説明

ポリオールの測定方法

【課題】グルコースとの反応を選択的に抑制し、高い精度で測定しうるポリオールの定量方法を提供する。
【解決手段】ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群より選択される陽イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、ピルビン酸イオン、プロピオン酸イオン、コハク酸イオンおよびクエン酸イオンからなる群より選択される陰イオンとを含む塩、アルギニン塩酸塩並びにプロタミン硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一つのイオン性化合物(ただし、硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムは除く)、界面活性剤並びに電子伝達体の存在下、ポリオールを、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはフラビンモノヌクレオチドを含むポリオール脱水素酵素と反応させることを含む、ポリオールの定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の特定成分、特に生体試料中に含まれる特定成分(ポリオール)を、酵素反応を利用してその濃度を高精度に定量できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の特定成分を定量する方法としては、比色法や電気化学的に定量する方法が知られている。例えば、電気化学的な定量方法であるバイオセンサに関しては、代表的なものとしては、絶縁性の基板上に少なくとも作用極および対極からなる電極系を形成し、この電極系上に、電極系に接して親水性高分子とポリオール脱水素酵素と電子伝達体を含む反応層を形成したものである。
【0003】
このようにして作製されたバイオセンサの反応層に、基質を含む試料液を供給すると、反応層が試料液によって溶解することにより、酵素と基質が反応し、これに伴って電子伝達体が還元され、この還元された電子伝達体を電気化学的に酸化し、得られる酸化電流値から試料液中の基質濃度を定量することができる(例えば、特許文献1)。
【0004】
例えば、グリセロールを試料とする場合、以下の方法が知られている。グリセロールは、下記式(1)および式(2)で示されるように、グリセロールキナーゼ(GK)およびグリセロール−3−リン酸オキシダーゼ(GPO)またはグリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)を用いることにより定量することができる。すなわち、下記式において、還元型電子伝達体の増加量を比色法または電気化学的によって測定することにより、グリセロールを定量することが可能である。
【0005】
【化1】

【0006】
しかしながら、この方法は高価な2種類の酵素を用いる必要があり、且つ、反応が煩雑であるという問題がある。さらに、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼを用いた場合は、溶存酸素の影響を受けるという問題点がある。また、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた場合は、高価なNADを添加する必要がある。
【0007】
溶存酸素の影響を受けず、1種類の酵素を用いる方法としては、下記式(3)で示すようにNAD依存性グリセロールデヒドロゲナーゼ(NAD−GLDH)を用いる方法が知られている。
【0008】
【化2】

【0009】
しかしながら、この反応は、NAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼと同様、高価なNADを添加する必要がある。
【0010】
より安価で簡便にグリセロールを定量する方法としては、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオールデヒドロゲナーゼ(PQQ−PDH)を用いる方法がある。この方法は、下記式(4)の反応によって行われるため、溶存酸素の影響を受けない、反応が簡便で複数の酵素を用いる必要がない、高価なNADを添加する必要がないなどのメリットがある。
【0011】
【化3】

【0012】
上記疎水性の膜結合型ポリオール脱水素酵素である、例えば、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素は、使用する際精製する必要があるが、量産化におけるコスト低減の観点から、極力少ないステップで精製をすることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2517153号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、少ない精製ステップで補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素を精製する場合、夾雑物を含んだ状態で精製されてしまう虞があり、さらに、その夾雑物が測定系に影響を及ぼす虞がある。
【0015】
特に、注意しなければならないのは、他のポリオール脱水素酵素が混入することである。
【0016】
例えば、GLDH(グリセロールデヒドロゲナーゼ)を精製する際に、同じポリオール脱水素酵素であるGDH(グルコースデヒドロゲナーゼ)が混入することである。GDHも、GLDHと同様に酸化還元メディエーター(Med)を利用した電子授受反応を行うため、GDHが混入すると、血液中のグルコースと反応してしまい、GLDHを用いたグリセロールの測定値にグルコース濃度の値が反映されてしまう。例えば、グルコース濃度が高いサンプルは、実際よりも高いグリセロールの測定値になるという現象になる。これは測定値のばらつきを生み、精度の高い測定ができないという問題になる。
【0017】
よって、本発明は、高い精度で測定ができるポリオールの定量方法および定量キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、上記課題は、ポリオールを、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはフラビンモノヌクレオチドを含むポリオール脱水素酵素と反応させることによって定量するに際し、特定のイオン性化合物の存在下で行うことによって、解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0019】
すなわち、本発明は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群より選択される陽イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、ピルビン酸イオン、プロピオン酸イオン、コハク酸イオンおよびクエン酸イオンからなる群より選択される陰イオンとを含む塩、アルギニン塩酸塩並びにプロタミン硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一つのイオン性化合物(ただし、硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムは除く)、界面活性剤並びに電子伝達体の存在下、ポリオールを、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはフラビンモノヌクレオチドを含むポリオール脱水素酵素と反応させることを含む、ポリオールの定量方法を提供することによって、解決される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、より精度が向上した特定成分の定量方法および定量キットを提供することができる。すなわち、本発明によれば、酵素とグルコースとの反応を選択的に抑制し、高い精度で測定ができるポリオールの定量方法および定量キットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本発明の第1>
本発明の第1は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群より選択される陽イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、ピルビン酸イオン、プロピオン酸イオン、コハク酸イオンおよびクエン酸イオンからなる群より選択される陰イオンとを含む塩、アルギニン塩酸塩並びにプロタミン硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一つのイオン性化合物(ただし、硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムは除く)、界面活性剤並びに電子伝達体の存在下、ポリオールを、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはフラビンモノヌクレオチドを含むポリオール脱水素酵素と反応させることを含む、ポリオールの定量方法である。
【0022】
<本発明の第2>
本発明の第2は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群より選択される陽イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、ピルビン酸イオン、プロピオン酸イオン、コハク酸イオンおよびクエン酸イオンからなる群より選択される陰イオンとを含む塩、アルギニン塩酸塩並びにプロタミン硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一つのイオン性化合物(ただし、硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムは除く)と、界面活性剤と、電子伝達体と、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはフラビンモノヌクレオチドを含むポリオール脱水素酵素と、を含む、ポリオールの定量キットである。
【0023】
上記の通り、本発明者らは、より精度が向上した特定成分の定量方法を提供するために、鋭意研究を行った。その過程の中で、ポリオールの定量時に、特定のイオン性化合物について着目し、詳細に検討した。
【0024】
その結果、ポリオール(例えば、グリセロール)の定量時に、特定のイオン性化合物を用いることによって、酵素とグルコースとの反応を選択的に抑制して、高い精度で測定ができるポリオールの定量方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
すなわち、本発明のポリオールの定量方法は、特定のイオン性化合物が、酵素とグルコースとの反応性を選択的に抑制することにより、グルコース濃度の影響を無くし、どのような血糖値であっても、所定の測定値が得られ、測定値のばらつきがほとんど生じない。
【0026】
本発明の第1のポリオールの定量方法、本発明の第2の定量キットは、電気化学反応による定量(バイオセンサ)、比色法による定量などのいずれの定量方法、定量キットにも適用することができる。
【0027】
以下、ポリオールを含む試料を「試料」、ポリオールを定量する際の「試料」を含まない溶液を「反応溶液」(すなわち、「ポリオール脱水素酵素、イオン性化合物、界面活性剤、電子伝達体、必要に応じて、塩などを含む溶液」)、ポリオールの定量時の系全体の溶液を「測定溶液」(すなわち、『「試料」を含む「反応溶液」』)と称する。
【0028】
なお、本明細書においてグルコースはポリオールに含めない。
【0029】
以下、本発明のポリオールの定量方法における、各構成成分について説明する。
【0030】
<イオン性化合物>
本発明で用いられるイオン性化合物は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群より選択される陽イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、ピルビン酸イオン、プロピオン酸イオン、コハク酸イオンおよびクエン酸イオンからなる群より選択される陰イオンとを含む塩、アルギニン塩酸塩並びにプロタミン硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一つのイオン性化合物(ただし、硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムは除く)である。
【0031】
イオン性化合物の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸マグネシウム、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸アンモニウム、ピルビン酸ナトリウム、ピルビン酸カリウム、ピルビン酸マグネシウム、ピルビン酸カルシウム、ピルビン酸アンモニウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二カリウム、コハク酸マグネシウム、コハク酸カルシウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0032】
イオン性化合物として、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、ピルビン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、アルギニン塩酸塩およびプロタミン硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである。これらの中では、グルコースとの反応をより抑制するという観点から、2価の金属イオンを有していることが好ましく、そのため、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、ピルビン酸カルシウムがより好ましい。また、本発明で用いられうるイオン性化合物としては、水溶性であることが好ましく、その観点からも、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、ピルビン酸カルシウムがより好ましい。なお、本発明のポリオールの定量方法において、イオン性化合物は単独で使用されても、また2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、本発明のポリオールの定量方法において、イオン性化合物は緩衝液等に溶解される。
【0033】
本発明のイオン性化合物の含有量については特に制限はなく、試料の添加量などに応じて適宜調節されうる。
【0034】
本発明のポリオールの定量方法で用いられうるイオン性化合物の量は、酵素とグルコースとの反応を抑制できる量であれば特に制限されないが、測定溶液中、好ましくは0.005〜10質量%、より好ましくは0.0075〜5質量%、さらに好ましくは0.01〜5質量%、もっとも好ましくは0.1〜3質量%である。上記範囲内であれば、ポリオールの定量時において、酵素とグルコースとの反応を選択的に抑制させることができる。
【0035】
糖尿病患者などの血液は、健常者の血液に比べて血糖値が高いことが知られており、糖尿病患者の血液のグルコース濃度は、特に高い人で、約350mg/dLである。イオン性化合物を上記範囲内で含む測定溶液を用いることで、当該グルコース濃度を有する試料において、イオン性化合物が、酵素とグルコースとの反応を十分に阻害する。すなわち、中性脂肪濃度を測定する場合、上記範囲内のイオン性化合物を含む測定溶液を用いることで、血糖値の高い人においても、糖(グルコース)の影響を受けることなく、中性脂肪の測定が精度よくできる。
【0036】
本明細書中、グルコースと反応する「酵素」は、ポリオール脱水素酵素に含まれる(混入している)グルコース脱水素酵素だけでなく、グルコース活性を有するポリオール脱水素酵素でもありうる。
【0037】
なお、本明細書において、本発明のポリオールの定量方法において、イオン性化合物が存在することで、酵素とグルコースとの酵素反応が抑制される。ポリオールを定量する際に、ポリオール脱水素酵素とポリオールとの酵素反応は維持され、酵素と、試料に混入しているグルコースとの酵素反応が抑制される。よって、ポリオールの定量をする際に、測定値のばらつきがなく、ポリオールの濃度を高精度に定量しうる。酵素とグルコースとの反応性を低下させるメカニズムについては詳細なことは不明だが、イオン性化合物が、何らかの作用により、酵素とグルコースとの反応を阻害しうると考えられる。このため、本明細書では、イオン性化合物を、単に「阻害剤」とも称する場合がある。
【0038】
また、かようなイオン性化合物は、後述もするが、グリシルグリシン−NaOH緩衝液のような緩衝液に溶解させて調製しておくことも好ましい。なお、イオン性化合物が定量時の測定溶液中に2種類以上含まれるときは、含量は、その合計量を意味する。
【0039】
<界面活性剤>
本発明に用いられる界面活性剤としては、本発明で用いられるポリオール脱水素酵素の酵素活性が低下しないものであれば、特に制限されないが、例えば、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、天然型界面活性剤などを適宜選択して使用することができる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは本発明で用いられるポリオール脱水素酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤の少なくとも一方である。
【0040】
非イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、本発明で用いられるポリオール脱水素酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、ショ糖脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレン系またはアルキルグリコシド系であることが好ましい。
【0041】
ショ糖脂肪酸エステル系界面活性剤としては、特に制限はないが、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルなどが好ましい。
【0042】
ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate;Tween 20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパリミテート(Polyoxyethylene Sorbitan Monopalmitate;Tween 40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monostearate;Tween 60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Polyoxyethylene Sorbitan Monooleate;Tween80)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))などが好ましい。中でも、本発明のポリオール脱水素酵素の溶解性を上げるという観点から、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))が好ましい。
【0043】
アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、炭素数7〜12のアルキル基を有するアルキルグリコシド、アルキルチオグリコシドなどが好ましい。かかる炭素数については、より好ましくは7〜10であり、特に好ましくは炭素数8である。糖部分は、グルコース、マルトースが好ましく、より好ましくはグルコースである。より具体的には、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−オクチル−β−D−チオグルコシドであると好ましい。アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤は、バイオセンサに使用する際、製造過程において、非常に塗りやすく、均一にできる。特に、n−オクチル−β−D−チオグルコシド)が反応層10(第一の反応層8、第二の反応層9)に含有されると、試料溶液を滴下した際の広がりが非常によく、濡れ性がよい(表面張力を起こしにくくする。)。よって、広がりや濡れ性の観点で考えると、アルキルグリコシドよりもアルキルチオグリコシドが非常に好ましい。なお、これらは、単独で用いても混合物の形態で用いてもよい。
【0044】
両性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、n−アルキル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸(Zwittergent(登録商標))などが挙げられる。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)または3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)である。特にCHAPSが好ましい。その理由は、CHAPSは界面活性剤の中でも低溶血性のものだからである。
【0045】
陽イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、セチルピリジニウムクロリド、トリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0046】
陰イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0047】
天然型界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、リン脂質が挙げられ、好ましくは、卵黄レシチン、大豆レシチン、水添レシチン、高純度レシチンなどのレシチンなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0048】
上記の界面活性剤のうち、ポリオールの定量の精度をより向上させる観点で、試料として全血を使用する場合、低溶血性の界面活性剤を使用することが好ましい。具体例を挙げると、上記のCHAPSや、Tween、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)が好ましい。
【0049】
また、本発明のポリオールの定量方法においては、界面活性剤は2種類以上含まれてもよい。界面活性剤の種類は含有される各構成要件との相互作用を考慮して選択することが好ましい。そのような工夫を施すことによって、より定量方法としての精度が向上する。
【0050】
界面活性剤の含有量については特に制限はなく、試料の添加量などに応じて適宜調節されうる。
【0051】
界面活性剤として、両性のものを用いる場合、本発明のポリオール脱水素酵素の溶解性を上げ、且つ用いられる酵素活性を失活させないという観点から、測定溶液中、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.002〜7.5質量%、特に好ましくは0.005〜5質量%が含まれるとよい。また、かような界面活性剤は、後述もするが、グリシルグリシン−NaOH緩衝液のような緩衝液に溶解させて調製しておくことも好ましい。なお、界面活性剤が1センサに2種類以上含まれるときは、含量は、その合計量を意味する。
【0052】
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤のものを用いる場合、本発明のポリオール脱水素酵素の溶解性を上げ、且つ用いられる酵素活性を失活させないという観点から、測定溶液中、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.002〜7.5質量%、特に好ましくは0.005〜5質量%が含まれるとよい。また、かような界面活性剤は、グリシルグリシン−NaOH緩衝液のような緩衝液に溶解させて調製しておくことも好ましい。
【0053】
<電子伝達体>
電子伝達体(「電子受容体」と称する場合がある。)は、ポリオールの定量時において、本発明のポリオール脱水素酵素の作用によって生成した電子を受け取る、すなわち還元される。比色法による定量は、酸化型電子伝達体、還元型電子伝達体によって、吸収バンドのピークが異なるため、電子伝達体の種類を適宜組み合わせ、吸光度を測定することによって、行うことができる。なお、比色法による定量においては、必要に応じ、発色試薬等を組み合わせてもよい。
【0054】
本発明において使用される電子伝達体としては、従来公知のものを使用することができ、試料や使用するポリオール脱水素酵素に応じて適宜決定できる。なお、電子伝達体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
電子伝達体としては、より具体的には、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム、フェロセンおよびその誘導体、フェナジニウムメチルサルフェートおよびその誘導体、p−ベンゾキノンおよびその誘導体、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、メチレンブルー、ニトロテトラゾリウムブルー、オスミウム錯体、ルテニウム錯体、芳香族ニトロソ化合物および互変異性体の等価オキシムなどを好適に使用することができる。特に好ましくは、フェナジニウムメチルサルフェート、フェナジニウムメチルサルフェート誘導体、フェリシアン化カリウム、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、芳香族ニトロソ化合物および互変異性体の等価オキシムからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0056】
フェナジニウムメチルサルフェート誘導体としても特に制限はないが、5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェートが好ましい。
【0057】
芳香族ニトロソ化合物および互変異性体の等価オキシムとしても特に制限はないが、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)−4−ニトロソアニリン、p−ニトロソアンニリン、p−ベンゾキノン−ジオキシムなどが挙げられる。
【0058】
電子伝達体の含有量については特に制限はなく、試料の添加量などに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、基質となるポリオールに対して十分量を含有させるという観点から、測定溶液中、好ましくは0.0001〜50質量%、より好ましくは0.001〜40質量%、さらに好ましくは0.005〜20質量%の電子伝達体が含まれるとよい。また、電子伝達体は、後述もするが、グリシルグリシン−NaOH緩衝液のような緩衝液に溶解させて調製しておくことも好ましい。
【0059】
<ポリオール脱水素酵素>
本発明で用いられるポリオール脱水素酵素は、少なくとも補欠分子族(「補酵素」とも称する)としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含むポリオール脱水素酵素を含む。特に、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素が好ましい。なお、本発明においては、本発明のポリオール脱水素酵素を単独で、または混合物の形態として使用してもよい。
【0060】
本発明において、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含むポリオール脱水素酵素としては、特に制限されず、試料の種類に依存するが、補欠分子族として、ピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素としては、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、マンニトールデヒドロゲナーゼ、アラビトールデヒドロゲナーゼ、ガラクチトールデヒドロゲナーゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、アドニトールデヒドロゲナーゼ、エリスリトールデヒドロゲナーゼ、リビトールデヒドロゲナーゼ、プロピレングリコールデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2−ケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、5ケト−グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2,5−ジケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、環状アルコールデヒドロゲナーゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースオキシダーゼなどが挙げられる。補欠分子族としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含むポリオール脱水素酵素としては、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼなどが挙げられる。
【0061】
中でも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の少なくとも一方を含むグリセロールデヒドロゲナーゼが好ましく、特に、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むグリセロールデヒドロゲナーゼが好ましい(以下、「PQQ依存性グリセロール脱水素酵素」とも称する)。
【0062】
上記の本発明のポリオール脱水素酵素は、市販の商品を購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。当該ポリオール脱水素酵素を自ら調製する手法としては、例えば、当該ポリオール脱水素酵素を産生する細菌を、栄養培地に培養し、該培養物から当該ポリオール脱水素酵素を抽出する公知の方法が挙げられる(例えば、特開2008−220367号公報参照)。
【0063】
具体的には、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を例に挙げると、当該グリセロールデヒドロゲナーゼを産生する細菌としては、例えば、グルコノバクター属、シュードモナス属など様々な属に属する細菌が挙げられる。特にグルコノバクター属に属する細菌の膜画分に存在するPQQ依存性グリセロール脱水素酵素が好ましく用いられうる。中でも、入手の容易さから、グルコノバクター・アルビダス(Gluconobacter albidus)NBRC 3250、3273、103509、103510、103516、103520、103521、103524;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3267、3274、3275、3276;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)NBRC 3171、3251、3253、3262、3264、3265、3268、3270、3285、3286、3290、16669、103413、103421、103427、103428、103429、103437、103438、103439、103440、103441、103446、103453、103454、103456、103457、103458、103459、103461、103462、103465、103466、103467、103468、103469、103470、103471、103472、103473、103474、103475、103476、103477、103482、103487、103488、103490、103491、103493、103494、103499、103500、103501、103502、103503、103504、103506、103507、103515、103517、103518、103519、103523;グルコノバクター・ジャポニカス(Gluconobacter japonicus)NBRC 3260、3263、3269、3271、3272;グルコノバクター・カンチャナブリエンシス(Gluconobacter kanchanaburiensis)NBRC 103587,103588;グルコノバクター・コンドニ(Gluconobacter kondonii)NBRC 3266;グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3130、3189、3244、3287、3292、3293、3294、3462、12528、14819;グルコノバクター・ロセウス(Gluconobacter roseus)NBRC 3990;グルコノバクター・エスピー(Gluconobacter sp)NBRC 3259、103508;グルコノバクター・スファエリカス(Gluconobacter sphaericus)NBRC 12467;グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)NBRC 3172、3254、3255、3256、3257、3258、3289、3291、100600、100601等を使用することができる。
【0064】
また、PQQ依存性PDH産生菌であれば、これらの自然突然変異株または人為突然変異株を使用してもよい。人為突然変異処理方法は、当業者に周知の方法と同様にしてもしくは当業者に周知の方法を適宜修飾してまたはこれらの方法を適宜組合せて適用することができる。このような微生物の代表菌株として、グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)が使用され、特にグルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)NBRC 3291が好ましく使用される。 上記PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を培養する培地は、使用菌株が資化しうる炭素源、窒素源、無機物、その他必要な栄養素を適量含有するものであれば、合成培地であっても天然培地であってもよい。炭素源としては、例えば、グルコース、グリセロール、ソルビトールなどが使用される。窒素源としては、例えば、ペプトン類、肉エキス、酵母エキスなどの窒素含有天然物や、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどの無機窒素含有物が使用される。無機物としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどが使用される。その他、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。上記の炭素源、窒素源、無機物、およびその他の必要な栄養素は、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0065】
培養は、振とう培養あるいは通気撹拌培養で行うことが好ましい。培養温度は好ましくは20℃〜50℃、より好ましくは22℃〜40℃、最も好ましくは25℃〜35℃である。培養pHは好ましくは4〜9、より好ましくは5〜8である。これら以外の条件下でも、使用する菌株が生育すれば実施される。培養期間は通常0.5〜5日が好ましい。上記培養により、菌体内にポリオール脱水素酵素が蓄積される。なお、これらのポリオール脱水素酵素は、上記培養によって得られた酵素であっても、ポリオール脱水素酵素遺伝子を大腸菌等に形質導入して得られた組換え酵素であってもよい。
【0066】
次いで、得られたPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を抽出する。抽出方法は一般に使用される抽出方法を用いることができ、例えば超音波破砕法、フレンチプレス法、有機溶媒法、リゾチーム法などを用いることができる。抽出したポリオール脱水素酵素の精製方法は特に制限されず、例えば、硫安やぼう硝などの塩析法、塩化マグネシウムや塩化カルシウムを用いる金属凝集法、ストレプトマイシンやポリエチレンイミンを用いる除核酸、またはDEAE(ジエチルアミノエチル)−セファロース、CM(カルボキシメチル)−セファロースなどのイオン交換クロマト法などを用いることができる。
【0067】
なお、これらの方法で得られる部分精製酵素や精製酵素液は、そのままの形態で使用しても、または化学修飾された形態で使用してもよい。本発明において、化学修飾された形態のポリオール脱水素酵素を使用する場合には、上記の方法で得られる培養物由来のポリオール脱水素酵素を、例えば、特開2006−271257号公報に記載されるような方法などを用いて適宜化学修飾して使用することができる。なお、化学修飾方法は、上記公報に記載の方法に限定されるものではない。
【0068】
また、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含むポリオール脱水素酵素は、後述もするが、例えば、グリシルグリシン−NaOH緩衝液のような緩衝液に溶解させて調製しておくことも好ましい。
【0069】
<脂質分解酵素>
また、本発明において、中性脂肪を定量する場合においては、脂質を構成するエステル結合を加水分解する脂質分解酵素を、測定溶液にさらに含むことが好ましい。かような脂質分解酵素として、具体的には、リポプロテインリパーゼ(LPL)、リパーゼ、エステラーゼが好適に挙げられる。特に、反応性の観点で、リポプロテインリパーゼ(LPL)が好ましい。
【0070】
LPLの含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、使用する界面活性剤の量や電子伝達体の種類などによって適宜選択することができる。一例を挙げると、中性脂肪の分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、測定溶液中に、好ましくは0.1〜1000活性単位(U)、より好ましくは0.5〜750U、特に好ましくは1〜500Uである。なお、LPLの活性単位(U)の定義および測定方法は、国際公開第2006/104077号パンフレットに記載の方法による。また、LPLは、後述もするが、グリシルグリシン−NaOH緩衝液のような緩衝液に溶解させて調製しておくことも好ましい。
【0071】
<緩衝液およびpH調整剤>
また、本発明の定量方法において、試料、反応溶液および測定溶液は、緩衝剤を含んでもよい。緩衝剤としては、例えば、リン酸、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(Tris)、酢酸、グリシルグリシン、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、グリシン、ホウ酸、またはイミダゾールなどが挙げられる。さらに、本発明の定量方法において、試料、反応溶液および測定溶液は、酸またはアルカリなどのpH調整剤を含むことが好ましい。これにより、定量をする際のpHを所望の範囲に調整することができる。本発明の定量方法において、試料、反応溶液および測定溶液のpHは、酵素活性を阻害しなければよく、好ましくは6.0〜11.0、より好ましくは6.5〜10.5、最も好ましくは7.0〜10.0である。かようなpH調整剤としては、塩酸等の酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリが挙げられる。pH調整剤の含有量は特に制限されず、所望のpHが実現される量を用いればよい。
【0072】
緩衝液の濃度は、酵素活性を阻害しなければ特に制限されないが、好ましくは0.5〜500mM、より好ましくは0.75〜400mM、最も好ましくは1〜300mMである。なお、本発明において、緩衝液の濃度とは、例えば、グリシルグリシン−NaOH緩衝液の場合は、測定溶液中に含まれるグリシルグリシンの濃度(mM)をいう。0.5mM以上であれば、安定化剤としての効果を十分に発揮でき、一方、500mM以下であれば、添加に見合う安定化剤としての効果の向上が認められる。
【0073】
本発明の定量方法において、各成分の添加順序および添加形態は、特に制限されないが、例えば、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素(PQQ依存性PDH)と、界面活性剤と、電子伝達体と、本発明のイオン性化合物と、を含む溶液を含むグリシルグリシン−NaOH緩衝液(反応溶液)と、ポリオールを含む溶液(試料)と、を混合して、比色法または電気化学反応により、測定試料中のポリオール量を測定することができる。
【0074】
また、上記方法において、各成分を調製する際の添加順序および添加形態も特に制限されず、PQQ依存性PDHに対して、各成分を順次添加してもよく、各成分を同時に添加してもよい。例えば、ピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を調製する際に、グリシルグリシン−NaOH緩衝液、界面活性剤、電子伝達体、およびイオン性化合物を添加してもよいし、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を調製した後、グリシルグリシン−NaOH緩衝液を調製した後に、界面活性剤、電子伝達体、およびイオン性化合物をそのまま添加してもよい。
【0075】
[試料]
本発明において使用される試料は、好ましくは、溶液形態である。溶液形態における溶媒としても特に制限されず、従来公知の溶媒を適宜参照し、あるいは組み合わせて適用することができる。
【0076】
試料としても、特に制限はされないが、例えば、全血、血漿、血清、唾液、尿、骨髄などの生体試料;ジュースなどの飲料水、醤油、ソースなどの食品類;排水、雨水、プール用水などが挙げられる。好ましくは、全血、血漿、血清、唾液、骨髄であり、より好ましくは全血である。
【0077】
なお、試料は原液がそのまま用いられてもよいし、粘度などを調節する目的で適当な溶媒で希釈された溶液が用いられてもよい。試料に含まれる基質についても特に制限はなく、本発明のポリオール脱水素酵素と反応しうる物質であればよい。
【0078】
試料中の所望の成分(基質)としては、例えば、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、アラビトールなどの多価アルコール、中性脂肪などが挙げられる。
【0079】
試料を、定量用の測定溶液へ供給する形態は特に制限されず、測定溶液に試料を供給してもよい。
【0080】
測定溶液へ試料が供給されると、試料中の所望の成分(基質)は、測定溶液に含まれる本発明のポリオール脱水素酵素の作用によって酸化され、自身の酸化と同時に電子を放出する。基質(ポリオール)から放出された電子は、電子伝達体に捕捉され、これに伴って電子伝達体は酸化型から還元型へと変化する。試料の添加後、測定溶液を所定時間放置することにより、本発明のポリオール脱水素酵素によって基質(ポリオール)が完全に酸化され、一定量の電子伝達体が酸化型から還元型へと変換される。
【0081】
上述したように、比色法による定量は、酸化型電子伝達体、還元型電子伝達体によって、吸収バンドのピークが異なるため、電子伝達体の種類を適宜組み合わせ、吸光度を測定することによって、行うことができる。なお、比色法による定量においては、酸化型および還元型電子伝達体の吸収バンドが変わらない場合、または酸化型および還元型電子伝達体の吸収バンドがない場合は、必要に応じ、酸化型または還元型の電子伝達体のどちらかの量が測定しうる反応などを利用するため、必要に応じ、発色試薬等を組み合わせてもよい。
【0082】
[比色法による定量]
続いて、本発明の第1のポリオールの定量方法および本発明の第2のポリオールの定量キットを、比色法による定量を具体例に挙げて説明を行う。無論、以下の実施形態に限定されないのは言うまでもない。
【0083】
本発明の第1は、試料中のポリオールを定量する方法であって、本発明のイオン性化合物、界面活性剤および電子伝達体の存在下、ポリオールに、本発明のポリオール脱水素酵素を反応させる、ポリオールの定量方法である。本発明の第1の定量方法は、用いられる上述した各成分を液体に保持して、各成分を混合して反応させた後、色の変化を目視で判定するものであっても、分光光度計で透過吸光度を測定するものであってもよい。以下に分光光度計で透過吸光度を測定する方法を述べる。
【0084】
本発明において、比色法による定量において、用いられるイオン性化合物、界面活性剤、電子伝達体、およびポリオール脱水素酵素は上述した通りである。
【0085】
また、ポリオールを含む試料としては、上記述べたように、食品、血清や血奬等が挙げられる。
【0086】
本発明の第1の比色法による定量は、従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合せて行うことができる。
【0087】
比色法の測定は、酸化型電子伝達体、還元型電子伝達体によって、吸収バンドのピークが異なることを利用して、酸化型電子伝達体または還元型電子伝達体に特有な吸収波長の吸光度を測定することによって行うことができる。
【0088】
吸光度の測定、および当該吸光度から基質(ポリオール)濃度への換算の手法としては、Lambert−Beerの法則を用いてポリオールの反応した量が求められる。したがって、下記式(5)および(6)により、吸光度Aを測定することで、媒質の長さb、モル吸光係数εのとき、ポリオールの溶液濃度(「c」mol/L)が計算され、ポリオールの分子量(M)、測定に使用した試料溶液量(「v」mL)により、ポリオールの量(「w」g)が計算される。
【0089】
【数1】

【0090】
なお、このとき、吸光度Aとしては、酵素反応前の溶液の吸光度A、酵素反応後の溶液の吸光度Aとしたとき、酸化型電子伝達体に特有の波長で測定した場合、A=A−Aであり、還元型電子伝達体に特有の波長で測定した場合、A=Aである。
【0091】
例えば、電子伝達体として、上述した、フェリシアン化カリウムを用いた場合、溶液中のフェリシアン化物イオンが還元されて、フェロシアン化物イオンが生成する。このとき、フェシリアン化物イオンに特有な吸収である420nmの吸光度を測定することで、溶液中のポリオール量が判断できる。また、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)を用いた場合、600nmの吸光度変化を測定することで、ポリオール量が計算できる。
【0092】
フェナジニウムメチルサルフェートおよびニトロテトラゾリウムブルー存在下で、酵素反応を行い、生成するホルマザン発色を測定することによっても定量することができる。また、本発明の効果が得られやすいとの観点から、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)と5−メチルフェナジニウムメチルサルフェートを用いて測定するのが好ましい。
【0093】
比色法によりポリオールを定量する場合、吸光度が1より小さい値になるよう測定する必要があるため、必要に応じて、ポリオールを含む試料や電子伝達体の濃度を希釈する。
【0094】
なお、ポリオールの定量時の溶液中のイオン性化合物、界面活性剤、電子伝達体、およびポリオール脱水素酵素の濃度は、上述したが、実施例を参照したり、従来公知の知見(例えば、特公平06−087793号公報、特許2825754号明細書などを適宜参照し、あるいは組み合わせたりすることで、調整することができる。
【0095】
以上、酸化型電子伝達体、還元型電子伝達体の吸光度を測定することにより基質濃度を算出する形態を例に挙げて説明したが、本実施形態の定量方法は、いずれの形態でもよく、特に制限されない。
【0096】
[比色法による定量キット]
続いて、他の物質に保持してなる定量キット(本発明の第2の比色法によるポリオールの定量キット)について説明を行う。
【0097】
本発明の第1の定量方法に用いられる各成分を液体に保持して、本発明の第2の定量キットとする場合、各成分を混合して反応させた後、色の変化を目視で判定するものであっても、分光光度計で透過吸光度を測定するものであってもよい。
【0098】
また、本発明の第1の定量方法に用いられる各成分を、本発明の第2の定量キットとする場合、ドライケミストリーで用いられるような、担体に保持する試験具としてもよい。ここで、担体に保持した状態で用いる場合には、計量層、展開層、濾過層、保持層等を含んでいてもよい。このように担体に保持して用いる場合には、検体を付与した後、色の変化を目視で判定する他、分光光度計で反射吸光度を測定するものであってもよい。なお、測定値は予め作製した検量線を用いて基質の量に換算することができる。
【0099】
担体の素材としては、紙、布帛、高分子膜等の多孔質物質を用いることができるが、特に、発色性能といった点で、高分子膜が好ましい。上記高分子膜とは、高分子よりなる水不溶性の多孔質体である。高分子としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロース、セルロースアセテート、硝酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールが挙げられる。これらの高分子は一般的に知られている製膜方法を用いて膜を形成することができる。これらの高分子膜の中でもポリスルホンまたはポリエーテルスルホンが、発色性能といった点で、特に好ましい。
【0100】
担体に保持する方法にも特に制限はないが、担体に適当な溶剤(例えば、リン酸緩衝液、グリシルグリシン−NaOH緩衝液など)に溶解させた試薬組成物(本発明のイオン性化合物、界面活性剤、電子伝達体、本発明のポリオール脱水素酵素など)の溶液を担体にコーティングする他、試薬組成物を含むマトリックス前駆体を成型して試験層を形成させる等の公知の方法が用いられうる。コーティングは、工業用に使用される一般的なコート法を用いることができるが、担体が多孔質の場合には、しばしば塗工直後の液移動や不均一な乾燥に起因するコートむらが問題となる。担体と塗工液の物性や、塗工乾燥の方法、機器、条件がこれらを支配する重要因子となりうる。このため、精密印刷法が有効な場合もある。
【0101】
本実施形態においては、試料中のポリオールを、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはフラビンモノヌクレオチドを含むポリオール脱水素酵素と反応させることによって定量するに際し、特定のイオン性化合物の存在下で行うため、より速度や精度が向上した、比色法によるポリオールの定量方法および定量キットを提供することができる。
【0102】
本発明の実施形態の試験具は、中性脂肪試験具、グリセロール試験具等の従来公知の試験具に適用することが可能である。
【0103】
[電気化学反応による定量]
続いて、本発明の第1のポリオールの定量方法および本発明の第2のポリオールの定量キットを、電気化学反応による定量について説明を行う。無論、以下の実施形態に限定されないのは言うまでもない。
【0104】
本発明の第1は、試料中のポリオールを定量する方法であって、本発明のイオン性化合物、界面活性剤および電子伝達体の存在下、ポリオールに、本発明のポリオール脱水素酵素を反応させる、ポリオールの定量方法である。本発明の第1の定量方法は、用いられる上述した各成分を定量用の反応溶液に保持して、試料を添加すると、測定溶液中で所望の成分(基質)は、測定溶液に含まれる本発明のポリオール脱水素酵素の作用によって酸化され、自身の酸化と同時に電子を放出する。基質(ポリオール)から放出された電子は、電子伝達体に捕捉され、これに伴って電子伝達体は酸化型から還元型へと変化する。すなわち、試料を反応溶液に添加後、測定溶液を所定時間放置することにより、本発明のポリオール脱水素酵素によって基質が完全に酸化され、一定量の電子伝達体が酸化型から還元型へと変換される。
【0105】
基質と本発明のポリオール脱水素酵素との反応を完結させるための放置時間については特に制限はないが、試料添加後、通常は1秒〜5分間、好ましくは3秒〜3分間、測定溶液を放置すればよい。
【0106】
その後、還元型の電子伝達体を酸化する目的で、電極を介して、作用極と対極との間に、所定の電位を印加する。これにより、還元型の電子伝達体が電気化学的に酸化され、酸化型へと変換される。この際に測定される(以下、「酸化電流」とも称する)の値から、電位印加前の還元型の電子伝達体の量が算出され、さらに、本発明のポリオール脱水素酵素と反応した基質の量が定量されうる。酸化電流を流す際に印加される電位の値は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜調節されうる。一例を挙げると、−200〜700mV程度、好ましくは0〜500mVの電位を、対極4と作用極2との間に印加すればよい。電位を印加するための電位印加手段についても特に制限はなく、従来公知の電位印加手段が適宜用いられうる。
【0107】
酸化電流値の測定、および当該電流値から基質濃度への換算の手法としては、所定の電位を印加してから一定時間後の電流値を測定するクロノアンペロメトリー法が用いられてもよいし、クロノアンペロメトリー法による電流応答を時間で積分して得られる電荷量を測定するクロノクーロメトリー法が用いられてもよい。簡単な装置系により測定されるという点で、クロノアンペロメトリー法が好ましく用いられうる。
【0108】
以上、還元型の電子伝達体を酸化する際の電流(酸化電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態を例に挙げて説明したが、場合によっては、還元されずに残存している酸化型の電子伝達体を還元する際の電流(還元電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態が採用されてもよい。
【0109】
本実施形態の定量方法は、いずれの形態で使用してもよく特に制限されない。例えば、使い捨て用途としてのディスポーザブルタイプのバイオセンサの定量方法として、少なくとも電極部分を人体に埋め込んで連続的に所定の値を測定するためのバイオセンサの定量方法など、様々な用途に使用できる。
【0110】
本実施形態においては、試料中のポリオールを、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはフラビンモノヌクレオチドを含むポリオール脱水素酵素と反応させることによって定量するに際し、特定のイオン性化合物の存在下で行うため、より速度や精度が向上した、電気化学反応によるポリオールの定量方法および定量キットを提供することができる。
【0111】
本発明の実施形態の試験具は、中性脂肪試験具、グリセロール試験具等の従来公知の試験具に適用することが可能である。
【0112】
本発明の効果を以下に纏める。
【0113】
本発明においては、ポリオール脱水素酵素に、特定のイオン性化合物を添加することで、グルコースとの反応性を選択的に抑制することができるため、測定値に対するグルコース濃度の影響をほとんど無くすかまったく無くす。よって、どのような血糖値であっても、本発明のポリオールの定量方法を用いることで、所定の測定値が得られ、測定値のばらつきがほとんど生じない。
【実施例】
【0114】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0115】
下記の方法でPQQ依存性ポリオール脱水素酵素(PQQ依存性PDH)を調製した。
【0116】
〔PQQ依存性ポリオール脱水素酵素(PQQ依存性PDH)の調製〕
ソルビトール 1.5g/100mL、グルコン酸ナトリウム 0.5g/100mL、酵母エキス 0.3g/100mL、肉エキス 0.3g/100mL、コーンスティープリカー 0.3g/100mL、ポリペプトン 1g/100mL、尿素 0.1g/100mL、KHPO 0.1g/100mL、MgSO・7HO 0.02g/100mL、およびCaCl・2HO 0.1g/100mLからなり、塩酸でpHを5.5に調整した培地100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
【0117】
上記培地に、種菌として、グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)NBRC3291を一白金耳植菌し、30℃で24時間、140min−1で振とう培養し、これを種培養液とした。
【0118】
次に、上記と同じ組成で調製した培地5Lを8L容ジャーファーメンターに移し、121℃で50分間オートクレーブを行い、放冷後、種培養液240mLを移した。これを、400rpm、通気量5L/min、30℃の条件で26時間培養した。
【0119】
所定時間培養した後、この培養液を遠心分離(8,000×g、10分、4℃)して集菌し、緩衝液で懸濁後、フレンチプレスにより菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(4,000×g、10分、4℃)し、得られた上清を超遠心分離(40,000rpm、90分、4℃)して、膜画分を沈殿物として得た。
【0120】
この膜画分を10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で懸濁し、終濃度が0.5g/100mLとなるようにTriton(登録商標)X−100を加え、4℃で2時間撹拌した。超遠心分離(40,000rpm、90分、4℃)し、上清を0.1g/100mL Triton(登録商標)X−100を含む10mM MOPS−NaOH緩衝液(pH7.5)で一晩透析し、これを可溶化膜画分とした。
【0121】
得られた可溶化膜画分をFPLC(Fast Protein Liquid Chromatography)にてResourceQ 6mLを精製し、ポリオール酵素活性画分を得た。なお、この精製操作により得られたポリオール脱水素酵素は、グリセロール活性100U、グルコース活性は1Uであった。この画分を0.05g/100mL ショ糖脂肪酸エステル[サーフホープ(商品名) J−1216]を含む10mM グリシルグリシン−NaOH緩衝液(pH 7.5)で一晩透析することにより、蛋白濃度2mg/mL、比活性30U/mg蛋白の酵素標品を得た。これをPQQ依存性PDH溶液と称する。得られたPQQ依存性PDH溶液(蛋白濃度2mg/mL、比活性30U/mg蛋白) を限外ろ過(分画分子量:50,000)し、蛋白濃度が5mg/mL以上となるように濃縮した。濃縮後、ローリー法(BIO RAD社製、DC protein assay)により蛋白濃度を測定した。測定後、10mM グリシルグリシン−NaOH緩衝液(pH 7.5)を加えることにより、PQQ依存性PDH溶液中の蛋白濃度を5mg/mLに調整した。
【0122】
<阻害剤(イオン性化合物)の検討>
イオン性化合物を添加したポリオール脱水素酵素の溶液と、イオン性化合物未添加のポリオール脱水素酵素の溶液とを用いて、グルコースまたはグリセロールとの酵素活性を測定し、イオン性化合物の酵素活性の阻害率を求めた。なお、阻害率は、阻害剤を含まない場合の酵素活性を100%として求めた。
【0123】
〔グルコースとの反応の阻害剤(イオン性化合物)の検討〕
終濃度で50μM DCIP(2,6−ジクロロフェノールインドフェノール)、0.2mM PMS(5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート)、0.35質量% グルコース(350mg/dl:高血糖値)および表1に記載の0.35質量% 阻害剤(イオン性化合物)を含んだ50mM グリシルグリシン−NaOH緩衝液(pH 7.5)1180μL中に、ポリオール脱水素酵素の調製にて調製した酵素溶液の原液を20μL加えた。この溶液中の酵素と基質の反応をDCIPの600nmの吸光度変化によって追跡し、その吸光度の減少速度を酵素の反応速度とした。ここで、1分間に1μmolのDCIPが還元される酵素活性を1単位(U)とした。なお、DCIPのpH 7.5におけるモル吸光係数は16.3mM−1とした。阻害剤(イオン性化合物)の代わりに50mM グリシルグリシン−NaOH緩衝液(pH 7.5)を加えた場合の酵素活性を100%とし、阻害率を求め、結果を表1に示した。
【0124】
〔グリセロールとの反応の阻害剤(イオン性化合物)の検討〕
終濃度で50μM DCIP(2,6−ジクロロフェノールインドフェノール)、0.2mM PMS(5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート)、0.35質量% グリセロールおよび表1に記載の0.35質量% 阻害剤(イオン性化合物)を含んだ50mM グリシルグリシン−NaOH緩衝液(pH 7.5)1180μL中に、ポリオール脱水素酵素の調製例にて調製した酵素溶液20μLを、グリシルグリシン−NaOH緩衝液(pH 7.5)で50倍希釈した酵素溶液20μLを加えた。なお、上述の酵素活性の測定方法により測定する場合、当該酵素溶液のグルコースへの活性が、グリセロールへの活性の1%(当該酵素溶液の酵素活性:グリセロール100U、グルコース1U)であるため、グリセロールとの反応の測定には、酵素溶液を50倍希釈して測定を行った。
【0125】
この溶液中の酵素と基質の反応をDCIPの600nmの吸光度変化によって追跡し、その吸光度の減少速度を酵素の反応速度とした。ここで、1分間に1μmolのDCIPが還元される酵素活性を1単位(U)とした。なお、DCIPのpH 7.5におけるモル吸光係数は16.3mM−1とした。阻害剤(イオン性化合物)の代わりに50mM グリシルグリシン−NaOH緩衝液(pH 7.5)を加えた場合の酵素活性を100%とし、阻害率を求め、結果を表1に示した。
【0126】
【表1】

【0127】
表1から明らかなように、全ての実施例において、グルコースとの反応の阻害率が40%を超えている。また、全ての実施例において、グリセロールとの反応の阻害率は、グルコースとの反応の阻害率と比較して低い値となっている。また、特に、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、ピルビン酸カルシウムおよびプロタミン硫酸塩を阻害剤とした場合は、グリセロールとの反応をある程度維持して、グルコースとの反応を抑制しており、阻害率が高いことが確認された。このことから、本発明のイオン性化合物を添加することで、酵素とグルコースとの反応が選択的に抑制されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群より選択される陽イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、ピルビン酸イオン、プロピオン酸イオン、コハク酸イオンおよびクエン酸イオンからなる群より選択される陰イオンとを含む塩、アルギニン塩酸塩並びにプロタミン硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一つのイオン性化合物(ただし、硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムは除く)、界面活性剤並びに電子伝達体の存在下、
ポリオールを、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはフラビンモノヌクレオチドを含むポリオール脱水素酵素と反応させることを含む、ポリオールの定量方法。
【請求項2】
前記イオン性化合物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、ピルビン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、アルギニン塩酸塩およびプロタミン硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の定量方法。
【請求項3】
前記イオン性化合物が、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、ピルビン酸カルシウムまたはプロタミン硫酸塩である、請求項1に記載の定量方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤または両性界面活性剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項5】
前記界面活性剤が、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−オクチル−β−D−チオグルコシドおよびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項4に記載の定量方法。
【請求項6】
前記電子伝達体が、フェナジニウムメチルサルフェート、5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート、フェリシアン化カリウム、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)−4−ニトロソアニリン、p−ニトロソアンニリンおよびp−ベンゾキノン−ジオキシムからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項7】
前記ポリオールが、グリセロール、ソルビトール、マンニトールまたはアラビトールである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項8】
前記ポリオール脱水素酵素が、グルコノバクター属に属する細菌から得られる、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項9】
前記ポリオールを比色法によって定量する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項10】
前記ポリオールを電気化学反応によって定量する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の定量方法
【請求項11】
ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群より選択される陽イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、ピルビン酸イオン、プロピオン酸イオン、コハク酸イオンおよびクエン酸イオンからなる群より選択される陰イオンとを含む塩、アルギニン塩酸塩並びにプロタミン硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一つのイオン性化合物(ただし、硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムは除く)と、
界面活性剤と、
電子伝達体と、
少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはフラビンモノヌクレオチドを含むポリオール脱水素酵素と、
を含む、ポリオールの定量キット。
【請求項12】
前記ポリオールを比色法によって定量する、請求項11に記載の定量キット。
【請求項13】
前記ポリオールを電気化学反応によって定量する、請求項11に記載の定量キット。

【公開番号】特開2011−211931(P2011−211931A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81468(P2010−81468)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】