説明

ポリオールの測定方法

【課題】本発明は、より迅速且つ精度が向上した特定成分の定量方法および定量キットを提供することを課題とする。
【解決手段】ポリオールを、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素と反応させることによって定量するに際し、特定の界面活性剤の存在下で行うことにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の特定成分、特に生体試料中に含まれる特定成分(ポリオール)を、酵素反応を利用してその濃度を迅速且つ高精度に定量できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の特定成分を定量する方法としては、比色法や電気化学的に定量する方法が知られている。例えば、電気化学的な定量方法であるバイオセンサに関しては、代表的なものとしては、絶縁性の基板上に少なくとも作用極および対極からなる電極系を形成し、この電極系上に、電極系に接して親水性高分子と酸化還元酵素と電子伝達体を含む反応層を形成したものである。
【0003】
このようにして作製されたバイオセンサの反応層に、基質を含む試料液を供給すると、反応層が試料液によって溶解することにより、酵素と基質が反応し、これに伴って電子伝達体が還元され、この還元された電子伝達体を電気化学的に酸化し、得られる酸化電流値から試料液中の基質濃度を定量することができる(例えば、特許文献1)。
【0004】
例えば、ポリオールとしてグリセロールを試料とする場合、以下の方法が知られている。グリセロールは、下記式(1)および式(2)で示されるように、グリセロールキナーゼ(GK)およびグリセロール−3−リン酸オキシダーゼ(GPO)またはグリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)を用いることにより定量することができる。すなわち、下記式において、還元型電子伝達体の増加量を電気化学的に測定することにより、グリセロールを定量することが可能である。
【0005】
【化1】

【0006】
【化2】

【0007】
しかしながら、この方法は高価な2種類の酵素を用いる必要があり、且つ、反応が煩雑であるという問題がある。さらに、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼを用いた場合は、溶存酸素の影響を受けるという問題点がある。また、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた場合は、高価なNADもしくはNADPを添加する必要がある。
【0008】
溶存酸素の影響を受けず、1種類の酵素を用いる方法としては、下記式(3)で示すようにNAD依存性グリセロールデヒドロゲナーゼ(NAD−GDH)を用いる方法が知られている。
【0009】
【化3】

【0010】
しかしながら、この反応もグリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼと同様、高価なNADを添加する必要がある。
【0011】
より安価で簡便にグリセロールを定量する方法としては、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素(以下「PQQ−PDH」とも称する)を用いる方法がある。この方法は、下記式(4)の反応によって行われるため、溶存酸素の影響を受けない、反応が簡便で複数の酵素を用いる必要がない、高価なNADを添加する必要がないなどのメリットがある。
【0012】
【化4】

【0013】
PQQ−PDHの特徴としては、親水性のものが一部知られているが、一般的には膜結合型酵素であるため、水に対する溶解性が低いことが知られている。そのため、PQQ−PDHを定量用試薬として用いる場合には、界面活性剤を加えることが好ましい。特許文献2においては、界面活性剤としてTriton(登録商標)X−100が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第2517153号明細書
【特許文献2】特開2006−271257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、より迅速且つ精度が向上した特定成分の定量方法を提供するためには、さらなる改良が必要と考えられた。
【0016】
そこで、本発明は、より迅速且つ精度が向上した特定成分の定量方法および定量キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、上記課題は、ポリオールを、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素と反応させることによって定量するに際し、特定の界面活性剤の存在下で行うことによって、解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より迅速且つ精度が向上した特定成分の定量方法および定量キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第2の一実施形態であるバイオセンサの一形態を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示すバイオセンサの断面図である。
【図3】本発明の第2の一実施形態であるバイオセンサの一形態を示す分解斜視図である。
【図4】図3に示すバイオセンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<本発明の第1>
本発明の第1は、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸、n−ドデシル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、n−オクチル−β−D−グルコシドおよびn−オクチル−β−D−チオグルコシドからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤および電子伝達体の存在下、ポリオールを、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素と反応させることを含む、ポリオールの定量方法である。
【0021】
<本発明の第2>
本発明の第2は、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、n−ドデシル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸(zwittergent 3−12)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(登録商標 エマルゲンPP290)、n−オクチル−β−D−グルコシドおよびn−オクチル−β−D−チオグルコシドからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、電子伝達体と、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素と、を含む、ポリオールの定量キットである。
【0022】
上記の通り、本発明者らは、より迅速且つ精度が向上した特定成分の定量方法を提供するために、鋭意研究を行った。その過程の中で、ポリオールの定量時に用いる界面活性剤について着目し、詳細に検討した。
【0023】
上記の通り、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素は、膜結合型酵素であり、疎水性が強く、可溶化された酵素の酵素活性を維持するためには、溶液中に界面活性剤が存在することが好ましい。
【0024】
そうであるため、特許文献2においても界面活性剤が好ましく用いられる旨開示されている。しかしながら、従来の文献において、特定の酵素と、特定の界面活性剤の組み合わせによって、酵素反応の速度に影響が及ぼされるとは知られていなかった。
【0025】
そこで、本発明においては、ポリオール(例えば、グリセロール)の定量時に、特定の界面活性剤を用いることによって、特許文献2に開示されるような従来一般的に汎用されている界面活性剤(例えば、登録商標 TritonX−100など)を用いるよりも、反応速度が有意に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0026】
本発明の第1のポリオールの定量方法、本発明の第2の定量キットは、電気化学反応による定量(バイオセンサ)、比色法による定量などのいずれの定量方法、定量キットにも適用することができる。
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明のいくつかの実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0028】
[電気化学反応による定量(バイオセンサ)]
まず、本発明の第1のポリオールの定量方法および本発明の第2のポリオールの定量キットを、電気化学反応による定量(バイオセンサ)を具体例に挙げて説明を行う。
【0029】
図1は、本発明の第2(定量キット)の一実施形態であるバイオセンサの一形態を示す分解斜視図である。図2は、図1のバイオセンサの断面図である。
【0030】
図1、2が示すとおり、絶縁性基板1(本明細書中、単に「基板」とも称する)の上に、作用極2、参照極3および対極4が形成されている。さらに、接着剤6が、絶縁性基板1上の端部に設置される。作用極2、参照極3および対極4は、バイオセンサ外部を電気的に接続するための手段として機能している。作用極2、参照極3および対極4は、例えば、スクリーン印刷・スパッタリング法などの従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせて、所望のパターンの電極を形成することができる。
【0031】
そして、絶縁性基板1上に形成された作用極2、参照極3および対極4には電極を露出するように、絶縁層5が形成されている。絶縁層5は、各電極間の短絡を防止するための絶縁手段として機能する。絶縁層の形成方法についても特に制限はなく、スクリーン印刷法や接着法などの従来公知の手法により形成されうる。
【0032】
また、絶縁層5を挟むように、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1が形成されている。そして、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1上には、反応層10が形成されている。なお、図1では、反応層10と、前記反応層10とカバー7との間に位置する空間部Sと、が試料供給部を形成する。この反応層10は、電子伝達体と、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素(以下、「本発明のポリオール脱水素酵素」とも称する)と、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、n−ドデシル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸(登録商標 zwittergent 3−12)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(登録商標 エマルゲンPP290)、n−オクチル−β−D−グルコシドおよびn−オクチル−β−D−チオグルコシドからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤(以下、「本発明の界面活性剤」とも称する)と、を含む。なお、反応層10は、シクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体の少なくとも一方を含有してもよい。
【0033】
この作用部分(2−1、3−1、4−1)は、バイオセンサの使用時において、反応層10中の試料に電位を印加するための電位印加手段および試料中に流れる電流を検出するための電流検出手段として機能する。なお、作用部分(2−1、3−1、4−1)を含めて作用極2、参照極3および対極4と称する場合もある。作用極2および対極4は、バイオセンサの使用時に一対となって、反応層10中の試料に電位を印加した際に流れる酸化電流(応答電流)を測定するための電流測定手段として機能する。バイオセンサの使用時には、参照極3を基準として、対極4と、作用極2との間に所定の電位が印加される。
【0034】
本形態のバイオセンサは、基板1に設置された接着剤(両面テープ)6を介して反応層10を覆うようにカバー7が接着されることにより構成される。なお、接着剤(両面テープ)6は、電極側に設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよいし、両方に設置してもよい。
【0035】
続いて、図3は、本発明の第2(定量キット)の一実施形態であるバイオセンサの一形態を示す分解斜視図である。図4は、図3のバイオセンサの断面図である。
【0036】
図3、4に示すとおり、基本的な構造は、図1、2で示す形態のバイオセンサと同様であるが、かかるバイオセンサとの相違点は、反応層を2つ(第一の反応層8と、第二の反応層9)設ける点である。この際、第一の反応層8と、第二の反応層9と、前記第一の反応層8と前記第二の反応層9との間に配置される空間部Sと、が試料供給部を形成する。前記第一の反応層8が、本発明のポリオール脱水素酵素および前記電子伝達体の一方を含み、かつ、前記第二の反応層9が他方を含むとよい。なお、便宜的に、カバー7側に形成される方を第一の反応層8と称し、電極側に形成される方を第二の反応層9と称する。なお、第一の反応層8は、両端に接着剤(両面テープ)6aが設置されたカバー7上の両端の隙間に形成されてなる。
【0037】
本形態のバイオセンサは、第二の反応層9が形成されている基板1に接着された接着剤(両面テープ)6bと、第一の反応層8が形成されているカバー7に接着した接着剤(両面テープ)6aと、が互いに張り合わされることにより、構成されてなる。
【0038】
以下、各構成要件を詳説する。なお、上記の通り、図1、2で示されるバイオセンサの構造と、図3、図4で示されるバイオセンサの構造の相違点は、反応層が1つだけであるか、反応層が2つ(第一の反応層8と、第二の反応層9)であるか、である。それ以外の点は同様であるので、特に明記しない限り、下記に記載する構成要件の具体的な説明は、これら2つの形態のバイオセンサにも適用される。また、本発明の実施形態のバイオセンサにおける各構成要件の含有量を説明する際に「1センサ」という用語を用いることがあるが、「1センサ」とは、試料供給部に供給される試料が「0.1〜20μL(好ましくは2μl程度)」であるものを想定している。よって、それよりも小さかったり、大きかったりするバイオセンサにおいては、各構成要件の含有量を適宜調整することによって制御することができる。
【0039】
(絶縁性基板)
本実施形態において使用される絶縁性基板1は、特に制限はなく従来公知のものを使用することができる。一例を挙げると、プラスチック、紙、ガラス、セラミックなどが挙げられる。また、絶縁性基板1の形状やサイズについては、特に制限されない。
【0040】
プラスチックとしても、特に制限はなく従来公知のものを使用することができる。一例を挙げると、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0041】
(電極)
本実施形態で使用される電極は、少なくとも作用極2と対極4を含む。
【0042】
本実施形態の電極は、試料(基質)と、本発明のポリオール脱水素酵素との反応を電気化学的に検出できるものであれば特に制限されず、例えば、カーボン電極、金電極、銀電極、白金電極、パラジウム電極などが挙げられる。耐腐食性およびコストの観点からは、カーボン電極が好ましい。
【0043】
本実施形態においては、作用極2と対極4のみの二電極方式であっても、参照極3をさらに含む三電極方式であってもよい。なお、電位の制御がより高感度で行われるという観点からは、二電極方式よりも三電極方式が好ましく用いられうる。また、その他、液量を感知するための感知電極などを含んでいてもよい。
【0044】
また、試料供給部と接触する部分(作用部分)は、それ以外の電極部分と構成材料が異なってもよい。例えば、参照極3が、カーボンからなっている場合に、参照極作用部分3−1が、銀塩化・銀からなっていてもよい。
【0045】
(絶縁層)
絶縁層5を構成する材料は特に制限されないが、例えば、レジストインク、PETやポリエチレン等の樹脂、ガラス、セラミックス、紙などにより構成されうる。好ましくは、PETである。
【0046】
(試料供給部)
上記の通り、図1、図2で示されるバイオセンサにおいて、試料供給部は、電子伝達体と、本発明のポリオール脱水素酵素と、本発明の界面活性剤と、を含む反応層10を有する。なお、反応層10は、シクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体の少なくとも一方を含んでもよい。
【0047】
図1、図2で示されるバイオセンサのような反応層を1つとする形態においては、簡便にバイオセンサを作製できる点で好ましい。また、大量生産時における製造コストが安くなる点で好ましい。
【0048】
反応層10の厚さにも特に制限はないが、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.05〜40μm、さらに好ましくは0.1〜25μmにするとよい。この際の、厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、滴下する量を適宜調節することにより、制御することができる。
【0049】
一方で、図3、図4で示されるバイオセンサにおいては、前記試料供給部が、電子伝達体と、本発明のポリオール脱水素酵素と、本発明の界面活性剤と、を含む反応層を有し、前記反応層が、電極上に形成される第一の反応層8と、前記第一の反応層8と分離されて形成されてなる第二の反応層9を有する。ここで、前記第一の反応層8が、本発明のポリオール脱水素酵素および電子伝達体の一方を含むと好ましく、かつ、前記第二の反応層が他方を含むと好ましい。また、第一の反応層8、第二の反応層9の少なくとも一方が、シクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体の少なくとも一方を含むと好ましい。第一の反応層8が、本発明のポリオール脱水素酵素および電子伝達体の一方を含み、かつ、前記第二の反応層が他方を含むと、本発明のポリオール脱水素酵素および電子伝達体を別々の反応層に含有させることができるため、電子伝達体と、かかる酸化還元酵素とが接触することによる保存中の劣化を防ぐことができる点で好ましい。
【0050】
また、第一の反応層8、第二の反応層9それぞれの厚さにも特に制限はないが、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.025〜10μm、さらに好ましくは0.05〜8μmにするとよい。ここで、第一の反応層8と、第二の反応層9の厚さは、同じであっても異なってもよい。この際の、厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、滴下する量を適宜調節することにより、制御することができる。なお、第一の反応層8と、第二の反応層9との、離隔距離には特に制限はないが、好ましくは0.05〜1.5mm、より好ましくは0.075〜1.25mm、さらに好ましくは0.1〜1mmである。0.05mm未満である。1.5mmを超えると、毛細管現象が起こりにくく、試料が反応層に吸引されない場合がある。離隔距離は、接着剤の厚みを制御することにより、制御することができる。つまり、接着剤は、第一の反応層8と、第二の反応層9と、を離隔される、スペーサとしての役割をも担う。
【0051】
<酸化還元酵素>
本発明の一実施形態におけるバイオセンサの反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)は、補欠分子族(「補酵素」とも称する)としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素を含む。
【0052】
本発明において、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素は、いずれのポリオールを基質としてもよく、2つ以上のヒドロキシ基を有するアルコール(糖アルコールを含む)であれば、特に制限されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ラクチトールなどの二糖由来アルコール、グリセロールなどのトリオール、エリスリトールなどのテトリトール、アラビトール、キシリトール、リビトールなどのペンチトール、マンニトール、ソルビトールなどのヘキシトール、イノシトールなどのシクリトールなどが挙げられる。中でも好ましくは、グリセロール(ピロロキノリンキノン依存性グリセロール脱水素酵素)、アラビトール(ピロロキノリンキノン依存性アラビトール脱水素酵素)、ソルビトール(ピロロキノリンキノン依存性ソルビトール脱水素酵素)、およびマンニトール(ピロロキノリンキノン依存性マンニトール脱水素酵素)を基質として、より好ましくはグリセロールを基質とする(以下、「PQQ依存性グリセロール脱水素酵素」とも称する)。
【0053】
より具体的に、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素としては、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、マンニトールデヒドロゲナーゼ、アラビトールデヒドロゲナーゼ、ガラクチトールデヒドロゲナーゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、アドニトールデヒドロゲナーゼ、エリスリトールデヒドロゲナーゼ、リビトールデヒドロゲナーゼ、プロピレングリコールデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2−ケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、5ケト−グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2,5−ジケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、環状アルコールデヒドロゲナーゼ、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アミンデヒドロゲナーゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースオキシダーゼなどが挙げられる。
【0054】
PQQ依存性グリセロール脱水素酵素は、試料中のグリセロールを酸化して電子伝達体を還元するという機能を有する補酵素結合型の酸化還元酵素である。ここで、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素は溶液中の電子伝達体のみを反応に使用し、溶存酸素の影響を受けない。したがって、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を用いて還元型の電子伝達体の酸化電流を測定することにより、試料中の中性脂肪濃度がより正確に測定されうる。
【0055】
上記の本発明のポリオール脱水素酵素は、市販の商品を購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。当該酸化還元酵素を自ら調製する手法としては、例えば、当該酸化還元酵素を産生する細菌を、栄養培地に培養し、該培養物から当該酸化還元酵素を抽出する公知の方法が挙げられる(例えば、特開2008−220367号公報参照)。
【0056】
具体的に、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を例に挙げると、当該グリセロールデヒドロゲナーゼを産生する細菌としては、例えば、グルコノバクター属、シュードモナス属など様々な属に属する細菌が挙げられる。特にグルコノバクター属に属する細菌の膜画分に存在するPQQ依存性グリセロール脱水素酵素が好ましく用いられうる。中でも、入手の容易さから、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3130、3171、3172、3189、3244、3250、3253、3255、3256、3257、3258、3285、3287、3289、3290、3291、3292、3293、3294、3462、3990、12467、14819;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii) NBRC 3251、3254、3260、3264、3265、3268、3270、3271、3272、3273、3274、3286、16669;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3262、3263、3266、3267、3269、3275、3276等が用いられうる。このような微生物の代表菌株としては、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3291が挙げられる。
【0057】
上記PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を培養する培地は、使用菌株が資化しうる炭素源、窒素源、無機物、その他必要な栄養素を適量含有するものであれば、合成培地であっても天然培地であってもよい。炭素源としては、例えば、グルコース、グリセロール、ソルビトールなどが使用される。窒素源としては、例えば、ペプトン類、肉エキス、酵母エキスなどの窒素含有天然物や、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどの無機窒素含有物が使用される。無機物としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどが使用される。その他、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。上記の炭素源、窒素源、無機物、およびその他の必要な栄養素は、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0058】
培養は、振とう培養あるいは通気撹拌培養で行うことが好ましい。培養温度は20℃〜50℃、好ましくは22℃〜40℃、最も好ましくは25℃〜35℃である。培養pHは4〜9、好ましくは5〜8である。これら以外の条件下でも、使用する菌株が生育すれば実施される。培養期間は通常0.5〜5日が好ましい。上記培養により、菌体内に酸化還元酵素が蓄積される。なお、これらの酸化還元酵素は、上記培養によって得られた酵素であっても、酸化還元酵素遺伝子を大腸菌等に形質導入して得られた組換え酵素であってもよい。
【0059】
次いで、得られたPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を抽出する。抽出方法は一般に使用される抽出方法を用いることができ、例えば超音波破砕法、フレンチプレス法、有機溶媒法、リゾチーム法などを用いることができる。抽出した酸化還元酵素の精製方法は特に制限されず、例えば、硫安やぼう硝などの塩析法、塩化マグネシウムや塩化カルシウムを用いる金属凝集法、ストレプトマイシンやポリエチレンイミンを用いる除核酸、またはDEAE(ジエチルアミノエチル)−セファロース、CM(カルボキシメチル)−セファロースなどのイオン交換クロマト法などを用いることができる。
【0060】
なお、これらの方法で得られる部分精製酵素や精製酵素液は、そのままの形態で使用しても、または化学修飾された形態で使用してもよい。本発明において、化学修飾された形態の酸化還元酵素を使用する場合には、上記の方法で得られる培養物由来の酸化還元酵素を、例えば、特開2006−271257号公報に記載されるような方法などを用いて適宜化学修飾して使用することができる。なお、化学修飾方法は、上記公報に記載の方法に限定されるものではない。
【0061】
また、本発明のポリオール脱水素酵素の含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、使用する親水性高分子の量や電子伝達体の種類などによって適宜選択することができる。一例を挙げると、例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を使用する場合には、1センサあたり、グリセロールの分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、0.01〜100U、好ましくは0.05〜50U、より好ましくは0.1〜10Uの酵素が反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含まれるとよい。また、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素は、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0062】
なお、図3、4で示されるバイオセンサにおいては、本発明のポリオール脱水素酵素は、第一の反応層8、第二の反応層9のいずれの反応層に含まれてもよいが、好ましくは第二の反応層9に含まれる。ここで、一般的なバイオセンサにおいては、電極に酵素が直接接触しないような構成を採る。それは、酵素はタンパク質から構成されているため、電極表面にそれが付着すると、電極表面が不動態化する虞があるからである。そのような一般的な常識があるため、例えば、図3、4で示されるバイオセンサのように、反応層が2つある形態においては、電極に直接接しない第一の反応層8に本発明のポリオール脱水素酵素を含有させるのが一般と考えられる。しかしながら、図3、4で示されるバイオセンサにおいては、電極に接する側の第二の反応層9に本発明のポリオール脱水素酵素を含有させる。それは、本発明においては、本発明の酸化還元酵素が電極に固着することが有意に防止されているからである。第二の反応層9に本発明のポリオール脱水素酵素を含有させることで電極近傍での、酸化型電子伝達体の還元型電子伝達体への変換効率が高くなる、換言すれば、より試料液中の中性脂肪濃度との相関性が高くなるという利点がある。
【0063】
<電子伝達体>
本実施形態における反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)は、電子伝達体(「電子受容体」と称する場合がある)を含む。
【0064】
電子伝達体は、ポリオールの定量時において、本発明のポリオール脱水素酵素の作用によって生成した電子を受け取る、すなわち還元される。そして、還元された電子伝達体は、酵素反応の終了後に電極への電位の印加によって電気化学的に酸化される。この際に流れる電流(以下、「酸化電流」とも称する)の大きさから、試料中の所望の成分の濃度が算出されうる。なお、後述する比色法による定量は、酸化型電子伝達体、還元型電子伝達体によって、吸収バンドのピークが異なるため、電子伝達体の種類を適宜組み合わせ、吸光度を測定することによって、行うことができる。なお、比色法による定量においては、必要に応じ、発色試薬等を組み合わせてもよい。
【0065】
本発明において使用される電子伝達体としては、従来公知のものを使用することができ、試料や使用する酸化還元酵素に応じて適宜決定できる。なお、電子伝達体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
電子伝達体としては、より具体的には、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム、フェロセンおよびその誘導体、フェナジニウムメチルサルフェートおよびその誘導体、p−ベンゾキノンおよびその誘導体、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、メチレンブルー、ニトロテトラゾリウムブルー、オスミウム錯体、ルテニウム錯体、芳香族ニトロソ化合物および互変異性体の等価オキシムなどを好適に使用することができる。特に好ましくは、フェナジニウムメチルサルフェート、フェナジニウムメチルサルフェート誘導体、フェリシアン化カリウム、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、芳香族ニトロソ化合物および互変異性体の等価オキシムからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0067】
フェナジニウムメチルサルフェート誘導体としても特に制限はないが、5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェートが好ましい。
【0068】
芳香族ニトロソ化合物および互変異性体の等価オキシムとしても特に制限はないが、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)−4−ニトロソアニリン、p−ニトロソアンニリン、p−ベンゾキノン−ジオキシムなどが挙げられる。
【0069】
電子伝達体の含有量については特に制限はなく、試料の添加量などに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、基質となるポリオールに対して十分量を含有させるという観点から、1〜2000μg、好ましくは5〜1000μg、より好ましくは10〜500μgの電子伝達体が含まれるとよい。また、電子伝達体は、後述もするが、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0070】
図3、図4で示されるバイオセンサおいては、電子伝達体は、第一の反応層8、第二の反応層9のいずれの反応層に含まれてもよいが、好ましくは第一の反応層8に含まれる。その理由は、電極に接する第二の反応層9に電子伝達体が存在すると、つまり、電極上に電子伝達体が存在すると、局部電池のような現象が生じ、電子伝達体が自動的に還元されてしまう虞があるからである。よって、より精度の向上されたバイオセンサを提供することを鑑みると、第一の反応層8(つまり、電極と接しない方)に含まれる。
【0071】
<界面活性剤>
本実施形態における反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)は、本発明の界面活性剤を含む。
【0072】
本発明においては、ポリオール(例えば、グリセロール)の定量時に、特定の界面活性剤を用いる。より具体的には、特定の非イオン性界面活性剤または両性界面活性剤を用いる。そのことによって、特許文献2に開示されるような従来一般的に汎用されている界面活性剤(例えば、TritonX−100など)を用いるよりも、反応速度が有意に向上する。
【0073】
本発明の界面活性剤として、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、n−ドデシル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸(登録商標 zwittergent 3−12)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(登録商標 エマルゲンPP290)、n−オクチル−β−D−グルコシドおよびn−オクチル−β−D−チオグルコシドからなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。中でも、反応速度を特に向上させるという観点で、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(登録商標 エマルゲンPP290)が好ましい。
【0074】
これらの界面活性剤は、市販品を購入したり、従来公知の知見を適宜参照して合成したりすることで、得ることができる。
【0075】
図3、図4で示されるバイオセンサにおいては、本発明の界面活性剤は、第一の反応層8、第二の反応層9のいずれの反応層に含まれてもよいし、両方の反応層に含まれてもよいが、好ましくは両方の反応層に含まれる。両方の反応層に含める各界面活性剤の種類は、同一であっても異なるものであってもよい。この際、第一の反応層8、第二の反応層9に含有される各構成要件との相互作用を考慮して選択することが好ましい。
【0076】
本発明の界面活性剤の含有量については特に制限はなく、試料の添加量などに応じて適宜調節されうる。1センサあたり、PQQ依存性PDHの反応性を有意に向上させる観点から、0.01〜100μg、好ましくは0.05〜50μg、より好ましくは0.1〜10μgが含まれるとよい。また、かような界面活性剤は、後述もするが、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0077】
なお、本発明の実施形態のバイオセンサにおいては、その他の成分(シクロデキストリン、シクロデキストリン誘導体、親水性高分子、膨潤性層状粘度鉱物粒子、微粒子など)が、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含まれると好ましい。以下、説明する。
【0078】
<シクロデキストリン・シクロデキストリン誘導体>
本発明の実施形態のバイオセンサにおける反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)は、シクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体の少なくとも一方を含むと好ましい。
【0079】
本発明に用いられるシクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体の種類にも特に制限はない。シクロデキストリンとしては、α型、β型、γ型、δ型、ε型のいずれでもよい。ただ、溶解性が高いという観点から、γ-シクロデキストリンが特に好ましい。
【0080】
また、シクロデキストリン誘導体としてもα型、β型、γ型、δ型、ε型のいずれでもよい。ただ、溶解性が高いという観点から、β-シクロデキストリン誘導体またはγ-シクロデキストリン誘導体が好ましく、より好ましくはγ-シクロデキストリン誘導体である。なお、シクロデキストリン誘導体とは、例えば、アミノ体、トシル体、メチル体、プロピル体、モノアセチル体、トリアセチル体、ベンゾイル体、スルホニル体及びモノクロロトリアジニル体等の化学修飾体を意図したものである(無論、これらに限らない)。
【0081】
例えば、シクロデキストリン誘導体としては、2−ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、2,6−ジ−O−メチル−α−シクロデキストリン、6−O−α−マルトシル−α−シクロデキストリン、6−O−α−D−グルコシル−α−シクロデキストリンモノ、ヘキサキス(2,3,6−トリ−O−アセチル)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(6−O−トシル)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(6−アミノ−6−デオキシ)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(2、3−アセチル−6−ブロモ−6−デオキシ)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(2,3,6−トリ−O−オクチル)−α−シクロデキストリン、モノ(2−O−ホスホリル)−α−シクロデキストリン、モノ[2,(3)−O−(カルボキシルメチル)]−α−シクロデキストリン、オクタキス(6−O−t−ブチルジメチルシリル)−α−シクロデキストリン、スクシニル−α−シクロデキストリン、
グルクロニルグルコシル−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6−ジ−O−メチル) −β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6−ジ−O−エチル) −β−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−O−スルホ)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3−ジ−O−アセチル−6−O−スルホ) −β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホ) −β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6−トリ−O−アセチル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6−トリ−O−ベンゾイル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(3−O−アセチル−2,6−ジ−O−メチル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3−O−アセチル−6−ブロモ−6−デオキシ)−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、(2−ヒドロキシ−3−N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル−β−シクロデキストリン、6−O−α−マルトシル−β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、ヘキサキス(6−アミノ−6−デオキシ)−β−シクロデキストリン、ビス(6−アジド−6−デオキシ)−β−シクロデキストリン、モノ(2−O−ホスホリル)−β−シクロデキストリン、ヘキサキス[6−デオキシ−6−(1−イミダゾリル)]−β−シクロデキストリン、モノアセチル−β−シクロデキストリン、トリアセチル−β−シクロデキストリン、モノクロロトリアジニル−β−シクロデキストリン、6−O−α−D−グルコシル−β−シクロデキストリン、6−O−α−D−マルトシル−β−シクロデキストリン、スクシニル−β−シクロデキストリン、スクシニル−(2−ヒドロキシプロピル)−β−シクロデキストリン、2−カルボキシメチル−β−シクロデキストリン、2−カルボキシエチル−β−シクロデキストリン、ブチル−β−シクロデキストリン、スルホプロピル−β−シクロデキストリン、6−モノデオキシ−6−モノアミノ−β−シクロデキストリン、シリル[(6−O−t−ブチルジメチル)2,3−ジ−O−アセチル] −β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−γ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、ブチル−γ−シクロデキストリン、3A−アミノ−3A−デオキシ−(2AS,3AS)−γ−シクロデキストリン、モノ−2−O−(p−トルエンスルホニル)−γ−シクロデキストリン、モノ−6−O−(p−トルエンスルホニル)−γ−シクロデキストリン、モノ−6−O−メシチレンスルホニル−γ−シクロデキストリン、オクタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−γ−シクロデキストリン、オクタキス(2,6−ジ−O−フェニル)−γ−シクロデキストリン、オクタキス(6−O−t−ブチルジメチルシリル)−γ−シクロデキストリン、オクタキス(2,3,6−トリ−O−アセチル)−γ−シクロデキストリン、などが挙げられる。中でも、入手の容易さおよびコストの観点で、2−ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−γ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、3A−アミノ−3A−デオキシ−(2AS,3AS)−γ−シクロデキストリン、モノ−2−O−(p−トルエンスルホニル)−γ−シクロデキストリン、モノ−6−O−(p−トルエンスルホニル)−γ−シクロデキストリン、ブチル−γ−シクロデキストリンが好ましく、特に好ましくは2−ヒドロキシエチル−γ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、3A−アミノ−3A−デオキシ−(2AS,3AS)−γ−シクロデキストリン、モノ−2−O−(p−トルエンスルホニル)−γ−シクロデキストリン、モノ−6−O−(p−トルエンスルホニル)−γ−シクロデキストリン、ブチル−γ−シクロデキストリンである。
【0082】
また、本発明に用いられるシクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体は、塩の形態で含有してもよい。かかる塩としても、特に制限はないが、リン酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、硫酸塩などが好ましい。
【0083】
シクロデキストリン、シクロデキストリン誘導体の含有量については特に制限はなく、試料の添加量などに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、溶血を有意に抑制し、且つバックグラウンド電流を有意に抑制し、さらに反応層の溶解性を下げないという観点から1〜1000μg、好ましくは5〜500μg、より好ましくは10〜100μg含まれるとよい。
【0084】
なお、シクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体の少なくとも一方は、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0085】
なお、図3、図4で示されるバイオセンサにおいては、シクロデキストリン、シクロデキストリン誘導体は、第一の反応層8、第二の反応層9のいずれの反応層に含まれてもよいし、両方の層に含まれてもよい。
【0086】
<親水性高分子、膨潤性層状粘度鉱物粒子>
本発明の実施形態のバイオセンサにおける反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)は、さらに、親水性高分子および膨潤性層状粘度鉱物粒子の少なくとも一方を含むと好ましい。
【0087】
親水性高分子は、親水性高分子は本発明のポリオール脱水素酵素または電子伝達体などを電極上に固定化する機能を有する。また、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)が親水性高分子を含むことにより、基板1および電極表面からの反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)の剥離が防止されうる。また、親水性高分子は、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)表面の割れを防ぐ効果も有しており、本発明の実施形態のバイオセンサの信頼性を高めるのに効果的である。さらに、タンパク質などの吸着性成分の電極への吸着もまた、抑制されうる。なお、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)が親水性高分子を含む場合、反応層内に親水性高分子が含まれる形態を有していてもよく、または反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)を覆うように親水性高分子を含む親水性高分子層を形成させた形態を有してもよい。
【0088】
本発明に用いることができる親水性高分子としては、従来公知のものを使用することができる。より具体的には、親水性高分子としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリリジンなどのポリアミノ酸、ポリスチレンスルホン酸、ゼラチンおよびその誘導体、アクリル酸の重合体またはその誘導体、無水マレイン酸の重合体またはその塩、スターチおよびその誘導体などが挙げられる。これらのうち、本発明のポリオール脱水素酵素(PQQ依存性PDH)の酵素活性を失活させず、且つ溶解性が高いという観点から、カルボキシメチルセルロースが好ましい。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0089】
なお、このような親水性高分子の配合量は、1センサあたり、本発明のポリオール脱水素酵素や電子伝達体の固定化、および反応層の溶解性を下げないという観点から、好ましくは0.01〜100μgであり、より好ましくは0.05〜50μgであり、特に好ましくは0.1〜10μgである。親水性高分子は、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0090】
膨潤性層状粘度鉱物粒子も親水性高分子と同様に本発明のポリオール脱水素酵素や電子伝達体などを電極上に固定化する機能を有する。電子伝達体については、従来の親水性高分子で固定するよりも膨潤性層状粘度鉱物粒子によって固定する方が、より均一に固定化することができる。固定化が不十分であると、試料が供給された後も反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)における溶解性が不十分となり、測定にバラツキが生じる虞がある。よって、電子伝達体については、膨潤性層状粘度鉱物粒子によって固定することによって、固定化が均一となり、電流値のバラツキを抑え、ひいては、より精度が向上されたバイオセンサを提供することができる。
【0091】
本発明に用いることができる膨潤性層状粘度鉱物粒子としては、従来公知のものを使用することができる。より具体的には、スメクタイト、ベントナイト、合成フッ素雲母、バーミキュライトなどが挙げられる。これらのうち、本発明のポリオール脱水素酵素(GLDH)の酵素活性を失活させず、且つ溶解性が高いという観点から、スメクタイトが好ましい。
なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。これらは、市販のものを購入することなどにより準備することができ、例えば、スメクタイトとしては、ルーセンタイト(商品名)などが好ましい。
【0092】
なお、このような膨潤性層状粘度鉱物粒子の配合量は、1センサあたり、反応層の溶解性を下げず、且つ電子伝達体を均一に保持できるという観点から、好ましくは0.01〜100μgであり、より好ましくは0.05〜50μgであり、特に好ましくは0.1〜10μgである。膨潤性層状粘度鉱物粒子は、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0093】
親水性高分子・膨潤性層状粘度鉱物粒子は、図3、図4で示されるバイオセンサにおいては、第一の反応層8、第二の反応層9のいずれに含有されてもよいが、好ましくは、第一の反応層8に電子伝達体が含まれるため、膨潤性層状粘度鉱物粒子も電子伝達体が含まれる第一の反応層8に含有させることが好ましい。一方で、好ましくは、第二の反応層9に本発明のポリオール脱水素酵素が含まれるため、酸化還元酵素が含まれる第二の反応層9に親水性高分子を含有させることが好ましい。なお、第二の反応層9に本発明のポリオール脱水素酵素が含まれる場合、固定化の効果を勘案すると、膨潤性層状粘度鉱物粒子よりも親水性高分子が好ましい。そして、この場合、親水性高分子の溶解性を考慮すると、後述する微粒子を含有させることが好ましい。
【0094】
<微粒子>
本発明の実施形態のバイオセンサにおける反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)は、さらに、微粒子を含むと好ましい。微粒子は、ブラウン運動をするため、拡散、攪拌の役割もある。
【0095】
このように、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に微粒子を含有させることにより、反応層が多孔質となり、試料溶液の染み込みが速くなる。その結果、電子伝達体や本発明のポリオール脱水素酵素を含む層が迅速に溶解し、反応層全体が均一になる。そして、ひいては、短時間で高精度な測定をすることが可能となる。より具体的には、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に親水性高分子が含有される場合、親水性高分子は難溶解性であるという性質を有する場合があるが、微粒子を添加することによってその問題を解決できる。
【0096】
本発明の微粒子としては、特に制限はなく、高分子・低分子を問わず、従来公知のものを使用することができる。ただ、本発明において使用される微粒子は、電解を起こす不純物を含まず、電気化学的に不活性であるものであると好ましい。また、本発明において使用される微粒子は、水に対して不溶もしくは難溶性であることが好ましい。
【0097】
より具体的には、微粒子としては、高分子化合物、無機化合物、金属酸化物、炭酸塩などが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0098】
さらに具体的には、高分子化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸エステルおよびスチレン誘導体モノマーのうち少なくとも一つを含む重合体もしくは共重合体が挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0099】
前記スチレン誘導体を含む重合体としては、例えば、ポリスチレン、スチレン、アルキルスチレンなどが挙げられる。
【0100】
その他、ポリアミドも例示される。また、例えば、ポリウレタン、ポリウレアなどのウレタン化合物、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系化合物などが挙げられる。
【0101】
無機化合物としては、シリカゲル、アルミナ、ゼオライト、アパタイト、ガラスやエーライトなどに代表されるセラミックスなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0102】
金属酸化物としては、ダイヤモンド粉末、酸化チタンなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0103】
炭酸塩としては、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0104】
その他、本発明の微粒子としては、ラテックス球、ポリマーでコートした金、微細セルロース粉末、微細結晶セルロース粉体なども使用することができる。
【0105】
なお、本発明の微粒子は、表面の特性を変化させてもよい。具体的には、微粒子表面に、カルボキシル基やアミノ基を導入してもよい。カルボキシル基やアミノ基を導入する方法は、従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせて行うことができ、あるいは、市販品を購入してもよい。このように、カルボキシル基やアミノ基を導入することにより、電荷を有するため、試料中に含まれる不純物(血球など)と吸着し、不純物による感度低下を抑制する効果を有する場合もある。
【0106】
微粒子の平均粒径は、特に制限はないが、0.1〜20μmであることが好ましい。0.1μm未満では、微粒子が小さすぎるため、本発明の効果が得られない場合がある。また、20μmより大きいと、微粒子が沈殿し、電極表面に付着する可能性がある。0.1〜15μmであることがより好ましく、0.1〜10μmであることがさらに好ましい。
【0107】
なお、平均粒径は、例えば、SEM観察、TEM観察により測定することができる。上記でいう平均粒径は、粒子の形状が一様でない場合もあるため、絶対最大長で表すものとする。ここで、絶対最大長とは、単結合体の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さLの平均をとるものとする。なお、値は10個から求めた平均値とする。
【0108】
なお、このような微粒子の配合量は、1センサあたり、反応層の溶解性を向上させるという観点から、好ましくは0.01〜1000μgであり、より好ましくは0.1〜500μgであり、特に好ましくは1〜50μgである。
【0109】
図3、図4で示されるバイオセンサにおいては、微粒子は、第一の反応層8、第二の反応層9のいずれの反応層に含まれてもよいし、両方の層に含まれてもよい。例えば、第一の反応層8に膨潤性層状粘度鉱物粒子が含まれず、親水性高分子が含まれ、第二の反応層9にも親水性高分子が含まれる場合、両方に含まれることが好ましい。このように、両方の反応層(第一の反応層8、第二の反応層9)に微粒子を含有させることにより、反応層が多孔質となり、試料の染み込みが速くなる。その結果、電子伝達体や酵素を含む層が迅速に溶解し、反応層全体が均一になる。そして、ひいては、短時間で高精度な測定をすることが可能となる。また、第一の反応層8に膨潤性層状粘度鉱物粒子が含まれ、親水性高分子が含まれず、第二の反応層9にも親水性高分子が含まれる場合、好ましくは第二の反応層9にのみ含まれる。それは、微粒子が存在しなくても、膨潤性層状粘度鉱物粒子は、電子伝達体の固定をしっかりと行えるからである。
【0110】
[バイオセンサの製造方法]
(図1、図2で示されるバイオセンサ)
図1、図2で示されるバイオセンサにおける反応層10を形成する方法にも特に制限はないが、例えば以下の方法が考えられる。
【0111】
本発明のポリオール脱水素酵素と、電子伝達体と、本発明の界面活性剤と、を含む反応層10を形成するための原料を、グリシルグリシン緩衝液などで調製し、その調製した原料を、電極(作用部分)またはカバー7に、所定量滴下する。調製した試料を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させる。なお、界面活性剤については、単に反応層内に含有されていてもよいし、反応層を覆うように界面活性剤を含む界面活性剤含有層を形成してもよい。また、必要に応じ上記した他の成分(例えば、シクロデキストリンまたはその誘導体、微粒子など)を添加してもよい。また、必要に応じエタノール等の揮発性有機溶媒を添加しておいてもよい。揮発性有機溶媒を添加しておくことで、早く乾きやすく、結晶化が小さくて済む。最後に、反応層10にカバー7を覆うようにして、接着剤を介して張り合わせることにより、図1、図2で示されるバイオセンサを製造することができる。
【0112】
(図3、図4で示されるバイオセンサ)
図3、図4で示されるバイオセンサにおける第一の反応層8、第二の反応層9を形成する方法にも特に制限はないが、例えば以下の方法が考えられる。
【0113】
第一の反応層8については、電子伝達体(例えば、5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール)、膨潤性層状粘度鉱物粒子(例えば、スメクタイト)、および本発明の界面活性剤を含む第一の反応層8を形成するための原料を、グリシルグリシン緩衝液などで調製し、その調製した原料を、カバー7に、所定量滴下する。この際、本発明の界面活性剤については、単に反応層内に含有されていてもよいし、反応層を覆うように本発明の界面活性剤を含む界面活性剤含有層を形成してもよい。なお、予めカバー7に接着剤を設置しておくとよい。調製した原料を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させる。このようにして、第一の反応層8を作製することができる。
【0114】
一方で、第二の反応層9については、本発明のポリオール脱水素酵素と、親水性高分子(例えば、カルボキシメチルセルロース)と、本発明の界面活性剤と、微粒子(例えば、ポリスチレンビーズ)と、を含む第二の反応層9を形成するための原料を、グリシルグリシン緩衝液などで調製し、その調製した原料を、電極に、所定量滴下する。また、必要に応じ上記した他の成分(例えば、シクロデキストリンまたはその誘導体など)を添加してもよい。この際、界面活性剤については、単に反応層内に含有されていてもよいし、反応層を覆うように界面活性剤を含む界面活性剤含有層を形成してもよい。なお、予め基板1に接着剤を設置しておくとよい。調製した原料を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させる。このようにして、第二の反応層9を作製することができる。
【0115】
最後に、第二の反応層9が形成されている基板1と、第一の反応層8が形成されているカバー7を、接着剤を介して張り合わせることにより、図3、図4で示されるバイオセンサを製造することができる。
【0116】
[試料]
本発明において使用される試料は、好ましくは、溶液形態である。溶液形態における溶媒としても特に制限されず、従来公知の溶媒を適宜参照し、あるいは組み合わせて適用することができる。
【0117】
試料としても、特に制限はされないが、例えば、全血、血漿、血清、唾液、尿、骨髄などの生体試料;ジュースなどの飲料水、醤油、ソースなどの食品類;排水、雨水、プール用水などが挙げられる。
【0118】
なお、試料は原液がそのまま用いられてもよいし、粘度などを調節する目的で適当な溶媒で希釈された溶液が用いられてもよい。試料に含まれる基質についても特に制限はなく、本発明のポリオール脱水素酵素と反応しうる物質であればよい。
【0119】
試料中の所望の成分(基質)としては、例えば、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、アラビトールなどが挙げられる。
【0120】
試料を試料供給部へ供給する形態は特に制限されず、例えば、毛細管現象を利用して、反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に対して水平方向から試料を供給してもよい。
【0121】
反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)へと試料が供給されると、試料中の所望の成分(基質)は、反応層に含まれる本発明のポリオール脱水素酵素の作用によって酸化され、自身の酸化と同時に電子を放出する。基質(ポリオール)から放出された電子は、電子伝達体に捕捉され、これに伴って電子伝達体は酸化型から還元型へと変化する。試料の添加後、バイオセンサを所定時間放置することにより、本発明のポリオール脱水素酵素によって基質が完全に酸化され、一定量の電子伝達体が酸化型から還元型へと変換される。
【0122】
基質と本発明のポリオール脱水素酵素との反応を完結させるための放置時間については特に制限はないが、試料添加後、通常は1秒〜5分間、好ましくは3秒〜3分間、バイオセンサを放置すればよい。
【0123】
その後、還元型の電子伝達体を酸化する目的で、電極を介して、作用極2と対極4との間に、所定の電位を印加する。これにより、還元型の電子伝達体が電気化学的に酸化され、酸化型へと変換される。この際に測定される(以下、「酸化電流」とも称する)の値から、電位印加前の還元型の電子伝達体の量が算出され、さらに、本発明のポリオール脱水素酵素と反応した基質の量が定量されうる。酸化電流を流す際に印加される電位の値は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜調節されうる。一例を挙げると、−200〜700mV程度、好ましくは0〜500mVの電位を、対極4と作用極2との間に印加すればよい。電位を印加するための電位印加手段についても特に制限はなく、従来公知の電位印加手段が適宜用いられうる。
【0124】
酸化電流値の測定、および当該電流値から基質濃度への換算の手法としては、所定の電位を印加してから一定時間後の電流値を測定するクロノアンペロメトリー法が用いられてもよいし、クロノアンペロメトリー法による電流応答を時間で積分して得られる電荷量を測定するクロノクーロメトリー法が用いられてもよい。簡単な装置系により測定されるという点で、クロノアンペロメトリー法が好ましく用いられうる。
【0125】
以上、還元型の電子伝達体を酸化する際の電流(酸化電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態を例に挙げて説明したが、場合によっては、還元されずに残存している酸化型の電子伝達体を還元する際の電流(還元電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態が採用されてもよい。
【0126】
本発明の実施形態のバイオセンサは、いずれの形態で使用してもよく特に制限されない。例えば、使い捨て用途としてのディスポーザブルタイプのバイオセンサ、少なくとも電極部分を人体に埋め込んで連続的に所定の値を測定するためのバイオセンサなど、様々な用途に使用できる。
【0127】
本実施形態においては、試料中のポリオールを、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素と反応させることによって定量するに際し、特定の界面活性剤の存在下で行うため、より速度や精度が向上した、電気化学反応によるポリオールの定量方法および定量キットを提供することができる。
【0128】
本発明の実施形態のバイオセンサは、中性脂肪センサ、グルコースセンサ等の従来公知のセンサに適用することが可能である。
【0129】
[比色法による定量]
続いて、本発明の第1のポリオールの定量方法および本発明の第2のポリオールの定量キットを、比色法による定量を具体例に挙げて説明を行う。無論、以下の実施形態に限定されないのは言うまでもない。
【0130】
本発明の第1は、試料中のポリオールを定量する方法であって、本発明の界面活性剤および電子伝達体の存在下、ポリオールに本発明のポリオール脱水素酵素を反応させる、ポリオールの定量法である。
【0131】
本発明の第1の比色法による定量は、従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合せて行うことができる。
【0132】
ポリオールを含む試料としては、上記述べたように、食品、血清や血奬等が挙げられる。
【0133】
本発明の界面活性剤については、上記述べた通りである。
【0134】
また、電子伝達体として、上記述べたような、フェリシアン化カリウムを用いて吸光度の減少を測定するか、または2,6−ジクロロフェノールインドフェノールおよびフェナジニウムメチルサルフェートの共存下で吸光度の減少を測定することによって行うことができる。または、フェナジニウムメチルサルフェートおよびニトロテトラゾリウムブルー存在下で生成するホルマザン発色を測定することによっても定量することができる。
【0135】
なお、電子伝達体等の各成分の含有量は、実施例を参照したり、従来公知の知見(例えば、特公平06−087793号公報、特許2825754号公報などを適宜参照し、あるいは組み合わせたりすることで、調整することができる。
【0136】
界面活性剤の濃度に関しては、用いる界面活性剤にもよるが、反応溶液100mLに対し、界面活性剤が0.005〜10g、より好ましくは、0.0075〜7.5g、最も好ましくは0.01〜5gである。0.005g未満では、疎水性が強いPQQ依存性PDHが凝集することにより、酵素反応が進まなくなる場合あり、10g以上では、反応溶液の粘度が高くなりすぎ、酵素の反応速度が低下する場合があるためである。
【0137】
続いて、他の物質に保持してなる定量キット(本発明の第2の比色法によるポリオールの定量キット)について説明を行う。
【0138】
本発明の第1の定量方法に用いられる各成分を液体に保持して、本発明の第2の定量キットとする場合、各成分を混合して反応させた後、色の変化を目視で判定するものであっても、分光光度計で透過吸光度を測定するものであってもよい。
【0139】
また、本発明の第1の定量方法に用いられる各成分を、本発明の第2の定量キットとする場合、ドライケミストリーで用いられるような、担体に保持する試験具としてもよい。ここで、担体に保持した状態で用いる場合には、計量層、展開層、濾過層、保持層等を含んでいてもよい。このように担体に保持して用いる場合には、検体を付与した後、色の変化を目視で判定する他、分光光度計で反射吸光度を測定するものであってもよい。なお、測定値は予め作製した検量線を用いて基質の量に換算することができる。
【0140】
担体の素材としては、紙、布帛、高分子膜等の多孔質物質を用いることができるが、特に、発色性能といった点で、高分子膜が好ましい。上記高分子膜とは、高分子よりなる水不溶性の多孔質体である。高分子としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロース、セルロースアセテート、硝酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールが挙げられる。これらの高分子は一般的に知られている製膜方法を用いて膜を形成することができる。これらの高分子膜の中でもポリスルホンまたはポリエーテルスルホンが、発色性能といった点で、特に好ましい。
【0141】
担体に保持する方法にも特に制限はないが、担体に適当な溶剤(例えば、リン酸緩衝液、グリシルグリシン緩衝液など)に溶解させた試薬組成物(本発明の界面活性剤、本発明のポリオール脱水素酵素、電子伝達体など)の溶液を担体にコーティングする他、試薬組成物を含むマトリックス前駆体を成型して試験層を形成させる等の公知の方法が用いられうる。コーティングは、工業用に使用される一般的なコート法を用いることができるが、担体が多孔質の場合には、しばしば塗工直後の液移動や不均一な乾燥に起因するコートむらが問題となる。担体と塗工液の物性や、塗工乾燥の方法、機器、条件がこれらを支配する重要因子となりうる。このため、精密印刷法が有効な場合もある。
【0142】
本実施形態においては、試料中のポリオールを、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素と反応させることによって定量するに際し、特定の界面活性剤の存在下で行うため、より速度や精度が向上した、比色法によるポリオールの定量方法および定量キットを提供することができる。
【0143】
本発明の実施形態の試験具は、中性脂肪試験具、グルコース試験具等の従来公知の試験具に適用することが可能である。
【実施例】
【0144】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0145】
<実施例1>
50μM DCIP(2,6−ジクロロフェノールインドフェノール)、0.2mM PMS(5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート)、450mM グリセロールおよびn−オクチル−β−D−グルコシド(同仁化学社)0.1%を含む10mM リン酸緩衝液pH 7.0中に、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素溶液 20μlを加え、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素と基質(グリセロール)の反応をDCIPの600nmの吸光度変化によって追跡し、その吸光度の減少速度を酵素の反応速度とした。1分間に1μmolのDCIPが還元される酵素活性を1単位(U)とした。なお、DCIPのpH7.0におけるモル吸光係数は16.3mM−1とした。結果を表1に示す。
【0146】
<実施例2>
n−オクチル−β−D−グルコシドを、n−オクチル−β−D−チオグルコシド(同仁化学社製)に変更した以外は、実施例1と同様に酵素活性および反応速度を測定した。
【0147】
<実施例3>
n−オクチル−β−D−グルコシドを、エマルゲンPP290(花王ケミカル社製)に変更した以外は、実施例1と同様に酵素活性および反応速度を測定した。
【0148】
<実施例4>
n−オクチル−β−D−グルコシドを、CHAPS(同仁化学社製)に変更した以外は、実施例1と同様に酵素活性および反応速度を測定した。
【0149】
<実施例5>
n−オクチル−β−D−グルコシドを、Zwittergent 3−12(Calbiochem社製)に変更した以外は、実施例1と同様に酵素活性および反応速度を測定した。
【0150】
<比較例1>
n−オクチル−β−D−グルコシドを、TritonX−100(MPバイオ社製)に変更した以外は、実施例1と同様に酵素活性および反応速度を測定した。
【0151】
【表1】

【0152】
表1から、従来から使用されているTritonX−100ではなく、本発明の界面活性剤を用いることによって、反応速度が1.5倍以上向上することが分かる。
【符号の説明】
【0153】
1 絶縁性基板、
2 作用極、
2−1 作用極作用部分、
3 参照極、
3−1 参照極作用部分、
4 対極、
4−1 対極作用部分、
5 絶縁層、
6(6a、6b) 接着剤、
7 カバー、
8 第一の反応層、
9 第二の反応層、
10 反応層、
S 空間部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸、n−ドデシル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、n−オクチル−β−D−グルコシドおよびn−オクチル−β−D−チオグルコシドからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤および電子伝達体の存在下、
ポリオールを、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素と反応させることを含む、ポリオールの定量方法。
【請求項2】
さらに、γ−シクロデキストリンおよびその誘導体の少なくとも1種の存在下で、前記ポリオールを、前記補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素と反応させることを含む、請求項1に記載の定量方法。
【請求項3】
前記電子伝達体が、フェナジニウムメチルサルフェート、フェナジニウムメチルサルフェート誘導体、フェリシアン化カリウム、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、芳香族ニトロソ化合物および互変異性体の等価オキシムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の定量方法。
【請求項4】
前記ポリオールが、グリセロール、ソルビトール、マンニトールまたはアラビトールである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項5】
前記補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素が、グルコノバクター属に属する細菌から得られるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項6】
前記ポリオールを比色法によって定量する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項7】
前記ポリオールを電気化学反応によって定量する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項8】
3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸、n−ドデシル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、n−オクチル−β−D−グルコシドおよびn−オクチル−β−D−チオグルコシドからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、
電子伝達体と、
補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素と、
を含む、ポリオールの定量キット。
【請求項9】
さらに、γ−シクロデキストリンおよびその誘導体の少なくとも1種を含む、請求項8に記載の定量キット。
【請求項10】
前記ポリオールが、比色法によって定量される、請求項8または9に記載の定量キット。
【請求項11】
前記ポリオールが、電気化学反応によって定量される、請求項8または9に記載の定量キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−233545(P2010−233545A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87520(P2009−87520)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【出願人】(503195850)有限会社アルティザイム・インターナショナル (31)
【Fターム(参考)】