説明

ポリオールエステルの色を明るくする方法

【課題】 色の明るいポリオールエステルの製造方法の提供。
【解決手段】
本発明は、ポリオールを炭素原子数3〜20の線状もしくは分枝状脂肪族モノカルボン酸と反応させることによってポリオールエステルの色を明るくする方法であって、反応生成物の仕上げを吸着剤の使用無しに行い、そして過酸化物化合物での処理及びその直後の水蒸気処理、その後の乾燥を含む、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオールエステルを過酸化物化合物で処理することによって、炭素原子数3〜20の線状もしくは分枝状脂肪族モノカルボン酸から得られるポリオールエステルの色を明るくする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオールエステルとも称される多価アルコールのエステルは、大規模に工業的に様々な用途に、例えば可塑剤または潤滑剤として使用されている。適当な原料化合物の選択によって、物理的な材料特性、例えば沸点または粘度を狙い通りに調節することができ、また化学的性質、例えば耐加水分解性及び酸化分解に対する安定性を考慮することができる。更にまた、ポリオールエステルを、具体的な応用技術的な問題の解決に対して目的通りに仕立てることができる。ポリオールエステルの使用についての詳しい概要は、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,1985,VCH Verlagsgesellschaft,Vol.A1,305−319頁(非特許文献1); Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 1990,Vol.A15,438−440頁(非特許文献2); Kirk Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,第3版,John Wiley & Sons,1978,Vol.1,778−787頁(非特許文献3); またはKirk Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology,1981,Vol.14,496−498頁(非特許文献4)に記載されている。
【0003】
潤滑剤としてのポリオールエステルの使用は工業的に非常に重要であり、これらは、特に、鉱油に基づく潤滑剤では課せられる要求を不完全にしか満たせないような使用分野において使用される。ポリオールエステルは、特に、タービンモータ油及び精密機械油として使用される。潤滑剤用途用のポリオールエステルは、しばしば、アルコール成分として、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、グリセリンまたはTCD−アルコールDMとも称される3(4),8(9)−ジヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02.6]デカンに基づく。
【0004】
ポリオールエステルは、可塑剤としてもかなりの規模で使用されている。可塑剤は、プラスチック、コーティング材、シール剤、弾性ゴム及びゴム物品中に様々な用途に使用されている。これらは、化学的に反応すること無しに、好ましくはそれらの溶解挙動及び膨潤挙動によって、高分子量熱可塑性物質と物理的な相互作用を起こす。それによって、元のポリマーと比べて熱可塑性範囲がより低い温度にシフトした均一な系が生じ、中でもその結果、それの機械的な性質が最適化され、例えば変形可能性、弾性、強度が高まりそして硬度が低下する。
【0005】
可塑剤にできるだけ広い応用範囲を開くために、これらは一連の基準を満たさなければならない。理想的には、これらは、臭いが無く、無色であり、耐光性、耐低温性及び耐熱性であるのがよい。更に、これらが、水に対して敏感でなく、燃えにくくかつ揮発性が僅かであること、及び健康を害さないことが期待される。また更に、可塑剤は簡単に製造できるべきであり、かつその製造は、生態学的な要求を満たすために、廃棄残留物、例えば再利用できない副生成物や有害物質を含む廃水を避けて行われるべきである。
【0006】
ポリオールエステルの特殊な部類(簡略してG−エステルとも称される)は、アルコール成分として、ジオールまたはエーテルジオール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール及びより高級のプロピレングリコールを含む。それらの製造は、様々な方法で行うことができる。場合により酸性触媒の存在下でのアルコールと酸との反応の他に、実際では、G−エステルを得るための更に別の方法、中でもジオールと酸ハロゲン化物との反応、カルボン酸エステルとジオールとの反応、及びカルボン酸へのエチレンオキシドの付加反応(エトキシル化)が使用される。工業的な製造では、ジオールとカルボン酸との直接的な反応及びカルボン酸のエトキシル化だけが製造方法として確立しており、この際、大概は、ジオールと酸のエステル化が優勢である。というのも、この方法は、慣用の化学装置中でそれ程の煩雑さ無しで行うことができ、そしてこれは化学的に均一な生成物を与えるからである。これと比べて、エトキシル化は大規模でコスト集約的な技術的な手段を必要とする。エチレンオキシドは非常に反応性の高い化学物質である。これは爆発的に重合し、そして非常に広い混合範囲において空気と爆発性の混合物を形成する。エチレンオキシドは目及び気道を刺激し、化学熱傷を招き、肝臓及び腎臓にダメージを与え、そして発がん性である。それ故、それの取り扱いは、大規模な安全措置を必要とする。更に、エチレンオキシドと異物との副反応による不所望な不純物の形成を排除するために、貯蔵設備及び反応装置の細心の清潔さに注意を払わなければならない。最後に、エチレンオキシドとの反応は選択性があまり高くなく、それでこれは異なる鎖長の複数種の化合物の混合物を与える。
【0007】
アルコールとカルボン酸との直接的なエステル化は、有機化学の基本的な作業に属する。反応速度を高めるために、通常、反応は触媒の存在下に行われる。反応体の過剰使用及び/または反応の過程で生ずる水の分離が、質量作用の法則に応じて平衡を、反応生成物側、すなわちエステル側へとシフトさせる、すなわち高い収量が達成されることを保証する。
【0008】
多価アルコールのエステル(エチレングリコールと脂肪酸とのエステルも含まれる)の製造について及びこれらの部類の化合物の選択された代表物の性質に関しての包括的な情報は、Goldsmith,Polyhydric Alcohol Esters of Fatty Acids,Chem.Rev.33,257頁以降(1943)(非特許文献5)に記載されている。例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びポリエチレングリコールのエステルの製造は、130〜230℃の温度において2.5〜8時間の反応時間で行われる。反応水を除去するためには、二酸化炭素が使用される。多価アルコールのエステル化に適した触媒としては、無機酸、酸性の塩、有機スルホン酸、アセチルクロライド、金属または両性金属酸化物が挙げられる。反応水の除去は、同伴剤(Schleppmittel)、例えばトルエンもしくはキシレンを用いてまたは不活性ガス、例えば二酸化炭素もしくは窒素を導入して行われる。
【0009】
ポリエチレングリコールの脂肪酸エステルの取得及び性質についてはJohnson(編者),Fatty Acids in Industry (1989)第9章, Polyoxyethylene Esters of Fatty Acid(非特許文献6)に論じられており、製造に関する一連の示唆が記載されている。より高いジエステル濃度は、グリコールに対するカルボン酸のモル比を高めることによって達成される。反応水の除去のための適当な方策は、水と不混和性の溶剤の存在下での共沸蒸留、不活性ガスの導通下での加熱、または乾燥剤の存在下に減圧下での反応の実施である。触媒の添加を無しで済ませる場合には、より長い反応時間及びより高い反応温度が必要となる。これらの両反応条件は触媒の使用によって軽減することができる。硫酸の他に、p−トルエンスルホン酸などの有機酸、並びにポリスチレンタイプのカチオン交換体が好ましい触媒である。錫や鉄などの金属粉末の使用も記載されている。米国特許第2,628,249号明細書(特許文献1)からの教示によると、硫酸またはスルホン酸を用いた触媒反応の際の色の問題は、活性炭の存在下に作業すると軽減できる。
【0010】
触媒を添加せずにジエチレン−及びトリエチレングリコールとカプリル酸とのエステルを製造する方法は、米国特許第2,469,446号明細書(特許文献2)から知られている。エステル化温度は270〜275℃の範囲であり、反応水は二酸化炭素流によって除去される。
【0011】
触媒の添加を無しで済ませて反応を実施する場合は、一般的に、それの酸性度のために触媒としても作用する各カルボン酸をモル過剰量で使用して作業する。
【0012】
ポリオール及びカルボン酸からエステルを形成する際に生ずる反応水の分離のためには、様々な方法が知られている。例えば、生成した反応水は、過剰のカルボン酸と一緒に反応容器から留去し、そして下流の相分離器に送り、そこでカルボン酸と水とが、それらの溶解性に応じて分離する。場合によっては、使用したカルボン酸が反応条件下に水と共沸混合物も形成し、同伴剤として反応水を除去することができる。また、添加した水と不混和性の溶剤の存在下での共沸蒸留、不活性ガスの導通下での反応混合物の加熱、減圧下または乾燥剤の存在下での原料のポリオール及びカルボン酸の反応も使用される。特に、共沸蒸留による水の除去が、ポリオールエステルの製造の際の平衡の調節にとって有効であることが判明した。独国特許出願公開第19940991A1号明細書(特許文献3)から既知の方法手順では、同伴剤として機能しそして112℃未満の沸点を持たなければならない水と不混和性の溶剤が、少なくとも140℃の温度に達してから始めて反応混合物に加えられる。
【0013】
工業的なプロセスでは、相分離器中の水及びカルボン酸からなる分離された混合物は、有機及び水性相に分離され、水性相は排出され、そしてカルボン酸は再びエステル化反応にリサイクルされる。粗製エステルの仕上げのためには、例えば、米国特許第5,324,853A1号明細書(特許文献4)は、窒素または水蒸気を導通することによって過剰のカルボン酸を除去し、吸着剤を加え、残留有機酸を塩基で中和し、そして生じた固形物を濾別することを提案している。濾液中に存在する酸の残留量を、水蒸気または窒素を導通し、これと同時に負圧を適用して除去し、そして再びエステル化反応にリサイクルする。減圧処理の間に生ずる固形物は最後の精密濾過で除去する。添加した吸着剤、例えば活性炭は、中でも、ポリオールエステルの色を向上する働きを持つ。
【0014】
米国特許第2,469,446A1号明細書(特許文献2)から知られる作業方法では、反応水及び過剰の未反応の原料化合物、例えばカルボン酸の分離の後に生ずる粗製エステルを、先ず、酸性成分の最後の残渣を除去するために、アルカリ剤、例えば炭酸ナトリウム水溶液または水酸化ナトリウム水溶液で処理する。水洗、漂白土及び活性炭での処理の後に、臭いを与える物質の最後の痕跡量を除去するために、高められた温度下に減圧を適用することができる。場合によっては、漂白剤及び活性炭での処理を、十分な色特性を有するポリオールエステルを製造するために何度も繰り返すことができる。
【0015】
粗製エステルの色の向上のための処置、例えば酸化、例えば過酸化水素またはオゾンを用いた酸化、並びに活性炭の吸着は、一般的な技術水準、例えば、H.Suter,Phthalsaeureanhydrid und seine Verwendung,Dr.Dietrich Steinkopf Verlag,Darmstadt 1972(非特許文献7)から知られている。ポリオールに基づくエステル化合物の色を向上するために、国際公開第94/18153A1号パンフレット(特許文献5)は、過酸化水素水溶液で後処理することを提案している。色を明るくするためのオゾンの作用は、例えば独国特許出願公開第2729627A1号明細書(特許文献6)に論じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第2,628,249号明細書
【特許文献2】米国特許第2,469,446号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第19940991A1号明細書
【特許文献4】米国特許第5,324,853A1号明細書
【特許文献5】国際公開第94/18153A1号パンフレット
【特許文献6】独国特許出願公開第2729627A1号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,1985,VCH Verlagsgesellschaft,Vol.A1,305−319頁
【非特許文献2】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 1990,Vol.A15,438−440頁
【非特許文献3】Kirk Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,第3版,John Wiley & Sons,1978,Vol.1,778−787頁
【非特許文献4】Kirk Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology,1981,Vol.14,496−498頁
【非特許文献5】Goldsmith,Polyhydric Alcohol Esters of Fatty Acids,Chem.Rev.33,257頁以降(1943)
【非特許文献6】Johnson(編者),Fatty Acids in Industry (1989)第9章, Polyoxyethylene Esters of Fatty Acid
【非特許文献7】H. Suter, Phthalsaureanhydrid und seine Verwendung, Dr. Dietrich Steinkopf Verlag, Darmstadt 1972
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
冒頭に述べたポリオールエステルの品質基準の故に、反応水を除去しながらのエステル化段階及び粗製エステルの仕上げの際の方法ステップは非常に重要なプロセス上の特徴である。というのも、この方法ステップの調整は、本質的な程度で最終製品の感覚的性質及び外観上の性質に影響を及ぼすからである。特に、ポリオールエステルの色特性、例えば低い色数及び高い色安定性に高い要求が課せられる。これに対して、原料、すなわち多価アルコール及び酸の構造は、そのポリオールエステルを用いて可塑化されたプラスチック材料の機械的及び熱的特性にとって重要であり、そして潤滑剤の加水分解及び酸化安定性に影響を及ぼす。
【0019】
色を向上するための粗製ポリオールエステルの仕上げの際の吸着剤、例えば活性炭、高表面積ポリケイ酸、例えばシリカゲル(シリカ−キセロゲル)、珪藻土、高表面積酸化アルミニウム類及び酸化アルミニウム水和物類、鉱物性材料、例えば粘土または炭酸塩での処理は慣用の方法であるが、これは、追加的な濾過段階を必要とし、これは、工業的に行われる方法ではかなりの煩雑さを意味する。同様に、価値の高い製造物が濾過装置中に及び吸着材上にくっついたまま残り、そうして追加的な濾過段階において価値の高い製造物が失われる。
【0020】
色を向上するための過酸化水素での処理も問題があることが判明し得る。なぜならば、ポリオールエステルの処理中に有機過酸化物が形成する恐れがあるからである。過酸化物の痕跡量は、可塑化されたプラスチック生産物の並びにポリオールエステルに基づいて製造された潤滑剤のエステル品質及び応用技術的な性質を低下させる。過酸化物の痕跡は、ポリオールエステルの貯蔵挙動も害し、そして貯蔵中に、空気などの酸化剤の排除にも拘わらず、過酸化物価の増加が観察される。過酸化物価の低下のためには、従来技術では、追加的に還元剤で処理することが提案されている。この方法は確かに過酸化物価の低下を可能にするが、この処置は、還元剤を供しそしてその使用の後に再び分離しなければならないという追加の工程を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
過酸化物化合物で処理し、その直後に更なる中間段階無しで水蒸気で処理を行い、最後にポリオールエステルを乾燥すると、過酸化物化合物での粗製ポリオールエステルの処理の際に、吸着剤を使用せずに色の明るい生成物を得られることがここに見出された。この際、上記の処理の間の条件は、例えば使用するべき温度、時間または適用すべき圧力は、個々のポリオールエステルに合わせて調節される。
【0022】
驚くべきことに、この作業方法において、非常に低い過酸化物価を有する色の明るいポリオールエステルが得られ、この過酸化物価は、それ自体、より長い貯蔵期間にわたって安定しており、上昇しない。
【0023】
それ故、本発明は、ポリオールを炭素原子数3〜20の線状もしくは分枝状脂肪族モノカルボン酸と反応させ、次いで吸着剤を使用せずに反応混合物を仕上げすることによって、ポリオールエステルの色を明るくする方法である。この方法は、未反応の原料化合物の分離の後に、反応生成物を過酸化物化合物で処理し、その後直接、更なる中間段階無しで、水蒸気処理を行い、そして後に残ったポリオールエステルを乾燥することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0024】
該新規作業方法は、実験室及び試験での作業でばかりでなく、中でも工業的なプラントでの大きな信頼性を特色とする。該方法は、連続的にも簡単に行うことができ、高い純度のポリオールエステルを与える。過酸化物化合物で粗製エステルを処理し、その後直接水蒸気処理及び更に乾燥を行うことにより、ポリオールエステルの優れた色特性及び顕著な色安定性が得られ、これは、加えて、低い過酸化物価しか持たない。過酸化物価は、より長い貯蔵期間にわたっても安定して低いレベルにとどまる。
【0025】
未反応の原料化合物の分離の後に生ずる粗製エステルの処理のためには、過酸化物化合物として、過酸化水素、有機過カルボン酸、例えば過酢酸もしくは過プロピオン酸、有機ヒドロペルオキシド、例えばクメンヒドロペルオキシドもしくはtert.−ブチルヒドロペルオキシド、アルカリ−もしくはアルカリ土類金属過ホウ酸塩、アルカリ−もしくはアルカリ土類金属過炭酸塩、アルカリ−もしくはアルカリ土類金属ペルオキソジスルフェート、またはアルカリ−もしくはアルカリ土類金属ペルオキソホスフェートが適している。
【0026】
特に適したものは、過酸化水素水溶液、液状有機過カルボン酸または有機ヒドロペルオキシドであり、これらは、簡単に蒸留によって分離することができる。固形の形態もしくは水溶液としてのいずれかでの塩様の過酸化物アルカリ−もしくはアルカリ土類金属化合物の使用は排除されないが、僅かな例外的なケースに限られる。というのも、これら及びそれらの反応生成物は固形物質として存在するかまたは粗製エステルの仕上げの間に沈降し、そして追加的な濾過段階によって分離しなければならないからである。
【0027】
特に、過酸化水素含有率が10重量%超、好ましくは30〜50重量%の水溶液の形の過酸化水素が適している。有効成分の含有率がこれより低い過酸化水素溶液は、次いで再び除去しなければならない導入される水の量が多すぎて、推奨できない。過酸化水素濃度が高すぎる場合には、煩雑で費用のかさむ安全措置を取り扱いの際に守らなければならない。
【0028】
処理すべき粗製エステルには、全混合物中の有効成分含有率が0.03〜1.0重量%、好ましくは0.08〜0.3重量%になるような量で過酸化物化合物を添加する。有効成分濃度が低すぎる場合には、十分な品質を有する色の明るいポリオールエステルを得るためには、脱色力は不十分なものとなる。有効成分濃度が高すぎる場合には、エステル化合物の不制御の分解反応が予期され得る。
【0029】
過酸化物化合物での処理は、一般的に、高められた温度、好ましくは70〜160℃の温度、好ましくは100〜120℃の温度で行われ、この際、低温、例えば室温またはそれ以下の温度も排除されない。処理時間は広い範囲で選択することができる。処理時間は短すぎても長すぎてもならず、簡単な予備実験で求めることができる。一般的に、処理時間は0.5〜4時間である。より短い処理時間では、色数へのプラスの作用は観察されず、長すぎる処理時間では、使用された水及び酸化剤の故に、ポリオールエステル骨格の増強されたエステル解裂及び不制御の分解の恐れがある。同様に、長すぎる処理時間では、反応器体積が不要に占領される。
【0030】
過酸化物化合物での処理の個々の条件は、一方では最適な脱色を達成するために、他方ではポリオールエステルの分解反応をできるだけ避けるために、個々のポリオールエステルに合わせて調節される。特にエーテルジオール類、例えばトリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコールに基づくポリオールエステルの場合には、過酸化物化合物での処理の際の条件、例えば温度、作用時間及び濃度を個々のポリオールエステルに合わせて調節していない場合には、エーテル骨格の増強された分解が起こる恐れがある。
【0031】
酸化処理の後に、粗製エステルは、更なる中間段階無しに、その後直接、水蒸気での処理に付され、これは、例えば、簡単な形では、粗製生成物中に水蒸気を導通することによって行うことができる。水蒸気処理の利点の一つは、それの過程において、過剰の過酸化物化合物が分解し、そして原料化合物の残渣が水蒸気により除去されることである。比較的多量のなおも存在する水も水蒸気処理によって追い出される。これと同時に、この処置によって、粗製エステルの色数及び色安定性も向上する。
【0032】
水蒸気処理は一般的に常圧で行われるが、軽い負圧、合目的的には400hPaまでの軽い負圧の使用は排除されない。水蒸気処理は、一般的に、100〜250℃、好ましくは150〜220℃、特に170〜200℃の温度で行われ、そして個々の場合に製造されるポリオールエステルの物理的な性質にも合わせられる。
【0033】
水蒸気処理の工程では、粗製エステル及び添加された過酸化物化合物からなる混合物を、水蒸気処理のために必要な温度に加熱するために、作業温度に到達するまでの加熱期間の間、なるべく穏やかに進行させることが有利であることが判明した。
【0034】
水蒸気処理の時間は、定型的な試験によって求めることができ、一般的にには0.5〜5時間の期間にわたり行われる。長すぎる水蒸気処理は、ポリオールエステルの望ましくない色数の上昇をまねき、それ故避けるべきである。ポリオールエステルの分解反応が増強されて酸反応性化合物になることも観察され、それの含有率は、中和価または酸価、例えばDIN EN ISO3682/ASTM D 1613に従い測定される中和価または酸価の上昇から示される。処理時間が短すぎる場合には、過剰の過酸化物化合物及び生じた痕跡量の有機過酸化物の分解が完全にならず、所望のポリオールエステルが、生成物1キログラム当たりの酸素のミリ当量で表されそしてASTM E 298に従い測定される、なおも高すぎる不所望な過酸化物価を示す。また、処理時間が短すぎる場合には、ポリオールエステルの色数に対する有利な効果が僅かとなることも観察される。
【0035】
過酸化物化合物での処理の場合と同様に、その直後の水蒸気処理の場合にも、ポリオールエステルの色数に関して最適な結果を達成し、原料化合物、水及び過酸化物の痕跡の残留含有量をできるだけ減らし、それと同時に分解反応を阻止するために、温度、圧力及び時間などの条件は個々のポリオールエステルに合わせて調節すべきである。特にエーテルジオール類、例えばトリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコールに基づくポリオールエステルの場合には、水蒸気処理の際の条件は、エーテル鎖の望ましくない分解を阻止するために、個々のポリオールエステルに合わせて精密に調節されるべきである。
【0036】
反応部から排出された水蒸気の凝縮後に生ずる、所望のポリオールエステルから分離された水蒸気蒸留物が、比較的高い過酸化物価を有することは注目されるべきことである。工業的な操業では、高い過酸化物価を有する多量の水蒸気及び蒸留物の発生は、安全技術的な理由から問題となることが分かり得る。というのも、設置されたカラム及び蒸留物受け器中に有機過酸化物及び場合によっては無機過酸化物が濃縮する恐れがあるからである。水及び未反応原料化合物を含み、また過酸化物も含まれる排出された水蒸気を、元素周期律表(IUPACレコメンデーション1985)の第9族〜第11族の貴金属、例えばパラジウムまたは白金と接触させることが有利であることが判明した。この処置によって、水蒸気中に存在する過酸化物化合物を分解することができる。この接触は、ガス状で、排出された水蒸気の温度において貴金属の存在下に行われ、これは、例えば、担持されているかまたは担持されていないことができる固定配置された商業的に入手可能な貴金属触媒上に水蒸気を通すことによって行われる。例えば、反応器部上に設置されたカラム部中に、織物状または多孔状構造、例えば長方形、ハニカム形、丸形またはその他の慣用の構造を有する固体内装品を装備することができる。この内装品には貴金属が付与されており、そしてそれのチャネル中を、粗製エステル中に通されそして今や排出されたガス状の負荷した水蒸気が通る。貴金属がキャリア上に担持されている場合には、貴金属触媒にとって工業的に慣用のキャリア、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、活性炭、二酸化チタンまたは二酸化ジルコニウムがそれの様々な形状において適している。
【0037】
貴金属からなる固形構成物、例えば織成物、ネット、編成物、線条、線状の玉状物(Knaeuel)またはスポンジもカラム部中に設けることができ、それにより、水蒸気で追い出された過酸化物化合物を分解する。
【0038】
過酸化物が富化されていることができる分離、凝縮された液状蒸留物も、なおも存在する過酸化物化合物の分解のために、元素周期律表の第9族〜第11族の貴金属で処理することができ、これは、例えば、固定配置してまたは懸濁状態で使用することができる商業的に入手可能な担持型または非担持型貴金属触媒を用いて自己発生した温度の下に行うことができる。貴金属からなる慣用の固形構成物、例えば織成物、編成物または線条、例えば白金ネットも、分離した液状蒸留物と接触させることができる。
【0039】
水蒸気処理の後は、ポリオールエステルの乾燥を行う。これは、例えば、高められた温度下に生成物中に不活性ガスを通すことによって行われる。高められた温度下に、同時に負圧を適用し、場合によっては及び不活性ガスを生成物中に導通することができる。不活性ガスを作用させることなく、高められた温度下だけでまたは低められた圧力下だけで作業することもできる。個々の場合の乾燥条件、例えば温度、圧力及び時間は簡単な予備試験によって求めることができ、個々のポリオールエステルに合わせて調節される。一般的に、80〜250℃の範囲、好ましくは100〜180℃の範囲の温度及び0.2〜500hPa、好ましくは1〜200hPa、特に1〜20hPaの圧力で作業する。乾燥の終了後、規格を満たす製品を得るために濾過段階を必要とすることなく、色の明るいポリオールエステルが残留物として得られる。僅かな例外的なケースでは、水蒸気処理の後にまたは乾燥の後に濾過段階が必要な場合がある。これは、例えば、エステル化反応の終了後にまたは未反応の原料化合物の分離の後に、すなわち反応混合物の仕上げの前に、固形の触媒残渣が完全に除去されていない場合がそうである。
【0040】
本発明方法の特別な形態の一つでは、水蒸気処理の後には、更なる中間段階無しに、後に残ったポリオールエステルの乾燥を直接行う。
【0041】
ポリオールと脂肪族モノカルボン酸との反応は、触媒を使用せずに行うことができる。この態様の反応は、ポリオールエステルの望ましくない汚染を招く恐れのある異物が反応混合物に導入されることが避けられるという利点を有する。しかし、この際、一般的に、より高い反応温度を維持しなければならない。なぜなら、そうしないと、十分な(すなわち、経済的に許容可能な)速度で反応が進行することが保証されないからである。これに関連して、温度の上昇は、ポリオールエステルの熱的ダメージを招く恐れがある点に注意するべきである。それ故、反応を容易にしそして反応速度を高める触媒の使用はいつも避けることができるわけではない。触媒は、しばしば、同時にポリオールの反応成分でもある過剰の脂肪族モノカルボン酸であることができ、そうして反応は自動触媒的に進行する。その他では、反応速度に影響を与えるためには慣用のエステル化触媒、例えば硫酸、ギ酸、ポリリン酸、メタンスルホン酸またはp−トルエンスルホン酸及び同様にこの種の酸の組み合わせが適している。同様に、金属含有触媒、例えばチタン、ジルコニウムまたは錫を含む触媒、例えば対応するアルコレートまたはカルボキシレートも使用できる。反応条件下に固形で反応系中に不溶性の触媒有効化合物、例えばアルカリ−またはアルカリ土類金属硫酸水素塩、例えば硫酸水素ナトリウムも使用できるが、固形の触媒の使用は僅かな例外的なケースに限られる。というのも、固形の触媒は、エステル化の終了後に、反応混合物から濾過しなければならないからである。場合によっては、固形の触媒の最後の残渣を除去するために、粗製ポリオールエステルの仕上げ中に更に、追加の精密濾過も必要である。使用される触媒の量は広い範囲に及ぶことができる。反応混合物を基準に0.001重量%または5重量%の触媒を使用することができる。しかし、より多い触媒量は殆ど利点を与えないため、触媒濃度は、それぞれ反応混合物を基準にして通常0.001〜1.0重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%である。場合によっては、触媒無しで比較的高い温度で作業すべきかまたは触媒を用いて比較的低い温度で作業すべきかを、個別のケースについて予備試験によって決定することが有利である。
【0042】
エステル化は、化学理論量のポリオール及び脂肪族モノカルボン酸を用いて行うことができる。しかし、好ましくは、触媒を添加せずに、ポリオールを過剰のモノカルボン酸と反応させて、過剰のモノカルボン酸自体を触媒として作用させる。一般的に使用するポリオールよりも低い沸点を有する過剰のモノカルボン酸は、簡単に蒸留により粗製エステルから分離することができ、そして濾過工程は、固形の触媒が避けられるために不要である。脂肪族モノカルボン酸は、ポリオールのエステル化するヒドロキシル基1モル当たり10〜50%モル過剰で、好ましくは20〜40%モル過剰で使用される。
【0043】
生成した反応水は、反応の過程で、過剰のモノカルボン酸と一緒に反応容器から留去され、そして後続の相分離器に導かれ、そこでモノカルボン酸と水とがそれらの溶解性に応じて分離する。場合によっては、使用したモノカルボン酸は反応条件下に水と共沸混合物も形成し、そして同伴剤として反応水を除去することを可能にする。水の収量から反応の進行を追跡することができる。分離した水はプロセスから除去され、他方、モノカルボン酸は相分離器から反応容器に再び返流する。共沸混合物形成剤の役割を担う更に別の有機溶剤、例えばヘキサン、1−ヘキセン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンまたはキシレン異性体混合物の添加は排除されないが、僅かな事例に限られる。共沸混合物形成剤は、エステル化反応の開始時に既にか、または比較的高い温度に達してから加えることができる。理論的に予測される水の量が発生したらまたは(例えばDIN53240に従い測定した)ヒドロキシル価が決められた値以下まで低下したら、反応混合物を冷却することによって反応を終了する。
【0044】
ポリオールと脂肪族モノカルボン酸との間の反応は、使用材料に応じて約120〜180℃の範囲で起こり、そして様々に構成された方法で完了させることができる。
【0045】
本発明方法の一つの形態では、反応水の除去を容易にするために、先ず室温から開始して最大280℃、好ましくは最大250℃までの温度に加熱し、そして一定に維持された温度の下で圧力を常圧から開始して段階的に低下させる。一段階か二段階かそれともそれ以上の多段階かの圧力段階の選択並びに各段階に調節すべき圧力の選択は広い範囲にわたって変えることができ、個々の条件に適合させることができる。例えば、第一段階において圧力を常圧から開始して先ず600hPaまで低め、次いで反応を300hPaの圧力で完了させることができる。これらの圧力の記載は、有利に遵守される基準値である。
【0046】
圧力を変化させる他、同様に温度も、エステル化反応中に室温から出発して一段階、二段階またはそれ以上の段階で変化させることができ、そうして一定に調節された圧力下に温度を段階毎に、通常は最大280℃の温度まで高める。しかし、段階毎に上昇する温度を最大で280℃まで加熱すること及び圧力も段階毎に低めることが適切であることが判明した。例えば、エステル化反応は、室温から開始して第一段階において190℃までの温度で行うことができる。同様に、反応水の排除を加速するために600hPaまでの低められた圧力が適用される。190℃の温度段階に達したら、圧力をもう一度300hPaまで下げ、そしてエステル化反応を250℃までの温度で終了させる。これらの温度及び圧力の値は、合目的的に遵守される基準値である。個々の段階において調節すべき温度及び圧力条件、段階の数、及び単位時間当たりの各々の温度上昇または圧力低下速度は幅広い範囲で変えることができ、そして原料化合物及び反応生成物の物理的性質に応じて適合され、この際、第一段階の温度及び圧力条件は常圧及び室温から出発して調節される。温度を二段階で高め及び圧力を二段階で低下させることが特に有利であることが判明した。
【0047】
調節すべき圧力の下限は、原料化合物及び生成した反応生成物の物理的性質、例えば沸点及び蒸気圧に依存し、そしてプラント装備によっても決定される。常圧から出発して、この限界値の範囲内で、段階毎に低下する圧力を用いて段階的に作業することができる。分解生成物の生成、中でも色を害する作用をする分解生成物の生成を避けるために、温度の上限、通常は280℃を遵守するべきである。温度段階の下限は反応速度によって決定され、この反応速度は、許容可能な時間内でエステル化反応を完了させるために十分に速いものでなければならない。この限界値の範囲内で、段階毎に高まる温度を用いて段階的に作業することができる。
【0048】
反応の終了後に生ずる反応混合物は、所望の反応生成物としてのポリオールエステルの他に、場合により、未反応の原料、特に、本発明方法の好ましい形態に従い酸過剰で作業した場合には、なおも過剰の脂肪族モノカルボン酸を含む。仕上げのためには、過剰の未反応の原料を留去し、これは合目的的には低められた圧力の適用下に行われる。酸性触媒をエステル化段階に加えた場合には、このような酸性触媒、例えば溶解した硫酸または固形の硫酸水素カリウムを除去するため及び酸性成分の最後の残渣を除去するためには、アルカリ剤、例えば炭酸ナトリウム水溶液または水酸化ナトリウム水溶液での処理または例外的なケースでは濾過も設けることができる。
【0049】
その後、未反応の原料化合物及び場合によっては使用された触媒が除去された粗製エステルを、過酸化物化合物での処理、その直後の水蒸気処理及び最後の乾燥を含む本発明の処置に従い仕上げし、この際、仕上げ中の慣用の吸着剤、例えば活性炭、高表面積ポリケイ酸、例えばシリカゲル(シリカゲル−キセロゲル)、珪藻土、高表面積酸化アルミニウム類及び酸化アルミニウム水和物類、鉱物材料、例えば粘土または炭酸塩の使用は無しで済ませられる。吸着剤の使用無しに、十分に低い過酸化物価を有する色の明るいポリオールエステルが得られ、これは、他の規格、例えば含水率、残留酸含有率及びモノエステルの残留含有率も満たす。精製されたポリオールエステルは、乾燥中に、優れた品質をもって反応容器中に残渣として残り、そして追加の濾過段階は通常は必要ではなく、僅かな例外的なケースに限られる。
【0050】
本発明方法に原料して使用される多価アルコールまたはポリオールは以下の一般式(I)を満たす。
R(OH)(I)
式中、Rは、炭素原子数2〜20、好ましくは2〜10の脂肪族または環状脂肪族炭化水素残基を意味し、そしてnは2〜8の整数、好ましくは2、3、4、5または6を意味する。
【0051】
同様に以下の一般式(II)の化合物もポリオールとして適している。
H−(−O−[−CR−]−)−OH (II)
式中、R及びRは、互いに独立して、水素、炭素原子数1〜5のアルキル基、好ましくはメチル、エチルもしくはプロピル、または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基、好ましくはヒドロキシメチル基を意味し、mは1〜10の整数、好ましくは1〜8の整数、特に1、2、3または4を意味し、oは2〜15の整数、好ましくは2〜8の整数、特に2、3、4または5を意味する。
【0052】
本発明方法に従い明るい色のポリオールエステルに転化することができるポリオールとしては、例えば1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジメチロールブタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジ−トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ペンタエリトリトールもしくはジ−ペンタエリトリトール、または3(4),8(9)−ジヒドロキシメチル−トリシクロ[5.2.1.02.6]デカンが適している。
【0053】
更に別のポリオールとしては、エチレングリコール及び1,2−プロピレングリコール及びそれらのオリゴマー、特にエーテルジオールであるジ−、トリ−及びテトラエチレングリコールまたはジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールまたはテトラプロピレングリコールが挙げられる。エチレン−及びプロピレングリコールは工業的に生産されている化学品である。それらの製造のための基本物質はエチレンオキシド及びプロピレンオキシドであり、これらから、圧力下に水と一緒に加熱することによって1,2−エチレングリコール及び1,2−プロピレングリコールが得られる。ジエチレングリコールは、エチレングリコールからエトキシル化することによって得られる。トリエチレングリコール並びにテトラエチレングリコールは、エチレングリコールを製造するためのエチレンオキシドの加水分解の際に副生成物として生ずる。これらの両化合物は、エチレングリコールをエチレンオキシドと反応させることによっても合成することができる。ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール及びより高級のプロポキシル化生成物は、1,2−プロピレングリコールにプロピレンオキシドを複数回付加して得ることができる。
【0054】
本発明方法に従い明るい色のポリオールエステルを得るためには、分子中に3〜20個の炭素原子を有する線状もしくは分枝状の脂肪族モノカルボン酸を使用する。多くの場合に飽和酸が好ましいが、可塑剤または潤滑剤の個々の使用分野に依存して、不飽和カルボン酸もエステル合成のための反応成分として使用することができる。ポリオールエステルの構成要素としてのモノカルボン酸の例は、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−ペンタン酸、2−メチル−酪酸、3−メチル酪酸、2−メチルペンタン酸、n−ヘキサン酸、2−エチル酪酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸、2−エチルヘキサン酸、n−ノナン酸、2−メチルオクタン酸、イソノナン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、2−プロピルヘプタン酸、2−メチルウンデカン酸、イソウンデカンカルボン酸、トリシクロデカンカルボン酸及びイソトリデカンカルボン酸である。該新規方法は、モノエチレングリコールもしくはオリゴマー性エチレングリコール並びに1,2−プロピレングリコールもしくはオリゴマー性プロピレングリコールとC〜C13−もしくはC〜C10−モノカルボン酸とのポリオールエステルの製造に、並びに1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、トリメチロールプロパン、ジ−トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトールまたは3(4),8(9)−ジヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02.6]デカンに基づくポリオールエステルの製造のために特に有効であることが判明した。
【0055】
エチレングリコール並びにそれのオリゴマーのポリオールエステルは、全ての慣用の高分子量熱可塑性物質用の可塑剤として優れて適している。これは、特に、多層もしくは複合ガラスの製造のための中間層としてグリコールエステルと混合して使用されるポリビニルブチラールへの添加剤として有効であることが判明した。これらは、同様に、コーティング材として様々な用途がある、プラスチックの水性分散体中の凝集剤(Koaleszenzmittel)または成膜助剤としても使用することができる。本発明の製造方法に従い、優れた色特性を有するポリオールエステルを簡単に、通例の吸着剤を使用すること無く、製造することができ、これは、更なる品質要求、例えば少ない臭いまたは低い酸価を満たす。本発明の方法は、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3G8エステル)、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート(4G7エステル)、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート(3G6エステル)、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート(3G7エステル)またはテトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(4G8エステル)の製造に特に適している。
【0056】
本発明方法は、化学技術に典型的な反応装置中で連続的にまたはバッチ式に行うことができる。加熱装置及び取り付けたカラム部を装備した攪拌タンクまたは反応管が有用であることが判明した。
【0057】
以下の例では、本発明方法をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例】
【0058】
色の明度向上化の試験のために、触媒及び同伴剤の添加無しでトリエチレングリコールを2.3モル量の2−エチルヘキサン酸でエステル化することによって得られた、131ハーゼン単位の色数を有する粗製トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートを使用した。ガスクロマトグラフィにより求めたトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートの含有率(重量%)は97.7%、トリエチレングリコール−モノ−2−エチルヘキサノエートの含有率は1.2%であり、残部(計100%)は1.1%であった。
【0059】
粗製トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートの仕上げは、攪拌機、内部温度計及び滴下漏斗を備えた加熱可能な1L容積の四つ首フラスコ中で各々300gの粗製生成物を用いて行った。過酸化水素水溶液の添加及び攪拌の後に、以下に記載の反応条件に従い、その後の水蒸気蒸留のために、滴下漏斗を、1リットルの受け器を有する蒸留橋(Destillationsbrueke)に取り替え、そして前記1L容積の四つ首フラスコに、水蒸気の導通のための浸漬管を備えた。蒸留カラム中に白金ネットを取り付けた。この白金ネットに、過酸化物が負荷した追い出された水蒸気が通された。
【0060】
以下に記載の条件に従い水蒸気蒸留を実施した後、水蒸気の供給を停止し、そして最後の乾燥のために、蒸留橋を介して負圧を適用した。吸着剤を使用することなく、色が明るく規格を満足するポリオールエステルが残留物として得られた。
【0061】
例1:
過酸化水素水溶液での粗製トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートの処理は以下の条件で行った。
【0062】
【表1】

【0063】
直後の水蒸気蒸留は、白金ネットを使用して以下の条件で行った。
【0064】
【表2】

【0065】
次に、以下の乾燥条件を調節した。
【0066】
【表3】

【0067】
仕上げの終了後、ガスクロマトグラフィで求めた以下の含有率を有する色の明るいポリオールエステルが得られた。
【0068】
【表4】

【0069】
特性値は次の通りであった。
【0070】
【表5】

【0071】
水蒸気蒸留の蒸留物には、3.0meqO/kgの過酸化物含有率が確認された。
【0072】
例2
水蒸気蒸留を白金ネットを使用せずに行ったことだけを除いて例2を例1と同様に行った。得られた蒸留物は、13megO/kgの過酸化物含有率を有していた。精製したポリオールエステルの特性値は、例1に従い示された値に相当した。
【0073】
例3:
後で過酸化水素で処理を行ったNPG−ジ−2−エチルヘキサノエートの製造
2−エチルヘキサン酸でのネオペンチルグリコールのエステル化を、攪拌機、内部温度計及び水分離器を備えた加熱可能な1L容積の四つ首フラスコ中で行った。
【0074】
前記フラスコ中に、ネオペンチルグリコール312.75グラム(3.00モル)及び2−エチルヘキサン酸966.89グラム(6.70モル)を仕込んだ。攪拌及び600hPaの負圧の適用下に、混合物を200℃に加熱し、そしてこの条件で2時間反応させた。次いで、圧力を段階的に500hPaに低下し、そして生じた反応水を水分離器で除去した。反応の経過は、水分離器を介して排出される水の連続的な計量及びヒドロキシル価の推移によって追跡した。全部で8時間の反応時間の後、4.2mgKOH/g(DIN53240準拠)の残留ヒドロキシル価において反応を終了した。
【0075】
次いで、2時間の期間にわたり190℃の温度及び95hPaの圧力で、更に30分間の期間にわたり130℃の温度及び6hPaの圧力下に、過剰の2−エチルヘキサン酸を留去した。その後、30重量%濃度の過酸化水素溶液(反応混合物を基準にして過酸化水素の絶対量として0.1重量%の量)での処理を、120℃の温度で1時間の期間にわたって行った。
【0076】
その後の水蒸気蒸留を、常圧下に水蒸気を導通しながら180℃の温度で1時間の期間にわたって行った。次いで、水蒸気蒸留を停止し、そして最後の乾燥のために蒸留橋を介して10hPaの圧力を適用した。乾燥は、30分間の期間にわたり140℃で行った。以下の特性値を有する色の明るいネオペンチルグリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートが残留物として得られた。
ガスクロマトグラフィーで求めた含有率:
【0077】
【表6】

【0078】
特性値
【0079】
【表7】

【0080】
例4(比較例)
2−エチルヘキサン酸でのネオペンチルグリコールのエステル化、その後の未反応の過剰の2−エチル−ヘキサン酸の分離を、例3に従い行った。過酸化水素での処理はせずに、次いで水蒸気処理を180℃で30分間の期間にわたり行い、その後の乾燥を120℃で15分間行った。残留物中に生じたネオペンチルグリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートは以下の特性値を有した。
ガスクロマトグラフィーで求めた含有率:
【0081】
【表8】

【0082】
特性値
【0083】
【表9】

【0084】
粗製エステル化混合物を、未反応の原料化合物を分離した後に過酸化水素で処理し、その直後に、更なる中間段階無しに、水蒸気処理を行う本発明の処置によって、吸着剤を使用せずに、高い色安定性を有する明るい色のポリオールエステルを製造することができる。本発明方法の更に別の形態では、水蒸気処理の間に追い出された水蒸気を白金ネットと接触させることができる。この処置によって、分離された蒸留物中の過酸化物含有量をかなり激減させることができ、それによって、高い過酸化物含有率を有する蒸留物量が発生する場合には克服しなければならないだろう安全技術上の問題を避けることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールを炭素原子数3〜20の線状もしくは分枝状脂肪族モノカルボン酸と反応させ、次いで反応混合物を、吸着剤を使用せずに、仕上げすることによってポリオールエステルの色を明るくする方法であって、未反応の原料化合物を分離した後に、反応生成物を過酸化物化合物で処理し、その直後に、更なる中間段階無しに、水蒸気処理を行い、そして後に残ったポリオールエステルを乾燥することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
過酸化物化合物の有効成分含有率が、全混合物を基準にして0.03〜1.0重量%、好ましくは0.08〜0.3重量%であることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項3】
過酸化物化合物が、過酸化水素、有機過カルボン酸、有機ヒドロペルオキシド、アルカリ−もしくはアルカリ土類金属過ホウ酸塩、アルカリ−もしくはアルカリ土類金属過カルボン酸塩、アルカリ−もしくはアルカリ土類金属ペルオキソジスルフェート、及びアルカリ−もしくはアルカリ土類金属ペルオキソホスフェートから選択されることを特徴とする、請求項1または2の方法。
【請求項4】
過酸化水素を、10重量%超、好ましくは30〜50重量%の過酸化水素含有率を有する水溶液の形で使用することを特徴とする、請求項3の方法。
【請求項5】
過酸化物化合物での処理を70〜160℃、好ましくは100〜120℃の温度で行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの方法。
【請求項6】
水蒸気処理を、100〜250℃、好ましくは150〜220℃、特に170〜200℃の温度で行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの方法。
【請求項7】
水蒸気処理の際に排出される水蒸気を、ガス状態で、元素周期律表の第9族〜第11族の貴金属と接触させることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つの方法。
【請求項8】
水蒸気処理の際に排出される水蒸気を先ず凝縮し、そしてこの凝縮された液状蒸留物を、元素周期律表の第9族〜第11族の貴金属と接触させることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つの方法。
【請求項9】
元素周期律表の第9族〜第11族の貴金属を固定配置することを特徴とする、請求項7または8の方法。
【請求項10】
元素周期律表の第9族〜第11族の貴金属がキャリア上に担持されていることを特徴とする、請求項9の方法。
【請求項11】
キャリアとして、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、活性炭、二酸化チタンまたは二酸化ジルコニウムを使用することを特徴とする、請求項10の方法。
【請求項12】
元素周期律表の第9族〜第11族の貴金属が、織成物、ネット、編成物、線条、線状の玉状物またはスポンジの形で配置されることを特徴とする、請求項9の方法。
【請求項13】
元素周期律表の第9族〜第11族の貴金属としてパラジウムまたは白金を使用することを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一つの方法。
【請求項14】
ポリオールエステルを、80〜250℃、好ましくは100〜180℃の温度及び0.2〜500hPa、好ましくは1〜200hPa、特に1〜20hPaの圧力で乾燥することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一つの方法。
【請求項15】
後に残ったポリオールエステルを、水蒸気処理の直後に、更なる中間段階無しで、乾燥することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一つの方法。
【請求項16】
ポリオールとして、以下の一般式(I)の化合物を使用することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一つの方法。
R(OH) (I)
[式中、Rは、炭素原子数2〜20、好ましくは2〜10の脂肪族または環状脂肪族炭化水素残基を意味し、そしてnは2〜8の整数、好ましくは2、3、4、5または6を意味する]
【請求項17】
ポリオールとして、次の一般式(II)の化合物を使用することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一つの方法。
H−(−O−[−CR−]−)−OH (II)
[式中、R及びRは、互いに独立して、水素、炭素原子数1〜5のアルキル基、好ましくはメチル、エチルもしくはプロピル、または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基、好ましくはヒドロキシメチル基を意味し、mは、1〜10の整数、好ましくは1〜8の整数、特に1、2、3または4を意味し、oは2〜15の整数、好ましくは2〜8の整数、特に2、3、4または5を意味する]
【請求項18】
ポリオールとして、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジメチロールブタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ペンタエリトリトール、エチレングリコールまたは3(4),8(9)−ジヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02.6]デカンを使用することを特徴とする、請求項16の方法。
【請求項19】
ポリオールとして、ジ−トリメチロールプロパン、ジ−ペンタエリトリトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールまたはテトラプロピレングリコールを使用する、請求項17の方法。
【請求項20】
脂肪族モノカルボン酸として、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−ペンタン酸、2−メチル酪酸、3−メチル酪酸、2−メチルペンタン酸、n−ヘキサン酸、2−エチル酪酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、n−ノナン酸、2−メチルオクタン酸、イソノナン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸または2−プロピルヘプタン酸を反応させることを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一つの方法。
【請求項21】
トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエートまたはテトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートを製造するための、請求項1〜20のいずれか一つの方法。

【公開番号】特開2011−79824(P2011−79824A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226265(P2010−226265)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(507254975)オクセア・ゲゼルシャフト・ミト・べシュレンクテル・ハフツング (10)
【Fターム(参考)】