求項12】
前記繊維が少なくとも30cN/dtex、好ましくは少なくとも35cN/dtexの強度を有する請求項11に記載の繊維。
【請求項13】
前記繊維が実質的に円形の断面および少なくとも100μm、好ましくは少なくとも120μm、より好ましくは少なくとも150μmの直径を有する請求項11または12に記載の繊維。
【請求項14】
前記繊維が少なくとも0.5μm好ましくは少なくとも1μmの表面粗度Raを有する、請求項11、12または13に記載の繊維。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか一項に記載の繊維を含む釣り糸。

【公表番号】特表2012−505316(P2012−505316A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529576(P2011−529576)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062895
【国際公開番号】WO2010/040711
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】