説明

ポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置及びセパレーター

【課題】均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能なポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造するポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法であって、30℃〜100℃の範囲内にある所定の第1温度で、ポリオレフィンを含有するポリマー溶液を作製する過程と、前記ポリマー溶液の温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第2温度に維持しながら前記ポリマー溶液をノズルに供給する過程と、ノズルの温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第3温度に維持しながら前記ポリマー溶液を前記ノズルから吐出することにより前記ポリオレフィン製ナノ繊維不織布を電界紡糸する過程とを含むポリオレフィン製ナノ繊維不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置及びセパレーターに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性ポリオレフィンフィルムは、薄膜化(例えば20μm〜40μm)が容易で、化学的安定性及び機械的強度が高く、適切な伸度及び弾性率を有し、さらには一定の温度域(例えば140℃〜160℃)で溶融・閉孔して電流を遮断する特性を有するため、例えばリチウムイオン二次電池やキャパシターのセパレーターとして広く用いられている。
【0003】
ところで、多孔性ポリオレフィンフィルムの空隙率を従来より高くすることができれば、セパレーターのイオン伝導性をより一層高くすることが可能となり、ひいてはリチウムイオン二次電池やキャパシターの性能をより一層高くすることができると考えられる。しかしながら、多孔性ポリオレフィンフィルムは、相分離法又は延伸開孔法により製造されたものであるため、空隙率をより一層高くすることが容易ではない。
【0004】
そこで、リチウムイオン二次電池やキャパシターのセパレーターとして、多孔性ポリオレフィンフィルムの代わりにポリオレフィン製ナノ繊維からなる不織布(以下、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布という。)を用いることが考えられる。ポリオレフィン製ナノ繊維不織布は、ポリオレフィン製ナノ繊維からなるため上記した多孔性ポリオレフィンフィルムと同様の特性を有するのに加えて、上記した多孔性ポリオレフィンフィルムよりも空隙率を高くすることができると考えられるからである。
【0005】
図8は、このようなポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造することができるポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法を説明するために示す図である(例えば、特許文献1参照。)。図8中、符号932はノズルを示し、符号940はコレクターを示し、符号950は電源装置を示し、符号970は原料タンクを示す。
【0006】
従来のポリオレフィン製ナノ繊維の製造方法は、図8に示すように、加熱装置974を備えるポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置を用いてポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造するものであるため、ポリオレフィンを例えば50℃〜100℃で加熱して多成分溶媒に完全に溶解させて均一なポリマー溶液を作製し、当該均一なポリマー溶液を用いて電界紡糸を行いポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造するというものである。
【0007】
従来のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によれば、元来溶媒に対する溶解性が低いポリオレフィンを原材料として用いながらも、均一なポリマー溶液を用いて電界紡糸を行うことが可能となるため、上記した優れた特性を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造することが可能となる。
【0008】
なお、本発明における「セパレーター」は、非導電性のセパレーターのことをいう。また、本発明において、ナノ繊維とは、平均径が数nm〜数千nmの繊維のことをいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2009−517554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明の発明者らの研究により、従来のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法においては、時間の経過とともにポリマー溶液の粘度が高くなってノズルからのポリマー溶液の吐出量が徐々に低下してしまい、これに起因して均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが困難となるという問題があることが分かった。
【0011】
なお、このような問題は、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布をセパレーターとして用いる場合だけに存在する問題ではなく、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布をセパレーター以外の用途に用いる場合にも存在する問題である。また、このような問題は、ポリオレフィンのみを含有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造する場合だけに存在する問題ではなく、ポリオレフィンに加えてポリオレフィン以外のポリマーを含有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造する場合にも存在する問題である。
【0012】
そこで、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能なポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法を提供することを目的とする。また、上記のようなポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法を実施可能なポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置を提供することを目的とする。さらにまた、上記のようなポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法により製造されるポリオレフィン製ナノ繊維不織布からなるセパレーターを提供することを目的とする。なお、本発明において、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布とは、ポリオレフィンのみを含有するナノ繊維不織布のみならず、ポリオレフィンに加えてポリオレフィン以外のポリマーを含有するナノ繊維不織布をも含むものとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法は、電界紡糸法によりポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造するポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法であって、30℃〜100℃の範囲内にある所定の第1温度で、ポリオレフィンを含有するポリマー溶液を作製する第1過程と、前記ポリマー溶液の温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第2温度に維持しながら前記ポリマー溶液をノズルに供給する第2過程と、前記ノズルの温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第3温度に維持しながら前記ポリマー溶液を前記ノズルから吐出することにより、前記ポリオレフィン製ナノ繊維不織布を作製する第3過程とを含むことを特徴とする。
【0014】
このため、本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によれば、30℃〜100℃の範囲内にある所定の第1温度で、ポリオレフィンを含有するポリマー溶液を作製する第1過程を含むため、従来のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法の場合と同様に、元来溶媒に対する溶解性が低いポリオレフィンを原材料として用いながらも、均一なポリマー溶液を用いて電界紡糸を行うことが可能となるため、上記した優れた特性を有するポリオレフィン製ナノ繊維を製造することが可能となる。
【0015】
また、本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によれば、ポリマー溶液の温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第2温度に維持しながらポリマー溶液をノズルに供給する第2過程と、ノズルの温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第3温度に維持しながらポリマー溶液をノズルから吐出することによりポリオレフィン製ナノ繊維不織布を電界紡糸する第3過程とを含むため、時間が経過してもポリマー溶液の粘度が高くなることがなくなり、ノズルからのポリマー溶液の吐出量が徐々に低下してしまうこともなくなる。このため、均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能となる。
【0016】
なお、第1温度を30℃〜100℃の範囲内としたのは、第1温度が30℃未満の場合には、ポリオレフィンを溶媒に完全に溶解するのが困難となる場合があるからであり、第1温度が100℃を超える場合には、溶媒の蒸発量が大きくなりすぎてポリマー溶液中のポリオレフィンの濃度を一定に維持するのが困難となる場合があるからである。この観点から言えば、第1温度を50℃〜90℃の範囲内とすることがより一層好ましい。
【0017】
また、第2温度及び第3温度を30℃〜100℃の範囲内としたのは、第2温度及び第3温度が30℃未満の場合には、時間の経過とともにポリマー溶液が不均一化してポリマー溶液の粘度が高くなり過ぎる場合があるからであり、第2温度及び第3温度が100℃を超える場合には、溶媒の蒸発量が大きくなりすぎてポリマー溶液中のポリオレフィンの濃度を一定に維持するのが困難となる場合があるからである。この観点から言えば、第2温度及び第3温度を50℃〜90℃の範囲内とすることがより一層好ましい。
【0018】
[2]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法においては、前記ポリオレフィン製ナノ繊維不織布は、ポリマー成分としてポリオレフィンのみを含有することが好ましい。
【0019】
このように、本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法は、ポリマー成分としてポリオレフィンのみを含有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造する場合に適用可能である。
【0020】
[3]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法においては、前記ポリオレフィン製ナノ繊維不織布は、ポリマー成分としてポリオレフィンに加えてポリオレフィン以外のポリマーをも含有することが好ましい。
【0021】
このように、本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法は、ポリマー成分としてポリオレフィンに加えてポリオレフィン以外のポリマーをも含有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造する場合にも適用可能である。
【0022】
[4]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置は、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造するためのポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置であって、コレクターと、前記コレクターに対向する位置に位置しポリマー溶液を吐出する複数のノズルを有するノズルユニットと、前記コレクターと前記複数のノズルとの間に高電圧を印加する電源装置と、前記ポリマー溶液を貯蔵する原料タンクと、前記原料タンクから前記ノズルユニットに至るポリマー溶液供給経路と、前記ノズルユニット、前記原料タンク及び前記ポリマー溶液供給経路のそれぞれを30℃〜100℃の範囲内にある所定の温度に保温する保温装置とを備えることを特徴とする。
【0023】
このため、本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置によれば、ノズルユニット、原料タンク及びポリマー溶液供給経路のそれぞれを30℃〜100℃の範囲内にある所定の温度に保温する保温装置とを備えるため、時間が経過してもポリマー溶液の粘度が高くなることがなくなり、ノズルからのポリマー溶液の吐出量が徐々に低下してしまうこともなくなる。このため、均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能となる。
【0024】
[5]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置においては、前記保温装置は、電熱ヒーターからなることが好ましい。
【0025】
このような構成とすることにより、ノズルユニット、原料タンク及びポリマー溶液供給経路のそれぞれを30℃〜100℃の範囲内にある所定の温度に保温することが可能となる。この場合、ノズルユニットの温度、原料タンクの温度及びポリマー溶液供給経路の温度のそれぞれを、容易に、かつ、独立に制御することができる。
【0026】
[6]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置においては、前記保温装置は、温水循環装置からなることが好ましい。
【0027】
このような構成とすることによっても、ノズルユニット、原料タンク及びポリマー溶液供給経路のそれぞれを30℃〜100℃の範囲内にある所定の温度に保温することが可能となる。この場合、ノズルユニットの温度、原料タンクの温度及びポリマー溶液供給経路の温度の時間的変動を小さなものにすることができる。
【0028】
[7]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置においては、前記保温装置は、温風循環装置からなることが好ましい。
【0029】
このような構成とすることによっても、ノズルユニット、原料タンク及びポリマー溶液供給経路のそれぞれを30℃〜100℃の範囲内にある所定の温度に保温することが可能となる。
【0030】
[8]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置においては、前記電源装置は、正電極及び負電極のうち一方の電極が前記コレクターに接続され、正電極及び負電極のうち他方の電極が前記ノズルユニットに接続されるとともに当該他方の電極の電位が接地電位となるように、前記電源装置が前記コレクターと前記ノズルユニットとに接続されていることが好ましい。
【0031】
このような構成とすることにより、ノズルユニットをはじめとして「ノズルから吐出される前のポリマー溶液」、原料タンク、ポリマー溶液供給経路(例えば、配管や送りポンプなど。)のすべてが接地電位となるため、原料タンクやポリマー溶液供給経路を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。従って、原料タンクやポリマー溶液供給経路を高耐電圧仕様にものにすることに起因してポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置の機構が複雑化することがなくなる。
【0032】
また、比較的単純な形状・構造にすることが可能なコレクターに高電圧を印加するとともに、比較的複雑な形状・構造を有するノズルユニットを接地した状態で電界紡糸することができるため、望ましくない放電や電圧降下を起こし難くなり、常に安定した条件の下で電界紡糸することが可能となる。
【0033】
[9]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置においては、前記電界紡糸装置は、前記複数のノズルとして、前記ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する複数の上向きノズルを有することが好ましい。
【0034】
このような構成とすることにより、従来の下向きノズルを用いたポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置の場合に見られるようなドロップレット現象(下向きノズルから紡糸されなかったポリマー溶液の塊がそのまま基材層等に付着する現象)が発生することがなく、高品質なポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造することが可能となる。
【0035】
[10]本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置においては、前記コレクターに対向する位置に位置しポリオレフィンを含まない第2ポリマー溶液を吐出する複数のノズルを有する第2ノズルユニットと、前記第2ポリマー溶液を貯蔵する第2原料タンクと、前記第2原料タンクから前記第2ノズルユニットに至る第2ポリマー溶液供給経路とを備え、前記保温装置は、前記ノズルユニット、前記第2ノズルユニット、前記原料タンク、前記第2原料タンク、前記ポリマー溶液供給経路及び前記第2ポリマー溶液供給経路のうち、前記ノズルユニット、前記原料タンク及び前記ポリマー溶液供給経路のみを保温するように構成されていることが好ましい。
【0036】
このような構成とすることによって、常温でポリマー溶液を作製することが可能な第2ポリマー溶液については、ポリマー溶液を作製したり、ポリマー溶液をノズルに供給したり、ポリマー溶液をノズルから吐出することによりナノ繊維不織布を作製したりする過程を常温で行うことが可能となるため、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布とポリオレフィンを含まないナノ繊維不織布とをそれぞれ適切な方法にて作製することが可能となる。
【0037】
本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法又はポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置により製造されるポリオレフィン製ナノ繊維不織布は、二次電池のセパレーター、コンデンサーのセパレーター、各種触媒の担体、各種センサー材料などの電子・機械材料、ワイピングクロス、フィルターなど産業資材、再生医療材料、バイオメディカル材料、医療用MEMS材料、バイオセンサー材料などの医療材料、高機能・高感性テキスタイルなどの衣料品、ヘルスケア、スキンケアなど美容関連用品その他の幅広い用途に使用可能である。
【0038】
[11]本発明のセパレーターは、本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によって製造されたポリオレフィン製ナノ繊維不織布からなることを特徴とする。
【0039】
このため、本発明のセパレーターは、薄膜化(例えば20μm〜40μm)が容易で、化学的安定性及び機械的強度が高く、適切な伸度及び弾性率を有し、さらには一定の温度域(例えば140℃〜160℃)で溶融・閉孔して電流を遮断する特性を有するうえ、高い空隙率ひいては高いイオン伝導性を有する、優れたセパレーターとなる。
【0040】
[12]本発明のセパレーターは、本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によって製造されたポリオレフィン製ナノ繊維不織布を備えることを特徴とする。
【0041】
このため、本発明のセパレーターは、薄膜化(例えば20μm〜40μm)が容易で、化学的安定性及び機械的強度が高く、適切な伸度及び弾性率を有し、さらには一定の温度域(例えば140℃〜160℃)で溶融・閉孔して電流を遮断する特性を有するうえ、高い空隙率ひいては高いイオン伝導性を有するセパレーターとなる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の断面図である。
【図2】実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によってセパレーター200が製造されていく様子を示す図である。
【図3】実施形態2に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置2の断面図である。
【図4】実施形態3に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置3の断面図である。
【図5】実施形態4に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置4の断面図である。
【図6】実施形態5に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置5の断面図である。
【図7】実施形態5に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によってセパレーター202が製造されていく様子を示す図である。
【図8】従来のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置900を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置及びセパレーターについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0044】
[実施形態1]
1.ポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置
図1は、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の断面図である。実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1は、図1に示すように、長尺シートWを搬送する搬送装置10と、電界紡糸装置20と、原料タンク70と、ポリマー溶液供給経路80と、保温装置100とを備える。
【0045】
搬送装置10は、長尺シートWを繰り出す繰り出しローラー11及び長尺シートWを巻き取る巻き取りローラー12並びに繰り出しローラー11と巻き取りローラー12との間に位置する補助ローラー13,14を備える。繰り出しローラー11、巻き取りローラー12は、図示しない駆動モーターにより回転駆動される構造となっている。
【0046】
電界紡糸装置20は、図1に示すように、下方から長尺シートWにポリオレフィンを含むナノ繊維を堆積させる。以下、電界紡糸装置20の構成について詳しく説明する。
【0047】
電界紡糸装置20は、図1に示すように、導電体からなる筐体44と、複数の上向きノズル32を有するノズルユニット30と、コレクター40と、電源装置50と、補助ベルト装置60とを備える。
【0048】
本発明のセパレーター製造装置には様々な大きさ及び様々な形状を有するノズルユニットを用いることができるが、ノズルユニット30は、上面から見たときに一辺が0.5m〜3mの長方形(正方形を含む)に見える大きさで、ブロック状の形状を有する。
【0049】
複数の上向きノズル32は、後述するポリマー溶液供給経路80から供給されるポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出するノズルである。複数の上向きノズル32を構成する材料としては、導電体を用いることができ、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム等を用いることができる。
【0050】
複数の上向きノズル32は、例えば、1.5cm〜6.0cmのピッチで配列されている。複数の上向きノズル32の数は、例えば、36個(縦横同数に配列した場合、6個×6個)〜21904個(縦横同数に配列した場合、148個×148個)とすることができる。
【0051】
コレクター40は、ノズルユニット30よりも上方に配置されている。コレクター40は導電体からなり、図1に示すように、絶縁部材42を介して筐体44に取り付けられている。
【0052】
電源装置50は、複数の上向きノズル32と、コレクター40との間に高電圧を印加する。電源装置50の正極はコレクター40に接続され、電源装置50の負極はノズルユニット30及び筐体44に接続されている。
【0053】
補助ベルト装置60は、長尺シートWの搬送速度に同期して回転する補助ベルト62と、補助ベルト62の回転を助ける5つの補助ベルト用ローラー64とを有する。5つの補助ベルト用ローラー64のうち1つ又は2つ以上の補助ベルト用ローラーが駆動ローラーであり、残りの補助ベルト用ローラーが従動ローラーである。コレクター40と長尺シートWとの間に補助ベルト62が配設されているため、長尺シートWは、正の高電圧が印加されているコレクター40に引き寄せられることなくスムーズに搬送されるようになる。
【0054】
原料タンク70は、ポリオレフィン製ナノ繊維の原料となるポリオレフィンを含むポリマー溶液を貯蔵する。原料タンク70は、ポリマー溶液の分離や凝固を防ぐための撹拌装置72を有する。原料タンク70には、ポリマー溶液経路装置80のパイプ82が接続されている。
【0055】
ポリマー溶液供給経路80は、ポリマー溶液を通過させるパイプ82と、供給動作を制御するバルブ84からなり、原料タンク70に貯蔵されたポリマー溶液をノズルユニット30に供給する。
【0056】
保温装置100は、図1に示すように、電熱ヒーター102,104,106を備える。電熱ヒーター102は、原料タンク70の側面側に設置されている。電熱ヒーター102の出力を制御することにより、原料タンク70を30℃〜100℃の所定の第1温度に保温する。電熱ヒーター104は、ポリマー溶液供給経路80を覆うように設置されている。電熱ヒーター104の出力を制御することにより、ポリマー溶液供給経路80を30℃〜100℃の所定の第2温度に保温する。電熱ヒーター106は、ノズルユニット30の下方に設置されている。電熱ヒーター106の出力を制御することにより、ノズルユニット30を30℃〜100℃の所定の第3温度に保温する。保温装置100は、原料タンク70、ポリマー溶液供給経路80及びノズルユニット30を覆う保温ジャケットを備える。
【0057】
2.ポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法
図2は、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によってセパレーター200が製造されていく様子を示す図である。
実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法は、以下の第1過程〜第3過程を含む。以下、各過程に沿って、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法を説明する。
【0058】
1.第1過程
第1過程は、30℃〜100℃の範囲内にある所定の第1温度で、ポリオレフィンを含有するポリマー溶液を作製する過程である。具体的には、ポリオレフィンを含むポリマー材料及び多成分溶媒を原料タンク70に投入し、原料タンク70を電熱ヒーター102により30℃〜100℃の範囲内にある所定の第1温度に保温しながらこれらを撹拌することにより、ポリマー材料を多成分溶媒に完全に溶解させて粘度が低く均一なポリマー溶液を作製する。第1温度は、ポリマー材料及び使用する溶媒の種類や分量に応じて設定する。
【0059】
2.第2過程
第2過程は、ポリマー溶液の温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第2温度に維持しながらポリマー溶液を複数の上向きノズル32に供給する過程である。具体的には、電熱ヒーター104によってポリマー溶液供給経路80を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第2温度に保温した状態で、第1過程で作製したポリマー溶液をポリマー溶液供給経路80を介してノズルユニット30へ供給する。第2温度は、ポリマー材料及び使用する溶媒の種類や分量に応じて設定する。
【0060】
3.電界紡糸工程
第3過程は、複数の上向きノズル32の温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第3温度に維持しながらポリマー溶液をノズルから吐出することにより、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布を作製する過程である。具体的には、まず、長尺シートWを搬送装置10にセットし、その後、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度で搬送させる。その後、電熱ヒーター106によってノズルユニット30を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第3温度に保温した状態で、ノズルユニット30に供給されたポリマー溶液を複数の上向きノズル32の吐出口から長尺シートWに向かって上向きに吐出する。第3保温温度は、ポリマー材料及び使用する溶媒の種類や分量に応じて設定する。
【0061】
これにより、図2に示すように、長尺シートWの一方の面上にポリオレフィン製ナノ繊維が堆積し、長尺シートWの一方の面上にポリオレフィン製ナノ繊維不織布210を作製することができる(図2(a)及び図2(b)参照。)。作製したポリオレフィン製ナノ繊維不織布210は、セパレーター200としてそのまま使用することができる(図2(c)参照。)。
【0062】
以下に、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法における紡糸条件を例示的に示す。
【0063】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ‐1‐ブテン(PB)、ポリ‐1‐ペンテン、ポリ‐1‐ヘキセン、ポリ(3‐メチル‐1‐ブテン)、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)(PMP)、ポリ(4‐メチル‐1‐ヘキセン)、ポリ(5‐メチル‐1‐ヘプテン)等を使用することができる。
【0064】
溶媒としては、HFIP、ジクロロメタン、ジメチルアセトアミド、クロロホルム、キシレン、メチルシクロヘキサン、アセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4‐ジオキサン、プロパノール、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸;N,N‐ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N‐ジメチルアセトアミド(DMAc)、1‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、アセトニトリル(AN)、N‐メチルモルホリン‐N‐オキシド、炭酸ブチレン(BC)、1,4‐ブチロラクトン(BL)、炭酸ジエチル(DEC)、ジエチルエーテル(DEE)、1,2‐ジメトキシエタン(DME)、1,3‐ジメチル‐2‐イミダゾリジノン(DMI)、1,3‐ジオキソラン(DOL)、炭酸エチルメチル(EMC)、ギ酸メチル(MF)、3‐メチルオキサゾリジン‐2‐オン(MO)、プロピオン酸メチル(MP)、2‐メチルテトラヒドロフラン(MeTHF)またはスルホラン(SL)を用いることができる。
【0065】
長尺シートWとしては、各種材料からなる不織布、織物、編物、フィルム、シート、紙などを用いることができる。長尺シートWの厚さは、例えば5μm〜500μmのものを用いることができる。長尺シートWの長さは、例えば10m〜10kmのものを用いることができる。
【0066】
搬送速度は、例えば0.2m/分〜100m/分に設定することができる。コレクター40とノズルユニット30とに印加する電圧は、10kV〜80kVに設定することができる。
【0067】
紡糸区域の温度は、ノズルユニット30の近傍を除き、例えば10℃〜40℃に設定することができる。また、紡糸区域の湿度は、例えば20%〜60%に設定することができる。
【0068】
3.ポリオレフィン製ナノ繊維の製造方法の効果
実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によれば、30℃〜100℃の範囲内にある所定の第1温度で、ポリオレフィンを含有するポリマー溶液を作製する第1過程を含むため、従来のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法の場合と同様に、元来溶媒に対する溶解性が低いポリオレフィンを原材料として用いながらも、均一なポリマー溶液を用いて電界紡糸を行うことが可能となるため、上記した優れた特性を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造することが可能となる。
【0069】
また、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によれば、ポリマー溶液の温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第2温度に維持しながらポリマー溶液を複数の上向きノズル32へ供給する第2過程と、複数の上向きノズル32の温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第3温度に維持しながらポリマー溶液をノズルから吐出することによりポリオレフィン製ナノ繊維不織布を電界紡糸する第3過程とを含むため、時間が経過してもポリマー溶液の粘度が高くなることがなくなり、ノズルからのポリマー溶液の吐出量が徐々に低下してしまうこともなくなる。このため、均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能となる。
【0070】
4.ポリオレフィン製ナノ繊維製造装置の効果
実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1によれば、ノズルユニット30、原料タンク70及びポリマー溶液供給経路80のそれぞれを30℃〜100℃の範囲内にある所定の温度に保温する保温装置100を備えるため、時間が経過してもポリマー溶液の粘度が高くなることがなくなり、ノズルからのポリマー溶液の吐出量が徐々に低下してしまうこともなくなる。このため、均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能となる。
【0071】
また、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1によれば、保温装置100が電熱ヒーターからなるため、ノズルユニット30の温度、原料タンク70の温度及びポリマー溶液供給経路80の温度のそれぞれを、容易に、かつ、独立に制御することができる。
【0072】
また、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1によれば、電源装置50の正電極がコレクター40に接続され、負電極がノズルユニット30に接続されるとともに当該負電極の電位が接地電位となるように、電源装置50がコレクター40とノズルユニット30とに接続されているため、ノズルユニット30をはじめとして「上向きノズル32から吐出される前のポリマー溶液」、原料タンク70、ポリマー溶液供給経路80(例えば、配管や送りポンプなど。)のすべてが接地電位となるため、原料タンク70やポリマー溶液供給経路80を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。従って、原料タンク70やポリマー溶液供給経路80を高耐電圧仕様にものにすることに起因してポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置の機構が複雑化することがなくなる。
【0073】
また、比較的単純な形状・構造にすることが可能なコレクター40に高電圧を印加するとともに、比較的複雑な形状・構造を有するノズルユニット30を接地した状態で電界紡糸することができるため、望ましくない放電や電圧降下を起こし難くなり、常に安定した条件の下で電界紡糸することが可能となる。
【0074】
実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1においては、電界紡糸装置20が、複数の上向きノズル32として、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する複数の上向きノズルを有するため、従来の下向きノズルを用いたポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置900の場合に見られるようなドロップレット現象(下向きノズルから紡糸されなかったポリマー溶液の塊がそのまま基材層等に付着する現象)が発生することがなく、高品質なポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造することが可能となる。
【0075】
[実施形態2]
図3は、実施形態2に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置2の断面図である。
実施形態2に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置2は、基本的には実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1と同様の構成を有するが、保温装置の構成が実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と異なる。すなわち、実施形態2に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置2は、図3に示すように、電熱ヒーター102,104,106からなる保温装置100の代わりに、温水循環装置からなる保温装置110を備える。
【0076】
保温装置110は、温水タンク112と、加熱器114と、温水パイプ116とを備える。温水タンク112は加熱器114により加熱された温水を貯蔵する。そして、温水は温水パイプ116を循環する過程で、原料タンク70、ポリマー溶液供給経路80及びノズルユニット30を暖め、これにより原料タンク70、ポリマー溶液供給経路80及びノズルユニット30は、30℃〜100℃の間の所定の第1温度、第2温度及び第3温度にそれぞれ保温される。
【0077】
このように、実施形態2に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置2は、保温装置の構成が実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と異なるが、ノズルユニット30、原料タンク70及びポリマー溶液供給経路80を保温する保温装置110を備えるため、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と同様に、時間が経過してもポリマー溶液の粘度が高くなることがなくなり、ノズルからのポリマー溶液の吐出量が徐々に低下してしまうこともなくなる。このため、均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能となる。
【0078】
なお、実施形態2に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置2は、保温装置の構成以外の点では実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1と同様の構成を有するため、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0079】
[実施形態3]
図4は、実施形態3に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置3の断面図である。
実施形態3に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置3は、基本的には実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1と同様の構成を有するが、保温装置の構成が実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と異なる。すなわち、実施形態3に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置3は、図4に示すように、電熱ヒーター102,104,106からなる保温装置100の代わりに、温風循環装置からなる保温装置120を備える。
【0080】
保温装置120は、温風発生装置122と、温風供給経路124とを備える。
保温装置120は、温風発生装置122によって発生させた温風が原料タンク70、ポリマー溶液供給経路80及びノズルユニット30を覆う温風供給経路124を循環する過程で、原料タンク70、ポリマー溶液供給経路80及びノズルユニット30を暖め、これにより原料タンク70、ポリマー溶液供給経路80及びノズルユニット30は、30℃〜100℃の間の所定の第1温度、第2温度及び第3温度にそれぞれ保温される。
【0081】
このように、実施形態3に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置3は、保温装置の構成が実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と異なるが、ノズルユニット30、原料タンク70及びポリマー溶液供給経路80を保温する保温装置120を備えるため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様に、時間が経過してもポリマー溶液の粘度が高くなることがなくなり、ノズルからのポリマー溶液の吐出量が徐々に低下してしまうこともなくなる。このため、均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能となる。
【0082】
なお、実施形態3に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置3は、保温装置の構成以外の点では実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1と同様の構成を有するため、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0083】
[実施形態4]
図5は、実施形態4に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置4の断面図である。
実施形態4に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置4は、基本的には実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1と同様の構成を有するが、原料タンクの配置位置が実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と異なる。すなわち、実施形態4に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置4においては、図5に示すように、ノズルユニット30の下方の空間に原料タンク70が配置されている。また、これに対応して、ノズルユニット80の下方の空間に、ポリマー溶液供給経路80及び保温装置130が配置されている。保温装置130は、電熱ヒーター132,134を備える。
【0084】
このように、実施形態4に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置4は、原料タンク70の配位位置が実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と異なるが、ノズルユニット30、原料タンク70及びポリマー溶液供給経路80を保温する保温装置130を備えるため、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と同様に、時間が経過してもポリマー溶液の粘度が高くなることがなくなり、ノズルからのポリマー溶液の吐出量が徐々に低下してしまうこともなくなる。このため、均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能となる。
【0085】
なお、実施形態4に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置4は、原料タンク70の配置位置以外の点では実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と同様の構成を有するため、実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0086】
[実施形態5]
図6は、実施形態5に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置5を説明するために示す図である。図7は、実施形態5に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によってセパレーター202が製造されていく様子を示す図である。
【0087】
実施形態5に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置5は、基本的には実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1と同様の構成を有するが、図6に示すように、ポリオレフィンを含まない第2ポリマー溶液を吐出するための複数のノズル32aを有する第2ノズルユニット30aと、第2ポリマー溶液を貯蔵する第2原料タンク70aと、第2原料タンク70aから第2ノズルユニット30aに至る第2ポリマー溶液供給経路80aとを備える点及び保温装置130が、ノズルユニット30、原料タンク70及びポリマー溶液供給経路80のみを保温するように構成されている点で実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1とは異なる。
【0088】
このため、実施形態5に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置5によれば、ノズル32からポリオレフィンを含有するポリマー溶液を吐出させて長尺シートW上にポリオレフィン製ナノ繊維不織布210を作製し(図7(a)及び図7(b)参照。)、その後、ノズル32aからポリオレフィンを含有しないポリマー溶液を吐出させてポリオレフィンを含有しないナノ繊維不織布220を作製することにより、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布210とポリオレフィンを含有しないナノ繊維不織布220とが積層されたナノ繊維不織布を作製することが可能となる(図7(c)参照。)。作製した「ポリオレフィン製ナノ繊維不織布とポリオレフィンを含有しないナノ繊維不織布とが積層されたナノ繊維不織布」は、セパレーター202としてそのまま使用することができる(図7(d)参照。)。
【0089】
このように、実施形態5に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置5は、ポリオレフィンを含まない第2ポリマー溶液を吐出する複数のノズル32aを有する第2ノズルユニット30aと、第2ポリマー溶液を貯蔵する第2原料タンク70aと、第2原料タンク70aから第2ノズルユニット30aに至る第2ポリマー溶液供給経路80aとを備える点及び保温装置130がノズルユニット30、原料タンク70及びポリマー溶液供給経路80のみを保温するように構成されている点で実施形態1に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置1の場合と異なるが、ノズルユニット30、原料タンク70及びポリマー溶液供給経路80を保温する保温装置130を備えるため、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の場合と同様に、ポリオレフィンを含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸する際には、時間が経過してもポリマー溶液の粘度が高くなることがなくなり、ノズルからのポリマー溶液の吐出量が徐々に低下してしまうこともなくなる。このため、均一な品質を有するポリオレフィン製ナノ繊維不織布を安定して大量生産することが可能となる。
【0090】
また、実施形態5に係るポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置5によれば、ポリオレフィン製ナノ繊維不織布とポリオレフィンを含有しないナノ繊維不織布とが積層されたナノ繊維不織布を製造することが可能となる。
【0091】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0092】
(1)上記実施形態1においては、原料タンク70、ポリマー溶液供給経路80及びノズルユニット30のそれぞれを別個の電熱ヒーター102,104,106を用いて保温しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、原料タンク、ポリマー溶液供給経路及びノズルユニットを1つの保温ジャケットで覆うとともに1つの電熱ヒーターを用いて保温ジャケット内の空間全体を保温してもよい。
【0093】
(2)上記各実施形態においては、上向きノズルを有する上向き式電界紡糸装置を用いて本発明のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、下向きノズルを有する下向き式電界紡糸装置や横向きノズルを有する横向き式電界紡糸装置を備えるポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0094】
1,2,3,4,5…ポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置、10…搬送装置、11…繰り出しローラー、12…巻き取りローラー、13,14…補助ローラー、20,20a、20b…電界紡糸装置、30,30a…ノズルユニット、32,32a、932…ノズル、40,940…コレクター、42…絶縁部材、44…筐体、50,950…電源装置、60…補助ベルト装置、62…補助ベルト、64…補助ベルト用ローラー、70,970…原料タンク、70a…第2原料タンク、72,72a…撹拌装置、80…ポリマー溶液供給経路、80a…第2ポリマー溶液供給経路、82,82a…パイプ、84,84a…バルブ、100,110,120,130…保温装置、102,104,106,132,134…電熱ヒーター、112…温水タンク、114…加熱器、116…温水パイプ、122…温風発生装置、124…温風供給経路、974…加熱装置、W…長尺シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界紡糸法によりポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造するポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法であって、
30℃〜100℃の範囲内にある所定の第1温度で、ポリオレフィンを含有するポリマー溶液を作製する第1過程と、
前記ポリマー溶液の温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第2温度に維持しながら前記ポリマー溶液をノズルに供給する第2過程と、
前記ノズルの温度を30℃〜100℃の範囲内にある所定の第3温度に維持しながら前記ポリマー溶液を前記ノズルから吐出することにより、前記ポリオレフィン製ナノ繊維不織布を作製する第3過程とを含むことを特徴とするポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法において、
前記ポリオレフィン製ナノ繊維不織布は、ポリマー成分としてポリオレフィンのみを含有することを特徴とするポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法において、
前記ポリオレフィン製ナノ繊維不織布は、ポリマー成分としてポリオレフィンに加えてポリオレフィン以外のポリマーをも含有することを特徴とするポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィン製ナノ繊維不織布を製造するためのポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置であって、
コレクターと、
前記コレクターに対向する位置に位置しポリマー溶液を吐出する複数のノズルを有するノズルユニットと、
前記コレクターと前記複数のノズルとの間に高電圧を印加する電源装置と、
前記ポリマー溶液を貯蔵する原料タンクと、
前記原料タンクから前記ノズルユニットに至るポリマー溶液供給経路と、
前記ノズルユニット、前記原料タンク及び前記ポリマー溶液供給経路のそれぞれを30℃〜100℃の範囲内にある所定の温度に保温する保温装置とを備えることを特徴とするポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置において、
前記保温装置は、電熱ヒーターからなることを特徴とするポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置。
【請求項6】
請求項4に記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置において、
前記保温装置は、温水循環装置からなることを特徴とするポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置。
【請求項7】
請求項4に記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置において、
前記保温装置は、温風循環装置からなることを特徴とするポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれかに記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置において、
前記電源装置は、正電極及び負電極のうち一方の電極が前記コレクターに接続され、正電極及び負電極のうち他方の電極が前記ノズルユニットに接続されるとともに当該他方の電極の電位が接地電位となるように、前記電源装置が前記コレクターと前記ノズルユニットとに接続されていることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項9】
請求項4〜8のいずれかに記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置において、
前記電界紡糸装置は、前記複数のノズルとして、前記ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する複数の上向きノズルを有することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれかに記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置において、
前記コレクターに対向する位置に位置しポリオレフィンを含まない第2ポリマー溶液を吐出する複数のノズルを有する第2ノズルユニットと、
前記第2ポリマー溶液を貯蔵する第2原料タンクと、
前記第2原料タンクから前記第2ノズルユニットに至る第2ポリマー溶液供給経路とを備え、
前記保温装置は、前記ノズルユニット、前記第2ノズルユニット、前記原料タンク、前記第2原料タンク、前記ポリマー溶液供給経路及び前記第2ポリマー溶液供給経路のうち、前記ノズルユニット、前記原料タンク及び前記ポリマー溶液供給経路のみを保温するように構成されていることを特徴とするポリオレフィン製ナノ繊維不織布製造装置。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によって製造されたポリオレフィン製ナノ繊維不織布からなることを特徴とするセパレーター。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン製ナノ繊維不織布の製造方法によって製造されたポリオレフィン製ナノ繊維不織布を備えることを特徴とするセパレーター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−197527(P2012−197527A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61838(P2011−61838)
【出願日】平成23年3月20日(2011.3.20)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(508231821)トップテック・カンパニー・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】TOPTEC Co., Ltd.
【Fターム(参考)】