説明

ポリオールエステルを基剤とする潤滑油

【課題】良好な耐酸化性および低温粘度を有する潤滑剤組成物、およびそのような潤滑剤組成物を処方するうえでの基剤として使用可能なオイルを提供する。
【解決手段】本発明のオイルは、下記式(I)のテトラエステルを含む:


(式中、基R、R、R、Rは炭素数1〜10の脂肪族鎖であり、基R、R、R、Rは炭素数6〜11のパラフィン系短鎖または炭素数13〜21のオレフィン系長鎖であり、そのうち少なくとも一つは前者、少なくとも一つが後者である。)
また、炭素数14〜22長鎖脂肪酸単位と炭素数7〜12短鎖脂肪酸単位のモル数比が0.3〜2.5であり、さらに、
上記式(I)で表され、基R、R、R、Rのうちの二つが炭素数6〜11のパラフィン系短鎖、それ以外の二つが炭素数13〜21のオレフィン系長鎖であるテトラエステルを少なくとも15重量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオールエステルを基剤とするオイルに関し、そのポリオールエステルは、再生可能資源に由来するものであってもよい。本発明にかかるオイルは、潤滑剤用基剤または潤滑剤用添加剤として使用可能であり、特に、4ストロークエンジン用オイル、油圧作動油、トランスミッション用オイル、および工業用潤滑剤の基剤または添加剤として使用可能である。
【背景技術】
【0002】
エンジンの潤滑剤、種々の車両構成品の潤滑剤、工業用潤滑剤の基剤などに使用される典型的なオイルは、石油のカット(分留で得られる成分)由来の炭化水素油である。
【0003】
一方、植物由来のオイルは、これらの製品に取って代わることのできる再生可能資源である。植物由来のオイルに含まれる成分の大半は、グリセロールやその他の種類のポリオール(多価アルコール)と天然脂肪酸とからなるエステルである。しかしながら、植物由来のオイルは、その乏しい低温特性や弱い耐酸化性によって用途が制限されており、特に、モータ用オイル処方物としての使用に制限される。例えば、なたね油や高オレイン酸ひまわり油などがそうである。
【0004】
天然脂肪酸のエステルは、室温で液体の不飽和化合物なので、酸化され易い。また、天然の飽和脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸など)のエステルは、室温で固体なので、潤滑剤の基剤として使用するには適切でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の理由から、耐酸化性および低温での粘性を兼ね備えており、車両用(特に、燃焼エンジン用)潤滑剤組成物または工業用潤滑剤組成物を処方するうえで使用可能な、再生可能資源由来の化合物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の解決手段として、ポリオールエステルの形態のいわゆる《混成》エステルを少なくとも1種含むオイルを提供することを提案する。これらのエステルを《混成》エステルと称する所以は、当該エステルを合成するうえで使用する各ポリオールに含まれる少なくとも1つのアルコール基(水酸基、ヒドロキシ基)が天然脂肪酸によってエステル化され、かつ、同じポリオールの他の少なくとも1つのアルコール基が合成脂肪酸によってエステル化されているからである。
【0007】
典型的な合成脂肪酸は、(一般的に炭素数が12未満の)短鎖飽和脂肪酸であり、典型的な天然脂肪酸は、(一般的に炭素数が少なくとも14の)長鎖不飽和脂肪酸である。
【0008】
好ましくは、本発明にかかるオイルを製造するうえで使用される合成脂肪酸も、再生可能資源(例えば、ヒマシ油の熱分解で得られるヘプタン酸、ココナッツ油などの天然油の蒸留・精製で得られるC〜C10脂肪酸カット)から得られたものである。
【0009】
以上を踏まえて、本発明は、下記の一般式(I)で表される少なくとも1種のテトラエステルを含むオイルに関する:
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10の脂肪族鎖であり、
基R、R、R、Rは、炭素数6〜11のパラフィン系短鎖であるか、または炭素数13〜21のオレフィン系長鎖であり、
基R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数6〜11のパラフィン系短鎖であり、基R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である。)
【0012】
本発明にかかるオイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸のモル数との比は0.3〜2.5である。
【0013】
本発明にかかるオイルは、さらに、上記の一般式(I)で表される、基R、R、R、Rのうちの二つが、炭素数6〜11のパラフィン系短鎖であり、基R、R、R、Rのうちの二つが、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である少なくとも1種のテトラエステルを、少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも18重量%含む。
【0014】
好ましくは、基R、R、R、Rは、炭素数1〜4の脂肪族鎖である。
【0015】
好ましくは、前記オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物に含まれる炭素数14〜22の長鎖脂肪酸メチルエステルの大半は、モノ不飽和脂肪酸エステルである。
【0016】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、一般式(I)で表される、基R、R、R、Rのうちの少なくとも二つが、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である少なくとも1種のテトラエステル、および/または下記の一般式(II)で表されるテトラエステルを、少なくとも30重量%、より好ましくは35重量%含む。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、基R、R10、R11、R12は、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖であり、基R13は、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である。)
【0019】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、一般式(II)で表される少なくとも1種のテトラエステルを、10重量%以下、より好ましくは7重量%以下含む。
【0020】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、一般式(I)で表される、基R、R、R、Rのうちの三つが炭素数13〜21のオレフィン系長鎖であるテトラエステルを、25重量%以下含む。
【0021】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、下記の一般式(III)で表される少なくとも1種のポリオールと、
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖である。)
【0024】
炭素数14〜22の少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸および/または炭素数7〜12の少なくとも1種の短鎖飽和脂肪酸との反応によって得られる少なくとも1種の部分エステルまたはフルエステルを、少なくとも85重量%含む。
【0025】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、一般式(I)で表される炭素数40〜70の少なくとも1種のテトラエステルを少なくとも30重量%と、一般式(I)で表される炭素数45〜60の少なくとも1種のテトラエステルを少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%とを含む。
【0026】
好ましくは、オイルは、NF T60−231規格に準拠して測定される水酸基価が10mgKOH/g未満である。
【0027】
好ましくは、オイルは、NF ISO 660規格に準拠して測定される酸価が1mgKOH/g未満である。
【0028】
好ましくは、オイルは、NF ISO 3961規格に準拠して測定されるヨウ素価が、50gI/100g未満、より好ましくは40gI/100g未満、さらに好ましくは30gI/100g未満である。
【0029】
好ましくは、前記オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸のモル数との比は1.5〜2.5、より好ましくは1.6〜2である。
【0030】
好ましくは、前記オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸のモル数との比は0.4〜1.1、より好ましくは0.42〜1である。
【0031】
本発明の他の目的は、前記オイルを含む潤滑剤組成物を提供することである。特に、本発明は、前記オイルを含む4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物、ならびにこの用途に適した任意の種類の基油および添加剤に関する。
【0032】
好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物は、前述のオイルを、10〜99%、10〜70%、10〜40%、10〜50%、または15〜30%、より好ましくは15〜25%含む。
【0033】
好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物は、さらに、
・グループIIIの鉱物油から選択される少なくとも1種の基油、および/またはグループIV、VおよびVIの合成油から選択される少なくとも1種の基油を、0〜70%、5〜70%、または30〜70%と、
・粘度指数VIを向上させる少なくとも1種のポリマー、より好ましくは、メタクリレート系、オレフィン系、スチレン系、またはジエン系のポリマーおよびコポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーを、0〜30%、または2〜30%、さらに好ましくは5〜20%と、
・少なくとも1種の酸化防止剤、より好ましくはアミン系および/またはフェノール系の少なくとも1種の酸化防止剤を、0.2〜10%、さらに好ましくは0.5〜5%と、
・少なくとも1種の流動点降下剤、より好ましくはメタクリレート系のポリマーおよびコポリマーから選択される少なくとも1種の流動点降下剤を、0.01〜5%と、
を含む。
【0034】
好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物は、100℃での動粘度が4〜8cStである、グループIVの少なくとも1種の基油を30〜70%含む。
【0035】
好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物は、100℃での動粘度が5.6〜9.3cSt(グレード20)である。
【0036】
好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物は、100℃での動粘度が9.3〜12.5cSt(グレード30)である。
【0037】
好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物は、粘度指数が160超、より好ましくは、175超である。
【0038】
さらに、本発明は、混成エステル単独または混成エステルの混合物を基剤とする本発明にかかるオイルの、潤滑剤組成物(特に、エンジン用潤滑剤、油圧作動油、トランスミッション用潤滑剤、および工業用潤滑剤)に配合される基油(潤滑剤基剤)または摩擦調整剤としての使用に関する。また、本発明は、このようなオイルの、公共事業用車両または農業用車両の、エンジン用潤滑剤、油圧作動油、およびトランスミッション用潤滑剤のいずれにも利用可能な潤滑剤を処方するうえでの単独での基剤としての使用、さらには、4ストロークエンジン用潤滑剤、好ましくは、軽量自動車両または重量自動車両のエンジン用潤滑剤、より好ましくは、ガソリンエンジン用潤滑剤またはディーゼルエンジン用潤滑剤としての使用に関する。
【0039】
最後に、本発明は、本発明にかかる混成エステルを基剤とするオイルを製造する方法に関する。
【0040】
本発明にかかるオイルの製造方法は、
(i)反応前のアルコール/短鎖飽和脂肪酸メチルエステルのモル比を好ましくは1/5〜1/2.5としたうえで、エステル交換反応の塩基性の均一系触媒または不均一系触媒、好ましくはナトリウムメチラート、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化マンガンおよび酸化亜鉛から選択される触媒の存在下で、かつ、好ましくは窒素流通下、好ましくは大気圧で約30mL/分の窒素流通下で、下記の一般式(III)で表されるポリオールと、
【0041】
【化4】

【0042】
(式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖である。)
【0043】
炭素数7〜12の少なくとも1種の短鎖飽和脂肪酸メチルエステルとの間でエステル交換反応を行う第1工程を含む。
【0044】
前記第1工程は、以下の副工程を含む:
i.1:ポリオールと少なくとも1種の短鎖飽和脂肪酸メチルエステルとの反応混合物に、前記触媒を、約20℃から約25℃の温度で、短鎖飽和脂肪酸メチルエステルの質量に対して好ましくは1〜2%投入する副工程、
i.2:前記反応混合物の温度を、最大で約150℃を超える温度、好ましくは160〜180℃にまで上昇させる副工程、
i.3:好ましくは(任意で)、生成されるメタノールを窒素流によって連続的に留去し、当該メタノールを凝縮させる副工程、および
i.4:好ましくは(任意で)、前記窒素流中の凝縮物の形成の停止によって示される反応終了時まで、前記反応混合物を、150℃を超える温度、好ましくは160〜180℃で維持する副工程。
【0045】
前記第1エステル交換反応工程(i)から、部分ポリオールエステルで構成される反応生成物が得られる。
【0046】
当該製造方法は、さらに、
(ii)前記第1工程(i)で得られた少なくとも1つの反応生成物と、炭素数14〜22の少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステル、好ましくは単一の不飽和部を有する少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルとの間でエステル交換反応を行う第2工程を含む。
【0047】
前記第2工程は、エステル交換反応の塩基性の均一系触媒または不均一系触媒、好ましくはナトリウムメチラート、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化マンガンおよび酸化亜鉛から選択される触媒、より好ましくは前記第1工程(i)と同一の触媒の存在下で、好ましくは、消泡剤、例えば、反応媒体中約10ppmで含まれるジメチルポリシロキサン(DMS)の存在下で、好ましくは、約30ミリバールの平均真空下で実行される。
【0048】
前記第2工程は、以下の副工程を含む:
ii.1:前記第1工程(i)で得られた所定量の少なくとも1つの生成物で構成される出発媒体の水酸基価をNF T 60−231規格に準拠して測定し、前記反応媒体に含まれるポリオールのエステル化されていない水酸基のモル数nOHを算出する副工程、
ii.2:前記媒体に、約20℃から約25℃の温度で、モル比N/nOHが0.8〜1.2、好ましくは1となるように、少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルNモルを投入する副工程、
ii.3:前記媒体に、約20℃から約25℃の温度で、前記触媒を、副工程ii.2で投入された長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルの質量に対して0.5〜1.5質量%、好ましくは約0.75質量%投入する副工程、
ii.4:好ましくは(任意で)、前記媒体に、消泡剤を、約20℃から約25℃の温度で、反応混合物の総量の約10ppmを占めるように投入する副工程、
ii.5:このようにして得られた反応混合物の温度を、最大150℃を超える温度、好ましくは160〜170℃にまで上昇させる副工程、および
ii.6:反応媒体をこの温度で3時間超維持する副工程。
【0049】
好ましくは、本発明にかかる製造方法は、さらに、反応しなかった水酸基を、無水酢酸で中和する第3工程を含む。
【0050】
好ましくは、第2工程(ii)でポリオールのエステル交換反応に使用される炭素数14〜22の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルの混合物中に、モノ不飽和脂肪酸メチルエステルが、NF ISO 5508規格に準拠して決定される割合で少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、さらに好ましくは少なくとも95重量%含まれる。
【0051】
好ましくは、モノ不飽和脂肪酸メチルエステルの炭素数は、16〜22、より好ましくは18である。
【0052】
好ましくは、前記ポリオールは、ペンタエリスリトールおよびネオペンチルグリコールから選択される。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明の目的は、下記の一般式(I)で表される少なくとも1種のテトラエステルを含むオイルを提供することである:
【0054】
【化5】

【0055】
(式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10の脂肪族鎖であり、基R、R、R、Rは、炭素数6〜11のパラフィン系短鎖であるか、または炭素数13〜21のオレフィン系長鎖であり、基R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数6〜11のパラフィン系短鎖であり、基R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である。)
【0056】
本発明にかかるオイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸のモル数との比は、0.3〜2.5、好ましくは0.4〜2である。
【0057】
かつ、本発明にかかるオイルは、上記の一般式(I)で表される、基R、R、R、Rのうちの二つが、炭素数6〜11のパラフィン系短鎖であり、基R、R、R、Rのうちの二つが、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である少なくとも1種のテトラエステルを、少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも18重量%、さらに好ましくは少なくとも20重量%含む。
【0058】
好ましくは、基R、R、R、Rは、炭素数1〜4の脂肪族鎖である。
【0059】
好ましくは、本発明にかかるオイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物に含まれる炭素数14〜22の長鎖脂肪酸メチルエステルの大半は、モノ不飽和脂肪酸エステルである。
【0060】
上記の長鎖不飽和脂肪酸は、室温で固体の飽和脂肪酸同族体と違い、液体の性質を有しており、その物理化学的特性により、長鎖不飽和脂肪酸が本発明にかかるオイルに含有されると、当該オイルを潤滑剤組成物中の成分として使用することができる。ただし、本発明にかかるオイルにおけるジ不飽和長鎖脂肪酸、トリ不飽和長鎖脂肪酸、またはポリ不飽和長鎖脂肪酸の含有量を制限することにより、当該オイルの耐酸化性を向上させることができる。
【0061】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、上記の一般式(I)で表される、基R、R、R、Rのうちの少なくとも二つが炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である少なくとも1種のテトラエステル、および/または下記の一般式(II)で表されるテトラエステルを、少なくとも30重量%、より好ましくは35重量%、さらに好ましくは40重量%含む。
【0062】
【化6】

【0063】
(式中、基R、R10、R11、R12は、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖であり、基R13は、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である。)
【0064】
事実、上記の種類のテトラエステルは、最小限の量であっても、潤滑剤組成物、特に、本発明がターゲットとする用途の潤滑剤組成物として使用するのに十分に高い粘度を、当該テトラエステルを含むオイルに付与することができる。なお、そのような本発明がターゲットとする用途には、工業用潤滑剤、自動車用潤滑剤、特に、エンジン用潤滑剤、油圧作動油、トランスミッション用潤滑剤などが含まれる。
【0065】
一実施形態において、本発明にかかるオイルは、上記の一般式(II)で表される少なくとも1種のテトラエステルを、10重量%以下、好ましくは9重量%以下、より好ましくは7重量%以下、さらに好ましくは6重量%以下、なおいっそう好ましくは5重量%以下含む。
【0066】
事実、上記の種類のエステルは、十分な粘度の確保を可能にするが、不飽和部を少なくとも4つ有している。そのため、この種のエステルが過剰に含まれていると、耐酸化性が低下するので、潤滑剤組成物中の成分として、特に、エンジン用潤滑剤中の成分として使用するには、不利な場合がある。
【0067】
同様の理由から、好ましくは、本発明にかかるオイルは、上記の一般式(I)で表される、基R、R、R、Rのうちの三つが炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である少なくとも1種のテトラエステルを、25重量%以下、20重量%以下、あるいは、15重量%以下含む。
【0068】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、下記の一般式(III)で表される少なくとも1種のポリオールと、
【0069】
【化7】

【0070】
(式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖である。)
【0071】
炭素数14〜22の少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸および/または炭素数7〜12の少なくとも1種の短鎖飽和脂肪酸との反応によって得られる少なくとも1種の部分エステルまたはフルエステルを、少なくとも85重量%、さらに好ましくは95重量%含む。
【0072】
本発明にかかるオイルにエステル化されていないポリオール(詳細には、エステル化されていない水酸基(ヒドロキシ基))が過剰に残っていると、潤滑剤組成物中の成分としての用途に望ましくない影響が生じかねない。具体的には、エステル化されていない水酸基間で水素結合が生じて粘度が劇的に上昇する可能性があり、そのような場合、潤滑剤組成物中の成分として使用するには適切でなくなる。
【0073】
本発明にかかるオイル中のポリオールの種々のエステル及びテトラエステルの質量%は、GPC(ガスクロマトグラフィー)分析によって決定される。
【0074】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、上記の一般式(I)で表される炭素数40〜70の少なくとも1種のテトラエステルを少なくとも30重量%と、上記の一般式(I)で表される炭素数45〜60の少なくとも1種のテトラエステルを少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%とを含む。
【0075】
本発明にかかるオイルに含まれる、ある炭素数のテトラエステルの質量%は、後述の実施例で述べる方法に基づくGPC(ガスクロマトグラフィー)分析によって決定される。
【0076】
好ましい一実施形態において、本発明にかかるオイルは、NF T60−231規格に準拠して測定される水酸基価が、10mgKOH/g未満である。水酸基価は、オイルに含まれるエステル化されていない水酸基の定量化を可能にする。
【0077】
このように水酸基価が低いことにより、つまり、水酸基価と相関関係にある遊離水酸基の含有量が少ないことにより、潤滑剤組成物中の成分としての用途に十分な粘度特性をオイルに付与することができる。これにより、分子間の水素結合の形成が抑えられるので、前述したような粘度の極めて大幅な上昇を防ぐことができる。
【0078】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、NF ISO 660規格に準拠して測定される酸価が、1mgKOH/g未満である。製品の酸価(mgKOH/g)は、当該製品中の未反応の脂肪酸の定量化を可能にする(酸価が高ければ高いほど、未反応の脂肪酸が多いことを意味する)。
【0079】
酸価が低いということは、未反応の水酸基の含有量が少ないことも表しているので、低い酸価は、オイルが、潤滑剤組成物中の成分としての用途により適した粘度特性を有するということを意味する。
【0080】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、NF ISO 3961規格に準拠して測定されるヨウ素価が、50gI/100g未満、より好ましくは40gI/100g未満、さらに好ましくは30gI/100g未満、15gI/100g未満、または10gI/100g未満である。
【0081】
ヨウ素価は、不飽和部の有無と関連しているので、酸化性の指標となる。ヨウ素価が低く、不飽和部が少ないほど、耐酸化性が優れていることを意味する。すなわち、ヨウ素価が低いオイルは、耐酸化性パラメータが重要とされる用途、例えば、エンジン用潤滑剤組成物の用途などに使用することができる。
【0082】
一変形例として、本発明にかかるオイルは、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸単位のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸単位のモル数との比が1.50〜2.50、好ましくは1.60〜2.00、さらに好ましくは1.61〜1.90である。この比は、オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される。
【0083】
上記変形例のオイルは、例えば、工業用潤滑剤に配合される潤滑剤基剤などに使用可能である。
【0084】
上記変形例のオイルは、工業用潤滑剤分野の用途に必要な粘度および優れた低温特性を有するが、耐酸化性に乏しい。好ましくは、上記変形例のオイルは、ASTM 445規格に準拠して測定される100℃での粘度が、4〜10mm/s、より好ましくは6〜9mm/s、さらに好ましくは8〜9mm/sである。
【0085】
上記変形例のオイルは、ASTM D5293規格に準拠して測定される−25℃での低温粘度が、典型的には4,300mPa・s未満、好ましくは3,500mPa・s未満である。
【0086】
他の変形例において、本発明にかかるオイルは、当該オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸のモル数との比が、0.4〜1.49、好ましくは0.4〜1.20、さらに好ましくは0.42〜1.10、なおいっそう好ましくは0.42〜1.00である。
【0087】
このような長鎖脂肪酸/短鎖脂肪酸のモル比を有するオイルは、エンジン用潤滑剤組成物に配合される潤滑剤基剤としての用途に必要な耐熱酸化性を有する。耐熱酸化性については、後述の実施例において、ICOT耐高温酸化性試験、および高温面への堆積物(デポジット)の形成傾向を定量化したMCT試験によって詳述する。
【0088】
また、本発明にかかるオイルは、特に、SAE(米国自動車技術者協会)の分類に基づくグレード20またはグレード30のオイルを処方するうえでの使用に適している。
【0089】
好ましくは、本発明にかかるオイルは、ASTM D 445規格に準拠して測定される100℃での動粘度が、4〜8mm/s、より好ましくは4〜6.5mm/sである。
【0090】
また、本発明にかかるオイルは、AST D2270規格に準拠して測定される粘度指数が、好ましくは150以上であり、より好ましくは155以上である。
【0091】
本発明にかかるオイルは、適切な配合(特に、流動点降下剤や、粘度指数(VI)を向上させる適切なポリマーの添加)がなされることにより、SAE分類に基づくマルチグレード5Wのオイル、さらには、マルチグレード0Wのオイル、特に、マルチグレード5W30のオイルや0W30のオイルの処方を可能にする低温特性を得ることができる。
【0092】
本発明のさらなる目的は、前述したような本発明にかかるオイルを含む潤滑剤組成物を提供することである。
【0093】
本発明のより具体的な目的は、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸単位のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸単位のモル数との比が、0.4〜1.49、好ましくは0.4〜1.20、さらに好ましくは0.42〜1.10、なおいっそう好ましくは0.42〜1.00の本発明にかかるオイルを含む、潤滑剤組成物を提供することである。この比は、オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される。
【0094】
好ましくは、上記の潤滑剤組成物は、そのようなオイルを、10〜99%、10〜70%、10〜40%、10〜50%、または15〜30%、さらに好ましくは15〜25%含む。
【0095】
本発明にかかる潤滑剤組成物は、さらに、
・グループIIIの鉱物油から選択される少なくとも1種の基油、および/またはグループIV、VおよびVIの合成油から選択される少なくとも1種の基油を、0〜70%、5〜70%、または30〜70%と、
・粘度指数VIを向上させる少なくとも1種のポリマー、好ましくは、メタクリレート系、オレフィン系、スチレン系、またはジエン系のポリマーおよびコポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーを、0〜30%、または2〜30%、好ましくは5〜20%と、
・少なくとも1種の酸化防止剤、好ましくはアミン系および/またはフェノール系の少なくとも1種の酸化防止剤を、0.2〜10%、好ましくは0.5〜5%と、
・少なくとも1種の流動点降下剤、好ましくはメタクリレート系のポリマーおよびコポリマーから選択される少なくとも1種の流動点降下剤を、0.01〜5%と、
を含んでいてもよい。
【0096】
特に好ましい一実施形態において、本発明にかかる組成物は、100℃での動粘度が4〜8mm/sである、グループIVの少なくとも1種の基油を30〜70%含む。
【0097】
一実施形態において、本発明にかかる組成物は、100℃での動粘度が5.6〜9.3mm/sであり、これはSAE分類に基づくグレード20のオイルに相当する。
【0098】
他の実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物は、100℃での動粘度が9.3〜12.5mm/sであり、これはSAE分類に基づくグレード30のオイルに相当する。
【0099】
本発明にかかる潤滑剤組成物の粘度指数は、好ましくは160を超え、さらに好ましくは175を超える。
【0100】
本発明のさらなる目的は、前述のオイルの、潤滑剤組成物に配合される摩擦調整剤としての使用、および潤滑剤基剤としての使用を提供することである。
【0101】
詳細には、本発明の目的は、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸単位のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸単位のモル数との比が1.50〜2.50、好ましくは1.60〜2.00、さらに好ましくは1.61〜1.90である本発明にかかるオイルの、油圧作動油の基剤としての使用、トランスミッション用潤滑剤の基剤としての使用、および工業用潤滑剤の基剤としての使用を提供することである。この比は、オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される。
【0102】
詳細には、本発明の他の目的は、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸単位のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸単位のモル数との比が、0.4〜1.49、好ましくは0.4〜1.20、さらに好ましくは0.42〜1.10、なおいっそう好ましくは0.42〜1.00である本発明にかかるオイルの、エンジン用潤滑剤の基剤としての使用、油圧作動油の基剤としての使用、トランスミッション用潤滑剤の基剤としての使用、および工業用潤滑剤の基剤としての使用を提供することである。この比は、オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される。
【0103】
好ましくは、本発明の目的は、前段落に記載されたモル比を有するオイルの、公共事業用車両または農業用車両の、エンジン用潤滑剤、油圧作動油、およびトランスミッション用潤滑剤のいずれにも利用可能な潤滑剤を処方するうえでの基剤としての使用を提供することである。
【0104】
さらに、本発明は、前述した潤滑剤組成物の、4ストロークエンジン用潤滑剤としての使用、好ましくは、軽量自動車両または重量自動車両のエンジン用潤滑剤としての使用に関する。
【0105】
(本発明にかかるオイルの製造方法)
最後に、本発明のさらなる目的は、前述のオイルを製造する方法を提供することであり、当該製造方法は、
(i)反応前のポリオール/飽和脂肪酸メチルエステルのモル比を1/5〜1/2.5としたうえで、エステル交換反応の塩基性の均一系触媒または不均一系触媒の存在下、好ましくはナトリウムメチラート、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化マンガン、または酸化亜鉛から選択された塩基性の触媒の存在下で、かつ、窒素流通下、好ましくは大気圧で約30mL/分の窒素流通下で、下記の一般式(III)で表されるポリオールと、
【0106】
【化8】

【0107】
式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖である。
【0108】
炭素数7〜12の少なくとも1種の短鎖飽和脂肪酸メチルエステルとの間でエステル交換反応を行う第1工程、
を含み、前記第1工程は、
i.1:ポリオールと少なくとも1種の短鎖飽和脂肪酸メチルエステルとで構成される反応媒体に、触媒を、約20℃から約25℃の温度で、短鎖飽和脂肪酸メチルエステルの質量に対して1〜2%、典型的には1.4%投入する副工程と、
i.2:反応混合物の温度を、最大で約150℃を超える温度、好ましくは160〜180℃、より好ましくは約170℃にまで上昇させる副工程と、
i.3:好ましくは(任意で)、生成されるメタノールを窒素流によって連続的に留去し、当該メタノールを凝縮させる副工程と、
i.4:好ましくは(任意で)、前記窒素流中の凝縮物の形成の停止によって示される反応終了時まで、前記反応混合物を、160〜180℃、好ましくは約170℃で維持する副工程とを有する。
【0109】
前記第1エステル交換反応工程(i)は、部分ポリオールエステルで構成される反応生成物を生じ、当該製造方法は、さらに、
(ii)エステル交換反応の塩基性の均一系触媒または不均一系触媒、好ましくはナトリウムメチラート、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化マンガンおよび酸化亜鉛から選択される触媒、より好ましくは前記第1工程と同一の触媒の存在下で、好ましくは、消泡剤、例えば、反応媒体中約10ppmで含まれるジメチルポリシロキサン(DMS)の存在下で、好ましくは、約30ミリバールの平均真空下で、前記第1工程(i)で得られた少なくとも1つの反応生成物と、炭素数14〜22の少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステル、好ましくは単一の不飽和部を有する少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルとの間でエステル交換反応を行う第2工程、
を含み、前記第2工程は、
ii.1:前記第1工程(i)で得られた所定量の少なくとも1つの生成物で構成される出発媒体の水酸基価をNF T 60−231規格に準拠して測定し、前記反応媒体に含まれるポリオールのエステル化されていない水酸基のモル数nOHを算出する副工程と、
ii.2:前記媒体に、約20℃から約25℃の温度で、少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルNモルを、モル比N/nOHが0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1、より好ましくは1となるように投入する副工程と、
ii.3:前記媒体に、約20℃から約25℃の温度で、触媒を、副工程ii.2で投入された長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルの質量に対して0.5〜1.5質量%、好ましくは約0.75質量%投入する副工程と、
ii.4:好ましくは(任意で)、前記媒体に、消泡剤を、約20℃から約25℃の温度で、反応混合物の総量の約10ppmを占めるように投入する副工程と、
ii.5:好ましくは(任意で)、このようにして得られた反応混合物の温度を、最大で160〜170℃にまで、好ましくは最大で約165℃にまで上昇させる副工程と、
ii.6:好ましくは(任意で)、反応媒体をこの温度で3〜7時間維持する副工程と、
を有する。
【0110】
一実施形態において、本発明にかかる製造方法は、さらに、反応しなかった水酸基を、無水酢酸で中和する第3工程を含む。
【0111】
好ましくは、本発明にかかる製造方法では、第2工程(ii)でポリオールのエステル交換反応に使用される炭素数14〜22の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルの混合物中に、モノ不飽和脂肪酸メチルエステルが、NF ISO 5508規格に準拠して決定される割合で少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、さらに好ましくは少なくとも95重量%含まれる。
【0112】
好ましくは、本発明にかかる製造方法では、第2工程(ii)でポリオールのエステル交換反応に使用される長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルの混合物中に、炭素数16〜22、より好ましくは炭素数18のモノ不飽和脂肪酸メチルエステルが、NF ISO 5508規格に準拠して決定される割合で少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、さらに好ましくは少なくとも90重量%、なおいっそう好ましくは少なくとも95重量%含まれる。
【0113】
好ましくは、ポリオールは、ペンタエリスリトールおよびネオペンチルグリコールから選択される。
【0114】
本発明のさらなる目的は、前述の製造方法によって入手可能な生成物を提供することである。
【0115】
(本発明にかかるオイルの性質)
本発明にかかるオイルは、主に二種類の分析方法によって定性化される。
【0116】
〔1.脂肪酸メチルエステル混合物の組成による特徴付け〕
詳細には、長鎖脂肪酸メチルエステルのモル数と、そのモル数から推測される短鎖脂肪酸メチルエステルのモル数との比(炭素数14〜22の長鎖脂肪酸のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸のモル数との比に等しい)による定性化である。
【0117】
この比は、オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される:
【0118】
オイルの脂肪酸メチルエステル混合物の組成は、次の二つの段階を経て決定される:
−EN ISO 5509規格に準拠してオイルから脂肪酸メチルエステル混合物を調製する。
−得られたメチルエステル混合物を、EN ISO 5508規格に準拠してガスクロマトグラフィーによって分析する。
【0119】
このようにして、オイルに含まれる様々な種類の脂肪酸のメチルエステルの質量%が決定される。これら様々な種類のメチルエステルのモル質量が分かっていれば、分析対象のオイルに含まれる種々のエステル間のモル比を算出することができる。
【0120】
本発明にかかるオイルは、二種類の脂肪酸によってエステル化されたポリオールエステルを含む:
【0121】
いわゆる「長鎖」脂肪酸は、炭素数14〜22の脂肪酸として定義される。本発明にかかる長鎖脂肪酸は原則として不飽和脂肪酸のみであるが、本発明にかかるオイルを実際に合成するうえで使用される混合物には、少量の飽和脂肪酸が含まれていてもよい(後述の実施例1を参照されたい)。本発明にかかるオイルの特性の一つである上記モル比を算出する際には、炭素数14〜22の“あらゆる”脂肪酸のメチルエステルを考慮に入れるものとする。
【0122】
いわゆる「短鎖」脂肪酸は、炭素数7〜12の脂肪酸として定義される。本発明にかかる短鎖脂肪酸は原則として飽和脂肪酸のみであるが、本発明にかかるオイルの特性の一つである上記モル比を算出する際には、炭素数7〜12の“あらゆる”脂肪酸のメチルエステルを考慮に入れるものとする。
【0123】
また、NF ISO 5509規格/NF ISO 5508規格によって得られる混合物の組成から、本発明にかかるオイルに含まれる炭素数14〜22の長鎖脂肪酸(のメチルエステル)の大半がモノ不飽和脂肪酸(メチルエステル)であるか否かについても、決定することができる。これは、NF ISO 5509規格/NF ISO 5508規格に準拠して得られる混合物に含まれるクロマトグラフィー分離可能な化学種のモル数のなかで、少なくとも1種の不飽和脂肪酸メチルエステルのモル数が最大である場合に、そうであると決定することができる。
【0124】
〔2.GPC(ガスクロマトグラフィー)分析から得られたポリオールエステルの質量組成〕
そして、同じGPC分析から判明する、本発明にかかるオイルに含まれるポリオールエステルの平均炭素数により、ポリオールエステルの質量組成が得られる。
【0125】
使用する方法は、トリグリセリドを決定するのに使用されるIUPAC2.323法の特徴を有する。この方法については、後述の実施例1で詳述する。
【0126】
化学種の分離は、炭素数の大きさに基づいて行う。IUPAC2.323法では、既知の組成を有する参照グリセリド混合物をカラムに通すことにより、当該カラムの較正を施す。本発明にかかるオイルの各種ポリオールエステルは、同じ炭素数のトリグリセリドと同一の保持時間で通過する。
【0127】
この方法により、各種ポリオールテトラエステルを区別することができる。例えば、下記のポリオールテトラエステルなどを区別することができる:
−4つの「長鎖」を有するポリオールエステル(4C18エステルと称する)
−3つの長鎖および1つの短鎖を有するポリオールエステル(3C181Cと称する)
−2つの長鎖および2つの短鎖を有するポリオールエステル(2C182Cと称する)。
【0128】
「長鎖」および「短鎖」という用語の意味については、それぞれ既述したとおりである。
【0129】
ただし、いわゆる「部分」エステル(つまり、少なくとも1つのエステル化されていない水酸基(OH基)を有するエステル)、3つの短鎖および1つの長鎖を有するテトラエステル(3C1C18)、4つの短鎖を有するテトラエステル(4C)などは、炭素数が互いに近接しているので、上記方法では分離することができない。
【0130】
上記方法の結果は、クロマトグラフィー分離可能な化学種の総量に対する質量%で表される。クロマトグラフィー分離可能な化学種には、以下のものが含まれる:
−未反応物質または反応副産物(ポリオール、C〜C12短鎖脂肪酸メチルエステル、C14〜C22長鎖脂肪酸メチルエステルなど)、
−《部分》エステル(本発明にかかる全ての生成物のなかで、部分エステルには、3つの短鎖および1つの長鎖を有するテトラエステル、4つの短鎖を有するテトラエステル、少なくとも1つの遊離水酸基(OH基)が残っているエステルが含まれる)、
−テトラエステル(部分エステルに含まれるテトラエステル以外のもの)。
【0131】
上記方法は、様々な化学種を、それらの炭素数に基づいて同定する。この方法を用いて、本発明にかかるオイルに含まれる、炭素数40〜70のポリオールエステルの質量%や、炭素数45〜60のポリオールエステルの質量%を算出する。
【0132】
すなわち、クロマトグラフィー分離可能な化学種の総量に対する、炭素数40〜70の参照トリグリセリドと同一の保持時間を有する化学種の質量%や、炭素数45〜60の参照トリグリセリドと同一の保持時間を有する化学種の質量%を算出する。
【0133】
(潤滑剤組成物)
本発明の目的の一つは、本発明にかかるポリオールエステルを基剤とするオイルを含む、特定の用途に制限されず、例えば、エンジン用途、油圧作動油用途、トランスミッション用途、工業用途などに使用可能な、潤滑剤組成物を提供することである。
【0134】
詳細には、本発明は、本発明にかかるオイルを含む、4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物に関し、さらには、本発明にかかるオイルまたは潤滑剤組成物への配合に適した任意の種類の添加剤または基油に関する。
【0135】
詳細には、本発明は、本発明にかかるオイルを、好ましくは10〜99%、10〜70%、10〜40%、10〜50%、または15〜30%、より好ましくは15〜25%含む、4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物に関する。
【0136】
本発明にかかる潤滑剤組成物は、さらに、
・グループIIIの鉱物油から選択される少なくとも1種の基油、および/またはグループIV、VおよびVIの合成油から選択される少なくとも1種の基油を、0〜70%、5〜70%、または30〜70%と、
・粘度指数VIを向上させる少なくとも1種のポリマー、好ましくは、メタクリレート系、オレフィン系、スチレン系、またはジエン系のポリマーおよびコポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーを、0〜30%、または2〜30%、好ましくは5〜20%と、
・少なくとも1種の酸化防止剤、好ましくはアミン系および/またはフェノール系の少なくとも1種の酸化防止剤を、0.2〜10%、好ましくは0.5〜5%と、
・少なくとも1種の流動点降下剤、好ましくはメタクリレート系のポリマーおよびコポリマーから選択される少なくとも1種の流動点降下剤を、0.01〜5%と、
を含んでいてもよい。
【0137】
特に好ましい一実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物は、100℃での動粘度が4〜8mm/sである、グループIVの少なくとも1種の基油を30〜70%含む。
【0138】
さらに好ましい一実施形態において、本発明にかかる4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物は:
・100℃での粘度が6mm/sである、グループIVの少なくとも1種の基油を0〜45%と、
・100℃での動粘度が4mm/sである、グループIVの少なくとも1種の基油を0〜45%と、
・粘度指数VIを向上させる少なくとも1種のポリマーを5〜10%と、
・少なくとも1種の酸化防止剤を0.2〜5%と、
・少なくとも1種の流動点降下剤を0.01〜5%と、
を含む。
【0139】
本発明にかかる潤滑剤組成物に含まれていてもよい添加物の例を以下に述べるが、これらの例は本発明を限定するものではない。
【0140】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、オイルの運転時の劣化を遅らせるものであり、そのような劣化として、デポジットの形成、スラッジの存在、オイル粘度の上昇などが挙げられる。酸化防止剤は、遊離基連鎖停止剤(radical inhibitor)や、過酸化物分解剤(hydroperoxide destructor)として機能する。現在使用されている酸化防止剤には、フェノール系の酸化防止剤や、アミン系の酸化防止剤などがある。一部の酸化防止剤、例えば、りん・硫黄系の酸化防止剤は、灰分の原因になり得る。
【0141】
フェノール系の酸化防止剤は無灰型のものであるか、あるいは、中性もしくは塩基性の金属塩の形態のものである。典型的に、酸化防止剤は、立体障害を生じる水酸基(ヒドロキシ基)を含む(例えば、2つのフェノール基が互いにオルト位またはパラ位にある)化合物か、または炭素数が少なくとも6のアルキル基によって置換されたフェノールである。
【0142】
使用可能な他の種類の酸化防止剤としてアミノ系化合物が挙げられ、任意で、フェノール系化合物との組合せで使用されてもよい。アミノ系の酸化防止剤の典型的な例として、一般式:R10Nで表される芳香族アミンが挙げられる(式中、Rは、脂肪族基、または芳香族基(任意で置換されていてもよい)であり、Rは、芳香族基(任意で置換されていてもよい)であり、R10は、水素、アルキル基、アリール基、または一般式:R11S(O)12で表される基である(式中、R11は、アルキレン基、アルケニレン基、またはアラルキレン基であり、xは、0、1、または2である))。
【0143】
酸化防止剤として、他にも、硫化アルキルフェノール、そのアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩が使用可能である。
【0144】
酸化防止剤として、他にも、有機ホウ素化合物の誘導体、例えば、エステル誘導体、コハク酸イミド誘導体などが使用可能である。
【0145】
他の種類の酸化防止剤として、油溶性の銅系化合物、例えば、チオリン酸銅 またはジチオリン酸銅、カルボン酸の銅塩、ジチオカルバミル酸銅、スルホン酸銅、銅フェネート(銅フェノラート)(銅フェノキシド)、アセチルアセトン銅などが挙げられる。コハク酸銅(I)、コハク酸銅(II)、またはコハク酸無水物の銅(I)塩もしくは銅(II)塩も使用可能である。
【0146】
(流動点降下剤)
流動点降下剤は、パラフィン結晶の形成を遅らせることにより、オイルの高温挙動を改善する。
【0147】
流動点降下剤として、例えば、ポリアルキルメタクリレート、ポリアクリレート、フマル酸もしくはマレイン酸と重質アルコールとのエステルのポリマー、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、および/またはマレイン酸の各種エステルのコポリマー、フマル酸エステルと脂肪酸ビニルエステルとのコポリマー、フマレート(フマル酸のエステル及び塩)、カルボン酸ビニルエステル、および/またはアルキルビニルエーテルとの共重合体、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0148】
特に、流動点降下剤として、ポリアクリルアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、アルキルポリスチレン、ハロゲン化パラフィンまたはハロゲン化ワックス(蝋)と芳香族化合物(例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェノールなど)との縮合生成物などが挙げられる。
【0149】
(粘度指数を向上させるポリマー)
粘度指数向上ポリマーを添加(混合)することにより、優れた耐低温性が得られ、かつ、高温時の粘度を最小限に抑えることができる。そのため、特に、マルチグレードオイルを処方することができる。このような化合物が添加(混合)された潤滑剤組成物は、優れた「エコ」特性または省燃費性を達成可能な粘度指数(VI)を有する。
【0150】
よって、好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物は、ASTM D2270規格に準拠して測定される粘度指数(VI)が、160以上、より好ましくは175を超えており、さらに好ましくは180を超えている。
【0151】
例えば、粘度指数を向上させる化合物として、高分子エステル、オレフィン系コポリマー(OCP)、スチレン系、ブタジエン系またはイソプレン系のホモポリマーまたはコポリマー、ポリメタクリレート(PMA)などが挙げられる。このような化合物は、4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物中に、典型的には約0〜約40重量%、好ましくは0.01〜15重量%含まれる。
【0152】
粘度指数(VI)を向上させる好ましいポリマーは、メタクリレート系、オレフィン系、スチレン系またはジエン系のポリマーおよびコポリマーから選択される。
【0153】
(他の種類の添加剤)
本発明にかかるエンジン用の潤滑剤組成物は、さらに、その用途に適したあらゆる種類の添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤として、例えば:
・金属面と反応することによって摩擦面を保護する耐摩耗剤・極圧剤、
・摩擦面に吸着した保護膜を形成する摩擦調整剤(例えば、脂肪アミン、脂肪アルコール、脂肪エステルなど)、
・不溶性の固体不純物を懸濁状態に維持して取り除く分散剤、
・二次酸化物および燃焼生成物を溶解することによって金属部品表面へのデポジットの形成を軽減する、過塩基性または過塩基性以外の清浄剤、
・さび止め剤・腐食防止剤、
・消泡剤、
などが挙げられる。
【0154】
これらの各添加剤は、潤滑剤組成物に別々に添加されてもよいし、パッケージ添加剤の形態で添加されてもよいし、あるいは、添加剤の濃縮物の形態で添加されてもよい。
【0155】
好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物に配合される種々の基油および添加剤の種類および割合は、当該潤滑剤組成物の100℃での動粘度が5.6〜9.3cStまたは9.3〜12.5cStとなるように、すなわち、当該潤滑剤組成物がSAE分類に基づいてグレード20またはグレード30となるように、かつ、高い粘度指数(グレード20のオイルで160以上、グレード30のオイルで175以上)が得られるように調整される。
【0156】
さらに好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物は、マルチグレードのオイルであり、例えば、SAE分類に基づく5Wまたは0Wのオイル、特に、5W30または0W30のオイルである。
【0157】
(使用)
さらに、本発明は、本発明にかかるオイルの、潤滑剤組成物に配合される摩擦調整剤としての使用に関する。
【0158】
本発明にかかる摩擦調整剤としての使用は、脂肪エステル(例えば、本発明にかかるオイル中の脂肪エステル)が持つ、摩擦路の表面に膜を形成する特性を利用したものである。これにより、強力な負荷が働いても、流体力学的な流れを維持することができる。
【0159】
本発明にかかるオイルを摩擦調整剤として使用する場合、本発明にかかる潤滑剤組成物には、当該オイルが、一般的には10%未満、さらには、5%未満、典型的には1〜2%含まれる。
【0160】
さらに、本発明は、本発明にかかるオイル単独、または本発明にかかるオイルと天然油、動物油、植物油、鉱物由来の油、もしくは合成油との混合物の、潤滑剤の基剤としての使用に関する。
【0161】
詳細には、本発明は、本発明にかかるオイルの、エンジン用潤滑剤の基剤、油圧作動油の基剤、トランスミッション用潤滑剤の基剤、または工業用潤滑剤の基剤としての使用に関する。
【0162】
本発明にかかるオイルの、潤滑剤の基剤としての使用は、農業用機械、建設現場機械、レジャー車両など、生分解性が望ましいとされる屋外用途やレジャー用途において特に好適であるが、工業用途も含め、他の数多くの用途にも適用可能である。
【0163】
本発明にかかるオイルは、車両のエンジン用潤滑剤、油圧作動油、およびトランスミッション用潤滑剤のいずれにも利用可能な潤滑剤の基剤、詳細には、それ単独で車両のエンジン用潤滑剤としても、油圧作動油としても、トランスミッション用潤滑剤としても利用可能な潤滑剤を配合するうえでの基剤に使用可能である。この種の潤滑剤は、特に、公共事業用車両または農業用車両に好適である。
【0164】
(本発明にかかるオイルの製造方法)
一般的に、本発明にかかるオイルは、エステル交換反応用の塩基性の触媒の存在下で、ポリオールと、炭素数7〜12の短鎖合成脂肪酸メチルエステルとの間でエステル交換反応を行った後、さらに、炭素数14〜22の長鎖天然脂肪酸メチルエステルとの間でエステル交換反応を行うことによって得られる。
【0165】
前記触媒は、例えば、ナトリウムメチラート、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの均一系触媒、または酸化マンガン、酸化亜鉛などの不均一系触媒から選択されてもよい。
【0166】
さらなる工程として、残っている水酸基を中和することによってテトラエステル収率を向上させるため、無水酢酸の存在下でのエステル化工程を追加してもよい。これにより、得られるオイルの物理的特性、特に、粘度や流動点を改善することができる。
【0167】
後述の実施例1において、上記合成の過程を詳述する。
【0168】
(ポリオール)
本発明にかかる化合物を得るのに使用されるポリオールは、テトラ−アルコールである。好ましくは、本発明にかかるオイルを製造するのに使用されるテトラ−アルコールは、以下の一般式(III)で表される。
【0169】
【化9】

【0170】
(式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖である。)
【0171】
好適なテトラ−アルコールは、ペンタエリスリトール(R=R=R=R=C)、またはネオペンチルグリコール(R=R=R=R=CH)である。
【0172】
本発明にかかるオイルの特徴は、長鎖不飽和脂肪酸と短鎖飽和脂肪酸の両方によってエステル化されたポリオールテトラエステルを含む点である。
【0173】
(長鎖不飽和脂肪酸)
本明細書において「長鎖」脂肪酸とは、炭素数14〜22の脂肪酸のことを指す。長鎖飽和脂肪酸は室温で固体なので、潤滑剤の合成に使用するには適切でない。したがって、長鎖不飽和脂肪酸が使用される。
【0174】
本発明にかかるオイルに、目的の用途(特に、エンジン用の潤滑剤の用途)に適した耐酸化性を付与するには、長鎖モノ不飽和脂肪酸が好ましい。パルミトレイン酸、オレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸などが好ましく、特に、オレイン酸が好ましい。
【0175】
これら長鎖脂肪酸の利点として、天然資源から得られる点が挙げられる。つまり、好ましくは、天然由来の長鎖不飽和脂肪酸が、本発明にかかるオイルを合成するうえで使用される。このような天然由来の長鎖不飽和脂肪酸は、パーム油、ひまわり油、なたね油、オリーブオイル、ピーナッツオイルなどの植物由来の油または動物由来の油(目的の脂肪酸の含有量を増加させるために、精製、濃縮、または遺伝子組み換えされたものであってもよい)中に、メチルエステルの形態で含まれている。
【0176】
好ましくは、オレイン酸メチルを濃縮した(オレイン酸メチルが豊富に含まれている)ひまわり油、またはなたね油が、本発明にかかる化合物を合成するうえで使用される。
【0177】
一般的に、これら天然の原材料は、多価不飽和脂肪酸(例えば、リノール酸、リノレン酸など)のメチルエステルを実質的に大量含み、さらに、飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸など)のメチルエステルを少量含む。
【0178】
(短鎖飽和脂肪酸)
本明細書において「短鎖」脂肪酸とは、炭素数7〜12の脂肪酸のことを指す。飽和脂肪酸の利点として、本発明にかかるオイルにおいて、その潤滑特性に悪影響を及ぼすことなく耐酸化性を増強できることが挙げられる。
【0179】
本発明にかかる短鎖飽和脂肪酸として、特に、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸などが挙げられる。炭素数7〜8の脂肪酸が特に好ましい。
【0180】
しかしながら、短鎖飽和脂肪酸は、上述の長鎖脂肪酸とは異なり、天然に存在しない。したがって、合成の短鎖飽和脂肪酸が使用される。これらは、例えば、石油のカット(分留で得られる成分)から得られる。好ましくは、ヒマシ油の熱分解によって得られたヘプタン酸が使用される。好ましくは、C〜C10のカット、主に、C10が少ないカットが使用される。
【実施例】
【0181】
(実施例1:混成エステルを基剤とするオイルの合成および当該オイルの定性化)
【0182】
〔調製方法〕
ペンタエリスリトール(PET)と、C〜C10の飽和脂肪酸メチルエステル(VOME)との間でエステル交換反応を行う第1工程の後、得られた生成物と、長鎖不飽和脂肪酸メチルエステル(SOME)との間でエステル交換反応を行う第2工程を経て、数種類のオイルを調製した。このようにして調製したオイルは、本発明にかかるオイルであり、それぞれ、PET9−1、PET12−1、PET25−3、PET28−2、およびPET29−1とした。
【0183】
[原材料]
ポリオール:テトラ−アルコールとして、一般式:C(CHOH)で表される純度98%のペンタエリスリトール(PET)(Aldrich社製:CAS番号115-77-5、Mw=136)が使用される。
【0184】
短鎖飽和脂肪酸メチルエステル(VOME):カプリル酸エステルを55重量%、およびカプリン酸エステルを40重量%含み、平均分子量が169g/molの、カプリン酸メチルとカプリル酸メチルとの混合物(Oleon社製)が使用される。
【0185】
長鎖不飽和脂肪酸メチルエステル(SOME):モノ不飽和オレイン酸メチルを豊富に含む、高オレイン酸ひまわり油のメチルエステル混合物が使用される。その組成(NF ISO 5509規格/NF ISO 5508規格に準拠して決定)を、以下の表に示す。この混合物の平均モル質量はM=295.5g/molである。
【0186】
【表1】

【0187】
[第1工程の手順]
加熱還流装置とディーン=スターク装置とを備えた250mL反応容器において、x当量のPETとy当量のVOMEとを混合させる(xとyは、試薬の平均モル質量から算出したモル数である)。この混合物は、徐々に生じるメタノールを留去するために、一定流量のNの流通下に置かれ、攪拌(600ppm)される。
【0188】
場合によっては、反応混合物は、145℃に予め加熱される。あるいは、反応混合物は、室温(20℃)で維持される。
【0189】
バブリングおよび攪拌を一時停止し、触媒MeONa(先に投入したVOMEの質量に対して1.4%の量)を反応媒体に投入する。この投入が終わると、Nバブリングおよび攪拌を直ちに再開する。
【0190】
そして、混合物を、145〜170℃の反応温度に加熱される。
【0191】
この温度は、溶出物中のメタノール留去物の形成の停止によって示される反応終了時まで維持される(反応時間とは、上記温度が維持される時間のことをいう)。
【0192】
蒸留物(N流によって徐々に留去されるメタノール)を回収し、粗反応物質を分析する。
【0193】
発泡は見られない。
【0194】
メタノールの大半は、反応の最初の1時間で留去される。
【0195】
反応終了時に、反応の進行を評価するために、最終的な粗生成物の水酸基価OHN(NF T 60−231規格に準拠して測定されるmgKOH/g)を測定する。最初に投入したポリオールに含まれる未反応の水酸基のモル数nOHを算出する。つまり、最終的な生成物xグラム中の未反応OH基のモル数nOHは、nOH=x×(OHN÷56100)で表される。
【0196】
第2工程で投入されるオレイン酸メチルの質量yを算出する。なお、オレイン酸メチルの質量yは、モル当量でNモルに相当する。
【0197】
N/nOHを1とする。つまり、y=M×N=M×x×(OHN÷56100)であり、式中、Mは、第2エステル交換反応工程で使用されるオレイン酸メチル(SOME)混合物の平均モル質量M(g/mol)である。
【0198】
[第2工程の手順]
真空蒸留装置を備えた250mL反応容器において、第1工程から得られたxグラムのPETエステルと、予め90℃の温度および10ミリバールの真空で1時間乾燥させたyグラムのSOMEとを混合させる。
【0199】
この反応混合物は、攪拌され(600ppm)、任意で加熱される:場合によっては、反応混合物は、予め80℃に加熱される。あるいは、反応混合物は、室温(20℃)で維持される。その後、MeONa(触媒)およびDMPS(ジメチルポリシロキサン;消泡剤)を投入し、媒体を、30ミリバールの真空下に置く。
【0200】
その後、反応媒体を、130℃(予備加熱あり)ないし165℃(予備加熱なし)の反応温度にまで加熱する。
【0201】
この温度を2〜6時間維持した後、真空を中断し、加熱および攪拌を停止させる(反応時間とは、上記温度が維持される時間のことをいう)。
【0202】
反応温度を低下させるために、真空下で作業を行う。
【0203】
バブリングは行わなかった:事実、Nの流通下で第2工程を行うと、発泡が観察され、反応媒体が反応容器外に追いやられてしまうので、反応を完結することができなくなる。
【0204】
[残ったOH基の中和(任意の工程)]
媒体中の未反応の水酸基の量を減少させるための試験を行った。事実、遊離水酸基は、分子間で水素結合を形成する性質を有するので、媒体の粘度を上昇させる。この現象を避けるために、反応終了時に、最終的な生成物を、酸によって、または特に、無水酢酸によってエステル化してもよい。
【0205】
[処理]
粗反応の混合物を、食塩水で3回洗浄した後、さらに、脱塩水で3回洗浄する。1回目の洗浄時には、デカンテーションの量を増やすために、必要に応じて遠心分離を行ってもよい。
【0206】
残渣水分を取り除くために、有機相を、100℃の温度および10ミリバールの真空で乾燥させる。
【0207】
以下の表2に、上記の二つの工程(任意で、三つの工程)を連続で実行した際の、様々な実験条件をまとめた。
【0208】
【表2】

【0209】
〔試料の特徴〕
前述のように調製したPETエステルの各試料の特徴を、以下の方法によって調べた。
【0210】
[1.1:脂肪酸メチルエステル(FAME)の組成]
NF ISO 5509規格(試料からの脂肪酸メチルエステルの調製)を適用した後、NF ISO 5508規格(調製したFAMEのGPC分析)を適用する。
【0211】
NF ISO 5508規格により、試料に含まれる様々な種類のFAMEの質量%が分かる。様々な種類のFAMEのモル質量が分かっていれば、その質量組成に基づき、試料に含まれるFAMEの総モル数に対する、短鎖脂肪酸メチルエステルのモル%であるn1、および長鎖脂肪酸メチルエステルのモル%であるn2を算出することができる。
【0212】
これに基づき、本発明にかかるオイルの特徴の一つである、長鎖脂肪酸のモル数と短鎖脂肪酸のモル数との比n2/n1を算出する。
【0213】
「短鎖」脂肪酸メチルエステルは、一般式:RCOOCHで表され、式中、Rは、炭素数6〜11のオレフィン系鎖またはパラフィン系鎖である(「短鎖」脂肪酸メチルエステルはC〜C10とも称される)。
【0214】
「長鎖」脂肪酸メチルエステルは、一般式:RCOOCHで表され、式中、Rは、炭素数13〜21のオレフィン系鎖またはパラフィン系鎖である(「長鎖」脂肪酸メチルエステルはC18とも称される)。
【0215】
[1.2:GPCによるエステルの組成の分析]
試料の総重量に対する、様々な種類のポリオール(PET)エステルの質量%を決定する。
【0216】
使用する方法は、トリグリセリドを決定するのに使用されるIUPAC2.323法の特徴を備えたガスクロマトグラフィー(GPC)法である。
【0217】
本発明にかかるオイルのPETエステルの組成を明らかにする上記GPC法の特徴を、以下で詳述する:
【0218】
DB1−HT型の短い無極性カラム(長さ:15m、内径:0.32mm、膜厚:0.1μm)を使用する。
【0219】
インジェクターはオンカラム注入のものとし、検出はFID(水素炎イオン化型検出器)で行う。
【0220】
分離は、炭素数の大きさのみに基づいて行う。様々な種類のエステルの保持時間を決定するにあたって、既知の組成を有するトリグリセリドの混合物を参照物質としてカラムに通すことにより、同じ炭素数を有する化合物を特定する。
【0221】
参照物質として使用する混合物は、EEC(欧州委員会規則)に挙げられたAMF(無水乳脂肪)とする。これは、炭素数24〜56の化合物を有する。
【0222】
部分エステルとフルエステルとを区別するには、予めシリル化を行う必要がある。シリル化されていない試料では、部分エステルのOH基の存在により、ピークの上流に縞が混入する。シリル化を行うことにより、そのような縞は消える。
【0223】
シリル化された試料とシリル化されていない試料との二種類の試料に対して測定を行い、その差に基づき部分エステルの量とフルエステルの量とをそれぞれ決定する。
【0224】
[シリル化の条件]
10mgの試料を、BSTFA(ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド)/TMSC1(クロロトリメチルシリル)の混合物(80/20体積比)200μLと混合する。これら全体を、65℃のオーブン内に1時間置き、時折ボルテックスミキサーにかける。この試料を、1mg/1mLの濃度となるようイソオクタンに希釈させる。
【0225】
[GPC分析の条件]
・5℃から370℃まで10℃/分の速度で昇温させ、10分間静置させる
・注入量:1μL
・圧力:1.2バール(水素)
【0226】
この方法により、試験中の各種ポリオール(PET)テトラエステルを区別することができる。例えば、下記のポリオールエステルなどを区別することができる:
【0227】
4つの長鎖を有するポリオールテトラエステル(4C18エステルと称する)。
【0228】
3つの長鎖および1つの短鎖を有するポリオールテトラエステル(3C181Cと称する)。
【0229】
2つの長鎖および2つの短鎖を有するポリオールテトラエステル(2C182Cと称する)。
【0230】
ただし、いわゆる「部分」エステルは、少なくとも1つのエステル化されていないOH基(水酸基)を有するエステルと、3つの短鎖および1つの長鎖を有するテトラエステル(3C1C18)と、4つの短鎖を有するテトラエステル(4C)を含む。これらの三種類の化合物は、炭素数が互いに近接しているので、互いに分離することができない。
【0231】
上記GPC分析の結果を、クロマトグラフィー分離可能な化学種の総量に対する質量%で後述する。クロマトグラフィー分離可能な化学種には、以下のものが含まれる:
【0232】
未反応物質または反応副産物(ポリオール、C〜C12短鎖脂肪酸メチルエステル、C14〜C22長鎖脂肪酸メチルエステルなど)。
【0233】
部分エステル(本発明にかかる全ての生成物のなかで、部分エステルには、3つの短鎖および1つの長鎖を有するテトラエステル、4つの短鎖を有するテトラエステル、少なくとも1つの遊離OH基(水酸基)が残っているエステルなどが含まれる)。
【0234】
テトラエステル(部分エステルに含まれるテトラエステル以外のもの)。
【0235】
本実施例で分析される様々な化学種の保持時間を、以下に詳述する(表3を参照されたい)。なお、これらの保持時間は、カラム条件によって若干変動する。IUPACの記載によれば、そのような変動は、参照物質をカラムに通過させて当該カラムを再較正することによって解決でき、これは当業者であれば容易になし得るとのことである。
【0236】
また、当業者であれば、本発明にかかるいずれの生成物についてその原材料(メチルエステルやポリオール)の種類に応じて、カラムに十分な量の参照トリグリセリド混合物を通すことでカラムを較正し、参照トリグリセリドと同じ炭素数の化学種を特定できるであろう。
【0237】
【表3】

【0238】
[測定される特性]
・酸価(mgKOH/g(生成物);NF EN ISO 660規格)を測定して未反応の脂肪酸を定量化してもよい(酸価が高いほど、未反応の脂肪酸が多い)。
・不飽和部の有無に関係するので酸化性の指標となるヨウ素価(Iの量(g)/g;NF EN ISO 3961規格)を測定してもよい(ヨウ素価が高いほど、不飽和部が多いので、耐酸化性が乏しいことを意味する)。
・水酸基価(mgKOH/g(生成物);NF T60−231規格)を測定して未反応の水酸基を定量化してもよい(水酸基価が高いほど、媒体中の未反応の水酸基が多い)。
・40℃での動粘度(KV40;mm/s;ASTM D445規格)、100℃での動粘度(KV100;mm/s;ASTM D445規格)、および粘度指数(VI;ASTM D2270規格)を算出してもよい。
・低温での粘度(mP;−25℃でのCCS粘度;ASTM D 5293規格)を測定してもよい。
【0239】
調製されるオイルの組成および物理化学的特性を、以下の表4に示す。
【0240】
オイルPET9−1、PET12−1、PET25−3、PET28−2、およびPET29−1は、本発明にかかるオイルである。オイルPET15−3は、本発明にかかるオイルではない。
【0241】
【表4】

【0242】
試料PET9−1と試料PET12−1については、残った水酸基を、それぞれ、酢酸、無水酢酸で中和する工程にかけた。いずれの試料も、潤滑油としての使用可能な粘度を有する。しかし、これらの試料は、エンジン用途に使用するには、少し粘度が高い:これらの試料の100℃での粘度は8〜9cStであるが、5W30型の処方物に含まれる基油混合物の粘度は4〜5cSt付近である。ただし、これらの試料の粘度は、工業用潤滑剤の用途には極めて適している。
【0243】
本発明にかかるオイルの低温特性(−25℃でのCCS粘度)は良好であるが、オイルPET15−3の低温特性は乏し過ぎて測定できない。
【0244】
試料PET15−3の100℃での粘度は2.7cStであり、エンジン用途および工業用途のいずれに使用するにも低過ぎる。
【0245】
試料PET25−3、試料PET28−2、および試料PET29−1は、本発明にかかるオイルである。これらの試料の100℃での粘度は所望の6cSt付近であり、エンジン用途に適している。
【0246】
試料PET25−3、試料PET28−2、および試料PET29−1の低温特性は、試料PET9−1、試料12−1、および試料15−3の低温特性ほど良好でないように思われる:試料PET25−3、試料PET28−2、および試料PET29−1の、−25℃でのCCS粘度は、グループ1の鉱物油のCCS粘度に相当する。ただし、それらの数値を踏まえたうえで、適切なポリマーおよび流動点降下剤(PPD)を配合することにより、エンジン用途に適した粘度グレードを有するオイルを処方することも可能である。
【0247】
これらのオイルは、なたね油のように低揮発性であると予測される。
【0248】
[安定性]
安定性試験を、人工気候室内の試験管で実施する。上記の試料のほとんどは、室温および60℃の温度の両方において透明かつ安定である。0℃で長期保存した場合には、堆積物を形成する傾向が見られるが、これは、高い流動点を有する化合物や不純物の存在によるものと推測される。この特性は、生成物の純度を高めることによって改善できると考えられる。
【0249】
(実施例2:PETエステルを基剤とするオイルの耐熱酸化性)
実施例1で述べたPETエステルについて、それらの耐熱酸化性を、前記オイル91.9%とエンジン用オイルの一般性能向上添加剤のパッケージ添加剤(7819H;Lubrizol社製)8.1%とで構成されるスクリーニング用処方物を用いて評価した。さらに、比較のために、広く普及している二種類の植物油である、オレイン酸85%の高オレインひまわり油と、なたね油とを用いて、それぞれに対応するスクリーニング用処方物を調製した。
【0250】
この評価は、実験室内のICOT試験およびMCT試験によって行う。
【0251】
〔ICOTによる評価〕
ICOT(鉄触媒による酸化試験)は、ASTM D4871−06規格(あるいは、ASTM D4871)に記載されている。この試験では、潤滑剤が、鉄触媒の存在下または不在下で、かつ、流量1.3〜13L/時の空気、酸素、窒素または他種の気体の存在下で、50〜375℃の温度に加熱される。ICOT試験後、40℃での粘度の相対変化(RKV40(%))を測定する。
【0252】
本実施例では、上記試験を、鉄の不在下で、かつ、170℃の温度で72時間実施した。
【0253】
結果を、以下の表5に示す:
【0254】
【表5】

【0255】
本発明にかかるオイルであるPET25−3およびPET29−1は、耐酸化性が、一般的な植物油に比べて大幅に向上している。この場合、耐酸化性は、ICOT試験後における40℃での粘度の上昇率が少ないことによって示される
【0256】
〔MCTによる評価〕
MCT(マイクロコーキング試験)は、高温面におけるデポジットの形成の傾向(コーキング)を評価する試験である。
【0257】
MCT試験は、潤滑剤の薄膜を、エンジンで最も高温になる箇所(230〜280℃)での温度条件と同様の条件に曝露した際の熱的安定性を評価する。デポジットおよびワニスを、ビデオ評価装置(Video-grader)を用いて測定する。結果は、10までのスコア(品質)で表される。
【0258】
試験条件は以下のとおりである:
−600μLのオイル(消泡剤10ppmを添加)
−試験時間:90分
−オイル載置箇所を有するプレートを1〜2%傾かせる
−230〜280℃の温度勾配
−プレートのワニスをビデオ評価する(0〜10で評価し、10が最高である)(いわゆる《二乗したものを除算する》メソッド2)。
【0259】
評価を行うにあたって、当該技術分野において周知の鉱物系基剤または合成系基剤である、PAO8(グループIV)、330NS(グループI)、Priolube 1976(グループVのモノエステル)、およびPriolube 3985(グループVのジエステル)とも比較する。
【0260】
この評価の結果を、以下の表6にまとめる。
【0261】
330NS、PET9−1、PET29−1の各オイルについてMCT試験を実施し、それらのプレートの外観を観察すると、PET29−1で大幅な改善が見受けられる。
【0262】
【表6】

【0263】
混成エステル9−1および12−1の性能は、鉱物系基剤(33 NS)ならびに合成系基剤(PAO8およびPriolube 3985)の性能よりも遥かに乏しい。混成エーテル9−1および12−1の性能は、著しいデポジットの形成を伴うものであり、植物油の性能と変わらない。
【0264】
一方、本発明にかかる混成エステル28−2、25−3および29−1の性能、特に、混成エステル29−1の性能は、上市されている鉱物系基剤や合成系基剤の性能と同等またはそれ以上である。
【0265】
(実施例3:4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物)
〔組成および物理化学的特性〕
実施例1で調製される、PETエステルを基剤とする各オイルごとに、当該オイルが20%配合された4ストロークエンジン用の二種類の潤滑剤組成物処方物を調製した。
【0266】
これら二種類の処方物に関して、上市されているエステルであるPriolube 3970、周知の植物油であるなたね油、同じく周知の植物油であるオレイン酸85%の高オレインひまわり油が配合されたものをそれぞれ調製し、混成エステルに基づくオイルが配合されたものと比較・評価する。
【0267】
本実施例では、エステルを基剤とするオイルを潤滑剤基剤として使用し、グループIVの上市されている基剤(ポリαオレフィン)であるPAO4 Durasyn(100℃での動粘度が4cSt)、PAO6 Durasyn(100℃での動粘度が6cSt)、およびPAO8 Durasyn(100℃での動粘度が8cSt)と組み合わせる。これら上市されている基剤の量を調節し、グレード30のオイル(組成物A〜I)と、グレード20のオイル(組成物J〜P)の二種類のオイルを処方する。
【0268】
組成物A〜Iおよび組成物J〜Pは、それぞれ、使用する添加剤の種類が異なる。以下の表7に、それら二種類の処方物の添加剤の特性を示す。
【0269】
【表7】

【0270】
後述の表8および表9に、このようにして得られる様々な種類の潤滑剤組成物の組成、物理化学的特性、ICOT試験の結果、およびMCT試験の結果を示す。
【0271】
組成物D、E,Fおよび組成物K,L,Mは、本発明にかかる潤滑剤組成物である。
【0272】
組成物A,B,Cおよび組成物Jは、本発明にかかるオイルではない混成エステルを基剤とするオイルが配合されたものである。
【0273】
組成物G,Oは、既知の植物油であるなたね油が配合されたものであり、組成物H,Pは、同じく既知の植物油であるオレイン酸85%の高オレインひまわり油が配合されたものである。
【0274】
組成物I,Nは、上市されているエステルであるPriolube 3970が配合されたものである。
【0275】
[ICOT酸化試験(温度170℃;試験時間72時間;鉄触媒40ppm)]
本発明にかかる潤滑剤組成物において、処方物1の添加物が添加された潤滑剤組成物は、処方物2の添加物が添加された潤滑剤組成物よりも耐酸化性が優れている。
【0276】
いずれにせよ、PETエステルを基剤とするオイルが配合された本発明にかかる潤滑剤組成物の性能は、一般的な植物系基剤(なたね油やオレイン酸85%の高オレインひまわり油)が配合された組成物の性能よりも遥かに優れている。なお、組成物Fは、上市されているエステルを基剤とする組成物Iに近い性能を示す。
【0277】
[MCT試験]
試験条件は以下のとおりである:
−600μLのオイル(消泡剤10ppmを添加)
−試験時間P:90分
−オイル載置箇所を有するプレートを1〜2%傾かせる
−230〜280℃の温度勾配
−プレートのワニスをビデオ評価する(0〜10で評価し、10が最高である)(いわゆる《二乗したものを除算する》メソッド2)。
【0278】
混成エステルを基剤とするオイルが配合された潤滑剤組成物は、いずれも、植物系基剤(なたね油やオレイン酸85%の高オレインひまわり油)が配合された処方物と上市されている合成エステルのPriolube 3970が配合された処方物との間の性能を示す。
【0279】
処方物2の添加物が添加された潤滑剤組成物の性能は、植物系基剤が配合された処方物の性能よりも遥かに優れている。本発明にかかる潤滑剤組成物であって、処方物1の添加物が添加された組成物F、および処方物2の添加物が添加された組成物Mは、いずれも、上市されているエステルであるPriolube 3970を用いて調製された組成物と同等の性能を示す。
【0280】
[粘度特性]
本発明にかかるオイルであるPET28−2、PET25−3およびPET29−1から、グレード30の潤滑剤(組成物D,E,F)およびグレード20の潤滑剤(組成物K,L,M)を処方することができた。
【0281】
組成物D,E,Fについて、−35℃でのCCS粘度を検討すると、これらの組成物から、SAE分類に基づくグレード5W30のエンジン用潤滑剤を処方することは可能である。
【0282】
一方、これらの組成物の−35℃でのCCS粘度は、SAE分類に基づくグレード0W30のエンジン用潤滑剤に求められる規格を満たしていない。ただし、その数値を検討すると、適切な添加剤を添加することにより、特に、添加ポリマーおよび流動点降下剤(ppd)の種類を適宜選択することにより、グレード0W30の潤滑剤を処方することが可能であると思われる。
【0283】
【表8】

【0284】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表される少なくとも1種のテトラエステルを含むオイルであって、
【化1】


(式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10の脂肪族鎖であり、
基R、R、R、Rは、炭素数6〜11のパラフィン系短鎖であるか、または炭素数13〜21のオレフィン系長鎖であり、
基R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数6〜11のパラフィン系短鎖であり、基R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である)
当該オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸のモル数との比が0.3〜2.5であり、
かつ、当該オイルは、
上記の一般式(I)で表される、基R、R、R、Rのうちの二つが、炭素数6〜11のパラフィン系短鎖であり、基R、R、R、Rのうちの二つが、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である少なくとも1種のテトラエステルを、少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも18重量%含む、オイル。
【請求項2】
請求項1において、基R、R、R、Rが、炭素数1〜4の脂肪族鎖である、オイル。
【請求項3】
請求項1または2において、当該オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物に含まれる炭素数14〜22の長鎖脂肪酸メチルエステルの大半が、モノ不飽和脂肪酸エステルである、オイル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、一般式(I)で表される、基R、R、R、Rのうちの少なくとも二つが、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である少なくとも1種のテトラエステル、および/または下記の一般式(II)で表されるテトラエステルを、少なくとも30重量%、好ましくは35重量%含む、オイル。
【化2】


(式中、基R、R10、R11、R12は、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖であり、基R13は、炭素数13〜21のオレフィン系長鎖である。)
【請求項5】
請求項4において、一般式(II)で表される少なくとも1種のテトラエステルを、10重量%以下、好ましくは7重量%以下含む、オイル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、一般式(I)で表される、基R、R、R、Rのうちの三つが炭素数13〜21のオレフィン系長鎖であるテトラエステルを、25重量%以下含む、オイル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、下記の一般式(III)で表される少なくとも1種のポリオールと、
【化3】


(式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖である。)
炭素数14〜22の少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸および/または炭素数7〜12の少なくとも1種の短鎖飽和脂肪酸との反応によって得られる少なくとも1種の部分エステルまたはフルエステルを、少なくとも85重量%含む、オイル。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、一般式(I)で表される炭素数40〜70の少なくとも1種のテトラエステルを少なくとも30重量%と、一般式(I)で表される炭素数45〜60の少なくとも1種のテトラエステルを少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも20重量%とを含む、オイル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、当該オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸のモル数との比が1.5〜2.5、好ましくは1.6〜2である、オイル。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項において、当該オイルにNF ISO 5509規格およびNF ISO 5508規格を適用することで得られる脂肪酸メチルエステル混合物の組成に基づいて決定される、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸のモル数と炭素数7〜12の短鎖脂肪酸のモル数との比が0.4〜1.1、好ましくは0.42〜1である、オイル。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のオイルを含む潤滑剤組成物。
【請求項12】
請求項11において、請求項1から10のいずれか一項に記載のオイルを、10〜99%、10〜70%、10〜40%、10〜50%、または15〜30%、より好ましくは15〜25%含む、潤滑剤組成物。
【請求項13】
請求項11または12において、さらに、
・グループIIIの鉱物油から選択される少なくとも1種の基油、および/またはグループIV、VおよびVIの合成油から選択される少なくとも1種の基油を、0〜70%、5〜70%、または30〜70%と、
・粘度指数VIを向上させる少なくとも1種のポリマー、好ましくは、メタクリレート系、オレフィン系、スチレン系、またはジエン系のポリマーおよびコポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーを、0〜30%、または2〜30%、好ましくは5〜20%と、
・少なくとも1種の酸化防止剤、好ましくはアミン系および/またはフェノール系の少なくとも1種の酸化防止剤を、0.2〜10%、好ましくは0.5〜5%と、
・少なくとも1種の流動点降下剤、好ましくはメタクリレート系のポリマーおよびコポリマーから選択される少なくとも1種の流動点降下剤を、0.01〜5%と、
を含む、潤滑剤組成物。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか一項において、100℃での動粘度が4〜8cStである、グループIVの少なくとも1種の基油を30〜70%含む、潤滑剤組成物。
【請求項15】
請求項11から14のいずれか一項において、100℃での動粘度が5.6〜9.3cSt(グレード20)である、潤滑剤組成物。
【請求項16】
請求項11から14のいずれか一項において、100℃での動粘度が9.3〜12.5cSt(グレード30)である、潤滑剤組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項において、粘度指数が160を超える、好ましくは、175を超える、潤滑剤組成物。
【請求項18】
請求項1から10のいずれか一項に記載のオイルの使用であって、摩擦調整剤としての使用。
【請求項19】
請求項1から10のいずれか一項に記載のオイルの使用であって、潤滑剤基剤としての使用。
【請求項20】
請求項9に記載のオイルの使用であって、油圧作動油の基剤、トランスミッション用潤滑剤の基剤、または工業用潤滑剤の基剤としての使用。
【請求項21】
請求項10に記載のオイルの使用であって、エンジン用潤滑剤の基剤、油圧作動油の基剤、トランスミッション用潤滑剤の基剤、または工業用潤滑剤の基剤としての使用。
【請求項22】
請求項10に記載のオイルの使用であって、公共事業用車両または農業用車両の、単独でエンジン用潤滑剤、油圧作動油、およびトランスミッション用潤滑剤のいずれにも利用可能な潤滑剤を処方するうえでの基剤としての使用。
【請求項23】
請求項11から17のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物の使用であって、4ストロークエンジン用潤滑剤、好ましくは、軽量自動車両または重量自動車両のエンジン用潤滑剤、好ましくは、ガソリンエンジン用潤滑剤またはディーゼルエンジン用潤滑剤としての使用。
【請求項24】
請求項1から10いずれか一項に記載のオイルを製造する方法であって、
(i)反応前のアルコール/飽和脂肪酸メチルエステルのモル比を1/5〜1/2.5としたうえで、エステル交換反応の塩基性の均一系触媒または不均一系触媒、好ましくはナトリウムメチラート、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化マンガンおよび酸化亜鉛から選択される触媒の存在下で、下記の一般式(III)で表されるポリオールと、
【化4】


(式中、基R、R、R、Rは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族鎖である。)
炭素数7〜12の少なくとも1種の短鎖飽和脂肪酸メチルエステルとの間でエステル交換反応を行う第1工程、
を含み、前記第1工程は、
i.1:前記触媒を、ポリオールと少なくとも1種の短鎖飽和脂肪酸メチルエステルとの反応混合物に、約20℃から約25℃の温度で投入する副工程と、
i.2:前記反応混合物の温度を、最大で約150℃を超える温度にまで上昇させる副工程と、
を有し、当該製造方法は、さらに、
(ii)エステル交換反応の塩基性の均一系触媒または不均一系触媒、好ましくはナトリウムメチラート、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化マンガンおよび酸化亜鉛から選択される触媒、より好ましくは前記第1工程と同一の触媒の存在下で、前記第1工程(i)で得られた少なくとも1つの反応生成物と、炭素数14〜22の少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステル、好ましくは単一の不飽和部を有する少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルとの間でエステル交換反応を行う第2工程、
を含み、前記第2工程は、
ii.1:前記第1工程(i)で得られた所定量の少なくとも1つの生成物で構成される出発媒体の水酸基価をNF T 60−231規格に準拠して測定し、前記媒体に含まれるポリオールのエステル化されていない水酸基のモル数nOHを算出する副工程と、
ii.2:前記媒体に、約20℃から約25℃の温度で、少なくとも1種の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルNモルを、モル比N/nOHが0.8〜1.2、好ましくは1となるように投入する副工程と、
ii.3:前記媒体に、約20℃から約25℃の温度で、前記触媒を、副工程ii.2で投入された長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルの質量に対して0.5〜1.5%の量で投入する副工程と、
を有する、オイルの製造方法。
【請求項25】
請求項24において、さらに、
反応しなかった水酸基を、無水酢酸で中和する第3工程、
を含む、オイルの製造方法。
【請求項26】
請求項24または25において、第2工程(ii)でポリオールのエステル交換反応に使用される炭素数14〜22の長鎖不飽和脂肪酸メチルエステルの混合物中に、モノ不飽和脂肪酸メチルエステルが、NF ISO 5508規格に準拠して決定される割合で少なくとも85重量%、好ましくは少なくとも90重量%、さらに好ましくは少なくとも95重量%含まれる、オイルの製造方法。
【請求項27】
請求項26において、モノ不飽和脂肪酸メチルエステルの炭素数が16〜22、好ましくは18である、オイルの製造方法。
【請求項28】
請求項24から27のいずれか一項において、ポリオールが、ペンタエリスリトールおよびネオペンチルグリコールから選択される、オイルの製造方法。

【公表番号】特表2012−511077(P2012−511077A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539168(P2011−539168)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055553
【国際公開番号】WO2010/064220
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】